(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167909
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】隣接ジオール誘導体の製造方法及び触媒
(51)【国際特許分類】
C07C 29/48 20060101AFI20231116BHJP
C07C 33/035 20060101ALI20231116BHJP
C07C 67/05 20060101ALI20231116BHJP
C07C 69/145 20060101ALI20231116BHJP
C07C 69/16 20060101ALI20231116BHJP
C07C 29/50 20060101ALI20231116BHJP
B01J 27/057 20060101ALI20231116BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C07C29/48
C07C33/035
C07C67/05
C07C69/145
C07C69/16
C07C29/50
B01J27/057 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079452
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福本 和貴
(72)【発明者】
【氏名】辻 秀人
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169BC21A
4G169BC22A
4G169BC25A
4G169BC26A
4G169BC27A
4G169BC30A
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC71B
4G169BD07A
4G169BD08A
4G169BD09A
4G169BD10A
4G169BD10B
4G169CB07
4G169DA05
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC48
4H006BA05
4H006BA15
4H006BA24
4H006BA33
4H006BA55
4H006BA60
4H006BA81
4H006BA85
4H006BC10
4H006BE30
4H006BN10
4H006FE11
4H006FG29
4H006KA12
4H039CA60
4H039CA66
4H039CC40
(57)【要約】
【課題】収率や選択性良く不飽和炭化水素の不飽和結合の隣り合った炭素(隣接炭素)に
酸素を導入する酸化触媒を提供するものである。また、その触媒を用いて不飽和炭化水素
の酸化を行って効率良く目的のジオール誘導体を得る方法を提供することである。
【解決手段】触媒及び式(1)で表されるカルボン酸存在下において、該触媒が、第11
族元素、および半金属元素としてS、Se、Te、P、As、Sb、Bi、Sn及びPb
からなる群より選ばれる元素の1種以上を含有するものであり、分子状酸素を用いて式(
2)で表される不飽和炭化水素の不飽和結合の隣接炭素を酸化し化合物を得る、含酸素化
合物の製造方法により解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒及び式(1)で表されるカルボン酸存在下において、
該触媒が、第11族元素、および半金属元素としてS、Se、Te、P、As、Sb、
Bi、Sn及びPbからなる群より選ばれる元素の1種以上を含有するものであり、
分子状酸素を用いて式(2)で表される不飽和炭化水素の不飽和結合の隣接炭素を酸化
し、式(3)~式(6)のいずれかで表される化合物を得る、含酸素化合物の製造方法。
【化1】
[式(1)において、
R
1は、水素原子、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基を表す。]
【化2】
[式(2)において、
R
2、R
3、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R
4は、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、
R
2とR
4は、結合して環を形成していてもよい。]
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式(3)~(6)において、
R
1~R
6は、それぞれ独立であり、式(1)及び(2)のR
1~R
6とそれぞれ同義
である。]
【請求項2】
前記式(1)R1が、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の含
酸素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記不飽和結合の隣接炭素を酸化する反応温度が、25℃以上200℃以下である、請
求項1又は2に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項4】
不飽和炭化水素の不飽和結合の隣接炭素を酸化する触媒であって、
第11族元素、半金属元素としてS、Se、Te、P、As、Sb、Bi、Sn及びP
bからなる群より選ばれる元素の1種以上を含有するものである、触媒。
【請求項5】
前記第11族元素がAuである、請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
前記半金属元素がTeである、請求項4又は5に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和炭化水素を酸化して含酸素化合物を製造する方法及び触媒に関するも
のである。具体的には酸化反応により不飽和炭化水素の1つの不飽和結合の隣り合った炭
素それぞれに酸素を結合させて含酸素化合物(以下隣接ジオール誘導体と呼ぶ)を得る方
法及び該方法に用いる触媒である。カルボン酸存在下で2種以上の元素を活性成分とする
触媒を用いて分子状酸素を酸素源として酸化反応を行う特徴を有し、カルボキシ基ひとつ
とOH基一つ、カルボキシ基二つ、またはOH基二つが不飽和結合の隣接した炭素に導入
された含酸素化合物(以下隣接ジオール誘導体と呼ぶ)を得る。
Auに代表される第11族元素とTeに代表される半金属元素を有する触媒を用いる。
例えば、不飽和炭化水素として1,3-ブタジエン、カルボン酸として酢酸を用いれば、
3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3-ヒドロキシ-4-アセトキシ-1-ブテン、3
-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等が得
られる。
【背景技術】
【0002】
ジオール誘導体は、ポリマー原料の重合用モノマーとなる有用な化合物である。なかで
も3,4-ジアセトキシ-1-ブテンは、ビニルエステル樹脂などのモノマーとして工業
的に利用されている。しかし、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンは単純な製造方法で得
られる化合物ではない。例えば、1,3-ブタジエンからパラジウムテルル触媒などの酸
