(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166263
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】化合物半導体基板研磨用の研磨液、及び、化合物半導体基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231114BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231114BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20231114BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
H01L21/304 622C
H01L21/304 622W
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077190
(22)【出願日】2022-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】酒井 歩
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB03
3C158CB10
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3C158ED26
5F057AA28
5F057BA11
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5F057EA35
5F057EB07
5F057EB10
5F057FA13
5F057FA28
5F057FA42
(57)【要約】
【課題】研磨液として過マンガン酸カリウム及び硝酸セリウムアンモニウムを用いる場合よりも高い研磨レートを実現する。
【解決手段】化合物半導体基板研磨用の研磨液であって、過マンガン酸塩と、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物と、が溶解した水溶液を備え、遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含み、水溶液に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素の濃度以下である化合物半導体基板研磨用の研磨液を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体基板研磨用の研磨液であって、
過マンガン酸塩と、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物と、が溶解した水溶液を備え、
該遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含み、
該水溶液に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、該第3族元素、該ランタノイド、及び、該第4族元素の濃度以下であることを特徴とする化合物半導体基板研磨用の研磨液。
【請求項2】
該過マンガン酸塩の濃度は0.6wt%以上であり、該水溶性化合物の濃度は0.3wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体基板研磨用の研磨液。
【請求項3】
該過マンガン酸塩の濃度は4.8wt%以下であり、該水溶性化合物の濃度は2.4wt%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物半導体基板研磨用の研磨液。
【請求項4】
化合物半導体基板を研磨する化合物半導体基板の研磨方法であって、
該化合物半導体基板を研磨装置のチャックテーブルで保持する保持工程と、
該化合物半導体基板の一面に対して砥粒を有する研磨パッドを接触させた状態で、該研磨パッドから該化合物半導体基板に研磨液を供給しながら該化合物半導体基板を研磨する研磨工程と、
を備え、
該研磨液は、
過マンガン酸塩と、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物と、が溶解した水溶液を備え、
該遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含み、
該水溶液に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、該第3族元素、該ランタノイド、及び、該第4族元素の濃度以下であることを特徴とする化合物半導体基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板研磨用の研磨液と、化合物半導体基板の研磨方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン単結晶基板を用いて形成されている従来のデバイスに比べて高耐圧であり且つ大電流を制御可能なパワーデバイスが注目されている。パワーデバイスは、例えば、SiC(炭化ケイ素)単結晶基板の一面側に形成される。
【0003】
SiC単結晶基板の一面側にデバイスを形成する前には、当該一面側にCMP(Chemical Mechanical Polishing。即ち、化学機械研磨)を施すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の研磨方法では、チャックテーブルでSiC単結晶基板を吸引保持した状態で、固定砥粒パッドとSiC単結晶基板との間に研磨液を供給しながらSiC単結晶基板を研磨する。
【0004】
特許文献1では、特に、過マンガン酸カリウム(KMnO4)と硝酸セリウムアンモニウム((NH4)2Ce(NO3)6)とを研磨液に用いることで、研磨レートを最も高くできる旨が記載されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、研磨パッドの回転数(即ち、スピンドルの回転数)を495rpm、チャックテーブルの回転数を500rpm、研磨パッドからチャックテーブルへの圧力を1kgf/cm2、3%の過マンガン酸カリウム及び0.16%の硝酸セリウムアンモニウムを有する研磨液の流量を0.15L/minとした場合に、197nm/minの研磨レートを達成できたことが記載されている。研磨レートにおいて、197nm/minは、11.82μm/hに相当する。また、圧力において、1kgf/cm2は、約98kPaに相当する。
【0006】
従来は、4インチ(約100mm)のSiC単結晶基板に対して上述の研磨が行われていたが、4インチを超える径を有する基板を研磨するための研磨装置では、研磨装置の性能上、50kPaを超える圧力を印加できないという場合がある。
【0007】
プレストンの法則に従う研磨では、圧力に応じて研磨レートが増加するが、従来に比べてSiC単結晶基板に印加する圧力を下げたとしても、従来の研磨レートを超える高い研磨レートを実現することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、研磨液を改良することにより従来よりも高い研磨レートを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、化合物半導体基板研磨用の研磨液であって、過マンガン酸塩と、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物と、が溶解した水溶液を備え、該遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含み、該水溶液に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、該第3族元素、該ランタノイド、及び、該第4族元素の濃度以下である化合物半導体基板研磨用の研磨液が提供される。
【0011】
好ましくは、該過マンガン酸塩の濃度は0.6wt%以上であり、該水溶性化合物の濃度は0.3wt%以上である。
【0012】
また、好ましくは、該過マンガン酸塩の濃度は4.8wt%以下であり、該水溶性化合物の濃度は2.4wt%以下である。
【0013】
