(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168318
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法及び硫化物固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20231116BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079495
(22)【出願日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2022079597
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一郎
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
(57)【要約】
【課題】液相法を採用しながら、硫化物固体電解質を効率的に提供することである。
【解決手段】リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、特定のエーテル化合物とを混合して、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ること、前記電解質前駆体含有物から前記エーテル化合物を除去して、前記電解質前駆体の粉末を得ること、及び前記電解質前駆体の粉末を焼成すること、を含む硫化物固体電解質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、下記一般式(1)で表されるエーテル化合物とを混合して、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ること、
前記電解質前駆体含有物から前記エーテル化合物を除去して、前記電解質前駆体の粉末を得ること、及び
前記電解質前駆体の粉末を焼成すること、
を含む硫化物固体電解質の製造方法。
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項2】
前記R1及びR2が、互いに異なる脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記R2が、分岐鎖を有する脂肪族炭化水素である請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記R2が、第3級炭素原子又は第4級炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記電解質前駆体含有物を得ることにおける混合を、5分以上6時間以下で行う請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記エーテル化合物の除去を、減圧雰囲気下で、40℃以上75℃以下で行う請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記焼成を、75℃以上220℃以下で行う請求項1~6のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記焼成を、75℃以上140℃以下で行う第一焼成と、140℃超220℃以下で行う第二焼成と、により行う請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記第一焼成を、減圧雰囲気下で行う請求項8に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記原料含有物を微粒化することを含む請求項1~9のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記原料含有物が、硫化リチウム及び五硫化二リンを含む請求項1~10のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウムを含む請求項1~11のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項13】
前記ハロゲン化リチウムが、臭化リチウム及びヨウ化リチウムから選ばれる少なくとも一方を含む請求項12に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記原料含有物が、臭素及びヨウ素から選ばれる少なくとも一方のハロゲン単体を含む請求項1~13のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項15】
チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造する請求項1~14のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項16】
リチウム原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子及び下記一般式(1)で表されるエーテル化合物を含み、
前記エーテル化合物の含有量が、0.1質量%以上7.5質量%以下である、
硫化物固体電解質。
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項17】
チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する請求項16に記載の硫化物固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法及び硫化物固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質層に用いられる固体電解質の製造方法としては、固相法と液相法とに大別され、さらに液相法には、固体電解質材料を溶媒に完全に溶解させる均一法と、固体電解質材料を完全に溶解させず固液共存の懸濁液(スラリー)を経る不均一法とがある。例えば、液相法のうち、均一法としては、固体電解質を溶媒に溶解して再析出させる方法が知られ(例えば、特許文献1参照)、また不均一法としては、極性非プロトン性溶媒を含む溶媒中で硫化リチウム等の固体電解質原料を反応させる方法(例えば、特許文献2及び3、非特許文献1参照)、原料とアミノ基を有する特定の化合物とを混合することを含む固体電解質の製造方法(例えば、特許文献4参照)も知られている。
【0004】
さらに、原料の反応の際に使用する溶媒の種類に着目した不均一法の固体電解質の製造方法として、例えば原料組成物及びヘプタン等の非プロトン性有機溶媒の混合物にメカニカルミリングを行う製造方法(例えば、特許文献5参照)、テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の中で、アルカリ金属硫化物、硫黄化合物及びハロゲン化合物の原料とを、ミルを使用せずに接触させる製造方法(例えば、特許文献6参照)、またリチウム化合物、リン化合物及びハロゲン化合物の原料を、トルエン等の芳香族炭化水素及びジブチルエーテル等の鎖状エーテル等の溶媒中で反応させる製造方法(例えば、特許文献7参照)等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-191899号公報
【特許文献2】国際公開第2014/192309号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2018/054709号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2020/105737号パンフレット
【特許文献5】特開2014-127388号公報
【特許文献6】特開2014-225425号公報
【特許文献7】特開2017-100907号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“CHEMISTRY OF MATERIALS”、2017年、第29号、1830-1835頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、液相法を採用しながら、硫化物固体電解質を効率的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、下記一般式(1)で表されるエーテル化合物とを混合して、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ること、
前記電解質前駆体含有物から前記エーテル化合物を除去して、前記電解質前駆体の粉末を得ること、及び
前記電解質前駆体の粉末を焼成すること、
を含む硫化物固体電解質の製造方法、
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
である。
【0009】
また、本発明に係る硫化物固体電解質は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子及び下記一般式(1)で表されるエーテル化合物を含み、
前記エーテル化合物の含有量が、0.1質量%以上7.5質量%以下である、
硫化物固体電解質、
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液相法を採用しながら、硫化物固体電解質を効率的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
【
図2】比較例1で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
【
図3】参考例1の調製例1~4で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
【
図4】参考例1の調製例1~4で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
【
図5】参考例2の調製例5で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
【
図6】参考例3の固体電解質原料(硫化リチウム)のX線回折スペクトルである。
【
図7】参考例3の固体電解質原料(五硫化二リン)のX線回折スペクトルである。
【
図8】参考例3の固体電解質原料(臭化リチウム)のX線回折スペクトルである。
【
図9】参考例3の固体電解質原料(ヨウ化リチウム)のX線回折スペクトルである。
【
図10】実施例1及び2で得られた原料含有物の粉末のX線回折スペクトルである。
【
図11】実施例1及び2で得られた電解質前駆体のX線回折スペクトルである。
【
図12】実施例1及び2で得られた結晶性硫化物固体電解質のX線回折スペクトルである。
【
図13】比較例2で得られた粉末、非晶性硫化物固体電解質及び結晶性硫化物固体電解質のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。また、好ましいとされている規定は任意に採用することができる。即ち、好ましいとされている一の規定を、好ましいとされている他の一又は複数の規定と組み合わせて採用することができる。好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
【0013】
(本発明に至るために本発明者らが得た知見)
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
ところで、近年の全固体電池の実用化に向けて、汎用性及び応用性に加えて、固体原料同士を機械的なエネルギーを加えて反応させる固相法に比べて、エネルギーの消費量が小さく、また大型化による量産化に対応しやすい方法として、液相法が注目されるようになっている。
液相法では、上記のようなメリットがある一方、固体電解質を溶解させるため、析出時に固体電解質成分の一部の分解、欠損が生じる等の理由から、固相法と比較して高いイオン伝導度を実現することが難しいという問題がある。例えば、均一法では、原料及び固体電解質を一旦完全溶解させるため、液中に成分を均一に分散させることができる。しかし、その後の析出工程では、各成分に固有の溶解度に従って析出が進行するため、成分の分散状態を保持したまま析出させることが極めて困難であった。その結果、各成分が分離して析出してしまう。また均一法では、溶媒とリチウムとの親和性が強くなりすぎるため、析出後に乾燥しても溶媒が抜けにくい。これらのことから、均一法では、固体電解質のイオン伝導度が大幅に低下してしまうという問題がある。そして、固液共存の不均一法においても、固体電解質の一部が溶解するため、均一法と同様に、特定成分の溶出により分離が生じ、所望の固体電解質を得ることが難しい場合がある。
【0015】
このように、液相法において使用する溶媒の種類が、得られる固体電解質の性状に影響を及ぼし得ることから、特許文献4~7のように、アミノ基を有する特定の化合物、ヘプタン等の非プロトン性有機溶媒、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、トルエン等の芳香族炭化水素及びジブチルエーテル等の鎖状エーテル等の様々な溶媒に関する検討が進められている。
【0016】
特許文献4~7に開示される液相法による製造方法には、反応時間が長いというデメリットがある。
原料の反応時間について、例えば特許文献4に記載される製造方法では撹拌子入りシュレンク内で12~24時間の撹拌が行われおり、特許文献5に記載される製造方法では遊星型ボールミル機を用いて1時間処理及び15分休止のメカニカルミリングが40回行われている。また、特許文献6に記載される製造方法では撹拌機付きのフラスコ内で24時間の接触が行われており、特許文献7に記載される製造方法ではビーズミル装置を用いて48時間の運転が行われている。このように、液相法によると、反応には半日以上の時間を要しており、反応時間をより短くして、効率的に硫化物固体電解質を製造することが急務である。
