(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167343
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ及びエピタキシャルシリコンウェーハ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/322 20060101AFI20231116BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20231116BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20231116BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01L21/322 Y
C30B29/06 502Z
C30B15/00 Z
C23C16/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078458
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】平木 敬一郎
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB06
4G077AB09
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077HA12
4K030AA03
4K030AA17
4K030BA29
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030JA01
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化したシリコンウェーハであって、高濃度の酸素析出物が形成可能なことで高いゲッタリング能力を有し、かつ、エピタキシャル層を形成した際に酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制され得る、シリコンウェーハを提供する。
【解決手段】ドーパントとしてボロンを含有し、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下であり、酸素濃度が14.5×10
17atoms/cm
3以上16×10
17atoms/cm
3以下であり、炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3以上5×10
17atoms/cm
3以下であり、COPが存在せず、かつ、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンからなるシリコンウェーハ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントとしてボロンを含有し、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下であり、
酸素濃度が14.5×1017atoms/cm3以上16×1017atoms/cm3以下であり、
炭素濃度が2×1016atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であり、
COPが存在せず、かつ、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンからなる
シリコンウェーハ。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハの表面上に形成されたエピタキシャル層と、
を有するエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項3】
前記エピタキシャル層の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が5個/ウェーハ以下であり、直径が300mmである、請求項2に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項4】
酸素析出物評価熱処理を施した場合に、前記シリコンウェーハの内部に形成される酸素析出物の密度が1×109個/cm3以上である、請求項2又は3に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化したシリコンウェーハ(いわゆるp++シリコンウェーハ)及びこれを用いたエピタキシャルシリコンウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ上に単結晶シリコンからなるエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハは、各種半導体デバイスを作製する際の基板として用いられる。エピタキシャルシリコンウェーハに重金属不純物が存在すると、半導体デバイスの特性不良を起こす原因になってしまうため、重金属不純物を極力減少させなければならない。この重金属不純物を低減させる技術の一つとしてゲッタリング技術がある。このゲッタリング技術の一つとして、シリコンウェーハ内に酸素析出物(BMD:Bulk Micro Defect)を形成し、そこに重金属不純物を捕獲させるイントリンシックゲッタリング(IG)と呼ばれる方法が知られている。最近のデバイス熱処理(半導体デバイスの作製中に行われる熱処理)の低温化により、さらにゲッタリング能力を付与するため、BMD密度の高いエピタキシャルシリコンウェーハが求められている。
