(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168742
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】非水電解質電池用タブリード
(51)【国際特許分類】
H01M 50/533 20210101AFI20231121BHJP
H01M 50/534 20210101ALI20231121BHJP
H01M 50/553 20210101ALI20231121BHJP
H01M 50/571 20210101ALI20231121BHJP
H01M 50/188 20210101ALI20231121BHJP
【FI】
H01M50/533
H01M50/534
H01M50/553
H01M50/571
H01M50/188
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080026
(22)【出願日】2022-05-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】村上 竜
(72)【発明者】
【氏名】大澤 燎平
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃一
(72)【発明者】
【氏名】大江 淳雄
(72)【発明者】
【氏名】大内 高志
【テーマコード(参考)】
5H011
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA17
5H011EE04
5H011FF04
5H011GG08
5H011HH02
5H011KK00
5H043AA07
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA09
5H043DA02
5H043DA11
5H043EA15
5H043EA22
5H043HA23E
5H043KA01E
5H043KA06E
5H043KA07E
5H043KA08D
5H043KA08E
5H043LA00E
5H043LA04E
5H043LA14E
(57)【要約】
【課題】 リード導体とシール材との密着力を、従来よりも正確に管理できる手段を提供する。
【解決手段】 金属製のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリードに使用される、金属製のリード導体であって、リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、リード導体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリードに使用される、金属製のリード導体であって、
リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、リード導体。
【請求項2】
リード導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、請求項1に記載のリード導体。
【請求項3】
粗さパラメータSdqが、0.17~0.25の範囲にある、請求項2に記載のリード導体。
【請求項4】
表面処理層が、基材上に形成された第1めっき層と、第1めっき層上に形成された第2めっき層を有する、請求項2に記載のリード導体。
【請求項5】
第2めっき層が、Ni、Cr、Mo、Zr、及びCoの少なくともいずれか1種を含む、請求項4に記載のリード導体。
【請求項6】
第2めっき層が、Ni及びPを含む、請求項5に記載のリード導体。
【請求項7】
第2めっき層のP含有量が6wt%以上である、請求項6に記載のリード導体。
【請求項8】
第2めっき層のP含有量が18wt%以下である、請求項7に記載のリード導体。
【請求項9】
第1めっき層が、Niを含む、請求項4に記載のリード導体。
【請求項10】
藤森工業株式会社ST-17N-W(厚み150μm)とのピール強度が20N/cm以上である、請求項1に記載のリード導体。
【請求項11】
金属製のリード導体の金属が、銅又は銅合金である、請求項1に記載のリード導体。
【請求項12】
請求項1~11のいずかに記載のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリード。
【請求項13】
請求項12に記載のタブリードを有する、非水電解質電池。
【請求項14】
請求項13に記載の非水電解質電を有する、電動輸送機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用タブリード、及び該タブリードを使用した非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化の要求に伴い、リチウムイオン電池などの非水電解質電池の研究開発が進められている。
