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2023-168207ポリロタキサン添加によるビトリマーの改良
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168207
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ポリロタキサン添加によるビトリマーの改良
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20231116BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231116BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20231116BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L71/00
C08L63/00 A
C08G59/42
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178700
(22)【出願日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2022078860
(32)【優先日】2022-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.DER
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ムーンショット型研究開発事業地球環境/再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】平野 聖來
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AA052
4J002BB032
4J002BB122
4J002BC032
4J002BE042
4J002BF022
4J002BG042
4J002BG062
4J002BG132
4J002BJ002
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD071
4J002CD161
4J002CF031
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002CF181
4J002CF182
4J002CF191
4J002CF192
4J002CF211
4J002CH022
4J002CH052
4J002EF066
4J002EL136
4J002FD022
4J002FD146
4J002FD202
4J002GC00
4J002GG02
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J036AA01
4J036AD08
4J036DB15
4J036DB18
4J036DB20
4J036DB21
4J036FB11
4J036FB12
4J036GA11
4J036GA17
4J036HA13
4J036JA00
4J036JA15
4J200AA02
4J200AA04
4J200AA10
4J200AA27
4J200BA05
4J200BA08
4J200BA09
4J200BA21
4J200CA01
4J200DA00
4J200DA12
4J200DA16
4J200DA17
4J200DA23
4J200DA28
4J200EA05
4J200EA06
4J200EA08
4J200EA09
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】自己修復性と強靭性を兼ね備えた、ビトリマーを含有する組成物を提供すること。
【解決手段】エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーと、複数の環状分子と前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備えたポリロタキサンであって、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えている、ポリロタキサンと、を含有する組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーと、
複数の環状分子と前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備えたポリロタキサンであって、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えている、ポリロタキサンと、
を含有する組成物。
【請求項2】
前記ポリマーのエステル結合と、前記ポリロタキサンの環状分子のエステル結合との間でエステル交換反応が起こる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中のポリロタキサンの含有量が、20質量%以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記エステル結合を有するポリマーが、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーまたはエステル結合を有する熱硬化性ポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記エステル結合を有するポリマーが、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、カルボン酸又はカルボン酸無水物との反応物である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記エステル結合を有するポリマーがポリエステルである請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
一軸伸長試験において測定した引っ張り応力に対する前記組成物の歪が、前記ポリロタキサンを含まない点のみ前記組成物とは異なる対照物の歪に対して増大するとともに、前記組成物の初期弾性率と、前記対象物の初期弾性率の差が±10%以内である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物中のポリロタキサンの含有量が20質量%以下であり、アルコール溶媒中での加熱条件における1500分後の組成物の分解率が50%以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物中のポリロタキサンの含有量が20質量%以下であり、生分解性組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を含む自己修復性材料。
【請求項11】
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーとポリロタキサンとを含む熱硬化性組成物の製造方法であって、
グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、ポリロタキサンとを混合することであって、前記ポリロタキサンは、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備え、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えていること;および
前記混合物と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを混合し、硬化させること;
を含む、方法。
【請求項12】
エステル交換触媒の存在下で、前記混合物と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを混合する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記グリシジル基を有するエポキシプレポリマーが、以下の式(I)で表される化合物である請求項11に記載の方法。
【化1】
(式中、XはO、NH、またはC(O)Oであり、Rは二価の脂肪族および/または芳香族の部分であり、nは重合度の程度であり、nは0~25である。)
【請求項14】
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーとポリロタキサンとを含む熱可塑性組成物の製造であって、
エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーと、ポリロタキサンとを混合することであって、前記ポリロタキサンが、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備え、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えていること;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサン添加によるビトリマーの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ビトリマー(Vitrimers)は、フランスのDr. Lutwik Leiblerらによって2010年台初頭に開発された新しいタイプの材料である。ビトリマーは、熱により活性化される結合交換反応により自身のトポロジーを変えることができる共有結合ネットワークを有する。ビトリマーは高温では粘弾性流体のように流動し、架橋体であるにもかかわらず高温にすることで容易に加工ができる。他方、低温では結合交換反応が測定不能な程度に遅くなる。ビトリマーは、自己修復性も有しており、自己修復性材料としての用途も期待されている。
【0003】
ビトリマーとしては、エポキシ樹脂のプレポリマーを用いて製造されたエポキシビトリマーの他、芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリヒドロキシウレタン、ポリブタジエン等の各種熱可塑性ポリマーを用いて製造されたビトリマーが知られている。
【0004】
エポキシビトリマーのほとんどは脆さが大きく、機械的特性が低いが、最近の研究により、ハイパーブランチポリマーを改質剤として添加することにより、結合交換が阻害されることが示された(非特許文献1)。また、別の研究により、ビトリマーの作用温度は、共有結合交換反応が早くなる温度であるトポロジー凍結転移温度Tvにより支配されているが、エポキシビトリマーの試験片に対する外力を増大させると、巨視的な流動の開始がより低温にシフトし、特定の応力レベルで材料の正確な温度Tvに近づくことが実証された(非特許文献2)。熱硬化性又は熱可塑性ポリマーを含むビトリマーの機械的特性の改良が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Acta Polymerica Sinica, 5, pages 535-542, 2019
【非特許文献2】Polymer Volume 204, 9 September 2020, 122804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、強靭性と自己修復性とを兼ね備えた、ビトリマーを含有する組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーと、
複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備えたポリロタキサンであって、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えている、ポリロタキサンと、
を含有する組成物。
項2.
前記ポリマーのエステル結合と、前記ポリロタキサンの環状分子のエステル結合との間でエステル交換反応が起こる項1に記載の組成物。
項3.
前記組成物中のポリロタキサンの含有量が、20質量%以下である項1に記載の組成物。
項4.
前記エステル結合を有するポリマーが、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーまたはエステル結合を有する熱硬化性ポリマーである項1に記載の組成物。
項5.
前記エステル結合を有するポリマーが、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、カルボン酸又はカルボン酸無水物との反応物である項1に記載の組成物。
項6.
前記エステル結合を有するポリマーが、ポリエステルである項1に記載の組成物。
項7.
一軸伸長試験において測定した引っ張り応力に対する前記組成物の歪が、前記ポリロタキサンを含まない点のみ前記組成物とは異なる対照物の歪に対して増大するとともに、前記組成物の初期弾性率と、前記対象物の初期弾性率の差が±10%以内である項1に記載の組成物。
項8.
前記組成物中のポリロタキサンの含有量が20質量%以下であり、アルコール溶媒中での加熱条件における1500分後の組成物の分解率が50%以上である項1に記載の組成物。
項9.
前記組成物中のポリロタキサンの含有量が20質量%以下であり、生分解性組成物である項1に記載の組成物。
項10.
項1~9のいずれか一項に記載の組成物を含む自己修復性材料。
項11.
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーとポリロタキサンとを含む熱硬化性組成物の製造方法であって、
グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、ポリロタキサンとを混合することであって、前記ポリロタキサンは、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備え、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えていること;および
前記混合物と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを混合し、硬化させること;
を含む、方法。
項12.
触媒の存在下で、前記混合物と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを混合する、項11に記載の方法。
項13.
前記グリシジル基を有するエポキシプレポリマーが、以下の式(I)で表される化合物である項11に記載の方法。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、XはO、NH、またはC(O)Oであり、Rは二価の脂肪族および/または芳香族の部分であり、nは重合度の程度であり、nは0~25である。)
項14.
