IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特開2023-166990繊維加工品、及び繊維加工品の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166990
(43)【公開日】2023-11-22
(54)【発明の名称】繊維加工品、及び繊維加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/03 20060101AFI20231115BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20231115BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20231115BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20231115BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
D06M15/03
D06M15/263
D06M15/564
D06M15/643
D06M15/693
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073656
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2022077500
(32)【優先日】2022-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直人
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 立規
(72)【発明者】
【氏名】桜井 美弥
(72)【発明者】
【氏名】河中 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山口 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 吉延
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC07
4L033AC15
4L033CA02
4L033CA18
4L033CA50
4L033CA59
4L033CA68
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、吸水性、吸湿性および放湿性に優れ、肌触りの良く、耐洗濯性にも優れる繊維加工品が得られる繊維処理剤組成物、繊維加工品、及び繊維加工品の製造方法を提供することができる。
【解決手段】本発明の繊維加工品の製造方法は、所定の繊維処理剤組成物を用いて繊維基材を処理し、繊維加工品を得る工程を有する。前記繊維処理剤組成物が、繊維処理剤と、水と、を含み、前記繊維処理剤が硫酸化多糖類を含み、前記繊維処理剤組成物における前記硫酸化多糖類の含有量が、0.001~5質量%である。前記製造方法が、前記繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程と、を含む。前記製造方法が、さらに、予備処理繊維基材を得る工程、温度範囲80℃~260℃の加熱処理工程、又は温度範囲120℃以上の高温水蒸気による熱処理工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維処理剤組成物を用いて繊維基材を処理し、繊維加工品を得る工程を有する、繊維加工品の製造方法であって、
前記繊維処理剤組成物が、繊維処理剤と、水と、を含み、
前記繊維処理剤が硫酸化多糖類を含み、
前記繊維処理剤組成物における前記硫酸化多糖類の含有量が、0.001~5質量%であり、
前記製造方法が、前記繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程と、を含み、
下記(I)~(III)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、繊維加工品の製造方法。
(I)前記付着工程の前に、更にカチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物を用いて繊維基材を予備処理してからなる予備処理繊維基材を得る工程を含み、
前記付着工程は、前記予備処理繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する工程である。
(II)前記繊維処理剤組成物が更に架橋剤を含み、前記乾燥工程が、温度範囲80℃~260℃の加熱処理工程を含む。
(III)前記乾燥工程が、温度範囲120℃以上の高温水蒸気による熱処理工程を含む。
【請求項2】
前記硫酸化多糖類が藻類を起源とする硫酸化多糖類である、請求項1に記載の、繊維加工品の製造方法。
【請求項3】
前記繊維処理剤が、更にバインダーを含む、請求項1又は2に記載の、繊維加工品の製造方法。
【請求項4】
前記バインダーが、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ブタジエン系重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、天然ゴム、シリコーン樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の、繊維加工品の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸化多糖類100質量部に対して、前記バインダーの含有量が、1~1,000質量部である、請求項3に記載の、繊維加工品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の、繊維加工品の製造方法を用いて、製造された繊維加工品であって、
前記繊維基材における前記繊維処理剤の付着量は、前記繊維基材100質量部に対して、0.001~10.0質量部である、繊維加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維加工品、及び繊維加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維に保湿性などの機能性を付与するため、各種機能剤を繊維表面に付着させること又は繊維内部に含ませることが行われている。例えば、特許文献1には、吸湿性、吸水性および速乾性に優れたレーヨン繊維を得るために、レーヨン100質量部あたりスイゼンジノリ由来多糖体0.01~0.5質量部の割合でスイゼンジノリ由来多糖体を含有するレーヨン繊維が提案されている。吸湿性、吸水性および速乾性に優れたレーヨン繊維が得られると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-11542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、レーヨンの繊維原料液にスイゼンジノリ由来多糖体を溶解させた後に紡糸することが記載されている。繊維の内部にも繊維処理剤を含ませるため、繊維本来の特性の維持と、吸湿性などの新たに付与する特性とのが両立に問題があった。また、レーヨン以外の植物繊維、動物繊維、および合成繊維などに対しては、各種繊維の原料液や繊維自身にスイゼンジノリ由来多糖類を混合することが難しく、レーヨン以外の繊維への展開に問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、硫酸化多糖類を含む繊維処理剤組成物を用いることで、吸水性、吸湿性および放湿性に優れ、肌触りの良い繊維加工品を提供することを目的とする。更に、前記特性に加え、洗濯後でも機能性が消失しない耐洗濯性を付与した繊維加工品を提供することを目的とする。また、繊維加工品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の内容は、以下の実施態様[1]~[6]を含む。
[1] 繊維処理剤組成物を用いて繊維基材を処理し、繊維加工品を得る工程を有する、繊維加工品の製造方法であって、
前記繊維処理剤組成物が、繊維処理剤と、水と、を含み、
前記繊維処理剤が硫酸化多糖類を含み、
前記繊維処理剤組成物における前記硫酸化多糖類の含有量が、0.001~5質量%であり、
前記製造方法が、前記繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程と、を含み、
下記(I)~(III)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、繊維加工品の製造方法。
(I)前記付着工程の前に、更にカチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物を用いて繊維基材を予備処理してからなる予備処理繊維基材を得る工程を含み、
前記付着工程は、前記予備処理繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する工程である。
(II)前記繊維処理剤組成物が更に架橋剤を含み、前記乾燥工程が、温度範囲80℃~260℃の加熱処理工程を含む。
(III)前記乾燥工程が、温度範囲120℃以上の高温水蒸気による熱処理工程を含む。
[2] 前記硫酸化多糖類が藻類を起源とする硫酸化多糖類である、[1]に記載の、繊維加工品の製造方法。
[3] 前記繊維処理剤が、更にバインダーを含む、[1]又は[2]に記載の、繊維加工品の製造方法。
[4] 前記バインダーが、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ブタジエン系重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、天然ゴム、シリコーン樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、[3]に記載の、繊維加工品の製造方法。
[5] 前記硫酸化多糖類100質量部に対して、前記バインダーの含有量が、1~1,000質量部である、[3]又は[4]に記載の、繊維加工品の製造方法。
[6] [1]~[5]の何れかに記載の、繊維加工品の製造方法を用いて、製造された繊維加工品であって、
前記繊維基材における前記繊維処理剤の付着量は、前記繊維基材100質量部に対して、0.001~20.0質量部である、繊維加工品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吸水性、吸湿性および放湿性に優れ、肌触りの良い繊維加工品、及び繊維加工品の製造方法を提供することができる。更に、洗濯しても機能性が低下しない耐洗濯性を付与した繊維加工品、及び繊維加工品の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0009】
