(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168012
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】被覆率算出方法、荷電粒子ビーム描画方法、被覆率算出装置及び荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20231116BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01L21/30 541E
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079606
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安井 健一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 靖雄
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101EE43
5C101HH05
5C101HH27
5C101JJ11
5F056AA07
5F056AA20
5F056CA02
5F056CA30
5F056CB01
5F056CB05
(57)【要約】
【課題】ラスタライズ処理におけるピクセル被覆率の計算量及びメモリ使用量を削減する。
【解決手段】荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画領域を所定サイズで分割したピクセル領域毎のパターンの被覆率を算出する。この被覆率算出方法では、前記描画領域を第1サイズで仮想分割して複数の第1ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率を算出し、前記第1ピクセル領域を前記第1サイズより小さい第2サイズで仮想分割して前記ピクセル領域に対応する複数の第2ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域内のパターン形状を近似する前記第2ピクセル領域を選択し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率、前記第1ピクセル領域内の前記第2ピクセル領域の個数、及び前記選択した第2ピクセル領域の個数に基づいて、前記選択した第2ピクセル領域の被覆率を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画領域を所定サイズで分割したピクセル領域毎のパターンの被覆率を算出する被覆率算出方法であって、
前記描画領域を第1サイズで仮想分割して複数の第1ピクセル領域を生成し、
前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率を算出し、
前記第1ピクセル領域を前記第1サイズより小さい第2サイズで仮想分割して前記ピクセル領域に対応する複数の第2ピクセル領域を生成し、
前記第1ピクセル領域内のパターン形状を近似する前記第2ピクセル領域を選択し、
前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率、前記第1ピクセル領域内の前記第2ピクセル領域の個数、及び前記選択した第2ピクセル領域の個数に基づいて、前記選択した第2ピクセル領域の被覆率を算出する、被覆率算出方法。
【請求項2】
前記複数の第2ピクセル領域のうち、中心がパターンの内側にある第2ピクセル領域を、前記パターン形状を近似する第2ピクセル領域として選択する、請求項1に記載の被覆率算出方法。
【請求項3】
前記第1ピクセル領域内のパターンの重心を検出し、
矩形の前記第1ピクセル領域の4辺のうち、前記重心に最も近い第1辺を選択し、
前記第1辺から、該第1辺に対向する第2辺に向かって、前記第1辺と平行なk列分(kは1以上の整数)の第2ピクセル領域を、前記パターン形状を近似する第2ピクセル領域として選択し、
kは、前記第1ピクセル領域の被覆率、前記第1サイズ及び前記第2サイズに基づく値である、請求項1に記載の被覆率算出方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の被覆率算出方法で算出された前記第2ピクセル領域の被覆率を用いて、前記ピクセル領域毎の照射量を算出し、
前記算出した照射量に基づいて荷電粒子ビームを制御し、基板にパターンを描画する、荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画領域を所定サイズで分割したピクセル領域毎のパターンの被覆率を算出する被覆率算出装置であって、
前記描画領域を第1サイズで仮想分割して複数の第1ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率を算出し、前記第1ピクセル領域を前記第1サイズより小さい第2サイズで仮想分割して前記ピクセル領域に対応する複数の第2ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域内のパターン形状を近似する前記第2ピクセルを選択するラスタライズ部を有し、
前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率、前記第1ピクセル領域内の前記第2ピクセル領域の個数、及び前記選択した第2ピクセル領域の個数に基づいて、前記選択した第2ピクセル領域の被覆率を算出する、被覆率算出装置。
