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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167396
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】エアフィルタろ材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/18 20060101AFI20231116BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20231116BHJP
   D06M 15/05 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B01D39/18
B01D39/16 A
D06M15/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078553
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾坂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川崎 貴史
(72)【発明者】
【氏名】東垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 千裕
(72)【発明者】
【氏名】樋口 暁浩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和三
【テーマコード(参考)】
4D019
4L033
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA12
4D019BB04
4D019BC13
4D019BD01
4D019CB06
4D019DA01
4D019DA03
4L033AA02
4L033AB07
4L033AC15
4L033CA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】捕集効率及び通気特性に優れたエアフィルタろ材の提供。
【解決手段】エアフィルタろ材36は、第一繊維38及び第二繊維40を含んでいる。第二繊維40は、セルロースナノファイバーである。このエアフィルタろ材36の製造方法は、
A:数平均繊維径D2が1nm以上200nm以下であるセルロースナノファイバーを、水及び有機溶媒を含む溶媒に分散させて、分散液を得る工程、
B:内筒とこの内筒を囲む外筒とを有するノズルを用い、この内筒から前記分散液を0.005mL/min以上20mL/min以下の流速で吐出させ、この内筒と外筒との間から気体を0.005L/min以上20L/min以下の流速で吐出させて、液滴を含むエアロゾルを得る工程、及び
C:このエアロゾルを多孔質であるベースに噴霧し、このベースに前記セルロースナノファイバーを付着させる工程を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A:数平均繊維径D2が1nm以上200nm以下であるセルロースナノファイバーを、水及び有機溶媒を含む溶媒に分散させて、分散液を得る工程、
B:内筒とこの内筒を囲む外筒とを有するノズルを用い、この内筒から前記分散液を0.005mL/min以上20mL/min以下の流速で吐出させ、この内筒と外筒との間から気体を0.005L/min以上20L/min以下の流速で吐出させて、液滴を含むエアロゾルを得る工程、
及び
C:このエアロゾルを多孔質であるベースに噴霧し、このベースに前記セルロースナノファイバーを付着させる工程
を備えた、エアフィルタろ材の製造方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、数平均繊維長L2が50μm以上500μm以下であるセルロースナノファイバーの分散液が準備される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、0.001質量%以上0.500質量%以下のセルロースナノファイバーを含む分散液が準備される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおける、前記分散液の流速に対する前記気体の流速の比が2.0以上2000.0以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
