(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169515
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】試料分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
G01N35/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080660
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】杉村 禎昭
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058DA07
2G058GA06
(57)【要約】
【課題】磁石の位置ずれが発生しても、流路内の磁場に位置ずれが生じ難くし、高精度の分析が可能な試料分析装置を提供する。
【解決手段】標識物質に結合した磁性粒子を含む試料液を導入する流路と、前記流路内に前記試料液を供給及び排出する送液手段と、前記流路内の前記磁性粒子を捕捉する磁場を印加する磁場印加手段と、捕捉された前記磁性粒子に結合した前記標識物質を検出する検出器と、を備えた試料分析装置において、前記磁場印加手段は、複数の部材によって構成され、少なくとも1つの部材が、前記流路と一体に形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識物質に結合した磁性粒子を含む試料液を導入する流路と、
前記流路内に前記試料液を供給及び排出する送液手段と、
前記流路内の前記磁性粒子を捕捉する磁場を印加する磁場印加手段と、
捕捉された前記磁性粒子に結合した前記標識物質を検出する検出器と、
を備えた試料分析装置において、
前記磁場印加手段は、複数の部材によって構成され、少なくとも1つの部材が、前記流路と一体に形成されていることを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料分析装置において、
前記流路には、前記標識物質を発光させる電圧を印加する電極が設けられており、
前記磁場印加手段は、磁場発生源と、前記磁場発生源から前記電極へ磁場を誘導する磁性材と、で構成され、前記磁性材が、前記流路と一体に形成されていることを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記磁場発生源は、コイルを含む電磁石であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記磁場発生源は、永久磁石であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記磁性材が、前記流路の壁の内部に埋め込まれていることを特徴とする試料分析装置。
【請求項6】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記磁性材が、前記流路から前記磁場発生源に向けて露わになっていることを特徴とする試料分析装置。
【請求項7】
請求項6に記載の試料分析装置において、
前記磁性材が、前記磁場発生源と接触することを特徴とする試料分析装置。
【請求項8】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記電極は、前記流路の底部に設置される反応場電極と、前記流路の上部に設置される対向電極と、を有し、
前記反応場電極の下方に前記磁場発生源が位置することを特徴とする試料分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の試料分析装置において、
前記磁性材が前記流路の底面壁に設置されることを特徴とする試料分析装置。
【請求項10】
請求項9に記載の試料分析装置において、
前記磁性材は、前記反応場電極側の端面が前記反応場電極の形状に沿った形状、又は、前記磁場発生源側の端面が前記磁場発生源の形状に沿った形状であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項11】
請求項9に記載の試料分析装置において、
前記磁性材は、前記磁場発生源側の断面積よりも、前記反応場電極側の断面積の方が小さいことを特徴とする試料分析装置。
【請求項12】
請求項9に記載の試料分析装置において、
前記磁性材は、前記反応場電極側の端面が、前記反応場電極よりも小さいことを特徴とする試料分析装置。
【請求項13】
請求項8に記載の試料分析装置において、
前記磁性材が前記流路の天面壁に設置されることを特徴とする試料分析装置。
