(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168585
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】酒類漬け果実類製造装置
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20231116BHJP
【FI】
A23L19/00 B
A23L19/00 102Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173501
(22)【出願日】2023-10-05
(62)【分割の表示】P 2019137847の分割
【原出願日】2019-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(71)【出願人】
【識別番号】506048599
【氏名又は名称】学校法人 服部学園
(71)【出願人】
【識別番号】307003168
【氏名又は名称】ダイカテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101948
【弁理士】
【氏名又は名称】柳澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】高井 靖拡
(72)【発明者】
【氏名】森島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】大西 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】大西 賢治
(57)【要約】
【課題】酒類漬け果実類の製造を促進することができる酒類漬け果実類製造装置を提供する。
【解決手段】金属体11の表面の一部または全部に所定の凹凸12が形成されている。この所定の凹凸12としては、どのような凹凸であるかが分かっているものであるとよく、周波数特性がほぼ揃った凹凸であるとよい。例えば、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上となるような凹凸が形成されているとよい。このような非常に簡単な構成の酒類漬け果実類製造装置を使用することによって、果実類への酒類の浸透を促進することができ、これによって酒類漬けの果実類の製造期間を短縮し、製造コストを低減することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒類漬けの果実類を製造する酒類漬け果実類製造装置において、酒類及び材料となる果実類とともに容器に投入するものであって、表面の一部あるいは全部に所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であることを特徴とする酒類漬け果実類製造装置。
【請求項2】
酒類漬けの果実類を製造する酒類漬け果実類製造装置において、酒類及び材料となる果実類が投入される容器の内面の一部あるいは全部に所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であることを特徴とする酒類漬け果実類製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類漬けの果実類を製造する酒類漬け果実類製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酒類、特に蒸留酒においては、蒸留後に長期間の熟成の過程を経る。例えば、ウイスキーは木製の樽に長期間保存することで熟成させ、まろやかな味を現出させている。また、リキュール類などのように果実やその他の材料を酒類に漬け込む場合も、材料からエキスを抽出し、また材料へ酒類を浸入させる工程や、さらに熟成させる工程など、長期間を要する工程を経ることになる。
【0003】
いずれにしても、酒類の製造においては、熟成などの酒類の改質に長い時間を要する場合が多い。酒類を製造する場合、このような酒類の改質に要する時間が長いほど貯留に要するコストが増加してしまう。
【0004】
