(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169459
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】電子源及び当該電子源の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 1/304 20060101AFI20231122BHJP
H01J 37/073 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H01J1/304
H01J37/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080557
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昌善
(72)【発明者】
【氏名】村上 勝久
(72)【発明者】
【氏名】村田 博雅
【テーマコード(参考)】
5C101
5C227
【Fターム(参考)】
5C101DD06
5C101DD16
5C101DD38
5C227AA05
5C227AA15
5C227AD50
5C227FF32
5C227FF41
5C227FF47
(57)【要約】
【課題】曲面を成すように形成された、電界放出型の電子源を提供すること。
【解決手段】本発明の電子源は、基板によって支持されている第1の領域と、上記基板によって支持されていない第2の領域とを有するエッチストップ層と、少なくとも第2の領域の上に形成された電子放出構造とを有する。この第2の領域の下部分には、何も形成、配置などしなくてもよい。上記第2の領域においてエッチストップ層及び電子放出構造は、自然と凸曲面又は凹曲面を成すようになる。これにより電子ビームを集約または発散させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板によって支持されている第1の領域と、前記基板によって支持されていない第2の領域とを有するエッチストップ層と、
少なくとも前記第2の領域の上に形成された電子放出構造と、
を有する電子源。
【請求項2】
前記エッチストップ層の前記第2の領域の下部分が空洞となっている
請求項1記載の電子源。
【請求項3】
前記第2の領域において前記エッチストップ層が、凸曲面又は凹曲面を成している
請求項1記載の電子源。
【請求項4】
前記第2の領域が、円状の形状、若しくは円を直線又は曲線に沿って移動させることでカバーされる形状である
請求項1記載の電子源。
【請求項5】
前記エッチストップ層と前記電子放出構造を含む層との間に形成された応力調整層
をさらに含む請求項1記載の電子源。
【請求項6】
基板上のエッチストップ層の少なくとも一部の領域の上に電子放出構造を形成するステップと、
前記領域の少なくとも一部の下部において、前記基板をエッチングにより除去するステップと、
を含む電子源の製造方法。
【請求項7】
前記エッチストップ層と前記電子放出構造を含む層との間に応力調整層を形成するステップ
をさらに含む請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記基板上に前記エッチストップ層を形成するステップ
をさらに含む請求項6記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型の電子源及び当該電子源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、進行波管(TWT:Traveling Wave Tube)などに用いる電子源から放出された電子ビームを一点に集束させる目的で、電子源(カソードとも呼ばれる)の表面を凹状の球面の一部に加工することが開示されている。このような技術は、熱や光のエネルギーを電子に与えることによって電子を真空中に放出せしめる、いわゆる熱電子源(熱陰極)や光電子電子源を用いるものである。
【0003】
一方、電界のみによりトンネリングによって電子を真空中に放出させる電子源については、例えば特許文献2や3において、電子源を凹状の球面一部に配列することが開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、平坦な基板上に作製した、電界放出型の電子源を凹状の球面上に貼り付けるものであって、電子源そのものは球面状になっておらず、集束される電子ビームには限界がある。
