(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168067
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】芳香族カルボニル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/03 20210101AFI20231116BHJP
C07C 49/67 20060101ALI20231116BHJP
C25B 3/23 20210101ALI20231116BHJP
C07B 41/06 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C25B3/03
C07C49/67
C25B3/23
C07B41/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079697
(22)【出願日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和4年2月1日(火) 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) 令和3年度 大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 分子創成化学コース 物質機能化学コース 修士論文発表会予稿集、15 〔刊行物等〕 開催日 令和4年2月14日(月)(開催期間:令和4年2月14日(月)~16日(水)) 集会名、開催場所 令和3年度 大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 分子創成化学コース 物質機能化学コース 修士論文発表会(大阪大学)
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】相田 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】正岡 重行
(72)【発明者】
【氏名】帯刀 隼人
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 裕
【テーマコード(参考)】
4H006
4K021
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB80
4K021AC04
4K021BA07
4K021BB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】芳香族カルボニル化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】製造方法は、酸素供給源の存在下、下記一般式(1)で表される化合物を含む反応液に電解反応を適用し、下記一般式(2)で表される化合物を得る工程を備える。
[式(1)、(2)中、nは1~3の整数、Aは芳香族炭化水素環、R
A、R
B、及びR
Cは、H又はアルキル基を表す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素供給源の存在下、下記一般式(1)で表される化合物を含む反応液に電解反応を適用し、下記一般式(2)で表される化合物を得る工程を備える、
芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【化1】
[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
環Aは、芳香族炭化水素環を表す。
R
A、R
B、及びR
Cは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。nが2以上である場合、複数存在するR
A及びR
Bは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】
[式(2)中、n、環A、R
A、R
B、及びR
Cは、前記と同義である。]
【請求項2】
前記酸素供給源が酸素分子である、
請求項1に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記反応液がニトリル溶媒及びケトン溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1又は2に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記反応液がテトラエチルアンモニウムパークロレートを含む、
請求項1又は2に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記反応液がスカンジウム(III)トリフルオロメタンスルホナートを含む、
請求項1又は2に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記工程において、前記反応液に交流電流を印加する、
請求項1又は2に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記工程において、前記反応液に交流電流を印加する、
請求項3に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記工程において、前記反応液に交流電流を印加する、
請求項4に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記工程において、前記反応液に交流電流を印加する、