【請求項6】
前記ラスタライズ部は、前記複数の第2ピクセル領域のうち、中心がパターンの内側にある第2ピクセル領域を、前記パターン形状を近似する第2ピクセル領域として選択する、請求項5に記載の被覆率算出装置。
【請求項7】
前記被覆率算出装置により算出された前記第2ピクセル領域の被覆率を用いて前記ピクセル領域毎の照射量を算出し、前記ピクセル領域毎の照射量を定義したドーズマップを作成するドーズマップ作成部と、
前記ドーズマップに基づいて前記ピクセル領域毎の照射時間を算出する照射時間算出部と、
前記算出した照射時間に基づいて荷電粒子ビームの照射量を制御する描画制御部と、
を備える荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆率算出方法、荷電粒子ビーム描画方法、被覆率算出装置及び荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンの製作には、電子ビーム描画装置によってレジストを露光してパターンを形成する、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、例えば、マルチビームを用いて一度に多くのビームを照射し、スループットを向上させたマルチビーム描画装置が知られている。このマルチビーム描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームが、複数の開口を有するアパーチャ部材を通過することでマルチビームが形成され、各ビームがブランキングプレートにおいてブランキング制御される。遮蔽されなかったビームが、光学系で縮小され、描画対象のマスク上の所望の位置に照射される。
【0004】
マルチビーム描画装置は、描画領域をメッシュ状に分割した画素(ピクセル)毎にパターンの被覆率(面積密度)を求め、被覆率に応じてマルチビームの各ビームの照射量を調整する。ピクセルサイズが小さい程、パターン形状を正確に反映し、解像度及び描画精度が向上する。しかし、ピクセルサイズの縮小に伴い、被覆率計算に要する時間が増大すると共に、被覆率の計算結果を記憶するためのメモリ使用量が増大するという問題があった。
【0005】
例えば、
図9(a)、
図9(b)に示すように、ピクセルサイズ(ピクセルの1辺の長さ)を16nmから4nmに小さくした場合、被覆率の計算回数は1回から4回に増える。また、被覆率の計算結果を記憶するためのメモリ使用量は2byteから32byteに増える。ピクセルサイズを1/n倍(nは2以上の整数)にすることで、計算回数はn倍、メモリ使用量はn
2倍に増大していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-340438号公報
【特許文献2】特開2012-230689号公報
【特許文献3】国際公開第2008/084543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ピクセル被覆率の計算量及びメモリ使用量を削減できる被覆率算出方法、荷電粒子ビーム描画方法、被覆率算出装置及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による被覆率算出方法は、荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画領域を所定サイズで分割したピクセル領域毎のパターンの被覆率を算出する被覆率算出方法であって、前記描画領域を第1サイズで仮想分割して複数の第1ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率を算出し、前記第1ピクセル領域を前記第1サイズより小さい第2サイズで仮想分割して前記ピクセル領域に対応する複数の第2ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域内のパターン形状を近似する前記第2ピクセル領域を選択し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率、前記第1ピクセル領域内の前記第2ピクセル領域の個数、及び前記選択した第2ピクセル領域の個数に基づいて、前記選択した第2ピクセル領域の被覆率を算出するものである。
【0009】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、上記被覆率算出方法で算出された前記第2ピクセル領域の被覆率を用いて、前記ピクセル領域毎の照射量を算出し、前記算出した照射量に基づいて荷電粒子ビームを制御し、基板にパターンを描画するものである。
【0010】
本発明の一態様による被覆率算出装置は、荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画領域を所定サイズで分割したピクセル領域毎のパターンの被覆率を算出する被覆率算出装置であって、前記描画領域を第1サイズで仮想分割して複数の第1ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率を算出し、前記第1ピクセル領域を前記第1サイズより小さい第2サイズで仮想分割して前記ピクセル領域に対応する複数の第2ピクセル領域を生成し、前記第1ピクセル領域内のパターン形状を近似する前記第2ピクセルを選択するラスタライズ部を有し、前記第1ピクセル領域のパターンの被覆率、前記第1ピクセル領域内の前記第2ピクセル領域の個数、及び前記選択した第2ピクセル領域の個数に基づいて、前記選択した第2ピクセル領域の被覆率を算出するものである。
