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特開2023-169648透光性導電膜の製造方法および光電変換素子の製造方法
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  • 特開-透光性導電膜の製造方法および光電変換素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169648
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】透光性導電膜の製造方法および光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20231122BHJP
【FI】
H01L31/08 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080894
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】堺 俊克
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘人
(72)【発明者】
【氏名】相原 聡
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AA03
5F849AB11
5F849BA05
5F849BA23
5F849BA28
5F849BB03
5F849FA02
5F849FA04
5F849FA05
5F849FA13
5F849FA15
5F849GA02
5F849XA02
5F849XA23
(57)【要約】
【課題】光電変換膜上に、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を形成する場合に好適に用いられ、光電変換膜を形成してから透光性導電膜を形成する方法を用いて製造しても、光電変換膜がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子が得られる透光性導電膜の製造方法を提供する。
【解決手段】光電変換素子10の光電変換膜3上に、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜41を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成する第1成膜工程と、第1誘電体膜41上に導電膜を形成する第2成膜工程と、導電膜上に第2誘電体膜44を形成する第3成膜工程とを有する透光性導電膜の製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子の光電変換膜上に、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成する第1成膜工程と、
前記第1誘電体膜上に導電膜を形成する第2成膜工程と、
前記導電膜上に第2誘電体膜を形成する第3成膜工程とを有することを特徴とする、透光性導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1成膜工程において、一酸化ケイ素からなる第1誘電体膜を8Å/s以上の成膜速度で形成する、請求項1に記載の透光性導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1誘電体膜の成膜時間が10秒以下である、請求項1または請求項2に記載の透光性導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記第1誘電体膜を真空蒸着法により形成する、請求項1または請求項2に記載の透光性導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記光電変換膜が、有機膜である、請求項1または請求項2に記載の透光性導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記導電膜が、銀含有導電膜である、請求項1または請求項2に記載の透光性導電膜の製造方法。
【請求項7】
第1電極を形成する第1電極形成工程と、
前記第1電極上に光電変換膜を形成する光電変換膜形成工程と、
請求項1または請求項2に記載の透光性導電膜の製造方法を用いて、前記光電変換膜上に前記透光性導電膜からなる第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する、光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子の電極として適用される透光性導電膜の製造方法、および透光性導電膜からなる電極を備える光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体撮像装置として、3板式のカラー撮像装置、単板式のカラー撮像装置がある。単板式のカラー撮像装置として、対向する2つの電極間に配置された光電変換膜を含む光電変換素子を備えるものがある。光電変換素子としては、例えば、特許文献1~特許文献3に記載のものが提案されている。
【0003】
