(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166088
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドを用いた前記酵素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20231114BHJP
C12N 15/48 20060101ALI20231114BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20231114BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231114BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/48
C12N9/10
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076862
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野口 惇
(72)【発明者】
【氏名】服部 将人
(72)【発明者】
【氏名】大熊 里佳
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD01
4B050LL10
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA29
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 遺伝子組換え宿主を用いてトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を製造する際用いる、前記酵素を大量に発現可能なポリヌクレオチドを提供すること。
【解決の手段】 AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端側1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)までのGC含量を45%未満とすることで、前記課題を解決する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドであって、当該5’末端側の1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)までのGC含量が45%未満である、前記ポリヌクレオチド。
【請求項2】
AMV逆転写酵素のN末端側6残基が配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドであり、かつ以下の(1)および(2)のコドンを少なくとも含み、かつ以下の(3)から(5)のコドンを少なくとも1つ含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド;
(1)配列番号1の1番目のスレオニンがACTまたはACA
(2)配列番号1の2番目のバリンがGTTまたはGTA
(3)配列番号1の3番目のアラニンがGCTまたはGCA
(4)配列番号1の4番目および6番目のロイシンがTTA
(5)配列番号1の5番目のヒスチジンがCAT。
【請求項3】
AMV逆転写酵素のN末端側6残基をコードするオリゴヌクレオチドが、配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
AMV逆転写酵素が以下の(I)から(III)より選択されるいずれかである、請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(I)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(II)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有したポリペプチド、
(III)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド。
【請求項5】
AMV逆転写酵素が以下の(i)から(iii)より選択されるいずれかである、請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチド、
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド、
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項7】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項8】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項9】
請求項6に記載のプラスミドベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項10】
請求項7に記載のプラスミドベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項11】
請求項8に記載のプラスミドベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項12】
宿主が大腸菌である、請求項9に記載の形質転換体。
【請求項13】
宿主が大腸菌である、請求項10に記載の形質転換体。
【請求項14】
宿主が大腸菌である、請求項11に記載の形質転換体。
【請求項15】
請求項9に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【請求項16】
請求項10に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【請求項17】
請求項11に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素を宿主で発現させるためのポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドを用いた前記酵素の製造方法に関する。特に本発明は、前記酵素を宿主で大量発現可能なポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドを用いた前記酵素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆転写酵素の一つであるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、cDNA合成等の用途で、遺伝子工学試薬や遺伝子診断試薬などに利用されている。