【0003】
また、半導体デバイスの集積回路が動作する場合に、発生する浮遊電荷が意図しない寄生トランジスタを動作させることによって発生する、いわゆるラッチアップと呼ばれている現象が発生する。ラッチアップ現象が発生すると、半導体デバイスが正常に動作しなくなり、これを正常状態に回復させるためには、電源を落とさなければならないようなトラブルを生じる。このため、ラッチアップ対策として、3×1018atoms/cm3程度のボロンが添加され、抵抗率が20mΩ・cm程度の直径300mmのp+シリコンウェーハの表面に、シリコンウェーハの抵抗率よりも抵抗率が高いエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハ(いわゆるp/p+エピタキシャルシリコンウェーハ)が使用されている。このp/p+エピタキシャルウェーハは、ボロンを高濃度に含有したシリコンウェーハ(p+シリコンウェーハ)がゲッタリング効果を有することを利用するもので、上記ラッチアップ現象の防止対策の他に、トレンチ構造のキャパシタを用いる場合にトレンチ周辺の電圧印加にともなう空乏層の拡がりを防止するなど、デバイスの機能向上を図ることができる。
【0004】
p/p+エピタキシャルシリコンウェーハに関して、特許文献1には、抵抗率が30mΩ・cm以下となるようにボロンが添加され、酸素濃度が8×1017~16×1017atoms/cm3であり、窒素濃度が1×1013~1×1015atoms/cm3であり、炭素濃度が5×1015~5×1017atoms/cm3であるシリコンウェーハと、当該シリコンウェーハ上に形成されたエピタキシャル層と、を有するエピタキシャルシリコンウェーハが記載されている。特許文献1では、炭素添加が、BMD密度を増加させてゲッタリング能力を向上させることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、p/p+エピタキシャルウェーハではなく、シリコンウェーハ中のボロン濃度をさらに高め、さらに低抵抗化したp/p++エピタキシャルシリコンウェーハの提供が求められている。また、既述のように、最近のデバイス熱処理の低温化により、さらにゲッタリング能力を付与するため、BMD密度の高いエピタキシャルウェーハが求められており、具体的には、ウェーハ内部に形成されるBMD密度を1×109個/cm3以上とすることが求められている。
【0007】
シリコンウェーハ中の酸素濃度を高くすることで、BMD密度を高くすることができることが知られている。本発明者が鋭意検討したところ、p/p++エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、シリコンウェーハ中の酸素濃度を14.5×1017atoms/cm3以上とすることによって、1×109個/cm3以上の高いBMD密度を得ることができることを見出した。
【0008】
しかしながら、1×109個/cm3以上のBMD密度を確保することを目的に、シリコンウェーハ中の酸素濃度を14.5×1017atoms/cm3以上とした場合、エピタキシャル成長処理時に、シリコンウェーハ表層部に存在するBMDを起点として、エピタキシャル層中に多数の積層欠陥(SF:Staking Fault)が発生してしまい、エピタキシャル層表面で観察されるSF密度が多くなることが判明した。なお、本明細書において、このエピタキシャル層中に発生する積層欠陥を「エピタキシャル欠陥」とも称する。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化したシリコンウェーハであって、高濃度の酸素析出物が形成可能なことで高いゲッタリング能力を有し、かつ、エピタキシャル層を形成した際に酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制され得る、シリコンウェーハを提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化したシリコンウェーハを含むエピタキシャルシリコンウェーハであって、シリコンウェーハ中に高濃度の酸素析出物が形成可能なことで高いゲッタリング能力を有し、かつ、酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制された、エピタキシャルシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明者が鋭意検討したところ、p/p++エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、シリコンウェーハ中の酸素濃度を14.5×1017atoms/cm3以上とすることによって顕著となるエピタキシャル欠陥の発生を、シリコンウェーハ中の炭素濃度を所定の閾値以上とすること、具体的には2×1016atoms/cm3以上とすることで十分に抑制できるとの知見を得た。