(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168496
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231116BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172069
(22)【出願日】2023-10-03
(62)【分割の表示】P 2021207173の分割
【原出願日】2016-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良広
(57)【要約】
【課題】高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式:Li
xNi
1―y―zCo
yAl
zO
2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有し、
炭素含有量が0.06質量%以下であり、ホウ素(B)の含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有し、
炭素含有量が0.06質量%以下であり、ホウ素(B)の含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有し、
炭素含有量が0.06質量%以下であり、ケイ素(Si)の含有量が0.05質量%以上0.30質量%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有し、
炭素含有量が0.03質量%以上0.06質量%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
リン(P)の含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下である請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子が、一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、二次粒子の平均粒子径が3μm以上20μm以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、および非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、セパレータを基本要素として構成されたセル構造を有しており、正極および負極には、リチウムを脱離および挿入することができる活物質(正極活物質、負極活物質)が用いられている。
【0004】
上記正極に用いられる正極活物質には、通常、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物が用いられており、具体的には、層状系材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)や、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、スピネル系材料としてのマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、オリビン系材料としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO4)等が一般的である。さらに、高エネルギー密度化を目指して、高電圧(5V級)で充放電を行うスピネル系材料としてのリチウムマンガンニッケル酸化物(LiMn3/2Ni1/2O4等)や、高容量を有する層状系材料としての固溶体系(「過剰系」とも呼ばれる)マンガン含有リチウム複合酸化物(例えば、Li2MnO3-LiMO2[M:Ni、Mn、Co等])等の開発も行われている。
【0005】
上記正極活物質の中でも、コバルト酸リチウムは、4V級の高い電圧が得られ、比較的優れた充放電特性とサイクル特性が得られることから、携帯電子機器を中心に広く普及している。しかし、コバルトが高価で価格変動が大きいことが課題となっており、コバルトよりも安価なニッケルやマンガンを用いたニッケル酸リチウムやマンガン酸リチウムなどが注目されている。
【0006】
しかし、マンガン酸リチウムについては、熱安定性ではコバルト酸リチウムに比べて優れているものの、充放電容量が他の正極活物質に比べて小さく、また充放電を繰り返すとマンガンが電解液に溶出してサイクル特性が低下するなどの欠点があり、リチウムイオン二次電池として実用上の課題が多い。
【0007】
一方、ニッケル酸リチウムは、コバルト酸リチウムよりも大きな充放電容量が得られるが、熱安定性やサイクル特性がコバルト酸リチウムに劣るという欠点があった。そこで、ニッケル酸リチウムを構成するニッケルの一部を別種の元素で置換し、熱安定性やサイクル特性を向上させたリチウムニッケル複合酸化物が開発されている。具体的には、ニッケルの一部をコバルトとアルミニウムで置換したリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiXCoyAlZO2、x+y+z=1)、ニッケルの一部をコバルトとマンガンで置換したリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)等がある。
【0008】
ところで、上述した正極活物質については、例えば高温高湿の環境下に晒した場合に、大気中の水分や二酸化炭素等との反応による劣化を生じ、リチウムイオン二次電池の正極として用いた場合において充放電特性やサイクル特性が低下する問題があった。また、該正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極として用いた場合においては電解液との反応や電解液への金属イオン溶出などによる正極活物質の表面の劣化を生じ、充放電特性やサイクル特性が低下してしまう問題がある。
【0009】
上記問題を解決するため、正極活物質を表面処理し、大気に含まれる水分や二酸化炭素との接触による劣化を抑制すると共に、リチウムイオン二次電池の正極として用いた場合においては電解液との接触による正極活物質の表面劣化を抑制する方法が試みられている。
【0010】
例えば特許文献1には、ガス状の金属ハロゲン化物と、リチウム含有複合酸化物とを接触させて、リチウム含有複合酸化物の表面の少なくとも一部を金属ハロゲン化物で被覆する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、ガス状の金属ハロゲン化物は腐食性があり、また大気中の水分と反応してフッ酸(HF)や塩酸(HCl)等が生成するため、安全性の面で好ましい被膜形成方法とはいえなかった。
【0012】
また、特許文献2には、コア粒子であるリチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物を含む水懸濁液に、A原料としてA元素の硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、シュウ酸塩又はA元素のアルコキシドを用いるとともに、中和剤としてフッ素含有の溶液を用いて、リチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物の粒子表面にA元素の金属塩とフッ素との添加比を1:k(A元素の価数≦k≦A元素の価数×2)とする少なくともA元素とフッ素とを含有する表面処理成分を析出させた後、酸素雰囲気の下300~700℃の温度範囲で加熱処理するリチウム複合化合物粒子粉末の製造方法が開示されている。
【0013】
しかしながら、コア粒子であるリチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物を含む水懸濁液を調製する際に、リチウム-遷移金属元素(TM)からなる複合酸化物表面のリチウムが水に溶出してしまうことがあり、充放電容量の低下が懸念される。
【0014】
また、上記特許文献1、2に開示された製造方法により非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した場合でも、高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下の抑制の程度は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008-251480号公報