【0017】
本発明者は、液相法のメリットをいかしつつ、デメリットを解消する方法の開発を進める中、液相法に用いる溶媒に着目した。上記特許文献4~7等において幾つかの溶媒の使用が提案されているが、近年の全固体電池の実用化に向けて、硫化物固体電解質の量産化が求められている中、使用できる溶媒の種類を増やすことは、硫化物固体電解質の安定的な供給の観点から、極めて重要でもある。
【0018】
液相法のメリットをいかしながら、よりイオン伝導度の高い硫化物固体電解質を得ることを考慮すると、特許文献4~7に記載される製造方法で用いられる、窒素原子、酸素原子等のヘテロ原子を含む溶媒は、有効な選択肢となり得る。ヘテロ原子を含む溶媒は、固体電解質原料に含まれるハロゲン原子をより多く固体電解質に分散させることができるからである。他方、このようなヘテロ原子を含む溶媒は、特許文献4~7等の記載によれば、反応時間が長くなる傾向にあり、一長一短がある。
【0019】
以上の知見に基づき、本発明者は、溶媒として窒素原子、酸素原子等のヘテロ原子を含む溶媒に絞り、鋭意研究を進めたところ、特定の構成を有する溶媒を用いることで、液相法を採用しながら、硫化物固体電解質を効率的に製造することができることを見出すに至った。
【0020】
(本実施形態の各種形態について)
本実施形態の第一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、下記一般式(1)で表されるエーテル化合物とを混合して、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ること、
前記電解質前駆体含有物から前記エーテル化合物を除去して、前記電解質前駆体の粉末を得ること、及び
前記電解質前駆体の粉末を焼成すること、
を含む硫化物固体電解質の製造方法、
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
である。
【0021】
上記特許文献4~7に記載される、従来の液相法による製造方法では、液相法に用いられる溶媒と固体電解質原料との反応に、12時間~48時間と極めて長い時間を要していた。さらに、溶媒と固体電解質原料との反応による反応物及び溶媒等を含む流体を乾燥させて反応物の粉体を得て、これを加熱処理するという工程を経る必要があった。
これに対して、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法によれば、上記一般式(1)で表される特定のエーテル化合物を用いて、当該特定のエーテル化合物と、固体電解質原料とにより構成される電解質前駆体の粉末を含む含有物を得さえすれば、当該エーテル化合物を除去して得られる電解質前駆体の粉末を焼成するだけで、硫化物固体電解質が得られる。
【0022】
後述する実施例でも説明するが、原料含有物と特定のエーテル化合物とを混合すると、1時間程度の混合を行うだけで、電解質前駆体が得られる。電解質前駆体は、本実施形態の硫化物固体電解質の前駆体であり、特定のエーテル化合物を除去することにより硫化物固体電解質となり得るもののことである。
電解質前駆体は、原料含有物に含まれる固体電解質原料、さらには固体電解質原料同士の反応による反応物と特定のエーテル化合物とにより形成される錯体であると考えられる。このことは、電解質前駆体の粉末を焼成することにより硫化物固体電解質が得られる、すなわち電解質前駆体の粉末から特定のエーテル化合物を除去することで硫化物固体電解質が得られること、またX線回折測定(XRD測定)により測定されるX線回折パターンに、原料由来のピークとは異なり、かつ硫化物固体電解質由来のピークとも異なるピークが観測されること、からも分かることである。また、この点については、実施例1及び参考例3(
図1及び
図6~9)の結果からも具体的に確認されている。
【0023】
さらに、一の固体電解質原料と特定のエーテル化合物とを混合して得られる錯体と、複数種の固体電解質原料と特定のエーテル化合物とを混合して得られる錯体とでは、異なるピークを有することも、実施例1、参考例1及び2(
図1、
図3及び
図4)の結果から確認されている。よって、特定のエーテル化合物は、複数種の固体電解質原料と錯体を極めて速やかに形成し得るという特性を有することが分かる。
また、電解質前駆体の粉末を焼成するだけで、硫化物固体電解質が得られていることを考慮すると、電解質前駆体における固体電解質原料は、互いに分子レベルで接触する程度に存在しているものと考えられる。よって、特定のエーテル化合物は、錯体において、複数種の固体電解質原料同士が分子レベルで接触する程度に存在させ得るという特性を有するものであるとも考えられる。
【0024】
固体電解質原料と1時間程度の混合を行うだけで、電解質前駆体が生じること、得られた電解質前駆体の粉末を焼成するだけで硫化物固体電解質が得られるという現象は、例えば上記特許文献4~7に記載される方法において用いられる溶媒では確認できない、特異な現象である。この特異な現象は、特定のエーテル化合物が有する、上記特性によるものであると考えられる。
かくして、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、特定の構成を有する溶媒を用いることで、液相法を採用しながら、硫化物固体電解質を効率的に製造することを可能としたのである。
【0025】
本実施形態の第二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一の形態において、
前記R1及びR2が、互いに異なる脂肪族炭化水素基である、
というものである。
【0026】
エーテル化合物が有する脂肪族炭化水素基が互いに異なるものであることで、エーテル化合物の上記特性、すなわち複数種の固体電解質原料と錯体を極めて速やかに形成し、かつ複数種の固体電解質原料同士が分子レベルで接触する程度に存在させ得るという特性が得られやすくなる。その結果、より効率的に硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
【0027】
本実施形態の第三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一又は第二の形態において、
前記R2が、分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基である、
というものである。
【0028】
前記R1は、炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であることから、直鎖の脂肪族炭化水素基となるが、R2として、R1とは異なり分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基を有することで、エーテル化合物の上記特性が得られやすくなる。また、分岐鎖を有することから、R2の炭素数は実質的に3以上となり、R1とより異なる炭化水素基となる。その理由は不明ではあるが、R1及びR2は互いに異なるものであればあるほど、エーテル化合物の上記特性は得られやすくなる。そしてその結果、より効率的に硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
【0029】
本実施形態の第四の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第三のいずれか一の形態において、
前記R2が、第3級炭素原子又は第4級炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である、
というものである。
【0030】
R2の分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基の中でも、例えばtert-ブチル基のように、第3級炭素原子を有する脂肪族炭化水素基であると、R1及びR2は更に互いに異なるものとなるため、エーテル化合物の上記特性は得られやすくなる。また、前記R2が第4級炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である場合も同様である。そしてその結果、より効率的に硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
【0031】
本実施形態の第五の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第四のいずれか一の形態において、
前記電解質前駆体含有物を得ることにおける混合を、5分以上6時間以下で行う、
というものである。
【0032】
従来の液相法による硫化物固体電解質の製造方法、例えば上記特許文献4~7に記載される製造方法では、固体電解質原料と溶媒との反応には、12~48時間と、長時間を要していた。しかし、本実施形態の製造方法によれば、特定のエーテル化合物を用いることで、5分以上6時間以下という短時間で、電解質前駆体を得ることが可能となる。
【0033】
本実施形態の第六の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第五のいずれか一の形態において、
前記エーテル化合物の除去を、減圧雰囲気下で、40℃以上75℃未満で行う、
というものである。
【0034】
エーテル化合物の除去の条件を規定したものである。上記条件でエーテル化合物の除去を行うことにより、より確実かつ効率的にエーテル化合物を除去して電解質前駆体の粉末が得られる。そのため、残存するエーテル化合物に起因する不純物の生成がより抑制された、より品質の高い硫化物固体電解質をより効率的に製造することができる。
【0035】
本実施形態の第七の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第六のいずれか一の形態において、
前記焼成を、75℃以上220℃以下で行う、
というものである。
【0036】
焼成の条件を規定したものである。上記条件で焼成を行うことにより、より確実かつ効率的にエーテル化合物を除去できる。そのため、効率的に残存するエーテル化合物に起因する不純物の生成がより抑制された、より品質の高い硫化物固体電解質を製造することができる。
【0037】
本実施形態の第八の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第七のいずれか一の形態において、
前記焼成を、75℃以上140℃以下で行う第一焼成と、140℃超220℃以下で行う第二焼成と、により行う、
というものである。
【0038】
焼成の条件を規定したものである。二段階にわけて焼成を行うことにより上記第七の形態による焼成に比べて、更に確実かつ効率的にエーテル化合物を除去できる。また、本実施形態の製造方法において、焼成の対象は電解質前駆体の粉末であるが、その前段階となる電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ることにおいて未反応の固体電解質原料が残存する場合がある。このような場合、特に第一焼成において未反応の固体電解質原料(例えば、硫化リチウム及び五硫化二リン)の反応が、電解質前駆体の焼成によるエーテル化合物の除去とともに進行する。そのため、未反応の固体電解質原料も、硫化物固体電解質の製造に寄与することとなるので、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
よって、効率的に残存するエーテル化合物に起因する不純物の生成が更に抑制された、更に品質の高い硫化物固体電解質を製造することができる。
【0039】
本実施形態の第九の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第八の形態において、
前記第一焼成を、減圧雰囲気下で行う、
というものである。
【0040】
第一焼成の条件を規定したものである。減圧雰囲気下で第一焼成を行うことで、より低い温度で電解質前駆体からエーテル化合物を除去して硫化物固体電解質とすることができ、効率的に残存するエーテル化合物に起因する不純物の生成がより抑制された、より品質の高い硫化物固体電解質を製造することができる。
【0041】
本実施形態の第十の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第九のいずれか一の形態において、
前記原料含有物を微粒化することを含む、
というものである。
【0042】
原料含有物に含まれる固体電解質原料を微粒化することで、特定のエーテル化合物との錯体の形成が促進され、また錯体における固体電解質原料の分子レベルでの距離をより近くすることができる。そのため、電解質前駆体の粉末の焼成による硫化物固体電解質が得られやすくなり、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
【0043】
本実施形態の第十一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十のいずれか一の形態において、
前記原料含有物が、硫化リチウム及び五硫化二リンを含む、
というものである。
【0044】
固体電解質原料として、硫化リチウム及び五硫化二リンを含むものを用いることで、高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質が得られやすくなる。また、硫化リチウム及び五硫化二リンを固体電解質原料として用いると、特定のエーテル化合物と錯体が形成しやすいため、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
