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特開2023-16704水素化触媒および水素化化合物の製造方法
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  • 特開-水素化触媒および水素化化合物の製造方法 図1
  • 特開-水素化触媒および水素化化合物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016704
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】水素化触媒および水素化化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/185 20060101AFI20230126BHJP
   C07C 321/30 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 321/28 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 321/14 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 319/14 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 321/26 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 321/10 20060101ALI20230126BHJP
   C07D 333/08 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 321/16 20060101ALI20230126BHJP
   C07D 333/38 20060101ALI20230126BHJP
   C07C 319/02 20060101ALI20230126BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
B01J27/185 Z
C07C321/30
C07C321/28
C07C321/14
C07C319/14
C07C321/26
C07C321/10
C07D333/08
C07C321/16
C07D333/38
C07C319/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098351
(22)【出願日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2021120941
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】石川 浩也
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋司
(72)【発明者】
【氏名】今仲 庸介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 寿彦
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02B
4G169BA08A
4G169BB13A
4G169BB13B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB02
4G169CB61
4G169CB77
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC25
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC63
4H006BA23
4H006BA24
4H006BA35
4H006BA55
4H006TA04
4H006TB21
4H039CA61
4H039CA71
4H039CB40
(57)【要約】
【課題】硫黄原子等の触媒被毒として作用する原子を含む官能基を有する原料化合物に対して、優れた耐久性と反応性を有する白金族系の水素化触媒を提供すること。
【解決手段】リン化ルテニウム、リン化ロジウム、リン化パラジウム、リン化イリジウム、およびリン化白金からなる群から選択される少なくとも1種の触媒粒子を含む、水素化触媒である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化ルテニウム、リン化ロジウム、リン化パラジウム、リン化イリジウム、およびリン化白金からなる群から選択される少なくとも1種の触媒粒子を含む、水素化触媒。
【請求項2】
無機担体またはカーボン担体である触媒担体をさらに含み、
前記触媒粒子が、前記触媒担体に担持されてなる、請求項1に記載の水素化触媒。
【請求項3】
前記触媒粒子の平均粒子径が、0.1~1000nmである、請求項1または2に記載の水素化触媒。
【請求項4】
