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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167743
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】クラッドレス型光導波路
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/04 20060101AFI20231116BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20231116BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20231116BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08G59/04
C08G59/68
G03F7/038 503
G03F7/004 504
G03F7/004 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079160
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康夫
(72)【発明者】
【氏名】室田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘国
(72)【発明者】
【氏名】植松 照博
【テーマコード(参考)】
2H225
4J036
【Fターム(参考)】
2H225AE14P
2H225AE15P
2H225AF23P
2H225AF78P
2H225AM66P
2H225AM86P
2H225AN31P
2H225AN39P
2H225AN42P
2H225AN54P
2H225AN56P
2H225BA22P
2H225BA33P
2H225CA15
2H225CB05
2H225CC01
2H225CC12
2H225CD05
4J036AD08
4J036AF06
4J036FB16
4J036GA03
4J036HA02
4J036JA08
4J036JA09
4J036JA15
4J036KA01
(57)【要約】
【課題】硬化性組成物中での相分離を抑制しつつ、均一に塗布された硬化性組成物に対してフォトリソグラフィー法を適用することにより形成される、高硬度かつ透光性に優れる硬化物からなるクラッドレス型光導波路と、当該クラッドレス型光導波路の製造方法と、当該クラッドレス型光導波路の形成に好適に用いられる硬化性組成物とを提供すること。
【解決手段】硬化性組成物の硬化物からなるクラッドレス型光導波路を、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み硬化性組成物を用いて形成し、エポキシ化合物(A)に対して特定量のビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有させ、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下である光酸発生剤(B)を用い、硬化性組成物中の界面活性剤(C)の含有量を特定の範囲内とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性組成物の硬化物からなるクラッドレス型光導波路であって、
前記硬化性組成物が、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み、
前記エポキシ化合物(A)が、分子量1000以上2000以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を含み、
前記エポキシ化合物(A)の質量に対する、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率が、50質量%以上であり、
前記光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であり、
前記界面活性剤(C)の含有量が、前記硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下である、クラッドレス型光導波路。
【請求項2】
前記界面活性剤(C)が、シリコーン系界面活性剤である、請求項1に記載のクラッドレス型光導波路。
【請求項3】
クラッドレス型光導波路の製造方法であって、
前記クラッドレス型光導波路が形成される基材上に、硬化性組成物を塗布して感光性層を形成することと、
前記クラッドレス型光導波路が形成される位置に対して、前記感光性層を位置選択的に露光することと、
露光された前記感光性層を、現像することと、を含み、
前記硬化性組成物が、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み、
前記エポキシ化合物(A)の質量に対する、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率が、50質量%以上であり、
前記光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であり、
前記界面活性剤(C)の含有量が、前記硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下である、製造方法。
【請求項4】
前記硬化性組成物の、25℃においてE型回転粘度計で測定された粘度が、2000cP以上5000cP以下である、請求項3に記載のクラッドレス型光導波路の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒(S)の大気圧下での沸点が、150℃以上である、請求項4に記載のクラッドレス型光導波路の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒(S)の大気圧下での沸点が、150℃以上180℃以下である、請求項5に記載のクラッドレス型光導波路の製造方法。
【請求項7】
前記感光性層の厚さが、30μm以上500μm以下である、請求項3~6のいずれか1項に記載のクラッドレス型光導波路の製造方法。
