(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167273
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ニップ形成ユニット、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078329
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】島田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
(72)【発明者】
【氏名】染矢 幸通
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BA25
2H033BA26
2H033BB17
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB37
2H033BE00
2H033BE03
2H033CA36
2H033CA40
(57)【要約】
【課題】無端ベルトに傷を付けることなく変形クセを短時間で除去する。
【解決手段】回転可能な可撓性の無端ベルト20と、無端ベルトの内周面に接触可能に設けられたニップ形成部材(ヒータ22)と、ニップ形成部材を加熱する加熱部材(ヒータ22)と、無端ベルトを介してニップ形成部材と圧接して被搬送体を挟持搬送するニップを形成する加圧部材と、ニップを通過した被搬送体を無端ベルトから分離させる分離部材と、加圧部材と無端ベルトを回転駆動する駆動手段と、を備え、加圧部材と無端ベルトを駆動手段で順転駆動することで被搬送体がニップを通過して搬送されるニップ形成ユニットにおいて、被搬送体を搬送する前に、駆動手段が、加圧部材と無端ベルトを逆転駆動することで、無端ベルトのニップの出口側に隣接する出口隣接部と入口側に隣接する入口隣接部をニップに順次移動すると共に加熱手段で加熱することを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な可撓性の無端ベルトと、
前記無端ベルトの内周面に接触可能に設けられたニップ形成部材と、
前記ニップ形成部材を加熱する加熱部材と、
前記無端ベルトを介して前記ニップ形成部材と圧接して被搬送体を挟持搬送するニップを形成する加圧部材と、
前記ニップを通過した前記被搬送体を前記無端ベルトから分離させる分離部材と、
前記加圧部材と前記無端ベルトを回転駆動する駆動手段と、を備え、
前記加圧部材と前記無端ベルトを前記駆動手段で順転駆動することで前記被搬送体が前記ニップを通過して搬送されるニップ形成ユニットにおいて、
前記被搬送体を搬送する前に、前記駆動手段が、前記加圧部材と前記無端ベルトを逆転駆動することで、前記無端ベルトの前記ニップの出口側に隣接する出口隣接部と入口側に隣接する入口隣接部を前記ニップに順次移動すると共に前記加熱手段で加熱することを特徴とするニップ形成ユニット。
【請求項2】
前記加圧部材と前記無端ベルトを前記駆動手段で順転駆動するときの回転速度よりも低速で前記加圧部材と前記無端ベルトを駆動することを特徴とする請求項1のニップ形成ユニット。
【請求項3】
前記加熱部材が、前記ニップ形成部材の長手方向中央部を加熱する中央加熱部材と、長手方向両端部を加熱する端部加熱部材を有し、前記入口隣接部と前記出口隣接部を加熱するときの前記端部加熱部材の温度を前記中央加熱部材の温度よりも高くすることを特徴する請求項1又は2のニップ形成ユニット。
【請求項4】
前記被搬送体が現像剤を担持した記録媒体であって、当該記録媒体を請求項3のいずれか1項のニップ形成ユニットの前記ニップに通すことで前記現像剤を前記記録媒体に定着することを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項4の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニップを通過した被搬送体を無端ベルトから分離させる分離部材を備えたニップ形成ユニットと、当該ニップ形成ユニットを備えた定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等の画像形成装置において、用紙等の記録媒体に形成された画像を定着する定着装置として、例えば特許文献1~3に記載のように、円筒状の薄肉低熱容量耐熱性樹脂フィルムを用いたテンションレスの定着装置が知られている。このテンションレスの定着装置は、熱伝達効率が高く、装置の立ち上がりが速いのでオンデマンド方式に適する。
【0003】
特許文献1、2に開示された定着装置は、定着ベルトに近接して固定配置した分離部材で定着ベルトから用紙を分離する。このような分離部材を使用する場合、定着ベルトと分離部材との間隔が小さ過ぎると、分離部材が定着ベルトに接触してベルトに傷が付きやすくなり、これが異常画像発生の原因になる。
【0004】
また定着ベルトと分離部材との間隔が大き過ぎると、この大きな間隔を用紙が通過して定着ベルトに巻付き、用紙ジャムが発生しやすくなる。したがって、分離部材を定着ベルトに接触しない範囲で、できるだけ定着ベルトに近付ける必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、テンションレスの定着方式では回転時に定着ベルトの径方向の振れ(バタつき)が生じやすい。すなわち、定着ベルトが薄肉の樹脂フィルムで構成されているので、ベルトの回転停止時に内側のニップ形成部材(面状ヒータ)と外側の加圧部材(加圧ローラ)に挟まれた部分に平板状の変形クセが付きやすい。
【0006】
また、この平板状の変形クセの前後部分(ニップの入口隣接部と出口隣接部)にも曲率半径が大きい円弧状の変形クセが付きやすい。つまり、定着ベルトの断面形状が所謂「おにぎり」形ないし馬蹄形アーチを含んだ形になりやすい。
【0007】
このようなクセ付き状態で定着ベルトを回転(順転)し始めると、定着ベルトの回転軌道が縦長⇔横長のように不規則に変動する(回転ムラ)。このような回転ムラは、マシン本体の電源投入直後など定着装置が十分に温まっていない状態では、定着フィルムの曲げ剛性が高いために特に顕著である。
【0008】
そのため、定着ベルトが下流側の分離部材と接触してベルトに傷が付き、これが異常画像発生の原因になることがあった。そこで特許文献1、2の定着装置は、記録媒体をニップに通紙する前に、加圧部材の温度が所定温度に到達するまで定着ベルトを逆転することで、定着ベルトが下流側分離部材と接触するのを防止しつつ定着ベルトの変形クセを除去するようにしている。
