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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169645
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
C23C14/34 U
C23C14/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080885
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】武井 応樹
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029CA05
4K029DA04
4K029DA10
4K029DC03
4K029DC04
4K029DC05
4K029DC13
4K029DC25
4K029DC34
4K029DC35
4K029DC39
4K029DC45
4K029DC46
4K029EA09
4K029HA01
4K029JA01
4K029JA06
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】ロータリターゲット内の機構を簡素化しつつ、被対象物に形成される膜の厚みの均一化を図ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る成膜装置は、チャンバと、スパッタカソードと、調整部とを具備する。前記スパッタカソードは、前記チャンバ内に配置され円筒状のターゲット面をそれぞれ有する複数のロータリターゲットと、前記複数のロータリターゲットの両端部にそれぞれ絶縁層を介して配置された複数の電極部と、を有する。前記複数のロータリターゲットは、各々の中心軸と直交する方向である一軸方向に沿って配置される。前記調整部は、前記複数の電極部の電位を調整する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され円筒状のターゲット面をそれぞれ有する複数のロータリターゲットと、前記複数のロータリターゲットの両端部にそれぞれ絶縁層を介して配置された複数の電極部と、を有し、前記複数のロータリターゲットが各々の中心軸と直交する方向である一軸方向に沿って配置されたスパッタカソードと、
前記複数の電極部の電位を調整する調整部と
を具備する成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記調整部は、前記複数の電極部の接地抵抗を調整する
成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜装置であって、
前記調整部は、前記複数の電極部とグランド電位との間に接続された可変抵抗器を含む
成膜装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記複数の電極部は環状であり、前記複数のロータリターゲットの両端部に同軸に配置される
成膜装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記複数の電極部の外径は、前記ターゲット面の直径以下である
成膜装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記チャンバの内壁と前記複数のロータリターゲットの両端部との間に配置され、前記一軸方向に沿って設けられる防着板をさらに具備し、
前記調整部は、前記防着板の電位をさらに調整可能に構成される
成膜装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記中心軸の軸方向は、重力方向と平行である
成膜装置。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1つに記載の成膜装置であって、
前記スパッタカソードは、前記複数のロータリターゲットの内部にそれぞれ配置され前記ターゲット面に磁場を形成する複数の磁石ユニットをさらに有する
成膜装置。
【請求項9】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置されたターゲット材と、前記ターゲット材の一軸方向の両端部にそれぞれ絶縁層を介して配置された複数の電極部と、前記ターゲット材の背面に配置された磁石ユニットと、を有するスパッタカソードと、
前記複数の電極部の電位を調整する調整部と
を具備する成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングによる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置には、円筒状のスパッタリングターゲット(以下、ロータリターゲット)と基板とを対向させ、基板に成膜を行うものがある。また、ロータリターゲットの表面付近のプラズマ密度を増加させるために、ロータリターゲットの内側に磁石ユニットを配置し、所謂マグネトロンスパッタリング法を採用する場合がある。
