(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167409
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電子線観察方法、電子線観察装置、電子線観察装置用の開口絞りモジュールおよび電子線観察装置用の開口絞りセット
(51)【国際特許分類】
H01J 37/09 20060101AFI20231116BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231116BHJP
H01J 37/05 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01J37/09 A
H01J37/28 B
H01J37/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078578
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】村上 武司
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101EE03
5C101EE04
5C101EE15
5C101EE34
5C101EE51
5C101EE69
5C101EE75
5C101EE78
5C101GG04
5C101GG37
5C101HH06
(57)【要約】
【課題】試料から放出される電子ビームのエネルギーに応じた観察を可能とする。
【解決手段】本発明の一態様によれば、複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射し、前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出し、前記複数の1次電子ビームを走査させることにより複数の検出器から得られた電気信号を用いて複数の走査画像を取得する電子線観察装置を用いた電子線観察方法であって、観察対象とする2次電子ビームのエネルギーを特定し、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうち、前記特定されたエネルギーに対応する環状開口を有する開口絞りを前記電子線観察装置に設置し、前記設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームを前記検出器によって検出する、電子線観察方法が提供される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射し、前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出し、前記複数の1次電子ビームを走査させることにより複数の検出器から得られた電気信号を用いて複数の走査画像を取得する電子線観察装置を用いた電子線観察方法であって、
観察対象とする2次電子ビームのエネルギーを特定し、
互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうち、前記特定されたエネルギーに対応する環状開口を有する開口絞りを前記電子線観察装置に設置し、
前記設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームを前記検出器によって検出する、電子線観察方法。
【請求項2】
複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射し、前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出し、前記複数の1次電子ビームを走査させることにより複数の検出器から得られた電気信号を用いて複数の走査画像を取得する電子線観察装置を用いた電子線観察方法であって、
互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうちの1つを前記電子線観察装置に設置することと、
前記設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームを前記検出器によって検出することと、
を、設置する開口絞りを取り替えながら行う、電子線観察方法。
【請求項3】
前記2次電子ビームのうち、前記設置された開口絞りが有する環状開口に対応するエネルギーを有する2次電子ビームが主として前記環状開口を通過する、請求項1または2に記載の電子線観察方法。
【請求項4】
ステージに載置された試料に複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射するマルチビーム光学系と、
前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出する投影光学系と、を備え、
前記投影光学系は、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうちのいずれかが設置されるように構成された保持具を有し、