従来、シリコンウェーハへの炭素添加は、BMD密度を増加させてゲッタリング能力を向上させるものとして認識されていた。ところが、本発明者の実験によれば、p/p++エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、シリコンウェーハ中の炭素濃度を所定の閾値以上とすることで、高酸素化に伴う副作用であるエピタキシャル欠陥の発生を抑制できるという新規な知見を得た。
【0012】
上記の知見に基づき完成された本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]ドーパントとしてボロンを含有し、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下であり、酸素濃度が14.5×1017atoms/cm3以上16×1017atoms/cm3以下であり、炭素濃度が2×1016atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であり、COPが存在せず、かつ、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンからなるシリコンウェーハ。
【0013】
[2]上記[1]に記載のシリコンウェーハと、前記シリコンウェーハの表面上に形成されたエピタキシャル層と、を有するエピタキシャルシリコンウェーハ。
【0014】
[3]前記エピタキシャル層の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が5個/ウェーハ以下であり、直径が300mmである、上記[2]に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
【0015】
[4]酸素析出物評価熱処理を施した場合に、前記シリコンウェーハの内部に形成される酸素析出物の密度が1×109個/cm3以上である、上記[2]又は[3]に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリコンウェーハは、ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化されており、高濃度の酸素析出物が形成可能なことで高いゲッタリング能力を有し、かつ、エピタキシャル層を形成した際に酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制され得る。
【0017】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化したシリコンウェーハを含み、シリコンウェーハ中に高濃度の酸素析出物が形成可能なことで高いゲッタリング能力を有し、かつ、酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態によるシリコンウェーハ100の模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ200の模式断面図である。
【
図3】シリコンウェーハ中の酸素濃度及び炭素濃度を調整した際の、抵抗率とBMD密度との関係を示すグラフである。
【
図4】シリコンウェーハ中の酸素濃度及び炭素濃度を調整した際の、抵抗率とSF個数との関係を示すグラフである。
【
図5】
図4に示す実験において、シリコンウェーハ中の炭素濃度とSF個数との関係を示すグラフである。
【
図6】固液界面における温度勾配Gに対する引上げ速度Vの比V/Gと、単結晶シリコンインゴット中の結晶領域との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(シリコンウェーハ)
図1を参照して、本発明の一実施形態によるシリコンウェーハ100は、ドーパントとしてボロンを含有し、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下であり、酸素濃度が14.5×10
17atoms/cm
3以上16×10
17atoms/cm
3以下であり、炭素濃度が2×10
16atoms/cm
3以上5×10
17atoms/cm
3以下であり、COPが存在せず、かつ、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンからなることを特徴とする。
【0020】
シリコンウェーハ100は、ドーパントとしてボロンを含有し、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下の超低抵抗の、いわゆるp++シリコンウェーハである。抵抗率が10mΩ・cm以下であることにより、シリコンウェーハ中のボロン濃度が高いことで、ボロンによるゲッタリング能力が高く、シリコンウェーハ内部に形成されるBMDの密度が高くなる効果を奏する。本明細書において、シリコンウェーハの抵抗率は、シリコンウェーハ裏面を四探針法で測定した値であるものとする。
