(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167627
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】配電線の健全性評価装置及び配電線の健全性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/58 20200101AFI20231116BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20231116BHJP
【FI】
G01R31/58
G01R31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078947
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田所 兼
(72)【発明者】
【氏名】中西 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】上村 敏
【テーマコード(参考)】
2G014
2G033
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AA03
2G014AA04
2G014AB33
2G014AC19
2G033AA02
2G033AC01
2G033AC02
2G033AC04
2G033AD13
2G033AE05
2G033AF03
2G033AF04
(57)【要約】
【課題】配電線の健全性を評価することができる配電線の健全性評価装置及び配電線の健全性評価方法を提供する。
【解決手段】健全性評価装置1は、周波数が経時変化する電圧を出力する電源部11と、接続部10に接続された配電線DLの何れか二相を選択し、選択した一方の相を印加相にし、他方の相を接地相にする選択部12と、印加相と接地相との間の電圧及び印加相に流れる電流を検出する検出部13と、検出部13の検出結果から、最も低周波側に現れるピークの周波数である第1共振周波数と電圧に対する電流の位相である電流位相とを求める演算部14と、選択部12を制御して、印加相にする相と接地相にする相との組み合わせを変えつつ、第1共振周波数及び電流位相を求めさせ、組み合わせ毎に得られた第1共振周波数及び電流位相に基づいて、配電線の健全性を評価する評価部15と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である三相の配電線が接続される接続部と、
周波数が経時変化する電圧を出力する電源部と、
前記接続部に接続された前記配電線の何れか二相を選択し、選択した一方の相を前記電源部に接続される印加相にするとともに、選択した他方の相を接地される接地相にする選択部と、
前記印加相と前記接地相との間の電圧を検出するとともに、前記印加相に流れる電流を検出する検出部と、
前記検出部で検出された電流の周波数解析を行って、最も低周波側に現れるピークの周波数である第1共振周波数を求め、前記検出部で検出された電圧及び電流に基づいて、前記電圧に対する電流の位相である電流位相を求める演算部と、
前記選択部を制御して、前記印加相にする相と前記接地相にする相との組み合わせを変えつつ、前記第1共振周波数及び前記電流位相を求めさせ、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数及び前記電流位相に基づいて、前記配電線の健全性を評価する評価部と、
を備える配電線の健全性評価装置。
【請求項2】
前記配電線は、R相、S相、T相を有しており、
前記評価部は、前記選択部を制御して、前記組み合わせを以下の通り変える、請求項1記載の健全性評価装置。
・前記R相を前記印加相にし、前記S相を前記接地相にする組み合わせ
・前記S相を前記印加相にし、前記R相を前記接地相にする組み合わせ
・前記S相を前記印加相にし、前記T相を前記接地相にする組み合わせ
・前記T相を前記印加相にし、前記S相を前記接地相にする組み合わせ
・前記T相を前記印加相にし、前記R相を前記接地相にする組み合わせ
・前記R相を前記印加相にし、前記T相を前記接地相にする組み合わせ
【請求項3】
前記評価部は、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数が等しく、且つ、前記組み合わせ毎に得られた前記電流位相が全て進みを示すものである場合には、前記配電線が健全であると評価する、請求項1又は請求項2記載の健全性評価装置。
【請求項4】
前記評価部は、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数が等しく、且つ、前記組み合わせ毎に得られた前記電流位相が全て遅れを示すものである場合には、前記配電線が三相短絡であると評価する、請求項1又は請求項2記載の健全性評価装置。
【請求項5】
前記評価部は、前記組み合わせのうちの何れか2つの組み合わせで得られた前記第1共振周波数が他の組み合わせで得られた前記第1共振周波数よりも高い場合には、前記第1共振周波数が高くなる組み合わせにおける前記印加相で断線が生じていると評価する、請求項1又は請求項2記載の健全性評価装置。
【請求項6】