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーとポリロタキサンとを含む熱可塑性組成物の製造方法であって、
エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーと、ポリロタキサンとを混合することであって、前記ポリロタキサンが、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備え、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えていること;および
前記エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーと、ポリロタキサンとの混合中、または混合後に、エステル交換触媒を添加すること;
を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強靭性と自己修復性とを兼ね備えた、ポリマーを含むビトリマーとポリロタキサンとを含有する組成物及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】熱硬化性樹脂を含むビトリマーとポリロタキサンとを含む熱硬化性組成物の、ビトリマーとポリロタキサンの間のエステル結合の結合交換を説明する模式図。
図2】小角X線散乱(SAXS)の結果を示すグラフ。
図3】ポリロタキサンの量を変えた各試験片の応力-ひずみ曲線。
図4】ポリロタキサンの種類を変えた各試験片の応力-ひずみ曲線。
図5】室温での及び加熱後の各試験片の一軸伸長試験の繰り返し試験の結果を示す応力-ひずみ曲線のグラフ。
図6】自己修復性試験における各試験片の動画の写真、(A)加熱開始前のポリロタキサンを含まないエポキシビトリマーを含む熱硬化性組成物からなるサンプル、(B)加熱開始前のエポキシを熱硬化性組成物の10質量%の割合で含むエポキシビトリマーを含む熱硬化性組成物からなるサンプル。(C)加熱開始1分後の(A)のサンプル、(D)加熱開始1分後の(B)のサンプル。
図7】ポリロタキサンの量が異なる熱硬化性組成物の動的粘弾性測定の結果を示すグラフ。横軸は温度。
図8】各種熱硬化性組成物の写真。(A)SH3400Pを含む実施例1の熱硬化性組成物、(B)APRを含む熱硬化性組成物、(C)HAPRを含む熱硬化性組成物。
図9】各種熱硬化性組成物からなる試験片の応力-ひずみ曲線。
図10】各試験片の写真。(A)PCL/1%PR、(B)PCL/5%PR、(C)PCL/60%PR、(D)PCL/1%PR/cat、(E)PCL/5%PR/cat、(F)PCL/60%PR/cat。PCL:ポリカプロラクトン、PR: ポリロタキサン, cat: エステル交換触媒。
図11】各種ポリカプロラクトン樹脂含有組成物からなる試験片の応力-ひずみ曲線。
図12】各試験片の写真。(A)PLGA/5%PR、(B)PLGA/10%PR、(C)PLGA/5%PR/cat、(D)PLGA/10%PR/cat。PLGA:ポリ乳酸-co-ポリグリコール酸、PR: ポリロタキサン, cat: エステル交換触媒。
図13】各種ポリ乳酸-co-ポリグリコール酸樹脂含有組成物からなる試験片の応力-ひずみ曲線。
図14】各種熱可塑性組成物からなる試験片の応力-ひずみ曲線。
図15】各試料の重量変化を示すグラフ。
図16】各試料のBOD生分解度(%)の比較。
図17】(A)ホットプレート上の、加熱開始時の変形したポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの試験片(左)とビトリマーの試験片(右)、(B)加熱開始から1.5分後の2つの試験片、(C)加熱開始から3分後の2つの試験片。
図18】(A)~(F)ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの試験片の形状の推移。
図19】ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの2枚の試験片を張り合わせた試料の両端を1軸引張試験機で挟んだ状態を示す写真。
図20】ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの試験片からなる試料(Vitrimer/PR10)とエポキシビトリマーの試験片からなる試料(Vitrimer)の接着強度。縦軸:接着力、横軸:引張試験機のストローク長。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「ビトリマー」とは、熱により活性化される結合交換反応により自身のトポロジーが変化する材料を指す。
【0013】
本明細書において、「ポリマー」は、単量体の重合に由来する複数の基本単位からなる繰り返し構造を有する化合物を指す。「ポリマー」は「樹脂」を含む。
【0014】
本明細書において、「樹脂」は合成樹脂を指し、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を含む。
【0015】
本明細書において、「熱硬化性樹脂」とは、架橋されると熱硬化する樹脂を指す。本明細書において、「熱硬化性樹脂」は「熱硬化性エラストマー」を含まない。熱硬化性エラストマーは、熱により引き起こされる化学架橋反応により硬化するエラストマーを指す。
【0016】
本明細書において、「エポキシ樹脂」とは、分子内に2以上のエポキシ基を有するプレポリマーと、硬化剤とを反応させて得られる熱硬化性樹脂を指す。
【0017】
本明細書において、「熱可塑性樹脂」は、ガラス転移温度または融点に達すると軟化する樹脂を指す。
本明細書において、「化学的分解性」とは、化学物質により分解する性質を指す。
本明細書において、「生分解」は、「細胞の作用から生じる酵素処理によって引き起こされる分解」を指し、これはIUPACの定義に従う(Pure Appl. Chem., Vol. 84, No. 2, pp. 377-410, 2012.)。生分解には微生物による分解が含まれる。
本明細書において、「含有する」及び「含む」は、「のみからなる」を包含する概念である。
【0018】
本発明の実施形態の組成物は、エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーと、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備えたポリロタキサンであって、前記複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えている、ポリロタキサンと、を含有する。
【0019】
もっぱら理解を助けるために図1に模式的に示すように、本発明の実施形態の組成物は、エステル結合を有するポリマーを含むビトリマー1と、ポリロタキサン2とを含有する。エステル結合を有するポリマーは、エステル結合を有する熱硬化性ポリマーであってもよいし、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーであってもよい。ポリロタキサン2は、複数の環状分子3と、複数の環状分子3の開口部を貫通する鎖状ポリマー4とを備え、鎖状ポリマー4の両端には鎖状ポリマー4からの環状分子3の脱落を防止するための封鎖基5が結合されている。また、複数の環状分子3の各々が、エステル結合7を有する官能基6を備えている。複数のポリロタキサン2が、ビトリマー1中に分散されている。
【0020】
ポリマーのエステル結合と、ポリロタキサン2の環状分子3のエステル結合7との間ではエステル交換反応が起こり、ポリマーとポリロタキサン2の相溶性が高まる。組成物を加熱すると、このエステル交換反応は一層促進される。これによりビトリマー1の強靭性や自己修復性が、ポリロタキサン2をビトリマー1中に含まない場合に比べて向上すると考えられる。
【0021】
一つの実施形態では、ビトリマー中の上記エステル結合を有するポリマーが、熱硬化性ポリマー樹脂である。さらなる実施形態では、上記エステル結合を有する熱硬化性ポリマーがエポキシポリマーである。エポキシポリマーには、グリシジル型エポキシポリマーが含まれる。
【0022】
一つの実施形態では、上記エステル結合を有する熱硬化性ポリマーがエステル結合を有する熱硬化性樹脂である。さらなる実施形態では、上記エステル結合を有する熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂には、グリシジル型エポキシ樹脂が含まれる。
【0023】
グリシジル型エポキシポリマーまたは樹脂は、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーを、硬化剤と反応させて得られる。
【0024】
一つの実施形態において、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーが、以下の式(I)で表される化合物である。
【0025】
【化2】
【0026】
(式中、XはO、NH、またはC(O)Oであり、Rは二価の脂肪族および/または芳香族の部分であり、nは重合度の程度であり、nは0~25である。)
【0027】
一つの実施形態では、式(I)において、XはOであり、Rは二価の脂肪族および/または芳香族の部分であり、nは0~5である。
【0028】
当業者には本発明の実施形態に適したグリシジル基を有するエポキシプレポリマーが理解される。そのようなグリシジル基を有するエポキシプレポリマーとしては、ビスフェノールAグリシジルエーテル(DGEBA)、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、トリメチロールトリグシジルエーテル(TMPTGE)、エチレングリコールグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ化多価不飽和脂肪酸、エポキシ化脂環式化合物、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。一つの好ましい実施形態では、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーは、ビスフェノールAグリシジルエーテル(DGEBA)である。
【0029】
硬化剤は、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーの反応基と反応して、エステル結合を形成することができる複数の官能基、例えば無水物、酸、またはヒドロキシ基を、一分子中に有する硬化剤であることが好ましい。好ましい実施形態では、硬化剤はカルボン酸又はカルボン酸無水物である。カルボン酸の例としては、グルタル酸、セバシン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。カルボン酸無水物の例としては、グルタル酸無水物、コハク酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物(THPA)、ヘキサヒドロフタル酸無水物(HMPA)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
一つの実施形態では、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーが、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーであり、硬化剤が、カルボン酸又はカルボン酸無水物であり、エポキシ樹脂はこれらの反応物である。
【0031】