「~」は「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。
【0010】
(繊維加工品)
本実施形態に係る繊維加工品は、繊維基材と、前記繊維基材に付着した繊維処理剤と、を含む。前記繊維処理剤が、硫酸化多糖類を含む。前記繊維基材が、レーヨンを含まない。前記繊維基材における前記繊維処理剤の付着量は、前記繊維基材100重量部に対して、0.001~20.0質量部であり、0.001~10.0質量部であってもよい。好ましくは0.001~5.0質量部であることが好ましく、0.001~1.0質量部であることがより好ましく、0.003~0.5質量部であることがさらに好ましく、0.005~0.2質量部であることが最も好ましい。前記繊維基材における前記繊維処理剤の付着量は、前記繊維基材100重量部に対して、0.001質量部以上である場合、繊維基材に硫酸化多糖による吸水性、保湿性、吸湿性および放湿性、防汚性、帯電防止性などの機能性や耐洗濯性を十分に付与できるため、好ましい。20.0質量部以下である場合、繊維基材自身の持つ性能が維持され、また、後述の本実施形態にかかる繊維処理剤組成物を用いて得られる繊維加工品の強度、風合いの低下がないため、好ましい。
【0011】
[繊維処理剤]
本実施形態に係る繊維処理剤は、後述の繊維加工品の製造方法(加工方法)を用いて、後述の本実施形態に係る繊維処理剤組成物を前記繊維基材に付着した後、その付着された繊維処理剤組成物から水を除く乾燥工程を経て、前記繊維基材の表面に付着したものである。また、本実施形態に係る繊維処理剤は、例えば、後述の[繊維加工品の製造方法の具体例]のように、前述の本実施形態の繊維処理剤組成物を用いて繊維基材に付着する前に、更に、カチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物を用いて繊維基材を予備処理して、予備処理繊維基材を得る工程を含む第一実施態様の製造方法を経て、前記繊維基材の表面に付着したものであっても良い。
本実施形態に係る繊維処理剤は、より洗濯耐性を持たせるために、硫酸化多糖類の他にバインダーまたは架橋剤のいずれかまたは両方を含んでいても良い。硫酸化多糖類とバインダー、及びそれらの好ましい態様については、後述の「硫酸化多糖類」及び「バインダー」で説明したものと同様である。
本実施形態に係る繊維処理剤は、例えば、後述の第一実施態様の製造方法を用いる場合、硫酸化多糖類の他にバインダーまたは架橋剤を含まなくても、洗濯耐性を持たせることができる。硫酸化多糖類の他にバインダーまたは架橋剤のいずれかまたは両方を含んでいても良い。
ただし、本実施形態の繊維加工品に含まれている前記繊維処理剤は、前記繊維基材の表面に付着した後述の本実施形態に係る繊維処理剤組成物を乾燥してなるものである。
【0012】
[繊維処理剤組成物]
本実施形態に係る繊維処理剤組成物は、繊維処理剤と、水と、を含む。前記繊維処理剤が硫酸化多糖類を含む。前記繊維処理剤組成物における前記硫酸化多糖類の含有量は、0.001~5.0質量%であり、0.001~1.0質量%であることが好ましく、0.001~0.5質量%であることがより好ましく、0.003~0.3質量%であることがさらに好ましく、0.005~0.2質量%であることが最も好ましい。
【0013】
〔繊維処理剤〕
本実施形態に係る繊維処理剤が硫酸化多糖類を含む。本実施形態に係る繊維処理剤が、硫酸化多糖類とバインダーとを含むことが好ましい。本実施形態に係る繊維処理剤が、さらに他の添加剤を含むことができる。
前記繊維処理剤における硫酸化多糖類の含有量は、5~100質量%であることが好ましく、9~99質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましい。前記繊維処理剤における硫酸化多糖類の含有量が20質量%以上である場合、繊維基材に硫酸化多糖による吸水性、保湿性、吸湿性および放湿性、防汚性、帯電防止性などの機能性や耐洗濯性を十分に付与できるため、特に好ましく、80質量%以下である場合、硫酸化多糖がバインダーを介して繊維に十分固着されるため、特に好ましい。
前記繊維処理剤がバインダーを含む場合、前記繊維処理剤におけるバインダーの含有量は、1~91質量%であることが好ましく、5~90質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましい。前記繊維処理剤におけるバインダーの含有量が20質量%以上である場合、このバインダーを介して硫酸化多糖類を繊維に十分に固着できるため、特に好ましく、質量80%以下である場合、硫酸化多糖類による吸水性、保湿性、吸湿性および放湿性、防汚性、帯電防止性などの機能性や耐洗濯性を妨げないため、特に好ましい。
【0014】
前記繊維処理剤における硫酸化多糖類100質量部に対して、バインダーの含有量は、1~1,000質量部であることが好ましく、5~800質量部であることがより好ましく、25~400質量部であることがさらに好ましい。硫酸化多糖類100質量部に対してバインダーの含有量が25質量部以上である場合、バインダーを介して硫酸化多糖類を繊維に十分に固着できるため、好ましく、400質量部以下である場合、バインダーを介して硫酸化多糖類を繊維に十分に固着できるため、好ましい。
【0015】
<硫酸化多糖類>
硫酸化多糖類(sulfated polysaccharide)とは、グルコースなどの糖類が長く結合した「糖鎖」と呼ばれる化合物の一種で、硫酸基による化学修飾を受けた多糖類の総称である。本実施形態にかかる硫酸化多糖類としては、天然に存在するもの、又は人工的に硫酸基を付加したものなどが挙げられる。
本実施形態にかかる硫酸化多糖類の重量平均分子量は、本発明の効果が得られる範囲において特に制限されるものではないが、50万~3,000万であり、100万~2,500万であると繊維に固着後の耐久性から好ましく、200万~2,000万であると本発明の繊維処理剤組成物としての分散安定性が好適なものとなるため更に好ましい。
【0016】
本実施形態にかかる硫酸化多糖類は、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種以上;D-グルコサミン、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸、D-ガラクツロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロースなどから構成される公知の多糖類の一部に硫酸基を有する多糖類及びこれらの塩からなる群、天然起源である硫酸化多糖類などが挙げられるが、天然起源である硫酸化多糖類であることが好ましい。
前記天然起源である硫酸化多糖類は、例えば、藻類を起源とする硫酸化多糖類であることが好ましい。前記藻類を起源とする硫酸化多糖類としては、例えば、大型藻類、微小藻類又はラン藻類(藍藻、blue-green algae)由来の少なくとも1つの硫酸化多糖類、又はさらに、大型藻類、微小藻類又はラン藻類由来の硫酸化多糖類の混合物等が挙げられる。
例えば、以下の藻類を起源とする多糖類から選択される少なくとも1種類の硫酸化多糖類が挙げられる。
【0017】
グラシラリア(Gracilaria)、ハリメニア(Halymenia)、ゲリジウム(Gelidium)、プテロクラジア(Pterocladia)、アカントペリチス(Acanthopeltis)、カンピラエフォリア(Campylaephora)、セラニウム(Ceranium)、ユーケウマ(Eucheuma)、コンドラス(Chondrus)、ポルフィラ(Porphyra)、ラウレンシア(Laurencia)、フルセラリア(Furcellaria)、グロイオペルチス(Gloiopeltis)及びイリデア(Iridea)属の、寒天、カラギーナン、ポルフィリン、フラン、又は複合硫酸化ガラクタンを生成する紅藻類(Rhodophyceae)の中から選択された赤大型藻類;
アオサ(Ulva)属の、多糖類、例えばウルバン(ulvan)を生成する緑藻(Chlorophyceae)から選択された緑大型藻類;
フカス(Fucus)、アスコフィラム(Aschophyllum)又はクラドシフォン(Cladosiphon)属の、硫酸化フランを生成する褐藻類(Pheophyceae)から選択された褐色大型藻類。スイゼンジノリ(水前寺苔、Aphanothece sacrum)などのラン藻類。
以上の藻類を起源とする硫酸化多糖類のなかでも、スイゼンジノリ由来の硫酸化多糖類であることが好ましい。スイゼンジノリとはクロオコッカス目に属する光合成能を有する真性細菌の一種である。前記スイゼンジノリは九州の特定地域に自生し、複数の細胞が平らな形状の群体を形成する淡水性藍藻類である。また、その群体の外面は多糖類などにより形成されるゲル状の分泌物に覆われており、群体の直径は50mm程度の大きさにまで成長する。
【0018】
本実施形態にかかる硫酸化多糖類は、公知の多糖類の化学的修飾により得られる少なくとも1つの硫酸化多糖類を用いることができる。
【0019】
本実施形態にかかる硫酸化多糖類は、淡水性ラン藻類スイゼンジノリAphanothece sacrum由来で、平均分子量が2,000,000以上であり、ヘキソース構造を持つ糖構造体及びペントース構造を持つ糖構造体がα-グリコシド結合又はβ-グリコシド結合により直鎖状又は分岐鎖状に連結した糖鎖ユニットの繰り返し構造を持ち、前記糖鎖ユニットにおいては、水酸基100個当たり2.7個以上の水酸基が硫酸化され、あるいは全元素中で硫黄元素が1.5重量%以上を占める糖誘導体であって、前記糖鎖ユニットが、糖構造体として乳酸化された硫酸化糖を含む糖誘導体であることが好ましい。
なお、「スイゼンジノリ由来」との規定は、物質としての糖誘導体を特定するための規定の一部であって、糖誘導体の取得源あるいは製造方法を限定するものではない。
前記硫酸化糖が、硫酸化ムラミン酸及び硫酸化N-アセチルムラミン酸から選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記糖誘導体には少なくとも化学式(a)に示すグルコース、ガラクトース及びマンノースと、化学式(b)に示すガラクトサミンと、化学式(c)に示すキシロース及びアラビノースと、化学式(d)に示すグルクロン酸及びガラクツロン酸と、化学式(e)に示すフコース及びラムノースとが含まれ、かつ、これらの糖構造体における任意の結合位置に、少なくとも硫酸基、乳酸基、メチル基を含む官能基群から選ばれる官能基が結合している。
【0020】
【化1】
(a)
【0021】
【化2】
(b)
【0022】
【化3】
(c)
【0023】
【化4】
(d)
【0024】
【化5】
(e)
【0025】
前記糖誘導体を構成する糖構造体の一部が、更にペプチド又は脂質と結合してもよい。前記淡水性藍藻類スイゼンジノリAphanothece sacrum由来で、平均分子量が2,000,000以上であり、かつ、少なくとも、下記の化学式(f)に示す配列を持つ3糖構造と下記(i)~(vi)に列挙する配列を持つ2糖構造の全てとを含む糖誘導体である。
