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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168696
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20231121BHJP
   C10M 137/02 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 135/36 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 105/18 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 105/06 20060101ALI20231121BHJP
   C10M 105/04 20060101ALI20231121BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20231121BHJP
   C10N 30/14 20060101ALN20231121BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20231121BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20231121BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20231121BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
C10M169/04 ZHV
C10M137/02
C10M135/36
C10M101/02
C10M107/02
C10M107/34
C10M105/32
C10M105/18
C10M105/06
C10M105/04
C10N30:06
C10N30:14
C10N40:25
C10N40:04
C10N40:30
C10N40:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079954
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】松原 和茂
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA06A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BG19C
4H104BH02C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104LA07
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】装置内に組み込まれた各種機構の潤滑に適した特性(例えば、耐スカッフィング性や耐銅腐食性等)を有する新規な潤滑油組成物が求められている。
【解決手段】基油(A)、及びアルキル基の構造中の隣接する2つの炭素原子の間に少なくとも1つの-(S)x-基(xは1以上の整数)を有する炭素数2~20の硫黄原子含有基を少なくとも1つ有する亜リン酸エステル(B)を含有する潤滑油組成物であって、チアジアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上である、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、及びアルキル基の構造中の隣接する2つの炭素原子の間に少なくとも1つの-(S)x-基(xは1以上の整数)を有する炭素数2~20の硫黄原子含有基を少なくとも1つ有する亜リン酸エステル(B)を含有する潤滑油組成物であって、
チアジアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上である、潤滑油組成物。
【請求項2】
亜リン酸エステル(B)が、下記一般式(b-1)で表される化合物(B1)及び下記一般式(b-2)で表される化合物(B2)から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【化1】
(式中、RB11、RB21及びRB22はそれぞれ独立に、炭素数1~19のアルキル基を表し、bB11、bB21及びbB22はそれぞれ独立に、1~10の整数を表す。)
【請求項3】
ベンゾトリアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
亜リン酸エステル(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.15質量%以上1.00質量%未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
基油(A)が、鉱油、ポリα-オレフィン、イソパラフィン、ポリアルキレングリコール、エステル系合成油、エーテル系合成油、アルキルベンゼン系合成油、アルキルナフタレン系合成油、GTL、CTL及びBTLからなる群から選択される1種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニットの潤滑に用いられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填してなり、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む、電動駆動ユニット。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニットの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を製造する方法であって、
基油(A)に、アルキル基の構造中の隣接する2つの炭素原子の間に少なくとも1つの-(S)x-基(xは1以上の整数)を有する炭素数2~20の硫黄原子含有基を少なくとも1つ有する亜リン酸エステル(B)を配合すると共に、
チアジアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上となるように調製する、潤滑油組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、電動駆動ユニット、潤滑油組成物の使用、及び潤滑油組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン、変速機、減速機、圧縮機、油圧装置等の各種装置は、トルクコンバータ、クラッチ、歯車軸受機構、オイルポンプ、油圧制御機構等の機構を有する。これらの機構においては、潤滑油組成物が用いられており、様々な要求に対応し得る潤滑油組成物が開発されている。