前記評価部は、前記組み合わせのうちの何れか2つの組み合わせで得られた前記第1共振周波数が他の組み合わせで得られた前記第1共振周波数よりも低く、且つ、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相が同じ場合には、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相で地絡が生じていると評価する、請求項1又は請求項2記載の健全性評価装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記組み合わせのうちの何れか2つの組み合わせで得られた前記第1共振周波数が他の組み合わせで得られた前記第1共振周波数よりも低く、且つ、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相が異なる場合には、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相と前記接地相との間で二相短絡が生じていると評価する、請求項1又は請求項2記載の健全性評価装置。
【請求項8】
評価対象である三相の配電線が接続される接続部に接続された前記配電線の何れか二相を選択し、選択した一方の相を周波数が経時変化する電圧を出力する電源部に接続される印加相にするとともに、選択した他方の相を接地される接地相にするステップと、
前記印加相と前記接地相との間の電圧を検出するとともに、前記印加相に流れる電流を検出するステップと、
検出された電流の周波数解析を行って、最も低周波側に現れるピークの周波数である第1共振周波数を求め、検出された電圧及び電流に基づいて、前記電圧に対する電流の位相である電流位相を求めるステップと、
前記印加相にする相と前記接地相にする相との組み合わせを変えつつ、前記第1共振周波数及び前記電流位相を求めさせ、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数及び前記電流位相に基づいて、前記配電線の健全性を評価するステップと、
を有する配電線の健全性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線の健全性評価装置及び配電線の健全性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨、台風、地震等の自然災害によって、停電が長期化する傾向がある。このような停電の長期化を防ぐために、仮設電源となる電源車の配備、分散形電源を活用する地域マイクログリッドの構築等が進められている。これらの電源(仮設電源、分散形電源)を用いて早期に広域を復電するためには、当然ながら、電源から需要者までを結ぶ配電線は健全でなければならない。
【0003】
しかしながら、例えば、電柱の被災等によって、配電線にも異状が生じ得る。ここで、配電線の異状には、単相で生じる断線、地絡と、2相以上で生じる短絡とがある。仮設電源の連系点から被災配電線の健全性(断線、地絡、短絡の有無)を評価することができれば、改修工事の要否又は復電の優先順位の判断に活用でき、ひいては、早期の復電が期待できる。
【0004】
以下の特許文献1には、送電線のインピーダンスが変化する特異点を標定する技術が開示されている。具体的に、以下の特許文献1に開示された技術は、周波数連続変調波(FMCW)を送電線に印加し、送電線の特異点で生ずる反射波が周波数変調連続波の印加点に戻るまでの時間遅れに基づいて、印加点から特異点までの距離を標定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1に開示された技術は、送電線における特異点を標定することができるものの、配電線の健全性を評価することは困難であると考えられる。なぜならば、配電線には、送電線には設けられていない種々の設備(例えば、需要家に電力を供給するために必要となる柱上変圧器等)が設けられているためである。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、配電線の健全性を評価することができる配電線の健全性評価装置及び配電線の健全性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様による配電線の健全性評価装置(1)は、評価対象である三相の配電線(DL)が接続される接続部(10)と、周波数が経時変化する電圧を出力する電源部(11)と、前記接続部に接続された前記配電線の何れか二相を選択し、選択した一方の相を前記電源部に接続される印加相にするとともに、選択した他方の相を接地される接地相にする選択部(12)と、前記印加相と前記接地相との間の電圧を検出するとともに、前記印加相に流れる電流を検出する検出部(13)と、前記検出部で検出された電流の周波数解析を行って、最も低周波側に現れるピークの周波数である第1共振周波数を求め、前記検出部で検出された電圧及び電流に基づいて、前記電圧に対する電流の位相である電流位相を求める演算部(14)と、前記選択部を制御して、前記印加相にする相と前記接地相にする相との組み合わせを変えつつ、前記第1共振周波数及び前記電流位相を求めさせ、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数及び前記電流位相に基づいて、前記配電線の健全性を評価する評価部(15)と、を備える。
【0009】
また、本発明の第2態様による配電線の健全性評価装置は、本発明の第1態様による配電線の健全性評価装置において、前記配電線が、R相、S相、T相を有しており、前記評価部が、前記選択部を制御して、前記組み合わせを以下の通り変える。
・前記R相を前記印加相にし、前記S相を前記接地相にする組み合わせ
・前記S相を前記印加相にし、前記R相を前記接地相にする組み合わせ
・前記S相を前記印加相にし、前記T相を前記接地相にする組み合わせ
・前記T相を前記印加相にし、前記S相を前記接地相にする組み合わせ
・前記T相を前記印加相にし、前記R相を前記接地相にする組み合わせ
・前記R相を前記印加相にし、前記T相を前記接地相にする組み合わせ
【0010】
