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特開2023-168096アクアポリン3 mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168096
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】アクアポリン3 mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20231116BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231116BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/185
A61P43/00 111
A61P17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079746
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】林 祥太
(72)【発明者】
【氏名】平中 夏海
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC482
4C083AD092
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD392
4C083AD412
4C083AD512
4C083AD532
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB66
4C088AC02
4C088CA08
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC02
(57)【要約】
【課題】優れたアクアポリン3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いアクアポリン3 mRNA発現促進剤、優れたヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤、及び優れたβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いβディフェンシン3 mRNA発現促進剤の提供。
【解決手段】ユキノシタ抽出物を有効成分として含有する、アクアポリン3 mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユキノシタ抽出物を有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン3(AQP3) mRNA発現促進剤。
【請求項2】
ユキノシタ抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸合成酵素3(HAS3) mRNA発現促進剤。
【請求項3】
ユキノシタ抽出物を有効成分として含有することを特徴とするβディフェンシン3 mRNA発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクアポリン3 mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚細胞では、水チャンネルとして知られるアクアポリンが、細胞膜上に発現して、細胞間隙の水をはじめとする低分子物質を細胞内へ取り込む役割を担っていることが知られている。ヒトでは、13種類のアクアポリン(AQP0~AQP12)の存在が知られている。表皮細胞においては、主としてAQP3が存在しており、水に加えて、水分保持作用に関与するグリセロールや尿素等の低分子化合物をも取り込む役割を担っていると考えられている。
【0003】
しかしながら、AQP3は加齢とともに減少し、このことが水分保持機能の低下の一因であることが示唆されているため、AQP3の発現を促進することにより、加齢による水分保持能やバリア機能等を制御することが可能であると考えられる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
これまでに、アクアポリン3(AQP3)発現促進作用を有するものとして、例えば、スターフルーツの葉部からの抽出物(例えば、特許文献1参照)等が知られている。
【0005】
ヒアルロン酸は、ムコ多糖の一種であり、細胞間の間隙に充填されることにより細胞を保持する機能を有し、さらに細胞間隙への水分の保持、組織への潤滑性や柔軟性の付与、機械的障害等の外力に対する抵抗等、数多くの機能を有している。表皮ヒアルロン酸の合成促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)の発現を促進することでヒアルロン酸の産生を促進することができれば、皮膚の荒れ、しわ、くすみ、きめの変化、弾力性の低下及び保湿機能の低下等といった皮膚の老化症状を予防、治療または改善できると考えられる。
【0006】
これまでに、ヒアルロン酸合成酵素3(HAS3) mRNA発現促進作用を有するものとして、例えば、甘草葉部抽出物(特許文献2参照)等が知られている。
【0007】
皮膚は体の最外層に位置し、生体を外部の刺激から保護する重要な組織であり、有害な微生物が体内に侵入するのを防ぐ防御機能が備わっている。その中の一つとして抗菌ペプチド(antimicrobial peptide:AMPs)がある。皮膚には20種類以上のAMPsが確認されており、代表的なものとしてはβディフェンシン3が知られている。AMPsは表皮細胞で産生され、層板顆粒に貯蔵されて角層細胞へ放出される(例えば、非特許文献2参照)。AMPsは抗菌剤として有害な微生物の生育を阻害することで生体を外部の刺激から保護していると考えられている。
【0008】
これまでに、βディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有するものとして、ブッチャーブルーム抽出物(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
【0009】
以上のように、これまでに様々な研究がなされている。しかしながら、安全性の高い天然物由来成分であって、アクアポリン3 mRNA発現促進作用、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用の少なくともいずれかの作用を有し、そのため、化粧料等の外用組成物や研究用試薬などの成分として広く利用が可能な新たな素材に対する要望は依然として強く、その速やかな開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-191039号公報
【特許文献2】特開2010-090035号公報
【特許文献3】特開2018-104364号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「フレグランスジャーナル」,2006年,Vol.34,No.10,p.19-23
【非特許文献2】化粧品の効能を考えるときに読む皮膚科学,2020年,p.37-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れたアクアポリン3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いアクアポリン3 mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れたヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、優れたβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いβディフェンシン3 mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、安全性の高い天然物由来の素材であるユキノシタ抽出物が、優れたアクアポリン3 mRNA発現促進作用、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有することを知見し、本発明を完成したものである。
【0014】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ユキノシタ抽出物を有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン3(AQP3) mRNA発現促進剤である。
<2> ユキノシタ抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸合成酵素3(HAS3) mRNA発現促進剤である。