本発明の他の態様によれば、化合物半導体基板を研磨する化合物半導体基板の研磨方法であって、該化合物半導体基板を研磨装置のチャックテーブルで保持する保持工程と、該化合物半導体基板の一面に対して砥粒を有する研磨パッドを接触させた状態で、該研磨パッドから該化合物半導体基板に研磨液を供給しながら該化合物半導体基板を研磨する研磨工程と、を備え、該研磨液は、過マンガン酸塩と、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物と、が溶解した水溶液を備え、該遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含み、該水溶液に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、該第3族元素、該ランタノイド、及び、該第4族元素の濃度以下である化合物半導体基板の研磨方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る研磨液は、過マンガン酸塩と、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物と、が溶解した水溶液を備える。遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含む。
【0015】
特に、研磨液に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素の酸化物の濃度以下である。それゆえ、アンモニウムイオン及びアンモニアがこの濃度を超える場合に比べて、過マンガン酸イオンによる化合物半導体基板の一面に対する酸化作用を高く維持できる。
【0016】
化合物半導体基板の一面側が酸化されれば、当該一面側が酸化されていない場合に比べて、酸化された当該一面側を研磨パッドでスムーズに削り取ることができる。この様にアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度を低くすることで、研磨液として過マンガン酸カリウム及び硝酸セリウムアンモニウムを用いる場合に比べて、高い研磨レートを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】従来の研磨液と本実施形態の研磨液と比較した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態の研磨液1(
図1参照)について説明する。研磨液1は、過マンガン酸塩と、水溶性化合物と、が溶解した水溶液を含む。
【0019】
過マンガン酸塩としては、過マンガン酸ナトリウム(NaMnO4)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)等が用いられる。なお、後述する様に、過マンガン酸塩としては、過マンガン酸カリウムの溶解度に比べて水への溶解度が高い過マンガン酸ナトリウムを用いる方が好ましい。
【0020】
また、過マンガン酸塩は、過マンガン酸銀(AgMnO4)、過マンガン酸亜鉛(Zn(MnO4)2)、過マンガン酸マグネシウム(Mg(MnO4)2)、過マンガン酸カルシウム(Ca(MnO4)2)、過マンガン酸バリウム(Ba(MnO4)2)等の金属陽イオンを含む過マンガン酸塩であってもよい。
【0021】
水溶性化合物としては、(i)強酸と第3族元素とが化合した水溶性化合物、(ii)強酸とランタノイドとが化合した水溶性化合物、又は、(iii)強酸と第4族元素とが化合した水溶性化合物、が用いられる。
【0022】
強酸としては、硝酸(HNO3)、塩酸(HCl)、硫酸(H2SO4)等を挙げることができるが、強酸はこの3種類のみに限定されない。
【0023】
(1)第3族元素としては、例えば、イットリウム(Y)を、(2)ランタノイドとしては、例えば、ランタン(La)及びセリウム(Ce)を、また、(3)第4族元素としては、例えば、ジルコニウム(Zr)を、それぞれ挙げることができる。
【0024】
強酸として硝酸(HNO3)を用いる場合、(1)硝酸イットリウム(Y(NO3)3)、(2)硝酸ランタン(La(NO3)3)、硝酸セリウム(Ce(NO3)3)、及び、(3)硝酸ジルコニル(オキシ硝酸ジルコニウムとも呼ばれる)(ZrO(NO3)2)の各々が、水溶性化合物として用いられる。
【0025】
強酸として塩酸(HCl)を用いる場合、(1)塩化イットリウム(YCl3)、(2)塩化ランタン(LaCl3)、塩化セリウム(CeCl3)、及び、(3)塩化ジルコニル(酸化塩化ジルコニウム又はジルコニウムオキシクロリドとも呼ばれる)(ZrOCl2)の各々が、水溶性化合物として用いられる。
【0026】