化触媒を用いて酸化アセトキシル化を行った場合は、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン
が主に生成し、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンは副生物として少量が得られるに過ぎ
ない。この1,4-ジアセトキシ-2-ブテンを異性化することによっても3,4-ジア
セトキシ-1-ブテンは得られるが異性化のための追加の工程が必要となる。
3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを直接的に製造する方法としては、例えば、1,3
-ブタジエンと酢酸及び無水酢酸をハロゲン化リチウムや酸化テルルなどの触媒の存在下
にアセトキシ化反応させる方法が報告されている(非特許文献1、非特許文献2及び非特
許文献3)。しかし収率は低く、ハロゲン化リチウムのような追加の試薬を必要とするこ
とから効率的ではない。
一方、特許文献1のような触媒や過酸化水素等の過酸素種を用いる等の方法で不飽和炭
化水素の不飽和結合をエポキシ化し、エポキシ化合物を経由して(エポキシ環を開いて)
隣接ジオール誘導体を得る方法も考えられる。1,3-ブタジエンを原料にする場合を例
にすれば、一旦、3,4-エポキシ-1-ブテンを得て、それと無水酢酸を反応させて3
,4-ジアセトキシ-1-ブテンに変換することが可能である(特許文献2)。しかし、
過酸化水素などの過酸素種が必要となることもあり、工程が複雑になることが懸念される
。
このような状況から、分子状酸素を用いた酸化によって、不飽和炭化水素の不飽和結合
の隣り合った炭素を酸化し、隣り合った炭素それぞれに酸素が導入された化合物(隣接ジ
オール誘導体)を直接的かつ選択的に得る方法(1,3-ブタジエンの酢酸存在下での酸
化反応を例にすれば、直接に3,4-ジアセトキシ-1-ブテンに代表される化合物を得
る方法)が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許6455713号公報
【特許文献2】国際公開2000/024702号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,1985,Pages 499-503
【非特許文献2】Tetrahedron Letters Volume 22,Issue 52,1981,Pages 5331-5334
【非特許文献3】Tetrahedron,Volume 37,Issue 2,1981,Pages 291-295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものである。その目的は、収率や選択性良く不飽和
炭化水素の不飽和結合の隣り合った炭素(隣接炭素)に酸素を導入する酸化触媒を設計す
ることである。その触媒を用いて不飽和炭化水素の酸化を行って効率良く目的の隣接ジオ
ール誘導体を得ることにあり、1,3-ブタジエンのみならず他の不飽和炭化水素にも適
用できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、酢酸等のカルボン酸存在下における不飽和炭化水素の分子状酸素による酸
化反応の触媒として、従来触媒的に不活性とされていたAu等の第11族元素と、第11
族元素の電子構造的特性を変化させる半金属との組み合わせに着目した。鋭意検討を重ね
た結果、Au等の第11族元素と半金属として、S、Se,Te、P、As、Sb、Bi
、Sn及びPbから選ばれる少なくとも一種の元素の適切な組み合わせの触媒が特徴ある
選択性を示し、不飽和結合の隣接した炭素に酸素を導入した化合物が選択的に得られるこ
とを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の[1]~[6]を要旨とする。
【0007】
[1]触媒及び式(1)で表されるカルボン酸存在下において、
該触媒が、第11族元素、および半金属元素としてS、Se、Te、P、As、Sb、
Bi、Sn及びPbからなる群より選ばれる元素の1種以上を含有するものであり、
分子状酸素を用いて式(2)で表される不飽和炭化水素の不飽和結合の隣接した炭素を
酸化し、式(3)~式(6)のいずれかで表される化合物を得る、含酸素化合物の製造方
法。
【化1】
[式(1)において、
R
1は、水素原子、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基を表す。]
【化2】
[式(2)において、
R
2、R
3、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R
4は、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、
R
2とR
4は、結合して環を形成していてもよい。]
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式(3)~(6)において、
R
1~R
6は、それぞれ独立であり、式(1)及び(2)のR
1~R
6とそれぞれ同義であ
る。]
[2]前記式(1)R
1が、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基である、[1]に記載
の含酸素化合物の製造方法。
[3]前記不飽和結合の隣接炭素を酸化する反応温度が、25℃以上200℃以下であ
る、[1]又は[2]に記載の含酸素化合物の製造方法。
[4]不飽和炭化水素の不飽和結合の隣接炭素を酸化する触媒であって、
第11族元素、半金属元素としてS、Se、Te、P、As、Sb、Bi、Sn及びPb
からなる群より選ばれる元素の1種以上を含有するものである、触媒。
[5]前記第11族元素がAuである、[4]に記載の触媒。
[6]前記半金属元素がTeである、[4]又は[5]に記載の触媒。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第11族元素、半金属元素としてS、Se、Te、P、As、Sb、
Bi、Sn及びPbからなる群より選ばれる元素の1種以上を含有する触媒を用いること
により、カルボン酸存在下において、分子状酸素を用いて不飽和炭化水素の不飽和結合の
隣接炭素を酸化し、工業的に有用なジオール誘導体を、不飽和炭化水素から一段階で効率
よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明
は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0010】
(不飽和炭化水素)
本発明は、触媒及びカルボン酸存在下において不飽和炭化水素を酸化して化合物(隣接
ジオール誘導体)を得る。二重結合を有する不飽和炭化水素としては、以下の式(2)で
与えられる。
【化7】
【0011】
[式(2)において、
R2、R3、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R4は、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、
R2とR4は、結合して環を形成していてもよい。]
【0012】
