(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166735
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース及び熱伝導性グリースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
C09K5/14 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077466
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 智
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(57)【要約】
【課題】熱伝導率が高く、且つ優れた展性を有する熱伝導性グリースを提供する。
【解決手段】基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含む熱伝導性グリースであって、
平均粒子径の異なる2種以上の無機粉末充填剤を含有し、無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たし、平均粒子径が異なるそれぞれの無機粉末充填剤の体積含有率は、無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である熱伝導性グリースである。
4.0≦Dn/Dn-1≦5.0・・・(1)
D1<D2<・・・<Dn-1<Dn・・・・・・(2)
[式中:DX(D1、D2、・・・、Dn-1、Dn)は第X無機粉末充填剤の平均粒径を表す。nは2以上の自然数である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含む熱伝導性グリースであって、
平均粒子径の異なる2種以上の無機粉末充填剤を含有し、
前記無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たし、
平均粒子径が異なるそれぞれの無機粉末充填剤の体積含有率は、該無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である
熱伝導性グリース。
4.0≦Dn/Dn-1≦5.0・・・(1)
D1<D2<・・・<Dn-1<Dn・・・・・・(2)
[式中:DX(D1、D2、・・・、Dn-1、Dn)は第X無機粉末充填剤の平均粒径を表す。nは2以上の自然数である。]
【請求項2】
4種以上の平均粒子径の異なる無機粉末充填剤を含有する
請求項1に記載の熱伝導性グリース。
【請求項3】
基油組成物と、平均粒子径の異なる4種の無機粉末充填剤と、を含有する熱伝導性グリースを製造する熱伝導性グリースの製造方法であって、
前記基油組成物と、前記無機粉末充填剤のうち平均粒子径が最も小さい第1無機粉末充填剤と、を該第1無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して流体Aを得る工程と、
前記流体Aと、前記第1無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径を有する第2無機粉末充填剤と、を該第2無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して流体Bを得る工程と、
前記流体Bと、前記第2無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径を有する第3無機粉末充填剤と、を該第3無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して流体Cを得る工程と、
前記流体Cと、前記第3無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径を有する第4無機粉末充填剤と、を該第4無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して熱伝導性グリースを得る工程と、
を有する
熱伝導性グリースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性グリース及び熱伝導性グリースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPUやインバーター、コンバーター等の電源制御用のパワー半導体のように使用中に発熱をともなう部品がある。
【0003】
これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるためには、発生した熱をヒートシンク等の放熱部品へ伝導させ放熱する方法がある。熱伝導性グリースは、これら半導体部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され、半導体部品の熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。近年、これら半導体部品を用いる電子機器の性能向上や小型・高密度実装化が進んでおり、放熱対策に用いられる熱伝導性グリースにはより高い熱伝導性が求められる。
【0004】
