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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167828
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/20 20060101AFI20231116BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01B11/20
H01B7/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079317
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
(72)【発明者】
【氏名】中出 良樹
(72)【発明者】
【氏名】高津戸 実
(72)【発明者】
【氏名】矢口 敦郎
【テーマコード(参考)】
5G313
5G319
【Fターム(参考)】
5G313AB05
5G313AC03
5G313AD07
5G313AE08
5G319GA03
5G319GA08
(57)【要約】
【課題】屈曲に対する耐性を向上させることができるケーブルを提供する。
【解決手段】1本以上の電線2を有するケーブルコア3と、ケーブルコア3の周囲を覆うように設けられ、金属素線を螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなるシールド層5と、シールド層5の周囲を覆うように設けられたシース6と、を備え、金属素線は、半硬質の銅合金線であり、横巻きシールドにおける巻きピッチPと、シールド層5の層心径PDとの比であるP/PDが、9.9未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本以上の電線を有するケーブルコアと、
前記ケーブルコアの周囲を覆うように設けられ、金属素線を螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなるシールド層と、
前記シールド層の周囲を覆うように設けられたシースと、を備え、
前記金属素線は、半硬質の銅合金線であり、
前記横巻きシールドにおける巻きピッチPと、前記シールド層の層心径PDとの比であるP/PDが、9.9未満である、
ケーブル。
【請求項2】
前記金属素線は、銀を1%以上3%以下含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる半硬質の銅銀合金線である、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記金属素線は、引張強さが350MPa以上500MPa以下、伸びが5%以上10%未満である、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項4】
前記P/PDが、7.3以上9.9未満である、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項5】
前記ケーブルコアは、前記電線として、複数本の第1電線と、前記第1電線よりも外径が大きい複数本の第2電線と、を含み、
前記ケーブルコアは、前記複数本の第1電線を撚り合わせた内層部と、前記内層部の周囲に前記複数本の第2電線を撚り合わせた外層部と、を有する、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項6】
前記第1電線は、導体と、前記導体の周囲を覆うように設けられた絶縁体と、を有する絶縁電線からなり、
前記第2電線は、内部導体と、前記内部導体の周囲を覆うように設けられた内部絶縁体と、前記内部絶縁体の周囲を覆うように設けられた外部導体と、前記外部導体の周囲を覆うように設けられた外部絶縁体と、を有する同軸線からなる、
請求項5に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のケーブルとして、例えば、複数の信号線と電源線とが撚り合わせされたケーブルコア(集合コア)と、ケーブルコアの周囲に螺旋状に配置されたテープ部材と、テープ部材の周囲に配置されたシールド層と、シールド層の周囲に配置されたシース(シース)と、を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-143015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、小型の産業用ロボットの内部配線や、内視鏡等の医療用途に用いられるケーブルにおいては、ケーブルに対して屈曲または捻回が繰り返し付与される。また、自動車や小型電子機器等の内部配線に用いられるケーブルにおいては、配線箇所に応じた形状に屈曲させた状態で配線されることもある。そのため、特にケーブルを屈曲させて使用するときの耐性を向上させたいという要求がある。