【0003】
非水電解質電池の構造としては、例えば、セパレータを介して正極板と負極板を積層した積層電極群および電解液を、多層フィルム等からなる外装ケースに収納し、正極板、負極板に接続したそれぞれのタブリードを密封封止して外部に取り出す構造のものが知られている。外装ケースは、例えば、矩形状に裁断された2枚のラミネートフィルムの周辺のシール部を、熱溶着によりシールすることにより密封封止される。
【0004】
タブリードは、リード導体とシール材から構成されている。リード導体は、正極板又は負極板に接続して電流を密閉された電池の外部に取り出すため導体である。シール材は、リード導体上に設けられた絶縁性樹脂部分であって、リード導体と上記の多層フィルムとの短絡を防止しつつ電池の密封性を確保するために設けられている。外装ケースからの取り出し部分にシール材が熱溶着等によりシールされることによって電池の密閉性を確保すると同時に、外装ケース内に収納された積層電極群から外部への電気的な接続をリード導体によって確保している。
【0005】
特許文献1は、このような構造の非水電解質電池とタブリードを、特許文献1の
図2及び
図3において開示している。
【0006】
そして、上述のように、パウチ型の非水電解質電池(LiB)は、電池セルから電力を取り出すためのタブリードを備えていて、タブリードはシール材を介して包装材に溶着されており、パウチ内の電解液がパウチ外に漏れないことが求められるところ、特許文献1は、タブリードのリード導体の表面粗さRaを0.1~0.3μmに制御することで、リード導体とシール材との密着力を高める技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-086139号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
パウチ型の非水電解質電池において、パウチ内の電解液がパウチ外に漏れないことは、電池性能の維持の観点から特に強く求められているので、タブリードのリード導体がシール材を介して包装材に強固に溶着されることは、技術的な意義が特に大きい。
【0009】
この場合に、シール材と包装材の溶着は、樹脂材料と樹脂材料の溶着となるので、これを強固とすることは比較的に容易であるが、リード導体とシール材との接着は、金属材料と樹脂材料との密着によるので、これを強固とすることは技術的な難易度が高い。
【0010】
本発明者は、タブリードのリード導体とシール材との密着をより高める手段を鋭意研究開発してきたところ、いったん、タブリードのリード導体の表面粗さRaの制御に着目した。ところが、これまで密着力の指標となると信じられていたリード導体の表面粗さRaは、現実の密着力とは相関が弱いことを見いだした。換言すれば、本発明者は、リード導体の表面粗さRaを管理しても、リード導体とシール材との密着力を正確に管理できないことを見出した。
【0011】
そこで、本発明の目的は、リード導体とシール材との密着力を、従来よりも正確に管理できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、リード導体の表面粗さRaに代えて、後述する指標を採用することによって、リード導体とシール材との密着力を、従来よりも正確に管理できることを発見して、本発明に到達した。加えて、この指標を特定の範囲に制御することによって、リード導体とシール材との密着力が高い領域において、密着力を安定的に高めることができることを発見した。
【0013】
したがって、本発明は以下の(1)を含む:
(1)
金属製のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリードに使用される、金属製のリード導体であって、
リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、リード導体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リード導体とシール材との密着力を、従来よりも正確に管理できる。その結果、リード導体とシール材とが、高い密着力によって密着したタブリードを安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ピール強度の測定の結果を例示するグラフである。
【
図2】
図2は、Ni-Pめっきの電解液耐性の検討結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を具体的な実施の形態をあげて以下に詳細に説明する。本発明は以下に開示された具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