【0009】
しかしながら、加圧部材の温度が所定の温度に到達するまで定着ベルトを逆回転すると、その分だけ定着ベルトがニップ形成部材と長く摺接するため部品の摺動面が早期に劣化し、定着装置の寿命が短くなるという課題がある。また、加圧部材の温度が所定の温度に到達するまで相当の時間を要するので、その間はジョブを開始できないのでジョブ開始が遅れるという課題もある。
【0010】
一方、特許文献3の定着装置は、ベルトの変形クセ(屈曲跡)による画像の光沢ムラやスジを防止するため、定着ベルトのニップ入口隣接部と出口隣接部をベルトの正転・逆転によりニップに寸動して加熱する。これにより、定着ベルトを長時間空回転することなく、当該入口隣接部と出口隣接部の変形クセを迅速に除去する(ニップのアイロン効果)。
【0011】
しかしながら、定着ベルトを正転で寸動する際、下流側の分離部材に変形クセが接触してベルトに傷が付く可能性があり、異常画像発生の原因になるという課題がある。
【0012】
そこで本発明の目的は、無端ベルトに傷を付けることなく変形クセを短時間で除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明のニップ形成ユニットは、回転可能な可撓性の無端ベルトと、前記無端ベルトの内周面に接触可能に設けられたニップ形成部材と、前記ニップ形成部材を加熱する加熱部材と、前記無端ベルトを介して前記ニップ形成部材と圧接して被搬送体を挟持搬送するニップを形成する加圧部材と、前記ニップを通過した前記被搬送体を前記無端ベルトから分離させる分離部材と、前記加圧部材と前記無端ベルトを回転駆動する駆動手段と、を備え、前記加圧部材と前記無端ベルトを前記駆動手段で順転駆動することで前記被搬送体が前記ニップを通過して搬送されるニップ形成ユニットにおいて、前記被搬送体を搬送する前に、前記駆動手段が、前記加圧部材と前記無端ベルトを逆転駆動することで、前記無端ベルトの前記ニップの出口側に隣接する出口隣接部と入口側に隣接する入口隣接部を前記ニップに順次移動すると共に前記加熱手段で加熱することを特徴とするニップ形成ユニット。
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、無端ベルトに傷を付けることなく変形クセを短時間で除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【
図3】ヒータ、ヒータホルダ及びガイド部の斜視図である。
【
図4B】グラフェンの原子結晶構造を示す図である。
【
図4C】グラファイトの原子結晶構造を示す図である。
【
図6A】ヒータの制御動作を示すフローチャートである。
【
図6B】定着ベルトとヒータの通紙前制御動作を示すフローチャートである。
【
図8】定着ベルトの通紙前制御動作を説明する図である。
【
図9】ベルト温度によるクセ取り効果の違いを説明する図である。
【
図12】屈曲部を有する導電性部材およびその周辺の斜視図である。
【
図13】導電性部材の長手方向の配置の一例を示す図である。
【
図14】
図13と導電性部材の長手方向の配置が異なる例を示す図である。
【
図15】ガイドリブの差し込み孔に導電性部材を設けた実施形態の定着装置の側面断面図である。
【
図16】導電性部材の延在方向が異なる実施形態の定着装置の側面断面図である。
【
図19】
図17と抵抗発熱体の形状が異なるヒータの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0017】
(●画像形成装置)
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図1に示す画像形成装置100は、画像形成装置本体に対して着脱可能な4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkを備える。
【0018】
各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。具体的には、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、像担持体としてのドラム状の感光体2と、感光体2の表面を帯電する帯電装置3と、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する現像装置4と、感光体2の表面をクリーニングするクリーニング装置5とを備える。
【0019】
また、画像形成装置100は、各感光体2の表面を露光し静電潜像を形成する露光装置6と、被搬送体ないし記録媒体としての用紙Pを供給する給紙装置7と、各感光体2に形成されたトナー画像を用紙Pに転写する転写装置8と、用紙Pに転写されたトナー画像を定着するニップ形成ユニットとしての定着装置9と、用紙Pを装置外に排出する排紙装置10とを備える。記録媒体としては、用紙P(普通紙)の他、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、プラスチックフィルム、プリプレグ、銅箔等が含まれる。
【0020】
転写装置8は、複数のローラによって張架された中間転写体としての無端状の中間転写ベルト11と、各感光体2上のトナー画像を中間転写ベルト11へ転写する一次転写部材としての4つの一次転写ローラ12と、中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像を用紙Pへ転写する二次転写部材としての二次転写ローラ13とを有する。複数の一次転写ローラ12は、それぞれ、中間転写ベルト11を介して感光体2に接触している。
【0021】
これにより、中間転写ベルト11と各感光体2とが互いに接触し、これらの間に一次転写ニップが形成されている。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架するローラの1つに接触している。これにより、二次転写ローラ13と中間転写ベルト11との間には二次転写ニップが形成されている。
【0022】
また、画像形成装置100内には、給紙装置7から送り出された用紙Pが搬送される用紙搬送路14が形成されている。この用紙搬送路14における給紙装置7から二次転写ニップ(二次転写ローラ13)に至るまでの途中には、一対のタイミングローラ15が設けられている。
【0023】
次に、
図1を参照して前記画像形成装置の印刷動作について説明する。印刷動作開始の指示があると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、感光体2が
