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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166188
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
H02K21/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077066
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】角振 正浩
(72)【発明者】
【氏名】咲山 隆
(72)【発明者】
【氏名】野田 大明
(72)【発明者】
【氏名】長浦 正樹
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】山元 郁
【テーマコード(参考)】
5H621
【Fターム(参考)】
5H621AA03
5H621HH01
5H621PP03
5H621PP10
(57)【要約】
【課題】ステータとロータのいずれか一方を引き抜くように移動させた場合であっても、漏れ磁束がロータと鎖交するのを防止し、ステータの引抜量に対するトルク定数の低下率を向上させることができる回転電機を提供する。
【解決手段】電機子コイルを巻回したステータコアを有するステータと、前記ステータに対して径方向に所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に、複数の永久磁石を環状に配置したロータコアを有するロータと、を備え、前記ステータと前記ロータの何れか一方は、前記ロータの回転軸方向に沿って抜き差し自在に配置され、前記ステータの抜き方向の前記ロータの端部には、漏れ磁束吸収部を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子コイルを巻回したステータコアを有するステータと、
前記ステータに対して径方向に所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に、複数の永久磁石を環状に配置したロータコアを有するロータと、を備え、
前記ステータと前記ロータの何れか一方は、前記ロータの回転軸方向に沿って抜き差し自在に配置され、
前記ステータの抜き方向の前記ロータの端部には、漏れ磁束吸収部を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記漏れ磁束吸収部は、
第1の磁気リングと、
前記ロータの端部と前記第1の磁気リングとの間に形成される空隙と、を有することを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機において、
前記漏れ磁束吸収部は、
前記ロータの端部と前記第1の磁気リングとの間に、前記第1の磁気リングより径方向に小さい第2の磁気リングを有することを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の回転電機において、
前記第2の磁気リングは、
前記永久磁石が環状に配置される範囲より径方向に小さいことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の回転電機において、
前記ステータは、前記ステータを前記ロータの回転軸方向に沿って変位させる移動機構によって、移動可能に取り付けられることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項4に記載の回転電機において、
前記ステータは、前記ステータを前記ロータの回転軸方向に沿って変位させる移動機構によって、移動可能に取り付けられることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の低速及び高速での出力を調整することで、回転速度に応じた出力特性を得ることができる回転電機が知られている。このような回転電機は種々の構造が知られているが、例えば、特許文献1に記載されているように、ロータと、前記ロータに対して同軸をなし、かつ前記ロータの回転軸の軸線方向に変位自在に設けられたステータと、前記ステータを前記回転軸方向に変位させるステータ移動手段とを有する回転電機が知られている。
【0003】
このような回転電機によれば、低速回転時には、ステータとロータの対向面積が大きくなるように移動手段によってステータを回転軸方向に移動させて、有効磁束が大きくなるようにして高トルク化を図り、高速回転時には、ステータとロータとの対向面積を少なくするようにステータを移動させて、有効磁束が小さくなるようにして高速回転を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-57209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図10及び図11に示すように、従来の回転電機100によれば、ステータ106をロータ105に対して引き抜いた際、ロータ105と対向していない部分の電機子コイルからの磁束(以下、漏れ磁束という。)が、ロータ105と鎖交するような磁路を形成するため、ステータ106の引抜量に対して有効磁束が大きくなってしまい、トルク定数が下がりにくいという課題があった。