【0003】
しかしながら、マグネトロンスパッタリング法によるロータリターゲットを用いた成膜装置では、ロータリターゲットの場所によってターゲット表面におけるプラズマ密度が異なり、ターゲットから放出されるスパッタリング粒子の量がばらついて、基板に形成される膜の厚みが不均一になる場合がある。すなわち、ロータリターゲットの両端部ではその中央部と比較してプラズマ密度が低くなる傾向にある。
【0004】
そこで例えば特許文献1には、一軸方向に延在し、一軸方向を中心に回転可能な筒状のターゲットと、ターゲットの内部に設けられた複数の磁石ユニットを有し、複数の磁石ユニットが一軸方向に分割配置され、複数の磁石ユニットのそれぞれが一軸方向を中心に独立して回転することが可能な磁場発生機構と有し、上記磁場発生機構は、基板に形成される膜の厚みが均一になるように上記複数の磁石ユニットを制御する成膜装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-200520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ロータリターゲット内の複数の磁石ユニットを個々に制御するための機構が必要であるために装置構成が複雑化するといった問題があった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ロータリターゲット内の機構を簡素化しつつ、被対象物に形成される膜の厚みの均一化を図ることができる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る成膜装置は、チャンバと、スパッタカソードと、調整部とを具備する。
前記スパッタカソードは、前記チャンバ内に配置され円筒状のターゲット面をそれぞれ有する複数のロータリターゲットと、前記複数のロータリターゲットの両端部にそれぞれ絶縁層を介して配置された複数の電極部と、を有する。前記複数のロータリターゲットは、各々の中心軸と直交する方向である一軸方向に沿って配置される。
前記調整部は、前記複数の電極部の電位を調整する。
【0009】
このような成膜装置によれば、複数のロータリターゲットの両端部に接続された複数の電極部の電位を調整する調整部を備えるため、ロータリターゲット内の機構を簡素化しつつ、被対象物に形成される膜の厚みの均一化を図ることができる。
【0010】
上記調整部は、上記複数の電極部の接地抵抗を調整するように構成されてもよい。
【0011】
上記調整部は、上記複数の電極部とグランド電位との間に接続された可変抵抗器であってもよい。
【0012】
上記複数の電極部は環状であり、上記複数のロータリターゲットの両端部に同軸に配置されてもよい。
【0013】
上記複数の電極部の外径は、上記ターゲット面の直径以下であってもよい。
【0014】
成膜装置は、前記チャンバの内壁と前記複数のロータリターゲットの両端部との間に配置され、前記一軸方向に沿って設けられる防着板をさらに具備し、前記調整部は、前記防着板の電位をさらに調整可能に構成されてもよい。
【0015】
上記中心軸の軸方向は、重力方向と平行であってもよい。
【0016】
本発明の他の形態に係る成膜装置は、チャンバと、スパッタカソードと、調整部とを具備する。
前記スパッタカソードは、前記チャンバ内に配置されたターゲット材と、前記ターゲット材の一軸方向の両端部にそれぞれ絶縁層を介して配置された複数の電極部と、前記ターゲット材の背面に配置された磁石ユニットと、を有する。
前記調整部は、前記複数の電極部の電位を調整する。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によれば、ロータリターゲット内の機構を簡素化しコストを抑え、被対象物に形成される膜の厚みを均一にする成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の成膜装置を示す模式的断面図である。
図2】本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的断面図であり、(A)は、複数のロータリターゲットの断面図であり、(B)は、一のロータリターゲットの断面図である。
図3】ロータリターゲットを示す模式的断面図である。
図4】本実施形態の成膜装置の調整部を示す模式的断面図である。
図5】(A)は、電極部に接続された可変抵抗器の抵抗値の値が0kΩの時のプラズマ分布であり、(B)は、電極部に接続された可変抵抗器の抵抗値の値が2kΩの時のプラズマ分布であり、(C)は、電極部に接続された可変抵抗器の抵抗値による膜厚分布を示すグラフである。
