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特開2023-168929塗布方法、複層物の製造方法、塗布装置及び複層物製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168929
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】塗布方法、複層物の製造方法、塗布装置及び複層物製造装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20231121BHJP
   B05C 1/12 20060101ALI20231121BHJP
   B05C 9/04 20060101ALI20231121BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20231121BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B05D1/28
B05C1/12
B05C9/04
B05C9/14
B05D7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080321
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐哉
【テーマコード(参考)】
4D075
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC21
4D075AC25
4D075AC53
4D075AC72
4D075AC80
4D075AC88
4D075AC93
4D075AC95
4D075AE19
4D075BB26Z
4D075BB57Y
4D075BB64Z
4D075CA48
4D075DA03
4D075DB33
4D075DB36
4D075DB37
4D075DB38
4D075DB43
4D075DB48
4D075DB55
4D075DC24
4D075EA06
4D075EA10
4D075EB38
4F040AA22
4F040AB20
4F040AC02
4F040BA26
4F040CB12
4F040CB15
4F040CB22
4F040DB12
4F042AA22
4F042AB00
4F042DB17
4F042ED01
(57)【要約】
【課題】ウェブ長手方向に沿ったムラを低減することができ、且つ幅方向における塗布厚みの均一性が高い、ウェブへの塗布液の塗布方法、かかる塗布方法を利用した複層物の製造方法、ならびにそのための塗布装置及び複層物製造装置を提供する。
【解決手段】第1の表面及び第2の表面を有する長尺上のウェブへの、塗布液の塗布方法であって、前記ウェブを、搬送経路に沿って連続的に搬送する搬送工程、及び前記搬送経路の塗布位置(A)において、軸(A)を中心に回転するバー(A)を用いて、塗布液(A)を前記第1の表面に導き、前記塗布液(A)を前記第1の表面に連続的に塗布する塗布工程(A)を含み、前記塗布工程(A)における前記軸(A)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、前記塗布工程(A)は、前記バー(A)を前記第1の表面に圧接する加圧工程(Ap)を含む、塗布方法、塗布装置等。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面及び第2の表面を有する長尺上のウェブへの、塗布液の塗布方法であって、
前記ウェブを、搬送経路に沿って連続的に搬送する搬送工程、及び
前記搬送経路の塗布位置(A)において、軸(A)を中心に回転するバー(A)を用いて、塗布液(A)を前記第1の表面に導き、前記塗布液(A)を前記第1の表面に連続的に塗布する塗布工程(A)を含み、
前記塗布工程(A)における前記軸(A)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、
前記塗布工程(A)は、前記バー(A)を前記第1の表面に圧接し、且つ、前記搬送経路の前記塗布位置(A)を含む加圧領域(A)において、前記ウェブに、前記第2の表面側から前記第1の表面側に向けた圧力を加える加圧工程(Ap)を含む、塗布方法。
【請求項2】
前記加圧工程(Ap)は、前記第2の表面に、気体を吹き付けることを含む、請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記加圧工程(Ap)を、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を備え、前記搬送曲面が多孔質の材料の表面を備える浮上搬送装置により行う、請求項2に記載の塗布方法。
【請求項4】
前記加圧工程(Ap)を、前記バー(A)の上流側の位置及び前記バー(A)の下流側の位置を含む2か所以上の位置において設けられた加圧装置(Ap)により行い、且つ、前記加圧領域(A)の上流側における前記ウェブの搬送面と、前記加圧領域(A)の下流側における前記ウェブの搬送面とが同一平面にある、請求項2に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記塗布工程(A)は、前記搬送経路の、前記ウェブ幅方向端部に対応する位置において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加え、前記ウェブ幅方向端部を、前記バー(A)から離隔させる離隔工程(As)をさらに含む、請求項1に記載の塗布方法。
【請求項6】
前記バー(A)がグラビアロールであり、前記塗布工程(A)が、ブレードによる、前記グラビアロールからの前記塗布液の掻き落としを含む、請求項1に記載の塗布方法。
【請求項7】
第1の表面及び第2の表面を有する長尺状のウェブと、前記第1の表面、又は前記第1の表面及び前記第2の表面の両方に設けられた塗布液硬化物層とを備える複層物の製造方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗布方法により、前記ウェブの前記第1の表面に、前記塗布液(A)を連続的に塗布し、塗膜(A)を形成する、塗布工程(A)、及び
前記塗膜(A)を硬化させる、硬化工程(A)
を含む、複層物の製造方法。
【請求項8】
前記搬送経路の、前記塗布位置(A)の下流における塗布位置(B)において、軸(B)を中心に回転するバー(B)を用いて塗布液(B)を前記第2の表面に導き、前記塗布液(B)を前記第2の表面に連続的に塗布し、塗膜(B)を形成する、塗布工程(B)、及び
前記塗膜(B)を硬化させる、硬化工程(B)
をさらに含み、
前記塗布工程(B)における前記塗布位置(B)における前記軸(B)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、
前記塗布工程(B)は、前記バー(B)を前記第2の表面に圧接し、且つ、前記搬送経路の、前記塗布位置(B)を含む加圧領域(B)において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加える加圧工程(Bp)を含む、請求項7に記載の複層物の製造方法。
【請求項9】
前記硬化工程(A)及び前記硬化工程(B)を、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置において行う、請求項8に記載の複層物の製造方法。
【請求項10】
前記硬化工程(A)を、前記搬送経路の前記塗布位置(A)より下流であり前記塗布位置(B)より上流である位置に設けられた硬化装置(A)において行い、
前記硬化工程(B)を、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置(B)において行う、請求項8に記載の複層物の製造方法。
【請求項11】
第1の表面及び第2の表面を有する長尺上のウェブへ、塗布液を塗布する塗布装置であって、
前記ウェブを、搬送経路に沿って連続的に搬送する搬送装置、
前記搬送経路の塗布位置(A)において設けられ、軸(A)を中心に回転し、塗布液(A)を前記第1の表面に導き、前記塗布液(A)を前記第1の表面に連続的に塗布するバー(A)であって、前記軸(A)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、前記第1の表面に圧接するよう設けられるバー(A)、及び
前記搬送経路の、前記塗布位置(A)を含む加圧領域(A)において、前記ウェブに、前記第2の表面側から前記第1の表面側に向けた圧力を加える加圧装置(Ap)を備える、塗布装置。
