(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166817
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】浸透素子、浸透装置、及び浸透素子を用いた浸透方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/56 20060101AFI20231115BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20231115BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
B01D61/56
C02F1/469
B01D61/46 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077620
(22)【出願日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】内田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】西浦 憲
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA18
4D006HA42
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC05
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB03
4D006PB08
4D006PB12
4D006PB70
4D006PC80
4D061DA04
4D061DA08
4D061DB18
4D061EA02
4D061EA11
4D061EB04
4D061EB12
4D061EB14
4D061EB19
4D061EB20
4D061EB27
4D061EB28
4D061EB29
4D061EB30
4D061EB31
(57)【要約】
【課題】溶媒の浸透を容易に制御可能な浸透素子の提供。
【解決手段】本発明の第一の形態は、離隔した状態で対向に配置された第一電極層及び第二電極層と、前記第一電極層及び前記第二電極層の間に配置された溶液と、を備え、前記第一電極層が、導電性多孔質材料により形成され、前記第一電極層と前記第二電極層との間に電界を印加した際に、前記第一電極層を介して、前記溶液中の溶媒が外部へ浸出する、浸透素子である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離隔した状態で対向に配置された第一電極層及び第二電極層と、
前記第一電極層及び前記第二電極層の間に配置された溶液と、を備え、
前記第一電極層が、導電性多孔質材料により形成され、
前記第一電極層と前記第二電極層との間に電界を印加した際に、前記第一電極層を介して、前記溶液中の溶媒が外部へ浸出する、浸透素子。
【請求項2】
前記第一電極層が、陰極層である、請求項1に記載の浸透素子。
【請求項3】
前記導電性多孔質材料が、カーボン材料を含む、請求項1に記載の浸透素子。
【請求項4】
前記カーボン材料が、ナノカーボン材料を含む、請求項3に記載の浸透素子。
【請求項5】
前記ナノカーボン材料が、カーボンナノチューブを含む、請求項4に記載の浸透素子。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを含む、請求項5に記載の浸透素子。
【請求項7】
前記第一電極層が、シート状構造体である、請求項1に記載の浸透素子。
【請求項8】
前記シート状構造体が、バインダーを含まない、請求項7に記載の浸透素子。
【請求項9】
導電性多孔質材料により形成された導電性多孔質材料層と、
前記導電性多孔質材料層の一方の面上に形成された第一電極と、
前記導電性多孔質材料層の他方の面上に形成された第二電極と、
前記導電性多孔質材料層の他方の面側に配置された溶液と、を備え、
前記第二電極に溶液が接した状態で、前記第一電極と前記第二電極との間に電界を印加した際に、前記導電性多孔質材料層を介して、前記溶液中の溶媒が前記第一電極側へ浸出する、浸透素子。
【請求項10】
前記第一電極が、陰極である、請求項9に記載の浸透素子。
【請求項11】
前記導電性多孔質材料が、ナノカーボン材料を含む、請求項9に記載の浸透素子。
【請求項12】
前記導電性多孔質材料層が、シート状構造体である、請求項9に記載の浸透素子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の浸透素子と、直流電源とを備える、浸透装置。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載の浸透素子を用いた浸透方法であって、
