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特開2023-167934多孔質ZnOナノベルト、ZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルトの製造方法およびガスセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167934
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】多孔質ZnOナノベルト、ZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルトの製造方法およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20231116BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079490
(22)【出願日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発/革新的センシング基盤技術開発/超微小量センシング信頼性評価技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】キム キュソン
(72)【発明者】
【氏名】崔 弼圭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏雄
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA05
2G046AA10
2G046AA13
2G046AA18
2G046AA23
2G046AA26
2G046BA02
2G046BA08
2G046BA09
2G046EA03
2G046EA04
2G046FB02
2G046FB08
2G046FC06
2G046FE48
2G060AA01
2G060AB03
2G060AB07
2G060AB10
2G060AB15
2G060AE19
2G060AF07
2G060AG03
2G060BB09
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】ガスセンサの材料として有用な新しいZnO含有ナノ構造体とその製造方法、および、ZnO含有ナノ構造体を含有するガスセンサを提供すること。
【解決手段】多孔質ZnOナノベルトは、ZnO粒子から構成され、気孔率が1%以上50%以下である多孔質構造を有し、長尺であり、かつ、断面形状が長方形であり、幅が、10nm以上200nm以下であり、厚さが、1nm以上50nm以下であり、長手方向の長さが、100nm以上1000μm以下である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnO粒子から構成され、気孔率が1%以上50%以下である多孔質構造を有し、
長尺であり、かつ、断面形状が長方形であり、
幅が、10nm以上200nm以下であり、
厚さが、1nm以上50nm以下であり、
長手方向の長さが、100nm以上1000μm以下である
ことを特徴とする多孔質ZnOナノベルト。
【請求項2】
長手方向の長さと幅の比率(長さ/幅)が1より大きく10000以下である
ことを特徴とする請求項1の多孔質ZnOナノベルト。
【請求項3】
前記ZnO粒子は、平均粒径が1nm以上50nm以下である
ことを特徴とする請求項1の多孔質ZnOナノベルト。
【請求項4】
前記ZnO粒子には、長尺状粒子が含まれ、
多孔質ZnOナノベルトの長手方向と、前記長尺状粒子の長手方向とが一致している
ことを特徴とする請求項1の多孔質ZnOナノベルト。
【請求項5】
結晶表面上に、原子層の段差を有する
ことを特徴とする請求項1の多孔質ZnOナノベルト。
【請求項6】
33.3at.%以下のふっ素を含有する
ことを特徴とする請求項1の多孔質ZnOナノベルト。
【請求項7】
ZnOHFの単結晶を含み、
長尺であり、かつ、断面形状が長方形であり、
長手方向がZnOHF結晶のb軸方向であり、
幅が、10nm以上200nm以下であり、
厚さが、1nm以上50nm以下であり、
長手方向の長さが、100nm以上1000μm以下である
ことを特徴とするZnOHFナノベルト。
【請求項8】
長手方向の長さと幅の比率(長さ/幅)が1より大きく10000以下である
ことを特徴とする請求項7のZnOHFナノベルト。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかの多孔質ZnOナノベルトの製造方法であって、
以下の工程:
溶媒に、
亜鉛化合物、ふっ素化合物およびアルカリ源化合物、
または、
ふっ素含有亜鉛化合物およびアルカリ源化合物
を添加して、ZnOHFナノベルトを合成する第1工程;および、
前記ZnOHFナノベルトを加熱処理して、多孔質ZnOナノベルトを得る第2工程
を含む
ことを特徴とする多孔質ZnOナノベルトの製造方法。
【請求項10】
前記第1工程において、前記溶媒が水であり、前記アルカリ源化合物が、ヘキサメチレンテトラミンである
ことを特徴とする請求項9の多孔質ZnOナノベルトの製造方法。
【請求項11】
前記第2工程における加熱処理の温度は、100~1000℃である
ことを特徴とする請求項9の多孔質ZnOナノベルトの製造方法。
【請求項12】
基材と、
前記基材上に設けられた一対の電極と、
前記電極上に形成され、一対の前記電極同士を接続する導電性塗膜と、
を備え、
前記導電性塗膜は、請求項1から6のいずれかの多孔質ZnOナノベルトを含む
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項13】
アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素ガスのうちの1種または2種以上を検知可能である
ことを特徴とする請求項12のガスセンサ。
【請求項14】
濃度500ppbの還元性ガスまたは濃度500ppbの酸化性ガスに対して、1.0より大きく16.5以下の抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を示す
ことを特徴とする請求項12のガスセンサ。
【請求項15】
アセトンに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)と、
イソプレン、トルエン、アンモニア、水素のいずれかに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)、または、二酸化窒素に対する抵抗値変化率(Rg/Ra)と
を比較した場合、1.0以上の比率のアセトン選択性が得られる
ことを特徴とする請求項12のガスセンサ。
【請求項16】
濃度500ppbのアセトンガスへの応答において、375℃、400℃、425℃、450℃、475℃、500℃の各センサ素子温度のうち、450℃のセンサ素子温度にて最大の抵抗値変化率(Ra/Rg)を示す
ことを特徴とする請求項12のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ZnOナノベルト、ZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルトの製造方法およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、その性質について広く知られており、例えば、ガスセンサ、マイクロエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、圧電デバイス、光化学デバイスおよび光電池デバイスなどに利用することができる。したがって、ZnOナノ構造体は、その結晶性、微細構造、結晶面、表面積等を制御することが求められている。
【0003】
また、例えば、ZnOナノ構造体は、ナノワイヤー型ZnO、ナノロッド型ZnO、ナノロッド型ZnO、ナノウィスカー型ZnOなどの結晶形態を有するものが知られており、本発明者も、ガスセンサとして利用可能なナノロッド型ZnOおよびナノウィスカー型ZnOの合成方法について提案している(非特許文献1)。
【0004】
また、例えば、特許文献1には、半導体ナノワイヤー集合物層を含むガスセンサが記載されている。さらに、ナノワイヤーを形成する化合物の一つとしてZnOが例示されており、「ナノワイヤー」には、短繊維、長繊維(ナノファイバー)、中空糸状(ナノチューブ)、短柱状繊維(ナノロッド)、平板状繊維(ナノベルト)が含まれることが記載されている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献2には、塩基性酢酸亜鉛(LBZA)の結晶のナノシートおよびナノベルトの製造方法が記載されており、これらを加熱処理(アニーリング)することで得られるZnOナノ構造物をガスセンサなどに用いることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-165682号公報
