IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168414
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】リンス用組成物およびリンス方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231116BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231116BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
B24B37/00 K
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156621
(22)【出願日】2023-09-22
(62)【分割の表示】P 2019065108の分割
【原出願日】2019-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】浅田 真希
(72)【発明者】
【氏名】百田 怜史
(57)【要約】
【課題】水溶性高分子を含み、かつ砥粒を含まないリンス用組成物であって、研磨後の研磨対象物の欠陥数を低減させることのできるリンス用組成物を提供する。
【解決手段】本発明により提供されるリンス用組成物は、以下の式(I)により表される脱離パラメータが150以上である水溶性高分子を含み、砥粒を含まない。
W1/W0×100 (I)
ここで、上記式(I)中のW0は、単結晶シリコンウェーハの表面に上記水溶性高分子の水溶液を塗布した後に水洗して得られるSC-1処理前ウェーハの、脱イオン水に対する静的接触角である。上記式(I)中のW1は、上記SC-1処理前ウェーハに室温のSC-1洗浄液で10秒間処理する洗浄処理を施して得られるSC-1処理後ウェーハの、脱イオン水に対する静的接触角である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子を含み、砥粒を含まないリンス用組成物であって、
前記水溶性高分子として、以下の式(I):
W1/W0×100 (I)
(ここで、前記式(I)中のW0は、シリコンウェーハの表面に評価対象の水溶性高分子の水溶液を塗布した後に水洗して得られるSC-1洗浄処理前ウェーハの脱イオン水に対する静的接触角であり、前記式(I)中のW1は、前記SC-1洗浄液処理前ウェーハに29%アンモニア水と31%過酸化水素水と水とを0.5:0.5:8の体積比で含む室温のSC-1洗浄液で10秒間処理する洗浄処理を施して得られるSC-1処理後ウェーハの脱イオン水に対する静的接触角である。);
により表される脱離パラメータ150以上である水溶性高分子Aを含む、リンス用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子として、前記式(I)により表される脱離パラメータが150未満である水溶性高分子Bをさらに含む、請求項1に記載のリンス用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子Aとして窒素原子含有ポリマーを含む、請求項1または2に記載のリンス用組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子Aの含有量が2.0×10-4重量%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリンス用組成物。
【請求項5】
さらに界面活性剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のリンス用組成物。
【請求項6】
さらに塩基性化合物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のリンス用組成物。
【請求項7】
砥粒を含む研磨用組成物を用いる研磨工程により研磨された研磨対象物をリンスするリンス方法であって、
前記研磨対象物に請求項1から6のいずれか一項に記載のリンス用組成物を含むリンス液を供給してリンスするリンス工程を含む、リンス方法。
【請求項8】
前記リンス工程では、前記研磨工程に用いた研磨装置の定盤上において前記研磨対象物に前記リンス液を供給する、請求項7に記載のリンス方法。
【請求項9】
前記研磨対象物はシリコンウェーハである、請求項7または8に記載のリンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨後の研磨対象物をリンスする用途に用いられるリンス用組成物およびそのリンス用組成物を用いて研磨対象物をリンスする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して、砥粒を含む研磨用組成物を用いた精密研磨が行われている。例えば、半導体装置の構成要素等として用いられるシリコンウェーハの表面は、一般に、ラッピング工程(粗研磨工程)とポリシング工程(精密研磨工程)とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)と仕上げポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。シリコンウェーハ等の半導体基板の研磨に関する技術文献として、特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-183478号公報
【特許文献2】国際公開2016/129215号公報
【特許文献3】特許第6193959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
砥粒を含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した場合には通常、研磨用組成物中に含まれる砥粒等が研磨後の研磨対象物表面に付着する。研磨対象物表面に砥粒等が付着したままでは様々な弊害があることから、付着した砥粒等を除去するべく、研磨後の研磨対象物表面をリンス用組成物ですすぎ研磨(リンス)することが一般に行われている。
近年では、仕上げポリシング工程(特に、シリコンウェーハ等の半導体基板その他の基板の仕上げポリシング工程)による研磨後の表面品質に対する要求がさらに高くなってきている。研磨後において高品質の表面を実現するため、研磨後に用いられるリンス用組成物には、リンス中は研磨対象物の表面をよく保護して研磨後のPID(Polish Induced Defects)数を減少させ、リンス後は研磨対象物の表面に付着した砥粒等を確実に除去できる性能が求められる。しかしながら、従来のリンス用組成物は、こうした要求を十分に満足するものではなく、依然として改良の余地を残している。
【0005】
そこで本発明は、水溶性高分子を含み、かつ砥粒を含まないリンス用組成物であって、研磨後の研磨対象物の欠陥数を低減させることのできるリンス用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、かかるリンス用組成物を用いて研磨後の研磨対象物をリンスする方法を提供することである。
【0006】
なお、本明細書において欠陥数を低減させるとは、LLS(Localized Light Scatterer、局所光散乱体)と称される欠陥数を低減させることを指す。LLSの測定には表面欠陥検査装置が用いられる。一般的な表面欠陥検査装置は、研磨対象物表面にレーザー光等の光を照射し、その反射光を信号として受信して解析することで欠陥の有無およびサイズを検出している。表面欠陥検査装置によって検出されるLLSには、研磨工程、リンス工程および洗浄工程で除去しきれなかった研磨対象物上の異物および残渣、すなわちPIDおよび砥粒残渣が含まれる。検出されたLLSの欠陥種の解析には、欠陥レビューSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)等が用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書により提供されるリンス用組成物は、水溶性高分子を含み、砥粒を含まないリンス用組成物であって、前記水溶性高分子として、以下の式(I):
