(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166452
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、皮膜および皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/42 20060101AFI20231114BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231114BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20231114BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231114BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C08G59/42
C09D5/02
C09D133/04
C09D7/63
B05D7/24 303A
B05D7/24 302U
B05D7/24 302P
B05D7/24 303E
B05D7/24 302J
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136642
(22)【出願日】2023-08-24
(62)【分割の表示】P 2021562637の分割
【原出願日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019218183
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】村田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 康宏
(57)【要約】
【課題】金属材料に対する密着性が良好であり、高い皮膜降伏強度を有する硬化物の得られる水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】特定の水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを含み、水性樹脂エマルジョン(α)は、共重合体(X)と、エチレン性不飽和結合を有さず1分子中に2個以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物(Y)と、水性媒体(Z)とを含み、硬化剤(β)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)を2つ以上分子内に有する化合物からなり、硬化促進剤(γ)は、前記官能基(F)を分子内に有さない第三級アミンおよび/または前記官能基(F)を分子内に1つのみ有する第三級アミンからなる、水性樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを含み、
前記水性樹脂エマルジョン(α)は、
共重合体(X)と、
エチレン性不飽和結合を有さず1分子中に2個以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物(Y)と、
水性媒体(Z)と、
を含み、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記ポリエポキシ化合物(Y)の含有率は、1~40質量%であり、
前記共重合体(X)は、
(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位と、
エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位と、を含み、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位の含有率は、20~98質量%であり、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位の含有率は、0.1~10質量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位は、アルコール由来の部分の炭素原子数が2以下である親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位を含み、 前記親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)は、メチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートであり、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位の含有率は、15~98質量%であり、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)の一方または両方が、カルボキシ基を含み、
前記硬化剤(β)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)を有する化合物からなり、
前記硬化剤(β)に含まれる前記官能基(F)の含有量は、前記水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、0.010当量以上3.0当量以下であり、
前記硬化促進剤(γ)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基を有さない第三級アミンからなり、
前記硬化促進剤(γ)の含有量は、前記水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、0.0070mol以上1.5mol以下である、水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる、請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和カルボン酸(B)は、α,β-不飽和モノカルボン酸、α,β-不飽和ジカルボン酸、及びカルボキシ基を含有するビニル化合物からなる群のうち、少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエポキシ化合物(Y)は、ビスフェノール型エポキシ化合物、水添ビスフェノール型エポキシ化合物、ジグリシジルエーテル、トリグリシジルエーテル、テトラグリシジルエーテル、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、及びテトラグリシジルエステルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記共重合体(X)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位及び前記エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位からなる、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記共重合体(X)は、ベンゼン環及びエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和芳香族化合物(C)由来の構造単位を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和芳香族化合物(C)は、芳香族ビニル化合物である請求項6に記載の水性樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤(β)は、無置換または1つのみ置換基を有するアミノ基、カルボキシ基、メルカプト基からなる群より選択される少なくともいずれかを含む、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項9】
前記硬化促進剤(γ)は、第三級脂肪族アミン、第三級脂環式アミン、第三級ヘテロ芳香族アミンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項10】
前記水性樹脂エマルジョン(α)は、前記水性媒体(Z)中で、前記共重合体(X)の構造単位となるモノマーが、前記ポリエポキシ化合物(Y)の存在下で、乳化重合されたエマルジョンである、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項11】
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるカルボキシ基の含有率が、0.10×10-4mol/g以上である請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項12】
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるエポキシ基の含有率が、0.50×10-4mol/g以上である請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項13】
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位の含有率は、30~98質量%である、
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物の硬化物からなる、皮膜。
【請求項15】
請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を、被塗装面に塗布する塗布工程と、
前記塗布された水性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、
を含む、皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、皮膜および皮膜の形成方法に関する。
本願は、2019年12月2日に、日本に出願された特願2019-218183号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属製品の表面には、表面処理がなされている。特に、屋外で使用される金属製品、および水分への暴露が想定される金属製品においては、錆の発生を防ぐために表面塗装が行われることが多い。
【0003】
従来、金属製品の表面塗装には、有機溶剤を含有する塗料が用いられていた。しかし、有機溶剤を含有する塗料を金属製品の表面に塗布する場合、作業者および周辺環境に対する揮発性有機化合物(VOC)対策が必要となる。そのため、金属製品の表面塗装に用いられる塗料において、有機溶剤を含む塗料に代えて水系塗料を用いる動きが活発となっている。
【0004】
特許文献1には、重合体粒子が水性媒体中に分散されてなるエマルジョン組成物及び骨材を含有する、厚塗り用塗料組成物が記載されている。特許文献1に記載された重合体粒子は、炭素数4~14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体が重合してなる構成単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が重合してなる構成単位、及び他の単量体が重合してなる構成単位を、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物及び塩基性触媒の存在下で、乳化重合して製造されたものである。
【0005】
特許文献2には、オキシラン基を有する熱硬化性化合物を吸収した、熱可塑性ポリマー粒子の水性分散物を含む組成物が記載されている。また、特許文献2には、ポリマー粒子が、凝集に対してラテックスを安定化するのに十分な濃度の抗凝集性官能基を有することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、アクリレート樹脂の乳化物にエポキシエマルジョンを混合することで、エポキシ化合物を吸収したアクリレート樹脂(アクリル/エポキシラテックス)を形成させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-89092号公報
【特許文献2】特開2014-65914号公報
【特許文献3】国際公開第2017/112018号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の水性樹脂組成物の硬化物からなる皮膜は、皮膜降伏強度が不十分であった。このため、従来の水性樹脂組成物においては、これを硬化させて得られる皮膜の降伏強度を向上させることが要求されている。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、金属材料に対する密着性が良好であり、高い皮膜降伏強度を有する硬化物の得られる水性樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の水性樹脂組成物の硬化物からなる高い皮膜降伏強度を有する皮膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の水性樹脂組成物の硬化物からなる皮膜を形成する皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の[1]~[15]の通りである。