一つの実施形態では、エステル結合を有する熱硬化性ポリマーまたは樹脂は、硬化剤を使わずに硬化される。例えば、熱硬化性ポリマーまたは樹脂の中でも、末端熱架橋性基として、ベンゾオキサジン、マレイミド、ナジイミドあるいはエチニル基を高分子鎖の両末端に有するものは、自己熱架橋性があるため、硬化剤が不要である。あるいは、芳香族性アセタール基とエポキシ基とを1分子中に有するエポキシポリマーまたは樹脂も自己硬化が可能である。そのような自己硬化性の熱硬化性ポリマーまたは樹脂は当業者に容易に理解できる。
【0032】
エステル結合を有する熱硬化性ポリマーの分子量は特に限定されず、例えば数平均分子量又は重量平均分子量で、500~2000000であってもよく、例えば10000未満の低分子量であってもよいし、10000以上の高分子量であってもよい。
【0033】
一つの実施形態では、ビトリマー中の上記エステル結合を有するポリマーが、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーである。さらなる実施形態では、上記エステル結合を有する熱可塑性ポリマーが、ポリエステルである。
【0034】
一つの実施形態では、上記エステル結合を有する熱可塑性ポリマーが、エステル結合を有する熱可塑性樹脂である。さらなる実施形態では、上記エステル結合を有する熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂である。
【0035】
ポリエステルまたはポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル、脂環族ポリエステル、芳香族ポリエステル、脂肪族芳香族ポリエステルなどが挙げられる。
【0036】
ポリエステルは、ポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸を含む)とポリオール(ジオール、トリオールを含む)との縮重合反応、ヒドロキシカルボン酸の縮重合反応、ポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸を含む)とポリオール(ジオール、トリオールを含む)とヒドロキシカルボン酸の縮重合反応、酸無水物とポリオール(ジオール、トリオールを含む)との縮重合反応等により調製することができる。ポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸を含む)は飽和ポリカルボン酸であることが好ましい。ポリエステルのビトリマーは、これらのモノマーを好ましくは後述のエステル交換触媒下で反応させることにより製造することができる。
【0037】
脂肪族ポリエステルとしては、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリピバロラクトン、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、これらの共重合体、またはこれらの組み合わせが挙げられる。共重合体としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート)(3HB-co-3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート)(3HB-co-3HV)などのポリヒドロキシアルカノエート (PHA)、ポリ乳酸-co-ポリグリコール酸(PLGA)、ポリ乳酸-co-ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などが挙げられる。
【0038】
脂環族ポリエステルとしては、ポリエチレンシクロヘキサノエートなどのポリC2-6アルキレンC 6-12 シクロアルカノエートなどが挙げられる。
【0039】
芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートなどのC2-6ポリアルキレンC6-12アリレート(ホモポリエステル)、C2-6ポリアルキレンC6-12アリレート単位を含む共重合体(例えばC2-6ポリアルキレンC6-12アリレートにアジピン酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸を共重合したコポリエステル)などが挙げられる。
【0040】
脂肪族芳香族ポリエステルとしては、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート(PBAT)、ポリテトラメチレンアジペート-co-テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS) などが挙げられる。
【0041】
エステル結合を有するポリマーを含むビトリマーは、公知文献に記載されたビトリマーでもよく、M. Capelot et al., J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 7664-7667, Y. Yang et al., Chem. Sci., 2014, 5, 3486-3492, J. P. Brutman et al., ACS Macro Lett., 2014, 3, 607-610等が挙げられる。
【0042】
ポリエステルの炭化水素鎖の部分は、無置換であってもよいが、炭化水素鎖の鎖内にエーテル基、カルボニル基、エステル基などの官能基を備えていてもよい。また、ポリエステルは、チオエステル結合、カルボニル基、ヒドロキシ基、ウレタン結合、ウレア結合、アルデヒド-イミン結合交換反応が起こるアルデヒドとイミンによる会合性結合、及びイミン-イミン結合交換反応が起こるイミンとイミンによる会合性結合、アミン-イミン結合交換反応が起こるアミンとイミンによる会合性結合、アミノ交換反応が起こるビニローグアミド又はビニローグウレタンとアミンとによる会合性結合、C-N結合のトランスアルキル化反応が起こるポリ(1,2,3-トリアゾリウム)イオン液体(PTILs)と二官能性架橋剤による会合性結合、シロキサン部位におけるシラノール/シラノレートの付加及び脱離、及びジスルフィドの結合交換反応が起こるジスルフィドによる会合性結合から成る群から選択される少なくとも一つをさらに有してもよい。このような官能基又は結合の存在により、会合性(associative)の結合交換が増大するため、ビトリマーのエステル交換がより促進される。
【0043】
アミン-イミン結合交換反応については、例えばP. Taynton et al., Adv. Mater., 2014, 26, 3938-3942 を参照されたい。ビニローグアミド又はビニローグウレタンとアミンとアミンによるアミノ交換反応については、例えばW. Denissen et al., Funct. Mater., 2015, 25, 2451-2457を参照されたい。C-N結合のトランスアルキル化反応については、例えばM. M. Obadia et al., J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 6078-6083を参照されたい。シロキサン部位におけるシラノール/シラノレートの付加及び脱離については、P. Zheng et al., J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 2024-2027を参照されたい。ジスルフィドの結合交換反応については、例えばM. Pepels et al, Polym. Chem., 2013, 4, 4955-4965を参照されたい。
【0044】
エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの分子量は特に限定されず、例えば数平均分子量又は重量平均分子量で、500~2000000であってもよく、例えば10000未満の低分子量であってもよいし、10000以上の高分子量であってもよい。
【0045】
ポリロタキサンは、鎖状ポリマーが環状分子の開口部を貫通し、かつ、鎖状ポリマーの両末端に環状分子の脱落を防止するための封鎖基が結合された構造を有する化合物である。ポリロタキサンは、公知文献に基づいて製造してもよいし、ASM Inc.などの製造業者の市販品を利用してもよい。
【0046】
ポリロタキサンを構成する鎖状ポリマーとしては、複数の環状分子の環内を貫通し得る分子が挙げられる。鎖状ポリマーは、モノマーの繰り返し単位を有するポリマーであることが好ましい。鎖状ポリマーとしては、ポリアルキレン類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリアミド類、ポリアクリル類及びベンゼン環を有する鎖状ポリマーを挙げることができる。好ましい鎖状ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等が挙げられる。鎖状ポリマーはエステル結合を有しないことが好ましいが、本発明の効果を奏する限り、エステル結合を有してもよい。鎖状ポリマーは、上記環状分子の環内を貫通できるように構成されている限りは、分岐鎖を有していてもよい。一つの好ましい実施形態では、鎖状ポリマーはポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、及びこれらのいずれか1種以上を含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種 である。より好ましい実施形態では、鎖状ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0047】
鎖状ポリマーは、その全体が同じモノマーの繰り返し構造であるポリマーであってもよいし、少なくとも2つのブロックを備えるブロックコポリマーであってもよいし、少なくとも3つのブロックを備えるブロックコポリマーであってもよい。
【0048】
例えば、鎖状ポリマーが1種類のポリマーからなる水溶性鎖状分子である場合、ポリエチレングリコールのみ、ポリプロピレングリコールのみ、ポリビニルアルコールのみ、ポリエチレンイミンのみ、又はポリエチレングリコールのみからなるポリマーであり得る。鎖状分子が3つのブロックからなる鎖状ポリマーである場合、中央のブロックがポリプロピレングリコールで、その両側がポリエチレングリコールであり得る。
【0049】
鎖状ポリマーの分子量は、特に限定されないが、数平均分子量で、例えば、3000~500000であることがより好ましく、7000~200000であることがより好ましく、10000~100000であることがさらに好ましい。あるいは、重量平均分子量で、例えば、3000~500000であることがより好ましく、7000~200000であることがより好ましく、10000~100000であることがさらに好ましい。本明細書でいう数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリエチレングリコール換算値から求めることができる。
【0050】
鎖状ポリマーの両末端は、鎖状ポリマーからの環状分子の脱落を防止するための封鎖基と反応し得る反応基を有することが好ましく、これにより、後述の封鎖基が鎖状ポリマーの両末端に結合されやすくなる。反応基としては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、及びチオール基、ジスルフィド、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スルホ基等が例示される。好ましくはアミノ基、アルボキシル基である。
【0051】