また、光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子などの電極として、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を用いることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-217474号公報
【特許文献2】特開2005-051115号公報
【特許文献3】特開2012-160619号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】内田孝幸、谷忠昭「誘電体/Ag/誘電体 多層透明導電膜の検討と有機EL素子への応用」日本写真学会誌、80巻、4号、P303-310(2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光電変換素子の電極として、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を適用した光電変換素子では、光電変換膜を形成してから、光電変換膜上に透光性導電膜を形成する方法を用いて製造しても、透光性導電膜の有する誘電体膜によって、金属膜を形成することに起因する光電変換膜への損傷(ダメージ)を防止できる。
しかしながら、電極として、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を適用した光電変換素子では、暗電流を十分に抑制できない場合があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、光電変換膜上に、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を形成する場合に好適に用いられ、光電変換膜を形成してから透光性導電膜を形成する方法を用いて製造しても、光電変換膜がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子が得られる透光性導電膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、本発明の透光性導電膜の製造方法を含み、光電変換膜を形成してから光電変換膜上に、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を形成する方法を用いて製造しても、光電変換膜がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子を形成できる光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
【0010】
[1] 光電変換素子の光電変換膜上に、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成する第1成膜工程と、
前記第1誘電体膜上に導電膜を形成する第2成膜工程と、
前記導電膜上に第2誘電体膜を形成する第3成膜工程とを有することを特徴とする、透光性導電膜の製造方法。
【0011】
[2] 前記第1成膜工程において、一酸化ケイ素からなる第1誘電体膜を8Å/s以上の成膜速度で形成する、[1]に記載の透光性導電膜の製造方法。
[3] 前記第1誘電体膜の成膜時間が10秒以下である、[1]または[2]に記載の透光性導電膜の製造方法。
【0012】
[4] 前記第1誘電体膜を真空蒸着法により形成する、[1]~[3]のいずれかに記載の透光性導電膜の製造方法。
[5] 前記光電変換膜が、有機膜である、[1]~[4]のいずれかに記載の透光性導電膜の製造方法。
[6] 前記導電膜が、銀含有導電膜である、[1]~[5]のいずれかに記載の透光性導電膜の製造方法。
【0013】
[7] 第1電極を形成する第1電極形成工程と、
前記第1電極上に光電変換膜を形成する光電変換膜形成工程と、
[1]~[6]のいずれかに記載の透光性導電膜の製造方法を用いて、前記光電変換膜上に前記透光性導電膜からなる第2電極を形成する第2電極形成工程とを有する、光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透光性導電膜の製造方法は、光電変換素子の光電変換膜上に、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成する第1成膜工程と、第1誘電体膜上に導電膜を形成する第2成膜工程と、導電膜上に第2誘電体膜を形成する第3成膜工程とを有する。このため、本発明の透光性導電膜の製造方法では、光電変換素子の光電変換膜上に、第1誘電体膜を短時間で形成できる。このことから、光電変換膜上に、本発明の透光性導電膜の製造方法を用いて透光性導電膜を形成した場合、第1誘電体膜を形成することによって、光電変換膜が損傷(ダメージ)を受けることが防止される。しかも、本発明の透光性導電膜の製造方法では、第2成膜工程において、十分な厚みを有する第1誘電体膜上に、導電膜を形成する。このため、導電膜を形成することによって、光電変換膜がダメージを受けることも防止される。
【0015】
これらのことから、光電変換素子の第1電極上に形成された光電変換膜上に、本発明の透光性導電膜の製造方法を用いて、第1誘電体膜と導電膜と第2誘電体膜とがこの順に積層された透光性導電膜を製造しても、光電変換膜がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子が得られる。