【特許文献2】特表2016-531104号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Am Ceram Soc., 105, 2150-2160 (2022) Effect of oxygen vacancy sites in exposed crystal facet on the gas sensing performance of ZnO nanomaterial
【非特許文献2】A. D. McNaught and A. Wilkinson., IUPAC Compend. Chem. Terminol., 1997, 3540.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、ガスセンサの性能について実際に検討されているのは、セレンナノワイヤーを使用したものであり、新しいZnOナノ構造体を得るための方法や、これを利用したガスセンサに関しては、何ら具体的な検討はなされていない。
【0009】
一方、特許文献2においては、特に、ナノベルトの形態のZnOナノ構造物の結晶構造、サイズ、含有成分などについては開示されておらず、また、このZnOナノ構造物を用いたガスセンサの性能などについての検討もなされていない。すなわち、特許文献2では、所定の方法で製造されるZnOナノ構造物について、ガスセンサの材料として有用な特性を備えているか否かは明らかにされていない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、例えば、アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素に代表される可燃性ガスや還元性ガス、また、二酸化窒素などの酸化性ガスや支燃性ガスを検知するガスセンサの材料として有用な、新しい構造を有するZn含有ナノ構造体とその製造方法、および、ZnO含有ナノ構造体を含有するガスセンサを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、以下の多孔質ZnOナノベルト、ZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルトの製造方法およびガスセンサが提供される。
【0012】
[1]ZnO粒子から構成され、気孔率が1%以上50%以下である多孔質構造を有し、
長尺であり、かつ、断面形状が長方形であり、
幅が、10nm以上200nm以下であり、
厚さが、1nm以上50nm以下であり、
長手方向の長さが、100nm以上1000μm以下である
ことを特徴とする多孔質ZnOナノベルト。
【0013】
[2]長手方向の長さと幅の比率(長さ/幅)が1より大きく10000以下であることを特徴とする前記[1]の多孔質ZnOナノベルト。
【0014】
[3]前記ZnO粒子は、平均粒径が1nm以上50nm以下であることを特徴とする前記[1]または[2]の多孔質ZnOナノベルト。
【0015】
[4]前記ZnO粒子には、長尺状粒子が含まれ、
多孔質ZnOナノベルトの長手方向と、前記長尺状粒子の長手方向とが一致している
ことを特徴とする前記[1]から[3]のいずれかの多孔質ZnOナノベルト。
【0016】
[5]結晶表面上に、原子層の段差を有する
ことを特徴とする前記[1]から[4]のいずれかの多孔質ZnOナノベルト。
【0017】
[6]33.3at.%以下のふっ素を含有することを特徴とする前記[1]から[5]のいずれかの多孔質ZnOナノベルト。
【0018】
[7]ZnOHFの単結晶を含み、
長尺であり、かつ、断面形状が長方形であり、
長手方向がZnOHF結晶のb軸方向であり、
幅が、10nm以上200nm以下であり、
厚さが、1nm以上50nm以下であり、
長手方向の長さが、100nm以上1000μm以下である
ことを特徴とするZnOHFナノベルト。
【0019】
[8]長手方向の長さと幅の比率(長さ/幅)が1より大きく10000以下であることを特徴とする前記[7]のZnOHFナノベルト。
【0020】
[9]前記[1]から[6]のいずれかの多孔質ZnOナノベルトの製造方法であって、
以下の工程:
溶媒に、
亜鉛化合物、ふっ素化合物およびアルカリ源化合物、
または、
ふっ素含有亜鉛化合物およびアルカリ源化合物
を添加して、ZnOHFナノベルトを合成する第1工程;および、
前記ZnOHFナノベルトを加熱処理して、多孔質ZnOナノベルトを得る第2工程
を含む
ことを特徴とする多孔質ZnOナノベルトの製造方法。
【0021】
[10]前記第1工程において、前記溶媒が水であり、前記アルカリ源化合物が、ヘキサメチレンテトラミンである
ことを特徴とする前記[9]の多孔質ZnOナノベルトの製造方法。
【0022】
[11]前記第2工程における加熱処理の温度は、100~1000℃である
ことを特徴とする前記[9]または[10]の多孔質ZnOナノベルトの製造方法。
【0023】
[12]基材と、
前記基材上に設けられた一対の電極と、
前記電極上に形成され、一対の前記電極同士を接続する導電性塗膜と、
を備え、
前記導電性塗膜は、前記[1]から[6]のいずれかの多孔質ZnOナノベルトを含むことを特徴とするガスセンサ。
【0024】
[13]アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素ガスのうちの1種または2種以上を検知可能であることを特徴とする前記[12]のガスセンサ。
【0025】
[14]濃度500ppbの還元性ガスまたは濃度500ppbの酸化性ガスに対して、1.0より大きく16.5以下の抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を示すことを特徴とする前記[12]または[13]のガスセンサ。
【0026】
[15]アセトンに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)と、
イソプレン、トルエン、アンモニア、水素のいずれかに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)、または、二酸化窒素に対する抵抗値変化率(Rg/Ra)と
を比較した場合、1.0以上 の比率のアセトン選択性が得られることを特徴とする前記[12]から[14]のいずれかのガスセンサ。
【0027】
[16]濃度500ppbのアセトンガスへの応答において、375℃、400℃、425℃、450℃、475℃、500℃の各センサ素子温度のうち、450℃のセンサ素子温度にて最大の抵抗値変化率(Ra/Rg)を示すことを特徴とする前記[12]から[15]のいずれかのガスセンサ。
【発明の効果】
【0028】
本発明の多孔質ZnOナノベルトおよびZnOHFナノベルトは、従来のZnO含有ナノ構造体にはない新しい構造を有し、例えば、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ等のセンサの材料として好適に利用することができる。
【0029】
本発明の多孔質ZnOナノベルトの製造方法によれば、圧力容器や高温装置などを用いずに、水溶液中でZnOHFナノベルトを合成することができ、また、大気中でのZnOHFナノベルトの加熱処理により多孔質ZnOナノベルトを合成することができる。
【0030】
本発明のガスセンサは、可燃性ガスや還元性ガス、また、二酸化窒素等の酸化性ガスや支燃性ガスを検知することができる。具体的には、本発明のガスセンサは、アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素などのガスを高感度で検知可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】ZnOHFナノベルトおよび多孔質ZnOナノベルトの合成例を示した模式図である。
図2】ZnOHFナノベルトの走査型電子顕微鏡写真である。
図3】ZnOHFナノベルトの透過型電子顕微鏡写真である。
図4図3に示されるZnOHFナノベルトの電子線回折パターンを示した図である。
図5】(a)ZnOHFナノベルト、および、(b)多孔質ZnOナノベルトのX線回折パターンを示した図である。
図6】多孔質ZnOナノベルトの走査型電子顕微鏡写真である。
図7】多孔質ZnOナノベルトの透過型電子顕微鏡写真である。
図8】多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
図9】多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
図10】多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
図11】多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