【請求項8】
前記界面活性剤(C)が、シリコーン系界面活性剤である、請求項3~6のいずれか1項に記載のクラッドレス型光導波路の製造方法。
【請求項9】
フォトリソグラフィー法によるクラッドレス型光導波路の形成に用いられる硬化性組成物であって、
エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み、
前記エポキシ化合物(A)の質量に対する、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率が、50質量%以上であり、
前記光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であり、
前記界面活性剤(C)の含有量が、前記硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下であり、
前記硬化性組成物の、25℃においてE型回転粘度計で測定された粘度が、2000cP以上5000cP以下である、硬化性組成物。
【請求項10】
前記溶媒(S)の大気圧下での沸点が、150℃以上である、請求項9に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
前記溶媒(S)の大気圧下での沸点が、150℃以上180℃以下である、請求項10に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッドレス型光導波路と、当該クラッドレス型光導波路の製造方法と、当該クラッドレス型光導波路の形成に好適に用いられる硬化性組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
リモートセンシングや、距離の測定に用いられるLiDAR(Light Detection and Ranging)センサーが知られている。LiDARセンサーは、例えば、自動運転システム等における、リアルタイムの三次元マッピングや、物体の検出、追跡、特定等の目的で使用されている。
【0003】
LiDARセンサーは、TOF(Time of Flight)方式により、物体の位置や距離を測定する。具体的には、LiDARセンサーは、観察空間内の物体にレーザーを照射し、当該物体に照射されたレーザーが当該物体の表面で反射してLiDARセンサーが備える受信機に戻るまでの時間を測定することにより、観察空間内での物体の位置や、LiDARセンサーから物体までの距離を測定する。
【0004】
かかるLiDARセンサーは、光学系に光導波路を含む場合がある。LiDARセンサーには、一層の小型化の要求がある。他方で、光導波路をフォトレジスト材料を用いて形成する方法が提案されている(特許文献1)。光導波路を備えるLiDARセンサーにおいて、フォトレジスト材料を用いて光導波路を形成すれば、微細な光導波路を形成でき、LiDARセンサーの小型を図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開2019/0041498号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、フォトレジスト材料を用いて光導波路を形成する場合、適切な寸法の光導波路を形成するために、フォトレジスト組成物の固形分濃度を高くする必要がある場合がある。しかし、固形分濃度の高いフォトレジスト材料には、相分離しやすかったり、均一に塗布しにくい問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、硬化性組成物中での相分離を抑制しつつ、均一に塗布された硬化性組成物に対してフォトリソグラフィー法を適用することにより形成される、高硬度かつ透光性に優れる硬化物からなるクラッドレス型光導波路と、当該クラッドレス型光導波路の製造方法と、当該クラッドレス型光導波路の形成に好適に用いられる硬化性組成物とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、硬化性組成物の硬化物からなるクラッドレス型光導波路を、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み硬化性組成物を用いて形成し、エポキシ化合物(A)に対して特定量のビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有させ、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下である光酸発生剤(B)を用い、硬化性組成物中の界面活性剤(C)の含有量を特定の範囲内とすることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第1の態様は、
硬化性組成物の硬化物からなるクラッドレス型光導波路であって、
硬化性組成物が、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み、
エポキシ化合物(A)が、分子量1000以上2000以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を含み、
エポキシ化合物(A)の質量に対する、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率が、50質量%以上であり、
光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であり、
界面活性剤(C)の含有量が、硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下である、クラッドレス型光導波路である。
【0010】
本発明の第2の態様は、
クラッドレス型光導波路の製造方法であって、
クラッドレス型光導波路が形成される基材上に、硬化性組成物を塗布して感光性層を形成することと、
クラッドレス型光導波路が形成される位置に対して、感光性層を位置選択的に露光することと、
露光された感光性層を、現像することと、を含み、
前記硬化性組成物が、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み、