強酸として硫酸(H2SO4)を用いる場合、(1)硫酸イットリウム(Y2(SO4)3)、(2)硫酸ランタン(La2(SO4)3)、硫酸セリウム(Ce(SO4)2)、及び、(3)硫酸ジルコニル(硫酸ジルコニウムとも呼ばれる)(ZrOSO4)の各々が、水溶性化合物として用いられる。
【0027】
過マンガン酸塩と、水溶性化合物と、が溶解した水溶液を含む研磨液1は、強酸性(例えば、pHが3未満の所定値)であり、
図1に示す様に、化合物半導体基板(被加工物)11を研磨する際に使用される。即ち、研磨液1は、化合物半導体基板研磨用である。
【0028】
化合物半導体基板11は、例えば、炭化ケイ素(SiC)の単結晶基板であるが、窒化ガリウム(GaN)、ガリウムヒ素(GaAs)等の他の化合物半導体の単結晶基板であってもよい。
【0029】
特に、研磨液1は強酸性であり、化合物半導体を研磨する際に使用される。これに対して、シリコン単結晶基板は、一般的に、アルカリ性条件下で研磨が行われるので、シリコン単結晶基板の研磨には、研磨液1は通常用いられない。
【0030】
なお、研磨液1は、上述の過マンガン酸塩と水溶性化合物とが溶解した水溶液に加えて、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤等の添加剤や、遊離砥粒(例えば、シリカ(SiO2)製の砥粒)を更に含んでもよい。
【0031】
次に、化合物半導体基板11であるSiC単結晶基板に対して、過マンガン酸ナトリウム(NaMnO4)と、硝酸ランタン(La(NO3)3)と、が溶解した水溶液を含む研磨液1で化学機械研磨を施すときのメカニズムについて説明する。なお、次に説明するメカニズムは、出願人の推測であり、実際のメカニズムは異なる可能性がある。
【0032】
まず、化合物半導体基板11の一面11a(
図1参照)に対して研磨液1が供給されると、過マンガン酸(即ち、酸化剤)の酸化作用により一面11a側のSi原子が酸化されて、SiO
2(酸化シリコン)層が形成される。
【0033】
なお、SiC単結晶基板のC原子は、カルボキシル基、二酸化炭素等に変化する。カルボキシル基は、La3+や砥粒に配位して化合物半導体基板11から引き抜かれる。また、二酸化炭素は、炭酸イオンとして研磨液1に溶解したり、気体となり研磨液1から外に排出されたりする。
【0034】
一面11a側に形成されたSiO2層は、SiCの結晶面に比べて柔らかい。SiO2層が砥粒により物理的に削り取られることで、新たなSiCの結晶面が露出する。これ以降、同様に、酸化によるSiO2層の形成と、砥粒による物理的な削り取りとが、交互に繰り返される。
【0035】
この様に、研磨液1を用いて一面11a側の研磨を進行させるためには、研磨液1において化合物半導体基板11の一面11aを酸化する能力を十分に発揮させる必要がある。
【0036】
本実施形態では、主として過マンガン酸で一面11a側を酸化する。過マンガン酸は、pHが高いとき(即ち、中性又はアルカリ性条件下)よりも、pHが低いとき(即ち、酸性条件下)に酸化力が強くなる。
【0037】
本実施形態では、強酸及び遷移金属元素が化合した水溶性化合物を用いて研磨液1を強酸性に維持することで、過マンガン酸の酸化能力を十分に発揮させることができる。
【0038】
これに対して、従来の様に、過マンガン酸カリウムと硝酸セリウムアンモニウムとが溶解した水溶液を用いる場合、過マンガン酸がアンモニウムイオン(NH4+)及びアンモニア(NH3)を酸化することで、研磨液1中の過マンガン酸が消費されると考えられる。
【0039】
それゆえ、一面11a側を酸化する過マンガン酸の数が減るので、過マンガン酸の酸化能力が相対的に弱くなると考えられる。一面11a側の酸化が進行し難くなると、砥粒による削り取りが進み難くなり、結果として研磨レートが低下すると考えられる。
【0040】
翻って、本実施形態の水溶性化合物は、上述の様に、アンモニウムイオン及びアンモニアを含んでいない(即ち、略0wt%である)。それゆえ、過マンガン酸カリウム及び硝酸セリウムアンモニウムを有する従来の研磨液に比べると、研磨液1に含まれるアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素の濃度以下となる。
【0041】