【0045】
本実施形態の第十二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十一のいずれか一の形態において、
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウムを含む、
というものであり、本実施形態の第十三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第十二の形態において、
前記ハロゲン化リチウムが、臭化リチウム及びヨウ化リチウムから選ばれる少なくとも一方を含む、というものである。また、本実施形態の第十四の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十三のいずれか一の形態において、
前記原料含有物が、臭素及びヨウ素から選ばれる少なくとも一方のハロゲン単体を含む、
というものである。
【0046】
固体電解質原料としてハロゲン原子を含む化合物を用いることにより、得られる硫化物固体電解質はハロゲン原子を含むものとなるため、更なるイオン伝導度の向上が期待される。また、ハロゲン原子とともに、イオン伝導度の発現により有効であるリチウム原子を供給することができるので、イオン伝導度を向上させることが可能となる。
さらに、ハロゲン化リチウムは、取扱いが容易であり、ハロゲン原子を供給しやすいことから、固体電解質原料として好適である。また、ハロゲン原子の中でも、イオン伝導度を向上させる観点から、臭素原子、ヨウ素原子は特に好適である。
【0047】
また、上記ハロゲン原子を供給し得る固体電解質原料として、臭素、ヨウ素といったハロゲン単体も好ましく用いられる。これらのハロゲン単体を用いる場合であって、例えば固体電解質原料として硫化リチウムを用いる場合、これらが反応することで、臭化リチウム、ヨウ化リチウムといったハロゲン化リチウムが生成し、原料含有物に含まれ得る。
【0048】
本実施形態の第十五の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十四のいずれか一の形態において、
チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造する、
というものである。
【0049】
本実施形態の製造方法によれば、原料含有物に含まれる固体電解質原料の種類及び配合比をかえることで、所望の硫化物固体電解質を製造することが可能である。チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が極めて高い硫化物固体電解質として知られており、本実施形態の製造方法により得ようとする硫化物固体電解質として好ましいものである。
【0050】
本実施形態の第十六の形態に係る硫化物固体電解質は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子及び下記一般式(1)で表されるエーテル化合物を含み、
前記エーテル化合物の含有量が、0.1質量%以上7.5質量%以下である、
硫化物固体電解質、
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
というものである。
【0051】
本実施形態の硫化物固体電解質は、上記本実施形態の製造方法により容易に製造することができるものであり、上記本実施形態の製造方法において用いられる特定のエーテル化合物を含むものである。すなわち、本実施形態の硫化物固体電解質は、効率的に製造し得るものであるため、容易にリチウムイオン電池への適用が可能となる。
【0052】
本実施形態の第十七の形態に係る硫化物固体電解質は、上記第十六の態様において、
チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、
というものである。
既述のように、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が極めて高い硫化物固体電解質として知られており、硫化物固体電解質として好ましいものである。
【0053】
(固体電解質)
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態における固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質である。
【0054】
「固体電解質」には、非晶性固体電解質と、結晶性固体電解質と、の両方が含まれる。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよい。したがって、結晶性固体電解質には、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、材料由来のピーク以外のピークが実質的に観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。
【0055】
[硫化物固体電解質の製造方法]
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、下記一般式(1)で表されるエーテル化合物とを混合して、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ること、
前記電解質前駆体含有物から前記エーテル化合物を除去して、前記電解質前駆体の粉末を得ること、及び
前記電解質前駆体の粉末を焼成すること、
を含む硫化物固体電解質の製造方法、
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
である。
【0056】
〔電解質前駆体含有物を得ること〕
本実施形態の製造方法は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、下記一般式(1)で表されるエーテル化合物とを混合して、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物を得ること、を含む。
本実施形態の製造方法について、まず原料含有物から説明する。
【0057】
(原料含有物)
本実施形態で用いられる原料含有物は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含むものであり、より具体的にはこれらの原子からなる群より選ばれる1種以上を含む化合物(固体電解質原料)を含む含有物である。本実施形態で用いられる原料含有物は、固体電解質原料を2種以上含有するものであることが好ましい。
【0058】
原料含有物に含まれる固体電解質原料としては、例えば硫化リチウム;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;三硫化二リン(P2S3)、五硫化二リン(P2S5)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF3、PF5)、各種塩化リン(PCl3、PCl5、P2Cl4)、各種臭化リン(PBr3、PBr5)、各種ヨウ化リン(PI3、P2I4)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF3)、塩化チオホスホリル(PSCl3)、臭化チオホスホリル(PSBr3)、ヨウ化チオホスホリル(PSI3)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSCl2F)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBr2F)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子から選ばれる少なくとも二種の原子からなる原料、フッ素(F2)、塩素(Cl2)、臭素(Br2)、ヨウ素(I2)等のハロゲン単体、好ましくは臭素(Br2)、ヨウ素(I2)が代表的に挙げられる。
【0059】
上記以外の固体電解質原料として用い得るものとしては、例えば、上記四種の原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ該四種の原子以外の原子を含む固体電解質原料、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS2)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム等のリチウム以外のアルカリ金属のハロゲン化物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl3)、オキシ臭化リン(POBr3)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0060】
上記の中でも、硫化リチウム、三硫化二リン(P2S3)、五硫化二リン(P2S5)等の硫化リン、フッ素(F2)、塩素(Cl2)、臭素(Br2)、ヨウ素(I2)等のハロゲン単体、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムが好ましい。また、酸素原子を固体電解質に導入する場合、酸化リチウム、水酸化リチウム及びリン酸リチウム等のリン酸化合物が好ましい。固体電解質原料の組み合わせとしては、例えば、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組み合わせ、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン単体の組み合わせが好ましく挙げられ、ハロゲン化リチウムとしては臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、ハロゲン単体としては臭素及びヨウ素が好ましい。
【0061】
ハロゲン単体を用いる場合であって、例えば固体電解質原料として硫化リチウムのようにハロゲン単体と反応し得るものを用いる場合、これらが反応した反応物が原料含有物に含まれ得る。例えば、ハロゲン単体として液体の臭素を用いる場合、他の固体電解質原料と反応しやすいため、例えば硫化リチウムと反応して生成する臭化リチウム、副生する硫黄が含まれ得る。また、ハロゲン単体としてヨウ素を用いる場合、臭素と同様にヨウ化リチウム、硫黄が含まれ得る。
硫黄については、このように副生する場合に限らず、硫黄を固体電解質原料として用いることも可能である。
【0062】
本実施形態においては、PS4構造を含むLi3PS4を原料の一部として用いることもできる。具体的には、先にLi3PS4を製造する等して用意し、これを原料として使用する。PS4構造は、本実施形態の製造方法において好ましく得られるチオリシコンリージョンII型結晶構造を構成するものである。そのため、予めPS4構造を有するものを固体電解質原料として用いることにより、より効率的にチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造することができる。
原料の合計に対するLi3PS4の含有量は、60~100mol%が好ましく、65~90mol%がより好ましく、70~80mol%が更に好ましい
【0063】
また、Li3PS4とハロゲン単体とを用いる場合、Li3PS4に対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、10~40mol%がより好ましく、20~30mol%が更に好ましく、22~28mol%が更により好ましい。
【0064】
本実施形態で用いられる硫化リチウムは、粒子であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、通常0.1μm以上1000μm以下とすればよく、好ましくは0.5μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下である。上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。また、後述するが、固体電解質原料を微粒化して用いてもよい。
本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。
【0065】
固体電解質原料として、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高い化学的安定性及びより高いイオン伝導度を得る観点から、70~80mol%が好ましく、72~78mol%がより好ましく、74~78mol%が更に好ましい。
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム及び必要に応じて用いられる他の固体電解質原料を用いる場合、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、60~100mol%が好ましく、65~90mol%がより好ましく、70~80mol%が更に好ましい。
また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウムとヨウ化リチウムとを組み合わせて用いる場合、イオン伝導度を向上させる観点から、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99mol%が好ましく、20~90mol%がより好ましく、40~80mol%が更に好ましく、50~70mol%が特に好ましい。
【0066】