前記触媒粒子に含まれる、リン元素の含有量が10~90質量%であり、かつ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、および白金からなる群から選択される白金族元素の含有量が10~90質量%である、請求項1または2に記載の水素化触媒。
【請求項5】
硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を有する被毒物質の存在下、
請求項1または2に記載の水素化触媒を用いて、原料化合物と水素分子を反応させる水素化工程を含む、水素化化合物の製造方法。
【請求項6】
前記被毒物質が、硫黄分子または硫黄化合物である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記硫黄化合物が、チオアニソールである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の水素化触媒を用いて、原料化合物と水素分子を反応させる水素化工程を含み、
前記原料化合物が、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含む官能基を有する、水素化化合物の製造方法。
【請求項9】
前記官能基が、硫黄原子を含む官能基である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記硫黄原子を含む官能基が、スルフィニル基、スルフィド基、チオール基、およびチエニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記官能基が、窒素原子を含む官能基である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記窒素原子を含む官能基が、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、およびシアノ基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンと白金族元素の合金粒子を触媒成分とする水素化触媒及びこれを用いた水素化化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化反応は、炭化水素化合物において、核水添、不飽和結合の水素化、水素化脱酸素反応等に用いられており、原料化合物から、各種化成品を製造する際に必要とされることが多い、極めて重要な技術である。
【0003】
白金族元素は、水素化反応の触媒として一般的に用いられている触媒成分である。白金族元素は、通常、カーボン等の担体に担持して不均一触媒とし、各種水素化反応に用いられている。
【0004】
しかしながら、白金族元素を含む不均一触媒は、その高い反応性から、硫黄等から触媒被毒を受けやすく、例えば、アミン等の窒素化合物、硫黄化合物、ホスフィン等のリン化合物、各種ハロゲン化物が反応液中に存在すると、触媒の活性点が失活するという問題がある。そのため、白金族元素を含む不均一触媒は、一部の硫黄化合物や硫黄を含む原料に用いることが出来なかった。
【0005】
上記の問題に鑑み、触媒被毒成分を含む化合物の水素化反応には、各種改良検討がなされている。例えば、特許文献1には、パラジウム担持組成物を有機リン化合物および弱酸と接触させる等して、硫黄被毒からの回復の改善を示す選択的水素化触媒組成物が開示されている。また、特許文献2には、リン化コバルトのナノ粒子を有効成分とし、特定の担体に担持した水素化触媒が開示されている。しかしながら、特許文献2には、ナノ粒子である水素化触媒に白金族元素を用いることについて、記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2018-501085号公報
【特許文献2】特開2021-013923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載のパラジウム担持組成物を有機リン化合物および弱酸と接触させる等して製造した触媒組成物は、ppmオーダーの石油由来残留硫黄成分に対して耐久性が向上したに過ぎなかった。そのため、硫黄化合物共存下のように、被毒成分の量が多い反応条件に用いることが可能な触媒の開発は達成されていない。
【0008】
本発明は、白金族触媒に特有の上記硫黄被毒の問題点に鑑み、硫黄原子等の触媒被毒として作用する原子を含む官能基を有する原料化合物に対して、優れた耐久性と反応性を有する白金族系の水素化触媒を提供することを課題とする。
また、本発明は、反応液中に硫黄等の被毒物質が存在しても失活せず、優れた耐久性と反応性を有する白金族系の水素化触媒を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、通常用いられる金属-金属ナノ合金触媒では十分な被毒耐性が得られず、金属-非金属ナノ合金の検討に着手した。そして、多様な金属-非金属ナノ合金の組み合わせを検討した結果、驚くべきことにリン化白金族元素を触媒成分とする水素化触媒が、硫黄原子等の触媒被毒として作用する原子を含む官能基を有する原料化合物に対して失活せず、長期間安定して水素化反応が進行することを見出した。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