例えば、特許文献1には、高温安定性及びせん断安定性を高めるとともに、長期間にわたる使用に伴う低温流動性の低下を抑制することが可能な変速機用潤滑油組成物の提供を目的として、所定の基油と所定量のポリ(メタ)アクリレートとを含有し、所定のパラメータを満たすことを特徴とする変速機用潤滑油組成物が開示されている。
また、近年、モーター、ギヤボックス、インバータを含めた電動駆動ユニットの開発が進められており、この電動駆動ユニットに適した潤滑油組成物が求められるようになっている。例えば、特許文献2には、高い極圧性を有しつつ、耐久性と耐摩耗性とを高い次元で発現し、高い体積比低効率を示す潤滑油組成物の提供を目的として、所定の亜リン酸エステルとチアジアゾール誘導体とを含有する、電動駆動ユニットに好適な潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/213644号
【特許文献2】国際公開第2021/193869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の電動駆動ユニットに用いられる潤滑油組成物には、例えば、耐スカッフィング性や耐銅腐食性等といった特性が要求される。つまり、装置内に組み込まれた各種機構の潤滑に適した特性(例えば、耐スカッフィング性や耐銅腐食性等)を有する新規な潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、潤滑油組成物の動粘度を所定の範囲とし、所定の亜リン酸エステルを含有させることで、チアジアゾール化合物を用いなくても、耐スカッフィング性を低下させることなく、長時間(例えば、後述の実施例では168時間)の耐銅腐食性試験においても優れた耐銅腐食性を示す潤滑油組成物を提供し得ることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明は下記態様[1]~[9]を提供する。
[1]基油(A)、及びアルキル基の構造中の隣接する2つの炭素原子の間に少なくとも1つの-(S)x-基(xは1以上の整数)を有する炭素数2~20の硫黄原子含有基を少なくとも1つ有する亜リン酸エステル(B)を含有する潤滑油組成物であって、
チアジアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上である、潤滑油組成物。
[2]亜リン酸エステル化合物(B)が、下記一般式(b-1)で表される化合物(B1)及び下記一般式(b-2)で表される化合物(B2)から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の潤滑油組成物。
【化1】
(式中、RB11、RB21及びRB22はそれぞれ独立に、炭素数1~19のアルキル基を表し、bB11、bB21及びbB22はそれぞれ独立に、1~10の整数を表す。)
[3]ベンゾトリアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満である、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]亜リン酸エステル化合物(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.15質量%以上1.00質量%未満である[1]~[3]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[5]基油(A)が、鉱油、ポリα-オレフィン、イソパラフィン、ポリアルキレングリコール、エステル系合成油、エーテル系合成油、アルキルベンゼン系合成油、アルキルナフタレン系合成油、GTL、CTL及びBTLからなる群から選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニットの潤滑に用いられる、[1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[7][1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填してなり、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む、電動駆動ユニット。
[8][1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニットの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
[9][1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を製造する方法であって、
基油(A)に、炭素数3以上20以下のアルキル基において両端が炭素原子に結合した1つの-CH-基が-S-基に置換した炭素数2以上19以下の基を少なくとも1つ有する亜リン酸エステル化合物(B)を配合すると共に、
チアジアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上となるように調製する、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、装置内に組み込まれた各種機構の潤滑に適した特性を有する潤滑油組成物であり、より具体的な一態様の潤滑油組成物は、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性をバランス良く向上させ得る。そのため、これらの潤滑油組成物は、例えば、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニット等の潤滑に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
加えて、本明細書に記載された好ましい態様として記載の各種要件は複数組み合わせることができる。
【0008】
また、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出された値を意味する。
リン原子(P)の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
硫黄原子(S)の含有量は、JIS K2541-6:2013に準拠して測定された値を意味する。
【0009】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、基油(A)(以下、「成分(A)」ともいう)、亜リン酸エステル(B)(以下、「成分(B)」ともいう)を含有し、チアジアゾール化合物の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上である。