【請求項14】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記磁性材は、前記流路の送液方向の上流側と下流側とで非対称な形状であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項15】
請求項2に記載の試料分析装置において、
前記流路の送液方向の上流側と下流側に、それぞれ異なる磁性材が設置されることを特徴とする試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫分析装置等の試料分析装置では、標識物質に結合した磁性粒子を含む試料液をフローセル等の流路内に導入し、流路の途中で磁性粒子を捕捉(吸着)させ、捕捉した磁性粒子に外部電場等を作用させることにより、磁性粒子に結合した標識物質を発光させる。この時の発光強度を検出することで、磁性粒子に結合した検出物質の量を測定することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、発光強度を検出する際には、磁石を流路に近づけて磁場を強めることで磁性粒子を捕集し、流路内を洗浄する際には、磁石を流路から遠ざけて磁場を弱めて磁性粒子を排出する試料分析装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁場発生源である磁石が移動する機構を用いた場合、その保持や運動を担う部品点数が多くなることから、位置決めに関わる自由度が増大し、繰り返し使用すると位置ずれを招く可能性がある。仮に、磁石が移動する機構を用いない場合であっても、メンテナンス等により部品を操作した際には、磁石の位置ずれの可能性がある。磁石の位置ずれによって、流路内の磁場に位置ずれが生じると、磁性粒子を確実に捕捉できず、分析の精度が低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、磁石の位置ずれが発生しても、流路内の磁場に位置ずれが生じ難くし、高精度の分析が可能な試料分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明は、標識物質に結合した磁性粒子を含む試料液を導入する流路と、前記流路内に前記試料液を供給及び排出する送液手段と、前記流路内の前記磁性粒子を捕捉する磁場を印加する磁場印加手段と、捕捉された前記磁性粒子に結合した前記標識物質を検出する検出器と、を備えた試料分析装置において、前記磁場印加手段は、複数の部材によって構成され、少なくとも1つの部材が、前記流路と一体に形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁石の位置ずれが発生しても、流路内の磁場に位置ずれが生じ難くし、高精度の分析が可能な試料分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【
図3】位置ずれが発生したときの磁場発生源とフローセルを示す図。
【
図4】比較例として、固定磁性材を用いない場合の解析モデルを示す図。
【
図5】実施例1として、固定磁性材を用いた場合の解析モデルを示す図。
【
図6】比較例の解析モデルと、実施例1の解析モデルについて、磁束密度の解析結果を示す図。
【
図7】実施例2として、固定磁性材と芯が接触する場合の解析モデルを示す図。
【
図8】比較例の解析モデルと、実施例2の解析モデルについて、磁束密度の解析結果を示す図。
【
図9】実施例3として、固定磁性材の流路側端面が小面積である場合の解析モデルを示す図。
【
図10】比較例の解析モデルと、実施例3の解析モデルについて、磁束密度の解析結果を示す図。
【
図11】固定磁性材の形状に関する複数の変形例を示す図。
【
図12】固定磁性材の代表的な形状例における磁束密度の分布を示す断面図。
【
図13】実施例4の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【
図14】実施例4として、固定磁性材を流路天面壁に配置した場合の解析モデルを示す図。
【
図15】比較例の解析モデルと、実施例4の解析モデルについて、磁束密度の解析結果を示す図。
【
図16】実施例5の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【
図17】実施例6の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【
図18】実施例7の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【
