(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167730
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ステージ装置、荷電粒子線装置及び真空装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20231116BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231116BHJP
G12B 5/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01J37/20 D
H01J37/28 B
G12B5/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079130
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宗大
(72)【発明者】
【氏名】水落 真樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】西岡 明
【テーマコード(参考)】
2F078
5C101
【Fターム(参考)】
2F078CA01
2F078CA08
2F078CB05
2F078CB13
2F078CC04
2F078CC13
2F078CC14
2F078CC16
5C101AA03
5C101BB04
5C101FF02
5C101FF48
5C101FF56
5C101GG19
(57)【要約】
【課題】姿勢誤差の抑制が可能でかつ高速の位置決めが可能なステージ装置並びにこれを用いた荷電粒子線装置及び真空装置を提供する。
【解決手段】位置決めの対象物を設置する試料設置部と、試料設置部の鉛直方向の変位を計測するために用いるスケール板と、スケール板を支持する下軸テーブルと、を備えるステージ装置であって、スケール板と下軸テーブルとの間には、自由な支持部が設けられている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置決めの対象物を設置する試料設置部と、
前記試料設置部の鉛直方向の変位を計測するために用いるスケール板と、
前記スケール板を支持する下軸テーブルと、を備え、
前記スケール板と前記下軸テーブルとの間には、自由な支持部が設けられている、ステージ装置。
【請求項2】
前記スケール板を固定するスケールトレイを更に備え、
前記下軸テーブルと前記スケールトレイとの間には、自由なスケールトレイ支持部が設けられている、請求項1記載のステージ装置。
【請求項3】
前記スケールトレイは、前記スケールトレイの長手方向に間隔を設けて配置された二つの前記スケールトレイ支持部により支持される、請求項2記載のステージ装置。
【請求項4】
前記スケールトレイ支持部は、弾性支持部材である、請求項2記載のステージ装置。
【請求項5】
前記スケールトレイ支持部は、前記下軸テーブルの中立軸に設置されている、請求項2記載のステージ装置。
【請求項6】
前記スケールトレイは、断面が上側開放のコの字形状であり、
前記スケール板は、前記スケールトレイの凹部の側壁面に固定されている、請求項2記載のステージ装置。
【請求項7】
前記スケールトレイは、減衰材料で形成されている、請求項2記載のステージ装置。
【請求項8】
前記弾性支持部材は、断熱材料で形成されている、請求項4に記載のステージ装置。
【請求項9】
前記試料設置部を支持する上軸テーブルを更に備え、
前記上軸テーブルは、磁気浮上が可能な構成を有する、請求項1記載のステージ装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のステージ装置を有する、荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のステージ装置を有する、真空装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステージ装置、荷電粒子線装置及び真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体関連装置のためのデバイスステージおよびウエハを正確に位置決めして支持するためのステージに関する技術が知られている。