ポリロタキサンの鎖状ポリマーに結合される封鎖基は、環状分子の鎖状ポリマーからの脱離を防止するように作用する基であれば、特に限定されない。 例えば、封鎖基として、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン、シルセスキオキサン、ピレン、置換ベンゼン(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族( 置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は 1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイドからなる群から選ばれるのがよい。 なお、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン、シルセスキオキサン、及びピレンからなる群から選ばれるのが 好ましく、アダマンタン基又はシクロデキストリンがより好ましい。
【0052】
ポリロタキサンを構成する環状分子としては、例えば、種々のシクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、これらの誘導体、好ましくは誘導体はシクロデキストリンの炭素骨格を保持し、炭素骨格に結合する任意の1つ又は複数の官能基が置換された誘導体である)、クラウンエーテル、ベンゾクラウン、ジベンゾクラウン、ジシクロヘキサノクラウン、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。
【0053】
本発明において、ポリロタキサンは複数の環状分子を有し、複数の環状分子の少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えている。組成物中のポリロタキサン中のすべての環状分子がエステル結合を有する官能基を備えていてもよいが、ポリマーのエステル結合と、ポリロタキサンの環状分子のエステル結合との間でエステル交換反応が起こる限り、組成物中のポリロタキサン中の環状分子のうちの、少なくとも一部がエステル結合を有する官能基を備えていればよい。
【0054】
環状分子が例えばシクロデキストリンの場合、シクロデキストリンは分子内に水酸基を有している。このため、シクロデキストリンを酸と反応させることにより、環状分子に、エステル結合を導入することができる。環状分子におけるエステル結合を有する官能基としては、ポリカプロラクトン基、ポリエステル基などが挙げられる。
【0055】
環状分子はさらに、エステル結合を有する官能基以外の追加の官能基をさらに有しても良い。追加の官能基の例としては、アセチル基、プロピル基、ヘキサノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、シクロヘキシル基、ブチルカルバモイル基、ヘキシルカルバモイル基、フェニル基、アルコキシシラン基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはシンナモイル基、ポリマー類(ポリカーボネート基、ポリアミド基、ポリウレタン基など)、もしくはこれらの誘導体が挙げられる。
【0056】
環状分子は、さらに反応基を有してもよい。そのような反応基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができる。
【0057】
複数のポリロタキサンを、環状分子の官能基を介して互いに架橋していてもよい。複数のポリロタキサンを、環状分子の官能基同士は、直接結合してもよいし、環状分子の官能基と反応性の架橋剤を介して結合してもよい。架橋によるポリロタキサンのエラストマー化により、本実施形態のエステル結合を有するポリマーを含むビトリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物をより強靭化することができる。
【0058】
本明細書において、包接率とは、鎖状ポリマーへの環状分子の最大包接量に対する鎖状ポリマーを包接している環状分子の包接量の割合をいう。包接率は、例えば核磁気共鳴スペクトル測定(NMR)ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定により求めることができる。
【0059】
ポリロタキサンの包接率は、0.1~100%であることが好ましく、0.1~50%であることがより好ましく、1~50%であることがさらに好ましく、1~30%であることが最も好ましい。
【0060】
本実施形態の組成物中のポリロタキサンの量は特に限定されないが、組成物の自己修復性と強靭性の向上の点で、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0061】
また、ポリマーの本来の作用を発揮する点で、組成物中のポリロタキサンの量は、50重量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。一つの実施形態では、組成物の自己修復性と強靭性の向上の点で、組成物中のポリロタキサンの量は、20重量%以下である。
【0062】
一つの実施形態では、組成物中のポリロタキサンの量は、1~40質量%であり、より好ましくは1~30質量%であり、さらにより好ましくは1~20質量%である。
【0063】
組成物中の、ポリマー(特には熱硬化性ポリマー、または熱可塑性ポリマー)のポリロタキサンに対する質量比(ビトリマー:ポリロタキサン)は、組成物の自己修復性と強靭性の向上の点で、99.9:0.1~1:1であることが好ましく99:1~1:1であることがより好ましく、95:5~1:1であることがより好ましく、95:5~3:2であることがより好ましく、95:5~4:1であることがさらに好ましい。
【0064】
組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は特に限定されないが、組成物の自己修復性と強靭性の向上の点で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であることが好ましい。組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は、95質量%以上、98質量%以上、または100質量%であることが好ましい。
【0065】
本発明の実施形態の組成物は、好ましくはエステル交換触媒を含む。エステル交換触媒は、生成するビトリマー内および/またはビトリマーとポリロタキサン間においてエステル交換反応を生じさせる触媒である。このようなエステル交換触媒は公知であり、例えば、酢酸亜鉛(Zn(OAc)2)及びその水和物、亜鉛アセチルアセトナート(Zn(acac)2),及びその水和物、トリアザビシクロデセン(TBD)、テトライソプロピルチタネート、三酸化アンチモン、ジオクチル酸ジブチル錫、ジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL)、モノブチル錫オキシド(MBTO)、ジブチル錫オキシド(DBTO)等が挙げられるがこれらに限定されない。エステル交換触媒の添加量は当業者が適宜決定することができる。一つの実施形態において、エステル交換触媒の量は、エステル結合を有するポリマー100質量部に対して、0.001~10質量%とする。
【0066】
本発明の実施形態の組成物は、チオエステル結合、カルボニル基、ヒドロキシ基、ウレタン結合、ウレア結合、アルデヒド-イミン結合交換反応が起こるアルデヒドとイミンによる会合性結合、及びイミン-イミン結合交換反応が起こるイミンとイミンによる会合性結合、アミン-イミン結合交換反応が起こるアミンとイミンによる会合性結合、アミノ交換反応が起こるビニローグアミド又はビニローグウレタンとアミンとによる会合性結合、C-N結合のトランスアルキル化反応が起こるポリ(1,2,3-トリアゾリウム)イオン液体(PTILs)と二官能性架橋剤による会合性結合、シロキサン部位におけるシラノール/シラノレートの付加及び脱離、及びジスルフィドの結合交換反応が起こるジスルフィドによる会合性結合から成る群から選択される少なくとも一つを有する、会合性(associative)の結合交換が起こるポリマーをさらに含んでもよい。このようなポリマーの配合により、ビトリマーの会合性の結合交換がより促進される。それぞれの結合交換反応を生じさせるポリマーは公知である。
【0067】
本発明の実施形態の組成物は、ポリマーを含むビトリマーと、ポリロタキサン以外に、他の添加剤、例えば可塑剤、界面活性剤、滑剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤などを含んでもよい。これらの添加剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
以上説明した、ポリマー(熱硬化性ポリマー又は熱可塑性ポリマー)を含むビトリマーと、ポリロタキサンとを含有する本実施形態の組成物では、ポリロタキサンとを含有しない点のみ異なる組成物と比較して、組成物の自己修復性と靭性が向上する。
【0069】
一つの実施形態において、組成物は、一軸伸長試験において測定した引っ張り応力に対する組成物の歪が、ポリロタキサンを含まない点のみ前記組成物とは異なる対照物の歪に対して増大するとともに、組成物の初期弾性率と、前記対象物の初期弾性率の差が±10%以内である。組成物中のエステル結合を有するポリマーは、熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーであってよい。
【0070】
特定の実施形態では、一軸伸長試験において測定した引っ張り応力に対する組成物の歪は、ポリロタキサンを含まない点のみ前記組成物とは異なる対照物の歪に対して、引っ張り応力が30MPaまでのいずれかの範囲(例えば、5MPa、10MPa、20MPa、30Pa)において1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、又は4倍以上である。組成物中のエステル結合を有するポリマーは、熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーであってよい。
【0071】
特定の実施形態では、一軸伸長試験において測定した引っ張り応力に対する組成物の歪は、熱硬化性組成物を構成するビトリマーの歪に対して、引っ張り応力が1~30MPaまでのいずれかの範囲(例えば、5MPa、10MPa、20MPa、30Pa)において、4倍以上である。組成物中のエステル結合を有するポリマーは、熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーであってよい。
【0072】
また、本発明の実施形態の熱硬化性ポリマー、特には熱硬化性樹脂を含むビトリマーを含有する熱硬化性組成物は、加熱により、自己修復能が高まる。例えば、本発明の実施形態の熱硬化性組成物の表面に傷を付けた場合、室温(20℃程度)でも自己修復は起こり、時間の経過とともに熱硬化性組成物の材料同士が接触して、光学顕微鏡観察で傷が見えなくなるまで自己修復されるが、熱硬化性組成物を加熱すると自己修復の速度が上昇し、傷がなくなるまでの時間が短縮される。加熱温度は特に限定されないが、熱硬化性ポリマーの融点よりも低い温度であることが好ましく、一つの実施形態では30~240℃である。一つの実施形態では30~200℃である。一つの実施形態では、50~180℃である。一つの実施形態では、100~160℃である。
【0073】