一方、技術分野としては全く異なるが、粉体の付着を防ぐ技術として特許文献1に「F研磨」として記載されている方法がある。従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、特許文献1に記載されている方法を用いると、研磨加工でありながらも所定の凹凸を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、酒類漬けの果実類の製造を促進することができる酒類漬け果実類製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に記載の発明は、酒類漬けの果実類を製造する酒類漬け果実類製造装置において、酒類及び材料となる果実類とともに容器に投入するものであって、表面の一部あるいは全部に所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であることを特徴とする酒類漬け果実類製造装置である。
【0008】
本願請求項2に記載の発明は、酒類漬けの果実類を製造する酒類漬け果実類製造装置において、酒類及び材料となる果実類が投入される容器の内面の一部あるいは全部に所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であることを特徴とする酒類漬け果実類製造装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非常に簡単な構成でありながら、果実類への酒類の浸透を促進することができ、これによって酒類漬けの果実類の製造期間を短縮し、製造コストを低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の酒類改質装置の第1の実施の形態を示す概略図である。
【
図2】F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の酒類改質装置の第1の実施の形態及び鏡面仕上げ品を使用した官能試験の一例の説明図である。
【
図5】本発明の酒類改質装置の第2の実施の形態を示す概略図である。
【
図6】本発明の酒類改質装置の第2の実施の形態の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の酒類改質装置の第1の実施の形態を示す概略図である。図中、11は金属体、12は凹凸である。
図1(A)に示した例における金属体11は球体であり、その表面の一部または全部に所定の凹凸12が形成されている。また
図1(B)に示した例における金属体11は板状であり、その表面(片面または両面)の一部または全部に所定の凹凸12が形成されている。この凹凸12は、この酒類改質装置を使用する際に酒類と接触するように形成しておく。
【0012】
なお、
図1に示した例では、凹凸12を形成する対象の一例として金属体11で構成する例を示している。金属体11としてはステンレスなどを用いることができるが、これに限らず、アルミニウムやチタン合金など、様々な金属であってよいし、後述するように凹凸12を形成する面は金属に限られるものではない。また、金属体11の形状も
図1(A)、(B)に示した例に限られるものではなく、棒状や、4面体や6面体などのキューブ型、基部と直立部を有するようなスタンド型、櫛形、メッシュ状、内蓋形などを含め、種々の形状でよいことは言うまでもない。
【0013】
金属体11に形成する所定の凹凸12としては、どのような凹凸であるかが分かっているものであるとよく、周波数特性がほぼ揃った凹凸であるとよい。例えば、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上となるような凹凸が形成されているとよい。この所定の凹凸12の一例については測定結果を用いて後述する。このような所定の凹凸12を形成した金属体11を酒類の中に1または複数個を投入して使用すればよい。これによって、後述する実験例でも示しているように、従来に比べて酒類の熟成や成分の抽出、浸透、改変など、様々な改質を促進することができ、酒類の製造期間を短縮し、製造コストを低減することができる。
【0014】
形成する所定の凹凸12は、どのような方向のスジ状の凹凸でもよいし、あるいは、いくつかの方向の凹凸が交差するように形成されていてもよい。例えば
図1(B)に示すような板状の金属体11であれば、長手方向に延在する凹凸でも、短手方向に延在する凹凸でもよい。また、
図1(A)に示すような球状の金属体11であれば、略緯度方向と略経度方向に交差する凹凸であってもよい。もちろん、ランダムに形成される凹凸であっても、全体として上述の条件を満たすような凹凸であればよい。また、金属体11の表面の一部に、例えば帯状に設けたり、例えば