【0003】
特に、真空内のステージでは、磁気浮上案内を適用することで非接触支持と六軸制御とにより位置決め精度が向上する。磁気浮上案内では、直進方向X軸の位置計測に加えて、Y軸方向及びZ軸方向の位置と三軸周りの回転角度Rx,Ry,Rzの姿勢の五軸方向の位置・姿勢とを計測し制御することが必要となる。
【0004】
特許文献1には、試料ステージの位置を検出する第1の位置検出装置が検出可能なステージ移動範囲の一部に、試料ステージが位置するときに、第2の位置検出装置により試料ステージの位置を検出し、第2の位置検出装置によって得られる位置検出結果に基づいて、第1の位置検出装置のオフセット量を調整するステージ装置を用いることにより、ミラーの小型化と、高精度な位置検出の両立を可能とすることが開示されている。ここで、第1の位置検出装置については、テーブル上にミラーが配置され、試料室の側面にレーザ干渉計が配置された例が示されている。また、第2の位置検出装置については、テーブル上に絶対スケールが配置され、試料室に絶対スケール検出器が配置された例が示されている。第2の位置検出装置は、試料ステージが配置されるベースと試料ステージの距離の絶対量を計測する絶対位置検出装置である。ベース上には、2つのYリニアガイドを介してY方向に自由に移動できるYテーブルが配置され、Yテーブル上には、2つのXリニアガイドを介してX方向に自由に移動できるXテーブルが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体ウエハの製造、測定、検査などの工程では、半導体ウエハの正確な位置決めを行うために、特許文献1などに記載のステージ装置が用いられる。このようなステージ装置においては、ナノメートルスケールの高い位置精度が求められる。
【0007】
特に、案内要素を非接触化する磁気浮上ステージでは、リニアスケールを用いて位置決めを行う。しかしながら、スケール板を設置するYテーブル(下軸テーブル)の熱変形などによる湾曲によって、位置基準であるスケール板が曲がり、浮上テーブルの姿勢誤差が発生する場合がある。
【0008】
特許文献1に記載のステージ装置のように下軸テーブルにスケール板を設置する場合には、Xテーブル(上軸テーブル)すなわち浮上軸に姿勢誤差が発生することが問題となる。特に、スループットを向上するためにステージの移動速度を上げる場合、モータ発熱や摩擦熱が増大し、テーブルの熱変形が増大する。すなわち、下軸テーブルの熱変形による姿勢誤差がより顕著になる。
【0009】
この問題の対応策として、スケール板が変位可能となるようにばね等によって下軸テーブルに支持することにより、熱変形が他の部品に伝わりにくくすることが考えられる。しかしながら、ばね部でスケール板の支持剛性が低下するため、スケール板の振動が新たな課題となる。
【0010】
また、下軸ガイドの転動体移動などによる歪みや、気圧変動による試料室の変形によっても下軸テーブルの変形が発生し、スケール板が変形することも課題となる。
【0011】
本開示の目的は、姿勢誤差の抑制が可能でかつ高速の位置決めが可能なステージ装置並びにこれを用いた荷電粒子線装置及び真空装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のステージ装置は、位置決めの対象物を設置する試料設置部と、試料設置部の鉛直方向の変位を計測するために用いるスケール板と、スケール板を支持する下軸テーブルと、を備え、スケール板と下軸テーブルとの間には、自由な支持部が設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、姿勢誤差の抑制が可能でかつ高速の位置決めが可能なステージ装置並びにこれを用いた荷電粒子線装置及び真空装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】従来のステージの構成例を示す斜視図である。
【
図3】従来のステージにおける熱変形を示す模式側面図である。
【
図4】アッベ誤差の発生原理を説明するための模式側面図である。
【
図5】実施形態のステージ装置の例を示す斜視図である。
【
図6】
図5のスケールトレイ501を示す斜視図である。
【
図7】
図5のXテーブル511を示す斜視図である。
【
図8A】