W1/W0×100 (I);
により表される脱離パラメータが150以上である水溶性高分子Aを含むことを特徴とする。ここで、上記式(I)中のW0は、シリコンウェーハの表面に評価対象の水溶性高分子の水溶液を塗布した後に水洗して得られるSC-1洗浄処理前ウェーハの、脱イオン水に対する静的接触角である。上記式(I)中のW1は、上記SC-1洗浄液処理前ウェーハに洗浄処理(具体的には、29%アンモニア水と31%過酸化水素水と水とを0.5:0.5:8の体積比で含む室温のSC-1洗浄液で10秒間処理する洗浄処理)を施して得られるSC-1処理後ウェーハの、脱イオン水に対する静的接触角である。なお、本明細書において接触角は「度(°)」の単位で表すものとする。また、本明細書において濃度および含有量は、特に説明のない場合は重量基準で表すものとする。水溶性高分子Aを含むリンス用組成物を用いてリンスを行うと、研磨対象物の欠陥数を低減させることができる。例えば、砥粒残渣数を低減させ、またPID数を低減させることができる。
【0008】
ここに開示されるリンス用組成物のいくつかの態様において、該リンス用組成物は、上記式(I)により表される脱離パラメータが150未満である水溶性高分子Bをさらに含む。かかるリンス用組成物の構成において、研磨対象物の欠陥数をさらに効果的に減少させることができる。
【0009】
上記水溶性高分子Aとしては、窒素原子含有ポリマーを含む水溶性高分子を好ましく採用し得る。かかる態様においてリンス後の研磨対象物の欠陥数が好適に低減され得る。
【0010】
ここに開示されるリンス用組成物のいくつかの態様において、該リンス用組成物は、界面活性剤をさらに含む。かかるリンス用組成物の構成において、リンス後の研磨対象物表面の欠陥数をさらに効果的に低減することができる。
【0011】
ここに開示されるリンス用組成物のいくつかの態様において、該リンス用組成物は、塩基性化合物をさらに含む。かかるリンス用組成物の構成において、研磨対象物の欠陥数を好適に低減することができる。
【0012】
また、この明細書によると、砥粒を含む研磨用組成物を用いる研磨工程により研磨された研磨対象物を、ここに開示されるいずれかのリンス用組成物を含むリンス液を供給してリンスするリンス工程を含むリンス方法が提供される。上記リンス方法によると、リンス後の研磨対象物の欠陥数を効果的に減少させ得る。
【0013】
ここに開示されるリンス方法のいくつかの態様において、上記リンス工程では、上記研磨工程に用いた研磨装置の定盤上において研磨対象物に上記リンス液を供給することが好ましい。研磨対象物の欠陥数低減効果は、かかる態様においてより好適に発揮され得る。
【0014】
ここに開示されるリンス方法は、砥粒を含む研磨用組成物を用いて研磨されたシリコンウェーハのリンスに好ましく用いられ得る。研磨工程後にかかる方法でリンスを行うことにより、表面欠陥を低減させ、高品質のシリコンウェーハ表面を好適に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
<水溶性高分子>
ここに開示されるリンス用組成物は、水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、研磨対象物表面の保護等に役立ち得る。上記水溶性高分子としては、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。より具体的には、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、アミド構造、イミド構造、ビニル構造、複素環構造等を有するポリマーから選択される1種または2種以上のポリマーを水溶性高分子として使用し得る。上記水溶性高分子としては、窒素原子含有ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、オキシアルキレン単位を含むポリマー、セルロース誘導体、デンプン誘導体、等の水溶性高分子を含み得る。
【0017】
窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン等が挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。例えば、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体等を採用し得る。窒素原子を含有するポリマーの非限定的な例には、N-ビニルラクタムやN-ビニル鎖状アミド等のようなN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
【0018】
N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、窒素を含有する複素環を有するモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーが含まれる。窒素を含有する複素環の一例として、ラクタム環が挙げられる。かかる繰返し単位を含むポリマーの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体や、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体等が含まれる。上記N-ビニルラクタム型モノマー共重合体は、例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。上記N-ビニル鎖状アミドの共重合体は、例えば、N-ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
【0019】
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。リンス中の研磨対象物の表面をより均一に保護する観点から、いくつかの態様において、ランダム共重合体を好ましく採用し得る。特に、水溶性高分子として共重合体を用いる場合、該共重合体としてランダム共重合体を好ましく用いることができる。
【0020】
N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマーとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体等が挙げられる。上記他のビニルモノマーは、例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等であり得る。ここでアクリル系モノマーとは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0021】
N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。上記N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合体は、例えば、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
【0022】
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体が挙げられる。上記N-イソプロピルアクリルアミドの共重合体は、例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
【0023】
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-アクリロイルモルホリンの単独重合体およびN-アクリロイルモルホリンの共重合体が挙げられる。上記N-アクリロイルモルホリンの共重合体は、例えば、N-アクリロイルモルホリンの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
