(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166222
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】光アイソレータ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/28 20060101AFI20231114BHJP
【FI】
G02B27/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077129
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199AA02
2H199AA09
2H199AA13
2H199AA24
2H199AA90
(57)【要約】
【課題】
高い光遮断性能を有する光アイソレータを提供することを目的とする。
【解決手段】
光の進行方向に、少なくとも第1偏光子、第1ファラデー回転子、第2偏光子、第3偏光子、第2ファラデー回転子、第4偏光子がこの順に配置された光学素子と、前記第1ファラデー回転子及び前記第2ファラデー回転子に磁場を印加する永久磁石を備えた多段型の光アイソレータであって、前記第2偏光子の透過偏光軸と前記第3偏光子の透過偏光軸の相対角度が0.1度以上である光アイソレータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の進行方向に、少なくとも第1偏光子、第1ファラデー回転子、第2偏光子、第3偏光子、第2ファラデー回転子、第4偏光子がこの順に配置された光学素子と、前記第1ファラデー回転子及び前記第2ファラデー回転子に磁場を印加する永久磁石を備えた多段型の光アイソレータであって、
前記第2偏光子の透過偏光軸と前記第3偏光子の透過偏光軸の相対角度が0.1度以上であることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項2】
前記第1偏光子と前記第1ファラデー回転子と前記第2偏光子が一体化されたものであり、かつ、前記第3偏光子と前記第2ファラデー回転子と前記第4偏光子が一体化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項3】
前記第2偏光子及び前記第3偏光子は平板型偏光子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光アイソレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
光計測などで、レーザから出た光が、伝送路途中に設けられた部材表面からの反射光としてレーザ光源に戻ってくると、レーザ発振が不安定になる。この反射戻り光を遮断するために、偏光面を非相反で回転させるファラデー回転子を用いた光アイソレータが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光通信や光計測では、高速通信や高精度実現のために、より波長半値幅の狭いレーザーダイオード(Laser Diode:LD)光が用いられる。また長距離伝送のために、LDチップの光出力向上や、外部増幅器(半導体光増幅器:SOA)と組み合わせて用いられる機会が増えている。波長半値幅の狭い光では外部反射光による干渉の影響が大きくなる。光出力向上では外部反射光で戻る光の強度は相対的に強く(大きく)なる。このため、より光遮断性能の高い光アイソレータが求められている。
【0005】
1.5段構造(偏光子3個、ファラデー回転子2個。1.5段型ともいう。)の光アイソレータでは、1段構造(偏光子2個、ファラデー回転子1個。1段型ともいう。)の光アイソレータより高い光遮断性能が得られるが、遮断性能は中央部に用いる偏光子の消光性能に依存していた。また単純に2段構造(偏光子4個、ファラデー回転子2個。2段型ともいう。)の光アイソレータでは、磁束方向やファラデー回転子の回転方向や、その温度依存性等を検討するのみで(例えば、特許文献1)、光遮断性能を向上させる試みがなされていない。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高い光遮断性能を有する光アイソレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、光の進行方向に、少なくとも第1偏光子、第1ファラデー回転子、第2偏光子、第3偏光子、第2ファラデー回転子、第4偏光子がこの順に配置された光学素子と、前記第1ファラデー回転子及び前記第2ファラデー回転子に磁場を印加する永久磁石を備えた多段型の光アイソレータであって、前記第2偏光子の透過偏光軸と前記第3偏光子の透過偏光軸の相対角度が0.1度以上である光アイソレータを提供する。
【0008】
このような光アイソレータによれば、高い光遮断性能を有する光アイソレータとなる。
【0009】
このとき、前記第1偏光子と前記第1ファラデー回転子と前記第2偏光子が一体化されたものであり、かつ、前記第3偏光子と前記第2ファラデー回転子と前記第4偏光子が一体化されたものとすることができる。
【0010】
これにより、小型化された光アイソレータとなる。
【0011】
このとき、前記第2偏光子及び前記第3偏光子は平板型偏光子である光アイソレータとすることができる。
【0012】
これにより、相対角度の設定をより安定して行うことができるものとなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の光アイソレータによれば、高い光遮断性能を有する光アイソレータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを説明する図面である。
【
図4】第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θと光アイソレータの逆方向挿入損失の関係を示す。
【