【特許文献2】特開2013-232438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び
前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有し、
炭素含有量が0.06質量%以下であり、ホウ素(B)の含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における接触工程で用いる反応装置の説明図。
【
図2】実施例、および比較例で用いたリチウムニッケル複合酸化物の粒子のSEM画像。
【
図3】実施例1に係る接触工程後のリチウムニッケル複合酸化物の粒子のSEM画像。
【
図4】実施例1に係る加熱処理工程後のリチウムニッケル複合酸化物の粒子のSEM画像。
【
図5】ナイキストプロット、及びフィッティング計算に用いた等価回路の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[正極活物質]
以下に、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0021】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子、及び該リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有することができる。そして、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、炭素含有量を0.06質量%以下とすることができる。
【0022】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、上述のように一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子を有することができる。
【0023】
上記一般式において、リチウム(Li)の含有量を示す原子比xの範囲は、0.90≦x≦1.20であることが好ましく、0.95≦x≦1.15であることがより好ましい。これは、原子比xが0.90未満であると二次電池の充放電容量が低下する場合があり、原子比xが1.20を超えると二次電池の熱安定性が低下する場合があるからである。
【0024】
また、上記一般式中、コバルト(Co)の含有量を示す原子比yの範囲は、0.01≦y≦0.20であることが好ましく、0.03≦y≦0.15であることがより好ましい。これは、原子比yが0.01未満であると二次電池のサイクル特性が十分でない場合があり、原子比yが0.20を超えるとニッケル含有量の減少により二次電池の充放電容量が低下する場合があるからである。
【0025】
さらに、上記一般式中、アルミニウム(Al)の含有量を示す原子比zの範囲は、0.01≦z≦0.10であることが好ましく、0.01≦z≦0.05であることがより好ましい。これは、原子比zが0.01未満であると二次電池の熱安定性が低下する場合があり、原子比zが0.10を超えると正極活物質に固溶せず、異相が生じて二次電池の充放電容量が低下する場合があるからである。
【0026】
そして、上記一般式中、ニッケル(Ni)の含有量を示す原子比1-y-zは、0.70以上0.98以下の範囲内であることが好ましく、0.80以上0.96以下の範囲内であることがより好ましい。これは、1-y-zが0.70未満であると二次電池の充放電容量が低下する場合があり、1-y-zが0.98を超えると二次電池の熱安定性が十分でない場合があるからである。
【0027】
本実施形態の正極活物質の炭素含有量は0.06質量%以下とすることができる。正極活物質の炭素含有量を0.06質量%以下とすることで耐候性試験後、すなわち高温高湿環境下、例えば温度80℃以上、湿度60%以上の環境下に晒した後でも充放電容量を高く保つことができる。
【0028】
本実施形態の正極活物質の炭素含有量を0.06質量%以下とすることで、高温高湿環境下に晒した場合でも、充放電容量を高く保つことができる理由は明らかではないが、本発明の発明者は以下のように推認している。
【0029】
本実施形態の正極活物質は、上述のようにリチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウムニッケル複合酸化物粒子の少なくとも表面の一部に配置された、ホウ素、リン、及びケイ素から選択される一種以上の元素と、リチウムと、酸素とを含有する領域(以下、「ホウ素等含有領域」とも記載する)とを有することができる。そして、本実施形態の正極活物質の炭素含有量を0.06質量%以下とすることで、該ホウ素等含有領域に含まれる炭素の量、より具体的には有機物の含有量も低減することができ、該ホウ素等含有領域を緻密化できると考えられる。このため、本実施形態の正極活物質を高温高湿の環境下に晒してもリチウムニッケル複合酸化物粒子は表面劣化が起り難く、高い充放電容量が得られ、正極抵抗も低減することができると考えられる。
【0030】
本実施形態の正極活物質の炭素含有量は0.05質量%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態の正極活物質の炭素含有量は少ない方が好ましいことから、その下限値は特に限定されず、例えば0以上とすることができる。ただし、炭素含有量は例えば後述する加熱処理を行うことで低減できるが、炭素含有量低減を目的として長時間加熱処理を行うと、リチウムニッケル複合酸化物の組成が目的組成からずれる恐れがあるので、炭素含有量は過度に低減しないことが好ましい。このため、炭素含有量は、例えば0.02質量%以上とすることが好ましい。
【0031】
本実施形態の正極活物質が含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子で構成することができる。そして、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子は、平均粒子径が3μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましく、5μm以上15μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
これは、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径が3μm未満であると、正極を形成する時にリチウムニッケル複合酸化物粒子の充填密度が低下し、二次電池の充放電容量が低下してしまうからである。一方、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径が20μmを超えると、二次電池における正極活物質と電解液の接触面積が減少するため、二次電池の充放電容量が低下してしまうことがあるからである。
【0033】
なお、ここでの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算平均値を意味し、本明細書内で平均粒子径は同様の意味を有する。
【0034】
本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域(ホウ素等含有領域)を有することができる。なお、既述のようにリチウムニッケル複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子で構成することができ、上記ホウ素等含有領域は、例えばリチウムニッケル複合酸化物の粒子を構成する一次粒子および二次粒子の表面に、配置することができる。
【0035】
なお、ホウ素等含有領域は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部にホウ素、リン、及びケイ素から選択される一種以上の元素と、リチウムと、酸素とを含有する領域として存在していればよく、リチウムニッケル複合酸化物の粒子とホウ素等含有領域との間に明確な界面が存在する必要はない。
【0036】
