(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167781
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】結晶粒微細化剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20230101AFI20231116BHJP
C22C 32/00 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C22C1/10 G
C22C32/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079240
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義見
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】成田 麻未
(72)【発明者】
【氏名】玉川 晴基
【テーマコード(参考)】
4K020
【Fターム(参考)】
4K020AA22
4K020AA27
4K020AC01
4K020BB22
(57)【要約】
【課題】リサイクル材を金属母材とした結晶粒微細化剤の製造方法と、添加時に合金組成の変動がない結晶粒微細化剤を提供すること。
【解決手段】リサイクル材と異質核粒子を巨大ひずみ加工により固化して結晶粒微細化剤を製造する方法であり、リサイクル材は機械加工により発生した切削屑などである。結晶粒微細化剤は、微細化させる合金(超々ジュラルミン)と同一組成の母材金属(超々ジュラルミン)と異質核粒子(TiC粒子)とを含む。異質核粒子は、母材金属よりも高い融点を有し、かつ、所定の式で表されるパラメータMが10×10
-3以下である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材金属の中に少なくとも一種類以上の異質核粒子を含み、その母材金属がリサイクル材であることを特徴とする結晶粒微細化剤。
【請求項2】
前記リサイクル材として、機械加工により発生する切削屑を利用することを特徴とする請求項1に記載の結晶粒微細化剤。
【請求項3】
前記リサイクル材として、機械加工により発生するアルミニウム合金切削屑を利用することを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金用の結晶粒微細化剤。
【請求項4】
前記リサイクル材として、機械加工により発生する超々ジュラルミン合金切削屑を利用することを特徴とする請求項3に記載の超々ジュラルミン合金用の結晶粒微細化剤。
【請求項5】
母材金属の中に少なくとも一種類以上の異質核粒子を含み、その母材金属がリサイクル材であることを特徴とする結晶粒微細化剤であり、前記異質核粒子は、前記母材金属よりも高い融点を有し、かつ、式(1)で表されるパラメータMが10×10
-3以下である結晶粒微細化剤。
【数1】
(式中、ε
x及びε
yはそれぞれ異質核相の格子と凝固相の格子の各々で直交する主軸x及びyに沿った主軸ひずみであり、ε
x及びε
yは以下の式(2)及び式(3)で算出される。)
【数2】
【数3】
(式中、x
i、y
i及びx
j、y
jはそれぞれ物質i及び物質jの主軸ひずみ方向であり、a
i及びa
jはそれぞれ物質i及び物質jの格子定数である。)
【請求項6】
前記異質核粒子は、TiC、Al3TiおよびTiB2から選択される1種又は複数種の化合物粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶粒微細化剤。
【請求項7】
前記異質核粒子は、TiC粒子である、請求項6に記載の結晶粒微細化剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶粒微細化剤の製造方法であって、リサイクル材を巨大ひずみ加工により加熱すること無く固化することを特徴とする結晶粒微細化剤の製造方法。
【請求項9】
前記巨大ひずみ加工が圧縮ねじり加工であることを特徴とする請求項8に記載の結晶粒微細化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルに有効な鋳造アルミニウム用材料及び結晶粒微細化剤及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にリサイクルは3種類に分類され、それらはクローズド・リサイクル、カスケード・リサイクル及びサーマル・リサイクルと呼ばれる。クローズド・リサイクルとはスクラップを厳密に分別・回収し、それらを合金毎に再利用することで、成分の変化が少なく再生地金を得るリサイクル法である。アルミニウムでは、アルミ缶のcan to canリサイクルが代表される。このリサイクル方法では、比較的高品質な再生地金を得ることができるが、アルミ缶のように特定の合金を特別に回収し分別する必要があるため、その他工業製品に適用される例は少ない(非特許文献1)。