【0016】
本発明の透光性導電素子の製造方法では、第1電極上に光電変換膜を形成してから、本発明の透光性導電膜の製造方法を用いて、光電変換膜上に透光性導電膜からなる第2電極を形成する。このため、光電変換膜上に、第1誘電体膜と導電膜と第2誘電体膜とがこの順に積層された透光性導電膜を形成する方法を用いて第2電極を製造しても、光電変換膜がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の光電変換素子の製造方法を用いて製造した光電変換素子の一例を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決し、誘電体膜間に金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を、光電変換膜上に配置した光電変換素子において、暗電流を抑制するために鋭意検討を重ねた。
その結果、光電変換素子の光電変換膜上に、第1誘電体膜と導電膜と第2誘電体膜とがこの順に積層された透光性導電膜を形成した場合、第1誘電体膜を形成することに起因する光電変換膜の損傷(ダメージ)によって、光電変換素子の暗電流が増大するとの知見を得た。
【0019】
そこで、本発明者らは、上記透光性導電膜の第1誘電体膜を、光電変換素子の光電変換膜上に形成することに起因する光電変換膜のダメージを抑制すべく、第1誘電体膜の成膜条件に着目し、検討を重ねた。
その結果、光電変換素子の光電変換膜上に、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成すればよいことを見出した。すなわち、第1誘電体膜を上記の成膜条件で形成した場合、十分な厚みの第1誘電体膜を短時間で形成できる。その結果、光電変換膜上に第1誘電体膜を形成したことによる効果が十分に発揮でき、かつ第1誘電体膜を形成することによる光電変換膜へのダメージを抑制できるものと推定される。
【0020】
なお、光電変換素子の光電変換膜上に誘電体膜などの薄膜を形成する場合には、成膜速度を遅くするほど、光電変換膜上に薄膜を形成することによる光電変換膜へのダメージを少なくできる。また、光電変換素子の光電変換膜上に形成される薄膜の厚みは非常に薄いものであり、成膜速度を遅くするほど、薄膜の厚みを容易に高精度で制御できる。このため、従来、光電変換素子の光電変換膜上に誘電体膜などの薄膜を形成する場合には、できるだけ成膜速度を遅くすることが好ましいとされており、光電変換膜上に薄膜を形成することによる光電変換膜へのダメージを少なくするために、成膜速度を早くすることは想定されていなかった。
【0021】
さらに、本発明者らは、基板上に第1電極と光電変換膜とを形成し、光電変換膜上に、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成してから、導電膜と第2誘電体膜とをこの順に形成する方法を用いて第2電極を形成することで、暗電流の抑制された光電変換素子が得られることを確認し、本発明を想到した。
【0022】
以下、本発明の透光性導電膜の製造方法および光電変換素子の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
「光電変換素子」
図1は、本発明の光電変換素子の製造方法を用いて製造した光電変換素子の一例を説明するための断面模式図である。図1に示す光電変換素子10は、基板1と、対向する2つの電極(図1における第1電極2および第2電極4)の間に配置された光電変換膜3とを含む。本実施形態の光電変換素子10は、基板1上に、第1電極2と光電変換膜3と第2電極4とが、この順に設けられたものである。
【0023】
図1に示す光電変換素子10は、固体撮像装置の光電変換素子として好適に用いられるものであり、例えば、3板式のカラー撮像装置に備えられてもよいし、単板式のカラー撮像装置に備えられてもよい。
【0024】
(基板1)
基板1としては、例えば、基板1側から光が照射される光電変換素子10である場合、ガラス基板、単結晶サファイア基板などの透明基板を用いる。透明基板としては、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレンなどからなるものを用いてもよい。
基板1としては、例えば、基板1側から光が照射される光電変換素子10でない場合、シリコン基板などの透光性を有しないものを用いてもよい。
基板1としては、例えば、ガラス基板などの基板上に、第1電極2が形成された市販品を用いてもよい。
【0025】
(第1電極2)
第1電極2としては、例えば、基板1側から光が照射される光電変換素子10である場合、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛スズ)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、インジウム酸化物、酸化スズなどの導電性および透光性を有する材料からなるものを用いる。第1電極2として、アルミニウム、バナジウム、金、銀、白金、鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、パラジウム、マグネシウム、カルシウム、スズ、鉛、チタン、イットリウム、リチウム、ルテニウム、マンガンなどの金属またはそれらの合金からなる導電性および透光性を有する薄膜を用いてもよい。