また、本発明の第3態様による配電線の健全性評価装置は、本発明の第1態様又は第2態様による配電線の健全性評価装置において、前記評価部が、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数が等しく、且つ、前記組み合わせ毎に得られた前記電流位相が全て進みを示すものである場合には、前記配電線が健全であると評価する。
【0011】
また、本発明の第4態様による配電線の健全性評価装置は、本発明の第1態様又は第2態様による配電線の健全性評価装置において、前記評価部が、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数が等しく、且つ、前記組み合わせ毎に得られた前記電流位相が全て遅れを示すものである場合には、前記配電線が三相短絡であると評価する。
【0012】
また、本発明の第5態様による配電線の健全性評価装置は、本発明の第1態様又は第2態様による配電線の健全性評価装置において、前記評価部が、前記組み合わせのうちの何れか2つの組み合わせで得られた前記第1共振周波数が他の組み合わせで得られた前記第1共振周波数よりも高い場合には、前記第1共振周波数が高くなる組み合わせにおける前記印加相で断線が生じていると評価する。
【0013】
また、本発明の第6態様による配電線の健全性評価装置は、本発明の第1態様又は第2態様による配電線の健全性評価装置において、前記評価部が、前記組み合わせのうちの何れか2つの組み合わせで得られた前記第1共振周波数が他の組み合わせで得られた前記第1共振周波数よりも低く、且つ、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相が同じ場合には、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相で地絡が生じていると評価する。
【0014】
また、本発明の第7態様による配電線の健全性評価装置は、本発明の第1態様又は第2態様による配電線の健全性評価装置において、前記評価部が、前記組み合わせのうちの何れか2つの組み合わせで得られた前記第1共振周波数が他の組み合わせで得られた前記第1共振周波数よりも低く、且つ、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相が異なる場合には、前記電流位相が遅れを示すときの前記印加相と前記接地相との間で二相短絡が生じていると評価する。
【0015】
本発明の一態様による配電線の健全性評価方法は、評価対象である三相の配電線(DL)が接続される接続部(10)に接続された前記配電線の何れか二相を選択し、選択した一方の相を周波数が経時変化する電圧を出力する電源部(11)に接続される印加相にするとともに、選択した他方の相を接地される接地相にするステップ(S11)と、前記印加相と前記接地相との間の電圧を検出するとともに、前記印加相に流れる電流を検出するステップ(S12)と、検出された電流の周波数解析を行って、最も低周波側に現れるピークの周波数である第1共振周波数を求め、検出された電圧及び電流に基づいて、前記電圧に対する電流の位相である電流位相を求めるステップ(S13)と、前記印加相にする相と前記接地相にする相との組み合わせを変えつつ、前記第1共振周波数及び前記電流位相を求めさせ、前記組み合わせ毎に得られた前記第1共振周波数及び前記電流位相に基づいて、前記配電線の健全性を評価するステップ(S15)と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、配電線の健全性を評価することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】配電線の状態に応じたインピーダンスの変化を検出するために用いられる信号の一例を示す図である。
【
図3】印加相と接地相との組み合わせを変えつつ測定を行う様子を示す図である。
【
図4】試験によって得られた電流の周波数特性の一例を示す図である。
【
図5】試験によって得られた電流位相の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態による配電線の健全性評価装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の一実施形態による配電線の健全性評価方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図8中のステップS15で行われる処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による配電線の健全性評価装置及び配電線の健全性評価方法について詳細に説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。以下では、まず、配電線の健全性を評価する原理について説明し、次に、本発明の一実施形態による配電線の健全性評価装置及び配電線の健全性評価方法について説明する。
【0019】
〈配電線の健全性評価の原理〉
図1は、配電線の健全性を説明するための図である。ここで、配電線DLの健全性とは、配電線DLに異常が生じているか否かを示す指標である。配電線DLの健全性としては、例えば、
図1(a)に示す「健全」、
図1(b)に示す「断線」、
図1(c)に示す「地絡」、及び
図1(d)に示す「短絡」が挙げられる。尚、評価対象となる配電線DLは、例えば、
図1に示す通り、R相、S相、T相を有する三相の配電線である。
【0020】
図1(a)に示す「健全」とは、配電線DLに異常(断線、地絡、短絡)が生じておらず、配電線DLを介して需要者に電力を供給できる状態をいう。
図1(b)に示す「断線」とは、配電線DLの何れかの相が切断されている状態をいう。
図1(b)に示す例では、配電線DLのR相が断線している状態を示している。
