IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法 図1
  • 特開-粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167518
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/02 20060101AFI20231116BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20231116BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20231116BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C22B19/02
C22B1/02
C22B1/00 601
F27D17/00 105K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078775
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高谷 悟
【テーマコード(参考)】
4K001
4K056
【Fターム(参考)】
4K001AA30
4K001BA14
4K001CA06
4K001CA09
4K001CA16
4K056AA14
4K056CA06
4K056DB26
(57)【要約】
【課題】粗酸化亜鉛焼鉱の製造において、排ガス処理工程で得られるスラリーの水銀濃度のばらつきを抑えること。
【解決手段】粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程S10と、粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施し、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S20と、粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉で焼成し、粗酸化亜鉛焼鉱を得る乾燥加熱工程S30と、S30乾燥加熱工程で発生した排ガスから、水銀を含有する排ガスダストを分離し、更に、排ガスダストを、水銀を含有する排ガスダストスラリーとして回収する排ガス処理工程S40と、を備え、排ガス処理工程S40で得られる、排ガスダストスラリーを乾燥させる水分率調整処理ST41によって排ガスダスト澱物とし、該排ガスダスト澱物を、定量切り出し装置を用いて、乾燥加熱工程S30を行う乾燥加熱炉に装入する、粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含有する原料から粗酸化亜鉛焼鉱を製造する粗酸化亜鉛焼鉱の方法であって、
前記原料を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、
前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施し、水溶性不純物を除去して、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉で焼成し、粗酸化亜鉛焼鉱を得る乾燥加熱工程と、
前記乾燥加熱工程で発生した排ガスから、水銀を含有する排ガスダストを分離し、更に、前記排ガスダストを、水銀を含有する排ガスダストスラリーとして回収する排ガス処理工程と、を備え、
前記排ガス処理工程で得られる前記排ガスダストスラリーを、所定の水分率となるように乾燥させる水分率調整処理によって排ガスダスト澱物とし、該排ガスダスト澱物を、定量切り出し装置を用いて、前記乾燥加熱工程を行う前記乾燥加熱炉に装入する、粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【請求項2】
前記排ガスダストスラリーの水分率が60%を超えていて、
前記排ガスダスト澱物の水分率が20%以上60%以下の範囲内で定められた一定の水分率である、
請求項1に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【請求項3】
前記排ガスダストスラリーを、天日乾燥により水分率40%超え60%以下まで乾燥させた後、水分率が10%以下の微粉末状の亜鉛含有原料と混合することによって水分率を調整して、水分率40%以下の前記排ガスダスト澱物を得る、
請求項1又は2に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【請求項4】
前記原料が鉄鋼ダストである、
請求項1又は2に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法に関する。本発明は、詳しくは、鉄鋼ダスト等、亜鉛と共に不純物として微量の水銀を含有する原料を用いて、粗酸化亜鉛焼鉱を製造する場合に好適な粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛が広く用いられている。亜鉛の原料となる粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストからも得ることができる。資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの再利用は望ましいものである。しかし、一方で、鉄鋼ダストには、その主成分である酸化鉄や酸化亜鉛以外に、不純物として微量の水銀が含有されている。そして、最終的に製造プラントの処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度については、厳密に法定基準値を下回るように処理を行うことが必須とされている。
