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特開2023-168033磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法
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  • 特開-磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168033
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法
(51)【国際特許分類】
   B03C 1/0355 20060101AFI20231116BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B03C1/0355
B03C1/00 B
B03C1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079647
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 直之
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹雄
(57)【要約】
【課題】粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高く、かつ、粉体の損失が少ない磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法を提供する。
【解決手段】磁性異物粉を含む粉体が流れる流路を有する流路部材と、前記流路に供給された前記粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させる振動印加部と、前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加する超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部と、を備えた、磁性異物粉分離装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性異物粉を含む粉体が流れる流路を有する流路部材と、
前記流路に供給された前記粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させる振動印加部と、
前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加する超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部と、
を備えた、磁性異物粉分離装置。
【請求項2】
前記磁場印加部は、超伝導バルク磁石を含む、請求項1に記載の磁性異物粉分離装置。
【請求項3】
前記流路は、上方が開放された形状である、請求項1又は請求項2に記載の磁性異物粉分離装置。
【請求項4】
前記流路は、直線状である、請求項1又は請求項2に記載の磁性異物粉分離装置。
【請求項5】
振動印加部により、流路部材の流路に供給された磁性異物粉を含む粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させることと、
超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部により、前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加することと、
を有する、磁性異物粉分離方法。
【請求項6】
前記磁場印加部は、超伝導バルク磁石を含む、請求項5に記載の磁性異物粉分離方法。
【請求項7】
前記流路は、上方が開放された形状である、請求項5又は請求項6に記載の磁性異物粉分離方法。
【請求項8】
前記流路は、直線状である、請求項5又は請求項6に記載の磁性異物粉分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の実装において、半導体素子を封止する非導電性の封止材、熱伝導シート、放熱充填剤等の電子部品又はその基板に用いられる非導電性材料の絶縁性能は、原材料に含まれる主に鉄成分からなる導電性異物粉の存在によって劣化することがある。例えば導電性異物粉の存在は、素子回路間の短絡現象などにより品質保証上の問題の原因とされうる。半導体素子の回路幅は極めて細いことが多いため、これを電気的に架橋してしまう導電性異物は微細であっても可能な限り除去することが求められる。同様に層間絶縁膜における絶縁耐圧の低下は素子の信頼性を低下させることがある。
【0003】