図5のスケールトレイ501及びXテーブル511を組み合わせた状態を示す正面図である。
【
図8B】
図5のスケールトレイ501及びXテーブル511を組み合わせた状態を示す上面図である。
【
図9】実施形態における六軸計測のためのスケール板及びヘッドの配置の例を示す斜視図である。
【
図10】実施形態のスケールトレイ構造のXZ平面での断面図である。
【
図11】実施形態のスケールトレイ構造のYZ平面での断面図である。
【
図12】スケールトレイの弾性支持部の詳細構造の例を示す斜視図である。
【
図14】実施形態の半導体計測装置を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態に係るステージ装置、荷電粒子線装置および真空装置について、図面を参照して説明する。ここで、真空装置とは、装置の所定部分を減圧状態に保つように構成されているものをいい、半導体計測装置を含む。
【0016】
【0017】
本図に示すように、ステージ装置104は、テーブル101と、ベース102と、リニアガイド103と、を有する。ベース102の上には、リニアガイド103が固定されている。テーブル101の下面には、キャリッジ150が設けられている。キャリッジ150は、リニアガイド103に設置されている。この構成により、テーブル101は、図面に垂直な方向であるX軸方向に移動可能となっている。
【0018】
図2は、従来のステージの構成例を示す斜視図である。
【0019】
本図においては、Y軸の上にX軸が設置されるスタック型のXYステージを示している。本図に示すXYステージは、
図1の一軸のステージを二段重ねにした構成であり、
図1のベース102が
図2のベース203に相当する。
【0020】
Xテーブル201は、Yテーブル202に対してX軸方向に移動可能に設置されている。Yテーブル202は、ベース203に対してY軸方向に移動可能に設置されている。これにより、XY平面内における位置決めが可能である。
【0021】
上軸のX軸は、磁気浮上案内を適用しており、Xテーブル201は、Yテーブル202に対して非接触に支持されている。
【0022】
磁気浮上ステージでは、浮上部の六軸の位置・姿勢計測が必要である。このため、6個のリニアスケールによって、その位置と姿勢が計測される。リニアスケールは、スケール板とスケールヘッドとの相対変位を計測する位置センサである。スケール板は、ガラスの長尺の板であり、一般的にはステージの固定側に設置される。また、スケールヘッドは、ステージの可動側に設置される。
【0023】
Xテーブル201の下面部には、スケールヘッド205が設置されている。Yテーブル202の上面部には、スケール板204が設置されている。スケール板204及びスケールヘッド205はいずれも、X軸方向及びY軸方向の位置を計測するために用いるものである。これにより、Xテーブル201とYテーブル202とのX軸方向及びY軸方向についての相対位置変化を計測することができる。
【0024】
また、Yテーブル202の一方の側面部には、スケール板206が設置されている。ベース203の上面部には、スケールヘッド207が設置されている。スケールヘッド207は、Xテーブル201の一方の支持部に設置されている。スケール板206とスケールヘッド207とは、対向するように配置されている。同様に、Yテーブル202の反対側の側面部には、スケール板208が設置されている。ベース203の上面部には、スケールヘッド209が設置されている。スケールヘッド209は、Xテーブル201の他方の支持部に設置されている。スケール板208とスケールヘッド209とは、対向するように配置されている。スケール板206、208及びスケールヘッド207、209はいずれも、Z軸方向の位置を計測するために用いるものである。これにより、Xテーブル201とYテーブル202とのZ軸方向についての相対位置変化を計測することができる。また、スケールヘッド207及びスケールヘッド209の計測値の差を計算することにより、X軸周りの回転方向の姿勢変化を計測することもできる。
【0025】
図3は、
図2の従来のステージにおける熱変形を示す模式側面図である。
【0026】
図3においては、Yテーブル202の熱変形によりXテーブル201の姿勢変化が発生している。
【0027】