R2、R3、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、メチル基の
水素原子は置換されていてもよい。R3及びR6がメチル基の場合、メチル基の水素原子は
、ヒドロキシ基、ホルミル基、カルボキシ基、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、スルホ基
等と置換していてもよい。
式(2)としては、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘ
キサジエン、シクロヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン等のジエン
化合物が挙げられる。
上記のなかでも、酸化反応が制御しやすい不飽和炭化水素である1,3-ブタジエンが
特に好適である。
【0013】
(カルボン酸)
本発明に用いられるカルボン酸は式(1)で表される。
【化8】
【0014】
[式(1)において、
R1は、水素原子、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基を表す。]
【0015】
R1は、水素原子、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基を表し、これらの中でも炭素数
1又は2の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、炭素数1又は2の脂肪族炭化
水素基は置換基を有していてもよい。
式(1)で表されるカルボン酸は特に限定されず、複数のカルボン酸を用いてもよい。
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸
、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸などの飽和脂肪酸;安息香酸、フタル酸、イソフタ
ル酸などの芳香族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのジカルボン酸;など
が挙げられる。高い反応性を得る観点から、飽和脂肪酸が好ましく、これらの中でも酢酸
、プロピオン酸がより好ましく、酢酸がさらに好ましい。
【0016】
また、反応系中に、さらにカルボン酸無水物を共存させてもよく、無水酢酸、無水プロ
ピオン酸、無水安息香酸、無水シュウ酸、無水コハク酸などのカルボン酸無水物共存下で
の反応が好適に行われる。カルボン酸無水物を用いることによって、酸化反応時に生じる
水とカルボン酸無水物が反応することを利用して収率が向上することがある、無水酢酸を
例にすれば、カルボキシ基の加水分解の抑制やヒドロキシ基をアセトキシ基に変換するこ
とが可能となり、ジアセトキシ体の収率を向上させることができる。
【0017】
(ジオール誘導体)
本発明の酸化反応の目的生成物であるジオール誘導体は、以下の式(3)~(6)で表
わされる。
【化9】
【0018】
[式(3)~(6)において、
R1~R6は、それぞれ独立であり、式(1)及び(2)のR1~R6とそれぞれ同義
である。]
【0019】
原料の不飽和炭化水素(2)として1,3-ブタジエンを選び、共存させるカルボン酸
(1)として酢酸を用いた場合を例にすれば、生成する式(3)~(6)で表わされるジ
オール化合物は、具体的には、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3-ヒドロキシ-4
-アセトキシ-1-ブテン、3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジ
アセトキシ-1-ブテンである。
【0020】
(非隣接ジオール誘導体)
本発明の酸化反応においては、隣接していないジオール誘導体(非隣接ジオール誘導体
)も生成する場合がある。
原料の不飽和炭化水素として1,3-ブタジエンを選び、共存させるカルボン酸として
酢酸を用いた場合を例にすれば、生成する非隣接ジオール化合物は、具体的には、1,4
-ブテンジオール、1,3-ブテンジオール、1、4-ジアセトキシブテン、1、3-ジ
アセトキシブテン、1-ヒドロキシ4-アセトキシブテン、1-アセトキシ-4―ヒドロ
キシブテンなどである。
【0021】
(モノアルコール誘導体)
本発明の酸化反応においては、酸素がひとつ結合したモノアルコール誘導体も生成する
場合がある。具体的には、ブタノール、ブテノールの他、アセトキシブテン、アセトキシ
ブタンが挙げられる。
【0022】
カルボン酸存在下に不飽和炭化水素を酸化して得られた生成物がジオール誘導体を含む
数種類の混合物となる、あるいは非隣接ジオール誘導体、モノアルコール誘導体化合物と
の混合物となる場合は、蒸留等の操作によって目的のジオール誘導体を分離して精製する
ことが可能である。さらには、追加の工程を設け、例えば加水分解の工程により隣接ジオ
ール誘導体を隣接ジオールにすることが可能であり、カルボン酸やカルボン酸無水物と反
応させる(エステル化する)工程を設けて、ヒドロキシ基をカルボキシ基に変換すること
ができる。酢酸存在下で1,3-ブタジエンを酸化して得られる隣接ジオール誘導体を例
にすれば、3,4-ブテンジオールや、3-ヒドロキシ4-アセトキシブテン、4―ヒド
ロキシ3-アセトキシブテンを酢酸や無水酢酸と反応させることにより、3、4-ジアセ
トキシブテンを得ることができる。
【0023】
[触媒]
本発明の触媒は、カルボン酸存在下で不飽和炭化水素の不飽和結合の隣り合った炭素に
酸素を導入して隣接ジオール誘導体を製造する反応に用いるものであり、第11族元素、
および半金属元素(S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、Sn及びPbからなる群よ
り選ばれる少なくとも1種)を活性成分として有するものである。
本発明の触媒を用いることで、多段階の反応工程やハロゲン化リチウム等の追加試薬を
必要とせずに一段階で簡便に製造することが可能となり、目的の隣接ジオール誘導体の選
択性や収率が向上する。
第11族元素、半金属元素のそれぞれの役割は定かではないが、触媒中で、各元素が合
金化や金属間化合物化などの相互作用あるいは隣接することによって、お互いの電子構造
特性あるいは原料や中間体、生成物との立体電子効果などに影響し、不飽和炭化水素、カ
ルボン酸、酸素との反応において不飽和結合の隣接した炭素に酸素を導入する効果を発揮
する。さらにそれぞれの元素が触媒活性点の再酸化などの補助的な役割を担うことで触媒
活性が向上する。このような協奏的作用により、隣接ジオール誘導体の選択性の向上や触
媒活性の促進が図られる。
【0024】
(第11族元素)
第11族元素としてはAu、Cu、Ag等が挙げられ、これらの中でも、酸化還元電位
が高くカルボン酸溶液中で金属溶出する可能性の低いAuがより好ましい。
第11族元素は活性点としての役割も担うことから、酸化反応中も金属状態を保つのが
好ましいが、合金などの形をとって隣接ジオール誘導体への反応選択性を制御することも
好適に用いられる。
【0025】
本発明の触媒に含まれる第11族元素の量については、触媒が含む他元素や後述する担
体の種類により適宜調整が可能であり、特に限定されることはない。しかし、通常は0.