<3> ユキノシタ抽出物を有効成分として含有することを特徴とするβディフェンシン3 mRNA発現促進剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクアポリン3 mRNA発現促進剤によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れたアクアポリン3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いアクアポリン3 mRNA発現促進剤を提供することができる。
本発明のヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れたヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤を提供することができる。
本発明のβディフェンシン3 mRNA発現促進剤によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れたβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性が高いβディフェンシン3 mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(アクアポリン3 mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸合成酵素3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤)
本実施形態に係るアクアポリン3(AQP3) mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸合成酵素3(HAS3) mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、ユキノシタ抽出物を有効成分として含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0017】
<ユキノシタ抽出物>
本実施形態における有効成分としての抽出原料は、ユキノシタ(学名:Saxifraga stolonifera)である。
【0018】
ユキノシタ(Saxifraga stolonifera)は、日本の本州、四国、九州および国外では中国に分布するユキノシタ科ユキノシタ属に属する常緑の多年草であり、これらの地域から容易に入手可能である。
【0019】
前記ユキノシタ抽出物は、抽出原料から調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0020】
抽出原料として使用し得る部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができ、例えば、葉、茎、花、蕾、種子、根、地上部又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも全草が好ましい。
前記抽出原料の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
ユキノシタ抽出物に含まれるAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出等に一般に用いられている抽出方法によって、ユキノシタからAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。
【0022】
本発明において、「抽出物」には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、抽出液の希釈液もしくは濃縮液、抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0023】
上記抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま、または粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0024】
抽出に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられる。
前記溶媒は、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
抽出原料に含まれるAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有する成分は、極性溶媒を抽出溶媒とする抽出処理によって容易に抽出することができる。
【0025】
抽出溶媒として使用し得る水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0026】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。水と低級脂肪族ケトンとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合することが好ましい。水と多価アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。
これらの中でも、水50容量%と、1,3-ブチレングリコール50容量%との混合液を抽出溶媒として用いることが好ましい。
【0028】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り、特に制限はなく、常法に従って行うことができ、例えば、室温または還流加熱下で抽出することができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて撹拌しながら、30分~4時間静置して可溶性成分を溶出した後、濾過して固形物を除去することにより抽出物を得ることができる。得られた抽出液から抽出溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥することにより乾燥物が得られる。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には50~95℃で1~4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、40~80℃で30分~4時間程度である。また、抽出溶媒として水と1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒を用いた場合には、80~90℃で2時間程度である。
なお、上記した抽出時間及び抽出温度は一例であり、適宜変更してもよい。また、抽出溶媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
以上のようにして得られた抽出液は、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0030】
なお、得られた抽出液はそのままでもAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤として使用することができるが、濃縮液または乾燥物としたもののほうが好ましい。乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0031】
また、ユキノシタは特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、化粧料に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、例えば活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0032】
以上のようにして得られるユキノシタ抽出物は、優れたAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用して、AQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤の有効成分として用いることができる。
【0033】
本実施形態に係るAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、ユキノシタ抽出物のみからなるものであってもよいし、ユキノシタ抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0034】
上記したユキノシタ抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。上記したユキノシタ抽出物を製剤化したAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0035】