[1] リン化ルテニウム、リン化ロジウム、リン化パラジウム、リン化イリジウム、およびリン化白金からなる群から選択される少なくとも1種の触媒粒子を含む、水素化触媒。
[2] 無機担体またはカーボン担体である触媒担体をさらに含み、前記触媒粒子が、前記触媒担体に担持されてなる、[1]に記載の水素化触媒。
[3] 前記触媒粒子の平均粒子径が、0.1~1000nmである、[1]または[2]に記載の水素化触媒。
[4] 前記触媒粒子に含まれる、リン元素の含有量が10~90質量%であり、かつ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、および白金からなる群から選択される白金族元素(以下、「PGM」とも記載する)の含有量が10~90質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の水素化触媒。
[5] 硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を有する被毒物質の存在下、[1]~[4]のいずれかに記載の水素化触媒を用いて、原料化合物と水素分子を反応させる水素化工程を含む、水素化化合物の製造方法。
[6] 前記被毒物質が、硫黄分子または硫黄化合物である、[5]に記載の製造方法。
[7] 前記硫黄化合物が、チオアニソールである、[6]に記載の製造方法。
[8] [1]~[4]のいずれかに記載の水素化触媒を用いて、原料化合物と水素分子を反応させる水素化工程を含み、前記原料化合物が、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含む官能基を有する、水素化化合物の製造方法。
[9] 前記官能基が、硫黄原子を含む官能基である、[8]に記載の製造方法。
[10] 前記硫黄原子を含む官能基が、スルフィニル基、スルフィド基、チオール基、およびチエニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、[9]に記載の製造方法。
[11] 前記官能基が、窒素原子を含む官能基である、[8]に記載の製造方法。
[12] 前記窒素原子を含む官能基が、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、およびシアノ基からなる群から選択される少なくとも1種である、[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素化触媒は、硫黄原子等の触媒被毒として作用する原子を含む官能基を有する原料化合物に対して、優れた耐久性と反応性を有する。
また、本発明の水素化触媒は、反応液中に硫黄等の被毒物質が存在しても失活せず、優れた耐久性と反応性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、製造例1~4で製造したRu-P/SiO触媒、Rh-P/SiO触媒、Pd-P/SiO触媒、およびPt-P/SiO触媒をXRDで測定したチャートを示す。
図2図2は、製造例1~4で製造したRu-P/SiO触媒、Rh-P/SiO触媒、Pd-P/SiO触媒、およびPt-P/SiO触媒を透過型電子顕微鏡で測定した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
[水素化触媒]
本発明の水素化触媒は、リン化ルテニウム、リン化ロジウム、リン化パラジウム、リン化イリジウム、およびリン化白金からなる群から選択される少なくとも1種の触媒粒子を含むものである。
本発明の水素化触媒が、従来の白金族元素担持触媒と比べて、触媒活性が向上した理由および硫黄原子等の触媒被毒として作用する原子に対する耐被毒性が向上した理由は、各種分光法と密度汎関数理論計算の検討結果から、白金族原子からリンへの電荷の移動によって生じる「配位子効果」と、硫化物生成物の強い配位を防ぐ「アンサンブル効果」によるものと推測される。
【0015】
触媒粒子のリン元素の含有量は、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、25~75質量%がさらに好ましい。また、触媒粒子の白金族元素の含有量は、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、25~75質量%がさらに好ましい。すなわち、触媒粒子の白金族元素とリン元素の比率は、10:90~90:10であることが好ましく、20:80~80:20であることがより好ましく、75:25~25:75であることがさらに好ましい。
触媒粒子(PGMxPy)としては、PGM0.86、PGM等が挙げられるが、モル比の異なる触媒粒子の混合物であってもよい。
【0016】