本発明の別の一態様の潤滑油組成物は、成分(A)、成分(B)を含有し、チアジアゾール化合物及びベンゾトリアゾール化合物の含有量が、それぞれ、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満であり、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上である。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、基油(A)とともに、所定の構造を有する亜リン酸エステル(B)を含有することで、所定の100℃動粘度において、チアジアゾール化合物(C)、ベンゾトリアゾール化合物(D)の含有量を制限した場合もしくはこれらを実質的に含有しない場合にも、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性をバランス良く向上させた潤滑油組成物となり得る。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、このような特性を有するため、例えば、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニット等の潤滑に好適に使用し得る。
【0010】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)及び(B)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、また、100質量%以下、99.5質量%以下、99.0質量%以下、又は98.0質量%以下としてもよい。
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0011】
<成分(A):基油>
本発明の一態様で用いる成分(A)である基油としては、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製(水素化分解)等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL);石炭からフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(CTLワックス(Coal To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(CTL);バイオマスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(BTLワックス(Biomass To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(BTL)等が挙げられる。
【0012】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系合成油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系合成油;アルキルベンゼン系合成油;アルキルナフタレン系合成油等が挙げられる。
【0013】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、基油として、シクロアルカン系合成油を含有してもよく、実質的に含有しなくてもよい。
より具体的には、本発明の一態様の潤滑油組成物において、シクロアルカン系合成油の含有量は、前記潤滑油組成物に含まれる成分(A)の全量基準で、例えば、0.05質量%未満、0.03質量%未満、0.01質量%未満、又は0.001質量%未満としてもよい。
シクロアルカン系合成油としては、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、ビシクロヘプタン環、又はビシクロオクタン環等を含有するナフテン系合成油が挙げられる。
【0014】
本発明の一態様で用いる成分(A)は、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループII及びグループIIIに分類される鉱油、並びに、合成油から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の一態様で用いる成分(A)の100℃における動粘度は、摺動部材に対する焼き付きを低減し得る潤滑油組成物とする観点から、好ましくは2.5mm/s以上、より好ましくは2.7mm/s以上、更に好ましくは2.9mm/s以上、特に好ましくは3.1mm/s以上であり、また、冷却性に優れた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは8.0mm/s以下、より好ましくは7.5mm/s以下、更に好ましくは7.0mm/s以下、より更に好ましくは6.5mm/s以下、特に好ましくは6.0mm/s以下である。
【0016】
また、本発明の一態様で用いる成分(A)の粘度指数は、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、特に好ましくは100以上である。
【0017】
また、本発明の一態様において、成分(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。そのため、低粘度の基油と、高粘度の基油を併用して、上記範囲の動粘度及び粘度指数となるように当該混合油を調製してもよい。
この場合、前記混合油は、100℃における動粘度及び粘度指数が上述の範囲に属する基油を2種以上組み合わせた混合油であってもよく、100℃における動粘度及び粘度指数が上述の範囲に属する基油と上述の範囲に属さない基油とを組み合わせた混合油であってもよい。また、100℃における動粘度及び粘度指数が上述の範囲に属さない低粘度の基油と高粘度の基油とを組み合わせて、上述の範囲に属するように調整した混合油であってもよい。
なお、成分(A)の100℃における動粘度及び粘度指数が仮に上述の範囲に属さない場合でも、潤滑油組成物の100℃における動粘度及び粘度指数が後述する範囲に属するものであればよい。
【0018】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、また、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99.0質量%以下、98.5質量%以下、又は98.0質量%以下としてもよい。
【0019】