本発明の第一の態様は、以下の水性樹脂組成物である。
【0011】
[1] 水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを含み、
前記水性樹脂エマルジョン(α)は、共重合体(X)と、エチレン性不飽和結合を有さず1分子中に2個以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物(Y)と、水性媒体(Z)と、を含み、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記ポリエポキシ化合物(Y)の含有率は、1~40質量%であり、
前記共重合体(X)は、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位と、エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位と、を含み、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位の含有率は、20~98質量%であり、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位の含有率は、0.1~10質量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位は、アルコール由来の部分の炭素原子数が2以下である親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位を含み、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、前記親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位の含有率は、15~98質量%であり、
前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)の一方または両方が、カルボキシ基を含み、
前記硬化剤(β)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)を有する化合物からなり、
前記硬化剤(β)に含まれる前記官能基(F)の含有量は、前記水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、0.010当量以上3.0当量以下であり、
前記硬化促進剤(γ)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基を有さない第三級アミンからなり、
前記硬化促進剤(γ)の含有量は、前記水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、0.0070mol以上1.5mol以下である、水性樹脂組成物。
【0012】
本発明の第一の態様の水性樹脂組成物は、以下の[2]~[12]に述べる特徴を好ましく含む。これらの特徴は2つ以上を組み合わせることも好ましい。
[2] 前記(メタ)アクリル酸エステル(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる、[1]に記載の水性樹脂組成物。
[3] 前記エチレン性不飽和カルボン酸(B)は、α,β-不飽和モノカルボン酸、α,β-不飽和ジカルボン酸、及びカルボキシ基を含有するビニル化合物からなる群のうち、少なくとも1種を含む、[1]または[2]に記載の水性樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記ポリエポキシ化合物(Y)は、ビスフェノール型エポキシ化合物、水添ビスフェノール型エポキシ化合物、ジグリシジルエーテル、トリグリシジルエーテル、テトラグリシジルエーテル、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、及びテトラグリシジルエステルから選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記共重合体(X)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位及び前記エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位からなる、[1]~[4]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[6] 前記共重合体(X)は、ベンゼン環及びエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和芳香族化合物(C)由来の構造単位を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[7] 前記エチレン性不飽和芳香族化合物(C)は、芳香族ビニル化合物である[6]に記載の水性樹脂組成物。
【0015】
[8] 前記硬化剤(β)は、無置換または1つのみ置換基を有するアミノ基、カルボキシ基、メルカプト基からなる群より選択される少なくともいずれかを含む、[1]~[7]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[9] 前記硬化促進剤(γ)は、第三級脂肪族アミン、第三級脂環式アミン、第三級ヘテロ芳香族アミンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、[1]~[8]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0016】
[10] 前記水性樹脂エマルジョン(α)は、前記水性媒体(Z)中で、前記共重合体(X)の構造単位となるモノマーが、前記ポリエポキシ化合物(Y)の存在下で、乳化重合されたエマルジョンである、[1]~[9]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[11] 前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるカルボキシ基の含有率が、0.10×10-4mol/g以上である[1]~[10]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[12] 前記共重合体(X)と前記ポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるエポキシ基の含有率が、0.50×10-4mol/g以上である[1]~[11]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0017】
本発明の第二の態様は、以下の硬化物である。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の水性樹脂組成物の硬化物からなる、皮膜。
本発明の第三の態様は、以下に述べる皮膜の形成方法である。
[14] [1]~[12]のいずれかに記載の水性樹脂組成物を、被塗装面に塗布する塗布工程と、前記塗布された水性樹脂組成物を硬化させる硬化工程とを含む、皮膜の形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属材料に対する密着性が良好であり、高い皮膜降伏強度を有する硬化物の得られる水性樹脂組成物を提供できる。
また、本発明によれば、本発明の水性樹脂組成物の硬化物からなる高い皮膜降伏強度を有する皮膜を提供できる。
また、本発明によれば、本発明の水性樹脂組成物の硬化物からなる皮膜を形成する皮膜の形成方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の水性樹脂組成物、皮膜および皮膜の形成方法について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。本発明は、例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数、種類、位置、量、比率、材料、構成などについて、付加、省略、置換、変更などが可能である。
【0020】
ここで、本明細書において使用する下記の語句について説明する。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
「エチレン性不飽和結合」とは、芳香環を形成する炭素原子を除く、炭素原子間の二重結合を意味する。
「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography)によって測定される標準ポリスチレン換算値とする。
【0021】
エチレン性不飽和結合を有する化合物を用いた重合体において、前記エチレン性不飽和結合を有する化合物に由来する構造単位とは、その化合物中のエチレン性不飽和結合以外の部分の化学構造と、前記重合体中における、前記構造単位のエチレン性不飽和結合に対応する部分以外の部分の化学構造とが、同じである単位を意味してよい。前記化合物のエチレン性不飽和結合は、重合体を形成する際に、単結合へと変化してもよい。例えば、メチルメタクリレートの重合体において、メチルメタクリレート由来の構造単位は、-CH2-C(CH3)(COOCH3)-によって表される。
【0022】
なお、イオン性の官能基を有し、かつエチレン性不飽和結合を有する化合物の重合体の場合、例えば、後述するエチレン性不飽和カルボン酸(B)に由来する構造単位(b)のように、カルボキシ基のようなイオン性の官能基を有する構造単位については、前記官能基の一部がイオン交換されていても、またはイオン交換されていなくても、同じイオン性化合物に由来する構造単位としてよい。例えば、-CH2-C(CH3)(COONa)-で表される構造単位も、メタクリル酸由来の構造単位と考えてよい。
【0023】
また、独立した複数のエチレン性不飽和結合を有する化合物については、前記化合物の重合体の構造単位として、構造単位内部に1つ以上のエチレン性不飽和結合が残っていてもよい。独立した複数のエチレン性不飽和結合とは、互いに共役ジエンを形成しない複数のエチレン性不飽和結合を意味してよい。例えば、ジビニルベンゼンの重合体の場合、ジビニルベンゼン由来の構造単位は、エチレン性不飽和結合を有さない構造(ジビニルベンゼンの2つのチレン性不飽和結合に対応する部分が両方とも重合体の鎖に取り込まれた形態)であってもよく、1個のエチレン性不飽和結合を有する構造(一方のエチレン性不飽和結合に対応する部分のみが重合体の鎖に取り込まれた形態)でもよい。
【0024】
「硬化」とは、原料に含まれる分子どうしが化学反応により結合し、網目構造の高分子を形成することを言う。
「塗膜」とは、特に断りがなければ、本実施形態の水性樹脂組成物を塗布後、媒体を乾燥させるとともに、樹脂成分を硬化させて形成された塗膜を意味する。
【0025】
<1.水性樹脂組成物>
本実施形態の水性樹脂組成物は、水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを含む。本実施形態の水性樹脂組成物は、後述するように、水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを混合することにより製造される。
【0026】
[1-1.水性樹脂エマルジョン(α)]
水性樹脂エマルジョン(α)は、共重合体(X)と、エチレン性不飽和結合を有さず1分子中に2個以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物(Y)と、水性媒体(Z)とを含む。水性樹脂エマルジョン(α)は、水性媒体(Z)中で、共重合体(X)の構造単位となるモノマーが、ポリエポキシ化合物(Y)の存在下で、乳化重合されたエマルジョンである。後述する硬化剤(β)と混合し、硬化させた場合、高い強度及び伸び率の大きな塗膜が得られるためである。
【0027】
<1-1-1.共重合体(X)>
共重合体(X)は、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)、及びエチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)を有する。なお(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)は、親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位(a1)を含む。
【0028】