エポキシ化合物(A)の質量に対する、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率が、50質量%以上であり、
光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であり、
界面活性剤(C)の含有量が、硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下である、製造方法である。
【0011】
本発明の第3の態様は、
フォトリソグラフィー法によるクラッドレス型光導波路の形成に用いられる硬化性組成物であって、
エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含み、
エポキシ化合物(A)の質量に対する、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率が、50質量%以上であり、
光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であり、
界面活性剤(C)の含有量が、硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下であり、
硬化性組成物の、25℃においてE型回転粘度計で測定された粘度が、2000cP以上5000cP以下である、硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化性組成物中での相分離を抑制しつつ、均一に塗布された硬化性組成物に対してフォトリソグラフィー法を適用することにより形成される、高硬度かつ透光性に優れる硬化物からなるクラッドレス型光導波路と、当該クラッドレス型光導波路の製造方法と、当該クラッドレス型光導波路の形成に好適に用いられる硬化性組成物とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪クラッドレス型光導波路≫
クラッドレス型光導波路は、硬化性組成物の硬化物からなる。クラッドレス型光導波路は、所謂、クラッド-コア型の光導波路と異なり、クラッドを有さない。
硬化性組成物は、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含む。
エポキシ化合物(A)は、分子量1000以上2000以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を含む。
エポキシ化合物(A)の質量に対する、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率は、50質量%以上である。
光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度は、波長400~1600nmの範囲において1以下である。
硬化性組成物における界面活性剤(C)の含有量は、硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下である。
【0014】
以下、硬化性組成物と、当該硬化性組成物を用いるクラッドレス型光導波路の製造方法とについて説明する。
【0015】
<硬化性組成物>
前述の通り、硬化性組成物は、エポキシ化合物(A)と、光酸発生剤(B)と、界面活性剤(C)と、溶媒(S)とを含む。
以下、硬化性組成物が含み得る、必須、又は任意の成分について説明する。
【0016】
〔エポキシ化合物(A)〕
エポキシ化合物(A)は、分子量1000以上2000以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を必須に含む。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の分子量は、1100以上1800以下が好ましく、1200以上1700以下がより好ましい。
エポキシ化合物(A)におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の含有量は、エポキシ化合物(A)の質量に対する、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)の質量の比率は、50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
エポキシ化合物(A)が、上記の分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂を、上記の量含有することで、硬化性組成物を用いて透明性が高く、クラックや基板からの剥がれが発生しにくい光導波路を形成できる。
【0017】
エポキシ化合物(A)は、上記のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)とともに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂以外のエポキシ化合物である、エポキシ化合物(A2)を含んでいてもよい。
エポキシ化合物(A2)の種類は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。エポキシ化合物(A2)の例としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂;9,9-ビス[4-(グリシジルオキシ)フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-[2-(グリシジルオキシ)エトキシ]フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-[2-(グリシジルオキシ)エチル]フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-(グリシジルオキシ)-3-メチルフェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-(グリシジルオキシ)-3,5-ジメチルフェニル]-9H-フルオレン、及び9,9-ビス(6‐グリシジルオキシナフタレン-2-イル)-9H-フルオレン等のエポキシ基含有フルオレン化合物