【0024】
ビニルアルコール系ポリマーとしては、その繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性有機物(典型的には水溶性高分子)が用いられる。ここで、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)とは、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分である。ビニルアルコール系ポリマーは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ビニルアルコール系ポリマーは、1種類の非VA単位のみを含んでもよく、2種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0025】
ここに開示されるリンス用組成物に使用されるビニルアルコール系ポリマーは、変性されていないポリビニルアルコール(非変性PVA)であってもよく、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)であってもよい。ここで非変性PVAとは、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより生成し、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)およびVA単位以外の繰返し単位を実質的に含まないビニルアルコール系ポリマーをいう。上記非変性PVAのけん化度は、例えば60%以上であってよく、水溶性の観点から70%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上でもよい。いくつかの態様において、けん化度が95%以上または98%以上である非変性PVAを水溶性高分子化合物として好ましく採用し得る。
【0026】
ビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と、非VA単位(例えば、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する非VA単位)と、を含む変性PVAであってもよい。また、変性PVAに含まれ得る非VA単位としては、例えば後述するN-ビニル型のモノマーやN-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位、エチレンに由来する繰返し単位、アルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルに由来する繰返し単位、等が挙げられるが、これらに限定されない。上記N-ビニル型のモノマーの一好適例として、N-ビニルピロリドンが挙げられる。上記N-(メタ)アクリロイル型のモノマーの一好適例として、N-(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。上記アルキルビニルエーテルは、例えばプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテルであり得る。上記炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルは、例えばプロパン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル等の、炭素原子数3以上7以下のモノカルボン酸のビニルエステルであり得る。
【0027】
ビニルアルコール系ポリマーは、ビニルアルコール系ポリマーに含まれるVA単位の一部がアルデヒドでアセタール化された変性PVAであってもよい。上記アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、t-ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド等の、直鎖または分岐アルキルアルデヒド類;シクロヘキサンカルバルデヒド、ベンズアルデヒド等の、脂環式または芳香族アルデヒド類;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。これらのうちでも、水に対する溶解性が高くアセタール化反応が容易である点から、直鎖または分岐アルキルアルデヒド類が好ましい。なかでも好ましいアルデヒドとして、アセトアルデヒド、n-プロピルアルデヒド、n-ブチルアルデヒドおよびn-ペンチルアルデヒドが例示される。アルデヒドとしては、上記の他にも、2-エチルヘキシルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド等の、炭素数8以上のアルデヒド化合物を用いてもよい。
ビニルアルコール系ポリマーとして、第四級アンモニウム構造等のカチオン性基が導入されたカチオン変性ポリビニルアルコールを使用してもよい。上記カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等のカチオン性基を有するモノマーに由来するカチオン性基が導入されたものが挙げられる。
【0028】
ビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはビニルアルコール系ポリマーに非VA単位を含有させないことをいい、典型的には全繰返し単位のモル数に占める非VA単位のモル数の割合が2%未満(例えば1%未満)であり、0%である場合を包含する。他のいくつかの態様において、ビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
【0029】
ビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量(重量基準の含有量)は、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50重量%以上(例えば50重量%超)であってよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上(例えば90重量%以上、または95重量%以上、または98重量%以上)でもよい。ビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100重量%」とは、少なくとも意図的にはビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいい、典型的にはビニルアルコール系ポリマーにおける非VA単位の含有量が2重量%未満(例えば1重量%未満)であることをいう。他のいくつかの態様において、ビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量は、例えば95重量%以下であってよく、90重量%以下でもよく、80重量%以下でもよく、70重量%以下でもよい。
【0030】
ビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量が50重量%より高いポリマー鎖Aと、VA単位の含有量が50重量%より低い(すなわち、非VA単位の含有量が50重量%より多い)ポリマー鎖Bとを、同一分子内に含んでいてもよい。
【0031】
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。
【0032】
ポリマー鎖Bは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に100重量%が非VA単位であってもよい。
【0033】