例えば、ホウ素等含有領域は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面の一部を覆う領域として形成、配置することができる。また、ホウ素等含有領域は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、該表面全体を覆う被膜として形成、配置されていてもよい。なお、ホウ素等含有領域が、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面の一部を覆う領域として形成、配置されている場合、表面全体を覆う被膜として形成、配置されている場合、のいずれの場合でも、リチウムニッケル複合酸化物粒子とホウ素等含有領域との間に明確な界面が存在する必要はない。
【0037】
ただし、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素がリチウムニッケル複合酸化物粒子の粒子内部に完全に固溶し、リチウムニッケル複合酸化物の粒子内部と、その粒子表面とで組成に差異がない場合、高い充放電特性を得る効果は得られず、却って充放電特性が大幅に低下する場合がある。このため、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に偏って存在していることが好ましい。例えば、ホウ素等含有領域が、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面にのみ存在するように構成することもできる。
【0038】
上述したホウ素等含有領域を構成する元素の存在形態は特に限定されない。例えばホウ素等含有領域では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在するリチウム成分(水酸化リチウム、炭酸リチウムなど)と、ホウ素、リン、及びケイ素から選択された一種以上の元素とが反応して、Li-O-B結合、Li-O-P結合、Li-O-Si結合等を有する形態となっていると考えられる。
【0039】
本実施形態の正極活物質は、ここまで説明したように、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素、リン、及びケイ素から選択される一種以上の元素と、リチウムと、酸素とを含有する領域、すなわちホウ素等含有領域を有することができる。従って、本実施形態の正極活物質は、ホウ素、リン、及びケイ素から選択される一種以上の元素を含有することができる。この際、ホウ素、リン、及びケイ素から選択される一種以上の元素の含有量は特に限定されるものではなく、例えば本実施形態の正極活物質の使用する環境や、保存する環境等に応じて任意に選択することができる。
【0040】
例えば、本実施形態の正極活物質がホウ素を含有する場合、本実施形態の正極活物質のホウ素(B)の含有量は0.01質量%以上0.10質量%以下であることが好ましい。これは、例えば、本実施形態の正極活物質を非水系電解質二次電池の正極活物質層形成用ペーストに適用した場合に、ホウ素の含有量が上記範囲にある場合、電池特性を損なうことなく正極活物質層形成用ペーストの安定性向上(ゲル化抑制)が可能となり、好ましいからである。
【0041】
また、本実施形態の正極活物質がリンを含有する場合、本実施形態の正極活物質のリン(P)の含有量は0.01質量%以上0.10質量%以下であることが好ましい。これは、例えば、本実施形態の正極活物質を非水系電解質二次電池の正極活物質層形成用ペーストに適用した場合に、リンの含有量が上記範囲にある場合、電池特性を損なうことなく正極活物質層形成用ペーストの安定性向上(ゲル化抑制)が可能となり、好ましいからである。
【0042】
また、本実施形態の正極活物質がケイ素を含有する場合、本実施形態の正極活物質のケイ素(Si)の含有量は、0.05質量%以上0.30質量%以下であることが好ましい。これは、例えば、本実施形態の正極活物質を非水系電解質二次電池の正極活物質層形成用ペーストに適用した場合に、ケイ素の含有量が上記範囲にある場合、電池特性を損なうことなく正極活物質層形成用ペーストの安定性向上(ゲル化抑制)が可能となり、好ましいからである。
【0043】
以上に説明した本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有することができる。また、炭素含有量を0.06質量%以下とすることができる。
【0044】
このため、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質とすることができる。すなわち、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質を高温高湿環境下に晒した後、該正極活物質を正極の材料として用いた二次電池を形成した場合でも高い充放電特性を発揮することができる。
【0045】
さらに、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、二次電池の正極として好適に用いることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
次に本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。
【0046】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)は、以下の工程を有することができる。
【0047】
一般式:LixNi1―y―zCoyAlzO2(0.90≦x≦1.20、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.10)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物を含む気体と、を接触させる接触工程。
接触工程の後、得られた物質を、600℃以上800℃以下の温度で加熱処理する加熱工程。
【0048】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により、既述の非水系電解質二次電池用正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項については、一部説明を省略する。
【0049】
以下、各工程について具体的に説明する。
(a)接触工程
接触工程では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物の蒸気を含む気体とを接触させることができる。接触工程を実施することで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面にホウ素等含有領域を形成することができる。
【0050】
接触工程でホウ素化合物を用いる場合、該ホウ素化合物としては特に限定されるものではないが、揮発性を有するホウ素化合物であることが好ましく、沸点が300℃以下のホウ素化合物であることがより好ましく、沸点が250℃以下のアルキルホウ酸であることがさらに好ましい。
【0051】
なお、上記沸点は大気圧(101.325kPa)下での沸点を意味しており、以下、本明細書において特に断らない限り、沸点は大気圧下での沸点を意味する。
【0052】
接触工程で用いるホウ素化合物としては、例えば、沸点が68℃であるホウ酸トリメチル(トリメトキシボラン)[B(OCH3)3]、及び沸点が120℃のホウ酸トリエチル(トリエトキシボラン)[B(OC2H5)3]から選択される一種以上を特に好ましく用いることができる。
【0053】
接触工程でリン化合物を用いる場合、該化合物としては特に限定されるものではないが、揮発性を有するリン化合物であることが好ましく、沸点が300℃以下のリン化合物であることがより好ましく、沸点が250℃以下のアルキルリン酸であることがさらに好ましい。
【0054】
接触工程で用いるリン化合物としては、例えば、沸点が111℃である亜リン酸トリメチル(トリメトキシフォスフィン)[P(OCH3)3]、沸点が156℃である亜リン酸トリエチル(トリエトキシフォスフィン)[P(OC2O5)3]、沸点が197℃であるリン酸トリメチル(トリメトキシフォスフィンオキシド)[P(O)(OCH3)3]、沸点が215℃であるリン酸トリエチル(トリエトキシフォスフィンオキシド)[P(O)(OC2H5)3]、及び沸点が174℃であるリン酸ジメチル(ジメチルフォスフェイト)[P(O)(OH)(OCH3)2]から選択される一種以上を特に好ましく用いることができる。