;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、及びテトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;フロログリシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、2-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-2-[4-[1,1-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパン、及び1,3-ビス[4-[1-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-1-[4-[1-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]-2-プロパノール等の3官能型エポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルエタンテトラグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、及びテトラグリシドキシビフェニル等の4官能型エポキシ樹脂2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物が挙げられる。2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物は、EHPE-3150(ダイセル社製)として市販される。
【0018】
また、オリゴマー又はポリマー型の多官能エポキシ化合物もエポキシ化合物(A2)として、好ましく用いることができる。
典型的な例としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、臭素化フェノールノボラック型エポキシ化合物、オルソクレゾールノボラック型エポキシ化合物、キシレノールノボラック型エポキシ化合物、ナフトールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールADノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂のエポキシ化物、ナフタレン型フェノール樹脂のエポキシ化物等が挙げられる。
【0019】
硬化物の透明性や、硬化性組成物の高解像性の点では、エポキシ化合物(A2)としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0020】
〔光酸発生剤(B)〕
硬化性組成物は、光酸発生剤(B)を含む。光酸発生剤(B)は、露光されることで酸を発生させる。このため、硬化性組成物が露光された場合、光酸発生剤(B)が発生させる酸によりエポキシ化合物(A)が硬化する。
光酸発生剤(B)の、濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度は、波長400~1600nmの範囲において1以下である。
かかる光酸発生剤(B)を用いることにより、透光性に優れる硬化物を形成できる。
【0021】
吸光度測定に用いる溶媒は、光酸発生剤(B)の濃度1質量%の溶液を調製できる限り特に限定されない。典型的には、吸光度測定用の溶媒としては、アセトニトリルを用いることができる。また、硬化性組成物に含まれる溶媒(S)と同種の有機溶媒を吸光度測定用の溶媒として使用するのも好ましい。
【0022】
透過率に関する上記の要件を満たす光酸発生剤(B)としては、例えば下記式(b1)で表される、スルホニウム塩、又はヨードニウム塩が挙げられる。
【0023】
【化1】
【0024】
上記式(b1)中、X1bは、原子価gの硫黄原子又はヨウ素原子を表し、gは1又は2である。hは括弧内の構造の繰り返し単位数を表す。R1bは、X1bに結合している有機基であり、炭素原子数6以上30以下のアリール基、炭素原子数1以上30以下のアルキル基、炭素原子数2以上30以下のアルケニル基、又は炭素原子数2以上30以下のアルキニル基を表し、R1bは、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アリールチオカルボニル、アシロキシ、アリールチオ、アルキルチオ、アリール、アリールオキシ、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキレンオキシ、アミノ、シアノ、ニトロの各基、及びハロゲンからなる群より選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。R1bの個数はg+h(g-1)+1であり、R1bはそれぞれ互いに同じであっても異なっていてもよい。また、2個以上のR1bが互いに直接、又は-O-、-S-、-SO-、-SO-、-NH-、-NR2b-、-CO-、-COO-、-CONH-、炭素原子数1以上3以下のアルキレン基、若しくはフェニレン基を介して結合し、X1bを含む環構造を形成してもよい。R2bは炭素原子数1以下5以上のアルキル基又は炭素原子数6以下10以上のアリール基である。
【0025】
2bは下記式(b2)で表される構造である。
【0026】
【化2】
【0027】
上記式(b2)中、X4bは炭素原子数1以上8以下のアルキレン基、炭素原子数6以上20以下のアリーレン基、又は炭素原子数8以上20以下の複素環化合物の2価の基を表し、X4bは炭素原子数1以上8以下のアルキル、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ、炭素原子数6以上10以下のアリール、ヒドロキシ、シアノ、ニトロの各基、及びハロゲンからなる群より選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。X5bは-O-、-S-、-SO-、-SO-、-NH-、-NR2b-、-CO-、-COO-、-CONH-、炭素原子数1以上3以下のアルキレン基、又はフェニレン基を表す。hは括弧内の構造の繰り返し単位数を表す。h+1個のX4b及びh個のX5bはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R2bは前述の定義と同じである。