前記検出器は、前記環状開口を通過した2次電子ビームを検出する、電子線観察装置。
【請求項5】
前記投影光学系は、
前記検出器と前記ステージの間に配置されるリレーレンズと、
前記検出器と前記リレーレンズの間に配置されたフィールドレンズと、
前記検出器と前記フィールドレンズの間に配置された投影レンズと、を有し、
前記保持具は、前記フィールドレンズと前記投影レンズの間に配置される、請求項4に記載の電子線観察装置。
【請求項6】
前記2次電子ビームのうち、前記設置された開口絞りが有する環状開口に対応するエネルギーを有する2次電子ビームが主として前記環状開口を通過する、請求項4または5に記載の電子線観察装置。
【請求項7】
平板状の基材と、
前記基材に設けられ、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りと、を備える、電子線観察装置用の開口絞りモジュール。
【請求項8】
前記複数の開口絞りの1つが有する環状開口の内径は0である、請求項7に記載の開口絞りモジュール。
【請求項9】
前記複数の開口絞りの1つは、
前記環状開口の内径が非0であり、
前記環状開口の内側に設けられ、前記内径と等しい直径を有する円形の内側部材と、
前記内側部材を前記基材に保持するための保持部材と、を有する、請求項7または8に記載の開口絞りモジュール。
【請求項10】
前記複数の開口絞りは直線上に配置され、
前記開口絞りモジュールは、前記基材を前記直線の方向に沿って移動させる駆動機構を備える、請求項7または8に記載の開口絞りモジュール。
【請求項11】
ステージに載置された試料に複数の1次電子から構成される1次電子ビームを照射するマルチビーム光学系と、
前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを検出器で検出する投影光学系と、を備え、
前記投影光学系は、請求項7または8に記載の開口絞りモジュールを有し、
前記検出器は、前記環状開口を通過した2次電子ビームを検出する、電子線観察装置。
【請求項12】
複数の開口絞りを備え、
前記複数の開口絞りのそれぞれは、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する、電子線観察装置用の開口絞りセット。
【請求項13】
前記複数の開口絞りの1つが有する環状開口の内径は0である、請求項12に記載の開口絞りセット。
【請求項14】
前記複数の開口絞りは、
前記環状開口の内径が非0であり、
前記環状開口の内側に設けられ、前記内径と等しい直径を有する円形の内側部材と、
前記環状開口の外側に設けられた外側部材と、
前記内側部材を前記外側部材に保持するための保持部材と、を有する、請求項12または13に記載の開口絞りセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線観察方法、電子線観察装置、電子線観察装置用の開口絞りモジュールおよび電子線観察装置用の開口絞りセットに関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを試料に照射し、試料から放出され電子ビームを観察する電子線観察装置が知られている(例えば特許文献1)。試料から放出される電子ビームのエネルギー分布は、試料表面の形状、状態、組成、化学結合、帯電状態といった要因に応じたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、試料から放出される電子ビームのエネルギーに応じた観察を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
[1]
複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射し、前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出し、前記複数の1次電子ビームを走査させることにより複数の検出器から得られた電気信号を用いて複数の走査画像を取得する電子線観察装置を用いた電子線観察方法であって、
観察対象とする2次電子ビームのエネルギーを特定し、
互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうち、前記特定されたエネルギーに対応する環状開口を有する開口絞りを前記電子線観察装置に設置し、
前記設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームを前記検出器によって検出する、電子線観察方法が提供される。
【0006】
本発明の一態様によれば、
[2]
複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射し、前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出し、前記複数の1次電子ビームを走査させることにより複数の検出器から得られた電気信号を用いて複数の走査画像を取得する電子線観察装置を用いた電子線観察方法であって、