【0011】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、上記被覆率算出装置により算出された前記第2ピクセル領域の被覆率を用いて前記ピクセルル領域毎の照射量を算出し、前記ピクセル領域毎の照射量を定義したドーズマップを作成するドーズマップ作成部と、前記ドーズマップに基づいて前記ピクセル領域毎の照射時間を算出する照射時間算出部と、前記算出した照射時間に基づいて荷電粒子ビームの照射量を制御する描画制御部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピクセル被覆率の計算量及びメモリ使用量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図4】マルチビームの照射領域と描画対象画素の一例を示す図である。
【
図5】同実施形態に係る描画方法を説明するフローチャートである。
【
図6】(a)は第1ピクセルの被覆率を示す図であり、(b)は第1ピクセルを分割した第2ピクセルを示す図であり、(c)は第2ピクセルの内外判定情報を示す図である。
【
図8】(a)は第1ピクセルにおけるパターンの重心位置を示す図であり、(b)~(d)は第2ピクセルの選択方法を説明する図である。
【
図9】(a)(b)は比較例による被覆率の計算回数を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0015】
図1は、実施の形態に係る被覆率算出装置を用いた描画装置の概略構成図である。
図1に示すように、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。
【0016】
描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、アパーチャ部材203、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、及び偏向器208が配置されている。
【0017】
描画室103内には、連続移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象となる基板101が配置される。基板101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、基板101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0018】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ位置検出器139、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。これらはバスを介して互いに接続されている。記憶装置140には、描画データが外部から入力され、格納されている。
【0019】
制御計算機110は、ラスタライズ部50、ドーズマップ作成部52、照射時間算出部54及び描画制御部60を有する。これらの機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、ソフトウェアで構成されてもよい。ソフトウェアで構成する場合には、少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、CPUを有するコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。プログラムを収納する記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。制御計算機110における演算結果等の情報はメモリ112にその都度格納される。ラスタライズ部50及びドーズマップ作成部52により、本実施形態による被覆率算出装置の処理が実行される。
【0020】
図2は、アパーチャ部材203の構成例を示す概念図である。
図2において、アパーチャ部材203には、縦横に複数の開口部22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の開口部22が形成される。各開口部22は、共に同じ寸法の矩形で形成される。開口部22は円形であってもよい。
【0021】
これらの複数の開口部22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20a~eが形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の開口部22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。
【0022】
ブランキングプレート204は、
図2に示したアパーチャ部材203の各開口部22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔(開口部)が開口される。そして、各通過孔を挟んでブランキング偏向用の電極の組(ブランカ:ブランキング偏向器)が配置される。2つの電極の一方は、偏向制御回路130からの制御信号に基づく偏向電圧が印加され、他方は接地される。
【0023】
各通過孔を通過する電子ビーム20a~eは、ブランカによってそれぞれ独立に偏向され、ブランキング制御が行われる。このように、複数のブランカが、アパーチャ部材203の複数の開口部22を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0024】