共重合体(X)は、構造単位(a)及び構造単位(b)のみからなるもの(共重合体(X1)とする)でもよい。共重合体(X)は、構造単位(a)と、構造単位(b)と、さらに、ベンゼン環及びエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和芳香族化合物(C)由来の構造単位(c)と、を有するもの(共重合体(X2)とする)でもよい。共重合体(X2)は、構造単位(a)~(c)のみからなってもよい。共重合体(X)は、前記構造単位(a)~(c)以外の、構造単位(d)(他の単量体(D)由来の構造単位とする)を有してもよい。
【0029】
水性樹脂エマルジョン(α)に含まれる共重合体(X)の量は、任意に選択できるが、水性樹脂エマルジョン(α)の総量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。水性樹脂エマルジョン(α)に含まれる共重合体(X)の量は、任意に選択できるが、水性樹脂エマルジョン(α)の総量に対して、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。ただしこれら例のみに限定されない。
【0030】
共重合体(X)と後述するポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、共重合体(X)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(X)と後述するポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、共重合体(X)の含有率は、99質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましく、88質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
[(メタ)アクリル酸エステル(A)]
(メタ)アクリル酸エステル(A)としては、1種以上を任意に選択できるが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状の、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることがより好ましい。具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及び、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル(A)の例には、後述する親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)の例も含まれ得る。なお、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステル(A)には含まれず、後述するエチレン性不飽和カルボン酸(B)に含まれる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル(A)としては、親水性の低い化合物が含まれることが好ましい。塗膜の防錆性を向上させるためである。同様の理由から、(メタ)アクリル酸エステル(A)として、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含んでもよい。
【0034】
前記エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、及び、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
構造単位(a)は、これらの化合物の、1種のみに由来する構造単位を含むものでもよく、2種以上に由来する構造単位を含むものであってもよい。さらに、これらの化合物の中でも、構造単位(a)は、(メタ)アクリル酸グリシジルに由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0035】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びエポキシ基を有する化合物のいずれでもない、(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0036】
前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル、及びポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等も挙げられる。これらのヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0037】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、20質量%以上である。後述する水性樹脂エマルジョンの製造方法において、共重合体(X)のモノマーとポリエポキシ化合物(Y)との分散安定性を向上させることができるためである。この観点から、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、35質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
共重合体(X)の総量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。前記範囲であると、水性樹脂組成物を用いて作製された皮膜耐水膨潤率をより低くすることができるためである。共重合体(X)の総量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、99質量%以下であることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態においては、化合物由来の構造単位の含有率とは、使用された前記化合物の割合(質量%)を意味してよい。例えば、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率とは、前記合計量に対する、共重合体(X)の製造に使用された(メタ)アクリル酸エステル(A)の質量の割合(質量%)を意味してよい。
【0040】
さらに、共重合体(X)が、構造単位(a)及び構造単位(b)のみからなるもの、すなわち共重合体(X1)である場合、同様の分散安定性の向上の観点で、以下の割合であることが好ましい。すなわち、共重合体(X1)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、50質量%以上であることがさらに好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。同含有率の好ましい上限は、共重合体(X)と同様である。
【0041】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、98質量%以下である。98質量%を超えないと、水性樹脂エマルジョンの分散安定性が低下しないためである。この観点から、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、92質量%以下であることが好ましく、87質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
さらに、共重合体(X)が、構造単位(a)、構造単位(b)、及び構造単位(c)を有する。共重合体(X)が共重合体(X2)である場合、同様の観点で、以下の割合であることが好ましい。共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)の含有率は、75質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以下であることが特に好ましい。同含有率の好ましい下限は、共重合体(X)と同様である。
【0043】
[親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)]
前記(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位は、親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位を含む。
【0044】
親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)は、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH2=CR-COO-、Rは水素又はメチル基を示す。)を有し、アルコール由来の部分、すなわち(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分における炭素原子数が2以下である、(メタ)アクリル酸エステルである。アクリロイルオキシ基以外の部分の前記炭素原子数は、例えば、1または2であって良い。
【0045】
親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)は、アルコール由来の部分の炭素原子数が2以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましく、メチルメタクリレートであることがより好ましい。
【0046】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位(a1)の含有率は、15質量%以上である。上述したように親水性(メタ)アクリル酸エステルの含有量が少ないと、水性樹脂エマルジョン(α)を、ポリアミンを含む硬化剤と混合した場合に、急速にゲル化が進行するためである。
【0047】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位(a1)の含有率は、15質量%以上であり、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。硬化後の塗膜の耐水性及び防錆性がより向上するためである。前記含有率は、45質量%以上または50質量%以上であっても良い。
【0048】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、親水性(メタ)アクリル酸エステル(A1)由来の構造単位(a1)の含有率の上限は、(メタ)アクリル酸エステル(A)由来の構造単位(a)に記載の含有率の上限と同様である。すなわち前記上限は、98質量%以下であり、92質量%以下であることが好ましく、87質量%以下であることがより好ましい。ただし、後述するポリエポキシ化合物(Y)が、ビスフェノール型エポキシ化合物、水添ビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物等の疎水性の化合物である場合、構造単位(a)に占める構造単位(a1)の割合は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。共重合体(X)と、ポリエポキシ化合物(Y)との親和性を向上させるためである。
【0049】
[エチレン性不飽和カルボン酸(B)]
エチレン性不飽和カルボン酸(B)は、エチレン性不飽和結合及びカルボキシ基を有する化合物である。エチレン性不飽和カルボン酸(B)は、α,β-不飽和モノカルボン酸、α,β-不飽和ジカルボン酸、α,β-不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、及びカルボキシ基を含有するビニル化合物からなる群のうち、少なくとも1種を含むことが好ましく、α,β-不飽和モノカルボン酸、α,β-不飽和ジカルボン酸、及びカルボキシ基を含有するビニル化合物からなる群のうち、少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。α,β-不飽和モノまたはジカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。カルボキシ基を含有するビニル化合物としては、例えば、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シュウ酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
構造単位(b)は、これらの化合物の、1種のみに由来する構造単位であってもよく、2種以上に由来する構造単位を含んでもよい。これらの化合物の中でも、エチレン性不飽和カルボン酸(B)としては、(メタ)アクリロイル基及びカルボキシ基を有する化合物を含むこと、または、(メタ)アクリロイル基及びカルボキシ基を有する化合物のみからなることが好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸(B)としては、(メタ)アクリル酸を含むこと、または(メタ)アクリル酸のみからなることも、好ましい。構造単位(b)は、(メタ)アクリロイル基及びカルボキシ基を有する化合物に由来する構造単位のみからなることが好ましく、さらに(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含むことも好ましい。