[リード導体]
本発明のリード導体は、金属製のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリードに使用される、金属製のリード導体であって、
リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、リード導体である。より好ましくは、リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.17~0.25の範囲にある表面を有する、リード導体である。
【0018】
本発明のリード導体は、リード導体の表面のシール材と接触する表面として、上記表面を有することによって、絶縁樹脂製のシール材と密着させてタブリードを製造する場合に、リード導体とシール材との密着力を、従来よりも正確に管理可能なものとなっており、リード導体とシール材との密着力が高い領域において、密着力を安定的に高めることができる。
【0019】
[金属製のリード導体]
好適な実施の態様において、金属製のリード導体の金属は、例えば銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金とすることができる。好適な実施の態様において、金属製のリード導体は、上記の金属を基材として有し、この基材上に形成された表面処理層を有する構造とすることができる。
【0020】
[絶縁樹脂製のシール材]
好適な実施の態様において、絶縁樹脂製のシール材の絶縁樹脂としては、例えばポリプロピレン、酸変性ポリプロピレン、ポリエチレン、及び酸変性ポリエチレンなどの熱可塑性ポリオレフィンから選択された絶縁樹脂を使用することができる。これらの絶縁樹脂を有する単層又は多層の形態のシール材とすることができる。好ましくは耐熱性樹脂を接着性の高いマレイン酸変性ポリプロピレン層で挟んだ多層のシール材を使用することができる。耐熱性樹脂としては、ポリオレフィンを架橋したものを用いることができる。ポリオレフィンの架橋方法は公知の方法を用いることが出来る。
【0021】
[電気化学デバイス用のタブリード]
好適な実施の態様において、金属製のリード導体は、電気化学デバイス用のタブリードとして使用される。電気化学デバイスとは、電気化学反応によって電気的信号あるいは電気的エネルギーを供給するデバイスであって、例えばリチウムイオン電池などの非水電解質電池をあげることができる。電気化学デバイスは、外部へと電位あるいは電流を出力するための導電性の端子を備えており、この導電性の端子として使用される部材が、タブリードである。
【0022】
好適な実施の態様において、タブリードは、導電性を担うためのリード導体と、電気化学デバイスの包装材の内側と溶着されて、密封性を担うためのシール材とを備える。好適な実施の態様において、タブリードを構成するリード導体の表面のうち、包装材の内側との溶着による封止がなされる部分に、シール材が密着されている。
【0023】
[リード導体の表面のシール材と接触する表面]
好適な実施の態様において、リード導体の表面のうち、シール材と接触する表面には、シール材との密着力が向上する特性を備えている。すなわち、好適な実施の態様において、リード導体は、リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、後述する範囲内にある表面を有している。
【0024】
[粗さパラメータSdq]
従来から、表面粗さのパラメータとして、表面粗さRaが使用されてきた。ところが、本発明者の検討によれば、実施例において後述するように、表面粗さRaは、タブリードにおいて求められている領域において、リード導体とシール材の密着力を決定するパラメータとして、ピール強度との相関係数が小さく、製造管理上の指標とすることが難しいことがわかった。そして、正確な製造管理のために、信頼できる程度の相関係数を有するパラメータとして粗さパラメータSdqを使用できることを、本発明者は見いだした。粗さパラメータSdqの具体的な測定は、実施例において後述する通りである。粗さパラメータSdq(二乗平均平方根傾斜)は、表面粗さを三次元的に測定して、定義領域のすべての点における傾斜の二乗平均平方根により算出されるパラメータであり、ISO25178に規定されている。なお、後述するように本開示では、粗化めっきによって表面粗さSdqを所定範囲に制御しているが、他の実施形態において、エッチング、サンドブラストその他の公知の方法によって、又は、これらの組み合わせ(例えば、粗化めっきではない通常のめっき後にエッチング)によって表面粗さを所定範囲に制御しても良い。
【0025】