互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうちの1つを前記電子線観察装置に設置することと、
前記設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームを前記検出器によって検出することと、
を、設置する開口絞りを取り替えながら行う、電子線観察方法が提供される。
【0007】
[3]
[1]または[2]に記載の電子線観察方法において、
前記2次電子ビームのうち、前記設置された開口絞りが有する環状開口に対応するエネルギーを有する2次電子ビームが主として前記環状開口を通過するのが望ましい。
【0008】
本発明の一態様によれば、
[4]
ステージに載置された試料に複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して試料の複数個所に照射するマルチビーム光学系と、
前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを複数の検出器で検出する投影光学系と、を備え、
前記投影光学系は、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りのうちのいずれかが設置されるように構成された保持具を有し、
前記検出器は、前記環状開口を通過した2次電子ビームを検出する、電子線観察装置が提供される。
【0009】
[5]
[4]に記載の電子線観察装置において、
前記投影光学系は、
前記検出器と前記ステージの間に配置されるリレーレンズと、
前記検出器と前記リレーレンズの間に配置されたフィールドレンズと、
前記検出器と前記フィールドレンズの間に配置された投影レンズと、を有し、
前記保持具は、前記フィールドレンズと前記投影レンズの間に配置されるのが望ましい。
【0010】
[6]
[4]または[5]に記載の電子線観察装置において、
前記2次電子ビームのうち、前記設置された開口絞りが有する環状開口に対応するエネルギーを有する2次電子ビームが主として前記環状開口を通過するのが望ましい。
【0011】
本発明の一態様によれば、
[7]
平板状の基材と、
前記基材に設けられ、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する複数の開口絞りと、を備える、電子線観察装置用の開口絞りモジュールが提供される。
【0012】
[8]
[7]に記載の開口絞りモジュールにおいて、
前記複数の開口絞りの1つが有する環状開口の内径は0であるのが望ましい。
【0013】
[9]
[7]または[8]に記載の開口絞りモジュールにおいて、
前記複数の開口絞りの1つは、
前記環状開口の内径が非0であり、
前記環状開口の内側に設けられ、前記内径と等しい直径を有する円形の内側部材と、
前記内側部材を前記基材に保持するための保持部材と、を有するのが望ましい。
【0014】
[10]
[7]乃至[9]のいずれかに記載の開口絞りモジュールにおいて、
前記複数の開口絞りは直線上に配置され、
前記開口絞りモジュールは、前記基材を前記直線の方向に沿って移動させる駆動機構を備えるのが望ましい。
【0015】
本発明の一態様によれば、
[11]
ステージに載置された試料に複数の1次電子から構成される1次電子ビームを照射するマルチビーム光学系と、
前記1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを検出器で検出する投影光学系と、を備え、
前記投影光学系は、[7]乃至[10]のいずれかに記載の開口絞りモジュールを有し、
前記検出器は、前記環状開口を通過した2次電子ビームを検出する、電子線観察装置が提供される。
【0016】
本発明の一態様によれば、
[12]
複数の開口絞りを備え、
前記複数の開口絞りのそれぞれは、互いに内径および外径が異なる環状開口を有する、電子線観察装置用の開口絞りセットが提供される。
【0017】
[13]
[12]に記載の開口絞りセットにおいて、
前記複数の開口絞りの1つが有する環状開口の内径は0であるのが望ましい。
【0018】
[14]
[12]または[13]に記載の開口絞りセットにおいて、
前記複数の開口絞りは、
前記環状開口の内径が非0であり、
前記環状開口の内側に設けられ、前記内径と等しい直径を有する円形の内側部材と、
前記環状開口の外側に設けられた外側部材と、
前記内側部材を前記外側部材に保持するための保持部材と、を有するのが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
試料から放出される電子ビームのエネルギーに応じた観察ができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2A】低いエネルギーを有する2次電子ビームの開口絞り26断面位置における分散範囲を模式的に示す図。
【
図2B】中程度のエネルギーを有する2次電子ビームの開口絞り26断面位置における分散範囲を模式的に示す図。
【