【請求項12】
前記加圧装置(Ap)は、前記第2の表面に、気体を吹き付ける装置である、請求項11に記載の塗布装置。
【請求項13】
前記加圧装置(Ap)は、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を備え、前記搬送曲面が多孔質の材料の表面を備える浮上搬送装置である、請求項12に記載の塗布装置。
【請求項14】
前記加圧装置(Ap)は、前記バー(A)の上流側の位置及び前記バー(A)の下流側の位置を含む2か所以上の位置において設けられ、且つ、前記加圧領域(A)の上流側における前記ウェブの搬送面と、前記加圧領域(A)の下流側における前記ウェブの搬送面とが同一平面にあるよう、前記搬送装置が設けられる、請求項12に記載の塗布装置。
【請求項15】
前記搬送経路の、前記ウェブ幅方向端部に対応する位置において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加え、前記ウェブ幅方向端部を、前記バー(A)から離隔させる離隔装置(As)をさらに含む、請求項11に記載の塗布装置。
【請求項16】
前記バー(A)がグラビアロールであり、前記グラビアロールから前記塗布液を掻き落としうるブレードをさらに含む、請求項11に記載の塗布装置。
【請求項17】
第1の表面及び第2の表面を有する長尺状のウェブと、前記第1の表面、又は前記第1の表面及び前記第2の表面の両方に設けられた塗布液硬化物層とを備える複層物を製造するための、複層物製造装置であって、
請求項11~16のいずれか1項に記載の塗布装置であって、前記ウェブの前記第1の表面に、前記塗布液(A)を連続的に塗布し、塗膜(A)を形成する、塗布装置(A)、及び
前記塗布装置(A)の下流に設けられた、前記塗膜(A)を硬化させる、硬化装置(A)
を含む、複層物製造装置。
【請求項18】
前記搬送経路の、前記塗布装置(A)の下流に設けられ、
前記ウェブの前記第2の表面に、塗布液(B)を連続的に塗布し、塗膜(B)を形成する、塗布装置(B)、及び
前記塗布装置(B)の下流に設けられた、前記塗膜(B)を硬化させる、硬化装置(B)
をさらに備え、
前記塗布装置(B)は、
前記搬送経路の塗布位置(A)より下流の塗布位置(B)において設けられ、軸(B)を中心に回転し、前記塗布液(B)を前記第2の表面に導き、前記塗布液(B)を前記第2の表面に連続的に塗布するバー(B)であって、前記軸(B)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、前記第2の表面に圧接するよう設けられるバー(B)、及び
前記搬送経路の、前記塗布位置(B)を含む加圧領域(B)において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加える加圧装置(Bp)を備える、
請求項17に記載の複層物製造装置。
【請求項19】
前記硬化装置(A)及び前記硬化装置(B)を兼ねる装置として、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置を備える、請求項18に記載の複層物製造装置。
【請求項20】
前記硬化装置(A)として、前記搬送経路の前記塗布位置(A)より下流であり前記塗布位置(B)より上流である位置に設けられた硬化装置(A)を備え、
前記硬化装置(B)として、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置(B)を備える、請求項18に記載の複層物製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される長尺状のウェブへの、塗布液の塗布方法、かかる塗布方法を利用した複層物の製造方法、ならびにそのための塗布装置及び複層物製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布液のウェブへの塗布には、多くの場合、ウェブの表面に接した状態で用いられる円筒形のバーが用いられる。そのようなバーの典型的な例としては、所謂バーコーターにおけるバーが挙げられる。一般的なバーコーターにおけるバーは、その一部が貯留された塗布液に浸漬し、且つ他の一部がウェブに圧接された状態で、その軸を中心に回転し、それによりウェブ表面に塗布液を導き、塗布液の広い範囲にわたって塗布液を連続的に塗布する。また、バーコーターに限らず、グラビアコーターにおけるグラビアロールも、同様の機構により、貯留された塗布液をウェブ表面に導くので、これもバーの一態様であるといえる。
【0003】
フィルム等の長尺状のウェブを、搬送経路の上流から下流へ連続的に搬送し、搬送経路中に設けられた塗布装置により塗布液の塗布を行い、ウェブ上に塗膜を形成し、さらにそれを乾燥させる等して硬化させ、硬化物の層を形成することが、一般的に行われている。このような塗布については、品質の向上等の目的で、従来の塗布よりも均質な塗布を実現する方法が求められており、そのため旧来の製造設備の改変が行われる場合がある。
【0004】
一方で、そのような製造設備の改変にあたっては、既存の製造設備をなるべく活用し、製造工程改変のコストを低減することも求められる。例えば、均質な塗布を実現する塗布装置として、縦型キスリバース方式と呼ばれる塗布装置が知られているが、当該装置は、縦(ここでは即ち重力方向と平行な方向)方向に搬送されるウェブに対してしか塗布を行うことができない。一方従来のバーコーターを用いた塗布装置では、横(ここでは即ち重力方向と垂直な方向)方向又はそれに近い方向で搬送されるウェブに対して塗布を行うことが一般的である。そのため、既存の製造設備をなるべく活用する観点からは、従来のバーコーターと同じく横方向又はそれに近い方向で搬送されるウェブに対して塗布を行うことができ、且つ塗布の均質性が向上した塗布装置が求められる。
【0005】
バーによる、塗布液のウェブへの塗布では、バーの軸は通常ウェブの幅方向と平行な方向に配置される。しかしながら、バーの軸方向を、ウェブの幅方向に対して非平行な角度をなす方向とすることも提案されている。例えば、特許文献1には、塗布液を掻き取るためのバーを、ウェブの幅方向に対して非平行な角度とし、塗布厚みを調整するためにその角度を変更することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-170313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バーを用いた塗布では、バーの軸方向(ウェブの幅方向におおむね対応する方向)のある位置において塗布液のメニスカスの量が部分的に大きくなって液滴を構成したり、異物の噛み込みが発生したりすることにより、ウェブの長手方向に沿ったムラが発現することがある。かかるムラを低減させるためには、大きな液滴又は異物を、バーの軸方向に速やかに移動してウェブ幅方向より外側に排出することが求められる。バーの軸方向を、ウェブの幅方向に対して非平行な角度をなす方向とすることにより、かかる排出が促進されうる。
【0008】
しかしながら、バーの軸方向を、ウェブの幅方向に対して非平行な角度とした場合、バーとして、ウェブの幅方向寸法よりもさらに長いものを使用する必要があり、その中央部におけるバーとウェブとの接触がさらに不安定となり、その結果幅方向の塗布厚みがさらに不均一になり得るという問題点がある。
【0009】
従って、本発明の目的は、ウェブ長手方向に沿ったムラを低減することができ、且つ幅方向における塗布厚みの均一性が高い、ウェブへの塗布液の塗布方法、かかる塗布方法を利用した複層物の製造方法、ならびにそのための塗布装置及び複層物製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するべく検討した結果、バーの周辺において特定の機構を採用することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明によれば、以下が提供される。
【0011】
〔1〕 第1の表面及び第2の表面を有する長尺上のウェブへの、塗布液の塗布方法であって、
前記ウェブを、搬送経路に沿って連続的に搬送する搬送工程、及び
前記搬送経路の塗布位置(A)において、軸(A)を中心に回転するバー(A)を用いて、塗布液(A)を前記第1の表面に導き、前記塗布液(A)を前記第1の表面に連続的に塗布する塗布工程(A)を含み、
前記塗布工程(A)における前記軸(A)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、
