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  • 特開-導体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168756
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】導体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/571 20210101AFI20231121BHJP
   H01M 50/534 20210101ALI20231121BHJP
   H01M 50/553 20210101ALI20231121BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20231121BHJP
【FI】
H01M50/571
H01M50/534
H01M50/553
H01M50/562
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080044
(22)【出願日】2022-05-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】村上 竜
(72)【発明者】
【氏名】大澤 燎平
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃一
(72)【発明者】
【氏名】大江 淳雄
【テーマコード(参考)】
5H043
【Fターム(参考)】
5H043AA07
5H043BA19
5H043CA09
5H043DA02
5H043DA11
5H043EA15
5H043HA23E
5H043KA07E
5H043KA08D
5H043KA08E
5H043LA14E
(57)【要約】
【課題】 環境負荷が小さく、電解液などの腐食性環境下に対する優れた耐久性を有する表面を備えた、導体を提供する。
【解決手段】 金属製の導体であって、導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含む、導体。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の導体であって、
導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含む、導体。
【請求項2】
P濃度が6~10wt%の範囲にある、請求項1に記載の導体。
【請求項3】
前記基材が、銅又は銅合金である、請求項1に記載の導体。
【請求項4】
電気化学デバイス用のタブリードに使用されるリード導体である、請求項1に記載の導体。
【請求項5】
Ni-Pめっき層が、少なくとも、表面処理層の電解液と接触する表面に設けられた、請求項4に記載の導体。
【請求項6】
請求項1~5のいずかに記載の導体を備える電気化学デバイス用のタブリード。
【請求項7】
請求項6に記載のタブリードを有する、非水電解質電池。
【請求項8】
請求項7に記載の非水電解質電を有する、電動輸送機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体、非水電解質電池タブリード用リード導体、該リード導体を備えたタブリード、該タブリードを使用した非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化の要求に伴い、リチウムイオン電池などの非水電解質電池の研究開発が進められている。
【0003】
非水電解質電池の構造としては、例えば、セパレータを介して正極板と負極板を積層した積層電極群および電解液を、多層フィルム等からなる外装ケースに収納し、正極板、負極板に接続したそれぞれのタブリードを密封封止して外部に取り出す構造のものが知られている。外装ケースは、例えば、矩形状に裁断された2枚のラミネートフィルムの周辺のシール部を、熱溶着によりシールすることにより密封封止される。
【0004】
タブリードは、リード導体とシール材から構成されている。リード導体は、正極板又は負極板に接続して電流を密閉された電池の外部に取り出すため導体である。シール材は、リード導体上に設けられた絶縁性樹脂部分であって、リード導体と上記の多層フィルムとの短絡を防止しつつ電池の密封性を確保するために設けられている。外装ケースからの取り出し部分にシール材が熱溶着等によりシールされることによって電池の密閉性を確保すると同時に、外装ケース内に収納された積層電極群から外部への電気的な接続をリード導体によって確保している。
【0005】
特許文献1は、リチウムイオン電池のタブが、シールと接着している部位において、電解質と水分により発生するフッ化水素酸により腐食されることのないように、リン酸クロメート処理されたリチウムイオン電池用タブを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-216741公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パウチ型の非水電解質電池において、パウチ内の電解液がパウチ外に漏れないことは、電池性能の維持の観点から特に強く求められている。また、電解液の液漏れは、電池の発火や故障を引き起こし得る。そのため、リード導体の電解液に対する耐腐食性が高いことが求められている。しかしながら、Crを含むクロメート処理は環境への負荷が大きいため、持続可能性の観点から好ましくない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、環境負荷が小さく、電解液に対する優れた耐久性を有する表面を備えた、リード導体を提供することにある。他の局面における本発明の目的は、環境負荷が小さく、電解液などの腐食性環境下に対する優れた耐久性を有する表面を備えた導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、導体の表面として、後述するめっき層を備えた導体によって、上記課題を解決できることを見いだして、本発明に到達した。