【0028】
3b-はオニウムの対イオンであり、下記式(b3)で表されるフッ素化アルキルフルオロリン酸アニオン又は下記式(b3)で表されるボレートアニオンが挙げられる。
【0029】
【化3】
【0030】
上記式(b3)中、R3¥bは水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基を表す。jはその個数を示し、1以上5以下の整数である。j個のR3bはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
【化4】
【0032】
上記式(b4)中、R4b~R7bは、それぞれ独立にフッ素原子又はフェニル基を表し、該フェニル基の水素原子の一部又は全部は、フッ素原子及びトリフルオロメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0033】
上記式(b1)で表される化合物中のオニウムイオンとしては、トリフェニルスルホニウム、トリ-p-トリルスルホニウム、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ビス〔4-{ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホニオ}フェニル〕スルフィド、ビス{4-[ビス(4-フルオロフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、4-(4-ベンゾイル-2-クロロフェニルチオ)フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウム、7-イソプロピル-9-オキソ-10-チア-9,10-ジヒドロアントラセン-2-イルジ-p-トリルスルホニウム、7-イソプロピル-9-オキソ-10-チア-9,10-ジヒドロアントラセン-2-イルジフェニルスルホニウム、2-[(ジフェニル)スルホニオ]チオキサントン、4-[4-(4-tert-ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジ-p-トリルスルホニウム、4-(4-ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニルフェナシルスルホニウム、4-ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、2-ナフチルメチル(1-エトキシカルボニル)エチルスルホニウム、4-ヒドロキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、フェニル[4-(4-ビフェニルチオ)フェニル]4-ビフェニルスルホニウム、フェニル[4-(4-ビフェニルチオ)フェニル]3-ビフェニルスルホニウム、[4-(4-アセトフェニルチオ)フェニル]ジフェニルスルホニウム、オクタデシルメチルフェナシルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジ-p-トリルヨードニウム、ビス(4-ドデシルフェニル)ヨードニウム、ビス(4-メトキシフェニル)ヨードニウム、(4-オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウム、ビス(4-デシルオキシ)フェニルヨードニウム、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシ)フェニルフェニルヨードニウム、4-イソプロピルフェニル(p-トリル)ヨードニウム、又は4-イソブチルフェニル(p-トリル)ヨードニウム、等が挙げられる。
【0034】
上記式(b1)で表される化合物中のオニウムイオンのうち、好ましいオニウムイオンとしては下記式(b5)で表されるスルホニウムイオンが挙げられる。
【0035】
【化5】
【0036】
上記式(b5)中、R8bはそれぞれ独立に水素原子、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルオキシカルボニル、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリール、アリールカルボニル、からなる群より選ばれる基を表す。X2bは、上記式(b1)中のX2bと同じ意味を表す。
【0037】
上記式(b5)で表されるスルホニウムイオンの具体例としては、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4-(4-ベンゾイル-2-クロロフェニルチオ)フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウム、4-(4-ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、フェニル[4-(4-ビフェニルチオ)フェニル]4-ビフェニルスルホニウム、フェニル[4-(4-ビフェニルチオ)フェニル]3-ビフェニルスルホニウム、[4-(4-アセトフェニルチオ)フェニル]ジフェニルスルホニウム、ジフェニル[4-(p-ターフェニルチオ)フェニル]ジフェニルスルホニウムが挙げられる。
【0038】
上記式(b3)で表されるフッ素化アルキルフルオロリン酸アニオンにおいて、R3bはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、好ましい炭素原子数は1以上8以下、さらに好ましい炭素原子数は1以上4以下である。アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、オクチル等の直鎖アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル等の分岐アルキル基;さらにシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等のシクロアルキル基等が挙げられ、アルキル基の水素原子がフッ素原子に置換された割合は、通常、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%である。フッ素原子の置換率が80%未満である場合には、上記式(b1)で表されるオニウムフッ素化アルキルフルオロリン酸塩の酸強度が低下する。