図3は、描画動作の一例を説明する概念図である。
図3に示すように、基板101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。
【0025】
まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で例えば連続移動させる。
【0026】
第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を-y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、あるいはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、-x方向にむかって同様に描画を行う。
【0027】
第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、-x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、アパーチャ部材203の各開口部22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で開口部22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0028】
図4は、マルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図4において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビームのビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域40に分割される。各メッシュ領域40が描画ピクセル領域(描画位置)となる。
図4の例では、基板101の描画領域が、例えばy方向に、一回のマルチビーム20a~eの照射で照射可能な照射領域34のサイズ(ショットサイズ)より小さい幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではなく、例えば、照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであってもよい。
【0029】
照射領域34内に、一回のマルチビーム20a~eの照射で照射可能な複数の画素24(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素24間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図4の例では、隣り合う4つの画素24で囲まれると共に、4つの画素24のうちの1つの画素24を含む正方形の領域で1つのサブピッチ領域26を構成する。
図4は、各サブピッチ領域26が、4×4画素で構成される場合を示している。
【0030】
図4は、描画ピクセル領域のサイズをビームサイズとしているが、描画ピクセル領域のサイズが小さい程、パターン形状を正確に反映し、解像度及び描画精度が向上する。
【0031】
次に、描画部150の動作について説明する。電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直にアパーチャ部材203全体を照明する。電子ビーム200がアパーチャ部材203の複数の開口部22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a~eが形成される。マルチビーム20a~eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランカは、それぞれ個別に、通過する電子ビーム20を演算された描画時間(照射時間)の間だけビームON、それ以外はビームOFFとなるように偏向する(ブランキング偏向を行う)。
【0032】
ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a~eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の開口部に向かって進む。ブランキングプレート204のブランカによってビームOFFとなるように偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の開口部から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングプレート204のブランカによって偏向されなかった(ビームONとなるように偏向された)電子ビームは、制限アパーチャ部材206の中心の開口部を通過する。
【0033】
ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビームは、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208によって各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、基板101上のそれぞれの描画位置(照射位置)に照射される。
【0034】