触媒粒子は、公知の方法、例えば、白金族化合物溶液とリン化合物溶液の混合溶液から沈殿物として得ることができる。
このような沈殿物を得る方法としては、文献(Junfeng Liu and Andreu Cabot et al, J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 11453-11462)に記載の方法が挙げられる。より詳細には、白金族化合物塩と、該白金族化合物塩を還元する際の粒子の成長(すなわち、粒子径の増大)を抑制する成分(以下、「粒子成長抑制成分」ともいう)と、溶媒と、該溶媒に溶解しやすいリン化合物とを、不活性ガス雰囲気中で加熱保持する方法が挙げられる。
【0017】
白金族化合物塩は、特に限定されるものではないが、取り扱いが容易なものであることが好ましい。このような白金族化合物塩としては、例えば、塩化ルテニウム、塩化ヘキサアンミンルテニウム、塩化ロジウム、塩化パラジウム、ジクロロテトラアンミンパラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム、塩化白金、塩化白金酸、テトラアンミンジクロロ白金、塩化イリジウムが挙げられる。
【0018】
粒子成長抑制成分としては、例えば、特表2014-514451号公報に記載されている成分が挙げられる。より詳細には、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン等のアミノ基を有する化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上のキャッピング成分等が挙げられる。
【0019】
溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、ヘキサン、トルエン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカンなどの脂肪族飽和炭化水素;1-ウンデセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンなどの脂肪族不飽和炭化水素等が挙げられ、ヘキサン、トルエン、n-ドデカンが好ましく用いられる。
【0020】
該溶媒に溶解しやすいリン化合物は、特に限定されるものではないが、取り扱いが容易なものであることが好ましい。このようなリン化合物としてはトリフェニルホスファイト等の3級のホスファイトやトリフェニルホスフィン等の3級のホスフィン等が挙げられる。なお、溶媒に溶解しやすいとは、触媒粒子の沈殿物の生成時の加熱温度以下でリン化合物が完全に溶媒に溶解可能であることをいい、100℃において14g/L以上のリン化合物を溶解可能であることが好ましい。当業者であれば、溶媒およびリン化合物の種類を適宜変更することで、このような性質に該当するものを選択することができる。
【0021】
白金族化合物塩と、粒子成長抑制成分と、該溶媒に溶解しやすいリン化合物の使用量は、白金族化合物塩が通常0.1~10モル、好ましくは1~5モルであり、粒子成長抑制成分が通常1~100モル、好ましくは10~50モルであり、リン化合物が通常1~100モル、好ましくは10~50モルである。
【0022】
不活性ガス雰囲気中での加熱保持としては次の条件が挙げられる。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素等が挙げられる。加熱温度は、通常250~350℃、好ましくは280~320℃であり、保持時間は、2~6時間程度であり、加熱保持により、沈殿物を得ることができる。沈殿物は、洗浄および濾過してもよい。洗浄および濾過後には、さらに、乾燥等をしてもよい。
【0023】
本発明による水素化触媒の作用の促進を目的として、白金族化合物塩の一部に代えて、ニッケル、マンガン、銅、鉄、クロム、モリブデン等の金属成分の塩を添加しても良い。
【0024】
本発明の水素化触媒において、触媒粒子がリン化された白金族元素であることは、X線回折法(XRD)により測定したピークを、既知のピークと対比して、同定することができる。既知のピークとして、例えば、リン化ルテニウムは、Liu, T. et al., “A Highly Efficient Hydrogen Evolution Reaction Electrocatalyst in Both Acidic and Alkaline Media”, Chem. Commun., 2018, 54, 3343-3346に、リン化ロジウムは、Pu, Z. et al., “Activating Rhodium Phosphide-Based Catalysts for the pH-universal Hydrogen Evolution Reaction”, Nanoscale, 2018, 10, 12407-12412に、リン化パラジウムは、Layan Savithra, G. H. et al., “Mesoporous Matrix Encapsulation for the Synthesis