しかし、通常の原材料として用いられる非導電性粉体材料の多くは、その製造過程で粉末化のために機械的な粉砕、金属網によるスクリーニング等、つまり、鉄、ステンレス等の導電性異物粒子の混入が生じやすい工程を経る。このため、高純度な非導電性粉体材料でも微量な導電性異物粒子を含むことが多い。
この非導電性粉体材料の品質向上のためには、原材料からの微量導電性異物粒子の分離除去が望まれる。これら導電性異物粒子の多くは鉄を主成分とする磁性導電体であり、非導電性材料の多くは非磁性粉体材料であることから、その除去には磁気によって分離する方法が有効である。
【0004】
非磁性の原材料から磁性異物粉を分離する従来技術には以下の例が提示されている。
一般的な粉体材料に対する磁気分離では、例えば永久磁石を内包する棒状の磁性物を、粉体の流動路中に配置して、その中の磁性物質を吸着させて保持し、ある時間経過後にこれを流路から取り出して、表面に吸着して堆積した磁性物あるいはその粉体をふき取るなどして除去する方法が実施されている(例えば特許文献1)。
また、特許文献2には、粉体又は液体中の磁性物除去に利用されてきた一般的な磁選機の例が記載されている。特許文献2に記載の磁選機は、磁石を組み込んだ回転ドラム上に粉粒状混合物を供給し、その落下経路を粉粒体の持つ磁性によって振り分けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-269006号公報
【特許文献2】特開2021-137793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加工されたステンレスは弱く磁性をもつことから加工粉の多くは磁性をもつ。粉状の磁性体はその形状が微細になるほど磁化されにくく磁場に吸着されにくい。つまり、非磁性材料として用いる非磁性粉体に上記加工粉等の磁性異物粉が含まれていると、微細で微量な磁性導電体である磁性異物粉は一般的に磁場吸着されにくいため、磁場を使ったより有効な磁気分離法による分離効率の向上が望まれる。
【0007】
例えば、粉流体の流れ方向に垂直に棒状の磁石を設置した分離装置では、棒状の磁石表面に堆積した磁性粉体は、連続して流れ来る粒子によって払い落されるため、磁石を通り抜けた粉流体に磁性物が残りやすく、より有効な磁性物の除去方法が望まれる。
また、磁石を組み込んだ回転ドラムを用いて落下経路を磁性によって振り分ける磁選機においても、分離効率を上げることは難しく、特に磁性異物粉とともに除去される非磁性粉体の粒子の量が多くなりやすく、粉体の損失が生じやすい。そのため、非磁性粉体材料からの磁性異物粉の分離において、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性を向上しつつ、分離による粉体の損失が抑制されることが望まれる。
【0008】
本開示の一形態は、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高く、かつ、粉体の損失が少ない磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の形態を含む。
<1>
磁性異物粉を含む粉体が流れる流路を有する流路部材と、
前記流路に供給された前記粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させる振動印加部と、
前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加する超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部と、
を備えた、磁性異物粉分離装置。
<2>
前記磁場印加部は、超伝導バルク磁石を含む、<1>に記載の磁性異物粉分離装置。
<3>
前記流路は、上方が開放された形状である、<1>又は<2>に記載の磁性異物粉分離装置。
<4>
前記流路は、直線状である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の磁性異物粉分離装置。
<5>
振動印加部により、流路部材の流路に供給された磁性異物粉を含む粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させることと、
超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部により、前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加することと、
を有する、磁性異物粉分離方法。
<6>
前記磁場印加部は、超伝導バルク磁石を含む、<5>に記載の磁性異物粉分離方法。
<7>
前記流路は、上方が開放された形状である、<5>又は<6>に記載の磁性異物粉分離方法。
<8>