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを同一分子中に含むビニルアルコール系ポリマーの例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。一態様において、ポリマー鎖Aにポリマー鎖Bがグラフトした構造のビニルアルコール系ポリマーを用いることができる。
【0034】
ポリマー鎖Bの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、オキシアルキレン単位を主繰返し単位とするポリマー鎖等が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
【0035】
ポリマー鎖Bの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0036】
この明細書において、N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Bは、例えば、その繰返し単位の50重量%超(例えば70重量%以上、または85重量%以上、または95重量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
【0037】
ポリマー鎖Bの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0038】
この明細書において、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
【0039】
ポリマー鎖Bの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
【0040】
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキサイドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。二種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキシドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
【0041】
ポリマー鎖Bのさらに他の例として、アルキルビニルエーテル(例えば、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、モノカルボン酸ビニルエステル(例えば、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、VA単位の一部がアルデヒド(例えば、炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルキルアルデヒド)でアセタール化されたポリマー鎖、カチオン性基(例えば、第四級アンモニウム構造を有するカチオン性基)が導入されたポリマー鎖、等が挙げられる。
【0042】
ここに開示されるリンス用組成物におけるビニルアルコール系ポリマーとしては、非変性PVAを用いてもよく、変性PVAを用いてもよく、非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いる態様において、リンス用組成物に含まれるビニルアルコール系ポリマー全量に対する変性PVAの使用量は、例えば50重量%未満であってよく、30重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、5重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。ここに開示されるリンス用組成物は、例えば、ビニルアルコール系ポリマーとして1種または2種以上の非変性PVAのみを用いる態様で好ましく実施され得る。
【0043】
オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。なかでも、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(例えば5以上)であることがさらに好ましい。
【0044】
セルロース誘導体は、主繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーであり、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース、等が挙げられる。また、デンプン誘導体は、主繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーであり、例えばアルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0045】
(水溶性高分子A)
ここに開示されるリンス用組成物は、上記水溶性高分子として、脱離パラメータが150以上である水溶性高分子Aを少なくとも1種含むことによって特徴づけられる。脱離パラメータは、評価対象の水溶性高分子を塗布したシリコンウェーハの表面の脱イオン水に対する静的接触角W0に対する、該シリコンウェーハをSC-1洗浄液により10秒間処理した後の表面の脱イオン水に対する静的接触角W1の百分率として求められる。より具体的には、脱離パラメータは以下の方法により測定される。
【0046】
[脱離パラメータの測定方法]
(1) 直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、COP(Crystal Originated Particle:結晶欠陥)フリー)から30mm×60mmの大きさに切り出した試験片(以下、単に試験片ともいう。)に対し、まずSC-1洗浄液で処理し、次いで2.5%フッ化水素(HF)水溶液に30秒間浸漬して表面酸化膜を除去する前処理を行う。
(2) 評価対象の水溶性高分子を0.18%の濃度で含み、アンモニアでpH10に調整された試験液を用意する。シャーレに上記試験片をセットし、上記試験片が浸るように上記試験液を入れる。上記試験片の上部にポリエステルとセルロースの混合不織布を当て、1kgの荷重を加えながら60rpmの速度で1分間回転させる。このようにして上記試験片に試験液を塗布した後、上記試験片を脱イオン水に浸漬して余分な水溶性高分子を除去する。
(3) 上記試験片を2.5%HF水溶液に30秒間浸漬することにより、上記(2)のステップで生じた表面酸化膜を除去する。
(4) 上記試験片(SC-1処理前ウェーハ)の脱イオン水に対する静的接触角W0を、脱イオン水着液後3秒以内に測定する。
(5) 上記試験片に対して、脱イオン水に浸漬した後SC-1洗浄液で10秒間処理する洗浄処理を行う。次いで、上記試験片を脱イオン水に浸漬して、さらに2.5%HF水溶液に30秒間浸漬し、表面酸化膜を除去する。
(6) 上記試験片(SC-1処理後ウェーハ)の脱イオン水に対する静的接触角W1を、脱イオン水着液後3秒以内に測定する。
(7) このようにして得られたW0およびW1から、次式:W1/W0×100;により、脱離パラメータを算出する。
【0047】
なお、上記(1)および(5)のステップにおいて、上記SC-1洗浄液による処理は、通常、29%アンモニア水と31%過酸化水素水と脱イオン水とを0.5:0.5:8の体積比で混合してなるSC-1洗浄液を洗浄槽に収容し、この洗浄液に上記試験片を室温で浸漬することにより、好適に行うことができる。ただし、静的接触角W0およびW1の測定が適切に行われるように、使用する試験片の初期状態等に応じて上記処理条件を適宜変更することができる。
【0048】
また、上記(4)および上記(6)のステップにおいて、接触角測定装置としては、協和界面科学株式会社製の接触角計DropMaster DMo-501またはその相当品を用いることができる。
【0049】
