(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168144
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】水素ガス生成装置並びにこれにより生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージ
(51)【国際特許分類】
C01B 3/06 20060101AFI20231116BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20231116BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20231116BHJP
F02B 53/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C01B3/06
F02M21/02 G
F02D19/02 B
F02B53/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079814
(22)【出願日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】592016485
【氏名又は名称】株式会社デイトナ
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 一人
(72)【発明者】
【氏名】星 伸一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 有哉
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA03
3G092AB09
(57)【要約】
【課題】水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸とをより積極的に反応させ、効率的に水素ガスの発生を促す水素ガス生成装置並びにこれにより生成された水素ガスを燃料とする出力パッケージについて、これらを開発することを技術課題とした。
【解決手段】原素材Mである水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸とのそれぞれの水溶液M1、M2を反応させて水素ガスH2を生成する装置であって、この装置は、原素材Mの注入孔12と、水素ガスH2の取出孔13と、ドレン孔14とを具えたチャンバー本体と、このチャンバー本体の反応室11内に設けられ、回転駆動される攪拌体17とを具え、前記注入孔12から反応室11内に供給された水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1と、クエン酸水溶液M2とを、回転する攪拌体17により攪拌混合し、両原素材Mの反応を促進させて水素ガスH2を生成し、この水素ガスH2を外部に取り出すようにしたことを特徴として成る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原素材である水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸とのそれぞれの水溶液を反応させて水素ガスを生成する装置であって、
この装置は、
原素材の導入孔と、水素ガスの取出孔と、ドレン孔とを具えたチャンバー本体と、
このチャンバー本体の反応室内に設けられ、回転駆動される攪拌体とを具え、
前記導入孔から反応室内に供給された水素化ホウ素ナトリウム水溶液と、クエン酸水溶液とを、回転する攪拌体により攪拌混合し、両原素材の反応を促進させて水素ガスを生成し、この水素ガスを外部に取り出すようにしたことを特徴とする水素ガス生成装置。
【請求項2】
前記チャンバー本体は、反応室概形状を縦円盤状とし、チャンバー本体の側面に注入孔を設け、上方に水素ガスの取出孔を設け、下方寄りにドレン孔を設け、更に前記注入孔は予反応室に開孔するものであることを特徴とする請求項1記載の水素ガス生成装置。
【請求項3】
前記取出孔には、撹拌体の回転方向上流側に異物排除用の保全堰体を設けていることを特徴とする請求項1または2記載の水素ガス生成装置。
【請求項4】
前記撹拌体は、回転軸に対し放射状に複数片の撹拌翼片を具えるものであり、この撹拌翼片は回転軸に対し遊持状態に取り付けられていることを特徴とする請求項1、2または3いずれか記載の水素ガス生成装置。
【請求項5】
前記撹拌翼片は植毛ブラシ状であることを特徴とする請求項4記載の水素ガス生成装置。
【請求項6】
前記撹拌体は、反応室内において、偏在状態に取り付けられていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5いずれか記載の水素ガス生成装置。
【請求項7】
前記請求項1~6いずれか記載の水素ガス生成装置に対して、内燃機関を併設して構成された出力パッケージであって、
前記水素ガス生成装置における回転駆動される攪拌体は、前記併設された内燃機関により駆動され、
一方、水素ガス生成装置により得られた水素ガスは、この内燃機関の燃料として供給され、内燃機関からの回転動力を外部出力として用いることを特徴とする水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージ。