図1(B)に示すような板状の金属体11であれば、片面のみに設け、両面に設ける場合でも異なる位置に設けたり、模様のように形成するなど、凹凸12の形成位置や形状は限られない。
【0015】
金属体11に所定の凹凸12を形成する加工法は特定の方法に限られるものではないが、ここでは一例として、上述の特許文献1に「F研磨」として記載されている方法を使用して所定の凹凸12を形成し、後述する実験例などを行っている。上述のように、このF研磨は金属面への粉体の付着を防止する技術として特許文献1に記載されているが、酒類の改質については考えられてこなかった。特許文献1に記載されているF研磨は、研磨作業を進めても鋭利さが失われないダイヤモンド等の硬質研磨粒子を紙または布に貼り付けた研磨材を使用して金属表面を研磨処理するものである。研磨粒子の公称精粗度に応じてランク分けしており、表面仕上げの状態が粗い順に「F-2」(#60)、「F-1」(#120)、「F0」(#240)、「F1」(#320)、「F2」(#400)、「F3」(#500)、「F4」(#600)、「F5」(#800)、「F6」(#1000)などと称することとする。
【0016】
従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、上述のF研磨は、研磨加工でありながら、所定の凹凸を形成する加工方法である。以前から凹凸を残す研磨加工も行われているが、残った凹凸はどのような状態であるかがわからず、再現性は無い。本発明では、金属体11の表面に対して、どのような凹凸であるかが分かっている所定の凹凸12を形成する。この所定の凹凸12を形成するための一つの方法として、上述のF研磨を利用することができる。さらに、上述のF研磨加工を行うと、それまで存在していた凹凸は排除され、研磨による所定の凹凸が形成されることから、安定した状態で所定の凹凸12が形成されることになる。
【0017】
上述のF研磨によって形成された所定の凹凸12について、フーリエ変換を用いた波数解析を試みた。この解析によって、凹凸12の特徴を定量化し、具体的に、どのような間隔の凹凸がどのくらい高低差があるのかを数値で表すことができる。F研磨のいくつかのランクのF研磨による鋼板表面の凹凸形状について、次式(1)
X(k)=Σn=0
N-1x(n)・exp(-2πknj/N) …(1)
に従い離散フーリエ変換を行い、凹凸の波長(凹凸ピッチ)成分Lと波高成分Hの関係を解析した。比較参考のために、鏡面仕上げを行った場合についてもフーリエ解析を行い、F研磨との比較を行った。なお(1)式において、x(n)は、鋼板表面を探針センサで所定の長さ(距離)方向に走査した場合に、所定のサンプリング間隔の点で探針センサにより計測される高さ方向の値(表面の凹凸を表す)、すなわち、総サンプリング数N中のn番目のディジタルサンプリング値である。また、kは、単位長当たりの波数(空間周波数)f[回/μm]に対応する値であり(k=0,1,2,…,N-1)、全計測距離をD[μm]とすると、k=fDで表される。
【0018】
つまり、X(k)は、単位長当たり波数対応値kに対するフーリエ変換後の信号強度を表すベクトルであり、このベクトルの絶対値(長さ)が波の凹凸に比例する。従って、値kに対する変換後信号強度X(k)に対して、凹凸形状の波高Hは2|X(k)|/Nで表され、波高Hと波長Lの比(「波高対波長比」あるいは「波高比」という)H/Lは
H/L=2|X(k)|/NL …(2)
で表される。
【0019】
図2は、F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。上述の波高対波長比を波長ごとに示すと、一例として
図2に示すような結果が得られた。
図2には、F研磨のランクがF-2、F-1、F0、F1、F4、F5、F6の場合と、鏡面仕上げを行った場合を示している。実際の計測では、100μm以上の計測距離について0.1μm以下のサンプリング間隔で計測するとともに、そのような計測を数カ所で行い、それらの結果から凹凸を合わせて平均するなどの統計的な処理を行って各x(n)を求め、解析を行っている。
【0020】