【0051】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)の含有率は、0.1質量%以上である。水性樹脂エマルジョン(α)の分散安定性を向上させるためである。この観点から、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対するエチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)の含有率は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。前記含有率は、0.8質量%以上、あるいは1.0質量%以上であっても良い。共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)の含有率は、10質量%以下である。高温環境下で共重合体(X)がゲル状になることを抑制し、水性樹脂エマルジョン(α)の高温安定性を向上させるためである。この観点から、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)の含有率は、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。前記含有率は、4質量%以下、あるいは3質量%以下であっても良い。
【0052】
なお、共重合体(X)の総量に対する、エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)の含有率は、0.2質量%以上であることが好ましく、0,5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(X)の総量に対する、エチレン性不飽和カルボン酸(B)由来の構造単位(b)の含有率は、12質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0053】
[エチレン性不飽和芳香族化合物(C)]
エチレン性不飽和芳香族化合物(C)は、(メタ)アクリル酸エステル(A)及びエチレン性不飽和カルボン酸(B)のいずれにも該当せず、かつベンゼン環及びエチレン性不飽和結合を有する化合物である。エチレン性不飽和芳香族化合物(C)は、芳香族ビニル化合物であることが好ましい。
【0054】
エチレン性不飽和芳香族化合物(C)としての芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩、α-メチルスチレンスルホン酸及びその塩、p-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、p-イソプロペニルフェノール、m-イソプロペニルフェノール、及びo-イソプロペニルフェノール等が挙げられる。構造単位(c)は、これらの化合物の、1種のみに由来するものでもよく、2種以上に由来する構造単位を含めてもよい。これらの中でも、構造単位(c)は、炭化水素に由来する構造単位からなることがより好ましく、スチレンに由来する構造単位であることが特に好ましい。
【0055】
共重合体(X)が、エチレン性不飽和芳香族化合物(C)由来の構造単位(c)を含む場合、すなわち共重合体(X)が共重合体(X2)である場合、共重合体(X2)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、構造単位(c)の含有率は、5質量%以上であることが好ましい。塗膜の耐水性を向上させるためである。この観点から、共重合体(X2)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、構造単位(c)の含有率は、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらにより好ましい。前記含有率は、18質量%以上、20質量%以上、あるいは23質量%以上であってもよい。
【0056】
共重合体(X)が共重合体(X2)である場合、共重合体(X2)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する構造単位(c)の含有率は、50質量%以下であることが好ましい。塗膜の耐候性が向上するためである。この観点から、共重合体(X2)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する構造単位(c)の含有率は、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。前記含有率は、33質量%以下、30質量%以下、あるいは28質量%以下であってもよい。
【0057】
共重合体(X2)の総量に対する、構造単位(c)の含有率は、5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(X2)の総量に対する、構造単位(c)の含有率は、55質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
[他の単量体(D)]
他の単量体(D)は、(メタ)アクリル酸エステル(A)、エチレン性不飽和カルボン酸(B)、及びエチレン性不飽和芳香族化合物(C)のいずれにも該当せず、かつ共重合体(X)の合成に用いられる化合物と共重合が可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物である。他の単量体(D)としては、例えば、共役ジエン化合物、マレイミド化合物、ビニルエーテル化合物、アリルエーテル化合物、不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル、シアノ基を有するビニル化合物等が挙げられる。
【0059】
前記共役ジエン化合物としては、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3ブタジエン、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0060】
前記マレイミド化合物としては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2、6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2、6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのマレイミド系化合物は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0061】
前記ビニルエーテル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテルあるいはエチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、一部の水素原子が水酸基で置換された水酸基含有アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0062】
前記アリルエーテル化合物としては、例えば、アリルメチルエーテルあるいはアリルエチルエーテル等のアリルアルキルエーテル、一部の水素原子が水酸基で置換された水酸基含有アリルアルキルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0063】
前記不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステルとしては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水テトラヒドロフタル酸等の不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステルが挙げられる。これらのジアルキルエステルは、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。これらの不飽和化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0064】
前記シアノ基を有するビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、及びα-フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。これらのシアノ基含有ビニル単量体は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0065】
<1-1-2.ポリエポキシ化合物(Y)>
ポリエポキシ化合物(Y)は、エチレン性不飽和結合を有さず、かつ1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物である。
【0066】
ポリエポキシ化合物(Y)は、ビスフェノール型エポキシ化合物、水添ビスフェノール型エポキシ化合物、ジグリシジルエーテル、トリグリシジルエーテル、テトラグリシジルエーテル、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、及びテトラグリシジルエステルから選ばれる、少なくとも1種であることが好ましい。
【0067】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物の例として、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,3-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、及びヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル等が挙げられる。これらの化合物のうち1種類を含むものでもよく2種以上含むものでもよい。
【0068】
前記ポリエポキシ化合物(Y)は、ビスフェノール型エポキシ化合物、水添ビスフェノール型エポキシ化合物であることがより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物であることがさらに好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物であることがさらに好ましい。硬化後の塗膜の耐水性及び防錆性がより向上するためである。
【0069】
ポリエポキシ化合物(Y)の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましくは、1000以下であり、より好ましくは800以下であり、更に好ましくは500以下である。ポリエポキシ化合物(Y)の共重合体(X)への相溶性が向上し、分散安定性及び貯蔵安定性に優れたエマルジョンとすることができる。前記分子量の下限値は、任意に選択でき、例えば、200または300であっても良いが、これらに限定されない。
【0070】
ポリエポキシ化合物(Y)のエポキシ当量(エポキシ基1mol当たりのポリエポキシ化合物(Y)の質量)は、500g/mol以下であることが好ましく、350g/mol以下であることがより好ましく、250g/mol以下であることがさらに好ましく、200g/mol以下であることが特に好ましい。後述する水性樹脂組成物を硬化させた塗膜の強度が高くなるためである。前記エポキシ当量の下限値は、任意に選択でき、例えば、70g/mol以上であってもよく、120g/mol以上であってもよいが、これらの例に限定されない。
【0071】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する、ポリエポキシ化合物(Y)の含有率は、1質量%以上である。水性樹脂組成物が硬化し、優れた防錆性を有する塗膜が得られるためである。この観点から、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対するポリエポキシ化合物(Y)の含有率は、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。必要に応じて、12質量%以上、あるいは20質量%以上であっても良い。共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対するポリエポキシ化合物(Y)の含有率は、40質量%以下である。分散安定性の高い水性樹脂エマルジョン(α)を得るためである。この観点から、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対するポリエポキシ化合物(Y)の含有率は、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるポリエポキシ化合物(Y)の量は、水性樹脂エマルジョン(α)の総量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるポリエポキシ化合物(Y)の量は、水性樹脂エマルジョン(α)の総量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0073】