【0021】
図1(c)に示す「地絡」とは、配電線DLの何れかの相が大地(g)と接触し、大地に電流が流れる状態をいう。
図1(c)に示す例では、配電線DLのR相が地絡している状態を示している。
図1(d)に示す「短絡」とは、配電線DLの複数の相が電気的に接触しており、配電線DLの複数の相間で電流が流れる状態をいう。
図1(d)に示す例では、配電線DLのR相とS相とが短絡している状態(二相短絡)と、配電線DLのR相、S相、及びT相が短絡している状態(三相短絡)とを図示している。
【0022】
図1(b)に示す「断線」、
図1(c)に示す「地絡」、及び
図1(d)に示す「短絡」は何れも、配電線DLを介して需要者に電力を供給できない状態である。尚、
図1(b)に示す「断線」及び
図1(c)に示す「地絡」は、配電線]DLの単相で生ずる異常であり、
図1(d)に示す「短絡」は、配電線DLの2相以上で生ずる異常である。
【0023】
図1に例示した配電線DLの状態に応じて、配電線DLの各相(R相、S相、T相)と大地(g)との間のインピーダンスが変化する。このようなインピーダンスの変化は、例えば、
図1(b)に示す「断線」を例に挙げると、断線しているR相と断線していないS相との間のインピーダンスと、断線していないS相と断線していないT相との間のインピーダンスとが相違することによる。
【0024】
本実施形態では、このようなインピーダンスの変化に着目して配電線DLの健全性を評価する。具体的には、インピーダンスの変化を調査するために、周波数が経時変化する信号を配電線DLに印加し、流れる電流の周波数特性と低周波帯域の電圧に対する電流の位相(以下、「電流位相」という)とを得る。より詳細には、配電線DLの三相(R相、S相、T相)のうち、上記の信号が印加される相(印加相)と接地される相(接地相)との組み合わせを変えつつ、電流の周波数特性と電流位相とを得る。そして、印加相と接地相との組み合わせ毎に得られた電流の周波数特性と電流位相とに基づいて、配電線DLの健全性を評価する。
【0025】
図2は、配電線の状態に応じたインピーダンスの変化を検出するために用いられる信号の一例を示す図である。
図2に例示する信号は、周波数が連続的に変調された低電圧のFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数連続変調波)信号である。このFMCW信号は、電圧が正弦波状に変化する信号であって、印加時間Tsの間に周波数が開始周波数fsから終了周波数feまで直線的に変化する信号である。
図2に示す例では、終了周波数feが開始周波数fsよりも高いため、FMCW信号は、
図2に示す通り、時間とともに周波数が徐々に高くなる(1周期の長さが短くなる)。
【0026】
ここで、配電線DLにおける印加相と接地相との組み合わせは、以下に示す6パターンになる。
・R相が印加相、S相が接地相(R-Sg)
・S相が印加相、R相が接地相(S-Rg)
・S相が印加相、T相が接地相(S-Tg)
・T相が印加相、S相が接地相(T-Sg)
・T相が印加相、R相が接地相(T-Rg)
・R相が印加相、T相が接地相(R-Tg)
【0027】
尚、本明細書及び図面において、印加相がX相であり、接地相がY相であるパターンを「X-Yg」と表記することがある。尚、X相は、R相、S相、T相の何れかの相であり、Y相は、R相、S相、T相のうちのX相以外の相である。例えば、パターン「R-Sg」は、R相を印加相にし、S相を接地相にする組み合わせを意味する。
【0028】
図3は、印加相と接地相との組み合わせを変えつつ測定を行う様子を示す図である。
図3(a)は、R相を印加相にし、S相を接地相にする組み合わせ(パターン「R-Sg」)における測定の様子を示す図であり、
図3(b)は、S相を印加相にし、T相を接地相にする組み合わせ(パターン「S-Tg」)における測定の様子を示す図である。尚、
図3においては、
図1(b)に示す通り、配電線DLのR相に断線が生じている場合を例に挙げて図示している。
【0029】
図3(a),(b)に示す電圧源VSは、上述したFMCW信号を出力端T1,T2間に出力する。
図3(a)に示す例では、電圧源VSの出力端T1が配電線DLのR相に接続され、電圧源VSの出力端T2が配電線DLのS相に接続されるとともに、大地(g)に接続されている(接地されている)。
図3(b)に示す例では、電圧源VSの出力端T1が配電線DLのS相に接続され、電圧源VSの出力端T2が配電線DLのT相に接続されるとともに、大地(g)に接続されている(接地されている)。
【0030】
図4は、試験によって得られた電流の周波数特性の一例を示す図であり、
図5は、試験によって得られた電流位相の一例を示す図である。尚、試験は、電圧印加端(FMCW信号が印加される端部)から末端までの亘長が約2.8[km]の配電線DLを対象とし、
図3(a)に示す通り、パターン「R-Sg」で行った。配電線DLの試験は、配電線DLが健全な状態の場合と、配電線DLに異常が生じている場合とで行った。配電線DLの異常としては、配電線DLの電圧印加端から末端に向かって約1.5[km]の位置において、R相の断線が生じている場合、R相の地絡が生じている場合、又はR相とS相との短絡が生じている場合を想定した。
【0031】
配電線DLの試験には、電圧実効値が約12[V]であって、開始周波数fsが0.1[kHz]であり、終了周波数feが400[kHz]であるFMCW信号を用いた。尚、配電線DLに対するFMCW信号の印加時間Tsは、40[ms]である。
【0032】
図4に示す電流の周波数特性は、試験によって得られた電流波形を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)することで得られるものである。