図19】実施例8の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【
図20】実施例9の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0011】
本実施形態では、試料分析装置として、免疫分析装置を例に挙げて説明する。但し、本発明は、免疫分析に限らず、磁性粒子を用いて磁場強度の切り替えにより磁性粒子を捕捉する試料分析装置であれば、適用可能であり、DNA、生化学等の分析装置に対しても適用できる。また、以下に示す実施形態は、形状、寸法、数等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0012】
図1に、免疫分析装置の概略構成図を示す。免疫分析装置は、流路10、送液手段、磁場印加手段、光検出器23及びコントローラ50等を備える。流路10は、標識物質に結合した磁性粒子13を含む試料液を導入する部位であり、流路天面壁11及び流路底面壁12によって形成されている。なお、本明細書では、流路天面壁11、流路底面壁12、反応場電極14及び対向電極15から成る検出部を、一体の部材としてフローセルと呼ぶ。
【0013】
流路天面壁11は、透明な材料で作製されるのが好ましく、例えば、ガラス、プラスチック等で作製されるのが好ましい。これにより、反応場電極14周辺において磁性粒子13に結合した標識物質が発する光の波長を光検出器23が検出可能となっている。
【0014】
流路10の底部周辺には反応場電極14が設置され、流路10を挟んだ対面、すなわち、流路10の上部周辺には対向電極15が設置されている。さらに、反応場電極14、対向電極15は、信号線55b、55cを介して、電圧印加手段16に接続している。電圧印加手段16は、信号線55aによりコントローラ50に接続している。
【0015】
反応場電極14及び対向電極15の材料は、例えば、金、白金、パラジウム、タングステン、イリジウム、ニッケル及びそれらの合金や炭素材料等で構成することができる。また、反応場電極14及び対向電極15は、例えばチタン等の母材に、前記材料をめっき、スパッタリング等で成膜したものを使用することもできる。
【0016】
反応場電極14は、発光測定のしやすさから、面形状であることを基本とし、ここでは流路10の底面上に設けることとする。しかしながら、流路10内の他の面、あるいは、3次元的に配置された複数面にあっても良く、また、磁性粒子13の捕捉、あるいは、磁性粒子13と結合した標識物質の電気化学発光に適していれば、必ずしも面形状である必要はなく、線形状、線形状と面形状の組み合わせ、等でも良い。対向電極15は、反応場電極14との組み合わせによって流路10内に電圧を生じさせることができる配置や形状であれば良く、線形状、面形状、あるいはその組み合わせであっても良い。
【0017】
本実施形態では、流路10内の磁性粒子13を捕捉する磁場を印加する磁場印加手段が、磁場発生源と、磁場発生源から反応場電極14へ磁場を誘導する固定磁性材22と、で構成される。磁場発生源としては、電磁石でも永久磁石でも良い。
【0018】
図1では、磁場発生源として、コイル20と芯21から成る電磁石が用いられている。コイル20は、電磁石として磁場の発生が可能であれば、一般的なソレノイドコイル等を用いることができ、例えば、銅の単線あるいは撚り線製のソレノイドコイルを用いることができる。また、芯21及び固定磁性材22は、磁場の発生や誘導が可能であれば、一般的な軟磁性材である鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、パーメンジュール、磁性合金、ソフトフェライト等を用いることができ、芯21と固定磁性材22が同じ軟磁性材であっても良く、異なる軟磁性材であっても良い。
【0019】
コイル20等から成る電磁石は、信号線56a、56b、電圧印加手段17を介してコントローラ50に接続されている。磁性粒子13を捕捉(吸着)させるときは、コントローラ50により電圧印加手段17が制御され、コイル20に電圧が印加される。これにより、流路10内の反応場電極14及び対向電極15の周辺に磁場が発生する。磁性粒子13は、発生した磁場に由来する磁気力によって、反応場電極14上に捕集される。コイル20への電圧印加は、コイル20等から成る電磁石として磁場発生が可能であれば、直流、交流いずれの方式での稼働でも構わないものの、交流で稼働する場合には、撚り線を用いるなど、一般的な表皮効果対応をすることが好ましい。
【0020】
磁場発生源が永久磁石の場合、