1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに
好ましくは1.0質量%以上であり、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、
より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。下限値以上で
あることで十分な数の活性点が形成され、上限値以下であることで元素の凝集が抑制され
、隣接ジオール誘導体を効率的に製造することができる。
【0026】
(半金属元素)
半金属元素は、第11族元素と相互作用あるいは第11族元素に隣接することによって
、第11族元素の電子構造特性に影響を与えて隣接ジオール誘導体への反応選択性を向上
させるとともに、触媒活性を維持或いは促進する役割を担う。カルボン酸存在下でもリー
チングしない安定性も必要であり、電気陰性度が高くカチオンになりにくい元素が好まし
い。それは、アレンの電気陰性度でいえば1.8以上、2.6以下の元素であり、S、S
e,Te、P、As、Sb、Bi、Sn及びPbからなる群より少なくとも1種選ばれる
。このうち選択性や活性を向上させる能力に優れる点においてSe、Te、Sb及びBi
を含むことが好ましく、特にTeが好ましい。
【0027】
本発明の触媒に含まれる半金属元素の量は特にこだわらないが、通常0.01質量%以
上、好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、通常
80質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好
ましくは20質量%以下である。半金属元素は触媒活性や選択性に強く影響があるため、
第11族元素のモル数に応じて担持量を調節することが好ましい。
第11族元素に対する半金属元素の量をモル比であらわすと、通常0.001~100
0、より好ましくは0.05~500である。適切な量の半金属元素を用いることで、隣
接ジオール誘導体の選択率や収率を高めることができる。
【0028】
本発明の触媒は、第11族元素と半金属元素のそれぞれ1種以上を活性成分とするもの
であれば、特に限定されないが、それぞれを2種以上含んでいても構わない。触媒中に酸
化物として含有し、担体としての機能も有していてもよい。第11族元素と半金属元素が
合金や金属間化合物を形成していてもかまわない。また、第11族元素や半金属元素以外
の活性成分を含んでいてもよい。たとえば、RhやIrは、第11族元素と複合化するこ
とで性質を変化させ、隣接ジオール誘導体の選択性を高めることができる。
また、多くの触媒活性点の数を得るため、第11族元素や半金属元素、およびそれらの
合金、金属間化合物の粒子はナノサイズで保たれるのが好ましい。それらの粒子サイズは
、透過電子顕微鏡による分析や、粉末X線回折測定における回折線ピークの半値幅からシ
ェラー式を用いて見積もることができる。通常、0.1nm以上100nm以下、好まし
くは0.5nm以上50nm以下、特に好ましくは1nm以上30nm以下である。
【0029】
(触媒の担体)
本発明の触媒は第11族元素、半金属元素のそれぞれ1種以上を活性成分と有する複雑
なものであるが、これらを有効利用するため、およびこれらの相互作用や接触を促進する
目的で、担体を用いることができる。
担体の種類としては特にこだわらないが、通常、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリ
ア、シリカアルミナ、マグネシアシリカ、チタノシリケート、ゼオライト、チタニア、メ
ソポーラスシリカ、メソポーラスチタニア、酸化鉄、酸化銅、酸化タングステン、酸化ニ
オブ、酸化マンガン、酸化モリブデン、窒化炭素、多孔質シリカ、活性炭、カーボンブラ
ック、ケッチェンブラック等の無機化合物が用いられる。
これらの担体を利用する場合、第11族元素と半金属元素を合わせた担持量は0.05
%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1.
0%以上が特に好ましい。また、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、2
0%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。
【0030】
(触媒の調製方法)
触媒の調製方法は特に限定されるものではなく、以下の既存の方法、およびその組み合
わせを用いることができる。担体を用いる場合には、共沈法、析出沈殿法、イオン交換法
、含浸担持法、ポアフィリング法、incipient-wetness法、スプレー担
持法等を用いることが可能である。
析出沈殿法、イオン交換法、含浸担持法等に用いる原料としては、通常、ハロゲン物や
硝酸塩などの水溶性の塩、あるいはそれらの酸性溶液が用いられる。炭酸塩、ギ酸塩、酢
酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、硫酸塩の他、アンミン硝酸塩、エチレンジアミン硝酸塩、ア
ンミンニトロ化合物等のハロゲン元素を含まない水溶性原料が好ましい。ハロゲン物を用
いる場合は、焼成や水素還元前に塩基性水溶液や水を用いた水洗などでハロゲンを除去す
ることも好適に行われる。
特に、本発明の触媒では、第11族元素の原料の選定は高性能の触媒を得るうえで重要
である。通常、塩化金酸などの酸性原料が用いられるが、ハロゲン元素を含まない原料と
して、PVP(ポリビニルピロリドン)等の保護剤で修飾されたナノ金属を原料として用
いて調製した触媒や、エチレンジアミン錯体やアラニン錯体、シュウ酸塩、を原料として
用いても構わない。特に水への溶解性や調製しやすさ、空気下での保存安定性の観点から
、塩化金酸やエチレンジアミン錯体が好ましい。