図1の時計回りに回転駆動され、帯電装置3によって感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。
【0024】
次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント情報に基づいて、露光装置6が各感光体2の表面を露光することで、露光された部分の電位が低下して静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4からトナーが供給され、各感光体2上にトナー画像が形成される。
【0025】
各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、
図1の反時計回りに回転駆動する中間転写ベルト11に順次重なり合うように転写される。そして、中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、二次転写ニップにおいて搬送されてきた用紙Pに転写される。
【0026】
この用紙Pは、給紙装置7から供給されたものである。給紙装置7から供給された用紙Pは、タイミングローラ15によって一旦停止された後、中間転写ベルト11上のトナー画像が二次転写ニップに至るタイミングに合わせて二次転写ニップへ搬送される。かくして、用紙P上にフルカラーのトナー画像が担持される。また、トナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナーは各クリーニング装置5によって除去される。
【0027】
トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置9へと搬送され、定着装置9によって用紙Pにトナー画像が定着される。その後、用紙Pは排紙装置10によって装置外に排出されて、一連の印刷動作が完了する。
【0028】
(●定着装置)
続いて、ニップ形成ユニットとしての定着装置9の実施形態について説明する。
図2に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、無端状のベルトから成る定着ベルト20と、定着ベルト20の外周面に接触して定着ニップNを形成する対向部材としての加圧ローラ21と、定着ベルト20を加熱する加熱部材としてのヒータ22と、ヒータ22を保持する保持部材としてのヒータホルダ23と、ヒータホルダ23を支持する支持部材としてのステー24と、定着ベルト20の温度を検知する温度検知手段としてのサーミスタ25等を備えている。
【0029】
定着ベルト20は、例えば外径が25mmで厚みが40~120μmのポリイミド(PI)製の筒状基体を有している。定着ベルト20の最表層には、耐久性を高めて離型性を確保するために、PFAやPTFE等のフッ素系樹脂による厚みが5~50μmの離型層が形成される。
【0030】
基体と離型層の間に厚さ50~500μmのゴム等からなる弾性層を設けてもよい。また、定着ベルト20の基体はポリイミドに限らず、PEEKなどの耐熱性樹脂やニッケル(Ni)、SUSなどの金属基体であってもよい。定着ベルト20の内周面に摺動層としてポリイミドやPTFEなどをコートしてもよい。
【0031】
また、定着ベルト20は基材と、表層と、接着層で弾性層なしで構成することもできる。弾性層がないとベルト全体の剛性が低くなり、停止時に後述するように変形クセがつきやすい。
【0032】
加圧ローラ21は、例えば外径が25mmであり、中実の鉄製芯金21aと、この芯金21aの表面に形成された弾性層21bと、弾性層21bの外側に形成された離型層21cとで構成されている。弾性層21bはシリコーンゴムで形成されており、厚みは例えば3.5mmである。弾性層21bの表面は離型性を高めるために、厚みが例えば40μm程度のフッ素樹脂層による離型層21cを形成するのが望ましい。
【0033】
なお、定着ベルト20のベルト径を加圧ローラ21の径よりも大きくすることにより、ヒータ22幅を広くできるため高生産機に対応できる。また、ベルト径が大きいとニップ幅に対する定着ベルト20全体の変形が小さくなるので、変形クセを抑制して用紙分離性を安定化することもできる。但し、ヒータ22幅を広くし過ぎると変形クセも大きくなる。したがって、ヒータ22幅は適度の大きさにするのがよい。
【0034】
加圧ローラ21が付勢手段によって定着ベルト20側へ付勢されることで、加圧ローラ21は定着ベルト20を介してヒータ22に圧接される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に定着ニップNが形成される。
【0035】
したがって、ヒータ22はニップ形成部材としても機能する。また、加圧ローラ21は駆動手段によって回転駆動されるように構成されており、加圧ローラ21が
図2の矢印方向に回転すると、これに伴って定着ベルト20が従動回転する。定着ベルト20が従動回転するため、定着ベルト20の径(ベルト径)は、ヒータ22やヒータホルダ23などの内側部材よりも大きさに余裕がある構成にする必要がある。なお、加圧ローラ21の駆動手段やヒータ22の制御は、後述する
図5の制御部220やマシン本体のコントローラ等によって行うことができる。
【0036】
ヒータ22は、定着ベルト20の幅方向に渡って長手状に設けられた面状の加熱部材であり、板状の基材30と、基材30上に設けられた抵抗発熱体31と、抵抗発熱体31を被覆する絶縁層32等で構成されている。また、ヒータ22は、絶縁層32側で定着ベルト20の内周面に対して接触しており、抵抗発熱体31から発された熱は、絶縁層32を介して定着ベルト20へと伝達される。
【0037】
絶縁層32は、例えば厚さ75μmの耐熱性ガラスで構成される。絶縁層32によって抵抗発熱体31と給電線33とを被覆し、これらを絶縁・保護すると共に、定着ベルト20との摺動性を維持する。
【0038】
本実施形態では、抵抗発熱体31や絶縁層32が基材30の定着ベルト20側(定着ニップN側)に設けられているが、反対に、抵抗発熱体31や絶縁層32を基材30のヒータホルダ23側に設けてもよい。その場合、抵抗発熱体31の熱が基材30を介して定着ベルト20に伝達されることになるため、基材30は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料で構成されることが望ましい。また、基材30を熱伝導率の良い材料で構成することで、抵抗発熱体31を基材30の定着ベルト20側とは反対側に配置しても、定着ベルト20を十分に加熱することが可能である。