【0003】
粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う、例えば、還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程、排ガス処理工程からなる全体プロセスにおいて、上記の鉄鋼ダストに含まれる微量の水銀は、還元焙焼工程では、粗酸化亜鉛ダストに分配され、この粗酸化亜鉛ダストを処理する湿式工程では、粗酸化亜鉛ケーキに分配され、この粗酸化亜鉛ケーキを処理する乾燥加熱工程では、排ガスに分配され、続けて設けられている排ガス処理工程において、排ガスダスト、或いは、排ガス処理工程に設けられている吸着塔内の吸着剤に分配される。
【0004】
排ガスダストは、排ガス処理工程でスラリーとされた後、湿式工程に送られて粗酸化亜鉛ケーキの一部となるが、排ガス処理工程で得られるスラリー(以下、単に「スラリー」とも言う)を湿式工程に送り、乾燥加熱工程で処理すると、排ガス中の水銀濃度の値が大きくばらつくため、亜鉛を多く含むスラリー処理を抑制、或いは、中断せざるを得ず、亜鉛の実収率の低下、更には、抑制、或いは中断した際に、スラリーを中間物として抜き出して保管するための、人手と時間の浪費を余儀無くされていた。
【0005】
特許文献1には、粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う全体プロセスの中で、最終製品となる粗酸化亜鉛焼鉱を産出する乾燥加熱工程に装入する中間生成物の水銀含有率と製品産出量とに基づいて、水銀負荷量を求め、これを所定範囲内に維持する調整を行うことにより、最終的に製造プラントの処理系外に排出する処理済み排ガスの水銀濃度を高い精度で制御できることが示されている。しかしながら、スラリーを湿式工程に繰り返して、この湿式工程で得られる粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱工程で処理すると、このスラリーの水銀濃度がばらつくため、粗酸化亜鉛ケーキ、即ち上記の中間生成物の水銀含有率自体がばらついてしまい、スラリーの繰り返しを中断する事態が発生していた。これを回避するために、排ガス処理工程で得られるスラリーの水銀濃度のばらつきを抑える技術的手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-132970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粗酸化亜鉛焼鉱の製造において、排ガス処理工程で得られるスラリーの水銀濃度のばらつきを抑えることができる技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う全体プロセスの中で、従来は、湿式工程に繰り返されていた排ガス処理工程から得られる水銀を含有するスラリーを、水分率が適度に調整された澱物とした後に、定量切り出し装置を用いて、湿式工程を経由させずに、乾燥加熱工程を行う乾燥加熱炉に直接装入することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 亜鉛を含有する原料から粗酸化亜鉛焼鉱を製造する粗酸化亜鉛焼鉱の方法であって、前記原料を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施し、水溶性不純物を除去して、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉で焼成し、粗酸化亜鉛焼鉱を得る乾燥加熱工程と、前記乾燥加熱工程で発生した排ガスから、水銀を含有する排ガスダストを分離し、更に、前記排ガスダストを、水銀を含有する排ガスダストスラリーとして回収する排ガス処理工程と、を備え、前記排ガス処理工程で得られる前記排ガスダストスラリーを、を所定の水分率となるように乾燥させる水分率調整処理によって排ガスダスト澱物とし、該排ガスダスト澱物を、定量切り出し装置を用いて、前記乾燥加熱工程を行う前記乾燥加熱炉に装入する、粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【0010】
(1)の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法によれば、粗酸化亜鉛焼鉱の製造において、排ガス処理工程で得られるスラリーの水銀濃度のばらつきを抑えることができる。又、これにより、当該スラリーを粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う製造プラントの処理系内で安定的に処理することができるようになる。
【0011】
(2) 前記排ガスダストスラリーの水分率が60%を超えていて、前記排ガスダスト澱物の水分率が20%以上60%以下の範囲内で定められた一定の水分率である、(1)に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【0012】