ステージを高速で駆動すると、モータ発熱が増大し、テーブルの熱変形が発生する。特に、スケール板206が設置されているYテーブル202の温度上昇が起こると、Yテーブル202がZ軸方向(上方)に凸になるような熱変形が発生する。これは、Yテーブル202がリニアガイド306により底面の一部が拘束された状態で、Yテーブル202がX軸方向に熱膨張することによる。これにより、スケール板206も上に凸に弓なりに反ることになる。
【0028】
Xテーブル201のY軸周りの姿勢は、Z軸方向の位置を計測するために用いるスケールヘッド302、303のそれぞれとスケール板206とのZ軸方向の距離を計測することにより検出する。スケール板206が反ると、Xテーブル201に傾きが生じる。また、Xテーブル201の位置は、レーザ干渉計により、バーミラー305にレーザ光軸301を照射して計測される。
【0029】
試料304の上面とバーミラー305のレーザ光軸301の照射点とは、高さの差があるため、後述するアッベ誤差が発生する。このように、スケール支持部の熱変形に伴うスケール板206の変形により、位置決め精度が低下する。
【0030】
下軸ガイドの転動体の移動などによる歪みや、気圧変動による試料室の変形によっても、同様の現象が生じ得る。
【0031】
つぎに、アッベ誤差とその発生原理を説明する。
【0032】
図4は、アッベ誤差の発生原理を説明するための模式側面図である。
【0033】
本図においては、テーブルと試料とミラーとを一つの剛体として、直方体401としてモデル化している。レーザ光軸と試料観察点との高さの差をAとし、テーブルの傾きをφとすると、テーブルが傾くことによる観察点の位置ずれDは、D=A・φと表される。
【0034】
上記の高さの差Aを「アッベオフセット」、位置ずれDを「アッベ誤差」と呼ぶ。荷電粒子線装置の場合で考えると、測定及び観察の対象である直方体401の上面にある観察目標点405に当たるべき電子ビーム407のビーム照射点406がアッベ誤差Dの分だけずれて、視野ずれδが発生する。
【0035】
図5は、本実施形態のステージ装置の例を示す斜視図である。
【0036】
本図に示すステージ装置は、スケール支持構造であるスケールトレイ構造を有する。
【0037】
本図においては、ステージ装置は、下から順に、ベース203と、Yテーブル502と、スケールトレイ501と、Xテーブル511と、を有する。Yテーブル502は、断面が上側開放のコの字形状であり、その凹部にスケールトレイ501が設置されている。スケールトレイ501も、同様に、断面が上側開放のコの字形状である。スケールトレイ501の凹部には、スケール板204、206、208が集約して固定されている。スケール板204はスケールトレイ501の凹部の底部に設置されている。スケール板206、208は、凹部の側壁面に互いに対向する位置に設置されている。
【0038】
スケールトレイ501では、Z軸方向のスケール板206、208の座面が縦方向のリブとして作用して、スケールトレイ501の曲げ剛性を向上させる。
【0039】
図6は、
図5のスケールトレイ501を示す斜視図である。
【0040】
図6に示すように、スケールトレイ501の長手方向(X軸方向)に沿ってスケール板204、206、208が設置されている。
【0041】
図7は、
図5のXテーブル511を示す斜視図である。
【0042】
図7に示すように、Xテーブル511の下面には、X軸用ヘッド601と、Y軸用ヘッド602、603と、Z軸用ヘッド604、605、606と、が設置されている。
【0043】
図8Aは、
図5のスケールトレイ501及びXテーブル511を組み合わせた状態を示す正面図である。
【0044】
図8Aにおいては、スケール板206とZ軸用ヘッド605とが対向し、スケール板208とZ軸用ヘッド606とが対向し、スケール板204とY軸用ヘッド602とが対向するように配置されている。
【0045】
図8Bは、
図5のスケールトレイ501及びXテーブル511を組み合わせた状態を示す上面図である。
図8Bにおいては、Xテーブル511は、X軸方向に移動可能である。
【0046】
図9は、本実施形態における六軸計測のためのスケール板及びヘッドの配置の例を示す斜視図である。
【0047】
本図においては、Xテーブル511を除去して、Xテーブル511の下面に設置されているX軸用ヘッド601、Y軸用ヘッド602、603及びZ軸用ヘッド604、605、606が見えるように示している。
【0048】