図2に示した解析結果を参照すると、波長Lが1μm以下の範囲で各グラフに明確な違いが現れている。この波長Lが1μm以下の範囲で見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べて波高対波長比の値として大きな値を示している。より具体的には、波長Lが1μm以下の範囲における波高対波長比の値は、鏡面仕上げを行った場合には0.0001以下であるのに対して、F研磨を行った場合には、ランクがF6、F5、F4では0.0001から0.0006程度、F1の場合には0.0006から0.001程度、F0の場合には0.001から0.002程度、F-1の場合には0.005から0.008程度、F-2の場合には0.008から0.015程度であった。
【0021】
また、
図2に示した解析結果によれば、例えば波長Lが1μm以下の範囲で見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べてグラフの振幅が小さい。この振幅は、各波長における平均値から2~3割程度である。従って、F研磨によってほぼ揃った凹凸が安定して形成されていることが分かる。例えば、一般的な研磨技術であるバフ研磨で
図2に示した鏡面仕上げを行った場合、波高対波長比は2桁程度のばらつきが存在しており、凹凸が安定して形成されていないことが分かる。なお、未研磨の面や元の凹凸を残した面においては、測定する箇所によって解析結果が異なっており、またばらつきが大きく、
図2に示すような揃った凹凸が存在していないことが分かった。
【0022】
もちろん、F研磨の場合にも、それぞれの凹凸にはばらつきがあるものの、面として見ると周波数特性が揃った凹凸が形成されており、このようなほぼ揃った周波数特性の凹凸が安定して再現されている。このことは、金属体11の表面に所定の凹凸12が安定して再現されていることを示している。
【0023】
図3は、本発明の酒類改質装置の第1の実施の形態及び鏡面仕上げ品を使用した官能試験の一例の説明図である。ここでは、複数種類の果実(ドライフルーツ)とブランデー(アルコール度数:約40度)を蓋付き保存瓶(内容量750ml)に入れて蓋をし、10ヶ月間室温暗所に保存する実験を行った。投入した果実(ドライフルーツ)とブランデーの配合は、
図3(B)に示す通りである。同様の配合のものを2セット用意し、一方には、
図1(A)に示したような球状でステンレス製の金属体11に、上述したF研磨のランクがF0により表面を研磨して凹凸12を形成したものを1個投入した。
図3(A)では、この場合を「F研磨品」として示している。また他方には、比較例として、表面を鏡面仕上げした金属体を1個投入した。
図3(A)では、この場合を「鏡面品」として示している。なお、保存後にはブランデーには果実のエキスが溶出していることから、リキュールと記す。
【0024】
10ヶ月後に、それぞれの果実とリキュールについて、被験者により評価を行った。評価は、「劣る」を1点、「やや劣る」を2点、「普通」を3点、「やや優れる」を4点、「優れる」を5点として、各項目について評価を行った。主要な評価項目について、評点とコメントの一例を
図3(A)に示している。また、
図3(A)には糖度についても測定値を示した。なお、評価は食物の味に精通した被験者により行った。
【0025】
このような実験の結果、まず糖度については「F研磨品」では42.1であったのに対して「鏡面品」では41.6であり、若干ながら「F研磨品」の方が糖度が高くなっていた。糖分はもともと果実が有していたものであることから、「F研磨品」の方が果実からブランデーへ糖分が溶出したことが分かる。
【0026】
リキュールについては、見た目の評点が「F研磨品」では5点、「鏡面品」では3点であり、「F研磨品」の方が「鏡面品」よりも見た目に分かるように色が濃くなっていた。また、リキュールの味わいについても、「F研磨品」の評点は4点、「鏡面品」の評点は3点であり、「F研磨品」の方が評点が高い。コメントとして、「F研磨品」の方が「鏡面品」よりも味わいが濃く、ブランデーの香りが引き立っており、アルコール感が低減されている傾向が示された。「鏡面品」では、アルコール感が強く、またフルーツ感が感じられず、まだまだ漬け込みが浅い評価であった。これらのことから、「F研磨品」の方が「鏡面品」よりもリキュールの熟成が進んだと判断できる。
【0027】