前記流路は、直線状である、<5>~<7>のいずれか1つに記載の磁性異物粉分離方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一形態によれば、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高く、かつ、粉体の損失が少ない磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の磁性異物粉分離装置の一例を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態の磁性異物粉分離装置における流路を粉体26が通過した後における流路壁面をカメラにより撮影した写真である。
図3図2における流路壁面の顕微鏡写真である。
図4】第2実施形態の磁性異物粉分離装置の他の一例を示す概略構成図である。
図5】第3実施形態の磁性異物粉分離装置の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0013】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
なお、実質的に同じ機能を有する部材には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
【0014】
[磁性異物粉分離装置及び磁性異物粉分離方法]
本開示の一実施形態における磁性異物粉分離装置(以下、単に「分離装置」ともいう)は、磁性異物粉を含む粉体が流れる流路を有する流路部材と、前記流路に供給された前記粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させる振動印加部と、前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加する超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部と、を備える。
上記分離装置は、必要に応じて、流路に粉体を供給する粉体供給部等をさらに備えてもよい。
【0015】
本開示の一実施形態における磁性異物粉分離方法(以下、単に「分離方法」ともいう)は、振動印加部により、流路部材の流路に供給された磁性異物粉を含む粉体に、前記流路部材を介して振動を印加することで、前記粉体を前記流路の流れ方向に移動させることと、超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部により、前記流路の壁面の少なくとも一部に、前記流路における粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加することと、を有する。
上記分離方法は、必要に応じて、粉体供給部により流路に粉体を供給すること、流路の壁面に捕捉された磁性異物粉を捕集すること等をさらに有してもよい。
【0016】
上記分離装置及び分離方法は、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高く、かつ、粉体の損失が少ない。上記分離装置及び分離方法によれば、非磁性粉体材料に微量混入する磁性異物粉を、超伝導を利用した強磁場によって分離して非磁性粉体材料の純度を向上することができ、例えば、基板絶縁用セラミックス、非導電性シールド、放熱用絶縁体、砥粒、研磨剤等、多岐にわたる非磁性粉体材料の品質向上が可能となる。
【0017】
ここで、磁気分離において磁性異物粉にかかる磁気力は、磁場空間に関して一般に、磁場の強さとその空間的な勾配に依存することが知られている。また、磁気分離を有効に行うには、磁性異物粉の1個あたりの体積、物質に固有な磁化の大きさなども大いに関連する。常磁性体のように磁化が小さく、1個あたりの体積が小さい粉体材料の磁気分離は一般に困難であって、より強い磁場とより急峻な磁場空間が必要となる。
また、磁性異物粉が磁極に吸着する際には、周囲の非磁性粉体が磁性異物粉と凝集したり、非磁性粉体が磁性異物粉に引きずられて集合化して磁極に吸着したりする現象が起こることがある。したがって、磁場に吸着した分離物に非磁性粉体が混入したり、磁性を担う粒子の磁気力による運動が非磁性粉体によって阻害されたりすることがある。つまり、磁気分離の処理にあたって、粉体の流動性によっては、磁極に吸着すべき磁性異物粉の粒子の運動が阻害されることがあるため、非磁性粉体材料を処理する流路内での粉体の流動性を適正に制御することが求められる。
【0018】
これに対して、上記分離装置及び分離方法では、超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含む磁場印加部により、流路の壁面の少なくとも一部に、粉体の流れ方向に交差する方向の磁場を印加し、かつ、振動印加部により粉体に振動を印加することで粉体を流路の流れ方向に移動させる。