上記工程Bにおいて、前記内筒から吐出させた前記分散液を、メッシュスクリーンを通過させることなく、前記内筒と前記外筒との間から吐出させた前記気体と混合して、前記エアロゾルを得る、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程Cにおいて、その材質が不織布であるベースに前記エアロゾルが噴霧される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程Cにおいて、その平均孔径DHが5.0μm以上200.0μm以下であるベースに前記エアロゾルが噴霧される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアフィルタろ材の製造方法に関する。詳細には、本明細書は、セルロースナノファイバーを含むエアフィルタろ材の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
空気等の浄化の目的で、エアフィルタが使用されている。このエアフィルタのためのろ材には、ダスト粒子等に対する高い捕集効率が、要求される。エアフィルタろ材にはさらに、低い通気抵抗も要求される。
【0003】
特開2020-73271公報には、エアフィルタろ材の製造方法が開示されている。この製造方法では、セルロースナノファイバーを含む分散液が不織布に噴霧される。このエアフィルタろ材は、不織布の繊維と、この繊維に絡むセルロースナノファイバーとから、形成されている。このエアフィルタろ材では、主としてセルロースナノファイバーが、捕集効率に寄与する。不織布の繊維は、セルロースナノファイバーをサポートする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-73271公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エアフィルタろ材には、高い捕集効率と低い通気抵抗との、高次元でのバランスが重要である。特開2020-73271公報に開示されたエアフィルタろ材には、なお改善の余地がある。
【0006】
本出願人の意図するところは、捕集効率及び通気特性に優れたエアフィルタろ材の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示するエアフィルタろ材の製造方法は、
A:数平均繊維径D2が1nm以上200nm以下であるセルロースナノファイバーを、水及び有機溶媒を含む溶媒に分散させて、分散液を得る工程、
B:内筒とこの内筒を囲む外筒とを有するノズルを用い、この内筒から前記分散液を0.005mL/min以上20mL/min以下の流速で吐出させ、この内筒と外筒との間から気体を0.005L/min以上20L/minの流速で吐出させて、液滴を含むエアロゾルを得る工程、
及び
C:このエアロゾルを多孔質であるベースに噴霧し、このベースに前記セルロースナノファイバーを付着させる工程
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本明細書が開示する製造方法により、捕集効率及び通気特性の両方に優れたエアフィルタろ材が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係るエアフィルタろ材製造方法のための製造装置が示された正面図である。
図2図2は、図1の製造装置のスプレーマシンが示された拡大部分断面図である。
図3図3は、図2のスプレーマシンの一部がさらに拡大されて示された断面図である。
図4図4は、図1の装置が使用されたエアフィルタろ材製造方法の一例が示されたフローチャートである。
図5図5は、図4の方法で製造されたエアフィルタろ材の一部が示された顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせは、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、本実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせられうる。
【0011】
[製造装置]
図1に示された製造装置2は、テーブル4及びスプレーマシン6を有している。テーブル4には、ベースとしての不織布8が置かれている。スプレーマシン6は、ノズル10を有している。このノズル10から不織布8に向けて、後に詳説されるエアロゾル12が噴霧される。
【0012】
図2及び3に示されるように、スプレーマシン6は、内筒14、外筒16、キャップ18及び分岐管20を有している。内筒14、外筒16及びキャップ18により、スプレーマシン6に、ノズル10が形成されている。外筒16は、内筒14と同軸に位置している。ノズル10の近傍では、内筒14は、外筒16に収容されている。換言すれば、外筒16は、内筒14を囲んでいる。図3に示されるように、外筒16の外周面には、ノズル10の近傍において、雄ネジ22が螺刻されている。キャップ18は、胴24とストッパー26とを有している。胴24の内周面には、雌ネジ28が螺刻されている。この雌ネジ28が雄ネジ22と螺合することで、キャップ18が外筒16に固定されている。ストッパー26は、開口30を有している。分岐管20は、外筒16と連通している。
【0013】