【0003】
カスケード・リサイクルは、異種合金の混在などにより一定の品質低下を認めつつ、再生地金を得る方法である。現在アルミニウムのリサイクルで主に用いられている方法は、このカスケード・リサイクルである。クローズド・リサイクルに比べ品質低下が大きいため、このカスケード・リサイクルによって得られた二次地金は強度などが低く、食器などの強度があまり求められない材料として利用される。そのため、輸送用機器のボディ材などの高強度、高品質が求められる部材には適用できず、これがアルミニウムのリサイクル率を低下させる主な要因となっている。3番目のサーマル・リサイクルは、廃材の燃焼時に得られる熱エネルギーを回収する手法であり、主にプラスチックなどのリサイクルに用いられている。
【0004】
アルミニウムのリサイクル技術として、様々な手法が報告されているが、再溶解リサイクル過程での不純物の除去法と、スクラップの再溶解を経ない再生法(非特許文献2)に大別できる。中でも再溶解を経ない、巨大ひずみ加工を用いたスクラップの固化成形技術は、不純物の混入が少なく、また省エネルギーで再生できるため、新たなリサイクル技術として期待されている。ここで、巨大ひずみ加工とは、変形を加えても試料形状が変化しない形状不変変形を主に利用した加工法であり、繰り返し加工が可能であるため大量の塑性ひずみが導入できる。しかしながら、巨大ひずみ加工法では、通常非常に大きな圧力が必要であり、一度の加工で得られる二次地金の量は乏しい。少量だが高品質、高強度を求められる部材には適用できるが、サイズの大きな部材の地金を得ることができない。
【0005】
例えば、超高強度を有する2000系や7000系アルミニウム合金、特に超ジュラルミンや超々ジュラルミンといったアルミニウム合金の中で最も強度の高い合金は、一体削り出し加工を用いることが多いため、この得られる二次地金が小さいという問題は致命的である。ここで、超ジュラルミンは銅を3.8~4.9%、マグネシウムを1.2~1.8%含有したJIS記号でA2024にて表されるアルミニウム合金で、航空機材料などに用いられている。また、超々ジュラルミンは亜鉛を5.5%、マグネシウムを2.5%、銅を1.6%含有したJIS記号でA7075にて表されるアルミニウム合金で、航空機やスキーなどのスポーツ用品に使われている。そのため、未だに再溶解を経るリサイクル過程が一般に行われており、その過程で得られる二次地金の品質向上も求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高杉篤美:軽金属 第59巻 第2号(2009),87
【非特許文献2】千野靖正、馬渕守:軽金属 第57巻 第6号(2007),250
【非特許文献3】加藤雅治:鉄と鋼 第78巻 第2号 (1992),209
【非特許文献4】森中真行:鋳造工学 第85巻 第8号 (2013),508
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超々ジュラルミンに代表される高強度アルミニウム合金は、非常に合金成分に敏感な合金であり、少量の不純物や異種合金の混入で強度が大きく低下してしまう。また、一体削り出し加工による成形が用いられることが多く、地金のうちの多くが切削屑などのスクラップとして排出される。そのスクラップを再生するとき、通常の再溶解リサイクル過程では、不純物の混入が避けられないため、大きく劣化した廉価な二次地金しか得ることができない。
【0008】
本発明は、超ジュラルミンや超々ジュラルミンをはじめとしたアルミニウム合金のリサイクル技術に関する。超ジュラルミンや超々ジュラルミンをはじめとしたアルミニウム合金の切削屑を用いることにより、母相が添加される合金と同一組成の結晶粒微細化剤製造法を提供し、添加により合金成分が変化しない結晶粒微細化剤を提供する。アルミニウム及びアルミニウム合金を溶融プロセスに供する際、溶湯中に凝固の異質核サイトとなる微細粒子を投入すると溶湯中の核生成サイト数が増加し、凝固組織の等軸晶化、微細化及び均質化が達成できるが、結晶粒微細化剤とは、この異質核サイトとなる微細粒子(異質核粒子)を含む合金であり、鋳造アルミニウム合金のみならず、展伸アルミニウム合金の溶解時にも添加されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様である結晶粒微細化剤は、アルミニウム合金の溶融プロセス時に用いられる。結晶粒微細化剤は、母材合金と異質核粒子とを含む。母材合金は、アルミニウム合金である。異質核粒子は、母材合金よりも高い融点を有し、かつ、式(1)で表されるパラメータMが12×10