これらの原料を溶液として用いるが、担体との接触の際には原料濃度やpH、温度等の
制御が行われる。析出沈殿法、イオン交換法や含浸担持法によって活性金属成分を担体に
担持させた後、濾過水洗や乾燥により水分を除去する。
上記の既存の方法によって、一つの担体に第11族元素、半金属元素の複数種の元素の
原料液を用いて複数種の元素を同時に導入してもよいし、それぞれの元素含有液を用いて
逐次的に導入するなど、複数回の操作で複数種を導入してもよい。また、逐次的な導入の
間に、乾燥や焼成、水素還元などの処理を挟むことも好適に行われる。さらに、第11族
元素、半金属元素のそれぞれの元素を担持した担体を物理混合で混ぜ合わせてもよい。
得られた触媒(前駆体)は通常、乾燥あるいは焼成した後にカルボン酸存在下での酸化
反応に供されるが、活性点を効率よく発現させるために、反応前に前処理を施すことも効
果的に行われる。前処理としては、不活性ガス雰囲気での高温処理や水素を含むガス中で
の高温処理(水素還元)が好適に行われる。
【0031】
[カルボン酸存在下の酸化反応]
本発明の酸化反応は、常圧あるいは加圧状態でカルボン酸存在下に不飽和炭化水素を本
発明の触媒と接触させて隣接ジオール誘導体を得るものである。該酸化反応は、液相反応
、気相反応のいずれの方法でも実施可能だが、触媒を含むカルボン酸溶媒中にガス状の不
飽和炭化水素と分子状酸素の混合ガスを連続供給し、触媒とカルボン酸に溶解した不飽和
炭化水素や分子状酸素とを接触させて酸化反応を行なう液相反応が好ましい。
【0032】
反応形式は特に限定されるものではなく、例えば回分反応方式及び流通反応方式等、い
ずれの方法でも実施することができるが、工業的には連続的に実施可能な流通反応方式を
用いるのが好ましい。固定床による流通反応方式では、反応器やプロセスを工夫すること
により、触媒の入れ替えや再生が容易となる長所も有する。
【0033】
分子状酸素の濃度については酸化反応を進行させるうえでの制限はないが、通常、反応
器の入口、および出口において不飽和炭化水素やカルボン酸の爆発範囲を避ける濃度に維
持されるように調節される。反応器入口においては全体に対する濃度として、通常1mo
l%以上、50mol%以下、好ましくは2mol%以上、20mol%以下であり、よ
り好ましくは4mol%以上、10mol%以下である。酸素源としては、酸素ガスの他
、空気を用いてもよい。
反応温度は、好ましくは25℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは5
0℃以上である。また、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに
好ましくは150℃以下である。反応温度が上記上限値以下であることで、原料の不飽和
炭化水素や生成した隣接ジオール誘導体の逐次反応を抑制することができる。反応温度が
上記下限値以上であることで、反応の進行が促進され、工業的に満足される反応速度を得
ることができる。
反応圧力は、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは1MPa以上、さらに好ま
しくは2MPa以上である。また、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa
以下、さらに好ましくは4MPa以下である。反応圧力が上記上限値以下であることで、
原料の不飽和炭化水素や生成した隣接ジオール誘導体が酸化的に分解されることを防ぐこ
とができる。反応圧力が上記下限値以上であることで、反応の進行が促進され、工業的に
満足される反応速度を得ることができる。
【0034】
生成した隣接ジオール誘導体は、通常、未反応の不飽和炭化水素やカルボン酸、副生成
物等と分離され、さらに精製によって純度が高められて製品となる。なお、未反応の不飽
和炭化水素やカルボン酸、および副生成物は回収されて、再度原料や製品として使用する
ことも行われる。分離や精製においては、沸点差を利用する蒸留が好適に用いられる。
【0035】
以上説明したように、本発明の、Auに代表される第11族元素とTeに代表される半
金属元素を有する触媒、およびそれを用いたカルボン酸存在下での不飽和炭化水素の酸化
反応によって、きわめて簡便に一段階の反応で隣接ジオール誘導体を収率や選択率良く得
ることができる。不飽和炭化水素として1,3-ブタジエンを選び、カルボン酸として酢
酸を用いる場合を例にすれば、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアセトキ
シ-1-ブテン、3-ヒドロキシ-4-アセトキシ-1-ブテン、3-アセトキシ-4-
ヒドロキシ-1-ブテンを効率よく得ることができる。
さらには、カルボン酸やカルボン酸無水物と反応させる(エステル化する)工程を追加
で設け、ヒドロキシ基をカルボキシ基に変換することによってより多くのジカルボキシ化
合物を得ることができる。酢酸存在下で1,3-ブタジエンを酸化して得られる隣接ジオ
ール誘導体を例にすれば、3,4-ブテンジオールや、3-ヒドロキシ4-アセトキシブ
テン、4―ヒドロキシ3-アセトキシブテンを酢酸や無水酢酸と反応させることにより、
より多くの3、4-ジアセトキシブテン得ることができる。
【実施例0036】
以下に、実施例に挙げて、本発明をより具体的に説明する。しかしながら、本発明はこ
れらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例や比較例中に示す生成物
等の有機化合物の定量分析はガスクロマトグラフィー(GC)に行った。以下に詳細を示
す。
【0037】
・有機化合物の定量分析方法
濾別等の方法により触媒を分離した反応液0.15g、ジエチレングリコールジメチル
エーテル0.05g(内部標準)を正確に秤量し、イソプロピルアルコールで1.5mL