【0039】
ヒータホルダ23及びステー24は、定着ベルト20の内周側に配置されている。ステー24は、金属製のチャンネル材で構成され、その両端部分が定着装置9の両側板に支持されている。ステー24によってヒータホルダ23及びこれに保持されるヒータ22が支持されていることで、加圧ローラ21が定着ベルト20に加圧された状態で、ヒータ22が加圧ローラ21の押圧力を確実に受けとめて定着ニップNを安定的に形成する。
【0040】
ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料で形成されることが望ましい。例えば、ヒータホルダ23をLCPなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で形成した場合は、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制され効率的に定着ベルト20を加熱することができる。
【0041】
(●用紙分離機構)
定着ニップNの下流側(右側)に用紙分離機構300が配設されている。用紙分離機構300は分離部材としての分離板310を有し、当該分離板310によって定着ベルト20から用紙を分離する。
【0042】
分離板310は、耐熱性を有する金属や樹脂で構成することができる。耐熱性金属としては例えばステンレスを使用することができる。耐熱性樹脂としては例えばポリイミドやPEEKなどを使用することができる。
【0043】
分離板310は耐熱性を有する材料あれば金属や樹脂以外で構成してもよい。分離板310は、定着ベルト20の軸線方向と平行に、用紙サイズより大きい幅で延在し、その長手方向両端部が、左右一対の側板に支持されている。
【0044】
(●ヒータの構成)
図4は、本実施形態に係るヒータ22の平面図である。
図4Aに示すように、本実施形態に係るヒータ22は、その長手方向(ベルト幅方向)に間隔をあけて配置された複数の抵抗発熱体31を有している。
【0045】
言い換えれば、複数の抵抗発熱体31によって、ベルト幅方向に複数に分割された発熱部35が構成されている。当該発熱部35は、両端部を加熱する端部ヒータ(端部加熱部材)と中央部を加熱する中央ヒータ(中央加熱部材)の少なくとも3つ或いは4つ以上に分割することができる。これにより、用紙幅に対応して通電するヒータを選択することで、定着ベルト20の非通紙部過熱を抑制することができる。
【0046】
各抵抗発熱体31は、基材30の長手方向両端部に設けられた一対の電極部34に対して給電線33を介して電気的に並列に接続されている。給電線33は、抵抗発熱体31よりも抵抗値の小さい導体で構成されている。
【0047】
互いに隣り合う抵抗発熱体31同士の隙間は、抵抗発熱体31間の絶縁性を確保する観点から、0.2mm以上が好ましく、0.4mm以上がさらに好ましい。また、互いに隣り合う抵抗発熱体31同士の隙間は、大き過ぎると、その隙間の部分で温度低下が生じやすくなるため、長手方向に渡る温度ムラを抑制する観点から、5mm以下が好ましく、1mm以下がさらに好ましい。
【0048】
抵抗発熱体31は、PTC(正の温度抵抗係数)特性を有する材料で構成されており、温度が上昇すると抵抗値が上昇(ヒータ出力が低下)する特徴がある。この特徴により、例えば発熱部35の全体幅よりも幅の小さい用紙を通紙した場合、紙幅より外側の領域では用紙によって定着ベルト20の熱が奪われないため、その部分に相当する抵抗発熱体31の温度が上昇する。
【0049】
抵抗発熱体31にかかる電圧は一定なので、紙幅より外側の抵抗発熱体31の温度が上昇し、その抵抗値が上昇すると、反対に出力(発熱量)が相対的に低下し、端部温度上昇が抑制される。また、複数の抵抗発熱体31が電気的に並列接続されていることで、印刷スピードを維持したまま非通紙部温度上昇を抑制することができる。
【0050】
なお、発熱部35を構成する発熱体は、PTC特性を有する抵抗発熱体以外のものであってもよい。また、発熱体は、ヒータ22の短手方向に複数列に配置されていてもよい。
【0051】
抵抗発熱体31は、例えば、銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷等により基材30に塗工し、その後、当該基材30を焼成することによって形成することができる。本実施形態では、抵抗発熱体31の抵抗値を常温で80Ωとしている。
【0052】
抵抗発熱体31の材料は、前述したもの以外に、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO2)の抵抗材料を用いてもよい。給電線33や電極部34の材料は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷等で形成することができる。
【0053】
(●基材の材料)
基材30の材料としては、耐熱性および絶縁性に優れるアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミックや、ガラス、マイカなどの非金属材料が好ましい。本実施形態では、配列交差方向の幅8mm、配列方向の幅270mm、厚さ1.0mmのアルミナ基材を使用している。
【0054】
他に、金属などの導電材料に絶縁性材料を積層したもので、基材30を構成してもよい。基材30の金属材料としては、アルミニウムやステンレスなどが低コストで好ましい。基材30をステンレス板により構成することで、熱応力による割れを抑制できる。また、ヒータ22の均熱性を向上し画像品位を高めるために、基材30を銅、グラファイト、グラフェンなどの高熱伝導率の材料で構成してもよい。
【0055】
絶縁層32は、例えば厚さ75μmの耐熱性ガラスで構成される。絶縁層32によって抵抗発熱体31と給電線33とを被覆し、これらを絶縁・保護すると共に、定着ベルト20との摺動性を維持する。
【0056】
グラフェンは薄片状の粉体である。グラフェンは、
図4Bに示すように、炭素原子の平面状の六角形格子構造からなる。グラフェンシートとは、シート状のグラフェンであり、通常、単層である。炭素の単一層に不純物を含んでいてもよい。
【0057】
またグラフェンはフラーレン構造を有したものであってもよい。フラーレン構造は、一般的に、同数の炭素原子が5員環および6員環でかご状に縮環した多環体を形成してなる化合物として認識されており、例えば、C60、C70およびC80フラーレン又は3配位の炭素原子を有する他の閉じたかご状構造である。
【0058】