of Monodisperse Pd5P2 Nanoparticle Hydrodesulfurization Catalysts”, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2013, 5, 5403-5407に、リン化白金は、Kang, Q. et al., “A Universal Strategy for Carbon-Supported Transition Metal Phosphides as High-Performance Bifunctional Electrocatalysts towards Efficient Overall Water Splitting”, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2020, 12, 19447-19456に記載のピークが挙げられる。
【0025】
本発明の水素化触媒は、触媒粒子そのものを水素化触媒として利用することができるが、反応系からの触媒の分離を容易とし、触媒の耐久性も向上する場合があることに加え、再利用も期待でき、産業的に有利となるため、触媒担体に担持させたものが好ましい。
【0026】
触媒粒子を担持可能な触媒担体としては、特に限定されるものではなく、比表面積値が大きく、広く触媒の用途に使用される多様な触媒担体が使用可能である。触媒担体の比表面積値は、触媒担体の種類に応じて適宜変更することができ、例えば、シリカである場合、200~600m/gであることが好ましい。
【0027】
触媒担体としては、無機担体が挙げられる。無機担体としては、活性炭等のカーボン担体、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、マグネシア等の金属酸化物の微粒子の他、これらの金属酸化物の組み合わせ等の無機酸化物担体、ハイドロキシアパタイト(HAP)、ハイドロタルサイト(HT)等の微粒子の複合酸化物担体が挙げられる。
なお、ここでいう「微粒子」とは、担持する触媒粒子よりも粒子径が大きな粒子をいい、例えば、粒子径が体積基準で10~100μm程度の粉体や、0.5~5mm程度の球状のもの等が挙げられる。
【0028】
触媒粒子を触媒担体に担持させる方法も特に限定されるものではなく、例えば、リン化白金族元素を調製する際の白金族化合物塩やリン化合物を含有する溶液に、触媒担体を投入して、白金族化合物塩やリン化合物を触媒担体に含浸させた後、還元や乾燥や焼成を加えてリン化白金族元素を触媒担体に担持する方法、リン化白金族元素の触媒粒子が分散した溶液を触媒担体に含浸させる方法、リン化白金族元素の触媒粒子が分散した溶液と触媒担体を混合する方法等が挙げられる。
【0029】
触媒粒子を触媒担体に担持させる方法の一態様として、リン化白金族元素を調製する際の白金族化合物塩やリン化合物を含有する溶液に、触媒担体を投入して、白金族化合物塩やリン化合物を触媒担体に含浸させた後、還元や乾燥や焼成を加えてリン化白金族元素を触媒担体に担持する方法を説明する。
まず、白金族元素のハロゲン化合物等の水溶液に、触媒担体を加えて撹拌した後、減圧乾燥する。次に、得られた触媒前駆体を加熱してさらに乾燥した後、リン化合物の水溶液に添加する。水溶液を撹拌した後、減圧乾燥し、水素還流下で500~600℃で加熱保持する。このようにして、触媒粒子を触媒担体に担持することができる。
【0030】
本発明の水素化触媒の触媒粒子の形状は、特に限定されず、円柱状や球状であってもよい。また、触媒粒子の平均粒子径は0.1~1000nmであることが好ましく、0.5~500nmであることがより好ましく、1~300nmであることがさらに好ましい。
なお、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で約200個の数の粒子を観察し、それらの観察結果の平均値として算出した値である。
【0031】
[水素化化合物の製造方法]
本発明の水素化化合物の製造方法は、上記の水素化触媒を用いて、原料化合物と水素分子を反応させる水素化工程を含む。
水素化化合物の製造方法の一態様においては、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を有する被毒物質の存在下で水素化工程を行う。
水素化化合物の製造方法の他の態様においては、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含む官能基を有する原料化合物を用いる。
【0032】
上記の通り、水素化触媒は、従来の白金族元素担持触媒と比べて、触媒活性が向上するとともに、硫黄原子等の触媒被毒として作用する原子に対する耐被毒性が向上している。したがって、被毒物質の存在下や、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含む官能基を有する原料化合物を用いた場合であっても、目的とする水素化工程を行うことができる。
【0033】