【請求項8】
前記内燃機関は、火花着火のエンジンであって、4ストローク、2ストロークのレシプロエンジンまたはロータリーエンジンが通用されることを特徴とする請求項7記載の水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージ。
【請求項9】
前記内燃機関のクランク軸に対し、水素ガス生成装置の攪拌体の回転軸を直結接続させたことを特徴とする請求項7または8いずれか記載の素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージ。
【請求項10】
前記内燃機関には、これにより駆動される発電機を具え、この発電機により起電した電力を外部出力とすることを特徴とする請求項7または8いずれか記載の水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ホウ素ナトリウム水溶液とクエン酸水溶液とを混合・結合させて水素ガスを生成するようにした水素ガス生成装置並びにこれにより生成された水素ガスを燃料とする出力パッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球規模で化石燃料の枯渇化、また化石燃料を燃焼させた場合の地球温暖化問題等から、新エネルギーの一つとして水素燃料が推奨されている。水素は、多様な手法から生成・取り出すことが可能であり(例えば特許文献1~3参照)、エネルギー変換する際、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして知られている。
そして、現在、水素を電気エネルギーに変換する装置としては、燃料電池(以下、FCとする)を主力とした開発が進められている。また、自動車業界からは、燃料電池自動車(以下、FCVとする)が発売されており、インフラ整備も徐々に進められてきている。
【0003】
しかしながら、水素燃料の利用方法、移送、貯蔵は、未だ開発途上と言え、製品自体も極めて高価であり、安全性も含めて一般の人々が取り扱うことは難しいと考えられる。また、インフラ整備についても水素ステーションの高圧水素(70MPa)の取り扱い拠点数が少ないこと、FCVの普及以外での使用用途がまだないこと等、充分な実用段階乃至は普及段階には達していない。
このような実情から本出願人らは、水素化ホウ素ナトリウム水溶液とクエン酸水溶液とを混合・結合させて水素ガスを生成することにより、例えば、水素ガスを生成したい場合に、固体の水素化ホウ素ナトリウムを水溶液化することで、水素(水素キャリア物質)の取り扱い性を極めて向上させ得る水素ガス生成手法を開発し、既に特許取得に及んでいる(特許文献4参照)。しかしながらより効率的な水素ガスの生成手法については、更なる開発、改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-028534号公報
【特許文献2】特開2003-126678号公報
【特許文献3】特許第5830035号公報
【特許文献4】特開2018-188317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような背景を認識してなされたものであって、水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸とをより積極的に反応させ、効率的に水素ガスの発生を促す水素ガス生成装置並びにこれにより生成された水素ガスを燃料とする出力パッケージについて、これらを開発することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の水素ガス生成装置は、原素材である水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸とのそれぞれの水溶液を反応させて水素ガスを生成する装置であって、この装置は、原素材の注入孔と、水素ガスの取出孔と、ドレン孔とを具えたチャンバー本体と、このチャンバー本体の反応室内に設けられ、回転駆動される攪拌体とを具え、前記注入孔から反応室内に供給された水素化ホウ素ナトリウム水溶液と、クエン酸水溶液とを、回転する攪拌体により攪拌混合し、両原素材の反応を促進させて水素ガスを生成し、この水素ガスを外部に取り出すようにしたことを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項2記載の水素ガス生成装置は、前記請求項1記載の要件に加え、前記チャンバー本体は、反応室概形状を縦円盤状とし、チャンバー本体の側面に注入孔を設け、上方に水素ガスの取出孔を設け、下方寄りにドレン孔を設け、更に前記注入孔は予反応室に開孔するものであることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項3記載の水素ガス生成装置は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記取出孔には、撹拌体の回転方向上流側に異物排除用の保全堰体を設けていることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項4記載の水素ガス生成装は、前記請求項1、2または3いずれか記載の要件に加え前記撹拌体は、回転軸に対し放射状に複数片の撹拌翼片を具えるものであり、この撹拌翼片は回転軸に対し遊持状態に取り付けられていることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項5記載の水素ガス生成装は、前記請求項4記載の要件に加え、前記撹拌翼片は植毛ブラシ状であることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項6記載の水素ガス生成装は、前記請求項1、2、3、4または5いずれか記載の要件に加え、前記撹拌体は、反応室内において、偏在状態に取り付けられていることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項7記載の水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージは、前記請求項1~6いずれか記載の水素ガス生成装置に対して、内燃機関を併設して構成された出力パッケージであって、前記水素ガス生成装置における回転駆動される攪拌体は、前記併設された内燃機関により駆動され、一方、水素ガス生成装置により得られた水素ガスは、この内燃機関の燃料として供給され、内燃機関からの回転動力を外部出力として用いることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項8記載の水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージは、前記請求項7記載の要件に加え、前記内燃機関は、火花着火のエンジンであって、4ストローク、2ストロークのレシプロエンジンまたはロータリーエンジンが通用されることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項9記載の水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージは、前記請求項7または8いずれか記載の要件に加え、前記内燃機関のクランク軸に対し、水素ガス生成装置の攪拌体の回転軸を直結接続させたことを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項10記載の水素ガス生成装置により生成された水素ガスを燃料に用いた出力パッケージは、前記請求項7または8いずれか記載の要件に加え、前記内燃機関には、これにより駆動される発電機を具え、この発電機により起電した電力を外部出力とすることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の要件を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0016】
まず請求項1記載の発明によれば、チャンバー本体内に供給された水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸とを、回転する撹拌体により積極的に撹拌混合させるものであり、これにより水素ガス生成の効率を向上させることができる。
【0017】
また請求項2記載の発明によれば、チャンバー本体の反応室概形状を縦円盤状としたものであり、コンパクトな構成の下に効率的な水素ガス生成がなされる。
【0018】
また請求項3記載の発明によれば、反応室の取出孔には、撹拌体の回転方向上流側に堰体を設けており、利用される水素ガスへの異物混入を防止することができる。
【0019】
また請求項4記載の発明によれば、撹拌体は、回転軸に対し複数片の撹拌翼片が遊持状態に取り付けられており、水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸との混合を効率良く行うことができる。
【0020】
また請求項5記載の発明によれば、撹拌体における撹拌翼片はブラシ状であり、水素化ホウ素ナトリウムとクエン酸との混合をより効率良く行うことができる。
【0021】
また請求項6記載の発明によれば、撹拌体は反応室内において偏在状態とされており、撹拌体の回転範囲外に空間を形成することとなり、この空間において異物等が水素ガスと分離され、異物混入のない水素ガスが得られる。
【0022】
また請求項7、8、9記載の発明によれば、発生した水素ガスを内燃機関の燃料として利用でき、且つ内燃機関の回転出力を撹拌体の駆動源とすることができるから、合理的な出力パッケージが得られる。
【0023】
また請求項10記載の発明によれば、出力パッケージとして内燃機関により駆動される発電機を具え、これによる電力を外部出力とするものであり、各種電装品の駆動電源として汎用的な活用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の水素ガス生成装置並びにこれにより生成された水素ガスを燃料とする出力パッケージを示す接続概念図(a)、並びに縦断面図(b)である。
【
図2】本発明の水素ガス生成装置における反応室及び撹拌体を示す平面図並びに予反応室を拡大して示す平面図及び縦断面図である。
【
図3】漸減ブラシタイプの保全堰板が具えられた水素ガス生成装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更に本発明の技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
【実施例0026】