【0003】
AMV逆転写酵素の製造方法として、古くから、ニワトリを用いてAMVを増殖させ、得られたAMVから前記酵素を抽出・精製し、製造する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら生産性に課題があった。
【0004】
AMVを用いないAMV逆転写酵素の製造方法として、タンパク質を安定的に大量生産可能な遺伝子組換え大腸菌を用いた製造方法が知られている。一例として、特許文献2には、AMVから取得したAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド(AMV逆転写酵素本来のポリヌクレオチド配列)を含むベクターで形質転換し得られた遺伝子組換え大腸菌を用いて発現させる方法が、特許文献3には、大腸菌型コドンに変換したAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換し得られた遺伝子組換え大腸菌を用いて発現させる方法が、それぞれ記載されている。
【0005】
しかしながら、工業的にAMV逆転写酵素を大量生産するためには、さらなる発現量の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-091981号公報
【特許文献2】特開2002-315584号公報
【特許文献3】特開2013-146235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、遺伝子組換え宿主を用いてトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素を製造する際用いる、前記酵素を大量に発現可能なポリヌクレオチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端側のGC含量を最適化することで、前記酵素を大量に発現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下<1>から<17>に記載の態様を包含する。
【0010】
<1>トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドであって、当該5’末端側の1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)までのGC含量が45%未満である、前記ポリヌクレオチド。
【0011】
<2>AMV逆転写酵素のN末端側6残基が配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドであり、かつ以下の(1)および(2)のコドンを少なくとも含み、かつ以下の(3)から(5)のコドンを少なくとも1つ含む、<1>に記載のポリヌクレオチド;
(1)配列番号1の1番目のスレオニンがACTまたはACA
(2)配列番号1の2番目のバリンがGTTまたはGTA
(3)配列番号1の3番目のアラニンがGCTまたはGCA
(4)配列番号1の4番目および6番目のロイシンがTTA
(5)配列番号1の5番目のヒスチジンがCAT。
【0012】
<3>AMV逆転写酵素のN末端側6残基をコードするオリゴヌクレオチドが、配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドである、<1>に記載のポリヌクレオチド。
【0013】
<4>AMV逆転写酵素が以下の(I)から(III)より選択されるいずれかである、<1>から<3>のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(I)配列番号2(GenBank No.AAB31929)に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(II)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有したポリペプチド、
(III)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド。
【0014】
<5>AMV逆転写酵素が以下の(i)から(iii)より選択されるいずれかである、<1>から<3>のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチド、
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド、
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド。
【0015】
<6><1>から<3>のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【0016】
<7><4>に記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【0017】
<8><5>に記載のポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【0018】
<9><6>に記載のプラスミドベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【0019】
<10><7>に記載のプラスミドベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【0020】
<11><8>に記載のプラスミドベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【0021】
<12>宿主が大腸菌である、<9>に記載の形質転換体。
【0022】
<13>宿主が大腸菌である、<10>に記載の形質転換体。
【0023】
<14>宿主が大腸菌である、<11>に記載の形質転換体。
【0024】
<15><9>に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【0025】
<16><10>に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【0026】
