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特開2023-167676樹脂シートおよびその製造方法、ならびに、樹脂シートを用いた樹脂容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167676
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】樹脂シートおよびその製造方法、ならびに、樹脂シートを用いた樹脂容器
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20231116BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/14
C08L23/12
C08L23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079028
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】峯村 初
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA88
4F071AF28Y
4F071AH05
4F071AH07
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC14
4F071BC16
4J002BB033
4J002BB121
4J002BB123
4J002BB142
4J002GG01
4J002GN00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】優れた滑り性を示す樹脂シートおよびその製造方法、ならびに、樹脂容器を提供する。
【解決手段】下記要件(1)および(3)を満たすプロピレン系重合体組成物からなる樹脂シートであって、少なくとも一方の表面に1mmあたり7.0×10個以上の突起を有し、厚さが100~1500μmである樹脂シート、およびこれを用いた樹脂容器、ならびに、下記要件(1)および(3)を満たすプロピレン系重合体組成物を溶融押出し、冷却温度30~90℃、成形速度1.2~30.0m/分の条件で成形する樹脂シートの製造方法。
要件(1):プロピレン構造単位を90質量%以上含むプロピレン系重合体(A)と、プロピレン構造単位とエチレンなどのα-オレフィン構造単位とを所定量含むプロピレン系重合体(B)とを含有する
要件(3):メルトフローレートが0.1g/10分以上1.4g/10分以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体組成物からなる樹脂シートであって、
前記プロピレン系重合体組成物が下記要件(1)および要件(3)を満たし、
前記樹脂シートの少なくとも一方の表面に突起を有しており、その個数が1mmあたり7.0×10個以上であり、
厚さが100~1500μmである、樹脂シート。

<要件(1)>
プロピレンに由来する構造単位を90質量%以上含むプロピレン系重合体(A)と、
プロピレンに由来する構造単位を10質量%以上90質量%未満と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位を10質量%超90質量%以下とを含むプロピレン系重合体(B)とを含有する。
<要件(3)>
温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるメルトフローレートが0.1g/10分以上1.4g/10分以下である。
【請求項2】
前記プロピレン系重合体組成物が下記要件(2)を満たす、請求項1に記載の樹脂シート。
<要件(2)>
前記プロピレン系重合体(A)の含有量と前記プロピレン系重合体(B)の含有量との合計100質量%に対して、前記プロピレン系重合体(A)の含有量が72~90質量%であり、前記プロピレン系重合体(B)の含有量が10~28質量%である。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体組成物が、プロピレン単独重合体(C)およびエチレン系重合体(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体をさらに含有する、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記樹脂シートの少なくとも一方の表面の算術平均粗さが0.2~0.6μmである、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂シートを備えた樹脂容器。
【請求項6】
下記要件(1)および要件(3)を満たすプロピレン系重合体組成物を溶融押出する工程(1)と、
押し出されたプロピレン系重合体組成物を、冷却温度:30~90℃、成形速度:1.2~30.0m/分の条件で、厚さが100~1500μmのシート状に成形する工程(2)とを含む、
樹脂シートの製造方法。

<要件(1)>
プロピレンに由来する構造単位を90質量%以上含むプロピレン系重合体(A)と、
プロピレンに由来する構造単位を10質量%以上90質量%未満と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位を10質量%超90質量%以下とを含むプロピレン系重合体(B)とを含有する。
<要件(3)>
温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるメルトフローレートが0.1g/10分以上1.4g/10分以下である。
【請求項7】
前記プロピレン系重合体組成物が下記要件(2)を満たす、請求項6に記載の樹脂シートの製造方法。
<要件(2)>
前記プロピレン系重合体(A)の含有量と前記プロピレン系重合体(B)の含有量との合計100質量%に対して、前記プロピレン系重合体(A)の含有量が72~90質量%であり、前記プロピレン系重合体(B)の含有量が10~28質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートおよびその製造方法、ならびに、樹脂シートを用いた樹脂容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品容器、自動車部品などの樹脂成形体は、通常、熱可塑性樹脂を成形して、製造されている。特に、熱可塑性樹脂のなかでもポリプロピレン系重合体は、軽量であるにもかかわらず、耐熱性、強度が高く、吸湿性もないことから、自動車部品や食品容器を形成する材料として多用されている。
例えば、ポリプロピレン系重合体を用いた容器として、特許文献1には、
「少なくとも外表層が以下の条件(i)~(ii)を満たすプロピレン系ブロック共重合体(A)50~90重量%と、メルトフローレート(MFR;2.16kg 190℃)が0.1~15g/10分および密度が0.950g/cm以上のエチレン系重合体(B)50~10重量%とを含有する樹脂組成物から成形されるシートを熱成形してなる深さ/口径の比が1.0倍以上、グロス値が10%以下の低光沢容器。
(i)第1工程でプロピレン単独重合体成分(A1)を40~90重量%、第2工程でエチレンを35~100重量%含有するプロピレン-エチレンランダム共重合体成分(A2)を60~10重量%逐次重合することで得られたエチレン含量が10重量%を超えること