【0021】
上記抵抗率の範囲を実現するためのシリコンウェーハ100のボロン濃度は、8.5×1018atoms/cm3以上1.2×1020atoms/cm3以下である。ボロン濃度が8.5×1018atoms/cm3以上であれば、抵抗率を10mΩ・cm以下とすることができ、ボロン濃度が1.2×1020atoms/cm3以下であれば、抵抗率を1mΩ・cm以上とすることができる。本明細書において、シリコンウェーハのボロン濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハの厚み中心かつ面内中心におけるボロン濃度を二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定した値であるものとする。
【0022】
シリコンウェーハ100の酸素濃度は、14.5×1017atoms/cm3以上16×1017atoms/cm3以下であることが重要である。シリコンウェーハの酸素濃度は、ウェーハ内部に形成されるBMD密度に大きく影響を及ぼし、具体的には、高酸素化するほどBMD密度が高くなる。シリコンウェーハ100の酸素濃度を14.5×1017atoms/cm3以上とすることによって、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下の全ての範囲において、ウェーハ内部に形成されるBMD密度を1×109個/cm3以上とすることができる。ただし、BMD密度が高いほどゲッタリング効果は増大するものの、過度のBMD密度の増大はエピタキシャル欠陥(SF)の増加を生じてしまうため、シリコンウェーハ100の酸素濃度は16×1017atoms/cm3以下とする。本明細書において、シリコンウェーハの酸素濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハの厚み中心かつ面内中心における酸素濃度をSIMSにより測定した値であるものとする。シリコンウェーハの表層部はノイズ成分が多いため、正確な酸素濃度の測定が困難なため、表層部を除きウェーハ表面から深さ1μm以上の深さ位置で測定すれば正確な酸素濃度の測定が可能となる。本明細書では、より正確な値とするため、シリコンウェーハの厚み中心の測定値を採用するものとする。
【0023】
シリコンウェーハ100の炭素濃度は、2×1016atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であることが重要である。シリコンウェーハ100の酸素濃度を14.5×1017atoms/cm3以上とすることにより、BMD密度の増加を実現できるものの、他方で、エピタキシャル層を形成した際にBMDを起点としたエピタキシャル欠陥が多数発生するとの問題が顕在化する。本実施形態では、シリコンウェーハ100の炭素濃度を2×1016atoms/cm3以上とすることによって、BMDを起点としたエピタキシャル欠陥を十分に抑制することができる。この観点から、シリコンウェーハ100の炭素濃度は、2×1016atoms/cm3以上であることが重要であり、好ましくは3×1016atoms/cm3以上である。このような効果が得られる理由は、おそらく、シリコンウェーハ100中の炭素がBMD周辺に生じた歪みを緩和する作用を有しているものと推測される。ただし、炭素濃度が高すぎると、CZ法による単結晶インゴットの育成において有転位化を生じてしまい、無転位の単結晶インゴットの育成そのものが困難となるため、シリコンウェーハ100の炭素濃度は5×1017atoms/cm3以下とする。本明細書において、シリコンウェーハの炭素濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハ厚み中心かつ面内中心における炭素濃度をSIMSにより測定した値であるものとする。シリコンウェーハの表層部はノイズ成分が多いため、正確な炭素濃度の測定が困難なため、表層部を除きウェーハ表面から深さ1μm以上の深さ位置で測定すれば正確な炭素濃度の測定が可能となる。本明細書では、より正確な値とするため、シリコンウェーハ厚み中心の測定値を採用するものとする。
【0024】
シリコンウェーハ100には、窒素を積極的に添加しないものとする。すなわち、シリコンウェーハ100の窒素濃度はSIMS測定で検出限界以下の値となる。シリコンウェーハ中に窒素を添加すると、窒素がBMDの凝集作用によって生じた微小な歪みを強調する作用が生じるため、p++シリコンウェーハでは、エピタキシャル欠陥を増加させてしまうからである。
【0025】
シリコンウェーハ100は、COPが存在せず、かつ、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンからなるものとする。