また、Y軸用ヘッド602とY軸用ヘッド603とのX軸方向の距離LYX、Z軸用ヘッド604とZ軸用ヘッド606とのY軸方向の距離LZY、及びZ軸用ヘッド604と605とのX軸方向の距離LZXを示している。
【0049】
スケール板204は、X軸方向とY軸方向の二方向の位置計測に用いられる。X軸用ヘッド601とスケール板204との相対変位からXテーブルのYテーブルに対するX軸方向の位置が計測される。Y軸用ヘッド602とスケール板204との相対変位をY1、Y軸用ヘッド603とスケール板204との相対変位をY2とすると、XテーブルのYテーブルに対するY軸方向変位Yは、次の式(1)により求められる。
【0050】
Y=(Y1+Y2)/2 …(1)
また、XテーブルのYテーブルに対するZ軸周りの回転角度RZは、次の式(2)により求められる。
【0051】
RZ=(Y2-Y1)/LYX …(2)
Z軸用ヘッド604とスケール板206との相対変位をZ1、Z軸用ヘッド605とスケール板206との相対変位をZ2、Z軸用ヘッド606とスケール板208との相対変位をZ3とすると、XテーブルのYテーブルに対するZ軸方向変位Zは、次の式(3)により求められる。
【0052】
Z=(Z1+Z2+Z3)/3 …(3)
また、XテーブルのYテーブルに対するX軸周りの回転角度RXは、次の式(4)により求められる。
【0053】
RX=(Z3-Z1)/LZY …(4)
また、XテーブルのYテーブルに対するY軸周りの回転角度RYは、次の式(5)により求められる。
【0054】
R
Y=(Z
1-Z
2)/L
ZX …(5)
図10は、本実施形態のスケールトレイ構造のXZ平面での断面図である。本図は、断面図であるため、スケールは1本のみ示している。
【0055】
本図においては、Yテーブル502の上にスケールトレイ501が設置されている。また、スケールトレイ501の上方には、Xテーブル201が設置されている。Yテーブル502とスケールトレイ501との間には、二つの弾性支持部材701が設置されている。言い換えると、スケールトレイ501は、弾性支持部材701を介して二点で支持されている。これにより、本図に示すようにYテーブル502が反った場合であっても、Yテーブル502の曲げ変形がスケールトレイ501には伝わらないようにすることができ、スケール板206の形状変形が防止され、その直線性が保たれる。これにより、Xテーブル201の傾きを抑制し、前述のアッベ誤差による視野ずれも抑制可能となる。なお、Yテーブル502の中立軸702においては、Yテーブル502が反ったとしても、圧縮も引っ張りも発生しない。
【0056】
弾性支持部材701は、スケールトレイ501あるいはYテーブル502の一部を凸に突き出して、別部品ではない形で実現してもよい。言い換えると、弾性支持部材701は、スケールトレイ501又はYテーブル502の一部として形成してもよい。ただし、変形が他の部品に伝わらないようにする効果を得るためには、別部品とすることが望ましい。
【0057】
また、スケールトレイ501とYテーブル502とは、材質を揃えるなどして、少なくとも線膨張係数が近い素材で製造することが望ましい。それにより、両者の線膨張差によるバイメタル効果によるスケールトレイ501の反りを抑制することが可能である。
【0058】
また、上記のように線膨張係数が近い素材用いた場合には、弾性支持部材701は、伝熱性の高い材質で製造し、スケールトレイ501とYテーブル502との温度差を小さくすることが有効である。
【0059】
図11は、本実施形態のスケールトレイ構造のYZ平面での断面図である。
【0060】
本図においては、スケールトレイ501は、Yテーブル502の凹部に設置されている。弾性支持部材701は、Yテーブル502の中立軸702上に配置することが可能である。すなわち、中立軸702においては、曲げ変形時に圧縮応力も引っ張り応力も発生しない。
図10を用いて説明すると、Yテーブル502が反っても中立軸702上では圧縮も引っ張りも発生しないため、弾性支持部材701のX軸方向の間隔は変化しない。よって、スケールトレイ501のゆがみ等の形状変形を防止することができる。
【0061】
以上の作用により、モータ発熱やガイド歪み、気圧変動による試料室の変形等によって、Yテーブル502(下軸テーブル)が変形する場合でも、スケール板が変形することを防ぐことが可能である。
【0062】