漬け込んだ果実については、見た目の評点が「F研磨品」では4点、「鏡面品」では3点であり、「F研磨品」の方が「鏡面品」よりも果実にツヤがあった。それぞれの果実では、「オレンジ」、「ドレンチェリー」、「パイナップル」では「F研磨品」の評点が4点、「鏡面品」の評点は3点であり、いずれも、「鏡面品」ではアルコールの味を感じるが、「F研磨品」ではブランデーのよい風味を感じ、それぞれの果実の味わいと相まって、おいしさを醸し出していた。さらに「イチジク」、「アンズ」では、「F研磨品」の評点が5点、「鏡面品」の評点は2点であり、評点の差は大きくなった。これらでは、「鏡面品」ではそれぞれの果実の味が損なわれていたが、「F研磨品」ではそれぞれの果実の味わいを残しており、ブランデーの味とともにおいしくなっていた。このような果実に対する評価から、「鏡面品」よりも「F研磨品」の方が、ブランデーが果実内に浸透し、あるいは熟成したリキュールが果実内に浸透し、また果実内でのブランデーと果実の成分との融合が促進され、また果実自体も熟成が進んだものと判断できる。
【0028】
全体として、10ヶ月の時点で「鏡面品」よりも「F研磨品」の方が熟成が進んでおり、充分、商品化できる状態となった。一般的に、果実をブランデーに漬け込んだ場合、商品化までに1年以上の熟成期間を要する。「鏡面品」も、今後、数ヶ月を経れば熟成が進むものと考えられる。これに対して「F研磨品」では、仕込みから出荷できる状態となるまでの時間が短縮され、効率よく製造することができる。
【0029】
図4は、成分分析結果の一例の説明図である。上述の官能試験の際に製造したリキュール及び果実について、成分分析を行った。果実としては、官能試験の際の評点が大きく異なった「アンズ」について行った。
図4には、有機酸と遊離アミノ酸の分析結果について示している。分析の結果、有機酸については、総量は「F研磨品」と「鏡面品」とでそれほどの違いはないが、クエン酸が「鏡面品」よりも「F研磨品」の方がリキュール及びアンズともに少なくなった。また、乳酸については「F研磨品」の方が「鏡面品」よりもリキュール及びアンズともに大幅に多くなった。コハク酸についても、「F研磨品」の方が「鏡面品」よりもリキュール及びアンズともに多かった。
【0030】
遊離アミノ酸については、総量としてリキュール及びアンズともに「F研磨品」の方が「鏡面品」よりも若干少ない傾向が見られた。また、リキュール及びアンズのいずれについても、「F研磨品」は「鏡面品」よりもアスパラギンが約8%少なく、ロイシンとチロシンが約8%~18%多かった。
【0031】
これらの分析結果は試験の際のリキュール及び果実の一例についてでしかないものの、「F研磨品」と「鏡面品」とではリキュール、果実ともに分析結果に違いが表れた。上述の官能試験における評価結果の違いは、成分分析の結果からも、「F研磨品」と「鏡面品」とで違いがあることが裏付けられた。
【0032】
上述の例ではブランデーに種々の果実を漬け込んだ例を示したが、このほかにも、例えば焼酎に梅を漬け込む実験も行っている。2つの蓋付き保存瓶を用意し,それぞれに、500gの青梅と500gの氷砂糖と900mlの焼酎(ホワイトリカー、アルコール度数35度)を入れた。蓋付き保存瓶の一方には、
図1(B)に示したような板状でステンレス製の金属体11に、上述したF研磨のランクがF-2により表面を研磨して凹凸12を形成したものを投入した。この場合を「F研磨品」とする。また他方には、金属体を入れなかった。この場合を「比較品」とする。
【0033】
1週間経過した時点で氷砂糖の半分ほどが溶けた状態となったが、その溶けた量は「比較品」よりも「F研磨品」の方が多少多いように感じられた。2週間経過した時点では、見た目は変わらないが、味見をすると、「比較品」では焼酎にアルコール特有の苦みあり、カドがある感じの味であって、酸味や甘みは全体的に薄味であった。これに対して「F研磨品」では、酸味、甘みとも感じ、カドがとれて多少まろやかになってきた感じがあった。3週間経過した時点では「比較品」、「F研磨品」とも、見かけと味とも、それほどの違いは見られなかった。4週間経過した時点では、見かけは余り変わらないが、「比較品」ではまだまだアルコールのカドがある味が残り、酸味や甘みなどが濃いものの、それぞれバラバラに感じられた。これに対して「F研磨品」では、アルコールによる苦みが少なく、口当たりが良くなってきており、酸味や甘みがまとまってきている感じであった。
【0034】
この実験から、「F研磨品」では、まず1週目では氷砂糖の溶解が多少ではあるが促進されて焼酎側の濃度が上昇し、浸透圧の関係から梅のエキスが早めに焼酎側へ出てきているものと推測される。さらに、氷砂糖が溶けきった後の味覚の試験結果から、明らかに「比較品」よりも「F研磨品」の方が熟成が進んでいるものと考えられる。