<17><11>に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドは、当該5’末端側の1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)までのGC含量が45%未満であることを特徴としている。前記ポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターで形質転換して得られる形質転換体は、前記GC含量が45%以上である前記ポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターで形質転換して得られる形質転換体と比較し、AMV逆転写酵素の発現量が増大している。したがって本発明は、前記酵素の工業的製造に有用といえる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明においてAMV逆転写酵素とは、AMV(Avian Myeloblastosis Virus、トリ骨髄芽球症ウイルス等とも呼称される)が有する逆転写酵素のことである。AMV逆転写酵素の一例として、
(I)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(II)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有したポリペプチド、
(III)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド、があげられる。
【0030】
前記(II)の一例として、配列番号3に記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドがあげられる。配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基からなり、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基において、以下に示す3箇所のアミノ酸残基の置換が生じたポリペプチドである;
配列番号2の280番目(配列番号3では273番目)のアルギニンのメチオニンへの置換、
配列番号2の311番目(配列番号3では304番目)のアルギニンのグルタミンへの置換、
配列番号2の402番目(配列番号3では395番目)のアスパラギン酸のグルタミン酸への置換。
【0031】
前記(III)において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメント(alignment)プログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸残基の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。相同性は70%以上であればよく、80%以上、90%以上、または95%以上の相同性を有していてもよい。
【0032】
なお前述したAMV逆転写酵素はβ鎖と呼ばれるポリペプチドである。一方、AMV逆転写酵素にはβ鎖よりも低分子のポリペプチドであるα鎖も存在する。AMV逆転写酵素α鎖の一例として、
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチド、
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド、
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該残基のうち、14番目のアラニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有したポリペプチド、があげられる。
【0033】
前記(ii)の一例として、配列番号3に記載のアミノ酸配列のうちN末端側572残基からなるポリペプチドである、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。
【0034】
AMV逆転写酵素は、前述したβ鎖のモノマーやホモダイマー、前述したα鎖のモノマーやホモダイマー、ならびにα鎖とβ鎖とのヘテロダイマー(以下、「αβ体」とも表記する)などを構成することが知られているが、後述する本発明のプラスミドベクターを用いて宿主で発現させるAMV逆転写酵素はこれらのいずれの形態を有していてもよい。
【0035】
またAMV逆転写酵素は、その機能を損ねない範囲で、当該酵素のN末端および/またはC末端にタグペプチドがさらに付加されていてもよい。前記タグペプチドの一例として、分析・精製を容易にするためのタグペプチド(ヒスチジンタグ、FLAGタグなど)、宿主での分泌発現を促すためのシグナルペプチド(宿主が大腸菌の場合、OmpAシグナルペプチド、PelBシグナルペプチドなど)、ベクターの開始コドン(メチオニン)やマルチクローニングサイト(メチオニン-グルタミン酸-フェニルアラニン)由来のペプチドがあげられる。タグペプチドを付加したAMV逆転写酵素の一態様として、配列番号3に記載の配列からなるAMV逆転写酵素β鎖のN末端にマルチクローニングサイト(メチオニン-グルタミン酸-フェニルアラニン)および開始コドン(メチオニン)を付加したポリペプチドである、配列番号8に記載の配列からなるポリペプチドがあげられる。
【0036】
本発明のAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド(以下、AMV逆転写酵素遺伝子とも表記する)は、当該5’末端側の1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)までのGC含量(グアニン(G)およびシトシン(C)塩基の割合)が45%未満であることを特徴としている。特に5’末端に近い領域のGC含量が少ないと好ましく、例えば、前記nが11以上24以下の整数でのGC含量が40%未満であると、より好ましい。GC含量を前述した値にするには、例えばAMV逆転写酵素のアミノ酸配列を変えることなく、当該アミノ酸のコドンをA(アデニン)またはT(チミン)塩基が多くなるコドンに変換すればよい。
【0037】
前記より好ましい態様の具体例として、AMV逆転写酵素のN末端側6残基が配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドであり、かつ以下の(1)および(2)のコドンを少なくとも含み、かつ以下の(3)から(5)のコドンを少なくとも1つ含む、<1>に記載のポリヌクレオチドがあげられる;
(1)配列番号1の1番目のスレオニンがACTまたはACA
(2)配列番号1の2番目のバリンがGTTまたはGTA
(3)配列番号1の3番目のアラニンがGCTまたはGCA
(4)配列番号1の4番目および6番目のロイシンがTTA
(5)配列番号1の5番目のヒスチジンがCAT。
【0038】