請求項5に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族カルボニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-テトラロン等の芳香族カルボニル化合物は、染料中間体、ゴム老化防止剤原料、医薬原料、又は農薬原料として利用価値の高い有用な化合物である。例えば、特許文献1には、テトラリンを出発原料とし、クロム酸塩及び特定のN-アシルモルホリン類の存在下での酸素酸化によりα-テトラロンを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、芳香族カルボニル化合物の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、一般式(1)で表される化合物を含む反応液において、電解反応を適用したところ、一般式(1)で表される化合物が酸化された化合物の一つであり得る一般式(2)で表される化合物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[6]の芳香族カルボニル化合物の製造方法を提供する。
[1]酸素供給源の存在下、下記一般式(1)で表される化合物を含む反応液に電解反応を適用し、下記一般式(2)で表される化合物を得る工程を備える、芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【化1】
[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
環Aは、芳香族炭化水素環を表す。
R
A、R
B、及びR
Cは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。nが2以上である場合、複数存在するR
A及びR
Bは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】
[式(2)中、n、環A、R
A、R
B、及びR
Cは、前記と同義である。]
[2]前記酸素供給源が酸素分子である、[1]に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
[3]前記反応液がニトリル溶媒及びケトン溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
[4]前記反応液がテトラエチルアンモニウムパークロレートを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
[5]前記反応液がスカンジウム(III)トリフルオロメタンスルホナートを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
[6]前記工程において、前記反応液に交流電流を印加する、[1]~[5]のいずれかに記載の芳香族カルボニル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、芳香族カルボニル化合物の新規な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例で使用した一体型電解反応槽を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本明細書中、以下で例示する材料及び溶媒は、特に断らない限り、条件に該当する範囲で、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
[芳香族カルボニル化合物の製造方法]
一実施形態の芳香族カルボニル化合物の製造方法は、酸素供給源の存在下、一般式(1)で表される化合物を含む反応液に電解反応を適用し、一般式(2)で表される化合物を得る工程を備える。ここで、芳香族カルボニル化合物は、一般式(2)で表される化合物である。一般式(2)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物が酸化された化合物の一つであり得る。
【0013】
<反応液>
(一般式(1)で表される化合物)
反応液は、原料としての一般式(1)で表される化合物を含む。
【0014】
【化3】
[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
環Aは、芳香族炭化水素環を表す。
R
A、R
B、及びR
Cは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。nが2以上である場合、複数存在するR
A及びR
Bは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0015】
nは、最終的に形成される環に合わせて任意の1~3の整数を選択することができる。例えば、五員環を形成する場合、nは1であり、六員環を形成する場合、nは2であり、七員環を形成する場合、nは3である。nは、好ましくは2である。
【0016】
環Aとしての芳香族炭化水素環は、置換基を有していてもよい。芳香族炭化水素環の炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含めないで、好ましくは6~30であり、より好ましくは6~18である。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環が挙げられる。芳香族炭化水素環は、原料入手の容易さから、好ましくはベンゼン環である。
【0017】