としたものを分析用サンプルとして、以下の条件でGC分析した。
装置:FID-GC 島津GC2014
カラム:Agilent製DB-FFAPカラム、60m
温度:気化室温度240℃、検出器温度240℃
測定条件:カラム部プログラム昇温使用
60℃10分保持、220℃まで5℃/min昇温、220℃20分保持
【0038】
(実施例1)
Au(第11族元素)、Te(第16族元素)をシリカに担持した触媒を以下に示すよ
うに調製した。
まず、Auエチレンジアミン塩化物を下記のように調製した。エチレンジアミン3.7
5g、エタノール100mLをジムロート冷却器、および攪拌機を備えた3つ口フラスコ
に仕込み、塩化金酸5.0gを溶解させたジエチルエーテル100mLを撹拌しながらゆ
っくりと添加した。25℃において24時間攪拌した後、沈殿物を濾別してアセトンで洗
浄した。得られた沈殿物を12時間真空下で乾燥してAuエチレンジアミン塩化物を得た
。
得られたAuエチレンジアミン塩化物0.215gを脱イオン水に10mLに溶解し水
溶液とした。この溶液を蓋無しのガラス製容器を用いてシリカ担体(富士シリシア製 キ
ャリアクトQ15 75-500μm)5.00gに含浸させた。均一な状態になるよう
に混合した後、容器を湯浴方式にて加熱し、撹拌しながら混合物から水分を除去した。次
に0.5M NaOH水溶液10mLを上記のAu錯体を担持させたシリカ担体に含浸さ
せた。均一な状態になるように混合した後、容器を湯浴方式にて加熱し、撹拌しながら混
合物から水分を除去した。さらに0.05M NaOH水溶液100mLに上記の乾燥物
を懸濁させたのち、懸濁固体を濾別した。洗浄液からCl-が検出されなくなるまで水洗
した後、ガラス製の蓋無し容器に移し、容器を湯浴方式にて加熱して水分を除去した。得
られた乾燥物をガラス製の焼成管に装填し、200mL/minの空気流通下に100℃
で7時間乾燥後、400℃まで2時間かけて昇温した。そのまま400℃にて4時間保持
した後、室温まで高温し、シリカ担持Auとした。
次に、テルル酸0.180gを脱塩水10mLに溶解した水溶液を、蓋無しのガラス製
容器を用いて上記のシリカ担持Auに含浸させた。均一な状態になるように混合した後、
容器を湯浴方式にて加熱し、混合しながら混合物から水分を除去した。得られた乾燥物を
ガラス製の焼成管に装填し、200mL/minの空気流通下に300℃まで2時間かけ
て昇温した。そのまま300℃にて4時間保持した後、室温まで降温した。さらに得られ
た焼成物を75mL/minの水素流通下に400℃まで2時間かけて昇温し、そのまま
400℃にて2時間保持して還元処理を行い、シリカ担持Au⇒Te触媒(Au:2wt
%、Te:2wt%)を得た。
調製したシリカ担持Au⇒Te触媒を用いて、酢酸存在下における1,3-ブタジエン
の酸化反応を次のように行った。液温測定用の温度計と撹拌子を備えた50mLパイレッ
クス(登録商標)製三口フラスコに上記触媒1.0gと酢酸40mLを装填し、マグネチ
ックスターラーを用いて液を撹拌して触媒を酢酸中に懸濁させた。吹き込み管より窒素(
50Nml/min)をバブリングし、窒素雰囲気下でオイルバスを用いてフラスコを加
熱した。5~10℃/minで昇温し、液の温度が90℃に達した後、バブリングするガ
スの組成を1,3-ブタジエン6NmL/min、酸素4Nml/minの混合ガスに変
更し、常圧、90℃、触媒懸濁のための撹拌子回転500rpmの反応条件で酸化反応を
行った。原料1,3-ブタジエンの導入を開始してから6時間後に、バブリングするガス
組成を窒素50NmL/minに変更して酸化反応を終了し、ただちに懸濁撹拌を止める
とともに、フラスコをオイルバスから離して液の温度が室温付近になるまで降温した。そ
の後、フラスコ内の液の一部を取り出し、前述の方法で生成物等を分析した。
【0039】
1,3-ブタジエンを酢酸存在下で酸化した場合、以下の化合物が主に生成する。3,
4-ジアセトキシ-1-ブテン(3,4-DABEと略す)、3-ヒドロキシ-4-アセ
トキシ-1-ブテン(3,4-HABEと略す)、3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1
-ブテン(3,4-HABEと略す)、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン(3,4-B
EGと略す)。これらを合わせて隣接ジオール誘導体とする。
また、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン(1,4-DABEと略す)、1-ヒドロキ
シ-4-アセトキシ-2-ブテン(1,4-HABEと略す)、1,4-ジヒドロキシ-
2-ブテン(1,4-HABEと略す)も生成する。これらを合わせて非隣接ジオール誘
導体とする。
さらには、アセトキシブテン、ブテノールも生成する場合がある。これらをモノアルコ
ール誘導体とする。
【0040】
6時間反応後の反応液を分析し、以下の式より反応速度、選択率を求めた。
反応速度(mol/h・g-cat)=(反応液中の隣接ジオール誘導体量(mol)
+非隣接ジオール誘導体量(mol)+モノアルコール誘導体量(mol))/(触媒量
(g)x反応時間(h))
隣接ジオール誘導体選択率=反応液中の隣接ジオール誘導体量(mol)/(反応液中
の隣接ジオール誘導体量(mol)+非隣接ジオール誘導体量(mol)+モノアルコー
ル誘導体量(mol))x100
【0041】
用いた触媒の詳細および反応成績を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
実施例1の触媒調製において、Au(第11族元素)、Te(第16族元素)を含有す
る触媒をシリカ担体にTeとAuを担持する順番を入れ替え、Teを先に担持させたシリ