-3以下である。
【数1】
(式中、ε
x及びε
yはそれぞれ異質核相の格子と凝固相の格子の各々で直交する主軸x及びyに沿った主軸ひずみであり、ε
x及びε
yは以下の式(2)及び式(3)で算出される。)
【数2】
【数3】
(式中、x
i、y
i及びx
j、y
jはそれぞれ物質i及び物質jの主軸ひずみ方向であり、a
i及びa
jはそれぞれ物質i及び物質jの格子定数である。)
【0010】
上記結晶粒微細化剤において、母材合金に対する異質核粒子の体積率は、20%以下であってもよい。
【0011】
また、母材合金はアルミニウム合金であってもよい。
【0012】
また、母材合金は、ジュラルミン、超ジュラルミン、超々超ジュラルミンであってもよい。
【0013】
また、異質核粒子は、TiC、TiB2、Al3Ti及び第三元素Meを添加して結晶構造をL12化した(Al1-xMex)3Tiから選択される1種又は複数種の化合物粒子であってもよい。
【0014】
また、異質核粒子は、TiC粒子であっても特によい。
【0015】
本発明の他の態様である結晶粒微細化剤の製造方法は、廃材であるスクラップを巨大ひずみ加工にて固化成形する技術を用い、固化成形過程で異質核粒子を添加することによって、母相が鋳造する合金と同一組成の結晶粒微細化剤を製造する手法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の結晶粒微細化剤を用いて鋳造を行えば、結晶粒の等軸晶化、微細化及び均質化が達成でき、鋳造材の強度を高めることができる。また、この結晶粒微細化剤を用いることで、添加による成分変動なく、結晶粒の等軸晶化、微細化及び均質化した鋳造材が得られ、高強度の鋳造材の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】重力鋳造法による結晶粒微細化剤添加の手法を示す模式図である.
【
図3】統合型熱力学計算ソフトウェアにより計算した(Al-5.8%Zn-2.6%Mg-0.2mass%Cr)-Cu擬二元系状態図である。
【
図4】使用した超々ジュラルミン切削屑の写真である。
【
図5】超々ジュラルミン切削屑により成形したプリフォームとTiC粒子からなる予備成形体の模式図である。
【
図6】TiC粒子を5体積分率含有させて製造した結晶粒微細化剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】TiC粒子を20体積分率含有させて製造した結晶粒微細化剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図8】(a)結晶粒微細化剤を添加せずに鋳造を行った試料の組織を示す図である。(b)10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を1g添加して鋳造を行った試料の組織を示す図である。(c)10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を2g添加して鋳造を行った試料の組織を示す図である。(d)10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を3g添加して鋳造を行った試料の組織を示す図である。(e)10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を4g添加して鋳造を行った試料の組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の結晶粒微細化剤は、例えば、鋳造用アルミニウム合金及び展伸用アルミニウム合金による添加剤として用いられ、母相合金と異質核粒子とを含む。母材合金は、アルミニウム合金である。異質核粒子は、母材合金よりも高い融点を有し、かつ、後述する式(1)で表されるパラメータMが10×10-3以下である。
【0019】
本発明において、異質核生成理論に基づき、添加される合金よりも高い融点を有し、かつ、微細化する合金の初晶となる相に対して原子配列の整合性の良い異質核粒子を予め混合した結晶粒微細化剤を提供する。