図6を参照して、詳細に説明する。単結晶シリコンインゴットの代表的な製造方法として、チョクラルスキー法(CZ法)を挙げることができる。CZ法で育成された単結晶シリコンインゴットには、固液界面における温度勾配Gに対する引上げ速度Vの比V/Gに依存して、デバイス作製工程で問題となりうる種々のGrown-in欠陥が生じることが知られている。
【0026】
図6を参照して、V/Gが大きい条件下では、単結晶シリコンインゴットは、COP(Crystal Originated Particle)が検出される結晶領域であるCOP発生領域11に支配される。このCOP発生領域11は、空孔(Vacancy)が優勢な領域であり、V領域とも称される。すなわち、COPは空孔の凝集体である微小ボイド欠陥である。COP発生領域11は、V/Gが大きい条件下では、インゴットの径方向の全域にわたって存在するが、V/Gが小さくなるにつれて、インゴットの中心軸付近に絞られてくる。
【0027】
V/Gが小さい条件下では、単結晶シリコンインゴットは、転位クラスターが検出される結晶領域である転位クラスター領域15に支配される。この転位クラスター領域15は、格子間シリコン(Interstitial Silicon)が優勢な領域であり、I領域とも称される。すなわち、転位クラスターは、過剰な格子間シリコンの凝集体として形成される欠陥(転位ループ)である。
【0028】
V領域とI領域との間は、COPが検出されず、転位クラスターも存在しない、一般的には欠陥がないとみなされる結晶領域であるが、V/Gが大きい方から順に、OSF領域12、酸素析出促進領域(Pv領域)13、及び酸素析出抑制領域(Pi領域)14に分類される。
【0029】
OSF領域12は、as-grown状態で酸化誘起積層欠陥(OSF:Oxidation induced Stacking Fault)の核を含み、1000℃以上の高温で熱酸化した場合にOSF核が顕在化する領域である。COP発生領域11の形状に起因して、その外側に位置するOSF領域12は、インゴットをウェーハ状に加工した際にはウェーハ表面にリング状に分布する。
【0030】
OSF領域12と転位クラスター領域15との間は、COPが検出されず、転位クラスターもOSFも存在しない、まさに無欠陥領域であり、P(Perfect)領域ともN(Neutral)領域とも称される。ただし、P領域(N領域)は、空孔が比較的多く、as-grown状態で酸素析出核が存在し、熱処理を施した際に酸素析出が起きやすい酸素析出促進領域13(Pv領域ともNv領域とも称される)と、格子間シリコンが比較的多く、as-grown状態で酸素析出核がほとんど存在せず、熱処理を施しても酸素析出が起きにくい酸素析出抑制領域14(Pi領域ともNi領域とも称される)とに分けられる。
【0031】
さて、一般的に、単結晶シリコンインゴットから切り出した単結晶シリコンウェーハがCOP発生領域11を含む場合、この単結晶シリコンウェーハの酸化膜耐圧特性は良好ではない。また、単結晶シリコンウェーハが転位クラスター領域15を含む場合、半導体デバイス製品でリーグ不良が発生する。そのため、酸化膜耐圧特性の観点及び半導体デバイス製品のリーク不良防止の観点から、P領域(N領域)のみを含む単結晶シリコンウェーハが望ましいことが知られている。
【0032】
ここで、CZ法による単結晶シリコンインゴットの育成において、ボロン濃度が高くなるにつれて、リング状のOSF領域12は結晶中心側に収縮する。このため、p++シリコンウェーハを得るために必要な超高濃度のボロンを添加すると、OSF領域12が結晶中心部で消滅した結晶領域、すなわち無欠陥領域(P領域)からなる単結晶シリコンインゴットが育成されることになる。従って、この単結晶シリコンインゴットから切り出されたp++シリコンウェーハは、COPが存在せず、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンウェーハとなる。
【0033】
ここで、本明細書において「COPが存在しない」とは、以下に説明する観察評価により、COPが検出されないことを意味するものとする。すなわち、まず、CZ法により育成された単結晶シリコンインゴットから切り出し加工されたシリコンウェーハに対して、SC-1洗浄(即ち、アンモニア水と過酸化水素水と超純水とを1:1:15で混合した混合液による洗浄)を行い、洗浄後のシリコンウェーハ表面を、表面欠陥検査装置としてKLA-Tencor社製、Surfscan SP-2を用いて観察評価し、表面ピットと推定される輝点欠陥(LPD:Light Point Defect)を特定する。その際、観察モードはObliqueモード(斜め入射モード)とし、表面ピットの推定は、Wide/Narrowチャンネルの検出サイズ比に基づいて行うものとする。こうして特定されたLPDに対し、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いてCOPか否かを評価する。この観察評価により、COPが観察されないシリコンウェーハを「COPが存在しないシリコンウェーハ」とする。
【0034】