【0035】
このように、F研磨により所定の凹凸12を形成した金属体11を、酒類内に果実類とともに投入しておくことによって、酒類及び果実類の双方とも、熟成が促進されて短時間でおいしい酒類及び果実を製造することができた。その効果は、金属体を使用しなかった場合や鏡面仕上げした金属体を使用した場合よりも、F研磨により所定の凹凸12を形成した金属体11を使用した場合の方が優れていた。
図2から、F研磨により形成された凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であり、そのブレ幅も各波長における平均値から2~3割程度である。このような所定の凹凸12を表面に形成した金属体11を酒類内に投入しておくことによって、熟成を促進し、短時間で熟成された酒類及び酒類漬けの果実類を製造できることがわかった。
【0036】
酒類の熟成に関しては、まだ理論が確立されるに至っていないが、例えば水分子とアルコール分子のクラスターという考え方では、所定の凹凸12による金属表面の電位差などによってクラスターが細かくなって両者の融合が進むと考えられる。また、水素結合構造性という考え方では、所定の凹凸12によって、よりエネルギーの低い、構造性が高い状態に、早期に移行すると考えられる。さらに、他の微少成分の変化によるという考え方では、所定の凹凸12が微少成分の化学変化に対して触媒的な影響を与えているものと考えられる。あるいは、所定の凹凸12が液中に微少な流動性を与え、熟成にかかわる様々な反応を促進していると考えることもできる。いずれにしても、上述のように、酒類の熟成や、果実類などを用いた場合には果実からのエキスの抽出や果実への酒類の浸透など、さまざまな酒類の改質について、その促進が実験により結果として得られたことになる。
【0037】
なお、上述の説明はブランデーや焼酎での実験であったが、他の蒸留酒であって良いことは言うまでもない。また、熟成という観点から、果実などの材料を用いずに酒類のみを熟成させる場合にも効果があるものと考えられる。例えばウイスキーの熟成などにおいても有効であろうと考えられる。
【0038】
図5は、本発明の酒類改質装置の第2の実施の形態を示す概略図である。図中、21は容器、22は内側面、23は内底面、24は外面、25は蓋である。この第2の実施の形態では、酒類を収容する容器の例を示している。
図5に示す例では、断面が内底面23に対して内側面22が略直立する形状であるが、このような形状に限らず、容器21の形状は任意であり、口広や口細形状でもよいし、枡形などのような平面方向の断面が円形以外の形状であってもよく、酒類を貯留できる形状であればどのような形状であってもよい。なお、酒類を貯留する観点から、容器21には蓋25を設けている。この蓋25の構造についても任意であるし、容器21への取り付け構造についても種々の既知の構造を採用することができる。もちろん、蓋25を設けない構造であってもよい。
【0039】
容器21の酒類と接する面、すなわち酒類が収容される容器21の内面となる内側面22または内底面23あるいはその両方の、一部または全部には、所定の凹凸12が形成されている。この所定の凹凸12は、上述の第1の実施の形態と同様であり、例えば、波長が1μm以下の範囲において平均の波長対波高比が0.0001以上の凹凸を形成するとよい。また、この所定の凹凸12は、形成されている箇所によらず略均一であって、面として見ると周波数特性がほぼ揃った凹凸が形成されているとよい。このような所定の凹凸12を形成することによって、酒類の熟成や、他の材料を用いた場合には、それらの材料からの成分の抽出、材料への酒類の浸透など、様々な改質を促進することができる。これによって酒類の製造期間を短縮し、製造コストを低減することができる。
【0040】
このような所定の凹凸12を形成する加工法の一例としては、容器21が例えば金属製である場合、第1の実施の形態と同様に上述のF研磨を用いることができる。形成する所定の凹凸12は、内側面22においては上下方向(容器21の開口部と内底面23を結ぶ方向)に延在する凹凸として形成したり、周方向に延在する凹凸としたり、スパイラル状の凹凸にするなど、どのような方向のスジ状の凹凸でもよい。また、内底面23についても、同心円状の凹凸や、放射状の凹凸など、種々のスジ状の凹凸であってよい。いずれの場合も、スジ状の凹凸に限らず、ランダムに形成される凹凸であってもよい。
【0041】