【0020】
合金の鋳造をこの結晶粒微細化剤を添加して行うと、結晶粒微細化剤の母材合金が溶融し、その後の冷却過程で凝固する際に異質核粒子が結晶成長の核として働くことになる。また、結晶粒微細化剤の母材合金の組成と溶解鋳造する合金の組成は等しいため、添加により合金成分の変動はない。かつ、溶融した母材合金に対して濡れ性が良好な場合、異質核粒子のサイズや分布を最適化することで、同一条件において鋳造した場合と比較し、様々な場所における均一な凝固が促進される。これにより、内部欠陥の少ない鋳造材を製造することができ、粗大かつ不均一な内部組織の発達を抑制することができる。
【0021】
上述した本発明の効果を発揮する異質核粒子を選定、評価する指標として、弾性ひずみに近似的に比例するパラメータM(非特許文献3)がある。パラメータMは、以下の式(1)で算出され、この値が小さいほど核生成に必要なエネルギーが小さくなるため、有効な異質核として働くとみなされている。
【数4】
式中、ε
x及びε
yは、それぞれ異質核相の格子と凝固相の格子の各々で直交する主軸x及びyに沿った主軸ひずみである。
【0022】
また、ε
x及びε
yは、以下の式(2)及び式(3)で算出される。
【数5】
【数6】
式中、x
i、y
i及びx
j、y
jは、それぞれ物質i及び物質jの主軸ひずみ方向である。また、a
i及びa
jは、それぞれ物質i及び物質jの格子定数である。
【0023】
パラメータMは、低指数面・方位だけでなく、すべての結晶方位関係に対して考慮することができる。また、パラメータMは異相界面に導入されるミスフィットひずみによる弾性ひずみエネルギーに近似的に比例することから、物理的意味合いをもつパラメータとなる。
【0024】
本発明では、融点とパラメータMで表される原子配列の整合性評価パラメータとの2種類の要素に基づいて、母材金属に対する有効な異質凝固核となる異質核粒子を選定し、これを母材金属に混合した結晶粒微細化剤を提供する。この際、母材合金の初晶であるα―アルミニウムに対して、高い融点を有し、かつ、パラメータMが10×10-3以下となる物質を異質核として選定する。
【0025】
母材金属と異質核の界面における結晶方位関係は無数に考え得るが、本発明では、例えば、このうち低指数面を考慮し、その中で値が最小のものを母材金属に対するその物質のパラメータMとすることができる。
【0026】
結晶粒微細化剤において、母材合金に対する異質核粒子の体積分率は、10%以上であることが好ましく、望むらくは20%であることが好ましい。この場合には、溶湯合金に結晶粒微細化剤を1体積分率添加した場合、溶湯合金中には0.2体積分率の異質核粒子が存在することになり、この異質核粒子が鋳造合金の結晶成長の核として有効に働く。すなわち、微細化剤全体を100体積%とした場合に、異質核粒子が10体積%以上であることが好ましい。この場合には、溶湯合金に結晶粒微細化剤を1体積分率添加した場合、溶湯合金中には0.1体積分率の異質核粒子が存在することになり、この異質核粒子が鋳造合金の結晶成長の核として有効に働く。体積分率を高めることにより、添加量を少なくすることが達成でき、例えば母材合金に対する異質核粒子の体積分率が20%の場合、母材合金に対する異質核粒子の体積分率が10%の微細化剤の1/2の量の添加で同等の微細化能を発現することになる。
【0027】
結晶粒微細化剤製造過程の母材合金は、どのような形態であってもよく、例えば、切削屑状であってもよいし、破砕粉などの粉末状であってもよい。したがって、巨大ひずみ加工による固化が可能であれば、母材合金はどのような形態であってもよい。
また、母材金属はリサイクル材として提供されるため、粉末化する必要が無く、省エネルギーかつ安価に入手できる。
【0028】
母材合金を構成する材料であるアルミニウム合金としては、例えば、ジュラルミン、超ジュラルミン、超々ジュラルミン、1000系合金、2000系合金、3000系合金、4000系合金、5000系合金、6000系合金、7000系合金及び8000系合金の他、AC1A、AC1B、AC2A、AC2B、AC3A、AC4A、AC4B、AC4C、AC4CH、AC5Aなどの鋳造合金、ADC1、ADC3、ADC12などのダイカスト合金などを用いることができる。
【0029】