【0055】
接触工程でケイ素化合物を用いる場合、該ケイ素化合物としては特に限定されるものではないが、揮発性を有するケイ素化合物であることが好ましく、沸点が300℃以下のケイ素化合物であることがより好ましく、沸点が250℃以下のアルキルケイ酸であることがさらに好ましい。
【0056】
接触工程で用いるケイ素化合物としては、例えば、沸点が81℃であるジメトキシジメチルシラン[Si(CH3)2(OCH3)2]、沸点が83℃であるトリメトキシシラン[Si(H)(OCH3)3]、沸点が103℃であるトリメトキシメチルシラン[Si(CH3)(OCH3)3]、沸点が122℃であるオルトケイ酸テトラメチル(テトラメトキシシラン)[Si(OCH3)4]、沸点が123℃であるビニルトリメトキシシラン[Si(C2H3)(OCH3)3]、沸点が143℃であるトリエトキシメチルシラン[Si(CH3)(OC2H5)3]、沸点が165℃であるオルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)[Si(OC2H5)4]、2kPaにおける沸点が92℃である3-アミノプロピルトリメトキシシラン[Si(C3H6NH2)(OCH3)3]から選択される一種以上を特に好ましく用いることができる。
【0057】
接触工程では、例えば
図1に示すように、反応容器1内に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子を収納する第1収納容器3、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物を収納する第2収納容器5を設置する。そして、それぞれの収納容器内に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子2、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4を入れて、雰囲気ガス中でそのまま放置、またはファン6を回転させて実施できる。
【0058】
なお、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物として、複数の種類の化合物を用いる場合には、該化合物の種類の数に応じて、複数の第2収納容器5を設置することもできる。また、第2収納容器5の中に複数の種類の化合物を混合して設置することもできる。
【0059】
反応容器1は、雰囲気ガスやホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物の蒸気が外部に漏れないように密閉性の高い容器であることが好ましい。反応容器1の材質はホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物の蒸気と反応しなければよく、特に限定されるものではない。反応容器1の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック;アルミナ、石英、ガラス等のセラミック;ステンレス(SUS304、SUS316等)、チタン等の金属等が挙げられる。
【0060】
第1収納容器3、第2収納容器5についても、それぞれリチウムニッケル複合酸化物の粒子2、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4と反応せず、耐久性を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、用いるリチウムニッケル複合酸化物の粒子2、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の種類等に応じて任意に選択することができる。
【0061】
第1収納容器3、第2収納容器5の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン等のプラスチック;アルミナ、石英、ガラス等のセラミック;ステンレス、チタン等の金属等が挙げられる。
【0062】
反応容器1内の雰囲気ガスについても特に限定されず、用いるリチウムニッケル複合酸化物の粒子2やホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の種類等に応じて任意に選択することができる。ただし、反応容器1内の雰囲気ガスは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子2やホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4と反応しない気体であることが好ましい。反応容器1内の雰囲気ガスとしては、例えば、空気、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0063】
なお、炭酸ガス(CO2)や水分(H2O)は、一般的にリチウムニッケル複合酸化物の粒子2や、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4と反応し易い。このため、炭酸ガスや、水分の含有量が少ない雰囲気ガスを用いることが好ましい。
【0064】
そこで、反応容器1内の雰囲気ガスとしては、例えば、乾燥空気、脱炭酸ガス処理した乾燥空気、高純度窒素、高純度アルゴン等から選択された気体であることが好ましい。
【0065】
なお、乾燥空気は、露点温度が-30℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましい。
【0066】
また、高純度窒素は、例えば窒素の含有量が99.9995vol.%より高いことが好ましく、99.9998vol.%より高いことがより好ましい。高純度アルゴンは、例えばアルゴンの含有量が99.999vol.%より高いことが好ましく、99.9995vol.%より高いことがより好ましい。
【0067】
ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の種類によっては、雰囲気ガスとして空気等を用いた場合、雰囲気ガスと、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物の蒸気との混合割合によっては爆発の危険性が生じたり、酸素により酸化劣化する場合がある。このため、このような場合は、雰囲気ガスとして、空気でなく、窒素や、アルゴンを用いることが好ましい。
【0068】
以上のように反応容器1内の雰囲気ガスは特に限定されず、使用するホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の種類等に応じて選択することができる。
【0069】
そして、上述のように反応容器1内の第1収納容器3、第2収納容器5に各原料をセットし、反応容器1内を所定の雰囲気ガスで置換した後、そのまま放置、またはファン6を回転させることで反応容器1内の雰囲気を均一にして接触工程を行うことができる。
【0070】
反応容器1内では、そのまま放置、またはファン6を回転させると、第2収納容器5から、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の蒸気が雰囲気ガス中に拡散する。そして、雰囲気ガス中に拡散したホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の蒸気は、第1収納容器3内のリチウムニッケル複合酸化物の粒子2の粒子の表面に接触し、消費される。このため、反応時間の経過と共に、第1収納容器3内に、当初は第2収納容器5内に収納した、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4が物質移動する。
【0071】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に含有するホウ素、リン、及びケイ素から選択された一種以上の元素の量や、ホウ素等含有領域の厚さの制御方法は特に限定されない。例えば、以下の方法により制御することができる。
【0072】