水素化工程は、いずれの態様においても、原料化合物の水素化に十分な量の水素化触媒を反応系内に存在させて、常圧または加圧条件下の水素含有雰囲気中で加熱して行う。より具体的には、水素化触媒の量は、原料化合物に対して、0.1~10mol%が好ましく、0.25~5mol%がより好ましく、0.3~5mol%がさらに好ましく、0.5~3mol%が特に好ましい。
加熱条件は、通常60~180℃であり、70~150℃であることが好ましく、80~150℃であることがより好ましい。
常圧または加圧条件としては、通常0.1~10MPaであり、0.3~5MPaが好ましい。
反応時間は、通常30分~48時間であり、30分~24時間であることが好ましい。
【0034】
水素含有雰囲気とは、水素ガスまたは水素ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスが挙げられる。溶媒を用いて水素化工程を行う場合、溶媒は特に限定されるものではなく、n-ドデカン、テトラヒドロフラン、トルエンなどの非極性溶媒、2-プロパノール等の各種アルコール、水等に代表されるプロトン性極性溶媒等を使用できる。
これらの溶媒は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
[一態様]
水素化化合物の製造方法の一態様においては、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を有する被毒物質の存在下で、原料化合物と水素分子を反応させる水素化工程を行う。
一態様における原料化合物としては、二重結合または三重結合を有する不飽和化合物、アルデヒド化合物、カルボニル化合物、ニトリル化合物、ニトロ化合物等が挙げられる。これらの中でも、ニトロ化合物が好ましく、p-ニトロトルエン、ニトロベンゼンがより好ましい。
【0036】
被毒物質としては、アミン等の窒素化合物;硫黄分子;チオアニソール、チオ尿素、1,1,3,3-テトラメチルチオ尿素、亜二チオン酸ナトリウム、チオフェン、ジベンゾチオフェン、ジメチルジベンゾチオフェン、硫化エチル等の硫黄化合物;ホスフィン等のリン化合物;塩化アンモニウム等のハロゲン化物が挙げられる。被毒物質の一態様としては、硫黄分子または硫黄化合物が挙げられ、より詳細にはチオフェン、チオアニソールが挙げられる。
被毒物質の反応系内における含有量は、基質に対して、通常0.01~10当量であり、0.1~1当量であることが好ましい。被毒物質は少ないほど好ましいが、原料や反応条件等で、上記範囲の被毒物質が存在する場合でも、水素化触媒が失活せず、反応を進めることができる。
【0037】
[他の態様]
水素化化合物の製造方法の他の態様においては、硫黄原子、窒素原子、リン原子、およびハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含む官能基を有する原料化合物と、水素分子を反応させる水素化工程を行う。
官能基としては、硫黄原子を含む官能基が好ましく、スルフィニル基、スルフィド(チオエーテル)基、チオール基、およびチエニル基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0038】
官能基としては、窒素原子を含む官能基も好ましく、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、およびシアノ基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。なお、アミノ基に置換する置換基としては、特に限定されるものではなく、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0039】
他の態様における原料化合物として、具体的には、下記(1a)~(1q)に記載の化合物や、下記(3a)~(3k)に記載の化合物が挙げられる。
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
【化3】
【実施例0043】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0044】
[XRD測定]:X線回折装置(商品名「X’Pert-MPD diffractometer」、Philips社製)を用いてCu-Kαの特性X線(45kV、40mA)を照射して測定を行った。
【0045】
[平均粒子径]:200kVの加速電圧で透過型電子顕微鏡(FEI Tecnai G2 20 ST)を用いて透過電子顕微鏡写真を測定し、写真中の触媒粒子の平均値から算出した。
【0046】
(製造例1)
塩化ルテニウム0.16質量%を含む水溶液50mlに、シリカ担体0.91gを加え、一時間撹拌した後、減圧乾燥を行った。得られたRu/SiO触媒前駆体を110℃で十分に乾燥した後、次亜リン酸アンモニウム水溶液に添加し、1時間撹拌及び減圧乾燥を行った。次亜リン酸アンモニウム水溶液の濃度は、P/Ruモル比が0.86となるように調整した。