製剤化したAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤におけるユキノシタ抽出物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、前記AQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤の利用形態に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した製剤化する際に用いることができる成分などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記AQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤における前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
本実施形態のAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤の対象に対する投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経皮投与などが挙げられる。
【0039】
本実施形態のAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤の対象に対する投与量、投与期間、投与間隔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
本実施形態に係るAQP3 mRNA発現促進剤は、ユキノシタ抽出物が有するAQP3 mRNA発現促進作用を通じて、AQP3 mRNAの発現を促進することができる。これにより、加齢による水分保持能やバリア機能等を改善することができる。ただし、本実施形態のAQP3 mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもAQP3 mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0041】
本実施形態におけるHAS3 mRNA発現促進剤は、ユキノシタ抽出物が有するHAS3 mRNA発現促進作用を通じて、HAS3 mRNAの発現を促進することができる。これにより、ヒアルロン酸の生成が促進され、皮膚の荒れ、しわ、くすみ、きめの変化、弾力性の低下及び保湿機能の低下等、皮膚の老化症状を予防、治療または改善することができる。ただし、本実施形態のHAS3 mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもHAS3 mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0042】
本実施形態におけるβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、ユキノシタ抽出物が有するβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を通じて、βディフェンシン3 mRNAの発現を促進することができる。これにより、有害な微生物の生育を抑制することで感染症の予防や皮膚バリアの強化ができる。ただし、本実施形態におけるβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
また、本実施形態に係るAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、優れたAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有するため、皮膚化粧料、頭皮化粧料、頭髪化粧料等の化粧料等に配合するのに好適である。この場合に、ユキノシタ抽出物をそのまま配合してもよいし、ユキノシタ抽出物を製剤化したものを配合してもよい。
【0044】
AQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤を配合可能な化粧料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸等が挙げられる。
【0045】
AQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量としては、特に制限はなく、化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001~1質量%である。
【0046】
化粧料は、上記抽出物が有するAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0047】
前記化粧料の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0048】
なお、本実施形態に係るAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、AQP3 mRNA発現促進効果、HAS3 mRNA発現促進効果、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サル等)に対して適用することも可能である。
【0049】
また、本実施形態に係るAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、それぞれAQP3 mRNA発現促進作用機構、HAS3 mRNA発現促進作用機構、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0050】
上述したように、本実施形態のAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、それぞれ優れたAQP3 mRNA発現促進作用、HAS3 mRNA発現促進作用、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有する。
したがって、本発明は、対象に、AQP3 mRNA発現促進剤を投与することを特徴とするAQP3 mRNA発現促進方法、HAS3 mRNA発現促進剤を投与することを特徴とするHAS3 mRNA発現促進方法、又はβディフェンシン3 mRNA発現促進剤を投与することを特徴とするβディフェンシン3 mRNA発現促進方法にも関する。
【実施例0051】
以下、製造例、試験例、配合例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記製造例、試験例、配合例に何ら制限されるものではない。なお、下記の試験例及び配合例においては、ユキノシタ抽出物は、下記の製造例1で得られた抽出物を使用した。
【0052】
〔製造例1〕ユキノシタ抽出物の製造
ユキノシタ全草の乾燥物100gに50容量%ブチレングリコール1,500mLを加え、還流抽出器で80~90℃にて2時間加熱抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥し、ユキノシタ抽出物(10g)を得た。
【0053】
〔試験例1〕アクアポリン3(AQP3) mRNA発現促進作用試験
製造例1で得たユキノシタ抽出物について、下記の方法によりAQP3 mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0054】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、KGMを用いて6ウェルプレートに3.0×10細胞/2mLの細胞密度になるように播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。
一晩培養後、増殖因子を添加していない培地(KBM)に交換した。24時間後に培養液を捨て、KBMで必要濃度に溶解した被験試料(添加濃度は下記表1を参照)を各ウェルに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。
培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
この総RNAを鋳型とし、AQP3及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出は、リアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2ステップRT-PCR反応により行った。AQP3のmRNAの発現量は、GAPDHのmRNAの発現量で補正し、算出した。