グラフェンシートは、人工物であり、例えば化学気相蒸着(CVD)法で作製されうる。グラフェンシートには市販品を用いることができる。グラフェンシートの大きさ、厚み、あるいは後述するグラファイトシートの層数などは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される。
【0059】
また、グラフェンを多層化したグラファイトは大きな熱伝導異方性を持つ。グラファイトは、
図4Cに示すように、炭素原子の縮合六員環層面が平面状に広がった層を有し、この層が何重にも重なった結晶構造を有する。
【0060】
この結晶構造における炭素原子間は、層内での隣接する炭素原子同士は共有結合をなし、層間の炭素原子同士はファン・デル・ワールス結合をなす。そして、共有結合はファン・デル・ワールス結合に比べてその結合力が大きく、層内での結合と層間での結合とでは大きな異方性を持つ。
【0061】
基材30をグラファイトにより構成することで、配列方向の伝熱効率が厚み方向(つまり、部材の積層方向)に比べて大きくなり、ヒータホルダ23への伝熱を抑制できる。従って、ヒータ22の配列方向の温度ムラを効率よく抑制するとともに、ヒータホルダ23側へ流出する熱を最小限に抑えることができる。また、基材30をグラファイトにより構成することで、700度程度まで酸化しない優れた耐熱性を基材30に持たせることができる。
【0062】
グラファイトシートの物性や寸法は、基材30に求められる機能に応じて適宜変更できる。例えば、高純度のグラファイトあるいは単結晶グラファイトを用いる、あるいは、グラファイトシートの厚みを大きくすることで、その熱伝導の異方性を高めることができる。
【0063】
また、定着装置9を高速化するために、厚みの小さいグラファイトシートを用いて定着装置9の熱容量を小さくしてもよい。また、定着ニップNやヒータ22の幅が大きい場合には、それに合わせて基材30の配列方向の幅を大きくしてもよい。
【0064】
機械的強度を高める観点から、グラファイトシートの層数は11以上であることが好ましい。またグラファイトシートは部分的に単層と多層の部分とを含んでいてもよい。
【0065】
(●電力供給回路)
図5は、本実施形態に係るヒータへの電力供給回路を示す図である。
図5に示すように、本実施形態では、各抵抗発熱体31に電力を供給するため電力供給回路が、交流電源200とヒータ22の電極部34とを電気的に接続することで構成されている。また、電力供給回路には、供給電力量を制御するトライアック210が設けられている。
【0066】
各抵抗発熱体31への供給電力量は、温度検知手段としてのサーミスタ25の検知温度に基づいて制御部220がトライアック210を介して制御する。制御部220は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース等を包含するマイクロコンピュータで構成される。
【0067】
本実施形態では、温度検知手段としてのサーミスタ25が、最小通紙幅内であるヒータ22の長手方向中央領域と、ヒータ22の長手方向一端部側とに、それぞれ配置されている。さらに、ヒータ22の長手方向一端部側には、抵抗発熱体31の温度が所定温度以上となった場合に、抵抗発熱体31への電力供給を遮断する電力遮断手段としてのサーモスタット27が配置されている。サーミスタ25及びサーモスタット27は、基材30の裏面(抵抗発熱体31を配置した側とは反対側)に接触して抵抗発熱体31の温度を検知する。
【0068】
(●ヒータの制御動作)
続いて、
図6Aのフローチャートを参照しつつ、本実施形態に係るヒータの制御動作について説明する。まず、画像形成装置において印刷動作が開始されると(
図6AのS1)、制御部220により交流電源200からヒータ22の各抵抗発熱体31への電力供給が開始される(
図6AのS2)。
【0069】
これにより、各抵抗発熱体31が発熱を開始し、定着ベルト20が加熱される。このとき、ヒータ22の長手方向中央領域に配置されたサーミスタ(中央サーミスタ)25によって、ヒータ22の中央領域に位置する抵抗発熱体31の温度T4が検知される(
図6AのS3)。そして、制御部220が、中央サーミスタ25から得られた温度T4に基づいて、各抵抗発熱体31が所定温度になるように、トライアック210により各抵抗発熱体31への供給電力量を制御する(
図6AのS4)。
【0070】
また、同時にヒータ22の長手方向端部側に配置されたサーミスタ(端部サーミスタ)25によっても抵抗発熱体31の温度T8が検知される(
図6AのS5)。そして、端部サーミスタ25によって検知された温度T8が所定温度TN以上(T8≧TN)か否かが判定され(
図6AのS6)、所定温度TN未満であれば、異常低温発生(断線発生)としてヒータ22への電力供給が遮断され(
図6AのS7)、画像形成装置の操作パネルにエラー表示が示される(
図6AのS8)。一方、検知された温度T8が所定温度TN以上であれば、異常低温発生なしとして印刷動作が開始される(
図6AのS9)。
【0071】
また、万が一、抵抗発熱体31が破損、断線するなどにより中央サーミスタ25の検知に基づく温度制御が不能になった場合は、長手方向端部の抵抗発熱体31を含む他の抵抗発熱体31が異常高温になる虞がある。その場合は、抵抗発熱体31が所定温度以上になったときにサーモスタット27が作動して抵抗発熱体31への電力供給を遮断することで、抵抗発熱体31が異常高温となるのを回避する。なお、
図6Aの通電開始(S2)の前に、後述するように
図6Bの制御を追加することができる。
図6Bの制御によって、定着ベルト20の
図7に示す変形クセA,B,Cを除去することができる。
【0072】
本実施形態に係る定着装置9において、印刷動作が開始されると、加圧ローラ21が回転駆動され、定着ベルト20が従動回転を開始する。また、ヒータ22の抵抗発熱体31に電力が供給されることで、定着ベルト20が加熱される。そして、定着ベルト20の温度が所定の目標温度(定着温度)に到達した状態で、
図2に示すように、未定着トナー画像が担持された用紙Pが、定着ベルト20と加圧ローラ21との間(定着ニップN)に搬送されることで、未定着トナー画像が加熱及び加圧されて用紙Pに定着される。
【0073】
(●定着ベルトの変形クセとその除去)
定着ベルト20は、前述したように耐熱性樹脂であるポリイミド等で構成することができるが、薄肉のために回転停止中に
図7に示すような変形クセA,B,Cが付きやすい。この変形クセA,B,Cが付いた状態で定着ベルト20を回転すると、定着ベルト20の軌道が変動する。
【0074】