得られたRu-P/SiO触媒前駆体を、水素還流下で昇温速度5℃/Minに設定したオーブンに入れて550℃に到達した後、さらに1時間保持して合金化処理を行った。得られた触媒をRu-P/SiO触媒とした。得られた触媒をXRDで評価したところ、リン化ルテニウム特有のピークが観測された。製造したRu-P/SiO触媒の触媒粒子の平均粒子径は3.0nmであった。
図1に、XRDを用いてRu-P/SiO触媒を測定したチャートを示し、図2に、製造したRu-P/SiO触媒の透過電子顕微鏡写真を示す。
【0047】
(製造例2)
塩化ルテニウムを、塩化ロジウムに変更した以外は製造例1と同じ条件で、Rh-P/SiO触媒を製造した。製造したRh-P/SiO触媒の触媒粒子の平均粒子径は2.9nmであった。
図1に、XRDを用いてRh-P/SiO触媒を測定したチャートを示し、図2に、製造したRh-P/SiO触媒の透過電子顕微鏡写真を示す。
【0048】
(製造例3)
塩化ルテニウムを、(NHPdClに変更し、得られたPd/SiO前駆体を、空気雰囲気下、5℃/minで500℃まで昇温し、1時間焼成した。次に焼成後のPd/SiO前駆体に接触させる次亜リン酸アンモニウム水溶液の濃度を、P/Pdモル比が3.0となるように調整したこと以外は製造例1と同じ条件で、Pd-P/SiO触媒を製造した。製造したPd-P/SiO触媒の触媒粒子の平均粒子径は6.7nmであった。
図1に、XRDを用いてPd-P/SiO触媒を測定したチャートを示し、図2に、製造したPd-P/SiO触媒の透過電子顕微鏡写真を示す。
【0049】
(製造例4)
塩化ルテニウムを、塩化白金酸に変更し、次亜リン酸アンモニウム水溶液の濃度を、P/Ptモル比が3.0となるように調整したこと以外は製造例1と同じ条件で、Pt-P/SiO触媒を製造した。製造したPt-P/SiO触媒の触媒粒子の平均粒子径は2.6nmであった。
図1に、XRDを用いてPt-P/SiO触媒を測定したチャートを示し、図2に、製造したPt-P/SiO触媒の透過電子顕微鏡写真を示す。
【0050】
(比較製造例1~4)
次亜リン酸アンモニウム水溶液への添加工程を行わなかったこと以外は、それぞれ製造例1~4と同様の方法で、Ru/SiO、Rh/SiO、Pd/SiO、Pt/SiO触媒を製造した。触媒の平均粒子径は、それぞれ、3.7nm、3.2nm、9.3nm、3.0nmであった。
【0051】
(実施例1-1:ジフェニルスルホキシド(1a)からジフェニルスルフィド(2a)への脱酸素反応(水素化工程))
ジフェニルスルホキシド(1a)を2.5mmol、n-ドデカンを5mL、製造例1で製造したRu-P/SiO触媒を0.5mol%(Ru量換算)含む反応溶液を、H(1Bar)、100℃の条件で30分間反応を行った。
反応後、得られた反応後溶液を、内部標準法を用いたGC-MSによって分析し、収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0052】
(実施例1-2~1-4、比較例1-2~1-4)
実施例1-1のRu-P/SiO触媒を、表1に示す触媒に変更し、ジフェニルスルホキシド(1a)を0.5mmol、n-ドデカンを3mL、触媒量を2.5mol%(白金族元素量換算)、反応時間を60分に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に水素化工程を行い、同様の方法で収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0053】
(比較例1-1)
実施例1-1のRu-P/SiO触媒を、表1に示す触媒に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に水素化工程を行い、同様の方法で収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0054】
なお、実施例1-1~1-4および比較例1-1~1-4で行った化学反応を下記に示す。
【化4】
【0055】
【表1】
【0056】
表1から、リン化されていないRu/SiO触媒は、硫黄化合物の脱酸素反応において、本発明の水素化触媒に比べて著しく収率が低いことがわかる。また、リン化されていないRh、Pd、Ptについても、Ru同様に収率は低かった。一方で、リン化した白金族元素を触媒粒子とする本発明の水素化触媒は、硫黄化合物の脱酸素反応において、高い収率が得られた。
【0057】
(実施例2-1~2-19:原料化合物(1)の検討)
原料化合物を種々変更して、下記式に示す水素化反応の検討を行った。
【化5】
【0058】
水素化触媒として、製造例1で製造したRu-P/SiO触媒を用い、H(1Bar)、100℃、表2に示す条件で反応を行った。反応後、得られた反応後溶液を、内部標準法を用いたGC-MSによって分析し、収率を求めた。その結果を表2に示す。
実施例2-2は、実施例2-1の反応後、回収したRu-P/SiO触媒を再度用いた結果である。また、実施例2-3のみ、反応温度を25℃とした。