図12】多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサにおける、濃度500ppbのアセトンガスへの応答に対するセンサ素子温度の影響を示すグラフである。
図13】多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサにおける、濃度10~500ppbのアセトンガスへの応答を示すグラフである。
図14】多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサにおける、濃度200~1000pptのアセトンガスへの応答を示すグラフである。
図15】多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサにおける、各種ガスに対する応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者らは、新しい構造を有するZnO含有ナノ構造体として、長尺であり、断面形状が長方形であるベルト状のZnO含有ナノ構造体(以下、「ZnOHFナノベルト」および「多孔質ZnOナノベルト」と記載する)を合成することに成功した。
【0033】
以下、本発明のZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルト、および、これらの製造方法の一実施形態について説明する。
【0034】
(ZnOHFナノベルト)
本発明のZnOHFナノベルトは、ZnOHFの単結晶を含み、長尺であり、かつ、断面形状が長方形である。本発明のZnOHFナノベルトは、一次元構造を有し、一方向に延びるベルト状の形状を有している。
【0035】
ここで、「断面」とは、ZnOHFナノベルトの長手方向(ZnOHF結晶のb軸方向)に直交する方向を含む断面をいう。
【0036】
「長方形」とは、一般に、二組の向かい合う対辺(長辺および短辺)が互いに平行であり、かつ、その長さが等しい四角形をいうが、本発明においては、この定義に厳密に従うものではなく、対辺が互いに略平行であるもの、長さが略等しいものなどを含む。すなわち、本発明における「長方形」とは、例えば、電子顕微鏡による観察などにおいて、実質的に長方形であると認識される形状を含み、例えば、対辺の変形や、対辺を構成する表面の微細な凹凸などは許容される。
【0037】
そして、本発明のZnOHFナノベルトは、全体形状における長手方向がZnOHF結晶のb軸方向と一致している。
【0038】
ZnOHFナノベルトの幅(断面の長方形の長辺の長さ)は、10nm以上200nm以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、ZnOHFナノベルトの幅(断面の長方形の長辺の長さ)は、10nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0039】
ZnOHFナノベルトの厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)は、1nm以上50nm以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、ZnOHFナノベルトの厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)は、1nm以上30nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0040】
ZnOHFナノベルトの長手方向の長さは、100nm以上1000μm以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、ZnOHFナノベルトの長手方向の長さは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0041】
さらに、ZnOHFナノベルトの長手方向の長さと幅との比率(長さ/幅)は、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、1より大きく10000以下であることが好ましく、10以上10000以下であることがより好ましく、200以上10000以下であることがさらに好ましい。
【0042】
ZnOHFナノベルトの幅と厚さの比率(幅/厚さ)は、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、1より大きく200以下であることが好ましく、2以上200以下であることがより好ましく、10以上200以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明において、ZnOHFナノベルトの幅(断面の長方形の長辺の長さ)、厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)、ZnOHFナノベルトの長手方向の長さは、走査型電子顕微鏡写真、透過型電子顕微鏡写真、光学顕微鏡写真等の観察画像から算出することができる。
【0044】
本発明のZnOHFナノベルトは、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ、電池材料、人工光合成材料等に用いることができる。
【0045】
(ZnOHFナノベルトの製造方法)
本発明のZnOHFナノベルトの製造方法は、
【0046】
(形態1)溶媒に、亜鉛化合物、ふっ素化合物およびアルカリ源化合物を添加する工程、または、
【0047】
(形態2)溶媒に、ふっ素含有亜鉛化合物およびアルカリ源化合物を添加する工程
を含む。
【0048】
形態1、2において、溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、ヘキサン、トルエンなどの有機溶媒、酢酸、ギ酸などの酸などを例示することができる。なかでも、溶媒は、水であることが好ましい。また、溶媒として、極性の高い「高極性溶媒(親水性)」も、極性の低い「低極性溶媒(疎水性)」も使用可能である。極性溶媒にはプロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒があるが、両方とも使用可能である。または、これらの混合溶媒も使用可能である。
【0049】
その他、溶媒としては、例えば、アセトアルデヒド、無水酢酸、アセトニトリル、アセトフェノン、アセチルアセトン、アリルアルコール、エタノールアミン、アニリン、ベンズアルデヒド、ベンゼン、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、1-ブタノール、2-ブタノール、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、tert-ブチルアルコール、ジブチルエーテル、二硫化炭素、クロロホルム、エピクロロヒドリン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、炭酸ジエチル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸エチル、2-クロロエタノール、エチレングリコール、1,2-ジメトキシエタン、2-ブトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2-エトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ギ酸エチル、2-エチルヘキサノール、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ホルムアミド、フルフリルアルコール、グリセリン、ヘプタン、1-ヘキサノール、リグロイン、2,6-ルチジン、2-メトキシエタノール、酢酸メチル、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、トリエタノールアミン、ニトロベンゼン、ニトロメタン、n-オクタン、1-オクタノール、2-オクタノール、ペンタン、1-ペンタノール、3-ペンタノール、酢酸n‐ペンチル、石油ベンジン、フェノール、1-プロパノール、酢酸ノルマルプロピル、プロピレングリコール、酸化プロピレン、プロピレンオキサイド、n-プロピルエーテル、ピリジン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、テトラヒドロフラン、テトラリン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、トリエチルアミン、トリフルオロ酢酸、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンのうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0050】