1つの制御方法としては、反応容器1の各収納容器に収納する原料の量により制御する方法が挙げられる。まず、反応容器1内の第1収納容器3、第2収納容器5の中に、それぞれ所定量のリチウムニッケル複合酸化物の粒子2、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4を入れる。ただし、この際、各収納容器に入れるリチウムニッケル複合酸化物の粒子2と、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4との量が、製造するリチウムニッケル複合酸化物の粒子が含有するホウ素、リン、及びケイ素から選択された一種以上の元素の量や、ホウ素等含有領域の厚さ等に応じた量となるように調整しておく。そして、反応容器1内を雰囲気ガスで置換し、そのまま放置、またはファン6を回転させて第2収納容器5内のホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4が完全に消失したところで反応を終了させることで制御することができる。
【0073】
他の制御方法として、反応容器1内での反応時間により制御する方法が挙げられる。この場合でもまず、反応容器1内の第1収納容器3、第2収納容器5の中に、それぞれ所定量のリチウムニッケル複合酸化物の粒子2、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4を入れる。ただし、この際、第2収納容器5に入れるホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4の量が、製造するリチウムニッケル複合酸化物の粒子が含有するホウ素、リン、及びケイ素から選択された一種以上の元素の量や、ホウ素等含有領域の厚さ等に応じた量と比較して過剰となるように収納する。そして、反応容器1内を雰囲気ガスで置換した後、そのまま放置、またはファン6を回転させて所定時間経過したところで、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4が一部残留したまま、第2収納容器5を反応容器1内から取り出して、反応を終了させることで制御することもできる。
【0074】
なお、ここまで
図1に示した反応装置を用いた例により接触工程を説明したが、接触工程で用いる反応装置は、
図1に示した例に限定されるものではない。リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物の蒸気とを接触させることができる反応装置であれば、各種反応装置を用いることができる。
(b)加熱工程
加熱工程では、接触工程により得られた物質、すなわちホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物と接触させたリチウムニッケル複合酸化物の粒子を、雰囲気炉内に入れて加熱することができる。
【0075】
加熱工程を実施することで、接触工程でリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に接触させたホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物等に含まれている有機成分や微量水分を除去できる。また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置される、ホウ素、リン、及びケイ素から選択される一種以上の元素と、リチウムと、酸素とを含有する領域(ホウ素等含有領域)の結晶性や緻密性を高めることができる。
【0076】
加熱工程を実施する際に用いる炉、例えば電気炉は、特に限定されるものではないが、例えば加熱処理時の雰囲気を制御できる炉であることが好ましい。例えば、雰囲気炉、管状炉、プッシャー炉、ローラーハース炉等が挙げられる。
【0077】
加熱工程での加熱温度は、600℃以上800℃以下であることが好ましく、650℃以上750℃以下であることがより好ましい。
【0078】
これは加熱温度が600℃未満であると、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物等に含まれていた有機成分や微量水分を十分に低減、除去できない恐れがあるからである。また、加熱温度が800℃より高いとリチウムニッケル複合酸化物の粒子の焼結が進行して比表面積が低下し、二次電池として用いた場合に電解液との接触面積が減少するため充放電容量が低下してしまう恐れがあるからである。
【0079】
加熱工程で用いる雰囲気については特に限定されない。例えば、真空雰囲気、あるいは用いるリチウムニッケル複合酸化物やリチウムニッケル酸化物の粒子の表面に配置したホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物等と反応しない気体を好ましく用いることができる。加熱工程で用いる雰囲気ガスとしては、酸素濃度が60容量%以上であり、炭酸ガス(CO2)分圧が10Pa以下であることより好ましい。これは、酸素濃度が60%未満であると、リチウムニッケル複合酸化物中のニッケル(Ni)が還元され、二次電池とした場合に充放電容量が低下する場合があり、また、炭酸ガス分圧が10Paより高いとリチウムニッケル複合酸化物中のリチウムと反応して二次電池とした場合に充放電容量が低下する場合があるからである。
【0080】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、上述の接触工程、及び加熱工程以外にも任意の工程を有することができる。
【0081】
例えば、接触工程に供するリチウムニッケル複合酸化物の粒子を製造するリチウムニッケル複合酸化物製造工程を有することができる。リチウムニッケル複合酸化物製造工程の具体的な工程(ステップ)は特に限定されるものではなく、リチウムニッケル複合酸化物の粒子を製造できる工程であればよい。リチウムニッケル複合酸化物製造工程は例えば以下のステップを有することができる。
【0082】
反応槽内に水を入れて撹拌しつつ、槽内のpH値を11以上13以下に制御しながら、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウムの混合水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水を同時に加えてニッケル複合水酸化物粒子を得る晶析ステップ。
ニッケル複合水酸化物粒子を500℃以上700以下の温度で焙焼してニッケル複合酸化物を得る焙焼ステップ。
ニッケル複合酸化物と水酸化リチウム一水和物とを混合し、混合物を650℃以上850以下の温度で焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る焼成ステップ。
リチウムニッケル複合酸化物を解砕する解砕ステップ。
【0083】
なお、ここでは、リチウムニッケル複合酸化物製造工程を例に任意の工程について説明したが、上記工程の例に限定されず、本実施形態の正極活物質の製造方法は、必要に応じて各種任意の工程を有することができる。
【0084】
以上に説明した本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により得られる非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の少なくとも表面の一部に配置され、ホウ素(B)、リン(P)、及びケイ素(Si)から選択される一種以上の元素と、リチウム(Li)と、酸素(O)とを含有する領域を有することができる。また、炭素含有量を0.06質量%以下とすることができる。
【0085】
このため、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により得られる非水系電解質二次電池用正極活物質は、高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下を抑制できる非水系電解質二次電池用正極活物質とすることができる。すなわち、係る非水系電解質二次電池用正極活物質を高温高湿環境下に晒した後、該正極活物質を正極の材料として用いた二次電池を形成した場合でも高い充放電特性を発揮することができる。
【0086】
さらに、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により得られた非水系電解質二次電池用正極活物質は、二次電池の正極として好適に用いることができる。
【0087】