好適な実施の態様において、粗さパラメータSdqは、リード導体とシール材との密着力を高める観点から、例えば0.13以上の範囲、好ましくは0.17~0.25の範囲とすることができる。粗さパラメータSdqが小さすぎると、アンカー効果が小さくなりシール材との密着力が低下し得る。一方、粗さパラメータSdqが大きすぎても、リード導体表面の凸部先端が先細りしすぎて強度が低下する結果、かえってシール材との密着力が低下し得る。好適な実施の態様において、粗さパラメータSdqは、例えば0.13以上、0.14以上、0.15以上、0.16以上、0.17以上、例えば0.25以下、0.24以下、0.23以下、0.22以下、0.21以下、0.20以下、0.19以下、0.18以下とすることができる。
【0026】
[表面処理層]
好適な実施の態様において、リード導体の表面のシール材と接触する表面は、表面処理層として設けられている。すなわち、好適な実施の態様において、リード導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有するものとなっている。
【0027】
好適な実施の態様において、表面処理層は、単層又は複数層のめっきの層からなる層とすることができる。
【0028】
好適な実施の態様において、表面処理層は、基材上に形成された第1めっき層と、第1めっき層上に形成された第2めっき層を有することができる。好適な実施の態様において、表面処理層は、基材上に形成された第1めっき層と、第1めっき層上に形成された第2めっき層からなる層とすることができる
【0029】
好適な実施の態様において、表面処理層の表面は、その表面の粗さパラメータSdqが、リード導体の表面のシール材と接触する表面について上述した範囲を満たすものとすることができる。
【0030】
[第1めっき層]
好適な実施の態様において、第1めっき層は、例えばNi、Cu、Ag及びCoから選択された金属の少なくともいずれか1種を含むめっきの層とすることができる。耐電解液性の観点からは、Niを含むめっきの層またはCoを含むめっきの層とすることができる。表面粗さを制御する観点からは、Ni、Cu、およびAgのうち少なくとも1つを含むめっきの層とすることができる。
【0031】
耐電解液性および表面粗さの観点から、第1めっき層は、好ましくは粗化Niめっきの層とすることができる。粗化Niめっきの層は、公知の手段によって設けることができ、具体的には、実施例において後述する手段によって設けることができる。
【0032】
好適な実施の態様において、第1めっき層は、例えば0.1~3[μm]、好ましくは0.5~2[μm]、さらに好ましくは1.0~1.5[μm]の厚みの層とすることができる。第1めっき層の厚みが薄すぎると粗さパラメータSdqを0.13以上に制御するのが難しくなる。一方、第1めっき層が厚すぎると生産性や加工性が低下してしまう。
【0033】
好適な実施の態様において、第1めっき層の表面は、その表面の粗さパラメータSdqが、リード導体の表面のシール材と接触する表面について上述した範囲を満たすものとすることができる。
【0034】
[第2めっき層]
好適な実施の態様において、第2めっき層は、例えばNi、Cr、Mo、Zr、及びCoから選択された金属の少なくともいずれか1種を含むめっきの層とすることができ、好ましくはNiを含むめっきの層とすることができる。
【0035】
好適な実施の態様において、第2めっき層は、例えばCrめっきの層、Coめっきの層、またはNi-Pめっきの層とすることができ、好ましくはNi-Pめっきの層とすることができる。Ni-Pめっきの層は、公知の手段によって設けることができ、具体的には、実施例において後述する手段によって設けることができる。
【0036】
このように、第1めっき層を粗化めっき層とすることで、表面処理層の表面粗さを制御してリード導体とシール材との高い密着強度を実現する。また、第2めっき層を上記のめっき層とすることで、高い耐電解液性を実現する。なお、他の実施形態において、リード導体の表面に第1のめっき層(粗化めっき層)を設けずに第2のめっき層を設けた後に、エッチングなどで表面粗さを制御してもよい。
【0037】
好適な実施の態様において、第2めっき層は、例えば0.1~3.0[μm]、好ましくは0.3~2.0[μm]、さらに好ましくは0.5~1.0[μm]の厚みの層とすることができる。第2めっき層の厚みが薄すぎると必要な耐電解液性を確保するのが難しくなる。一方、第2めっき層が厚すぎると、生産性や加工性が低下するだけでなく、表面処理層の表面の粗さパラメータSdqが小さくなる傾向がある。
【0038】
好適な実施の態様において、Ni-Pめっきの層は、P含有量を、例えば4~18wt%、好ましくは6~18wt%、あるいは、例えば6~10wt%、好ましくは6.5~9.4wt%とすることができる。