熱伝導性グリースは、液状炭化水素やシリコーン油やフッ素油等の基油に、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどの金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物や、アルミニウムや銅などの金属粉末等、熱伝導率の高い無機粉末充填剤が多量に分散されたグリース状組成物である。例えば、特定の表面改質剤を配合したもの(特許文献1、2等参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4642085号公報
【特許文献2】特開2008-280516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱伝導性グリースは、コンピューターのCPU等の発熱部品と、ヒートシンク等の放熱部品との熱接触界面、並びにハイブリッド自動車や電気自動車等に搭載される高出力のインバーター等の発熱部品と、ヒートスプレッダー等の放熱部品との熱接触界面に塗布して使用される。近年、これらのエレクトロニクス機器における半導体素子は、小型化・高性能化に伴い、発熱密度及び発熱量が増大し、更に、他の半導体部品である発熱部品に近接され組み込まれることが多くなっており、熱伝導性グリースはより高い放熱特性を求められている。
【0007】
一般に熱伝導性グリースの放熱性は、発熱部品と放熱部品との熱接触界面での界面熱抵抗値と反比例する。熱接触界面における界面熱抵抗値を低減することにより効果的に発熱部品から発生した熱を放熱部品へ伝導させ放熱することができる。
【0008】
熱接触界面における界面熱抵抗値を低減するには発熱部品と放熱部品との距離を短くなるように熱伝導性グリースを塗布することが効果的である。しかしながら、近年の小型化された電子機器等の発熱部品に熱伝導性グリースを空隙なく熱伝導性グリースを均一に薄く塗布することは必ずしも容易ではない。
【0009】
熱伝導性グリースを均一に薄く塗布するためには、例えば、発熱部品に対して一定の厚さに熱伝導性グリースに塗布した後に、塗布した熱伝導性グリースを加圧して熱伝導性グリースを薄く広げる方法が挙げられる。熱伝導性グリースを薄く広げるには、熱伝導グリースの展性が高いことが望ましい。
【0010】
熱伝導性グリースの展性を高くするためには、例えば、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量を少なくし、熱伝導性グリースに含有される基油の含有量を増やすことが考えられる。しかしながら、熱伝導性グリースに含有される無機粉末充填剤の含有量が少なくなると熱伝導性グリース自体の熱伝導率も低下する。そのため、熱伝導性グリースの展性と熱伝導性とを両立させることが困難であった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱伝導率が高く、且つ優れた展性を有する熱伝導性グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、平均粒径が異なる複数の無機粉末充填剤を含有し、且つ、含有する無機粉末充填剤を所定の体積含有率とした熱伝導性グリースであれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1は、基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含む熱伝導性グリースであって、平均粒子径の異なる2種以上の無機粉末充填剤を含有し、前記無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たし、平均粒子径が異なるそれぞれの無機粉末充填剤の体積含有率は、該無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である熱伝導性グリースである。
4.0≦Dn/Dn-1≦5.0・・・(1)
D1<D2<・・・<Dn-1<Dn・・・・・・(2)
[式中:DX(D1、D2、・・・、Dn-1、Dn)は第X無機粉末充填剤の平均粒径を表す。nは2以上の自然数である。]
【0014】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、4種以上の平均粒子径の異なる無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースである。
【0015】
(3)本発明の第3は、 基油組成物と、平均粒子径の異なる4種の無機粉末充填剤と、を含有する熱伝導性グリースを製造する熱伝導性グリースの製造方法であって、前記基油組成物と、前記無機粉末充填剤のうち平均粒子径が最も小さい第1無機粉末充填剤と、を該第1無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して流体Aを得る工程と、前記流体Aと、前記第1無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径を有する第2無機粉末充填剤と、を該第2無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して流体Bを得る工程と、前記流体Bと、前記第2無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径を有する第3無機粉末充填剤と、を該第3無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して流体Cを得る工程と、前記流体Cと、前記第3無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径を有する第4無機粉末充填剤と、を該第4無機粉末充填剤の体積含有率が25体積%以上35体積%以下となるように混合して熱伝導性グリースを得る工程と、を有する熱伝導性グリースの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱伝導性グリースは、熱伝導率が高く、且つ優れた展性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「~」との表記は、「以上」「以下」を意味する。