清浄なシリコンウェーハの表面は疎水性である。シリコンウェーハの表面に付着している水溶性高分子は、脱イオン水に対する静的接触角を低下させる。このため、W0の値が小さい水溶性高分子は、試験片表面をよく保護していると考えられる。一方、W1の値が大きい水溶性高分子は、SC-1洗浄液を用いる洗浄処理(以下、SC-1処理ともいう。)によって除去されやすい傾向にあるといえる。したがって、脱離パラメータは、水溶性高分子による表面保護効果や、SC-1処理による水溶性高分子の除去のしやすさの指標となり得る。
【0050】
脱離パラメータが150以上である水溶性高分子Aを含むリンス用組成物を用いてリンスを行うことで上記表面欠陥数の減少効果が得られる理由は、特に限定的に解釈されるものではないが、脱離パラメータが高い水溶性高分子は、リンス中は研磨対象物表面をよく保護することによりPID数を低減し、SC-1洗浄液処理においては研磨用組成物に含まれる砥粒とともに除去されやすいため、砥粒残渣数を低減できると考えられる。その結果、上記リンス用組成物によると、PID数低減と砥粒残渣数低減を好適に両立することができる。このような水溶性高分子Aを含むリンス用組成物を用いて、研磨組成物により研磨された研磨対象物をリンスすることで、研磨対象物の欠陥数を低減することができる。かかる観点から、いくつかの態様において、水溶性高分子Aの脱離パラメータは、例えば170以上であってよく、200以上でもよく、300以上でもよい。
【0051】
水溶性高分子Aとしては、脱離パラメータが150以上であれば特に限定されず、上述のような公知の水溶性高分子のなかから該当する1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。ここに開示される好ましい脱離パラメータを示すものが得られやすいことから、いくつかの態様において、水溶性高分子Aとしてノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
例えば、水溶性高分子Aは、上述したビニルアルコール系ポリマー、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子含有ポリマー、セルロース誘導体、デンプン誘導体、等のうち、脱離パラメータが150以上である水溶性高分子から選択され得る。いくつかの態様において、水溶性高分子Aとしては、窒素原子含有ポリマーを好ましく選択し得る。なかでも、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状または環状アミド等の、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含む窒素原子含有ポリマーが好ましい。
【0052】
リンス用組成物における水溶性高分子Aの含有量(重量基準の含有量)は、特に限定されない。例えば1.0×10-4重量%以上とすることができる。欠陥数低減等の観点から、好ましい含有量は2.0×10-4重量%以上であり、より好ましくは5.0×10-4重量%以上、さらに好ましくは1.0×10-3重量%以上、例えば2.0×10-3重量%以上である。また、洗浄効率等の観点から、上記含有量を0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.05重量%以下(例えば0.02重量%以下)とすることがさらに好ましい。なお、上記リンス用組成物が2種以上の脱離パラメータが150以上である水溶性高分子を含む場合、上記水溶性高分子Aの含有量とは該リンス用組成物に含まれる全ての脱離パラメータが150以上である水溶性高分子の合計含有量(重量基準の含有量)のことをいう。
【0053】
水溶性高分子Aの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。ここに開示される好適な脱離パラメータを得やすくする観点から、通常、水溶性高分子AのMwは、200×10以下、150×10以下、または100×10以下であることが好ましい。洗浄性向上の観点から、いくつかの態様において、水溶性高分子AのMwは、例えば50×10以下であってよく、30×10以下でもよく、20×10以下でもよく、10×10以下でもよく、5×10以下でもよく、3×10以下でもよい。また、欠陥数の低減効果を得やすくする観点から、水溶性高分子AのMwは、通常、2000以上が適当であり、3000以上でもよく、3500以上でもよい。ここに開示される技術は、Mwが1×10以上または2×10以上の水溶性高分子Aを用いる態様でも実施され得る。なお、本明細書において、水溶性高分子および後述する界面活性剤の重量平均分子量としては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)または化学式から算出される分子量を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定は、例えば下記の条件で行うことができる。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10~8/0~2
流速:1mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0054】
(水溶性高分子B)
ここに開示されるリンス用組成物は、水溶性高分子として、脱離パラメータが150以上である水溶性高分子Aに加えて、脱離パラメータが150未満である水溶性高分子Bを含んでいてもよい。水溶性高分子Aと組み合わせて水溶性高分子Bをさらに含むリンス用組成物は、リンス中の研磨対象物の表面保護等の観点から好ましく、また、リンス後はSC-1処理による除去のされやすさや、砥粒残渣数低減等の観点から好ましい。かかる観点から、いくつかの態様において、水溶性高分子Bの脱離パラメータは、例えば140未満であってよく、130以下であってもよく、120以下であってもよい。
【0055】
水溶性高分子Bとしては、脱離パラメータが150未満であれば特に限定されず、上述のような公知の水溶性高分子のなかから該当する1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。いくつかの態様において、水溶性高分子Bとしてノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
例えば、水溶性高分子Bは、上述したビニルアルコール系ポリマー、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子含有ポリマー、セルロース誘導体、デンプン誘導体、等のうち、脱離パラメータが150未満である水溶性高分子から選択され得る。いくつかの態様において、水溶性高分子Bとしてビニルアルコール系ポリマーを好ましく採用し得る。ここに開示されるリンス用組成物の一好適例として、水溶性高分子Aとして脱離パラメータが150以上の窒素原子含有ポリマーを含み、さらに水溶性高分子Bとして脱離パラメータが150未満のビニルアルコール系ポリマーを含むリンス用組成物が挙げられる。
【0056】
ここに開示されるリンス用組成物が水溶性高分子Bを含む場合、リンス用組成物における水溶性高分子Bの含有量(重量基準の含有量、2種以上の水溶性高分子Bを含む場合には、それらの合計含有量)は、特に限定されない。例えば1.0×10-4重量%以上とすることができる。欠陥数低減等の観点から、好ましい含有量は2.0×10-4重量%以上であり、より好ましくは5.0×10-4重量%以上、さらに好ましくは1.0×10-3重量%以上、例えば2.0×10-3重量%以上である。また、洗浄効率等の観点から、上記含有量を0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.05重量%以下(例えば0.02重量%以下)とすることがさらに好ましい。
【0057】
リンス用組成物に含まれる水溶性高分子全体の含有量に占める水溶性高分子Bの含有量(2種以上の水溶性高分子Bを含む場合には、それらの合計含有量)の割合は、例えば25重量%以上であってよく、40重量%以上が好ましく、50重量%以上でもよく、50重量%超でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、95重量%以上でもよい。なお、本明細書において上記水溶性高分子全体の含有量とは、該リンス用組成物に含まれる全ての水溶性高分子の合計含有量(重量基準の含有量)のことをいう。