図4に示す通り、配電線DLが健全な場合には、FMCW信号の変調周波数が約23[kHz]であるときと、約72[kHz]であるときに電流ピークが現れている。
図4に示す電流ピークは、電圧印加端から見た配電線DLのインピーダンスで生じる共振を表している。ここで、最も低周波側に現れるピークの周波数を第1共振周波数f
1と定義する。
図4に示す例において、配電線DLが健全な場合の第1共振周波数f
1は、約23[kHz]である。
【0033】
尚、配電線DLが健全な場合には、得られる電流の周波数特性は、配電線DLにおける印加相と接地相との上述した6パターン(R-Sg、S-Rg、S-Tg、T-Sg、T-Rg、R-Tg)を変えてもほぼ同じになる。このため、配電線DLが健全な場合における、第1共振周波数f1は、配電線DLにおける印加相と接地相との上述した6パターン(R-Sg、S-Rg、S-Tg、T-Sg、T-Rg、R-Tg)に拘わらず、約23[kHz]である。
【0034】
また、
図4を参照すると、配電線DLに異常が生じている場合に得られる電流の周波数特性は、配電線DLが健全である場合に得られる電流の周波数特性とは大きく異なることが分かる。また、電流の周波数特性は、配電線DLに生じている異常の種類によっても異なり、第1共振周波数f
1も配電線DLに生じている異常の種類によって異なることが分かる。具体的に、第1共振周波数f
1は、配電線DLが健全な場合には約23[kHz]であるが、R相の断線が生じている場合には約46[kHz]と高くなり、R相の地絡が生じている場合及びR相とS相との短絡が生じている場合には約3[kHz]と低くなる。
【0035】
配電線DLのR相の断線が生じている場合に第1共振周波数f1が高くなるのは、配電線DLが健全である場合に比べて、線路の直列回路要素であるインダクタンス成分と並列回路要素であるキャパシタス成分とが小さくなるためである。配電線DLのR相の地絡が生じている場合及び配電線DLのR相とS相との短絡が生じている場合に第1共振周波数f1が低くなるのは、導体又は大地(g)を介して電流経路ができるためである。尚、配電線DLのR相の地絡が生じている場合には、接地抵抗も加わることから、配電線DLのR相とS相との短絡が生じている場合に比べてパワースペクトルが低下する。
【0036】
図5(a)に示す電流位相は、配電線DLが健全な場合のものであり、
図5(b)に示す電流位相は、R相の地絡が生じている場合のものである。
図5(a)を参照すると、電圧波形に対して電流波形の位相が進んでいることから、電流位相φ
0は「進み」となる。電流位相φ
0の「進み」は、健全な配電線DLのインピーダンスが容量性リアクタンスとして観測されていることによる。
図5(b)を参照すると、電圧波形に対して電流波形の位相が遅れていることから、電流位相φ
0は「遅れ」となる。電流位相φ
0の「遅れ」は、線路の抵抗分と誘導性リアクタンスによるものである。
【0037】
図6は、配電線の試験結果をまとめた図である。
図6において、第1列CL1には、配電線DLの状態が示されている。第2列CL2には、配電線DLの状態毎の第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0の分類が示されている。第3列CL3には、試験によって得られた配電線DLの状態毎の第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0が示されている。第2列CL2に示された分類は、第3列CL3に示された試験結果から導き出されたものである。尚、
図6中の第3列CL3に示した第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0のうち重要なものについては、ハッチングを付してある。
【0038】
図6に示す通り、配電線DLが健全な場合には、第1共振周波数f
1は、3つのパターン(R-Sg、S-Rg、S-Tg)で23[kHz]であり、残りの3つのパターン(T-Sg、T-Rg、R-Tg)で24[kHz]である。このため、配電線DLが健全な場合には、第1共振周波数f
1は、何れのパターンでも等しい。尚、複数のパターンにおける第1共振周波数f
1のバラツキが、数[kHz]程度に収まる場合には、その複数パターンにおける第1共振周波数f
1は、等しいということができる。また、配電線DLが健全な場合には、電流位相φ
0は、何れのパターンでも「進み」となる。
【0039】
配電線DLのR相の断線が生じている場合には、2つのパターン(R-Sg、R-Tg)における第1共振周波数f1が、他の4つのパターン(S-Rg、S-Tg、T-Sg、T-Rg)における第1共振周波数f1よりも高くなる。このため、配電線DLのR相の断線が生じている場合には、線路が短くなる断線相(R相)を印加相とする2つのパターン(R-Sg、R-Tg)のみ、第1共振周波数f1が高くなるということができる。また、配電線DLのR相の断線が生じている場合には、電流位相φ0は、何れのパターンでも「進み」となる。
【0040】
配電線DLのR相の地絡又は短絡が生じている場合には、2つのパターンにおける第1共振周波数f1が、他の4つのパターンにおける第1共振周波数f1よりも低くなり、且つ、その2つのパターンにおける電流位相φ0が「遅れ」となる。ここで、配電線DLのR相の地絡が生じている場合には、地絡相(R相)を印加相とする2つのパターン(R-Sg、R-Tg)のみ第1共振周波数f1が低くなり、且つ電流位相φ0が「遅れ」となる。これに対し、配電線DLのR相の短絡が生じている場合には、短絡相(R相)を印加相又は接地相とする2つのパターン(R-Sg 、S-Rg)のみ第1共振周波数f1が低くなり、且つ電流位相φ0が「遅れ」となる。
【0041】