【0005】
一方で、電界放出型の電子源アレイを凹面上に製造するのは困難である。通常、電界放出型の電子源アレイは、平坦なシリコン基板やガラス基板上に、半導体の微細加工技術を使って製造されるため、製造工程にフォトリソグラフィーや、ドライエッチングなどの工程がある。フォトリソグラフィーにおいては、フォトレジストを塗布する工程が不可欠であり、湾曲した凹面にレジストを塗布すると、湾曲面の底の部分はフォトレジストが厚くなるなど、面内に膜厚分布が生じることが避けられない。すなわち、湾曲した凹面に均一な大きさの電界放出型の電子源アレイを作製することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4134000号公報
【特許文献2】特開2005-261502号公報
【特許文献3】特許第5424098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、一側面として、曲面を成すように形成された、電界放出型の電子源及び当該電子源を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子源は、基板によって支持されている第1の領域と、上記基板によって支持されていない第2の領域とを有するエッチストップ層と、少なくとも第2の領域の上に形成された電子放出構造とを有する。
【0009】
本発明の電子源の製造方法は、基板上のエッチストップ層の少なくとも一部の領域の上に電子放出構造を形成するステップと、上記領域の少なくとも一部の下部において、上記基板をエッチングにより除去するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
一側面によれば、曲面を成すように電界放出型の電子源を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る電子源の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、電子放出エリアの概形の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態に係る電子源の製造方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、電子放出エリアの概形の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、応力調整層を追加した場合の電子源の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、凸曲面が形成された場合の電子源の構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、第1の実施の形態の変形例1に係る電子源の構成例を示す図である。
【
図9】
図9は、SOIウェハを用いた場合における電子源の製造方法を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第2の実施の形態に係る電子源の構成例を示す図である。
【
図11】
図11は、第2の実施の形態に係る電子源の製造方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、第2の実施の形態の変形例1に係る電子源の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態1]
[構成]
本実施の形態に係る電界放出型の電子源の一例を
図1に示す。本実施の形態に係る電子源は、先鋭な電子放出端を有する複数のエミッタ80がアレイ状に形成されたエミッタアレイ70を含む。このエミッタアレイ70は、本実施の形態では凹曲面を成している。このようにエミッタアレイ70が凹曲面を成しているので、各エミッタ80の先端から放出される電子を集束させやすくなる。
【0013】
本電子源では、エミッタアレイ70の下部(すなわち反対側の面)において基板100には開口60が形成されており、開口部60の上に形成されているエッチストップ層40とさらに上に形成された導電層30等を含むメンブレンは、基板100に支持されていないので、メンブレンは、自身の応力により自然と凹曲面を成している。なお、開口60以外の部分は基板100が残されており、基板100より上に形成されているエッチストップ層40等は基板100により支持されている。
【0014】
開口60の形状は、