ノズル10の近傍において、内筒14の内径及び外径は一定である。内筒14は、ノズル10の近傍において、テーパーを有していない。ノズル10の近傍において、外筒16の内径及び外径は一定である。外筒16は、ノズル10の近傍において、テーパーを有していない。このスプレーマシン6は、内筒14の内側に、第一経路32を有している。スプレーマシン6はさらに、内筒14の外周面と外筒16の内周面との間に位置する第二経路34を有している。ノズル10の近傍において、第一経路32の断面積は一定であり、第二経路34の断面積も一定である。換言すれば、これら経路32、34の断面積の、軸方向に沿った絞りを、このノズル10は有していない。このノズル10の構造は、一般的なスプレーガンのノズルの構造とは異なる。
【0014】
第一経路32には、図2において矢印A1で示されるように、分散液が供給される。分散液の詳細は、後に詳説される。この供給は、例えば、ポンプによってなされうる。分散液は、第一経路32を進行してノズル10へと到達する。
【0015】
第二経路34には、図2において矢印A2で示されるように、分岐管20を介して気体が供給される。典型的な気体は、空気である。気体として、窒素ガスが用いられてもよい。この供給は、例えば、マスフローコントローラによってなされうる。供給が、圧力バルブによってなされてもよい。気体は、第二経路34を進行してノズル10へと到達する。
【0016】
ノズル10では、第一経路32から分散液が吐出する。ノズル10ではさらに、第二経路34から、気体が高速で吐出する。この気体により、分散液が撹拌される。この撹拌により分散液と気体とが混合され、エアロゾル12(ミスト)が得られる。このエアロゾル12は、多数の液滴を含んでいる。それぞれの液滴の成分は、分散液の成分と同じである。
【0017】
[製造方法]
図4は、図1の装置2が用いられた製造方法の一例が示されたフローチャートである。この製造方法では、まず、前述の不織布8が準備される(STEP1)。この不織布8は、テーブル4に置かれる。
【0018】
一方、分散液が、準備される(STEP2)。この分散液では、溶媒中にセルロースナノファイバーが分散している。この分散液は、図示されないタンクに投入される。前述の通り分散液は、第一経路32を通ってノズル10へと送られる(STEP3)。ノズル10において分散液は気体と攪拌され、エアロゾル12が得られる(STEP4)。このエアロゾル12は、多数の液滴を含んでいる。それぞれの液滴は、セルロースナノファイバーを含んでいる。
【0019】
このエアロゾル12が、不織布8に向けて噴霧される(STEP5)。この噴霧により液滴が不織布8に付着する。この付着により、液滴に含まれるセルロースナノファイバーが、不織布8に付着する(STEP6)。噴霧(STEP5)が、不織布8の片側面になされてよく、両側面になされてもよい。
【0020】
噴霧(STEP5)により、分散液中の溶媒も、不織布8に付着する。この不織布8に、乾燥が施される(STEP7)。乾燥方法として、加熱乾燥法及び凍結乾燥法が、採用されうる。常温にての長時間の放置により、乾燥が達成されてもよい。この乾燥により溶媒が揮発し、エアフィルタろ材が完成する。
【0021】
[エアフィルタろ材]
図5に、エアフィルタろ材36が示されている。このエアフィルタろ材36は、多数の第一繊維38及び多数の第二繊維40を有している。それぞれの第一繊維38は、不織布8に由来する。図5から明らかな通り、不織布8は多孔質である。それぞれの第二繊維40は、噴霧(STEP6)によって不織布8に付着したセルロースナノファイバーである。それぞれの第二繊維40は、複数の第一繊維38と絡み合っている。本実施形態では、第一繊維38は、第二繊維40に比べて十分に太い。
【0022】
このエアフィルタろ材36では、第一繊維38は、粗に配置されている。第二繊維40は、複数の第一繊維38によって形成された間隙の一部を埋めている。これら第二繊維40は、無秩序に配置している。これらの第二繊維40は、特定方向に配向してはいない。このエアフィルタろ材36では、第一繊維38は主として第二繊維40をサポートする役割を果たし、第二繊維40はダスト粒子等を捕集する役割を果たす。第一繊維38が粗であるため、このエアフィルタろ材36の通気抵抗は低い。このエアフィルタろ材36は、捕集効率及び通気特性の両方に優れる。
【0023】
捕集効率及び通気特性の観点から、第一繊維38の数平均繊維径D1と第二繊維40の数平均繊維径D2との比(D1/D2)は、15以上が好ましく、30以上がより好ましく、50以上が特に好ましい。比(D1/D2)は2000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1300以下が特に好ましい。
【0024】
本明細書では、下記の数式によって第二繊維40の比率P2が算出される。
P2 = (W2 / (W1 + W2)) * 100
W1:エアフィルタろ材36における第一繊維38の質量
W2:エアフィルタろ材36における第二繊維40の質量
捕集効率及び通気性の観点から、比率P2は0.010%以上が好ましく、0.020%以上がより好ましく、0.025%以上が特に好ましい。エアフィルタろ材36の強度の観点から、この比率P2は5.0%以下が好ましい。
【0025】
[不織布8]