図20を用いて後述するように、例えば、反応場電極14付近に可動式アームと永久磁石を設置し、コントローラ50からの信号によって、アームを可動させることで、永久磁石と反応場電極14との距離を操作する。この方法により、磁場発生源として永久磁石が用いられた場合でも、電磁石の場合と同様に、流路10内の磁場の増大や減少を制御できる。
【0021】
電圧印加手段16は、コントローラ50により制御される。コントローラ50による電圧印加手段16への指令により、流路10内の反応場電極14と対向電極15の間に電圧が印加されると、反応場電極14上に捕捉した磁性粒子13と結合した標識物質を電気化学的に発光させることができる。
【0022】
光検出器23は、磁場印加手段が印加する磁場によって捕捉された磁性粒子13に結合した標識物質を検出するものであり、例えば、カメラや光電子倍増管等である。この光検出器23は、反応場電極14周辺において標識物質が発する光の波長を検出でき、コントローラ50からの信号によって稼働する。
【0023】
送液手段は、フローセル内の流路10内に試料液を供給及び排出する手段であり、チューブ、ポンプ及びバルブ等で構成される。流路10は、チューブ32及びチューブ33を通して、シッパーノズル30及びポンプ35と接続されている。シッパーノズル30はアーム31により移動可能に取り付けられており、懸濁液容器40、洗浄液容器42、緩衝液容器43がその移動範囲に設置されている。流路10とポンプ35との間のチューブ33には、バルブ36が設けられている。ポンプ35及びバルブ36は、信号線52、53を通じてコントローラ50に接続され、バルブ37及びチューブ34を通じて廃棄容器45に接続されている。
【0024】
コントローラ50は、バルブ36及び37、ポンプ35、アーム31、電圧印加手段16及び17、光検出器23と、それぞれ独立な信号線51、52、53、54、55a、56a、57により接続されている。これにより、コントローラ50は、接続部位をそれぞれ独立に制御できる。
【0025】
分析対象となる試料は、血清や尿などの生体由来の物質である。試料が血清の場合、分析されるべき特定成分は、例えば、腫瘍マーカー、抗体、又は抗原・抗体複合物、単一タンパク質である。以降の説明では、特定成分は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)であるとする。
【0026】
懸濁液容器40は、前処理過程として、分析対象となる試料がビーズ溶液、試薬と混合されたのち、一定温度(例えば37度)で一定時間反応させたものが収容されている。ビーズ溶液とは、粒子状磁性物質をポリスチレンなどのマトリックス材に埋め込んだ磁性粒子13を緩衝液中に分散させた溶液であり、マトリックス材の表面には、ビオチンと結合可能なストレプトアビジンが結合されている。試薬は、磁性粒子13を試料中の特定成分TSHと結合させる物質が含まれており、これには末端をビオチン処理した抗TSH(Thyroid Stimulating Hormone、甲状腺刺激ホルモン)抗体が含まれる。試薬は、分析される特定成分の種類によって異なり、たとえば免疫グロブリン、抗原、抗体又はその他の生物学的物質が使用される。
【0027】
洗浄液容器42には、流路10及びチューブ32の内部を洗浄するための洗浄液が収容されている。
【0028】
流路10の形状は、流れに沿った方向の長さ(経路長)と、流れに垂直な断面の厚さ(鉛直方向)及び幅(水平方向)を定義した場合に、厚さ及び幅のいずれか大きい方に対して、経路長が2~20倍の長さに形成されることが望ましい。これは、経路を十分に確保することで、流体中の磁性粒子13が、流路10内で広がり、その後、流路10底面上に設けた反応場電極14上への捕捉をしやすくするためである。
【0029】
流路10内における磁性粒子13の捕捉分布は、流路10の近傍に設置された磁石(電磁石又は永久磁石)から受ける磁力と、流体の流れによる抗力によって決まる。流路10内の磁場は、好ましくは磁束密度の大きさが0.1~0.5T程度の強さである。そのときの流体の流速は、好ましくは0.05~0.10m/s程度である。
【0030】
磁性粒子13として使用される粒子は、以下に示すような粒子であることが好ましい。(1)常磁性、超常磁性、強磁性、又はフェリ磁性を示す粒子、(2)常磁性、超常磁性、強磁性、又はフェリ磁性を示す粒子を、合成高分子化合物(ポリスチレン、ナイロン等)、天然高分子(セルロース、アガロースなど)、無機化合物(シリカなど)等の材料に内包した粒子。また、粒径は0.01~200μmの範囲、さらには1~10μmの範囲が好ましい。比重は1.3~1.5が好ましい。この仕様により、磁性粒子13は、液体内で沈降し難く、懸濁しやすい。粒子の表面には、分析対象物質を特異的に結合する性質を持つ物質、例えば、抗原に特異的に結合する性質を持つ抗体を結合させる。