図2に示すように、例えば円形であることが、性能上も製造上も好ましい。矩形の場合には、コーナー部分に応力が集中するため、好ましい凹曲面にならないか、破けてしまう可能性が高くなるためである。
【0015】
エッチストップ層40の上に形成されるエミッタアレイ70のために、導電層30が形成されており、導電層30の上には、複数の小開口を有する絶縁層20及びゲート電極10が形成されており、この小開口の各々にエミッタ80が形成されている。
【0016】
このような電子源では、ゲート電極と導電層30に所定の電圧を印加することで、エミッタ80から電子が放出される。
【0017】
[実施の形態1の製造方法]
本実施の形態に係る電子源の製造方法を
図3(a)乃至(d)を用いて説明する。
【0018】
図3(a)に示すように、基板100上に、後に裏面に開口60を形成する際にエッチングされないようなエッチストップ層40を形成する。基板100として、材料は特に限定されるものではないが、裏面に開口60が形成しやすい材料としては、シリコン基板が適している。エッチストップ層40の材料は、裏面の開口60をエッチングする手法により選択されるが、基板100としてシリコン基板を選択し、シリコン基板を深くエッチングするためによく用いられるSF6ガスとC4F8などのCF系ガスを用いたボッシュプロセスを使用する場合、SF6やCF系ガスではエッチングされない材料を選ぶ。例えば、シリコン酸化膜(SiO
2)やアルミ、クロムなどを用いることができる。また、これらの積層膜であっても良い。
【0019】
エッチストップ層40の上に、エミッタに電流を供給するための導電層30を形成する。エッチストップ層40に導電性の膜を選んだ場合においては、導電層を省略することも可能であるが、一般的には、導電層は必要な形状にパターニングする場合が多いので、エッチストップ層とは別に設ける方が設計の自由度は高くなる。
【0020】
次に、
図3(b)に示すように、導電層30上に、絶縁層20、ゲート電極30及びエミッタ80を形成する方法は、多数存在しているので、いずれを選んでも良いが、例えば特許第6093968号公報、C. A. Spindt, 他 “Physical Properties of thin-film field emission cathode with molybdenum cones”, Journal of applied Physics, vol. 47, (1976) p.5248等に記載されているスピント型エミッタの製造方法を採用しても良い。このように、よく知られた方法を採用してもよいので、ここでは説明を省略する。
【0021】
次に、
図3(c)に示すように、
図3(b)に示すようなエミッタアレイ70を形成した後、エミッタアレイ70の裏面のシリコン基板を、ボッシュプロセスなどいわゆる深掘りエッチングを用いてエッチングする。そのためには、まず、エミッタアレイ70を形成した面を塗布型の保護膜200で保護する。保護膜200にはエミッタ80などの構造物の高さよりも厚く塗布が可能なフォトレジストや樹脂膜が適している。また、シリコン基板の裏面にはフォトレジストを塗布し、深掘りするパターンに合わせてマスク300を形成する。ボッシュプロセスとしては、例えばSF6ガスとC4F8ガスを交互に導入してエッチングを繰り返す手法を用いることが可能となる。
【0022】
テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)や水酸化カリウム(KOH)のようなアルカリ性の液体を用いて、シリコン基板をエッチングすることも可能であるが、その場合シリコンの結晶方位面によってエッチングされる速さが異なることから、(111)面が残るような形でエッチングが進行する。その結果、エッチングされる穴の形状は元々のマスク形状にかかわらず矩形になる。エッチングにより形成された穴が矩形になると、上で述べたように矩形のコーナー部分から破れが発生する可能性が高くなる。また、破れずにエッチングできたとしても、湾曲したときにシワ(たわみ)が発生する可能性が高いので好ましくない。
【0023】
開口60の形状は、最終的に集束した電子ビームの、目的とする形状に応じて選択する。例えば、電子ビームを点に集束させる場合には、メンブレンが成す凹曲面は球面の一部を切り出したような構造であることが好ましいので、エッチングする穴の形状は、
図2に示すように、円形であることが望ましい。また、ライン状に集束された電子ビームを目的とする場合には、
