(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168969
(43)【公開日】2023-11-29
(54)【発明の名称】液体吐出装置、および液体吐出方法
(51)【国際特許分類】
D06B 11/00 20060101AFI20231121BHJP
D06P 5/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
D06B11/00 C
D06P5/02 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080392
(22)【出願日】2022-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 菜々美
【テーマコード(参考)】
3B154
4H157
【Fターム(参考)】
3B154AB01
3B154BA09
3B154BB33
3B154BB39
3B154BB47
3B154BC08
3B154BD01
3B154BD02
3B154DA13
4H157AA02
4H157AA03
4H157CA08
4H157CC03
4H157HA03
(57)【要約】
【課題】線状媒体全体に還元剤を付与可能な液体吐出装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る液体吐出装置は、液体を吐出して線状媒体を染色する液体吐出装置であって、第1液体を吐出して前記線状媒体に付与する第1吐出部と、還元剤を含有する第2液体を吐出して前記線状媒体に付与する第2吐出部と、前記第1吐出部および前記第2吐出部それぞれの動作を制御することにより、前記第1液体が付与された前記線状媒体の周囲を被うように前記第2液体を付与する制御部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出して線状媒体を染色する液体吐出装置であって、
第1液体を吐出して前記線状媒体に付与する第1吐出部と、
還元剤を含有する第2液体を吐出して前記線状媒体に付与する第2吐出部と、
前記第1吐出部および前記第2吐出部それぞれの動作を制御することにより、前記第1液体が付与された前記線状媒体の周囲を被うように前記第2液体を付与する制御部と、を有する、液体吐出装置。
【請求項2】
前記線状媒体を搬送する搬送部をさらに有し、
前記制御部は、前記搬送部の動作をさらに制御可能である、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
pH調整剤を含有する第3液体を吐出し、前記線状媒体に付与する第3吐出部を有し、
前記制御部は、前記第3吐出部の動作を制御することにより、前記線状媒体のpHを調整可能である、請求項1または請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
液体を吐出し、線状媒体を染色する液体吐出装置による液体吐出方法であって、前記液体吐出装置が、
第1吐出部により、第1液体を吐出して前記線状媒体に付与し、
第2吐出部により、還元剤を含有する第2液体を吐出して前記線状媒体に付与し、
制御部により、前記第1吐出部および前記第2吐出部それぞれの動作を制御することによって、前記第1液体が付与された前記線状媒体の周囲を被覆するように前記第2液体を付与する、液体吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、および液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸等の線状媒体の染色では、染色堅牢度や色の安定性を向上させるために、還元洗浄処理を行い、還元洗浄の処理前と処理後における染料の脱離を規制するものが知られている。
【0003】
また、液体吐出方式によって液体を付与することにより、予め可抜性染料を用いて染色した布帛の抜染を行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液体吐出方式により線状媒体に還元剤を付与し、還元洗浄処理を行う場合、特許文献1の方法では、一方向のみからしか線状媒体に還元剤を付与できない。そのため、線状媒体における還元剤を付与された側とは反対側には、一方向から付与した還元剤を線状媒体内部に浸透させて反対側まで到達させる必要があるが、還元剤が内部に浸透せず反対側まで到達しない場合がある。この結果、線状媒体全体に還元剤を付与できず還元洗浄品質が低下する場合がある。
【0005】