不織布8は、多数の第一繊維38の集合体である。第一繊維38として短繊維が採用されてもよく、長繊維が採用されてもよい。不織布8は、ニードルパンチ法、乾式法、湿式法、ケミカルボンド法、水流交絡法等の、既知の方法で製作されうる。
【0026】
第一繊維38として、天然繊維及び化学繊維が用いられうる。天然繊維として、コットン、ウール及び麻が例示される。化学繊維には、無機質繊維及び有機質繊維が含まれる。無機質繊維として、炭素繊維、ガラス繊維及び金属繊維が例示される。有機質繊維として、レーヨン、アセテート及びポリエステルが例示される。その材質がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等の合成樹脂である繊維も、不織布8に適している。地球環境の観点から、その材質が生分解性樹脂である繊維が好ましい。生分解性樹脂として、セルロースアセテート及びポリ乳酸が例示される。不織布8の最も好ましい材質は、セルロースアセテートである。
【0027】
第一繊維38の数平均繊維径D1は、5.0μm以上50.0μm以下が好ましい。この繊維径D1が5.0μm以上である第一繊維38は、第二繊維40をよくサポートしうる。この観点から、この繊維径D1は8.0μm以上がより好ましく、10.0μm以上が特に好ましい。この繊維径D1が50.0μm以下である第一繊維38は、エアフィルタろ材36の通気特性を阻害しにくい。この観点から、この繊維径D1は40.0μm以下がより好ましく、30.0μm以下が特に好ましい。
【0028】
不織布8の平均孔径DHは、5.0μm以上200.0μm以下が好ましい。平均孔径DHが5.0μm以上である不織布8は、エアフィルタろ材36の通気特性を阻害しにくい。この観点から、平均孔径DHは8.0μm以上がより好ましく、10.0μm以上が特に好ましい。平均孔径DHが200.0μm以下である不織布8の第一繊維38は、第二繊維40をよくサポートしうる。この観点から、平均孔径DHは150μm以下がより好ましく、100μm以下が特に好ましい。平均孔径DHは、「ASTM E1249-89(ハーフドライ法)」の規定に準拠して測定される。
【0029】
不織布8の厚みは、0.5mm以上4.0mm以下が好ましい。不織布8の坪量は、10.0g/m以上400.0g/m以下が好ましい。プリーツ加工が施された不織布8に、エアロゾル12が噴霧されてもよい。
【0030】
[ベース]
前述の通り、不織布8はベースの一例である。不織布8以外の種々の多孔質体が、ベースに採用されうる。不織布8以外のベースとして、紙、織布、編み物及びタフトが例示される。連続気泡を有するスポンジも、ベースに適している。最も好ましいベースは、「JIS L 0222」に規定された不織布である。
【0031】
[セルロースナノファイバー]
前述の通り第二繊維40は、セルロースナノファイバーである。セルロースナノファイバーは、太さがナノメータレベルのセルロースナノファイバーである。セルロースナノファイバーは、ミクロフィブリル化された繊維である。原料繊維に強力な機械的剪断力が繰り返し付与されることで、ミクロフィブリル化が達成される。ミクロフィブリル化により、1つの原料繊維から、数万本のセルロースナノファイバーが得られる。機械的剪断力の付与は、超高圧ホモジナイザーによってなされうる。セルロースナノファイバーの具体例として、ダイセル社の商品名「ナノセリッシュ」が挙げられる。
【0032】
セルロースナノファイバーの好ましい原料は、植物系パルプである。典型的には、木質系パルプから、セルロースナノファイバーが得られる。植物系パルプとして、広葉樹さらしクラフトパルプ及び針葉樹さらしクラフトパルプのような木材由来クラフトパルプ;サルファイトパルプ;脱墨パルプのような古紙パルプ;並びに、グランドパルプ、加圧式砕木パルプ、リファイナー砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、ケミメカニカルパルプ及びケミグランドパルプのような機械パルプが例示される。非木質パルプからも、セルロースナノファイバーが得られうる。非木質パルプとして、ケナフ、麻、イネ、バガス、竹及び綿が例示される。
【0033】
セルロースナノファイバーの数平均繊維径D2は、1nm以上200nm以下が好ましい。この繊維径D2が1nm以上であるセルロースナノファイバーは、エアフィルタろ材36の捕集効率に寄与しうる。この観点から、この繊維径D2は3nm以上がより好ましく、5nm以上が特に好ましい。この繊維径D2が200nm以下であるセルロースナノファイバーは、エアフィルタろ材36の通気特性を阻害しにくい。この観点から、この繊維径D2は150nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0034】
セルロースナノファイバーの数平均繊維長L2は、50μm以上500μm以下が好ましい。この繊維長L2が50μm以上であるセルロースナノファイバーは、第一繊維38とよく絡み合う。この観点から、この繊維長L2は80μm以上がより好ましく、100μm以上が特に好ましい。この繊維長L2が500nm以下であるセルロースナノファイバーは、エアフィルタろ材36の通気特性を阻害しにくい。この観点から、この繊維長L2は400μm以下がより好ましく、300μm以下が特に好ましい。