前記態様では、前記(1)および(2)のコドンを少なくとも含んだ上で、さらに(3)から(5)のコドンのうち、いずれか1つ、いずれか2つ、または3つ全てを含んでいればよい。AMV逆転写酵素のN末端側6残基(配列番号1)をコードするオリゴヌクレオチドの好ましい態様として、前記(1)から(5)のコドンを全て含む、配列番号5に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0039】
本発明のAMV逆転写酵素遺伝子のうち、前述した5’末端側の1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)まで以外の領域については、AMV逆転写酵素と実質的に同一なタンパク質が発現可能な範囲で、当該遺伝子のヌクレオチドと実質的に相同的な配列を含む遺伝子であってもよいし、当該遺伝子のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を含む遺伝子であってもよい。ここで「AMV逆転写酵素と実質的に同一なタンパク質」とは、具体的には、AMV逆転写酵素が有する3つの酵素活性(逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性)のうち少なくとも1つが、天然型AMV逆転写酵素と同等以上の活性を有するタンパク質のことをいう。例えば、AMVが本来有するAMV逆転写酵素遺伝子のヌクレオチド配列と、少なくとも70%以上(好ましくは80%以上、90%以上、または95%以上)の相同性を有したヌクレオチド配列を含む遺伝子の転写および翻訳により合成されたタンパク質であってよい。またここで「ストリンジェントな条件」とは、通常の状態と比較してDNA同士が二重鎖を形成し難い条件をいい、具体的には、42℃で、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%(w/v)Bovine Serum Albumin(BSA)、0.1%(w/v)フィコール(商品名)、0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン、50mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mmol/L塩化ナトリウム、または75mmol/Lクエン酸ナトリウムが共存する条件が例示できる。
【0040】
本発明のAMV逆転写酵素遺伝子の一例として、
配列番号3に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである、配列番号6に記載の配列からなるポリヌクレオチドや、
配列番号4に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである、配列番号7に記載の配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。なお配列番号6および7のうち、5’末端側18塩基のヌクレオチド配列は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列である。
【0041】
なおAMV逆転写酵素のN末端および/またはC末端に前述したタグペプチドが付加されている場合、当該前記タグペプチドをコードするオリゴヌクレオチドについても、GC含量が少なくなる(AおよびT残基が多くなる)コドンを選択すると好ましい。一例として、タグペプチド(マルチクローニングサイトおよび開始コドン)をAMV逆転写酵素β鎖(配列番号3)のN末端に付加したポリペプチドである、配列番号8に記載の配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの好ましい態様として、配列番号9に記載の配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。なお配列番号9に記載の配列からなるポリヌクレオチドにおいて、マルチクローニングサイトのフェニルアラニン(配列番号8では3番目の残基)のコドン(配列番号9では7番目から9番目までの塩基)はTTTであり、AMV逆転写酵素N末端側6残基(配列番号8では5番目から10番目の残基)をコードするオリゴヌクレオチド(配列番号9では13番目から30番目までの塩基)の配列は配列番号5に記載のヌクレオチド配列と同一である。
【0042】
本発明のAMV逆転写酵素遺伝子を、適切なプラスミドベクターに挿入することで、宿主で前記酵素を発現可能なプラスミドベクター(以下単に、本発明のプラスミドベクターとも表記する)を作製できる。本発明のAMV逆転写酵素遺伝子を挿入するプラスミドベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し、複製できるものであれば特に制限はない。宿主が大腸菌である場合のプラスミドベクターの具体例として、大腸菌内で安定に存在し複製できるプラスミドベクターとして知られている、pTrc系プラスミドベクター、pUC系プラスミドベクター、pBR系プラスミドベクター、pET系プラスミドベクター、広宿主域(Broad-Host-Range)プラスミドベクターがあげられる。その中でもpTrc系プラスミドベクターであるpTrc99Aは、形質転換した大腸菌内で安定に存在できるため、好ましい。本発明のプラスミドベクターにおけるAMV逆転写酵素遺伝子の位置は、プラスミドベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、または伝達性に関わる領域を破壊しない範囲で適宜設定してよい。
【0043】
本発明のプラスミドベクターを用いて宿主を形質転換することで、本発明の形質転換体を作製できる。前記宿主には特に制限はなく、一例として、動物細胞(CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HEK細胞、Hela細胞、COS細胞等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces octosporus、Schizosaccharomyces pombe等)、昆虫細胞(Sf9、Sf21等)、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)があげられる。なお動物細胞や大腸菌を宿主として用いると生産性の面で好ましく、大腸菌を宿主として用いるとさらに好ましい。大腸菌の好ましい態様として、大腸菌MV1184株(ATCC 47108)、大腸菌GM31株(NBRP ME7741)、大腸菌HB101株(ATCC 33694)、大腸菌JM101株(NBRP ME9043)および大腸菌W3110株(ATCC 27325)があげられる。なお前述した宿主に対し、ニトロソグアニジンやメタンスルホン酸エチル等の化学物質、紫外線、放射線等の従来公知の手段により変異処理した宿主変異株を使用してもよい。本発明のプラスミドベクターを用いて宿主を形質転換するには、公知の方法(例えば宿主が大腸菌の場合、Method in Enzymology,216,469-631,1992,Academic PressやMethod in Enzymology,204,305-636,1991,Academic Pressに記載の方法)で行なえばよい。