すなわち、回転停止中の定着ニップNにおいて、定着ベルト20が面状ヒータ22と加圧ローラ21に挟まれて平板状の変形クセAが発生する。また、定着ニップNの入口隣接部と出口隣接部に、曲率半径が大きい円弧状の変形クセB,Cが発生する。この変形クセB,Cは、用紙分離性を高めるためにヒータ22摺動面を凹状に形成した場合に、より強く(曲率半径が大に)なる。
【0075】
定着ベルト20とヒータ22は冷却時間に大きな差異があるので、変形クセA,B,Cがいっそう発生しやすい。この変形クセA,B,Cが付いた状態で定着ベルトを回転(順転)し始めると、定着ベルト20の内側にベルト変形を規制する部材がないので、定着ベルト20の回転軌道が縦長⇔横長のように不規則に変動し(バタつきの発生)、下流側の分離板310にベルト20が接触する。
【0076】
従来(特許文献1、2)は、加圧ローラ21が所定温度に到達するまで定着ベルト20を逆転して変形クセA,B,Cを除去するようにしていたが、定着装置9の寿命が短くなったりジョブ開始が遅れたりするという課題があった。そこで本実施形態では、定着ベルト20の回転を
図8のように制御する。
図8の回転制御は、
図6Bのフローチャートに基づいて行われるものであり、必要に応じて当該フローチャートの参照符号(S1a~S1f)を使用する。
(●定着ベルトの回転制御)
【0077】
図8は、変形クセA,B,Cが付いた定着ベルト20を逆転させて変形クセC,Bを順番に除去するものである。まず、
図8の左端⇒中央のように、停止状態から定着ベルト20を所定角度だけ逆転(時計方向に回転)する(
図6BのS1a)。これにより出口側の変形クセCが
図2の定着ニップNに到来する。
【0078】
ここで定着ベルト20を一時停止し(
図6BのS1b)、ヒータ22に一時通電する(
図6BのS1c)。なお、定着ベルト20を逆転させる場合、変形クセC,Bが下流側に移動しないので、変形クセC,Bが大きいときでも分離板310に接触する可能性を低減することができる。
【0079】
その後、再び定着ベルト20を所定角度だけ逆転(時計方向に回転)する(
図6BのS1d)。これにより、今度は入口側の変形クセBが
図2の定着ニップNに到来する。ここで定着ベルト20を一時停止し(
図6BのS1e)、ヒータ22に一時通電する(
図6BのS1f)。
【0080】
このように、定着ベルト20を逆転⇒停止(加熱)⇒逆転⇒停止(加熱)することで、変形クセC,Bを順番に除去することことができる。また、定着ベルト20をまったく順転させずに逆転のみすることで、分離板310にベルトが接触して損傷する可能性を低減することができる。また、変形クセC,Bを順番に除去するまでに定着ベルト20を逆転する回転角度は約300°で済むので、定着装置9の寿命短縮はわずかである。
【0081】
また、変形クセB,Cに対してヒータ22の熱を集中的に作用させることができるので、変形クセB,Cを短時間で除去することができる。したがって、ジョブの開始遅れを最低限に短縮することができる。
【0082】
定着ベルト20を所定角度だけ順転させる時の回転速度は、印刷動作の時の回転速度よりも遅くするのがよい。
図8の回転制御はヒータ22に対して印刷動作用に本格通電する前に行うが、この時は定着ニップNなどの摺動部のグリス粘度が高い。そのため定着ベルト20の摺動負荷が大きいので、定着ベルト20を低速駆動することで駆動系の負荷を低減することができる。
【0083】
次に、定着ベルト20の変形クセB,Cをヒータ22で加熱するときの好適温度について検討する。
図8では変形クセB,Cに対してヒータ22の熱を集中的に作用させるが、ジョブの開始遅れを最低限に短縮するためにヒータ22による加熱も必要最低限にするのが望ましい。
【0084】
(●ベルト温度とクセ取り効果)
図9は、定着ベルト20の温度とクセ取り効果の相関関係を調べたものである。図示するように、ベルト温度が50℃未満ではクセ取り効果が得られないことが分かる(X印:変形クセの低減0%)。
【0085】
これに対して、ベルト温度が75℃になるとクセ取り効果が現れ始める(△印:変形クセの低減0%超)。そして、ベルト温度が100℃以上になるクセ取り効果が確実に得られることが分かる(〇印:変形クセの100%低減)。このことから、定着ベルト20を一時停止して一時通電するときの通電時間は、ベルト温度が75℃以上、望ましくは100℃以上になる通電時間がよいことが分かる。
【0086】
定着ベルト20の温度が100℃に到達したら、速やかに次のステップに移動する。但し、使用する定着ベルト20の基材や弾性層の種類、表面離型層の種類や厚みによってクセ取り効果が変わるため、最適温度は定着ベルトの種類によって変更するのがよい。
【0087】
また、ヒータ22が端部ヒータと中央ヒータを有する場合、定着ベルト20の変形クセB,Cを加熱するときの端部ヒータの温度を中央ヒータの温度よりも高くすることができる。端部ヒータは放熱により温度ダレしやすいので、中央ヒータよりもやや高温に設定する。
【0088】
また、定着ベルト20が回転停止中であっても、定着ベルト20や加圧ローラ21の温度が高く、定着装置9が冷間状態(60℃以下)ではない場合もある。そのような場合は定着ベルト20に変形クセA,B,Cが付いている可能性は少ない。
【0089】
したがって、定着装置9が冷間状態(60℃以下)の場合にのみ、
図8の回転制御を行うようにしてもよい。これにより、定着ベルト20の無駄な回転制御を回避し、定着装置9の寿命短縮を抑制すると共にジョブの開始遅れを最低限にすることができる。
【0090】
(●サーミスタの配置の変形例)
前記サーミスタ25は、例えば
図10に示すように、定着ニップNの中央位置NAよりも定着ベルト20の回転方向上流側、言い換えると、定着ニップNの入口側に設けることも可能である。定着ニップNの入口側は特に用紙Pによって熱を奪われやすい領域であるため、サーミスタ25がこの部分の温度を検知することで、定着装置9の定着性を確保し、上記定着オフセットを効果的に抑制できる。
【0091】
(●定着装置と画像形成装置の変形例)
本発明の定着装置は、
図11~
図13に示す変形例として構成することも可能である。以下、
図11~
図13に示す各定着装置の構成について簡単に説明する。
【0092】
まず、
図11に示す定着装置9は、定着ベルト20に対して加圧ローラ21側とは反対側に、押圧ローラ44が配置されている。押圧ローラ44は、回転部材としての定着ベルト20に対向して回転する対向回転部材である。この押圧ローラ44とヒータ22とが定着ベルト20を挟んで加熱するように構成されている。
【0093】