【0010】
したがって、本発明は以下の(1)を含む:
(1)
金属製の導体であって、
導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含む、導体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境負荷が小さく、電解液などの腐食性環境下に対する優れた耐久性を有する表面を備えた、導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、Ni-Pめっきの電解液耐性の検討結果であり、P含有率の異なるNi-Pめっきを設けた場合の重量変化量比を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を具体的な実施の形態をあげて以下に詳細に説明する。本発明は以下に開示された具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
[導体]
本発明の導体は、金属製の導体であって、
導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含む、導体である。
【0015】
本発明の導体は、電気化学デバイス用のタブリードのリード導体に使用された場合に、上記表面を有することによって、電解液に対する耐性を備えたものとすることができる。これによって、タブリードの機能が長期間の使用を通じて維持されて、耐久性のある電気化学デバイス、特に耐久性のある非水電解質電池を実現するものとなっている。好適な実施の態様において、本発明の導体は、金属製のリード導体とすることができる。
【0016】
[金属製のリード導体]
好適な実施の態様において、金属製のリード導体の金属は、例えば銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金とすることができる。好適な実施の態様において、金属製のリード導体は、上記の金属を基材として有し、この基材上に形成された表面処理層を有する構造とすることができる。
【0017】
[絶縁樹脂製のシール材]
好適な実施の態様において、金属製のリード導体には、絶縁樹脂製のシール材を接着して、電気化学デバイス用のタブリードとして使用することができる。絶縁樹脂製のシール材の絶縁樹脂としては、例えばポリプロピレン、酸変性ポリプロピレン、ポリエチレン、及び酸変性ポリエチレンなどの熱可塑性ポリオレフィンから選択された絶縁樹脂を使用することができる。これらの絶縁樹脂を有する単層又は多層の形態のシール材とすることができる。好ましくは耐熱性樹脂を接着性の高いマレイン酸変性ポリプロピレン層で挟んだ多層のシール材を使用することができる。耐熱性樹脂としては、ポリオレフィンを架橋したものを用いることができる。ポリオレフィンの架橋方法は公知の方法を用いることが出来る。
【0018】
[電気化学デバイス用のタブリード]
好適な実施の態様において、金属製のリード導体は、電気化学デバイス用のタブリードとして使用される金属製のリード導体である。電気化学デバイスとは、電気化学反応によって電気的信号あるいは電気的エネルギーを供給するデバイスであって、例えばリチウムイオン電池などの非水電解質電池をあげることができる。電気化学デバイスは、外部へと電位あるいは電流を出力するための導電性の端子を備えている。電気化学デバイスのうちラミネート型電池の導電性の端子として使用される部材が、タブリードである。
【0019】
好適な実施の態様において、タブリードは、導電性を担うためのリード導体と、電気化学デバイスの包装材の内側と溶着されて、密封性を担うためのシール材とを備える。好適な実施の態様において、タブリードを構成するリード導体の表面のうち、包装材の内側との溶着による封止がなされる部分に、シール材が密着されている。
【0020】
[表面処理層]
好適な実施の態様において、電気化学デバイス用のタブリードに使用された場合に、リード導体の表面の電解液と接触する表面として、本発明に係る表面処理層を有することによって、電解液に対する耐性を備えたものとすることができる。すなわち、好適な実施の態様において、リード導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有するものとなっている。なお、本発明の導体は、当該表面処理層を有することによって、電解液に限られず腐食性環境下に対する優れた耐久性を有する。
【0021】
好適な実施の態様において、本発明に係る表面処理層は、少なくとも表面処理層の電解液と接触する表面に設けられたものとすることができる。すなわち、好適な実施の態様において、本発明に係る表面処理層は、リード導体の表面の一部に設けることができ、あるいは、リード導体の表面の全面にわたって設けることができる。