異質核粒子としては、母材合金(アルミニウム合金)よりも高い融点を有し、かつ、パラメータMが10×10-3以下である物質を用いることができる。このような物質としては、例えば、TiC、TiB2、Al3Ti及び第三元素Meを添加して結晶構造をL12化した(Al1-xMex)3Tiから選択される1種又は複数種の化合物粒子を用いることができる。この中でも、パラメータMが小さく、母相金属との整合性が高いという点からTiC粒子が好ましい。
【0030】
異質核粒子は、上述したように、1種又は複数種の物質で構成することができる。また、異質核粒子は、異質核粒子による効果を十分に発揮するために、結晶粒微細化剤製造過程において母材合金中に均一に分布するように製造されることが好ましい。
【0031】
結晶粒微細化剤には、上述した本発明の効果を十分に発揮できる程度であれば、母材合金及び異質核粒子以外の材料、例えば、鋳造アルミニウム合金のSi粒子の形状変化や微細化を目的として用いられているSrやNaなど(非特許文献4)が含まれていてもよい。
【0032】
上述した結晶粒微細化剤を用いた鋳造方法は、通常の重力鋳造法の他、ダイキャスト法、連続鋳造法、遠心鋳造法、低圧鋳造法、フルモールド法、ロストワックス法、シェルモールド法、鋳ぐるみ鋳造法などの特殊鋳造にも用いることができる。また、巨大ひずみ加工として、圧縮ねじり変形、高圧ねじり変形、繰返し押出し加工、多軸鍛造法、繰返し重ね圧延法など、非バルク状材料の固化が可能な手法ならば何れを用いても構わない。
【0033】
鋳造方法の一例として、
図1に基づいて、重力鋳造法による結晶粒微細化剤添加の手法の説明を行う。まず、
図1(a)に示すように電気炉1にるつぼ2を配し、その中にアルミニウム合金インゴット3を充填する。そして、発熱体に通電することにより加熱し、アルミニウム合金インゴット3を溶融する。この時の温度を熱電対4にて計測すると同時に、アルゴンガス5により酸化を防ぐ。その後、結晶粒微細化剤6をアルミニウム合金溶湯7に添加し、熱電対4にて撹拌する(
図1(b))。この様にして得られた溶湯を耐熱レンガ8の上に置かれた鋳型9に注入し、鋳造を行う。
【0034】
巨大ひずみ加工の一例として、
図2に基づいて、圧縮ねじり変形の説明を行う。上下のダイス10の間に試料11を挿入し、圧縮負荷12の印加と同時に、互いに逆回転となるねじり負荷13の印加を行う。上下のダイス10には、ねじり負荷の伝達が効率よく達成できるよう、1mmの凹凸を設けてある。
【0035】
(実施例)
以下、本発明について実施例により説明する。
ここでは、結晶粒微細化剤の母相を構成する母材金属として、7000系アルミニウム合金である超々ジュラルミンを用いる。母材金属に選定した超々ジュラルミンは、航空機やスキーなどのスポーツ用品の材料として用いられる重要な合金である。航空機部品を製造する場合、通常は大きなバルク材より機械加工により削り出して製造する。超々ジュラルミンを選定した理由は、この時に発生する切削屑を利用することを目的としたためであり、本発明の域を脱しない限り、如何なる合金を使用しても問題ない。
【0036】
超々ジュラルミンは、Al-5.5%Zn-2.5%Mg-1.6%Cuの化学組成を有する。超々ジュラルミン、
図3に示すように、統合型熱力学計算ソフトウェアThermo-Calcの構成元素がアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、銅およびクロムであるとして作成した(Al-5.5%Zn-2.5%Mg-0.2mass%Cr)-Cu擬二元系状態図によると、1.6%Cuの組成では液相14を冷却するとおよそ680℃にて液相の中にα-Al相が初晶として晶出し、液相+α-Al相15の状態になる。
【0037】
したがって、超々ジュラルミンを結晶粒微細化剤の母材金属すなわち微細化させたい合金として選択した場合、超々ジュラルミンに対して融点が高く、超々ジュラルミンの初晶α-Al相に対して原子配列の整合性が高い異物質を異質核物質として選定することができる。
【0038】
次に、結晶粒微細化剤を構成する異質核粒子を選定する。
表1に、幾つかの化合物(TiB2、TiCおよびAl3Ti)の融点および表記した方位関係における上述した式(1)、式(2)及び式(3)を用いて算出したパラメータMを示す。なお、結晶格子の大きさは温度によって変化するため、室温(20℃)におけるパラメータMの値のみならず、アルミニウムの融点である660℃における値も併記している。
【0039】
【0040】
ここで、パラメータMによる評価について、例を挙げて説明する。例えば、面心立方格子(fcc)を有する超々ジュラルミンの初晶α-Al相に対し、異質核としてNaCl構造を有するTiCを考えた場合、それぞれの格子定数は、α-Al相が0.40496nm、TiCが0.4329nmである。