一方、加圧ローラ21側では、定着ベルト20の内周にニップ形成部材45が配置されている。ニップ形成部材45は、ステー24によって支持されている。ニップ形成部材45と加圧ローラ21とによって、定着ベルト20を挟んで定着ニップNを形成している。
【0094】
次に、
図12に示す定着装置9では、前述の押圧ローラ44が省略されており、定着ベルト20とヒータ22との周方向接触長さを確保するために、ヒータ22が定着ベルト20の曲率に合わせて円弧状に形成されている。その他は、
図11に示す定着装置9と同じ構成である。
【0095】
最後に、
図13に示す定着装置9について説明する。定着装置9は、加熱アセンブリ92、定着部材である定着ローラ93、対向部材である加圧アセンブリ94からなる。
【0096】
加熱アセンブリ92は、先の実施形態で説明したヒータ22、ヒータホルダ23、ステー24、回転部材としての加熱ベルト120等を有する。定着ローラ93は、回転部材としての加熱ベルト120に対向して回転する対向回転部材である。
【0097】
また、定着ローラ93は、中実の鉄製芯金93aと、この芯金93aの表面に形成された弾性層93bと、弾性層93bの外側に形成された離型層93cとで構成されている。また、定着ローラ93に対して加熱アセンブリ92側とは反対側に、加圧アセンブリ94が設けられている。
【0098】
加圧アセンブリ94は、ニップ形成部材95とステー96とを配置し、これらニップ形成部材95とステー96を内包するように加圧ベルト97を回転可能に配置している。そして、加圧ベルト97と定着ローラ93との間の定着ニップN2に用紙Pを通紙して加熱および加圧して画像を定着する。
【0099】
以上の
図11~
図13の定着装置においても、ヒータ22の抵抗発熱体31同士の分割領域Bにおいてヒータ22の発熱量が小さくなる点は同様である。従って、前述した実施形態と同様に、ヒータ22の分割領域Bに対応する位置に温度検知部材の温度検知素子を設けることにより、回転部材の分割領域に対応する部分を十分に加熱することができる。これにより、画像の定着性を十分に確保し、定着オフセットなどの不具合の発生を防止できる。
【0100】
また、本発明は、上記の実施形態で説明したような定着装置に限らず、用紙に塗布されたインクを乾燥させる乾燥装置、さらには、被覆部材としてのフィルムを用紙等のシートの表面に熱圧着するラミネータや、包材のシール部を熱圧着するヒートシーラーなどの熱圧着装置のような加熱装置にも適用可能である。このような装置にも本発明を適用することで、回転部材の分割領域に対応する部分を十分に加熱することができる。
【0101】
本発明に係る画像形成装置は、
図1に示すカラー画像形成装置に限らず、モノクロ画像形成装置や、複写機、プリンタ、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機等であってもよい。例えば
図14に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、感光体ドラムなどからなる画像形成手段50と、一対のタイミングローラ15等からなる用紙搬送部と、給紙装置7と、定着装置9と、排紙装置10と、読取部51と、を備える。給紙装置7は複数の給紙トレイを備え、それぞれの給紙トレイが異なるサイズの用紙を収容する。
【0102】
読取部51は原稿Qの画像を読み取る。読取部51は、読み取った画像から画像データを生成する。給紙装置7は、複数の用紙Pを収容し、搬送路へ用紙Pを送り出す。タイミングローラ15は搬送路上の用紙Pを画像形成手段50へ搬送する。
【0103】
画像形成手段50は、用紙Pにトナー像を形成する。具体的には、画像形成手段50は、感光体ドラムと、帯電ローラと、露光装置と、現像装置と、補給装置と、転写ローラと、クリーニング装置と、除電装置とを含む。
【0104】
トナー像は、例えば、原稿Qの画像を示す。定着装置9は、トナー像を加熱および加圧して、用紙Pにトナー像を定着させる。トナー像の定着された用紙Pは、搬送ローラなどにより排紙装置10へ搬送される。排紙装置10は、画像形成装置100の外部に用紙Pを排出する。
【0105】
次に、
図14の画像形成装置100に使用する定着装置9について説明する。前述の実施形態の定着装置と共通する構成については、適宜その記載を省略する。
【0106】
図15に示すように、定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、サーミスタ25等を備える。定着ベルト20と加圧ローラ21との間に定着ニップNが形成される。定着ニップNのニップ幅は10mm、定着装置9の線速は240mm/sである。
【0107】
定着ベルト20はポリイミドの基体と離型層とを備え、弾性層を有していない。離型層は、例えばフッ素樹脂からなる耐熱性のフィルム材からなる。定着ベルト20の外径は約24mmである。
【0108】
加圧ローラ21は、芯金21aと弾性層21bと離型層21cとを含む。加圧ローラ21の外径は24~30mmで形成され、弾性層21bの厚みは3~4mmで形成される。
【0109】
ヒータ22は、基材と、断熱層と、抵抗発熱体などを含む導体層と、絶縁層とを含み、全体の厚みが1mmで形成される。また、ヒータ22の配列交差方向の幅Yは13mmである。
【0110】
図16に示すように、ヒータ22の導体層は、複数の抵抗発熱体31と、給電線33と、電極部34A~34Cとを備える。本実施形態においても、
図16の拡大図に示すように、複数の抵抗発熱体31が配列方向に分割された分割領域Bが形成される。但し、
図16では拡大図の範囲のみで分割領域Bを図示しているが、実際は全ての抵抗発熱体31同士の間に分割領域が設けられる。
【0111】
抵抗発熱体31により、三つの発熱部35A~35Cが構成される。電極部34A,34Bに通電することにより、発熱部35A,35Cが発熱する。
【0112】
電極部34A,34Cに通電することにより、発熱部35Bが発熱する。例えば、小サイズ用紙に定着動作を行う場合には発熱部35Bを発熱させ、大サイズ用紙に定着動作を行う場合には全ての発熱部に発熱させることができる。
【0113】
図17に示すように、ヒータホルダ23は、その凹部23bにヒータ22を保持する。凹部23bは、ヒータホルダ23のヒータ22側に設けられる。凹部23bは、ヒータ22のその他の面よりもステー24側に凹となった基材30に略平行な面23b1と、ヒータホルダ23の配列方向両側(一方側でもよい)でヒータホルダ23の内側に設けられた壁部23b2と、配列交差方向両側でヒータホルダ23の内側に設けられた壁部23b3とにより構成される。