前記第一電極層及び前記第二電極層、或いは、前記第一電極及び前記第二電極に電界を印加する、浸透方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透素子、浸透装置、及び浸透素子を用いた浸透方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液中の溶媒を分離するために多孔質フィルタ等を用いた浸透装置等が知られている。このような装置としては、例えば、逆浸透膜を用いた装置等がある(例えば、特許文献1等)。ここで、逆浸透膜を用いる場合には、通常、溶液中の溶媒を逆浸透させるために圧力を利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、溶媒の浸透を容易に制御可能な更なる技術の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記に鑑みて、更なる技術の開発を試みた。そして、本発明者は、導電性多孔質材料により形成された層を備える素子であれば、印加する電界を適宜操作することによって、この層に接した溶液に含まれる溶媒の浸透を容易に制御可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の第一の形態は、(1)離隔した状態で対向に配置された第一電極層及び第二電極層と、前記第一電極層及び前記第二電極層の間に配置された溶液と、を備え、前記第一電極層が、導電性多孔質材料により形成され、前記第一電極層と前記第二電極層との間に電界を印加した際に、前記第一電極層を介して、前記溶液中の溶媒が外部へ浸出する、浸透素子である。このような浸透素子であれば、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できる。
【0007】
(2)上記(1)の浸透素子において、前記第一電極層は、陰極層であることが好ましい。第一電極層が陰極層であれば、溶媒の浸出量を向上できる。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の浸透素子において、前記導電性多孔質材料は、カーボン材料を含むことが好ましい。導電性多孔質材料がカーボン材料を含めば、溶媒の浸出量を向上できる。
【0009】
(4)上記(3)の浸透素子において、前記カーボン材料は、ナノカーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料がナノカーボン材料を含めば、溶媒の浸出量をより向上できる。
【0010】
(5)上記(4)の浸透素子において、前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブを含むことが好ましい。ナノカーボン材料がカーボンナノチューブを含めば、溶媒の浸出量を更に向上できる。
【0011】
(6)上記(5)の浸透素子において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含めば、溶媒の浸出量をより一層向上できる。
【0012】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの浸透素子において、前記第一電極層は、シート状構造体であることが好ましい。第一電極層がシート状構造体であれば、第一電極層の導電性及び多孔質性を良好に保つことができる。また、第一電極層がシート状構造体であれば、浸透素子を容易に製造できる。
【0013】
(8)上記(7)の浸透素子において、前記シート状構造体は、バインダーを含まないことが好ましい。シート状構造体がバインダーを含まなければ、シート状構造体の内部抵抗を低減できる。
本明細書において、「バインダーを含まない」とは、質量分析クロマトグラフィー等の分析法を用いてバインダーの含有量を測定した際に、バインダー成分が検出されないことを意味する。
【0014】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の第二の形態は、(9)導電性多孔質材料により形成された導電性多孔質材料層と、前記導電性多孔質材料層の一方の面上に形成された第一電極と、前記導電性多孔質材料層の他方の面上に形成された第二電極と、前記導電性多孔質材料層の他方の面側に配置された溶液と、を備え、前記第二電極に溶液が接した状態で、前記第一電極と前記第二電極との間に電界を印加した際に、前記導電性多孔質材料層を介して、前記溶液中の溶媒が前記第一電極側へ浸出する浸透素子である。このような浸透素子であれば、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できる。
【0015】
(10)上記(9)の浸透素子において、前記第一電極は、陰極であることが好ましい。第一電極が陰極であれば、溶媒の浸出量を向上できる。
【0016】
(11)上記(9)又は(10)の浸透素子において、前記導電性多孔質材料は、ナノカーボン材料を含むことが好ましい。導電性多孔質材料がナノカーボン材料を含めば、導電性多孔質材料層からの溶媒の浸透量をより向上できる。
【0017】
(12)上記(9)~(11)のいずれかの浸透素子において、前記導電性多孔質材料層は、シート状構造体であることが好ましい。導電性多孔質材料層がシート状構造体であれば、導電性多孔質材料層の導電性及び多孔質性を良好に保つことができる。導電性多孔質材料層がシート状構造体であれば、浸透素子を容易に製造できる。
【0018】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、(13)上記(1)~(12)のいずれかの浸透素子と、直流電源とを備える、浸透装置である。このような浸透装置であれば、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できる。