もちろん、所定の凹凸12は内側面22や内底面23の全体に施すほか、内側面22については酒類が触れやすい内底面23から所定の高さまでとしたり、内底面23についても一部のみに設けるなど、部分的に所定の凹凸12を施すものであってもよいことは上述の通りである。
【0042】
図6は、本発明の酒類改質装置の第2の実施の形態の変形例を示す概略図である。31は金属部である。この変形例では、容器21がガラスなどで形成されており、その容器21の内側面22の下部に異なる材料、ここでは金属部31を配した例を示している。
図6に示した例では、容器21の内底面23及び内側面22の下部が金属部31となっている。
図5に示した例では容器21を金属により構成した例を示したが、例えばこの変形例のように凹凸を形成する領域について金属部31で構成し、それ以外の部分について別の材質に変更してもよい。
【0043】
金属部31には、内底面23あるいは内側面22部分またはその両方の、一部または全部に対して所定の凹凸12が形成されている。この所定の凹凸12として、上述のようにF研磨加工など、種々の加工方法により、波長が1μm以下の範囲において平均の波長対波高比が0.0001以上の凹凸が形成されている。この金属部31は、周囲を容器21のガラス部に接合されている。接合方法は任意であるが、例えば接着や溶着などにより行えば良い。なお、この金属部31として用いる金属についても、上述のように一般的に用いられるステンレスのほか、アルミニウムやチタン、銅、スズなど、種々の金属であってよい。
【0044】
図5に示した構成において容器21を金属で形成した場合、内容物が観察できないが、
図6に示したように内面の一部に金属部31を設ける構成では、金属部31が配されていない部分から内容物を観察することができる。もちろん、
図5に示したような金属製の容器21に窓部を設ける構成であってもよい。
【0045】
容器21のガラス部は透明である必要はなく、色ガラスや半透明、不透明なガラス、装飾が施されたガラスなどであっても良い。もちろん、酒類を収容できる材質であれば容器21の材質はガラスに限られるものではなく、プラスチックやその他の材質を用いても良い。また、金属部31についても所定の凹凸12が形成できる材料であれば種々の材料を用いても良い。
【0046】
上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態及びこれらの変形例から分かるように、本発明によれば、酒類が接する面に上述のような所定の凹凸12を形成するという非常に簡単な構成でありながら、酒類の熟成や成分の抽出、浸透など、様々な改質を促進することができ、これによって酒類の製造期間を短縮し、製造コストを低減することができる。
【0047】
なお、第1の実施の形態で示した金属体11に所定の凹凸12を設ける構成と、第2の実施の形態で示した容器21の内面に所定の凹凸12を設ける構成とを組み合わせ、所定の凹凸12が設けられた容器21内に、所定の凹凸12が形成された金属体11を投入して用いてもよいことは言うまでもない。
【0048】
上述した第1,第2の実施の形態及びこれらの変形例において、所定の凹凸を形成する方法としてF研磨を用いる例を示した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば他の研磨あるいは研削の加工技術や、レーザー加工、精密機械加工、ヘアライン加工、ショットブラスト加工を含むブラスト加工、微粒子ピーニング加工を含むショットピーニング加工、エッチング加工など、上述した特性を有する所定の凹凸12を形成できる加工方法であれば、他の加工方法を用いて所定の凹凸12を形成してもよい。
【0049】
さらに、所定の凹凸12を形成する部材の材質についても、一般的に用いられるステンレスのほか、アルミニウムやチタン、銅、スズなど、種々の金属や、様々な合金などであってもよい。あるいは、金属以外の材料であってもよく、ガラスや樹脂、陶器など、所定の凹凸12を設ける加工が施せる材質であれば、種々の材質の部材を用いてよい。さらには、例えば型に所定の凹凸12を形成しておき、その型を用いて樹脂などにより成形したり、型を用いて後加工を施してもよく、成形後の面に所定の凹凸12が形成されていれば本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
11…金属体、12…凹凸、21…容器、22…内側面、23…内底面、24…外面、25…蓋、31…金属部。