図5】第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θと光アイソレータの逆方向挿入損失の関係(拡大図)を示す。
【
図6】実施例1の2段型の光アイソレータにおける逆方向挿入損失の波長依存性の評価結果を示す。
【
図7】第2、第3の偏光子の透過偏光軸の相対角度θと、順方向の挿入損失の関係を示す。
【
図8】2段型の光アイソレータの逆方向挿入損失及び第2、第3の偏光子の消光性能の波長依存性の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
上述のように、高い光遮断性能を有する光アイソレータが求められていた。
【0017】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、光の進行方向に、少なくとも第1偏光子、第1ファラデー回転子、第2偏光子、第3偏光子、第2ファラデー回転子、第4偏光子がこの順に配置された光学素子と、前記第1ファラデー回転子及び前記第2ファラデー回転子に磁場を印加する永久磁石を備えた多段型の光アイソレータであって、前記第2偏光子の透過偏光軸と前記第3偏光子の透過偏光軸の相対角度が0.1度以上である光アイソレータにより、高い光遮断性能を有する光アイソレータとなることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
以下、図面を参照して説明する。
【0019】
[光アイソレータ]
まず、多段型構造の光アイソレータについて説明する。
図1に一例として、2段型の光アイソレータ100Aの例を示す。
図1に示されるように、2段型の光アイソレータ100Aは、偏光子4個とファラデー回転子2個を用い、順方向(光の進行方向)において、第1偏光子1、第1ファラデー回転子13、第2偏光子2、第3偏光子3、第2ファラデー回転子14、第4偏光子4がこの順に配置された光学素子10と、第1ファラデー回転子13に磁場を印加する永久磁石11、第2ファラデー回転子14に磁場を印加する永久磁石12を備えたものである。
図1には、光学素子10の第1段目(第1偏光子1、第1ファラデー回転子13、第2偏光子2)及び永久磁石11と、光学素子10の第2段目(第3偏光子3、第2ファラデー回転子14、第4偏光子4)及び永久磁石12とが別体として配置されている例を示している。
【0020】
また、複数段を一体化した多段型の光アイソレータとすることも好ましい。例えば、
図1に記載の1段目と2段目とを一体化して、
図2に示すような一体型の2段型光アイソレータ100Bとすることができる。この場合、第1ファラデー回転子13と第2ファラデー回転子14に磁場を印加する永久磁石として一つの永久磁石15を備えるものとすることができる。このような光アイソレータでは第2偏光子と第3偏光子間の空隙を無くすことで小型化されたものとすることができる。
【0021】
第1偏光子、第1ファラデー回転子、第2偏光子、第3偏光子、第2ファラデー回転子、第4偏光子、永久磁石のそれぞれについては、公知のものを適宜採用することができる。例えば、ファラデー回転子としては、(TbEuBi)3(FeGa)5O12や(GdBi)3(FeGa)5O12を用いることが好ましい。また、上記説明では2段型の光アイソレータの例を挙げたが、2段より多段の多段型光アイソレータとすることも可能である。
【0022】
本発明に係る多段型の光アイソレータは、第2偏光子2の透過偏光軸と第3偏光子3の透過偏光軸の相対角度θが0.1度以上とされたものである。例えば
図3に示すように、第2偏光子2と第3偏光子3とを、平行としたまま相対的に回転させることで、第2偏光子2の透過偏光軸5と第3偏光子3の透過偏光軸6の相対角度θを調整できる。このように、光学素子10の中央部に位置し隣り合う第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.0度(°)からずらし、透過偏光軸の相対角度θを0.1度(°)以上とすることで、第2、第3偏光子の消光性能値に制限されることなく、高い逆方向挿入損失を得ることができる。
【0023】
第2偏光子及び第3偏光子は、平板型偏光子とすることが好ましい。このような第2偏光子及び第3偏光子であれば、透過偏光軸の相対角度θの設定をより安定して行うことができる光アイソレータとなる。
【0024】
図8に、2段型の光アイソレータの逆方向挿入損失及び第2、第3の偏光子の消光性能の波長依存性の一例を示した。使用する偏光子の消光性能が無限大に大きいと仮定した場合、用いるファラデー回転子のファラデー回転角度波長依存から計算した光アイソレータの逆方向挿入損失は、
図8の一点鎖線で示すようになる。実際には偏光子の消光性能は有限であり、第2、第3偏光子の消光性能は光波長に対して点線で示すような特性である。第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.0度(°)とした場合の2段型の光アイソレータの逆方向挿入損失の実測値を、
図8中の実線で示す。
図8中の実線で示されるように、2つ(2段)のアイソレータを挿入して得られる逆方向挿入損失の値は、第2、第3偏光子の消光性能近傍の数値となっており、中間に配置する偏光子の消光性能に依存、制限されることを示している。
【0025】
本発明者は、第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.0度(°)から徐々に拡大していくと、偏光子の消光性能と離れ、光アイソレータの逆方向挿入損失が大きな値を示すようになることを見出した。
図4、
図5に、第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θと光アイソレータの逆方向挿入損失の関係を示す。比較のために偏光子の消光性能(点線)も示してある。なお、
図4は相対角度θが0~14度(°)の範囲、
図5は相対角度θが0~2度(°)の部分を拡大した図である。