【0019】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、(14)上記(1)~(12)のいずれかの浸透素子を用いた浸透方法であって、前記第一電極層及び前記第二電極層、或いは、前記第一電極及び前記第二電極に電界を印加する、浸透方法である。このような浸透方法であれば、導電性多孔質材料により形成された層から溶液中の溶媒を浸出させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶媒の浸透を容易に制御可能な浸透素子を提供できる。
また、本発明によれば、上記浸透素子を備える浸透装置を提供できる。
また、本発明によれば、上記浸透素子を用いた浸透方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一の形態の浸透素子の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図1に示す浸透素子の使用例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の第二の形態の浸透素子の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図3に示す浸透素子の使用例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで本発明の浸透素子は、印加する電界を適宜操作(オンオフの切り替え、正負の切り替え、電界値の変更等)することによって、導電性多孔質材料により形成された層に接した溶液に含まれる溶媒の浸透を容易に制御可能であるため、所望のタイミング及び/又は量で特定の溶媒を取得又は除去することができる。そのため、本発明の浸透素子は、例えば、海水等の塩水の淡水化装置、水中の不純物を除去する浄水装置、複合溶媒の中から特定の溶媒を取り出す分離装置等の浸透装置に好適に用いることができる。また、バイオテクノロジーの分野において、タンパク質や核酸(DNA、RNA)等を含む溶液から溶媒を取り除く濃縮装置等の浸透装置にも好適に用いることができる。なお、浸透素子の用途はこれらに限定されるものではない。
【0023】
(第一の形態の浸透素子)
第一の形態の浸透素子は、離隔した状態で対向に配置された第一電極層及び第二電極層と、第一電極層及び第二電極層の間に配置された溶液と、を備え、第一電極層が、導電性多孔質材料により形成されている。そして、第一の形態の浸透素子は、第一電極層と第二電極層との間に電界を印加した際に、第一電極層を介して、溶液中の溶媒が外部へ浸出するものである。
上記浸透素子であれば、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できる。その理由は定かではないが、導電性多孔質材料の自由電子や正孔(ホール)が、電界の印加によって供給された電子によって移動して導電性多孔質材料と溶媒との間の相互作用が変化し、その結果、導電性多孔質材料の方向に溶媒分子が引き付けられたためであると推察される。
【0024】
図1は、本発明の第一の形態の浸透素子の一例を示す概略断面図である。第一の形態の浸透素子10は、
図1に示すように、離隔した状態で対向に配置された第一電極層11及び第二電極層12と、第一電極層11及び第二電極層12の間に配置された溶液13と、を備える。ここで、第一電極層11は、溶液13と接する第一面111と、第一面111とは反対側に位置する第二面112とを有している。
【0025】
図1には図示していないが、浸透素子10は、封止板や筒等の封止部材を備えていてもよい。封止部材は、第一電極層11や第二電極層12の一方の表面上に液密に設けられていてもよいし、第一電極層11や第二電極層12の側面を液密に封止するように設けられていてもよい。
また、
図1には図示していないが、浸透素子10は、第一電極層11及び第二電極層12の間にセパレータを更に含んでいてもよい。このようなセパレータを更に含めば、第一電極層11及び第二電極層12との間の距離を適切に保つことができる。
また、溶液13は、静置させても、撹拌機やスクリュー等を用いて流動させてもよい。
【0026】
図2は、
図1に示す浸透素子の使用例を示す概略断面図である。
図2に示すように、第一電極層11は、配線Wによって直流電源Eの負極に接続されており、第二電極層12は、配線Wによって直流電源Eの正極に接続されている。ここで、第一電極層11と第二電極層12との間に電界を印加すると、第一電極層11を介して溶液13中の溶媒が外部へ浸出(第一面111側から第二面112側への浸出)し得る。なお、
図2では、第一電極層11は負極、第二電極層12は正極に接続されているが、第一電極層11が正極、第二電極層12が負極に接続されていてもよい。
【0027】
<第一電極層>
第一の形態の浸透素子において、第一電極層は、導電性多孔質材料により形成された層、即ち、導電性及び多孔質性を有する層であり、電界を印加しない状態では溶媒が実質的に透過しないものである。ここで、導電性多孔質材料は、導電性を有するものであれば特に限定されず、導体であっても、半導体であっても、又はこれらの組み合わせであってもよい。第一電極層は、溶媒の浸出量を向上できることから、導電性多孔質材料として導体と半導体とを含むことが好ましい。
ここで、「導体と半導体とを含む」とは、導体としての性質を有する材料と、半導体としての性質を有する材料とを含むこと、並びに、導体としての性質及び半導体としての性質の両性質を有する材料を含むことの両方を意味する。