以下本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
本発明は、水素ガス生成装置1と、この水素ガス生成装置1から発生した水素ガスH2を燃料として利用する内燃機関2と、この内燃機関2により駆動される発電機3とを主要構成部材とする。
【0027】
そして水素ガス生成装置1は、これを稼働するにあたって外部動力を必要とする態様であるが、この外部動力は必ずしも併設する内燃機関2に限定されない。例えば別途モーター等の外力が得られる場合、またその方が適している場合、そのような外部動力を用いて稼働させてもよい。
【0028】
また、内燃機関2と発電機3とはそれぞれ出力態様の違いで、機械動力即ち回転動力としての利用もできるし、発電機3を併設して電力供給する手法もとり得る。これらの出力の利用態様の相違を包含するものとして、本明細書ではその名称を出力パッケージ5としたものである。
【0029】
以下、これら構成部材について説明する。まず前記水素ガス生成装置1について説明する。水素ガス生成装置1は、そのケーシング10の一部を円溝状に凹陥させて、一方の側面が開口した反応室11が形成される。この反応室11は、一例として概形状を縦円盤状と表現できるような形状とされたものであり、閉鎖形成された側面板11aが鉛直となるように配置される。なお反応室11における開口した側面は、一例として透明素材によって形成された閉鎖板11cによって閉鎖される。
【0030】
そして、この反応室11内で水素ガスH2生成のための反応が行われるものであって、このため原素材Mを供給するための注入孔12と、発生した水素ガスH2の取出孔13と、2つの原素材Mの反応により生じる副生成物(反応スラッジ)を取り出すドレン孔14とが形成される。
なおこの実施例では、前記反応室11における周面板11bに、取出孔13とドレン孔14とが形成されるようにした。
【0031】
これら各部位について詳しく説明すると、前記注入孔12は、水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1の注入孔12aと、クエン酸水溶液M2の注入孔12bとが併設するものであり、反応室11内の一例として、側面板11a の中心寄りに形成された予反応室15において開孔している。
この予反応室15は、一例として側面板11a を一部凹陥させたような形態とするものであり、この予反応室15と前記反応室11側とを区画するように、蓋状の導入支援板16が設けられている。
この導入支援板16には、原素材Mを反応室11に導入するための導入孔16aが形成されるものであり、この導入孔16aの形態は、原素材Mの供給速度や、撹拌体17の回転速度、撹拌翼片18の態様等に応じて適宜設定される。
【0032】
このよう構成が採られた結果、水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1とクエン酸水溶液M2とは、まず予反応室15で合流し、直ちに反応を開始して水素ガスH2の生成が開始される。そして未反応の水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1とクエン酸水溶液M2とは、導入孔16aから反応室11内に進入して、ここで更なる水素ガスH2発生のための反応が成される。
【0033】
ここで前記注入孔12に至る原素材Mの供給経路について説明すると、
図1に骨格的に示すように、まず水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1を貯留するタンクT1と、クエン酸水溶液M2と貯留するタンクT2からなるタンク装置Tが具えられ、ここからの導入管路途中にポンプ装置Pが設けられる。
具体的には、前記水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1のタンクT1からの管路には、ポンプP1が接続され、一方、クエン酸水溶液M2のタンクT2からの管路には、ポンプP2が接続される。なおこれらポンプ装置Pに用いるポンプの形態としてはチューブポンプが一例として適用される。
【0034】
次に取出孔13について説明すると、このものは反応室11内で発生した水素ガスH2を外部に排出するための孔であり、反応室11における周面板11bの上部に設けられる。更にこの実施例では取出孔13は、後述する撹拌体17の鉛直中心線よりも回転方向寄りに設けられるようにした。
【0035】
次にドレン孔14は、原素材Mの反応によって生ずる副生成物(反応スラッジ)等を外部に放出するための孔であり、反応室11における周面板11bの下部に設けられる。更にこの実施例ではドレン孔14は、後述する撹拌体17の鉛直中心線よりも回転方向寄りに設けられるようにした。
なおこのドレン孔14の下方には、キャッチチャンバー14aが設けられるものであり、このものは、ドレン孔14から排出された原素材Mの廃液を貯留するものである。因みにこのようなキャッチチャンバー14aにおいても、いまだ水素ガスH2が生成されていることを考慮して、この水素ガスH2の有効利用を図るべく、ここで生じた水素ガスH2は前記取出孔13側の配管に合流するように供給される。
そしてキャッチチャンバー14a内において反応を終えた2つの原素材Mは、副生成物(反応スラッジ)として排出され、適宜廃液として処理される。
【0036】