配電線DLに三相短絡が生じている場合には、配電線DLが健全な場合と同様に、第1共振周波数f1は、何れのパターンでも等しい。しかしながら、配電線DLに三相短絡が生じている場合には、電流位相φ0は、何れのパターンでも「遅れ」となる。
【0042】
尚、配電線DLのS相、T相の断線が生じている場合には、第1共振周波数f1及び電流位相φ0の分類は、R相の断線が生じている場合と同様になる。具体的に、配電線DLのS相の断線が生じている場合には、線路が短くなる断線相(S相)を印加相とする2つのパターン(S-Rg、S-Tg)のみ、第1共振周波数f1が高くなり、電流位相φ0は、何れのパターンでも「進み」となる。また、配電線DLのT相の断線が生じている場合には、線路が短くなる断線相(T相)を印加相とする2つのパターン(T-Sg、T-Rg)のみ、第1共振周波数f1が高くなり、電流位相φ0は、何れのパターンでも「進み」となる。
【0043】
配電線DLのS相、T相の地絡が生じている場合には、第1共振周波数f1及び電流位相φ0の分類は、R相の地絡が生じている場合と同様になる。具体的に、配電線DLのS相の地絡が生じている場合には、地絡相(S相)を印加相とする2つのパターン(S-Rg、S-Tg)のみ第1共振周波数f1が低くなり、且つ電流位相φ0が「遅れ」となる。また、配電線DLのT相の地絡が生じている場合には、地絡相(T相)を印加相とする2つのパターン(T-Sg、T-Rg)のみ第1共振周波数f1が低くなり、且つ電流位相φ0が「遅れ」となる。
【0044】
配電線DLのS相、T相の短絡が生じている場合には、第1共振周波数f1及び電流位相φ0の分類は、R相の短絡が生じている場合と同様になる。具体的に、配電線DLのS相の短絡が生じている場合には、短絡相(S相)を印加相又は接地相とする2つのパターンのみ第1共振周波数f1が低くなり、且つ電流位相φ0が「遅れ」となる。また、配電線DLのT相の短絡が生じている場合には、短絡相(T相)を印加相又は接地相とする2つのパターンのみ第1共振周波数f1が低くなり、且つ電流位相φ0が「遅れ」となる。
【0045】
このように、配電線DLの試験結果から、配電線DLの状態に応じた第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0の分類が求められる。従って、評価対象となる配電線DLの三相(R相、S相、T相)のうち、印加相と接地相との組み合わせ(パターン)を変えつつ第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0を得る。そして、得られた第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0を、
図6を用いて分類することにより配電線DLの健全性を評価することができる。
【0046】
〈配電線の健全性評価装置〉
図7は、本発明の一実施形態による配電線の健全性評価装置の要部構成を示すブロック図である。
図7に示す通り、本実施形態の健全性評価装置1は、接続部10、電源部11、選択部12、検出部13、演算部14、評価部15、及び出力部16を備える。このような健全性評価装置1は、接続部10に接続された配電線DL(停電された配電線DL)の健全性を評価する。
【0047】
接続部10は、評価対象である三相の配電線DLが接続される部位である。接続部10は、配電線DLのR相が接続される第1接続部10a、配電線DLのS相が接続される第2接続部10b、及び配電線DLのT相が接続される第3接続部10cを備える。尚、接続部10に接続される配電線DLは、接続部10に接続される前に、予め停電している状態(電力供給が行われていない状態)にされる。
【0048】
電源部11は、接続部10に接続された配電線DLに印加する電圧を出力する。具体的に、電源部11は、周波数が経時変化する電圧を出力する。例えば、電源部11は、周波数が直線状に経時変化する電圧を出力し、周波数が階段状に経時変化する電圧を出力し、或いは、周波数が正弦波状に経時変化する電圧を出力する。尚、電源部11が出力する電圧は、以上の例示した電圧に制限される訳ではなく、周波数が経時変化するものであれば任意の電圧であってよい。例えば、電源部11は、前述したFMCW信号を出力する。
【0049】
電源部11と選択部12とは、電源線L1と接地線L2とによって接続される。電源線L1は、電源部11から出力される電圧(例えば、上記のFMCW信号等)が印加される線路であり、接地線L2は、接地された線路である。つまり、電源線L1と接地線L2との間には、電源部11から出力される電圧(例えば、上記のFMCW信号等)が印加される。
【0050】
選択部12は、評価部15の制御の下で、接続部10に接続された配電線DLの何れか二相を選択し、選択した一方の相を電源線L1に接続して印加相にするとともに、選択した他方の相を接地線L2に接続して接地相にする。ここで、選択部12で選択される二相の組み合わせとしては、R相とS相との組み合わせ、S相とT相との組み合わせ、及びT相とR相との組み合わせの3通りの組み合わせがある。また、選択部12で選択される二相のうちの何れを印加相又は接地相にするかの組み合わせは2通りある。このため、印加相になる相と接地相になる相との全ての組み合わせは、前述した6パターン(R-Sg、S-Rg、S-Tg、T-Sg、T-Rg、R-Tg)となる。
【0051】
検出部13は、電源部11と選択部12とを接続する電源線L1及び接地線L2に設けられており、電源線L1及び接地線L2との間の電圧(印加相と接地相との間の電圧)を検出するとともに、電源線L1(印加相)に流れる電流を検出する。検出部13は、上記パターンの各々について電源部11の電圧が印加されたときの電源線L1及び接地線L2との間の電圧と、電源線L1に流れる電流を検出する。尚、検出部13は、電源線L1及び接地線L2との間の電圧を検出する電圧計(図示省略)と、電源線L1に流れる電流を検出する電流計(図示省略)とを備える。