図4,5に示すように、第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.0度(°)から徐々に拡大していくと、光アイソレータの逆方向挿入損失は偏光子の消光性能から離れ、大きな値を示すようになる。透過偏光軸の相対角度を付けることで、各々の偏光子が独立した機能を有するように作用すると考えられる。
【0026】
第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θが0.0度(°)のときは、第2、第3偏光子が一体化して機能し、結果として1.5段型の光アイソレータ(偏光子3個、ファラデー回転子2個)と同じ挙動を示し、偏光子の性能により強く依存していたと考えられる。
【0027】
一方、
図7に示すように、第2、第3の偏光子の透過偏光軸の相対角度θを大きくすると、光アイソレータの順方向挿入損失は、透過偏光軸の相対角度θが0.0度(°)のときの0.18dBから、徐々に増大することが確認された。本発明に係る光アイソレータにおいて、第2、第3の偏光子の透過偏光軸の相対角度θの上限値は特に限定されないが、順方向挿入損失は小さい値が要求される観点から、透過偏光軸の相対角度θの上限値は、例えば、10.0度(°)以下、好ましくは5.0度(°)以下、より好ましくは1.0度(°)以下とすることができる。
【実施例0028】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0029】
図1に示すような2段型の光アイソレータを作製した。偏光子としては、Ag粒子を分散配向させた平板型ガラス偏光子(Corning社:Polarcor)を用いた。また、ファラデー回転子は(TbEuBi)
3(FeGa)
5O
12を用いた。
【0030】
第1及び第2偏光子として、光の入射面および出射面に相当する偏光ガラス表面(11mm□、厚さ0.2mm、消光性能52dB)に1550nmの対空気ARコートを施した。1550nmにおける45.0度ファラデー回転子(11mm□厚さ0.54mm)には、対エポキシコートを両面に施し、エポキシ接着剤を介して、偏光ガラスのARコート無し面と貼り合せ、第1及び第2偏光子の透過偏光軸の相対角度が45.0度になるように接合固定した。その後、2mm□に切断加工し、永久磁石(外径φ5.0mm×内径φ2.9mm×長さ1.2mm)中に挿入し接合固定した。これを2段型の光アイソレータの第1段目とし、第2段目の第3偏光子、第4偏光子、第2ファラデー回転子、永久磁石も第1段目と同様の材料、工程で作製した。
【0031】
(比較例)
第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.0度(°)とした。このときは、
図8中の実線で示されるように、2つのアイソレータを挿入して得られる逆方向挿入損失の値は、第2、第3偏光子の消光性能近傍の数値となった。前述したように、逆方向挿入損失は中間に配置する偏光子の消光性能に依存することを示している。第2、第3偏光子が一体化して機能し、結果として1.5段型の光アイソレータ(偏光子3個、ファラデー回転子2個)と同じ挙動を示し、偏光子の性能により強く依存していたと考えられる。
【0032】
(実施例1)
第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.3度(°)に固定して、逆方向挿入損失の波長依存性の評価を行った。結果を
図6に示す。
図6中、実線は実施例1における逆方向挿入損失の波長依存性の実測値を示す。なお、一点鎖線及び点線は
図4と同じである。実施例1における逆方向挿入損失の波長依存性の実測値は、
図8の実線と異なり、評価波長域全般においてより高い数値を示し、一点鎖線で示すファラデー回転子のファラデー回転角度波長依存性計算値に近い挙動を示した。この観点からも、偏光子の消光性能依存性に比べて、より高い逆方向挿入損失が実現できたと考えられる。
【0033】
(実施例2)
図2に示すような一体型の2段型光アイソレータを作製した。偏光子として用いた15mm□、厚さ0.12mmの偏光ガラス(消光性能52dB)において、第1、第4偏光ガラス表面には1550nmの対空気ARコートを施した。15mm□の第1、第2ファラデー回転子として用いた1550nmにおける45.0度ファラデー回転子(厚さ0.41mm)には、対エポキシコートを両面に施し、エポキシ接着剤を介して、偏光ガラスのARコート無し面と貼り合せ、第1、第2偏光子及び第3、第4偏光子は、それぞれ相対角度が45.0度になるように接合固定した。その後、第2、第3偏光子の透過偏光軸の相対角度θを0.5度として接合固定し、一体化した2段型の光アイソレータ板を作製した。その後、0.8mm□に切断加工し、永久磁石中(外径φ3.0×内径φ1.2mm×長さ1.6mm)に挿入し接合固定した。波長1550nmの光において、順方向挿入損失0.20dB、逆方向挿入損失が73dBと高い光遮断性能を有する光アイソレータを作製できた。
【0034】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、高い光遮断性能を有する光アイソレータを得ることができた。
【0035】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:光の進行方向に、少なくとも第1偏光子、第1ファラデー回転子、第2偏光子、第3偏光子、第2ファラデー回転子、第4偏光子がこの順に配置された光学素子と、前記第1ファラデー回転子及び前記第2ファラデー回転子に磁場を印加する永久磁石を備えた多段型の光アイソレータであって、前記第2偏光子の透過偏光軸と前記第3偏光子の透過偏光軸の相対角度が0.1度以上である光アイソレータ。
[2]:前記第1偏光子と前記第1ファラデー回転子と前記第2偏光子が一体化されたものであり、かつ、前記第3偏光子と前記第2ファラデー回転子と前記第4偏光子が一体化されたものである上記[1]の光アイソレータ。
[3]:前記第2偏光子及び前記第3偏光子は平板型偏光子である上記[1]又は上記[2]の光アイソレータ。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。