【0006】
また、このようにステータ106の引抜量に対するトルク定数の低下率が低い場合、所望のトルク定数を得るためには、ステータ106の引抜量を大きくする必要があり、装置の大型化や、ステータ106を引き抜く際のアクチュエータの消費電力が大きくなるといった課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、ステータとロータのいずれか一方を引き抜くように移動させた場合であっても、漏れ磁束がロータと鎖交するのを防止し、ステータの引抜量に対するトルク定数の低下率を向上させることができる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係る回転電機は、電機子コイルを巻回したステータコアを有するステータと、前記ステータに対して径方向に所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に、複数の永久磁石を環状に配置したロータコアを有するロータと、を備え、前記ステータと前記ロータのいずれか一方は、前記ロータの回転軸方向に沿って抜き差し自在に配置され、前記ステータの抜き方向の前記ロータの端部には、漏れ磁束吸収部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転電機によれば、ステータとロータのいずれか一方の引抜量に対するトルク定数の低下率を向上させることで、所望のトルク定数を得るための引抜量を小さくすることができ、装置の小型化及びステータまたはロータを引き抜くためのアクチュエータの消費電力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図。
図2】本発明の実施形態に係る回転電機のステータを引き抜いた状態を示す軸方向断面図。
図3図1におけるA部拡大断面図。
図4図1におけるB-B断面図。
図5】本発明の実施形態に係る回転電機を示す斜視図。
図6】本発明の実施形態に係るボールねじを示す参考斜視図。
図7】本発明の実施形態に係るボールスプラインを示す参考斜視図。
図8】(a)は、本実施形態に係る回転電機の漏れ磁束の磁路を示す模式図、(b)は、従来の回転電機の漏れ磁束の磁路を示す模式図。
図9】(a)は、本発明の実施形態と従来の回転電機のトルク定数低下率を示すグラフ、(b)は、本発明の実施形態と従来の回転電機のトルク定数低下率とステータ引抜量の関係を示すグラフ。
図10】従来の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図。
図11】従来の実施形態に係る回転電機のステータを引き抜いた状態を示す軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図であり、図2は、本発明の実施形態に係る回転電機のステータを引き抜いた状態を示す軸方向断面図であり、図3は、図1におけるA部拡大断面図であり、図4は、図1におけるB-B断面図であり、図5は、本発明の実施形態に係る回転電機を示す斜視図であり、図6は、本発明の実施形態に係るボールねじを示す参考斜視図であり、図7は、本発明の実施形態に係るボールスプラインを示す参考斜視図であり、図10は、従来の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図であり、図11は、従来の実施形態に係る回転電機のステータを引き抜いた状態を示す軸方向断面図である。また、本明細書において、後述するステータ6の引き抜き方向とは、図2に示す矢印の方向と定義する。
【0013】
本実施形態に係る回転電機1は、図1に示すように、後述するロータ5の内部に永久磁石52を埋め込んだ構造をもつ、いわゆるIPM (Interior Permanent Magnet)モータである。また、本実施形態に係る回転電機1は、自動車等の駆動用のモータとして用いられると好適である。
【0014】
本実施形態に係る回転電機1は、図1に示すように、ケース2に対して回転可能に取り付けられたシャフト4及びロータ5と、ロータ5を周方向に取り囲むと共にロータ5の回転軸方向に沿って移動可能に取り付けられたステータ6を備える。なお、本明細書において、ケース2は、図5に示すように、鋼板を組み合わせた筐体であるとして説明を行うが、ケース2は、回転電機1の構成要素を自動車等の駆動用モータとして車体本体に取り付けることができればよく、材質や形状等は適宜設定して構わない。
【0015】
シャフト4は、ケース2に取り付けられた一対の軸受3a、3bを介して回転自在に軸支される。シャフト4のいずれか一方の端部には、図示しない駆動機構に連結され、シャフト4の回転は、自動車等の動力として伝達される。シャフト4には、ロータ5がシャフト4の回転軸と同軸に固定されている。
【0016】
ロータ5は、図1及び図4に示すように、ロータコア51と、ロータコア51の内部に埋め込まれる複数の永久磁石52を有する。また、ロータ5は、ステータ6の引き抜き方向の端部に漏れ磁束吸収部7を備える。ロータ5は、漏れ磁束吸収部7とケース2の壁面との間に、ステータ6の引抜量よりも大きな隙間が形成されるように、シャフト4に固定されている。