図6】成膜装置の要部の変形例を示す模式的断面図である。
図7】成膜装置の他の変形例を示すスパッタカソードの模式的斜視図である。
図8図7の成膜装置の調整部を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る成膜装置1を示す概略側断面図である。図2は、成膜装置1のスパッタカソード200の構成を示す概略平面断面図である。図3は、スパッタカソード200の電気的な接続関係を示す成膜装置1の要部の概略側断面図である。なお各図においてX軸、Y軸およびZ軸は相互に直交する3軸であって、X軸およびY軸は水平方向、Z軸は高さ方向を示している。
【0021】
図1に示す成膜装置1は、チャンバ100と、スパッタカソード200と、制御装置500と、基板ホルダ105とを備える。
【0022】
チャンバ100は、排気ライン104を介して真空ポンプPと接続され、内部に真空雰囲気を維持可能な成膜室100Aを形成する。成膜室100Aには、スパッタカソード200、基板ホルダ105、防着板121,122,123、電極部400A、400B等が配置される。チャンバ100はさらに、ガス導入部103を有する。ガス導入部103は、ガス供給ライン102を介してスパッタガス用のガス源102Aに接続されている。ガス供給ライン102には、図示せずとも流量調整弁が配置される。スパッタガスは、典型的には、Arである。
【0023】
基板ホルダ105は、スパッタリングカソード200とY軸方向に対向して配置され、基板WをZ軸方向に平行な縦向きの姿勢に保持する。基板ホルダ105は、成膜室100Aに設置されたステージでもよいし、成膜室100A内を移動可能なキャリア等であってもよい。基板ホルダ105は、チャンバ100とともにグランド電位に接続される。
【0024】
基板Wは、スパッタリングカソード200と対向するように基板ホルダ105に支持される。支持方法は特に限定されず、メカニカルチャック、静電チャック等の各種方式が採用可能である。基板Wは、典型的には、矩形のガラス基板である。
なお、基板Wの周縁部には、マスク107が配置されてもよい。マスク107は、基板Wの周縁部の非成膜領域を被覆する。本実施形態においてマスク107は、絶縁層106を介して基板ホルダ105の周縁部に支持される。
【0025】
図1図2(A)に示すようにスパッタカソード200は、複数(図示の例では4つ)のロータリターゲット201と、各ロータリターゲット201の内部に配置された磁石ユニット301と、各ロータリターゲット201の両端部に配置された電極400A、400Bとを含む。スパッタカソード200は、成膜装置1の成膜源である。すなわち、複数のロータリターゲット201が成膜室100Aに形成されるプラズマによってスパッタリングされることで、基板ホルダ105上の基板Wにターゲット材料が成膜される。
【0026】
図2(A)に示すように、各ロータリターゲット201は、円筒状のターゲット面21を有し、そのZ軸方向に平行な中心軸20の周りに回転可能に構成されている。各ロータリターゲット201は、その中心軸20を重力方向(Z軸方向)に向けてX軸方向に等間隔に配置される。つまり成膜装置1は、いわゆる縦型成膜装置である。縦型にすることにより、成膜装置1の設置スペースを小さくすることができるので、基板Wの大型化にも対応可能である。各ロータリターゲット201は、基板ホルダ105に保持された基板Wの縦方向の長さ(長辺あるいは短辺)よりも長い軸長を有する。
【0027】
図2(B)に示すように、各ロータリターゲット201は、円筒状のバッキングチューブ22とその外周面に形成された円筒状のターゲット材23との積層構造を有する。バッキングチューブ22はスパッタ電源(直流電源あるいは交流電源)に接続されるとともに、その内部を流れる冷却水の循環経路を形成する。ターゲット材は、金属材料や酸化物材料等の各種成膜材料で形成される。成膜材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化ニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、ガリウム、銅、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金(NiCr)、銅ニッケル合金(CuNi)、シリコン等の少なくとも1つを含む。
【0028】
図2(B)に示すように各磁石ユニット301は、Z軸方向に延びる第1磁石312と、これら2つの第1磁石312の間に配置されZ軸方向に延びる第2磁石313と、第1磁石312と第2磁石313を支持する磁気ヨーク311とを有し、ターゲット面21に磁場が形成されるように、第1磁石312及び第2磁石313がロータリターゲット201の内面に対向して配置されている。ロータリターゲット201の内面に対向する第1磁石312および第2磁石313の極性は特に限定されず、例えば、第1磁石312がN極、第2磁石313がS極である。各磁石ユニット301は、ロータリターゲット201の軸方向(Z軸方向)に連続的に配置されてもよいし、分割して配置されてもよい。