【0058】
水溶性高分子Bの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。通常、水溶性高分子BのMwは、200×10以下、150×10以下、または100×10以下であることが好ましい。洗浄性向上の観点から、いくつかの態様において、水溶性高分子BのMwは、例えば50×10以下であってよく、30×10以下でもよく、20×10以下でもよく、10×10以下でもよく、5×10以下でもよく、3×10以下でもよい。また、水溶性高分子Aとの組合せでリンス後の研磨対象物の欠陥数低減効果を得やすくする観点から、水溶性高分子BのMwは、通常、2000以上が適当であり、3000以上でもよく、3500以上でもよい。ここに開示される技術は、Mwが1×10以上または2×10以上の水溶性高分子Bを用いる態様でも実施され得る。
【0059】
<塩基性化合物>
ここに開示されるリンス用組成物は、さらに塩基性化合物を含有していてもよい。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、リンを含む塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。リンを含む塩基性化合物の例としては、第四級ホスホニウム化合物が挙げられる。
【0060】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0061】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を好ましく用いることができる。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH、F、Cl、Br、I、ClO 、BH 等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOHである第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。
【0062】
これらの塩基性化合物のうち、例えば、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物を好ましく使用し得る。なかでも水酸化カリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム)およびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0063】
<界面活性剤>
ここに開示されるリンス用組成物には、必要に応じて、界面活性剤を含有させることができる。リンス用組成物に界面活性剤を含有させることにより、リンス後の研磨対象物表面の欠陥数をよりよく低減し得る。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。通常は、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。上記界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン構造を含有する界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
ポリオキシアルキレン構造を含有するノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック型共重合体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体)、EOとPOとのランダム共重合体およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。
【0065】
界面活性剤の重量平均分子量(Mw)は、典型的には2000未満であり、洗浄性等の観点から1900以下(例えば1800未満)であることが好ましい。また、界面活性剤のMwは、界面活性能等の観点から、通常、200以上であることが適当であり、欠陥数低減効果等の観点から250以上(例えば300以上)であることが好ましい。界面活性剤のMwのより好ましい範囲は、該界面活性剤の種類によっても異なり得る。例えば、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる場合、そのMwは、1500以下であることが好ましく、1000以下(例えば500以下)であってもよい。また、例えば界面活性剤としてPEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体を用いる場合、そのMwは、例えば500以上であってよく、1000以上であってもよく、さらには1200以上であってもよい。
【0066】
ここに開示されるリンス用組成物が界面活性剤を含む場合、その含有量は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲であれば特に制限はない。通常は、洗浄性等の観点から、リンス用組成物における界面活性剤の含有量(重量基準の含有量)は、例えば1.0×10-5重量%以上とすることができる。欠陥数低減等の観点から、好ましい含有量は2.0×10-5重量%以上であり、より好ましくは5.0×10-5重量%以上、さらに好ましくは1.0×10-4重量%以上、例えば2.0×10-4重量%以上である。また、洗浄効率等の観点から、上記含有量を0.02重量%以下とすることが好ましく、0.01重量%以下とすることがより好ましく、0.005重量%以下(例えば0.002重量%以下)とすることがさらに好ましい。あるいは、組成の単純化等の観点から、ここに開示されるリンス用組成物は、界面活性剤を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0067】
<水>
ここに開示されるリンス用組成物は、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、リンス用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
【0068】
<その他の成分>
その他、ここに開示されるリンス用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0069】
ここに開示されるリンス用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、リンス用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量(例えば、リンス用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)の酸化剤が不可避的に含まれているリンス用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しないリンス用組成物の概念に包含され得る。
【0070】
ここに開示されるリンス用組成物は、砥粒を含まない。なお、リンス用組成物が砥粒を含まないとは、少なくとも意図的には砥粒を含有させないことをいう。砥粒を含まない該リンス用組成物を用いてリンスを行うと、リンス後の砥粒残渣数を低減させることができる。
【0071】
<pH>
ここに開示されるリンス用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上である。リンス工程の直前に使用した研磨用組成物との相溶性等の観点から、リンス用組成物のpHは、通常、12.0以下であることが適当であり、11.0以下であることが好ましく、10.8以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましい。