本明細書において、「転位クラスターが存在しない」とは、以下に説明する観察評価により、転位クラスターが検出されないことを意味するものとする。すなわち、まず、CZ法により育成された単結晶シリコンインゴットから切り出し加工されたシリコンウェーハの表面をX線トポグラフィーで観察し、撮影した画像に転位欠陥が観察されないシリコンウェーハを「転位クラスターが存在しないシリコンウェーハ」とする。
【0035】
なお、超高濃度のボロン添加により、リング状のOSF領域12は結晶中心側に収縮し結晶中心部でOSF領域が消滅した結晶領域となる。すなわち、シリコンウェーハ100は、OSF領域が存在しないウェーハとなる。OSF領域は、シリコンウェーハを1000~1200℃の温度で酸素雰囲気下の熱処理を行うことにより顕在化され評価することができる。例えば、シリコンウェーハに対して、1100℃で2時間のドライ酸素雰囲気下で酸化熱処理を施した後、ライトエッチング液でウェーハ表面を2μmエッチングする選択エッチング処理を行い、エッチング処理後のウェーハ表面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて評価することにより、OSF領域の有無を判定することができる。
【0036】
シリコンウェーハ100の厚み及び直径は特に限定されない。厚みは例えば720~780μmの範囲内とすることができる。直径は、例えば200~300mmの範囲内とすることができ、特に300mmであることが好ましい。
【0037】
(エピタキシャルシリコンウェーハ)
図2を参照して、本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ200は、上記のシリコンウェーハ100と、このシリコンウェーハ100の表面上に形成されたエピタキシャル層110と、を有する。
【0038】
エピタキシャルシリコンウェーハ200は、ボロンを超高濃度に含有することで極低抵抗化したシリコンウェーハ100を含み、シリコンウェーハ100中に高濃度の酸素析出物が形成可能なことで高いゲッタリング能力を有し、かつ、酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制されているという効果を奏する。
【0039】
エピタキシャル層110は、エピタキシャル成長により形成された単結晶シリコンからなる層である。エピタキシャル層110の厚みは特に限定されず、そこに作製する半導体デバイスの種類に応じて適切に設定すればよく、例えば2~10μmの範囲内とすることができる。
【0040】
エピタキシャル層110の抵抗率は1Ωcm以上10Ωcm以下とすることが望ましい。エピタキシャル層に添加するドーパント種は、p型ドーパントとしてボロン、n型ドーパントとしてリン、砒素、アンチモンなどを採用することができ、特にボロン濃度を1.3×1015atoms/cm3以上1.5×1016atoms/cm3以下としたエピタキシャル層を形成した、p/p++エピタキシャルシリコンウェーハとすることが望ましい。本明細書において、エピタキシャル層の抵抗率は、四探針法を用いて測定した値である。
【0041】
エピタキシャルシリコンウェーハ200は、酸素析出物評価熱処理を施した場合に、シリコンウェーハ100の内部に形成される酸素析出物(BMD)の密度が1×109個/cm3以上であるとの効果を奏する。BMD密度の上限は特に限定されないが、本実施形態においては概ね1×1011個/cm3以下となる。
【0042】
エピタキシャルシリコンウェーハのBMD密度は、デバイスプロセスを模した評価熱処理(酸素析出物評価熱処理)を行ってBMD核を成長させることで確認することができる。本明細書における「BMD密度」とは、エピタキシャルシリコンウェーハに対して、酸素ガス雰囲気中で、800℃で3時間と、引き続き1000℃で16時間の酸素析出物評価熱処理を行った後、エピタキシャルシリコンウェーハを、面内中心位置を含むように厚み方向に劈開して、その劈開断面をライトエッチング(Wright Etching)液を用いて深さ2μmエッチングする選択エッチング処理を行った後、シリコンウェーハの厚み中心部における劈開断面(径方向にウェーハ中心、R/2位置(R;ウェーハ半径)、及び外周から10mmの3箇所)を光学顕微鏡で観察し、100μm×100μm角エリア内のエッチピット密度の平均値から単位体積当たりのBMD密度を同定した。
【0043】
エピタキシャルシリコンウェーハ200は、エピタキシャル層110の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が5個/ウェーハ以下(0個以上)であることが好ましい。本明細書における「LPD密度」とは、表面欠陥検査装置としてKLA-Tencor社製、Surfscan SP-1を用いてDCNモード(Dark Field Composite Normalモード)でエピタキシャル層表面(最外周から径方向に3mm以内の円環領域部分は除く)を観察し、検出された0.09μmサイズ以上の輝点欠陥(LPD:Light Point Defect)の個数を意味する。検出された0.09μmサイズ以上のLPD部位を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて観察評価して、LPDが積層欠陥(Stacking Fault,SF)であるか否かを評価した。