【0005】
そこで、本発明は、屈曲に対する耐性を向上させることができるケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、1本以上の電線を有するケーブルコアと、前記ケーブルコアの周囲を覆うように設けられ、金属素線を螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなるシールド層と、前記シールド層の周囲を覆うように設けられたシースと、を備え、前記金属素線は、半硬質の銅合金線であり、前記横巻きシールドにおける巻きピッチPと、前記シールド層の層心径PDとの比であるP/PDが、9.9未満である、ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、屈曲に対する耐性を向上させることができるケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係るケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図2】屈曲試験を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0010】
図1は、本実施の形態に係るケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。ケーブル1は、例えば、小型の産業用ロボットの内部配線や、内視鏡等の医療用のケーブルとして用いられ、屈曲や捻回が加えられる用途に用いられる。
【0011】
ケーブル1は、1本以上の電線2を有するケーブルコア3と、ケーブルコア3の周囲を覆うように設けられ、金属素線を螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなるシールド層5と、シールド層5の周囲を覆うように設けられたシース6と、を備えている。
【0012】
(電線2)
ケーブルコア3は、電線2として、複数本の第1電線21と、複数本の第1電線21の周囲を囲うように設けられた複数本の第2電線22と、を含んでいる。なお、ケーブルコア3は、電線2が第1電線21のみで構成されていてもよい。また、ケーブルコア3は、電線2が第2電線22のみで構成されていてもよい。また、ケーブルコア3は、電線2として、2本の絶縁電線を対撚りしてなる対撚線を含んでいてもよい。
【0013】
第1電線21は、導体211と、導体211の周囲を覆うように設けられた絶縁体212と、を有する絶縁電線からなる。本実施の形態では、第1電線21は、電源供給用の電源線として用いられている。なお、図1に示すケーブル1では、4本の第1電線21のみをケーブル中心に対して略同一円周上に配置させた構造としているが、これに限定されない。例えば、ケーブル1は、複数本の第1電線21と信号伝送用の信号線(例えば第2電線22のような同軸ケーブル)とを、ケーブル中心に対して略同一円周上に配置させた構造としてもよい。この場合、信号線は、第1電線21と同等の外径を有することがよい。これにより、電源線としての第1電線21と信号線とを同一円周上に配置させた構造で、ケーブル1の外径を細径化することができる。
【0014】
第1電線21の導体211は、複数本の素線によって構成される。導体211は、例えば金属線からなる複数本の素線を集合撚りまたは同心撚りの状態に撚り合わせた撚線導体からなる。導体211に用いる素線としては、例えば外径0.01mm以上0.03mm以下と細径の金属線を用いることが望ましい。また、導体211に用いる素線は、細径としても強度を維持できるように、Cu-Ag合金等の銅合金線からなる金属線を用いるとよい。導体211の外径は、0.10mm以上0.30mm以下であるとよい。絶縁体212としては、薄い厚さでも所望の絶縁性能を有することが可能なPFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素樹脂を用いるとよい。なお、絶縁体212は、2層以上の絶縁層を積層させたものであってもよい。この場合では、例えば、絶縁体212が導体211の外表面に接する絶縁層がポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂で構成され、その絶縁層の周囲に設けられた絶縁層がフッ素樹脂で構成されていてもよい。絶縁体212が上述したような絶縁層が積層されたものからなることで、絶縁体212の厚さと第1電線21の可撓性や摩耗性等の機械的特性との調整がしやすくなる。