XYステージ105が連続移動している時、ビームの描画位置(照射位置)がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によってトラッキング制御される。ステージ位置検出器139からXYステージ105上のミラー210に向けてレーザを照射し、その反射光を用いてXYステージ105の位置が測定される。一度に照射されるマルチビームは、理想的にはアパーチャ部材203の複数の開口部の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0035】
描画装置100は、各回のトラッキング動作中にXYステージ105の移動に追従しながらショットビームとなるマルチビームを、描画位置を順にシフトさせて照射する。
【0036】
図5は、実施の形態による描画方法を説明するフローチャートである。
【0037】
ラスタライズ部50が、記憶装置140から描画データを読み出し、第1ピクセル領域毎に、当該第1ピクセル領域内のパターン被覆率(以下、被覆率と記載する)を算出する(ステップS1)。第1ピクセル領域は、描画領域(例えば、ストライプ領域32)を第1サイズM1でメッシュ状に仮想分割したものである。第1サイズM1は、例えば、マルチビームの1本のビーム(個別ビーム)のサイズである。第1ピクセル領域の被覆率はメモリ112に保存される。
【0038】
次に、ラスタライズ部50は、各第1ピクセル領域を、第1サイズM1より小さい第2サイズM2でメッシュ状に複数の第2ピクセル領域に仮想分割する。第2ピクセル領域は、描画ピクセル領域に対応する。以下、第1ピクセル領域、第2ピクセル領域、描画ピクセル領域を、それぞれ、第1ピクセル、第2ピクセル、描画ピクセルと記載する。ラスタライズ部50は、第2ピクセル毎に、当該第2ピクセルの中心がパターンに含まれるか否か検査し、中心がパターンに含まれる第2ピクセルを、パターンの内側に位置する第2ピクセルとして判定する(ステップS2)。第2ピクセルの中心がパターンに含まれるとは、第2ピクセルの中心がパターン上に位置していることをいう。パターンの内側に位置する第2ピクセル群は、パターン形状を近似するものである。
【0039】
中心がパターンに含まれない第2ピクセルは、パターンの外側に位置する第2ピクセルとして判定する。第2ピクセル毎に、パターンの内側に位置するか又は外側に位置するか判定した内外判定情報が、メモリ112に保存される。
【0040】
例えば、ステップS1では、
図6(a)に示すように、第1ピクセル毎の被覆率を算出する。第1ピクセルの被覆率Aは、例えば16ビットの精度でメモリ112に保存される。
【0041】
図6(b)に示すように、ステップS2において、第1サイズM1の第1ピクセルを、第2サイズM2の第2ピクセルに仮想分割する。この例では、第2サイズM2を第1サイズM1の1辺の長さの1/4倍とし(M1/M2=4)、第1ピクセルを16個の第2ピクセルに仮想分割している。
【0042】
そして、第2ピクセルの中心がパターンに含まれるか否か検査する。
図6(b)に示す例では、図中最下段の4つの第2ピクセルの中心と、下から2段目、右から1~3番目の3つの第2ピクセルの中心がパターンに含まれるため、これら7つの第2ピクセルはパターンの内側に位置すると判定する。下から2段目、左から1番目の1つの第2ピクセル、上から1段目の4つの第2ピクセル、上から2段目の4つの第2ピクセルは、中心がパターンに含まれないため、これら9つの第2ピクセルはパターンの外側に位置すると判定する。
【0043】
各第2ピクセルについて、パターンの内側に位置する場合は“1”、外側に位置する場合は“0”とする1ビットの内外判定情報をメモリ112に保存する。例えば、
図6(c)に示すように、第1ピクセルを仮想分割した16個の第2ピクセルについて、16ビットの内外判定情報をメモリ112に保存する。
【0044】
次に、ドーズマップ作成部52が、描画領域(例えばストライプ領域32)を、所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。ドーズマップ作成部52は、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンの被覆率ρを算出する。
【0045】
次に、ドーズマップ作成部52は、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dp(x)を演算する。近接効果補正照射係数Dp(x)は、後方散乱係数η、しきい値モデルの照射量閾値Dth、被覆率ρ、及び分布関数g(x)を用いた、従来手法と同様の近接効果補正用のしきい値モデルによって定義できる。
【0046】
次に、ドーズマップ作成部52は、描画ピクセル(第2ピクセル)毎に、当該描画ピクセルに照射するための入射照射量D(ドーズ量)を演算する。入射照射量Dは、例えば、予め設定された基準照射量Dbaseに、近接効果補正照射係数Dpと、描画ピクセルの被覆率ρ´とを乗じた値として演算すればよい。
【0047】
基準照射量Dbaseは、例えば、Dth/(1/2+η)で定義できる。
【0048】
描画ピクセルの被覆率ρ´の算出にあたり、ドーズマップ作成部52は、メモリ112から、描画ピクセルを含む第1ピクセルの被覆率Aと内外判定情報を読み出す。ドーズマップ作成部52は、読み出した第1ピクセルの被覆率A、第1ピクセルにおいて内外判定情報が“1”の描画ピクセルの数NIN、第1ピクセルのサイズM1、描画ピクセルのサイズM2を用いて、以下の式(1)から、内外判定情報が“1”の描画ピクセルの被覆率ρ´を算出する。以下の式(1)の(M1/M2)2は、第1ピクセル内の描画ピクセルの数を表す。
【0049】