【0018】
≪1.熱伝導性グリースの概要≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含有する。そして、無機粉末充填剤においては、平均粒径の異なる複数の無機粉末充填剤を含有し、それらの無機粉末充填剤の平均粒径の比が所定範囲であり、且つ、平均粒子径が異なるそれぞれの無機粉末充填剤の体積含有率は、該無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下であることを特徴としている。
【0019】
具体的には、無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たすものである。
【0020】
4.0≦Dn/Dn-1≦5.0・・・(1)
D1<D2<・・・<Dn-1<Dn・・・(2)
[式中:DX(D1、D2、・・・、Dn-1、Dn)は第X無機粉末充填剤の平均粒径を表す。nは2以上の自然数である。]
【0021】
なお、無機粉末充填剤の平均粒径はレーザー回折散乱法(JIS R 1629:1997に準拠)により測定した粒度分布の体積平均径(D50(体積基準累積50%径))として算出できる。
【0022】
本発明者は、熱伝導性グリースの熱伝導率が熱伝導性グリースの質量全量中における無機粉末充填剤の質量含有率(質量%)よりもむしろ熱伝導性グリースの体積全量中における無機粉末充填剤の体積含有率(体積%)に強く依存するものであると考えた。そして、無機粉末充填剤の体積含有率(体積%)を増やしすぎると、無機粉末充填剤の粒子間に入り込んで展性を付与する基油の体積含有率(体積%)が相対的に低下して、無機粉末充填剤同士の摩擦抵抗が増加することとなり、これにより熱伝導グリースの展性が低下するのではないかと考えた。
【0023】
一方で、無機粉末充填剤は所定粒径を有する粒状形状であることから、無機粉末充填剤間に余分な隙間が形成されやすい。そして、この余分な隙間に入り込んだ基油は、無機粉末充填剤間の摩擦抵抗の低下に寄与しないため、この余分な隙間を減らすことで、熱伝導性グリースの展性を維持した状態で熱伝導性グリースの熱伝導性を向上できるのではないかと考えた。
【0024】
そこで、本発明者は、所定の平均粒径の関係を有する2種以上の無機粉末充填剤を含有し、且つ、所定の体積含有率(体積%)の無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースを想起した。このような熱伝導性グリースであれば、無機粉末充填剤の粒子間の余分な隙間に入り込む基油を減らすことが可能となって、熱伝導性グリースの展性と熱伝導性との両立が可能となる。
【0025】
また、本発明の熱伝導性グリースは2種以上の平均粒子径の異なる無機粉末充填剤を含有するものであればよいが、3種以上の平均粒子径の異なる無機粉末充填剤を含有するものであることが好ましく、4種以上の平均粒子径の異なる無機粉末充填剤を含有するものであることがより好ましい。平均粒子径の異なる無機粉末充填剤が多くなることにより、無機粉末充填剤の粒子間の余分な隙間に入り込む基油を極めて効果的に減らすことが可能となる。
【0026】
無機粉末充填剤の平均粒子径は上記の関係式を満たすのであれば特に制限はされない。例えば、平均粒子径の最も大きい無機粉末充填剤の平均粒径は1μm以上50μm以下の範囲とし、他の無機粉末充填剤以降の平均粒径を上記の関係式(1)を満たすようにすることが好ましい。なお、平均粒子径の最も大きい無機粉末充填剤の平均粒径は10μm以上45μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0027】
≪2.熱伝導性グリース≫
以下では、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)として、4種の平均粒子径の異なる無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースを一例として、より具体的に説明する。以下、本実施の形態に係る熱伝導性グリースに含まれる無機粉末充填剤と、基油組成物と、について説明する。
【0028】
<2-1.無機粉末充填剤>
無機粉末充填剤は、熱伝導性グリースに高い熱伝導性を付与する。本実施の形態に係る熱伝導性グリースに用いられる無機粉末充填剤は、平均粒子径の異なる4種の無機粉末充填剤を含有する。
【0029】
そして、無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)(2)を満たす。
4.0≦Dn/Dn-1≦5.0・・・(1)
D1<D2<・・・<Dn-1<Dn・・・(2)
[式中:DX(D1、D2、・・・Dn)は第X無機粉末充填剤の平均粒径を表す。nは自然数である。]
【0030】
本実施の形態に係る平均粒子径の異なる4種の無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースにおいては、式(1)(2)は、以下のようになる。
4.0≦D2/D1≦5.0・・・(1-1)
4.0≦D3/D2≦5.0・・・(1-2)
4.0≦D4/D3≦5.0・・・(1-3)
D1<D2<D3<D4・・・(2-1)