【0019】
上記分離装置及び分離方法では、磁場発生手段として従来の永久磁石に代わり、超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を適用するため、その強磁場と急峻な磁場勾配を利用して磁気吸着力を高めることができる。加えて、機械的振動によって、凝集しがちな非磁性粉体を微細に分散して、その凝集と集合化を抑制し分散を促進しながら粉体を流れ方向に移動させることで、磁場に捕捉された磁性異物粉への非磁性粉体の混入、非磁性粉体による磁性異物粉の捕捉の阻害等が抑制される。つまり、高い磁気吸着力と振動による粉体の凝集抑制とにより、磁性異物粉の捕捉力が高くなることで、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高く、かつ、粉体の損失が少なくなる。
【0020】
特に、上記分離装置及び分離方法では、流路の壁面に磁場を印加して磁性異物粉を捕捉するため、落下経路の振り分けによる分離装置及び分離方法に比べて磁性異物粉側への非磁性粉体の混入が少なく、分離による粉体の損失が抑制される。本実施形態では、上記のように、高い磁気吸着力と振動による粉体の凝集抑制とにより磁性異物粉の捕捉力が高くなるため、落下経路の振り分けによる分離ではなく、流路の壁面に磁性異物粉を捕捉する方法を適用しても、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高くなる。
【0021】
また、上記分離装置及び分離方法では、流路の壁面に磁場を印加して磁性異物粉を捕捉する。そのため、永久磁石に磁性異物粉を直接捕捉する分離装置及び分離方法とは異なり、流路部材から磁場印加部を遠ざけること、磁場の印加を停止させること等により、磁性異物粉の捕集が容易となる。
以下、本開示の分離装置の一例について、図面を用いて説明するが、本開示の分離装置は、これらに限定されるものではない。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る分離装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す分離装置10は、磁性異物粉を含む粉体23を収容し粉体23を供給する粉体供給部24と、粉体供給部24により供給された粉体26が水平方向に流れる直線状の流路を有する流路部材21と、流路部材21の流路に供給された粉体26に、流路部材21を介して振動を印加して、粉体26を流れ方向31に移動させる振動フィーダ22(振動印加部の一例)と、流路部材21の流路の壁面に、流れ方向31に交差する方向の磁場を印加する超伝導バルク磁石であるバルク磁石11(磁場印加部の一例)と、備える。
【0023】
バルク磁石11は、希土類系123相と呼ばれる高温超伝導物質を主な組成とし、溶融法による粗大結晶成長によって形成された円柱状、円板状、又は角柱状のバルク磁石である。
このバルク磁石11は、ステンレス製の真空容器12の中に真空断熱状態で保持され、無酸素銅製の伝熱体13によって冷凍機14の冷凍部15に熱的に接続されている。冷凍機14にはヘリウムガスの循環による熱交換がされ、その熱交換のための圧縮機19が接続される。
バルク磁石11は、冷凍機14によって極低温域に冷却されて超伝導状態にあるとともに、外部からのパルス磁場又は静磁場によって励磁されている。
【0024】
真空容器12の内部は、真空容器12に取り付けられた真空配管17を介して真空ポンプ18により減圧され、バルク磁石11の超伝導遷移温度より低い温度域、例えば30K程度の温度までバルク磁石11を冷却することができるようになっている。
真空ポンプ18としては、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、ダイアフラムポンプ、メカニカルブースタポンプ等を用いることができる。
真空容器12の上端は磁力線16が発生する磁極20となる。バルク磁石11がその周囲に形成する磁力線16は、バルク磁石11の磁極20から上方に向かって流れ出している。バルク磁石11の磁極20から発生する磁場の強度は、磁性異物粉の除去性向上の観点から、1.5T以上が好ましく、2T以上がより好ましく、3T以上がさらに好ましい。バルク磁石11の磁極20から発生する磁場の強度は、磁性異物粉の除去性向上の観点からは高いほど好ましいため上限値は特に限定されず、例えば6Tが挙げられる。なお、上記磁場の強度は、テスラメーター(株式会社 マグナ製、品名:TM-4702)によって測定することができる。
【0025】