図2C】高いエネルギーを有する2次電子ビームの開口絞り26断面位置における分散範囲を模式的に示す図。
【
図3A】低エネルギー用開口絞り261を模式的に示す図。
【
図3B】中エネルギー用開口絞り261を模式的に示す図。
【
図3C】高エネルギー用開口絞り261を模式的に示す図。
【
図5】一実施形態に係る電子線観察装置の概略構成図。
【
図6】
図5の電子線観察装置を用いた電子線観察方法の一例を示す工程図。
【
図7】
図5の電子線観察装置を用いた電子線観察方法の別の例を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0022】
図1Aは、電子線観察装置の概略構成図である。この電子線観察装置は、例えば走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)であり、マルチビーム光学系1(1次光学系)と、投影光学系2(2次光学系)とを備えている。
【0023】
マルチビーム光学系1はステージ16に載置された試料の複数箇所に複数の1次電子から構成される1次電子ビームを集束して照射するものであり、電子源11、マルチビーム発生機構12、転送レンズ13、ビーム分離器14、対物レンズ15、ステージ16、スキャン偏向器17などから構成される。
【0024】
電子源11から放出された電子ビームは、適宜、加速器(不図示)によって加速されるとともにレンズ(不図示)によって拡げられ、マルチビーム発生機構12に入射する。マルチビーム発生機構12は複数の開口を有しており、これらの開口を電子源11からの電子ビームが通過することで、複数の1次電子から構成される1次電子ビームが生成される。生成された1次電子ビームは転送レンズ13、ビーム分離器14および対物レンズ15によって個々に集束され、ステージ16に載置された試料の複数の箇所に等間隔に離散して照射される。
【0025】
また、1次電子ビームはスキャン偏向器17によって2次元的に試料上を走査するよう偏向される。これにより、離散的に照射される1次電子ビームが試料上に万遍なく照射される。
【0026】
投影光学系2は、1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを検出器28で検出するものであり、対物レンズ15、ビーム分離器14、ビームベンダ21、第1リレーレンズ22、第2リレーレンズ23、フィールドレンズ25、開口絞り26、投影レンズ27、検出器28などから構成される。なお、対物レンズ15およびビーム分離器14はマルチビーム光学系1と共用される。
【0027】
試料からの2次電子ビームは対物レンズ15によって集束される。そして、電界と磁界の重畳界を形成するビーム分離器14により、2次電子ビームはマルチビーム光学系1とは異なる方向に曲げられる。2次電子ビームはビームベンダ21によってさらに曲げられる。
【0028】
第1リレーレンズ22および第2リレーレンズ23は、2次電子ビームが、試料の電位に関わらず、フィールドレンズ25のレンズ主面近傍における一定の位置に一定のサイズで結像するように調整する。これら第1リレーレンズ22および第2リレーレンズ23を設けることで、幅広い試料電位に対応できる。
【0029】
フィールドレンズ25は、開口絞り26の位置近傍において、2次電子ビームを構成する複数の2次電子が光軸中心で最も互いに近接するよう、電界あるいは磁界を発生させて2次電子ビームの軌道を調整する。言い換えると、開口絞り26は、複数の2次電子が光軸中心で最も互いに近接する位置に配置される。
【0030】
開口絞り26は開口部を有しており、開口部を通過した2次電子ビームのみが投影レンズ27に到達する。これにより、2次電子ビームの開き角が規定される。
【0031】
投影レンズ27は開口絞り26の開口部を通過した2次電子ビームを検出器28上に結像させる。
【0032】
検出器28は、
図1Bに示すように、例えばシンチレータ281、光増幅器282、イメージセンサ283(例えばCMOSイメージセンサ)、拡大レンズ284、ハーフミラー285を有する。
【0033】
試料上の複数箇所から放出された2次電子はシンチレータ281上で結像し、シンチレータ281に到達した2次電子ビームの多寡に応じた光がシンチレータ281から生じる。生じた光は発散光であるので、光路に配置された拡大レンズ284を用いて拡大投影される。拡大レンズ284を通過した光は、その一部がハーフミラー285を通過して光ファイバの束を介して光増幅器282に向かい、また、その一部がハーフミラー285によって反射されてイメージセンサ283に向かう。前者の光は増幅器282によって電気信号に変換され、2次電子ビームの多寡に応じたビーム本数の走査画像(SEM像)が形成される。後者の光はイメージセンサ283上に結像し、2次電子ビームによる画像が得られる。
【0034】
図1Cは、
図1Aの変形例である電子線観察装置の概略構成図である。図示のように、
図1Aの電子線観察装置から、第1リレーレンズ22、第2リレーレンズ23、フィールドレンズ25を省いてもよい。この場合、投影レンズ27と検出器28との間に開口絞り26が配置される。主光線が光軸付近に最も近づく位置に開口絞り26を配置することが重要なためである。