本発明は、線状媒体全体に還元剤を付与可能な液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る液体吐出装置は、液体を吐出して線状媒体を染色する液体吐出装置であって、第1液体を吐出して前記線状媒体に付与する第1吐出部と、還元剤を含有する第2液体を吐出して前記線状媒体に付与する第2吐出部と、前記第1吐出部および前記第2吐出部それぞれの動作を制御することにより、前記第1液体が付与された前記線状媒体の周囲を被うように前記第2液体を付与する制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、線状媒体全体に還元剤を付与可能な液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の構成を例示する図である。
【
図2】第1実施形態に係る制御部の機能構成を例示するブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る液体吐出装置の動作を例示する図である。
【
図4】第1液体および第2液体が付与された線状媒体を例示する図であり、
図4(a)は付与直後を示す図、
図4(b)は所定時間の経過後を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る液体吐出装置の動作を例示するフロー図である。
【
図6】第2実施形態に係る液体吐出装置の構成を例示する図である。
【
図7】第2実施形態に係る制御部の機能構成を例示するブロック図である。
【
図8】第2実施形態に係る液体吐出装置の動作を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
[第1実施形態]
<液体吐出装置100の構成例>
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置100の構成を例示する図である。液体吐出装置100は、液体を吐出して線状媒体を染色するものである。
図1に示すように、液体吐出装置100は、第1吐出部1と、第2吐出部2と、搬送部3と、制御部4と、を有する。
【0011】
液体吐出装置100は、制御部4の制御下において、搬送部3により搬送方向Bに搬送される線状媒体Mに、第1吐出部1から第1液体L1を吐出して付与することにより線状媒体Mを染色する。染色する際には、例えば線状媒体Mに付与した第1液体L1に熱と圧力を加えることにより、線状媒体Mの内部に第1液体L1が押し込まれる。
【0012】
また、液体吐出装置100は、制御部4の制御下において、搬送部3により搬送方向Bに搬送される線状媒体Mに、第2吐出部2から第2液体L2を吐出して付与することにより、染色された線状媒体Mを還元洗浄処理する。
【0013】
染色とは、染料または顔料を用いて線状媒体Mに色を定着させることをいう。還元洗浄処理とは、線状媒体の内部に浸み込まずに残った余分な染料を洗浄し、除去することをいう。線状媒体の内部に浸み込まずに余分な染料が線状媒体Mに残っていると、染色された線状媒体Mに滲みが発生する場合がある。還元洗浄処理により、このような滲みを抑制することができる。なお、以下では、還元洗浄処理することを単に還元するという場合がある。
【0014】
線状媒体Mは、例えば糸である。より具体的には、線状媒体Mは、ガラス繊維糸、ウール糸、綿糸、合成糸、金属糸、ウール、綿、ポリマー、または金属の混合糸、ヤーン、フィラメント、あるいは液体を付与可能な線状且つ連続する部材または基材である。線状媒体Mには、組紐、平紐等も含まれる。
【0015】
第1吐出部1は、線状媒体Mの搬送方向Bにおいて、第2吐出部2の上流に位置する。第1吐出部1は、複数の第1ヘッド10を含み、各第1ヘッド10から第1液体L1を吐出して線状媒体Mに付与する。第1吐出部1により吐出される第1液体L1は、例えば昇華染料インクであるが、顔料インク等の昇華染料インク以外の液体であってもよい。
【0016】
第2吐出部2は、還元剤を含有する第2液体L2を吐出して線状媒体Mに付与する。第2吐出部2は、複数の第2ヘッド20を含む。第2吐出部2は、第1吐出部1によって線状媒体Mに付与された第1液体L1を被膜するように、各第2ヘッド20により、線状媒体Mの周囲から線状媒体Mに向けて第2液体L2を吐出する。
【0017】
例えば、第2吐出部2は、2つ以上の離隔したノズルを有し、搬送方向Bに略平行な軸周りに回転する線状媒体Mに各ノズルから第2液体L2を吐出する(例えば、国際公開2017/155451号参照)。あるいは第2吐出部2は、搬送方向Bに略平行な軸周りに回転可能であり、回転しながら線状媒体Mに第2液体L2を吐出することもできる(例えば、特開平7-070952参照)。
【0018】