【0026】
【化6】
(f)
【0027】
(化学式(f)はヘキソースと、ヘキソースと、N-アセチルムラミン酸との3糖構造であることを示し、R、Riiは糖を示す。化学式(f)中の任意の-OHが-OSO 又は-OCHとなっているものを含む。)
(i)ヘキソースと、キシロース又はアラビノースであるペントースとの2糖構造。
(ii)ヘキソースと、フコース又はラムノースであるデオキシヘキソースとの2糖構造。
(iii)ペントースとペントースとの2糖構造。
(iv)ペントースとデオキシヘキソースとの2糖構造。
(v)ヘキソサミンとヘキンサミンとの2糖構造。
(vi)グルクロン酸又はガラクツロン酸であるウロン酸と、デオキシヘキソースとの2糖構造。
【0028】
前記糖誘導体の平均分子量が20,000,000以上であってもよい。
前記糖誘導体を構成する主要な糖構造体のモル比が、アラビノース1.1:フコース3.7:ラムノース15.4:キシロース17.0:マンノース10.5:ガラクトース12.3:ガラクツロン酸4.6:グルクロン酸4.7:グルコース28.8:ガラクトサミン2.03であってよい。
【0029】
前記糖誘導体は、淡水性藍藻類スイゼンジノリAphanothece sacrumを原料として粗糖誘導体を抽出し、そのまま使用してもよく、また、必要な場合には更にこれを精製して使用してもよい。
【0030】
本実施形態にかかる硫酸化多糖類は、少なくとも、(i)6-デオキシ糖(および/またはペントース)、(ii)ウロン酸、(iii)ヘキサピラノース、(iv)硫酸化ムラミン酸といった単糖を構成単位として含む多糖類であることが好ましい。上記単糖由来の構成単位を有する硫酸化多糖類において、上記各構成単位の配列に特に限定されなく、例えば、(i)(ii)(iii)(iv)の順であってもよい。本実施形態にかかる硫酸化多糖類は、特に、下記式(1)に示す硫酸化多糖類が好ましい。なお、式(1)に示す構成単位(単糖)の配列は一例であり、構成単位の配列は一般式(1)の配列に限定されない。
【0031】
【化7】
【0032】
上記(i)~(iv)単糖由来の構成単位を有する硫酸化多糖類を構成する単糖の割合および平均分子量は、特に限定されない。例えば、一例として、前記硫酸化多糖類の全構成単位に占める硫酸化ムラミン酸の割合が0.1~20モル%の範囲にあってもよく、全構成単位に占めるウロン酸の割合が1~50モル%の範囲にあってもよい。また、前期硫酸化多糖類は、各糖残基当たり1~50モル%の硫酸基含有率であってもよく、5~25モル%の硫酸基含有率が好ましい。また、前期硫酸化多糖類は、各糖残基当たり5~80モル%のカルボン酸含有率であってもよく、10~50モル%のカルボン酸含有率であることが好ましい。
また、前期硫酸化多糖の構成糖の種類は3種類以上あっても良く、5種類以上であることが好ましい。また、前記硫酸化多糖類の重量平均分子量は、本発明の効果が得られる範囲において特に制限されるものではないが、50万~3,000万であり、100万~2,500万であると繊維に固着後の耐久性から好ましく、200万~2,000万であると本発明の繊維処理剤組成物としての分散安定性が好適なものとなるため更に好ましい。
【0033】
「サクラン」
スイゼンジノリ由来の硫酸化多糖類としては、例えば、「サクラン(登録商標)」が挙げられる。本実施形態に係る硫酸化多糖類の一種であるサクランは、日本固有種であるスイゼンジノリから抽出された多糖類である。本実施形態にかかるサクランは、スイゼンジノリ由来のものに限定されないが、スイゼンジノリ由来の硫酸化多糖類であることが好ましい。
本実施形態にかかるサクラン(登録商標)は、スイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)から抽出される高分子と同じ構成単位を含む高分子である。たとえば、6-デオキシ糖(および/またはペントース)、ウロン酸、ヘキサピラノース、硫酸化ムラミン酸といった単糖を構成単位として含む硫酸化多糖類であってもよい。そのようなサクランの好ましい例は、スイゼンジノリから抽出される硫酸化多糖(以下、「サクラン」という場合がある)である。スイゼンジノリからサクランを抽出する方法の一例については、国際公開WO2008/062574号公報に記載されている。
【0034】
例えば、前記スイゼンジノリからサクラン(登録商標)を抽出する具体的な方法としては、適量のスイゼンジノリを凍結、水洗いすることで水溶性色素を除去し、次いでエタノールなどの有機溶媒により脂溶性色素を除去し、スイゼンジノリの藻体を乾燥する。その後得られたスイゼンジノリ乾燥藻体に0.1Nの水酸化ナトリウムを添加し、60~80℃で6時間撹拌を行う。前記操作から得られた糖誘導体液を中和後、濾過、濃縮し、乾燥する方法等が挙げられる。また、他の一例では、スイゼンジノリの水分散液をオートクレーブ中において135℃で30分間加熱することによってスイゼンジノリからサクランを抽出できる。抽出されたサクランは、遠心分離、ろ過、アルコール洗浄などによって精製してもよい。また、スイゼンジノリからサクランを抽出する前に、スイゼンジノリを凍結したのち融解させ、その後に色素を除去する工程を行ってもよい。
本実施形態に係るサクランは、(A):6-デオキシ糖(および/またはペントース)、(B):ウロン酸、(C):ウロン酸、(D):ヘキサピラノース、(F):硫酸化ムラミン酸といった単糖を構成単位として含む多糖類である。それらが連結されている状態の一例を下記式(1)に示す。なお、式(1)に示す構成単位(単糖)の配列は一例であり、構成単位の配列は一般式(2)の配列に限定されない。
【0035】
【化8】
【0036】
本実施形態にサクランを構成する単糖の割合および平均分子量は、スイゼンジノリの採取時期や採取場所によって変化する。一例のサクランでは、全構成単位に占める硫酸化ムラミン酸の割合が0.1~20モル%の範囲にあり、全構成単位に占めるウロン酸の割合が1~50モル%の範囲にある。
また、一例のサクランの重量平均分子量は、100万~3,000万の範囲にある。
【0037】
本実施形態に係るサクランの具体例としては、例えば、グリーンサイエンス・マテリアル株式会社製のサクランが挙げられる。
【0038】
<バインダー>
本実施形態に係るバインダーとしては、繊維に硫酸化多糖を固着させる機能を有するものであり、水と混合する化合物、または水に安定に分散する水分散体を用いることが好ましい。また、前記バインダーは繊維と硫酸化多糖との親和性を高めるために、アニオン性やカチオン性のイオン性基を持つことが好ましい。前記バインダーとしては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ブタジエン系重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、天然ゴム、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。バインダーの態様としては、エマルション、ディスパーション、パウダー、等いずれでも使用できる。前記バインダーとしては、例えば、アクリル樹脂水分散体、ウレタン樹脂水分散体、ブタジエン系重合体水分散体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体水分散体、天然ゴムラテックス、ポリエステル樹脂水分散体、シリコーン樹脂水分散体等を用いることができる。これらのバインダーにイオン性基を導入するには、イオン性基を有するモノマー由来の単位を共重合することができる。イオン性基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの酸性基を有するもの、或いはその一部又は全部を水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物や、アンモニア、トリエチルアミン等の有機物などの塩基で中和したアニオン性基;アミノ基等の塩基性基を有するもの、或いはその一部を無機酸や有機酸で中和したカチオン性基などが挙げられる。また、バインダーとして前記分散体の他に、ポリアリルアミンや四級アンモニウム塩・ピリジニイウム塩構造などを有するカチオン性樹脂も使用することができる。これらのバインダーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた後述繊維加工品の風合いと吸水性などが得られる点から、アクリル樹脂水分散体、及び/又は、ウレタン樹脂水分散体を用いることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るバインダーには、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂エマルジョンや溶液樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂組成物をバインダーとして含有していてもよい。
【0040】
本実施形態に係るバインダーを以下に例示する。
【0041】
「アクリル系樹脂」
【0042】
前記アクリル樹脂水分散体としては、例えば、アクリル単量体を必須成分とした重合性単量体を重合したものである。また、後述する水への溶解ないし分散を良好とするため、カルボキシル基を有する重合性単量体を用いたものが好ましい。
【0043】
前記アクリル樹脂水分散体の原料として用いるアクリル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキル基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;トリメチルシロキシエチル(メタ)アクリレート等のシラン系(メタ)アクリレート;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン化合物;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート化合物(c)は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいう。
【0045】
また、前記アクリル樹脂水分散体にカルボキシル基を導入する場合、その原料として、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体を用いることができる。これらの重合性単量体は単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、これらのカルボキシル基を有する重合性単量体を用いて、前記アクリル樹脂水分散体にカルボキシル基を導入した後、当該カルボキシル基の一部又は全部を水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物;アンモニア、トリエチルアミン等の有機物などの塩基で中和してもよい。