【0041】
凝固の際のα-Al相とTiCの界面がそれぞれの(100)面で平行となり、かつα-Al相の[011]方向とTiCの[011]方向が平行となる結晶方位関係が成り立つことを考慮すると、上述の式(1)、式(2)及び式(3)からε
x及びε
yは共に7.00×10
-2となる。これにより、室温でのパラメータMの値は12.5×10
-3となる。アルミニウム格子の温度依存性は
【数7】
によって得られ、TiCの線膨張係数が7.76×10
-6であるので、660℃における格子定数を求めることができ、これにより、660℃におけるパラメータMの値、7.89×10
-3という値を得る。
【0042】
表1に示すように、結晶構造がNaCl構造を有するTiCは、アルミニウム合金よりも融点が高く、660℃におけるパラメータMが10×10-3以下を示しているため、異質核として有効に働くものと考えられる。そこで、本実施例では異質核物質としてTiCを選択した。
【0043】
次に、結晶粒微細化剤を作製する。
まず、母材金属である超々ジュラルミン切削屑と、異質核粒子として選定したTiC粒子とを準備する。
【0044】
超々ジュラルミン切削屑は、
図4に示すものを選択した。超々ジュラルミン切削屑は、縦型マシニングセンターによるフライス加工によって発生した荒加工の切削屑で、超々ジュラルミンの鍛造素材を機械加工して製品加工する過程で発生したものである。なお、フライス加工とは、円筒形で複数の刃が付いたエンドミルとよばれる切削工具を高速に回転させ、工作物を切削する金属加工方法の一つである。TiC粒子は、粒径が2~5μmのものを選択した。TiC粒子は多角形の粒子である。
【0045】
そして、超々ジュラルミン切削屑を圧縮試験機にて直径40mm、厚さ約2mmの大きさになるよう200MPaの圧力を印加して圧縮し、プリフォームを作製した。
図5に示すように、プリフォーム16でTiC粒子17を挟み、予備成形体とした。結晶粒微細化剤は異質核粒子であるTiCが5体積分率、10体積分率および20体積分率となるように作製した。切削屑を圧縮して作製したプリフォームの枚数は、超々ジュラルミンの重量によって増減させている。製造した結晶粒微細化剤を表2にまとめる。
【0046】
【0047】
この予備成形体を、
図2に示した圧縮ねじり加工機に設置し、圧縮ねじり加工を施した。この時の加工条件は印加圧力100MPa、回転回数50回転および回転速度5.0rpmである。加工開始温度は室温である。
【0048】
図6に、TiC粒子を5体積分率含有させて製造した結晶粒微細化剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。同図から、母材金属である超々ジュラルミン18の中に、異質核物質であるTiC粒子19が埋め込まれている結晶粒微細化剤を観察することができる。切削屑により成形した結晶粒微細化剤の形状や寸法は次のようであった。円筒形状であり、その直径は40mmで高さは約14mmである。
また、
図6において厚さ方向とは、圧縮ねじり加工における圧縮方向であり、径方向とは、圧縮ねじり加工におけるねじり回転面に対する径のことである。そして、厚さ方向下部とは、鉛直方向に印加する圧縮方向において重力方向の下の部分、中央部とは、圧縮軸方向に対する中央の部分、厚さ方向上部とは、圧縮方向において重力方向とは逆の部分のことである。そして、径方向については、ねじりを最大に受ける位置が径方向外周部であり、ねじり回転軸部分が径方向中央部であり、径方向外周部と径方向中央部の中間の部分が径方向中間部である。試料形状が直径の40mmの円筒の場合、中心からの距離が0mmの部分が径方向中央部、中心からの距離が20mmの部分が径方向外周部、中心からの距離が10mmの部分が径方向中間部となる。
【0049】
同様に、TiC粒子を20体積分率含有させて製造した結晶粒微細化剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図7に示す。同図から、母材金属である超々ジュラルミン20の中に、異質核物質であるTiC粒子21が埋め込まれている結晶粒微細化剤を観察することができる。さらに、TiC粒子を5体積分率含有させて製造した結晶粒微細化剤と比べて、より多くのTiC粒子が製造した結晶粒微細化剤内に確認される。この様に、切削屑により成形したプリフォームと異質核粒子からなる予備成形体における異質核粒子の含有量を変化させることにより、異なる体積分率の異質核粒子を有する結晶粒微細化剤の製造に成功した。
【0050】