【0035】
なお、
図1Aおよび
図1Cを用いて上述したマルチビーム光学系1および投影光学系2の構成は例示にすぎない。例えば、マルチビーム光学系1は特定の間隔に配置された複数の電子源11を備えてもよく、その場合はマルチビーム発生機構12を省いてもよい。また、投影光学系2は1つのみのリレーレンズを有してもよい。また、ビームベンダ21を省略してもよい。ただし、投影光学系2は、リレーレンズ22,23の少なくとも一方、フィールドレンズ25、開口絞り26、投影レンズ27を有し、この順でステージ16と検出器28との間に配置されるのが望ましい。
【0036】
ここで、複数(例えば数百本)の1次電子ビームが照射された試料からは、2次電子が放射され、試料近傍の加速電界にて加速され、複数(1次電子ビームと同数)の2次電子ビームを構成する。各2次電子ビームのエネルギーの分布は、試料表面の形状、状態、組成、化学結合、帯電状態といった要因に応じたものとなる。
【0037】
そして、ある特定のエネルギー帯に着目して2次電子ビームを観察したいという要求がある。また、試料表面の各位置に於ける2次電子ビームのエネルギー分布の違いを観察したいという要求がある。このような要求に応えることが本発明の目的の1つである。
【0038】
発明者らの検討によると、2次電子ビームの開口絞り26位置に於ける断面のビームの広がりは、2次電子ビームのエネルギーが高いほど大きいことが分かった。
【0039】
図2Aは、低いエネルギーを有する2次電子ビームの開口絞り26断面位置における分散範囲を模式的に示す図である。
図2Bは、中程度のエネルギーを有する2次電子ビームの開口絞り26断面位置における分散範囲を模式的に示す図である。
図2Cは、高いエネルギーを有する2次電子ビームの開口絞り26断面位置における分散範囲を模式的に示す図である。いずれの図も、簡略化のため、多数の2次電子ビームのうち3つの電子ビームについての分散範囲を描いており、各円が1つの2次電子ビームの分散範囲を示している(ただし、分かりやすいよう光軸からのずれを誇張している)。
【0040】
図2Aに示すように、有するエネルギーが低い場合、2次電子ビームの分散範囲は小さい。一方、
図2Bおよび
図2Cに示すように、有するエネルギーが大きくなる程、2次電子ビームの分散範囲は大きくなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、エネルギーに対応した位置に開口が形成された開口絞りを用いることにより、所望のエネルギーを有する2次電子ビームを選択的に検出器28に到達させることを1つの特徴とする。
【0042】
図3Aは、低いエネルギーを有する2次電子ビームを観察するための開口絞り(以下「低エネルギー用開口絞り261」という。)を模式的に示す図である。なお、
図3Aおよび後述の
図3B、
図3Cでは、便宜上、穴が形成された部分(2次電子が通過可能な部分)を黒塗りで描いている。この低エネルギー用開口絞り261は、例えば直径rо1が100μmの円形開口61を有している。
【0043】
図1に示す電子線観察装置において、低エネルギー用開口絞り261を用いた場合、主に低いエネルギーを有する2次電子ビームが円形開口61を通過する。中程度あるいは高いエネルギーを有する2次電子ビームは、円形開口61を通過するものもあるが、多くは光軸中心から離れるために開口絞り261を構成する部材70(開口付近の厚さは例えば100μm以下)によって遮られる。
【0044】
図3Bは、中程度のエネルギーを有する2次電子ビームを観察するための開口絞り(以下「中エネルギー用開口絞り262」という。)を模式的に示す図である。中エネルギー用開口絞り262は、例えば内径ri2が150μm、外径rо2が200μmの環状開口62を有している。
【0045】
言い換えると、中エネルギー用開口絞り262は、環状開口62の内側に設けられた内側部材72と、環状開口62の外側に設けられた外側部材82と、内側部材72を外側部材82に保持するための複数の保持部材92とを有する。
【0046】
内側部材72は環状開口62の内径ri2と等しい直径を有する円板形状(厚さは例えば100μm以下)である。外側部材82は環状開口62の外径rо2と等しい直径の開口を有する部材(開口付近の厚さ100μm以下)である。保持部材92は、幅dが30~50μm程度であり、一端が内側部材72に接続され、他端が外側部材82に接続される。保持部材92は、内側部材72を外側部材82に保持できればよく、例えば3つ以上の保持部材92が等間隔に配置される。内側部材72と外側部材82との間に環状開口62が形成されるとも言える。
【0047】
図1に示す電子線観察装置において、中エネルギー用開口絞り262を用いた場合、主に中程度のエネルギーを有する2次電子ビームが環状開口62を通過する。高いエネルギーを有する2次電子ビームは、環状開口62を通過するものもあるが、多くは光軸中心から離れるために外側部材82によって遮られる。低いエネルギーを有する2次電子ビームは、環状開口62を通過するものもあるが、多くは光軸中心の近傍にあるために内側部材72によって遮られる。