【0046】
前記アクリル樹脂水分散体の製造方法としては、例えば、公知の乳化重合法を用いることができる。
【0047】
前記アクリル樹脂としては、例えば、DIC株式会社製の繊維加工用アクリル樹脂 DEXCEL HPS PAD 602、DIC株式会社製、SP-931が挙げられる。
【0048】
「ウレタン系樹脂」
前記ウレタン樹脂水分散体は、ウレタン樹脂が水または水性媒体中に分散等し得るものであり、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有する水性ウレタン樹脂;乳化剤で強制的に水性媒体中に分散した水性ウレタン樹脂などを用いることができる。これらのウレタン樹脂水分散体は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記アニオン性基を有する水性ウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物及びスルホニル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を原料として用いる方法が挙げられる。
【0050】
前記カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記スルホニル基を有する化合物としては、例えば、3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2,6-ジアミノベンゼンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルスルホン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記カルボキシル基及びスルホニル基は、水性ウレタン樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物などを用いることができる。
【0053】
前記カチオン性基を有する水性ウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、アミノ基を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0054】
前記アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン等の1級及び2級アミノ基を有する化合物;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のN-アルキルジアルカノールアミン、N-メチルジアミノエチルアミン、N-エチルジアミノエチルアミン等のN-アルキルジアミノアルキルアミンなどの3級アミノ基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記ノニオン性基を有する水性ウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0056】
前記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記強制的に水中に分散する水性ウレタン樹脂を得る際に用いることができる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤などを用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記ウレタン樹脂水分散体としては、具体的には、ポリイソシアネート、ポリオール、前記した親水性基を有する水性ウレタン樹脂を製造するために用いる原料により得られるものを用いることができる。これらの反応は公知のウレタン化反応を用いることができる。
【0059】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
「ポリエステル樹脂」
ポリエステル樹脂としては、1種以上のポリオールと、1種以上のポリカルボン酸とを重縮合反応して得られるポリエステル樹脂が挙げられる。前記のポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンチルグリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ヘプタンジオール、水素化ビスフェノ-ルA、ビスフェノールAとプロピレンオキシド又はエチレンオキシドの付加物などが挙げられる。
ポリカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和二塩基酸及びその無水物;フタル酸、無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸及びこれらのエステル等があり、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘット酸、1,1-シクロブタンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、コハク酸無水物、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12-ドデカン二酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の飽和二塩基酸及びその無水物などが挙げられる。
また、繊維への親和性を高めるために、ポリエステル樹脂中にイオン性基を導入することが好ましい。イオン性基としてはスルホン酸塩基、カルボン酸塩基、リン酸塩基等が挙げられるが、これらに限定されたものではない。
ポリエステル樹脂中にイオン性基を導入する方法としては、例えばカルボン酸の場合、ポリエステル樹脂を重合した後に、常圧、窒素雰囲気下で無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水1,8-ナフタル酸、無水1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸-3,4-無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、ナフタレン-1,8:4,5-テトラカルボン酸二無水物などから1種または2種以上を付加反応させることができる。
【0062】
「シリコーン樹脂」
前記シリコーン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルシロキサンを主たる構成単位として有するオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。オルガノポリシロキサンには、水溶性または水分散性を付与するために、必要に応じて、水酸基その他の官能基が導入されていてもよい。
【0063】
「カチオン性樹脂」
本実施形態に係るカチオン樹脂は、カチオン性基を含む。カチオン性基としては、例えば、アミノ基(例えば、一級アミノ基、二級アミノ基及び三級アミノ基)及び四級アンモニウム基が挙げられる。なお、三級アミノ基は、芳香族複素環(例えば、ピリジン環)を形成していてもよい。二級アミノ基は、複素環式アミン基(例えば、ピぺリジン環及びピロリジン環)を形成していてもよい。カチオン性基としては、アミノ基又は四級アンモニウム基が好ましく、トリメチルアンモニウム基、ジメチルアミノ基、ピリジル基、下記化学式(A)で表される基、及び-NHが挙げられる。下記化学式において、*は、それぞれ、結合手を示す。なお、カチオン性基は、酸(例えば、塩酸及び酢酸)又はハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)と共に塩を形成していてもよい。
【0064】
【化9】
【0065】
前記カチオン性樹脂の具体例としては、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミド化合物、変性ポリアミド系化合物、ポリアミドアミン-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミン-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミンポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドアミンポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物およびポリアミドアミン化合物、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、アミノ変性アクリルアミド系化合物、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド;アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミンアミド硫酸塩重合体、一級アミンと二級アミンからなるアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、一級アミンと三級アミンからなるアリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩共重合体およびアリルアミン・ジメチルアリルアミン共重合体等のポリアリルアミンなどを挙げることができる。
【0066】
<<カチオン性基含有不飽和モノマーに由来のカチオン樹脂>>
カチオン樹脂は、カチオン性基含有不飽和モノマーに由来する特定繰り返し単位(以下、繰り返し単位(1)と記載することがある)を含むことが好ましい。カチオン樹脂は、繰り返し単位として、繰り返し単位(1)のみを有してもよいが、繰り返し単位(1)と、カチオン性基を有しない不飽和モノマーに由来する繰り返し単位(2)とを含むことが好ましい。このように、カチオン樹脂が繰り返し単位(2)を含むことで、前処理液の溶媒及びカチオン樹脂の親和性が適度に低下する傾向がある。その結果、前処理液のエマルションとしての安定性を向上できる。
【0067】
カチオン性基含有不飽和モノマーは、例えば、カチオン性基と、重合性基(例えば、ビニル基、アリル基及び(メタ)アクリロイル基)とを有する。カチオン性基含有不飽和モノマーにおけるカチオン性基の個数としては、1個が好ましい。カチオン性基含有不飽和モノマーにおける重合性基の個数としては、1個又は2個が好ましい。具体的なカチオン性基含有不飽和モノマーとしては、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル四級塩が好ましい。
【0068】
カチオン樹脂における繰り返し単位(1)の含有割合としては、10質量%以上60質量%以下が好ましく、25質量%以上45質量%以下がより好ましい。繰り返し単位(1)の含有割合を10質量%以上とすることで、カチオン樹脂に十分なカチオン性を付与できる。繰り返し単位(1)の含有割合を60質量%以下とすることで、前処理液の溶媒及びカチオン樹脂の親和性が適度に低下する傾向がある。その結果、前処理液のエマルションとしての安定性を向上できる。