図12は、スケールトレイの弾性支持部の詳細構造の例を示す斜視図である。
【0063】
本図においては、Yテーブル502の上面に弾性支持部材701が四つ設置されている。これらの弾性支持部材701の上にスケールトレイ501が設置されるようになっている。弾性支持部材701は、接続ボルト穴901に挿入するボルトによりYテーブル502に固定される。弾性支持部材701の中央部には、接続ボルト穴902が設けられている。接続ボルト穴902に挿入するボルトにより、スケールトレイ501が弾性支持部材701に固定される。弾性支持部材701の2つの接続ボルト穴901は、Y軸方向に並ぶように配置されている。これにより、Yテーブル502がY軸周りに変形しやすいようにしている。
【0064】
また、本図に示すように、弾性支持部材701は、Yテーブル502に掘り込み(凹部)を設けて埋めるように配置してもよい。こうすることで、Yテーブル502のコの字形の掘り込み量を弾性支持部材701の高さ分だけ抑えてYテーブル502の曲げ剛性を確保することが可能である。
【0065】
図13は、スケールトレイごと交換できるようにメンテナンスハッチを設けた構成の例を示す斜視図である。
【0066】
本図においては、試料室1001の側壁に、スケールトレイ501を交換するために用いるメンテナンスハッチ1002を設けている。メンテナンスハッチ1002は、スケール板が集約されているスケールトレイ501の出し入れが可能な寸法を有する。
【0067】
これにより、メンテナンスの際などに、Xテーブル201を取り外さずに、スケールトレイ501及びスケール板をまとめて交換することができる。
【0068】
このほか、変形例として、次のものが考えられる。
【0069】
図5のスケールトレイ501の材質を工夫して、スケールトレイ501の曲げ振動の減衰性の高い材料を用いることが考えられる。
【0070】
振動減衰性の高い材料としては、制振合金やセラミクスや樹脂材などがある。
【0071】
また、スケールトレイ501やYテーブル502の材質に低熱膨張材料を用いることも有効と考えられる。これにより、Yテーブル502の熱変形によるスケール板204、206、208の反りを更に低減することが可能となる。
【0072】
また、弾性支持部材701の材料をセラミクスや樹脂などの金属に比べて断熱性の高い材料とすることも有効と考えられる。これにより、スケールトレイ501の温度変化を抑制して、Yテーブル502上でのスケールトレイ501の反りを低減することができる。ただし、前述のようなスケールトレイ501とYテーブル502の温度差を揃える観点からは、断熱材料としない方がよい場合もあるため、温度上昇量が大きい装置では有効ではない場合もある。
【0073】
最後に、本実施形態に係る半導体計測装置について説明する。なお、半導体計測装置は、荷電粒子線装置又は真空装置の一例である。半導体計測装置の一例としては、走査型電子顕微鏡(SEM)の応用装置としての測長SEMがある。
【0074】
図14は、本実施形態のスケールトレイ構造を有するステージを設置した半導体計測装置を示す模式断面図である。
【0075】
本図に示す半導体計測装置は、ステージ装置104を収容する真空チャンバ1901と、電子光学系鏡筒1902と、レーザ干渉計1904と、コントローラ1905と、を備えている。
【0076】
真空チャンバ1901には、対象物1906の位置決めを行うステージ装置104が収容されている。真空チャンバ1901の支持部には、制振マウント1903が設けられている。真空チャンバ1901の上部は、蓋1914で覆われている。真空チャンバ1901は、図示を省略している真空ポンプによって内部が減圧されて大気圧よりも低圧の真空状態になる。
【0077】
ステージ装置104は、テーブル101(Yテーブル)と、スケールトレイ501と、Xテーブル201と、を含む。テーブル101の下面には、可動部1913が設けられている。テーブル101とスケールトレイ501との間には、弾性支持部材701が設けられている。弾性支持部材701は、スケールトレイ501を支持している。Xテーブル201の下面には、スケールヘッド1101が設けられている。Xテーブル201の上部には、試料台1910(試料設置部)と、バーミラー305と、が設置されている。試料台1910には、半導体ウエハなどの対象物1906が設置されるようになっている。 半導体計測装置は、ステージ装置104によって対象物1906の位置決めを行い、電子光学系鏡筒1902から電子ビームを対象物1906に照射し、対象物1906の表面に形成されたパターンを撮像し、パターンの線幅の計測や形状精度の評価を行う。レーザ干渉計1904は、バーミラー305にレーザ光1915を照射し、その反射光を検出する。コントローラ1905は、レーザ干渉計1904の検出信号を用いて、バーミラー305の位置を計測し、試料台1910に保持されている対象物1906の位置決めを制御する。