第2液体L2は、還元剤を含有する液体である。還元剤は、特に限定されないが、例えば、ハイドロサルファイト(Na2S2O4)、二酸化チオ尿素((NH2)2CSO2))、ナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド(NaHSO2・CH2O・2H2O)、亜鉛スルホキシレートホルムアルデヒド(Zn(HSO2CH2O)2)、塩化第一スズ(SnCl2・2H2O)等である。
【0019】
搬送部3は、線状媒体Mを搬送する。例えば搬送部3は、第1吐出部1および第2吐出部2それぞれの下に線状媒体Mを搬送する。また、搬送部3は、線状媒体Mの搬送量を検出するセンサを有し、このセンサにより検出された線状媒体Mの搬送量に対応する搬送検出信号Fbを制御部4に送信できる。さらに搬送部3は、回転機構を含み、搬送方向Bに略平行な軸周りに線状媒体Mを回転させることができる。
【0020】
制御部4は、液体吐出装置100の全体動作を制御可能である。本実施形態では、制御部4は、第1吐出制御信号H1および第2吐出制御信号H2を送信し、第1吐出部1および第2吐出部2それぞれの動作を制御することにより、第1液体L1が付与された線状媒体Mの周囲を被覆するように第2液体L2を付与する。
【0021】
<制御部4の機能構成例>
図2は、液体吐出装置100が備える制御部4の機能構成を例示するブロック図である。制御部4は、送受信部40と、吐出情報取得部41と、第1吐出制御部42と、第2吐出制御部43と、搬送制御部44と、を有する。制御部4は、これらの機能を電気回路により実現する他、これらの機能の一部または全部をソフトウェア(CPU;Central Processing Unit)によって実現することもできる。制御部4は、複数の回路または複数のソフトウェアによりこれらの機能を実現してもよい。
【0022】
送受信部40は、制御部4と外部装置および外部機器との間で信号またはデータの送受を行う。例えば送受信部40は、外部装置200から印刷データImを、搬送部3から搬送検出信号Fbをそれぞれ受信する。外部装置200は例えばPC(Personal Computer)等である。また、送受信部40は、第1吐出部1に第1吐出制御信号H1を、第2吐出部2に第2吐出制御信号H2を、搬送部3に搬送制御信号Crを、それぞれ送信する。
【0023】
吐出情報取得部41は、第1吐出部1による第1液体L1の吐出に関する情報や印刷データIm等に基づき、第2吐出部2により第2液体L2を吐出するための情報である吐出情報Ifを演算により取得する。
【0024】
例えば、吐出情報取得部41は、搬送検出信号Fbと、線状媒体Mの単位長さ当たりの捩れ量と、第1吐出部1の第1吐出制御信号H1および吐出するノズル同士の間の距離と、に基づいて吐出情報Ifを演算により取得する。
【0025】
第1吐出部1による第1液体L1の吐出に関する情報は、第1吐出部1から吐出された液体により形成される液滴サイズ、液滴数等の情報を含む。
【0026】
吐出情報Ifは、例えば、吐出された液体により形成される液滴サイズ、液滴数、線状媒体Mに対して液体を吐出する角度等の情報、複数のノズルのうち吐出するノズルの選択情報、各ノズルからの吐出タイミング情報等を含む。吐出情報取得部41は、線状媒体Mが捩れている場合には、搬送検出信号Fbと線状媒体Mの回転角とに基づいて吐出情報Ifを取得できる。
【0027】
第1吐出制御部42は、送受信部40を介して第1吐出制御信号H1を送信することにより、第1吐出部1による第1液体L1の吐出を制御する。
【0028】
第2吐出制御部43は、送受信部40を介して第2吐出制御信号H2を送信することにより、第2吐出部2による第2液体L2の吐出を制御する。第2吐出制御部43は、吐出情報Ifに基づき、線状媒体M周りの多くの方向から線状媒体Mに第2液体L2を吐出するための第2吐出制御信号H2を第2吐出部2に送信する。
【0029】
第2吐出制御部43は、第1吐出部1により第1液体L1が付与された線状媒体Mの位置に第2吐出部2から吐出された第2液体L2が付与されるように、第2吐出部2による吐出タイミングを調整する。第2吐出制御部43は、吐出情報Ifに基づいて、第2吐出部2が備える複数のノズルのうち吐出するノズルを選択すると共に吐出するタイミングを決定できる。
【0030】
搬送制御部44は、送受信部40を介して搬送制御信号Crを送信することにより、搬送部3による線状媒体Mの搬送を制御する。例えば搬送制御部44は、搬送部3から受信した搬送検出信号Fbに基づいて、線状媒体Mの搬送速度をリアルタイムに算出し、この搬送速度に応じて線状媒体Mの搬送速度を制御できる。
【0031】
搬送制御部44は、線状媒体Mにおける第1吐出部1により第1液体L1が付与された部分が第2吐出部2の位置において第2吐出部2に向き合うように、搬送部3による線状媒体Mの搬送および回転を制御できる。