置換基としては、例えば、アルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~20である。アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又は環状アルキル基のいずれであってもよい。直鎖アルキル基の炭素原子数は、通常、1~20であり、分岐アルキル基の炭素原子数は、通常、3~20であり、環状アルキル基の炭素原子数は、通常、3~20である。
【0018】
直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ドデシル基、n-ヘキサデシル基等が挙げられる。分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、3,7-ジメチルオクチル基、2-ヘキシルデシル基等が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0019】
RA、RB、及びRCとしてのアルキル基は、置換基で例示したアルキル基と同様であってよく、RA、RB、及びRCには、任意のアルキル基を導入することができる。RA、RB、及びRCは、原料入手の容易さから、好ましくは水素原子である。
【0020】
一般式(1)で表される化合物は、好ましくは一般式(1A)で表される化合物である。
【0021】
【化4】
[式(1A)中、n、R
A、R
B、及びR
Cは、前記と同義である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。]
【0022】
R1、R2、R3、及びR4としてのアルキル基は、置換基で例示したアルキル基と同様であってよく、R1、R2、R3、及びR4には、任意のアルキル基を導入することができる。R1、R2、R3、及びR4は、原料入手の容易さから、好ましくは、水素原子又はメチル基である。
【0023】
一般式(1)で表される化合物(一般式(1A)で表される化合物)の具体例としては、3-フェニル-1-プロペン、4-フェニル-1-ブテン、5-フェニル-1-ペンテンが挙げられる。
【0024】
原料として、一般式(1)で表される化合物を用いる場合、生成物として、一般式(2)で表される化合物を得ることができる。原料として、一般式(1A)で表される化合物を用いる場合、生成物として、一般式(2A)で表される化合物を得ることができる。
【0025】
【化5】
[式(2)中、n、環A、R
A、R
B、及びR
Cは、前記と同義である。]
【0026】
【化6】
[式(2A)中、n、R
1、R
2、R
3、R
4、R
A、R
B、及びR
Cは、前記と同義である。]
【0027】
一般式(2)で表される化合物(一般式(2A)で表される化合物)の具体例としては、1-インダノン、α-テトラロン、6,7,8,9-テトラヒドロベンゾシクロヘプテン-5-オンが挙げられる。
【0028】
(溶媒)
反応液は、溶媒をさらに含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、p-シメン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;メチルシクロヘキサンなどの環状アルカン溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、3級ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等のエーテル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール溶媒;水などが挙げられる。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。また、融点が室温(25℃)を超える溶媒は、その融点を超える温度で用いることが好ましい。これらの中でも、溶媒は、ニトリル溶媒及びケトン溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。ニトリル溶媒は、好ましくはアセトニトリルである。ケトン溶媒は、好ましくはアセトンである。すなわち、溶媒は、一実施形態において、アセトニトリル及び/又はアセトンであってよい。
【0029】
溶媒の総量に対する一般式(1)で表される化合物の濃度は、モル濃度(mol/L)で、例えば、1mmol/L~5mol/Lであってよく、好ましくは5mmol/L~3mol/L、より好ましくは10mmol/L~1mol/Lである。溶媒の総量に対する一般式(1)で表される化合物の濃度が1mmol/L以上であると、体積当たりの生産性が向上する傾向にあり、溶媒の総量に対する一般式(1)で表される化合物の濃度が5mol/L以下であると、原料及び生成物の拡散が程よく進むために生産性が高くなる傾向にある。
【0030】
(支持電解質)
反応液は、電気化学反応における導電性を高める観点から、支持電解質をさらに含んでいてもよい。支持電解質としては、例えば、アンモニウム(テトラアルキルアンモニウム、アルキル基:メチル基、エチル基、ブチル基等)、アルカリ金属(Li、Na、K等)イオン、オキソニウム、カルボニウム等のカチオン部位と、スルホネート、ホスホネート、ヘキサフルオロホスフェート、ナイトレート、ボレート(テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート等)、パークロレート等のアニオン部位との組み合わせである塩などが挙げられる。カチオン部位は、好ましくはアンモニウム又はアルカリ金属イオンであり、アニオン部位は、好ましくはボレート又はパークロレートである。