次に、この結晶粒微細化剤を用いて超々ジュラルミンの鋳造を行い、製造した結晶粒微細化剤の評価を行う。
上述した
図1に示した一連の鋳造法により、製造した結晶粒微細化剤の添加及び無添加による鋳造実験を行い、各種評価を行う。これにより、本発明のリサイクルにより発生した金属を母材とした結晶粒微細化剤の有用性について示す。
【0051】
鋳造実験手順として、るつぼ2に微細化剤の母相と同一組成のアルミニウム合金インゴット3を入れ、電気炉1を用いてアルゴンガス5雰囲気下で750℃まで昇温した。750℃で300秒保持した後、アルミニウム合金溶湯7に製造した結晶粒微細化剤6を投入後、熱電対4にて攪拌を30秒間実施した。この攪拌は、結晶粒微細化剤6を添加していないアルミニウム合金インゴット3のみを溶解したときのアルミニウム合金溶湯7にも施している。その後、速やかに鉄鋼製の鋳型9に注湯し、十分に空冷した後に鋳型9から試料を取り出した。表3はそれぞれの鋳造材の造塊と微細化剤の重量を示す。結晶粒微細化剤6としては、製造した何れの結晶粒微細化剤でも何ら問題ないが、本実施例では10体積分率のTiC粒子を含有させた実施例のみにて説明する。
【0052】
【0053】
図8(a)に結晶粒微細化剤を添加せずに鋳造を行った試料、
図8(b)に10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を1g添加して鋳造を行った試料、
図8(c)に10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を2g添加して鋳造を行った試料、
図8(d)に10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を3g添加して鋳造を行った試料および
図8(e)に10体積分率のTiC粒子を含有させた結晶粒微細化剤を4g添加して鋳造を行った試料のマクロ写真を示す。添加せずに鋳造した試料に比べ、本発明で得られた結晶粒微細化剤を添加することにより、結晶粒が細かくなっていることが分かる。
【0054】
上述した
図8の組織写真より、切片法により平均結晶粒径を算出し、その結果を表4に示す。結晶粒微細化剤を添加した鋳造材の平均結晶粒径は、結晶粒微細化剤を添加していないものと比較して、約4分の1にまで微細化されていた。この結果から、製造した結晶粒微細化剤は高い微細化能を有することが確認できた。また、結晶粒微細化剤を1g添加した試料と4g添加した試料を比較しても、結晶粒径に有意な差は見られなかった。このことより、本発明で得られた結晶粒微細化剤は、少量の添加でも十分な微細化能を有することが見いだされた。このことから、切削屑を用いて圧縮ねじり加工法により製造した結晶粒微細化剤は、他の作製法で作製した結晶粒微細化剤に比べ、鋳造時に少量の添加でも最大の微細化能を得ることができ、資源を節約できる。
【0055】
【0056】
また、上述した実施例では、異質核粒子としてTiC粒子を用いたが、表1に示したようにパラメータMが10×10-3以下であるAl3Ti粒子や10×10-3程度であるTiB2粒子を用いた場合であっても、同様の結果が得られるものと考えられる。また、結晶粒微細化剤の母材金属すなわち鋳造材として超々ジュラルミンを用いたが、例えば、超ジュラルミンやジュラルミンを用いた場合であっても、同様の異質核粒子(TiC、Al3Ti粒子、TiB2粒子)を用いることができ、同様の結果が得られるものと考えられる。また、結晶粒微細化剤の母材金属すなわち鋳造材として他のアルミニウム合金を用いることもできる。
【0057】
本発明は、上記実施形態(実施例)に何ら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。例えば、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換などしてもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【符号の説明】
【0058】
1…電気炉、2…るつぼ、3…アルミニウム合金インゴット、4…熱電対、5…アルゴンガス、6…結晶粒微細化剤、7…アルミニウム合金溶湯、8…耐熱レンガ、9…鋳型、10…1mmの凹凸を設けたダイス、11…試料、12…圧縮負荷、13…互いに逆回転となるねじり負荷、14…液相、15…液相+α-Al相、16…(切削屑により成形した)プリフォーム、17…TiC粒子、18…超々ジュラルミン母相、19…TiC異質核粒子、20…超々ジュラルミン母相、21…TiC異質核粒子