<1-1-3.水性媒体(Z)>
水性媒体(Z)としては任意に選択でき、水を用いることが好ましい。しかしながら、共重合体(X)及びポリエポキシ化合物(Y)の分散安定性が損なわれない限り、例えば、水に水溶性の溶媒を添加したものを、水性媒体(Z)として用いてもよい。水に添加する親水性の溶媒としては任意に選択でき、メタノール、エタノール及びN‐メチルピロリドン等が挙げられる。
【0074】
水性樹脂エマルジョン(α)中の水性媒体(Z)の量は、必要に応じて選択できるが、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。水性樹脂エマルジョン(α)中の水性媒体(Z)の量は、必要に応じて選択できるが、80質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。前記濃度は、50~70質量%や、55~65質量%であってもよい。
【0075】
<1-1-4.水性樹脂エマルジョン(α)の製造方法>
本実施形態にかかる水性樹脂エマルジョン(α)の製造方法は、ポリエポキシ化合物(Y)の存在下、(メタ)アクリル酸エステル(A)と、エチレン性不飽和カルボン酸(B)とを含むモノマー(すなわち、共重合体(X)を構成するためのモノマー)を、水性媒体(Z)中で、乳化重合することにより行うことができる。この方法を用いる、本実施形態の上記製造方法によれば、生成した共重合体(X)の粒子中にポリエポキシ化合物(Y)が均一に分散した水性樹脂エマルジョン(α)が得られる、と考えられる。ここで、「均一に存在している」とは、必ずしも、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)とが相溶している必要はなく、共重合体(X)粒子の中心側及び表面側のいずれにおいても、ポリエポキシ化合物(Y)のドメインが偏りなく存在していればよい。具体的な乳化重合の方法としては、モノマーを含む各成分を一括して仕込む方法、各成分を連続供給しながら重合する方法などを用いることができる。重合反応中は攪拌することが好ましい。
【0076】
水性樹脂エマルジョン(α)の製造に用いる原料全体に占める、各原料の含有率は、水性樹脂エマルジョン(α)に占める、原料に由来する構造単位または原料に対応する化合物の含有率と同じである。
【0077】
前記重合は、任意に選択される温度、例えば、30~90℃の温度で行うことが好ましく、40~80℃の温度で行うことがより好ましく、40~70℃の温度で行うことがさらに好ましい。モノマーに含まれるカルボキシ基が、ポリエポキシ化合物(Y)に含まれるエポキシ基と反応することを抑制するためである。
【0078】
乳化重合に使用する乳化剤は、任意に選択でき、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン性界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステルなどのアニオン性界面活性剤が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの乳化剤として好ましいのは、アルキルベンゼンスルホン酸塩であり、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0079】
乳化重合においては、重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化物を用いることが好ましい。重合開始剤として用いられる過酸化物として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が挙げられる。また、過酸化物と還元剤との併用によるレドックス系開始剤を使用することもできる。還元剤としては、ナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、アスコルビン酸、亜硫酸塩、酒石酸またはその塩等が挙げられる。また、必要に応じてアルコール、メルカプタン類を連鎖移動剤として用いてもよい。
【0080】
<1-1-5.水性樹脂エマルジョン(α)の特性>
[水性樹脂エマルジョン(α)のpH]
水性樹脂エマルジョン(α)のpHは、2~10であることが好ましく、5~9であることがより好ましい。pHがこの範囲であると、水性樹脂エマルジョン(α)の機械的安定性、化学的安定性を向上させることができる。pHは、ガラス電極を標準電極とした水素イオン濃度指示計によるpHメーターを用いて、液温25℃において測定した値である。例えば、乳化重合中または乳化重合終了後に、水性樹脂エマルジョン(α)に塩基性物質を加えることにより、pHを調整できる。pHの調整に使用される塩基性物質の例としては、アンモニア、トリエチルアミン、エタノールアミン、苛性ソーダ等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
[水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分濃度]
水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分濃度は、10~65質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、20~55質量%であることがより好ましい。前記濃度は、30~50質量%、あるいは35~45質量%であってもよい。水性樹脂エマルジョン(α)における不揮発分濃度は、後述する水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)及び硬化促進剤(γ)等との混合工程、あるいは水性樹脂組成物の塗工工程における作業性を考慮して、適宜決定できる。水性樹脂エマルジョン(α)における不揮発分濃度は、水性媒体(Z)の添加量を調整することで、適宜調節可能である。
【0082】
なお、水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分濃度は、以下に示す方法により求めた。直径5cmのアルミ皿に、水性樹脂エマルジョン(α)を1g秤量し、大気圧、乾燥器内で、空気を循環させながら105℃で1時間乾燥させた後、得られる残分の質量を測定した。測定された残分の質量の、乾燥前の水性樹脂エマルジョン(α)の質量に対する割合(質量%)を、水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分濃度として求めた。
【0083】
[水性樹脂エマルジョン(α)の粘度]
本実施形態において水性樹脂エマルジョン(α)の粘度は、23℃で測定される。水性樹脂エマルジョン(α)の粘度の測定は、B型粘度計を用いて行われ、回転数60rpmで、水性樹脂エマルジョンの粘度に応じたロータを選択して測定された値である。例えば、水性樹脂エマルジョン(α)の粘度が数mPa・s~数百mPa・s程度である場合は、ロータNo.1を用いて測定する。粘度は、例えば、0.1~300mPa・sであってもよく、1~100mPa・sであってもよく、3~50mPa・sであってもよく、5~25mPa・sであってもよい。
【0084】
[共重合体(X)のガラス転移点]
共重合体(X)のガラス転移点Tgは、共重合体(X)の合成に用いた各モノマーのホモポリマーのガラス転移点に基づいて算出される。共重合体(X)のガラス転移点Tgの具体的な算出方法は、原料として用いる単量体Mi(i=1,2,3...,)のホモポリマーのガラス転移点Tgiと、全単量体中の単量体iの質量分率Xi(ΣXi(全単量体)=1)とから、下記式(1)によって算出される。式(1)において、Tg及びTgiは、いずれも絶対温度(K)の値で計算する。
1/Tg=Σ(Xi/Tgi)…(1)
【0085】
共重合体(X)のガラス転移点Tgは、-30℃(243K)以上であることが好ましい。塗膜の強度が向上するためである。この観点から、共重合体(X)のガラス転移点Tgは-10℃(263K)以上であることがより好ましく。0℃(273K)以上であることがさらに好ましい。このような範囲の場合、硬化後の塗膜の強度が向上するためである。共重合体(X)のガラス転移点Tgは、5℃以上、あるいは10℃以上であってもよい。共重合体(X)のガラス転移点Tgは、100℃(373K)以下であることが好ましく、80℃(353K)以下であることがより好ましい。塗膜の基材への密着性が向上するためである。この観点から、共重合体(X)のガラス転移点Tgは、60℃(333K)以下であることがさらに好ましく、50℃(323K)以下であることが特に好ましい。このような範囲の場合、硬化後の塗膜の柔軟性を向上させることができるためである。共重合体(X)のガラス転移点Tgは、40℃以下、あるいは30℃以下であってもよい。
【0086】
[水性樹脂エマルジョン(α)中のエポキシ基の含有率]
水性樹脂エマルジョン(α)中のエポキシ基の含有率は、水性樹脂エマルジョン(α)1g中に含まれるエポキシ基のモル数の割合である。水性樹脂エマルジョン(α)1gあたりに含まれるエポキシ基の量N1[mol/g]の求め方は、後述する実施例において説明する通りである。
【0087】
[共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるエポキシ基の含有率]
上記のとおり、本実施形態における水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるポリエポキシ化合物(Y)には、エポキシ基が含まれる。共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるエポキシ基の含有率は、0.50×10-4mol/g以上であることが好ましく、1.0×10-4mol/g以上であることがより好ましく、4.0×10-4mol/g以上であることがさらに好ましく、6.0×10-4mol/g以上であることがさらに好ましい。硬化後の塗膜の耐水性、防錆性、基材への密着力を高めることができるためである。
【0088】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるエポキシ基の含有率は、50×10-4mol/g以下であることが好ましく、30×10-4mol/g以下であることがより好ましく、20×10-4mol/g以下であることがさらに好ましい。共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるエポキシ基の含有率は、15×10-4mol/g以下、あるいは10×10-4mol/g以下であってもよい。
【0089】
[水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率]
水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率は、0.50×10-4mol/g以上であることが好ましく、3.0×10-4mol/g以上であることがより好ましく、5.0×10-4mol/g以上であることがさらに好ましい。硬化後の塗膜の耐水性、防錆性、基材への密着力を高めることができるためである。水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率は、1.0×10-4mol/g以上、あるいは6.0×10-4mol/g以上であってもよい。
【0090】
水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率は、50×10-4mol/g以下であることが好ましく、30×10-4mol/g以下であることがより好ましく、20×10-4mol/g以下であることがさらに好ましい。水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率は、15×10-4mol/g以下、あるいは10×10-4mol/g以下であってもよい。
【0091】
水性樹脂エマルジョン中(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率REP[mol/g]は、次のように求められた値である。水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分濃度をCS[質量%]、水性樹脂エマルジョン(α)1gあたりに含まれるエポキシ基の量N1[mol/g]とすると、エポキシ基の含有率REPは、式(2)のように表される。N1の求め方は、実施例において後述する通りである。
REP[mol/g]=N1/(CS/100)…(2)
【0092】
[水性樹脂エマルジョン(α)中のカルボキシ基の含有率]
水性樹脂エマルジョン(α)中のカルボキシ基の含有率は、水性樹脂エマルジョン(α)1g中に含まれるカルボキシ基のモル数の割合である。水性樹脂エマルジョン(α)1gあたりに含まれるカルボキシ基のモル数の求め方は、後述する実施例において説明する通りである。
【0093】