なお、第一電極層は、陰極層でも、陽極層でもよいが、溶媒の浸出量を向上できることから、陰極層であることが好ましい。
【0028】
ここで、導電性多孔質材料としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、白金、スズ、チタン、ステンレス、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ素、ゲルマニウム、これらの金属夫々の酸化物等の金属及び/又は金属含有材料:ナノカーボン材料、グラフェン、フラーレン、グラファイト、活性炭、カーボンファイバー、膨張黒鉛、カーボンブラック等のカーボン材料等が挙げられる。ナノカーボン材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンシート、カーボンナノホーン、ナノグラフェン等が挙げられる。
上記導電性多孔質材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
導電性多孔質材料はカーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料は、導電性に優れ、且つ、第一電極層の多孔質性を良好に保つことができるため、導電性多孔質材料がカーボン材料を含めば、溶媒の浸出量を向上できる。
また、カーボン材料は、ナノカーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料がナノカーボン材料を含めば、第一電極層の比表面積が大きくなり、第一電極層と溶媒との接触面積が増加して、溶媒の浸出量をより向上できる。
更に、ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)を含むことが好ましい。ナノカーボン材料がCNTを含めば、溶媒の浸出量を更に向上できる。その理由は定かではないが、CNTは、導体としての性質及び半導体としての性質の両性質を良好に有するためであると推察される。なお、このようなCNTを含む第一電極層としては、例えば、複数本のCNTを膜状に集合させて「バッキーペーパー」と称されることもあるCNT膜等が挙げられる。
【0030】
ここで、CNTは、グラフェンシートが筒形に巻かれた構造を有するナノカーボン材料であり、その周壁の構成数から単層CNTと多層CNTとに大別される。CNTは、配合量が少量であっても第一電極層の比表面積が大きくなり、第一電極層と溶媒との接触面積がより増加して、その結果、溶媒の浸出量をより一層向上できることから、単層CNTであることが好ましい。
【0031】
CNTの平均直径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
CNTの平均直径が上記範囲内であれば、第一電極層の表面積がより大きくなり、第一電極層と溶媒との接触面積がより増加して、その結果、溶媒の浸出量をより一層向上できる。
【0032】
CNTは、平均直径(Av)と直径の標準偏差(3σ)とが、関係式:0.60>「3σ/Av」>0.20を満たすことが好ましい。ここで言う「平均直径(Av)」、「直径分布(3σ)」は、それぞれ透過型電子顕微鏡で無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定した際の平均値、並びに標準偏差(σ)に3を乗じたものである。なお、本明細書における標準偏差は、標本標準偏差である。
上記関係式を満たすCNTを使用することで、第一電極層の耐屈曲性を向上できる。
上記関係式を満たすCNTは、CNTの製造方法や製造条件を変更することや、異なる製法で得られた複数種類のCNTを組み合わせることにより作製できる。
【0033】
CNTのBET比表面積は、600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることがより好ましく、1000m2/g以上であることが更に好ましい。
CNTのBET比表面積が上記下限以上であれば、第一電極層の耐屈曲性を向上させることができる。また、CNTのBET比表面積が上記下限以上であれば、第一電極層と溶媒との接触面積がより増加して、その結果、溶媒の浸出量をより一層向上できる。
CNTのBET比表面積は、例えば2600m2/g以下であり、2000m2/g以下でもよい。
本明細書において、CNTのBET比表面積は、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積である。なお、上記BET比表面積を有するCNTは、スーパーグロース法(国際公開第2006/011655号参照)等を用いて製造できる。
【0034】
CNTは、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が、0.5以上であることが好ましく、5.0以下であることが好ましい。
上記バンドピークを有するCNTは、スーパーグロース法(国際公開第2006/011655号参照)等を用いて製造できる。
【0035】
第一電極層は、本発明の目的を損なわない範囲において、導電性多孔質材料と、導電性多孔質材料とは異なる他の材料(以下、「他の材料」ともいう。)とが複合化されたものとすることができる。他の材料としては、バインダー、イオン含有材料等が挙げられる。
【0036】
バインダーとしては、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂等の一般的な樹脂が挙げられる。