第1電極2としては、例えば、基板1側から光が照射される光電変換素子10でない場合、透光性を有しないものを用いてもよい。
第1電極2の平面形状は、特に限定されるものではなく、光電変換素子10の駆動方式などに応じて適宜決定できる。
【0026】
(光電変換膜3)
光電変換膜3は、第1電極2および第2電極4によって電圧が印加されるものである。光電変換膜3は、光が照射されると、光の照射量に対応する光電荷を発生させる。光電変換膜3において発生した光電荷は、公知の方法により外部に出力される。
【0027】
光電変換膜3は、所定の波長の光に対して感度を有する有機膜であることが好ましい。光電変換膜3が有機膜である場合、光の利用率が高い光電変換素子10が得られやすいため、好ましい。しかし、有機膜は、その上に後述する第2電極4の第1誘電体膜41および銀含有導電膜43を形成することによって、損傷(ダメージ)を受けやすい。
これに対し、本実施形態の光電変換素子10は、後述する透光性導電膜の製造方法を用いて第2電極4が形成されたものである。このため、第2電極4の第1誘電体膜41を形成することに起因する光電変換膜3の損傷(ダメージ)が抑制されている。また、本実施形態の光電変換素子10は、光電変換膜3上に、第2電極4の銀含有導電膜43を形成する前に、十分な厚みを有する第1誘電体膜41が形成されたものである。このため、有機膜からなる光電変換膜3を形成してから、光電変換膜3上に第2電極4を形成したものであっても、第2電極4の銀含有導電膜43を形成することによる光電変換膜3のダメージが抑制されている。
【0028】
有機膜は、例えば、可視部に吸収のある有機色素を含むものであってもよいし、高分子と可視部に吸収のある有機色素とを含むものであってもよい。有機膜は、紫外部に吸収のある高分子を含むものであってもよい。有機膜は、1層のみであってもよいし、複数の有機膜層が積層されたものであってもよい。
【0029】
有機膜が、有機色素を含むものである場合、有機色素としては、可視部に吸収のある公知の有機色素を用いることができる。有機色素は、1種のみ単独で使用してもよいし、2種類以上混合して使用してもよく、光電変換素子10の用途などに応じて適宜決定できる。
【0030】
有機膜が、有機色素を含む複数の有機膜層が積層されたものである場合、各有機膜層に含まれる有機色素の種類および数、有機膜層の積層数は、光電変換素子10の用途などに応じて適宜選択できる。各有機膜層に含まれる有機色素の種類および数、有機膜層の積層数を適宜選択することにより、例えば、青色光、緑色光、赤色光のいずれか1色にのみ感度を持つ有機膜を形成してもよいし、可視光領域全域に感度を持つ有機膜を形成してもよい。
【0031】
有機色素としては、例えば、青色吸収色素であるクマリン誘導体、ポルフィリン誘導体、緑色吸収色素であるキナクリドン誘導体、ペリレン誘導体、赤色吸収色素であるフタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体などが挙げられる。その他の有機色素としては、アクリジン、シアニン、スクエアリリウム、オキサジン、キサンテントリフェニルアミン、ベンジジン、ピラゾリン、スチリルアミン、ヒドラゾン、トリフェニルメタン、カルバゾール、チオフェン、フェナンスロリン、フラーレン、アルミニウムキノリン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0032】
有機膜が、有機色素を含むものである場合、有機膜は、有機色素の他に、必要に応じてその他の有機成分を含有していてもよい。例えば、有機色素として、電子供与(ドナー)性を示す材料を用いる場合には、その他の有機成分として、有機色素に対して電子吸引(アクセプター)性を示す有機材料を含むことが好ましい。このことにより、有機膜に光が吸収された際に、有機色素で発生した電子-正孔対の電子が、エネルギーの低いアクセプター性を示す有機材料に移動し、効率よく電荷が分離される。その結果、量子効率の高い光電変換素子10が得られる。
【0033】
例えば、有機色素として、電子供与(ドナー)性を示す緑色吸収色素であるキナクリドンを用いる場合には、その他の有機成分として、キナクリドンに対して電子吸引(アクセプター)性を示す材料であるBoron sub-2,3-naphthalocyanine chloride(SubNc)、3',4'-Dibutyl-5,5"-bis(dicyanovinyl)-2,2':5',2"-terthiophene(DCV-3T)などを含むことが好ましい。
【0034】
また、有機膜が、高分子と可視部に吸収のある有機色素とを含むものである場合、有機色素としては、高分子中に分散させることができ、可視部に吸収のある公知のものを用いることができる。このような有機色素としては、例えば、アクリジン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、スクエアリリウム系色素、オキサジン系色素、キサンテン系色素などが挙げられる。
【0035】
有機膜が、高分子と可視部に吸収のある有機色素とを含むものである場合、高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカーボネートなどの非導電性高分子、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリフルオレン類、ポリビニルカルバゾール類、ポリチオール類、ポリチオフェン類などのπ電子系導電高分子、ポリシラン類、ポリゲルマン類やこれらのネットワーク型高分子などのσ電子系高分子などを用いることができる。