前記塗布工程(A)は、前記バー(A)を前記第1の表面に圧接し、且つ、前記搬送経路の前記塗布位置(A)を含む加圧領域(A)において、前記ウェブに、前記第2の表面側から前記第1の表面側に向けた圧力を加える加圧工程(Ap)を含む、塗布方法。
〔2〕 前記加圧工程(Ap)は、前記第2の表面に、気体を吹き付けることを含む、〔1〕に記載の塗布方法。
〔3〕 前記加圧工程(Ap)を、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を備え、前記搬送曲面が多孔質の材料の表面を備える浮上搬送装置により行う、〔2〕に記載の塗布方法。
〔4〕 前記加圧工程(Ap)を、前記バー(A)の上流側の位置及び前記バー(A)の下流側の位置を含む2か所以上の位置において設けられた加圧装置(Ap)により行い、且つ、前記加圧領域(A)の上流側における前記ウェブの搬送面と、前記加圧領域(A)の下流側における前記ウェブの搬送面とが同一平面にある、〔2〕又は〔3〕に記載の塗布方法。
〔5〕 前記塗布工程(A)は、前記搬送経路の、前記ウェブ幅方向端部に対応する位置において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加え、前記ウェブ幅方向端部を、前記バー(A)から離隔させる離隔工程(As)をさらに含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の塗布方法。
〔6〕 前記バー(A)がグラビアロールであり、前記塗布工程(A)が、ブレードによる、前記グラビアロールからの前記塗布液の掻き落としを含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の塗布方法。
〔7〕 第1の表面及び第2の表面を有する長尺状のウェブと、前記第1の表面、又は前記第1の表面及び前記第2の表面の両方に設けられた塗布液硬化物層とを備える複層物の製造方法であって、
〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の塗布方法により、前記ウェブの前記第1の表面に、前記塗布液(A)を連続的に塗布し、塗膜(A)を形成する、塗布工程(A)、及び
前記塗膜(A)を硬化させる、硬化工程(A)
を含む、複層物の製造方法。
〔8〕 前記搬送経路の、前記塗布位置(A)の下流における塗布位置(B)において、軸(B)を中心に回転するバー(B)を用いて塗布液(B)を前記第2の表面に導き、前記塗布液(B)を前記第2の表面に連続的に塗布し、塗膜(B)を形成する、塗布工程(B)、及び
前記塗膜(B)を硬化させる、硬化工程(B)
をさらに含み、
前記塗布工程(B)における前記塗布位置(B)における前記軸(B)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、
前記塗布工程(B)は、前記バー(B)を前記第2の表面に圧接し、且つ、前記搬送経路の、前記塗布位置(B)を含む加圧領域(B)において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加える加圧工程(Bp)を含む、〔7〕に記載の複層物の製造方法。
〔9〕 前記硬化工程(A)及び前記硬化工程(B)を、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置において行う、〔8〕に記載の複層物の製造方法。
〔10〕 前記硬化工程(A)を、前記搬送経路の前記塗布位置(A)より下流であり前記塗布位置(B)より上流である位置に設けられた硬化装置(A)において行い、
前記硬化工程(B)を、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置(B)において行う、〔8〕に記載の複層物の製造方法。
〔11〕 第1の表面及び第2の表面を有する長尺上のウェブへ、塗布液を塗布する塗布装置であって、
前記ウェブを、搬送経路に沿って連続的に搬送する搬送装置、
前記搬送経路の塗布位置(A)において設けられ、軸(A)を中心に回転し、塗布液(A)を前記第1の表面に導き、前記塗布液(A)を前記第1の表面に連続的に塗布するバー(A)であって、前記軸(A)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、前記第1の表面に圧接するよう設けられるバー(A)、及び
前記搬送経路の、前記塗布位置(A)を含む加圧領域(A)において、前記ウェブに、前記第2の表面側から前記第1の表面側に向けた圧力を加える加圧装置(Ap)を備える、塗布装置。
〔12〕 前記加圧装置(Ap)は、前記第2の表面に、気体を吹き付ける装置である、〔11〕に記載の塗布装置。
〔13〕 前記加圧装置(Ap)は、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を備え、前記搬送曲面が多孔質の材料の表面を備える浮上搬送装置である、〔12〕に記載の塗布装置。
〔14〕 前記加圧装置(Ap)は、前記バー(A)の上流側の位置及び前記バー(A)の下流側の位置を含む2か所以上の位置において設けられ、且つ、前記加圧領域(A)の上流側における前記ウェブの搬送面と、前記加圧領域(A)の下流側における前記ウェブの搬送面とが同一平面にあるよう、前記搬送装置が設けられる、〔12〕又は〔13〕に記載の塗布装置。
〔15〕 前記搬送経路の、前記ウェブ幅方向端部に対応する位置において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加え、前記ウェブ幅方向端部を、前記バー(A)から離隔させる離隔装置(As)をさらに含む、〔11〕~〔14〕のいずれか1項に記載の塗布装置。
〔16〕 前記バー(A)がグラビアロールであり、前記グラビアロールから前記塗布液を掻き落としうるブレードをさらに含む、〔11〕~〔15〕のいずれか1項に記載の塗布装置。
〔17〕 第1の表面及び第2の表面を有する長尺状のウェブと、前記第1の表面、又は前記第1の表面及び前記第2の表面の両方に設けられた塗布液硬化物層とを備える複層物を製造するための、複層物製造装置であって、
〔11〕~〔16〕のいずれか1項に記載の塗布装置であって、前記ウェブの前記第1の表面に、前記塗布液(A)を連続的に塗布し、塗膜(A)を形成する、塗布装置(A)、及び
前記塗布装置(A)の下流に設けられた、前記塗膜(A)を硬化させる、硬化装置(A)
を含む、複層物製造装置。
〔18〕 前記搬送経路の、前記塗布装置(A)の下流に設けられ、
前記ウェブの前記第2の表面に、塗布液(B)を連続的に塗布し、塗膜(B)を形成する、塗布装置(B)、及び
前記塗布装置(B)の下流に設けられた、前記塗膜(B)を硬化させる、硬化装置(B)
をさらに備え、
前記塗布装置(B)は、
前記搬送経路の塗布位置(A)より下流の塗布位置(B)において設けられ、軸(B)を中心に回転し、前記塗布液(B)を前記第2の表面に導き、前記塗布液(B)を前記第2の表面に連続的に塗布するバー(B)であって、前記軸(B)の延長方向が、前記ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、前記第2の表面に圧接するよう設けられるバー(B)、及び
前記搬送経路の、前記塗布位置(B)を含む加圧領域(B)において、前記ウェブに、前記第1の表面側から前記第2の表面側に向けた圧力を加える加圧装置(Bp)を備える、
〔17〕に記載の複層物製造装置。
〔19〕 前記硬化装置(A)及び前記硬化装置(B)を兼ねる装置として、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置を備える、〔18〕に記載の複層物製造装置。
〔20〕 前記硬化装置(A)として、前記搬送経路の前記塗布位置(A)より下流であり前記塗布位置(B)より上流である位置に設けられた硬化装置(A)を備え、
前記硬化装置(B)として、前記搬送経路の前記塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置(B)を備える、〔18〕に記載の複層物製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウェブ長手方向に沿ったムラを低減することができ、且つ幅方向における塗布厚みの均一性が高い、ウェブへの塗布液の塗布方法、かかる塗布方法を利用した複層物の製造方法、ならびにそのための塗布装置及び複層物製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の塗布方法、及び当該塗布方法を含む本発明の複層物の製造方法を実施するための塗布装置及び製造装置、ならびにそれらを用いた塗布方法及び複層物の製造方法の例を概略的に示す側面図である。