【0037】
イオン含有材料としては、特に限定されず、例えば、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0038】
第一電極層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、導電性多孔質材料と、分散媒と、任意で、他の材料と、を混合して分散液を調製し、分散液から濾過等により分散媒を除去してシート状の第一電極層を形成する方法、上記分散液を調製し、分散液をセパレータ等の基板の上に塗布し、乾燥させて第一電極層の塗膜状の第一電極層を形成する方法等が挙げられる。なお、分散液の塗布方法としては、特に限定されないが、スプレー、印刷、ディスペンサー等の方法が挙げられる。
第一電極層としては、第一電極層の導電性及び多孔質性を良好に保つことができることから、シート状構造体を用いることが好ましい。また、導電性多孔質材料層がシート状構造体であれば、取り扱いが容易となり、浸透素子を容易に製造できる。
【0039】
第一電極層がシート状構造体である場合、シート状構造体はバインダーを含まないことが好ましい。バインダーとして用いられる樹脂は内部抵抗を向上させ得るため、シート状構造体がバインダーを含まなければ、シート状構造体の内部抵抗を低減できる。
【0040】
導電性多孔質材料を分散させる分散媒としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系極性有機分散媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
第一電極層の空隙率は、例えば60%以上であり、65%以上でもよく、70%以上でもよく、例えば90%以下であり、85%以下でもよく、80%以下でもよい。
なお、第一電極層の空隙率は、例えば、第一電極層の断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、その断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、得られたC元素の可視化像からSEM観察画像中のC元素の位置を特定し、視野全体におけるC元素の占有率(A)を算出して、下記式(1)により求めることができる。
空隙率(%)=100-A (1)
【0042】
第一電極層の厚みは、例えば20μm以上であり、30μm以上でもよく、40μm以上でもよく、例えば120μm以下であり、90μm以下でもよく、60μm以下でもよい
【0043】
<第二電極層>
第一の形態の浸透素子において、第二電極層は、電界を印加しない状態では溶媒が実質的に透過しないものである。第二電極層は、陽極層でも、陰極層でもよい。なお、第一電極層が陰極層である場合には第二電極層は陽極層であり、他方、第一電極層が陽極層である場合には第二電極層は陰極層である。
【0044】
第二電極層の材料としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、上述した金属及び/又は金属含有材料や、カーボン材料等を適宜用いることができる。
なお、第二電極層としては、上述した第一電極層と同様の電極層を用いることもできる。
【0045】
<溶液>
第一の形態の浸透素子において、溶液は、溶質及び溶媒を含有するものである。
溶媒としては、特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系極性有機溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水が好ましい。これらの溶媒は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
溶質としては、例えば、食塩等の電解質、染料等の着色剤等の種々の溶質が挙げられる。これらの溶質は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。溶質は、溶媒の浸出量を向上できることから、電解質を含むことが好ましい。
なお、本明細書において「溶液」には、水道水等も包含される。水道水には、例えば、塩素系化合物等が含まれ得る。
【0046】
<セパレータ>
第一の形態の浸透素子において、セパレータは、第一電極層及び第二電極層の間に溶媒が位置する場合に、第一電極層と第二電極層との間の距離を適切に保つために用いられるものである。
【0047】
セパレータは、多孔質性を有することが好ましい。セパレータが多孔質性を有すれば、セパレータに溶液を良好に含侵でき、その結果、第一電極層と第二電極層との間に溶液を均一に分散できる。
【0048】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂を含む樹脂製の微多孔質膜又は不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;紙;ポリマーゲル等を用いることができる。具体例を挙げると、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物或いは共重合体等の樹脂からなる微多孔質膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ナイロン等のポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔質膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの又はその不織布;絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。