図4に示すように、長方形の短辺を半円状にしたような形状、すなわち円を直線状に移動させてカバーされる形状が好ましい。
【0024】
そして、
図3(d)に示すように、深掘りエッチングの後、不要となる保護膜200とマスク300を、酸素プラズマや剥離液などで除去する。裏面のシリコン基板がなくなることにより、エミッタアレイ70は、積層された薄膜(すなわちメンブレン)の応力により曲面を成すようになる。曲面が凸曲面になるか、凹曲面になるかは、積層された薄膜(すなわちメンブレン)の応力がトータルとして引っ張り応力となるか、圧縮応力となるかで決まる。
【0025】
電子を放出するメンブレンの湾曲度合い(曲率半径(R))は、電子源と電子ビームの集束点との距離によって決めることになる。そのRを実現するためには、メンブレンの応力を調整する。そのために、
図5に示すように、エッチストップ層40と導電層30との間に、応力調整層400(湾曲度合いを調整する湾曲調整層とも呼ぶ)を挿入しても良い。応力調整層400はその応力によって、湾曲度合いを調整するのが目的であるから、応力が調整できるような膜が望ましい。例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)ガスを使ったプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により成膜したSiO
2膜は、
図6に示すように、成膜中に導入するTEOSガスと酸素ガスの比率(横軸)や、基板温度Tsを調整することで、引っ張り応力(縦軸0を超える部分)から、圧縮応力(縦軸0を下回る部分)まで、応力をある程度制御することが可能であり、応力調整層として使用することが可能である。
【0026】
なお、メンブレンの応力が引っ張り応力となる場合には、
図7に示すように、メンブレンが凸曲面を成すようになる。このような凸曲面を成すメンブレンは、電子ビームを集束させるのではなく、発散させて電球のような発光素子に用いることができる。
【0027】
[実施の形態1の変形例1]
上で述べたスピント型エミッタに代わって、
図8に示すように、火山型集束電極が一体化されたエミッタアレイを形成するようにしても良い。この火山型集束電極が一体化されたエミッタアレイの製造方法は、例えば特開2021-018846号公報に記載されているので、ここでは説明は省略する。簡単に構造を説明すると、引き出しゲート電極94の開口部に、エミッタ80が形成されており、エミッタ80から放出される電子を集束させる集束電極92も形成されている。
図1のような電子源の場合、個々のエミッタ80から放出された電子は、約30度程度の広がり角を持って放出されると言われており、
図1の構成のみでは電子ビームを容易に集束できない場合がある。一方、この構成では、個々のエミッタ80に対して、集束電極92を一体化して形成できるので、はじめからエミッタ80に垂直な方向に整えられた電子ビームが放出できるので、容易に、一点に集束させることができるようになる。
【0028】
[実施の形態1の変形例2]
さらには、シリコンなどをエッチングして、先鋭なエミッタを形成する方法も適用しても良い。この場合には、SOI(Silicon on Insulator)ウエハを用いるようにしても良い。例えば、
図9(a)に示すように、SOIウェハ80は、シリコン基板80cの上側にいわゆるBOX層(SiO
2層)80b、さらに上側にシリコン層80aが形成されており、まず、シリコン層80の上に、SiO
2からなる円形のマスク81を形成する。その上で、
図9(b)に示すように、リアクティブエッチングにより、エミッタの概形を形成する。リアクティブエッチングの条件はガスの種類などを調整することでサイドエッチングが起こるような条件とすることでエミッタの概形ができる。ことのとき、完全に先端が尖るまでエッチングしてしまうと,マスクが外れてしまい、その後はエミッタ先端が急激にエッチングされて形状が悪くなってしまうので、尖る直前でエッチングを止める。
図9(b)では、先端が平坦なエミッタを含むシリコン層82が形成されていることが分かる。
【0029】
その後、
図9(c)に示すように、熱酸化によりエミッタ先端を形成する。熱酸化の過程でエミッタ先端付近のように平坦ではない部分では応力が発生することで酸化速度が平坦な部分に比べて遅くなる。この現象を利用することで非常に先鋭な先端を形成することができる。すなわち、先端が平坦なエミッタを含むシリコン層82の表面に、SiO