【0022】
好適な実施の態様において、表面処理層は、単層又は複数層のめっきの層からなる層とすることができる。
【0023】
[Ni-Pめっき層]
好適な実施の態様において、表面処理層は、Ni-Pめっき層を含むものとすることができる。好適な実施の態様において、本発明に係る表面処理層は、少なくともその表面に特定のP濃度のNi-Pめっき層を設けるものとすることができ、その表面よりも下の層として、特定のP濃度のNi-Pめっき層ではない層が設けられていてもよい。好適な実施の態様において、そのような導体をタブリード用のリード導体として用いた場合、電解液に対する耐久性に優れた特定のP濃度のNi-Pめっき層に直接に電解液が接触する態様とすることができる。また、Niめっきは強磁性を示すところ、Pを含有することでその磁性が弱まる。この特性を利用して、その表面に特定のP濃度のNi-Pめっき層を有する導体を、表皮効果の影響を強く受ける高周波向けの材料(例えばコネクタ)に用いることで低伝送損失を実現し得る。
【0024】
好適な実施の態様において、表面処理層は、特定のP濃度のNi-Pめっき層を含むものとすることができ、特定のP濃度のNi-Pめっき層よりも上の層、すなわち特定のP濃度のNi-Pめっき層よりも表面に近い層を設けることができ、例えばNi-Pめっき層の上の層として表面処理層の表面の層を設けることができる。好適な実施の態様において、Ni-Pめっき層の上の層として設けられた表面処理層の表面の層としては、例えば耐酸処理層をあげることができる。好適な実施の態様において、このような耐酸処理層を、例えば、水溶性樹脂と架橋剤とを含む溶液に浸漬した後に乾燥させて設けることができる。好適な実施の態様において、このような架橋剤として、例えば有機物あるいは無機物の架橋剤をあげることができる。好適な実施の態様において、このような耐酸処理層の厚みは、例えば1~10nmの範囲、好ましくは1~5nmの範囲とすることができる。
【0025】
好適な実施の態様において、Ni-Pめっき層は、公知の手段によって設けることができ、具体的には、実施例において後述する手段によって設けることができる。
【0026】
好適な実施の態様において、Ni-Pめっきの層は、P含有量を、例えば4~18wt%、好ましくは6~18wt%、さらに好ましくは6~15wt%、さらに好ましくは6~10wt%、さらに好ましくは6.5~9.4wt%とすることができ、あるいは例えば4~15wt%、好ましくは4~10wt%とすることができる。Ni-Pめっきの層は、P含有量は、実施例において後述する手段で測定することができる。
【0027】
好適な実施の態様において、Ni-Pめっき層は、好ましくは0.1~3.0[μm]、好ましくは0.3~2.0[μm]、さらに好ましくは0.5~1.5[μm]、さらに好ましくは0.8~1.2[μm]の厚みの層とすることができる。Ni-Pめっき層が薄すぎると必要な耐電解液性を確保するのが難しくなる。一方、Ni-Pめっき層が厚すぎると、生産性や加工性が低下してしまう。
【0028】
[Ni-Pめっき層の下層]
好適な実施の態様において、表面処理層は、単層又は複数層のめっきの層からなる層とすることができる。好適な実施の態様において、一例として、Ni-Pめっき層の下層となる層を所望により設けることができる。
【0029】
好適な実施の態様において、Ni-Pめっき層の下層となる層として、例えばNi、Cu、Ag及びCoから選択された金属の少なくともいずれか1種を含むめっきの層を、基材上に設けることができる。好適な実施の態様において、シール材との密着力を向上させる観点から、Ni-Pめっき層の下層となる層として、粗化めっき層を形成することができる。このような粗化めっき層としては、Ni、Cu、およびAgのうち少なくとも1つを含むめっきの層をあげることができる。
【0030】
好適な実施の態様において、Ni-Pめっき層の下層となる層として、好ましくは粗化Niめっきの層を基材上に設けることができる。粗化Niめっきの層は、公知の手段によって設けることができ、一例として以下のめっき条件によって設けることができる。
めっき浴:JX金属商事製粗化Niめっき液(製品名「粗化Niめっき液」)
スルファミン酸Ni(II)4水和物300~400g/L(Ni濃度4.0~5.4wt%)
塩化Ni(II)6水和物240~320g/L(Ni濃度4.4~5.9wt%)
ホウ酸30~40g/L、
pH:3.5
電流密度:10A/dm
温度:60℃
【0031】
好適な実施の態様において、粗化Niめっきの層は、例えば0.1~3.0[μm]、好ましくは0.3~2.0[μm]、さらに好ましくは0.5~1.5[μm]、さらに好ましくは0.8~1.2[μm]の厚みの層とすることができる。粗化Niめっきの層が薄すぎるとアンカー効果が低くなる。一方、粗化Niめっきの層が厚すぎると生産性や加工性が低下してしまう。
【0032】
[電解液耐性]
電気化学デバイス、特に非水電解質電池に使用される電解液は、タブリードのリード導体に対して、長期にわたって接触することによって、金属製のリード導体を侵してゆく。このような電解液の侵食性に対して、耐久性を備えていること、すなわち電解液耐性を備えていることが、リード導体に対して求められている。本発明において、リード導体の備える電解液耐性とは、実施例において後述する浸漬条件において、浸漬試験の前後の重量変化量比が低いことをいう。この重量変化量比は、タブリードのリード導体として一般的に用いられているNiめっきされたCu基材の重量変化量に対する比率であり、具体的には後述する実施例において示すように算出することができる。