【0072】
pHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0073】
<リンス液>
ここに開示されるリンス用組成物は、典型的には該リンス用組成物を含むリンス液の形態で研磨後の研磨対象物の表面上に供給され、その研磨対象物のリンスに用いられる。上記リンス液は、例えば、ここに開示されるいずれかのリンス用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該リンス用組成物をそのままリンス液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術におけるリンス用組成物の概念には、研磨後の研磨対象物に供給されて該研磨対象物のリンスに用いられるリンス液と、希釈してリンス液として用いられる濃縮液(リンス液の原液)との双方が包含される。
【0074】
<濃縮液>
ここに開示されるリンス用組成物は、研磨後の研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、リンス液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態のリンス用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈してリンス液を調製し、該リンス液を研磨後の研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0075】
<リンス用組成物の調製>
ここに開示される技術において使用されるリンス用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、リンス用組成物の構成成分のうち少なくとも水溶性高分子Aを含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0076】
リンス用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、リンス用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0077】
<用途>
ここに開示されるリンス用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨後のリンスに適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。
【0078】
ここに開示されるリンス用組成物は、シリコンからなる表面の研磨(典型的にはシリコンウェーハの研磨)の後のリンスに特に好ましく使用され得る。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。
【0079】
ここに開示されるリンス用組成物は、研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)のポリシング工程後のリンスに好ましく適用することができる。研磨対象物には、ポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程において研磨対象物に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0080】
ここに開示されるリンス用組成物は、研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)の仕上げ工程またはその直前のポリシング工程の研磨後のリンスに用いることが効果的であり、仕上げポリシング工程後のリンスにおける使用が特に好ましい。ここで、仕上げポリシング工程とは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。
【0081】
<リンス方法>
ここに開示されるリンス用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨後の研磨対象物のリンスに使用することができる。以下、ここに開示されるリンス用組成物を用いて研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)を研磨した後にリンスする方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかのリンス用組成物を含むリンス液を用意する。上記リンス液を用意することには、リンス用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えてリンス液を調製することが含まれ得る。あるいは、リンス用組成物をそのままリンス液として使用してもよい。
【0082】
次いで、そのリンス液を研磨後の研磨対象物に供給し、常法によりリンスする。例えば、シリコンウェーハの仕上げポリシング工程後のリンスを行う場合、典型的には、仕上げポリシング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置に取り付け、あるいは仕上げポリシング工程を行った研磨装置に取り付けたまま、該研磨装置のパッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面にリンス液を供給する。典型的には、上記リンス液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面にパッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかるリンス工程を経て研磨対象物のリンスが完了する。
【0083】
上記リンス工程に使用されるパッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等のパッドを用いることができる。各パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まないパッドが好ましく用いられる。
【0084】
ここに開示されるリンス用組成物を用いて行うリンスは、研磨工程の直後に、研磨工程に用いた研磨装置に取り付けられたままの研磨対象物に対して、研磨用定盤と同一の定盤上で行うことができる。あるいは、研磨工程後、研磨対象物を研磨装置から外して別の定盤に載せ換えてリンスを行ってもよい。作業効率等の観点から、研磨工程に用いた研磨装置の定盤上においてでリンスを行うことが好ましい。
【0085】
ここに開示されるリンス用組成物の使用時の温度は特に限定されないが、5~60℃であることが好ましい。
【0086】
ここに開示されるリンス用組成物を用いてリンスされた研磨対象物は、典型的には洗浄される。洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液)、SC-2洗浄液(HClとHとHOとの混合液)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば室温(典型的には約15℃~25℃)以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【実施例0087】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0088】
<リンス用組成物の調製>
(実施例1)
水溶性高分子、塩基性化合物、界面活性剤および脱イオン水を混合して、本例に係るリンス用組成物を調製した。水溶性高分子としては、脱離パラメータが174、重量平均分子量が約350,000のポリアクリロイルモルホリン(以下「PACMO」と表記)と、脱離パラメータが117、重量平均分子量が約100,000、けん化度が97.5%以上のポリビニルアルコール(PVA)とを使用した。PACMOの含有量は0.004%とした。PVAの含有量は0.005%とした。塩基性化合物としてはアンモニアを使用し、その含有量を0.005%とした。界面活性剤としては、エチレンオキサイド付加モル数5のポリオキシエチレンデシルエーテル(以下、「C10PEO5」と表記)を使用し、その含有量を0.0008%とした。