【0044】
エピタキシャルシリコンウェーハ200の直径は、シリコンウェーハ100の直径と同じであり、特に限定されないが、例えば200~300mmの範囲内とすることができ、特に300mmであることが好ましい。
【0045】
(シリコンウェーハの製造方法)
本発明の一実施形態によるシリコンウェーハ100の好適な製造方法は、チョクラルスキー法(CZ法)により単結晶シリコンインゴットを作製する工程と、この単結晶シリコンインゴットの直胴部(ボティ部)から引上げ方向に垂直に複数枚のウェーハを切り出す工程と、切り出したウェーハに対して、研削、研磨、及び洗浄等の各種処理を行って、シリコンウェーハとする工程と、を含む。
【0046】
単結晶シリコンインゴットの酸素濃度は、14.5×1017atoms/cm3以上16×1017atoms/cm3以下となるように制御する。なお、結晶中の酸素濃度は、ルツボの回転速度、印可する磁場の中心位置、磁場強度、Arガス流量、炉内圧力、及びヒーターパワーなど、種々の条件により制御することができる。
【0047】
単結晶シリコンインゴットにはドーパントとしてボロンを添加し、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下の範囲内となるようにする。上記抵抗率の範囲を達成するために、単結晶シリコンインゴットに添加するボロン濃度は、8.5×1018atoms/cm3以上1.2×1020atoms/cm3以下である。なお、単結晶シリコンインゴットの引上げの過程でボロンの偏析が生じるため、単結晶シリコンインゴットの直胴部のトップ側からテール側に向かって、ボロン濃度が上昇し、抵抗率は低下する。そのため、直胴部のトップにおける抵抗率が10mΩ・cm以下となるように、すなわち、直胴部のトップにおけるボロン濃度が8.5×1018atoms/cm3以上となるように、ボロンを添加することが好ましい。これにより、直胴部の全体において、上記抵抗率の範囲及び上記ボロン濃度の範囲を満足することが可能となる。
【0048】
単結晶シリコンインゴットには、炭素濃度が2×1016atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下となるように炭素を添加する。なお、単結晶シリコンインゴットの引上げの過程で炭素の偏析が生じるため、単結晶シリコンインゴットの直胴部のトップ側からテール側に向かって、炭素濃度は上昇する。そのため、直胴部のトップにおける炭素濃度が2×1016atoms/cm3以上となるように、炭素を添加することが好ましい。これにより、直胴部の全体において、上記炭素濃度の範囲を満足することが可能となる。
【0049】
単結晶シリコンインゴットには、窒素を積極的に添加しないものとする。
【0050】
単結晶シリコンインゴットの引上げ速度は特に限定されないが、
図6に示すOSF領域12が結晶中心部で消滅した結晶領域、すなわち無欠陥領域(P領域)からなる単結晶シリコンインゴットが育成されるように適切に設定することが好ましい。これにより、育成した単結晶シリコンインゴットから切り出されたp++シリコンウェーハは、COPが存在せず、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンウェーハとなる。
【0051】
(エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法)
本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ200の好適な製造方法は、上記シリコンウェーハ100の表面にエピタキシャル層110を形成する工程を含む。当該工程で形成するエピタキシャル層110としてはシリコンエピタキシャル層が挙げられ、これは一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバ内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、概ね1000~1200℃温度範囲の温度でCVD法によりシリコンウェーハ100上にエピタキシャル成長させることができる。エピタキシャル層110の厚さは、例えば2~10μmの範囲内とすることができる。
【実施例0052】
チョクラルスキー法(CZ法)により単結晶シリコンインゴットを育成した。その際、直胴部のトップにおける狙いの抵抗率が10mΩ・cmとなるように、すなわち、直胴部のトップにおけるボロン濃度が8.5×1018atoms/cm3となるように、ボロンを添加した。また、ボロンの偏析により、直胴部の後半部分で抵抗率が5.5mΩcmとなる単結晶インゴットを育成した。単結晶シリコンインゴット中の酸素濃度は、11.0~12.5×1017atoms/cm3(比較例1)、12.5~14.0×1017atoms/cm3(比較例2)、14.5~16.0×1017atoms/cm3(比較例3、実施例1、実施例2)の範囲内となるように、ルツボ回転速度や炉内圧力などの育成条件を制御した。引上げ速度は、無欠陥領域(P領域)からなる単結晶シリコンインゴットが育成されるように設定した。