このバルク磁石11の磁極20の上方における磁場空間に、流路部材21が磁極20に近接して配置される。流路部材21の流路内における粉体26の流れ方向31が水平であるため、バルク磁石11の磁極20の面が水平になるように設置することで、磁極20から発生する磁力線16を粉体26の流れ方向31に交差する方向とする。粉体26の流れ方向31と磁極20から発生する磁場の方向との角度は、0度以上180度以下であることが好ましく、粉体26の流れ方向31と磁極20から発生する磁場の方向とが略垂直であることがより好ましい。
流路部材21における流路の形状は、その上方が開放された形状である。以下、上方が開放された流路の形状を「樋状」ともいう。また、流路部材21は、流路の流れ方向31に垂直な断面の形状が矩形状であり、磁極20の面と平行な平面である流路壁面を有している。
【0026】
流路部材21の流路幅、つまり流れ方向31及び磁力線16の両方に垂直な方向における流路の幅は、特に限定されるものではなく、例えば3cm~6cmの範囲が挙げられる。
流路部材21の流路長さ、つまり流れ方向31における流路の長さは、特に限定されるものではなく、例えば30cm~60cmの範囲が挙げられる。
流路部材21の厚さ、つまり流れ方向31に垂直な流路部材21の厚さは、特に限定されるものではなく、例えば0.3mm~1.2mmの範囲が挙げられる。
流路部材21に用いられる材料としては、ステンレス鋼、アルミ、樹脂(例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等)などが挙げられる。後述する振動フィーダ22からの振動が流路部材21を介して粉体26に十分に伝搬するよう、流路部材21には、剛性のある材料を使うことが望ましい。
【0027】
流路部材21の端部には振動フィーダ22が取り付けられている。振動フィーダ22は、例えば、流路部材21の端部に接して設けられ、流路部材21の表面を振動させることで、間接的に粉体26に振動を印加し、粉体26を流れ方向31に移動させる。粉体26の流れ方向31における流れ速度は、振動フィーダ22の振動印加条件(例えば出力及び位相)を調整して、流路部材21の表面に作用する機械的振動の強さと方向を制御することで制御される。
振動フィーダ22の振動印加条件は、特に限定されるものではなく、例えば、振幅0.3mm~0.6mmが挙げられる。
粉体26の流れ方向31における流れ速度は、磁性異物粉の除去性向上と分離速度向上とを両立する観点から、1g/分~500g/分の範囲が挙げられ、10g/分~100g/分の範囲が好ましい。
【0028】
バルク磁石11の磁極20から離れた位置に、分離対象物である粉体23を収容し粉体23を流路部材21の流路に供給する粉体供給部24があり、粉体供給部24から供給方向25に沿って、定量された粉体23が流路部材21の流路の端部に供給される。
【0029】
次に、図1に示す分離装置10を用いた分離方法について説明する。
まず、粉体供給部24に収容されている分離対象物である粉体23は、定量され、供給方向25に沿って断続的に流路部材21の流路の一端に投入される。
一方、振動フィーダ22により、流路部材21を介して、流路部材21の流路の一端に投入された粉体26に振動が印加される。それにより、流路の一端に投入された粉体26は、振動フィーダ22に制御された進行波にのって、流路の流れ方向31に移動する。流路部材21の流路表面での粉体26の流れ31は、前記の通り、振動フィーダ22の振動印加条件によってその速度が制御される。
【0030】
また、バルク磁石11により、流路部材21の流路壁面に、流れ方向31に交差する方向の磁場が印加され、磁極20から磁力線16が発生する。そして、粉体26が、流路における磁極20直上に導かれ、磁力線16が作る強磁場空間を通過し、流路部材21における流路の他端から流れ27に沿って捕集容器28に回収粉体材料29として集められる。この過程での磁気力によって、磁極20の上方にある流路部材21の流路壁面上には、磁性異物粉の吸着粒子30が捕捉される。
【0031】
ここで、図1に示す分離装置10を用いて上記分離方法(磁極20から発生する磁場の強度:1.5T、粉体26の流れ方向31における流れ速度:30g/分)により磁性異物粉を含む粉体を分離し、磁性異物粉の吸着粒子30が捕捉された流路壁面の写真を図2及び図3に示す。
図2は、断続して流路部材21の流路に投入した粉体26が通過した後における、磁極20の上方にある流路壁面をカメラにより撮影した写真であり、図3は、前記流路壁面の顕微鏡写真である。図2及び図3に示されているように、粉体26が通過した後における流路壁面には、微細な磁性異物粉の吸着粒子30が吸着されていることが分かる。
なお、図3に示される顕微鏡写真から算出される磁性異物粉の吸着粒子30の長径は82μmであった。
【0032】
粉体26が通過した後における流路壁面に確認されるこの吸着粒子30は、粉体26の流れ31に流されず、磁極20に向かう磁気力によって流路部材21の流路壁面上に残留したものである。