固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合であって、硫化リチウム、五硫化二リンを用いる場合、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムを除いた硫化リチウム及び五硫化二リンの合計モル数に対する、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムとを除いた硫化リチウムのモル数の割合は、60~90%の範囲内であることが好ましく、65~85%の範囲内であることがより好ましく、68~82%の範囲内であることが更に好ましく、72~78%の範囲内であることが更により好ましく、73~77%の範囲内であることが特に好ましい。これらの割合であれば、より高いイオン伝導度が得られるからである。
また、これと同様の観点から、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とを用いる場合、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体との合計量に対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、2~40mol%がより好ましく、3~25mol%が更に好ましく、3~15mol%が更により好ましい。
【0067】
硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とハロゲン化リチウムとを用いる場合には、これらの合計量に対するハロゲン単体の含有量(αmol%)、及びハロゲン化リチウムの含有量(βmol%)は、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましく、下記式(4)を満たすことが更に好ましく、下記式(5)を満たすことが更により好ましい。
2≦2α+β≦100…(2)
4≦2α+β≦80 …(3)
6≦2α+β≦50 …(4)
6≦2α+β≦30 …(5)
【0068】
二種のハロゲンを単体として用いる場合には、一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA1とし、もう一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA2とすると、A1:A2が1~99:99~1が好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~70:30が更により好ましい。
【0069】
また、二種のハロゲン単体が、臭素とヨウ素である場合、臭素のモル数をB1とし、ヨウ素のモル数をB2とすると、B1:B2が1~99:99~1が好ましく、15:85~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~75:25が更により好ましく、35:65~75:25が特に好ましい。
【0070】
(原料含有物を微粒化すること)
本実施形態の製造方法は、原料含有物を微粒化することを含んでもよい。電解質前駆体含有物を得ることにおいて用いられる原料含有物として、微粒化した固体電解質原料を用いることで、エーテル化合物との錯体の形成が促進され、また錯体における固体電解質原料の分子レベルでの距離をより近くすることができる。そのため、電解質前駆体の粉末の焼成による硫化物固体電解質が得られやすくなり、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
【0071】
固体電解質原料の微粒化は、粉砕機を用いて行うと容易であり、複数の固体電解質原料を用いる場合は、別々に微粒化してもよいし、複数の固体電解質原料を同時に微粒化してもよい。
複数の固体電解質原料を同時に微粒化する場合、既述のように、複数の固体電解質原料同士が反応する場合があるが、当該反応が生じてもよい。例えば固体電解質原料として硫化リチウムと、臭素及びヨウ素等のハロゲン単体とを用いる場合、これらが反応して臭化リチウム、ヨウ化リチウム及び硫黄が生成することがあるが、これによって効率が低下するといった事象が生じることはない。
【0072】
粉砕機としては、固体電解質原料の微粒化ができれば特に制限なく使用することができ、例えば湿式粉砕機、乾式粉砕機が挙げられる。
湿式粉砕機としては、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、湿式振動ミル等が代表的に挙げられ、粉砕操作の条件を自由に調整でき、より小さい粒径のものに対応しやすい点で、ビーズを粉砕メディアとして用いる湿式ビーズミルが好ましい。また、乾式ビーズミル、乾式ボールミル、乾式振動ミル等の乾式媒体式粉砕機、ジェットミル等の乾式非媒体粉砕機等の乾式粉砕機を用いることもできる。
【0073】
微粒化することにより得られる固体電解質原料の平均粒径(D50)は、所望に応じて適宜決定されるものであるが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、更に好ましくは0.05μm以上であり、上限として好ましくは50μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下である。このような平均粒径とすることで、錯体の形成が促進され、錯体における固体電解質原料の分子レベルでの距離をより近くすることができる。そのため、電解質前駆体の粉末の焼成による硫化物固体電解質が得られやすくなり、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
【0074】
(エーテル化合物)
本実施形態の製造方法において用いられるエーテル化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
【0075】
このような特定のエーテル化合物は、複数種の固体電解質原料と錯体を極めて速やかに形成し、かつ複数種の固体電解質原料同士が分子レベルで接触する程度に存在させ得るという特性を有するものである。そのため、特定のエーテル化合物を用いることで、より効率的に硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
【0076】
R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素であり、脂肪族炭化水素としては、炭素数1の場合はアルキル基、炭素数2の場合はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基が好ましい。R1が上記の基であると、上記エーテル化合物が有する特性が向上し、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
これと同様の観点から、R1の炭素数は、1であることが好ましい。すなわち、R1としては、炭素数1のアルキル基であるメチル基が好ましい。
【0077】
R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、炭素数1の場合はアルキル基、炭素数2~6の場合はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基が好ましい。R1が上記の基であると、上記エーテル化合物が有する特性が向上し、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
【0078】
R2の炭素数としては、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、上限として好ましくは5以下であり、特に好ましくは4である。R2の炭素数が上記範囲内であると、上記エーテル化合物が有する特性が向上し、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。
【0079】
これと同様の観点から、R2の脂肪族炭化水素は分岐鎖を有することが好ましい(炭素数3~6の脂肪族炭化水素である場合である。)。また分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基の中でも、第3級炭素原子又は第4級炭素原子を有する脂肪族炭化水素基(炭素数4~6の脂肪族炭化水素である場合である。)であることが好ましく、特に第3級炭素原子を有する脂肪族炭化水素基(炭素数4~6の脂肪族炭化水素である場合である。)が好ましい。第3級炭素原子を有するR2の脂肪族炭化水素としては、例えばtert-ブチル基(1,1-ジメチルエチル基)、1,1-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基等が挙げられ、また第4級炭素原子を有するR2の脂肪族炭化水素としては、例えば2,2-ジメチルプロピル基、1-メチル-2,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基等が挙げられる。
【0080】
R1及びR2は、互いに異なる脂肪族炭化水素基であることが好ましい。上記エーテル化合物が有する特性が向上し、より効率的に硫化物固体電解質を製造することができる。例えば、R2が炭素数1の脂肪族炭化水素基(すなわち、メチル基)である場合は、R1は炭素数1の脂肪族炭化水素(すなわち、メチル基)であってもよいが、2の脂肪族炭化水素基(すなわち、エチル基、エテニル基(ビニル基)、又はメチニル基)となることが好ましい。
【0081】
本実施形態の製造方法において用いられるエーテル化合物におけるR1、R2の具体的な組み合わせとしては、R1が炭素数1の脂肪族炭化水素基(メチル基)であり、R2が炭素数3~6の分岐鎖を有する脂肪族炭化水素基である;R1が炭素数1の脂肪族炭化水素基(メチル基)であり、R2が炭素数3~6の分岐鎖を有するアルキル基である;R1が炭素数1の脂肪族炭化水素基(メチル基)であり、R2が炭素数4~6の第3級炭素原子を有するアルキル基である;R1が炭素数1の脂肪族炭化水素基(メチル基)であり、R2が炭素数4の分岐鎖を有するアルキル基である;特にR1が炭素数1の脂肪族炭化水素基(メチル基)であり、R2が炭素数4の第3級炭素原子を有するアルキル基(tert-ブチル基)である、すなわちメチルtert-ブチルエーテル;が好ましく挙げられる。
【0082】
エーテル化合物の使用量は、錯体を効率的に形成させる観点から、原料含有物に含まれるリチウム原子の合計モル量に対する、エーテル化合物の添加量のモル比が、好ましくは0.1以上150以下であり、より好ましくは10以上130以下であり、更に好ましくは20以上100以下である。また、このような使用量とすることで、他の溶媒を用いることなく、エーテル化合物だけで混合しやすくなる。
これと同様の観点から、原料含有物全量の1.0gに対するエーテル化合物の使用量は、好ましくは10mL以上200mL以下、より好ましくは30mL以上160mL以下、更に好ましくは50mL以上100mL以下である。
【0083】
(混合)
本実施形態の製造方法においては、上記の固体電解質原料と、エーテル化合物とを混合する。混合することにより、電解質前駆体の粉末を含む電解質前駆体含有物が得られる。
本実施形態において、固体電解質原料及びエーテル化合物を混合する形態は固体状、液状のいずれであってもよいが、固体電解質原料は固体を含んでおり、エーテル化合物は液状であるため、通常液状のエーテル化合物中に固体の固体電解質原料が存在する形態で混合する。また、固体電解質原料とエーテル化合物とを混合する際、必要に応じてさらに溶媒を混合してもよい。以下、固体電解質原料及びエーテル化合物の混合について説明する箇所においては、特に断りが無い場合、エーテル化合物には、必要に応じて添加する溶媒も含まれるものとする。
【0084】
固体電解質原料とエーテル化合物とを混合する方法に特段の制限はなく、固体電解質原料及びエーテル化合物を混合できる装置に、固体電解質原料及びエーテル化合物を投入して混合すればよい。例えば、エーテル化合物を槽内に供給し、撹拌翼を作動させた後に、固体電解質原料を徐々に加えていくと、固体電解質原料の良好な混合状態が得られ、分散性が向上するため、好ましい。
ただし、固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合、固体電解質原料が固体ではない場合があり、具体的には常温常圧下において、フッ素及び塩素は気体、臭素は液体となる。このような場合、例えば固体電解質原料が液体の場合は、他の固体の固体電解質原料とは別にエーテル化合物とともに槽内に供給すればよく、また固体電解質原料が気体の場合は、エーテル化合物に固体の固体電解質原料を加えたものに吹き込むように供給すればよい。
【0085】
本実施形態の製造方法は、固体電解質原料とエーテル化合物とを混合することを含むことを特徴とする。すなわち、固体電解質原料とエーテル化合物とは混合すれば足り、粉砕までは要しないから、ボールミル、ビーズミル等の媒体式粉砕機等の、一般に粉砕機と称される固体電解質原料の粉砕を目的として用いられる機器を用いない方法でも製造できる。本実施形態の製造方法では、固体電解質原料とエーテル化合物とを単に混合するだけで、原料含有物に含まれる固体電解質原料とエーテル化合物とが混合され、錯体、すなわち電解質前駆体が形成し得る。なお、錯体を得るための混合時間を短縮したり、微粉化したりするために、固体電解質原料とエーテル化合物との混合物を粉砕機によって粉砕してもよいが、既述のように粉砕機は用いないことが好ましい。
【0086】
固体電解質原料とエーテル化合物とを混合する装置としては、例えば槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、固体電解質原料と錯化剤との混合物中の固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、高速撹拌型混合機が好ましく用いられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