【0017】
永久磁石52は、図1及び図4に示すように、断面形状が直線形であってロータ5の回転軸方向に長手をもつ板状の磁石である。永久磁石52は、ロータ5の回転軸方向と直交する断面において、ロータコア51の外周に沿って環状に配置される。また、永久磁石52は、N極の磁石52NとS極の磁石52Sとがあり、ロータコア51の周方向に交互に配置されている。なお、本実施例では、永久磁石52は、断面形状が直線形をなす板状の磁石であるとして説明したが、磁石の形状はこれに限定されず、ロータコア51の外周に沿った断面形状が円弧形をなす板状の磁石であっても構わない。また、永久磁石52は、断面形状が略V字形の磁石であって、略V字形の頂点がロータ5の回転中心に向くように配置されても構わない。
【0018】
ロータコア51は、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形若しくは射出成形して形成されると好適である。ロータコア51には、図4に示すように、N極の磁石52NとS極の磁石52Sの間に対応する位置に、ロータ5の回転軸方向に延びる溝53が形成されている。この溝53によりN極の磁石52NとS極の磁石52Sとの間に空気層を形成することで、磁束の短絡を防止している。溝53は、図4に示すように、断面形状が略三角形であり、ロータコア51の内部に形成されると好適である。なお、溝53の位置及び形状はこれに限定されず、例えば、ロータコア51の外周表面に形成される断面形状が略U字形の溝であっても構わない。
【0019】
漏れ磁束吸収部7は、図1及び図3に示すように、第1の磁気リング71と第2の磁気リング72を有する。また、第1の磁気リング71とロータコア51との間には、第2の磁気リング72によって空隙73が形成される。
【0020】
第1の磁気リング71は、電磁鋼板または軟磁性粉末材料からなり、ロータコア51と同一の材質であると好適である。第1の磁気リング71は、ロータコア51の外径と略同径の外径の円板である。第1の磁気リング71は、ロータ5の回転軸と同軸に、第2の磁気リング72と共にロータコア51に固定されている。第1の磁気リング71は、厚みがあるほど、後述するようにステータ6の引き抜き時の有効磁束の増加を抑制し、トルク定数の低下率を向上させる効果が高くなるが、背反としてロータ5の回転軸方向に寸法が大きくなってしまう。このため、本実施形態において、第1の磁気リング71は、厚みが10mmから20mmに設定されると好適であり、より好ましくは15mmに設定されると好適である。なお、本実施形態において、第1の磁気リング71の厚みは15mmに設定されると好適であると説明したが、第1の磁気リング71の厚みは、これに限定されず、ロータ5の外径や全長に応じて適宜設定して構わない。
【0021】
第2の磁気リング72は、電磁鋼板または軟磁性粉末材料からなり、ロータコア51と同一の材質であると好適である。第2の磁気リング72は、図4に示すように、永久磁石52が環状に配置される範囲よりも径方向に小さな外径の円板である。第2の磁気リング72は、その厚みによって、第1の磁気リング71とロータコア51との間に空隙73を形成する。第2の磁気リング72は、厚みが少ないほど、後述するようにステータ6の引き抜き時の有効磁束の増加を抑制し、トルク定数の低下率を向上させる効果が高くなる。本実施形態において、第2の磁気リング72は、厚みが0.2mmから1mmに設定されると好適であり、より好ましくは、電磁鋼板の最小積厚である0.5mmに設定されると好適である。なお、本実施形態において、第2の磁気リング72の厚みは0.5mmに設定されると好適であると説明したが、第2の磁気リング72の厚みは、これに限定されず、ロータ5の外径や全長及び第1の磁気リング71の外径や厚みに応じて適宜設定して構わない。なお、第2の磁気リング72は円板であるとして説明を行ったが、第2の磁気リング72の形状はこれに限定されず、永久磁石52が環状に配置される範囲よりも径方向に小さければよく、多角形であっても構わない。
【0022】
空隙73は、ロータ5と第1の磁気リング71との間に空気層を形成することで、永久磁石52の磁束が第1の磁気リング71との間で短絡することを防止している。
【0023】
ステータ6は、図1及び図4に示すように、ステータコア61と、ステータコア61に巻回された複数の電機子コイル62を有する。
【0024】
ステータコア61は、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形若しくは射出成形して形成されると好適である。ステータコア61は、径方向に放射状に延びると共に、電機子コイル62が巻回される複数のステータコア基部61aと、各ステータコア基部61aの径方向内側の端部から周方向に延設する鍔部61bとを備えている。鍔部61bの径方向内周面は、ロータコア51の外周面との間に所定のギャップが形成されるように配置される。
【0025】
電機子コイル62は、ロータ5の回転軸と同軸に、周方向に沿って配置されている。なお、電機子コイルの巻回方法は、従来周知の種々の巻き方を採用することが可能である。
【0026】