【0035】
[分散液]
分散液では、前述の通り、溶媒中にセルロースナノファイバーが分散している。溶媒として、水及び有機溶媒が用いられうる。有機溶媒として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及びt-ブチルアルコールのようなアルコール類;酢酸のようなカルボン酸類;並びにアセトンのようなカルボニル化合物類が例示される。揮発性の観点から、アルコール類が好ましい。
【0036】
水と、水に溶解する有機溶媒とが、混合されてもよい。この場合、水と有機溶媒との混合比は、20/80以上80/20以下が好ましい。この混合比が20/80以上である溶媒には、セルロースナノファイバーがよく分散する。この観点から、この混合比は30/70以上がより好ましく、35/65以上が特に好ましい。この混合比が80/20以下である分散液が用いられることにより、乾燥工程(STEP7)におけるセルロースナノファイバーの凝集が抑制されうる。この観点から、この混合比は70/30以下がより好ましく、65/35以下が特に好ましい。
【0037】
分散液が、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤では、親水性部位がセルロースナノファイバーに吸着し、疎水性部位が外側に向いて疎水性効果を発揮する。この界面活性剤は、乾燥工程(STEP7)におけるセルロースナノファイバーの凝集を抑制しうる。分散液は、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含みうる。セルロースナノファイバーとの吸着性の観点から、カチオン性界面活性剤が好ましい。カチオン性界面活性剤として、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、スルホニウム塩及びホスホニウム塩が例示される。分散液における界面活性剤の量は、セルロースナノファイバーの乾燥時の質量に対して1質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0038】
分散液におけるセルロースナノファイバーの量は、0.001質量%以上0.500質量%以下が好ましい。この量が0.001質量%以上である分散液から、効率よくエアフィルタろ材36が得られうる。この観点から、セルロースナノファイバーの量は0.005質量%以上がより好ましく、0.010質量%以上が特に好ましい。この量が0.500質量%以下である分散液から、第二繊維40の配向が抑制されたエアフィルタろ材36が得られうる。この観点から、セルロースナノファイバーの量は0.100質量%以下がより好ましく、0.050質量%以下が特に好ましい。
【0039】
[エアロゾル12]
エアロゾル12は、多数の液滴を含んでいる。それぞれの液滴は、微細である。微細な液滴の噴霧(STEP5)により、偏りなくセルロースナノファイバーが、不織布8(ベース)に付着しうる。さらにこの液滴は、噴霧(STEP5)によって、不織布8の孔に侵入しうる。従って、液滴に含まれるセルロースナノファイバーが、不織布8の内部にまで、十分に到達しうる。この製造方法により、不織布8の表面のみならず、内部においても、第一繊維38に第二繊維40が絡み合った構造が達成されうる。極めて小さい平均粒径D50が達成されることにより、従来の噴霧法では到達し得なかった程度にまで、液滴が不織布8の内部に侵入する。この製造方法により、捕集効率に極めて優れたエアフィルタろ材36が得られうる。さらに、微細な液滴は乾燥工程(STEP7)において早期に乾燥する。従って、セルロースナノファイバーの凝集が抑制されうる。
【0040】
液滴の粒径は、不織布8(ベース)の平均孔径DHよりも小さい。この液滴は、不織布8の内部にまで侵入しやすい。この液滴を含むエアロゾル12が噴霧されることにより、捕集効率に優れたエアフィルタろ材36が得られうる。
【0041】
[流量]
捕集効率は液滴のサイズに依存し、このサイズは、第一経路32の分散液の流速に依存する。液滴のサイズが小さいエアロゾル12が得られるとの観点から、ノズル10における、単位面積当たりの分散液の流速S1は、0.005mL/min以上20mL/min以下が好ましい。この流速S1は、0.01mL/min以上がより好ましく、0.05mL/min以上が特に好ましい。この流速S1は、10mL/min以下がより好ましく、5mL/min以下が特に好ましい。
【0042】
液滴のサイズは、第二経路34の気体の流速にも依存する。液滴のサイズが小さいエアロゾル12が得られるとの観点から、ノズル10における、単位面積当たりの気体の流速S2は、0.005L/min以上20L/min以下が好ましい。この流速S2は、0.01L/min以上がより好ましく、0.05L/min以上が特に好ましい。この流速S2は、10L/min以下がより好ましく、5L/min以下が特に好ましい。