[式中:D1は第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D2は第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D3は第3無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D4は第4無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【0031】
所定の平均粒径の関係を有する4種の無機粉末充填剤を含有することにより、無機粉末充填剤の粒子間の余分な隙間に入り込む基油を減らすことが可能となる。
【0032】
さらに、無機粉末充填剤の体積含有率(体積%)は、その無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である。
【0033】
具体的には、以下の関係(A)~(D)を満たす。すなわち、(A)第1無機粉末充填剤の体積含有率は、第2無機粉末充填剤、第3無機粉末充填剤及び第4無機粉末充填剤の体積を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である。(B)第2無機粉末充填剤の体積含有率は、第3無機粉末充填剤及び第4無機粉末充填剤の体積を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である。(C)第3無機粉末充填剤の体積含有率は、第4無機粉末充填剤の体積を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である。(D)第4無機粉末充填剤の体積含有率は、熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下である。
【0034】
このように、無機粉末充填剤の体積含有率が、その無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤を除いた熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下の関係(すなわち(A)~(D)の関係)を満たすことにより、無機粉末充填剤の粒子間の余分な隙間に入り込む基油を減らすことが可能となって、熱伝導性グリースの展性と熱伝導性とを両立させることができる。
【0035】
無機粉末充填剤の平均粒子径は上記の関係式を満たすのであれば特に制限はされない。例えば、第4無機粉末充填剤の平均粒径を1μm以上50μm以下の範囲とし、第1~3無機粉末充填剤以降の平均粒径を上記の関係式(1)を満たすようにすることが好ましい。具体的には、第3無機粉末充填剤の平均粒径は0.2μm以上12.5μm以下の範囲であることが好ましい。第2無機粉末充填剤の平均粒径は0.04μm以上3.2μm以下の範囲であることが好ましい。第1無機粉末充填剤の平均粒径は0.01μm以上0.8μm以下の範囲であることが好ましい。
【0036】
本実施の形態に係る熱伝導性グリースに用いられる無機粉末充填剤の種類は、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されず、例えば、金属酸化物、無機窒化物、金属(合金も含む。)、ケイ素化合物などの粉末が好適に用いられる。本実施の形態において無機粉末充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好適に使用でき、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムの粉末が特に好ましい。電気絶縁性の要求がなく、金属粉末を用いる場合は、銅、アルミニウムの粉末を用いるのが好ましい。これらの無機粉末充填剤をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0038】
<2-2.基油組成物>
基油組成物とは基油及び必要に応じて種々の各成分を含有する。以下、基油組成物に含まれる各成分について説明する。
(1)基油
基油としては、種々の基油が使用でき、例えば、鉱油、合成炭化水素油等の炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油、リン酸エステル、シリコーン油及びフッ素油等が挙げられる。中でも、エステル系基油を含有する基油を用いるのが好ましい。
【0039】
鉱油としては、例えば、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化等の精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油等を用いることができる。基油に用いられる鉱油は、高度に水素化精製された高粘度指数基油が好ましい。
【0040】
合成炭化水素油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン又はこれらの水素化物等を単独で、もしくは2種以上を混合して使用することができる。中でもポリ-α-オレフィンがより好ましい。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0041】
エステル系基油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4以上36以下の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4以上26以下の一価アルコール残基が好ましい。ポリオールエステルとしては、β位の炭素上に水素原子が存在していないネオペンチルポリオールのエステルで、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のカルボン酸エステルが挙げられる。エステル部を構成するカルボン酸残基は、炭素数4以上26以下のモノカルボン酸残基が好ましい。