【0078】
本実施形態に係る半導体計測装置は、スケールトレイ構造を有するステージ装置を備えている。これにより、ウエハなどの対象物の位置決め精度を向上することができる。そして、荷電粒子線装置としての半導体計測装置の検査精度を向上させることができる。また、ステージ装置は、上軸テーブルの浮上機構が磁気浮上式である。このため、真空装置である半導体計測装置への適用が容易である。本実施形態のスケールトレイ構造によれば、下軸テーブルの熱変形が他の部品に影響を与えないようにすることが可能である。このため、ステージが高速に移動しモータ発熱が大きくなる高速の検査パターン観察時の視野位置決め精度が向上するなどの優れた効果を発揮することができる。なお、本開示の荷電粒子線装置および真空装置の適用分野は、半導体計測装置に限定されない。
【0079】
なお、上述の実施形態においては、磁気浮上案内を前提として説明しているが、本開示のステージ装置は、これに限定されるものではなく、空気静圧案内においても適用可能である。
【0080】
以下、本開示に係る望ましい実施形態についてまとめて説明する。
【0081】
ステージ装置は、位置決めの対象物を設置する試料設置部と、試料設置部の鉛直方向の変位を計測するために用いるスケール板と、スケール板を下方にて支持する下軸テーブルと、を備え、スケール板と下軸テーブルとの間には、自由な支持部が設けられている。ここで、自由な支持部とは、支持部を挟み込んだ二つの部材のうち少なくとも一方が支持部に拘束されずに相対的に移動可能であることをいう。
図10等に示す弾性支持部材701は、自由な支持部の一例である。
【0082】
ステージ装置は、スケール板を固定するスケールトレイを更に備え、下軸テーブルとスケールトレイとの間には、自由なスケールトレイ支持部が設けられている。
【0083】
スケールトレイは、スケールトレイの長手方向に間隔を設けて配置された二つのスケールトレイ支持部により支持される。
図10等に示す弾性支持部材701は、自由なスケールトレイ支持部の一例である。
【0084】
スケールトレイ支持部は、弾性支持部材である。
【0085】
スケールトレイ支持部は、下軸テーブルの中立軸に設置されている。
【0086】
スケールトレイは、断面が上側開放のコの字形状であり、スケール板は、スケールトレイの凹部の側壁面に固定されている。
【0087】
スケールトレイは、減衰材料で形成されている。
【0088】
弾性支持部材は、断熱材料で形成されている。
【0089】
ステージ装置は、試料設置部を支持する上軸テーブルを更に備え、上軸テーブルは、磁気浮上が可能な構成を有する。
【0090】
荷電粒子線装置は、ステージ装置を有する。
【0091】
真空装置は、ステージ装置を有する。
【0092】
以上、図面を用いて本開示の実施形態について詳述してきたが、具体的な構成は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0093】
101:テーブル、102、203:ベース、103:リニアガイド、104:ステージ装置、201、511:Xテーブル、202、502:Yテーブル、204、206、208:スケール板、205、207、209、302、303:スケールヘッド、301:レーザ光軸、304:試料、305:バーミラー、401:直方体、405:観察目標点、406:ビーム照射点、407:電子ビーム、501:スケールトレイ、601:X軸用ヘッド、602、603:Y軸用ヘッド、604、605、606:Z軸用ヘッド、701:弾性支持部材、702:中立軸、901、902:接続ボルト穴、1001:試料室、1002:メンテナンスハッチ、1901:真空チャンバ、1902:電子光学系鏡筒、1903:制振マウント、1904:レーザ干渉計、1905:コントローラ、1906:対象物。