【0087】
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、アンカー型、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型等が好ましい。また、機械撹拌式混合機においては攪拌対象を混合機外部に排出してから再び混合機内部に戻す循環ラインを設置することが好ましい。これにより、例えば固体電解質原料として好ましく用いられるハロゲン化リチウム等の比重が重いものが、沈降、また滞留することなく撹拌され、より均一な混合が可能となる。
【0088】
循環ラインの設置個所は特に限定されないが、混合機の底から排出して混合機の上部に戻すような箇所に設置されることが好ましい。こうすることで、沈降しやすい固体電解質原料を循環による対流に乗せて均一に撹拌しやすくなる。さらに、戻り口が撹拌対象の液面下に位置していることが好ましい。こうすることで、撹拌対象が液跳ねして混合機内部の壁面に付着することを抑制することができる。
【0089】
固体電解質原料とエーテル化合物とを混合する際の混合時間、すなわち電解質前駆体含有物を得ることにおける混合を行う時間は、錯体が形成できれば特に制限はなく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは30分以上、より更に好ましくは45分以上であり、上限として好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下、より更に好ましくは1.5時間以下である。本実施形態の製造方法では、特定のエーテル化合物を用いることから、従来の液相法のように12~48時間程度という長い時間を要することなく、極めて短時間の混合で足りる。
【0090】
固体電解質原料とエーテル化合物とを混合する際の温度条件としては、錯体が形成できれば特に制限はなく、例えば-30~100℃、好ましくは-10~50℃、より好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃程度)である。
【0091】
固体電解質原料とエーテル化合物とを混合することで、上記の固体電解質原料等とエーテル化合物とによる錯体(電解質前駆体)が形成する。錯体(電解質前駆体)は、より具体的には、固体電解質原料に含まれるリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子とエーテル化合物との作用により、これらの原子がエーテル化合物を介して及び/又は介さずに直接互いに結合したものと考えられる。すなわち、本実施形態の製造方法において、固体電解質原料とエーテル化合物とを混合して得られる錯体(電解質前駆体)は、エーテル化合物、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子により構成されるものともいえる。また、既述のように、固体電解質原料等とエーテル化合物とによる錯体(電解質前駆体)は、固体電解質原料がそのままの形で、互いに分子レベルで接触するように存在しながら形成しているものと考えられる。
【0092】
本実施形態の製造方法において、上記混合により得られる電解質前駆体(錯体)は、液体であるエーテル化合物に対して完全に溶解するものではなく、通常、固体であるため、エーテル化合物及び必要に応じて添加される溶媒中に電解質前駆体(錯体)の粉末が懸濁した懸濁液が得られる。すなわち、本実施形態の製造方法において、上記混合により得られる電解質前駆体含有物は、電解質前駆体(錯体)の粉末及びエーテル化合物、また必要に応じて添加される溶媒を含む含有物であるといえる。
したがって、本実施形態の製造方法は、いわゆる液相法における不均一系に相当する。
【0093】
(溶媒)
本実施形態の製造方法において、固体電解質原料及びエーテル化合物を混合する際、さらに溶媒を加えてもよい。
液体であるエーテル化合物中において固体である電解質前駆体(錯体)の粉末が形成される際、電解質前駆体(錯体)の粉末がエーテル化合物に溶解しやすいものであると、成分の分離が生じる場合がある。そこで、電解質前駆体(錯体)が溶解しない溶媒を使用することで、電解質前駆体中の成分の溶出を抑えることができる。また、溶媒を用いて固体電解質原料及びエーテル化合物を混合することで、電解質前駆体(錯体)形成が促進され、各主成分をより満遍なく存在させることができ、固体電解質原料の分散状態、とりわけハロゲン原子の分散状態が均一に保たれた電解質前駆体が得られるので、結果として高いイオン伝導度が得られるという効果が発揮されやすくなる。
【0094】
本実施形態の固体電解質の製造方法は、いわゆる不均一法であり、電解質前駆体(錯体)は、液体であるエーテル化合物に対して完全に溶解せず析出することが好ましい。溶媒を加えることによって電解質前駆体(錯体)の溶解性を調整することができる。特にハロゲン原子は電解質前駆体(錯体)から溶出しやすいため、溶媒を加えることによってハロゲン原子の溶出を抑えて所望の電解質前駆体(錯体)が得られる。その結果、固体電解質原料、とりわけハロゲン原子を含む固体電解質原料等の成分が均一に分散した電解質前駆体を経て、高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質が得られやすくなる。
【0095】
このような性状を有する溶媒としては、溶解度パラメータが10以下の溶媒が好ましく挙げられる。本明細書において、溶解度パラメータは、各種文献、例えば「化学便覧」(平成16年発行、改定5版、丸善株式会社)等に記載されており、以下の数式(1)により算出される値δ((cal/cm3)1/2)であり、ヒルデブランドパラメータ、SP値とも称される。
【0096】
【数1】
(数式(1)中、ΔHはモル発熱であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、Vはモル体積である。)
【0097】
溶解度パラメータが10以下の溶媒を用いることにより、上記の錯化剤に比べて相対的に固体電解質原料、中でもハロゲン原子、ハロゲン化リチウム等のハロゲン原子を含む原料、更には錯体を構成するハロゲン原子を含む成分(例えば、ハロゲン化リチウムと錯化剤とが結合した集合体)等が溶解しにくい状態とすることができる。そのため、錯体中において特にハロゲン原子を定着させやすくなり、得られる電解質前駆体、更には固体電解質中に良好な分散状態でハロゲン原子が存在することとなり、高いイオン伝導度を有する固体電解質が得られやすくなる。すなわち、本実施形態で用いられる溶媒は、錯体が溶解しない性質を有することが好ましい。これと同様の観点から、溶媒の溶解度パラメータは、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.5以下である。
【0098】
本実施形態で用いられる溶媒としては、より具体的には、固体電解質の製造において従来用いられてきた溶媒を広く採用することが可能であり、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;等が挙げられ、これらの中から、好ましくは溶解度パラメータが上記範囲であるものから、適宜選択して用いればよい。
【0099】
より具体的には、ヘキサン(7.3)、ペンタン(7.0)、2-エチルヘキサン、ヘプタン(7.4)、オクタン(7.5)、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン(8.2)、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン(8.8)、キシレン(8.8)、メシチレン、エチルベンゼン(8.8)、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン(9.5)、クロロトルエン(8.8)、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;等が挙げられる。なお、上記例示における括弧内の数値はSP値である。
また、上記例示はあくまで一例であり、例えば異性体を有するものは全ての異性体も含み得る。また、ハロゲン原子で置換されたもの、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒であれば、例えばアルキル基等の脂肪族基等で置換されたもの等も含み得る。
【0100】
これらの溶媒の中でも、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましく、より安定して高いイオン伝導度を得る観点から、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼンが好ましい。本実施形態で用いられる溶媒は、好ましくは上記例示した有機溶媒であり、上記の錯化剤と異なる有機溶媒である。本実施形態においては、これらの溶媒を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
〔電解質前駆体の粉末を得ること〕
本実施形態の製造方法は、上記の混合により得られた電解質前駆体含有物から前記エーテル化合物を除去して、前記電解質前駆体の粉末を得ること、を含む。電解質前駆体含有物には、電解質前駆体の粉末の他、エーテル化合物、必要に応じて用いられる溶媒等が含まれている。エーテル化合物を除去することで、必要に応じて用いられる溶媒も除去することができ、電解質前駆体の粉末が得られる。
【0102】
電解質前駆体含有物からエーテル化合物を除去する方法としては、ガラスフィルター等を用いたろ過、デカンテーションによる固液分離、また遠心分離機等を用いた固液分離が挙げられる。固液分離は、具体的には、前記懸濁液を容器に移し、固体が沈殿した後に、上澄みとなる錯化剤及び必要に応じて添加される溶媒を除去するデカンテーション、また例えばポアサイズが10~200μm程度、好ましくは20~150μmのガラスフィルターを用いたろ過が容易である。
【0103】
また、乾燥機等を用いて、加熱により乾燥することもできる。より低温で乾燥する観点から、真空ポンプ等を用いて減圧雰囲気下、さらには真空雰囲気下で乾燥することが好ましい。
乾燥のための温度条件としては、エーテル化合物、溶媒の沸点以上の温度で行えばよい。使用するエーテル化合物、溶媒の種類、また減圧雰囲気下とするか否かに応じてかわり得るため、具体的な温度条件については一概には言えないが、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、上限として好ましくは75℃未満、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下、より更に好ましくは60℃以下である。
【0104】
また、圧力条件としては、減圧雰囲気下であることが好ましく、具体的には、好ましくは85kPa以下、より好ましくは80kPa以下、更に好ましくは70kPa以下であり、下限としては真空(0Kpa)でもよく、圧力の調整の容易さを考慮すると、好ましくは1kPa以上、より好ましくは2kPa以上、更に好ましくは3kPa以上である。
本実施形態の製造方法においては、エーテル化合物の除去は、上記固液分離を行った後、加熱しながら乾燥を行ってもよい。
【0105】
〔電解質前駆体の粉末を焼成すること〕
本実施形態の製造方法は、
電解質前駆体の粉末を焼成すること、
を含む。
電解質前駆体の粉末の他、エーテル化合物、必要に応じて用いられる溶媒等を含む電解質前駆体含有物からエーテル化合物、溶媒が含まれる場合は溶媒を除去して得られる電解質前駆体の粉末を焼成することで、電解質前駆体(錯体)を形成するエーテル化合物が電解質前駆体(錯体)から除去されて、硫化物固体電解質が得られる。
【0106】
(焼成)
電解質前駆体の粉末の焼成の方法は、粉末の焼成を行える方法であれば特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、焼成する処理量に応じて選択すればよい。
【0107】
焼成のための温度条件としては、使用するエーテル化合物、溶媒の種類、減圧雰囲気下とするか否か、更には非晶性の硫化物固体電解質を得るのか、結晶性の硫化物固体電解質を得るのかに応じてかわり得るため、具体的な温度条件については一概にはいえないが、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上、より更に好ましくは110℃以上であり、上限として好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
【0108】
例えば、非晶性の硫化物固体電解質を得ようとする場合、当該非晶性の硫化物固体電解質を加熱して得られる結晶性硫化物固体電解質の構造に応じて加熱温度を決定すればよく、具体的には、該非晶性硫化物固体電解質(又は電解質前駆体)を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは20℃以下の範囲とすればよく、下限としては特に制限はないが、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度-40℃以上程度とすればよい。
【0109】
この場合の具体的な温度条件については、得ようとする非晶性硫化物固体電解質の組成、減圧雰囲気下とするか否か等に応じてかわり得るため、一概にはいえないが、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上、より更に好ましくは110℃以上であり、上限として好ましくは140℃未満、より好ましくは135℃以下、更に好ましくは125℃以下である。