一つの実施形態において、本発明の実施形態の熱硬化性ポリマーを含むビトリマーを含有する熱硬化性組成物は、ポリロタキサンを含まない点のみ前記熱硬化性組成物とは異なる対照物と比較して、自己修復能が高い。さらなる実施形態では、本発明の実施形態の熱硬化性組成物は、ポリロタキサンを含まない点のみ前記熱硬化性組成物とは異なる対照物と比較して、加熱時の自己修復能が高い。
【0074】
一つの実施形態において、本発明の実施形態の熱硬化性ポリマーを含むビトリマーを含有する熱硬化性組成物は、該熱硬化性組成物を構成するビトリマーと比較して、自己修復能が高い。さらなる実施形態では、本発明の実施形態の熱硬化性ポリマーを含むビトリマーを含有する熱硬化性組成物は、該熱硬化性組成物を構成するビトリマーと比較して、加熱時の自己修復能が高い。
【0075】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、化学的分解性が向上された組成物である。
化学的分解性の点で、組成物中のポリロタキサンの含有量が50質量%以下であり、アルコール溶媒中での加熱条件における1500分後の組成物の分解率が50%以上であることが好ましい。分解率は、(加熱前の組成物の重量-1500分後の組成物の重量)/加熱前の組成物の重量*100(%)により計算される。アルコール溶媒液中での加熱条件は、特にはエチレングリコール中での150℃での加熱を指す。
化学的分解の促進の点で、組成物中のポリロタキサンの量の上限値は、好ましくは40質量%であり、より好ましくは30質量%であり、さらにより好ましくは20質量%である。組成物中のポリロタキサンの量の下限値は、好ましくは1質量%であり、より好ましくは5質量%である。
【0076】
組成物中の、ビトリマーのポリロタキサンに対する質量比(ビトリマー:ポリロタキサン)は、化学的分解の促進の点で、99.9:0.1~1:1であることが好ましく99:1~1:1であることがより好ましく、95:5~1:1であることがより好ましく、95:5~3:2であることがより好ましく、95:5~4:1であることがさらに好ましい。ビトリマーの量が、ポリロタキサンの量と等しいか、それよりも多いと、ビトリマーの化学分解は有利に促進される。
【0077】
組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は特に限定されないが、化学的分解の促進の点で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であることが好ましい。特定の実施形態では、組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は、95質量%以上、98質量%以上、または100質量%である。
【0078】
一つの実施形態において、本発明の実施形態の組成物は、ポリロタキサンを含まない点のみ前記組成物とは異なる対照物と比較して、アルコール溶媒中での加熱条件における分解開始から5時間後の組成物の分解量が10倍以上であるアルコール溶媒液中での加熱条件は、特にはエチレングリコール中での150℃での加熱を指す。
【0079】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、生分解性組成物である。
生分解性の点で、組成物中のポリロタキサンの含有量が50質量%以下であることが好ましい。組成物中のポリロタキサンの量の上限値は、好ましくは40質量%であり、より好ましくは30質量%であり、さらにより好ましくは20質量%である。組成物中のポリロタキサンの量の下限値は、好ましくは1質量%であり、より好ましくは5質量%である。
【0080】
組成物中の、ビトリマーのポリロタキサンに対する質量比(ビトリマー:ポリロタキサン)は、生分解の促進の点で、99.9:0.1~1:1であることが好ましく99:1~1:1であることがより好ましく、95:5~1:1であることがより好ましく、95:5~3:2であることがより好ましく、95:5~4:1であることがさらに好ましい。ビトリマーの量が、ポリロタキサンの量と等しいか、それよりも多いと、ビトリマーの生分解は有利に促進される。
【0081】
組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は特に限定されないが、生分解の促進の点で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であることが好ましい。特定の実施形態では、組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は、95質量%以上、98質量%以上、または100質量%である。
【0082】
ビトリマーと、ポリロタキサンとを含有する組成物は、ポリロタキサンとを含有しない点のみ異なるビトリマー単体またはビトリマーを含む組成物と比較して、ビトリマーの生分解性が向上する。
【0083】
本願発明が特定の仮説や理論によって束縛されることを望むものではないが、ポリロタキサンの添加によりビトリマーの分解性がさらに向上するというこの予想外の効果は、ビトリマーにポリロタキサンを添加することにより、ポリロタキサンが分解菌の餌として働くことで植種源中でのバイオフィルム(高濃度微生物共同体)形成が促進され、このバイオフィルム中の高濃度高分子分解菌がビトリマーを酵素分解し、分解反応が進むからではないかと推測される。
【0084】
ビトリマーとポリロタキサンとを含有する組成物は、水中(海、湖)に浸漬したり、土中に埋めたりした後、一定期間放置すると、環境中の微生物の作用により、一部又は全部が分解するが、ポリロタキサンとを含有しない点のみ異なるビトリマー単体またはビトリマーを含む組成物と比較して、分解性が向上しているため、より一層環境に優しい。
【0085】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、形状記憶の回復性が向上されている。本実施形態の組成物は、ビトリマー単体に比べて、同じ加熱条件でより迅速に記憶形状に回復する。これは、ポリロタキサン添加によりビトリマーへのポリロタキサンの添加によりエポキシビトリマーの分子運動性が高まるためと考えられる。
【0086】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、形状記憶の書き換えが容易である。本実施形態の組成物は、ビトリマー単体に比べて、低い加熱温度で記憶形状の書き換えができる。これは、ポリロタキサン添加により本発明の組成物のトポロジー凍結転移温度Tv(エステル交換温度とも称する)が、ビトリマー単体のトポロジー凍結転移温度Tvよりも低下するためと考えられる。
【0087】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、溶融による接着力が向上されている。本実施形態の組成物は、ビトリマー単体に比べて、組成物からなる部材同士の溶融による接着力が大きい。これは、ポリロタキサン添加により、本発明の組成物のトポロジー凍結転移温度Tvがビトリマー単体のトポロジー凍結転移温度Tvよりも低下し、部材の界面の熱劣化の抑制と活性の高い結合交換による接着強度の増加とをもたらすためと考えられる。
【0088】
形状記憶の回復の向上、形状記憶の書き換え、及び/又は溶融接着力の増強の点で、組成物中のポリロタキサンの含有量は50質量%以下であることが好ましい。組成物中のポリロタキサンの量の上限値は、好ましくは40質量%であり、より好ましくは30質量%であり、さらにより好ましくは20質量%である。組成物中のポリロタキサンの量の下限値は、好ましくは1質量%であり、より好ましくは5質量%である。
【0089】
組成物中の、ビトリマーのポリロタキサンに対する質量比(ビトリマー:ポリロタキサン)は、形状記憶の回復の向上、形状記憶の書き換え、及び/又は溶融接着力の増強の点で、99.9:0.1~1:1であることが好ましく99:1~1:1であることがより好ましく、95:5~1:1であることがより好ましく、95:5~3:2であることがより好ましく、95:5~4:1であることがさらに好ましい。
【0090】
組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は特に限定されないが、形状記憶の回復の向上、形状記憶の書き換え、及び/又は溶融接着力の増強の点で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であることが好ましい。特定の実施形態では、組成物中のビトリマーとポリロタキサンの合計量は、95質量%以上、98質量%以上、または100質量%である。
【0091】
以上説明してきた本発明の実施形態の組成物を含む自己修復性材料も、本発明の範囲に包含される。
【0092】
次に、本発明の実施形態のエステル結合を有するポリマーを含むビトリマーとポリロタキサンとを含む組成物の製造方法について、説明する。
【0093】
まず、エステル結合を有するポリマーが熱硬化性ポリマーである場合について説明する。かかる方法は、
グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、ポリロタキサンとを混合することであって、ポリロタキサンは、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備え、前記複数の環状分子の各々がエステル結合を有する官能基を備えていること;および
前記混合物と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを混合し、混合物を硬化させること;
を含む。
【0094】
グリシジル基を有するエポキシプレポリマー及びポリロタキサンについては上記に説明した通りである。
【0095】
好ましくは、上記の前記混合物と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを混合する工程は、エステル交換触媒の存在下で行われる。エステル交換触媒については上述した通りである。
エステル交換触媒の添加量は当業者が適宜決定することができる。一つの実施形態において、エステル交換触媒の量は、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーのエポキシ基に対して、0.1~10mol%とする。
【0096】
エステル交換触媒を添加するタイミングは、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、ポリロタキサンとを混合する前、同時、又は後であってよい。
【0097】
硬化は、グリシジル基を有するエポキシプレポリマーと、カルボン酸又はカルボン酸無水物との架橋が起こる任意の温度で行ってもよい。温度が高いほど硬化速度は早くなる。一つの実施形態では、硬化が120~200℃で行われる。一つの実施形態では、硬化が130~170℃で行われる。
【0098】
硬化時間の長さは、各ケースで決定してよい。一つの実施形態では、硬化時間は1~72時間である。
【0099】
一つの実施形態では、硬化の温度および時間はそれぞれ、140~170℃および6~48時間である。
【0100】
次に、エステル結合を有するポリマーが熱可塑性ポリマーである場合について説明する。かかる方法は、
エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーと、ポリロタキサンとを混合することであって、ポリロタキサンが、複数の環状分子と、前記複数の環状分子の開口部を貫通する鎖状ポリマーとを備え、複数の環状分子の各々がエステル結合を有する官能基を備えていること;
を含む。
【0101】