(2)の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法によれば、排ガスダストスラリーを水分率が所定値に調整された澱物とすることで、スラリー濃度のばらつきをなくし、更に、この所定値を20%以上60%以下に規定することで、定量切り出し装置内での棚吊りの発生により乾燥加熱炉への円滑な装入が阻害されることも防ぐことができる。
【0013】
(3) 前記排ガスダストスラリーを、天日乾燥により水分率40%超え60%以下まで乾燥させた後、水分率が10%以下の微粉末状の亜鉛含有原料と混合することによって水分率を調整して、水分率40%以下の前記排ガスダスト澱物を得る、(1)又は(2)に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【0014】
(3)の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法によれば、天日乾燥と微粉末状の追加原料との混合という2つの処理の組合せによって、乾燥用の機器等の導入に頼らずに、最小限の追加処理コストで、上記の排ガスト澱物を得るための水分率調整処理を行うことができるので、より経済的に、(1)又は(2)に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法の奏する上記効果を享受することができる。
【0015】
(4) 前記原料が鉄鋼ダストである、(1)又は(2)に記載の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法。
【0016】
(4)の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法によれば、資源リサイクルの促進の観点からは望ましい原料である一方で、不純物として水銀を含有し、その含有量のばらつきも大きい鉄鋼ダストを、製造プラントの処理系内で安定的に処理することができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粗酸化亜鉛焼鉱の製造において、排ガス処理工程で得られるスラリーの水銀濃度のばらつきを抑えることができる。又、これにより、当該スラリーを粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う製造プラントの処理系内で安定的に処理することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法のフローの一例を示すフロー図である。
図2】粗酸化亜鉛焼鉱の製造を従来方法で実施した時の乾燥加熱工程から排出される排ガス中の水銀濃度の推移と、同製造を本発明の製造方法で実施した時の同排ガス中の水銀濃度の推移と、を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<全体プロセス>
本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法は、粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う全体プロセスのうち、還元焙焼工程S10、湿式工程S20、乾燥加熱工程S30、及び、排ガス処理工程S40を含んでなる複合的なプロセスである。これらの各部分工程のうち、湿式工程S20で得られる粗酸化亜鉛ケーキを焼成して製品である粗酸化亜鉛焼鉱を産出する工程である乾燥加熱工程S30から、水銀を含有する排ガスが排出される。本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法は、これらの必須の4工程の他に、更に、排水処理工程S50を加えた全体プロセスとしての実施を、その代表的な実施態様とする全体プロセスである。
【0020】
そして、本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法は、このような全体プロセスの中で、従来プロセスにおいては、湿式工程S20に送られて粗酸化亜鉛ケーキの一部となった後に乾燥加熱工程S30に装入されていた排ガス処理工程S40から得られる水銀を含有するスラリーを、水分率が適度に調整された澱物とした後に、湿式工程S20を経由させずに、定量切り出し装置を用いて、乾燥加熱工程S30に直接装入するようにした点を主たる特徴とするプロセスである。尚、本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法は、特に、水銀の濃度のばらつきが大きい鉄鋼ダストを主たる原料として用いる製造プラントにおいて、とりわけ有利な効果を発揮する。
【0021】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S10は、通常、大型の回転式加熱炉である還元焙焼ロータリーキルン(RRK)によって、鉄鋼ダスト等の原料(一次原料)を、還元剤と共に高温で焙焼する工程である。還元焙焼処理の焙焼温度については、被処理物の最高温度が1050℃以上1200℃以下程度となるように還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の炉内温度を保持管理することが好ましい。還元焙焼ロータリーキルン(RRK)の炉内で、鉄鋼ダスト等の原料は還元焙焼され、揮発した金属亜鉛が炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、還元焙焼ロータリーキルンからの排出ガス(RRK排出ガス)と共に集塵機に導入されダストとして捕集される。このとき、原料に含まれていた水銀も、上記RRK排ガスへの活性炭の噴霧と集塵等により同様にダストとして捕集され、水銀を含有するこれらのダストが、粗酸化亜鉛ダストとして次工程である湿式工程に装入される。尚、この還元焙焼工程S10において揮発せずにキルン内に残った還元焙焼残渣は、通常、含鉄クリンカーと称する製品としてキルン排出端より回収され、還元された鉄分が多く含有されるため、鉄鋼メーカー向けの鉄原料等として払い出される。