(ii)メルトフローレート(MFR;2.16kg 230℃)が0.5~5g/10分の範囲にあること」
が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-260546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形体の製造方法としては、各種の成形方法が適用可能であるが、熱可塑性樹脂を押出成形した樹脂シートを、再度加熱して、真空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形などの熱成形法により二次加工する方法が多用されている。このような熱成形法は、生産性が高く、量産化も可能となるなど、樹脂成形体の工業的製造におけるメリットは大きい。
その一方で、上述の熱成形法において、所期の高い生産性を実現するには、熱成形法における樹脂シートの搬送性、特に成形金型上を所定の搬送速度で引っ掛かりなどがなくスムーズに搬送可能な特性(優れた滑り性)が重要となる。しかし、特許文献1に記載の上記樹脂組成物を成形したシートの上記特性は何ら検討されていない。
特に、近年、製造コストや環境負荷の更なる低減を図るため生産性の更なる改善が求められており、優れた滑り性を示す樹脂シートが求められている。
【0005】
本発明は、優れた滑り性を示す樹脂シート、およびその製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、優れた滑り性を示す樹脂シートを用いた樹脂容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
[1]プロピレン系重合体組成物からなる樹脂シートであって、
前記プロピレン系重合体組成物が下記要件(1)および要件(3)を満たし、
前記樹脂シートの少なくとも一方の表面に突起を有しており、その個数が1mmあたり7.0×10個以上であり、
厚さが100~1500μmである、樹脂シート。
<要件(1)>
プロピレンに由来する構造単位を90質量%以上含むプロピレン系重合体(A)と、
プロピレンに由来する構造単位を10質量%以上90質量%未満と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位を10質量%超90質量%以下とを含むプロピレン系重合体(B)とを含有する。
<要件(3)>
温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるメルトフローレートが0.1g/10分以上1.4g/10分以下である。
[2]前記プロピレン系重合体組成物が下記要件(2)を満たす、[1]に記載の樹脂シート。
<要件(2)>
前記プロピレン系重合体(A)の含有量と前記プロピレン系重合体(B)の含有量との合計100質量%に対して、前記プロピレン系重合体(A)の含有量が72~90質量%であり、前記プロピレン系重合体(B)の含有量が10~28質量%である。
[3]前記プロピレン系重合体組成物が、プロピレン単独重合体(C)およびエチレン系重合体(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の樹脂シート。
[4]前記樹脂シートの少なくとも一方の表面の算術平均粗さが0.2~0.6μmである、[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂シート。
[5]上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂シートを備えた樹脂容器。
[6]下記要件(1)および要件(3)を満たすプロピレン系重合体組成物を溶融押出する工程(1)と、
押し出されたプロピレン系重合体組成物を、冷却温度:30~90℃、成形速度:1.2~30.0m/分の条件で、厚さが100~1500μmのシート状に成形する工程(2)とを含む、
樹脂シートの製造方法。
<要件(1)>
プロピレンに由来する構造単位を90質量%以上含むプロピレン系重合体(A)と、
プロピレンに由来する構造単位を10質量%以上90質量%未満と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位を10質量%超90質量%以下とを含むプロピレン系重合体(B)とを含有する。
<要件(3)>
温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるメルトフローレートが0.1g/10分以上1.4g/10分以下である。
[7]前記プロピレン系重合体組成物が下記要件(2)を満たす、[6]に記載の樹脂シートの製造方法。
<要件(2)>
前記プロピレン系重合体(A)の含有量と前記プロピレン系重合体(B)の含有量との合計100質量%に対して、前記プロピレン系重合体(A)の含有量が72~90質量%であり、前記プロピレン系重合体(B)の含有量が10~28質量%である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、優れた滑り性を示す樹脂シート、およびその製造方法を提供できる。また、本は、優れた滑り性を示す樹脂シートを用いた樹脂容器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明および本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
[樹脂シート]
本発明の樹脂シートは、プロピレン系重合体組成物からなり、例えば、後述するようにプロピレン系重合体組成物をシート状に成形した、プロピレン系重合体組成物の成形体である。
この樹脂シートを形成するプロピレン系重合体組成物は、後述する要件(1)および要件(3)を満たし、好ましくは要件(2)を満たしている。
また、本発明の樹脂シートは、100~1500μmの厚さを有し、かつその少なくとも一方の表面に1mmあたり7.0×10個以上の突起を有し、好ましくは、少なくとも一方の表面の算術平均粗さが0.2~0.6μmである。
【0010】
まず、樹脂シートを形成するプロピレン系重合体組成物について、説明する。
<プロピレン系重合体組成物>
プロピレン系重合体組成物は、プロピレン系重合体を含有する組成物であって、下記の要件(1)および要件(3)を満たし、好ましくは下記要件(2)を満たしている。

要件(1):プロピレンに由来する構造単位を90質量%以上含むプロピレン系重合体
(A)と、プロピレンに由来する構造単位を10質量%以上90質量%未満
と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単
位を10質量%超90質量%以下とを含むプロピレン系重合体(B)とを含
有する。
要件(2):プロピレン系重合体(A)の含有量とプロピレン系重合体(B)の含有量と
の合計100質量%に対して、プロピレン系重合体(A)の含有量が72~
90質量%であり、プロピレン系重合体(B)の含有量が10~28質量%
である。
要件(3):温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるメルトフローレートが
0.1g/10分以上1.4g/10分以下である。
【0011】
(要件(1))
- プロピレン系重合体(A) -