[共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるカルボキシ基の含有率]
本実施形態においては、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれる共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)の一方または両方が、カルボキシ基を含み、共重合体(X)が、カルボキシ基を含むことが好ましい。共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるカルボキシ基の含有率は0.10×10-4mol/g以上であることが好ましく、0.50×10-4mol/g以上であることがより好ましく、1.0×10-4mol/g以上であることがさらに好ましい。重合中及び重合後の水性樹脂エマルジョン(α)の保管の際に、共重合体(X)の凝集を抑制できるためである。
【0094】
共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量中におけるカルボキシ基の含有率は、10×10-4mol/g以下であることが好ましく、5.0×10-4mol/g以下であることがより好ましい。3.0×10-4mol/g以下であってもよいし、2.5×10-4mol/g以下、あるいは2.0×10-4mol/g以下であってもよい。
【0095】
[水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のカルボキシ基の含有率]
水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のカルボキシ基の含有率は、0.10×10-4mol/g以上であることが好ましく、0.50×10-4mol/g以上であることがより好ましく、1.0×10-4mol/g以上であることがさらに好ましい。重合中及び重合後の水性樹脂エマルジョン(α)の保管の際に、共重合体(X)の凝集を抑制できるためである。
【0096】
水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のカルボキシ基の含有率は、10×10-4mol/g以下であることが好ましく、5.0×10-4mol/g以下であることがより好ましい。3.0×10-4mol/g以下であってもよいし、2.5×10-4mol/g以下、あるいは2.0×10-4mol/g以下であってもよい。
【0097】
ここで上記カルボキシ基とは、-COOHだけでなく、水素イオン以外の陽イオンと-COO-とが結合した構造も含む。水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のカルボキシ基の含有量とは、下記の式で示すように、原料中のカルボキシ基の含有量から、原料中のカルボキシ基と反応する官能基の、重合前後での減少量を引いた値から求められる。前記原料とは、水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分のことを指す。また、カルボキシ基と反応する官能基とは、本発明においては、エポキシ基であり、ヒドロキシ基はカルボキシ基と反応する官能基とは考えない。
【0098】
以下、水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のカルボキシ基の含有率RCX[mol/g]の求め方を、詳しく説明する。原料(開始剤、溶媒、その他添加剤等も含む)中のカルボキシ基の総量をN3[mol/g]とし、原料(開始剤、溶媒、その他添加剤等も含む)中のエポキシ基の総量をN2[mol/g]とし、水性樹脂エマルジョン(α)1gあたりに含まれるエポキシ基の量をN1[mol/g]とする。水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分濃度を、CS[質量%]とする。この時、カルボキシ基の含有率RCXは、式(3)のように表される。N1及びN2の求め方は、実施例において後述する。N2は計算によって得ることができる。
RCX[mol/g]={N3-(N2-N1)}/(CS/100)…(3)
【0099】
[1-2.硬化剤(β)]
硬化剤(β)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)を有する化合物からなる。官能基(F)は、無置換のアミノ基(-NH2(置換基なし)、1つのみ置換基を有するアミノ基(-NHR(Rは置換基である))、カルボキシ基、メルカプト基からなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。
硬化剤(β)に含まれるエポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)の種類は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0100】
無置換または1つのみ置換基を有するアミノ基を有する硬化剤(β)としては、ポリアミンが挙げられる。ポリアミンは、無置換のアミノ基(-NH2)および/または1つのみ置換基を有するアミノ基(-NHR(Rは置換基である))を有する化合物であり、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0101】
脂肪族ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、これらの変性品等が挙げられる。脂環族ポリアミンとしては、例えば、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、これらの変性品等が挙げられる。芳香族ポリアミンとしては、例えば、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンやこれらの変性品等が挙げられる。
【0102】
カルボキシ基を有する硬化剤(β)としては、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する化合物が好ましい。例えば、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸が挙げられる。
【0103】
メルカプト基を有する硬化剤(β)としては、分子内に2個以上のメルカプト基を有する化合物が好ましい。例えば、チオグリコール酸と多価アルコールとの縮合物、ポリサルファイド等が挙げられる。
【0104】
これらの硬化剤(β)は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。硬化剤(β)としては、ポリアミン系硬化剤を用いることが好ましい。
【0105】
硬化剤(β)としては、市販のものを用いてもよい。市販の硬化剤の例としては、アデカハードナーEH-8051(ポリアミン)(株式会社ADEKA製);フジキュアーFXI-919;トーマイドTXH-674-BおよびTXS-53-C(株式会社T&K TOKA社製);リカシッドBTW(新日本理化株式会社製);ならびにカレンズMT BD-1(昭和電工株式会社製)などが挙げられる。
【0106】
硬化剤(β)に含まれるエポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)の含有量は、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、0.010当量以上であり、0.10当量以上であることが好ましく、0.20当量以上であることがさらに好ましい。硬化後の水性樹脂組成物の防錆性及び金属材料への密着性が向上するためである。ここで、官能基(F)の当量の算出において、官能基(F)が無置換アミンのように活性水素を2個有する場合、官能基(F)の数は2個と数える。
【0107】
硬化剤(β)に含まれるエポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)の含有量は、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、3.0当量以下であり、2.0当量以下であることが好ましく、1.5当量以下であることがより好ましく、1.0当量以下であることがさらに好ましく、0.80当量以下であることがさらに好ましく、0.50当量以下であることがさらに好ましい。塗膜の強度が向上するためである。
【0108】
[1-3.硬化促進剤(γ)]
硬化促進剤(γ)は、水性樹脂組成物の硬化を促進し、皮膜降伏強度の高い皮膜を形成する機能を有する。硬化促進剤(γ)は、エポキシ基に対する反応性を有する官能基を有さない第三級アミンからなる。本実施形態における第三級アミンは、NR1R2R3(式中、R1R2R3は、置換基であり、それぞれ異なっていてもよいし、2つ以上同じものが含まれていてもよい。R1R2R3は、互いに結合して環を形成していてもよい。)で示される化合物である。
【0109】
硬化促進剤(γ)は、第三級脂肪族アミン、第三級脂環式アミン、第三級ヘテロ芳香族アミン、第三級アミン(NR1R2R3)の窒素原子に直接結合していないフェニル基を有する第三級芳香族アミンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。硬化促進剤(γ)の求核性を高め、効率的に硬化反応を進めるためである。
【0110】
第三級脂肪族アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-sec-ブチルアミン、トリ-n-ヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0111】
第三級脂環式アミンとしては、例えば、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、などが挙げられる。
【0112】
第三級ヘテロ芳香族アミンとしては、イミダゾール骨格を有する化合物を用いることが好ましく、具体的には、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0113】
第三級アミン(NR1R2R3)の窒素原子に直接結合していないフェニル基を有する第三級芳香族アミンとしては、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、トリベンジルアミン、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール、2-フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
【0114】
これらの硬化促進剤(γ)の中でも特に、下記(i)および/または(ii)の化合物を用いることが好ましい。
(i)エポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)を有さず、アミノ基の3つの置換基によって、2つの窒素原子同士が結合された飽和環構造を有する第三級脂環式アミン。(ii)エポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)を有さず、2つ以上の窒素原子を含むヘテロ芳香環構造を有する第三級ヘテロ芳香族アミン。
【0115】
(i)第三級脂環式アミンとしては、例えば、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)が挙げられる。(ii)第三級ヘテロ芳香族アミンとしては、例えば、イミダゾールが挙げられる。
硬化促進剤(γ)は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0116】
硬化促進剤(γ)の含有量は、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、0.0070mol以上であり、0.070mol以上であることが好ましく、0.18mol以上であることがより好ましく、0.30mol以上であることがさらに好ましい。皮膜降伏強度の高い硬化物が得られるためである。
【0117】
硬化促進剤(γ)の含有量は、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対して、1.5mol以下であり、1.0mol以下であることが好ましく、0.70mol以下であることがより好ましく、0.44mol以下であることがさらに好ましく、0.40mol以下であることがさらに好ましく、0.38mol以下であることが特に好ましい。水性樹脂組成物の短時間でのゲル化を抑制できるためである。また、防錆性の良好な硬化物が得られるためである。
【0118】
[1-4.その他の成分]