また、アルカリ源化合物は、加水分解してアルカリ成分を放出する化合物であれば特に限定されないが、例えば、尿素、エチレンジアミン、及び、ヘキサメチレンテトラミン(C12)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸カリウム、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルヒドラジン、メチルヒドラジン、硫化カリウム、硫化ナトリウム、カ性アルカリ類、アルミン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、ソーダ石灰、ピロリジン、ヒドラジン、酸化カリウム、硫化水素ナトリウム、テトラエチレンペンタミン、1,3-ジメチルブチルアミン、1,2-ジメチルヒドラジン、N-エチルピペリジン、N-メチルピペリジン、ピペリジン、エタノールアミン、ピペラジン、アミノピリジン、水酸化ルビジウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、硫化アンモニウム、アミン類又はポリアミン類、ポリ硫化アンモニウム、ビニルピリジン、メタケイ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物などのうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、アルカリ源化合物は、ヘキサメチレンテトラミン(C12)であることが好ましい。
【0051】
(形態1)
亜鉛化合物は、特に限定されないが、例えば、ふっ化亜鉛、ふっ化亜鉛四水和物、酸化亜鉛、ZnOHF、亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、酢酸亜鉛二水和物、クエン酸亜鉛二水和物、水酸化炭酸亜鉛、テルル化亜鉛、臭化亜鉛、チオシアン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二リン酸亜鉛、リン酸亜鉛四水和物、p-t-ブチル安息香酸亜鉛、バシトラシン亜鉛、酢酸亜鉛、硫化亜鉛、よう化亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、クレアチニン塩化亜鉛、テレフタル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛tert-ブトキシド、亜鉛meso-テトラフェニルポルフィン、亜鉛i-プロポキシド、亜鉛ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、亜鉛2-メトキシエトキシド、亜鉛2,4-ペンタンジオナート一水和物、亜鉛-銅対、亜鉛2-メチルイミダゾール MOF (ZIF-8)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミド酸亜鉛、過酸化亜鉛、5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリナト亜鉛、プロトポルフィリナト亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、ジフェニル亜鉛、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、酸化鉄亜鉛、2,5-ジブトキシ-4-モルホリノベンゼンジアゾニウムクロリド塩化亜鉛、2,5-ジイソプロポキシ-4-モルホリノベンゼンジアゾニウムクロリド塩化亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、p-(ジメチルアミノ)ベンゼンジアゾニウムクロリド塩化亜鉛、アクリジンオレンジ、ジンクピリチオン、ナフテン酸亜鉛・ミネラルスピリット溶液、ポラプレジンク、マンゼブ、ジラム、ジネブ、メチラム、グルコン酸亜鉛n水和物、プロピネブ (ジカルバメート)、エチレンジアミン-N,N,N',N'-四酢酸亜鉛(II)二ナトリウム塩四水和物、ジメチル亜鉛、セレン化亜鉛、テトラフルオロほう酸亜鉛、フタロシアニン亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、臭化tert-ブチル亜鉛、ナフテン酸亜鉛、Zinc dibutyldithiocarbamate、Zinc diethyldithiocarbamate、ヘキサフルオロアセチルアセトナト亜鉛水和物、グルコン酸亜鉛、Diethylzinc、Zn(BTZ)2[Bis[2-(2-hydroxyphenyl)benzothiazolato]zinc(II)]、エチルバイオレットG (塩化亜鉛複塩)、硫酸亜鉛七水和物、過塩素酸亜鉛六水和物、アセチルアセトナト亜鉛水和物、ファストバイオレットBソルト、ビス(2-エチルヘキサン酸)亜鉛、ファストブルーRRソルト、ファストブルーBBソルト、ビス(3-アセチル-6-メチル-2H-ピラン-2,4(3H)-ジオナト)亜鉛二水和物、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ほう酸亜鉛3.5水和物、トルエン-3,4-ジチオール亜鉛塩水和物、酸化亜鉛タングステン、モリブデン酸亜鉛、シクロヘキサン酪酸亜鉛二水和物、シアン化亜鉛、砒化亜鉛、臭化シクロプロピル亜鉛、オキソ[ヘキサ(トリフルオロアセタト)]テトラ亜鉛トリフルオロ酢酸付加物、窒化亜鉛、臭化3-シアノプロピル亜鉛、酸化亜鉛モリブデン、デバルダ合金、ジエチル亜鉛、サリチル酸亜鉛三水和物、乳酸亜鉛三水和物、イソプロピルマグネシウムクロリド-亜鉛(II)アート錯体、スーパーオキシドジスムターゼ、などのうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0052】
ふっ素化合物は、特に限定されないが、例えば、ふっ化水素酸、ふっ化水素アンモニウム、ふっ化ナトリウム、ふっ化カリウム、ふっ化リチウム、ふっ化アンモニウム、ふっ化カルシウム、ふっ化セシウム、ふっ化マグネシウム、ふっ化水素カリウム、ふっ化水素ナトリウム、ふっ化カリウム二水和物、ふっ化ルテチウム、ふっ化物イオン標準液、ふっ化アルミニウム、ふっ化すず、ふっ化アンチモン、ふっ化バリウム、ふっ化鉛、ふっ化ストロンチウム、ふっ化ランタン、ふっ化ユウロピウム、ふっ化ジスプロシウム、ふっ化ネオジム、ふっ化プラセオジム、ふっ化エルビウム、ふっ化ガドリニウム、ふっ化ホルミウム、ふっ化イッテルビウム、ふっ化サマリウム、ふっ化ニッケル、ふっ化鉄、ふっ化ほう素、ふっ化銀、ふっ化セリウム、ふっ化テトラ-n-ブチルアンモニウム三水和物、ふっ化銅、ふっ化ルビジウム、ふっ化ガリウム、ふっ化ビスマス、ふっ化亜鉛、ふっ化ジルコニウム、ふっ化コバルト、ふっ化バナジウム、ふっ化チタン、ふっ化キセノン、ふっ化イットリウム、ふっ化マンガン、ふっ化ニオブ、ふっ化タンタル、ふっ化クロム、ふっ化パーフルオロ-2,5,8,11,14,17-ヘキサメチル-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサヘンエイコサンオイル、ふっ化スカンジウム、ふっ化亜鉛四水和物、ふっ化アルミニウム三水和物、ふっ化鉄(II)三水和物、ふっ化鉄(III)三水和物、ふっ化ルビジウム水和物、ふっ化水素-ピリジン、ふっ化アルミニウム水和物、ふっ化パーフルオロオクタノイル、酢酸錯体、ふっ化2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-グルコピラノシル、ふっ化トリチル、ふっ化フェナシル、ふっ化オクチル、ふっ化4-メトキシメタニリル、ふっ化ペンチル、ふっ化セリウム(IV)水和物、ふっ化水素ピリジン錯体、ふっ化n-テトラデシル、ふっ化水銀、ふっ化インジウム、ふっ化タリウム、ふっ化フェニルメチルスルホニル、ふっ化2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-ガラクトピラノシル、ふっ化2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-マンノピラノシル、三ふっ化ほう素ジエチルエーテル錯体、テトラフルオロほう酸カリウム、ヘキサフルオロけい酸ナトリウム、六ふっ化りん酸アンモニウム、などのうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0053】
(形態2)
ふっ素含有亜鉛化合物は、特に限定されないが、例えば、ふっ化亜鉛、ふっ化亜鉛四水和物、ZnOHF、ヘキサフルオロアセチルアセトナト亜鉛水和物などを例示することができる。
【0054】
本発明のZnOHFナノベルトの製造方法は、例えば、上記の材料を、常圧(大気圧、1気圧)にて、0~100℃程度の蒸留水に溶解し、10分~24時間程度保持することが好ましい。これにより、本発明のZnOHFナノベルトを合成することができる。また、溶媒中で合成されたZnOHFナノベルトは、適宜、分離、乾燥処理などを行うことができる。
【0055】
(多孔質ZnOナノベルト)