2の膜82’が形成されており、その下側に、先端が尖ったエミッタ83を含むシリコン層84が形成されている。そして、
図9(d)に示すように、エミッタ83の上部に残ったSiO
2を、緩衝フッ酸(Beffered Hydro-Fluoricacid)によりエッチングする。
【0030】
このような形でエミッタを形成する場合、SOIウエハのBOX層80bがエッチストップ層となる。SOIウエハ80の最上層のシリコン層80aの厚さは、作製するエミッタの高さに応じて設定する。エミッタの高さが1ミクロンとするのであれば、シリコン層は1μmより厚いSOIウエハ80を用いる。
【0031】
[実施の形態2]
図10に、第2の実施の形態に係るMIS(Metal/Insulator/Semiconductor)型電子源の構成例を示す。なお、MIM(Metal/Insulator/Metal)型電子源とも呼ぶ。
【0032】
この電子源では、基板100上にエッチストップ層40と導電層30が設けられており、さらにその上に、電子を加速するための絶縁層20と、電圧を印加するためのゲート電極10が形成されている。本実施の形態では、電子放出エリア700のみ絶縁層20が薄くなっており、電子放出エリア700の下部(すなわち反対側の面)において基板100には開口60が形成されている。すなわち、電子放出エリア700の下部分は、基板100に支持されておらず、電子放出エリア700におけるゲート電極10、絶縁層20、導電層30及びエッチストップ層40を含むエンブレンは、自然と凹曲面を成している。なお、開口60以外の部分は基板100が残されており、基板100より上に形成されているエッチストップ層40等は基板100により支持されている。電子は、面に対して垂直に放出されるので、集束電極は不要で、電子放出エリア700におけるエンブレンが凹曲面を形成している場合には、導電層30とゲート電極間に所定の電圧を印加することで、電子ビームを1点に集束させることができるようになる。
【0033】
なお、エッチストップ層40が導電性を有するものであれば、第1の実施の形態と同様にエッチストップ層40が、導電層30を兼ねた膜であっても良い。
【0034】
導電層30は基本的には導電性があれば、どのような材質でも用いてもよいが、基板に対して垂直に電子を放出することが好ましいので、できるだけ平坦な膜となっている方が好ましい。金属膜の場合は一般には多結晶になり、表面に凹凸が発生するので、その場合にはCMP(Chemical-Mechanical Polishing)などの手法により平坦化することが好ましい。または、SOI(Silicon On Insulator)ウエハを用いることも可能であり、その場合、SOIのBOX層(SiO2)がエッチストップ層40となり、SOI層が導電層30となる。
【0035】
電子放出エリア700内における絶縁層20の厚さは、4nm乃至20nmであることが好ましく、4nm乃至10nmであればより好ましい。電子放出エリア70以外の厚さは、100nm乃至1000nm程度であることが好ましい。電子放出エリア70における絶縁層20は、薄く形成することにより、導電層30から放出される電子が絶縁層20において散乱されるのを防ぐことに寄与すると共に、動作電圧を低減できるメリットがあるが、余りにも薄いと電子を加速するのに必要な電圧を印加できなくなるため、上記の範囲になるようにする。
【0036】
絶縁層20の材質としては、良好な絶縁性能を持つ材質、例えば窒化ホウ素(BN)、SiO2やAl2O3などが挙げられる。但し、この材料の中を電子がトンネリングし、絶縁層20の導電帯を電子が走行することになるので、電子との相互作用が小さい材質が望ましく、軽元素から構成されていることがより好ましい。従って、BNがより好ましく、その中でも層状に成膜する事ができる六方晶窒化ホウ素(hexagonal-Boron Nitride;以下h-BN)が最も好ましい。
【0037】
ゲート電極10は、この部分を電子が透過して真空中に放出されることから、やはり電子との相互作用ができるだけ小さい方が望ましく、従って膜厚も7nm以下であることが好ましく、原子一層であれば、さらに望ましい。その材料も、導電性があり連続膜が形成でき、なおかつ、軽元素で構成され、薄くできるものが好ましい。その意味から炭素の層状膜、つまり、グラフェンが好ましい。単層の膜の成膜が困難な場合は多層のグラフェンでも使用可能であるが、その膜厚は上記したように7nm以下であることが好ましい。また、絶縁層20において膜厚の異なる部分を良好に被覆するためには、単結晶のグラフェンでは6角形を敷き詰めた構造であるから、平面にしかならないので、不向きである。グラフェンは多結晶であることが望ましい。