【0015】
第2電線22は、内部導体221と、内部導体221の周囲を覆うように設けられた内部絶縁体222と、内部絶縁体222の周囲を覆うように設けられた外部導体223と、外部導体223の周囲を覆うように設けられた外部絶縁体224と、を有する同軸線からなる。本実施の形態では、第2電線22は、信号伝送用の信号線として用いられる。すなわち、ケーブル1は、複数本の電源線としての第1電線21と、複数本の信号線としての第2電線22とを備えた複合ケーブルである。なお、図1に示すケーブル1では、8本の第2電線22のみをケーブル中心に対して略同一円周上に配置させた構造としているが、これに限定されない。例えば、ケーブル1は、複数本の第2電線22と電源供給用の電源線(例えば第1電線21のような絶縁電線)とを、ケーブル中心に対して略同一円周上に配置させた構造としてもよい。この場合、電源線は、第2電線22と同等の外径を有することがよい。電源線と第2電線22とが同等の外径を有することにより、信号線としての第2電線22と電源線とをケーブル中心に対して略同一円周上に配置させた構造において、ケーブル1の内部の余分な隙間を低減することができるため、ケーブル1の外径を細径化することができる。
【0016】
第2電線22の内部導体221は、金属線からなる複数本の素線を集合撚りまたは同心撚りの状態に撚り合わせた撚線導体からなる。また、外部導体223は、金属線からなる素線を内部絶縁体222の周囲に螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなる。なお、外部導体223は、金属線からなる複数本の素線を編み組みしてなる編組シールドで構成されていてもよい。内部導体221及び外部導体223に用いる素線としては、例えば外径0.01mm以上0.03mm以下と細径の金属線を用いることが望ましい。また、内部導体221及び外部導体223は、細径としても強度を維持できるように、Cu-Ag合金、Cu-Sn-In合金等の銅合金線からなる金属線を用いるとよい。内部絶縁体222及び外部絶縁体224としては、薄い厚さでも所望の絶縁性能を有することが可能なPFA等のフッ素樹脂を用いるとよい。外部絶縁体224がフッ素樹脂からなると、第1電線21と第2電線22との接触による摩耗を低減することができる。なお、内部絶縁体222は、2層以上の絶縁層が積層されたものであってもよい。この場合は、例えば、内部導体221に接する絶縁層がフッ素樹脂で構成され、この周囲に設けられた絶縁層がフッ素樹脂以外の樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂)で構成されていてもよい。内部絶縁体222が上述したような2層以上の絶縁層が積層されたものからなることで、ケーブル1に屈曲や捻回が加えられた際に、内部絶縁体222に亀裂が発生しにくくなるため、第2電線22の断線が抑制できる。
【0017】
(ケーブルコア3)
ケーブルコア3は、複数本(ここでは4本)の第1電線21を撚り合わせた内層部31と、内層部31の周囲に複数本(ここでは8本)の第2電線22を撚り合わせた外層部32と、を有している。本実施の形態では、ケーブルコア3に含まれる電線2の本数は合計で12本である。ただし、ケーブルコア3に含まれる電線2の本数(第1電線21の本数や第2電線22の本数)はこれに限定されず、例えば、合計で8本以上16本以下であるとよい。第2電線22の本数は、第1電線21の本数よりも多くするとよい。より具体的には、第2電線22の本数は、第1電線21の本数の2倍以上3倍以下とするとよい。これにより、隣り合う複数本の第2電線22同士、隣り合う複数本の第1電線21同士、および隣り合う複数本の第2電線22と複数本の第1電線21とが、互いに接触するように配置されるようになる。そのため、ケーブル1では、第2電線22が第1電線21よりも外径が大きい場合に、ケーブルコア3内の余分なスペースを無くすことができ、ケーブル1を細径化することができる。
【0018】