【0114】
ヒータホルダ23はガイド部26を有する。ヒータホルダ23はLCP(液晶ポリマー)により形成される。
【0115】
図18に示すように、コネクタ60は、樹脂製(例えばLCP)のハウジングと、ハウジング内に設けられた複数のコンタクト端子等を備える。コネクタ60は、ヒータ22とヒータホルダ23とを表側と裏側から一緒に挟むようにして取り付けられる。この状態で、各コンタクト端子が、ヒータ22の各電極部に接触(圧接)することで、コネクタ60を介して発熱部35と画像形成装置に設けられた電源とが電気的に接続される。
【0116】
これにより、電源から発熱部35へ電力が供給可能な状態となる。なお、各電極部34は、コネクタ60との接続を確保するため、少なくとも一部が絶縁層に被覆されておらず露出した状態となっている。
【0117】
フランジ53は、定着ベルト20の配列方向の両側に設けられ、定着ベルト20の両端をベルトの内側から保持する。フランジ53は定着装置9の筐体に固定される。フランジ53はステー24の両端に挿入される(
図18のフランジ53からの矢印方向参照)。
【0118】
コネクタ60のヒータ22およびヒータホルダ23に対する取り付け方向はヒータの配列交差方向である(
図18のコネクタ60からの矢印方向参照)。コネクタ60のヒータホルダ23に対する取り付け時に、コネクタ60とヒータホルダ23との一方に設けた凸部が、他方に設けた凹部に係合し、凸部が凹部内を相対移動する構成としてもよい。またコネクタ60は、配列方向のいずれか一方側であって、加圧ローラ21の駆動モータが設けられる側とは反対側で、ヒータ22およびヒータホルダ23に取り付けられる。
【0119】
図19に示すように、定着ベルト20の内周面に対向して、定着ベルト20の配列方向中央側と端部側にそれぞれサーミスタ25が設けられる。サーミスタ25により検知された定着ベルト20の配列方向中央側と端部側のそれぞれの温度に基づいて、ヒータ22を制御する。なお、これらのサーミスタ25のうちいずれか一方は、前述の実施形態と同様、ヒータ22の抵抗発熱体同士の分割領域に対応する位置に設けられる。
【0120】
定着ベルト20の内周面に対向して、定着ベルト20の配列方向中央側と端部側にそれぞれサーモスタット27が設けられる。サーモスタット27により検知された定着ベルト20の温度が定められた閾値を超えた場合には、ヒータ22への通電を停止する。
【0121】
定着ベルト20の配列方向両端には、定着ベルト20の各端部を保持するフランジ53が設けられる。フランジ53はLCP(液晶ポリマー)により形成される。
【0122】
図20に示すように、フランジ53にはスライド溝53aが設けられる。スライド溝53aは、定着ベルト20の加圧ローラ21に対する接離方向に延在する。
【0123】
スライド溝53aには定着装置9の筐体の係合部が係合する。この係合部がスライド溝53a内を相対移動することにより、定着ベルト20は加圧ローラ21に対する接離方向へ移動できる。
【0124】
以上の定着装置9においても、ヒータ22の分割領域Bに対応する位置にサーミスタ25の温度検知素子を設けることにより、定着ベルト20の分割領域に対応する部分を十分に加熱することができる。これにより、画像の定着性を十分に確保し、定着オフセットなどの不具合の発生を防止できる。
【0125】
特に単色のトナーにより画像形成動作を行う画像形成装置の場合、複数色のトナーにより画像形成動作を行う画像形成装置と比較して、相対的にホットオフセットが生じにくい。従って、本発明のように、分割領域に対応する位置に配置した温度検知素子の検知結果に基づいて加熱部材の制御を実施しても、単色のトナーを使用する画像形成装置ではホットオフセットが相対的に生じにくいという利点がある。
【0126】
(●まとめ)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であることは勿論である。例えば、定着ベルト20の入口隣接部又は出口隣接部のいずれか一方のみを定着ニップNに移動してヒータ22で加熱するようにしてもよい。
【0127】
また、前記実施形態では無端ベルトとして定着装置9の定着ベルト20を例に説明したが、無端ベルトは感光体ベルトであってもよい。すなわち、像担持体としての感光体ベルトに担持されたトナー像を被搬送体としての記録媒体上に転写する画像形成装置において、前述した分離板によって記録媒体を感光体ベルトから分離する。
【0128】
また、無端ベルトは像担持体としての
図1の中間転写ベルト11であってもよい。すなわち、中間転写ベルト11と二次転写ローラ13の間のニップを通過して搬送される記録媒体を前述した分離板で中間転写ベルト11から分離する。
【0129】
同様に、無端ベルトはインクジェット方式の画像形成装置で使用される中間転写ベルトであってもよい。また、その他インクジェット方式の画像形成装置において、加圧部材が無端ベルトを介してニップ形成部材と圧接してニップを形成し、当該ニップを被搬送体が通過して搬送される構成に適用する場合も、ニップ通過後の被搬送体を前述した分離板で無端ベルトから分離することができる。
【0130】
また、前記分離板310は、定着ベルト20に対して近付く方向と遠ざかる方向に移動可能に配設することができ、分離板310を回動可能とする他、ヒータホルダ23と平行状態を維持した状態で定着ベルト20に対する接近離反方向で平行移動可能に構成してもよい。
【符号の説明】
【0131】
1Y,1M,1C,1Bk:作像ユニット 2:感光体
3:帯電装置 4:現像装置
5:クリーニング装置 6:露光装置
7:給紙装置 8:転写装置
9:定着装置 10:排紙装置
11:中間転写ベルト 12:一次転写ローラ
13:二次転写ローラ 14:用紙搬送路
15:タイミングローラ 20:定着ベルト
21:加圧ローラ 21a:芯金
21b:弾性層 21c:離型層
22:ヒータ 23:ヒータホルダ
24:ステー 25:サーミスタ
27:サーモスタット 30:基材
31:抵抗発熱体 32:絶縁層
33:給電線 34:電極部
34A~34C:電極部 35:発熱部
200:交流電源 210:トライアック
220:制御部 300:用紙分離機構
310:分離板(分離部材) P:用紙(被搬送体)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0132】
【特許文献1】特許第5305742号公報
【特許文献2】特開2009-288587号公報
【特許文献3】特開2006-163295号公報