カ担持Te⇒Au触媒(Au:2wt%、Te:2wt%)を調製した。調製した当該触
媒を用い、実施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの酸化反応と生成
物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成績を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
実施例1の触媒調製において、Au(第11族元素)、Te(第16族元素)に加えて
、Rhを含有する触媒を以下のように調製した。
まずAuエチレンジアミン硝酸塩は下記のように調製した。実施例1で得たAuエチレ
ンジアミン塩化物の塩素イオンに対して同モル量の硝酸銀水溶液を塩化銀の沈殿が生じな
くなるまで加えた。生成した塩化銀はろ過で除去し、ろ液にエタノールを加えて再沈殿し
た。得られた沈殿物を少量の水に溶解した後、エタノールで再沈殿し、生じた沈殿物をろ
過した。この再沈殿の操作を3回繰り返した後、得られた沈殿物をエタノール90vol
%水溶液で洗浄し、最後にアセトンで洗浄し得られた固形物を24時間真空乾燥させ、A
uエチレンジアミン硝酸塩を得た。
【0044】
次に触媒の調製は以下のように行った。得られたAuエチレンジアミン硝酸塩173m
g、7.35wt%ロジウム含有硝酸溶液96mg、テルル酸4mgを脱塩水に溶解し、
5mlの溶液とした。ガラス製の蓋無し容器にシリカ担体(富士シリシア製 キャリアク
トQ15 75-500μm)2.5gを入れ、上記の水溶液を投入した。均一な状態に
なるように混合した後、容器を湯浴方式にて加熱し、混合物から水分を除去した。得られ
た乾燥物をガラス製の焼成用管に装填し、200mL/minの空気流通下に100℃で
7時間乾燥後、200℃まで2時間かけて昇温した。そのまま200℃にて4時間保持し
た後、室温まで降温した。さらに得られた焼成物を75mL/minの水素流通下に40
0℃まで2時間かけて昇温し、そのまま400℃にて2時間保持して還元処理を行い、シ
リカ担持AuRhTe触媒(Au:2.7wt%、Rh:0.28wt%、Te:0.0
89wt%)を得た。調製した当該触媒を用い、実施例1と同様に、酢酸存在下における
1,3-ブタジエンの酸化反応と生成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応
成績を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
Au(第11族元素)ではなく、Pd(第10族元素)とTe(第16族元素)をシリ
カに担持した触媒を以下に示すように調製した。ガラス製の蓋無し容器にシリカ担体(富
士シリシア製 キャリアクトQ15 75-500μm)2.5gを入れ、硝酸パラジウム
の硝酸溶液にテルル酸を溶解した混合水溶液を投入した。均一な状態になるように混合し
た後、容器を湯浴方式にて加熱し、混合物から水分を除去した。得られた乾燥物をガラス
製の焼成用管に装填し、200mL/minの空気流通下に100℃で7時間乾燥後、2
00℃まで2時間かけて昇温した。そのまま200℃にて4時間保持した後、室温まで降
温した。さらに得られた焼成物を75mL/minの水素流通下に400℃まで2時間か
けて昇温し、そのまま400℃にて2時間保持して還元処理を行い、シリカ担持PdTe
触媒(Pd:5.0wt%、Te:1.5wt%)を得た。調製した当該触媒を用い、実
施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの酸化反応と生成物の分析を行
った。用いた触媒の内容、および反応成績を表1に示す。
【0046】
実施例1-3と比較例1の比較から、Au(第11族元素)とTe(第16族元素)の
組み合わせから成る触媒が高い触媒活性を示し、酢酸存在下における1,3-ブタジエン
の酸化反応の反応速度を速め、隣接ジオール誘導体への高い選択性を示すことがわかる。
【0047】
(実施例4)
まず担体の前駆体となる5wt%MgOを担持したシリカを以下のように調製した。酢
酸マグネシウム2.68gを相応量の水に溶解し、シリカ粉末(キャリアクトQ15)1
0gを投入して、ポアフィリング法で含浸させた。蓋無しのガラス容器に移し、湯浴で水
分を蒸発させた。さらに管型の焼成管に移し、空気流通過下において110℃で7時間乾
燥後、次いで600℃で4時間焼成し、放冷した後取り出し、シリカ担持MgO(MgO
:5wt%)を得た。
【0048】
85℃に加熱した塩化金酸水溶液50mLに上記のシリカ担持MgO、2.0gを投入
した。水溶液中で水酸化物化したMgとイオン交換する形でAuがシリカ上に吸着した。
加熱したまま約30分、撹拌を続け、撹拌を止めて放冷した。温度が下がった後、デカン
テーションを行い、濾過と水洗を繰り返し、硝酸銀水溶液法でCl-が検出されなくなる
まで洗浄した。ろ過水洗物を蓋無しのガラス容器に移し、湯浴で水分を蒸発させた後、さ
らに管型の焼成管に移し、空気流通過下において110℃で7時間乾燥後、次いで400
℃で4時間焼成した。放冷した後取り出し、シリカ担持Au(Au:2.0wt%)を得
た。
続いてテルルを次のように導入した。得られたシリカ担持Au(2.0wt%)1.0
gをテルル酸水溶液に浸し、蓋無しのガラス容器に移して均一になるように撹拌しながら
水分を蒸発させた。さらに管型の焼成管に移し、空気流通過下において110℃で7時間
乾燥後、次いで400℃で4時間焼成した。放冷した後取り出し、シリカ担持Au⇒Te
触媒(Au:2.0wt%、Te:0.5wt%)を得た。調製した当該触媒を用いて、
実施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの酸化反応と生成物の分析を