【0053】
比較例1~3においては、単結晶シリコンインゴットに意図的には炭素を添加しなかった。実施例1,2においては、直胴部のトップにおける炭素濃度がそれぞれ1.00×1016atoms/cm3(実施例1)及び2.00×1016atoms/cm3(実施例2)となるように、単結晶シリコンインゴットに炭素を添加した。また、炭素の偏析により、直胴部で抵抗率が5.5mΩcmとなる位置では、炭素濃度がそれぞれ12.25×1016atoms/cm3(実施例1)及び24.50×1016atoms/cm3(実施例2)であった。
【0054】
比較例1~3及び実施例1,2において、単結晶シリコンインゴットに意図的には窒素を添加しなかった。
【0055】
比較例1~3及び実施例1,2において育成した単結晶シリコンインゴットから複数枚のウェーハを切り出して、研削、研磨、及び洗浄等の各種処理を行って、直径300mmのシリコンウェーハを作製した。得られたシリコンウェーハは、COPが存在せず、転位クラスターが存在しない単結晶シリコンウェーハであった。
【0056】
直胴部のトップからの距離が種々の値となる部分から得たシリコンウェーハの表面に、単結晶シリコンからなるエピタキシャル層を形成し、直径300mmのエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。エピタキシャル層は、ドーパントとして1.5×1016atoms/cm3のボロンを含有し、抵抗率が1.0Ω・cmであり、厚み3μmのp型シリコンエピタキシャル層である。
【0057】
作製したエピタキシャルシリコンウェーハについて、既述の方法で、抵抗率、ボロン濃度、酸素濃度、及び炭素濃度を測定した。
【0058】
[BMD密度の評価]
比較例1~3及び実施例1について、既述の方法でBMD密度を測定し、結果を
図3に示した。いずれの例においても、ボロンの偏析に伴い、トップからの距離が長いほど抵抗率が下がり、抵抗率が下がるほど、BMD密度が増加する傾向がみられた。また、比較例1~3を参照して、BMD密度はシリコンウェーハ中の酸素濃度にも大きく依存し、同じ抵抗率で比較した場合に、酸素濃度が高いほどBMD密度も高くなることが確認された。特に、シリコンウェーハの酸素濃度を14.5×10
17atoms/cm
3以上とすることによって、抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下の全ての範囲において、ウェーハ内部に形成されるBMD密度を1×10
9個/cm
3以上とすることができた。また、比較例3及び実施例1を参照して、酸素濃度を高く設定したp++シリコンウェーハにおいては、炭素を添加してもBMD密度はさほど高くならないことが確認された。
【0059】
[SF個数の評価]
比較例1~3及び実施例1,2について、既述の方法でLPD個数(SF個数)を測定し、結果を
図4,5に示した。比較例1~3を参照して、酸素濃度が11.0~12.5×10
17atoms/cm
3の比較例1、及び、酸素濃度が12.5~14.0×10
17atoms/cm
3の比較例2においては、SF個数は5個以下であり、エピタキシャル欠陥の課題は顕在化しないのに対して、酸素濃度が14.5~16.0×10
17atoms/cm
3の比較例3においては、SF個数が65~114個となり、エピタキシャル欠陥の課題が顕在化した。これは、エピタキシャル成長処理時に、シリコンウェーハ表層部に存在するBMDを起点として、エピタキシャル層中に多数の積層欠陥(SF)が発生したものと考えられる。
【0060】
また、比較例3、実施例1及び実施例2を参照して、p++シリコンウェーハにおいて、炭素濃度を2×1016atoms/cm3以上とすることによって、エピタキシャル層表面で観察されるSF密度を大幅に低減できることが分かった。具体的には、実施例1では、抵抗率が8.5mΩ・cmの地点において、SF個数は73個/ウェーハと、SF低減効果は観察されず、このときの炭素濃度は1.99×1016atoms/cm3であったところ、8mΩ・cmの地点において、SF個数が33個/ウェーハと、SF低減効果が観察され、このときの炭素濃度は2.58×1016atoms/cm3であった。実施例2では、10mΩ・cmの地点においてSF個数は5個/ウェーハ以下であり、5.5mΩ・cm地点までの各測定点において、SF個数は5個/ウェーハ以下であった。5.5mΩcm地点における炭素濃度は24.50×1016atoms/cm3であった。
本発明のシリコンウェーハを用いたエピタキシャルシリコンウェーハ、及び、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、高濃度の酸素析出物による高いゲッタリング能力と、酸素析出物を起点としたエピタキシャル欠陥が抑制された高品質のエピタキシャル層と、を有し、半導体デバイスを作製するための基板として有用である。