図2図2は、図1に示した製造装置10の構成要素である塗布装置100Aを、拡大して概略的に示す上面図である。
図3図3は、塗布装置100Aを、図2の矢印R3方向に垂直な面で切断した断面を示す側面図である。
図4図4は、加圧装置(Ap)としてフリーロールを用いた場合における、加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブの関係を模式的に示す上面図である。
図5図5は、図4に示した加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブを、図4の矢印R5方向に垂直な3つの断面を組み合わせて示す側面図である。
図6図6は、加圧装置(Ap)として浮上搬送装置を用いた場合における、加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブの関係を模式的に示す上面図である。
図7図7は、図6に示した加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブを、図6の矢印R6方向に垂直な3つの断面を組み合わせて示す側面図である。
図8図8は、図2に示したバー110A、浮上搬送装置151OA及び151DA、並びにウェブ11を、矢印R9U方向から観察した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0015】
本願において、本発明の方法を実施するための部材の構成要素の方向が「平行」とは、本発明の効果を著しく損なわない範囲内での誤差を含んでいてもよい。例えばかかる誤差は、ある方向を基準として、他の方向がそれとなす角度が、好ましくは±5°、より好ましくは±3°の範囲内としうる。
【0016】
本願において、「長尺」のウェブとは、ウェブの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。ウェブの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0017】
本願においては、説明の便宜のため、ウェブの幅方向の一方の端部を「端部DS」他方の端部を「端部OS」と規定する。実際の実施において、2の端部のどちらをどちらにするかは、特に規定されずこれらは任意に規定しうる。以下の説明においては、図1の図面奥側の端部を端部DS、図面手前側の端部を端部OSとして説明を行う。
【0018】
本願においては、「ウェブ」の文言は、塗膜を形成する前の基材として用いられるフィルム等の部材、塗膜の形成後に得られた塗布済のウェブ(即ち塗膜及び基材を含む複層物)、及びそれがさらに硬化などの工程に供された後のものを総称する文言として用いる場合がある。
【0019】
〔塗布方法及び塗布装置の概要〕
本発明の塗布方法は、長尺状のウェブへの塗布液の塗布方法であり、本発明の塗布装置は、そのような塗布のための装置である。長尺状のウェブは、そのおもて側の主面及び裏側の主面として、第1の表面及び第2の表面を有する。
以下の説明においては、ウェブとしては、おもて面と裏面とで特定の区別を有しないフィルムを使用する例について主に説明するが、本発明において使用されるウェブはこれに限られず、おもて面と裏面とで材質、性状等の何らかの特徴が異なっているウェブを用いてもよい。その場合、どちらの面を第1の表面としてもよい。以下の説明では主に、第1の表面への塗布を行う例、及び第1の表面への塗布及び第2の表面への塗布の両方を行う例について説明する。また本願では、第1の表面への塗布を行うための操作及び装置構成要素と、第2の表面への塗布を行うための操作及び装置構成要素とを区別して説明するために、前者に「(A)」の符号、後者に「(B)」の符号を用いることがある。
【0020】
図1は、本発明の塗布方法、及び当該塗布方法を含む本発明の複層物の製造方法を実施するための塗布装置及び製造装置、ならびにそれらを用いた塗布方法及び複層物の製造方法の例を概略的に示す側面図である。
【0021】
図1において、複層物製造装置10は、フリーロール191、192及び193、サクションロール194、並びにその他の搬送のための装置(不図示)により構成される搬送装置を備え、それによりウェブ11を、その長手方向が矢印R1方向に進むよう導き、ウェブ11を連続的に搬送する搬送経路を構成する。
【0022】
製造装置10は、塗布装置として、ウェブ11の第1の表面への塗布(塗布工程(A))を行い、片面塗布済ウェブ12を形成するための塗布装置100A、及びウェブの第2の表面への塗布(塗布工程(B))を行い、両面塗布済ウェブ13を形成するための塗布装置100Bの、2つの塗布装置を備える。図1において全体的な図示を行う都合上、図1中において塗布装置100A及び100Bはごく概略的に示されている。
【0023】
サクションロール194は、ラップされている片面塗布済ウェブ12を、その周面に吸引した状態で、制御された速度で矢印R2方向に回転する。サクションロール194よりも上流における搬送速度、サクションロール194の回転速度及びサクションロール194よりも下流の搬送速度を調整することにより、ウェブが塗布装置100Aを通過する時点においてウェブへ負荷される張力、及びウェブが塗布装置100Bを通過する時点においてウェブへ負荷される張力を、独立に調整することができる。製造装置10は、塗布装置100Bの下流に設けられた、塗布された塗布液の塗膜を硬化させるための硬化装置195をさらに備える。
【0024】
〔バー(A)を用いる塗布工程(A)〕
本発明の塗布装置は、搬送経路の塗布位置(A)において設けられ、軸(A)を中心に回転し、塗布液(A)を前記第1の表面に導き、塗布液(A)を第1の表面に連続的に塗布するバー(A)を備える。本発明の塗布装置では、バーの軸の延長方向は、ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、第1の表面に圧接するよう設けられる。本発明の塗布装置はさらに、搬送経路の、塗布位置(A)を含む加圧領域(A)において、ウェブに、第2の表面側から第1の表面側に向けた圧力を加える加圧装置(Ap)を備える。
【0025】
本発明の塗布方法は、当該バー(A)を用いて、塗布液(A)を第1の表面に導き、塗布液(A)を第1の表面に連続的に塗布する塗布工程(A)を含む。塗布工程(A)はさらに、バー(A)を第1の表面に圧接し、且つ、搬送経路の塗布位置(A)を含む加圧領域(A)において、ウェブに、第2の表面側から第1の表面側に向けた圧力を加える加圧工程(Ap)を含む。
【0026】
塗布工程(A)及びそのために用いる装置の例を、図2及び図3を参照して説明する。図2は、図1に示した製造装置10の構成要素である塗布装置100Aを、拡大して概略的に示す上面図であり、図3は、塗布装置100Aを、図2の矢印R3方向に垂直な面で切断した断面を示す側面図である。
【0027】
塗布装置100Aは、塗布液21Aを貯留するためのタンク120A、タンク120Aの中の塗布液21Aを、ウェブ11の第1の表面に塗布するためのバー110A、及びバーの下流及び上流のそれぞれに設けられる、加圧装置(Ap)としての浮上搬送装置131A及び132Aを備える。
【0028】
バー110Aには、その軸110AXを中心として回転するよう、適切な心棒(不図示)が設けられ、それを介して回転可能に支承される。バー110Aは、周面111Aを有し、正方向(即ちウェブ11が周面111Aをラップする部分において周面111Aがウェブ11の進行方向と同じ方向に進む回転方向)又は逆方向(即ちウェブ11が周面111Aをラップする部分において周面111Aがウェブ11の進行方向と逆の方向に進む回転方向)に回転するよう、心棒を介して駆動力を伝達しうるよう構成される。図3では、バー110Aを逆方向即ち矢印R4方向に回転させる例を示している。
【0029】
円筒形のバー110Aは、搬送経路上のウェブの幅方向の端部DS~端部OSの全幅にわたって延長し、且つその一部がタンク120A内の塗布液21Aに浸漬するよう設けられる。バー110Aは、その軸110AXの延長方向が、ウェブ11の幅方向(矢印Rwで示される方向)に対してθ110AXの角度を有し、そのDS側が下流に、OS側が上流に傾いた配置で設けられる。浮上搬送装置131A及び132Aも、ウェブの幅方向の全幅にわたって延長し、その長手方向が、バー110Aの軸110AXと平行な方向になるよう、ウェブの幅方向に対して傾いた配置で設けられる。