【0029】
なお図示せずとも、成膜装置1は、複数のロータリターゲット201を中心軸20のまわりに回転させるターゲット回転機構を備える。成膜装置1は、磁石ユニット301を中心軸20のまわりに揺動させる磁石揺動機構を備えていてもよい。また、ロータリターゲット201の本数は図示する4本に限定されず、基板Wの大きさに応じて任意に設定可能である。
【0030】
成膜装置1は、防着板121,122,123をさらに備える。防着板121~123は、チャンバ100の内壁面にターゲット材料が堆積するのを防ぐための部材である。防着板121は、スパッタカソード200とチャンバ100の天井面101Aおよび底面101Bとの間に配置される。防着板122は、マスク107の近傍に配置される。防着板123は、スパッタカソード200の背面側に配置される。
【0031】
各ロータリターゲット201は、電極部400Aと、電極部400Bとを有する。電極部400Aは、各ロータリターゲット201の一端部(図1において上端部)210Aに配置され、電極部400Bは、各ロータリターゲット201の他端部(図1において下端部)210Bに配置される。電極部400A,400Bは、円環状の部材であり、各ロータリターゲット201の両端部210A,210Bにそれぞれ同心的に配置される。
【0032】
図3に示すようにロータリターゲット201の両端部210A、210Bには、内径側に凹んだ段部220が環状に形成される。つまり、両端部210A、210Bの直径は、ターゲット面21を含むロータリターゲット201の直径(ロータリターゲット201の中央部分のターゲット面21の直径)よりも小さい。電極部400A,400Bの外径は特に限定されないが、本実施形態ではロータリターゲット201の直径以下の大きさとされる。これにより、電極部400A,400Bの外周面がターゲット面21よりも基板W側に突出することがないため、電極部400A,400Bへの成膜材料の堆積を抑えつつ、堆積した膜の剥離も抑えることができる。
【0033】
電極部400A、400Bは、各ロータリターゲット201の両端部210A,210Bにそれぞれ絶縁層230を介して配置される。したがって、電極部400A,400Bは、中心軸20のまわりにロータリターゲット201と一体的に回転可能である。電極部400A、400Bは、例えば、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)等の導電性の金属材料からなるもので構成されている。
【0034】
制御装置500は、調整部140と、調整部140を制御する制御部150とを有する。調整部140は、電極部400Aと電極部400Bの電位をそれぞれ個別に調整するためのものである。図4は、調整部140を示す模式図である。ここでは、電極部400Bの電位を調整する調整部140について説明するが、電極部400Aの電位を調整する調整部140についても同様に構成される。
【0035】
図4に示すように、各ロータリターゲット201は、電源10と接続される。電源10は、スパッタ用の電源であり、本実施形態では、直流電源である。電源10の正極はグランド電位Gに接続され、電源10の負極は各ロータリターゲット201バッキングチューブ22に接続される。
【0036】
本実施形態において、調整部140は、電極部400A,400Bとグランド電位Gとの間に接続された第1の可変抵抗器141と、防着板121とグランド電位Gとの間に配置された第2の可変抵抗器142とを有する。第1の可変抵抗器141は、ロータリターゲット201ごとに独立しており、各ロータリターゲット201の電極部400A,400Bの接地抵抗を個別に調整する。第2の可変抵抗器142は、防着板121の接地抵抗を調整する。つまり、調整部140は、電極部400A,400Bおよび防着板121の接地抵抗の値を調整することで、スパッタ成膜中における電極部400A,400Bおよび防着板121の電子のチャージアップ量、つまり、これらの電位を調整する。
【0037】
なお、電極部400Aに接続される第1の可変抵抗器141の抵抗値と、電極部400Bに接続される第1の可変抵抗器141の抵抗値は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
制御部150は、成膜装置1の各部を制御する。具体的に、ロータリターゲット201の回転制御、真空ポンプPの動作制御、ガス導入部103によるガスの供給制御などのほか、可変抵抗器141,142が目的とする抵抗値となるように調整部140を制御する。
【0039】
続いて、以上のように構成される成膜装置1を用いた成膜方法について説明する。
【0040】