【0069】
カチオン性基を有しない不飽和モノマーとしては、例えば、ビニル化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。ビニル化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン及びスチレンが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及び(メタ)アクリル酸シクロオクチルが挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフタル酸が挙げられる。なお、エチレン性不飽和カルボン酸は、無水物であってもよい。
【0070】
カチオン樹脂において、繰り返し単位(2)の含有割合としては、40質量%以上90質量%以下が好ましく、55質量%以上75質量%以下がより好ましい。繰り返し単位(2)の含有割合を40質量%以上90質量%以下とすることで、前処理液の溶媒及びカチオン樹脂の親和性が適度に低下する傾向がある。その結果、前処理液のエマルションとしての安定性を向上できる。
【0071】
<<カチオン性ウレタン樹脂>>
本実施形態に係るカチオン性ウレタン樹脂は、水中における良好な水分散安定性等を付与するうえでカチオン性基を有する。
【0072】
前記カチオン性基としては、例えば3級アミノ基等を使用することができる。前記3級アミノ基は、その一部又は全てが酢酸やプロピオン酸等で中和されたものや、例えばジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、エチルクロライド等の4級化剤によって4
級化されたものであってもよい。また、前記カチオン性基は、ウレタン樹脂の分子末端やウレタン樹脂を構成する主鎖構造、または、前記ウレタン樹脂を主鎖としてその側鎖に存在していてもよい。
【0073】
前記カチオン性基は、前記カチオン性ウレタン樹脂全体に対して10mmol/kg~1,000mmol/kgの範囲で存在することが、水中におけるカチオン性ウレタン樹脂の良好な水分散安定性を付与するうえで好ましく、30mmol/kg~700mmol/kgの範囲で存在することがより好ましい。
【0074】
前記カチオン性ウレタン樹脂としては、繊維との相互作用を強めることによりバインダーとしての機能を高めるうえで、カチオン性基を含む下記一般式[I]で示される構造を有するものを使用することが好ましい。
【0075】
【化10】
【0076】
〔式中、Rは、脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキレン基、2価フェノールの残基、又はポリオキシアルキレン基を、R及びRは、互いに独立して脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキル基を、Rは、水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基を、Xはアニオン性の対イオンを表す。〕
【0077】
また、前記カチオン性ウレタン樹脂は、加水分解性シリル基及びシラノール基からなる群より選ばれる1種以上を有していてもよい。
【0078】
前記カチオン樹脂の具体例としては、例えば、ニットーボーメディカル株式会社製、PAS(ポリアミン)PAS-M-1、DIC株式会社製、ボンコート SFC-55が挙げられる。
【0079】
<その他の添加剤>
本実施形態に係る繊維処理剤が、さらに他の添加剤を含むことができる。本実施形態に係る繊維処理剤には、例えば、本発明の効果を損なわない範囲で、充填剤、防腐剤、着色剤、消泡剤、発泡剤、分散剤、乳化剤、流動性調整剤、可塑剤、pH調整剤、各種油剤、増粘剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、撥水剤、レベリング剤等の添加剤を配合してもよい。さらに、抗菌剤、抗ウイルス剤、消臭剤、防臭剤、柔軟剤、香料剤等の添加剤を配合してもよい。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
繊維加工品の耐洗濯性を向上する観点から、本実施形態に係る繊維処理剤が、架橋剤単独で使用しても良いが、更にバインダーと架橋剤とを含むことが好ましい。また、後に述べる付着工程で処理しやすい観点から、本実施形態に係る繊維処理剤が、更にバインダーと架橋剤と増粘剤とを含むことが好ましい。
上記架橋剤としては、カルボキシル基を有するサクランとの架橋反応が期待される水系架橋剤が挙げられる。
水系架橋剤の具体例としては、例えば、株式会社日本触媒製のエポクロスWS-500、アイカ工業株式会社製のプロミネートXC-830、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライトV-02-L2などが挙げられる。
上記架橋剤を含む場合、同時に含むバインダーとしては、例えば、DIC株式会社製の繊維加工用アクリル樹脂 DEXCEL HPS PAD 602などが挙げられる。
上記架橋剤やバインダーを含む場合、同時に含む増粘剤としては、例えば、ダイセルミライズ株式会社製のカルボキシメチルセルロースナトリウム/CMCダイセル1350が挙げられる。スクリーン印刷法で繊維処理剤組成物を付着する場合、増粘剤を用いて、組成物の粘度を任意に調整することで良好に塗布ができる。
本実施形態に係る繊維処理剤が、更にバインダーと架橋剤とを含む場合、繊維処理剤におけるバインダーの含有量が0.01~12.5質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。繊維処理剤における架橋剤の含有量が0.01~25質量%であることが好ましく、0.5~5.0質量%であることがより好ましい。増粘剤を含む場合、繊維処理剤における増粘剤の含有量は同時に配合するバインダーや架橋剤など種類や量によって任意に調整できるが、例えば、0.1~25.0質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0080】
[水]
本実施形態に係る水は、例えば、イオン交換水、RO水、蒸留水、純水を使用することができる。水質によっては工業用水または地下水なども使用しても構わない。また、本実施形態に係る繊維処理剤組成物の性能を損なわない範囲で、水と混合する水性溶媒も使用することもできる。そのような水性溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどが挙げられる。
【0081】
[繊維基材]
本実施形態に係る繊維基材とは、各種繊維及びそれらの混紡品を含む。
【0082】
前記繊維としては、特に限定されず、天然繊維、合成繊維などが挙げられる。前記天然繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、絹、麻、ウール、アンゴラ及びモヘア、竹繊維などが挙げられる。前記合成繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、スパンデックスなどが挙げられる。繊維へのシリコーンの固着性を高める観点から、前記繊維は、綿、絹、麻、ウール、アンゴラ及びモヘア、竹繊維からなる群から選ばれる一種以上の天然繊維を含むことが好ましい。また、これらの複合繊維等を用いることができる。
【0083】
前記繊維の混紡品の形態は、特に限定されず、例えば、ステープル、フィラメント、トウ、糸、織物、編物、詰め綿、不織布、紙などのいずれの形態であってもよい。
【0084】
前記編物としては、例えば、平編み、ゴム編み、パール編みなどが挙げられるが、本実施形態に係る繊維基材は、かかる例示のみに限定されるものではない。
前記織布は、本実施形態に係る繊維を経糸、緯糸、または経糸と緯糸の双方に用い、織機などを用いて製造することができる。
織布が有する組織としては、例えば、平織り組織、斜文織り組織、綾織り組織、朱子織
り組織、変化組織などが挙げられるが、本実施形態に係る繊維基材は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0085】
本実施形態に係る繊維基材の具体例として、例えば、基布に綿とポリエステルの混紡;シキボウ株式会社製M2000やポリエステルP-110(染色試験用繊維“ポリエステルデシン”として(株)色染社から入手)が挙げられる。
また、本実施形態に係る繊維基材は、本発明の繊維処理剤との親和性を高めるために、予め繊維予備処理剤で処理したものを用いることもできる。特に、本実施形態に係る硫酸化多糖が酸性基を有していることから、予め処理する繊維予備処理剤としてはカチオン性樹脂が好ましい。これらの好ましい態様については、前述の「カチオン性樹脂」で説明したものと同様である。また、予め行う処理方法は後述の[付着工程]および[乾燥工程]に従って行うことができる。繊維予備処理剤を用いる製造方法は、後述の[繊維加工品の製造方法の具体例]において、第一実施態様の製造方法として、詳細に説明する。
【0086】
[繊維加工品の応用]
本実施形態の繊維加工品は、優れた吸水性、優れた吸湿性および放湿性、優れた防汚性、優れた帯電防止性、耐洗濯性、良い肌触り特性を有すること等を活かして種々の分野に適用できる。例えば、本発明の繊維加工品は、手袋、肌着、靴下、シャツ、洋服、スポーツウェアなど良好な着心地が求められるような衣類をはじめ、フェースマスク、サージカルマスク、紙おむつ用素材、拭き取り化粧水シートなどの化粧用シート、帽子やインナーキャップなどがあげられる。さらに、布団カバー、シーツ、枕カバーなどの寝具類、カーテン、タオルや手ぬぐい、調理エプロンや前掛けなどの防汚性が求められる種々の用途に好適に使用することができる。さらに、帯電防止性が求められる用途では、カーテン,スーツ裏地、コート、製造現場で着用される作業着(ワーキングウェア)、クリーンルーム用ウェア、塗装服などに適応することができる。
【0087】
(繊維加工品の製造方法)
本実施形態の繊維加工品の製造方法は、前述の本実施形態に係る繊維処理剤組成物を用いて繊維基材を処理し、後述の繊維加工品を製造する方法が挙げられる。本実施形態の繊維加工品の製造方法は、前記繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程とを含む。本実施形態の繊維加工品の製造方法は、下記(I)~(III)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
(I)前記付着工程の前に、更にカチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物を用いて繊維基材を予備処理してからなる予備処理繊維基材を得る工程を含み、