【0039】
好適な実施の態様において、第2めっき層の表面は、その表面の粗さパラメータSdqが、リード導体の表面のシール材と接触する表面について上述した範囲を満たすものとすることができる。
【0040】
[非水電解質電池]
本発明は、上記リード導体を含んでなるタブリードにもあり、該タブリードを備えた電気化学デバイスにもあり、該タブリードを備えた非水電解質電池にもある。本発明による非水電解質電池は、タブリード部分に由来する優れた信頼性、すなわち安定した高い密閉性と耐久性を備えているので、非水電解質電池を使用した電動輸送機器、ドローン、ロボット、電動工具なども、非水電解質電池に由来する優れた信頼性を備えたものとなっている。したがって、本発明は、これらの電動輸送機器、ドローン、ロボット、電動工具などにもある。
【0041】
[本発明の好適な態様]
好適な実施の態様として、本発明は、次の(1)以下を含む。
(1)
金属製のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリードに使用される、金属製のリード導体であって、
リード導体の表面のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、リード導体。
(2)
リード導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層のシール材と接触する表面として、粗さパラメータSdqが、0.13以上の範囲にある表面を有する、(1)に記載のリード導体。
(3)
粗さパラメータSdqが、0.17~0.25の範囲にある、(2)に記載のリード導体。
(4)
表面処理層が、基材上に形成された第1めっき層と、第1めっき層上に形成された第2めっき層を有する、(2)に記載のリード導体。
(5)
第2めっき層が、Ni、Cr、Mo、Zr、及びCoの少なくともいずれか1種を含む、(4)に記載のリード導体。
(6)
第2めっき層が、Ni及びPを含む、(5)に記載のリード導体。
(7)
第2めっき層のP含有量が6wt%以上である、(6)に記載のリード導体。
(8)
第2めっき層のP含有量が18wt%以下である、(7)に記載のリード導体。
(9)
第1めっき層が、Niを含む、(4)に記載のリード導体。
(10)
藤森工業株式会社ST-17N-W(厚み150μm)とのピール強度が20N/cm以上である、(1)に記載のリード導体。
(11)
金属製のリード導体の金属が、銅又は銅合金である、(1)に記載のリード導体。
(12)
(1)~(11)のいずかに記載のリード導体と絶縁樹脂製のシール材とを備える電気化学デバイス用のタブリード。
(13)
(12)に記載のタブリードを有する、非水電解質電池。
(14)
(13)に記載の非水電解質電を有する、電動輸送機器。
【実施例0042】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実験例1]
[リード導体の製造]
[基材]
リード導体の製造のための材料として、次の基材を用意した。
基材:銅板(C1020-O)(60×45×0.2mm)(無酸素銅、純度99.96%以上)
【0044】
[粗化Niめっき]
上記基材の表裏両面を、次の条件で粗化Niめっきした。電流印加時間を適宜調整してめっき厚みを制御した。このようにして、種々の厚みで粗化Niめっきされた試料を得た。
めっき浴:JX金属商事製粗化Niめっき液(製品名「粗化Niめっき液」)
スルファミン酸Ni(II)4水和物300~400g/L(Ni濃度4.0~5.4wt%)
塩化Ni(II)6水和物240~320g/L(Ni濃度4.4~5.9wt%)
ホウ酸30~40g/L、
pH:3.5
電流密度:10A/dm2
温度:60℃
【0045】
[Ni-Pめっき]
粗化Niめっきした基材の表裏両面を、次の条件でNi-Pめっきした。電流印加時間を適宜調整してめっき厚みを制御した。一例として、次の条件で電流印加時間を90秒とした場合に、約1μmのNi-Pめっきが形成された。Ni-PめっきにおけるP濃度は11wt%であった。このようにして、種々の厚みで粗化Niめっき及びNi-Pめっきされた試料を得た。粗化Niめっき及びNi-Pめっきされた試料をリード導体として使用して、後の試験に供した。
めっき浴:硫酸Ni浴
硫酸Ni(II)6水和:220~280g/L(Ni濃度4~6wt%)
亜りん酸:68~92g/L(P濃度6~8wt%)
電流密度:10A/dm2
温度: 60℃
【0046】
[めっき厚みの測定]
粗化Niめっき及びNi-Pめっきのめっき厚みを、次の条件で測定した。具体的には、粗化Niめっき後に1回目のめっき厚を測定し、Ni-Pめっき後に2回目のめっき厚を測定した。この2回目のめっき厚みから1回目のめっき厚みを差し引いた値をNi-Pめっきの厚みとした。