具体的な化合物としては、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、リチウムテトラフルオロボレート、ナトリウムテトラフルオロボレート、カリウムテトラフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、リチウムテトラフェニルボレート、ナトリウムテトラフェニルボレート、カリウムテトラフェニルボレート、テトラメチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラエチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、リチウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、ナトリウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、カリウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラメチルアンモニウムパークロレート、テトラエチルアンモニウムパークロレート、テトラブチルアンモニウムパークロレート、リチウムパークロレート、ナトリウムパークロレート、カリウムパークロレート等が挙げられる。これらの中でも、支持電解質は、好ましくはテトラエチルアンモニウムパークロレートである。
【0031】
溶媒の総量に対する支持電解質の濃度は、モル濃度(mol/L)で、例えば、1mmol/L~5mol/Lであってよく、好ましくは5mmol/L~3mol/L、より好ましくは10mmol/L~1mol/Lである。支持電解質の濃度が1mmol/L以上であると、電解反応の効率が向上する傾向にあり、支持電解質の濃度が5mol/L以下であると、コスト的に有利な傾向にある。
【0032】
(添加剤)
反応液は、種々の添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、ルイス酸触媒として作用し得る金属化合物(以下、単に「金属化合物」という場合がある。)、系内の酸性度を一定に保つ目的で緩衝作用を有する化合物(以下、単に「緩衝剤」という場合がある。)、酸又は酸無水物等が挙げられる。
【0033】
金属化合物を構成する金属元素は、周期表第2族~第15族の金属が挙げられる。金属元素の具体例としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、遷移元素、ランタノイド等が挙げられる。遷移金属の具体例としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金等が挙げられる。ランタノイドの具体例としては、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム等が挙げられる。
【0034】
金属化合物を構成する配位子は、金属の種類に応じて適宜選択することができる。配位子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、トリフルオロエトキシ基、トリクロロエトキシ基等のハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基;アセチルアセトナート基;アセトキシ基;メタンスルホナート基、ベンゼンスルホナート基、パラトルエンスルホナート基、トリフルオロメタンスルホナート(トリフラート)基等のスルホナート基;シクロペンタジエニル基等が挙げられる。
【0035】
金属化合物は、例えば、ルイス酸触媒として作用して反応促進効果を有することから、好ましくは、マグネシウム化合物、スカンジウム化合物、鉄化合物、銅化合物、亜鉛化合物、及びイリジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくはスカンジウム化合物である。スカンジウム化合物は、例えば、スカンジウム(III)トリフルオロメタンスルホナート(トリフラート)であってよい。
【0036】
金属化合物の添加量は、一般式(1)で表される化合物の総量に対して、0.01~30mol%であってよく、好ましくは0.1~20mol%、より好ましくは0.5~15mol%である。金属化合物の添加量が0.01mol%以上であると、反応効率が向上する傾向にあり、金属化合物の添加量が30mol%以下であると、コスト的に有利な傾向にある。
【0037】
緩衝剤としては、例えば、強酸と弱塩基とからなる組み合わせの化合物、弱酸と強塩基とからなる組み合わせの化合物、弱酸と弱塩基とからなる組み合わせの化合物等が挙げられる。より具体的には、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。また、このような緩衝剤を含む緩衝液として、市販の酢酸緩衝液(酢酸+酢酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(リン酸+リン酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム)、クエン酸リン酸緩衝液(クエン酸+リン酸ナトリウム)、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液などを用いることも可能である。さらに、特に生化学分野における検討で好適に使用されるグッドバッファーと称される緩衝剤も使用可能である。このようなグッドバッファーとしては、例えば、Biochemistry,5巻,1966年,p.467に記載の緩衝剤が挙げられる。
【0038】
酸又は酸無水物としては、例えば、ギ酸、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、無水プロピオン酸、安息香酸、無水安息香酸、トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸等が挙げられる。酸又は酸無水物を使用することにより、生成物である芳香族カルボニル化合物の収率が向上する傾向にある。これらの中でも、酸又は酸無水物は、好ましくは安息香酸又は無水安息香酸である。