また、この場合の焼成時間は、所望の非晶性硫化物固体電解質が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは5時間以上、より更に好ましくは8時間以上であり、上限として好ましくは16時間以下、より好ましくは15時間以下、更に好ましくは14時間以下である。
【0110】
また例えば、結晶性の硫化物固体電解質を得ようとする場合、上記非晶性硫化物固体電解質を得るための温度条件よりも高いことが好ましく、上記の示差熱分析(DTA)によるピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上の範囲とすればよく、上限としては特に制限はないが、40℃以下程度とすればよい。
【0111】
この場合の具体的な温度条件については、得ようとする結晶性硫化物固体電解質の組成、減圧雰囲気下とするか否か等に応じてかわり得るため、一概にはいえないが、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは165℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、上限として好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
また、この場合の焼成時間は、所望の結晶性硫化物固体電解質が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば好ましくは5分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは1時間以上、より更に好ましくは1.5時間以上であり、上限として好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2.5時間以下である。
【0112】
本実施形態の製造方法において、電解質前駆体の粉末の焼成は、二段階に分けて行うとよい。電解質前駆体に残存する固体電解質原料等の反応による不純物の生成を抑制することができ、より品質の高い硫化物固体電解質が得られるからである。
焼成を二段階に分ける場合、前記焼成を、75℃以上140℃以下で行う第一焼成と、140℃超220℃以下で行う第二焼成と、により行うことが好ましい。この場合、第一焼成にて非晶性硫化物固体電解質が得られ、また、固体電解質原料が残存している場合は、固体電解質原料同士の反応も進行する。第一焼成で得られた非晶性硫化物固体電解質を第二焼成にて結晶化し、結晶性硫化物固体電解質が得られる。
【0113】
第一の焼成の焼成時間としては、上記非晶性硫化物固体電解質を得るための焼成にかかる時間の範囲内で行うとよい。
また第二の焼成の焼成時間としては、上記結晶性硫化物固体電解質を得るための焼成に係る時間の範囲内で行うとよい。
【0114】
電解質前駆体の粉末の焼成(上記第一焼成及び第二焼成も含む。)は、常圧で行うこともできるが、加熱温度を低減するため、減圧雰囲気下、さらには真空雰囲気下で行うこともできる。
圧力条件としては、減圧雰囲気下で加熱する場合は、好ましくは85kPa以下、より好ましくは80kPa以下、更に好ましくは70kPa以下であり、下限としては真空(0Kpa)でもよく、圧力の調整の容易さを考慮すると、好ましくは1kPa以上、より好ましくは2kPa以上、更に好ましくは3kPa以上である。圧力条件が上記範囲内であると、加熱条件をマイルドにすることができ、装置の大型化を抑制することができる。
【0115】
また、焼成は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、で行なうとよい。結晶性固体電解質の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。
【0116】
(非晶性固体電解質)
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、焼成の条件に応じて、非晶性硫化物固体電解質、結晶性硫化物固体電解質のいずれかとなる。
本実施形態の製造方法により得られる非晶性固体電解質としては、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含んでおり、代表的なものとしては、例えば、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、例えば、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましい。
非晶性固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0117】
本実施形態の製造方法により得られる非晶性固体電解質が、少なくともLi2S-P2S5を有するものである場合、Li2SとP2S5とのモル比は、より高いイオン伝導度を得る観点から、65~85:15~35が好ましく、70~80:20~30がより好ましく、72~78:22~28が更に好ましい。
【0118】
本実施形態の製造方法により得られる非晶性固体電解質が、例えば、Li2S-P2S5-LiI-LiBrである場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量の合計は、60~95モル%が好ましく、65~90モル%がより好ましく、70~85モル%が更に好ましい。また、臭化リチウムとヨウ化リチウムとの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、40~80モル%が更に好ましく、50~70モル%が特に好ましい。
【0119】
本実施形態の製造方法により得られる非晶性固体電解質において、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.6が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.05~0.5がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.08~0.4が更に好ましい。また、ハロゲン原子として、臭素及びヨウ素を併用する場合、リチウム原子、硫黄原子、リン原子、臭素、及びヨウ素の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.3:0.01~0.3が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.02~0.25:0.02~0.25がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.03~0.2:0.03~0.2がより好ましく、1.35~1.45:1.4~1.7:0.3~0.45:0.04~0.18:0.04~0.18が更に好ましい。リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)を上記範囲内とすることにより、後述するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、より高いイオン伝導度の固体電解質が得られやすくなる。
【0120】
非晶性固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。
粒子状の非晶性固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上であり、上限としては5μm以下、さらには3.0μm以下、1.5μm以下、1.0μm以下、0.5μm以下である。
【0121】
(結晶性固体電解質)
本実施形態の製造方法により得られる結晶性固体電解質は、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、その結晶構造としては、Li3PS4結晶構造、Li4P2S6結晶構造、Li7PS6結晶構造、Li7P3S11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。
【0122】
Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照)等も挙げられる。本実施形態の固体電解質の製造方法により得られる結晶性固体電解質の結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、上記の中でもチオリシコンリージョンII型結晶構造であることが好ましい。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。
【0123】
本実施形態の製造方法で得られる結晶性固体電解質は、上記チオリシコンリージョンII型結晶構造を含むものであってもよいし、主結晶として含むものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として含むものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として含む」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、本実施形態の製造方法により得られる結晶性固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性Li3PS4(β-Li3PS4)を含まないものであることが好ましい。
【0124】
CuKα線を用いたX線回折測定において、Li3PS4結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.5°、18.3°、26.1°、27.3°、30.0°付近に現れ、Li4P2S6結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=16.9°、27.1°、32.5°付近に現れ、Li7PS6結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、25.2°、29.6°、31.0°付近に現れ、Li7P3S11結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.8°、18.5°、19.7°、21.8°、23.7°、25.9°、29.6°、30.0°付近に現れ、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0125】
上記のLi7PS6の構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなるアルジロダイト型結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質も好ましく挙げられる。
アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、例えば組成式Li7-xP1-ySiyS6及びLi7+xP1-ySiyS6(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造が挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、立方晶又は斜方晶、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
【0126】
アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、組成式Li7-x-2yPS6-x-yClx(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)も挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
また、アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、組成式Li7-xPS6-xHax(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)も挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0127】
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質に含まれるエーテル化合物の含有量は、0質量%、すなわち錯化剤は全く含まれないことが望ましいが、効率的にイオン伝導度が高い硫化物固体電解質を得る観点から、通常7.5質量%以下、さらには6質量%以下、4質量%以下、1質量%以下であり、下限としては0.1質量%以上程度である。
本明細書において、硫化物固体電解質に含まれるエーテル化合物の含有量は、実施例等で得られた粉末を、水及びペンタノールの混合液に溶解させたものを、ガスクロマトグラフィー装置(GC)を用いて測定し、錯化剤及び高沸点溶媒を絶対検量線で定量した(GC検量線法)。
【0128】
結晶性固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、上記の非晶性硫化物固体電解質と同様に、粒子状を挙げることができる。
また、粒子状の結晶性固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上であり、上限としては5μm以下、さらには3.0μm以下、1.5μm以下、1.0μm以下、0.5μm以下である。
【0129】
[硫化物固体電解質]
本実施形態の硫化物固体電解質は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子及び下記一般式(1)で表されるエーテル化合物を含み、