【0042】
エーテル系基油としては、ポリグリコールや(ポリ)フェニルエーテル等が挙げられる。ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、及びこれらの誘導体等が挙げられる。(ポリ)フェニルエーテルとしては、モノアルキル化ジフェニルエーテル、ジアルキル化ジフェニルエーテル等のアルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテル等のアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキル化ペンタフェニルエーテル、ジアルキル化ペンタフェニルエーテル等のアルキル化ペンタフェニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
基油の粘度は、40℃で180±18mm2/sのエステル油を用いるのがより好ましい。無機粉末充填剤の粒子間により効果的に入り込むことが可能となって、さらに優れた展性を有する熱伝導グリースとすることができる。
【0044】
(2)分散剤
熱伝導性グリースには分散剤を更に含有させることができる。分散剤は、本発明の熱伝導性グリースにおいて必須の構成ではないが、無機粉末充填剤の分散性を高め、無機粉末充填剤の充填性を向上させることが可能となって、さらに優れた展性を有する熱伝導性グリースとすることができる。
【0045】
分散剤は、特に限定されず、例えば、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、脂肪酸エステルのようなカルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
(3)増ちょう剤
熱伝導性グリースには増ちょう剤を更に含有させることができる。増ちょう剤は、本発明の熱伝導性グリースにおいて必須の構成ではないが、熱伝導性グリースの塗布性を向上させることができる。これにより、小型化された電子部品に塗布することが可能となるため、本発明の効果を特に奏する熱伝導性グリースとなる。
【0047】
増ちょう剤は、特に限定されず、例えば、ポリブテン、ポリメタクリレート、脂肪酸塩、ウレア化合物、石油ワックス、ポリエチレンワックス、有機処理ベントナイト、シリカ等が挙げられる。
【0048】
(4)拡散防止剤
熱伝導性グリースには拡散防止剤を更に含有させることができる。拡散防止剤は、本発明の熱伝導性グリースにおいて必須の構成ではないが、熱伝導性グリースに含有される基油の拡散を防止することができる。基油拡散防止剤は、パーフルオロアルキル基を含有する拡散防止剤を用いることができる。
【0049】
(4)その他の成分
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、必要に応じて、上記の各成分の他の成分(その他の成分)を含有することができる。その他の成分は、酸化防止剤、二次酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、増粘剤等を挙げることができる。
【0050】
≪3.熱伝導性グリースの製造方法≫
次に、上述した平均粒子径の異なる4種の無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースを製造する方法を本発明の熱伝導性グリースの製造方法の具体的な実施形態として説明する。
【0051】
まず、基油等の各成分を含有する基油組成物と、無機粉末充填剤のうち平均粒子径が最も小さい第1無機粉末充填剤と、を混合して流体Aを得る。このとき、流体Aにおける第1無機粉末充填剤の体積含有率は、流体Aの全体積中25体積%以上35体積%以下となるようにする。なお、流体Aの全体積とは、第1無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤(第2無機粉末充填剤、第3無機粉末充填剤及び第4無機粉末充填剤)を除いた熱伝導性グリース全体積と定義することもできる。
【0052】
次に、流体Aと、第1無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径(すなわち、4.0≦D2/D1≦5.0を満たす。)を有する第2無機粉末充填剤と、を混合して流体Bを得る。このとき、流体Bにおける第2無機粉末充填剤の体積含有率は、流体Bの全体積中25体積%以上35体積%以下となるようにする。なお、流体Bの全体積とは、第2無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤(第3無機粉末充填剤及び第4無機粉末充填剤)を除いた熱伝導性グリース全体積と定義することもできる。
【0053】
次に、流体Bと、第2無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径(すなわち、4.0≦D3/D2≦5.0を満たす。)を有する第3無機粉末充填剤と、を混合して流体Cを得る。このとき、流体Cにおける第3無機粉末充填剤の体積含有率は、流体Cの全体積中25体積%以上35体積%以下となるようにする。なお、流体Cの全体積とは、第3無機粉末充填剤よりも平均粒径の大きい無機粉末充填剤(第4無機粉末充填剤)を除いた熱伝導性グリース全体積と定義することもできる。