例えば、本実施形態の研磨液1において、アンモニウムイオンの濃度はイオンクロマトグラフィーの定量下限値以下であり、略0wt%である。但し、研磨を行うクリーンルーム内に存在するアンモニウムイオンが研磨液1に微量に溶解する可能性があるので、研磨液1中のアンモニウムイオンは完全に0wt%ではないかもしれない。
【0042】
しかし、本実施形態の研磨液1には、製造時に原材料としてアンモニア、アンモニウムイオン等の塩基性物質及び塩基性イオンが意図的に添加されていない。それゆえ、研磨液1では、従来の研磨液に比べて、過マンガン酸の酸化能力を十分に発揮させることができる。
【0043】
次に、研磨液1を用いた化合物半導体基板11の研磨方法について説明する。まずは、使用する研磨装置2について説明する。
図1は、研磨装置2の一部断面側面図である。なお、
図1に示すZ軸方向は、鉛直方向と略平行である。
【0044】
研磨装置2は、円盤状のチャックテーブル4を有する。チャックテーブル4の下面側には、長手方向がZ軸方向に沿って配置された回転軸(不図示)が連結されている。回転軸には、従動プーリ(不図示)が設けられている。
【0045】
チャックテーブル4の近傍には、モータ等の回転駆動源(不図示)が設けられている。回転駆動源の出力軸には、駆動プーリ(不図示)が設けられている。駆動プーリ及び従動プーリには、無端ベルト(不図示)がかけられており、回転駆動源の動力はチャックテーブル4の回転軸に伝達される。
【0046】
回転駆動源が動作すると、チャックテーブル4は回転軸の周りで回転する。チャックテーブル4、回転駆動源等は、所定方向(例えば、Z軸方向に直交するX軸方向)に沿って移動可能な移動板(不図示)で支持されている。
【0047】
移動板は、ボールねじ式の移動機構(不図示)により、チャックテーブル4、回転駆動源等と共に、X軸方向に沿って移動可能である。チャックテーブル4は、セラミックスで形成された円盤状の枠体6を有する。枠体6の上部には、円盤状の凹部が形成されている。
【0048】
この凹部には多孔質セラミックス等で形成された円盤状のポーラス板8が固定されている。ポーラス板8の上面と、枠体6の上面とは、面一となっており、略平坦な保持面4aを形成している。
【0049】
ポーラス板8は、枠体6中に形成されている流路6a、6bを介して、真空ポンプ等の吸引源(不図示)に接続されている。吸引源を動作させれば、ポーラス板8の上面には負圧が伝達される。
【0050】
保持面4a上には、化合物半導体基板11が載置される。
図1に示す化合物半導体基板11の他面11bには、汚染、衝撃等を防ぐために、樹脂で形成された円形の保護テープ13が貼り付けられている。
【0051】
化合物半導体基板11は、他面11bとは反対側に位置する一面11aが上方を向く様に、他面11b側が保護テープ13を介して保持面4aで吸引保持される。保持面4aの上方には、研磨ユニット10が配置されている。
【0052】
研磨ユニット10は、円筒状のスピンドルハウジング(不図示)を有する。スピンドルハウジングの長手方向は、Z軸方向と略平行に配置されている。スピンドルハウジングには、研磨ユニット10をZ軸方向に沿って移動させるボールねじ式のZ軸方向移動ユニット(不図示)が連結されている。
【0053】
スピンドルハウジング内には、円柱状のスピンドル12の一部が回転可能に収容されている。スピンドル12の長手方向は、Z軸方向と略平行に配置されている。スピンドル12における上側の一部には、スピンドル12を回転させるためのモータ等の回転駆動源(不図示)が設けられている。
【0054】
スピンドル12の下端部には、円盤状のマウント14の上面の中心部が連結されている。マウント14は、保持面4aの径よりも大きな径を有する。マウント14の下面には、マウント14と略同径の円盤状の研磨工具16が装着されている。
【0055】
研磨工具16は、マウント14の下面に連結された円盤状の基台(プラテンとも称される)18を有する。基台18は、ステンレス鋼等の金属で形成されている。基台18の下面には、基台18と略同径の研磨パッド20が固定されている。
【0056】
研磨パッド20は、硬質発泡ウレタン樹脂で形成された本体部を有する。この本体部には、シリカ製の砥粒20aが固定されている。つまり、研磨パッド20は、所謂、固定砥粒パッドである。なお、
図1では、砥粒20aが研磨パッド20に規則的に配置されているが、実際には、砥粒20aは研磨パッド20においてランダムに配置されている。
【0057】