<成分(B):亜リン酸エステル>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(B)として、アルキル基の構造中の隣接する2つの炭素原子の間に少なくとも1つの-(S)x-基(xは1以上の整数であるが、好ましくは1~10の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数、より更に好ましくは1又は2、特に好ましくは1である)で置換してなる炭素数2~20の硫黄原子含有基を少なくとも1つ有する亜リン酸エステルを含有する。所定の100℃動粘度を有する潤滑油組成物において、成分(B)を含有することで、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性を向上させた潤滑油組成物とすることができる。
本発明の一態様において、成分(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、成分(B)は、硫黄原子含有基を同一分子内に1個有していてもよく、2個有していてもよい。当該硫黄原子含有基を同一分子内に1個有している亜リン酸エステル(亜リン酸モノエステル)、2個有している亜リン酸エステル(亜リン酸ジエステル)は、それぞれを単独で用いてもよく、両者を併用してもよいが、耐スカッフィング性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、亜リン酸モノエステル及び亜リン酸ジエステルを併用することが好ましい。
【0020】
また、上記観点から、成分(B)の亜リン酸エステルが有する前記硫黄原子含有基は、下記一般式(b-i)で表される基が好ましい。
【化2】
【0021】
前記一般式(b-i)中、Rは、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、Aは、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、R及びAの合計炭素数は2~20である。xは1以上の整数である。*はリン原子との結合位置を示す。
及びAの合計炭素数は、2~20であるが、耐スカッフィング性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは3~18、より好ましくは4~16、更に好ましくは5~14、より更に好ましくは6~12である。
xは、1以上の整数であるが、耐銅腐食性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは1~10の整数、より好ましくは1~5の整数、更に好ましくは1~3の整数、より更に好ましくは1又は2、特に好ましくは1である。
【0022】
として選択し得る前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~18、より好ましくは1~16、更に好ましくは3~14、より更に好ましくは4~12、特に好ましくは6~10である。
として選択し得る前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0023】
として選択し得る前記アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~18、より好ましくは1~16、より好ましくは1~12、更に好ましくは1~10、更に好ましくは1~8、より更に好ましくは1~6、特に好ましくは2~4である。
として選択し得る前記アルキレン基としては、例えば、メチレン基、1,1-エチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン、1,2-プロピレン、2,2-プロピレン等の各種プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種へプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基、各種ウンデシレン基、各種ドデシレン基、各種トリデシレン基、各種テトラデシレン基、各種ペンタデシレン基、各種ヘキサデシレン基、各種ヘプタデシレン基、各種オクタデシレン基等が挙げられる。
これらの中でも、Aとして選択し得る前記アルキレン基は、-(CH-(nは1~19の整数で、好ましくは1~16の整数、より好ましくは1~12の整数、更に好ましくは1~10の整数、更に好ましくは1~8の整数、より更に好ましくは1~6の整数、特に好ましくは2~4の整数である)で表される基が好ましい。
【0024】
本発明の一態様で成分(B)として用いる亜リン酸エステルは、下記一般式(b-1)又は(b-2)で表される亜リン酸エステルが挙げられる。
【化3】
【0025】
上記式中、RB11、RB21、及びRB22は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、その炭素数は、それぞれ独立に、好ましくは1~18、より好ましくは1~16、更に好ましくは3~14、より更に好ましくは4~12、特に好ましくは6~10である。
また、bB11、bB21及びbB22は、それぞれ独立に、1~10の整数であり、好ましくは1~19、より好ましくは1~16、より好ましくは1~12、更に好ましくは1~10、更に好ましくは1~8、より更に好ましくは1~6、特に好ましくは2~4である。
【0026】
B11、RB21、及びRB22として選択し得る前記アルキル基としては、前記一般式(b-i)中のRB1として選択し得る前記アルキル基と同様であり、好適な炭素数や具体的な基も同じである。
【0027】
本発明の一態様で成分(B)として用いる亜リン酸エステルは、アミン塩の形態であってもよい。
アミン塩を形成するアミンとしては、下記一般式(b-3)で表される化合物であることが好ましい。当該アミンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0028】
上記一般式(b-3)中、rは、1~3の整数であり、1であることが好ましい。
は、それぞれ独立に、炭素数6~18のアルキル基、炭素数6~18のアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、又は炭素数6~18のヒドロキシアルキル基である。
なお、Rが複数存在する場合、複数のRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0029】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の合計含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、耐スカッフィング性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.16質量%以上、更に好ましくは0.17質量%以上、特に好ましくは0.18質量%以上であり、また、耐銅腐食性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは1.00質量%未満、より好ましくは0.95質量%以下、より好ましくは0.90質量%以下、更に好ましくは0.85質量%以下、より更に好ましくは0.80質量%以下、より更に好ましくは0.75質量%以下、より更に好ましくは0.70質量%以下、より更に好ましくは0.65質量%以下、より更に好ましくは0.60質量%以下、より更に好ましくは0.55質量%以下、より更に好ましくは0.50質量%以下、より更に好ましくは0.45質量%以下、特に好ましくは0.40質量%以下である。