【0049】
一実施形態において、セパレータは、無機酸化物材料を含むことが好ましい。セパレータが無機酸化物材料を含めば、浸透素子の使用時に化学反応等によって溶液中に発生し得る生成物を吸着できる。
【0050】
無機酸化物材料としては、特に限定されないが、アルミナ(酸化アルミニウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)、シリカ(酸化ケイ素)、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、吸着性能に優れることから、アルミナが好ましい。
【0051】
無機酸化物材料は繊維状構造体であることが好ましい。無機酸化物材料が繊維状構造体であれば、浸透素子の使用時に化学反応等によって溶液中に発生し得る生成物をより吸着できる。また、無機酸化物材料が繊維状構造体であれば、セパレータに溶液を良好に含侵でき、その結果、第一電極層と第二電極層との間に溶液を均一に分散できる。無機酸化物材料が繊維状構造体のセパレータとしては、無機酸化物材料の繊維シートを用いることができる。
【0052】
セパレータの厚みは、1mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましい。
【0053】
(第二の形態の浸透素子)
本発明の第二の形態の浸透素子は、導電性多孔質材料により形成された導電性多孔質材料層と、導電性多孔質材料層の一方の面上に形成された第一電極と、導電性多孔質材料層の一方の面上に形成された第一電極と、導電性多孔質材料層の他方の面上に形成された第二電極と、導電性多孔質材料層の他方の面側に配置された溶液と、を備える。そして、第二の形態の浸透素子は、第二電極に溶液が接した状態で、好ましくは第二電極及び導電性多孔質材料層に溶液が接した状態で、第一電極と第二電極との間に電界を印加した際に、導電性多孔質材料層を介して、溶液中の溶媒が第一電極側へ浸出するものである。このような浸透素子であれば、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できる。
【0054】
図3は、本発明の第二の形態の浸透素子の一例を示す概略断面図である。第二の形態の浸透素子20は、
図3に示すように、導電性多孔質材料層21と、導電性多孔質材料層21の一方の面上に形成された第一電極22と、導電性多孔質材料層21の他方の面上に形成された第二電極23と、導電性多孔質材料層21の他方の面側に配置された溶液24と、を備える。ここで、導電性多孔質材料層21は、溶液24と接する第一面211と、第一面211とは反対側に位置する第二面212とを有している。即ち、浸透素子20において、第一電極22は第二面212上に形成されており、第二電極23は第一面211上に形成されており、溶液24は第一面211側に配置されている。
なお、
図3では、第一電極22は1個であるが、2個以上の第一電極22を用いてもよい。また、
図3では、第二電極23は2個であるが、1個又は3個以上の第二電極23を用いてもよい。
【0055】
図3には図示していないが、浸透素子20は、封止板や筒等の封止部材を備えていてもよい。封止部材は、導電性多孔質材料層21の一方の表面上に液密に設けられていてもよいし、導電性多孔質材料層21の側面を液密に封止するように設けられていてもよい。
また、溶液24は、静置させても、撹拌機やスクリュー等を用いて流動させてもよい。
【0056】
図4は、
図3に示す浸透素子の使用例を示す概略断面図である。
図4に示すように、第一電極22は、配線Wによって直流電源Eの負極に接続されており、第二電極23は、配線Wによって直流電源Eの正極に接続されている。ここで、第一電極22と第二電極23との間に電界を印加すると、導電性多孔質材料層21を介して、溶液24中の溶媒が第一電極22側へ浸出(第一面211側から第二面212側へ浸出)し得る。なお、
図4では、第一電極22は負極、第二電極23は正極に接続されているが、第一電極22が正極、第二電極24が負極に接続されていてもよい。
【0057】
<導電性多孔質材料層>
第二の形態の浸透素子において、導電性多孔質材料層は、導電性多孔質材料により形成された層、即ち、導電性及び多孔質性を有する層であり、電界を印加しない状態では溶媒が実質的に透過しないものである。ここで、第二の形態の浸透素子における導電性多孔質材料層は、上記第一の形態の浸透素子における第一電極層と同様のものを好適に用いることができる。
なお、導電性多孔質材料及び他の材料の詳細については上述したため、ここでは説明を省略する。
【0058】
<第一電極>
第二の形態の浸透素子において、第一電極は、陰極でも、陽極でもよいが、溶媒の浸出量を向上できることから、陰極であることが好ましい。
【0059】
第一電極の材料としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、上述した金属及び/又は金属含有材料や、カーボン材料等を適宜用いることができる。
【0060】