【0022】
<湿式工程>
湿式工程S20は、還元焙焼工程S10において回収された上記の粗酸化亜鉛ダストを、工業用水等でレパルプし、塩素、カドミウム等の水溶性不純物を分離する湿式処理を行う工程である。尚、湿式工程S20には、鉄鋼ダスト等の一次原料が上流工程である還元焙焼工程S10を経て生成された粗酸化亜鉛ダストの他に、粗酸化亜鉛ダストと同等の化学組成であり亜鉛を含有する粗酸化亜鉛粉等の二次原料(湿式工程で処理する粗酸化亜鉛は、乾燥加熱工程S30に装入する購入粗酸化亜鉛とは区別して「二次原料」と称する)も、還元焙焼工程S10を経ずに、直接装入され、一次原料から得られる粗酸化亜鉛ダストと同様の処理が行われる。
【0023】
上記の分離処理を経てスラリーとなった粗酸化亜鉛ダストは、pH調整及び濃縮処理、脱水処理が行われることにより、粗酸化亜鉛ケーキとされて、次工程である乾燥加熱工程S30に装入される。上記の濃縮及び脱水処理については、シックナー等の重力沈降式スラリー濃縮装置や真空脱水機等の脱水装置を適宜用いることができる。
【0024】
<乾燥加熱工程>
乾燥加熱工程S30は、湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の乾燥加熱炉に装入して焼成する工程である。この乾燥加熱工程S30により、水銀を含む残留不純物を揮発させて、高品位の粗酸化亜鉛焼鉱を得ることができる。乾燥加熱処理の焼成温度については、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等から産出される際の被焼成物の温度が900℃以上1250℃以下の範囲となるように炉内温度を保持管理する。
【0025】
又、本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法においては、従来プロセスにおいては、湿式工程S20に繰り返されていた排ガス処理工程S40で得られる排ガスダストスラリーを、水分率調整処理ST41によって排ガスダスト澱物とした上で、当該排ガスダスト澱物を、湿式工程S20を経由させずに、直接、乾燥加熱工程S30を行う乾燥加熱炉に装入する。又、排ガスダスト澱物の乾燥加熱炉への装入は、定量切り出し装置を用いて行う。尚、本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法においては、上記の排ガスダストスラリーの全部を排ガスダスト澱物として乾燥加熱工程S30を行う乾燥加熱炉に装入することが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、一部の排ガスダストスラリーを従前通りに湿式工程に繰り返してもよい。
【0026】
上記の排ガスダスト澱物は、水分率調整処理ST41によって、水分率のばらつきが十分に低減されているので、これに起因する排ガスダスト澱物中の水銀濃度の変動は十分に抑制されている。又、排ガスダストスラリーの固形分に含まれる水銀濃度のばらつき、即ち、この排ガスダスト澱物自体の水銀濃度にばらつきがある場合には、乾燥加熱工程S30から排出される排ガス中の水銀濃度をモニタリングしながら、排ガスダスト澱物を乾燥加熱炉に装入する切り出し装置の切り出し量を当該水銀濃度に応じて増減させる調整を行うことによって、水銀濃度の過剰な変動を回避しながら、排ガスダストスラリー(排ガスダスト澱物)の処理を継続することができる。尚、「排ガスダスト澱物」、及び、これを得るための「水分率調整処理ST41」の詳細については後述する。
【0027】
尚、乾燥加熱工程S30を行う乾燥加熱炉においては、一次原料由来及び二次原料由来の水銀に加えて、粗酸化亜鉛ケーキ、及び、水分率調整処理ST41を経て繰り返された排ガスダスト澱物に含有される水銀のほぼ全量が、排ガス側に分配されて後段の排ガス処理工程S40に送られる。
【0028】
<排ガス処理工程>
排ガス処理工程S40は、乾燥加熱工程S30で発生した水銀等を含有する排ガスを除塵、無害化して水銀及びその他の不純物を除去し、無害化された処理済み排ガスとする工程である。この工程を行う設備としては、洗浄塔、湿式電気集塵機、水銀吸着剤が充填されている充填塔の組合せが一般的である。尚、上記の水銀吸着剤としては、例えば、粒コークス等の炭素化合物の表面に、銅精鉱、亜鉛精鉱、鉛精鉱等から選択される1種以上の硫化物を付着させたものが広く用いられている。
【0029】
上記の構成からなる設備において排ガス処理工程S40を行う場合においては、排ガス中の水銀は95%程度の回収率で充填塔内の水銀吸着剤に吸着回収されるが、上述の通り、水銀を含む排ガスダストをスラリーとしたもの(排ガスダストスラリー)は、主成分が酸化亜鉛であることから、従来は、この排ガスダストスラリーを、湿式工程S20に繰り返して循環装入することにより、金属資源の有効利用が図られている。これに対して、本発明の粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法においては、以下に詳細を説明する水分率調整処理ST41によって、排ガスダストスラリーを、水分率が適度に調整されている澱物(排ガスダスト澱物)とした上で、乾燥加熱工程S30に繰り返すように排ガスダストスラリーの処理の流れを変更している。