【0030】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性のバランスが良好な潤滑油組成物とする観点から、成分(B)が、前記一般式(b-1)で表される化合物(B1)及び前記一般式(b-2)で表される化合物(B2)を共に含むことが好ましい。
本発明の一態様において、化合物(B1)と、化合物(B2)との含有量比〔(B1)/(B2)〕は、質量比で、好ましくは1/20~20/1、より好ましくは1/18~18/1、更に好ましくは1/16~16/1、更に好ましくは1/14~14/1、より更に好ましくは1/12~12/1、特に好ましくは1/10~10/1である。
【0031】
上記観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)のリン原子換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは20質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは120質量ppm以上、更に好ましくは150質量ppm以上、より更に好ましくは170質量ppm以上、特に好ましくは200質量ppm以上であり、また、好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは700質量ppm以下、更に好ましくは600質量ppm以下、より更に好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは400質量ppm以下である。
【0032】
上記観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の硫黄原子換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは150質量ppm以上、更に好ましくは170質量ppm以上、より更に好ましくは200質量ppm以上、特に好ましくは230質量ppm以上であり、また、好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは700質量ppm以下、更に好ましくは600質量ppm以下、より更に好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは400質量ppm以下である。
【0033】
<チアジアゾール化合物>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、チアジアゾール化合物の含有量を、当該潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満に制限している。チアジアゾール化合物の含有量が0.05質量%以上であると、長時間の銅腐食試験において銅が黒色化してしまう。本発明の一態様の潤滑油組成物は、チアジアゾールの含有量を上記の通り制限しつつ、上記成分(B)を含有し、潤滑油組成物の100℃における動粘度を所定の範囲に調整することで、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性をバランス良く向上させた潤滑油組成物となり得る。
【0034】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、チアジアゾール化合物の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0.001質量%未満である。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、チアジアゾール化合物を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「チアジアゾール化合物を実質的に含有しない」とは、チアジアゾール化合物を意図的に配合してなる潤滑油組成物を除外することを意味し、不可避的にチアジアゾール化合物が配合されてしまう態様までを除外するわけではないが、このようなチアジアゾール化合物の含有量も極力少ない程好ましい。具体的には、不可避的に混入してしまうチアジアゾール化合物の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0.001質量%未満である。
【0035】
本発明の一態様において、チアジアゾール化合物としては、チアジアゾール環を有する化合物が挙げられ、例えば、下記一般式(c-1)~(c-4)のいずれかで表される化合物であり得る。
【0036】
【化5】
【0037】
上記式中、Rc1及びRc2は、それぞれ独立して、炭化水素基である。
m及びnは、それぞれ独立して、1~10の整数、1~6の整数、1~4の整数、又は2~3の整数であってもよい。
【0038】
c1及びRc2として選択し得る、前記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、1,1-ジメチルヘプチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基;エテニル基、プロぺニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基;シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基等のアルキル基を有してもよいシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等のアリール基;トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、ジメチルナフチル基等のアルキルアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0039】
c1及びRc2として選択し得る、前記炭化水素基の炭素数は、1以上、2以上、3以上、又は5以上であってもよく、また、30以下、20以下、16以下、又は12以下であってもよい。
【0040】