前記エーテル化合物の含有量が、0.1質量%以上7.5質量%以下である、
硫化物固体電解質、
R1-O-R2 (1)
(一般式(1)中、R1は炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、R2は炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
というものである。
【0130】
本実施形態の硫化物固体電解質は、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により製造し得るものであり、より効率的に製造する観点から、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により製造することが好ましい。よって、本実施形態の硫化物固体電解質の詳細については、上記本実施形態の製造方法において説明した内容をそのまま適用し得る。
【0131】
本実施形態の硫化物固体電解質は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含むものである。これらの原子は、上記の本実施形態の製造方法で用いられる原料含有物に含まれる固体電解質原料に由来するものである。
【0132】
また、本実施形態の硫化物固体電解質は、エーテル化合物を含むものである。エーテル化合物は、製造過程で使用されるエーテル化合物であり、既述のように従来の液相法では用いられていない溶媒であり、本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質の特徴ともいえる。
【0133】
本実施形態の硫化物固体電解質におけるエーテル化合物の含有量は、0.1質量%以上7.5質量%以下である。エーテル化合物の含有量については、上記本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質に含まれるエーテル化合物の含有量についての説明と同様である。
【0134】
(用途)
本実施形態の硫化物固体電解質は、リチウムイオン電池に好適に用いられる。
本実施形態の硫化物固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
【0135】
また、上記電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【0136】
〔電極合材〕
本実施形態の硫化物固体電解質を用いた電極合材は、上記の本実施形態の硫化物固体電解質と、電極活物質と、を含む電極合材である。
【0137】
(電極活物質)
電極活物質としては、電極合材が正極、負極のいずれに用いられるかに応じて、各々正極活物質、負極活物質が採用される。
【0138】
正極活物質としては、負極活物質との関係で、イオン伝導度を発現させる原子として採用される原子、好ましくはリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な正極活物質としては、酸化物系正極活物質、硫化物系正極活物質等が挙げられる。
【0139】
酸化物系正極活物質としてはLMO(マンガン酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)、NMC(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)、NCA(ニッケルコバルトアルミ酸リチウム)、LNCO(ニッケルコバルト酸リチウム)、オリビン型化合物(LiMeNPO4、Me=Fe、Co、Ni、Mn)等のリチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましく挙げられる。
硫化物系正極活物質としては、硫化チタン(TiS2)、硫化モリブデン(MoS2)、硫化鉄(FeS、FeS2)、硫化銅(CuS)、硫化ニッケル(Ni3S2)等が挙げられる。
また、上記正極活物質の他、セレン化ニオブ(NbSe3)等も使用可能である。
正極活物質は、一種単独で、又は複数種を組み合わせて用いることが可能である。
【0140】
負極活物質としては、イオン伝導度を発現させる原子として採用される原子、好ましくはリチウム原子と合金を形成し得る金属、その酸化物、当該金属とリチウム原子との合金等の、好ましくはリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な負極活物質としては、電池分野において負極活物質として公知のものを制限なく採用することができる。
このような負極活物質としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素、金属スズ等の金属リチウム又は金属リチウムと合金を形成し得る金属、これら金属の酸化物、またこれら金属と金属リチウムとの合金等が挙げられる。
【0141】
電極活物質は、その表面がコーティングされた、被覆層を有するものであってもよい。
被覆層を形成する材料としては、硫化物固体電解質においてイオン伝導度を発現する原子、好ましくはリチウム原子の窒化物、酸化物、又はこれらの複合物等のイオン伝導体が挙げられる。具体的には、窒化リチウム(Li3N)、Li4GeO4を主構造とする、例えばLi4-2xZnxGeO4等のリシコン型結晶構造を有する伝導体、Li3PO4型の骨格構造を有する例えばLi4-xGe1-xPxS4等のチオリシコン型結晶構造を有する伝導体、La2/3-xLi3xTiO3等のペロブスカイト型結晶構造を有する伝導体、LiTi2(PO4)3等のNASICON型結晶構造を有する伝導体等が挙げられる。
また、LiyTi3-yO4(0<y<3)、Li4Ti5O12(LTO)等のチタン酸リチウム、LiNbO3、LiTaO3等の周期表の第5族に属する金属の金属酸リチウム、またLi2O-B2O3-P2O5系、Li2O-B2O3-ZnO系、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2系等の酸化物系の伝導体等が挙げられる。
【0142】
被覆層を有する電極活物質は、例えば電極活物質の表面に、被覆層を形成する材料を構成する各種原子を含む溶液を付着させ、付着後の電極活物質を好ましくは200℃以上400℃以下で焼成することにより得られる。
ここで、各種原子を含む溶液としては、例えばリチウムエトキシド、チタンイソプロポキシド、ニオブイソプロポキシド、タンタルイソプロポキシド等の各種金属のアルコキシドを含む溶液を用いればよい。この場合、溶媒としては、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒等を用いればよい。
また、上記の付着は、浸漬、スプレーコーティング等により行えばよい。
【0143】
焼成温度としては、製造効率及び電池性能の向上の観点から、上記200℃以上400℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以上390℃以下であり、焼成時間としては、通常1分~10時間程度であり、好ましくは10分~4時間である。
【0144】
被覆層の被覆率としては、電極活物質の表面積を基準として好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは100%、すなわち全面が被覆されていることが好ましい。また、被覆層の厚さは、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、上限として好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下である。
被覆層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により、被覆層の厚さを測定することができ、被覆率は、被覆層の厚さと、元素分析値、BET比表面積と、から算出することができる。
【0145】
(その他の成分)
本実施形態の硫化物固体電解質を用いた電極合材は、上記の硫化物固体電解質、電極活物質の他、例えば導電材、結着剤等のその他成分を含んでもよい。すなわち、本実施形態の電極合材の製造方法は、上記の硫化物固体電解質、電極活物質の他、例えば導電材、結着剤等のその他成分を用いてもよい。導電剤、結着剤等のその他成分は、上記の硫化物固体電解質と、電極活物質と、を混合することにおいて、これらの硫化物固体電解質及び電極活物質に、さらに加えて混合して用いればよい。
導電材としては、電子伝導性の向上により電池性能を向上させる観点から、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等の炭素系材料が挙げられる。
【0146】
結着剤を用いることで、正極、負極を作製した場合の強度が向上する。
結着剤としては、結着性、柔軟性等の機能を付与し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ブチレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム等の熱可塑性エラストマー、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポロビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン樹脂等の各種樹脂が例示される。
【0147】
電極合材における、電極活物質と硫化物固体電解質との配合比(質量比)としては、電池性能を向上させ、かつ製造効率を考慮すると、好ましくは99.5:0.5~40:60、より好ましくは99:1~50:50、更に好ましくは98:2~60:40である。
【0148】
導電材を含有する場合、電極合材中の導電材の含有量は特に制限はないが、電池性能を向上させ、かつ製造効率を考慮すると、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、上限として好ましくは10質量%以下、好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
また、結着剤を含有する場合、電極合材中の結着剤の含有量は特に制限はないが、電池性能を向上させ、かつ製造効率を考慮すると、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、上限として好ましくは20質量%以下、好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0149】
〔リチウムイオン電池〕
本実施形態の硫化物固体電解質を用いたリチウムイオン電池は、上記の本実施形態の硫化物固体電解質及び上記の電極合材から選ばれる少なくとも一方を含む、リチウムイオン電池である。
【0150】
本実施形態の硫化物固体電解質を用いたリチウムイオン電池は、上記の本実施形態の硫化物固体電解質、これを含む電極合材を含むものであれば、その構成については特に制限はなく、汎用されるリチウムイオン電池の構成を有するものであればよい。
【0151】
本実施形態の硫化物固体電解質を用いたリチウムイオン電池としては、例えば正極層、負極層、電解質層、また集電体を備えたものであることが好ましい。正極層及び負極層としては本実施形態の硫化物固体電解質を用いた電極合材が用いられるものであることが好ましく、また電解質層としては本実施形態の硫化物固体電解質が用いられるものであることが好ましい。
【0152】
また、集電体は公知のものを用いればよい。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例0153】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0154】
(粉末XRD回折の測定)
粉末X線回折(XRD)測定は以下のようにして実施した。
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質の粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝に充填し、ガラスで均して試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで密閉し、空気に触れさせずに、以下の条件で測定した。
測定装置:D2 PHASER、ブルカー(株)製
管電圧:30kV
管電流:10mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:ソーラースリット4°、発散スリット1mm、Kβフィルター(Ni板)使用
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、0.05deg/秒
【0155】
(イオン伝導度の測定)
本実施例において、イオン伝導度の測定は、以下のようにして行った。
実施例及び比較例で得られた結晶性固体電解質から、直径10mm(断面積S:0.785cm2)、高さ(L)0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:5MHz~0.5Hz、振幅:10mV)、Cole-Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、-Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
R=ρ(L/S)
σ=1/ρ
【0156】
(硫化物固体電解質に含まれるエーテル化合物の含有量の測定)