【0044】
前述した方法で得られた本発明の形質転換体の培養は、公知の方法を利用すればよく、例えば宿主が大腸菌の場合、LB(Luria-Bertani)培地や2YT培地を用いる方法があげられる。なお本発明のプラスミドベクターに薬剤耐性遺伝子を有している場合、当該遺伝子に対応した薬剤を選抜剤として培地に添加すると、本発明の形質転換体を選択して培養できる点で好ましい。例えば、本発明のプラスミドベクターがアンピシリン耐性遺伝子を有している場合、培地にアンピシリンやカルベニシリンを添加すればよい。また培地には、炭素、窒素、無機塩や、適当な栄養源を添加してもよい。培養温度は、例えば宿主が大腸菌の場合、10℃以上40℃以下の範囲であればよく、好ましくは25℃以上37℃以下の範囲、より好ましくは37℃付近である。pHは例えば宿主が大腸菌の場合、pH5.9以上8.1以下の範囲であればよく、好ましくはpH6.0付近である。培養時間は、例えば3時間以上であればよく、好ましくは16時間以上、より好ましくは50時間以上、さらに好ましくは72時間以上である。
【0045】
本発明のプラスミドベクターがtrcプロモーターなど誘導性のプロモーターを有している場合、IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)などの誘導剤を培地に添加し、AMV逆転写酵素の発現を誘導してもよい。この場合、培養開始時に誘導剤を添加してAMV逆転写酵素の発現を誘導させてもよいし、良好なAMV逆転写酵素の生産性が得られる程度まで菌体を増殖させた後に誘導剤を添加し、AMV逆転写酵素の発現を誘導させてもよい。好ましくは宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(660nmにおける吸光度)が概ね0.1以上20.0以下を示す増殖期間、より好ましくは濁度が0.5以上10.0以下を示す増殖期間に、誘導剤を添加する誘導操作を行ない、引き続き培養する方法が例示できる。IPTGの添加濃度は宿主が大腸菌の場合、一例として終濃度で概ね0.1mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲の中から適宜選択すればよいが、好ましくは1.0mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲、より好ましくは5.0mmol/L付近である。なお、誘導操作後(誘導剤添加後)の培養温度を宿主の至適培養温度よりも低い温度まで下げると好ましく、具体的には宿主が大腸菌の場合、10℃以上30℃以下の範囲、より好ましくは15℃以上25℃以下の範囲、さらに好ましくは25℃付近である。具体的には宿主が大腸菌の場合、特開2014-113106号公報に記載の方法を用いると、AMV逆転写酵素を効率的に生産できる点で好ましい。
【0046】
前述した方法で得られた本発明の形質転換体の培養液からAMV逆転写酵素を抽出するには、当該形質転換体による発現の形態によって、適宜抽出方法を選択すればよい。例えば、発現したAMV逆転写酵素が宿主内に蓄積する場合は遠心分離操作等により菌体を集めた後、酵素処理剤や超音波破砕等により菌体を破砕して抽出すればよい。なお前記抽出段階では核酸など種々の夾雑物が混在しているが、ストレプトマイシン塩酸塩やポリエチレンイミン(商品名:ポリミンP)などの除核酸剤を添加し、前記核酸と共沈させることで、効率的にAMV逆転写酵素を沈澱回収できる。さらに、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーといったクロマトグラフィーを単独または組み合わせて適用することにより、AMV逆転写酵素を高純度に精製できる。クロマトグラフィーを用いたAMV逆転写酵素精製の一例として、ポリプロピレングリコール基を導入した疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いてAMV逆転写酵素を精製後、ホスホセルロース担体を用いたイオン交換クロマトグラフィーを用いてさらに精製することで、AMV逆転写酵素α鎖と、AMV逆転写酵素β鎖と、αβ体のAMV逆転写酵素とを、分離精製できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】実施例で作製したプラスミドベクターのうち、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端側54塩基のヌクレオチド配列を比較した図である。図中、白抜きで示した箇所が、プラスミドベクターpAMVb(配列番号10)に対し、コドン変換した箇所である。
【
図2】実施例で作製したプラスミドベクターのうち、AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端側のGC含量を示す図である。
【
図3】AMV逆転写酵素の発現量をウェスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。なお発現量はプラスミドベクターpAMVb(配列番号10)で大腸菌を形質転換して得られた形質転換体での発現量を1とした相対値で示している。
【実施例0048】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターの作製
(1)配列番号12に記載のヌクレオチド配列からなるAMV逆転写酵素β鎖遺伝子の5’末端に開始コドン(ATG)を、3’末端に終止コドン(TAA)を、それぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。
【0050】
(2)あらかじめ制限酵素EcoRIおよびKpnIで消化したpTrc99Aプラスミドベクターに、(1)で合成したポリヌクレオチドを挿入し、プラスミドベクターpAMVb(以下、pAMVbと表記する)を作製した。なおpAMVbは、AMV逆転写酵素遺伝子の上流にtrcプロモーターを、下流にアンピシリン耐性遺伝子を、それぞれ含んでいる。配列番号12に記載のポリヌクレオチドの5’末端側に、pTrc99Aプラスミドベクター由来のマルチクローニングサイトと開始コドンを含む12塩基を付加したポリヌクレオチドの配列を配列番号10に示す。なお配列番号10のうち、5’末端側9塩基(ATggAATTC)が、pTrc99Aプラスミドベクター由来のマルチクローニングサイトである。