粉体26の流れ方向31における流れの断続的な操作の間に、吸着粒子30は、例えば粘着テープ又は機械的な掃き出しによって捕集される。この際に、流路部材21は磁極20からその磁力が及ばない距離まで引き離されてもよい。
【0033】
本実施形態では、磁場印加部として、コンパクトで強磁場を発生可能な超伝導バルク磁石であるバルク磁石11を用いているため、粉体に含まれる磁性異物粉の除去性が高い。特に、バルク磁石11がコンパクトであることにより、バルク磁石11と流路内の粉体26との距離を近くすることが可能であり、強い磁場とその急峻な磁場勾配が粉体26に有効に働く。例えば、磁性の弱い微細な鉄、ステンレス等の粒子が除去対象となる磁性異物粉である場合でも、その強い磁場と急峻な磁場勾配によって強力な磁気力が望め、流動する粉体材料からの磁性異物粉の分離が可能となる。
なお、本実施形態では、磁場印加部としてバルク磁石11を用いているが、磁場印加部が超伝導バルク磁石及び超伝導ソレノイド磁石からなる群より選択される少なくとも1つの磁石を含むものであればよい。例えば、磁場印加部として、バルク磁石11の代わりに後述する超伝導ソレノイド磁石を用いてもよく、バルク磁石11に加えて超伝導ソレノイド磁石をさらに用いてもよく、バルク磁石11に加えて永久磁石等の他の磁石をさらに用いてもよい。
また、本実施形態では、バルク磁石11を1つのみ用いているが、2つ以上用いてもよい。例えば、流路に沿って互いに間隔をあけて2以上のバルク磁石11を設置してもよい。
【0034】
バルク磁石11の形状及び大きさは、特に限定されるものではない。
本実施形態のバルク磁石11における磁極20の面は、平面であってもよく、曲面であってもよい。磁極20から発生する磁場を効率的に用いる観点から、磁極20の面が平面であることが好ましい。また、磁極20から発生する磁場を効率的に用いる観点から、磁極20と流路部材21の流路壁面との距離は、できるだけ近いことが好ましい。磁極20の面が平面である場合、粉体26の流れ方向31と磁極20の面との角度が5度以下であることが好ましく、粉体26の流れ方向31と磁極20の面とが略平行であることがより好ましい。
本実施形態のバルク磁石11は、流路部材21の下部に、磁極20の面が水平になるように設置されているため、磁力及び重力の両方により、効率的に磁性異物粉が流路の底に捕捉される。磁極20の面の方向は、磁極20から発生する磁力線16が粉体26の流れ方向31に交差する方向であれば水平に限られるものではなく、例えばバルク磁石11が流路部材21の側面に近接して設置され、磁極20の面が流路の側面に平行になってもよい。また、2つ以上のバルク磁石11を用い、1つ目のバルク磁石11を流路部材21の下部に設置し、2つ目のバルク磁石11を流路部材21の側面に設置してもよい。
本実施形態のバルク磁石11によって印加される磁場は、パルス磁場であってもよく、静磁場であってもよい。
【0035】
本実施形態では、流路の形状が樋状であるため、捕捉された磁性異物粉の確認及び捕集が容易となる。本実施形態では、樋状の流路における流れ方向31に垂直な断面の形状が矩形状であり、磁極20の面と平行な平面である流路壁面を有しているため、磁極20から発生する磁場を効率的に用いることができる。樋状の流路における流れ方向31に垂直な断面の形状は、矩形状に限られず、円弧状であってもよい。
また、流路の形状は、樋状に限られず、上方が閉じた管状であってもよい。流路が管状である場合、その断面は、円状であっても多角状であってもよい。
磁極20から発生する磁場を効率的に用いる観点からは、流路が、樋状又は管状であり、かつ、磁極20の面と平行な平面である流路壁面を有していることが望ましい。
【0036】
本実施形態では、粉体26の流れ方向31が水平、つまり重力に垂直な方向となるように流路部材21が設置されていることにより、粉体26の流れが重力の影響を受けにくく、粉体26の移動速度を制御しやすい。粉体26の流れ方向31は、粉体26の移動速度を制御可能な方向であれば水平に限られず、水平方向に対して流れ方向31が傾斜していてもよい。粉体26の流れ方向31が水平方向に対して傾斜している場合、流れ方向31の下流部が上流部よりも下側にあることが好ましい。水平方向に対する粉体26の流れ方向31の角度としては、粉体26の移動速度を制御しやすくする観点から、5度以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態では、流路が直線状であることにより、粉体26の流れが流路形状の影響を受けにくく、粉体26の移動速度を制御しやすい。流路の流れ方向31における形状は、粉体26の移動速度を制御可能な方向であれば直線状に限られず、曲線状であってもよい。また、本実施形態では、流路幅が流路の一端から他端まで一定であるが、これに限られず、流路の一端から多端に向かって流路幅が狭くなってもよく、広くなってもよい。さらに、流路部材21が粉体23の供給口及び回収粉体材料29の排出口を有していれば、流路が無端状であってもよい。