【0031】
標識物質は、以下に示すような物質であることが好ましい。具体的には、適切な手段により、標識物質を分析対象物質と特異的に結合させ、適切な手段により発光させるという観点で、以下の例が挙げられる。
(1)蛍光免疫測定法で使用される標識物質。例えば、フルオレセインイソチオシアネートで標識した抗体等。
(2)化学発光免疫測定法で使用される標識物質。例えば、アクリジニウムエステルで標識した抗体等。
(3)化学発光酵素免疫測定法で使用される標識物質。例えば、ルミノールやアダマンチル誘導体を発光基質とする化学発光酵素で標識した抗体等。
【0032】
以上が免疫分析装置の構成に関する説明である。次に、免疫分析装置の動作を説明する。動作は、1回の分析を1サイクルとし、サイクルを連続的に複数回行うことを基本的な装置稼働状態とする。
【0033】
分析の1サイクルは、懸濁液吸引期間、磁性粒子捕捉期間、検出期間、洗浄期間、リセット期間、予備吸引期間からなっている。反応ユニット41で処理した懸濁液の収容された懸濁液容器40が、所定の位置にセットされたところから1サイクルが開始される。
【0034】
懸濁液吸引期間では、バルブ36は開き、バルブ37は閉じた状態に設定される。コントローラ50の信号により、アーム31が動作し、シッパーノズル30を懸濁液容器40内に挿入する。続いてコントローラ50の信号により、ポンプ35が一定量の吸引動作をする。チューブ32内の流体に吸引されて、懸濁液容器40内の懸濁液がシッパーノズル30を経由してチューブ32内に入る。この状態でポンプ35を停止し、アーム31を動作させてシッパーノズル30を洗浄機構44に挿入する。洗浄機構44を通過時に、シッパーノズル30は洗浄される。
【0035】
磁性粒子捕捉期間では、コントローラ50の信号により電圧が印加されることで、コイル20等から成る電磁石が稼働する。コントローラ50からの信号でポンプ35は一定速度で吸引する。その間に、チューブ32内に存在した懸濁液は流路10内を通過する。流路10内には、電磁石による磁場が発生しているため、懸濁液に含まれる磁性粒子13は、磁気力により流路底面壁12に向かって吸引され、反応場電極14上に捕捉される。
【0036】
検出期間では、コントローラ50の信号により、電磁石への電圧印加が停止される。続いて、コントローラ50からの信号で、光検出器23の稼働、及び、反応場電極14及び対向電極15への電圧印加が行われる。これにより、磁性粒子13を反応場電極14上に保持したまま、磁性粒子13に結合した標識物質からの発光を光検出器23で受光することにより、測定を実施できる。検出された発光の強度は、信号としてコントローラ50により回収される。一定時間経過後、反応場電極14及び対向電極15への電圧印加、及び、光検出器23を停止する。検出期間中に、アーム31を稼働し、シッパーノズル30を洗浄機構44に挿入する。
【0037】
洗浄期間では、ポンプ35を用いて吸引することにより、洗浄液容器42から吸引した洗浄液を流路10内に通過させる。このときは、電磁石は非稼働状態であるため、磁性粒子13は反応場電極14上に保持されず、洗浄液とともに流し去られる。
【0038】
リセット期間では、バルブ36を閉じ、バルブ37を開き、ポンプ35を吐出動作する。ポンプ35内の液は、廃棄容器45に排出される。
【0039】
予備吸引期間では、緩衝液容器43から緩衝液を吸引し、チューブ32、流路10内に緩衝液を満たす。予備吸引期間後、次の1サイクルが実行可能になる。
【0040】
前述した本実施形態の試料分析装置に関し、以下、実施例1~実施例9を用いて、磁場印加手段の具体的な構造を説明する。
【実施例0041】
実施例1に係る試料分析装置の構造を
図2及び
図3を用いて詳細に説明する。本実施例では、磁場発生源として、電磁石が用いられる。試料分析装置は、製造上の個体差、使用環境の変化、発熱による稼働電流の低下等により、反応場電極14周囲の磁場にばらつきが生じる場合がある。しかし、本実施例のように電磁石を用いた試料分析装置では、電磁石への負荷電圧(電流)の調整、稼働時間の変更等によって、所望の磁場を電磁石の移動なしに得ることができる。
【0042】
図2は、実施例1の磁場印加手段及びフローセルの構成を示す図であり、流路10における流れの進行方向をx軸、流れに垂直な断面の水平方向をy軸、同鉛直方向をz軸とした座標系を置いた場合に、zx平面の断面を示している。磁性粒子13は、流れの向き61に沿って、フローセルの流路10内を流れる。なお、
図2では、対向電極15の図示は省略している。
【0043】