次に反応室11内に設けられ、水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1と、クエン酸水溶液M2とを攪拌混合し、両原素材Mの反応を促進させるための撹拌体17について説明する。この撹拌体17は外部からの回転駆動により、反応室11内で回転するものであり、回転軸17aに設けられたボス17bに対し複数の撹拌翼片18が放射状に取り付けられている。なお回転軸17aの中心から撹拌翼片18の先端部までの寸法は、反応室11における側面板11a の半径よりも短く設定される。
この撹拌翼片18は一例として、ブラシ要素18aを束ねた植毛ブラシ状のものであり、ボス17bに対しては可撓性乃至は柔軟性を具えて遊持状態に取り付けられている。
なおブラシ要素18aについては、植毛ブラシ状のものには限定されず、例えば金網状のものをボス17bに対する取り付け部位でゴムパッキン等を介して遊持状態に取り付けるなど適宜の形態がとり得る。しかし乍ら、撹拌翼片18はいずれにせよ、遊持状態にボス17bに対して取り付けられていることが好ましい。
【0037】
また前記撹拌体17は、反応室11内において、偏在状態に取り付けられている。すなわち
図3に示すように、ケーシング10の一部が円溝状に凹陥するように形成された反応室11における側面板11a の中心と、撹拌体17(回転軸17a)の中心とは重なることなくズレた状態とされる。具体的には
図3に示すように、撹拌体17(回転軸17a)の中心が、側面板11a の中心よりも上方に位置するように設定されるものである。そしてこのような形態が採れらることにより、反応室11の最下部から最上部にかけて、撹拌翼片18が作用しない三日月形の非作用領域11Eが形成される。
【0038】
そして取出孔13とドレン孔14との間には、反応室11内における水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1とクエン酸水溶液M2の反応に伴って発生する、泡、副生成物(反応スラッジ)等が取出孔13から排出されないようにするための保全堰体13aが設けられる。
この保全堰体13aは取出孔13から見て、回転駆動される撹拌体17の回転方向と反対側の位置に設けられるものであり、撹拌翼片18と接触することにより、ブラシ要素18aに纏わり付いた泡や副生成物(反応スラッジ)等を掻き落とすための部材である。
この保全堰体13aは、一例としてネジ式差替えロッドタイプと漸減ブラシタイプとがあり、以下これらについて説明する。
【0039】
(a)
図2 ドレン孔14側 ねじ式差し替えロッドタイプ
まず
図2に示す保全堰体13aは、ねじ式差し替えロッドタイプのものであり、反応室11における側面板11a に形成されたメネジ孔13bに対し、オネジが形成されたシャフト13cを螺合させて固定するものである。
この実施例では一例としてメネジ孔13bを、取出孔13とドレン孔14との間におけるドレン孔14側の部位、四カ所に連設するようにした。
そしてこのような形態が採られることにより、撹拌体17(回転軸17a)の中心が、側面板11a の中心よりも上方に位置するように設定されていることと相まって、上部に位置するメネジ孔13bにシャフト13cを取り付ける程、撹拌翼片18とシャフト13cとの接触部位が広範となるため、ブラシ要素18aに纏わり付いた泡や副生成物(反応スラッジ)等をより強く掻き落とすことができる。
【0040】
(b)
図3 取出孔13側 漸減ブラシタイプ
また
図3に示す保全堰体13aは、漸減ブラシタイプのものであり、反応室11における非作用領域11Eの一方の上端部(撹拌体17の回転方向と反対側)と、その内側数mmのエリアにブラシ要素13dを植毛したものである。
そしてこのような形態が採られることにより、撹拌体17(回転軸17a)の中心が、側面板11a の中心よりも上方に位置するように設定されていることと相まって、非作用領域11Eの上部に行く程、撹拌翼片18とブラシ要素13dとの接触範囲が減少してゆくため、撹拌翼片18側のブラシ要素18aに纏わり付いた泡や副生成物(反応スラッジ)等を徐々に掻き落とすことができる。
【0041】
本発明の水素ガス生成装置1は、一例として以上述べたような構成が採られるものであり、以下、水素ガス生成装置1に対して、内燃機関2等を併設して構成された出力パッケージ5について説明する。
なお先に述べたように水素ガス生成装置1に対して併設される機器は、内燃機関2の場合もあるし、また内燃機関2の回転により駆動される発電機3の場合もある。
【0042】
まず前記内燃機関2について説明する。内燃機関2としては、レシプロエンジン、ロータリエンジン等適宜のエンジンが適用できるものであるが、水素ガスH2に着火する方式は火花点火式のものである。またレシプロエンジンとしては2ストロークエンジン、4ストロークエンジンいずれの場合も適用し得る。
【0043】
この実施例では
図1に示すように、内燃機関2の一例として小型の2ストロークエンジンを採用するものであり、このものの構成部材としてはクランクケース20に対しシリンダ21が設けられ、そのシリンダ21の上方にシリンダヘッド22を具えるものである。前記シリンダ21乃至はクランクケース20に対しては、2ストロークエンジンであることに因み吸気孔21aがクランクケース20側と連通するように設けられ、一方、クランクケース20内とシリンダ21との間は、掃気孔21bにより連通され、更にシリンダ21には排気孔21cが具えられている。