本発明の多孔質ZnOナノベルトは、ZnO粒子から構成される多孔質構造を有し、長尺であり、かつ、断面形状が長方形である。また、本発明の多孔質ZnOナノベルトは、一次元構造を有し、一方向に延びるベルト状の形状を有している。
【0056】
ここで、「断面」とは、多孔質ZnOナノベルトの長手方向に直交する方向を含む断面をいう。また、「長方形」とは、ZnOHFナノベルトにおける定義と同様に、例えば、電子顕微鏡による観察などにおいて、実質的に長方形であると認識される形状を含み、例えば、対辺の変形や、対辺を構成する表面の微細な凹凸などは許容される。
【0057】
また、例えば、多孔質ZnOナノベルトをガスセンサに使用する場合、対象ガス分子との反応点が多いこと、高い抵抗変化率が得られること、導電性を有することなどが望まれるため、このような観点から、以下の特徴を有していることが考慮される。
【0058】
多孔質ZnOナノベルトは、気孔率が1%以上50%以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、多孔質ZnOナノベルトの気孔率は、5%以上50%以下であることが好ましい。気孔率は、透過型電子顕微鏡写真等の観察画像における、酸化亜鉛(ZnO)の領域と空隙の領域の面積比率から算出することができる。
【0059】
多孔質ZnOナノベルトの幅(断面の長方形の長辺の長さ)は、10nm以上200nm以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、多孔質ZnOナノベルトの幅(断面の長方形の長辺の長さ)は、10nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0060】
多孔質ZnOナノベルトの厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)は、1nm以上50nm以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、1nm以上30nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0061】
多孔質ZnOナノベルトの長手方向の長さは、100nm以上1000μm以下である。また、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、長手方向の長さは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0062】
さらに、多孔質ZnOナノベルトの長手方向の長さと幅との比率(長さ/幅)は、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、1より大きく10000以下であることが好ましく、10以上10000以下であることがより好ましく、200以上10000以下であることがさらに好ましい。
【0063】
多孔質ZnOナノベルトの幅と厚さの比率(幅/厚さ)は、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、1より大きく200以下であることが好ましく、2以上200以下であることがより好ましく、10以上200以下であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明において、多孔質ZnOナノベルトの幅(断面の長方形の長辺の長さ)、厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)、多孔質ZnOナノベルトの長手方向の長さは、走査型電子顕微鏡写真、透過型電子顕微鏡写真、光学顕微鏡写真等の観察画像から算出することができる。
【0065】
さらに、ガスセンサなどの用途への応用の観点から、多孔質ZnOナノベルトのZnO粒子の平均粒径は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、1nm以上30nm以下であることがより好ましく、1nm以上20nm以下であることがさらに好ましい。ZnO粒子の平均粒径は、例えば、過型電子顕微鏡写真等の観察画像における、ZnO粒子の粒径から算出することができる。
【0066】
また、多孔質ZnOナノベルトを構成するZnO粒子には、一方向に長い長尺状粒子が含まれ、多孔質ZnOナノベルトの長手方向と、この長尺状粒子の長手方向とが一致していることが好ましい。また、長尺状粒子には、長手方向に沿った断面が略楕円形状の粒子(楕円状粒子)が含まれる。ZnO粒子に長尺状粒子が含まれていることで、例えば、多孔質ZnOナノベルトをガスセンサに使用した場合、センサの応答を向上させることができる。
【0067】
そして、多孔質ZnOナノベルトは、結晶表面上に、原子層の段差(原子ステップ)を有している。このため、ダングリングボンド(未結合手)、および原子レベルでの段差を有している。ダングリングボンド(未結合手)は反応性が非常に高いことが知られている。ダングリングボンド(未結合手)により、検知対象ガスのZnO表面への吸着が促進されること、酸素分子の吸着が促進されること、検知対象のガス分子と酸素の反応が促進されること、検知対象分子や酸素やZnOらの間での電子の授受が促進されることが考えられる。また、原子レベルでの段差の箇所では、酸素分子の吸着が促進されること、検知対象ガスの吸着が促進されることが考えられる。これらの効果により、多孔質ZnOナノベルトをガスセンサに使用した場合、センサの応答を向上させることができる。
【0068】
さらに、多孔質ZnOナノベルトは、33.3at.%以下のふっ素を含有することができる。具体的には、多孔質ZnOナノベルトは、例えば、0.33~33.3at.%以下のふっ素を含有することが好ましい。多孔質ZnOナノベルトがふっ素を含有することで導電性が向上し、多孔質ZnOナノベルトをガスセンサに使用した場合、センサ特性が向上することが考えられる。また、酸素とふっ素ではイオン半径が異なることから、結晶構造がひずみ、結晶欠陥が入りやすくなり、ZnO内において酸素空孔が生成しやすくなる。このため、それらの酸素イオンが対象ガス分子との反応に寄与し、センサ応答が向上することが考えられる。
【0069】
本発明の多孔質ZnOナノベルトは、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ、電池材料、人工光合成材料等に用いることができる。特に、本発明の多孔質ZnOナノベルトは、ガスセンサの用途に好適である。
【0070】
(多孔質ZnOナノベルトの製造方法)
本発明の多孔質ZnOナノベルトの製造方法は、溶媒に、亜鉛化合物、ふっ素化合物およびアルカリ源化合物、または、ふっ素含有亜鉛化合物およびアルカリ源化合物を添加して、ZnOHFナノベルトを合成する第1工程;および、
ZnOHFナノベルトを加熱処理して、多孔質ZnOナノベルトを得る第2工程
を含む。
【0071】
第1工程については、上述したZnOHFナノベルトの製造方法と共通するので、説明は省略する。
【0072】
第2工程では、ZnOHFナノベルトを加熱処理して、多孔質ZnOナノベルトを得る。加熱処理条件は特に限定されないが、例えば、ZnOHFナノベルトを100~1000℃程度にて、10分~24時間程度、加熱処理することにより、多孔質ZnOナノベルトを合成することができる。
【0073】
図1は、ZnOHFナノベルトおよび多孔質ZnOナノベルトの合成例を示した模式図である。図1では、ふっ素含有亜鉛化合物として、ふっ化亜鉛四水和物を例示しており、アルカリ源化合物として、ヘキサメチレンテトラミン(C12)を例示している。
【0074】
(ガスセンサ)
上述した本発明の多孔質ZnOナノベルトはガスセンサに好適に用いることができ、特に、本発明のガスセンサは、アセトンやイソプレン、トルエン、アンモニア、水素に代表される可燃性ガスや還元性ガス、NO(二酸化窒素)に代表される酸化性ガス、あるいは、NO(二酸化窒素)に代表される支燃性ガスのうちの1種または2種以上を検知可能である。
【0075】
以下、本発明のガスセンサの一実施形態について説明する。
【0076】
本発明のガスセンサは、基材と、基材上に設けられた一対の電極と、電極上に形成され、一対の前記電極同士を接続する導電性塗膜と、を備えている。
【0077】
基材の材料は、特に限定されないが、例えば、シリコン単結晶基板、半導体基板、樹脂材料などを例示することができる。
【0078】
電極の材料は、特に限定されないが、例えば、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、TiN(窒化チタン)、TaN(窒化タンタル)およびTiAlN(窒化チタンアルミニウム)などを例示することができる。一対の電極の成形方法も特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0079】
導電性塗膜は、本発明の多孔質ZnOナノベルトを含む。多孔質ZnOナノベルトの含有量は特に限定されないが、50~100質量%であることが好ましい。