前記付着工程は、前記予備処理繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する工程である。
(II)前記繊維処理剤組成物が更に架橋剤を含み、前記乾燥工程が、温度範囲80℃~260℃の加熱処理工程を含む。
(III)前記乾燥工程が、温度範囲120℃以上の高温水蒸気による熱処理工程を含む。
本実施形態に係る繊維基材は、上記説明した繊維基材と同様であり、好ましい態様も同じである。
【0088】
各種繊維基材に対する繊維処理剤の使用量は、基材自身の特性にもよるが、繊維処理剤の付着量(付着した繊維処理剤組成物を乾燥した後の付着量)は、前記繊維基材100重量部に対して、0.001~10.0質量部であり、0.001~5.0質量部であってもよい。好ましくは0.001~1.0質量部であることが好ましく、0.001~0.5質量部であることがより好ましく、0.003~0.3質量部であることがさらに好ましく、0.005~0.2質量部であることが最も好ましい。前記繊維基材における前記繊維処理剤の付着量は、前記繊維基材100重量部に対して、0.001質量部以上である場合、繊維基材に硫酸化多糖による吸水性、保湿性、吸湿性および放湿性や耐洗濯性を十分に付与できるため、好ましい。10.0質量部以下である場合、繊維基材自身の持つ性能が維持され、また、本実施形態の繊維処理剤組成物を用いて得られる繊維加工品の強度、風合いの低下が抑制されることがないため、好ましい。
【0089】
[付着工程]
本実施形態に係る付着工程の付着方法として、各種公知の方法を特に制限なく採用することができ、例えば、本実施形態に係る繊維処理剤組成物を繊維に塗布し処理する塗布方法、繊維を本実施形態に係る繊維処理剤組成物に浸漬し処理する浸漬方法等が挙げられる。
前記塗布方法としては、ダイレクトコート法、スプレーコート法、ロールコーター法、スロットコーター法、ナイフコート法、プリント法、ロール転写法、スクリーン印刷法、等が挙げられる。また、前記浸漬方法としては、水平ローラー法、メタリングローラー法、スクリーンコンベア法、フォーム法、等が挙げられる。
例えば、不織布といった繊維を本発明の繊維処理剤で処理する場合の加工方法は、スプレーコート法、プリント法、ロール転写法、水平ローラー法、メタリングローラー法、スクリーンコンベア法、フォーム法、スクリーン印刷法、等が挙げられる。また、例えば、織物といった繊維を本発明の繊維処理剤で処理する場合の加工方法は、ダイレクトコート法、スプレーコート法、ロールコーター法、スロットコーター法、ナイフコート法、スクリーン印刷法、等が挙げられる。また、繊維をシート状に形成させウェブを作成し、そのウェブをさらに接着あるいは絡み合わせて布形化する場合、前記繊維処理は、ウェブ化する前の繊維に対して行っても良いし、繊維を各種の方法でウェブ化した後に行ってもよい。前記繊維ウェブ化方法は、各種公知の方法を特に制限なく採用することができ、例えば、エアレイ法等が挙げられる。
【0090】
[予備処理工程]
また、本発明の繊維処理剤で処理する前に、本発明の繊維処理剤の付着性を高めるために、繊維予備処理剤で処理する予備処理工程を含んでもよい。繊維予備処理剤がカチオン樹脂を含んでも良く、繊維予備処理剤とバインダーとを含んでも良い。
繊維予備処理剤に含まれているカチオン樹脂やバインダーは、前記本発明の繊維処理剤に含まれている<カチオン樹脂>や<バインダー>と同じ意味である。
カチオン樹脂としては、例えば、アミンをベースとした機能性カチオンポリマーが挙げられる。アミンをベースとした機能性カチオンポリマーの具体例は、例えば、ニットーボーメディカル株式会社製のPAA(ポリアリルアミン)のPAA-HCL-10L,PAA-D19-HCL,PAA-15C;ニットーボーメディカル株式会社製のPAS(ポリアミン)のPAS-M-1,PAS-J-81,PAS-H-10L;日本ルーブリゾール株式会社製のPRINTRITE DP 316;DIC株式会社製のボンコート SFC-55;DIC株式会社製のボンコート SFC-571等を含む。
繊維予備処理剤に含まれているバインダーは、カチオン樹脂と、カチオン樹脂でない他のバインダーを含んでも良い。他のバインダーの具体例は、例えば、DIC株式会社製のSP-931等を含む。使用するカチオン樹脂によっては、バインダーを含まずに単独で使用することもできるし、より強固に付着させるための好適なバインダーを配合してもよい。
【0091】
上記繊維予備処理剤において、カチオン樹脂の総量が0.1~25質量%であることが好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。カチオン樹脂と、カチオン樹脂でない他のバインダーとを含む場合、カチオン樹脂の含有量が0.05~12.5質量%であることが好ましく、0.2~10質量%より好ましく、0.5~5質量%さらに好ましい。
【0092】
予備処理工程は、付着工程と乾燥工程とを含む。
前記予備処理工程の付着工程においてカチオン樹脂などの付着方法として、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。
前記付着方法としては、ダイレクトコート法、スプレーコート法、ロールコーター法、スロットコーター法、ナイフコート法、プリント法、ロール転写法、スクリーン印刷法、等が挙げられる。また、前記浸漬方法としては、水平ローラー法、メタリングローラー法、スクリーンコンベア法、フォーム法、等が挙げられる。
例えば、不織布といった繊維を上記繊維予備処理剤で処理する場合の加工方法は、スプレーコート法、プリント法、ロール転写法、水平ローラー法、メタリングローラー法、スクリーンコンベア法、フォーム法、スクリーン印刷法、等が挙げられる。また、例えば、織物といった繊維を上記繊維予備処理剤で処理する場合の加工方法は、ダイレクトコート法、スプレーコート法、ロールコーター法、スロットコーター法、ナイフコート法、スクリーン印刷法、等が挙げられる。また、繊維をシート状に形成させウェブを作成し、そのウェブをさらに接着あるいは絡み合わせて布形化する場合、前記予備繊維処理は、ウェブ化する前の繊維に対して行っても良いし、繊維を各種の方法でウェブ化した後に行ってもよい。前記繊維ウェブ化方法は、各種公知の方法を特に制限なく採用することができ、例えば、エアレイ法等が挙げられる。
【0093】
前記予備処理工程の乾燥工程の乾燥方法としては、送風乾燥、減圧乾燥、加圧乾燥、加熱乾燥、又はそれらの任意の組み合わせ等が挙げられる。乾燥の際に加熱する場合の温度の範囲は、80~260℃の範囲内で、80~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。加熱温度が低すぎると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不充分になる可能性がある。また、カチオン樹脂による予備処理が不十分になると繊維処理剤の固着が不十分になり耐洗濯性が悪くなる。加熱温度が高すぎると、使用する樹脂が変質を起こす可能性がある。状況に応じて好適な温度条件を適宜設定する。また、加熱により変質する場合は、変質しない温度範囲で複数回に分けて加熱処理することもできる。
【0094】
さらに、上記の予備処理工程を複数回繰り返して積層式に繊維表面を処理した後、本発明の繊維処理剤を付着させることができる。
【0095】
[乾燥工程]
本実施形態に係る乾燥工程の乾燥方法としては、送風乾燥、減圧乾燥、加圧乾燥、加熱乾燥、又はそれらの任意の組み合わせ等が挙げられる。本実施形態に係る乾燥工程が、温度範囲70~260℃の加熱処理工程を含む。この温度範囲が、80~220℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。120~180℃がさらに好ましい。加熱温度が低すぎると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不充分になる可能性がある。また、耐洗濯性が悪くなる。加熱温度が高すぎると、本発明の繊維処理剤が変質を起こす可能性がある。状況に応じて好適な温度を適宜設定する。また、加熱により変質する場合は、変質しない温度範囲で複数回に分けて加熱処理することもできる。
【0096】
また、本発明の繊維処理剤の付着を促進するために、本実施形態に係る乾燥工程の加熱処理工程は、高温水蒸気による熱処理であってもよい。繊維処理剤が付着した基布をスチームなどの高温の水蒸気に暴露することもできる。高温の水蒸気に曝露する際は、繊維処理剤の付着工程後に行ってもよいし、上記の乾燥工程後に行っても良い。
水蒸気により本発明の繊維処理剤が繊維内部まで拡散、付着し、更なる機能向上が期待できる。水蒸気としては、例えば、スチームや過熱水蒸気などが利用できる。水蒸気の温度は上限100~260℃までの範囲内で、100~200℃が好ましく、120~180℃がさらに好ましい。水蒸気の温度が低すぎると熱処理に時間がかかり不充分になる可能性がある。また、水蒸気の温度が高すぎると、繊維処理剤や基布の変質を起こす可能性がある。状況に応じて好適な温度を適宜設定する。また、熱処理により変質する場合は、変質しない温度範囲で複数回に分けて処理することもできる。
高温の水蒸気を発生できる装置であれば、発生器の種類は問わない。この熱処理工程では、圧力釜やオートクレーブほか、過熱蒸気発生装置、過熱水蒸気バッチ炉、ノズル式のスチーム噴霧装置などが利用できる。その場合、基布を高温の水蒸気下に曝して処理してもよいし、基布の表面をピンポイントで処理してもよい。
本実施形態に係る乾燥工程は、通常の加熱処理工程と、上記の高温水蒸気による熱処理とを含んでも良い。通常の加熱処理工程の温度範囲は、70~260℃であってもよく、80~220℃であることが好ましく、100~200℃であることがより好ましい。
【0097】
また、上記の乾燥工程後に本発明の繊維処理剤の付着を促進し、耐洗濯性を向上するために、温度範囲で複数回に分けて加熱処理することもできる。例えば、上記温度範囲の温度で、2回同じ温度で処理してもよい。一例としては、例えば、120℃1分間処理後、150℃で1分30秒間追加処理する方法が挙げられる。また、1回目の処理温度が上記範囲以外の温度で処理し、2回目以後は、上記範囲の温度で処理してもよい。一例として、例えば、70℃で処理した後、上記の160~180℃のスチームなどの高温の水蒸気で処理する方法が挙げられる。
【0098】
[繊維加工品の製造方法の具体例]
以下、本実施形態の製造方法について、さらに第一実施態様、第二実施態様、第三実施態様を用いて、説明する。
【0099】
〔第一実施態様〕
第一実施態様の製造方法において、前述の本実施形態の繊維処理剤組成物を用いて繊維基材を処理する前に、更に、カチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物を用いて繊維基材を予備処理して、予備処理繊維基材を得る工程を含む。