まず、真空ポンプPによってチャンバ100の成膜室100Aを所定の減圧雰囲気に真空排気する。続いて、ガス導入部103からスパッタガスを導入し、成膜室100Aを所定の成膜圧力に維持する。続いて、各ロータリターゲット201を各々の中心軸20のまわりに所定回転数で同一方向に回転させながら、電源10から各ロータリターゲット201へDC電圧を供給することで成膜室100A内にスパッタガスのプラズマを発生させる。プラズマ中のイオンはロータリターゲット201のターゲット面21をスパッタし、そのスパッタ粒子が基板ホルダ105に保持された基板W上に堆積することで、基板Wに成膜処理が施される。
【0041】
本実施形態の成膜装置1は、磁石ユニット301によりターゲット面21上に形成される固定磁場によってプラズマ中の電子を捕捉することで、ターゲット面21の近傍に高密度なプラズマ領域が作られる。これにより、プラズマ中のイオンをターゲット面21に効率よく衝突させることができるため、成膜レートの向上を図ることができる。
【0042】
このようなマグネトロンスパッタリング法による成膜装置1では、ロータリターゲット201の場所によってターゲット表面におけるプラズマ密度が異なり、ターゲットから放出されるスパッタリング粒子の量がばらついて、基板Wに形成される膜の厚みが不均一になる場合がある。すなわち、ロータリターゲット201の両端部ではその中央部と比較してプラズマ密度が低くなる傾向にある。
【0043】
例えば図1に示すように、各ロータリターゲット201の両端部には防着板121が配置されているため、これら防着板121がグランド電位に接続されていると、プラズマ中の電子がこれら防着板121に吸い寄せられてしまい、結果的に、ロータリターゲット201の両端部近傍のプラズマ密度が低下する。このため、基板Wの周縁部に形成される膜の厚みが基板Wの中央部に比べて小さくなり、膜厚分布の均一性が悪化しやすい。
【0044】
そこで本実施形態の成膜装置1は、各ロータリターゲット201の両端部の電位を調整することで、各ロータリターゲット201の両端部におけるプラズマ密度の低下を抑制し、これにより膜厚分布の均一性を高めるようにしている。
【0045】
本実施形態の成膜装置1は、各ロータリターゲット201の両端部に配置された電極部400A,400Bと、これら電極部400A,400Bの電位(接地抵抗)を調整する調整部140とを備える。調整部140により電極部400A,400Bの電位を適切に調整することで、ターゲット面21におけるプラズマの広がりを最適化し、ロータリカソード201の両端部におけるプラズマ密度を維持して、基板Wの面内における膜厚均一性の向上を図るようにしている。
【0046】
より具体的に、調整部140は、電極部400A,400Bの電位を調整する第1可変抵抗器141を有する。第1可変抵抗器141は、電極部400A,400Bの接地抵抗を、ロータリカソード201の両端部におけるプラズマ中の電子がグランド電位10へ逃げにくい抵抗値に設定される。一方、電極部400A,400Bの接地抵抗値が過度に高すぎると、電極部400A,400Bが電子でチャージアップしていまい、プラズマ中の電子との間に斥力が働くことで、ロータリカソード201の両端部までプラズマが広がりにくくなる。このため、電極部400A,400Bの接地抵抗は、電極部400A,400Bの過剰な帯電を阻止できる値であることが好ましい。電極部400A,400Bの接地抵抗は、電極部400A,400Bの構成材料やスパッタ電圧等に応じて任意に設定可能であり、例えば数mΩ~数MΩである。
【0047】
また本実施形態において、調整部140は、防着板121の電位(接地抵抗)を調整可能な第2の可変抵抗器142をさらに有する。防着板121は、各ロータリターゲット201の両端部をチャンバ100の内壁から共通に遮蔽するように形成されているため、防着板121の電位(接地抵抗)を調整することで、すべてのロータリターゲット201についてそれらの両端部におけるプラズマの広がりを共通に調整することができる。これにより、第1の可変抵抗器141による各ロータリターゲット201の両端部での個別的なプラズマの広がりの調整が容易となるため、各ロータリターゲット201についてプラズマ分布の最適化を図ることができる。
【0048】
例えば、図5(A)は第1の可変抵抗器141の抵抗値が0kΩの時のプラズマPの分布であり、図5(B)は第1の可変抵抗器141の抵抗値が2kΩの時のプラズマPの分布であり、図5(C)は、第1の可変抵抗器141の抵抗値が0kΩの時と2kΩの時とを比較して示す基板Wの面内における膜厚分布の実験結果である。
この実験では、各ロータリターゲット201の軸長は2695mm、本数は2本、磁石ユニット301の揺動角度は30度、スパッタ電力を30kW、スパッタガス圧を0.3Pa、成膜時間を120秒とした。
【0049】