ステータ6は、一例として、図4に示すように、ロータ5の回転軸方向と直交する断面において、四隅に位置する移動機構10によって、ロータ5の回転軸方向に沿って移動可能に支持されている。本実施形態において、移動機構10は、少なくとも一つのボールねじ8と、複数のボールスプライン9によって構成されている。
【0027】
ボールねじ8は、図6に示すように、螺旋状のボール転走溝81aが形成された長手方向に延びる軸部材としてのねじ軸81と、ボール転走溝81aに対応する負荷転走溝82aが形成された移動部材としてのナット部材82とを有する。
【0028】
ナット部材82は、ボール転走溝81aと負荷転走溝82aの間を転走する複数のボール83を介してねじ軸81に対して軸方向に移動可能に取り付けられている。ナット部材82は、軸方向端面に径方向に延設されたフランジ84を有し、フランジ84には複数の締結孔84aが形成されている。また、ナット部材82は、図示しないリターンピースを有している。
【0029】
リターンピースは、ねじ軸81のボール転走溝81aを数巻分だけ飛び越えるようにナット部材82に固定されており、かかるリターンピースの端部によってねじ軸81のボール転走溝81aから掬い上げられたボール83が、リターンピース内を転走して数巻分前のボール転走溝81aに送りこまれ、これによってボール83がナット部材82内を無限循環するように構成されている。なお、無限循環の方式として、リターンピースを用いる方式について説明を行ったが、無限循環の方式はリターンピースに限らず、種々の循環方式を採用することが可能であり、例えば、ナット部材82の軸方向端部に取り付けるエンドプレートに循環構造を持たせても構わないし、デフレクタを用いて、ボール83を所定の巻き数分戻す方式を採用しても構わない。
【0030】
本実施形態において、ねじ軸81の両端部は、ケース2に取り付けられた図示しない一対の軸受を介して回転自在に軸支されている。なお、ねじ軸81は、ロータ5の回転軸と平行に配置されている。ねじ軸81のいずれか一方の端部は、図5に示すように、駆動モータ85によって回転力が付与されるように連結されている。また、ナット部材82は、締結孔84aを用いてステータ6に取り付けられている。
【0031】
ボールスプライン9は、図7に示すように、長手方向に沿ってボール転走溝91aが形成された軸部材としてのスプライン軸91と、スプライン軸91に対して軸方向に移動可能に取り付けられている移動部材94を有する。
【0032】
移動部材94は、ボール転走溝91aに対応する負荷転走溝92aが形成されたリテーナ92と、リテーナ92を周方向に取り囲む外筒93を有している。
【0033】
リテーナ92は、ボール転走溝91aと負荷転走溝92aの間を転走する複数のボール95を介してスプライン軸91に取り付けられている。また、リテーナ92には、長手方向に沿って無負荷転送路92bが形成されている。無負荷転送路92bの両端部は、負荷転走溝92aと連絡しており、これによってボール95がリテーナ92内を無限循環するように構成されている。なお、無限循環の方式として、リテーナ92を用いる方式について説明を行ったが、無限循環の方式はこれに限定されず、種々の循環方式を採用することが可能であり、例えば、移動部材94の軸方向端部に取り付けるエンドプレートに循環構造を持たせても構わない。
【0034】
本実施形態において、スプライン軸91の両端部は、図5に示すように、ケース2に固定される。なお、スプライン軸91は、ロータ5の回転軸と平行に配置されている。また、移動部材94は、ステータ6に取り付けられている。移動部材94は、ステータ6に形成された貫通しない穴に外筒93が挿嵌され、抜け落ち防止のためのプレート等によって外筒93の長手方向端部を押えるように固定されると好適である。なお、ステータ6の長手方向の寸法が短い場合には、一本のスプライン軸91に対して一つの移動部材94を取り付けてもよく、ステータ6の長手方向の寸法が長い場合には、一本のスプライン軸91に対して二つの移動部材94をステータ6の長手方向の両端部に取り付けても構わない。
【0035】
このようなボールねじ8とボールスプライン9を有する回転電機1によれば、駆動モータ85によってねじ軸81を回転させることで、ナット部材82が取り付けられたステータ6をロータ5の回転軸方向に沿って移動させることができる。
【0036】
このように、本実施形態に係る回転電機1は、図2に示すように、ステータ6をロータ5に対して抜き差しするように移動させ、ステータ6のロータ5に対する相対位置を変更することで、出力特性を変化させることができる。ステータ6をロータ5に対して最も挿入した状態においては、ステータ6とロータ5の対向面積が最も大きく、回転電機1の出力特性は、高トルク・低回転となる。このような状態では、自動車の発進時など速度は遅いが高トルクが必要な場合に最も出力特性が適した状態となる。また、この状態では、逆起電力が上昇することから、効率的に発電を行うことができ、高効率の回生ブレーキとして作用させることが可能となる。
【0037】
ステータ6をロータ5に対して引き抜き方向に移動させると、ステータ6とロータ5の対向面積は小さくなり、回転電機1の出力特性は、低トルク・高回転となる。このような状態では、トルクを必要としない高速走行時に出力特性が適した状態となる。