プロピレン系重合体(A)は、プロピレンに由来する構造単位を90質量%以上含んでいる。プロピレン系重合体(A)におけるプロピレンに由来する構造単位の含有量は、好ましくは97質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは100質量%である。すなわち、プロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体であることがさらに好ましい。
【0012】
プロピレン系重合体(A)は、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位を含んでいてもよい。プロピレン系重合体(A)におけるエチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは0質量%以上1質量%以下である。
【0013】
- プロピレン系重合体(B) -
プロピレン系共重合体(B)は、プロピレンに由来する構造単位を10質量%以上90質量%未満と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位を10質量%超90質量%以下とを含んでいる。プロピレン系共重合体(B)は、好ましくはプロピレン-エチレン共重合体である。
【0014】
プロピレン系共重合体(B)におけるプロピレンに由来する構造単位の含有量は、好ましくは50質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以上60質量%以下である。また、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位の含有量は、好ましくは40質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上45質量%以下である。
【0015】
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)における炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、特に制限されないが、例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどが挙げられ、好ましくは1-ブテンである。炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位は、1種単独のα-オレフィンに由来する構造単位であっても、2種以上のα-オレフィンに由来する構造単位であってもよい。
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)において、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位は、エチレンに由来する構造単位であることがより好ましい。
【0016】
プロピレン系重合体組成物は、滑り性に優れた樹脂シートを形成できる観点から、好ましくは、プロピレン系重合体(A)がプロピレン単独重合体であり、プロピレン系共重合体(B)がプロピレン-エチレン共重合体である。
【0017】
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)それぞれの製造方法としては、チーグラー・ナッタ触媒や、メタロセン触媒などを用いて、原料であるプロピレンやエチレンなどを重合させる方法が挙げられる。
【0018】
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)の重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性溶剤中で重合する方法、液状のプロピレンやエチレン中で重合する方法、気体であるプロピレンやエチレン中に触媒を添加し、気相状態で重合する方法、または、これらを組み合わせて重合する方法が挙げられる。
重合条件は、通常採用される条件とすることができる。
【0019】
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)の製造方法としては、生産性の観点から、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)を含むプロピレン系多段重合体として製造する方法が好ましい。このような製造方法として、好ましくは、実質的に不活性溶剤の不存在下で、プロピレン系重合体(A)を生成(重合)する第一工程を行い、次いで、このプロピレン系重合体(A)の存在下、気相中で、プロピレンとエチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを重合して、プロピレン系共重合体(B)を生成(重合)する第二工程を行って、プロピレン系多段重合体を得る方法が挙げられる。プロピレン系多段重合体は、プロピレン系重合体(A)成分およびプロピレン系共重合体(B)成分を含むプロピレン系重合体組成物である。
第一工程および第二工程における各重合条件は、プロピレン系多段重合法において通常採用される条件を適用することができ、各重合体の含有量、エチレン含有量等に応じて、適宜に決定できる。
【0020】
本発明においては、プロピレン系多段重合体を、そのまま、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系重合体(B)として用いることが好ましい。
プロピレン系多段重合体において、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)の含有量の合計100質量部に対するプロピレン系重合体(A)の含有量、およびプロピレン系重合体(B)の含有量は、特に制限されず、適宜に決定される。好ましくは後述する要件(2)における各含有量と同じ範囲に設定する。
このプロピレン系多段重合体は、後述するその他の成分を含有していてもよく、その含有量としては、プロピレン系重合体組成物における含有量を満たす範囲で適宜に設定される。
【0021】
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)の、エチレン含有量の調整方法としては、特に制限されず、重合時の各工程で、水素ガスや金属化合物などの分子量調節剤およびエチレンを、それぞれ適切な量で加える方法、重合時の温度・圧力などを調節する方法が挙げられる。
【0022】
プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系共重合体(B)の生成割合は、第一工程および第二工程における重合時間、重合槽の大きさ、重合槽中の重合体の保持量、重合温度、重合圧力などにより制御することができる。必要に応じて、ポリプロピレンの残留溶媒や製造時に副生する超低分子量のオリゴマーなどを除去するために、ポリプロピレンが融解する温度以下の温度で乾燥を行ってもよい。乾燥方法としては、例えば、特開昭55-75410号公報、特許第2565753号公報に記載された方法などが挙げられる。
【0023】
第二工程で得られるプロピレン系多段重合体の温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)としては、特に制限されないが、樹脂シートの加工性や衛生性を良好にするという観点から、好ましくは0.1g/10分以上1.4g/10分以下であり、より好ましくは0.2g/10分以上1.0g/10分以下であり、さらに好ましくは0.3g/10分以上0.7g/10分以下である。本発明において、MFRは、JIS K 7210-1に規定されたA法により測定される値である。