【0036】
本実施形態の製造方法を用いて製造される光電変換素子10は、第1電極2と光電変換膜3との間、および/または第2電極4と光電変換膜3との間に、必要に応じて、公知の有機層が備えられているものであってもよい。
【0037】
具体的には、例えば、第1電極2と光電変換膜3との間には、有機層からなる電子ブロッキング層が設けられていてもよい。電子ブロッキング層の材料としては、例えば、トリフェニルアミン誘導体、スチリルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体などが挙げられる。フルオレン誘導体としては、例えば、2,7-bis(carbazol-9-yl)-9,9-spirobifluorene(spiro-2CBP)などが挙げられる。
【0038】
また、第2電極4と光電変換膜3との間には、有機層からなる正孔ブロッキング層が設けられていてもよい。正孔ブロッキング層の材料としては、例えば、フェナンスロリン誘導体、アルミニウムキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、シロール誘導体、フェニルピジリン誘導体、メチルピリミジン誘導体などが挙げられる。メチルピリミジン誘導体としては、例えば、4,6-Bis(3,5-di(pyridin-4-yl)phenyl)-2-methylpyrimidine(B4PYMPM)などが挙げられる。
【0039】
(第2電極4(透光性導電膜))
第2電極4は、図1に示すように、第1誘電体膜41と第2誘電体膜44との間に銀含有導電膜43を有する多層膜からなる。第2電極4は、図1に示すように、多層膜の第1誘電体膜41側の面を光電変換膜3側に向けて配置されたものである。
第2電極4の平面形状は、特に限定されるものではなく、光電変換素子10の駆動方式などに応じて適宜決定できる。
【0040】
第1誘電体膜41および第2誘電体膜44としては、公知の誘電体膜を用いることができる。第1誘電体膜41および/または第2誘電体膜44は、銀含有導電膜43による光の反射を防止する機能を有することが好ましい。第1誘電体膜41および第2誘電体膜44は、上記の光反射防止機能が、より効果的に発揮されるものとなるため、屈折率の大きいものであることが好ましい。また、第1誘電体膜41は、光電変換膜3を形成してから銀含有導電膜43を形成することに起因する、光電変換膜3の損傷(ダメージ)を抑制する機能を有する。
【0041】
第1誘電体膜41および第2誘電体膜44の材料としては、具体的には、酸化チタン(TiO:屈折率約2.5)、五酸化ニオブ(Nb:屈折率約2.3)、五酸化タンタル(Ta2O:屈折率約2.1)、一酸化ケイ素(SiO:屈折率約1.8)、三酸化モリブデン(MoO:屈折率約2.0)、二酸化ゲルマニウム(GeO:屈折率約1.7)、酸化アルミニウム(Al:屈折率約1.6)、二酸化ケイ素(SiO:屈折率約1.5)などを用いることができる。第1誘電体膜41の材料と第2誘電体膜44の材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
第1誘電体膜41の材料としては、上記の中でも、一酸化ケイ素を用いることが好ましい。屈折率が十分に大きい第1誘電体膜41となり、銀含有導電膜43による光の反射を効果的に防止できるためである。しかも、一酸化ケイ素からなる第1誘電体膜41は、銀含有導電膜43を形成することによる光電変換膜3の損傷(ダメージ)を効果的に抑制できるためである。
【0043】
第1誘電体膜41の膜厚は、5nm~100nmの範囲であり、10nm~70nmの範囲であることが好ましい。第1誘電体膜41の膜厚が5nm以上であるので、光電変換膜3を形成してから銀含有導電膜43を形成したことに起因する、光電変換膜3の損傷(ダメージ)が十分に抑制されている。したがって、光電変換素子10は、高性能の光電変換膜3を有する。また、第1誘電体膜41の膜厚が5nm以上であるので、銀含有導電膜43による光の反射を防止する機能が十分に効果を発揮される。また、第1誘電体膜41の膜厚が100nm以下であるので、第2電極4は良好な導電性を有する。
【0044】
第2誘電体膜44の膜厚は、5nm~100nmの範囲であることが好ましく、10nm~70nmの範囲であることがより好ましい。第2誘電体膜44の膜厚が5nm以上であると、銀含有導電膜43による光の反射を防止する機能が、より効果的に発揮される。また、第2誘電体膜44の膜厚が100nm以下であると、良好な導電性を有する第2電極4となる。
第1誘電体膜41の膜厚と第2誘電体膜44の膜厚は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
銀含有導電膜43は、銀(Ag)を含有するものであり、導電性および透光性を有する。具体的には、銀含有導電膜43として、銀または銀合金からなる薄膜などを用いることができ、透明性および導電性が良好な銀含有導電膜43となるため、銀膜を用いることが好ましい。銀は、透明性および導電性が良好であるため、第2電極4(透光性導電膜)に含まれる金属膜の材料として望ましい。