すなわち、第一実施態様の製造方法は、カチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物を用いて繊維基材を処理してからなる予備処理繊維基材を得る工程と、前記予備処理繊維基材に本実施形態の繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、本実施形態の繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程と、を含む。
繊維基材、本実施形態の繊維処理剤組成物、付着工程、乾燥工程については、その意味及び好ましい形態は、上記の記載と同じである。
前記カチオン樹脂を含む繊維予備処理剤組成物は、カチオン樹脂含み、かつサクランなどの硫酸化多糖類を含まない以外は、本実施形態の繊維処理剤組成物と同じ構成であっても良い。
前記繊維予備処理剤組成物を用いて、予備処理繊維基材を得る方法としては、前記繊維予備処理剤組成物を用いた以外は、本実施形態の繊維加工品を得る方法と同じでもよい。
予備処理繊維基材を得る方法は、例えば、前記繊維基材に前記繊維予備処理剤組成物を付着する予備処理付着工程と、繊維予備処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く予備処理乾燥工程と、を含んでも良い。前記予備処理付着工程、前記予備処理乾燥工程は、本実施形態の繊維加工品の製造方法において、記載されている前記付着工程、前記乾燥工程と同じ方法であってもよい。
【0100】
〔第二実施態様〕
第二実施態様の製造方法において、前述の本実施形態の繊維処理剤組成物が更に架橋剤を含む。また、前記乾燥工程において、加熱温度の範囲は、80℃~260℃である。
すなわち、第二実施態様の繊維処理剤組成物が、第二実施態様の繊維処理剤と、水と、を含む。
前記第二実施態様の繊維処理剤が硫酸化多糖類と架橋剤と、を含む。前記第二実施態様の繊維処理剤が硫酸化多糖類と架橋剤とバインダーとを含むことが好ましい。
前記第二実施態様の繊維処理剤組成物における前記硫酸化多糖類の含有量が、0.001~5質量%である。0.001~1.0質量%であることが好ましく、0.001~0.5質量%であることがより好ましい。
前記第二実施態様の繊維処理剤組成物における前記架橋剤の含有量が、0.01~25質量%である。0.1~5質量%であることが好ましい。
また、バインダーを含む場合、前記第二実施態様の繊維処理剤組成物における前記バインダーの含有量が、0.01~12.5質量%である。0.1~5質量%であることが好ましい。
第二実施態様の製造方法は、前記繊維基材に前記第二実施態様の繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、前記第二実施態様の繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程と、を含む。
前記乾燥工程において、加熱温度の範囲は、80℃~260℃である。80℃~200℃であることが好ましく、100℃~180℃であることがより好ましい。
【0101】
〔第三実施態様〕
第三実施態様の製造方法において、前記乾燥工程が、温度範囲120℃以上の高温水蒸気による熱処理工程を含む。
ここの高温水蒸気による熱処理工程は、前述の高温水蒸気による熱処理工程と同じ意味である。
すなわち、第三実施態様の製造方法は、前記繊維基材に前記繊維処理剤組成物を付着する付着工程と、繊維処理剤組成物が塗布された繊維基材から水を除く乾燥工程と、を含む。
第三実施態様の乾燥工程が、温度範囲100℃以上の高温水蒸気による熱処理工程を含む。温度範囲が100~200であることが好ましく、温度範囲が120~180であることがより好ましい。
第三実施態様の乾燥工程が、前記高温水蒸気による熱処理工程の前に、70℃以上の熱処理工程を含んでも良く、含まなくても良い。
【実施例0102】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0103】
「繊維処理剤組成物の調製1」
(調製例1)
硫酸化多糖類としてサクラン(グリーンサイエンス・マテリアル株式会社製、スイゼンジノリ由来硫酸化多糖類、分子量:約200万~約2000万)5.0質量部にイオン交換水995質量部を加え、プロペラシャフトを備えたスリーワンモーター(HEIDON社製FBL600)を使用して、75℃で8時間攪拌して0.5質量%サクラン水溶液を調製した。次に、0.5質量%サクラン水溶液400質量部とイオン交換水600質量部をスリーワンモーターで室温30分攪拌して0.2質量%サクラン水溶液を得た。次に、0.2質量%サクラン水溶液250質量部とイオン交換水750質量部をスリーワンモーターで室温30分攪拌して、本調製例の繊維処理剤組成物Aを得た。
配合量から得られた、繊維処理剤組成物Aにおけるサクランの含有量が0.05質量%であった。その結果が表1に示す。
【0104】
(調製例2)
調製例1で得た0.2%サクラン水溶液250質量部、バインダーとして水性ウレタン樹脂ディスパージョン(DIC株式会社製DEXCEL HPS PAD708U;不揮発分40%)2.5質量部、およびイオン交換水747.5質量部をスリーワンモーターで室温30分間攪拌して、本調製例の繊維処理剤組成物Bを得た。
配合量から得られた、繊維処理剤組成物Bにおけるサクランの含有量が0.05質量%であった。繊維処理剤組成物Bにおけるバインダーの含有量が0.1質量%であった。サクラン100質量部に対して、バインダーの含有量が200質量部であった。その結果が表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
「評価用繊維加工品の作製1」
(参考例1)
<付着工程>
上記調製例1で得られた繊維処理剤組成物Aを、マングル塗工機(辻井染機工業株式会社製)にて、繊維基材として基布(綿とポリエステルの混紡;シキボウ株式会社製M2000)に、80~90g/mの目付け量(単位面積の基布において、繊維処理剤組成物Aの塗布量)、サクラン(登録商標)重量換算では0.04~0.05g/mの目付け量にて塗工した。繊維処理剤組成物Aが付着した基布を得た。
【0107】
<乾燥工程>
上記付着工程で得られた、前記繊維処理剤組成物Aが付着した基布に対して、70℃で1分間加熱乾燥処理を行った。繊維加工品として、サクラン繊維加工品Aを得た。
【0108】
(繊維加工品の評価)
(1)触感
サクラン繊維加工品を指で軽く押さえた触感を次の3段階(ABCランク)で評価し、結果を表1に示した。
【0109】
A:柔らかさ、及びしっとりした感触がある
B:柔らかさ、又はしっとりした感触がある
C:柔らかさ、及びしっとりした感触がない
【0110】
(2)吸水性
JIS L-1907繊維製品の吸水性試験方法(滴下法)に従って、繊維加工品にビュレットから水を1滴滴下させ、水滴が繊維の表面に達した時から水滴を吸収するまでの時間を測定した。5枚の繊維加工品の平均値を四捨五入によって整数に丸め、次の3段階(ABCランク)で評価し、結果を表1に示した。
【0111】
A:吸水時間が5秒以下
B:吸水時間が6~8秒
C:吸水時間が9秒以上
【0112】
(3)吸湿性および放湿性
JIS L-1954:2022生地の経時的吸放湿性試験方法に従って、繊維加工品を低湿度側から高湿度側に移動させた吸湿過程と、高湿度側から低湿度側に移動させた放湿過程の繊維加工品の質量変化を経時的に測定し、吸湿速度と放湿速度を算出した。吸湿性と放湿性を各々、次の3段階(ABCランク)で評価し、結果を表2に示した。
【0113】
吸湿性
A:吸湿速度が0.45%/分以上
B:吸湿速度が0.40~0.44%/分
C:吸湿速度が0.39%/分以下
【0114】
放湿性
A:放湿速度が0.40%/分以上
B:放湿速度が0.35~0.39%/分
C:放湿速度が0.34%/分以下
【0115】
(参考例2)
<付着工程>
調製例1で得た繊維処理剤組成物Aに代えて、調製例2で得た繊維処理剤組成物Bを使用した以外は、参考例1と同様な方法で、繊維処理剤組成物Bが付着した基布を得た。
【0116】
<乾燥工程>
70℃で1分間の加熱乾燥を行った後、さらに130℃で1分間加熱乾燥を行った以外は参考例1と同様の方法で繊維加工品Bを作製した。参考例1と同様な方法で、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0117】
(比較例1)
繊維加工品Aに代えて、基布(綿とポリエステルの混紡;シキボウ株式会社製M2000)をそのまま使用し、参考例1と同様の方法で評価を行い、その結果を表2に示した。
【0118】
【表2】
【0119】
(考察)
表2に示すように、本発明の繊維処理剤組成物から得られた参考例1、2の繊維加工品は、比較例1の未処理繊維と対比して、触感、吸水性、吸湿性、および放湿性の何れも優れた結果であった。本発明の繊維加工品を例えば衣服などに使用した時に、肌触りが良く、衣服内の蒸れを軽減すると考えられる。
【0120】
(繊維加工品の耐洗濯性の評価)
実施例1~11、比較例2~4のサクラン繊維加工品C~Pについて、下記の方法で繊維加工品の耐洗濯性の評価を行い、その結果を表4、6、8に示した。
【0121】
[耐洗濯性の評価方法]
JIS L-0217-103法(JIS L 1096 G法)「繊維製品の取扱いに関する表示記号及び表示方法」記載の洗濯処理条件にしたがって実施した。
洗濯試験機:
辻井染機工業(株)製の全自動繰返し洗濯機(SAD-135E)を使用した。
「洗濯液」
一般社団法人繊維評価技術協議会で入手することができるJAFET標準配合洗剤を使用した。
【0122】
「洗濯工程」
40℃の洗濯液中で5分間の洗濯-脱水,続いて30℃以下の水で3分間のすすぎ-脱水,続いて30℃以下の水で2分間のすすぎ-脱水を1サイクルとして実施して、この洗濯-すすぎの工程を10回繰り返した。
【0123】
「サクラン染色性による耐洗濯性の評価」
洗濯前後でのサクラン繊維加工品に残留するサクランをアルシアンブルー色素で染色した際の繊維布の染色度から、繊維加工品の耐洗濯性を以下の基準で評価した。
「基準」
A:良好、洗濯後の繊維加工品の染色度が、未洗濯の繊維加工品の染色度と同程度の場合
B:やや効果あり、洗濯後の繊維加工品の染色度が、未洗濯の繊維加工品の染色度よりもやや薄い場合
C:効果なし、洗濯後の繊維加工品の染色度が、未洗濯の繊維加工品の染色度よりも顕著に薄い場合
【0124】
「繊維処理剤組成物の調製2」
(調製例3)
「繊維予備処理剤組成物C」
表3に示す繊維処理剤組成物の各成分に従って、カチオン樹脂としてPAS(ポリアミン)PAS-M-1(ニットーボーメディカル株式会社製)5.0質量部、バインダーとしてSP-931(DIC株式会社製)6.0質量部にイオン交換水89質量部を加え、プロペラシャフトを備えたスリーワンモーター(HEIDON社製FBL600)を使用して、攪拌し、本調製例の繊維予備処理剤組成物Cを得た。その結果が表3に示す。
【0125】
(調製例4)
「繊維予備処理剤組成物D」