本発明において、重合体のMFRは、通常の方法で調整することができ、例えば、重合温度、重合時間、重合圧力などの重合条件の変更、さらに、触媒量、メルトフローレート調整剤の使用もしくは使用量などにより、得られる重合体のMFRを調整することができる。
【0024】
(要件(2))
本発明のプロピレン系重合体組成物において、プロピレン系重合体(A)の含有量およびプロピレン系重合体(B)の含有量は、それぞれ、特に制限されず、適宜に決定される。樹脂シートに優れた滑り性を発現できる観点から、プロピレン系重合体(A)の含有量とプロピレン系重合体(B)の含有量との合計100質量%に対して、プロピレン系重合体(A)の含有量が72~90質量%であり、プロピレン系重合体(B)の含有量が10~28質量%であることが好ましい。
プロピレン系重合体(A)の含有量は、樹脂シートの滑り性をさらに高めることができる観点から、上記合計100質量%に対して、75~90質量%であることがより好ましく、75~85質量%であることがさらに好ましい。プロピレン系重合体(B)の含有量は、滑り性をさらに高めることができる観点から、上記合計100質量%に対して、10~25質量%であることがより好ましく、15~25質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
(プロピレン単独重合体(C)およびエチレン系重合体(D))
本発明のプロピレン系重合体組成物は、樹脂シートの滑り性をさらに高めることができる観点から、プロピレン単独重合体(C)およびエチレン系重合体(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体をさらに含有することが好ましく、プロピレン単独重合体(C)をさらに含有することがより好ましい。プロピレン系重合体組成物が含有するプロピレン単独重合体(C)およびエチレン系重合体(D)は1種でも2種以上でもよい。
【0026】
- プロピレン単独重合体(C) -
プロピレン単独重合体(C)は、プロピレンを単独重合して得られる重合体であり、通常、プロピレンに由来する構造単位を100質量%含んでいる。プロピレン単独重合体(C)は、重合性化合物としてプロピレンを用いること以外は、上記プロピレン系重合体(A)の重合方法と同様にして製造(重合)することができる。
このプロピレン単独重合体(C)は、後述するその他の成分を含有する組成物として用いてもよく、組成物中のその他の成分の含有量としては、プロピレン系重合体組成物における含有量を満たす範囲で適宜に設定される。
【0027】
- エチレン系重合体(D) -
エチレン系重合体(D)は、エチレンに由来する構造単位を含む重合体であればよく、好ましくは、エチレン単独重合体、または、エチレン共重合体が挙げられる。エチレン共重合体としては、エチレンに由来する構造単位を75質量%以上95質量%以下と、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位を5質量%以上25質量%以下と、を含んでいるものが好ましい。
【0028】
エチレン共重合体におけるエチレンに由来する構造単位の含有量は、特に制限されないが、より好ましくは79質量%以上95質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上95質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上95質量%以下である。また、エチレン共重合体における炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量は、特に制限されないが、より好ましくは5質量%以上21質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上15質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0029】
炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、特に制限されず、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセンなどが挙げられる。炭素原子数4~12のα-オレフィンは、好ましくは炭素原子数4~8のα-オレフィンであり、低温衝撃性を高める観点から、好ましくは1-ブテン、1-ヘキセンである。炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する構造単位は、1種単独のα-オレフィンに由来する構造単位であっても、2種以上のα-オレフィンに由来する構造単位であってもよい。
【0030】
エチレン系重合体(D)は、プロピレンに由来する構造単位を有していてもよいが、有していないことが好ましい。プロピレンに由来する構造単位を有する場合、その含有量は、エチレン重合体(D)の全構造単位のうち10質量%未満であることが好ましい。
【0031】
エチレン系重合体(D)としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)などが挙げられる。
【0032】
エチレン系重合体の密度は、特に制限されず、好ましくは850kg/m以上970kg/m以下であり、より好ましくは900kg/m以上970kg/m以下であり、さらに好ましくは940kg/m以上970kg/m以下ある。エチレン系重合体の密度が上記範囲内にあることにより、樹脂シートの滑り性をさらに優れたものとすることができる。なお、エチレン系重合体の密度は、JIS K 7112-1999のうちA法(水中置換法)に規定された方法に従って測定されるものであり、試料には、JIS K 6760-1995に記載のアニーリングを行う。
【0033】
エチレン系重合体(D)の温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)は、特に制限されず、好ましくは0.1g/10分以上50g/10分以下であり、より好ましくは0.1g/10分以上30g/10分以下であり、さらに好ましくは1g/10分以上10g/10分以下である。なお、MFRは、JIS K 7210-1に規定されたA法により測定される。
【0034】
エチレン系重合体(D)の分子量分布は、特に制限されず、好ましくは2以上10以下であり、より好ましくは2以上8以下であり、さらに好ましくは3以上7以下である。エチレン系重合体(D)の分子量分布が2以上であることにより、押出負荷が低減され、加工性が良好となる。また、エチレン系重合体の分子量分布が10以下であることにより、低温衝撃性に優れた樹脂シートを得ることができる。なお、「分子量分布」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と記載することがある。)により測定される重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)である。
【0035】
エチレン系重合体(D)は、例えば、メタロセン触媒を用いて製造することができる。
重合条件は、通常採用される条件とすることができる。メタロセン触媒は、例えば、シクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を持つ遷移金属化合物(以下、「メタロセン系遷移金属化合物」ということがある。)を用いてなるオレフィン重合用触媒である。