【0051】
(3)pAMVbのうち、配列番号10の5’末端側30塩基(以下、5’末端側領域とも表記する)に対し、Q5 Site-Directed Mutagenesis Kit(New England BioLabs)を用いてコドン置換し、5’末端側領域のGC含量を低下または増大させた。 配列番号10に記載のヌクレオチド配列からなるAMV逆転写酵素遺伝子を含むポリヌクレオチドに対し、5’末端側領域のGC含量を低下させたポリヌクレオチドを配列番号9に、5’末端側領域のGC含量を増加させたポリヌクレオチドを配列番号11に、それぞれ示す。また配列番号9に記載のヌクレオチド配列からなるAMV逆転写酵素遺伝子を含むプラスミドベクターをpAMVb-ATと、配列番号11に記載のヌクレオチド配列からなるAMV逆転写酵素遺伝子を含むプラスミドベクターをpAMVb-GCと、それぞれ命名する。なお配列番号10、9および11に記載のポリヌクレオチドの転写および翻訳により宿主内で合成されるポリペプチドは、いずれも配列番号8に記載の配列からなるポリペプチドである。
【0052】
配列番号10、9および11の5’末端側領域におけるヌクレオチド配列を比較した図を
図1に示す。配列番号9は、配列番号10に対し、ベクター由来のフェニルアラニンのコドンがTTTに、AMV逆転写酵素N末端のスレオニンのコドンがACTに、同酵素N末端側2番目のバリンのコドンがGTTに、3番目のアラニンのコドンがGCAに、5番目のヒスチジンのコドンがCATに、6番目のロイシンのコドンがTTAに、それぞれ置換されている。配列番号11は、配列番号10に対し、AMV逆転写酵素N末端側2番目のバリンのコドンがGTCに、3番目のアラニンのコドンがGCCに、4番目および6番目のロイシンのコドンがCTCに、それぞれ置換されている。
【0053】
配列番号10、9および11のうち、AMV逆転写酵素遺伝子5’末端側の1塩基目からn塩基目までにおけるGC含量をプロットした図を
図2に示す(nは2から54までの整数)。配列番号9は、配列番号10に対し、n=3以降GC含量が低下しており、n=9からn=50までGC含量45%未満を維持している。配列番号11は、配列番号10に対し、n=10以降GC含量が増大している。
【0054】
実施例2 AMV逆転写酵素の発現
(1)実施例1で作製した、pAMVb(配列番号10)ならびにpAMVb-AT(配列番号9)およびpAMV-GC(配列番号11)それぞれで、大腸菌W3110株を形質転換し、形質転換体(AMV逆転写酵素発現大腸菌)を作製した。
【0055】
(2)(1)で作製した形質転換体を、適量のカルベニシリンを含む2YT培地(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、塩化ナトリウム 5g/L)3mLにそれぞれ植菌し、30℃、150rpmで一晩前培養した。
【0056】
(3)(2)の前培養液0.2mLを、適量のカルベニシリンを含む2YT-PNa培地(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、リン酸二水素ナトリウム・二水和物 14.5g/L、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物 2.5g/L)20mLに植菌し、37℃、150rpmで3時間培養した。
【0057】
(4)IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を終濃度5mmol/Lとなるよう、各培養液に添加し、25℃、150rpmでさらに3日間培養した。
【0058】
(5)各培養液を遠心分離し、AMV逆転写酵素を発現した大腸菌を回収した。
【0059】
実施例3 AMV逆転写酵素発現量の評価
(1)実施例2で回収した各大腸菌を、破砕バッファー(グリセロール 10%(w/v)、リン酸カリウム 20mmol/L、ジチオトレイトール 4mmol/L、pH7.2)2mLに懸濁し、超音波破砕機UD-100(トミー精工)で破砕した。
【0060】
(2)(1)で得られた各菌体破砕液を、ジチオトレイトールを含むSDS-PAGEサンプル緩衝液に添加し、98℃で5分間熱処理後、5%(w/v)から20%(w/v)濃度勾配SDS-ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動した。
【0061】
(3)電気泳動後、トランスブロットTurbo転写システム(Bio-Rad)を用いて、ゲル中のタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。
【0062】
(4)(3)のメンブレンに対して、1次抗体として抗AMV逆転写酵素ラビットポリクローナル抗体を、2次抗体として抗ラビットIgG抗体-HRP(Bethyl)を、発色試薬としてSuper Signal West Pico PLUS(Thermo Fisher Scientific)を用いて染色し、ウェスタンブロッティング解析を実施した。
【0063】
(5)(4)で染色したメンブレンを、Amersham ImageQuant 800(Cytiva)を用いて撮影し、画像解析ソフトImageQuant TL(Cytiva)を用いて各バンドの輝度を定量解析した。
【0064】
配列番号10、9および11のいずれかの記載の配列からなるポリヌクレオチドを含むプラスミドベクター(配列番号10:pAMVb、配列番号9:pAMVb-AT、配列番号11:pAMV-GC)で形質転換して得られた形質転換体を用いて発現させた際のAMV逆転写酵素発現量を比較した結果を
図3に示す。なお
図3において発現量は、pAMVb(配列番号10)で形質転換して得られた形質転換体での発現量(バンドの輝度に相当)を1とした相対値で表している。AMV逆転写酵素遺伝子の5’末端側の1塩基目からn塩基目(ただし、nは9以上50以下の整数)までのGC含量を45%未満となるコドン置換(配列番号9、pAMVb-AT)を行なうことで、当該置換前(配列番号10、pAMVb)よりも発現量が約3倍に向上していることがわかる。一方、AMV逆転写酵素遺伝子の5’末端領域のGC含量を増大させるコドン置換(配列番号11、pAMVb-GC)を行なうと、当該置換前(配列番号10、pAMVb)と比べて、AMV逆転写酵素の発現量は著しく低下した。
本発明のポリヌクレオチドにより、遺伝子組換え宿主を用いたトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の大量発現が可能となるため、工業規模でのAMV逆転写酵素の製造を効率的に行なえる。