【0052】
演算部14は、検出部13で検出された電流の周波数解析を行って、最も低周波側に現れるピークの周波数(前述した第1共振周波数f1)を求める。具体的に、演算部14は、検出部13で検出された電流波形を高速フーリエ変換し、最も低周波側に現れるピークの周波数を第1共振周波数f1として求める。また、演算部14は、検出部13で検出された電圧及び電流に基づいて、電圧に対する電流の位相(前述した電流位相φ0)を求める。
【0053】
評価部15は、選択部12を制御して、印加相にする相と接地相にする相との組み合わせ(パターン)を変えつつ、第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0を演算部14に求めさせる。そして、評価部15は、パターン毎に得られた第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0に基づいて、配電線DLの健全性を評価する。ここで、評価部15は、得られた第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0を、
図6を用いて説明した分類法を用いて分類することにより配電線DLの健全性を評価する。
【0054】
具体的に、評価部15は、パターン毎に得られた第1共振周波数f1が等しく、且つ、パターン毎に得られた電流位相φ0が全て「進み」を示すものである場合には、配電線DLが健全であると評価する。評価部15は、パターン毎に得られた第1共振周波数f1が等しく、且つ、パターン毎に得られた電流位相φ0が全て「遅れ」を示すものである場合には、配電線DLが三相短絡であると評価する。評価部15は、6パターンのうちの何れか2つのパターンで得られた第1共振周波数f1が他のパターンで得られた第1共振周波数f1よりも高い場合には、第1共振周波数f1が高くなるパターンにおける印加相で断線が生じていると評価する。
【0055】
評価部15は、6パターンのうちの何れか2つのパターンで得られた第1共振周波数f1が他のパターンで得られた第1共振周波数f1よりも低く、且つ、電流位相φ0が遅れを示すときの印加相が同じ場合には、電流位相φ0が遅れを示すときの印加相で地絡が生じていると評価する。評価部は、6パターンのうちの何れか2つのパターンで得られた第1共振周波数f1が他のパターンで得られた第1共振周波数f1よりも低く、且つ、電流位相φ0が遅れを示すときの印加相が異なる場合には、電流位相φ0が遅れを示すときの印加相と接地相との間で二相短絡が生じていると評価する。
【0056】
出力部16は、評価部15の評価結果を外部に出力する。出力部16は、例えば、液晶表示装置等の表示装置を備えており、評価部15の評価結果を文字等で表示することにより、評価部15の評価結果を外部に出力する。或いは、出力部16は、例えば、外部の機器と通信を行う通信装置を備えており、評価部15の評価結果を外部の機器に送信することにより、評価部15の評価結果を外部に出力する。
【0057】
尚、健全性評価装置1は、接続部10、電源部11、選択部12、検出部13、演算部14、評価部15、及び出力部16が1つの筐体内に設けられた構成であっても、異なる筐体内に設けられた構成であってもよい。例えば、接続部10、電源部11、選択部12、及び検出部13が設けられる筐体と、演算部14、評価部15、及び出力部16が設けられる筐体とが異なっていてもよい。
【0058】
また、演算部14、評価部15、及び出力部16を、デスクトップ型、ノート型等のコンピュータで実現してもよい。つまり、演算部14、評価部15、及び出力部16の機能を実現するプログラムをコンピュータで実行させることで、ソフトウェアとハードウェアの協働により演算部14、評価部15、及び出力部16の機能を実現してもよい。
【0059】
〈配電線の健全性評価方法〉
図8は、本発明の一実施形態による配電線の健全性評価方法の一例を示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートの処理は、例えば、健全性評価装置1のユーザが、停電している状態の配電線DLを接続部10に接続した後に、健全性評価装置1の操作部(図示省略)を操作して、健全性評価処理の開始指示を行うことによって開始される。
【0060】
図8に示すフローチャートの処理が開始すると、まず、健全性評価装置1の評価部15が、選択部12を制御して、接続部10に接続された配電線DLの印加相にする相と接地相にする相との組み合わせ(パターン)を選択させる(ステップS11)。選択部12は、評価部15の制御により、接続部10に接続された配電線DLの何れか二相を選択し、選択した一方の相を印加相にするとともに、選択した他方の相を接地される接地相にする。例えば、選択部12は、接続部10に接続された配電線DLのR相及びS相を選択し、R相を印加相にするとともに、S相を接地相にする。尚、評価部15は、印加相にされた相と接地相にされた相との組み合わせ(パターン)を把握している。
【0061】
次に、電源部11がFMCW信号を出力する。電源部11から出力されたFMCW信号は、電源線L1及び選択部12を順に介して配電線DLに印加される。例えば、配電線DLのR相が印加相として選択され、S相が接地相として選択されている場合には、FMCW信号が配電線DLのR相に印加される。検出部13は、FMCW信号が配電線DLに印加されたときの、R相とS相との間の電圧を検出するとともに、R相に流れる電流を検出する(ステップS12)。
【0062】