表3に示す繊維処理剤組成物の各成分に従って、調製例3と同様な方法で、カチオン樹脂としてボンコート SFC-55(DIC株式会社製)8.0質量部にイオン交換水92質量部を加え、プロペラシャフトを備えたスリーワンモーター(HEIDON社製FBL600)を使用して、攪拌し、本調製例の繊維予備処理剤組成物Dを得た。その結果が表3に示す。
【0126】
(調製例5)
「繊維処理剤組成物E」
硫酸化多糖類としてサクラン(グリーンサイエンス・マテリアル株式会社製、スイゼンジノリ由来硫酸化多糖類、分子量:約200万~約2000万)5.0質量部にイオン交換水995質量部を加え、プロペラシャフトを備えたスリーワンモーター(HEIDON社製FBL600)を使用して、75℃で8時間攪拌し、0.5質量%サクラン水溶液を得た。さらにこのサクラン水溶液をイオン交換水で2倍に希釈した0.25質量%サクラン水溶液の繊維処理剤組成物Eを調製した。その結果が表3に示す。
【0127】
【表3】
【0128】
<カチオン樹脂>
PAS-1:ニットーボーメディカル株式会社製、PAS(ポリアミン)PAS-M-1
SFC-55:DIC株式会社製、ボンコート SFC-55
<バインダー>
SP-931:DIC株式会社製、SP-931
【0129】
「評価用繊維加工品の作製2」
(実施例1と2)
「サクラン繊維加工品CとD」
<予備処理工程:付着工程>
上記の調製例3や4で得られた繊維予備処理剤組成物CとDを、マングル塗工機(辻井染機工業株式会社製)にて、繊維基材として基布のポリエステルP-110(染色試験用繊維“ポリエステルデシン”として(株)色染社から入手)に、70~80g/mの目付け量(単位面積の基布において、繊維予備処理剤組成物CとDの塗布量)、繊維予備処理剤組成物中の固形分重量換算で3~4g/mの目付け量にて繊維予備処理剤組成物CとDが付着した基布を得た。
【0130】
<予備処理工程:乾燥工程>
上記の付着工程で得られた繊維予備処理剤組成物CとDが付着した基布に対して、120℃で1分間~3分間加熱乾燥処理を行った。予備繊維加工品として、カチオン樹脂を塗工した予備繊維加工品CとDを得た。
【0131】
<付着工程>
繊維予備処理剤組成物CとDが付着したカチオン樹脂塗工の予備繊維加工品に、上記の調製例5で得られた繊維処理剤組成物Eを、マングル塗工機(辻井染機工業株式会社製)にて、繊維予備処理剤組成物CとDの上に繊維処理剤組成物Eで調製したサクランを70~80g/mの目付け量(単位面積の基布において、繊維処理剤組成物Eの塗布量)、サクラン重量換算で0.15~0.2g/mの目付け量にて付着した基布を得た。
【0132】
<乾燥工程>
上記の付着工程で得られた繊維処理剤組成物Eが付着した基布に対して、70℃で1分間加熱乾燥処理を行った。繊維加工品として、カチオン樹脂層の上にサクランが付着した繊維加工品CとDを得た。その結果が表4に示す。
【0133】
(比較例2)
<付着工程>
上記調製例5で得られた繊維処理剤組成物Eを、マングル塗工機(辻井染機工業株式会社製)にて、繊維基材として基布のポリエステルP-110(染色試験用繊維“ポリエステルデシン”として(株)色染社から入手)に、塗工した。繊維処理剤組成物Eが付着した基布を得た。
【0134】
<乾燥工程>
上記付着工程で得られた、前記繊維処理剤組成物Eが付着した基布に対して、70℃で1分間加熱乾燥処理を行った。繊維加工品として、サクラン繊維加工品Eを得た。
【0135】
【表4】
TEMP:70℃加熱処理
【0136】
「繊維処理剤組成物の調製3」
(調製例6)
「繊維処理剤組成物F」
硫酸化多糖類としてサクラン(グリーンサイエンス・マテリアル株式会社製、スイゼンジノリ由来硫酸化多糖類、分子量:約200万~約2000万)5.0質量部にイオン交換水995質量部を加え、プロペラシャフトを備えたスリーワンモーター(HEIDON社製FBL600)を使用して、75℃で8時間攪拌し、0.5質量%サクラン水溶液を調整した。
本調製例の最終組成物において、サクランの含有量が2質量部になるように所定量の上記0.5質量%サクラン水溶液と、架橋剤として株式会社日本触媒製のエポクロス WS-500 8質量部、バインダーとしてDIC株式会社製のDEXCEL HPS PAD 602 17質量部、増粘剤としてダイセルミライズ株式会社製のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCダイセル1350)26質量部に、最終組成物の総量が1000質量部になるようにイオン交換水を混ぜ合わせて繊維処理剤組成物Fを得た。その結果が表5に示す。
【0137】
(調製例7~11)
表5に示す繊維処理剤組成物の各成分に従って、調製例6と同様な方法で、繊維処理剤組成物G~Kを得た。その結果が表5に示す。
【0138】
【表5】
【0139】
<架橋剤>
WS-500:株式会社日本触媒製のエポクロス WS-500
XC-830:アイカ工業株式会社製のプロミネート XC-830
V-02-L2:日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト V-02-L2
<バインダー>
HPS PAD 602:DIC株式会社製のDEXCEL HPS PAD 602
<増粘剤>
CMCダイセル1350:ダイセルミライズ株式会社製のカルボキシメチルセルロースナトリウム/CMCダイセル1350、5質量%にてイオン交換水に溶解した水溶液を使用した。
【0140】
「評価用繊維加工品の作製3」
(実施例3~7、比較例3)
<付着工程>
上記の調製例6~11で得られた繊維処理剤組成物F~Kを、90メッシュのスクリーンメッシュの孔版の上に載せて、繊維基材として基布のポリエステルP-110(染色試験用繊維“ポリエステルデシン”として(株)色染社から入手)に塗工して、繊維処理剤組成物F~Kが付着した基布を得た。
【0141】
<乾燥工程>
上記付着工程で得られた、前記繊維処理剤組成物F~Kが付着した基布に対して、150℃で2分間加熱乾燥処理を行った。繊維加工品として、サクラン繊維加工品F~Kを得た。その結果が表6に示す。
【0142】
【表6】
TEMP:150℃加熱処理
【0143】
「繊維処理剤組成物の調製4」
(調製例12)
「繊維処理剤組成物L」
硫酸化多糖類としてサクラン(グリーンサイエンス・マテリアル株式会社製、スイゼンジノリ由来硫酸化多糖類、分子量:約200万~約2000万)5.0質量部にイオン交換水995質量部を加え、プロペラシャフトを備えたスリーワンモーター(HEIDON社製FBL600)を使用して、75℃で8時間攪拌し、0.5質量%サクラン水溶液含む繊維処理剤組成物Lを調整した。その結果が表7に示す。
【0144】
【表7】
【0145】
「評価用繊維加工品の作製4」
(実施例8と9)
<付着工程>
上記の調製例12で得られた繊維処理剤組成物Lを、マングル塗工機(辻井染機工業株式会社製)にて、繊維基材として基布のポリエステルP-110(染色試験用繊維“ポリエステルデシン”として(株)色染社から入手)に、70~80g/mの目付け量(単位面積の基布において、繊維処理剤組成物Cの塗布量)、サクラン重量換算で0.3~0.4g/mの目付け量にて塗工した。繊維処理剤組成物Lが付着した基布を得た。
【0146】
<乾燥工程>
前記繊維処理剤組成物Lが付着した基布に対して、それぞれ、160℃と180℃の高温水蒸気による熱処理を行った。繊維加工品として、サクラン繊維加工品LとMを得た。
【0147】
(実施例10と11)
【0148】
<付着工程>
実施例8と同様な方法で、繊維処理剤組成物Lが付着した基布を得た。
【0149】
<乾燥工程>
上記付着工程で得られた、前記繊維処理剤組成物Lが付着した基布に対して、70℃で1分間加熱処理を行った。処理後のサクラン繊維加工品前駆体を得た。
前記処理後のサクラン繊維加工品前駆体に対して、それぞれ、160℃と180℃の高温水蒸気による熱処理を行った。繊維加工品として、サクラン繊維加工品NとOを得た。
【0150】
(比較例4)
<付着工程>
実施例10と同様な方法で、繊維処理剤組成物Lが付着した基布を得た。
【0151】
<乾燥工程>
上記付着工程で得られた、前記繊維処理剤組成物Lが付着した基布に対して、70℃で1分間加熱乾燥処理を行った。繊維加工品として、サクラン繊維加工品Pを得た。
【0152】
【表8】
【0153】
TEMP1:160℃高温水蒸気による熱処理
TEMP2:180℃高温水蒸気による熱処理
TEMP3:70℃加熱処理+160℃高温水蒸気による熱処理
TEMP4:70℃加熱処理+180℃高温水蒸気による熱処理
TEMP5:70℃加熱処理
【0154】
(考察)
上記表4に示すように、本発明の繊維処理剤や含む繊維処理剤を使った実施例1~2の各処理を施すことでポリエステル繊維サクラン(登録商標)繊維加工品は、硫酸化多糖類のサクラン分子が有する硫酸基やカルボキシル基と繊維処理剤を構成するカチオン樹脂を介して、基布のポリエステル繊維布に強固に固定化されていると考えられる。
【0155】
上記表4に示すように、あらかじめ本発明のカチオン樹脂やバインダーを含む繊維予備処理剤を使い、さらに硫酸化多糖類を含む繊維処理剤を使って得られる実施例1~2のポリエステル繊維を基布としたサクラン(登録商標)繊維加工品は、繊維の表面に硫酸化多糖類のサクラン分子が有する硫酸基やカルボキシル基と繊維予備処理剤を構成するカチオン樹脂やバインダーを介して、基布のポリエステル繊維布に強固に固定化されていると考えられる。これは、繊維予備処理剤に含まれるカチオン性樹脂でポリエステル繊維の表面が+(プラス)の電気を帯びて、硫酸基やカルボキシル基を有するアニオン性の硫酸化多糖類が繊維の表面に近づきやすくなる。さらにバインダーを共存させることで、繊維の表面に強固に固着させていると考えられる。
【0156】
上記表6に示すように、本発明の硫酸化多糖類を含む繊維処理剤を使った実施例3~7の各処理を施すことで得られるポリエステル繊維を基布としたサクラン(登録商標)繊維加工品は、硫酸化多糖類のサクラン分子が有する硫酸基やカルボキシル基と繊維処理剤を構成する架橋剤の官能基が架橋結合し、さらにバインダーを介して、基布のポリエステル繊維布の表面に強固に固定化されていると考えられる。
また、上記表8に示すように、繊維の表面に付着した硫酸化多糖類のサクラン分子は、本発明の実施例8~11の乾燥工程と熱処理工程を施すことで、ポリエステル繊維の内部にまで浸透し、ポリエステル繊維に強固に固定化することができる。
本発明によって、実施例1~11に示すサクラン繊維加工品は、繰り返し洗濯しても、サクラン分子が繊維から脱離することなく残留して、保湿性や吸放湿性,防汚性,帯電防止性などの機能性が低下しない繊維を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本実施形態の繊維加加工品は、吸水性、吸湿性および放湿性に優れ、肌触りの良い繊維加加工品であることに加え、耐洗濯性にも優れることから、例えば、手袋、肌着、靴下、シャツ、洋服などの衣類の用途に使用することが期待される。