【0030】
バー110Aは、搬送経路上のウェブ11の第1の表面11-1側に設けられ、第1の表面11-1に圧接するよう設けられる。一方、塗布装置100Aの浮上搬送装置131A及び132Aは、ウェブの第2の表面(表面11-2又は表面12-2)側に設けられる。
【0031】
バー110Aとしては、既知の種々の塗布装置に採用されている形状のものを使用しうる。その例としては、バーコーターのバーとして用いられるワイヤーバー及びノンワイヤーバーが挙げられる。またさらなる例として、グラビアコーターにおいて用いられるグラビアロールが挙げられる。グラビアロールを用いる場合は、グラビアロールの周面が塗布液を掬い上げてからウェブ表面に達するまでの間において、周面上の過剰な塗布液を掻き落とすためのブレードを併せて用いうる。
【0032】
バー110Aがウェブの第1の表面に圧接することにより、バー110Aは、ウェブにより、ラップ角θ110WAにてラップされる。このようにバー110Aが圧接し、かつ一部が塗布液21Aに貯留するよう設けられることにより、バー110Aは塗布液をウェブの第1の表面に導くよう操作することができる。具体的には、バー110Aを矢印R4方向に回転させることにより、タンク120A内の塗布液21Aを、周面111Aに同伴させて掬い上げて上向きに搬送し、ウェブ11の第1の表面11-1に導くことができる。
【0033】
このように、バー(A)の上流及び下流において圧接を行う態様においては、有効な圧接を実現し、且つ過度の圧接によるウェブの摩耗などの不具合を防ぐ観点から、ラップ角θ110WAは特定の範囲内の角度とすることが好ましい。具体的には、ラップ角θ110WAは、好ましくは0.5°以上であり、一方好ましくは10°以下である。
【0034】
ウェブ11の第1の表面11-1に到達した塗布液21Aは、ラップ角の端部(即ちラップが開始される位置又はラップが終了する位置;この例では、搬送経路上の、ウェブ11がバー110Aをラップする領域から離れる位置)において、メニスカス22Aを形成する。メニスカス22A中の塗布液21Aの一部は、ウェブ11の第1の表面11-1に付着した状態で下流へ移動し、これによりウェブ11及び塗布液21Aの層23Aから構成される、片面塗布済ウェブ12が形成される。このように、元のウェブの上に新たな層が形成された場合、その新たな層の表面が、ウェブの表面となる。つまり、片面塗布済ウェブ12においては、その層23A側の表面12-1が、ウェブ12の第1の表面となり、一方そのウェブ11側の表面が、ウェブ12の第2の表面となる。
【0035】
メニスカス22A中の塗布液21Aの他の一部は、落下してタンク120Aに戻りうる。メニスカス22A中の塗布液21Aのさらに他の一部は、周面111Aに同伴してさらに回転し、それによりウェブ11がバー110Aをラップする領域において、ウェブ11とバー110Aとの間に介在する状態となり得る。そのように、液体である塗布液が介在することにより、バー110Aとウェブ11との圧接は、直接の圧接では無く、塗布液を介在した圧接となり得る。このような状態でバー110Aとウェブ11とが圧接した状態では、これらの間のスクラッチの発生はしにくく、したがってウェブ11のダメージは小さい。
【0036】
メニスカス22Aの大きさは、バー110Aの回転速度及びその他の諸条件により調整しうる。塗布量が不足する箇所の発生を防止する観点からは、メニスカス22Aの大きさは、ある程度以上大きいことが求められる。一方メニスカス22Aが過剰に大きくなると、バー110Aの幅方向のある位置において部分的に大きな液滴22ALが発生しうる。このような液滴22ALが発生した場合、液滴22ALは、塗布工程実施中において、当該位置にとどまり、ある時間継続して存在しうる。すると、当該位置において塗布される塗布液の層23Aの厚みが部分的に厚くなり、その結果、ウェブの長手方向に沿ったムラが発現するという不所望な現象が生じ得る。
【0037】
ここで、本発明の塗布方法では、バー110Aの軸110AXの延長方向が、ウェブの幅方向に対してθ110AXの角度を有しているため、液滴22ALは、ウェブにより下流に牽引される力と、バー110Aを伝わって動こうとする力が合成されて働くことにより、バー110Aが下流側に傾いている方向(即ち図2の例ではDS側)に速やかに移動し、ウェブのDS側端部から速やかに落下する。その結果、ウェブの長手方向に沿ったムラの発現を抑制することができる。
【0038】
塗布方法の実施に際しては、メニスカス22Aの大きさのムラにより生じる液滴22ALの他にも、何らかの要因によりバー110Aの長手方向におけるムラが発生しうる。例えば、塗布液21A内又はバー110Aの周面111A上に存在する異物がメニスカス22Aの位置に達してそこにとどまることによっても、ウェブの長手方向に沿ったムラが発現しうる。このようにメニスカス22A上のある位置にとどまる傾向を有する種々のムラの因子も、バー110Aの軸110AXの延長方向が、ウェブの幅方向に対してθ110AXの角度を有しているため、上に述べた液滴22ALの落下と同様の機構により、ウェブの側端部から速やかに落下させることが可能となる。
【0039】
本発明において、バー(A)の軸(A)の延長方向と、ウェブの幅方向とがなす角度(図2の例における角度θ110AXに相当)は、5°以上、好ましくは8°以上であり、一方30°以下、好ましくは15°以下である。当該角度が前記下限以上であることにより、液滴、異物などのムラの原因になるものを速やかに除去することが可能となる。一方当該角度が前記上限以下であることにより、バーによるウェブのスクラッチ、ウェブのシワの発生、ウェブ幅方向中央部における塗布厚みが端部における塗布厚みに比べて相対的に厚くなる厚み不均一などの不所望な現象を抑制しうる。
【0040】
バー(A)は、その端部DS側及び端部OS側のどちらが上流に傾きどちらが下流に傾いても良いが、塗布装置が、バー(A)の傾き以外にも、液滴などの厚みムラの原因となる要素を排除する機構を有する場合は、当該機構と協働して速やかに当該要素を排除できる方向に傾いた配置とすることが好ましい。例えば、バー(A)が、らせん状にワイヤーが巻き付けられたワイヤーバーである場合など、らせん状の周面構造を有し、バーの回転により、厚みムラの原因となる要素を一方の端部へ送る機構を有する場合、当該端部側を下流とする配置が好ましい。
【0041】
塗布装置100Aが、加圧装置(Ap)として塗布装置100Aよりも上流の浮上搬送装置131A及び下流の浮上搬送装置132Aを有することにより、搬送経路の、浮上搬送装置131Aより下流であって且つ浮上搬送装置132Aより上流である、塗布位置を含む領域100AZが、加圧領域(A)として規定される。
【0042】
浮上搬送装置131A及び132Aのそれぞれは、ウェブを非接触で支持する搬送曲面133A及び134Aを有する。浮上搬送装置は、その搬送曲面が搬送経路によりラップされるよう設けられる。図2及び図3の例では、浮上搬送装置131A及び132Aのそれぞれは、ウェブの端部DSから端部OSにわたり延長し、それらの搬送曲面133A及び134Aは、ラップ角θ133WA及びθ134WAでラップされる。搬送曲面133A、134Aは、多数の孔(不図示)を有する多孔質の材料の表面を備える。浮上搬送装置131A及び132Aは、当該孔から、気体を噴出しうるよう構成され、それにより、搬送曲面131A、132Aはウェブの第2の表面側から第1の表面側に向けた圧力を、非接触の状態を維持したまま加える。
【0043】
浮上搬送装置の例としては、その搬送曲面が、多孔質材料で形成されたものが好適に用いられる。
多孔質材料の例としては、ポーラスカーボン、ポーラスアルミナ、ポーラスセラミック、及び多孔質を有する金属焼結材が挙げられる。浮上搬送装置が、多孔質材料で形成された搬送曲面を有する場合、浮上搬送装置に圧気装置を接続して気体を浮上搬送装置内部へ圧送すると、搬送曲面における多孔質材料の表面の孔から搬送曲面の外部へ気体が噴出し、搬送曲面はウェブを非接触で加圧する。
【0044】
搬送曲面を多孔質材料で形成した場合、搬送曲面に、多数の微小な孔を、容易に設けることができる。したがって、スリットノズルやパンチング穴のような微小な孔の形成が比較的困難な材料に比べて、小さい流速及び小さい脈動での気体の圧送によるフィルムの加圧が可能となる。したがって、安定した加圧状態の維持を容易に行うことが可能となる。
【0045】