【0038】
次に、本実施形態に係る回転電機1と従来の回転電機の、ステータ6の引き抜き方向への移動時における漏れ磁束の磁路について比較をおこなう。
【0039】
図8(a)は、本実施形態に係る回転電機1の漏れ磁束の磁路を示す模式図であって、図8(b)は、従来の回転電機100の漏れ磁束の磁路を示す模式図である。
【0040】
従来の回転電機100では、図8(b)に示すように、ステータ106の引き抜き時において、ロータ105と対向していない部分のステータ106からの磁束は、矢印のようにロータ105と鎖交する磁路を形成する。このため、従来の回転電機100は、ステータ106の引抜量に対して有効磁束が大きくなり、トルク定数の低下率が低くなってしまう。
【0041】
これに対して、本実施形態に係る回転電機1では、図8(a)に示すように、ステータ6の引き抜き方向に位置するロータ5の端部に漏れ磁束吸収部7が形成されているため、ステータ6の引き抜き時において、ロータ5と対向していない部分のステータ6からの磁束は、矢印のように第1の磁気リング71と鎖交する磁路を形成する。また、ロータコア51と第1の磁気リング71との間には空隙73によって空気層が形成されているため、永久磁石52の磁束が第1の磁気リング71との間で短絡することがない。したがって、ステータ6からの漏れ磁束は、ロータ5と鎖交することなく、ステータ6と第1の磁気リング71との間で磁束ループを形成する。これにより、本実施形態に係る回転電機1は、ステータ6の引き抜き時の有効磁束の増加を抑制し、トルク定数の低下率を向上することができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る回転電機1と従来の回転電機100のトルク測定の結果を参照して、本発明の効果について説明する。
【0043】
図9(a)は、本発明の実施形態に係る回転電機1と従来の回転電機100のトルク定数低下率を示すグラフである。本測定は、ステータをロータに対して最も挿入した状態を引抜量0mmとして、本発明の実施形態に係る回転電機1及び従来の回転電機100のステータを共に等距離だけロータの回転軸方向へ移動させ、トルク測定を行った。
【0044】
図9(a)に示すグラフより明らかなように、漏れ磁束吸収部7を備える本実施形態に係る回転電機10のトルク定数低下率は、従来の回転電機100のトルク定数低下率と比較して、大きくなっていることが確認できる。
【0045】
図9(b)は、本発明の実施形態に係る回転電機1と従来の回転電機100のステータ引抜量とトルク定数低下率との関係を示すグラフである。本測定は、ステータをロータに対して最も挿入した状態を引抜量0mmとして、徐々にステータをロータから引き抜くようにロータの回転軸方向へ移動させ、トルク測定を行った。
【0046】
図9(b)に示すグラフより明らかなように、同程度のトルク定数低下率を得るために必要となるステータ引抜量は、すべての引抜量において、従来の回転電機100よりも本実施形態に係る回転電機1の方が短くなっていることが確認できる。
【0047】
以上のことから、漏れ磁束吸収部7を備える本実施形態に係る回転電機1は、従来の回転電機100と比較して、ステータ移動量に対するトルク定数低下率が高いため、ステータ移動量を短縮することができ、装置の小型化及びステータを引き抜くためのアクチュエータの省電力化に効果的であることが確認できた。
【0048】
なお、上述した実施形態においては、ロータ5を回転軸方向に固定し、ステータ6をロータ5に対して抜き差しするように移動可能な形態について説明を行ったが、これに限らず、ステータ6をロータ5の回転軸方向に固定し、ロータ5をステータ6に対して抜き差しするように移動可能な形態であっても構わない。また、上述した実施形態においては、第1の磁気リング71及び第2の磁気リング72は、電磁鋼板または軟磁性粉末材料からなり、ロータコア51と同一の材質であるとして説明を行ったが、第1の磁気リング71及び第2の磁気リング72は、ロータコア51と異なる材質であっても構わない。ただし、第1の磁気リング71の材質は、磁性体である必要がある。また、上述した実施形態においては、漏れ磁束吸収部7は、第1の磁気リング71と第2の磁気リング72を有し、第2の磁気リング72によって、第1の磁気リング71とロータコア51との間に空隙73を形成する構造について説明を行ったか、漏れ磁束吸収部7の構造はこれに限定されず、ロータコア51と一体であって空隙73を有する構造であっても構わない。また、上述した本実施形態に係る回転電機1においては、本実施形態に係る回転電機1を自動車等の駆動用モータとして適用する場合について説明を行ったが、その用途は自動車に限られず、各種のモータに適用しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0049】
1 回転電機, 5 ロータ, 10 移動機構, 51 ロータコア, 52 永久磁石, 6 ステータ, 61 ステータコア, 7 漏れ磁束吸収部, 71 第1の磁気リング, 72 第2の磁気リング, 73 空隙。
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