本実施形態にかかる水性樹脂組成物は、顔料を含んでもよい。顔料としては、例えば酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、カーボンブラック、ベンガラ、炭酸カルシウム、酸化珪素、タルク、マイカ、カオリン、クレー、フェライト、珪砂等が挙げられる。顔料は1種類の化合物のみを含んでもよく、2種類以上の化合物を含んでもよい。顔料は、水性樹脂組成物中に0.1~50質量%含まれることが好ましく、1~40質量%含まれることがより好ましい。塗膜の隠蔽性を向上させるためである。それぞれ必要に応じて、顔料は、0.1~3質量%や、3~6質量%や、6~10質量%や、10~20質量%や、20~35質量%や、35~50質量%等の量で、水性樹脂組成物に含まれてもよい。
【0119】
水性樹脂組成物は、充填剤、有機質または無機質の中空バルーン、分散剤(例えば、アミノアルコール、ポリカルボキシラート等)、界面活性剤、カップリング剤(例えばシランカップリング剤等)、脱泡剤、防腐剤(例えば、殺生物剤、殺カビ剤、殺真菌剤、殺藻剤、及びこれらの組み合わせ等)、流動剤、レベリング剤、中和剤(例えば、水酸化物、アミン、アンモニア、炭酸塩等)等の添加剤を含んでもよい。
【0120】
カップリング剤としては、シランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシシラン化合物が挙げられる。具体的な例としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシ)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0121】
シランカップリング剤の添加量は、任意に選択できるが、水性樹脂エマルジョン100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、0.3~3質量部であることがより好ましい。硬化後の水性樹脂組成物の防錆性及び金属材料への密着性が向上するためである。
【0122】
<1-1-6.水性樹脂組成物の製造方法>
水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)と、必要に応じて含有されるその他の成分とを混合する。混合工程については、例えば、実施例にて後述する方法があるがこれに限られない。
【0123】
<2.皮膜の形成方法>
次に、本実施形態の水性樹脂組成物の硬化物からなる皮膜の形成方法について、詳細に説明する。
【0124】
本実施形態の皮膜の形成方法では、まず、水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)と、必要に応じて含有されるその他の成分とを混合する。このことにより、本実施形態の水性樹脂組成物を調製する(混合工程)。次に、混合工程により得られた水性樹脂組成物を、被塗装面に塗布する(塗布工程)。
【0125】
混合工程では、水性樹脂エマルジョン(α)と硬化剤(β)と硬化促進剤(γ)と必要に応じて含有されるその他の成分とを混合し、攪拌する。このことにより、各成分が分散された水性樹脂組成物が得られる。混合工程における攪拌は、任意の方法や装置で行うことができ、例えば、ロボミクス(プライミクス株式会社製)などの装置により行うことができる。各成分を十分に分散させるために、混合工程における攪拌は、5分以上行うことが好ましい。また、樹脂成分が硬化することを抑制するため、攪拌時間は1時間以内とすることが好ましい。
【0126】
塗布工程では、水性樹脂組成物を被塗物の被塗装面に塗布する。被塗装面を形成している材料としては、任意に選択できるが、例えば金属材料が挙げられる。被塗装面には、プライマー、下塗り等の表面処理が予め施されていてもよい。水性樹脂組成物を塗布する方法としては、刷毛、ローラー等を用いる方法が挙げられるがこれに限られない。また、塗布工程が完了する前に樹脂成分が硬化することを抑制するために、塗布工程は、混合工程の終了後1時間以内に完了することが好ましい。
【0127】
本実施形態の皮膜の形成方法では、塗布工程の後、被塗装面に塗布することにより得られた塗膜を硬化させる硬化工程を行うことが好ましい。
硬化工程では、例えば、水性樹脂組成物が塗布された被塗物の被塗装面を、乾燥し、養生することにより、水性樹脂組成物に含まれる樹脂成分を硬化させることができる。養生する時間は、養生する雰囲気の温度によって異なる。例えば、20℃では5時間以上であることが好ましく、40℃では1時間以上であることが好ましく、60℃では5分以上であることが好ましい。硬化したかどうかは、例えば、指で触る等によって判断してもよい。
【0128】
<3.皮膜>
本実施形態の皮膜は、本実施形態の水性樹脂組成物の硬化物からなる。本実施形態の皮膜は、上述した皮膜の形成方法により形成できる。
【0129】
本実施形態の皮膜は、必要に応じて、本発明の水性樹脂組成物の硬化物からなる皮膜の下層に設けられた下塗り層、および/または上層に設けられた上塗り層などからなる皮膜と、積層して設けられていてもよい。
【0130】
本実施形態の水性樹脂組成物は、水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを含む。このため、高い皮膜降伏強度を有する硬化物が得られる。
【0131】
また、本実施形態の皮膜の形成方法では、水性樹脂エマルジョン(α)と、硬化剤(β)と、硬化促進剤(γ)とを混合することにより水性樹脂組成物を調製し、これを被塗装面に塗布する。このことにより、高い皮膜降伏強度を有する硬化物からなる本実施形態の皮膜が得られる。
【0132】
<4.適用分野>
本発明の水性樹脂組成物は、様々な分野において有用であり、特に金属製品の表面に塗布される塗料としての用途に好適である。本発明の水性樹脂組成物の硬化物からなる皮膜が形成される物品、すなわち本発明の水性樹脂組成物の被塗物とされる適用対象物は、任意に選択できる。適用対象物としては、具体的には、例えば、様々な家庭用品、冷蔵庫などの家電製品、遊園地・公園などに設置される遊具、スポーツ用品、建築物(インテリア、エクステリアなど)、輸送機械・工作機械を含む様々な工業用品およびその部品、自動車のボディーおよびシャシー、鉄道車両の車体および床下機器、船舶、海上コンテナ、航空機などが挙げられる。
【実施例0133】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、下記の実施例は、本発明の全てを制限するものではなく、本記載の内容を逸脱しない範囲で実施したものは、全て本発明の技術範囲に含まれる。
【0134】
<1.水性樹脂エマルジョン(α)の合成>
(水性樹脂エマルジョン(α-1))
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、イオン交換水158部を仕込み、60℃に昇温した。セパラブルフラスコの内容物に窒素ガスを吹き込み、脱酸素した。ここに表1に示す量(質量部)のメチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸、水添ビスフェノールA型エポキシ、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、およびイオン交換水356質量部からなる乳化物を、3時間かけて滴下した。乳化物と同時に、酸化剤として過硫酸カリウム1.2質量部をイオン交換水41質量部に溶解したものと、還元剤として亜硫酸水素ナトリウム0.4質量部をイオン交換水21質量部に溶解したものを、3.3時間かけて、60℃で滴下し、重合した。滴下終了後、1.5時間熟成した。その後、冷却し、塩基性物質としてのアンモニア水0.8質量部を添加し、水性樹脂エマルジョン(α-1)を得た。
【0135】
水性樹脂エマルジョン(α-1)の合成に用いた各材料の使用量(質量部)を、表1に示す。表1に示す「イオン交換水」の数値は、合成された水性樹脂エマルジョン(α-1)中に含まれるイオン交換水の含有量を示す。また、表1中における共重合体(X)およびポリエポキシ化合物(Y)の使用量における括弧内の数値は、共重合体(X)とポリエポキシ化合物(Y)との合計量(100%)に対する各材料の割合(質量%)を示す。
【0136】
【0137】
表1に示すポリエポキシ化合物(Y)としては、下記のものを用いた。
水添ビスフェノールA型エポキシ(エポキシ当量215g/mol;共栄化学株式会社製;エポライト4000)
ビスフェノールA型エポキシ(エポキシ当量190g/mol;三菱ケミカル株式会社製;JER828)
グリセリンポリグリシジルエーテル(エポキシ当量143g/mol;坂本薬品工業株式会社製;SR-GLG)
1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(エポキシ当量160g/mol;共栄化学株式会社製;エポライト1600)
【0138】
(水性樹脂エマルジョン(α-2)~(α-7))
表1に示す各材料を表1に示す使用量(質量部)で使用したこと以外は、水性樹脂エマルジョン(α-1)と同様にして、水性樹脂エマルジョン(α-2)~(α-7)を合成した。なお、水性樹脂エマルジョン(α-2)~(α-7)においても、表1に示す「イオン交換水」の数値は、合成された水性樹脂エマルジョン(α-1)と同様に、合成された水性樹脂エマルジョン(α-2)~(α-7)中に含まれるイオン交換水の含有量を示す。
【0139】
<2.水性樹脂エマルジョン(α)の評価>
水性樹脂エマルジョン(α-1)~(α-7)について、それぞれ以下の項目の評価を行った。その結果を表2に示す。なお、水性樹脂エマルジョン(α-7)については、合成中に凝集したため、評価していない。
以下の説明において、水性樹脂エマルジョン(α-1)~(α-7)を総称する場合、水性樹脂エマルジョン(α)と記載する場合がある。
【0140】
<2-1.不揮発分濃度>
直径5cmのアルミ皿に、水性樹脂エマルジョン(α)を1g秤量し、大気圧、乾燥器内で、空気を循環させながら105℃で1時間乾燥させた。乾燥後に得られた残分の質量を測定し、乾燥前の水性樹脂エマルジョン(α)の質量に対する、乾燥後の質量の割合(質量%)を求めた。
【0141】
<2-2.エポキシ基の残存率>
水性樹脂エマルジョン(α)のエポキシ基の残存率は、合成後の水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基の量N1[mol/g]の、水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分(原料、開始剤、溶媒、その他添加剤等も含む)に含まれるエポキシ基の総量N2[mol/g]に対する割合である。
【0142】
合成後の水性樹脂エマルジョン(α)のエポキシ基の量N1[mol/g]の測定は、以下に示す方法により行った。水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分(原料)に含まれるエポキシ基の総量に対して、過剰の塩化水素を加えてエポキシ基と反応させた。次に、未反応の塩化水素を水酸化カリウムで滴定することで、残った塩化水素の量を確認した。このとき水性樹脂エマルジョン(α)中に含まれるカルボン酸をはじめとする酸性成分との反応により、水酸化カリウムが消費される。このため、予め塩化水素を用いない空測定によって酸性成分の量を滴定し、本測定の結果を補正した。具体的な測定手順は以下の(i)~(ii)の通りである。
【0143】
(i)空測定(酸性成分量の確認)
水性樹脂エマルジョン(α)をW1[g](本実施例及び比較例では5g)の量で、100mL三角フラスコに量り取り、テトラヒドロフラン(THF)25gを加えてマグネチックスターラーで撹拌し、均一な溶液とした。この溶液に指示薬として0.1質量%のクレゾールレッド水溶液を0.15mL加えた。0.1Mの水酸化カリウム/エタノール溶液で、前記溶液を攪拌しながら、滴定した。水酸化カリウム/エタノール溶液の滴下後、紫色が30秒間持続する点を当量点とした。ここで滴定に用いた水酸化カリウム/エタノール溶液の量をVKOH1[mL]とする。
【0144】
(ii)本測定
水性樹脂エマルジョン(α)をW2[g](本実施例及び比較例では5g)の量で、100mL三角フラスコに量り取り、THF25gを加えてマグネチックスターラーで撹拌し溶解させた。これに0.2Mの塩化水素/ジオキサン溶液を加え、1時間撹拌し均一な溶液とした。ここで加えられた塩化水素/ジオキサン溶液の量をVHCl[mL](本実施例及び比較例では25mL)とする。この溶液に指示薬として0.1質量%のクレゾールレッド水溶液を0.15mL加えた。0.1Mの水酸化カリウム/エタノール溶液で、溶液を攪拌しながら滴定した。水酸化カリウム/エタノール溶液の滴下後、紫色が30秒間持続する点を当量点とした。ここで滴定に用いた水酸化カリウム/エタノール溶液の量をVKOH2[mL]とする。
【0145】
(i)及び(ii)で得られた各々の数値から、水性樹脂エマルジョン(α)1gあたりのエポキシ基の量N1[mol/g]を、以下の式(4)によって算出した。
N1=(0.2×VHCl/1000-0.1×VKOH2/1000)/W2+(0.1×VKOH1/1000)/W1 …(4)
【0146】