また、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物を含む雰囲気ガスをリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に接触させ、加熱する簡便な製造方法を用いている。このため、低コストで高温高湿の環境に対する耐性を備えた非水系電解質二次電池用正極活物質を製造することができ、工業的に有用である。
【実施例0088】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
以下に各実施例、比較例での試料の作製条件、及び評価結果について説明する。
[実施例1]
以下の手順により、非水系電解質二次電池用正極活物質を製造し、評価を行った。
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について
(リチウムニッケル複合酸化物製造工程)
まず、反応槽内に水を入れて撹拌しながら、槽内温度を50℃に設定し、そこへ、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウムの混合水溶液(金属元素モル比でNi:Co:Al=82:15:3)と、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と、25質量%アンモニア水を同時に加え、反応槽内のpH値を液温25℃基準で11.5に制御しながら11時間晶析を行い、ニッケル複合水酸化物粒子を製造した(晶析ステップ)。
【0090】
晶析ステップの終了後、生成物を大気雰囲気中600℃で焙焼し、ニッケル複合酸化物粒子を得た(焙焼ステップ)。
【0091】
焙焼ステップで得られたニッケル複合酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とを混合し、得られた混合物を酸素雰囲気中500℃で3時間仮焼成した後、750℃で20時間本焼成した(焼成ステップ)。なお、混合物を調製する際、ニッケル複合酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とは、金属元素モル比でLi/(Ni+Co+Al)=1.02となるように秤量、混合した。
【0092】
焼成ステップで得られた生成物を解砕して、リチウムニッケル複合酸化物粒子(Li1.02Ni0.82Co0.15Al0.03O2)を得た(解砕ステップ)。
【0093】
得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製、型番:JSM-7100F)により粒子形状の観察を行った。撮影した写真を
図2に示す。得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子は一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなっていることが確認された。
【0094】
また、レーザー回折散乱法により、得られたリチウムニッケル複合酸化物の粒子(二次粒子)の平均粒子径を評価したところ、12.0μmであった。
【0095】
なお、以下の他の実施例、比較例においても同じリチウムニッケル複合酸化物粒子を用いている。
(接触工程)
図1に示した反応装置を用いて、接触工程を実施した。
【0096】
第1収納容器3に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子2として、リチウムニッケル複合酸化物製造工程で得られたリチウムニッケル複合酸化物の粒子204.0gを入れた。また、第2収納容器5に、ホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4としてホウ酸トリメチル(トリメトキシボラン)[B(OCH3)3]2.4gを入れた。そして、原料を収納した各収納容器を、反応容器1内に設置し、反応容器1を密閉した。
【0097】
なお、反応容器1、第1収納容器3、第2収納容器5はいずれもステンレス製のものを用いた。
【0098】
反応容器1内を雰囲気ガスである窒素の含有量が99.9995vol.%より高い窒素ガス(露点温度:-50℃以下)で置換、充填した後、ファン6を回転させて雰囲気ガスを反応容器1内で循環させながら、室温(25℃)で放置した。これにより、リチウムニッケル複合酸化物の粒子2の表面にホウ酸トリメチルの蒸気を含有する雰囲気ガスを接触させた。
【0099】
上記接触工程を実施した後のリチウムニッケル複合酸化物の粒子をICP発光分析法で分析したところ、ホウ酸トリメチル成分であるホウ素(B)が0.05質量%含まれていることが確認できた。
【0100】
また、リチウムニッケル複合酸化物の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、
図3に示すようにホウ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に均一に形成されていることが確認された。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ホウ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成されていることが確認された。
(加熱工程)
次に、上記接触工程を実施したリチウムニッケル複合酸化物を、酸素気流中700℃で1時間加熱した後、室温まで冷却して実施例1に係る非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。なお、酸素ガスとしては、酸素の含有量が約100容量%であり、炭酸ガス分圧が10Pa以下のものを用いており、以下の実施例2、比較例4でも同様である。
【0101】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、
図4に示すように一次粒子同士の焼結もなく、加熱工程前の表面形状を保持していることが確認された。従って、加熱工程前と同様に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ホウ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成されていることが確認された。
【0102】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれる炭素量を炭素分析装置(LECO社製、型番:CS-600)を用いて高周波燃焼赤外吸収法により測定したところ0.03質量%であった。
【0103】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質についてもICP発光分析法で分析したところ、ホウ素の含有量は0.05質量%であることが確認できた。また、ケイ素の含有量は検出限界未満、すなわち0.02質量%未満であることが確認できた。
(2)評価結果について
上記手順により製造した非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、充放電特性を評価した。Cレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が217mAh/g、放電容量が199mAh/gであることが確認できた。
また、作製したコインセルを用いて正極抵抗を測定した。コインセルを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により
図5(a)に示すようなナイキストプロットを得た後、
図5(b)に示す等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出したところ2.4Ωであった。
【0104】
次に、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を、テフロン容器に入れて温度80℃、湿度60%に設定した恒温恒湿槽内に24時間放置し、耐候性試験を実施した。そして、耐候性試験後の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、上記と同様にして充放電特性を評価したところ、充電容量が210mAh/g、放電容量が194mAh/gであることが確認できた。
【0105】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ3.2Ωであることが確認できた。