【0036】
メタロセン系遷移金属化合物は、特に制限されず、例えば、式:ML(n-a)(式中、Mは元素の周期律表の第4族またはランタナイド系列の遷移金属原子である。Lはシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基またはヘテロ原子を含有する基であり、少なくとも一つはシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基である。複数のLは互いに架橋していてもよい。Xはハロゲン原子、水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基である。nは遷移金属原子の原子価を表し、aは0<a≦nを満足する整数である。)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
上記の式で表されるメタロセン系遷移金属化合物としては、例えば、ビス(1,3-n-ブチルメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(1,3-n-プロピルメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(1,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(1,3-ジエチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(4-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0038】
メタロセン系遷移金属化合物は、活性化助触媒と接触させて用いることが好ましい。活性化助触媒としては、例えば、アルモキサン化合物や、有機アルミニウム化合物とトリチルボレート、アニリニウムボレートなどのホウ素化合物とを併用してなる活性化助触媒が挙げられる。また、SiO、Alなどの無機担体、エチレン、スチレンなどの重合体などの有機担体を含む粒子状担体と組み合わせて用いてもよい。
【0039】
このエチレン系重合体(D)は、エチレン系重合体以外の成分、例えば後述するその他の成分を含有する組成物として用いてもよく、組成物中の上記成分の含有量としては、プロピレン系重合体組成物における含有量を満たす範囲で適宜に設定される。
【0040】
本発明のプロピレン系重合体組成物において、プロピレン単独重合体(C)およびエチレン系重合体(D)の総含有量は、特に制限されないが、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、10~25質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることがさらに好ましい。プロピレン単独重合体(C)の含有量およびエチレン系重合体(D)の含有量は、それぞれ、上記総含有量を考慮して適宜に決定され、例えば、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、10~25質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明のプロピレン系重合体組成物において、組成物の組成(各重合体の含有量)は、滑り性をさらに高める観点から、上記の各重合体の含有量として説明した好ましい範囲(より好ましい範囲、さらに好ましい範囲を含む)同士を適宜に組み合わせた組成が好ましい。
【0042】
(その他の成分)
本発明のプロピレン系重合体組成物は、必要に応じて、その他の成分として、各種の添加剤やその他の重合体(樹脂、エラストマー)を含有してもよい。添加剤としては、特に制限されないが、例えば、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、粘着剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、メルトフローレート調整剤などが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、1分子中にフェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。その他の樹脂としては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体を水添したスチレン系共重合体ゴムなどのエラストマーが挙げられる。
プロピレン系重合体組成物中におけるその他の成分の含有量は、特に制限されず、特性や用途などに応じて適宜に設定され、例えば、1.0質量%以下とすることができる。
【0043】
(要件(3))
本発明のプロピレン系重合体組成物は、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分以上1.4g/10分以下である。プロピレン系重合体組成物が上記範囲のMFRを示すと、樹脂シートの加工性が良好となり、樹脂シートの表面に後述する個数を満たす突起を形成しやすく、また表面の算術平均粗さを後述する範囲に調整しやすくなる。プロピレン系重合体組成物の上記MFRは、好ましくは0.1g/10分以上1.4g/10分以下であり、より好ましくは0.2g/10分以上1.0g/10分以下であり、さらに好ましくは0.3g/10分以上0.7g/10分以下である。本発明において、MFRは、JIS K 7210-1に規定されたA法により測定される値である。
【0044】
(プロピレン系重合体組成物の調製)
本発明のプロピレン系重合体組成物は、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系重合体(B)、好ましくはプロピレン単独重合体(C)、エチレン系重合体(D)、適宜にその他の成分を、混合、通常溶融混練して、調製することができる。この組成物の調製において、プロピレン系重合体(A)およびプロピレン系重合体(B)として上述のプロピレン系多段重合体を用いることが好ましい。
溶融混練は、公知の方法および装置を用いて行うことができる。例えば、上記の各材料を、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサーなどの混合装置を用いて予備混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。また、定量供給機を用いて、一定の割合で上記の各材料をそれぞれ連続的に供給することによって均質な混合物を得た後、この混合物を、単軸または二軸以上の押出機、バンバリーミキサー、ロール式混練機などを用いて、溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練時の温度は、特に制限されないが、被混合物の温度(内温)として、好ましくは190℃以上320℃以下であり、より好ましくは210℃以上280℃以下である。
【0045】
次に、本発明の樹脂シートの特性について、説明する。
本発明の樹脂シートは、用途、使用態様などを考慮して適宜の形態に設定され、例えば、フィルム状であっても短冊状であってもよく、また長尺としても短尺(枚葉体)としてもよい。二次加工の生産性などを考慮すると、長尺のシートであることが好ましい。
本発明の樹脂シートは、単層であっても、複層であってもよい。
【0046】
(厚さ)