第一電極の形状は、特に限定されず、例えば、棒状、円形状、リング状、シート状等の種々の形状とすることができる。
【0061】
<第二電極>
第二の形態の浸透素子において、第二電極は、陽極でも、陰極でもよい。なお、第一電極が陰極である場合には第二電極は陽極であり、他方、第一電極が陽極である場合には第二電極は陰極である。
【0062】
第二電極の材料としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、上述した金属及び/又は金属含有材料や、カーボン材料等を適宜用いることができる。
【0063】
第二電極の形状は、特に限定されず、例えば、棒状、円形状、リング状、シート状等の種々の形状とすることができる。
【0064】
ここで、浸透素子の一実施形態において、第二電極はリング状であり、第一電極は導電性多孔質材料層を介して、該リングの内周部の領域内に設けられていることが好ましい(例えば、後述の
図6及び
図7を参照)。このような浸透素子であれば、溶媒の浸透位置を上記範囲内に留めることができる。
【0065】
<溶液>
第二の形態の浸透素子において、溶液は、第一の形態の浸透素子における溶液と同様のものを好適に用いることができる。
なお、溶液の詳細については上述したため、ここでは説明を省略する。
【0066】
(浸透装置)
本発明の浸透装置は、上述した本発明の浸透素子と、直流電源とを備える。本発明の浸透装置は、第一電極層及び第二電極層、或いは、第一電極及び第二電極に、直流電源によって電界を印加した際に、導電性多孔質材料により形成された層を介して、溶液中の溶媒を浸出させることができる。本発明の浸透素子は、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できるため、これを備える本発明の浸透装置は、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できる。
直流電源は、電極として正極及び負極を備えるものであり、従来公知のものを用いることができる。
なお、浸透素子の電極層又は電極は、直流電源の電極と配線によって接続されている。配線としては、従来公知のものを用いることができる。
ここで、
図2及び
図4に示すものを本発明の浸透装置の一例とすることができる。
【0067】
(浸透方法)
本発明の浸透方法は、上述した本発明の浸透素子を用いる。そして、本発明の浸透方法では、第一電極層及び第二電極層、或いは、第一電極及び第二電極に電界を印加する。本発明の浸透素子は、印加する電界を適宜操作することによって、溶媒の浸透を容易に制御できるため、これを用いた浸透方法は、導電性多孔質材料により形成された層から溶液中の溶媒を浸出させることができる。
【0068】
電界の強さは、溶媒が導電性多孔質材料により形成された層を浸透する電圧であれば特に限定されないが、1V以上であることが好ましく、1.5V以上であることがより好ましく、5V以下であることが好ましく、3V以下であることがより好ましく、2V以下であることが更に好ましい。
電圧が上記下限以上であれば、溶媒の浸出量を向上できる。一方で、電圧が上記上限以下であれば、本発明の浸透方法におけるエネルギーコストを低減できる。
【実施例0069】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
なお、実施例において、各種の測定は以下の方法に従って行った。
【0070】
<空隙率の測定>
実施例で作製したシート状構造体の空隙率を、以下の手順で求めた。
まず、シート状構造体の断面を集束イオンビーム(FIB)で加工した。次いで、その断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、得られたC元素の可視化像からSEM観察画像中のC元素の位置を特定した。次いで、視野全体におけるC元素の占有率(A)を算出して、空隙率(%)を下記式(1)により求めた。
空隙率(%)=100-A (1)
【0071】
(実施例1)
<シート状構造体の作製>
CNT(ゼオンテクノロジー株式会社製、ZEONANO(登録商標)、SG101、BET比表面積:1,000m2/g以上)100部に、分散媒として20000部のエタノールを添加し、これを撹拌した。得られた分散液を、メンブレンフィルター(アドバンテック社製、商品名:T010A090C、孔径:0.1μm、直径:90mm)を用いて吸引濾過した。メンブレンフィルター上に得られた濾物を1Lのエタノールで洗浄した。洗浄後の濾物を十分に室温で乾燥させた後、更に真空乾燥を用い、80℃で2時間乾燥させて、厚み50μmの導電性多孔質材料より形成された層としてのシート状構造体を得た。得られたシート状構造体について空隙率を測定したところ、空隙率は75%であった。
【0072】
<試験体の作製>
次に、
図5に示す試験体30を作製した。
具体的には、まず、縦30mm×横10mmにカットしたシート状構造体を2枚(シート状構造体A31及びシート状構造体B33)、縦40mm×横30mmのポリイミドシート34、セパレータとして縦30mm×横20mm×厚み0.5mmのアルミナシート32(株式会社巴川製作所製、アルミナ繊維ペーパー)を準備した。
次いで、ポリイミドシート34及びシート状構造体B33の縦方向の上端を揃え、ポリイミドシート34及びシート状構造体B33の横方向の中心が重なるようにして、シート状構造体B33をポリイミドシート34の表面に両面テープ(図示せず)を用いて固定した。なお、ポリイミドシート34の縦方向の下端側には、幅10mmの余白部分(ポリイミドシート34のみの部分)が残っていた。