搬送曲面上における孔の平均孔径は好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは3.0μm以下である。孔径が大きすぎる場合、一部の孔がふさがれて、他の孔から気体の漏れが生じることがあるが、孔径を上限値以下とすると、多孔質材料内の圧力損失が大きいので、一部の孔がふさがれたとしても、気体の漏れを防止することができる。
【0046】
浮上搬送装置は、重力及び/又は張力により下向きに付勢されたウェブに対して、気体により上向きの力を加えることによりウェブを浮上させ、それによりウェブを非接触で支持しうるが、浮上搬送装置はこれに限られず、例えば図2及び図3の例に示した通り、張力が付与され水平に近い方向に延長したウェブに対して、浮上搬送装置からの気体により下向きの力を加え、それにより、浮上搬送装置の下側において、ウェブを非接触の状態で下向きに加圧しうるものともしうる。
【0047】
浮上搬送装置131A,132Aの搬送曲面133A,134Aは、部分円筒面状の曲面である。浮上搬送装置が、円筒又は楕円筒の部分の形状を有する曲面等の柱面である搬送曲面を有することにより、搬送曲面が搬送経路により、あるラップ角をもってラップされる形状とすることができる。当該柱面上の直線方向は、搬送曲面をラップするウェブ搬送経路上のウェブ面と平行な方向となり得る。本願においては、この軸の方向をラップ軸方向という。浮上搬送装置131A,132Aの例では、これらはそれぞれラップ軸133AX及び134AXを有し、この方向がそれぞれの浮上搬送装置のラップ軸方向である。
【0048】
ウェブに対して、浮上搬送装置131A,132Aをラップする搬送経路で搬送され、且つ搬送に必要な張力がウェブの長手方向に負荷されることにより、搬送経路上の加圧領域(A)におけるウェブには、浮上搬送装置131A,132Aにより、その第2の表面側から第1の表面側に向けた圧力が加えられ、加圧工程(Ap)が達成される。このように、加圧領域(A)において加圧工程(Ap)を行うことにより、バー(A)に対してウェブが圧接され、その結果、バー(A)がウェブに密接に接し、塗布厚みが均一になる。結果として、ウェブ長手方向に沿ったムラを低減することができ、且つ幅方向における塗布厚みの均一性が高い、ウェブへの塗布液の塗布が達成される。
【0049】
上記の例では、加圧装置(Ap)として、浮上搬送装置を採用し、ウェブがラップした状態で第2の表面に気体を吹き付けることにより加圧工程(Ap)を行っている。但し本発明において加圧装置(Ap)はこれに限られず、例えば、フリーロール等の装置を用いてもよい。しかしながら、加圧装置(Ap)として、浮上搬送装置を採用し、第2の表面に気体を吹き付けることにより加圧工程(Ap)を行うことにより、特に、下記に説明する通り、多くの利益が得られる。
【0050】
加圧装置(Ap)として、通常のウェブの搬送に用いるフリーロールを採用する場合において、ロールの軸方向をウェブの幅方向と平行でない方向に配置すると、ウェブはロールの周面上を斜めに進む。一方ロールの回転によるロール周面の運動は軸に垂直な方向にしか動かないため、ウェブはロール周面に対して、幅方向にスクラッチされる動きを伴って搬送される。その場合スクラッチによる擦り傷が発生したり、ウェブの蛇行によりシワが発生したりする。したがって、かかる擦り傷及びシワの発生を避けるためには、ロールの軸方向とウェブの幅方向とが平行にする必要があるという制限がある。一方、加圧装置(Ap)として浮上搬送装置を採用する場合、そのような制限が無いため、浮上搬送装置のラップ軸をバー(A)の軸と平行又はそれに近い方向に配置することができる。そのような配置により、上流側の加圧装置(Ap)からバー(A)を経て下流側の加圧装置に至るまでのウェブのパスラインの長さを、ウェブ幅方向において均一なものとすることが可能となる。その結果、擦り傷及びシワの発生の可能性を低減しながら、且つ、より均一な塗布を実現することができる。
【0051】
図4は、加圧装置(Ap)としてフリーロールを用いた場合における、加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブの関係を模式的に示す上面図であり、図5は、図4に示した加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブを、図4の矢印R5方向に垂直な3つの断面を組み合わせて示す側面図である。かかる3つの断面は、図4に示した幅方向端部近傍の位置PDS及びPOSにおける断面、及び幅方向中央部の位置PCにおける断面である。図4及び図5の例では、バー(A)410の軸方向はウェブ41幅方向に対して傾いており、一方フリーロール431及び432の軸方向はウェブ41幅方向と平行である。この場合、位置PDS及びPOSにおけるウェブ41のパスラインLDS及びLOSは、位置PCにおけるパスラインLCより長くなる。そのため、位置PCにおいてウェブ41に負荷される張力は比較的弱くなる。かかる張力の相違は、ウェブ及び塗布液の物性及び操作条件などの諸条件によっては、中央部における塗布厚みが端部における塗布厚みに比べて相対的に厚くなるという不所望な現象をもたらしうる。
【0052】
一方図6は、加圧装置(Ap)として浮上搬送装置を用いた場合における、加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブの関係を模式的に示す上面図であり、図7は、図6に示した加圧装置(Ap)、バー(A)及びウェブを、図6の矢印R6方向に垂直な3つの断面を組み合わせて示す側面図である。図6及び図7の例では、バー(A)410の軸方向はウェブ61幅方向に対して傾いており、一方浮上搬送装置631及び632の軸方向もウェブ61幅方向に対して傾いており、これらはバー(A)410の軸方向と平行である。この場合、位置PDS及びPOSにおけるウェブ61のパスラインLDS及びLOSは、位置PCにおけるパスラインLCと同じになる。そのため、位置PCにおいてウェブ61に負荷される張力は、他の位置と均等になる。したがって、図4及び図5に示す例に比べて、中央部における塗布厚みと端部における塗布厚みとの差を容易に低減できる。
【0053】
浮上搬送装置631及び632は、ウェブ61を非接触で加圧しているので、このようにラップ軸方向をウェブの幅方向と平行でない方向に配置しウェブが搬送曲面上を斜めに進んでも、搬送曲面はウェブ表面をスクラッチすることが無く、擦り傷及びシワの発生を避けることができる。ウェブ表面のスクラッチを回避しうるので、浮上搬送装置をウェブに対して強く加圧しラップ角を大きくすることを容易に行い得る。したがって、バー(A)の圧接の圧力を高くすることが求められる場合において、容易にそのような高い圧力での加圧を実現することができる。
【0054】
他に、加圧工程(Ap)を、非接触で行うことにより、例えば第2の表面に、追加の未硬化の塗布液の層が形成されている場合など、ウェブの第2の表面が、直接の部材の接触を避けることが望まれる場合であっても塗布工程(A)を行うことが可能である。また、加圧のための気体がウェブの振動を緩衝する作用をも得うるので、振動による塗布のムラを低減できるという効果も得うる。
【0055】
バー(A)の軸方向及び浮上搬送装置のラップ軸の方向は平行の関係又はそれに近い関係であることが好ましい。具体的には、バー(A)の軸方向と、浮上搬送装置のそれぞれのラップ軸方向とがなす角の好ましい範囲は、ウェブの伸縮性、ウェブに負荷される張力等によって変わるが、例えば、好ましくは10°以内、より好ましくは5°以内である。
【0056】
図1図3の例では、加圧工程(Ap)を行うための加圧装置(Ap)として、バー(A)(バー110A)の上流及び下流に設けた2つの浮上搬送装置131A及び132Aを用い、上流側の浮上搬送装置131Aから下流側の浮上搬送装置132Aまでの領域を加圧領域(A)として設定したが、本発明はこれに限られない。例えば、加圧工程(Ap)を行うための加圧装置(Ap)は3つ以上設けられていてもよい。加圧装置(Ap)は、バー(A)の上流側の位置、バー(A)の下流側の位置、バー(A)に対向する位置、またはこれらの2以上の組み合わせの位置において設けうる。多数の加圧装置が設けられる場合、ウェブの全幅にわたって延長する加圧装置のうち、バー(A)の上流側であってバー(A)に最も近い加圧装置、及びバー(A)の下流側であってバー(A)に最も近い加圧装置を加圧装置(Ap)とし、これらの間の領域を加圧領域(A)としうる。
【0057】
〔特に好ましい態様:上流側及び下流側の搬送方向〕