ところで、研磨パッド20においては、硬質発泡ウレタン樹脂に代えて、他の硬質発泡樹脂や、不織布を用いてもよい。また、研磨パッド20には、砥粒20aが固定されていなくてもよい。この場合、研磨液1に遊離砥粒が分散される。
【0058】
研磨パッド20、基台18、マウント14及びスピンドル12の径方向の中心位置は、略一致しており、これらの中心位置を通る様に、円柱状の貫通孔22が形成されている。貫通孔22の上端部は、導管26aにより研磨液供給源26に接続されている。
【0059】
研磨液供給源26は、研磨液1の貯留槽(不図示)、貯留槽から研磨液1を導管26aへ送るためのポンプ(不図示)等を備える。研磨液供給源26から供給される研磨液1は、貫通孔22を介して研磨パッド20の中央部へ供給される。
【0060】
図2は、化合物半導体基板11を研磨する際の研磨方法のフロー図である。なお、本例の化合物半導体基板11は、直径6インチ(約150mm)のSiC単結晶基板である。一面11aを研磨する際には、まず、一面11aが上方に露出する様に、1つの化合物半導体基板11をチャックテーブル4上に載置する。
【0061】
そして、化合物半導体基板11の他面11b側を保持面4aで吸引保持する(保持工程S10)。本実施形態の一面11aはSi面であり且つ他面11bはC面であるが、一面11aがC面であり且つ他面11bがSi面であってもよい。
【0062】
次に、研磨工程S20を行う。研磨工程S20では、チャックテーブル4を所定方向に回転させると共に、スピンドル12も所定方向に回転させる。回転数は、例えば、チャックテーブル4を750rpmとし、スピンドル12(即ち、研磨工具16)を745rpmとする。
【0063】
この様に、チャックテーブル4及びスピンドル12のうち一方の回転数が偶数となり、他方の回転数が奇数となる様に速度差を設定することで、チャックテーブル4及びスピンドル12の回転数を同じ値とした場合の様に一面11a及び研磨パッド20の同じ領域が所定時間継続して接触し続けることを防止できる。
【0064】
また、本実施形態では、被研削面(一面11a)を上向き(即ち、ファイスアップ)とし、被研削面の上方から被研削面に研磨液1を供給するので、チャックテーブル4を120rpm超としても、被研削面に適切に研磨液1を供給できる。
【0065】
これに対して、被研削面を下向き(即ち、フェイスダウン)とする場合、
図1に示す研磨パッド20の位置に化合物半導体基板11が配置され、
図1に示すチャックテーブル4の位置に研磨パッド20が配置され、化合物半導体基板11と接していない研磨パッド20の所定領域に上方から研磨液1が供給される。
【0066】
しかし、この様に被研削面を下向き(即ち、フェイスダウン)とする場合、研磨パッド20の回転数を120rpm超とすると、研磨パッド20に供給された研磨液1が遠心力により研磨パッド20外へ飛散するので、被研削面に研磨液1が適切に供給されない。その結果、研磨パッド20の回転数を上げても研磨レートが増加し難い(即ち、プレストンの法則に従わない)。
【0067】
本実施形態では、ファイスアップ方式を採用することで、120rpmを超える高速回転を行っても適切に被研削面に研磨液1を供給できる。また、チャックテーブル4及びスピンドル12の回転数を上げるほど、研磨レートを増加させることができる。即ち、プレストンの法則に従う研磨を実現できる。
【0068】
研磨液1の流量は、0.1L/min以上0.3L/min以下(例えば、0.2L/min)とする。また、研磨パッド20が化合物半導体基板11を押圧する圧力は、30kPa以上50kPa以下(例えば、40kPa)とする。
【0069】
しかし、本実施形態の研磨は、プレストンの法則に従うので、研磨の態様に応じて圧力を適宜高くしても低くしてもよい。但し、研磨装置2の性能上、圧力は、50kPa以下、より好ましくは、40kPa以下とする。
【0070】
研磨工程S20では、一面11aに対して研磨パッド20を接触させた状態で、チャックテーブル4及びスピンドル12を回転させると共に研磨パッド20から化合物半導体基板11に研磨液1を供給しながら化合物半導体基板11を研磨する。このとき、上述した化学機械研磨のメカニズムに従い、一面11a側が研磨される。
【0071】
なお、研磨工程S20では、X軸方向移動機構により、所定距離の範囲でチャックテーブル4をX軸方向に沿って揺動させてもよい。即ち、研磨工程S20では、チャックテーブル4を+X方向に所定距離移動させた後、-X方向に所定距離移動させるという動作を繰り返してもよい。