樹脂シートの厚さ(総厚)は、100~1500μmに設定され、好ましくは300~1200μmであり、より好ましくは500~1000μmである。上記範囲の厚さは特に食品容器に用いる態様に好適である。
【0047】
(突起の数)
樹脂シートの少なくとも一方の表面は、1mmあたり7.0×10個以上の突起を有している。このような突起を有する表面は優れた滑り性を示し、この表面を有する樹脂シートは特に上述の熱成形に用いられることにより高い生産性を実現できる。本発明において、突起とは、実施例で説明する算術平均粗さ測定において1~2μmの高さを有する凸部をいう。樹脂シートは、熱成形において金型側に配置される表面に上記数の突起を有していればよく、両表面とも上記数の突起を有していてもよい。
樹脂シートの表面が有する突起の数は、滑り性の観点から、7.0×10個以上であることが好ましく、1.0×10個以上であることがより好ましく、1.5×10個以上であることがさらに好ましい。一方、突起の数の上限は、特に制限されず、適宜に設定でき、例えば、1.0×10個以下であることが実際的であり、5.0×10個以下であることが好ましく、2.0×10個以下であることがさらに好ましい。
突起の数は実施例で説明する方法によって測定できる。突起の数は、樹脂シートの製造条件、例えば、冷却温度、成形速度、厚さの調整に用いるロールなどの表面粗さなどによって、調整できる。具体的には、成形速度を高めると、突起の数は多くなる傾向にある。
【0048】
(算術平均粗さ)
本発明の樹脂シートは、その少なくとも一方の表面の算術平均粗さRaが0.2~0.6μmであることが好ましい。この算術平均粗さRaを有する表面は優れた滑り性を示し、この表面を有する樹脂シートは特に上述の熱成形に用いられることにより高い生産性を実現できる。樹脂シートは、熱成形において金型側に配置される表面が上記算術平均粗さRaを有していればよく、両表面とも上記算術平均粗さRaを有していてもよい。本発明においては、上記数の突起を有する表面が上記算術平均粗さRaを有していることが好ましい。
樹脂シートの算術平均粗さRaは、滑り性の観点から、0.2~0.6μmであることが好ましく、0.3~0.6μmであることがより好ましく、0.4~0.6μmであることがさらに好ましい。
算術平均粗さRaは実施例で説明する方法によって測定できる。算術平均粗さRaは、樹脂シートの製造条件、例えば、冷却温度、成形速度、厚さの調整に用いるロールなどの表面粗さなどによって、調整できる。具体的には、成形速度を高めると、算術平均粗さRaは大きくなる傾向にある。
【0049】
本発明の樹脂シートは、上記数の突起を有する表面、または上記範囲の算術平均粗さRaを示す表面を、上述の熱成形法に適用する際に成形金型側に配置することにより、成形金型に対して優れた滑り性を発現して、成形金型上を所定の搬送速度で引っ掛かりなどがなくスムーズに搬送でき、生産性の向上に寄与する。
【0050】
[樹脂シートの製造方法]
本発明の樹脂シートの製造方法は、特に制限されないが、樹脂シートの表面に所定数の突起を形成可能となり、また好ましくは表面の算術平均粗さを上記範囲に設定可能となる点で、下記工程(1)および工程(2)を含む製造方法、所謂(押出)フィルム(シート)成形法が好ましい。

工程(1):上述の要件(1)および要件(3)を満たすプロピレン系重合体組成物を溶
融押出する工程
工程(2):押し出されたプロピレン系重合体組成物を、冷却温度30~90℃、成形速
度1.2~30.0m/分の条件で、厚さが100~1500μmのシート
状に成形する工程
【0051】
<工程(1)>
工程(1)においては、溶融押出する際にプロピレン系重合体組成物を溶融混練する。溶融混練の方法および条件は、特に制限されず、上述のプロピレン系重合体組成物の調製における溶融混練の方法および条件を適用することができる。工程(1)を実施するに際して、プロピレン系重合体組成物を予め調製することなく、溶融押出における溶融混練時にプロピレン系重合体組成物を調製する(組成物の調製と溶融とを同時に行う)こともできる。なお、予め調製したプロピレン系重合体組成物を用いる場合、プロピレン系重合体組成物の調製と溶融押出における溶融とを連続して行うことが生産性の観点から好ましい。
工程(1)における溶融押出は、例えば、溶融混練されたプロピレン系重合体組成物を、押出機などを用いてTダイから押し出すことにより、実施する。このときの押出量は、特に制限されず、樹脂シートの厚さ、成形速度などに応じて適宜に設定される。例えば、50kg/時以上2000kg/時以下とすることができる。また、押出温度は、上述の溶融混練温度と同じ温度範囲に設定することができ、例えば、200℃以上300℃以下とすることができる。なお、押出温度はTダイ自体の温度である。
【0052】
<工程(2)>
次いで、工程(2)において、押し出されたプロピレン系重合体組成物を、冷却温度30~90℃、成形速度1.2~30.0m/分の条件で、厚さが100~1500μmのシート状に成形する。具体的には、Tダイから押し出したプロピレン系重合体組成物を、チルロールで巻き取りながら冷却固化させ、所定の厚さに、製膜(成形)することができる。この工程では、通常、所定の間隔をあけて平行に配置した複数のチルロールを用いて、押し出したプロピレン系重合体組成物を隣接するチルロール間に順次搬送して、シート状に成形する。複数のチルロールにおいて、搬送方向の上流側から下流側に向かって、第一チルロール、第二チルロール・・・・・第nチルロール(nはチルロール数である。)という。チルロールの表面は通常鏡面仕上げされている。
工程(2)において、冷却温度を30~90℃に設定し、かつ成形速度(搬送速度、巻取速度ともいう。)を1.2~30.0m/分に設定する。この条件で成形することにより、上記数の突起、さらには上記範囲の算術平均粗さRaを示す表面を有する樹脂シートを製造できる。冷却温度は、チルロールに設定される温度をいい、すべてのチルロールが温度設定されていることが好ましい。また、温度設定されたチルロールは、すべてが同一温度に設定されていてもよく、互いに異なる温度に設定されていてもよい。冷却温度は、滑り性の更なる向上の点で、30~90℃であることが好ましく、40~80℃であることがより好ましい。成形速度は、滑り性の更なる向上の点で、1.2~30.0m/分であることが好ましく、1.5~20.0m/分であることがより好ましい。
【0053】
<他の工程>
本発明の樹脂シートの製造方法は、上記工程(1)および工程(2)に加えて、それ以外の他の工程を有していてもよい。
【0054】
本発明の樹脂シートは、優れた滑り性を利用して、二次成形として熱成形法にて製造される容器、自動車部品などの成形体の材料として好適に用いられ、例えば、食品、繊維、雑貨などの包装用途が挙げられる。なかでも、ポリプロピレン系重合体組成物の特性を活かした食品容器(食品トレー)の材料として、特に米飯容器の材料として、好適に用いられる。
【0055】
[樹脂容器]
本発明の樹脂容器は、本発明の樹脂シートを備えており、この樹脂シートを二次加工(熱成形)して得られる容器である。この樹脂容器は、具体的な用途、適用形態などに応じて、適宜の形状、寸法に設定されている。本発明の樹脂容器は、好ましくは食品容器として、より好ましくは米飯容器として、用いられる。
本発明の樹脂容器は、以下の特性、物性を有する。
すなわち、電子レンジ加熱に耐える耐熱性と冷凍庫等での低温保管にも適した耐寒性を有した耐熱耐寒性に優れる樹脂容器であり、かつ、容器製造時おける搬送工程にも適した樹脂容器である。