水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分(原料)に含まれるエポキシ基の総量N2[mol/g]は、各成分の質量mi[質量部](i=1,2,3,・・・)と、エポキシ当量EPi[g/mol]とから、以下の式(5)によって求められる。ここで水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分とは、表1に水性樹脂エマルジョン(α)の原料として記載されているすべての成分を意味する。
N2=Σ(mi/EPi)/Σmi…(5)
【0147】
なお、メチルメタクリレート、イオン交換水等のエポキシ基を含まない化合物については、1/EPi=0となる。
このように求められたエポキシ基の量から、水性樹脂エマルジョン(α)のエポキシ基の残存率は、100×N1/N2[mol%]で表される。
【0148】
<2-3.不揮発分中のエポキシ基の含有率、成分(X)+(Y)中のエポキシ基の含有率>
上記の方法で求めた、不揮発分濃度CS[質量%]、水性樹脂エマルジョン(α)中のエポキシ基含有量N1、原料中のエポキシ基の総量N2から、水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のエポキシ基の含有率REP[mol/g]を、上記で説明した式(2)に基づいて求めた。
REP=N1/(CS/100)…(2)
【0149】
また、上記の方法で求めた水性樹脂エマルジョン(α)中のエポキシ基含有量N1と、水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた全成分(原料)の合計質量α[g]、共重合体(X)に用いた原料の質量X[g]、ポリエポキシ化合物(Y)に用いた原料の質量Y[g]を用い、以下の式に基づいて成分(X)+(Y)中のエポキシ基の含有率REP[mol/g]を算出した。
(X)+(Y)中のREP=N1/{(X+Y)/α}
【0150】
<2-4.不揮発分中のカルボキシ基の含有率、成分(X)+(Y)中のカルボキシ基の含有率>
水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分(原料)に含まれるカルボキシ基の総量N3[mol/g]は、各成分の質量mi[質量部](i=1,2,3,・・・)と、カルボキシ当量CXi[g/mol]とから、以下の式(6)によって求められる。ここで水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分とは、表1に水性樹脂エマルジョン(α)の原料として記載されているすべての成分を意味する。
N3=Σ(mi/CXi)/Σmi…(6)
ここで求めたN3から、水性樹脂エマルジョン(α)の不揮発分中のカルボキシ基の含有率RCX[mol/g]を、上記で説明した式(3)に基づいて求めた。
RCX={N3-(N2-N1)}/(CS/100)…(3)
【0151】
また、上記の方法で求めた水性樹脂エマルジョン(α)中のエポキシ基含有量N1、原料中のエポキシ基の総量N2、水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた成分(原料)に含まれるカルボキシ基の総量N3と、水性樹脂エマルジョン(α)の合成に用いた全成分(原料)の合計質量α[g]、共重合体(X)に用いた原料の質量X[g]、ポリエポキシ化合物(Y)に用いた原料の質量Y[g]を用いて、以下の式に基づいて成分(X)+(Y)中のカルボキシ基の含有率RCX[mol/g]を算出した。
(X)+(Y)中のRCX={N3-(N2-N1)}/{(X+Y)/α}
【0152】
<2-5.pH>
pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製 ガラス電極式水素イオン濃度指示計HM-30G)を用いて測定した。
【0153】
<2-6.粘度>
水性樹脂エマルジョン(α)の粘度を以下の条件及び装置で測定した。
温度:23℃
測定機器:B型粘度計
ロータ:No.1
回転数:60rpm
【0154】
<2-7.ガラス転移点>
共重合体(X)のガラス転移点Tgは、上記の式(1)によって算出した値である。
【0155】
<2-8.分散安定性>
合成直後の水性樹脂エマルジョン(α)の状態を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
○(可):凝集、沈殿、分離、及びゲル化のいずれも見られなかった。
×(不可):凝集、沈殿、分離、及びゲル化のうち少なくともいずれかが見られた。
【0156】
<2-9.高温安定性>
次の通り水性樹脂エマルジョン(α)の高温安定性を評価した。まず、70mlのガラス瓶に水性樹脂エマルジョン(α)を投入して密栓し、60℃で7日間静置した。その後、ガラス瓶中の水性樹脂エマルジョン(α)の状態を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
○(可):凝集、増粘、沈殿、分離、及びゲル化のいずれも見られなかった。
×(不可):凝集、増粘、沈殿、分離、及びゲル化のうち少なくともいずれかが見られた。
【0157】
【0158】
<2-10.評価結果>
表2に示すように、水性樹脂エマルジョン(α-1)~(α-6)は、いずれも高温安定性が良好であった。
以上のことから、モノマーとポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対する(メタ)アクリル酸エステル(A)の添加量が20~98質量%であり、モノマーとポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対するエチレン性不飽和カルボン酸(B)の添加量が0.1~10質量%であり、モノマーとポリエポキシ化合物(Y)との合計量に対するポリエポキシ化合物(Y)の添加量が1~40質量%である水性樹脂エマルジョン(α)は、高温安定性に優れることが分かった。
これに対して、ポリエポキシ化合物(Y)の添加量が過剰である水性樹脂エマルジョン(α-7)は、重合体が分散せずに凝集した。
【0159】
<3.実施例1~17及び比較例1~2(水性樹脂組成物の作製)>
表3及び表4に示される水性樹脂エマルジョン(α)100質量部(不揮発分40質量%のもの)に、イオン交換水60質量部と、表3及び表4に示される硬化剤(β)と硬化促進剤(γ)とを、表3及び表4に示される量(質量部)で添加して10分間撹拌し、実施例1~17及び比較例1~2の水性樹脂組成物を作製した。
【0160】
表3及び表4において、各硬化剤(β)における「エポキシ基に対する当量」は、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対する、硬化剤(β)に含まれるエポキシ基に対する反応性を有する官能基(F)の当量を示す数値である。
各硬化促進剤(γ)における「エポキシ基に対する当量」は、水性樹脂エマルジョン(α)に含まれるエポキシ基1当量に対する、硬化促進剤(γ)のmol数を示す数値である。
表3及び表4に示す、ポリアミンとしては、アデカハードナーEH-8051(株式会社ADEKA製)を用いた。硬化剤(β)として用いたポリアミンのアミン当量は、187g/molである。1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸のカルボキシ基当量は、58.5g/molである。
【0161】
【0162】
【0163】
<4.皮膜(塗膜)の評価>
実施例1~17及び比較例1~2の水性樹脂組成物をそれぞれ用いて、以下に示す方法により皮膜(塗膜)を形成し、以下の項目について評価した。その結果を表3および表4に示す。
【0164】
<4-1.皮膜降伏強度の測定方法>
水性樹脂組成物を、水平に置いた縦90mm、横190mmの長方形のポリエチレンフィルムからなる平板上の全体に行き渡るように、流涎することにより塗布した。これを23℃で72時間乾燥した後、50℃で24時間養生することにより硬化した塗膜(硬化物)を作製した。得られた塗膜を平板から剥離した。剥離した塗膜を幅10mm、長さ30mmの長方形に切り出し、試験片とした。
【0165】
この試験片の長手方向を引張方向として以下の試験を行った。試験片の厚さは、株式会社ミツトヨ製 クイックマイクロ(登録商標) MDQ-MXを用いて測定した。測定は、各試験片について3か所ずつ行い、3か所の測定結果の平均値を試験片の厚さt[mm]とした。
【0166】
皮膜降伏強度の試験は、オートグラフAG-X(島津製作所製)を用いて以下に示す方法により行った。チャック間距離を10mmとして、試験片の長手方向の両側をチャックで掴んだ。温度23℃、相対湿度(RH)50%の雰囲気下、100mm/minの速度で、試験片を引っ張った。
【0167】
チャック間距離をL[mm]、試験片の長さの変化(試験中のチャック間の距離と、試験前のチャック間の距離との差)をΔL[mm]とすると、ひずみSは、100×ΔL/L[%]で算出される。また、試験片にかかった荷重(測定された荷重)をF[N]とし、試験片の破断に至るまでの荷重の最大値をFmax[N]とし、試験開始から最初に以下の条件を満たした点を降伏点Y(Sy,Fy)とする。
【0168】
(降伏点の条件)
ひずみSが2%以上(Sy≧2%)である。
ひずみSの増加に伴う荷重Fの変化量が、増加から減少に転ずる。
F=Fy-0.01Fmaxとなるまでの間、dF/dS<0が続く。
S≦Sy+0.05%において、F>Fyとなる点が存在しない。
【0169】
降伏点Yにおいて試験片にかかる応力σyである皮膜降伏強度は、以下に示す式により算出される。
σy[N/mm2]=Fy/(W×t)
(式中のWは試験片の幅[mm]であり、tは試験片の厚さ[mm]である。)
【0170】
<4-2.耐水膨潤率>
上記降伏点の測定と同様にして、ポリエチレンフィルムからなる平板上に塗膜を形成した。得られた塗膜を平板から剥離した。剥離した塗膜を縦10mm、横10mmの正方形に切り出した。
【0171】
切り出した塗膜を秤量した後、23℃で24時間、イオン交換水に浸漬した。浸漬した塗膜をイオン交換水から取り出し、その直後に塗膜を秤量し、これを乾燥前の塗膜の質量とした。その後、塗膜を105℃で3時間乾燥させて再度塗膜を秤量し、これを乾燥後の塗膜の質量とした。乾燥前の塗膜の質量と乾燥後の塗膜の質量から、下記式(4)で求められる値を耐水膨潤率とした。
【0172】
耐水膨潤率(%)={(乾燥前の塗膜の質量-乾燥後の塗膜の質量)/乾燥後の塗膜の質量}×100 …(4)
【0173】
<4-3.防錆性>
水性樹脂組成物を、冷間圧延鋼板(以下、「基材」とする)に刷毛を用いて、目付量が50g/m2となるように塗布した。塗布後の基材を、60℃の恒温槽内で10分間乾燥させることにより、基材表面に塗膜を形成した。
【0174】
基材表面に形成した塗膜上の縦30mm、横45mmの長方形の領域を試験領域とした。試験領域を形成している長方形の対角線をなすように、2本の交差する直線からなる(すなわちX字状の)切れ込みを塗膜に形成し、試験体とした。切れ込みは、カッターナイフを用いて、塗膜上から基材まで達するように形成した。切れ込みが形成された試験体に対して、JIS Z-2371(2000)に基づいて中性塩水噴霧試験(4.2.1項)を行った。
【0175】
中性塩水噴霧試験後の試験体における、試験領域中の塗膜の膨れの占める面積[面積%]、膨れの大きさ[mm]、及び切れ込みからの流れ錆のサイズ[mm]を測定した。膨れの大きさは、1個の独立した膨れが占める領域において、最も長い寸法とした。また、流れ錆のサイズは、クロスカットした部分を中心とした錆の幅の最大値とした。
【0176】
<4-4.金属材料に対する塗膜の密着性>
上記防錆性の評価と同様にして、冷間圧延鋼板の表面に塗膜を形成した。JIS K-5400(1990)「8.5.2項 碁盤目テープ法」に準じ、塗膜の形成された鋼板を試験片として、塗膜を貫通するようにカッターで1mm間隔の碁盤目の切れ込み(100マス)を入れ、セロテープ(登録商標)を貼合した。1時間後にセロテープ(登録商標)を剥離して、塗膜が鋼板から剥離せずに残ったマスの数を数えることで金属材料に対する塗膜の密着性を評価した。
【0177】
<4-5.評価結果>
表3及び表4に示すように、水性樹脂エマルジョン(α-1)~(α-6)と、ポリアミンまたは1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸である硬化剤(β)と、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)またはイミダゾールである硬化促進剤(γ)とを含む実施例1~17の水性樹脂組成物の硬化物は、皮膜降伏強度が10[N/mm2]以上であり、皮膜降伏強度が高いものであった。また、実施例1~17の水性樹脂組成物の硬化物は、耐水膨潤率が低く、耐水性が良好であり、金属材料に対する密着性も良好であった。また、実施例1~4、6~9、11~17の水性樹脂組成物の硬化物は、膨れが少なく防錆性が良好であった。
【0178】
これに対し、硬化促進剤(γ)を含まない比較例1および比較例2の水性樹脂組成物の硬化物は、実施例1~17の水性樹脂組成物の硬化物と比較して、皮膜降伏強度が劣るものであった。