【0033】
好適な実施の態様において、浸漬試験の前後の重量変化量比が、例えば0.5以下、好ましくは0.4以下である場合に、電解液耐性に優れると判定することができる。
【0034】
好適な実施の態様において、リード導体の備える電解液耐性は、例えばフッ酸系電解液に対する耐性ということができる。
【0035】
[非水電解質電池]
本発明は、上記リード導体を含んでなるタブリードにもあり、該タブリードを備えた電気化学デバイスにもあり、該タブリードを備えた非水電解質電池にもある。本発明による非水電解質電池は、タブリード部分に由来する優れた信頼性、すなわち安定した高い密閉性と耐久性を備えているので、非水電解質電池を使用した電動輸送機器、ドローン、ロボット、電動工具なども、非水電解質電池に由来する優れた信頼性を備えたものとなっている。したがって、本発明は、これらの電動輸送機器、ドローン、ロボット、電動工具などにもある。
【0036】
[本発明の好適な態様]
好適な実施の態様として、本発明は、次の(1)以下を含む。
(1)
金属製の導体であって、
導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含む、導体。
(2)
P濃度が6~10wt%の範囲にある、(1)に記載の導体。
(3)
基材が、銅又は銅合金である、(1)に記載の導体。
(4)
電気化学デバイス用のタブリードに使用されるリード導体である、(1)に記載の導体。
(5)
Ni-Pめっき層が、少なくとも、表面処理層の電解液と接触する表面に設けられた、(4)に記載の導体。
(6)
(1)~(5)のいずかに記載の導体を備える電気化学デバイス用のタブリード。
(7)
(6)に記載のタブリードを有する、非水電解質電池。
(8)
(7)に記載の非水電解質電を有する、電動輸送機器。
【実施例0037】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実験例1]
[導体の製造]
[基材]
導体の製造のための材料として、次の基材を用意した。
基材:銅板(C1020-O)(60×45×0.2mm)(無酸素銅、純度99.96%以上)
【0039】
[Ni-Pめっき]
実施例として、基材に、厚さ1μmのNi-Pめっきを施した。次の条件で電流印加時間を90秒とした場合に、約1μmのNi-Pめっきが形成された。Ni-Pめっきされた試料をタブリード用のリード導体として使用して、後の試験に供した。なお、Ni-PにおけるP濃度は電流密度を下げるほど高くなる。この性質を利用して、電流密度を変更して異なるP濃度のNi-Pめっき層が形成されたサンプルを準備した。
めっき浴:硫酸Ni浴
硫酸Ni(II)6水和:220~280g/L(Ni濃度4~6%)
亜りん酸:68~92g/L(P濃度6~8%)
電流密度:5~17.5A/dm
温度: 60℃
【0040】
[Niめっき]
比較例として、基材に、厚さ2μmの無光沢Niめっきが施された既製品(日鉱金属(蘇州)有限公司製)を使用した。製品名は以下の通りである:
【0041】
[めっき厚みの測定]
Niめっき及びNi-Pめっきのめっき厚みを、次の条件で測定した。
測定装置: 高性能蛍光X線膜厚計SFT9550X(エスアイアイナノテクノロジー株式会社製)
測定方法: FP法
測定箇所: サンプル中央部
【0042】
[P濃度の測定]
P濃度はEPMA 電子プローブマイクロアナライザー(JXA-8500F、日本電子株式会社製)を使用して、次の条件で測定した。
(標準試料測定)
標準試料:InPウェハー(P濃度50at%)、使用結晶:PETH、使用X線:Kα、加速電圧15kV、照射電流1×10-7A、ビーム径10μm。この測定条件で、標準試料のPのピーク位置(197.235mm)のX線強度を5回測定し、その平均値を算出した。
(サンプル測定)
上記作成した異なるP濃度のNi-Pめっき層が形成されたサンプルの各々について、標準試料測定と同様の測定条件でサンプル中央部を5回測定し、Pのピーク位置(197.235mm)のX線強度の平均値を算出した。
サンプルのP濃度[at%]は、以下の計算式で算出し、その後にwt%に変換した。
サンプルのP濃度[at%]=(サンプルのX線強度の平均値を標準試料)÷(標準試料のX線強度の平均値)×50
【0043】
[実験例2]
[Ni-Pめっきの電解液耐性の検討]
Ni-Pめっきの電解液耐性を、以下の実験によって検討した。
上記実施例として製造したP含有率の異なるNi-Pめっきを厚さ1μm設けた試料を、電解液に浸漬して、浸漬前後の重量変化を測定した。また、上記比較例として製造した、Ni-Pめっきではなく厚さ2μmのNiめっきを設けた試料を、電解液に浸漬して、浸漬前後の重量変化を測定した。
【0044】
浸漬条件
電解液:
EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)(1:1:1[v/vol%])+LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)(1mol/L)+HO 1000ppm
温度:80℃
浸漬時間:1週間