【0043】
液滴のサイズが小さいエアロゾル12が得られるとの観点から、分散液の流速S1に対する気体の流速S2の比(S2/S1)は2.0以上が好ましく、10.0以上がより好ましく、20.0以上が特に好ましい。エアフィルタろ材36の製造効率の観点から、この比(S2/S1)は2000.0以下が好ましい。
【0044】
スプレーマシン6が、内筒14の先端42とノズル10のストッパー26との間に、メッシュスクリーンを有してもよい。第一経路32から吐出した分散液は、このメッシュスクリーンを通過する。
【実施例0045】
[実施例1]
0.5gのセルロースナノファイバー(前述の商品名「ナノセリッシュ」)を、準備する。このセルロースナノファイバーの固形分は、10質量%である。このセルロースナノファイバーは、90質量%の水を含有している。一方、水と2-プロパノールとを混合し、500gの溶媒を得る。この溶媒における水と2-プロパノールとの質量比は、50/50である。この溶媒にセルロースナノファイバーを投入し、スパチュラで解砕し、マグネティックスターラーで30分間攪拌して、分散液を得る。この分散液と窒素ガスとを、図1-3に示されたスプレーマシンにて混合し、エアロゾルを得る。このスプレーマシンにおける分散液及び窒素ガスの流速は、以下の通りである。
分散液:0.5mL/min
窒素ガス:0.8L/min
このエアロゾルを、その材質がセルロースアセテートである不織布の表側面及び裏側面のそれぞれに120秒ずつ噴霧し、さらにこの不織布を乾燥させて、実施例1のエアフィルタろ材を得る。
【0046】
[実施例2]
エアロゾルを、不織布の表側面及び裏側面のそれぞれに40秒ずつ噴霧した他は実施例1と同様にして、実施例2のエアフィルタろ材を得る。
【0047】
[比較例1]
噴霧を行わず、不織布のみからエアフィルタろ材を得る。
【0048】
[捕集効率]
エアフィルタろ材に、粒子径が0.3μmである大気塵を含む空気を、5.3cm/秒の速度で通過させる。このときの捕集効率を測定する。この結果は、以下の通りである。
実施例1 22%
実施例2 15%
比較例1 7%
この評価結果から、本製造方法の優位性は明らかである。
【0049】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0050】
[項目1]
A:数平均繊維径D2が1nm以上200nm以下であるセルロースナノファイバーを、水及び有機溶媒を含む溶媒に分散させて、分散液を得る工程、
B:内筒とこの内筒を囲む外筒とを有するノズルを用い、この内筒から前記分散液を0.005mL/min以上20mL/min以下の流速で吐出させ、この内筒と外筒との間から気体を0.005L/min以上20L/min以下の流速で吐出させて、液滴を含むエアロゾルを得る工程、
及び
C:このエアロゾルを多孔質であるベースに噴霧し、このベースに前記セルロースナノファイバーを付着させる工程
を備えた、エアフィルタろ材の製造方法。
【0051】
[項目2]
前記工程Aにおいて、数平均繊維長L2が50μm以上500μm以下であるセルロースナノファイバーの分散液が準備される、項目1に記載の製造方法。
【0052】
[項目3]
前記工程Aにおいて、0.001質量%以上0.500質量%以下のセルロースナノファイバーを含む分散液が準備される、項目1又は2に記載の製造方法。
【0053】
[項目4]
前記工程Bにおける、前記分散液の流速に対する前記気体の流速の比が2.0以上2000.0以下である、項目1から3のいずれかに記載の製造方法。
【0054】
[項目5]
上記工程Bにおいて、前記内筒から吐出させた前記分散液を、メッシュスクリーンを通過させることなく、前記内筒と前記外筒との間から吐出させた前記気体と混合して、前記エアロゾルを得る、項目1から4のいずれかに記載の製造方法。
【0055】
[項目6]
前記工程Cにおいて、その材質が不織布であるベースに前記エアロゾルが噴霧される、項目1から5のいずれかに記載の製造方法。
【0056】
[項目7]
前記工程Cにおいて、その平均孔径DHが5.0μm以上200.0μm以下であるベースに前記エアロゾルが噴霧される、項目1から6のいずれかに記載の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明された製造方法から、クリーンルーム、室内空調、内燃機関等の空気の浄化に適したエアフィルタろ材が得られうる。この製造方法からさらに、人体用マスクに適したエアフィルタろ材が得られうる。
【符号の説明】
【0058】
2・・・製造装置
4・・・テーブル
6・・・スプレーマシン
8・・・不織布
10・・・ノズル
12・・・エアロゾル
14・・・内筒
16・・・外筒
18・・・キャップ
20・・・分岐管
22・・・雄ネジ
24・・・胴
26・・・ストッパー
28・・・雌ネジ
30・・・開口
32・・・第一経路
34・・・第二経路
36・・・エアフィルタろ材
38・・・第一繊維
40・・・第二繊維
図1
図2
図3
図4
図5