【0106】
製造条件、及び評価結果を表1、表2にまとめて示す。
[実施例2]
接触工程、及び加熱工程の条件を以下のように変更した点以外は、実施例1の場合と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を製造し、評価を行った。
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について
(接触工程)
第1収納容器3に入れるリチウムニッケル複合酸化物の粒子2の量を201.7gとし、第2収納容器5に入れるホウ素化合物、リン化合物、及びケイ素化合物から選択される一種以上の化合物4としてオルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)[Si(OC2H5)4]4.0gを用いた点以外は実施例1と同様にして接触工程を実施した。
【0107】
上記接触工程を実施したリチウムニッケル複合酸化物をICP発光分析法で分析したところ、オルトケイ酸テトラエチル成分であるケイ素(Si)が0.07質量%含まれていることが確認できた。
【0108】
また、リチウムニッケル複合酸化物の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ケイ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に均一に形成されていることが確認された。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ケイ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成されていることが確認された。
(加熱工程)
次に、上記接触工程を実施したリチウムニッケル複合酸化物を、酸素気流中700℃で1時間加熱した後、室温まで冷却して非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
【0109】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれる炭素量を炭素分析装置(LECO社製、型番:CS-600)を用いて高周波燃焼赤外吸収法により測定したところ0.05質量%であった。
【0110】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質についてもICP発光分析法で分析したところ、ホウ素の含有量は検出限界未満、すなわち0.01質量%未満であることが確認できた。また、ケイ素の含有量は0.07質量%であることが確認できた。
【0111】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ケイ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に均一に形成されていることが確認された。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ケイ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成されていることが確認された。
(2)評価結果について
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、充放電特性を評価した。Cレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が218mAh/g、放電容量が195mAh/gであることが確認できた。
【0112】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ2.5Ωであることが確認できた。
【0113】
次に、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を、テフロン容器に入れて温度80℃、湿度60%に設定した恒温恒湿槽内に24時間放置し、これを正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、上記と同様にして充放電特性を評価したところ、充電容量が211mAh/g、放電容量が192mAh/gであることが確認できた。
【0114】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ3.4Ωであることが確認できた。
【0115】
製造条件、及び評価結果を表1、表2にまとめて示す。
[比較例1]
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について
接触工程、および加熱工程を実施せず、リチウムニッケル複合酸化物製造工程のみを実施した点以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0116】
従って、得られた非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に被膜形成処理が行われておらず、表面に被膜が形成されていない。
【0117】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれる炭素量を炭素分析装置(LECO社製、型番:CS-600)を用いて高周波燃焼赤外吸収法により測定したところ0.09質量%であった。
【0118】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質についてもICP発光分析法で分析したところ、ホウ素の含有量は検出限界未満、すなわち0.01質量%未満であることが確認できた。また、ケイ素の含有量についても検出限界未満、すなわち0.02質量%未満であることが確認できた。
(2)評価結果について
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、充放電特性を評価した。Cレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が217mAh/g、放電容量が197mAh/gであることを確認できた。
【0119】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ1.8Ωであることを確認できた。
【0120】
次に、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を、テフロン容器に入れて温度80℃、湿度60%に設定した恒温恒湿槽内に24時間放置し、これを正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、上記と同様にして充放電特性を評価したところ、充電容量が191mAh/g、放電容量が175mAh/gであることを確認できた。
【0121】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ3.4Ωであることを確認できた。
【0122】
製造条件、及び評価結果を表1、表2にまとめて示す。
[比較例2]
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について
加熱工程を実施せず、リチウムニッケル複合酸化物製造工程と、接触工程のみを実施した点以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0123】
従って、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ホウ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成された非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0124】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれる炭素量を炭素分析装置(LECO社製、型番:CS-600)を用いて高周波燃焼赤外吸収法により測定したところ0.11質量%であった。