パウチ:あり (パウチ内に密閉された電解液中での耐性を検討した)
【0045】
[Ni-Pめっきの電解液耐性の検討結果]
Ni-Pめっきの電解液耐性の検討結果のグラフを、図1及び表1に示す。図1のグラフの横軸は、めっきの平均P含有量であり、縦軸は電解液に浸漬前後のめっき試料の重量変化量の比率である。電解液耐性が低い場合、電解液によって表面を腐食されて浸漬後の重量が減少する。そのため、重量変化量比が低いほど、耐電解液性が高いことを表す。
【0046】
重量変化量比は、以下の式で算出することが出来る。
重量変化量比=(「浸漬前のNi-Pめっき試料の重量」-「浸漬後のNi-Pめっき試料の重量」)/{(「浸漬前のNiめっき試料の重量」-「浸漬後のNiめっき試料の重量」)×0.5}
【0047】
上記式において、「×0.5」はNiめっきの厚みが2μmで、Ni-Pめっきの厚みが1μmであるため、規格化のために追加した。
【0048】
【表1】
【0049】
図1のグラフ及び表1に示されるように、Ni-Pめっきを設けることによって、Niめっきだけを行った場合に比べて重量変化量が小さくなっていること、即ち耐電解液性が向上していることが読み取れる。また、図1のグラフ及び表1に示されるように、P含有量に応じて、ほぼ3段階(P濃度が6wt%未満、6~10wt%、10wt%超え)に重量変化量が変化した。
【0050】
具体的には、P含有量6wt%以上とすることで、重量変化量比(即ち耐電解液性)が、P含有量6wt%未満に比べて大きく向上した。
また、P含有量6~10wt%の範囲では、重量変化量、即ち耐電解液性がほぼ一定であった。P含有量10wt%を超える領域では、重量変化量、が再び減少、即ち耐電解液性が向上していった。
【0051】
この傾向は、別途行ったSEM像での観察の結果と同じ傾向を示した。具体的には、SEM像で観察されたNi-P表面構造が上記の3段階のP濃度で変化した。より具体的には、平均P含有率6wt%未満の領域では、ポアの発生が確認された。また、平均P含有率6~10wt%の領域では、圧延痕由来の溝に沿って若干の腐食が確認され、平均P含有率10wt%より高い領域では、腐食はほぼ確認されなかった。
【0052】
これらの結果から、Ni-Pめっき層におけるP濃度は4~18wt%とすることが好ましいことがわかった。P濃度4wt%とすると、耐電解液性が低下する可能性があり、また、P濃度18wt%以上とすると、電流密度が極端に低くなり生産性が著しく低下する可能性があるためである。
【0053】
より好ましくは、Ni-Pめっき層におけるP濃度は6~10wt%とできることがわかった。P濃度6wt%以上とすることで顕著に耐電解液性が向上するとともに、このP濃度範囲内では、耐電解液性がほぼ一定であって、かつ、腐食がほぼ確認されないという高い耐電解液性を誇るため、品質安定性に優れたリード導体を提供し得るためである。
【0054】
より一層好ましくは、Ni-Pめっき層におけるP濃度は6.5~9.4wt%とできることがわかった。Ni-Pめっき層におけるP濃度は、面内で均一ではなくある程度のバラつきが生じ得る。そのため、このP濃度範囲とすることで、面内で均一な耐電解液性を実現できるからである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、環境負荷が小さく、電解液などの腐食性環境下に対する優れた耐久性を有する表面を備えた、導体を得ることができる。本発明は産業上有用な発明である。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の導体であって、
導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含み、
電気化学デバイス用のタブリードに使用されるリード導体である、導体。
【請求項2】
P濃度が6~10wt%の範囲にある、請求項1に記載の導体。
【請求項3】
前記基材が、銅又は銅合金である、請求項1に記載の導体。
【請求項4】
Ni-Pめっき層が、少なくとも、表面処理層の電解液と接触する表面に設けられた、請求項1に記載の導体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の導体を備える電気化学デバイス用のタブリード。
【請求項6】
請求項5に記載のタブリードを有する、非水電解質電池。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質電池を有する、電動輸送機器。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の導体であって、
導体が、基材と、基材上に形成された表面処理層とを有し、
表面処理層に、P濃度が4~18wt%の範囲にあるNi-Pめっき層を含み、
電気化学デバイス用のタブリードに使用されるリード導体であり、
Ni-Pめっき層が、少なくとも、表面処理層の電解液と接触する表面に設けられた、導体。
【請求項2】
P濃度が6~10wt%の範囲にある、請求項1に記載の導体。
【請求項3】
前記基材が、銅又は銅合金である、請求項1に記載の導体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の導体を備える電気化学デバイス用のタブリード。
【請求項5】
請求項4に記載のタブリードを有する、非水電解質電池。
【請求項6】
請求項5に記載の非水電解質電池を有する、電動輸送機器。