行った。用いた触媒の内容、および反応成績を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
実施例4の触媒調製において、テルル酸の担持量を変更した以外は実施例4と同様にし
て、シリカ担持Au⇒Te触媒(Au:2.0wt%、Te:0.1wt%)を得た。調
製した当該触媒を用いて、実施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの
酸化反応と生成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成績を表1に示す。
【0050】
(比較例2)
実施例4、5の触媒調製において、テルルが導入される前のシリカ担持Au触媒(Au
:2.0wt%)を得た。当該触媒を用いて、実施例1と同様に、酢酸存在下における1
,3-ブタジエンの酸化反応と生成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成
績を表1に示す。
【0051】
実施例4、5と比較例2の比較から、Au(第11族元素)とTe(第16族元素)の
組み合わせから成る触媒が高い触媒活性を示し、酢酸存在下における1,3-ブタジエン
の酸化反応の反応速度を速め、隣接ジオール誘導体への高い選択性を示すことがわかる。
【0052】
(実施例6)
70℃に加熱した塩化金酸水溶液30mLに粉末状のモノクリニックZrO2(サンゴ
バンノルプロSZ31164)2.0gを投入し、スターラーチップで激しく撹拌しなが
ら、0.1Mの水酸化ナトリウムを約20分かけて滴下しpH8-9に調節した。加熱し
たまま約20分、撹拌を続け、撹拌を止めて放冷した。温度が下がった後、デカンテーシ
ョンを行い、濾過と水洗を繰り返し、硝酸銀水溶液法でCl-が検出されなくなるまで洗
浄した。ろ過水洗物を蓋無しのガラス容器に移し、湯浴で水分を蒸発させた後、さらに管
型の焼成管に移し、空気流通過下において110℃で7時間乾燥後、次いで400℃で4
時間焼成した。放冷した後取り出し、ジルコニア担持Au(2.0wt%)を得た。
【0053】
続いてテルルを次のように導入した。得られたジルコニア担持Au(2.0wt%)、
1.0gをテルル酸水溶液に浸し、蓋無しのガラス容器に移して均一になるように撹拌し
ながら水分を蒸発させた。さらに管型の焼成管に移し、空気流通過下において110℃で
7時間乾燥後、次いで350℃で4時間焼成した。放冷した後取り出し、ジルコニア担持
Au⇒Te触媒(Au:2.0wt%、Te:0.75wt%)を得た。調製した当該触
媒を用いて、実施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの酸化反応と生
成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成績を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
実施例6の触媒調製において、テルルが導入される前のジルコニア担持Au触媒(Au
:2.0wt%)を得た。当該触媒を用いて、実施例1と同様に、酢酸存在下における1
,3-ブタジエンの酸化反応と生成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成
績を表1に示す。
【0055】
実施例6と比較例3の比較から、Au(第11族元素)とTe(第16族元素)の組み
合わせから成る触媒が高い触媒活性を示し、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの酸
化反応の反応速度を速めると同時に隣接ジオール誘導体への高い選択性が得られることが
わかる。
【0056】
(実施例7)
粉末上のモノクリニックジルコニア(サンゴバンノルプロSZ31164)4.0gを
テルル酸水溶液に浸し、蓋無しのガラス容器に移して均一になるように撹拌しながら水分
を蒸発させた。さらに管型の焼成管に移し、空気流通過下において110℃で7時間乾燥
後、次いで400℃で4時間焼成した。放冷した後取り出し、ジルコニア担持Te(1.
0wt%)を得た。
70℃に加熱した塩化金酸水溶液30mLに上記のジルコニア担持Te(1.0wt%
)2.0gを投入し、スターラーチップで激しく撹拌しながら、0.1Mの水酸化ナトリ
ウムを約20分かけて滴下しpH8-9に調節した。加熱したまま約20分、撹拌を続け
、撹拌を止めて放冷した。温度が下がった後、デカンテーションを行い、濾過と水洗を繰
り返し、硝酸銀水溶液法でCl-が検出されなくなるまで洗浄した。ろ過水洗物を蓋無し
のガラス容器に移し、湯浴で水分を蒸発させた。さらに管型の焼成管に移し、空気流通過
下において110℃で7時間乾燥後、次いで400℃で4時間焼成した。放冷した後取り
出し、ジルコニア担持Te⇒Au触媒(Au:2.0wt%、Te:1.0wt%)を得
た。調製した当該触媒を用いて、実施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-ブタジ
エンの酸化反応と生成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成績を表1に示
す。
【0057】
(比較例4)
実施例7の触媒調製において、Auが導入される前のジルコニア担持Te(Te:1.
0wt%)を得た。当該触媒を用いて、実施例1と同様に、酢酸存在下における1,3-
ブタジエンの酸化反応と生成物の分析を行った。用いた触媒の内容、および反応成績を表
1に示す。
【0058】
実施例7と比較例4の比較から、Au(第11族元素)とTe(第16族元素)の組み
合わせから成る触媒が高い触媒活性を示し、酢酸存在下における1,3-ブタジエンの酸
化反応の反応速度を速め、隣接ジオール誘導体への高い選択性を示すことがわかる。
【0059】