【0032】
<液体吐出装置100の動作例>
図3は、液体吐出装置100による線状媒体Mへの液体付与動作を例示する図である。
図3において、液体吐出装置100は、搬送方向Bと略平行な軸周りにおける0°方向から、第1吐出部1により線状媒体Mに第1液体L1を吐出して付与している。その後、液体吐出装置100は、搬送方向Bと略平行な軸周りにおける180°方向から、第2吐出部2により線状媒体Mに第2液体L2を吐出して付与している。
【0033】
搬送部3は、搬送方向Bと略平行な軸周りに線状媒体Mを回転させながら線状媒体Mを搬送する。t(0°)は、搬送方向Bと略平行な軸周りにおける線状媒体Mの回転角度が0°になるタイミングを示している。t(180°)は、搬送方向Bと略平行な軸周りにおける線状媒体Mの回転角度が180°になるタイミングを示している。
【0034】
タイミングt(0°)では、第2吐出部2は、第1吐出部1により第1液体L1が付与された線状媒体Mの部分M1が、制御部4により選択されたノズル21を通過する際に、ノズル21から第2液体L2を吐出して線状媒体Mに付与する。
図3における第2液体L2aは、タイミングt(0°)において、線状媒体Mに付与された第2液体L2を示している。
【0035】
タイミングt(180°)では、第2吐出部2は、t(0°)において第2液体L2が付与された線状媒体Mの部分M1に対し、制御部4により選択された別のノズル22により180°方向から第2液体L2を吐出して付与する。
図3における第2液体L2bは、タイミングt(180°)において、線状媒体Mに付与された第2液体L2を示している。
【0036】
ここでは、搬送方向Bと略平行な軸周りにおける0°方向および180°方向の2方向から第2液体L2が吐出される例を示したが、第2吐出部2は、搬送方向Bと略平行な軸周りの任意の方向から第2液体L2を吐出できる。
【0037】
図4は、第1液体L1および第2液体L2が付与された線状媒体Mを例示する図である。
図4(a)は付与直後を示す図、
図4(b)は所定時間の経過後を示す図である。
図4(a)に示すように、第1液体L1が付与された線状媒体Mの周囲四方に第2液体L2が付与される。線状媒体Mの周囲四方に付与された第2液体L2は、線状媒体Mの内部に浸透しつつ、線状媒体M表面を濡れ広がる。所定時間が経過すると、
図4(b)に示すように、線状媒体Mの周囲全体に第2液体L2が付与された状態になる。
【0038】
図5は、第1実施形態に係る液体吐出装置100の動作を例示するフローチャートである。液体吐出装置100は、制御部4により送受信部40を介して印刷データImを受信したタイミングに
図5の動作を開始する。
【0039】
まず、ステップS51において、液体吐出装置100は、搬送部3による線状媒体Mの搬送を開始させる。搬送部3は、自身が備えるセンサにより検出した線状媒体Mの搬送量に対応する搬送検出信号Fbを制御部4に送信する。
【0040】
続いて、ステップS52において、液体吐出装置100は、制御部4の送受信部40により、搬送部3から送信された搬送検出信号Fbを受信する。
【0041】
続いて、ステップS53において、液体吐出装置100は、制御部4の第1吐出制御部42により、搬送検出信号Fbに応じて第1吐出制御信号H1を第1吐出部1に送信する。
【0042】
続いて、ステップS54において、液体吐出装置100は、第1吐出部1から第1液体L1を吐出して線状媒体Mに付与することにより、線状媒体Mを染色する。
【0043】
続いて、ステップS55において、液体吐出装置100は、制御部4の吐出情報取得部41によって、印刷データIm等に基づき、第2吐出部2により第2液体L2を吐出するための吐出情報Ifを演算により取得する。
【0044】
続いて、ステップS56において、液体吐出装置100は、制御部4の第2吐出制御部43によって、吐出情報Ifに基づいて、線状媒体Mに第2液体L2を吐出するための第2吐出制御信号H2を第2吐出部2に送信する。
【0045】
続いて、ステップS57において、液体吐出装置100は、第2吐出部2から第2液体L2を吐出して線状媒体Mに付与することにより、線状媒体Mを還元する。
【0046】
続いて、ステップS58において、液体吐出装置100は、制御部4により、線状媒体Mの染色を終了するか否かを判定する。
【0047】
ステップS58において終了すると判定された場合には(ステップS58、YES)、液体吐出装置100は、ステップS59において、搬送部3による線状媒体Mの搬送を停止した後、動作を終了する。一方、ステップS58において終了しないと判定された場合には(ステップS58、NO)、液体吐出装置100は、ステップS52以降の動作を再度行う。
【0048】