【0038】
[実施の形態2の製造方法]
本実施の形態に係る電子源の製造方法を
図11(a)乃至(d)を用いて説明する。
【0039】
まず、
図11(a)に示すように、シリコン基板100上に、エッチストップ層40、導電層30、絶縁層20を成膜する。SOIウエハを用いる場合には、エッチストップ層40がBOX層、導電層30がSOI層(シリコン層)に対応する。絶縁層20は、最終的には電子放出エリア700を規定するものになる(電子放出エリア700からは取り去り、電子放出させたくない部分にこの絶縁層20を残す)もので、良好な絶縁を保てれば良いので、様々な材料から選ぶことができる。一般的に用いられるSiO
2や、Al
2O
3などが挙げられる。その厚さは、100nm以上10μm以下の膜厚から自由に選ぶことができる。なお、通常用いやすい厚さは、300nm乃至1μm程度である。場合によっては、応力調整層400をエッチストップ層40と導電層30との間に形成しても良い。
【0040】
次に、
図11(b)に示すように、電子放出エリア700を規定するために、電子放出エリア700から絶縁層20を除去する。この時点では、平坦な基板上に形成されているので、通常のフォトリソグラフィーとドライエッチングや、ウエットエッチングを用いて実施すればよい。
【0041】
さらに、
図11(c)に示すように、電子放出エリア700の上に、電子をトンネリング且つ加速させるための薄い絶縁層21を形成する。絶縁層21の品質がこの電子源の特性を大きく左右する。例えば、導電層30として単結晶シリコンを用いた場合においては、可能な限り欠陥を減らすためにRCA洗浄などの洗浄を行った上で、熱酸化を行い、導電層30の露出した部分に絶縁層21を形成する。このほかにも、絶縁層21としては、h-BNを用いることもできる。h-BNは窒素とホウ素という軽元素のみから構成されており、電子との相互作用が少ないことから、電子放出効率の向上が期待でき、最も望ましい形態の一つである。
【0042】
絶縁層21の厚さは、4nm乃至20nm程度になるように調整することが好ましい。絶縁層21が4nmより薄い場合には、導電層30とこの後に形成するゲート電極10との間に、十分な電圧を印加する前にトンネル電流が流れる。ゲート電極10の電位が仕事関数よりも低い状態でトンネル電流が流れても、電子のエネルギーが低く、ゲート電極10を透過することができないので、電子放出が得られない。したがって、絶縁層21は4nm以上であることが好ましい。絶縁層21が20nmより厚い場合には、トンネリングした電子の絶縁層21内での移動距離が長くなり、移動の間に格子振動による散乱の影響を受けてエネルギーを失ってしまう。従って、この場合にも仕事関数以上のエネルギーを有する電子が減ってしまい電子放出効率が悪くなる。本願発明者らが研究を重ねた結果、絶縁層21の厚さは20nm以下であるのが好ましく、10nm以下であればより好ましい。
【0043】
次に、ゲート電極10を形成する。ゲート電極10には金属や半導体を用いることが可能であるが、絶縁層21を透過してきた電子がさらにこのゲート電極10をも透過しなければ真空中に電子は放出されないので、容易に電子が透過できる材質が好ましい。一般の金属は原子も大きく、また連続膜を得るためには10nm以上の膜厚が必要になる。ゲート電極10として好ましいのは、軽元素からなる導電性の材料であり、なおかつ連続膜で可能な限り薄いものが良い。したがって、最も好ましいのは一層の炭素原子からなるグラフェンである。絶縁層21上にグラフェンを直接成膜する方法として、本願発明者らは、ガリウム蒸気とメタンガスの混合雰囲気に曝すCVD法を、例えば特許第6983404号公報に記載の方法を採用できる。
【0044】
図11(d)に示すように、最後に、電子放出エリア700の反対側の基板100をエッチングする。基板100のエッチングの際には、表面の電子放出エリア700を保護するのは、第1の実施の形態と同様である。
【0045】
[実施の形態2の変形例]
図12に、第2の実施の形態の変形例に係る電子源を示す。ここでは、電子放出エリア750が、
図10に示した電子源の電子放出エリア700とは異なり、アレイ状となっている。このようにすることで、一部に欠陥があった場合でも、その部分だけが機能せず、他の部分は機能するようになる。なお、エッチストップ層40や基板100下部の開口60の部分以外は、例えば特許第7057972号公報などに記載されているので、ここでは説明は省略する。