【0039】
特に好ましいR3bは、炭素原子数が1以上4以下、且つフッ素原子の置換率が100%の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であり、具体例としては、CF、CFCF、(CFCF、CFCFCF、CFCFCFCF、(CFCFCF、CFCF(CF)CF、(CFCが挙げられる。R3aの個数jは、1以上5以下の整数であり、好ましくは2以上4以下、特に好ましくは2又は3である。
【0040】
好ましいフッ素化アルキルフルオロリン酸アニオンの具体例としては、[(CFCFPF、[(CFCFPF、[((CFCF)PF、[((CFCF)PF、[(CFCFCFPF、[(CFCFCFPF、[((CFCFCFPF、[((CFCFCFPF、[(CFCFCFCFPF、又は[(CFCFCFPFが挙げられ、これらのうち、[(CFCFPF、[(CFCFCFPF、[((CFCF)PF、[((CFCF)PF、[((CFCFCFPF、又は[((CFCFCFPFが特に好ましい。
【0041】
上記式(b4)で表されるボレートアニオンの好ましい具体例としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート([B(C)、テトラキス[(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート([B(CCF)、ジフルオロビス(ペンタフルオロフェニル)ボレート([(CBF)、トリフルオロ(ペンタフルオロフェニル)ボレート([(C)BF)、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート([B(C)等が挙げられる。これらの中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート([B(C)が特に好ましい。
【0042】
以上説明した光酸発生剤(B)の中では、下記の化合物が好ましい。
【化6】
【0043】
硬化性組成物における光酸発生剤(B)の含有量は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。硬化性組成物における光酸発生剤(B)の含有量は、エポキシ化合物(A)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。上記の範囲内の量の光酸発生剤(B)を用いると、高硬度であり、透光性に優れる硬化物の形成が容易である。
【0044】
〔界面活性剤(C)〕
硬化性組成物は界面活性剤(C)を含む。硬化性組成物における界面活性剤(C)の含有量が、硬化性組成物の質量に対して、0.01質量%超0.05質量%以下であり、0.02質量%以上0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.04質量%以下がより好ましい。
硬化性組成物が、上記の範囲内の量の界面活性剤(C)を含むことにより、クラッドレス型光導波路を形成する際に、基材上に硬化性組成物を塗布する場合に、硬化性組成物の相分離を抑制しつつ、硬化性組成物を均一に塗布できる。
【0045】
界面活性剤(C)の種類は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。界面活性剤(C)は、カチオン性界面活性剤、アニオン性、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤のいずれでもよい。
【0046】
界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
【0047】
フッ素系界面活性剤の具体例としては、BM-1000、BM-1100(いずれもBMケミー社製)、メガファックF142D、メガファックF172、メガファックF173、メガファックF183(いずれも大日本インキ化学工業社製)、フロラードFC-135、フロラードFC-170C、フロラードFC-430、フロラードFC-431(いずれも住友スリーエム社製)、サーフロンS-112、サーフロンS-113、サーフロンS-131、サーフロンS-141、サーフロンS-145(いずれも旭硝子社製)、SH-28PA、SH-190、SH-193、SZ-6032、SF-8428(いずれも東レシリコーン社製)等の市販のフッ素系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
シリコーン系界面活性剤としては、未変性シリコーン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、ポリエステル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル変性シリコーン系界面活性剤、アラルキル変性シリコーン系界面活性剤、及び反応性シリコーン系界面活性剤等を好ましく用いることができる。
シリコーン系界面活性剤としては、市販のシリコーン系界面活性剤を用いることができる。市販のシリコーン系界面活性剤の具体例としては、ペインタッドM(東レ・ダウコーニング社製)、トピカK1000、トピカK2000、トピカK5000(いずれも高千穂産業社製)、XL-121(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、クラリアント社製)、BYK-088(シリコーン系消泡剤、ビックケミー社製)、BYK-210(ポリエステル変性シリコーン系界面活性剤、ビックケミー社製)、BYK-310(ポリエステル変性シリコーン系界面活性剤、ビックケミー社製)等が挙げられる。
【0049】
(溶媒(S))
硬化性組成物は、溶媒(S)を含む。溶媒(S)は、典型的には有機溶媒である。溶媒(S)としては、従来より、エポキシ化合物(A)を含む硬化性組成物に配合さている溶媒を特に限定なく使用できる。
硬化性組成物を、光導波路が形成される基材上に均一に塗布しやすい点から、溶媒(S)の大気圧下での沸点が、150℃以上であるのが好ましい。また、硬化性組成物からなる塗布膜を短時間で乾燥させることができる点で、溶媒(S)の大気圧下での沸点は、150℃以上180℃以下が好ましい。