<ベンゾトリアゾール化合物>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、ベンゾトリアゾール化合物の含有量を、当該潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満に制限している。本発明の一態様の潤滑油組成物は、ベンゾトリアゾール化合物の含有量を上記の通り制限しつつ、上記成分(B)を含有し、潤滑油組成物の100℃における動粘度を所定の範囲に調整することで、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性をバランス良く向上させた潤滑油組成物となり得る。
【0041】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ベンゾトリアゾール化合物の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0.001質量%未満である。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、ベンゾトリアゾール化合物を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「ベンゾトリアゾール化合物を実質的に含有しない」とは、ベンゾトリアゾール化合物を意図的に配合してなる潤滑油組成物を除外することを意味し、不可避的にベンゾトリアゾール化合物が配合されてしまう態様までを除外するわけではないが、このようなベンゾトリアゾール化合物の含有量も極力少ない程好ましい。具体的には、不可避的に混入してしまうベンゾトリアゾール化合物の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0.001質量%未満である。
【0042】
本発明の一態様において、ベンゾトリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール構造を有する化合物が挙げられ、例えば、下記一般式(d-0)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
【0043】
前記一般式(d-0)中、RD1は、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭化水素基又は水素原子である。
D2は、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭化水素基である。
z1は0~4の整数、0~2の整数、又は0~1の整数であってもよい。
【0044】
前記炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、及びこれら2種以上を組み合わせてなる基等が挙げられる。
D1として選択し得る、前記炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であるが、3~26、又は6~20であってもよい。
D2として選択し得る、前記炭化水素基の炭素数は、例えば、1~20であるが、1~12、1~6、又は1~2であってもよい。
【0045】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、i-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基)、ペンチル基(n-ペンチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基)、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0046】
前記アルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、プロぺニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基(オレイル基)等が挙げられる。
当該アルケニル基は、直鎖アルケニル基であってもよく、分岐鎖アルケニル基であってもよい。
【0047】
前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0048】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルナフチル基等が挙げられる。
【0049】
<各種添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。
このような添加剤としては、例えば、流動点降下剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、防錆剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
これらの各種添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~8質量%である。
【0051】
[流動点降下剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに流動点降下剤を含有してもよい。流動点降下剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
本発明の一態様で用いる流動点降下剤の質量平均分子量(Mw)は、5,000以上、7,000以上、10,000以上、15,000以上、20,000以上、25,000以上、30,000以上、35,000以上、40,000以上、45,000以上、50,000以上、55,000以上、又は60,000以上としてもよく、また、150,000以下、120,000以下、100,000以下、90,000以下、又は80,000以下としてもよい。
【0052】
[粘度指数向上剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに粘度指数向上剤を含有してもよい。粘度指数向上剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、5,000以上、7,000以上、10,000以上、15,000以上、又は20,000以上としてもよく、また、1,000,000以下、700,000以下、500,000以下、300,000以下、200,000以下、100,000以下、又は50,000以下としてもよい。
【0053】
[酸化防止剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2、6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6ージーtーブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;フェノチアジン、ジオクタデシルサルファイド、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール等の硫黄系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0054】