樹脂容器を成形する二次加工(熱成形)の方法件は、特に制限されず、公知の方法を適用でき、加工条件(熱成形条件)も適宜に設定される。
【実施例0056】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
実施例および比較例における、測定方法および評価方法について説明する。
【0058】
(1)プロピレン系多段重合体中のプロピレン単独重合体およびプロピレン-エチレン共重合体の含有量(単位:質量%)
プロピレン系多段重合体を製造する時の物質収支から、プロピレン単独重合体の含有量(P)と、プロピレン-エチレン共重合体の含有量(P)とを求めた。
【0059】
(2)プロピレン系多段重合体に含有されるプロピレン-エチレン共重合体に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量(単位:質量%)
プロピレン系多段重合体のIRスペクトル測定を行い、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている(ii)ブロック共重合体に関する方法に従って、プロピレン系多段重合体に含有されるエチレンに由来する構造単位の含有量を求め、下記式(1)を用いて、プロピレン-エチレン共重合体に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量を求めた。

=E/P 式(1)

上記式中、
は、プロピレン-エチレン共重合体に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量を示す。
は、プロピレン系多段重合体に含有されるエチレンに由来する構造単位の含有量を示す。
は、プロピレン系多段重合体に含有されるプロピレン-エチレン共重合体の含有量を示す。
【0060】
(3)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
プロピレン系重合体組成物のメルトフローレートは、JIS K 7210-1(1995)に規定の「A法」に従って、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
エチレン系重合体のメルトフローレートは、JIS K 7210-1(1995)に規定の「A法」に従って、温度190℃、荷重21.18Nで測定した。
【0061】
(4)樹脂シート表面の算術平均粗さRa(単位:μm)および突起の数(単位:個/mm
触針式表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所製 SE-600K31)を用いて、JIS B 0601-1982に従い、下記の測定条件により測定をした。
測定領域は、シート中央の0.5mmとした。
下記測定条件で得られた粗さ曲線から解析プログラム(TDA31)を用いて、樹脂シート表面の算術平均粗さ(Ra)と、樹脂シート表面の1mmあたりに存在する高さ1~2μmの突起の数を求めた。なお、突起は粗さ曲線における平均線から上の山部とした。

- 測定条件 -
・触針 :先端半径2μm、頂角60°(ダイヤモンド製)
・測定長 :1mm
・送りピッチ :5μm
・測定本数 :100本
・測定速度 :0.5mm/s
・測定倍率 :5000倍
・カットオフ値:0.08mm
・測定張力 :0.7mN
・フィルタータイプ:2CRフィルター位相保障型
・レベリング :全領域
【0062】
(5)滑り性
樹脂シートの滑り性を、摩擦試験機摩擦測定機AN型(東洋精機製作所)を使用して傾斜法で測定した。具体的には、接地面積60×100mm、質量1000gの平面圧子に試料である樹脂シート(TD方向70mm、MD方向100mm)を、平面圧子の長手方向がシートのMD方向となるように、測定面(突起の数および算術平均粗さRaを測定した表面)の反対面側を平面圧子に貼り付け固定した。平面圧子の長手方向が滑り方向となるよう、樹脂シートを上昇板側にして平面圧子を上昇板にのせた。水平状態を0°として上昇板を上昇速度2.7°/秒で上昇させ、圧子の滑りが生じた角度を測定し、tanθを求めた。
【0063】
[重合体および重合体組成物の調製]
<調製例1:プロピレン系重合体組成物(1)の調製>
第一工程として、チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、気相重合法により、プロピレンを重合した。次いで、第二工程として、得られたプロピレン単独重合体の存在下で、気相重合法により、プロピレンとエチレンとを共重合し、プロピレン系多段重合体を得た。得られたプロピレン系多段重合体は、プロピレン単独重合体(A-1)とプロピレン-エチレン共重合体(B-1)とを含んでおり、プロピレン単独重合体(A-1)の含有量が78質量%であり、プロピレン-エチレン共重合体(B-1)の含有量が22質量%であった。また、プロピレン-エチレン共重合体(B-1)におけるエチレンに由来する構造単位の含有量は40質量%であった。
得られたプロピレン系多段重合体100質量部、水酸化カルシウム(宇部マテリアルズ株式会社製)0.005質量部、スミライザーGP(2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学株式会社製)0.075質量部、および、スミライザーGS(2,4―ジ-t-アミル-6-[1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート、住友化学株式会社製)0.03質量部を、ヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット状のプロピレン系重合体組成物(1)を得た。得られたプロピレン系重合体組成物(1)は、230℃で測定したメルトフローレートが0.4g/10分であった。
【0064】
<プロピレン系重合体組成物(2)>
第一工程として、チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、気相重合法により、プロピレンを重合した。次いで、第二工程として、得られたプロピレン単独重合体の存在下で、気相重合法により、プロピレンとエチレンとを共重合し、プロピレン系多段重合体を得た。得られたプロピレン系多段重合体は、プロピレン単独重合体(A-2)とプロピレン-エチレン共重合体(B-2)とを含んでおり、プロピレン単独重合体(A-2)の含有量が70.5質量%であり、プロピレン-エチレン共重合体(B-2)の含有量が29.5質量%であった。また、プロピレン-エチレン共重合体(B-2)におけるエチレンに由来する構造単位の含有量は40質量%であった。
得られたプロピレン系多段重合体100質量部、ステアリン酸カルシウム(日油株式会社製)0.05質量部、ビタミンE(d1-α-トコフェロール、理研ビタミン株式会社製)0.05質量部、および、メルトフローレート調整剤(2,5-ジメチル-2,5ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサン)適量を、ヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット状のプロピレン系重合体組成物(2)を得た。得られたプロピレン系重合体組成物(2)は、230℃で測定したメルトフローレートが2.0g/10分であった。
【0065】