第1の可変抵抗器141の抵抗値が0kΩの場合、電極部400A,400Bの電位は実質的にグランド電位に相当するため、図5(A)に示すようにロータリカソード201の両端部におけるプラズマ密度が低下する。このため、ロータリカソード201の両端部におけるスパッタ効率が低下するため、基板Wの周縁部(上縁部、下縁部)が中央部に比べて膜厚が著しく小さくなる(図5(C)参照)。
一方、第1の可変抵抗器141の抵抗値を最適化することで、図5(B)に示すようにロータリカソード201の両端部におけるプラズマ密度の低下が抑えられる。これによりロータリカソード201の両端部におけるスパッタ効率の低下を抑えられるため、基板Wの周縁部(上縁部、下縁部)における膜厚の低下も抑えられる結果、膜厚の面内均一性を向上させることができる。
【0050】
以上のように本実施形態によれば、ロータリカソード201の両端部におけるプラズマ密度を維持して、基板Wの面内における膜厚均一性の向上を図ることができる。これにより、例えば磁石ユニット301の位置を調整することなく、各ロータリカソード201の軸長方向に沿ったプラズマ分布を容易に調整することができるので、スパッタカソード200の構成を複雑化することなく、所望とする膜厚分布を維持することができる。
【0051】
また、ロータリカソード201の各端部(電極部400A側と電極部400B側)でプラズマ密度が異なることがある。例えば、ロータリカソード201の下端部(底面101B側)のプラズマ密度がその上端部(天井面101A側)よりも高くなる場合、調整部140によって電極部400Bの接地抵抗を電極部400Aの接地抵抗よりも下げるように調整することで、膜厚均一性を維持することができる。
【0052】
なお、電極部400A,400Bの接地抵抗の調整は、成膜中にオンラインで行ってもよいし、ロットごとに基板Wの膜厚布を解析し、その結果を次ロットにおける調整時にフィードバックするようにしてもよい。
【0053】
(変形例)
図6は、成膜装置1の要部の変形例を示す模式的断面図である。
以上の実施形態では、調整部140は可変抵抗器141,142で構成されたが、例えば、図6に示すように可変電源143,144で構成されてもよい。このような構成によっても、電極部400A,400Bの電位を任意の値に調整して、プラズマ分布の最適化を図ることができる。
【0054】
また以上の実施形態では、複数のロータリターゲット201を有するスパッタカソード200を備えた成膜装置1を例に挙げて説明したが、これに限られず、例えば図7および図8に示すように、プレーナ型のターゲット材251を備えたスパッタカソード250が用いられてもよい。
【0055】
図7に示すようにスパッタカソード250は、矩形のターゲット材251と、ターゲット材251の背面に配置された磁石ユニット350と、ターゲット材251の一軸方向(長辺方向)の両端部にそれぞれ絶縁層240を介して配置された複数の電極部450A,450Bとを備える。
磁石ユニット350は、ターゲット材251のターゲット面25に磁場を形成するための磁気回路であり、ターゲット材251の長辺方向に往復移動可能に構成される。
電極部450A,450Bは、ターゲット材251の各短辺に沿って配置され、図8に示すように調整部140の第1の可変抵抗器141にそれぞれ接続される。電極部450A,450Bの表面は、ターゲット材251のターゲット面25と同一面またはこれよりターゲット材251の背面側に位置するように、ターゲット材251の長辺方向の両端部には電極部450A,450Bを収容するための段部252が設けられる。電極部450A,450Bの形状は図示する直方体形状に限られず、板状、円柱形状などであってもよい。
絶縁層240は、ターゲット材250の段部252と電極部450A,450Bとの間に充填されることで、ターゲット材250と電極部450A,450Bとの間を電気的に絶縁する。
【0056】
以上のように構成されるスパッタカソード250によれば、調整部140における第1の可変抵抗器251(図8参照)によって電極部450A,450Bの電位を適切に調整することで、ターゲット面25におけるプラズマの広がりを最適化し、ターゲット材250の両端部におけるプラズマ密度を維持して、基板Wの面内における膜厚均一性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…成膜装置
10…電源
21,25…ターゲット面
23,251…ターゲット材
100…チャンバ
100A…成膜室
105…基板ホルダ
140…調整部
141…第1の可変抵抗器
142…第2の可変抵抗器
121,122,123…防着板
150…制御部
200,250…スパッタカソード
230,240…絶縁層
201…ロータリターゲット
301,350…磁石ユニット
400A、400B,450A,450B…電極部
500…制御装置
W…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8