本発明の塗布方法においては、加圧工程(Ap)として、第2の表面に浮上搬送装置などの加圧装置(Ap)により気体を吹き付けることを含み、且つ加圧工程(Ap)はバー(A)の上流側の位置及びバー(A)の下流側の位置を含む2か所以上の位置において設けられた加圧装置(Ap)により行うことが好ましい。さらにこの態様において、加圧領域(A)の上流側におけるウェブの搬送面と、加圧領域(A)の下流側におけるウェブの搬送面とが同一平面にあることが好ましい。さらには、この態様において、当該上流側におけるウェブの搬送方向と、当該下流側におけるウェブの搬送方向とが平行であることが好ましい。
【0058】
図1図3の例では、加圧装置(Ap)である浮上搬送装置131A及び浮上搬送装置132Aにより規定される領域100AZが、加圧領域(A)として規定されており、その上流側には上流領域100AUが規定され、下流側には下流領域100ADが規定される。上流領域100AU及び下流領域100ADはいずれも、図3において線Lv1で示される平面上に存在する。且つ、上流領域100AU及び下流領域100ADにおける搬送方向R9U及びR9Dは平行な方向である。このような搬送経路の配置とすることにより、バー(A)の押し込みを大きくしても、上流領域から下流領域にわたって、ウェブに対する捩れ、及びウェブの蛇行等の不具合を抑制することができ、ウェブに均一に圧力をかけることができ、且つ上流領域から下流領域にわたってのウェブのパスラインの長さを、ウェブ幅方向において均一なものとすることが可能となる。その結果、擦り傷及びシワの発生の可能性を低減しながら、且つ、より均一な塗布を実現することができる。加えて、そのような搬送経路の配置は、上流領域及び下流領域の平面を一致させ、搬送方向を揃えるといった、比較的単純な設定方法により設定しうるので、装置の調整を容易に行うことができるという利点もある。
【0059】
加圧領域(A)の上流側におけるウェブの搬送面と加圧領域(A)の下流側におけるウェブの搬送面とを同一平面に収める観点から、浮上搬送装置のラップ角(図3の例では、ラップ角θ133WA及びθ134WA)の合計は、バー(A)のラップ角(図3の例では、ラップ角θ110WA)と等しいか、それに近い値であることが好ましい。具体的には、これらの差の絶対値は、3°以下であることが好ましい。
【0060】
〔離隔工程(As)〕
好ましい例において、塗布工程(A)は、離隔工程(As)を含む。離隔工程(As)においては、搬送経路の、ウェブ幅方向端部に対応する位置において、ウェブに、第1の表面側から第2の表面側に向けた圧力を加え、ウェブ幅方向端部を、バー(A)から離隔させる。本発明の塗布装置は、そのような離隔の操作を行うための離隔装置(As)を含みうる。
【0061】
離隔工程(As)を行うための離隔装置(As)としては、具体的には、搬送経路上のウェブの第1の表面側の幅方向端部のみに接して設けられるローラー、又は第1の表面側の幅方向端部のみに気体を吹き付ける浮上搬送装置若しくはノズル等装置を採用しうる。
【0062】
図2の例では、離隔装置(As)は、バー110Aの近傍の上流及び下流であって、ウェブの幅方向端部のみに気体を吹き付ける小型の浮上搬送装置151OA、151DA、152OA及び152DAである。これらについて図8を参照してより詳細に説明する。図8は、図2に示したバー110A、浮上搬送装置151OA及び151DA、並びにウェブ11を、矢印R9U方向から観察した状態を示す側面図である。図8においては、図示のため、ウェブ11のみが、バー110Aの軸110AXを通る垂直面で切断した縦断面図として示される。この例では、上流側の浮上搬送装置151OA及び151DA、並びに下流側の浮上搬送装置152OA及び152DA(図8において不図示)から、上側に向けて気体を噴出させ、それによりウェブ11の幅方向端部11DS及び11OSを浮揚させ、バー110Aの表面から離隔している。このような離隔工程(As)を行うことにより、幅方向端部11DS及び11OSのみにおいて、塗布液(A)の塗布が行われない領域を形成することが可能となる。
【0063】
このような、幅方向端部に塗布が行われない領域を形成すると、塗布工程の後の後続工程に有用である場合がある。例えば、長尺状のウェブに塗布液硬化物層を形成して複層物を製造する場合、塗布液の塗布後にウェブをさらに延伸の工程に供することがある。光学的特性の発現、及び作業の効率化などの観点から、かかる延伸の工程は、塗布工程の後に硬化工程と同時に行うか、又は塗布液硬化物層を形成して複層物としてから行うことが好ましい場合が多い。かかる延伸の工程においては、複層物の幅方向端部を、テンター延伸機の把持子などの、把持を行う機構により把持する場合がある。そのような把持に際して、幅方向端部に塗布液の層又は塗布液の硬化物の層が形成されている場合、把持子に塗布液などが容易に付着し、把持子が汚染され、延伸の工程における不具合の原因になる可能性がある。一方、把持子により把持される箇所は、ウェブの歪み等が多く発生するため、さらにその後の工程においてトリミングし除去することが一般的であり、したがって把持子により把持される箇所に塗布液を塗布することの利益は無い。そのため、離隔工程(As)を行うことにより、把持子の汚染を抑制し、後続工程を良好に実施することが可能となる。
【0064】
幅方向端部における塗布が行われない領域の形成は、例えばバー(A)の長さをウェブ幅方向寸法より短い寸法とすることなどによっても達成しうる。しかし、バー(A)の長さをウェブ幅方向寸法より短い寸法とした場合、幅方向端部におけるウェブの圧接の圧力が比較的大きくなり、幅方向端部の塗布厚みが、中央部に比べて小さくなるという不具合が生じうる。
さらに、バー端部がウェブに接した状態で回転することにより、幅方向端部におけるウェブの圧接の圧力の振動が生じ、ウェブの支持が不安定となり、その結果精密な品質制御が必要な幅方向中央部においても塗布のムラが生じうる。このような支持の不安定さは、本発明の塗布方法においては、バー(A)が斜めに設置されていることに起因し、特に顕著なものとなり得る。ここで、バー(A)としてウェブの幅方向寸法より長い領域にわたり延長するものを採用し、且つ離隔工程(As)を行うことにより、ウェブの支持をより安定なものとしながら、幅方向端部に塗布が行われない領域を形成することが可能となる。加えて、バー(A)端部へのウェブの応力集中による破断等の不具合を抑制しうること、及び装置幅方向にわたるバー(A)の延長長さよりも狭いいずれの幅のウェブに対しても塗布を行いうるため、様々な幅のウェブに対して共通の装置で塗布方法を実施しうること等の効果も得られる。
【0065】
〔複層物の製造方法及び製造装置〕
本発明の複層物の製造方法は、第1の表面及び第2の表面を有する長尺状のウェブと、その第1の表面、又は第1の表面及び第2の表面の両方に設けられた塗布液硬化物層とを備える複層物の製造方法であり、本発明の複層物製造装置は、そのような複層物を製造するための装置である。
【0066】
本発明の複層物製造装置は、上に述べた本発明の塗布装置(A)、及びその下流に設けられた塗膜(A)を硬化させる硬化装置(A)を含む。本発明の複層物の製造方法は、上に述べた本発明の塗布方法により、ウェブの前記第1の表面に塗布液(A)を連続的に塗布し塗膜(A)を形成する、塗布工程(A)、及び塗膜(A)を硬化させる硬化工程(A)を含む。
【0067】
本発明の複層物製造装置は、任意の構成要素として、塗布装置(A)の下流に設けられ、ウェブの第2の表面に、塗布液(B)を連続的に塗布し、塗膜(B)を形成する、塗布装置(B)、及び塗布装置(B)の下流に設けられた、塗膜(B)をさせる、硬化装置(B)をさらに備えうる。本発明の複層物の製造方法は、任意の構成要素として、このような塗布装置(B)及び硬化装置(B)による塗布工程(B)及び硬化工程(B)を含みうる。
【0068】
塗布装置(B)としては、処理対象のウェブの第1の表面と第2の表面とが逆である(即ち、塗布面が第1の表面では無く第2の表面であり、したがって加圧装置による加圧が第1の表面側から第2の表面側に向けた加圧である)という他は、上に述べた塗布装置(A)と同じ要件を備えたものを採用しうる。即ち、塗布装置(B)は、軸(B)を中心に回転し、塗布液(B)を第2の表面に導き、塗布液(B)を第2の表面に連続的に塗布するバー(B)であって、軸(B)の延長方向が、ウェブの幅方向に対して5°~30°の角度を有し、第2の表面に圧接するよう設けられるバー(B)、及び搬送経路の、塗布位置(B)を含む加圧領域(B)において、ウェブに、第1の表面側から第2の表面側に向けた圧力を加える加圧装置(Bp)を備える装置としうる。
【0069】