本明細書において、「エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマー」とは、重合するとエステル結合を有する熱可塑性ポリマーを構成するモノマーを指す。モノマーの重合は、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの重合触媒として公知の重合触媒下でおこなわれてもよい。
【0102】
エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーとしては、例えばポリカルボン酸とポリオールとが挙げられ、特にジオールとジカルボン酸が挙げられる。このようなポリカルボン酸とポリオールと公知である。ポリカルボン酸は1種類であっても2種類以上であってもよい。ポリオールは1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0103】
好ましくは、上記方法は、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーと、ポリロタキサンとの混合中、または混合後に、エステル交換触媒を添加することをさらに含む。エステル交換触媒については上述した通りである。
エステル交換触媒については上述した通りである。エステル交換触媒の添加量は当業者が適宜決定することができる。一つの実施形態において、エステル交換触媒の量は、エステル結合を有する熱可塑性ポリマー100質量部に対して、0.002~10質量%とする。
【0104】
エステル結合を有する熱可塑性ポリマーの構成モノマーが重合し、エステル結合を有する熱可塑性ポリマーが生成する。エステル交換反応は加熱により促進することができる。加熱温度は例えば40~100℃、加熱時間は3~72時間であってよく、反応は大気圧で行っても減圧下で行ってもよい。
【0105】
上記の本発明の実施形態のビトリマーとポリロタキサンとを含む組成物の製造方法によれば、ポリロタキサンがビトリマー中に十分に分散された組成物を製造することができる。なお、組成物中のポリロタキサンの分散はSAXS等で確認することができる。
【0106】
得られた本発明の実施形態のビトリマーとポリロタキサンとを含む組成物は、押出成形、プレス成形、真空成型、射出成形、ブロー成形、インフレーション成形、発泡成形などの公知の成形技術により、フィルム状、シート状、筒状、ケース状など、任意の三次元の形状に成形加工し、成形体とすることができる。
【0107】
本発明の実施形態の組成物およびこれを含む成形体は、強靭性を備えているため、フィルム、シート、生活用品など、種々の用途に使用することができる。なお、本明細書で使用する場合、フィルムとは厚さが250μm未満である薄膜を指す。シートは、厚さが250μm以上の板状部材を指す。
【0108】
また、本発明の実施形態の組成物が熱硬化性ポリマーを含むビトリマーを含有する熱硬化性組成物である場合、そのような組成物およびこれを含む成形体は強靭性と自己修復性を兼ね備えているため、例えば自動車、船舶、宇宙船、飛行機、風車、スポーツ用品、建築材料、防衛品、電子製品、包装材など、メンテナンスが不要又は省略できることが望まれる装置に、好適に使用することができる。本発明の実施形態の熱硬化性組成物は、そのような装置を構成する複合材料に使用することもできる。
【0109】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0110】
実施例1 エポキシビトリマーベースの熱硬化性組成物の作成
ビスフェノールAグリシジルエーテル(DGEBA)、DGEBAのエポキシ基に対して5molのZn(acac)2と、ポリロタキサンと、グルタル酸無水物とをこの順で混合し、混合物を140℃で12時間加熱し、硬化させ、エポキシビトリマーベースの熱硬化性組成物を得た。ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(PR-g-PCL)であるASM Inc.社の SH3400P, ASM Inc. 包接率約28%、置換率約25%、全体分子量約700000)を使用した。PR-g-PCLの製造方法については、WO2015/041322を参照されたい。ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンは、ポリロタキサンとして、ポリエチレングリコール鎖がα-シクロデキストリンの開口部に串刺し状に挿通され、かつα-シクロデキストリンの水酸基の一部がヒドロキシプロピル基を介してポリカプロラクトンにより置換された分子である。以下、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの量は、熱硬化性組成物に対し、0,5,10,20質量%とした。
【0111】
図2にSAXSの結果を示す。ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの量が異なると、それぞれのグラフでポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンに由来する散乱が異なって観察され、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン分子がナノレベルで熱硬化性組成物中に分散していることが確認された。
【0112】
実施例2 一軸伸長試験
実施例1で製造した熱硬化性組成物から、ダンベル状態に試験片を切り出した。ダンベルの試験片の寸法は厚さ1mm、中間の軸部分の初期長さが30mmかつ幅が4mmとした。試験片をその長手方向に沿って両側に1mm/分の引張速度にて引っ張り、引っ張り応力に対する歪(%)を測定した。本実施例では、(1)ポリロタキサンを含まないエポキシビトリマーを含む熱硬化性組成物、(2)エポキシを熱硬化性組成物の5質量%の割合で含むエポキシビトリマーを含む熱硬化性組成物、(3)エポキシを熱硬化性組成物の10質量%の割合で含むエポキシビトリマーを含む熱硬化性組成物の歪(%)を測定した。
【0113】
歪を横軸、応力を縦軸にプロットしたグラフを図3に示す。初期弾性率(ヤング率)は各試験片の応力-歪曲線の原点を通る接線の傾きから測定した。表1に示すように、熱硬化性組成物中のポリロタキサン含有量が増加しても硬さは変わらないが、図3に示すようにポリロタキサン含有量が増加すると、破断歪の値が大きくなった。このように、エポキシビトリマーに対するエステル結合を有するポリロタキサンの添加により、材料の強靭化が達成された。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例3 一軸伸長試験
包接率及びポリエチレングリコール鎖の分子量が異なる3種類のポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(PR02%: 包接率2%, PEG分子量3.5kg/mol, SH1300P: 包接率28%, PEG分子量1.1kg/mol, ASM Inc., SH2400P: 包接率28%, PEG分子量2kg/mol, ASM Inc.)を用いて、実施例1に従って熱硬化性組成物を製造した。プレポリマーは、ビスフェノールAグリシジルエーテル(DGEBA)、エステル交換触媒はDGEBAのエポキシ基に対して5molのZn(acac)2とし、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの量は、熱硬化性組成物に対し、10質量%とした。製造した熱硬化性組成物の引っ張り応力に対する歪(%)及びヤング率を実施例2に従って測定した。
【0116】
歪を横軸、応力を縦軸にプロットしたグラフを図4に示す。表2に示すように、熱硬化性組成物中のポリロタキサンの種類が異なっても硬さの低下は抑制され、図4に示すようにポリロタキサン含有量が増加すると、破断歪の値が大きくなった。このように、ポリロタキサンの包接率や鎖状分子の長さが異なっても、エポキシビトリマーに対するエステル結合を有するポリロタキサンの添加により、材料の強靭化が達成された。
【0117】
【表2】
【0118】
実施例4 一軸伸長試験の繰り返し試験
実施例1で製造したポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの量が熱硬化性組成物に対して10質量%である熱硬化性組成物から、実施例2と同様にダンベル状態に試験片を切り出し、試験片の一軸伸長試験を行い、引っ張り応力に対する歪(%)を測定した。本実施例では、試験片のポリロタキサン含有量は5質量%のものとし、(1) 150℃、30分加熱後の一軸伸長試験1回目の試験片、(2)室温での一軸伸長試験1回目の試験片、(3) 150℃、30分加熱後の一軸伸長試験2回目の(1)の試験片、(4)室温での一軸伸長試験2回目の(2)の試験片のそれぞれの引っ張り応力に対する歪(%)を測定した。
【0119】
図5に示すように、試験片を加熱した場合(グラフ(1)及び(3))、一軸伸長試験の1回目でも2回目でも歪みは大きく維持され、表3に示すように、2回目の試験片のヤング率は、室温及び150℃加熱処理のいずれの試験片でも、1回目のヤング率の約90%であった。試験片を室温に置いた場合(グラフ(2)及び(4))、2回目の伸長試験中の降伏後に試験片は即座に破断した(グラフ(4))。
【0120】
これらの結果から、試験片が降伏すると試験片中に空隙(ボイド)が生じるが、試験片を加熱することによりエポキシ樹脂のエステル結合とポリロタキサンのシクロデキストリンの官能基のエステル結合との間の結合交換が促進され、空隙(ボイド)の穴埋めをすることにより、加熱した試験片では破断が生じず、繰り返し試験に耐えることができたと推察される。
【0121】
【表3】
【0122】
実施例5 自己修復性試験
実施例1で製造したポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの量が熱硬化性組成物に対して0質量%および10質量%である熱硬化性組成物のサンプルの表面に傷を付け、その後150℃前後で加熱したときのサンプルの外観変化を光学顕微鏡(50倍)で観察した。
【0123】
図6(A)に示すように、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを含まないサンプルでは、傷を付けた後約一分経過した後も、傷が修復しなかった。これに対し、図6(B)に示すように、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを10質量%含む熱硬化性組成物のサンプルでは、約20秒で傷が修復した。また、図7に示すように、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを含まないサンプルのガラス転移温度が96℃であるのに対し、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを10質量%含むサンプルのガラス転移温度は56℃に低下していた。ガラス転移温度が低いと、低い温度でも分子運動が起こりやすい。これらの結果は、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの添加が、エポキシビトリマーの自己修復性を増強したことを示している。
【0124】
自己修復性の熱硬化性樹脂における傷の修復は、形状記憶による物理的な修復と、結合交換による化学的な修復を伴うと考えられているが、加熱により熱硬化性組成物中の分子運動が上昇し、エポキシ樹脂のエステル結合とポリロタキサンのシクロデキストリンの官能基のエステル結合との間の結合交換が促進され、少なくとも化学的修復が進んだことが示唆される。
【0125】
実施例6 伸長クリープ試験