【0072】
所定距離は、化合物半導体基板11の半径よりも小さく、より好ましくは、化合物半導体基板11の直径の1/10よりも小さい。化合物半導体基板11の直径が6インチ(約150mm)である本実施形態では、所定距離を10mmとする。
【0073】
この様に、研磨工程S20でチャックテーブル4の揺動を行うことで、揺動させない場合に比べて、一面11a側をより均一に研磨できる(例えば、TTV(total thickness variation)をより低くできる)という利点がある。
【0074】
(第1の実験)次に、
図3を参照し、第1の実験について説明する。
図3は、従来の研磨液(実験例1及び実験例2)と、本実施形態の研磨液1(実験例3及び実験例4)と、の研磨レートを比較した実験結果を示す図である。
【0075】
図3の実験例1から実験例4では、株式会社アドマテックス製のシリカ砥粒(製品名:SO-E2、粒径は0.4μmから0.6μm)が硬質発泡ウレタン樹脂のパッドに固定された固定砥粒方式の研磨パッド20を用いた。また、研磨条件を下記の様にした。
【0076】
チャックテーブル4の回転数:750rpm
研磨パッド20の回転数 :745rpm
研磨液の流量 :0.2L/min
研磨パッド20からの圧力 :39.2kPa
研磨時間 :620s
化合物半導体基板11 :SiC単結晶基板
化合物半導体基板11の径 :6インチ(約150mm)
被研磨面 :Si面
【0077】
実験例1(従来例)では、60gの硝酸セリウムアンモニウムを十分な量の純水に添加し、これに120gの過マンガン酸カリウムを更に添加し、次いで、これを純水で10L希釈した後、撹拌機を用いて100rpmで30分間撹拌することで、過マンガン酸カリウムが1.2wt%、硝酸セリウムアンモニウムが0.6wt%溶解した10Lの研磨液を準備した。
【0078】
実験例2(従来例)では、60gの硝酸セリウムアンモニウムを十分な量の純水に添加し、これに120gの過マンガン酸ナトリウムを更に添加し、次いで、これを純水で10L希釈した後、撹拌機を用いて100rpmで30分間撹拌することで、過マンガン酸ナトリウムが1.2wt%、硝酸セリウムアンモニウムが0.6wt%溶解した10Lの研磨液を準備した。
【0079】
実験例3(本実施形態の一例)では、79.94gの硝酸ランタン(III)六水和物を十分な量の純水に添加し、これに120gの過マンガン酸カリウムを更に添加し、次いで、これを純水で10L希釈した後、撹拌機を用いて100rpmで30分間撹拌することで、過マンガン酸カリウムが1.2wt%、硝酸ランタンが0.6wt%溶解した10Lの研磨液1を準備した。
【0080】
実験例4(本実施形態の他の例)では、79.94gの硝酸ランタン(III)六水和物を十分な量の純水に添加し、これに120gの過マンガン酸ナトリウムを更に添加し、次いで、これを純水で10L希釈した後、撹拌機を用いて100rpmで30分間撹拌することで、過マンガン酸ナトリウムが1.2wt%、硝酸ランタンが0.6wt%溶解した10Lの研磨液1を準備した。
【0081】
なお、実験例1から実験例4では、固定砥粒方式の研磨パッド20を用いるので、研磨液に遊離砥粒は含まれていない。つまり、各濃度は、砥粒を含まない研磨液におけるwt%を意味する。
【0082】
実験例1から実験例4では、上述の研磨条件に従ってSiC単結晶基板のSi面側を研磨した。実験例1の研磨レートは5.22μm/hとなり、実験例2の研磨レートは6.78μm/hとなった。この様に、従来の研磨液を用いた実験例1及び実験例2では、目標とする研磨レート7.00μm/hには及ばなかった。
【0083】
これに対して、実験例3の研磨レートは8.09μm/hとなり、実験例4の研磨レートは8.53μm/hとなり、目標とする研磨レート7.00μm/hを超えることができた。
【0084】
上述の様にアンモニウムイオン及びアンモニアの濃度を低くすることで、従来の様に研磨液として過マンガン酸カリウム及び硝酸セリウムアンモニウムを用いる場合に比べて、高い研磨レートを実現できたと考えられる。
【0085】
また、過マンガン酸カリウムに比べて過マンガン酸ナトリウムを用いる方が、研磨レートが向上した理由は、過マンガン酸ナトリウムの溶解度が、過マンガン酸カリウムの溶解度よりも高いことに起因していると考えられる。