以上のようにして、液体吐出装置100は線状媒体Mを染色することができる。
【0049】
<液体吐出装置100の作用効果>
従来、糸等の線状媒体の染色方法では、染色堅牢度や色の安定性を向上させるために、還元洗浄処理を行い、還元洗浄の処理前と処理後における染料の脱離を規制するものが知られている。還元洗浄処理では、還元剤の入った浴槽に染色対象となる線状媒体を浸す方法が一般的である。
【0050】
また、液体吐出方式によって液体を付与することにより、予め可抜性染料を用いて染色した布帛の抜染を行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0051】
しかしながら、液体吐出方式により線状媒体に還元剤を付与し、還元洗浄処理を行う場合、特許文献1の方法では、一方向のみからしか線状媒体に還元剤を付与できない。そのため、線状媒体における還元剤を付与された側とは反対側には、一方向から付与した還元剤を線状媒体内部に浸透させて反対側まで到達させる必要があるが、還元剤が内部に浸透せず反対側まで到達しない場合がある。この結果、線状媒体全体に還元剤を付与できず還元洗浄品質が低下する場合がある。
【0052】
還元洗浄品質が低下しないようにするには、一方向から付与した還元剤を線状媒体内部に浸透させて反対側まで到達可能に、線状媒体Mに付与する還元剤の量を多くしたり、浸透を促進するように表面張力等の還元剤の物性を制御したりする必要がある。線状媒体Mに付与する還元剤の量を多くすると、還元剤の消費量が増大し、コスト面および効率面において不利である。また、還元剤の物性を制御すると手間がかかる。
【0053】
液体吐出装置100は、第1液体L1を吐出して線状媒体Mに付与する第1吐出部1と、還元剤を含有する第2液体L2を吐出して線状媒体Mに付与する第2吐出部2と、を有する。また液体吐出装置100は、第1吐出部1および第2吐出部2それぞれの動作を制御することにより、第1液体L1が付与された線状媒体Mの周囲を被うように第2液体L2を付与する制御部4と、を有する。
【0054】
本実施形態では、線状媒体Mに第1液体L1が付与されて染色された部分に対して、線状媒体Mの搬送方向Bと略平行な軸周りの多方向から、還元剤を含有する第2液体L2を吐出して付与する。これにより、還元剤を多く使用したり、還元剤の物性を制御したりしなくても、線状媒体Mの周囲全体に還元剤を含有する第2液体L2を付与できる。以上により、本実施形態では、線状媒体M全体に還元剤を付与可能な液体吐出装置100を提供することができる。
【0055】
また、本実施形態では、液体吐出装置100は、線状媒体Mを搬送する搬送部3を有し、制御部4は、搬送部3の動作を制御可能である。搬送部3の動作を制御することにより、例えば、線状媒体Mの搬送方向Bと略平行な軸周りに線状媒体Mを回転させることができ、線状媒体Mの搬送方向Bと略平行な軸周りの多方向から第2液体L2を吐出して線状媒体Mに付与することができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る液体吐出装置100aについて説明する。なお、第1実施形態と同一の構成部には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0057】
図6は、液体吐出装置100aの構成を例示する図である。液体吐出装置100aは、第3吐出部5と、制御部4aと、を有する。第3吐出部5は、pH調整剤を含有する第3液体L3を吐出し、線状媒体Mに付与する。pH調整剤は特に限定されないが、酢酸や燐酸等の緩衝液等が好ましい。制御部4aは、第3吐出部5の動作を制御することにより、線状媒体MのpHを調整可能である。
【0058】
液体吐出装置100aは、例えば、pH調整剤を含有する第3液体L3を、還元剤を含有する第2液体L2を吐出する第2ヘッド20とは異なるヘッドから吐出する。但し、これに限定されず、液体吐出装置100aは、異なる液体を別々に吐出可能なヘッドを用い、1つのヘッドから第2液体L2および第3液体L3を吐出することもできる。
【0059】
図7は、液体吐出装置100aが備える制御部4aの機能構成を例示するブロック図である。制御部4aは、第3吐出制御部45を有する。第3吐出制御部45は、送受信部40を介して第3吐出制御信号H3を送信することにより、第3吐出部5による第3液体L3の吐出を制御できる。
【0060】
図8は、液体吐出装置100aの動作を例示するフローチャートである。液体吐出装置100aは、制御部4aにより送受信部40を介して印刷データImを受信したタイミングに
図8の動作を開始する。
【0061】
ステップS81からステップS84までの動作は、
図5におけるステップS51からステップS54までの動作と同じである。