表4に示すように、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを含まないサンプルのトポロジー凍結転移温度Tvは147℃であるが、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンを10質量%含むサンプルのトポロジー凍結転移温度Tvは130℃に低下していた。これは、エポキシビトリマーへのポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンの添加により、エステル交換が加速しているためと考えられる。
【0126】
【表4】
【0127】
実施例7
Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 44, 6312-6323 (2006)に従い、α-シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、及び1-アダマンタンアミンからなるポリロタキサン(APR)を合成した(包接率25%、PEG分子量35kg/mol)。
【0128】
また、Macromolecules, Vol. 38, No. 17, 7524-7527, 2005に従い、APRのヒドロキシプロピル基修飾体であるポリロタキサン(HAPR)を合成した(包接率25%、PEG分子量35kg/mol)。
【0129】
実施例1に従い、比較実施例として、APR及びHAPRのそれぞれを含む熱硬化性組成物を製造した。各ポリロタキサン量は熱硬化性組成物に対し10質量%とした。
【0130】
図8(A)に示すように、ポリロタキサンとしてSH3400Pを含む実施例1の熱硬化性組成物は成分が均一分散していた。また、ポリロタキサンとしてポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンであるSH2400P、SH1300P、及びPR02の各々を含む実施例3の熱硬化性組成物も、成分が均一分散していた(データ非図示)。
【0131】
これに対し、図8(B)に示すように、APRを含む熱硬化性組成物では、外観に不溶物が残り、図8(C)に示すように、HAPRを含む熱硬化性組成物では白濁が散見され、ポリロタキサンのα-シクロデキストリンが修飾されていない熱硬化性組成物ではいずれも均一に分散することができなかった。一軸引張試験においても脆性的な挙動が得られAPR、HAPR添加による靭性の改質は見込めない結果が得られた(データ非図示)。つまりビトリマーの靭性向上においてポリロタキサンとビトリマーマトリックスの相溶性が不可欠であることが示唆された。
【0132】
実施例8
硬化剤であるカルボン酸(PripolTM 1040)と亜鉛触媒(Zn(OAC)2,2H2O:5mol% to COOH)を加えて撹拌し、減圧下180℃で約3時間加熱して溶解させることで焦茶色の硬化剤溶液を得た。エポキシ樹脂(DER332, DGEBA とも称する、CAS No. 1675-54-3)と各種のポリロタキサンとを加えて140℃で撹拌して溶解させ、硬化剤溶液をエポキシ基に対してCOOH基が1当量となるように加えた。ポリロタキサンは全体の硬化物に対して10質量%となるように加えた。ポリロタキサンは、無添加(neat)、PR02、SH1300P、SH2400P、SH3400Pとした。
【0133】
硬化剤溶液添加後、150℃で速やかに撹拌し、モールドに流し込み、140℃で12時間加熱することで、ポリロタキサン添加ビトリマー熱硬化性エラストマーである熱硬化性組成物を得た。
【0134】
【化3】
【0135】
製造した熱硬化性組成物から、実施例2に従ってダンベル状態に試験片を切り出し、その長手方向に沿って両側に1mm/分の引張速度にて引っ張り、室温(約23℃)にて引っ張り応力に対する歪(%)を測定した。
【0136】
図9及び表5に示すように、いずれのポリロタキサンにおいても力学強度の増加が得られず、ヤング率、破断伸度・強度ともに低下する傾向となった。この結果からマトリックスとなるビトリマーの化学構造により、ポリロタキサンの化学構造や相溶性、配合量などの各種条件に最適値が存在することが示唆された。
【0137】
【表5】
【0138】
実施例9 ポリカプロラクトンビトリマーベースの組成物の作成
ポリロタキサン(SH3400P、包接率28%、軸分子量35kg/mol、全体分子量700kg/mol)とポリカプロラクトン(PLC, 分子量80kg/mol)を溶媒であるクロロホルムに十分に溶解した。ポリロタキサンはPCLに対し1、5、60質量%となるよう添加した。。そこにエステル交換触媒であるジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL)と補助剤であるヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を添加し、10分撹拌した。
【0139】
溶液をシャーレにキャストし、室温で2日間静置し、溶媒を揮発させフィルム状に乾固した後、減圧下80℃で12時間加熱し、エステル交換反応を進行させた。比較例として、エステル交換触媒と補助剤を添加しないPCL試験片も作製した。
【0140】
【化4】
【0141】
図10(A),(B),(C)に示すように、PCLにポリロタキサンを1%、5%添加した試験片の外観写真から1mm以下のミクロ相分離構造が観察され、ポリロタキサンを60%添加した試験片の外観写真からは1cm前後のマクロ相分離構造が観察された。一方で、図10(D),(E),(F)に示すように、エステル交換触媒であるDBTDLを添加したポリロタキサン添加PCLでは、ポリロタキサン添加量1%、5%、60%において、いずれも非常に平滑な表面構造が観察され、エステル交換反応の促進によるPCLとポリロタキサンの相溶化が進んだものと示唆された。
【0142】
実施例10 一軸伸長試験
実施例9で製造した組成物から、ダンベル状態に試験片を切り出した。ダンベル試験片の寸法は厚さ0.1mm、中間の軸部分の初期長さが12mmかつ幅が2mmとした。試験片を試験片の長手方向に沿って両側に1mm/分の引張速度にて引っ張り、引っ張り応力に対する歪(%)を測定した。
【0143】
図11に示すように、ポリロタキサン添加PCLの応力ひずみ曲線から、5%添加において破断伸度が増加したが、ポリロタキサン添加量によっては破断伸度が減少した。一方で、エステル交換触媒を添加したポリロタキサン添加PCL試験片(2)-(4)において、破断伸度、破断強度ともにPCL試験片(1)よりも増加した。さらにエステル交換触媒を添加していないポリロタキサン添加PCL試験片(5)-(7)では、負荷荷重によるラメラ結晶の崩壊に由来する応力の周期的な減少が観察されたが、エステル交換反応によるポリロタキサンの相溶化により均一な応力の推移が得られ、破断伸度の増加も得られた。
【0144】
実施例11 ポリ乳酸-co-ポリグリコール酸ビトリマーベースの組成物の作成
ポリロタキサン(SH3400P、包接率28%、軸分子量35kg/mol、全体分子量700kg/mol)とPLGA(分子量24~38kg/mol、PLA:PGA=65 : 35)を溶媒であるクロロホルムに十分に溶解した。ポリロタキサンはPLGAに対し5、10質量%となるよう添加した。そこにエステル交換触媒であるDBTDLと補助剤であるヘキサメチレンジイソシアネートを添加し、10分撹拌した。
溶液をシャーレにキャストし、室温で2日間静置し、溶媒を揮発させフィルム状に乾固した後、減圧下80℃で12時間加熱し、エステル交換反応を進行させた。比較例として、エステル交換触媒と補助剤を添加しないPLGA試験片も作製した。
【0145】
【化5】
【0146】
図10(A)及び(B)に示すように、PLGAにポリロタキサンを5、10質量%添加した試験片の外観写真から0.5cm前後のマクロ相分離構造が観察された。一方で、図10(C)及び(D)に示すように、エステル交換触媒であるDBTDLを添加したポリロタキサン添加PLGAでは、ポリロタキサン添加量5、10質量%において、いずれも平滑な表面構造が観察され、エステル交換反応の促進によるPLGAとポリロタキサンの相溶化が進んだものと示唆された。
【0147】
実施例12 一軸伸長試験
実施例11で製造した組成物から、ダンベル状態に試験片を切り出した。ダンベル試験片の寸法は厚さ0.1mm、中間の軸部分の初期長さが12mmかつ幅が2mmとした。試験片を試験片の長手方向に沿って両側に1mm/分の引張速度にて引っ張り、引っ張り応力に対する歪(%)を測定した。
【0148】
図13に示すように、ポリロタキサン添加PLGA(4),(5)の応力ひずみ曲線から、5、10%添加ともにPLGA(1)と比較し破断伸度が増加した。さらに、エステル交換触媒を添加したポリロタキサン添加PLGA(2),(3)において、破断伸度がさらに増加した。エステル交換触媒添加により、ポリロタキサンとPLGAの相溶化が促進され、均一にポリロタキサンの応力分散効果が発現したためと示唆される。
【0149】
実施例13 ポリロタキサンエラストマーの添加による樹脂の強靭化
1.ポリロタキサンエラストマー添加剤の製造
ポリロタキサン(SH3400P、包接率28%、軸分子量35kg/mol、全体分子量700kg/mol)のトルエン溶液に架橋剤のヘキサメチレンジイソシアネートと触媒のジラウリン酸ジブチル錫を加え3分間撹拌し、シャーレに溶液をキャストした。40℃、1時間以上静置させゲル化後、105℃、2時間減圧乾燥により溶媒を除去し、フィルム状サンプルを剥離した。サンプルをアセトンでよく洗浄した後、60℃、一晩減圧乾燥し、ポリロタキサンエラストマーを作製した。それを凍結粉砕により、粒径80μm程度の粉末に成形したポリロタキサンエラストマー添加剤を作製した。
【0150】
2.ポリエステル樹脂を含む組成物の作製
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CDCA)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、1,3-プロパンジオール(PD)、及び1.で製造したポリロタキサンエラストマー添加剤(全量に対し5質量%)を混合し、40℃、10 min撹拌した。そこに重合触媒兼エステル交換触媒である三酸化アンチモンを加え撹拌後、40℃、5 h静置によりプレポリマーを合成し、80℃オーブンで2 h加熱した。その後、減圧加熱プレス機で150℃、10kN、3 minでプレス成形し、フィルム状の試験片を作製した。比較として、ポリロタキサンエラストマー添加剤未添加のポリエステルも同様に作製した。
【0151】
3.ポリウレタンを含む組成物の作製
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CDCA)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、1,3-プロパンジオール(PD)、及び1.で製造したポリロタキサンエラストマー添加剤(全量に対し5質量%)を混合し、40℃、10 min撹拌した。そこに重合触媒であるジラウリン酸スズを加え撹拌後、40℃、5 h静置によりプレポリマーを合成し、80℃オーブンで2 h加熱した。その後、減圧加熱プレス機で150℃、10kN、3 minでプレス成形し、フィルム状の試験片を作製した。
【0152】
ポリウレタンは結合交換が起こりにくいためエステル交換の効果を確認するための比較用として使用した。
【0153】
実施例14 一軸伸長試験
実施例13で製造した組成物から、ダンベル状態に試験片を切り出した。ダンベル試験片の寸法は厚さ0.1mm、中間の軸部分の初期長さが12mmかつ幅が2mmとした。試験片を試験片の長手方向に沿って両側に1mm/分の引張速度にて引っ張り、引っ張り応力に対する歪(%)|を測定した。