【0086】
例えば、25℃、100gの純水に対する過マンガン酸ナトリウム溶解度は61.6gであるのに対して、25℃、100gの純水に対する過マンガン酸カリウムの溶解度は7.5gである。
【0087】
溶解度が高い方が過マンガン酸の数が増え、過マンガン酸の数が増えるほど、SiC単結晶基板を酸化しやすいので、研磨レートの増加につながったと推測される。なお、これは出願人の推測であり、研磨レートの増加は、他の要因に起因する可能性もある。
【0088】
(第2の実験)次に、過マンガン酸ナトリウム及び硝酸ランタンが溶解した水溶液を含む研磨液1を用いて、化合物半導体基板11であるSiC単結晶基板を研磨した実験結果を示す(表1及び表2参照)。
【0089】
なお、研磨条件は、研磨パッド20から化合物半導体基板11への圧力を40.0kPaとした以外、上述の研磨条件と同じ研磨条件とした。また、Si面の研磨時間は上述と同様に620sとしたが、C面の研磨時間は140sとした。
【0090】
表1は、研磨液1中の過マンガン酸ナトリウム及び硝酸ランタンの各濃度に応じたSi面の研磨レートを示す。
【0091】
【0092】
表2は、研磨液1中の過マンガン酸ナトリウム及び硝酸ランタンに応じたC面の研磨レートを示す。
【0093】
【0094】
表1及び表2から明らかな様に、過マンガン酸ナトリウムの濃度を0.60wt%以上、且つ、硝酸ランタンの濃度を0.30wt%以上とすれば、研磨が比較的難しいとされるSi面を研磨する場合であっても、目標とする研磨レート7.00μm/hを達成できる。
【0095】
また、過マンガン酸ナトリウムの濃度を4.80wt%以下、且つ、硝酸ランタンの濃度を2.40wt%以下とすることで、研磨液1の材料費の増加を抑えつつ、十分な研磨レートを得ることができる。
【0096】
その他、上述の実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。例えば、研磨液1に用いられ水溶性化合物は、硝酸ランタンに限定されない。
【0097】
硝酸イットリウム、硝酸セリウム、及び、硝酸ジルコニルを用いた場合でも、同様のメカニズムにより、硝酸セリウムアンモニウムを用いる場合に比べて、高い研磨レートを実現できることは合理的に推測できる。
【0098】
同様に、塩化イットリウム、塩化ランタン、塩化セリウム、及び、塩化ジルコニルを用いた場合や、硫酸イットリウム、硫酸ランタン、硫酸セリウム、及び、硫酸ジルコニルを用いた場合でも、硝酸セリウムアンモニウムを用いる場合に比べて、高い研磨レートを実現できることは合理的に推測できる。
【0099】
それゆえ、異なる族の遷移金属元素を組み合わせて研磨液1に用いてもよい。例えば、硝酸イットリウム、硝酸ランタン及び硝酸ジルコニルの2種類以上を適宜組み合わせて研磨液1に用いてもよい。即ち、研磨液1に用いる遷移金属元素は、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含んでいればよい。
【0100】
また、硝酸と、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含む遷移金属元素と、の水溶性化合物(即ち、硝酸系の水溶性化合物)と、硫酸と、第3族元素、ランタノイド、及び、第4族元素のうち少なくとも1種類の元素を含む遷移金属元素と、の水溶性化合物(即ち、硫酸系の水溶性化合物)と、を研磨液1において組み合わせてもよい。
【0101】
ところで、研磨工程S20では、貫通孔22から研磨液1を供給することに代えて、チャックテーブル4の径方向の外側に配置されたスプレーノズルから、化合物半導体基板11と接していない研磨パッド20の下面側の領域に研磨液1を噴き上げることで、研磨パッド20から化合物半導体基板11へ研磨液1を供給してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1:研磨液、2:研磨装置、4:チャックテーブル、4a:保持面
6:枠体、6a、6b:流路、8:ポーラス板
10:研磨ユニット、12:スピンドル、14:マウント
11:化合物半導体基板、11a:一面、11b:他面、13:保護テープ
16:研磨工具、18:基台、20:研磨パッド、20a:砥粒、22:貫通孔
26:研磨液供給源、26a:導管
S10:保持工程、S20:研磨工程