次いで、シート状構造体B33の上端から縦方向に5mmずらし、シート状構造体B33及びアルミナシート32の横方向の中心が重なるようにして、アルミナシート32をシート状構造体B33の表面に両面テープ(図示せず)を用いて固定した。なお、ポリイミドシート34の縦方向の下端側には、まだ幅5mmの余白部分(ポリイミドシート34のみの部分)が残っていた。
次いで、長さ30mm×幅5mmのポリイミドテープ35を、幅5mmの余白部分からはみ出ないようにして2重に貼り付けて、シート状構造体B33及びアルミナシート32の厚みによる段差を軽減させた。
次いで、アルミナシート32の上端から縦方向に5mm(即ち、シート状構造体B33の上端から縦方向に10mm)ずらし、アルミナシート32及びシート状構造体A31の横方向の中心が重なるようにして、シート状構造体A31をアルミナシート32の表面に両面テープ(図示せず)を用いて固定した。
次いで、ポリイミドシート34の中央を、縦30mm×横20mm切り抜いて穴を開け、
図5に示す試験体30を作製した。なお、シート状構造体A31において、アルミナシート32側の面は第一面311であり、アルミナシート32とは反対側の面は第二面312である。
【0073】
<第一の形態の浸透素子の製造>
上記で作製した試験片30のアルミナシート32に溶液として水道水(溶質:塩素系化合物)を含侵させて、第一の形態の浸透素子を製造した。
【0074】
<発電装置の製造>
配線を用いて、直流電源の負極とシート状構造体A31(第一電極層)、及び、直流電源の正極とシート状構造体B33(第二電極層)をそれぞれ接続し、浸透装置を製造した。
【0075】
<浸透試験>
直流電源を用いて、上記浸透装置のシート状構造体A31及びシート状構造体B33に3Vの直流電圧を印加したところ、シート状構造体A31から水が染み出た。他方、シート状構造体B33からは水は殆ど染み出なかった。
次いで、シート状構造体B33が直流電源の負極と接続され、シート状構造体A31が直流電源の正極と接続されるように配線を繋ぎ直し、再度3Vの直流電圧を印加したところ、今度は、シート状構造体B33から水が染み出たが、シート状構造体A31からは水は殆ど染み出なかった。
【0076】
(実施例2)
水道水を0.3質量%食塩水に変更し、直流電圧を1.5Vに変更したこと以外は実施例1と同様にして各種操作及び試験を行った。
浸透試験の結果、実施例1よりも低い1.5Vであったにも関わらず、シート状構造体A31から液体が勢いよく染み出た。この液体をpH試験紙及び顕微鏡観察で確認したところ、液体は水のみであることが明らかとなった。他方、シート状構造体B33からは液体は殆ど染み出なかった。
実施例1と同様に、配線を繋ぎ直すと、今度は、シート状構造体B33から液体(水)が勢いよく染み出たが、シート状構造体A31からは液体は殆ど染み出なかった。
【0077】
(実施例3)
水道水を、水溶性の赤色染料を1%混ぜた水溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作及び試験を行った。
浸透試験の結果、シート状構造体A31から無色透明の水が染み出たが、赤色染料は染み出なかった。他方、シート状構造体B33からは水は殆ど染み出ず、赤色染料も染み出なかった。
実施例1と同様に、配線を繋ぎ直すと、今度は、シート状構造体B33から無色透明の水が染み出たが、シート状構造体A31からは水は殆ど染み出ず、赤色染料も染み出なかった。
【0078】
(実施例4)
<試験体の作製>
実施例1で作製したシート状構造体を用いて、
図6及び
図7に示す試験体40を作製した。
具体的には、まず、シート状構造体を100mm×100mmにカットした(シート状構造体41)。
次いで、シート状構造体41の第一面411上に、銀ペーストを塗布して、内径がφ20mm、幅が1mmのリング状の銀電極B43を2つ形成した。
次いで、シート状構造体41を介して(第二面412側)、銀電極B43のリングの内周部の領域内に銀ペーストをそれぞれ塗布して、外径がφ2mmの円形状の銀電極A42を2つ形成して、試験体40を作製した。
【0079】
<第二の形態の浸透素子(浸透装置)の製造>
まず、配線を用いて、直流電源の負極と銀電極A42(第一電極)、及び、直流電源の正極と銀電極B43(第二電極)をそれぞれ接続した。
次いで、内径がφ50mmの筒を準備し、2つの銀電極B43が筒の内側に入るように、シート状構造体41(導電性多孔質材料層)を筒の片側の開放部に貼り付けた。
次いで、筒の内側を水道水で満たして、第二の形態の浸透素子(浸透装置)を製造した。
【0080】
<浸透試験>
直流電源を用いて、上記浸透装置の銀電極A42及び銀電極B43に3Vの直流電圧を印加したところ、シート状構造体41における銀電極B43のリングの内周部の領域内から水が染み出た。
次いで、銀電極B43が直流電源の負極と接続され、銀電極A42が直流電源の正極と接続されるように配線を繋ぎ直し、再度3Vの直流電圧を印加したところ、シート状構造体41から水は染み出なかった。
【0081】
上記実施例1~4の浸透試験の結果からも明らかなように、実施例1~4の浸透素子を用いると、印加する電界を適宜操作することによって、導電性多孔質材料により形成された層に接した溶液に含まれる溶媒の浸透を容易に制御可能であることが分かる。