ケーブルコア3は、第1電線21と第2電線22とで構成される場合、第2電線22よりも外径の小さい第1電線21を内層部31に、第1電線21よりも外径の大きい第2電線22を外層部32に配置する構造とすることで、ケーブル1の細径化が可能になり、また耐屈曲性や耐捻回性の向上も図ることができる。なお、ケーブルコア3は、例えば、外径の大きい第2電線22を内層部31に、外径の小さい第1電線21を外層部32に配置する構造とすると、ケーブル1の屈曲時や捻回時に第2電線22よりも外径の小さい第1電線21に応力が集中して断線が発生しやすくなり、また、各電線2間(特に第1電線21同士の間)に無駄なスペースが大きくなり、ケーブル1全体の大径化につながってしまう。
【0019】
本実施の形態では、ケーブル中心(ケーブル長手方向に垂直な断面における中心部分)に抗張力繊維7を配置しており、この抗張力繊維7の周囲に複数本の第1電線21を撚り合わせて内層部31を構成している。抗張力繊維7としては、例えば、アラミド繊維からなるものを用いることができる。これにより、本実施の形態では、スフやジュート等の糸状の介在をケーブル中心に配置した構造に比べて、ケーブル1を細径化しやすくなる。なお、ケーブル1は、ケーブル中心に抗張力繊維7が設けられていなくてもよい。
【0020】
(テープ部材4)
ケーブル1は、ケーブルコア3の周囲に螺旋状に巻きつけられたテープ部材4を備えている。テープ部材4は、ケーブルコア3の撚りが解けないように保持する役割を果たす。テープ部材4としては、例えば、ポリイミド等の樹脂からなる樹脂テープ等を用いることができる。また、テープ部材4としては、例えば、アルミニウムや銅などからなる金属箔が樹脂テープにラミネートされた金属箔テープを用いることができる。このようなテープ部材4は、ケーブル1の可撓性を高めるといった観点から、ケーブルコア3を構成する複数本の電線2が撚り合わせされた方向(=撚り合わせ方向)と同じ方向に巻きつけられていることがよい。
【0021】
(シース6)
テープ部材4の周囲を覆うようにシールド層5が設けられており、そのシールド層5の周囲を覆うようにシース6が設けられている。シールド層5の詳細については、後述する。
【0022】
シース6は、シールド層5やケーブルコア3を保護する役割を果たす。ケーブル1の細径化のため、シース6の厚さはできるだけ薄いことが望ましく、0.20mm未満とされる。より望ましくは、シース6の厚さは、0.06mm以上0.20mm未満、より好ましくは0.06mm以上0.16mm未満であるとよい。シース6の厚さが0.06mm以上であることで、シース6の強度を確保して繰り返し屈曲・捻回した際にシース6に亀裂が生じることを抑制可能となる。また、シース6の厚さが0.20mm未満、より好ましくは0.16mm未満であることで、ケーブル1の大径化を抑制できる。なお、本発明において、「シース6の厚さ」とは、図1に示すケーブル1の長手方向の任意箇所の断面において、JISC3005に規定する試験方法によって求められるシース6の厚さの平均値を意味する。
【0023】
シース6の外径、すなわちケーブル1の最大外径(以下、シース6の最大外径ともいう)は、2.0mm以下である。より好ましくは、1.0mm以上2.0mm以下である。これにより、非常に狭いスペースにもケーブル1を配線可能となる。シース6としては、上記したシース6の厚さに形成可能なPFA等のフッ素樹脂を用いるとよい。なお、本発明において、「ケーブル1の最大外径」とは、ケーブル1の長手方向において外径が最も大きい特定の一か所を意味するものではなく、図1に示すケーブル1の長手方向の任意箇所の断面において、シース6の外径が最大となる部分のケーブル1の外径を意味する。ケーブル1の外径は、JISC3005に規定する試験方法に基づいて求めることができる。
【0024】
なお、本実施の形態ではシース6を1層構成としているが、シース6を内層と外層とからなる2層構成としてもよい。この場合、内層は放熱性を高める層になっているとよく、例えば、放熱フィラーをベース樹脂(フッ素樹脂)に含有させた樹脂組成物からなるとよい。
【0025】
また、ケーブル1は、シース6の外面の所定位置に、円周方向に沿って凹凸を有することがよい。例えば図1に示すように、ケーブル1の外面には、円周方向の所定位置に凹部61を有することがよい。ケーブル1では、このような凹凸を有することにより、シース6の外面がケーブル円周方向に沿って平滑に湾曲している場合(すなわち、ケーブル長手方向に垂直な断面におけるシース6の外形が円形状である場合)に比べて、省スペースな配線部分への配線がしやすくなる。
【0026】
(シールド層5)