次いで、演算部14が、検出部13で検出された電流の周波数解析を行って第1共振周波数f1を求め、検出された電圧及び電流に基づいて電流位相φ0を算出する(ステップS13)。具体的に、演算部14が、検出部13で検出された電流波形を高速フーリエ変換し、最も低周波側に現れるピークの周波数を第1共振周波数f1として求める。尚、演算部14で算出された第1共振周波数f1及び電流位相φ0は評価部15に出力され、評価部15が把握しているパターン(印加相にされた相と接地相にされた相とのパターン)に対応付けて記憶される。
【0063】
続いて、評価部15は、全てのパターンの選択が終了したか否かを判断する(ステップS14)。全てのパターンの選択が終了していないと判断した場合(ステップS14の判断結果が「NO」の場合)には、評価部15は、選択部12を制御して、新たなパターンを選択させ(ステップS11)、
図8に示すステップS12,S13の処理を行わせる。
【0064】
これに対し、全てのパターンの選択が終了したと判断した場合(ステップS14の判断結果が「YES」の場合)には、評価部15は、パターン毎に得られた第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0に基づいて、配電線DLの健全性を評価する(ステップS15)。具体的に、評価部15は、パターン毎に得られた第1共振周波数f
1及び電流位相φ
0を、
図6を用いて説明した分類法を用いて分類することにより配電線DLの健全性を評価する。
【0065】
図9は、
図8中のステップS15で行われる処理の詳細を示すフローチャートである。
図9に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、評価部15は、全パターンの第1共振周波数f
1が等しいか否かを判断する(ステップS21)。全パターンの第1共振周波数f
1が等しいと判断した場合(ステップS21の判断結果が「YES」の場合)には、評価部15は、全パターンの電流位相φ
0が「進み」であるか否かを判断する(ステップS22)。
【0066】
全パターンの電流位相φ0が「進み」であると判断した場合(ステップS22の判断結果が「YES」の場合)には、評価部15は、配電線DLが健全であると評価する(ステップS23)。これに対し、全パターンの電流位相φ0が「遅れ」であると判断した場合(ステップS22の判断結果が「NO」の場合)には、評価部15は、配電線DLに三相短絡が生じていると評価する(ステップS24)。
【0067】
一方、ステップS21において、全パターンの第1共振周波数f1が等しくないと判断した場合(ステップS21の判断結果が「NO」の場合)には、評価部15は、6パターンのうちの2パターンのみ第1共振周波数f1が高いか否かを判断する(ステップS25)。2パターンのみ第1共振周波数f1が高いと判断した場合(ステップS25の判断結果が「YES」の場合)には、評価部15は、第1共振周波数f1が高い印加相で断線が生じていると評価する(ステップS26)。
【0068】
これに対し、2パターンのみ第1共振周波数f1が低いと判断した場合(ステップS25の判断結果が「NO」の場合)には、評価部15は、電流位相φ0が「遅れ」であるパターンにおける印加相が等しいか否かを判断する(ステップS27)。電流位相φ0が「遅れ」であるパターンにおける印加相が等しいと判断した場合(ステップS27の判断結果が「YES」の場合)には、評価部15は、電流位相φ0が「遅れ」の印加相で地絡が生じていると評価する(ステップS28)。
【0069】
これに対し、電流位相φ
0が「遅れ」であるパターンにおける印加相が異なっていると判断した場合(ステップS27の判断結果が「NO」の場合)には、評価部15は、電流位相φ
0が「遅れ」の印加相と接地相との間で二相短絡が生じていると評価する(ステップS29)。以上の処理にて
図9に示す一連の処理が終了する。
図9に示す一連の処理が終了すると、
図8に示す一連の処理も終了し、出力部16によって、評価部15の評価結果が出力される(例えば、表示される)。
【0070】
以上説明した通り、本実施形態による健全性評価装置1は、まず、接続部10に接続された配電線DLの何れか二相を選択し、選択した一方の相を印加相にするとともに、選択した他方の相を接地相にして、FMCW信号を印加する。次に、印加相と接地相との間の電圧を検出するとともに印加相に流れる電流を検出し、検出された電圧及び電流に基づいて、第1共振周波数f1及び電流位相φ0を求める。そして、印加相にする相と接地相にする相との組み合わせを変えつつ、第1共振周波数f1及び電流位相φ0を求めさせ、組み合わせ毎に得られた第1共振周波数f1及び電流位相φ0に基づいて、配電線DLの健全性を評価するようにしている。このように、本実施形態では、配電線DLの健全性を評価することができる。これにより、例えば、改修工事の要否又は復電の優先順位の判断に活用でき、ひいては、早期の復電が期待できる。
【0071】
尚、本明細書では、本発明の1つの実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0072】
尚、以上に説明した健全性評価装置1を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶し、そのプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に、「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記憶されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 健全性評価装置
10 接続部
11 電源部
12 選択部
13 検出部
14 演算部
15 評価部
DL 配電線