【0039】
<電解反応>
本実施形態の芳香族カルボニル化合物の製造方法においては、酸素供給源の存在下、一般式(1)で表される化合物、及び、必要に応じて、溶媒、支持電解質、添加剤等を含む反応液に電解反応を適用する。電解反応は、一般式(1)で表される化合物を電気化学的に酸化する反応(電解酸化反応)であり得る。
【0040】
(電解槽)
電解反応は、例えば、電極を備える電解槽を用いて行うことができる。電解槽においては、作用電極及び補助電極の少なくも二つの電極が備えられるが、電解槽は、二つの電極が同一の槽内に設置される一体型の電解槽であってよく、二つの電極が異なる槽内に設置されるH型の電解槽であってもよい。
【0041】
電解反応は、作用電極及び補助電極の二電極法によるものであってよく、参照電極を加えた三電極法によるものであってもよい。作用電極及び補助電極としては、例えば、グラッシーカーボン、RVC(網状ガラス質炭素)、白金、金、パラジウム、グラファイト、ITO(酸化インジウムスズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等からなる電極が挙げられる。参照電極としては、例えば、可逆水素電極(RHE)、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)、Ag/Ag+電極(例えば、銀-硝酸銀(Ag/Ag+))、カロメル電極(SCE)、パラジウム-水素電極(Pd/H2)等が挙げられる。
【0042】
(酸素供給源)
本実施形態の芳香族カルボニル化合物の製造方法において、本発明者らの検討によると、電解反応は、反応容器の気相部分を空気で充満させた空気雰囲気下又は酸素で充満させた酸素雰囲気下で効率よく進行することが見出された。このような知見より、酸素供給源は、酸素分子であると考えられる。したがって、酸素供給源は、酸素分子であることが好ましく、電解反応は、酸素分子を供給することが容易な、空気雰囲気下又は酸素雰囲気下で行うことが好ましい。気相部分を空気又は酸素で充満させる方法としては、例えば、気相部分又は液相部分に空気又は酸素を連続的に又は断続的に供給する空気バブリング又は酸素バブリング等が挙げられる。
【0043】
(電解反応条件)
反応液を電解槽に投入後、反応液に対して電圧を印加することによって、電解反応を適用させる(進行させる)ことができる。その際の電流値は、種々反応条件又は印加する電圧によって変化する。印加する電圧及び電流は、一定であっても、変動させてもよい。また、印加する電圧及び電流は、直流又は交流であってもよい。反応液に対しては、効率よく電解反応を進行させる観点から、交流電流を印加することが好ましい。電解反応を進行させる目安として、電圧又は電流のいずれかを採用してもよいが、例えば、電流値を採用した場合、電流値は、1μA~1Aであってよく、好ましくは0.1mA~100mAであり、より好ましくは1mA~50mAである。電流値が1A以下であると、電極の劣化を抑制できる傾向にある。電流値が1μA以上であると、電気化学反応の効率が向上する傾向にある。
【0044】
本実施形態の芳香族カルボニル化合物の製造方法においては、酸素供給源の存在下、一般式(1)で表される化合物を含む反応液に電解反応を適用することによって、一般式(2)で表される化合物を得ることができる。
【実施例0045】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[転化率及び選択率の算出]
水素炎イオン化型検出器(FID)を備えるGC2014(株式会社島津製作所製)を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)による分析を行い、転化率及び選択率を算出した。キャピラリーカラムには、Rxt-1701(株式会社島津ジーエルシー製、30m、0.25mm径、膜厚0.25μm、14%シアノプロピルフェニル-86%ジメチルポリシロキサン)を用いた。キャリアーガスとして、ヘリウムを用い、気化室温度を300℃、スプリット比を40、線速度を28.8cm/秒、FID温度を300℃とした。オーブン温度は、45℃から100℃までの間を10℃/分で昇温させ、100℃から300℃までの間を40℃/分で昇温させた後、300℃で10分間保持した。転化率及び選択率は、原料及び生成物と内部標準物質との比から算出した。
【0047】
[生成物の同定]
QP2020(株式会社島津製作所製)を用いて、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)による定性分析を行い、生成物の同定を行った。キャピラリーカラムには、Rxt-1701(株式会社島津ジーエルシー製、30m、0.25mm径、膜厚0.25μm、14%シアノプロピルフェニル-86%ジメチルポリシロキサン)を用いた。キャリアーガスとして、ヘリウムを用い、気化室温度を250℃、スプリット比を40、線速度を46.1cm/秒とした。オーブン温度は、45℃から100℃までの間を10℃/分で昇温させ、100℃から250℃までの間を40℃/分で昇温させた後、10分間250℃で保持した。得られたクロマトグラムから生成物を同定した。
【0048】
[一体型電解反応槽の準備]
図1は、実施例で使用した一体型電解反応槽を模式的に示す図である。