<プロピレン単独重合体組成物(C1)>
チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、気相中でプロピレンを重合し、プロピレン単独重合体(C-1)を得た。
得られたプロピレン単独重合体(C-1)100質量部に対して、ハイドロタルサイト(協和化学工業製)0.01質量部、イルガノックス1010(BASF社製)0.09質量部、および、スミライザーGP(2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学株式会社製)0.05質量部をヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット状のプロピレン単独重合体組成物(C1)を得た。得られたプロピレン単独重合体組成物(C1)は、230℃で測定したメルトフローレートが2.2g/10分であった。
【0066】
<エチレン系重合体(D1)>
エチレン系重合体(D1)として、京葉ポリエチレン(株)社製の高密度ポリエチレンG1801(密度=0.960g/cm、190℃で測定したMFR=8.0g/10分)を使用した。この高密度ポリエチレン(D1)は、エチレン単独重合体であり、分子量分布は6である。
【0067】
[実施例1]
(プロピレン系重合体組成物(E1)の調製)
プロピレン系重合体組成物(1)100質量部(プロピレン単独重合体(A-1)78質量部とプロピレン-エチレン共重合体(B-1)22質量部とを含む)と、プロピレン単独重合体組成物(C1)15質量部とを、280℃で溶融混合して、プロピレン系重合体組成物(E1)を得た。なお、プロピレン系重合体組成物(E1)は、230℃で測定したメルトフローレートが0.7g/10分であった。
(樹脂シートの作製)
Tダイシート加工機(ダイ幅450mm)を用いて、スクリュー径65mmφ、シリンダー温度280℃、ダイ温度280℃、第一冷却ロール温度50℃、第二冷却ロール温度80℃、第三冷却ロール温度80℃の条件で、プロピレン系重合体組成物(E1)を押出し、第一冷却ロールと第二冷却ロールとの間に樹脂溜まりをつくりながら、第三冷却ロールによって1.5m/分のロール速度(成形速度)で引き取ってシート成形し、樹脂シート(厚み700μm、幅45cm)を作製した。なお、用いたすべての冷却ロールの表面は鏡面仕上げしている。
プロピレン系重合体組成物(E1)の組成(各重合体)および上述の方法により測定したメルトフローレートを表1に、成形条件を表2に示す(以下の実施例および比較例において同じ。)。
また、作製した樹脂シートについて、上述の方法により、突起の数、算術平均粗さRaを測定し、滑り性を評価して、結果を表2に示す(以下の実施例および比較例において同じ。)。
【0068】
[実施例2]
(プロピレン系重合体組成物(E2)の調製)
プロピレン系重合体組成物(1)100質量部(プロピレン単独重合体(A-1)78質量部とプロピレン-エチレン共重合体(B-1)22質量部とを含む)と、エチレン系重合体(D1)20質量部とを、280℃で溶融混合して、プロピレン系重合体組成物(E2)を得た。なお、プロピレン系重合体組成物(E2)は、230℃で測定したメルトフローレートが0.7g/10分であった。
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えてプロピレン系重合体組成物(E2)を用いたこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0069】
[実施例3]
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えてプロピレン系重合体組成物(1)(プロピレン単独重合体(1-1)78質量部とプロピレン-エチレン共重合体(1-2)22質量部とを含む)を用いたこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0070】
[比較例1]
(プロピレン系重合体組成物(CE1)の調製)
プロピレン系重合体組成物(2)100質量部(プロピレン単独重合体(A-2)70質量部とプロピレン-エチレン共重合体(B-2)30質量部とを含む)と、エチレン系重合体(D1)20質量部とを、280℃で溶融混合して、プロピレン系重合体組成物(CE1)を得た。なお、プロピレン系重合体組成物(CE1)は、230℃で測定したメルトフローレートが2.4g/10分であった。
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えてプロピレン系重合体組成物(CE1)を用いたこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0071】
[比較例2]
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えて実施例2で調製したプロピレン系重合体組成物(E2)を用い、かつロール速度を1.0m/分に変更したこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0072】
[比較例3]
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えて比較例1で調製したプロピレン系重合体組成物(CE1)を用い、かつロール速度を1.0m/分に変更したこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0073】
[比較例4]
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えて実施例2で調製したプロピレン系重合体組成物(E2)を用い、かつロール速度を0.5m/分に変更したこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0074】
[比較例5]
(樹脂シートの作製)
実施例1の樹脂シートの作製において、プロピレン系重合体組成物(E1)に代えて比較例1で調製したプロピレン系重合体組成物(CE1)を用い、かつロール速度を0.5m/分に変更したこと以外は、実施例1の樹脂シートの作製と同様にして、樹脂シートを作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1および表2に示す結果から明らかなように、プロピレン系重合体組成物の要件(1)および要件(3)、ならびに、樹脂シートの表面について突起の数をすべて満たさない比較例1~5の樹脂シートは、いずれも、tanθの値が大きく、滑り性に劣ることが分かる。また、樹脂シートの製造方法において成形する工程での成形速度を満たさない比較例2~4の製造方法は、用いるプロピレン系重合体組成物が要件(1)および要件(3)を満たすものであっても(比較例2および4)、表面に形成される突起が少なすぎて、滑り性に劣る樹脂シートしか製造できない。
これに対して、プロピレン系重合体組成物の要件(1)および要件(3)、ならびに、樹脂シートの表面について突起の数をすべて満たす実施例1~3の樹脂シートは、いずれも、比較例の樹脂シートよりもtanθの値が小さく、優れた滑り性を示すことが分かる。また、樹脂シートの製造方法において成形する工程での成形速度を満たす実施例1~3の製造方法は、表面に十分な数の突起を形成でき、また比較的大きな算術平均粗さRaをお有する表面を形成でき、優れた滑り性を示す樹脂シートを製造できる。