【0080】
ガスセンサは、金属電極を有する基板等の基材の上に、塗布法などにより、多孔質ZnOナノベルトを含む塗料から導電性塗膜(粒子膜)を形成することによりセンサ素子とすることができる。
【0081】
導電性塗膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、スリットコート、スピンコート、バーコート、スプレーコート等の塗布法を用いて形成することができる。
【0082】
導電性塗膜を形成する塗料に使用される溶媒は、多孔質ZnOナノベルトを分散させることが可能であればよく、例えば、水やアルコールを例示することができる。アルコールとしては、イソプロパノール、エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノールなどから1種以上が選択される。
【0083】
また、塗料には適宜、バインダーを配合することもできる。バインダーは、限定されないが、有機バインダーあるいは無機バインダーから選択される1種以上を例示することができる。有機バインダーとしては、例えばセルロース誘導体、ビニル樹脂、ふっ素系樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等を例示することができる。無機バインダーとしては、例えばアルキルシリケート、ハロゲン化ケイ素、およびこれらの部分加水分解物等の加水分解性ケイ素化合物を分解して得られる生成物、有機ポリシロキサン化合物とその重縮合物、シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ素化合物、リン酸亜鉛等のリン酸塩、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、重リン酸塩、セメント、石膏、石灰、ほうろう用フリット等を例示することができる。
【0084】
さらに、塗料には、バインダー以外にその他の各種の添加剤を配合することもできる。その他の添加剤としては、例えば、消泡剤、架橋剤、硬化触媒、顔料分散剤、乳化剤、造膜助剤、増粘剤、中和剤、防腐剤等である。
【0085】
導電性塗膜の膜厚は、ガスセンサの検出対象や特性などに応じて適宜設定することができ、例えば10μm~5mm程度の範囲を例示することができる。
【0086】
そして、空気は、酸素20%と窒素80%の混合ガスである。空気(air)中でのガスセンサの抵抗値(resistance)をRa、検知対象となるガス(gas)中でのガスセンサの抵抗値(resistance)をRgとすると、空気から検知対象ガスに切り替えた際の電気抵抗値の変化率(抵抗変化率)は、還元性ガスにおいてはRa/Rgで、酸化性ガスにおいてはRg/Raで表すことができる。
【0087】
本発明のガスセンサは、アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素に代表される還元性ガスまたは、二酸化窒素に代表される酸化性ガスなどの検知対象ガスに対して、空気に対する抵抗値変化を示す。
【0088】
具体的には、本発明のガスセンサは、アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素に代表される還元性ガス(濃度500ppb)、または、二酸化窒素に代表される酸化性ガス(濃度500ppb)に対して、1.0以上16.5以下の抵抗値変化率(還元性ガスにおいてはRa/Rg、酸化性ガスにおいてはRg/Ra)を示すことが好ましく、2.0以上16.5以下の抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を示すことがより好ましく、10.0以上16.5以下の抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を示すことがさらにより好ましい。
【0089】
本発明のガスセンサは、例えば、70ppt~200ppt濃度のアセトンガスを検知可能である。また、例えば、本発明のガスセンサは、低濃度アセトン(10ppb)に対して、1.0以上2.5以下の抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を示すことが好ましい。
【0090】
また、本発明のガスセンサは、アセトンに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)と、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素に対する抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を比較した場合、1.0以上、好ましくは、2.0以上、3.0以上、4.0以上の比率のアセトン選択性が得られる。本発明のガスセンサは、アセトンに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)と、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素に対する抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を比較した場合、例えば、1.0以上10.0以下、実際的には、1.0以上3.5以下の比率のアセトン選択性を有するものが例示される。
【0091】
さらに、本発明のガスセンサは、例えば、濃度500ppbのアセトンガスへの応答において、375℃、400℃、425℃、450℃、475℃、500℃の各センサ素子温度のうち、450℃のセンサ素子温度にて最大の抵抗値変化率(Ra/Rg)を示すことが好ましい。
【0092】
本発明のZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルトおよびこの製造方法、ガスセンサは、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0093】
以下、本発明のZnOHFナノベルト、多孔質ZnOナノベルト、これらの製造方法および、ガスセンサについて、実施例とともに説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
<実施例1>ZnOHFナノベルトの合成
300mgのフッ化亜鉛四水和物(ZnF・4HO)と240mgのヘキサメチレンテトラミン(C12)を80℃の蒸留水200mLに溶解した。調製した溶液をポリプロピレン容器に入れ、80℃で3時間保持し、ZnOHFナノベルトを合成した。ZnOHFナノベルトを遠心分離により回収し、エタノールで洗浄した後、80℃で乾燥させた。ZnOHFナノベルトからなる粉末の色は白色であった。
【0095】
図2は、ZnOHFナノベルトの走査型電子顕微鏡写真である。図3は、ZnOHFナノベルトの透過型電子顕微鏡写真である。図4は、図3に示されるZnOHFナノベルトの電子線回折パターンを示す図である。
【0096】
図2には、ZnOHFナノベルトの一次元の形状や大きさが示されている。
【0097】
図2図3に示したように、ZnOHFナノベルトは、長尺であり、かつ、断面形状が長方形であるベルト状の構造体であることが確認された。また、図3に示したように、ZnOHFナノベルトの長手方向が、ZnOHFのb軸方向であることが確認された。
【0098】
図4に示したように、ZnOHFナノベルトが、ZnOHFに帰属される電子線回折パターンを示すこと、また、単結晶に帰属される電子線回折パターンを示すこと、および、ZnOHFナノベルトの長手方向が、ZnOHF結晶のb軸方向であることが確認された。
【0099】
ZnOHF結晶は、PDFカード番号(Inorganic, ICSD Pattern)01-076-7466のデータにおいて示されるように、結晶系はOrthorhombicであることが知られている。日本結晶学会から、Orthorhombicの和訳として、斜方晶系ではなく直方晶系とすることが提案されていることから、Orthorhombicは、従来は斜方晶、現在では直方晶と訳されることが多い。また、空間群はPna21(33) であることが知られている。格子定数は、a= 10.2276 Å(オングストローム)、b= 4.7161 Å(オングストローム)、c= 3.1130 Å(オングストローム)であり、角度は、α=90°、β=90°、γ=90°であることが知られている。すなわち、ZnOHF結晶は、直方晶系であり、格子定数が3辺とも異なり、3つの角度が90°であることからも示されるように、直方体の結晶構造を有する。そのため、ZnOHF結晶が、一軸(b軸)方向に延びた結晶構造を有するZnOHFナノベルトは、長手軸に対して垂直の方向で切断した際の断面形状が長方形である。
【0100】