塗布装置(B)及びその構成要素の具体的な例としては、上に塗布装置(A)と同じものが挙げられる。具体的な複層物製造装置において、塗布装置(B)は、共に設けられる塗布装置(A)と全く同じ仕様の装置であってもよく、塗布装置(A)とは異なる仕様の装置であってもよい。同様に塗布工程(B)も、処理対象のウェブの第1の表面と第2の表面とが逆である他は塗布工程(A)と全く同じ工程であってもよく、それ以外の仕様の相違点がある工程であってもよい。塗布装置(A)及び塗布工程(A)の仕様と、塗布装置(B)及び塗布工程(B)の仕様とが異なる場合、これらのうちどちらの仕様のものを上流側(塗布装置(A);塗布工程(A))としてもよい。
【0070】
特に、塗布装置(A)が離隔装置(As)を備え、それにより離隔工程(As)を行う場合、同様に塗布装置(B)も、同様の構成要素である離隔装置(Bs)を備え、同様の離隔工程(Bs)を行うことが好ましい。それにより、ウェブの表裏両面において、幅方向端部に塗布が行われない領域が形成され、その結果、両面に塗布液の硬化層を形成する場合であっても、離隔による効果を良好に得ることができる。
【0071】
硬化装置(A)と硬化装置(B)は、異なる別個の装置であってもよいが、これらを兼ねる共通の装置であってもよい。同様に、硬化工程(A)と硬化工程(B)は、異なる別個の工程であってもよいが、これらを兼ねる共通の工程であってもよい。例えば、複層物製造装置は、硬化装置(A)及び硬化装置(B)を兼ねる装置として、搬送経路の塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置を備えうる。
【0072】
図1に示す複層物製造装置10及びそれを用いた製造方法の例では、塗布装置100Aにより、ウェブ11の第1の表面への塗布(塗布工程(A))を行い、片面塗布済ウェブ12を形成し、その後塗布装置100Bにより、片面塗布済ウェブ12の第2の表面への塗布(塗布工程(B))を行い、両面塗布済ウェブ13を形成している。その後、硬化装置(A)及び硬化装置(B)を兼ねる装置である硬化装置195により、硬化工程(A)及び硬化工程(B)を兼ねる硬化の工程を行う。この例では硬化装置195は、ウェブの両面の塗布液の層を乾燥させるオーブンであり、かかる乾燥を行うことで塗布液の層を硬化させ、ウェブの両面に塗布液硬化物層が設けられた複層物を得ている。
【0073】
このような工程を行う場合、塗布工程(A)により形成された塗膜(A)の層が硬化しない状態で、片面塗布済ウェブ12が塗布工程(B)に供される。しかしながら、塗布工程(B)中の加圧工程(Bp)を行うための加圧装置(Bp)として、加圧工程(Ap)で用いた浮上搬送装置131A及び132Aと同じ浮上搬送装置を用いることにより、塗布工程(A)の下流から硬化装置195による硬化工程までの搬送経路において、塗膜(A)が直接装置に接触しない状態で処理を行うことができる。その結果、硬化工程(A)及び硬化工程(B)を、これらを兼ねる共通の工程により実施することが可能となり、ひいては、硬化工程に必要な装置を簡素化し、硬化工程に必要な搬送経路を短縮し、硬化工程に必要なコストを低減することが可能となる。
【0074】
但し本発明はこれに限られず、硬化工程(A)と硬化工程(B)とが別の工程であり、硬化装置(A)と硬化装置(B)とが別の装置であってもよい。具体的には、製造装置は、硬化装置(A)として、搬送経路の塗布位置(A)より下流であり塗布位置(B)より上流である位置に設けられた硬化装置(A)を備え、硬化装置(B)として、搬送経路の塗布位置(B)より下流である位置に設けられた硬化装置(B)を備えてもよく、これらの硬化装置(A)及び硬化装置(B)によりそれぞれ硬化工程(A)及び硬化工程(B)を行ってもよい。さらなる別の例として、製造装置は、塗布装置(A)及び硬化装置(A)と、硬化後のウェブを巻き取る装置とを備え、硬化工程終了後のウェブを一旦巻取りロールを形成し、その後ロールからウェブを巻き出し、塗布工程(A)及び硬化工程(A)を行った装置と同じ装置で塗布工程(B)及び硬化工程(B)を行うことも可能である。
【0075】
〔変形例〕
本発明の塗布方法及び複層物の製造方法は、上に述べた工程に加えて、任意の工程を追加的に含みうる。また、本発明の塗布装置及び複層物製造装置も、上に述べた構成要素に加えて、任意の構成要素を追加的に含みうる。例えば、硬化工程の後に、ウェブを延伸する工程及びそのための装置を含みうる。特に、離隔装置(As)による離隔工程(As)(及び、行う場合は、離隔装置(Bs)による離隔工程(Bs))を行った場合、その後、テンター延伸機などの延伸機を用いた延伸を容易に行うことができるので、ウェブの幅方向の延伸及び斜め方向の延伸を行う工程を、特に良好に行うことができる。
【0076】
上に述べた複層物製造装置の例では、硬化装置として塗布液の乾燥を行うオーブンを備えるものを例示したが、本発明はこれに限られず、硬化装置はそれ以外の装置であってもよい。例えば、塗布液に含まれる溶媒が揮発性の高いものであり、単に搬送経路における搬送の条件下で容易に塗布液が硬化しうる場合は、ウェブを搬送する搬送経路を硬化装置として利用しうる。あるいは、塗布液として、紫外線及び電子線等のエネルギー線を照射することにより架橋等の反応を起こし硬化する性質を有するものを採用した場合、かかるエネルギー線を照射する装置を、硬化装置として採用してもよい。
【0077】
〔材料の説明〕
本発明の塗布方法及び複層物の製造方法において、塗布液の塗布対象として用いるウェブとしては、各種のフィルムを用いる。当該フィルムとしては、各種の重合体を含む樹脂のフィルムを用いうる。かかる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;脂環式構造含有重合体;アクリル重合体;ポリスチレンなどのスチレン系重合体;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0078】
フィルムを構成する樹脂としては、脂環式構造含有重合体を含む樹脂(以下、適宜「脂環式構造含有重合体樹脂」という。)、アクリル重合体を含む樹脂、およびポリカーボネートを含む樹脂が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などに優れ、光学フィルムとしての用途に適していることから、脂環式構造含有重合体樹脂が特に好ましい。フィルムを構成する樹脂の具体例としては、特許第5845895号公報に記載のものが挙げられる。
【0079】
本発明の塗布方法及び複層物の製造方法において用いる塗布液の例としては、ウレタン樹脂層を形成するためのポリウレタン水分散体、及び当該ポリウレタン水分散体と、シリカ粒子などの粒子との混合物が挙げられる。ポリウレタン水分散液の具体例としては、特許第5845895号公報に記載のものが挙げられる。
【0080】
〔複層物の用途〕
本発明の製造方法又は製造装置で得られる複層物は、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置の構成要素として使用しうる。特に、斜め延伸された複層物は、斜め方向に位相差を有する構成要素としうるため、位相差フィルムとしての用途に用いた場合、高い歩留まりで所望の方向に遅相軸を有する位相差フィルムとして、有用に用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
10:複層物製造装置
11:ウェブ
11-1:第1の表面
11-2:第2の表面
12:片面塗布済ウェブ
12-1:第1の表面
12-2:第2の表面
13:両面塗布済ウェブ
21A:塗布液
22A:メニスカス
22AL:液滴
23A:塗布液の層
41:ウェブ
61:ウェブ
100A:塗布装置
100AD:下流領域
100AU:上流領域
100AZ:加圧領域(A)
100B:塗布装置
110A:バー
110AX:軸
111A:周面
11DS:幅方向端部
11OS:幅方向端部
120A:タンク
131A:浮上搬送装置
132A:浮上搬送装置
151DA:浮上搬送装置
151OA:浮上搬送装置
152DA:浮上搬送装置
152OA:浮上搬送装置
191:フリーロール
192:フリーロール
193:フリーロール
194:サクションロール
195:硬化装置
410:バー(A)
431:フリーロール
432:フリーロール
631:浮上搬送装置
632:浮上搬送装置
LC:パスライン
LDS:パスライン
LOS:パスライン
PC:幅方向中央部の位置
PDS:幅方向端部近傍の位置
POS:幅方向端部近傍の位置
R9D:搬送方向
R9U:搬送方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8