得られた結果から、下記式によりAQP3 mRNA発現促進率を算出した。結果を表1に示す。なお、下記式において、被験試料無添加のAQP3 mRNA発現促進率は100%となる。
AQP3 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
上記式中のA~Bは、それぞれ以下を表す。
A : 被験試料添加時の補正値
B : 被験試料無添加時の補正値
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、ユキノシタ抽出物は、優れたAQP3 mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0057】
〔試験例2〕ヒアルロン酸合成酵素3(HAS3) mRNA発現促進作用試験
製造例1で得たユキノシタ抽出物について、下記の方法によりHAS3 mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0058】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、KGMを用いて6ウェルプレートに3.0×10細胞/2mLの細胞密度になるように播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。
一晩培養後、増殖因子を添加していない培地(KBM)に交換した。24時間後に培養液を捨て、KBMで必要濃度に溶解した被験試料(添加濃度は下記表2を参照)を各ウェルに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。
培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
この総RNAを鋳型とし、HAS3及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出は、リアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2ステップRT-PCR反応により行った。HAS3のmRNAの発現量は、GAPDHのmRNAの発現量で補正し、算出した。
得られた結果から、下記式によりHAS3 mRNA発現促進率を算出した。結果を表2に示す。なお、下記式において、被験試料無添加のHAS3 mRNA発現促進率は100%となる。
HAS3 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
上記式中のA~Bは、それぞれ以下を表す。
A : 被験試料添加時の補正値
B : 被験試料無添加時の補正値
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、ユキノシタ抽出物は、優れたHAS3 mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0061】
〔試験例3〕βディフェンシン3 mRNA発現促進作用試験
製造例1で得たユキノシタ抽出物について、下記の方法によりβディフェンシン3 mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0062】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、KGMを用いて6ウェルプレートに3.0×10細胞/2mLの細胞密度になるように播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。
一晩培養後、増殖因子を添加していない培地(KBM)に交換した。24時間後に培養液を捨て、KBMで必要濃度に溶解した被験試料(添加濃度は下記表3を参照)を各ウェルに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。
培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
この総RNAを鋳型とし、βディフェンシン3及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出は、リアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2ステップRT-PCR反応により行った。βディフェンシン3のmRNAの発現量は、GAPDHのmRNAの発現量で補正し、算出した。
得られた結果から、下記式によりβディフェンシン3 mRNA発現促進率を算出した。結果を表3に示す。なお、下記式において、被験試料無添加のβディフェンシン3 mRNA発現促進率は100%となる。
βディフェンシン3 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
上記式中のA~Bは、それぞれ以下を表す。
A : 被験試料添加時の補正値
B : 被験試料無添加時の補正値
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、ユキノシタ抽出物は、優れたβディフェンシン3 mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0065】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
・ ユキノシタ抽出物(製造例1) 0.01g
・ ホホバオイル 4.00g
・ 1,3-ブチレングリコール 3.00g
・ アルブチン 3.00g
・ ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
・ オリーブオイル 2.00g
・ スクワラン 2.00g
・ セタノール 2.00g
・ モノステアリン酸グリセリル 2.00g
・ オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
・ パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
・ グリチルレチン酸ステアリル 0.10g
・ 黄杞エキス 0.10g
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
・ イチョウ葉エキス 0.10g
・ コンキオリン 0.10g
・ オウバクエキス 0.10g
・ カミツレエキス 0.10g
・ 香料 0.05g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0066】
〔配合例2〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
・ ユキノシタ抽出物(製造例1) 0.05g
・ クジンエキス 0.1g
・ オウゴンエキス 0.1g
・ 流動パラフィン 5.0g
・ サラシミツロウ 4.0g
・ スクワラン 10.0g
・ セタノール 3.0g
・ ラノリン 2.0g
・ ステアリン酸 1.0g
・ オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
・ モノステアリン酸グリセリル 3.0g
・ 油溶性甘草エキス 0.1g
・ 1,3-ブチレングリコール 6.0g
・ パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
・ 香料 0.1g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0067】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
・ ユキノシタ抽出物(製造例1) 0.01g
・ カミツレエキス 0.1g
・ ニンジンエキス 0.1g
・ キサンタンガム 0.3g
・ ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
・ カルボキシビニルポリマー 0.1g
・ 1,3-ブチレングリコール 4.0g
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
・ グリセリン 2.0g
・ 水酸化カリウム 0.25g
・ 香料 0.01g
・ 防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
・ エタノール 2.0g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るAQP3 mRNA発現促進剤、HAS3 mRNA発現促進剤、及びβディフェンシン3 mRNA発現促進剤は、例えば、化粧料等の一成分として、更には研究用の試薬として好適に利用され得る。