また、図2図3に示したように、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)観察および透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって、ZnOHFナノベルトは、断面が長方形のベルト状であり、幅(断面の長方形の長辺の長さ)の範囲が10nm以上200nm以下、厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)の範囲が1nm以上50nmm以下、長手方向の長さの範囲が100nm以上1000μm以下であることが確認された。
なかでも、より多く観察されたZnOHFナノベルトは、幅(断面の長方形の長辺の長さ)の範囲が20nm以上100nm以下、厚さ(断面の長方形の短辺の長さ)の範囲が10nm以上30nm以下、長手方向の長さの範囲が1μm以上10μm以下であることが確認された。また、図3に示したように、TEM観察によって、ZnOHFナノベルトの長手方向はb軸方向であることが確認された。
【0101】
また、図4に示したように、020、0-20、600、-600、610、-610、-6-10、1200等の回折スポットが確認された。電子線回折により、単結晶であることが示された。また、緻密な構造体であることが確認された。
【0102】
さらに、TEM観察におけるエネルギー分散型X線分光法(EDS)での組成分析により、ZnOHFナノベルトの構成元素の比率を原子組成百分率 (atomic %、at.%)にて算出したところ、
亜鉛:32.0 at.%、
酸素:34.5 at.%、
ふっ素:33.5 at.%
であった。
【0103】
図5(a)ZnOHFナノベルトのX線回折パターン、(b)多孔質ZnOナノベルトのX線回折パターンを示した図である。
【0104】
図5(a)にて、白色粉末のX線回折(XRD)パターンは、PDFカード番号(Inorganic, ICSD Pattern)01-076-7466のデータと一致し、ZnOHFであることが示された。また、その他の成分のX線回折パターンは観察されなかった。したがって、白色粉末が、ZnOHFであること、および他の成分を含まず、ZnOHFの単一相であることが示された。
【0105】
110、310、201、111、221の各X線回折ピークの半値幅からシェラーの式を用いて算出された結晶子サイズは、それぞれ、22.1nm、23.6nm、29.6nm、27.4nm、20.9nmであった。
【0106】
<実施例2>多孔質ZnOナノベルトの合成
実施例1において作製したZnOHFナノベルトを500 ℃で2時間加熱処理することにより、多孔質ZnOナノベルトを合成した。その際、粉末の色は白色から淡黄色に変化した。
【0107】
図5(b)に示したように、淡黄色粉末のX線回折パターンは、JCPDS No. 36-1451のデータと一致し、ZnOであることが確認された。また、その他の成分のX線回折パターンは観察されなかった。したがって、淡黄色粉末が、ZnOであること、および他の成分を含まず、ZnOの単一相であることが確認された。
【0108】
100、002、101、110、103の各X線回折ピークの半値幅からシェラーの式を用いて算出された結晶子サイズは、それぞれ、19.0nm、16.0nm、17.2nm、16.7nm、13.8nmであった。
【0109】
図6は、多孔質ZnOナノベルトの走査型電子顕微鏡写真である。図7は、多孔質ZnOナノベルトの透過型電子顕微鏡写真である。図8は、多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。図9は、多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真であり、図8の点線部分の拡大図である。図10は、多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。図11は、多孔質ZnOナノベルトの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
【0110】
図6には、多孔質ZnOナノベルトの1次元の形状や大きさが示されている。
【0111】
図6図7および図8に示されているように、多孔質ZnOナノベルトが、多孔質であること、およびZnO微粒子から構成されていること、長尺であり、かつ、断面形状が長方形であるベルト状の構造体であることが確認された。また、ZnO微粒子には長尺状粒子(楕円形粒子)が含まれ、それらの長手方向と、多孔質ZnOナノベルトの長手方向が同一の方向であることが確認された。
【0112】
図9に示されているように、多孔質ZnOナノベルトを構成するZnO微粒子が、規則的なZnOの格子縞を有することが確認された。
【0113】
図10に示されているように、多孔質ZnOナノベルトを構成するZnO微粒子の表面が、原子層の段差(原子ステップ構造)を有することが確認された。
【0114】
図11に示されているように、多孔質ZnOナノベルトを構成するZnO微粒子が、規則的なZnOの格子縞を有し、その原子配列の間隔が0.335nmであり、ZnOの(001)面の面間隔に帰属されることが確認された。
【0115】
すなわち、多孔質ZnOナノベルトは、ZnO粒子からなる多孔質構造であり、ZnO粒子からなる多結晶構造であった。また、多孔質ZnOナノベルトを構成しているZnO粒子には長尺状粒子(楕円形粒子)が含まれ、平均粒径が1nm以上50nm以下であった。
【0116】
さらに、多孔質ZnOナノベルトは、長尺、かつ、断面形状が長方形のベルト状であり、幅(断面の長方形の長い一辺)の範囲が、10nm以上200nm以下、
厚さ(断面の長方形の短い一辺)の範囲が、1nm以上50nm以下、
長さの範囲が100nm以上1000μm以下、
気孔率が1%以上50%以下、
であった。
【0117】
より多く観察された多孔質ZnOナノベルトを構成しているZnO粒子は、平均粒径が10nm以上30nm以下、であった。
【0118】
より多く観察された多孔質ZnOナノベルトは、
幅(断面の長方形の長い一辺)の範囲が、20nm以上100nm以下、
厚さ(断面の長方形の短い一辺)の範囲が、10nm以上30nm以下、
長さの範囲が、1μm以上10μm以下、
気孔率が、1%以上30%以下、
であった。
【0119】
また、TEM観察によって、多孔質ZnOナノベルトの長手方向は、b軸方向であることが確認された。
【0120】
さらに、TEM観察におけるEDS分析により、多孔質ZnOナノベルトの組成分析を行ったところ、
亜鉛:49.51at.%、
酸素:50.16at.%、
ふっ素:0.33at.%
であった。
【0121】
(ふっ素含有量の算出例1)
ZnOHFナノベルトにおける組成は、その組成式からも明らかなように、Zn:O:H:F=1:1:1:1であり、原子百分率で記載すると、
亜鉛:25at.%、
酸素:25at.%、
水素:25at.%、
ふっ素:25at.%
である。
【0122】
ZnOHFナノベルトに大気中にて加熱処理を施して多孔質ZnOナノベルトを合成するため、他の元素は混入しない。亜鉛のイオン量は維持され、水素やふっ素のイオンは維持または減少する。酸素イオンは維持または増加または減少する。Zn、O、H、Fからなる物質に大気中にて加熱処理を行うこと、および、X線回折パターンの結果等を考慮すると、より具体的には、通常、亜鉛量は維持され、水素やふっ素のイオン量は減少し、酸素イオンはZnOとなる組成と同等またはややZnに比べて酸素イオン量が少ない状態となると考えられる。ここで、酸素イオン量がZnイオン量よりも少なくなるケースは、酸素空孔が生成する場合である。例えば、酸素が10分の1に減少する場合には、加熱処理前のイオン量の比率Zn:O=1:1は、加熱処理によりZn:O=1:0.1となる。
【0123】
これらを踏まえると、酸素空孔が生成しない場合では、ZnOHFナノベルトに大気中にて加熱処理を施して合成される多孔質ZnOナノベルトにおいては、ふっ素の含有量は最大33.3at.%である。この算出においては、加熱により水素イオンがなくなり、亜鉛イオン量が維持され、酸素イオン量はZnOの組成となるように維持され、ふっ素イオンがそのまま維持された場合としている。
ZnOHFナノベルト中のイオン量の比率
Zn:O:H:F=1:1:1:1
多孔質ZnOナノベルト中のイオン量の比率
Zn:O:H:F=1:1:0:1
上記の多孔質ZnOナノベルト中のイオン量の比率より算出される原子百分率
亜鉛:33.3at.%、
酸素:33.3at.%、
水素:0at.%、
ふっ素:33.3at.%
TEM観察におけるEDS分析結果におけるふっ素の原子百分率が0.33at.%であることを踏まえると、多孔質ZnOナノベルト中のふっ素の含有量は、0.33~33.3at.%の値を取りうる。
【0124】
(ふっ素含有量の算出例2)
また、例えば、ZnOHFナノベルトの加熱処理によりふっ素が90%減少した場合には、多孔質ZnOナノベルト中のふっ素の含有量は、下記により最大4.76at.%となる。
ZnOHFナノベルト中のイオン量の比率
Zn:O:H:F=1:1:1:1
多孔質ZnOナノベルト中のイオン量の比率