【0125】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質についてもICP発光分析法で分析したところ、ホウ素の含有量は0.05質量%であることが確認できた。また、ケイ素の含有量については検出限界未満、すなわち0.02質量%未満であることが確認できた。
(2)評価結果について
上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、充放電特性を評価した。Cレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が220mAh/g、放電容量が192mAh/gであることが確認できた。
【0126】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ2.3Ωであることが確認できた。
【0127】
次に、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を、テフロン容器に入れて温度80℃、湿度60%に設定した恒温恒湿槽内に24時間放置し、これを正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、上記と同様にして充放電特性を評価したところ、充電容量が197mAh/g、放電容量が172mAh/gであることが確認できた。
【0128】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ4.7Ωであることが確認できた。
【0129】
製造条件、及び評価結果を表1、表2にまとめて示す。
[比較例3]
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について
加熱工程を実施せず、リチウムニッケル複合酸化物製造工程と、接触工程のみを実施した点以外は実施例2と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0130】
従って、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ケイ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成された非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0131】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれる炭素量を炭素分析装置(LECO社製、型番:CS-600)を用いて高周波燃焼赤外吸収法により測定したところ0.16質量%であった。
【0132】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質についてもICP発光分析法で分析したところ、ホウ素の含有量は検出限界未満、すなわち0.01質量%未満であることが確認できた。また、ケイ素の含有量は0.07質量%であることが確認できた。
(2)評価結果について
上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、充放電特性を評価した。Cレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が221mAh/g、放電容量が193mAh/gであることが確認できた。
【0133】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ2.2Ωであることが確認できた。
【0134】
次に、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を、テフロン容器に入れて温度80℃、湿度60%に設定した恒温恒湿槽内に24時間放置し、これを正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、上記と同様にして充放電特性を評価したところ、充電容量が210mAh/g、放電容量が185mAh/gであることが確認できた。
【0135】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ3.7Ωであることが確認できた。
【0136】
製造条件、及び評価結果を表1、表2にまとめて示す。
[比較例4]
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について
加熱工程において、酸素気流中、500℃で1時間加熱した点以外は実施例2と同様にして非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0137】
従って、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に、ケイ素と、リチウムと、酸素とを含有する領域が、該リチウムニッケル複合酸化物の粒子を覆う被膜として形成された非水系電解質二次電池用正極活物質を製造した。
【0138】
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれる炭素量を炭素分析装置(LECO社製、型番:CS-600)を用いて高周波燃焼赤外吸収法により測定したところ0.07質量%であった。
【0139】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質についてもICP発光分析法で分析したところ、ホウ素の含有量は検出限界未満、すなわち0.01質量%未満であることが確認できた。また、ケイ素の含有量は0.07質量%であることが確認できた。
(2)評価結果について
上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、充放電特性を評価した。Cレートを0.05Cとして、カットオフ電圧4.3Vまで充電した後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させて評価を行ったところ、充電容量が220mAh/g、放電容量が192mAh/gであることが確認できた。
【0140】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ2.4Ωであることが確認できた。
【0141】
次に、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を、テフロン容器に入れて温度80℃、湿度60%に設定した恒温恒湿槽内に24時間放置し、これを正極として用いたコインセル(正極/セパレータと電解液/負極)を作製し、上記と同様にして充放電特性を評価したところ、充電容量が210mAh/g、放電容量が187mAh/gであることが確認できた。
【0142】
また、作製したコインセルを用いて上記と同様にして正極抵抗の値を算出したところ3.6Ωであることが確認できた。
【0143】
製造条件、及び評価結果を表1、表2にまとめて示す。
【0144】
【0145】
【表2】
実施例1、2で製造した非水系電解質二次電池用正極活物質を正極に用いたコインセルは、比較例1の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極に用いたコインセルよりも、耐候性試験後において高い充電容量と放電容量が得られていることが確認できる。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物の粒子、及びホウ素等含有領域を有し、炭素含有量が0.06質量%以下である正極活物質とすることで、該正極活物質の耐候性が向上する、すなわち高温高湿環境下に晒すことによる充放電特性の低下を抑制できることを確認できた。
【0146】
また、加熱処理の有無のみが異なる、対応する実施例と比較例、具体的には実施例1と比較例2、実施例2と比較例3をそれぞれ比較すると、実施例1、2の正極活物質は炭素量が0.06質量%以下であるのに対して、比較例2、3の正極活物質は炭素量が0.06質量%を超えていることが確認できる。そして、炭素量が0.06質量%以下である実施例1、2の正極活物質を正極に用いたコインセルについては、炭素量が0.06質量%を超える比較例2、3の正極活物質を正極に用いたコインセルと比較して、耐候性試験後においても高い充電容量と放電容量が得られていることが確認できた。さらに、接触工程を実施することで、正極活物質の炭素量を低減できることも確認できた。