測定装置: 高性能蛍光X線膜厚計SFT9550X(エスアイアイナノテクノロジー株式会社製)
測定方法: FP法
測定箇所: サンプル中央部
【0047】
[P濃度の測定]
P濃度はEPMA 電子プローブマイクロアナライザー(JXA-8500F、日本電子株式会社製)を使用して、次の条件で測定した。
(標準試料測定)
標準試料:InPウェハー(P濃度50at%)、使用結晶:PETH、使用X線:Kα、加速電圧15kV、照射電流1×10-7A、ビーム径10μm。この測定条件で、標準試料のPのピーク位置(197.235mm)のX線強度を5回測定し、その平均値を算出した。
(サンプル測定)
上記作成した異なるP濃度のNi-Pめっき層が形成されたサンプルの各々について、標準試料測定と同様の測定条件でサンプル中央部を5回測定し、Pのピーク位置(197.235mm)のX線強度の平均値を算出した。
サンプルのP濃度[at%]は、以下の計算式で算出し、その後にwt%に変換した。
サンプルのP濃度[at%]=(サンプルのX線強度の平均値を標準試料)÷(標準試料のX線強度の平均値)×50
【0048】
測定されためっき厚みをまとめて、表1に示す。
なお、比較例2は、表1に記載のように粗化Niめっき及びNi-Pめっきを施していないが、従来用いられている一般的な無光沢Niめっきを上記基材に2μmの厚みで設けた。
【0049】
【0050】
[粗さパラメータの測定]
粗さパラメータを、以下の装置で測定した。
測定装置:lazertec製 OPTELICS HYBRID L3
【0051】
測定は、めっきされた基材のめっきの表面に対して、測定視野を200×200μmとして、サンプル内9箇所を測定箇所の偏りがないように測定し、そのうち値の大きい3点、値の小さい3点を除いた計3点の平均値を粗さとして用いた。測定条件の詳細は、表2及び表3に示す。得られた粗さパラメータをまとめて、表1に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
[実験例2]
[リード導体とシール材のピール強度]
[シール材の貼り付け]
粗化Niめっき及びNi-Pめっきされた試料を、リード導体として使用して、これに対してシール材を貼り付けて、ピール強度の測定を行った。
シール材として、藤森工業株式会社ST-17N-W(厚み150μm)を使用した。
シール材は、粗化Niめっき及びNi-Pめっきされた基材のめっきの表面及び裏面に対して、0.2MPa、220℃で10秒間加圧・加熱することによって貼り付けた。
【0055】
[ピール強度の測定]
標準型デジタルフォースゲージ ZTS-50Nおよび、電動計測スタンド MX-500Nを用いて50mm/minの条件で180度剥離試験を行ない、各サンプルのピール強度を測定した。
【0056】
より具体的な手順としては、表と裏に設けられたシール材のうち、表のシール材を一部剥離してそこを起点に電動計測スタンドを180度方向(リード導体の長手方向)に一定速度で動かし、剥離を開始してから負荷が安定している剥離距離区間での負荷の平均値を読み取り、さらに裏でも同様の作業を行ない、平均をとってピール強度を算出した。
【0057】
例えば、実施例3のサンプルでは、剥離距離が10~30mmの区間における負荷の平均値を算出した。一方、実施例2では、剥離距離が5~10mmの区間における負荷の平均値を採用した。
【0058】
ピール強度の測定の一例のグラフを
図1に示す。
図1のグラフにおいて、横軸は剥離距離(mm)、縦軸は負荷(N/cm)である。
【0059】
得られたピール強度を、表1にまとめて示す。
【0060】
[粗さパラメータとピール強度の相関]
粗さパラメータとピール強度の相関を、表計算ソフト マイクロソフトエクセル(バージョン2008)のCORREL関数に、実施例1~8、比較例1のデータを入力して算出した。その結果を次の表4に示す。
【0061】
【0062】
なお、相関係数の算出にあたって、実施例1及び実施例9は凝集破壊であったため、便宜上ピール強度を37[N/cm]として相関係数を算出した。凝集破壊とは、リード導体とシール材との密着が十分であったために、リード導体からシール材が剥がれるよりも前に、シール材自体が破壊されてしまったことを意味する。
【0063】
表4に示されるように、従来リード導体とシール材との密着力を見積もるために用いられていた表面粗さRaと密着力との相関は著しく低いことが分かった。そのため、リード導体の表面粗さRaを基準値以上としても、シール材との密着力が基準値に満たず、パウチ内の電解液がパウチ外に漏れる可能性がある。