【0048】
図3Cは、高いエネルギーを有する2次電子ビームを観察するための開口絞り(以下「高エネルギー用開口絞り263」という。)を模式的に示す図である。高エネルギー用開口絞り263は、例えば内径ri3が300μm、外径rо3が400μmの環状開口63を有している。やはり、高エネルギー用開口絞り263は、内側部材73と、外側部材83と、保持部材93とから構成されてよい。
【0049】
図1に示す電子線観察装置において、高エネルギー用開口絞り263を用いた場合、主に高いエネルギーを有する2次電子ビームが環状開口63を通過する。中程度あるいは低いエネルギーを有する2次電子ビームは、環状開口63を通過するものもあるが、多くは光軸中心の近傍にあるために内側部材73によって遮られる。
【0050】
なお、
図3Aの低エネルギー用開口絞り261が有する円形開口61は、内径ri1が0の環状開口61と考えることができる。そして、
図3A~
図3Cに示す複数の開口絞り261~263は互いに内径および外径が異なる環状開口61~63をそれぞれ有すると言える。また、
図3A~
図3Cに3つの開口絞り261~263を例示したが、観察したいエネルギーの解像度に応じて適宜の数の開口絞りを用いればよい。
【0051】
図3A~
図3Cに例示するような複数の開口絞り261~263から電子線観察装置用の開口絞りセットが構成される。また、以下に説明するように、複数の開口絞り261~263を有する開口絞りモジュール3を用いてもよい。
【0052】
図4は、開口絞りモジュール3の概略斜視図である。この開口絞りモジュール3は、平板上の基材30と、基材30に設けられた複数の開口絞り31~33とを備える。
【0053】
基材65は、例えば膜厚が0.1mmのモリブデン製であり、表面にオスミウムによるコーティングが施されている。開口絞り31~33のそれぞれは
図3A~
図3Cを用いて説明した低エネルギー用開口絞り261、中エネルギー用開口絞り262および高エネルギー用開口絞り263と同様であってよい(
図4では簡略化して描いている)。この場合、中エネルギー用開口絞り32および高エネルギー用開口絞り33の保持部は、内側部材を基材20に保持する。また、基材30には、通常観察用の円形開口34が設けられてもよい。
【0054】
開口絞りモジュール3はシリンダロッド35(駆動機構)を有してもよい。そして、複数の開口絞り31~33が(必要に応じて、円形開口34も)直線上に配置される。また、電子線観察装置の制御装置(不図示)が各開口絞り31~33の位置(座標)を記憶している。そして、ユーザが操作端末から所望の開口絞りを選択すると、選択された開口絞りが光軸中心に位置するよう、制御装置がシリンダロッド35を制御する。この制御に応じて、シリンダロッド35は開口絞り31~33が並ぶ直線に沿う方向に基材30を移動させる。なお、開口絞りモジュール3が電子線観察装置に設置された場合、上記の直線は投影光学系2の光軸と直交する方向となる。
【0055】
図5は、一実施形態に係る電子線観察装置の概略構成図である。
図1の電子線観察装置における開口絞り26の位置に配置され、複数の開口絞りのうちのいずれかが設置されるように構成された保持具2Aを備えている。
【0056】
設置される開口絞りは、
図3A~
図3Cを用いて例示した開口絞りセットに含まれる開口絞り261~263のうちのいずれかであってよい。この場合、電子線観察装置が開口絞りセットを備えると考えてもよい。
【0057】
あるいは、電子線観察装置は、
図4を用いて例示した複数の開口絞り31~33を有する開口絞りモジュール3を備え、開口絞り31~33のいずれかが光軸中心に位置するよう開口絞りモジュール3が保持具2Aに設置されてもよい。
【0058】
図6は、
図5の電子線観察装置を用いた電子線観察方法の一例を示す工程図である。この電子線観察方法はある特定のエネルギーを有する2次電子ビームを観察することを意図している。
【0059】
まず、観察対象とする2次電子ビームのエネルギーを特定する(ステップS1)。この工程は観察者によって行われ得る。
【0060】
続いて、複数の開口絞りのうち、特定されたエネルギーに対応する開口絞りを電子線観察装置に設置する(ステップS2)。この工程も観察者によって行われ得る。
【0061】
例えば、観察対象が低いエネルギーを有する2次ビームであるとする。開口絞りセットを用いる場合、低エネルギー用開口絞り261を電子線観察装置の保持具2Aに設置する。また、開口絞りモジュール3を用いる場合、低エネルギー用開口絞り31が光軸中心に位置するようシリンダロッド35を制御する。
【0062】
そして、設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームが電子線観察装置の検出器28によって検出される(ステップS3)。より具体的には、設置された開口絞りが有する環状開口(の内径および外径)に対応するエネルギーを有する2次電子ビームが主として環状開口を通過し、検出器28によって検出される。