ρ´=(A/NIN)×(M1/M2)2 ・・・(1)
【0050】
ドーズマップ作成部52は、内外判定情報が“0”の描画ピクセル(第2ピクセル)の被覆率ρ´を0とする。
【0051】
図6(a)~(c)に示す例で、第1ピクセルの被覆率A=0.4とした場合、第1ピクセル内の16個の描画ピクセルの被覆率ρ´は
図7のようになる。
【0052】
このようにして、ドーズマップ作成部52は、描画データに定義される複数の図形パターンのレイアウトに基づいた、近接効果が補正された描画ピクセル毎の入射照射量D(x)を算出する。
【0053】
そして、ドーズマップ作成部52は、ストライプ単位で、描画ピクセル毎の入射照射量Dを定義したドーズマップを作成する(ステップS3)。作成されたドーズマップは、例えば、記憶装置142に格納される。
【0054】
照射時間演算部54は、最新のドーズマップを参照して、描画ピクセル毎に、照射量Dに対応する照射時間tを算出する(ステップS4)。照射時間tは、照射量Dを電流密度で割ることで算出される。各描画ピクセルの照射時間tは、マルチビーム20の1ショットで照射可能な最大照射時間内の値として演算される。照射時間データは記憶装置142に格納される。
【0055】
描画工程(ステップS5)では、描画制御部60が、照射時間データを描画シーケンスに沿ってショット順に並び替える。そして、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。偏向制御回路130は、ブランキングプレート204にショット順にブランキング制御信号を出力すると共に、偏向器208にショット順に偏向制御信号を出力する。描画部150は、描画ピクセル毎に算出した照射量のマルチビームを用いて、基板101にパターンを描画する。
【0056】
ラスタライズ処理において、
図9(b)に示す例では、16個のピクセルの被覆率の計算結果を記憶するために32byteのメモリ使用量を必要としたが、本実施形態では、第1ピクセルの被覆率(16ビット)と16個の第2ピクセルの内外判定情報(16ビット)を記憶しておけばよく、メモリ使用量を4byteに削減できる。また、被覆率計算の回数を減らし、計算量を削減できる。
【0057】
上記実施形態では、第1ピクセルを仮想分割した第2画素の中心がパターンの内側にあるか、又は外側にあるかを検査し、パターン形状を近似する第2画素として画素中心がパターンの内側にある第2画素を選択したが、第1ピクセルにおけるパターンの重心位置を考慮してパターン形状を近似する第2ピクセルを選択してもよい。
【0058】
例えば、ラスタライズ部50が、
図8(a)に示すように、第1ピクセルの被覆率Aを算出すると共に、第1ピクセルにおけるパターンの重心CGを求める。
【0059】
次に、ラスタライズ部50は、
図8(b)に示すように、矩形の第1ピクセルの4つの辺H1~H4のうち、重心CGに最も近い辺を選択する。
図8(b)に示す例では、図中下側の辺H1が重心CGに最も近い。
【0060】
次に、ラスタライズ部50は、第1ピクセル内のパターン形状を近似する複数の第2ピクセル(第2ピクセル群)を選択する。例えば、パターンの重心CGに最も近い辺H1から、この辺H1に対向する辺H3に向かって、辺H1と平行なk列分の第2ピクセル群を選択する。kは、第1ピクセルの被覆率A、第1ピクセルのサイズM1及び第2ピクセルのサイズM2を用いて、下記の式(2)から算出される。
【0061】
k=ceil(A×(M1/M2)) ・・・(2)
【0062】
例えば、A=0.4とし、第1ピクセルを16個の第2ピクセルに仮想分割する場合(M1/M2=4)、k=2となり、
図8(c)に示すように、辺H1から辺H3に向かって2列分、すなわち下側2列分の第2ピクセル群を選択する。
【0063】
図8(d)に示すように、各第2ピクセルについて、選択された場合は“1”、選択されなかった場合は“0”とする1ビットの選択情報を、第1ピクセルの被覆率Aと共にメモリ112に保存する。
【0064】
ドーズマップ作成部52は、第1ピクセルの被覆率A、選択情報が“1”の描画ピクセル(第2ピクセル)の数NSEL、第1ピクセルのサイズM1、描画ピクセルのサイズM2を用いて、以下の式(3)から、選択情報が“1”の描画ピクセルの被覆率ρ´を算出する。
【0065】
ρ´=(A/NSEL)×(M1/M2)2 ・・・(3)
【0066】
ドーズマップ作成部52は、選択情報が“0”の描画ピクセル(第2ピクセル)の被覆率ρ´を0とする。
【0067】
このように、第1ピクセルにおけるパターンの重心位置に基づいて、パターン形状を近似する第2ピクセル群を選択し、この選択した第2ピクセルに被覆率を割り当てることでも、上記実施形態と同様に、ピクセル被覆率の計算量及びメモリ使用量を削減できる。
【0068】
上記実施形態では、被覆率算出装置を適用する荷電粒子ビーム装置の一例として、マルチビーム描画装置について説明したが、シングルビーム描画装置にも適用可能である。また、被覆率算出装置は、描画装置だけでなく、検査装置にも適用可能である。検査装置は、上記実施形態に係る被覆率算出方法により描画データから算出した第2ピクセルの被覆率と、この描画データを用いて描画対象基板に実際に描画されたパターンの測定結果に基づく第2ピクセルの被覆率とを比較し、一致するか否か検査を行う。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
50 ラスタライズ部
52 ドーズマップ作成部
54 照射時間算出部
60 描画制御部
100 描画装置
110 制御計算機