フローセルの反応場電極14の下方には、磁場印加手段が設けられている。ここで、磁場印加手段として、永久磁石を近接させたり離間させたりする機構を用いた場合、その保持や運動を担う部品点数が多くなることから、位置決めに関わる自由度が増大し、繰り返し使用すると位置ずれを招く可能性がある。一方、本実施例のように、磁場印加手段として電磁石を用いた場合、磁場発生源を移動させる必要がないので、比較的位置ずれは発生し難い。しかし、電磁石の場合でも、メンテナンス等によって部品を操作した際には、電磁石に位置ずれが生じる可能性はある。
【0044】
そこで、本実施例では、磁場印加手段を複数の部材で構成し、そのうち固定磁性材22を、フローセルと一体に形成した。このため、磁場印加手段を構成する他の部材である磁場発生源(コイル20及び芯21)が仮に位置ずれしたとしても、固定磁性材22は位置ずれせず、反応場電極14周囲での磁場の偏りが抑制される。
【0045】
また、固定磁性材22は流路底面壁12に設置されており、流路10と固定磁性材22の距離が、流路10の底面側で最小となっている。すなわち、固定磁性材22が、磁場発生源と反応場電極14との間に介在しているので、磁場発生源で発生した磁場を効果的に反応場電極14へ誘導できる。
【0046】
固定磁性材22をフローセルと一体化する方法としては、フローセルの作製後に固定磁性材22を接着剤等で流路壁に結合することで固定する方法や、フローセルの作製過程においてインサートモールドにより固定磁性材22を流路壁に埋め込むことで固定する方法がある。なお、固定磁性材22が磁場発生源に向けて露わになる形でフローセルに結合した場合、固定磁性材22を磁場発生源に近づけられるので、磁場発生源から空気中に漏れ出す磁束を低減でき、反応場電極14上の磁場の減少を抑制することが可能である。一方、固定磁性材22を流路底面壁12の内部に埋め込んだ場合、固定磁性材22が磁場発生源から遠くなるので、固定磁性材22に達する磁場自体は弱くなるものの、固定磁性材22が流路10に近くなるので、流路空間に対する磁場のずれは発生し難くなる。
【0047】
図3は、位置ずれが発生したときの磁場発生源とフローセルを示す図である。フローセルの下に配置したコイル20及び芯21から成る電磁石の位置が、流路上流(-x)方向に移動し、位置ずれを生じている。電磁石に対して、反応場電極14の流路上流(-x)側端部との距離が短縮される一方、反応場電極14の流路下流(+x)側端部との距離が増大している。これにより、固定磁性材22を用いない場合においては、電磁石を稼働させた際に電磁石から生じる磁場は、反応場電極14の流路上流側と流路下流側において偏りを生じさせる。
【0048】
反応場電極14上に磁性粒子13を捕捉する際は、反応場電極14上に均一、かつ、高割合で磁性粒子13を捕捉することが好ましい。しかし、反応場電極14周囲での磁場に偏りが生じると、磁性粒子13を捕捉する際の分布又は効率が悪化する。
【0049】
そこで、本実施例では、電磁石から生じる磁場を、固定磁性材22を介して反応場電極14へ誘導することで、反応場電極14周囲における磁場の偏りを抑制している。これにより、磁場発生源の磁石に位置ずれが発生した場合においても、磁性粒子13を反応場電極14上に捕捉する際の分布又は効率の悪化を抑制できる。
【0050】
本実施例による磁場の位置ずれ抑制の効果について、磁場解析により確認した結果を
図4、
図5及び
図6に基づき説明する。
【0051】
図4は、比較例として、固定磁性材を用いない場合の解析モデルを示しており、
図4(a)は、コイル20及び芯21から成る電磁石が位置ずれを伴わない場合、
図4(b)は、
図4(a)の状態から電磁石がx方向に寸法B1の位置ずれを生じた場合、である。反応場電極14上を想定した空間的位置に、磁場を強めたい位置81が示されており、隣接して、流路上流側隣接箇所82、流路下流側隣接箇所83が示されている。
図4(a)において、磁場を強めたい位置81のxy平面上の中心位置と、芯21のxy平面上の中心位置は同じとしている。解析モデルの形状及び寸法は、水平方向の芯の位置及び寸法A1、鉛直方向の芯の位置及び寸法A2、上側芯長さA3、コイル長さA4、下側芯長さA5、コイル径A6、芯径A7によって示されている。また、磁場を強めたい位置81、流路上流側隣接箇所82、流路下流側隣接箇所83の寸法に関して、磁場を強めたい位置のx軸寸法L1、流路上流側隣接箇所のx軸寸法L2、流路下流側隣接箇所のx軸寸法L3が示されている。
【0052】
図5は、実施例1として、固定磁性材を用いた場合の解析モデルを示しており、
図5(a)は、コイル20及び芯21から成る電磁石が位置ずれを伴わない場合、
図5(b)は、