Zn:O:H:F=1:1:0:0.1
上記の多孔質ZnOナノベルト中のイオン量の比率
より算出される原子百分率
亜鉛:47.6at.%、
酸素:47.6at.%、
水素:0at.%、
ふっ素:4.76at.%
TEM観察におけるEDS分析結果におけるふっ素の原子百分率が0.33at.%であることを踏まえると、ZnOHFナノベルトの加熱処理によりふっ素が90%減少した場合には、多孔質ZnOナノベルト中のふっ素の含有量は、0.33~4.76at.%の値を取りうる。
【0125】
(ふっ素含有量の算出例3)
また、例えば、ZnOHFナノベルトの加熱処理によりふっ素が99%減少した場合には、多孔質ZnOナノベルト中のふっ素の含有量は、下記により最大0.50at.%となる。
ZnOHFナノベルト中のイオン量の比率
Zn:O:H:F=1:1:1:1
多孔質ZnOナノベルト中のイオン量の比率
Zn:O:H:F=1:1:0:0.01
上記の多孔質ZnOナノベルト中のイオン量の比率より算出される原子百分率
亜鉛:49.8at.%、
酸素:49.8at.%、
水素:0at.%、
ふっ素:0.50at.%
TEM観察におけるEDS分析結果におけるふっ素の原子百分率が0.33at.%であることを踏まえると、ZnOHFナノベルトの加熱処理よりふっ素が99%減少した場合には、多孔質ZnOナノベルト中のふっ素の含有量は、0.33~0.50at.%の値を取りうる。
【0126】
<実施例3>多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサの特性評価
多孔質ZnOナノベルトを、一対の白金製の電極が設けられた基材上に塗布法により塗布し、一対の電極同士が接続する導電性塗膜を形成することで、ガスセンサを作製した。具体的には、多孔質ZnOナノベルトの粉末10mgをエタノール3mLに加えた後、30分間の超音波処理により分散させた。この分散溶液5μLを、3×3mmの大きさの基板の上に塗布して導電性塗膜を形成し、ガスセンサを作製した。
【0127】
図12は、ガスセンサにおける、濃度500ppbのアセトンガスへの応答に対するセンサ素子温度の影響を示すグラフである。
【0128】
375℃、400℃、425℃、450℃、475℃、500℃の各センサ素子温度での応答値は、それぞれ、9.16、11.4、12.9、16.1、13.3、12.4、であった。
【0129】
評価された測定温度においては、センサ素子温度が450℃にて最大の応答を示すことが確認された。
【0130】
図13は、ガスセンサにおける、濃度10~500ppbのアセトンガスへの応答を示すグラフである。
【0131】
500ppbのアセトンガスに対する、多孔質ZnOナノベルトの応答時間と回復時間はそれぞれ20秒と240秒であった。ここで、応答時間(τres)は、応答値がターゲットガス曝露から最大値の90%に達するまでの時間として定義され、回復時間(τrec)は、応答値が10%に回復するのに必要な時間として定義される。
【0132】
アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素に代表される可燃性ガスや還元性ガスに対するセンサ応答値は、空気中でのセンサ抵抗値Raおよび対象ガス中でのセンサ抵抗値Rgより、Ra/Rgの式を用いて算出した。
【0133】
二酸化窒素に代表される酸化性ガスや支燃性ガスに対するセンサ応答値は、空気中でのセンサ抵抗値Raおよび対象ガス中でのセンサ抵抗値Rgより、Rg/Raの式を用いて算出した。
【0134】
アセトン濃度500ppb、250ppb、100ppb、50ppb、25ppb、10ppbに対するセンサ応答(抵抗値変化率(Ra/Rg))は、それぞれ、16.3、10.7、6.0、3.9、2.9、2.2であった。
【0135】
図14は、ガスセンサにおける、濃度200~1000pptのアセトンガスへの応答を示すグラフである。
【0136】
アセトン濃度1000ppt、800ppt、600ppt、400ppt、200pptに対するセンサ応答(抵抗値変化率(Ra/Rg)は、それぞれ、1.9、1.7、1.5、1.3、1.2であった。ガスセンサは、200ppt濃度のアセトンガスが検知可能であることが確認された。
【0137】
1000ppt~200pptの範囲で良好な直線性を示し、二乗平均平方根誤差(Root Mean Squared Error、RMSE)は、R =0.996であった。検出限界(検出下限、Limit Of Detection、LOD、Detection Limit)を算出したところ、73pptであった。ここで、検出限界とは「検出できる最小量(値)のこと」である。標準偏差を3倍したものを検出限界として算出した。検出限界(LOD)は3.3×σ/ Sの式により算出し、ここでσはブランク信号の標準偏差であり、Sは線形フィットの傾きである(非特許文献1)。検出限界の算出におけるσおよびSは、それぞれ、0.021384、0.000972であった。検出限界の算出により、多孔質ZnOナノベルトを含むガスセンサは、73ppt濃度のアセトンガスが検知可能であることが示された。
【0138】
図15は、多孔質ZnOナノベルトを使用したガスセンサにおける、アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素の各種ガスに対する応答を示すグラフである。
【0139】
500ppbのアセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、二酸化窒素、水素に対するセンサ応答値(抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra))は、それぞれ、16.0、8.1、6.2、5.6、5.4、4.6であった。多孔質ZnOナノベルトを含むガスセンサは、アセトン、イソプレン、トルエン、アンモニア、水素、二酸化窒素の各種ガスを検知可能であることが確認された。
【0140】
アセトンに対する抵抗値変化率(Ra/Rg)と、イソプレン、トルエン、アンモニア、二酸化窒素、又は、水素に対する抵抗値変化率(Ra/RgまたはRg/Ra)を比較した場合、それぞれ、2.0、2.6、2.9、3.0、3.5であった。多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサは、アセトン選択性を有することが示された。
【0141】
<実施例4>実施例3のガスセンサと市販のガスセンサとの比較
比較として、代表的な半導体式ガスセンサであるフィガロ技研株式会社製TGS2602と比べると、製品TGS2602のカタログでは、Rs=各種濃度のガス中でのセンサ抵抗値、Ro=清浄大気中でのセンサ抵抗値とすると、10ppm水素にて、Rs/Ro=0.80である。Ra/Rgに換算すると、0.80の逆数で、Ra/Rg=1.25となる。
【0142】
実施例3の多孔質ZnOを含むガスセンサにおける水素500ppbに対するセンサ応答は4.6であり、水素濃度が20分の1にも関わらず、フィガロ技研株式会社製TGS2602と比べると3.68倍高い値であった。
【0143】
水素濃度500ppb~10ppmの範囲で、センサ応答が水素濃度に比例するとして、実施例3の多孔質ZnOナノベルトを含むガスセンサにおける水素10ppmに対するセンサ応答を算出すると、1から4.6への増加量である3.6の20倍として72となる。これは、フィガロ技研株式会社製TGS2602の応答の1.25と比べると57.6倍のセンサ応答と計算される。
【0144】
ガスの種類は異なるが、実施例3の多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサにおけるアセトン500ppbに対するセンサ感度は16.0であり、ガス濃度が20分の1にも関わらず、フィガロ技研株式会社製TGS2602と比べると12.8倍高い値であった。
【0145】
アセトン濃度500ppb~10ppmの範囲で、センサ応答がアセトン濃度に比例するとして、実施例3の多孔質ZnOナノベルトからなるガスセンサにおけるアセトン10ppmに対するセンサ応答を算出すると、1から16.0への増加量である15.0の20倍として300となる。これは、フィガロ技研株式会社製TGS2602の応答の1.25と比べると240倍のセンサ応答と計算される。
【0146】
製品TGS2602のカタログのウェブサイト:
https://www.figaro.co.jp/product/entry/tgs2602.html
製品TGS2602のカタログのウェブサイト:
https://www.figaro.co.jp/product/docs/tgs2602_product%20information%28jp%29_rev04.pdf
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
図13
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