[金属系清浄剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに金属系清浄剤を含有してもよい。金属系清浄剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる金属系清浄剤としては、金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネート等の金属塩が挙げられる。また、当該金属塩を構成する金属原子としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子が好ましく、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムがより好ましく、カルシウムが更に好ましい。
【0055】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属系清浄剤は、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート、及びカルシウムフェネートから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、カルシウムスルホネートを含むことがより好ましい。
カルシウムスルホネートの含有割合としては、潤滑油組成物に含まれる金属系清浄剤の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%である。
【0056】
金属系清浄剤の塩基価としては、好ましくは0~600mgKOH/gである。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属系清浄剤は、塩基価が100mgKOH/g以上の過塩基性金属系清浄剤であることが好ましい。
過塩基性金属系清浄剤の塩基価としては、100mgKOH/g以上であるが、好ましくは150~500mgKOH/g、より好ましくは200~450mgKOH/gである。
なお、本明細書において、「塩基価」とは、JIS K2501:2003「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0057】
[無灰系分散剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(B)の分散性を良好とする観点から、さらに無灰系分散剤を含有してもよい。無灰系分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる無灰系分散剤としては、アルケニルコハク酸イミドが好ましく、例えば、下記一般式(e-1)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミド、下記一般式(e-2)で表されるアルケニルコハク酸モノイミド等が挙げられる。
【0058】
【化7】
【0059】
上記一般式(e-1)及び(e-2)中、RE1、RE2及びRE3は、それぞれ独立に、質量平均分子量(Mw)が500~3000(好ましくは900~2500)のアルケニル基である。
E1、RE2及びRE3として選択し得る、前記アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられ、これらの中でも、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が好ましい。
E1、AE2及びAE3は、それぞれ独立に、炭素数2~5のアルキレン基である。
e1は0~10の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは2又は3である。
e2は1~10の整数であり、好ましくは2~5の整数、より好ましくは3又は4である。
【0060】
なお、前記一般式(e-1)又は(e-2)で表される化合物は、ホウ素化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、エポキシ化合物、及び有機酸等から選ばれる1種以上と反応させた、変性アルケニルコハク酸イミドであってもよい。
【0061】
[防錆剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに防錆剤を含有してもよい。防錆剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0062】
[消泡剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに消泡剤を含有してもよい。消泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる消泡剤としては、例えば、アルキルシリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン系消泡剤、フルオロアルキルエーテル系消泡剤等が挙げられる。
【0063】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、成分(A)に、成分(B)を配合する工程、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.2mm/s以上となるように調製する工程を含む。また、本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、チアジアゾール化合物を配合する工程を含まない。本発明の別の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、ベンゾトリアゾール化合物を配合する工程を含まない。本発明の更に別の一態様の潤滑油組成物は、チアジアゾール化合物及びベンゾトリアゾール化合物を配合する工程を含まない。
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、必要に応じて他の添加剤を配合する工程を有することが好ましい。
成分(A)、成分(B)及び各種添加剤の好適な化合物並びに配合量は、上述のとおりである。
また、粘度指数向上剤、流動点降下剤、及ぶ消泡剤等の添加剤については、希釈油に溶解した状態で配合することが好ましい。
【0064】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、耐スカッフィング性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは4.2mm/s以上、より好ましくは4.3mm/s以上、更に好ましくは4.4mm/s以上であり、また、冷却性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは8.0mm/s以下、より好ましくは7.5mm/s以下、更に好ましくは7.0mm/s以下、より更に好ましくは6.5mm/s以下、特に好ましくは6.0mm/s以下である。