【0063】
以上により、観察者はステップS1で任意に特定したエネルギーを有する2次電子ビームについて観察を行うことができる。
【0064】
図7は、
図5の電子線観察装置を用いた電子線観察方法の別の例を示す工程図である。この電子線観察方法は2次電子ビームが有するエネルギーの分布を観察することを意図している。
【0065】
まず、複数の開口絞りのうち、任意の1つの開口絞りを電子線観察装置に設置する(ステップS11)。この工程は観察者によって行われ得る。
【0066】
一例として、開口絞りセットを用いる場合、低エネルギー用開口絞り261を電子線観察装置の保持具2Aに設置する。別の例として、開口絞りモジュール3を用いる場合、低エネルギー用開口絞り31が光軸中心に位置するようにシリンダロッド35を制御する。
【0067】
そして、設置された開口絞りの環状開口を通過した2次電子ビームが電子線観察装置の検出器28によって検出される(ステップS12)。
【0068】
以上のステップS11およびS12を、設置する開口絞りを取り替えながら行う(ステップS13)。
【0069】
例えば、初めのステップS11で低エネルギー用開口絞り261が設置された場合、次に中エネルギー用開口絞り262を設置し(ステップS11)、2次電子ビームの検出を行う(ステップS12)。その後、高エネルギー用開口絞り263を設置し(ステップS11)、2次電子ビームの検出を行う(ステップS12)。
【0070】
以上により、観察者は、低いエネルギーを有する2次電子ビーム、中程度のエネルギーを有する2次電子ビーム、および、高いエネルギーを有する2次電子ビームをそれぞれ別個に観察できる。
【0071】
以上述べたように、本実施形態では、内径および外径が互いに異なる複数の開口絞りを用いるため、試料から放出される電子ビームのエネルギーに応じた観察が可能となる。
【0072】
本実施形態で述べた電子線観察装置は、例えば半導体検査に適用できる。この場合、特定のエネルギー帯を重点的に通過させる開口絞りを用いて観察することにより、像コントラストの向上を期待できる。
【0073】
また、本実施形態で述べた電子線観察装置は、生態観察(3Dイメージング)に適用することもできる。この場合、2次電子エネルギー分布中の高エネルギー帯は、元素の影響を反映しやすいため、光軸中心付近の電子をカットした観察により、像コントラストの向上を期待できる。
【0074】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形例を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態には限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【0075】
例えば、本明細書において1台の装置(あるいは部材、以下同じ)として説明されるもの(図面において1台の装置として描かれているものを含む)を複数の装置によって実現してもよい。逆に、本明細書において複数の装置として説明されるもの(図面において複数の装置として描かれているものを含む)を1台の装置によって実現してもよい。あるいは、ある装置に含まれるとした手段や機能の一部または全部が、他の装置に含まれるようにしてもよい。
【0076】
また、本明細書に記載された事項の全てが必須の要件というわけではない。特に、本明細書に記載され、特許請求の範囲に記載されていない事項は任意の付加的事項ということができる。
【0077】
なお、本出願人は本明細書の「先行技術文献」欄の文献に記載された文献公知発明を知っているにすぎず、本発明は必ずしも同文献公知発明における課題を解決することを目的とするものではないことにも留意されたい。本発明が解決しようとする課題は本明細書全体を考慮して認定されるべきものである。例えば、本明細書において、特定の構成によって所定の効果を奏する旨の記載がある場合、当該所定の効果の裏返しとなる課題が解決されるということもできる。ただし、必ずしもそのような特定の構成を必須の要件とする趣旨ではない。
【符号の説明】
【0078】
1 マルチビーム光学系
11 電子源
12 マルチビーム発生機構
13 転送レンズ
14 ビーム分離器
15 対物レンズ
16 ステージ
17 スキャン偏向器
2 投影光学系
21 ビームベンダ
22 第1リレーレンズ
23 第2リレーレンズ
25 フィールドレンズ
26 開口絞り
261 低エネルギー用開口絞り
262 中エネルギー用開口絞り
263 高エネルギー用開口絞り
27 投影レンズ
28 検出器
281 シンチレータ
282 光増幅器
283 イメージセンサ
284 拡大レンズ
285 ハーフミラー
2A 保持具
3 開口絞りモジュール
30 基材
31 低エネルギー用開口絞り
32 中エネルギー用開口絞り
33 高エネルギー用開口絞り
34 円形開口
35 シリンダロッド
50 光軸中心
61 円形開口
62,63 環状開口
72,73 内側部材
82,83 外側部材
92,93 保持部材