シールド層5は、テープ部材4の周囲に金属素線を螺旋状に巻きつけて構成された横巻きシールドからなる。なお、例えば、金属素線を編み組みした編組シールドでシールド層5を構成した場合、特に細径の金属素線を用いる場合には、ケーブル1の繰り返し屈曲により金属素線同士が擦れて金属素線の断線が発生しやすくなる。これに対して、本実施の形態のようにシールド層5を横巻きシールドで構成することで、ケーブル1の屈曲時における金属素線同士の擦れを抑制することができ、耐屈曲性を向上できる。また、シールド層5を編組シールドで構成した場合、金属素線の重なりの影響によりシールド層5の厚さが厚くなり、ケーブル1の外径が大径となってしまうが、本実施の形態のようにシールド層5を横巻きシールドで構成することで、金属素線の重なりを抑制してシールド層5を薄くし、ケーブル1の外径を細径に維持できる。
【0027】
(シールド層5に用いる金属素線)
本実施の形態では、シールド層5に用いる金属素線として、半硬質の銅合金線を用いる。このような金属素線としては、例えば、銀を1%以上3%以下含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる半硬質の銅銀合金線を用いることができる。なお、金属素線は、半硬質の銅銀合金線以外でもよく、例えば、クロム、ジルコニウム、マグネシウム、インジウム、錫などを0.01%以上0.50%以下で含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる半硬質の銅合金線(例えば、Cu-Cr合金、Cu-Zr合金、Cu-Mg合金、Cu-Sn合金、Cu-Sn-In合金、Cu-In合金等)であってもよい。半硬質の銅合金線は、引張強さが350MPa以上500MPa以下、伸びが5%以上10%未満である。なお、一般に、硬質の銅合金線は、伸びが5%未満であり、軟質の銅合金線は、伸びが10%以上である。ここでいう「伸び」及び「引張強さ」は、JISZ2241に規定する試験方法によって求められる「破断伸び」及び「引張強さ」を意味する。
【0028】
半硬質の銅合金線をシールド層5の金属素線として用いることで、金属素線の引張強さが大きくなり、シールド層5の耐屈曲性を向上させることができる。これは、ケーブル1を屈曲した際には、曲げの外側において金属素線の表面に引張ひずみが負荷されるが、金属素線の引張強さが高いほど塑性変形が始まる降伏応力(銅の場合は0.2%耐力)が高くなり、塑性変形量が小さくなるためである。つまり、引張強さが大きい金属素線の方が繰り返し屈曲によって蓄積されるひずみが少なくなるため、破断までの屈曲回数が多くなり、耐屈曲性が向上する。
【0029】
また、シールド層5に用いる金属素線の伸びが小さすぎる場合にもシールド層5の耐屈曲性は低下してしまうが、半硬質の銅銀合金線をシールド層5の金属素線として用いることで、伸びの影響による耐屈曲性の低下も抑制できる。ただし、本発明者らが検討したところ、伸びが大きすぎる場合にも強度が下がり耐屈曲性が低下することが判明したため、シールド層5に用いる金属素線の伸びは10%未満であることがより望ましいといえる。このように、比較的大きい引張強さと伸びとを兼ね備えた(引張強さ350MPa以上500MPa以下、かつ、伸びが5%以上10%未満である)半硬質の銅合金線をシールド層5の金属素線として用いることで、シールド層5の耐屈曲性を向上することができる。なお、金属素線として、半硬質であり、引張強さが350MPa以上500MPa以下であり、伸びが5%以上10%未満である銅銀合金線を使用した場合に、上述した作用,効果が特に得られやすい。
【0030】
本実施の形態では、非常に細い金属素線を用いるため、使用する銅に不純物が多く含まれていると、その不純物を起点として断線が発生しやすくなる。よって、シールド層5に用いる金属素線としては、銅の純度が99.99%以上の銅合金線を用いることがより望ましい。さらに、シールド層5に用いる金属素線は、導電率が85%以上IACS以上であることがより望ましい。これにより、放熱性を向上させることができる。
【0031】
金属素線として用いる半硬質の銅合金線は、硬質の銅合金線(引張強さ800MPa以上、伸び1%以上)に対して、所定の温度(500℃以上650℃以下)で1.5秒以下の短時間加熱を行うことで得ることができる。
【0032】
(シールド層5の巻きピッチP)
さらに、本実施の形態では、横巻きシールドからなるシールド層5における巻きピッチPは、巻きピッチPとシールド層5の層心径PDとの比であるP/PDが、9.9未満となるように設定される。本実施の形態では、P/PDを6.6以上9.9未満とした。なお、巻きピッチPとは、シールド層5を構成する任意の金属素線において周方向位置が同じとなる箇所のケーブル長手方向に沿った間隔である。
【0033】