【0038】
本実施形態では、振動印加部として振動フィーダ22を用いているが、これに限定されるものではない。振動印加部として、振動フィーダ22の代わりに超音波振動子を用いてもよく、振動フィーダ22と超音波振動子とを組み合わせて用いてもよい。
本実施形態では、粉体供給部24によって粉体23が流路に断続的に供給されるが、これに限られず、連続的に供給されてもよい。
【0039】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る分離装置の一例を示す概略構成図である。
図4に示す分離装置32は、磁極20の上方に形成する磁場空間内に設置する流路部材21の代わりに、流路の形状が樋状ではなく、円形断面又は四角形断面をもつ管状流路を有する管状流路部材33を用いたこと以外は、図1に示す分離装置10と同様である。
【0040】
図4に示す分離装置32では、粉体23が管状流路部材33の流路の端部から投入され、粉体26は管状流路部材33の内部を流れ方向31に沿って移動して磁力線16のある磁場空間を通過する。管状流路部材33は、例えば、振動フィーダ22の振動が十分伝わるような剛性のある材質が選ばれる。微細で微量な吸着粒子30は、例えば、断続的な分離操作の後に、管状流路部材33を磁気力の及ばない距離に移動するか、又はバルク磁石11による磁場の印加を切断することで、回収される。
本実施形態においても、振動印加部として、振動フィーダ22の代わりに又は振動フィーダ22に加えて超音波振動子を用いてもよい。振動印加部として超音波振動子を使っても凝集、粒子の集合化等を防ぐことができる。振動フィーダ22に加えて超音波振動子を用いる場合、例えば超音波振動子は、振動フィーダ22の近傍から磁極20中心までのいずれかの位置に配置する。
【0041】
<第3実施形態>
図5は、第3実施形態に係る分離装置の一例を示す概略構成図である。
図5に示す分離装置34は、磁場印加部としてバルク磁石11の代わりに超伝導ソレノイド磁石である超伝導ソレノイドコイル35を用いたこと以外は、図1に示す分離装置10と同様である。
図5に示す分離装置34では、真空容器12内部に超伝導ソレノイドコイル35を設置し、その常温ボア36が発生する磁力線16を流路部材21の流路壁面上に導く。超伝導ソレノイドコイル35の発生する磁場強度は10Tを超えるため、投入された粉体26に大きな磁気力を与えることができ、優秀な磁気分離性能を得ることができる。
【0042】
<用途>
本開示の分離装置及び分離方法は、磁性異物粉が混入した非磁性粉体材料から、磁性異物粉を分離除去する用途に用いられる。
磁性異物粉が混入した非磁性粉体材料としては、基板絶縁用セラミックス、非導電性シールド、放熱用絶縁体、砥粒、研磨剤等に用いられるセラミックス粉、樹脂系粉体材料、炭素材料、繊維等が挙げられる。
磁性異物粉が混入した非磁性粉体材料として、さらに具体的には、例えば、電子部品装置における素子を封止する封止材に含まれる無機充填材として用いる無機粒子、前記無機粒子を用いて製造された封止材の粒子、リチウムイオン二次電池の負極材の製造に用いる黒鉛粒子等が挙げられる。前記無機粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ガラス粒子、炭酸カルシウム粒子、ケイ酸ジルコニウム粒子、ケイ酸カルシウム粒子、窒化珪素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ホウ素粒子、ジルコニア粒子等が挙げられる。
【0043】
分離除去対象となる磁性異物粉としては、鉄鋼、純鉄、酸化鉄、ステンレス、ニッケル、コバルト等の磁性粉が挙げられる。
磁性異物粉は、粒径が小さいのものであってもよい。分離除去対象となる磁性異物粉の粒径が小さいほど、磁場吸着されにくいが、上記分離装置及び上記分離方法によれば、磁性異物粉の粒径が小さくても吸着され、分離除去が可能となる。磁性異物粉の個数平均粒径としては、例えば100μm以下が挙げられ、75μm以下であってもよい。磁性異物粉の個数平均粒径は、捕集された磁性異物粉をレーザー散乱回折法粒度分布測定装置により、測定して求めることができる。
【符号の説明】
【0044】
10、32、34 分離装置
11 バルク磁石
12 真空容器
13 伝熱体
14 冷凍機
15 冷凍部
16 磁力線
17 真空配管
18 真空ポンプ
19 圧縮機
20 磁極
21 流路部材
22 振動フィーダ
23、26 粉体
24 粉体供給部
25 供給方向
27 流れ
28 捕集容器
29 回収粉体材料
30 吸着粒子
31 流れ方向
33 管状流路部材
35 超伝導ソレノイドコイル
36 常温ボア
図1
図2
図3
図4
図5