【0065】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは120以上、特に好ましくは130以上である。
【0066】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性をバランス良く向上させ得る。
このような特性を考慮し、本発明の一態様の潤滑油組成物は、例えば、エンジン、変速機、減速機、圧縮機、油圧装置等の各種装置に組み込まれている、トルクコンバータ、湿式クラッチ、歯車軸受機構、オイルポンプ、油圧制御機構等の機構における潤滑に好適に使用することができる。
これらの中でも、本発明の一態様の潤滑油組成物は、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニットの各種機構の潤滑に用いられることが好ましい。電動駆動ユニットは、燃料電池自動車、電気自動車、及びハイブリッド車に搭載されるものである。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、電動駆動ユニットに適用された場合、電動モーターの冷却とギヤボックスの潤滑の役割を担う。特に、本発明の一態様の潤滑油組成物は、耐スカッフィング性及び耐銅腐食性に優れているため、ギヤボックスの潤滑性を良好とすると共に、優れた耐銅腐食性を有するために電動モーターの冷却に用いても、電動モーターを構成する銅系部材の腐食を防止し得るという特性も有している。
【0067】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、以下の[1]及び[2]も提供し得る。
[1]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を充填してなり、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む、電動駆動ユニット。
[2]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を、ギヤボックス及び電動モーターを少なくとも含む電動駆動ユニットに適用する、潤滑油組成物の使用。
上記[1]及び[2]に記載の潤滑油組成物の好適な態様は、上述のとおりである。
【実施例0068】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法は、下記のとおりである。
【0069】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)リン原子の含有量
JPI-5S-38-92に準拠して測定した。
(3)硫黄原子の含有量
JIS K2541-6:2013に準拠して測定した。
【0070】
実施例1~3、比較例1~5
表2に示す成分(A)、(B)及び他の添加剤を、表1に示す配合量にて添加し、十分に混合して潤滑油組成物をそれぞれ調製した。当該潤滑油組成物の調製に使用した各成分の詳細は以下のとおりである。なお、実施例1~3の潤滑油組成物は、いずれもベンゾトリアゾール化合物を含有しないものであった。
【0071】
<成分(A)>
・「鉱油(a1)」:API基油カテゴリーのグループIIに分類される70N鉱油、100℃動粘度=3.1mm/s、粘度指数=109。
・「鉱油(a2)」:API基油カテゴリーのグループIIIに分類される100N鉱油、100℃動粘度=4.2mm/s、粘度指数=122。
【0072】
<成分(B)>
・「亜リン酸エステル(b)」:前記一般式(b-1)中のRB11がn-オクチル基(-C17)、bB11が2(1,2-エチレン基(-C-))である、成分(B1)に該当する化合物(下記式(b-1-1)で表される化合物)と、前記一般式(b-2)中のRB11、RB22がn-オクチル基(-C17)、bB11、bB22が2(1,2-エチレン基(-C-))である、成分(B2)に該当する化合物(下記式(b-2-1)で表される化合物)とを、成分(B1)/成分(B2)=9/1(質量比)で混合してなる硫黄原子含有亜リン酸エステル化合物の混合物。硫黄原子含有量=10.7質量%、リン原子含有量=10質量%。
<成分(A)、(B)以外の他の添加剤>
・極圧剤:チアジアゾール(2,5-ビス(1,1-ジメチルヘプチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、前記一般式(c-1)中、m=n=2、RC1及びRC2が1,1-ジメチルヘプチル基であるチアジアゾール(下記式(c-1-1)で表される化合物))。
【化8】
【0073】
・極圧剤:リン酸トリトリル。
・粘度指数向上剤:ポリメタクリレート系粘度指数向上剤(樹脂分換算での含有量:0.13質量%)。
・「添加剤混合物」:酸化防止剤、金属系清浄剤、無灰系分散剤、流動点降下剤及び消泡剤を混合し、70N水素化分解鉱油で希釈した添加剤混合物。
【0074】
調製した潤滑油組成物について、動粘度及び粘度指数を測定もしくは算出すると共に、以下の試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0075】
(1)FZGスカッフィング試験(A10/16.6R/90)
ASTM D5182に準拠し、A10タイプ歯車を用いて、試料油温度90℃、回転数2900rpm、運転時間約7.5分間の条件下で、規定に沿って段階的に荷重を上げ、スカッフィングが発生した際の荷重のステージを求めた。当該ステージの値が高いほど、耐スカッフィング性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0076】
(2)耐銅腐食性試験
JIS K2513「石油製品銅板腐食試験方法」の試験官法に準拠し、試験温度150℃及び試験時間168時間の条件にて、銅板腐食性試験を行い、銅板の変色状態を観察し、下記表1に示すJIS K2513の「表1 銅板腐食標準による腐食の分類」に基づいて、液相での耐銅腐食性を評価した。なお、表2では、「変色番号(細分記号)」で記載しており、変色番号は数字の小さいほど耐銅腐食性が小さく、アルファベット順に腐食の進行程度を示している。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表2より、実施例1~3で調製した潤滑油組成物は、耐スカッフィング性に優れると共に、耐銅腐食性にも優れた結果となった。一方で、比較例1、2及び5は、耐銅腐食性は良好であったものの、耐スカッフィング性が劣る結果であった。また、比較例3及び4は、耐スカッフィング性は良好であったものの、耐銅腐食性が劣る結果となった。