【0050】
大気圧下での沸点が150℃以上である溶媒(S)の具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,4-ブタンジオールジアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、ε-カプロラクトン、1,3-ブチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチル-n-ブチルエーテル、γ-ブチロラクトン、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-ヘプタノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、3-メトキシブタノール、及び3-メトキシブチルアセテートが挙げられる。
【0051】
これらの中で、大気圧下の沸点が150℃以上180℃以下である溶媒は、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-ヘプタノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、3-メトキシブタノール、及び3-メトキシブチルアセテートである。
【0052】
溶媒(S)の使用量は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。溶媒(S)は、硬化性組成物の固形分濃度が、50質量%以上80質量%以下であるように使用されるのが好ましく、固形分濃度が、60質量%以上70質量%以下であるように使用されるのがより好ましい。
なお、硬化性組成物(S)における、溶媒(S)以外の成分の質量の合計の、固化性組成物の質量に対する比率を固形分濃度とする。
【0053】
〔その他の成分〕
硬化性組成物は、所望する効果が損なわれない範囲で、その他の成分として種々の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、密着増強剤、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、粘度調整剤、及び樹脂等が挙げられる。
【0054】
〔硬化性組成物の製造方法〕
以上説明した各成分を、それぞれ所定の比率で均一に混合することにより、硬化性組成物を製造することができる。必要に応じて、不溶性の異物を除去するために、所望のサイズの開口を有するフィルターを用いて硬化性組成物をろ過してもよい。
【0055】
フォトリソグラフィー法により好ましい寸法のクラッドレス型光導波路を製造するためには、硬化性組成物の粘度は、1500cP以上5000cP以下であるのが好ましく、2000cP以上4000cP以下であるのがより好ましい。
上記の範囲内の粘度を有する硬化性組成物を用いると、クラッドレス型光導波路の好ましい寸法に応じた厚さで、硬化性組成物を基材上に塗布しやすい。
また、上記の範囲内の粘度を有する硬化性組成物を用いると、硬化性組成物を基材上に塗布した後の加熱時間や、硬化性組成物を用いて形成された塗布膜を、露光後に現像する際の現像時間を短くできる。
上記の粘度は、25℃においてE型回転粘度計で測定される値である。
【0056】
硬化性組成物の粘度を調製する方法は、特に限定されない。例えば、硬化性組成物の固形分濃度を調製したり、硬化性組成物に粘度調整剤を加えることにより、硬化性組成物の粘度を調製できる。
【0057】
以上説明した硬化性組成物を用いることにより、硬化性組成物中での相分離を抑制しつつ、硬化性組成物を均一に塗布でできる。このようにして形成された塗布膜に対してフォトリソグラフィー法を適用することにより、高硬度かつ透光性に優れる硬化物からなるクラッドレス型光導波路を製造できる。
上記の硬化性組成物の硬化物は、特に波長905nmの近赤外光を良好に透過させる。
【0058】
<クラッドレス型光導波路の製造方法>
以上説明した硬化性組成物を用いて、クラッドレス型光導波路が製造される。クラッドレス型光導波路は、前述の硬化性組成物の硬化物からなる。
具体的には、クラッドレス型光導波路は、
クラッドレス型光導波路が形成される基材上に、硬化性組成物を塗布して感光性層を形成することと、
クラッドレス型光導波路が形成される位置に対して、感光性層を位置選択的に露光することと、
露光された感光性層を、現像することと、
を含む方法により製造される。
【0059】
硬化性組成物は、クラッドレス型光導波路が形成される基材上に塗布される。基材としては、従来知られる光導波路を備える光学素子において、光導波路を支持する基材を特に制限なく用いることができる。典型的には、基材の材質としては、ガラス、及びシリコンが挙げられる。
【0060】
硬化性組成物を塗布する方法は特に限定されない。塗布方法としては、ロールコータ、リバースコーター、バーコーター等の接触転写型塗布装置や、スピンナー(回転式塗布装置)、スリットコーター、カーテンフローコーター等の非接触型塗布装置を用いる方法が挙げられる。
【0061】
次いで、必要に応じて、溶媒(S)等の揮発成分を除去して硬化性組成物からなる塗布膜を乾燥させることで感光性層が形成される。塗布膜の乾燥方法は特に限定されない。塗布膜の乾燥方法としては、例えば、必要に応じて、真空乾燥装置(VCD)を用いて室温にて塗布膜を減圧乾燥し、その後、ホットプレートにて60℃以上150℃以下、好ましくは80℃以上120℃以下の温度にて1分以上60分以下の間、塗布膜を乾燥する方法が挙げられる。
【0062】
感光性層の厚さは特に限定されない。形成されるクラッドレス型光導波路の寸法に合わせて、感光性層の厚さが適宜決定される。
感光性層の厚さは、30μm以上500μm以下が好ましく、50μm以上300μm以下がより好ましい。
【0063】
次いで、以上のようにして形成された感光性層のクラッドレス型光導波路が形成される位置に対して、位置選択的に露光が行われる。
露光を行う際の光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、アルゴンガスレーザー等を用いることができる。露光量は、例えば、100mJ/cm以上10000mJ/cm以下である。