また、シールド層5の層心径PDとは、ケーブル長手方向に垂直な断面において、シールド層5の中心(金属素線の中心)を通る円の直径を意味する。シールド層5の層心径PDは、ケーブルコア3の最大外径と、テープ部材4の厚さ×2と、金属素線の半径×2とを足し合わせることで算出することができる。なお、「ケーブルコア3の最大外径」とは、ケーブルコア3の長手方向において外径が最も大きい特定の一か所を意味するものではなく、図1に示すケーブル1の長手方向の任意箇所の断面において、外径が最大となる部分のケーブルコア3の外径を意味する。
【0034】
本実施の形態では、シールド層5の層心径PDを1.36mmとした。この場合、巻きピッチPを、9mm以上13.5mm未満とすればよい。
【0035】
横巻シールドの巻きピッチPを大きくしすぎると、ケーブル長手方向に対して平行に近い状態で金属素線が配置されることになり、屈曲させた際に金属素線に負荷される曲げひずみが大きくなり、耐屈曲性が低下してしまう。横巻シールドの巻きピッチPを小さくすること、より具体的には、P/PDを9.9未満とすることで、繰り返し曲げた際に金属素線に蓄積されるひずみを低減して、耐屈曲性を向上することが可能になる。
【0036】
なお、シールド層5の層心径PDを1.36mmとした場合、シールド層5における金属素線の巻きピッチPを10mm以上13.5mm未満とすること、すなわち、P/PDを7.3以上9.9未満とすることで、上記した屈曲への耐性を維持しながら、繰り返し捻回に対する耐性、すなわち耐捻回性も向上することができる。
【0037】
(シールド層5に用いる金属素線の外径)
ところで、従来のケーブルでは、細径化のため(すなわち、シースの最大外径を2.0mm以下とするため)にケーブルの最外層に設けられるシースを厚さ0.20mm未満と薄くすると、ケーブルに屈曲や捻回を繰り返し加えた際に、シースに亀裂が生じることがあった。本発明者らが検討したところ、ケーブルを繰り返し捻回させた際に、ケーブル長手方向の一部分においてシールド層にうねりが生じ、そのうねった部分においてシールド層を構成する金属素線に断線が生じてしまうことが分かった。そして、そのシールド層における断線部分と当該断線部分に接しているシースとが捻回によって擦れ、シースが摩耗することで、シースに亀裂が生じてしまうことが分かった。本発明者らは、このようなシールド層におけるうねりの発生が、捻回の際に、シールド層を構成する複数本の金属素線の外径が所定の外径を有する場合に、当該シールド層がテープ部材と共にケーブルコア側(図1では、周方向に隣り合う第2電線22間の谷間)へ落ち込み、テープ部材とシースとの間に隙間が生じること等に起因することを見出した。
【0038】
そこで、本実施の形態に係るケーブル1では、シース6の最大外径を2.0mm以下とする場合において、シールド層5に用いる金属素線の外径を、シース6の厚さの1/2倍以上1倍以下とした。金属素線の外径をシース6の厚さの1/2倍以上とすることで、金属素線の剛性が低くなりすぎることを抑制でき、ケーブル1の捻回を繰り返した際に、金属素線がテープ部材4と共にケーブルコア3側(周方向に隣り合う第2電線22間の谷間)に落ち込んでテープ部材4とシース6との間に隙間が生じてしまうことが抑制される。その結果、シールド層5にうねりが発生することを抑制でき、うねりに起因するシールド層5の断線の発生を抑制することが可能になると共に、シールド層5の断線部分との擦れによるシース6の亀裂発生を抑制することが可能になる。また、金属素線の外径をシース6の厚さの1/2倍以上とすることで、金属素線の強度が低下して断線が発生しやすくなるといった不具合も抑制できる。なお、本発明において、「金属素線の外径」とは、シールド層5を構成する金属素線の直径をJISC3002に規定する試験方法によって測定したときの平均値を意味する。
【0039】
また、例えば金属素線の外径がシース6の厚さの1倍を超える場合、金属素線の剛性が大きくなるため、一方向に捻回して金属素線が伸びた後、他方向に捻回したときに金属素線の伸びを吸収できずにキンクが発生してしまい、金属素線に断線が発生するおそれが生じてしまう。本実施の形態のように、金属素線の外径をシース6の厚さの1倍未満とすることで、このような金属素線の断線の発生を抑制して、シールド層5の断線部分との擦れによるシース6の亀裂発生も抑制可能になる。
【0040】
本実施の形態のようにケーブル1の最大外径(すなわち、シース6の最大外径)を2.0mm以下とする場合、上記のようにシース6の厚さは0.06mm以上0.16mm未満であることが望ましいといえる。よって、これに対応して、シールド層5に用いる金属素線の外径は、0.03mm以上0.16mm未満であることが望ましいといえる。