図1に示される一体型電解反応槽10は、反応液1が導入される反応槽8と、作用電極2及び補助電極3を有する電極接続部5と、ガスフロー用のゴム膜7を有するキャップ6とを備えている。反応槽8には、反応液1を撹拌するための撹拌子4が備えられていてもよい。電気化学反応を行う際には、反応槽8に反応液1が導入される。以下の実施例及び比較例では、一体型電解反応槽10を用いて実験を行った。
【0049】
(実施例1-1)
10mmolのテトラエチルアンモニウムパークロレート(東京化成株式会社製)を100mLのアセトニトリルに溶解した。この溶液4mLをElectraSyn2.0(IKAジャパン株式会社、電解合成装置)の反応槽に導入し、さらに、0.1mmolの4-フェニル-1-ブテン(東京化成株式会社製)を加えて反応液を得た。当該反応液に、30分間酸素を吹き込んで飽和させた。作用電極及び対電極の両方にグラファイトを用いて、酸素雰囲気下で20mAの定電流を20秒ごとに正負を逆転させる交流条件で1時間印加して反応を行った。反応後の反応液について、1,1,2,2-テトラクロロエタンを内部標準として、1H NMRの測定を行い、α-テトラロンが生成していることを確認した。α-テトラロンの収率は4%であった。なお、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)において、市販のα-テトラロンとβ-テトラロンとの混合物を分析したところ、α-テトラロンとβ-テトラロンとが分離されて観測されることを確認した。この電解反応においては、GCMSから、反応後の反応液に、β-テトラロンが存在しておらず、α-テトラロンが選択的に生成していることを確認した。
【0050】
(実施例1-2)
反応液に空気を吹き込んで空気雰囲気下で電解反応を行った以外は、実施例1-1と同様に電解反応を行った。α-テトラロンの収率は2%であった。
【0051】
(比較例1-1)
反応液に電流を印加しなかった以外は、実施例1-1と同様に電解反応を行った。α-テトラロンは得られなかった。
【0052】
(比較例1-2)
反応液にアルゴンを吹き込んでアルゴン雰囲気下で電解反応を行った以外は、実施例1-1と同様に電解反応を行った。α-テトラロンは得られなかった。
【0053】
(実施例2-1)
10mmolのテトラエチルアンモニウムパークロレート(東京化成株式会社製)を100mLのアセトニトリルに溶解した。この溶液4mLをElectraSyn2.0(IKAジャパン株式会社、電解合成装置)の反応槽に導入し、さらに、0.1mmolの4-フェニル-1-ブテン(東京化成株式会社製)及び50mmolの無水安息香酸(東京化成株式会社製)を加えて反応液を得た。当該反応液に、30分間酸素を吹き込んで飽和させた。作用電極及び対電極の両方にグラファイトを用いて、酸素雰囲気下で20mAの定電流を直流条件で1時間印加して反応を行った。反応後の反応液について、1,1,2,2-テトラクロロエタンを内部標準として、1H NMRの測定を行い、α-テトラロンが生成していることを確認した。α-テトラロンの収率は8%であった。この電解反応においては、GCMSから、反応後の反応液に、β-テトラロンが存在しておらず、α-テトラロンが選択的に生成していることを確認した。
【0054】
(実施例2-2)
アセトニトリルの代わりにアセトンを用いた以外は、実施例2-1と同様に電解反応を行った。α-テトラロンの収率は10%であった。
【0055】
(実施例3-1)
10mmolのテトラエチルアンモニウムパークロレート(東京化成株式会社製)を100mLのアセトニトリルに溶解した。この溶液4mLをElectraSyn2.0(IKAジャパン株式会社、電解合成装置)の反応槽に導入し、さらに、0.1mmolの4-フェニル-1-ブテン(東京化成株式会社製)及び4.0μmolのスカンジウム(III)トリフラートを加えて反応液を得た。当該反応液に、30分間酸素を吹き込んで飽和させた。作用電極及び対電極の両方にグラファイトを用いて、酸素雰囲気下で20mAの定電流を20秒ごとに正負を逆転させる交流条件で1時間印加して反応を行った。反応後の反応液について、1,1,2,2-テトラクロロエタンを内部標準として、1H NMRの測定を行い、α-テトラロンが生成していることを確認した。α-テトラロンの収率は14%であった。この電解反応においては、GCMSから、反応後の反応液に、β-テトラロンが存在しておらず、α-テトラロンが選択的に生成していることを確認した。
【0056】
(実施例3-2)
テトラエチルアンモニウムパークロレートの代わりにリチウムパークロレートを用いた以外は、実施例3-1と同様に電解反応を行った。α-テトラロンの収率は3%であった。
【0057】
(実施例4-1)
10mmolのテトラエチルアンモニウムパークロレート(東京化成株式会社製)を100mLのアセトニトリルに溶解した。この溶液4mLをElectraSyn2.0(IKAジャパン株式会社、電解合成装置)の反応槽に導入し、さらに、0.1mmolの4-フェニル-1-ブテン(東京化成株式会社製)及び4.0μmolのスカンジウム(III)トリフラートを加えて反応液を得た。当該反応液に、30分間酸素を吹き込んで飽和させた。作用電極及び対電極の両方にグラファイトを用いて、酸素雰囲気下で20mAの定電流を直流条件で1時間印加して反応を行った。反応後の反応液について、1,1,2,2-テトラクロロエタンを内部標準として、1H NMRの測定を行い、α-テトラロンが生成していることを確認した。α-テトラロンの収率は7%であった。この電解反応においては、GCMSから、反応後の反応液に、β-テトラロンが存在しておらず、α-テトラロンが選択的に生成していることを確認した。
【0058】
(実施例4-2)
スカンジウム(III)トリフラートの代わりにマグネシウム(II)トリフラートを用いた以外は、実施例4-1と同様に電解反応を行った。α-テトラロンの収率は1%であった。