なお、回収した触媒としては、遠心分離にて反応液を分離した後、1,2-ジメトキシエタンで洗浄し、減圧乾燥を行って得られた粉末を、水素還流下で昇温速度5℃/Minに設定したオーブンに入れて550℃に到達した後、さらに1時間保持する処理を行った触媒を用いた。
【表2】
【0059】
原料化合物の種類および水素化化合物の種類を以下に示す。
【化6】
【0060】
【化7】
【0061】
【化8】
【0062】
【化9】
【0063】
表2から、本発明の水素化触媒は、硫黄原子を含む官能基であるスルフィニル基を有する原料化合物の水素化工程において、失活することなく高活性で水素化反応を促進することがわかる。
特に、実施例2-1および実施例2-2の結果から、本発明の水素化触媒は、再利用しても触媒性能の低下がみられず、産業上きわめて有望である。
【0064】
(実施例3-1:4-ニトロチオアニソール(3a)から4-アミノチオアニソール(4a)への水素化反応(水素化工程))
4-ニトロチオアニソール(3a)を1mmol、トルエンを3mL、製造例1で製造したRu-P/SiO触媒を1.25mol%(Ru量換算)含む反応溶液を、H(1Bar)、70℃の条件で60分間反応を行った。
反応後、得られた反応後溶液を、内部標準法を用いたGCによって分析し、収率を求めた。その結果を表3に示す。
【0065】
(実施例3-2~3-4、比較例3-1~3~4)
実施例3-1のRu-P/SiO触媒を、表3に示す触媒に変更した以外は実施例3-1と同様に水素化反応(水素化工程)を行い、同様の方法で収率を求めた。その結果を表3に示す。
【0066】
なお、実施例3-1~3-4および比較例3-1~3-4で行った化学反応を下記に示す。
【化10】
【0067】
【表3】
【0068】
表3から、硫黄原子を含む官能基であるスルフィド基を有する原料化合物に対して、リン化されていないRu/SiO触媒は、原料化合物のニトロ基の水素化反応(水素化工程)において、触媒活性が不十分であった。一方で、Ru-P/SiOを触媒粒子とする本発明の水素化触媒は、原料化合物のニトロ基の水素化反応(水素化工程)において、高活性が維持されていることがわかった。
【0069】
(実施例4-1~4-10:原料化合物(3)の検討)
原料化合物を種々変更して、下記式に示す水素化反応の検討を行った。
【化11】
【0070】
水素化触媒として、製造例1で製造したRu-P/SiO触媒を用い、H(1Bar)、70℃、表4に示す条件で反応を行った。反応後、得られた反応後溶液を、内部標準法を用いたGCまたはGC-MSによって分析し、収率を求めた。その結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
原料化合物の種類および水素化化合物の種類を以下に示す。
【化12】
【0073】
【化13】
【0074】
表4から、触媒被毒として作用する原子を含む官能基を有する原料化合物に対して、Ru-P触媒は、多種多様な原料化合物のニトロ基の水素化反応(水素化工程)全てにおいて優れた反応活性を示した。なお、原料化合物の官能基として、具体的には、スルフィド(チオエーテル)基、チオール基、チエニル基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基が挙げられる。
【0075】
水素化化合物である(4h)、(4i)、(4j)、(4k)は、それぞれ、医薬品である、クエチアピン(Quetiapine、抗精神病薬)、ボルチオキセチン(Vortioxetine、抗うつ薬)、アルベンダゾール(Albendazole、駆虫薬)、オランザピン(Olanzapine、抗精神病薬)の中間体として利用可能である。従って、本発明の水素化触媒は、医薬品の合成にも利用が期待できる点で有望である。
【0076】
(実施例5-1:ニトロベンゼン(5a)からアミノベンゼン(5b)への脱酸素反応(水素化工程))
ニトロベンゼン(5a)を5mmol、被毒物質としてチオアニソールを2.5mmol、トルエンを3mL、製造例1で製造したRu-P/SiO触媒を0.25mol%(Ru量換算)含む反応溶液を、H(30Bar)、70℃の条件で60分間反応を行った。
反応後、得られた反応後溶液を、内部標準法を用いたGCによって分析し、収率を求めた。その結果を表5に示す。
【0077】
(実施例5-2、比較例5-1、5―2)
実施例5-1のRu-P/SiO触媒を、表5に示す触媒に変更した以外は実施例5-1と同様に水素化工程を行い、同様の方法で収率を求めた。その結果を表5に示す。
【0078】
なお、実施例5-1~5-2および比較例5-1~5-2で行った化学反応を下記に示す。
【化14】
【0079】
【表5】
【0080】
表5から、被毒物質である硫黄化合物共存下であっても、Ru-P/SiOやRh-P/SiOを触媒粒子とする本発明の水素化触媒は、スルフィドからの被毒に高い耐性を示し、触媒活性を保持していた。この結果から、本発明の水素化触媒は、被毒物質の量が多い反応条件でも用いることが可能であり、石油産業等において利用が期待できる点でも有望である。
図1
図2