図5(a)の状態から電磁石がx方向に寸法B1の位置ずれを生じた場合、である。反応場電極14上を想定した空間的位置に、磁場を強めたい位置81が示されており、隣接して、流路上流側隣接箇所82、流路下流側隣接箇所83が示されている。解析モデルの形状及び寸法は、水平方向の芯の位置及び寸法A1、鉛直方向の芯の位置及び寸法A2、上側芯長さA3、コイル長さA4、下側芯長さA5、コイル径A6、芯径A7、固定磁性材と芯の隙間A8、固定磁性材長さA9によって示されている。また、磁場を強めたい位置81、流路上流側隣接箇所82、流路下流側隣接箇所83の寸法に関して、磁場を強めたい位置のx軸寸法L1、流路上流側隣接箇所のx軸寸法L2、流路下流側隣接箇所のx軸寸法L3が示されている。固定磁性材22は、フローセルに固定されているため、固定磁性材22と磁場を強めたい位置81の相対位置は、
図5(a)(b)において不変であり、コイル20と芯21のみが移動していることが分かる。
【0053】
図4及び
図5においては、水平方向の芯の位置及び寸法A1を0.5mm、鉛直方向の芯の位置及び寸法A2を0.5mm、
図4での上側芯長さA3を5mm、
図5での上側芯長さA3を3mm、コイル長さA4を60mm、下側芯長さA5を5mm、コイル径A6を直径17mm、芯径A7を直径7mm、位置ずれ寸法B1を0~2mm、固定磁性材と芯の隙間A8を0.5mm、固定磁性材長さA9を2mm、とした。また、磁場を強めたい位置のx軸寸法L1を8mm、流路上流側隣接箇所のx軸寸法L2と流路下流側隣接箇所のx軸寸法L3を2mmとし、これらに対して、
図4及び
図5の紙面奥行き方向にそれぞれy軸寸法8mmを設定した。ゆえに、磁場を強めたい位置81は8mmの正方形、流路上流側隣接箇所82と、流路下流側隣接箇所83は、x軸寸法が2mm、y軸寸法が8mmの長方形である。
【0054】
磁場解析は、マクスウェル方程式及びアンペールの法則に基づく汎用磁場解析手法にて実施した。磁場解析は、
図4及び
図5で示した電磁石の解析モデルに基づき、電磁石の長軸(上側芯長さA3、コイル長さA4、下側芯長さA5の和)の5倍程度の空気領域を設けた系にて、空気領域に含まれる以下の3箇所、磁場を強めたい位置81(x軸、y軸寸法がそれぞれ8mmの正方形)、流路上流側隣接箇所82、流路下流側隣接箇所83(x軸寸法が2mm、y軸寸法が8mmの長方形)、について箇所内の平均磁束密度を求めた。解析条件として、コイル20は、銅製で巻き数5000とした。電流値は、比較のため、
図4(a)及び
図5(a)が同程度の磁束密度になるような値とし、
図4では0.5A、
図5では1.0Aとした。芯21及び固定磁性材22には、一般的なパーマロイの一種であるPBパーマロイを用いた。
【0055】
図6は、磁束密度の解析結果を示す図であり、
図4で述べた比較例の解析モデルと、
図5で述べた実施例1の解析モデルについて、対象3箇所における磁束密度の大きさを示している。位置ずれが無いB1=0mmの場合、固定磁性材の有無に関わらず、磁場を強めたい位置81において大きな磁束密度、流路上流側隣接箇所82と流路下流側隣接箇所83において小さな磁束密度が発生している。この場合、反応場電極14上に限定して強い磁場を発生でき、磁性粒子13の捕捉に適した磁場と読み取れる。位置ずれが有るB1=1mmやB1=2mmの場合、磁場を強めたい位置81での磁束密度は、固定磁性材の有無に関わらず大きい値であった。比較例、すなわち、固定磁性材が無い場合では、特に、流路上流側隣接箇所82において、磁束密度が増大した。反応場電極14上以外の場所でも強い磁場が発生すると、検出に寄与しない箇所への磁性粒子13の捕捉が起こりやすいことから、不適当な磁場と読み取れる。他方で、本実施例、すなわち、固定磁性材が有る場合では、位置ずれが発生しても、流路上流側隣接箇所82と流路下流側隣接箇所83では、磁場を強めたい位置81よりも小さい磁場を維持している。ゆえに、固定磁性材22を用いることで、反応場電極14上に限定した強い磁場を維持できており、反応場電極14周囲の磁場の位置ずれが発生し難い磁場構造を提供できる。
【0056】
前述の解析結果では、x方向のみを示したものの、本実施例は、磁石から生じる磁場を固定磁性材22により反応場電極14へ誘導することで、反応場電極14周囲での磁場の偏りを抑制するものであるから、y方向z方向についても、同様の効果が期待できる。すなわち、磁石の位置ずれが、xyz軸空間のいずれの方向への変位、又は、傾きや回転によるものであっても、固定磁性材22の位置、大きさ、形状、個数等を調整すれば、フローセル周囲空間の適正な箇所に磁場を誘導でき、磁場の偏りを抑制できる。その結果、検出流路内の所定位置における磁場の位置ずれが発生し難く、高精度の分析が可能な試料分析装置を提供することが可能となる。