【0089】
(実施例2)
実施例1の組成からPACMOの含有量を0.002%とした他は実施例1と同様にして、本例に係るリンス用組成物を調製した。
【0090】
(比較例1)
水溶性高分子として、脱離パラメータが140、重量平均分子量が約250,000のヒドロキシエチルセルロース(以下「HEC」と表記)を使用し、その含有量を0.013%とした他は実施例1と同様にして、本例に係るリンス用組成物を調製した。
【0091】
(比較例2)
本例では、リンス用組成物を用いたリンスを行わなかった。
【0092】
<シリコンウェーハの研磨、リンス、および洗浄>
研磨対象物として、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、COPフリー)を下記の研磨条件1により予備ポリシングした。予備ポリシングは、脱イオン水中に砥粒(平均一次粒子径が35nmのコロイダルシリカ)0.95%および水酸化カリウム0.065%を含む研磨液を使用して行った。
【0093】
[研磨条件1]
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤の回転速度:20rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製 製品名「POLYPAS27NX」
予備研磨液の供給レート:1L/min
予備研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2分
【0094】
上記予備ポリシング後のシリコンウェーハを下記の研磨条件2により仕上げポリシングした。研磨液としては、砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物、界面活性剤および脱イオン水を混合して調製した研磨用組成物を使用した。砥粒としてはコロイダルシリカ(平均一次粒径:25nm)を使用し、その含有量を0.18%とした。水溶性高分子としては、重量平均分子量が約250,000のHECと、重量平均分子量が約45,000のN-ビニルピロリドン単独重合体(以下「PVP」と表記)とを使用した。HECの含有量は0.004%とした。PVPの含有量は0.003%とした。塩基性化合物としてはアンモニアを使用し、その含有量を0.005%とした。界面活性剤としては、C10PEO5を使用し、その含有量を0.0002%とした。
【0095】
[研磨条件2]
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤の回転速度:30rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製 製品名「POLYPAS27NX」
研磨液の供給レート:2L/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2.5分
【0096】
上記で調製した各例に係るリンス用組成物をリンス液として使用し、上記仕上げポリシング後のシリコンウェーハを下記のリンス条件によりリンスした。
【0097】
[リンス条件]
装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨装置 型式「PNX-332B」
荷重:5kPa
定盤の回転速度:30rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:30rpm
パッド:フジボウ愛媛株式会社製 製品名「POLYPAS27NX」
リンス液の供給レート:1L/min
リンス液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
リンス時間:10秒
【0098】
リンス後のシリコンウェーハを装置から取り外し、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。具体的には、超音波発振器を取り付けた洗浄槽を用意し、該洗浄槽に上記洗浄液を収容して60℃に保持した。研磨後のシリコンウェーハを上記洗浄槽に6分浸漬し、その後超純水によるリンスを行った。この工程を2回繰り返した後、シリコンウェーハを乾燥させた。
【0099】
<欠陥数測定>
洗浄後のシリコンウェーハ表面につき、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「Surfscan SP2XP」を用いて、表面欠陥を検出した。検出された各欠陥について、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の欠陥レビューSEM(走査電子顕微鏡)、商品名「Review-SEM RS6000」を用いて解析を行い、砥粒残渣数およびPID数として欠陥数を計測した。リンスを実施した各例の砥粒残渣数およびPID数について、リンスを実施しなかった比較例1の砥粒残渣数およびPID数をそれぞれ100として相対比を算出した。結果を表1に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示されるように、水溶性高分子として脱離パラメータが150以上であるPACMOと脱離パラメータが150未満である非変性PVAを含むリンス用組成物を用いて研磨対象物をリンスした実施例1および2は、研磨後にリンスを実施しなかった比較例1に対して、研磨対象物表面の欠陥数(すなわち砥粒残渣数およびPID数)について、ともに明らかな減少が確認された。一方、水溶性高分子として脱離パラメータが150未満であるHECのみを含むリンス用組成物を用いて研磨対象物をリンスした比較例2では、研磨後にリンスを実施しなかった比較例1に対して研磨対象物表面の砥粒残渣数は減少していたものの、PIDの減少は認められず、むしろ増加していた。
【0102】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子を含み、砥粒を含まないリンス用組成物であって、
前記水溶性高分子として、以下の式(I):
W1/W0×100 (I)
(ここで、前記式(I)中のW0は、シリコンウェーハの表面に評価対象の水溶性高分子の水溶液を塗布した後に水洗して得られるSC-1洗浄処理前ウェーハの脱イオン水に対する静的接触角であり、前記式(I)中のW1は、前記SC-1洗浄処理前ウェーハに29%アンモニア水と31%過酸化水素水と水とを0.5:0.5:8の体積比で含む室温のSC-1洗浄液で10秒間処理する洗浄処理を施して得られるSC-1処理後ウェーハの脱イオン水に対する静的接触角である。);
により表される脱離パラメータ150以上である水溶性高分子Aを含み、
前記水溶性高分子として、前記式(I)により表される脱離パラメータが150未満である水溶性高分子Bをさらに含み、
前記水溶性高分子Bの重量平均分子量は2×10 以上である、リンス用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子Aとして窒素原子含有ポリマーを含む、請求項に記載のリンス用組成物。
【請求項3】
さらに界面活性剤および塩基性化合物を含む、請求項1または2に記載のリンス用組成物。
【請求項4】
砥粒を含む研磨用組成物を用いる研磨工程により研磨された研磨対象物をリンスするリンス方法であって、
前記研磨対象物に請求項1からのいずれか一項に記載のリンス用組成物を含むリンス液を供給してリンスするリンス工程を含む、リンス方法。
【請求項5】
前記リンス工程では、前記研磨工程に用いた研磨装置の定盤上において前記研磨対象物に前記リンス液を供給する、請求項に記載のリンス方法。
【請求項6】
前記研磨対象物はシリコンウェーハである、請求項4または5に記載のリンス方法。