【0046】
このように、エッチストップ層を導入した上で、基板の裏面に開口を設けることで、基板で支持されていない電子放出エリアは、エッチストップ層などによる応力に応じて凸曲面または凹曲面を成すようになり、電子を集束又は発散させて放出させることができるようになる。なお、電子放出エリアにおいてエッチストップ層より上に形成され、電子放出のための電子放出構造には、様々な形態を採用可能であって、上で述べたもの以外の構造であっても良い。なお、エッチストップ層を導電層として用いる場合であっても、エッチストップ層より上に、電子を放出するのに寄与する何らかの構造が形成されるので、当該構造は電子放出構造の一種である。
【0047】
また、SOIウェハを用いる場合には、電子源を製造する場面においてエッチストップ層を形成することはないが、電子放出に寄与する電子放出構造は形成される。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、各実施の形態の任意の技術的事項を削除したり、いずれかの実施の形態の技術的事項を任意に組み合わせることも可能である。
【0049】
また、電子源から大電流を放出させる際には、ジュール熱によって、電子源の温度が高温となる。本実施の形態に係る構造の場合、電子源の下部が基板で支えられていないので、放熱特性が悪くなり、大電流動作をさせた際に熱による破壊が起こることもありうる。したがって、放熱特性を良くするために、エッチストップ層と導電層の間に、放熱層を挿入してもよい。放熱層は、熱伝導の良い銅やアルミなどの金属が好ましい。
【0050】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0051】
実施の形態に係る電子源は、基板によって支持されている第1の領域と、上記基板によって支持されていない第2の領域とを有するエッチストップ層と、少なくとも第2の領域の上に形成された電子放出構造とを有する。基板によって支持されていない第2の領域に形成された、電子放出のための電子放出構造は、自然と曲面を成すようになる。
【0052】
より具体的には、上記エッチストップ層の第2の領域の下部分が空洞となっている場合もある。すなわち、第2の領域の下部分に、何も形成、配置などしなくてもよい。また、上記第2の領域においてエッチストップ層及び電子放出構造が、凸曲面又は凹曲面を成している場合もある。電子ビームを集約または発散させるものである。さらに、上記第2の領域が、円状の形状、若しくは円を直線又は曲線に沿って移動させることでカバーされる形状である場合もある。電子ビームの集約形状または発散形状にあわせた形状とするが、製造上問題なく製造できる形状が好ましい。場合によっては楕円であっても良い。
【0053】
上で述べた電子源は、エッチストップ層と電子放出構造を含む層との間に形成された応力調整層をさらに含むようにしても良い。これによって、曲面の湾曲度合い(凹凸の別を含む)を制御するものである。
【0054】
実施の形態に係る、電子源の製造方法は、基板上のエッチストップ層の少なくとも一部の領域の上に電子放出構造を形成するステップと、上記領域の少なくとも一部の下部において、上記基板をエッチングにより除去するステップとを含む。このようにすれば、エッチストップ層以上の層が、基板に支持されている領域と基板によって支持されていない領域とに分けられて、基板によって支持されていない領域は、自然と適切な曲面になる。
【0055】
上記製造方法は、エッチストップ層と電子放出構造を含む層との間に応力調整層を形成するステップをさらに含むようにしても良い。基盤によって支持されていない領域の湾曲度合いを制御できるようになる。
【0056】
さらに、上記製造方法は、基板上にエッチストップ層を形成するステップをさらに含むようにしても良い。SOIウェハでは、BOX層をエッチストップ層として活用できるので形成しなくても良いが、シリコン基板を用いる場合には、このようにエッチストップ層を形成することで、基板の裏面からのエッチングからの影響をエッチストップ層で止めることが出来るようになる。
【符号の説明】
【0057】
10 ゲート電極 20 絶縁膜 30 導電層 40 エッチストップ層
60 開口部 80 エミッタ 100 シリコン基板
70,700,750 電子放出エリア
80 SOIウェハ 80a シリコン層 80b BOX層 80c シリコン基板