露光後は、必要に応じて、公知の方法を用いて露光された感光性層を加熱することにより酸の拡散を促進させて、感光性層中の露光された部分において現像液に対する溶解性を変化させてもよい。
【0064】
次いで、露光された感光性層を、従来知られる方法に従って現像し、不要な部分を溶解、除去することにより、クラッドレス型光導波路が形成される。前述の硬化性組成物を用いる場合、露光により酸発生剤(B)が発生させる酸の作用により、エポキシ化合物(A)が硬化して、有機溶媒に対して不溶化する。このため、現像液としては、有機溶媒を好ましく用いることができる。現像液としての有機溶媒は、特に限定されないが、溶媒(S)について例示した有機溶媒を現像液として好ましく用いることができる。
【0065】
現像時間は、硬化性組成物の組成や感光性層の厚さ等によっても異なるが、通常1分以上30分以下の間である。現像方法は、液盛り法、ディッピング法、パドル法、スプレー現像法等のいずれでもよい。
【0066】
現像後、必要に応じて、基材表面を洗浄、乾燥させることで、基材上に、クラッドレス型光導波路が得られる。
【実施例0067】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
〔実施例1~9、及び比較例1~7〕
実施例、及び比較例において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)((A1)成分)として、以下のA1-1~A1-4を用いた。
A1-1:jER1002(三菱ケミカル社製)、分子量1200
A1-2:jER1003(三菱ケミカル社製)、分子量1300
A1-3:jER1004(三菱ケミカル社製)、分子量1650
A1-4:jER1007(三菱ケミカル社製)、分子量290
【0069】
実施例、及び比較例において、エポキシ化合物(A2)((A2)成分)として、以下のA2-1、及びA2-2を用いた。
A2-1:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(jER154、三菱ケミカル社製)
A2-2:ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(jER157、三菱ケミカル社製)
【0070】
実施例、及び比較例において、光酸発生剤(B)((B)成分)として、下記B1~B3を用いた。
下記B1、及びB2は、光酸発生剤(B)の濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であるとの条件を満たす。
下記B3は、光酸発生剤(B)の濃度1質量%の有機溶媒溶液としての吸光度が、波長400~1600nmの範囲において1以下であるとの条件を満たさない。
【化7】
【0071】
実施例、及び比較例において、界面活性剤(C)((C)成分)として、BYK-310(ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー社製)を用いた。
【0072】
実施例、及び比較例において、溶媒(S)((S)成分)として、下記S1~S4を用いた。表1に、各溶媒の大気圧下での沸点を記す。
S1:3-メトキシブチルアセテート
S2:シクロヘキサノン
S3:γ-ブチロラクトン
S4:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0073】
表1に記載の種類、及び量(質量部)のエポキシ化合物(A)と、表2に記載の種類の光酸発生剤(B)1質量部と、界面活性剤(C)とを、表1に記載の種類の溶媒(S)に溶解させた。溶媒(S)の使用量を適宜調整することにより、25℃においてE型回転粘度計により測定された硬化性組成物の粘度が3000cP程度となるように硬化性組成物の濃度を調整し、各実施例、及び各比較例の硬化性組成物を得た。
界面活性剤(C)は、硬化性組成物中の界面活性剤の濃度が、表1に記載の濃度となるように、硬化性組成物に加えられた。
【0074】
得られた、各実施例、及び比較例の硬化性組成物について、以下の方法に従って、相溶性、塗布性、パターニング特性、及び硬度の評価を行った。これらの評価結果を表1に記す。
相溶性:
得られた硬化性組成物を1日間静置し、溶液の濁りの有無を目視で確認した。濁りが見られない場合をA、わずかに濁りが見られる場合をB、明確に濁っている場合をCと判定した。
塗布性:
得られた硬化性組成物をシリコン基板にスピンコートし、120℃のホットプレート上で15分間乾燥し、膜厚80μm~100μmの塗布膜を得た。得られた塗布膜を目視で観察し、均一に塗布され欠陥が見られない場合を◎、ストリエーションなどの凹凸が塗布膜の表面にわずかに観察される場合を〇、多数の凹凸が観察される場合を×と判定した。
パターニング特性:
得られた塗布膜を、ラインアンドスペース(100μm/100μm)のパターンを持つフォトマスクを通して露光した。光源としては高圧水銀灯を用いた。露光量は、300mJ/cmであった。続いて、120℃のホットプレート上で、露光された塗布膜に対して2分間の露光後加熱を行った。加熱後の塗布膜をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMEA)に浸漬することで、現像を行った。現像されたパターン化された硬化膜に対して、180℃で5分間のポストベイクを行った。パターニング特性としては、フォトマスクパターン通りの矩形なパターンが得られていれば〇、パターンの一部溶解や現像時の剥がれが観察された場合は×と判定した。
硬度:
パターニング評価と同様の方法で得られた硬化膜の表面硬度を、ナノインデンター(Agilent社製G200)を用いて計測した。硬度が0.25GPa以下であれば〇、硬度が0.25GPa未満であれば×と判定した。
【0075】
【表1】
【0076】
表1によれば、特定の分子量を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を所定量含むエポキシ化合物(A)と、有機溶媒溶液としての吸光度に関する前述の要件を満たす光酸発生剤(B)とを含み、前述の特定の濃度で界面活性剤(C)を含む実施例の硬化性組成物を用いると、硬化性組成物中での相分離を抑制しつつ、硬化性組成物を均一に塗布でき、高硬度かつ透光性に優れる硬化物を形成できることが分かる。