【0030】
[水分率調整処理]
水分率調整処理ST41は、排ガス処理工程で得られる排ガスダストスラリーを、所定の水分率となるように乾燥させる水分率調整処理によって排ガスダスト澱物とする処理である。排ガスダストスラリーの水分率は、60%を超えていて、且つ、ばらつきも大きいことが一般的である。水分率調整処理ST41によって、このような性状のスラリーを、適度に乾燥させることで、水分率のばらつきが小さい澱物とすることができる。
【0031】
排ガスダスト澱物の水分率は、20%以上60%以下であればよく、20%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましい。「所定の水分率」はこの範囲内で適宜設定することができる。尚、排ガスダスト澱物の水分率の管理値として規定される「所定の水分率」には、一定範囲内の変動幅があってもよい。例えば、「所定の水分率」を30%±5%と言うように、所定範囲内の幅をもたせて規定することができる。この場合の水分率の変動幅は±10%以内とすることが好ましく、±5%以内とすることがより好ましい。
【0032】
水分率調整処理ST41の具体的手段は特に限定されないが、一例として、排ガスダストスラリーを、天日乾燥により水分率40%超え60%以下まで乾燥させた後、水分率が10%以下の微粉末状の亜鉛含有原料と混合することによって水分率を調整して、水分率40%以下の前記排ガスダスト澱物を得る処理方法を好ましい実施態様の一例として挙げることができる。
【0033】
水分率調整処理ST41は、或いは、上記の天日乾燥に替えて、ベルト式脱水機等の脱水機を用いて、例えば、水分率20%以上30%以下の脱水ケーキとして抜き出すことによって行い、この脱水ケーキを定量切り出し装置により切り出すこととしてもよい。
【0034】
<排水処理工程>
排水処理工程S50は、湿式工程S20において粗酸化亜鉛ダストから分離された塩素、カドミウム等の水溶性不純物を高濃度で含有する廃液から、カドミウム等の一部の重金属を除去し、その後、廃液中に微量に残留した重金属を消石灰による中和処理により沈殿除去し、最終的にpH調整処理を施して無害の処理済み排水とする工程である。
【実施例0035】
図1に示す全体プロセスを実施可能な粗酸化亜鉛焼鉱の製造プラントにおいて、本発明の「粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法」によって粗酸化亜鉛焼鉱製造を行う試験操業を行った。実施例及び比較例の試験操業において、乾燥加熱工程から排出される排ガス中の水銀濃度の推移を観察することにより、本発明の効果を検証した。尚、試験操業は、比較例の操業を、第1日から第7日として先行して行い、この後に、実施例の操業を、第8日から第14日として行った。結果は図2に示す通りであった。尚、同図に示した水銀濃度指数とは、所定の水銀濃度を100として、水銀濃度を指数化した値である。又、両者の操業において実際に処理することができた排ガスダストスラリー(或いは、排ガスダスト澱物)の量(表1において「排ガスダスト処理量」と記す)の推移を下記表1に示す。
【0036】
[実施例]
排ガス処理工程から得られる「排ガスダストスラリー」の全量を抜き取り、既に抜き取ってあった同量の「排ガスダストスラリー」を天日で水分率40%まで乾燥させて得た「排ガスダスト澱物」、及び、湿式工程で得た「粗酸化亜鉛ケーキ」を、乾燥加熱工程に装入する操業を7日間行った。「排ガスダストスラリー」の抜き取り量と「排ガスダスト澱物」の装入量は、何れも乾燥重量において同量である、1~2t/hとした。又、「粗酸化亜鉛ケーキ」の装入量は、5~6t/hとし、乾燥加熱工程への「排ガスダスト澱物」及び「粗酸化亜鉛ケーキ」の合計装入量は、6~8t/hとした。
【0037】
[比較例]
排ガス処理工程から得られる「排ガスダストスラリー」の抜き取りは行わず、その全量を湿式工程に繰返した。「排ガスダスト澱物」の装入も行わずに、湿式工程で得た「粗酸化亜鉛ケーキ(排ガスダストスラリーを含有するケーキ)」を、乾燥加熱工程に装入する操業を7日間行った。尚、比較例の操業では、第5日目において、排ガス中の水銀濃度の値の急上昇により、「排ガスダストスラリー」の湿式工程への繰り返しを一時的に制限せざるを得ない状態となり8時間にわたってスラリーの処理を制限している。
【0038】
【表1】
【0039】
図1に示す通り、本発明の「粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法」の採用により、排ガス中水銀濃度指数のばらつきは顕著に低減した。具体的に、排ガス中水銀濃度指数の標準偏差(σ)は、107から32に減少している。又、これにより、表1に示すように、排ガスダスト澱物(或いは、排ガスダストスラリー)の処理量も大幅に増加させることができた。以上の結果より、本発明の「粗酸化亜鉛焼鉱の製造方法」は、粗酸化亜鉛焼鉱の製造において、排ガス処理工程で得られるスラリーの水銀濃度のばらつきを抑えることができ、これにより、当該スラリーを粗酸化亜鉛焼鉱の製造を行う製造プラントの処理系内で安定的に処理することができるプロセスであることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
S10 還元焙焼工程
S20 湿式工程
S30 乾燥加熱工程
S40 排ガス処理工程
ST41 水分率調整処理
S50 排水処理工程
図1
図2