【0054】
次に、流体Cと、第3無機粉末充填剤に対して4.0倍以上5.0倍以下の平均粒子径(すなわち、4.0≦D4/D3≦5.0を満たす。)を有する第4無機粉末充填剤と、を混合して熱伝導性グリースを得る。このとき、熱伝導性グリースにおける第4無機粉末充填剤の体積含有率は、熱伝導性グリース全体積中25体積%以上35体積%以下となるようにする。
【0055】
このように、平均粒子径の異なる4種の無機粉末充填剤のうち、平均粒子径が最も小さい無機粉末充填剤から順番にそれぞれの無機粉末充填剤が所定の体積含有量を満たすように基油組成物と混合することで上述した熱伝導性グリースを製造することができる。
【0056】
流体A~C及び熱伝導性グリースの製造に関しては、均一に成分を混合できればその方法は特に限定されない。一般的な製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。
【0057】
なお、4種の無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースを製造する方法を一例に熱伝導性グリースの製造方法を説明したが、例えば4種以外(2種、3種、5種以上)の無機粉末充填剤を含有する熱伝導性グリースを製造する場合であっても同様の手順で製造することができる。すなわち、平均粒子径が最も小さい無機粉末充填剤から順番にそれぞれの無機粉末充填剤が所定の体積含有率(体積%)を満たすように基油組成物と混合することで熱伝導性グリースを製造することができる。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例及び比較例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
1.熱伝導性グリースの製造
下記(A)~(E)に示す各材料を用い、下記表1に示す組成の熱伝導性組成物を製造した。
【0060】
[熱伝導性組成物の構成及び製造方法]
(構成成分)
(A)無機粉末充填剤
アルミナ1(第1無機粉末充填剤):平均粒径(D50):0.5μm
アルミナ2(第2無機粉末充填剤):平均粒径(D50):2.2μm
アルミナ3(第3無機粉末充填剤):平均粒径(D50):9.0μm
アルミナ4(第4無機粉末充填剤):平均粒径(D50):40.0μm
なお、各無機粉末充填剤の平均粒径は、粒子径分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)を用いてレーザー回折散乱法にて測定した。
(B)基油
エステル油 (住鉱潤滑剤(株)製 ハイテンプオイルES-Q)
(C)分散剤
炭化水素ポリマー (日本ルーブリゾール(株) HPA-N107)
(D)増ちょう剤
有機処理ベントナイト (エレメンティス(株) バラゲル3000)
(E)拡散防止剤
含フッ素オリゴマー (DIC(株) メガファックF554)
【0061】
下記表1に示す配合割合で上記化合物を混合して、実施例1~3、および、比較例1、2の熱伝導性グリースを製造した。
【0062】
具体的には、基油、分散剤、増ちょう剤及び拡散防止剤を含有する基油組成物と、第1無機粉末充填剤と、を混合して表1の割合になるように第1無機粉末充填剤の体積含有量を調整し、流体Aを得た。次に、流体Aと第2無機粉末充填剤と、を混合して表1の割合になるように第2無機粉末充填剤の体積含有量を調整して流体Bを得た。次に流体Bと第3無機粉末充填剤と、を混合して表1の割合になるように第3無機粉末充填剤の体積含有量を調整して流体Cを得た。次に流体Cと第4無機粉末充填剤と、を混合して表1の割合になるように第4無機粉末充填剤の体積含有量を調整して熱伝導性グリースを得た。
【0063】
[評価]
実施例及び比較例の熱伝導性グリースについて、以下の手順にしたがい、ちょう度、熱伝導率、展性を評価した。
【0064】
(ちょう度)
JIS K2220グリースの「ちょう度」測定法に準じて実施例及び比較例の熱伝導性グリースのちょう度を測定した。熱伝導性グリースのちょう度は200以上であれば使用可能であるが、離油防止性・塗布後のたれ落ち防止の観点からは380以下であることが好ましく、塗布の容易性・塗布後の形状安定性の観点では250~320であることが特に好ましい。評価結果を表1に示す(表1中「ちょう度」と表記。)。
【0065】
(熱伝導率)
京都電子工業(株)製迅速熱伝導率計QTM-500を用いて室温にて実施例及び比較例の熱伝導性グリースの熱伝導率を測定した。熱伝導性グリースの熱伝導率が3.0W/mk以上のものを熱伝導率が良好であると判断した。この測定結果を表1に示す(表1中「熱伝導率」と表記。)。
【0066】
(展性)
実施例及び比較例の熱伝導グリースを放熱部材に100μmの厚さで塗布して0.1MPaの圧力で加圧した時の厚さを測定した。この時の厚さが50μm以下となるものを熱伝導グリースの展性が良好であると判断した。評価結果を表1に示す(表1中「展性」と表記。)。
【0067】
【0068】
表1の結果から分かるように、本発明の範囲内である実施例1~3の熱伝導性グリースは、熱伝導率が3.0W/mk以上となっており、展性が50μm以下であることから、熱伝導率が高く、且つ優れた展性を有する熱伝導性グリースであることが分かる。
【0069】
一方、それぞれの無機粉末充填剤の体積含有率が本発明の範囲より下回っている比較例1では、熱伝導率が低いものであった。また、それぞれの無機粉末充填剤の体積含有率が本発明の範囲より上回っている比較例2では、優れた展性を有する熱伝導性グリースであるとはいえないものであり、ちょう度も低く塗布性に劣るものであった。