【0044】
一方、シリンダヘッド22に対しては、点火プラグ22pが具えられる。このようなクランクケース20とシリンダ21内には、可動部材としてまずクランクケース20内にクランクシャフト23が設けられる。このクランクシャフト23には、クランクウェブ23aとその中心に設けられる出力軸23bとが具えられる。そしてクランクシャフト23には、コンロッド24を介して、シリンダ21内を往復するピストン25が設けられている。
【0045】
このような内燃機関2に対する吸気孔21aに対して、前記水素ガス生成装置1における取出孔13からの水素ガスH2が供給される。実際の供給に当っては、前記水素ガス生成装置1における取出孔13から、例えばリザーバータンク等に水素ガスH2を貯留した状態で、吸気孔に連なるスロットルバルブユニット26に送り込むような形態が採られる。
なお詳細な説明は省略するが、内燃機関2として2ストロークエンジンを適用した場合には、シリンダ21とピストン25の間、あるいはコンロッド24における潤滑等を考慮してオイルが供給されるが、このオイルは適宜吸気孔21aの上流側に供給されるようにする。
【0046】
このような内燃機関2に対して発電機3が併設され、出力形態としては電力として出力される場合がある。実際には、発電機ユニットとして構成されているものはその駆動源として内燃機関2を具えており、いわゆる小型の発電機ユニットとして構成されている。この発電機3は内燃機関2から並設されたシュラウド31内にステータコイル32とロータ33とを具え、ステータコイル32から適宜の電気的な出力を行う。なお永久磁石等が具えられたロータ33はロータ軸33aに取り付けられるが、このロータ軸33aは内燃機関2のクランクシャフト23の出力軸23bに対して直結されていても良いし、適宜減速機を介在させて駆動されるようにしてもよい。
【0047】
本発明の水素ガス生成装置1並びにこれにより生成された水素ガスH2を燃料に用いた出力パッケージ5については以上述べたような構成を有するものであり、以下その作動態様について説明する。
【0048】
まず先に述べたように水素ガス生成装置1は、水素ガスH2を発生させるための化学反応をより効率良くするために、水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1とクエン酸水溶液M2とを、反応室11内で撹拌体17により撹拌し、その反応を積極的に促している。ここでこれら水素化ホウ素ナトリウム水溶液M1とクエン酸水溶液M2との化学反応の想定される反応式を下記化1に示す。
【0049】
〔化1〕
3NaBH4 +2H2 O+C6 H8 O7 +9H2 O→
12H2 +Na3 C6 H5 O7 +3B(ОH)3
【0050】
水素ガス生成装置1からは、既に一部述べたように反応室11内に導入される水素化ホウ素ナトリウム水溶液用M1とクエン酸水溶液M2の反応により生成された水素ガスH2 が、取出孔13から取り出される。この2つの原素材Mの反応は前記予反応室15においてまず反応が開始され、更に未反応の2つの原素材Mは反応室11内に導入されそこで撹拌体17による積極的な回転を受けて両者の反応が促進される。
具体的には、撹拌翼片18に触れた2つの原素材Mは、その回転撹拌による作用を受けて積極的に反応し、より効率的に水素ガスH2を発生させる。このとき撹拌翼片18はブラシ要素18aを束ねたような植毛ブラシ状であり、この束ねられたブラシ要素18a内に両原素材Mが保持されながら撹拌を受けて、その撹拌効率がより高められているものである。このとき撹拌翼片18は撹拌体のボス17bに対して完全に固定されたものではなく、遊持状態に取り付けられているから、更にその2つの原素材Mの反応が促進されている。
また撹拌体17は反応室11内において偏在状態とされており、撹拌体17の回転範囲外に空間を形成することとなり、この空間において異物等が水素ガスH2と分離され、異物混入のない水素ガスH2が得られる。
【0051】
そしてこのようにして生成された水素ガスH2は、内燃機関2の燃料として供給されるものであり、内燃機関2におけるスロットルバルブユニット26から吸気孔21aに供給される。因みに水素化ホウ素ナトリウム水溶液用M1とクエン酸水溶液M2の両者が合流するとほぼ瞬間的に水素ガスH2を発生するものであり、実際の発電機3用の内燃機関2の場合、2コイルスターター等による外部起動操作が必要であるが、その起動操作にあたって必要な水素ガスH2は、たとえ撹拌体17が作動していない状態であっても、内燃機関2のエンジン起動に充分な水素ガスH2が供給されている。
【0052】
このようにして回転起動した内燃機関2は、その出力軸23に接続された回転軸17aすなわち撹拌体17を積極的に回転させる。これにより更に水素化ホウ素ナトリウム水溶液用M1とクエン酸水溶液M2との反応が促進され、効率的に水素ガスH2 が生成されてくる。
このような状態で例えば内燃機関2の回転出力をそのまま利用することも可能であり、例えば回転ブレードを具えた手動草刈り機等を駆動させるために利用することができるし、あるいは例えば、農業用の給水用ポンプ等の駆動を行うこともできる。
一方、電力源として電力を出力させる場合には、内燃機関2に併設された発電機3のロータを、内燃機関2によって駆動し、その発電電力を利用することができる。