熱重量測定装置(TG装置)を用いて重量減少割合によりエーテル化合物の含有量を測定した。測定対象となる粉末(試料)は、結晶性硫化物固体電解質とするために190℃で2時間の焼成を行った。前処理の後、試料20mgを、窒素気流下にて室温(23℃)から500℃まで10℃/分で昇温した。25℃のときの試料の質量を基準として重量低下率を算出し含有量とした。
【0157】
(熱重量示差熱測定(TG-DTAの測定))
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA装置)(「TGA/DSC1(型番)」、METTLER TOLEDO製)を用いて、熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った。測定は、Alパンに試料(10mg以上20mg以下程度)を詰めてN2雰囲気下、25℃から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた際の重量変化を測定し、25℃のときの試料の質量を基準として重量低下率を算出した。
【0158】
(実施例1)
2.0Lの撹拌翼付き反応槽に、窒素雰囲気下、固体電解質原料として硫化リチウム33.06g、溶媒としてエチルベンゼン(EB)868gを加え、撹拌翼を回転させた後、ヨウ素13.04gを導入し室温で4時間混合した。その後、五硫化二リン45.69gを添加後、臭素8.21gを滴下しながら、循環運転可能なビーズミル(「スターミルLMZ015(商品名)」、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて所定条件(ビーズ材質:ジルコニア、ビーズ直径:0.5mmφ、ビーズ使用量:456g、ポンプ流量:600mL/min、周速:8m/s、ミルジャケット温度:30℃)で2時間の粉砕処理を行った。得られたスラリーを、真空下の乾燥(室温:60℃、乾燥時間:1時間)によりエチルベンゼンを除去して、硫化リチウム、五硫化二リン、臭素及びヨウ素、更にはこれらの一部が反応して生成した臭化リチウム、ヨウ化リチウム及び硫黄の固体電解質原料を含む原料含有物の粉末を得た。
【0159】
撹拌子入りシュレンク(容量:100mL)に、窒素雰囲気下、得られた電解質原料の粉末を、0.50gを導入した。撹拌子を回転させた後、エーテル溶媒としてメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)40mLを加え、1時間の撹拌を継続して混合し、電解質前駆体含有物を得た。得られた電解質前駆体含有物を、真空下の乾燥(室温:60℃、乾燥時間:1時間)によりメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)を除去して、粉末を得た。得られた粉体を、油回転真空ポンプ(「GLD-137(型番)」、ULVAC株式会社製)を用いて、真空下にした後、オイルバス(「OHB-2100(型番)」、EYELA株式会社製)の中にシュレンクを浸し、120℃で12時間の焼成を行い、非晶性硫化物固体電解質を得た。得られた非晶性硫化物固体電解質を、更に上記の油回転真空ポンプを用いて、真空下、190℃で2時間の焼成を行い、結晶性硫化物固体電解質を得た。
【0160】
(実施例2)
五硫化二リン0.945g、硫化リチウム0.586g、ヨウ化リチウム0.285g、臭化リチウム0.185g、溶媒としてトルエン14.6gを、窒素雰囲気下で、直径0.5mmのジルコニア製ボールとともに遊星型ボールミル(フリッチェ社製:型番P-7)のジルコニア製ポットに入れ、完全密封し、ポット内を不活性雰囲気下(窒素雰囲気)とした。加熱冷却することなく(室温23℃)、遊星ボールミルで回転数を500rpmとし、2時間微粒化(メカニカルミリング)した。得られたスラリーを、真空下の乾燥(室温:80℃、乾燥時間:1時間)によりトルエンを除去して、微粒化した原料含有物の粉末を得た。その他は、実施例1と同様にして、電解質前駆体を得て、これを焼成して非晶性硫化物固体電解質を得て、更に焼成して結晶性硫化物固体電解質を得た。
【0161】
実施例1で得られた電解質前駆体の粉末、非晶性硫化物固体電解質及び結晶性硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を
図1に示す。電解質前駆体の粉末のXRD測定の結果については、
図3、4及び11にも示す。また、結晶性硫化物固体電解質の粉末のXRD測定の結果については、
図12にも示す。
実施例2について、得られた電解質前駆体の粉末のXRD及び結晶性硫化物固体電解質の粉末のXRD測定を行った。その結果を、各々
図11及び12に示す。また、実施例1及び2で得られた原料含有物の粉末について、XRD測定を行った。その結果について、
図10に示す。
イオン伝導度を測定したところ、0.83(mS/cm)であり、結晶性硫化物固体電解質に含まれるエーテル化合物の含有量は、4.1質量%となった。また、実施例1で得られた電解質前駆体について、TG-DTAの測定を行った。その結果を
図5に示す。
【0162】
(比較例1)
実施例1において、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)をエチルベンゼン(EB)に代えた以外は、実施例1と同様に混合した後、真空下の乾燥(室温:60℃、乾燥時間:1時間)によりエチルベンゼン(EB)を除去して、粉末を得た。得られた粉末を、油回転真空ポンプ(「GLD-137(型番)」、ULVAC株式会社製)を用いて、真空下にした後、オイルバス(「OHB-2100(型番)」、EYELA株式会社製)の中にシュレンクを浸し、120℃で6時間の焼成を行い、粉末を得た。
エチルベンゼン(EB)を除去して得られた粉末(EB除去粉末)、焼成後の粉末(焼成粉末)について、XRD測定を行った。その結果を
図2に示す。
【0163】
実施例1の結果(
図1)から、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により得られた結晶性硫化物固体電解質は、主に2θ=20.2°、23.6°に結晶化ピークを発現するものであり、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質であることが確認された。
【0164】
他方、
図2の結果から、比較例1の焼成粉末は、固体電解質原料である硫化リチウム、臭化リチウムのピークが観測され、硫化物固体電解質となっていないことが確認された。また、EB除去粉末も、固体電解質原料である硫化リチウム、臭化リチウムのピークが観測されており、実施例1の電解質前駆体の粉末とは明らかに異なるものであることも確認された。また、実施例1の原料含有物の粉末と、比較例1のEB除去粉末とは同じものであり、同じピークを有することは
図2及び10の結果から分かる。
図10には、実施例1及び2の原料含有物の粉末のXRD測定の結果が示されているが、これと
図1の実施例1の電解質前駆体、
図11の実施例2の電解質前駆体のXRD測定の結果とから、いずれの実施例においても、原料含有物の粉末と電解質前駆体の粉末とは明らかに異なるものであることも確認された。
【0165】
(比較例2)
実施例1において、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)をジブチルエーテル(DBE)に代えた以外は、実施例1と同様に混合した。次いで、真空下の乾燥(室温:60℃、乾燥時間:1時間)によりジブチルエーテル(DBE)を除去して、粉末を得た。得られた粉末を、油回転真空ポンプ(「GLD-137(型番)」、ULVAC株式会社製)を用いて、真空下にした後、オイルバス(「OHB-2100(型番)」、EYELA株式会社製)の中にシュレンクを浸し、120℃で6時間の焼成を行い、粉末を得た。得られた非晶性硫化物固体電解質を、更に上記の油回転真空ポンプを用いて、真空下、190℃で2時間の焼成を行い、結晶性硫化物固体電解質を得た。
ジブチルエーテル(DBE)を除去して得られた粉末(DBE除去粉末)、非晶性硫化物固体電解質、結晶性硫化物固体電解質について、XRD測定を行った。その結果を
図13に示す。
【0166】
図13の結果から、比較例2の結晶性硫化物固体電解質は、主に2θ=20.2°、23.6°に結晶化ピークを発現しないことから、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有していないことが確認された。チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を有するものの一つとして知られている。しかし、一般式(1)で表されるエーテル化合物を用いず、当該エーテル化合物を含まないため、結果として実施例で得られるような結晶性硫化物固体電解質と比べると、イオン伝導度が低いものとなると考えられる。
【0167】
(比較例3)
実施例1において、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)をテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)に代えた以外は、実施例1と同様に混合したところ、塊状となり混合を継続することができず、硫化物固体電解質は得られなかった。
【0168】
(調製例1:Li2S-MTBE錯体の調製)
グローブボックスの不活性ガス雰囲気下で、実施例1で用いた硫化リチウムを、撹拌子の入ったシュレンク瓶に計3g秤量した。不活性ガスを流通下でメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)を40mL投入し、3時間撹拌した。得られたスラリーの溶媒を室温で1時間の真空乾燥を行うことでLi2S-MTBE錯体を得た。
【0169】
(調製例2:P2S5-MTBE錯体の調製)
上記調製例1において、硫化リチウムを、実施例1で用いた五硫化二リンとした以外は、調製例1と同様にして、P2S5-MTBE錯体を得た。
【0170】
(調製例3:LiBr-MTBE錯体の調製)
上記調製例1において、硫化リチウムを、実施例1で用いた臭化リチウムとした以外は、調製例1と同様にして、LiBr-MTBE錯体を得た。
【0171】
(調製例4:LiI-MTBE錯体の調製)
上記調製例1において、硫化リチウムを、実施例1で用いたヨウ化リチウムとした以外は、調製例1と同様にして、LiI-MTBE錯体を得た。
【0172】
(調製例5:Li2S/P2S5-MTBE錯体の調製)
上記調製例1において、硫化リチウムを、実施例1で用いた硫化リチウム及び五硫化二リンとし、硫化リチウムと五硫化二リンとの質量比が実施例1と同様となるようにしたとした以外は、調製例1と同様にして、LiI-MTBE錯体を得た。
【0173】
(参考例1)
上記調製例1~4で得られた錯体の粉末について、XRD測定を行った。その結果を
図3に示す。
【0174】
(参考例2)
上記調製例5で得られた錯体の粉末について、XRD測定及びTG-DTAの測定を行った。その結果を各々
図4及び
図5に示す。
【0175】
(参考例3)
実施例1で用いた固体電解質原料である硫化リチウム、五硫化二リン、臭化リチウム及びヨウ化リチウムについて、XRD測定を行った。その結果を各々
図6~9に示す。
【0176】
図1及び12と、
図6~9との対比から、実施例1及び2で得られる電解質前駆体の粉末のX線回折スペクトルは、実施例1及び2で用いた固体電解質原料のいずれとも一致せず、また非晶性硫化物固体電解質及び結晶性硫化物固体電解質とも一致しないピークが、2θ=12.6°、15.7°、16.8°、17.5°に有することが確認された。よって、電解質前駆体の粉末は、固体電解質原料及び結晶性硫化物固体電解質とは異なる結晶構造を有するものであることが分かる。
【0177】
また、電解質前駆体が如何なる構造を有するものかについて検討した。
図1及び11と、
図6~9との対比から、電解質前駆体の粉末は、既述のように固体電解質原料とも、結晶性硫化物固体電解質とも異なるものであることが分かった。そこで、上記調製例1~4において、実施例1及び2で用いた固体電解質原料の一種とエーテル化合物(MTBE)との錯体を調製し、これらの錯体のXRD測定を行った。
図3の結果から、電解質前駆体の粉末のX線回折スペクトルは、調製例1~4で得られた一種の固体電解質原料とエーテル化合物(MTBE)との錯体のいずれとも一致しなかった。そのため、更に調整例5において、実施例1及び2で用いた固体電解質原料の硫化リチウム及び五硫化二リンを用い、これらの原料とエーテル化合物(MTBE)との錯体を調製し、XRD測定を行った。
図4の結果から、電解質前駆体の粉末のX線回折スペクトルは、調製例5で得られた二種の固体電解質原料(硫化リチウム及び五硫化二リン)とエーテル化合物(MTBE)との錯体と概ね一致した。
よって、電解質前駆体の粉末は、少なくとも固体電解質原料である硫化リチウム及び五硫化二リンが、エーテル化合物を介して錯体形成していると考えられる。
【0178】
さらに、電解質前駆体の粉末及び調製例5で得られたLi
2S/P
2S
5-MTBE錯体について、TG-DTA測定を行った。
図5の結果から、電解質前駆体の粉末及びLi
2S/P
2S
5-MTBE錯体には、110℃近辺に分解ピークが観測されており、分解温度が一致した。
以上、XRD測定及びTG-DTA測定の結果から、電解質前駆体の粉末は、少なくとも固体電解質原料である硫化リチウム及び五硫化二リンが、エーテル化合物を介して錯体形成していることが分かった。
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法によれば、硫化物固体電解質を効率的に製造することができる。本実施形態の製造方法により得られる、本実施形態の硫化物固体電解質は、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。