【0062】
ステップS85において、液体吐出装置100aは、制御部4aによりpHを調整するか否かを判定する。例えば制御部4aは、液体吐出装置100aの操作者による操作部を介した操作入力に応じてpHを調整するか否かを判定できる。
【0063】
ステップS85において調整しないと判定された場合には(ステップS85、NO)、液体吐出装置100aは、ステップS89に動作を移行する。一方、ステップS85において調整すると判定された場合には(ステップS85、YES)、液体吐出装置100aは、ステップS86において、制御部4aの吐出情報取得部41により、第3液体L3の吐出情報Ifを取得する。吐出情報取得部41は、例えば、第2液体L2の吐出情報Ifと同様に、第3液体L3の吐出情報Ifを取得できる。
【0064】
続いて、ステップS87において、液体吐出装置100aは、制御部4aの第3吐出制御部45によって、吐出情報Ifに基づいて、線状媒体Mに第3液体L3を吐出するための第3吐出制御信号H3を第3吐出部5に送信する。
【0065】
続いて、ステップS88において、液体吐出装置100aは、第3吐出部5から第3液体L3を吐出して線状媒体Mに付与することにより、線状媒体MのpHを調整する。
【0066】
ステップS89からステップS93までの動作は、
図5のステップS55からステップS59までの動作と同じである。
【0067】
以上のようにして、液体吐出装置100aは線状媒体Mを染色することができる。
【0068】
<液体吐出装置100aの作用効果>
還元剤は、適切なpHの条件下で使用されないと還元効果が適切に得られないものがある。還元剤のpHを調整する場合には、反応後に還元剤の特性が変化したり、還元剤が空気に触れて酸化したりすることによって、還元剤の品質が劣化する場合があるため、所定周期で第2液体L2を交換したりpHを調整したりする必要があった。
【0069】
本実施形態では、第3吐出部5からpH調整剤を吐出して線状媒体Mに付与することにより、第2吐出部2により第2液体L2が付与された線状媒体MのpHを調整する。これにより、還元剤を含有する第2液体L2を付与するタイミングとほぼ同じタイミングで第3液体L3を付与してpHを調整できる。この結果、還元剤の品質劣化を防ぎながら、適切な還元効果を得ることができる。
【0070】
[その他の好適な実施形態]
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0071】
「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。
【0072】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0073】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係をこれに限定するものではない。
【0074】
実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(digital signal processor)、FPGA(field programmable gate array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。
【0075】
また、実施形態は液体吐出方法を含む。例えば、液体吐出方法は、液体を吐出し、線状媒体を染色する液体吐出装置による液体吐出方法であって、前記液体吐出装置が、第1吐出部により、第1液体を吐出して前記線状媒体に付与し、第2吐出部により、還元剤を含有する第2液体を吐出して前記線状媒体に付与し、制御部により、前記第1吐出部および前記第2吐出部それぞれの動作を制御することによって、前記第1液体が付与された前記線状媒体の周囲を被覆するように前記第2液体を付与する。このような液体吐出方法により、上述した液体吐出装置と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 第1吐出部
2 第2吐出部
3 搬送部
4、4a 制御部
40 送受信部
41 吐出情報取得部
42 第1吐出制御部
43 第2吐出制御部
44 搬送制御部
45 第3吐出制御部
5 第3吐出部
10 第1ヘッド
20 第2ヘッド
21、22 ノズル
100、100a 液体吐出装置
B 搬送方向
Cr 搬送制御信号
Fb 搬送検出信号
H1 第1吐出制御信号
H2 第2吐出制御信号
H3 第3吐出制御信号
If 吐出情報
Im 印刷データ
L1 第1液体
L2、L2a、L2b 第2液体
L3 第3液体
M 線状媒体
M1 部分
t(0°)、t(180°) タイミング
【先行技術文献】
【特許文献】
【0077】