また、表面粗さSaは、表面粗さRaに比べて密着力との相関が高いが、依然として低い水準である。一方、表面粗さSdqと密着力との間には高い相関性が認められた。これにより、リード導体の表面粗さSdqを管理することで、シール材との密着力を確実に基準値以上とし、パウチ内の電解液がパウチ外に漏れないようにし得る。
【0064】
[実験例3]
[Ni-Pめっきの電解液耐性]
Ni-Pめっきの電解液耐性を、以下の実験によって検討した。
銅基板(45×60×0.2mm)に粗化NiめっきなしでP含有率の異なるNi-Pめっきを厚さ1μm設け、電解液に浸漬前後の重量変化を測定した。また、比較用に、同基板にNi-Pめっきではなく厚さ2μmのNiめっきを設けて電解液に浸漬前後の重量変化を測定した。
浸漬条件
電解液:
EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)(1:1:1[v/vol%])+LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)(1mol/L)+H2O 1000ppm
温度:80℃
浸漬時間:1週間
パウチ:あり (パウチ内に密閉された電解液中での耐性を検討した)
【0065】
比較例として、基材に厚さ2μmの無光沢Niめっきが施された既製品(日鉱金属(蘇州)有限公司製)を使用した。製品名は以下の通りである:
【0066】
Ni-Pめっきの電解液耐性の検討結果のグラフを、
図2及び表5に示す。
図2のグラフの横軸は、めっきの平均P含有量であり、縦軸は電解液に浸漬前後のめっき試料の重量変化量の比率である。電解液耐性が低い場合、電解液によって表面を腐食されて浸漬後の重量が減少する。そのため、重量変化量比が低いほど、耐電解液性が高いことを表す。
【0067】
重量変化量比は、以下の式で算出することが出来る。
重量変化量比=(「浸漬前のNi-Pめっき試料の重量」-「浸漬後のNi-Pめっき試料の重量」)/{(「浸漬前のNiめっき試料の重量」-「浸漬後のNiめっき試料の重量」)×0.5}
【0068】
上記式において、「×0.5」はNiめっきの厚みが2μmで、Ni-Pめっきの厚みが1μmであるため、規格化のために追加した。
【0069】
【0070】
表5に示されるように、好適な実施の態様において、浸漬試験の前後の重量変化量比が、例えば0.5以下、好ましくは0.4以下である場合に、電解液耐性に優れると判定することができる。
【0071】
図2のグラフ及び表5に示されるように、Ni-Pめっきを表層側に設けることによって、Niめっきだけを行った場合に比べて重量変化量が小さくなっていること、即ち耐電解液性が向上していることが読み取れる。また、
図2のグラフ及び表5に示されるように、P含有量に応じて、ほぼ3段階(P濃度が6wt%未満、6~10wt%、10wt%超え)に重量変化量が変化した。
【0072】
具体的には、P含有量6wt%以上とすることで、重量変化量比(即ち耐電解液性)が、P含有量6wt%未満に比べて大きく向上した。
また、P含有量6~10wt%の範囲では、重量変化量、即ち耐電解液性がほぼ一定であった。P含有量10wt%を超える領域では、重量変化量、が再び減少、即ち耐電解液性が向上していった。
【0073】
この傾向は、別途行ったSEM像での観察の結果と同じ傾向を示した。具体的には、SEM像で観察されたNi-P表面構造が上記の3段階のP濃度で変化した。より具体的には、平均P含有率6wt%未満の領域では、ポアの発生が確認された。また、平均P含有率6~10wt%の領域では、圧延痕由来の溝に沿って若干の腐食が確認され、平均P含有率10wt%より高い領域では、腐食はほぼ確認されなかった。
【0074】
これらの結果から、Ni-Pめっき層におけるP濃度は4~18wt%とすることが好ましいことがわかった。P濃度4wt%とすると、耐電解液性が低下する可能性があり、また、P濃度18wt%以上とすると、生産性が著しく低下する可能性があるためである。
【0075】
より好ましくは、Ni-Pめっき層におけるP濃度は6~10wt%とできることがわかった。P濃度6wt%以上とすることで顕著に耐電解液性が向上するとともに、このP濃度範囲内では、耐電解液性がほぼ一定であって、かつ、腐食がほぼ確認されないという高い耐電解液性を誇るため、品質安定性に優れたリード導体を提供し得るためである。
【0076】
より一層好ましくは、Ni-Pめっき層におけるP濃度は6.5~9.4wt%とできることがわかった。Ni-Pめっき層におけるP濃度は、面内で均一ではなくある程度のバラつきが生じ得る。そのため、このP濃度範囲とすることで、面内で均一な耐電解液性を実現できるからである。
本発明によれば、リード導体とシール材との密着力を、従来よりも正確に管理できる。その結果、リード導体とシール材とが、高い密着力によって密着したタブリードを安定して得ることができる。本発明は産業上有用な発明である。