【0154】
図14に示すように、ポリロタキサンエラストマー添加剤有無の比較としては、ポリロタキサンエラストマー添加剤を添加しない場合(1)(3)よりも、添加した場合(2)(4)で、ポリエステル、ポリウレタンともに破断伸度が増加傾向であった。一方で、表6に示すように、エステル交換の有無による違いとしては、ポリエステルでは、添加剤含有においてもヤング率がほぼ変わらず破断伸度のみ増加しているが、ポリウレタンは添加剤含有により、ヤング率が半分程度まで低下している。これはポリロタキサンエラストマー添加剤と樹脂マトリックスとの界面での結合交換により共有結合を形成することで材料の硬さを変えることなく強靭化するためであると示唆された。
【0155】
【表6】
【0156】
実施例15 化学的分解試験
ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの生分解性について調べた。
スクリュー瓶に各種サンプルの破片(1g以下)とアルコール溶媒(エチレングリコール)数十mlを加えた。これを150℃に設定したホットスターラーで加熱しながら撹拌し、サンプルの重量を経時的に記録した。重量を測定する際は溶媒を拭き取り、サンプル間の比較には各時点でのサンプルの重量を乾燥状態のサンプルの初期重量で割ることで得られる規格化重量を用いた。分解率は、(加熱前の組成物の重量-測定時の組成物の重量)/加熱前の組成物の重量*100(%)により計算される。
【0157】
ポリマー試料は以下の通りとした。なお、ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(PR-g-PCL)はSH3400P(Advanced Softmaterials Inc. 全体分子量約700000)を使用した。
【0158】
試料1:エポキシビトリマーとポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(SH3400P)とを重量比90:10で複合した樹脂
試料2:エポキシビトリマー単一の樹脂
試料3:エポキシビトリマーとヒドロキシプロピルセルロースにポリカプロラクトンを修飾したグラフトポリマー(HPC-PCL:ポリロタキサンの比較として類似構造を持つ試料を使用)を重量比90:10で複合した樹脂
試料4: エポキシビトリマーと包接率2%のポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンとを重量比90:10で複合した樹脂
【0159】
(結果)
図15に示すようにエポキシビトリマー単体(Neat)では、24時間で約25%分解する一方で、SH3400Pを添加した試料 (SH3400P)とPR02を添加した試料(PR02)では約70%分解する結果が得られ、ポリロタキサン添加による分解の促進が観察された。比較として用いたポリロタキサンと類似構造を持つHPC-PCLの試料(HPC-PCL)では単一のエポキシビトリマーよりも分解性が低下する傾向が観察された。これは一般的な添加剤と同様、ビトリマーのエステル交換反応を阻害することによると示唆される。よってポリロタキサンは特有の環状分子が軸高分子上を並進拡散運動することによるエステル交換反応の促進および交換反応のためのエネルギーポテンシャルを低下する効果が発現したものと考えられる。
【0160】
実施例16 生分解試験
ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの生分解性について調べた。
神奈川県三浦市宮川海岸にて、海洋堆積物と、表面海水を採取した。100gの堆積物と600mlの海水とをガラス容器中で混合し、10秒間超音波照射し、堆積物をろ別し、抽出海水を得た。抽出海水中に1mm経程度に粉砕したポリマー試料を抽出海水中でインキュベートし、経時的な生物化学的酸素要求量(BOD)によるポリマー試料の生分解度(%)を生物化学的酸素要求量計(BOD計)を用いて測定した。海水温度は低温インキュベーターで管理し、約25℃であった。
【0161】
ポリマー試料は以下の通りとした。
試料1:エポキシビトリマーとポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(SH3400P)とを重量比90:10で複合した樹脂
試料2:エポキシビトリマーとポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(SH3400P)とを重量比80:20で複合した樹脂
試料3:エポキシビトリマー単一の樹脂
試料4:セルロース
【0162】
(結果)
図16に示すようにエポキシビトリマー単体(vitrimer)では、生分解度はほぼ0%で分解性を示さないことがわかる。しかし、ポリロタキサンを10%添加したエポキシビトリマー(vitrimer/PR10)において1週間で15%分解することがわかった。これは汎用的な生分解性プラスチックと同様の分解性であり、ポリロタキサン添加によりエポキシビトリマーに生分解性を付与することが明らかとなった。ポリロタキサンの構成成分であるシクロデキストリンやポリカプロラクトンは生分解性を持つため、餌として分解菌を誘引し、バイオフィルム形成に寄与するため分解菌濃度の低い海水においても分解性を付与することができると考えられている。しかし、ポリロタキサン添加率20%(vitrimer/PR20)の試料では添加率10%の試料に比べ生分解度が半分程度まで低下した。これはポリロタキサン添加率が一定以上となると、ポリロタキサンを分解する分解菌の増殖が支配的となり、ビトリマーマトリックスを分解する分解菌の増殖が抑制されたためと推察し、ポリロタキサン添加量には最適値があることがわかる。
【0163】
実施例17 形状記憶回復性
ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの形状記憶回復性について調べた。
1cm×4cmの平面視略長方形の平板状に成形した試料1及び試料2の試験片をそれぞれ準備した。次に、2つの試験片を各試料のガラス転移温度Tg以上で変形し、冷却しながら再成形することで図17(A)のように屈曲した形状にした。一般的に、ビトリマー材料は形状記憶性を示し、トポロジー凍結温度Tv以上で成形したときの形状が保たれる。ここでは、各試験片を150oCのホットプレート上に特定の接地面積で加熱した際に、成形時の平板状の初期形状から変形された試験片が、記憶されている初期形状に戻るまでの時間を測定することで、回復性の速度を調べた。
試料1:エポキシビトリマーとポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(SH3400P)とを重量比90:10で複合した樹脂(トポロジー凍結転移温度Tv 130℃)
試料2:エポキシビトリマー単一の樹脂 (トポロジー凍結転移温度Tv 147℃)
【0164】
(結果)
図17(B)に示すように、ポリロタキサンを10%添加したエポキシビトリマーの試験片(左)は1.5分で元の平板状の形状に回復した。さらに1.5分加熱し、エポキシビトリマーの試験片(右)は記憶形状に回復するまで3分要した。つまりポリロタキサン添加により、2倍速く形状回復することが示された。これは、ポリロタキサン添加によるエポキシビトリマーの分子運動性が高まることに起因する。
【0165】
実施例18 形状記憶書き換え
ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの形状記憶書き換えについて調べた。
0.5cm×8cmの平面視略長方形の平板状に成形した試料1及び試料2の試験片をそれぞれ準備した。次に、2つの試験片を、各試料のガラス転移温度Tg以上で変形し、冷却しながら再成形し、その後、形状回復がおこらないようテフロン(登録商標)テープで固定した。そしてトポロジー凍結転移温度Tv以上の200oCで5時間加熱し、形状記憶の書換操作を行った。その後、各試料をガラス転移温度Tg以上で加熱したときの記憶書換え後の形状保持度を観察した。
試料1:エポキシビトリマーとポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(SH3400P)とを重量比90:10で複合した樹脂(トポロジー凍結転移温度Tv 130℃)
試料2:エポキシビトリマー単一の樹脂 (トポロジー凍結転移温度Tv 147℃)
【0166】
(結果)
図18(A)に示すように、ポリロタキサンを10%添加したエポキシビトリマーの試験片は、初期には平板状に形状記憶されていた。試験片をガラス転移温度Tg以上で螺旋形状に変形し、ガラス転移温度Tg以下で冷却することで螺旋形状を保持した(図18(B))。螺旋状形状を保持した試験片をガラス転移温度Tg以上で加熱すると初期に形状記憶されていた平板状に形状回復した(図18(C))。次に螺旋状に再成形し(図18(D))、その後、形状回復がおこらないようテフロン(登録商標)テープで固定した状態でトポロジー凍結転移温度Tv以上の200oCで5時間加熱し、平板状から螺旋形状へ形状記憶の書換操作をした(図18(E))。この試験片をガラス転移温度Tg以上で平板状に変形し、ガラス転移温度Tg以下で冷却することで平板状を保持した(図18(F))。平板状を保持した試験片をガラス転移温度Tg以上で加熱すると、形状記憶書換え後の螺旋形状に戻る(図18(G))。これは、形状記憶の書換操作が成功したことを示す。
一方で、エポキシビトリマーの試験片では200℃、5時間の加熱では形状が記憶されず、250℃12時間以上の加熱で多少形状記憶の書換ができたが、高温での加熱により変色した。
ポリロタキサン添加により、トポロジー凍結温度Tvが低下し、より低温かつ最低限の試料の損傷で書換が可能となることが示唆された。
【0167】
実施例19 接着力の測定
ポリロタキサンを添加したエポキシビトリマーの溶接性について調べた。
0.5cm×8cmの平面視略長方形の平板状に成形した試験片を2枚4cm長同士を重ね合わせた状態で固定し、トポロジー凍結転移温度Tvより十分高い温度で加熱することで結合交換を伴う溶接により貼り合わせた。試料1及び試料2からなる試験片をそれぞれ準備した。ポリロタキサン添加エポキシビトリマー樹脂は200℃30分、比較用のエポキシビトリマー単一樹脂は250℃30分で溶接した。貼り合わせた試験片を1軸引張試験機を用いたラップシェア試験により強度測定を実施した。
試料1:エポキシビトリマーとポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(SH3400P)とを重量比90:10で複合した樹脂(トポロジー凍結転移温度Tv 130℃)
試料2:エポキシビトリマー単一の樹脂 (トポロジー凍結転移温度Tv 147℃)
【0168】
(結果)
試料1及び試料2のいずれの試験片も、試験片同士の界面間のエステル交換反応により溶接に成功した。試料2のビトリマー単一樹脂は200℃では十分に溶接できなかったが、250℃で溶接した。しかし、高温での加熱で試験片の変色が観察された。図19は、溶接した2枚の試料1の試験片の両端を1軸引張試験機で挟んだ状態を示す。試料2の溶接した試験片も同様に試験した。ラップシェア試験の結果を図20に示す。初期の傾きは接着面の硬さ、最大試験力が接着強度を意味する。ポリロタキサン添加により、トポロジー凍結温度Tvの低下が界面の熱劣化の抑制と活性の高い結合交換による接着強度の増加とをもたらすことが示唆された。
図1
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