【0041】
(屈曲試験)
ケーブル1を試作し、屈曲試験を行った。屈曲試験では、図2に示すように、試料となるケーブル1の下端に荷重W=100gfの錘を吊り下げ、ケーブル1の左右に湾曲した形の曲げジグ80を取り付けた状態で、曲げジグ80に沿って左右方向に向けて屈曲角度±90°以上±150°以下の曲げを加えるようにケーブル1を繰り返し屈曲させた。屈曲半径(曲げ半径)Rは、ケーブル1の外径(外径:約1.6mm)の7.5倍以下とし、屈曲速度は30回/分とし、屈曲回数は左右方向への1往復を1回としてカウントした。そして、ケーブル1の屈曲を繰り返し、適宜回ごとにシース6の外観を観察し、シース6に亀裂が発生しているかどうか確認し、15万回以上屈曲を繰り返してもシース6に亀裂が発生しなければ合格(〇)とし、シース6に亀裂が発生していれば不合格(×)とした。さらに、屈曲回数15万回のときの抵抗値を測定し、初期の抵抗値からの抵抗値増加率を算出した。そして、算出した抵抗値増加率が20%未満である場合を合格(〇)とし、20%以上である場合を不合格(×)とした。また、試料数は3本とし、シース亀裂及び抵抗値増加率の評価においては、3本の試料のうちいずれかで不合格が生じた場合に不合格とし、3本全ての試料で合格となった場合にのみ合格と評価した。
【0042】
試料のケーブル1としては、シールド層5を半硬質の銅合金線からなる横巻きシールドで構成し、横巻きシールドの巻きピッチPを9.5mm(P/PD=7.0)とした実施例1、巻きピッチPを11.5mm(P/PD=8.5)とした実施例2のケーブル1を用いた。実施例1,2のケーブル1では、シールド層5の金属素線として、銀を2%含有し残部が銅及び不可避不純物からなる半硬質の銅銀合金線(引張強さ:約400MPa、伸び:8%~9%)を用い、シールド層5の厚さ(金属素線の外径)を約0.05mmとし、シールド層5の層心径PDを1.36mmとし、シース6の厚さを約0.08mmとし、ケーブル1の外径を約1.6mmとした。
【0043】
また、巻きピッチPを13.5mm(P/PD=9.9)とした比較例1、巻きピッチPを15.0mm(P/PD=11.0)とした比較例2のケーブルを作成し、実施例1,2のケーブル1と同様に屈曲試験を行った。比較例1,2のケーブルでは、巻きピッチPを変更した以外は実施例1,2のケーブル1と同じ構成とした。
【0044】
さらに、シールド層を編組シールドで構成し、編組ピッチを10.8mmとした従来例1、編組ピッチを16.6mmとした従来例2を作成し、実施例1,2のケーブル1と同様に屈曲試験を行った。従来例1,2のケーブルでは、編組シールドの厚さを約0.03mmとし、シールド層の層心径PDを1.38mmとした。また、編組シールドを構成する金属素線として、錫を0.19%、インジウムを0.2%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる軟質の銅合金線(引張強さ:約370MPa、伸び:12%~13%)を用いた。実施例1,2、比較例1,2、及び従来例1,2の各ケーブルにおける屈曲試験結果をまとめて表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、巻きピッチPを13.5mm以上と大きくし、P/PDを9.9以上とした比較例1,2では、抵抗値増加率が20%以上となり、抵抗値増加率が不合格となった。また、編組シールドを用いた従来例1,2では、シースに割れが発生してしまうことが確認できた。これに対して、巻きピッチPを13.5mm未満とし、P/PDを9.9未満とした実施例1,2では、抵抗値増加率、シース割れ共に合格となることが確認できた。
【0047】
表1の結果より、シールド層5に用いる金属素線として半硬質の銅合金線を用い、P/PDを9.9未満とすることで、繰り返し屈曲による抵抗値増加率を低減すると共に、シース6に割れが発生してしまうことを抑制でき、ケーブル1に屈曲を繰り返し行ったときの耐性を向上できることが確認できた。すなわち、本実施の形態によれば、±90度以上の左右屈曲試験において、少なくとも15万回の繰り返し屈曲に対してシールド層5を構成する金属素線の抵抗値増加が初期の抵抗値の20%未満であり、かつシース6に割れが生じない、耐屈曲性の高いケーブル1を実現できる。
【0048】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るケーブル1では、1本以上の電線2を有するケーブルコア3と、ケーブルコア3の周囲を覆うように設けられ、金属素線を螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなるシールド層5と、シールド層5の周囲を覆うように設けられたシース6と、を備え、シールド層5に用いる金属素線は、半硬質の銅合金線であり、横巻きシールドにおける巻きピッチPと、シールド層5の層心径PDとの比であるP/PDを9.9未満としている。
【0049】
このように構成することで、±90度以上の左右屈曲試験において、少なくとも15万回の繰り返し屈曲に対してシールド層5を構成する金属素線の抵抗値増加が初期の抵抗値の20%未満であり、かつシース6に割れが生じない、耐屈曲性の高いケーブル1を実現できる。すなわち、本実施の形態によれば、屈曲を繰り返し行ったときの耐性を向上したケーブル1を実現できる。
【0050】
また、本実施の形態に係るケーブル1では、横巻きシールドからなるシールド層5を構成する金属素線の外径を、シース6の厚さの1/2倍以上1倍以下としている。これにより、シース6の最大外径を2.0mm以下とケーブル外径を細くし、シース6の厚さを0.20mm未満と薄くした場合でも、繰り返し捻回によってシールド層5に断線が生じることを抑制して、当該断線部分との擦れによるシース6の亀裂の発生を抑制することが可能になる。すなわち、本実施の形態によれば、シース6が薄く細径であり、かつ、繰り返し捻回によってシース6に亀裂が生じにくいケーブル1を実現できる。
【0051】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0052】
[1]1本以上の電線(2)を有するケーブルコア(3)と、前記ケーブルコア(3)の周囲を覆うように設けられ、金属素線を螺旋状に巻きつけた横巻きシールドからなるシールド層(5)と、前記シールド層(5)の周囲を覆うように設けられたシース(6)と、を備え、前記金属素線は、半硬質の銅合金線であり、前記横巻きシールドにおける巻きピッチPと、前記シールド層(5)の層心径PDとの比であるP/PDが、9.9未満である、ケーブル(1)。
【0053】
[2]前記金属素線は、銀を1%以上3%以下含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる半硬質の銅銀合金線である、[1]に記載のケーブル(1)。
【0054】
[3]前記金属素線は、引張強さが350MPa以上500MPa以下、伸びが5%以上10%未満である、[1]または[2]に記載のケーブル(1)。
【0055】
[4]前記P/PDが、7.3以上9.9未満である、[1]乃至[3]のいずれかに記載のケーブル(1)。
【0056】
[5]前記ケーブルコア(3)は、前記電線(2)として、複数本の第1電線(21)と、前記第1電線(21)よりも外径が大きい複数本の第2電線(22)と、を含み、前記ケーブルコア(3)は、前記複数本の第1電線(21)を撚り合わせた内層部(31)と、前記内層部(31)の周囲に前記複数本の第2電線(22)を撚り合わせた外層部(32)と、を有する、[1]乃至[4]のいずれかに記載のケーブル(1)。
【0057】
[6]前記第1電線(21)は、導体(211)と、前記導体(211)の周囲を覆うように設けられた絶縁体(212)と、を有する絶縁電線からなり、前記第2電線(22)は、内部導体(221)と、前記内部導体(221)の周囲を覆うように設けられた内部絶縁体(222)と、前記内部絶縁体(222)の周囲を覆うように設けられた外部導体(223)と、前記外部導体(223)の周囲を覆うように設けられた外部絶縁体(224)と、を有する同軸線からなる、[5]に記載のケーブル(1)。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0059】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、ケーブルコア3が複数の電線2を含む場合について説明したが、これに限らず、ケーブルコア3が1本の電線2で構成されていてもよい。この場合、ケーブル1は、1本の絶縁電線の周囲にシールド層5とシース6とが順次設けられた同軸ケーブルであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…ケーブル
2…電線
21…第1電線
211…導体
212…絶縁体
22…第2電線
221…内部導体
222…内部絶縁体
223…外部導体
224…外部絶縁体
3…ケーブルコア
31…内層部
32…外層部
4…テープ部材
5…シールド層
6…シース
7…抗張力繊維
図1
図2