【0046】
銀含有導電膜43の膜厚は、5nm~50nmの範囲であることが好ましく、5nm~20nmの範囲であることがより好ましい。銀含有導電膜43の膜厚が5nm以上であると、導電性の良好な銀含有導電膜43となり、好ましい。銀含有導電膜43の膜厚が50nm以下であると、透光性の良好な銀含有導電膜43となり、光利用効率の高い光電変換素子10となるため、好ましい。
【0047】
(製造方法)
次に、本実施形態の光電変換素子10の製造方法の一例として、図1に示す光電変換素子10の製造方法を説明する。
本実施形態の光電変換素子10の製造方法は、第1電極2を形成する第1電極形成工程と、第1電極2上に光電変換膜3を形成する光電変換膜形成工程と、本実施形態の透光性導電膜の製造方法を用いて、光電変換膜3上に透光性導電膜からなる第2電極4を形成する第2電極形成工程とを有する。
【0048】
(第1電極形成工程)
第1電極形成工程では、基板1上に、第1電極2を形成する。本実施形態では、公知の方法を用いることにより、所定の形状を有する第1電極2を形成できる。第1電極2は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法など公知の方法により製造できる。
ここで、光電変換素子10として、第1電極2と光電変換膜3との間に、電子ブロッキング層を有するものを製造する場合には、第1電極2上に、真空蒸着法、スパッタリング法など公知の方法を用いて電子ブロッキング層を形成する。
【0049】
(光電変換膜形成工程)
光電変換膜形成工程では、第1電極2上(電子ブロッキング層を有する場合には、電子ブロッキング層上)に光電変換膜3を形成する。光電変換膜3は、公知の方法により製造できる。
例えば、光電変換膜3が、有機色素を含む有機膜である場合、以下に示す方法を用いて製造できる。
すなわち、有機色素の粉末と、必要に応じて含有されるその他の有機成分の粉末とを用いて、共真空蒸着法、多元有機分子線蒸着法、スパッタ法などの方法により形成できる。有機色素を含む有機膜は、有機色素の粉末と、必要に応じて含有されるその他の有機成分の粉末とを用いて、共真空蒸着法により形成することが好ましい。
【0050】
また、例えば、光電変換膜3が、高分子と可視部に吸収のある有機色素とを含む有機膜である場合、以下に示す方法を用いて製造できる。
まず、高分子と可視部に吸収のある有機色素とを、有機溶媒に分散または溶解させて色素溶液とする。有機溶媒としては、高分子および有機色素が可溶な有機溶媒であれば何れも使用可能であり、高分子および有機色素の種類に応じて適宜決定できる。具体的には、有機溶媒として、テトラヒドロフラン、トルエン、酢酸ブチル、モノクロロベンゼン、酢酸2-エトキシエチル、酢酸エチルカルビトール、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、ジオキサンなどが挙げられる。
【0051】
次に、第1電極2上に色素溶液を塗布し、乾燥させて有機溶媒を除去する。このことにより、光電変換膜3が得られる。第1電極2上に色素溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、キャスト法、ディップ法など公知の方法を用いることができる。
【0052】
ここで、本実施形態の製造方法を用いて製造される光電変換素子10が、第2電極4と光電変換膜3との間に、正孔ブロッキング層を有するものを製造する場合には、光電変換膜3上に、真空蒸着法、スパッタリング法など公知の方法を用いて正孔ブロッキング層を形成する。
【0053】
(第2電極(透光性導電膜)形成工程)
本実施形態では、第2電極形成工程において、本実施形態の透光性導電膜の製造方法を用いて第2電極4を形成する。本実施形態では、例えば、第2電極4を形成する前に、光電変換膜3上(正孔ブロッキング層を有する場合には、正孔ブロッキング層上)に、ステンレスなどからなるメタルマスクを設置する方法など、公知の方法を用いて所定の形状を有する第2電極4を形成できる。
【0054】
本実施形態の透光性導電膜の製造方法は、光電変換膜3上(正孔ブロッキング層を有する場合には、正孔ブロッキング層上)に、第1誘電体膜41を形成する第1成膜工程と、第1誘電体膜41上に銀含有導電膜43を形成する第2成膜工程と、銀含有導電膜43上に第2誘電体膜44を形成する第3成膜工程とを有する。
【0055】
第1成膜工程において、光電変換素子10の光電変換膜3上に第1誘電体膜41を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法)などの公知の方法を用いることができる。第1誘電体膜41を形成する方法は、容易に第1誘電体膜41を成膜可能であるとともに、第1誘電体膜41を成膜することによる光電変換膜3へのダメージを抑制できるため、真空蒸着法を用いることが好ましい。
【0056】
本実施形態では、第1成膜工程において、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜41を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成する。このため、十分な厚みを有する第1誘電体膜41が得られ、第1誘電体膜41を設けることによる機能が十分に得られる。しかも、第1誘電体膜41の成膜時間が十分に短時間となる。このため、本実施形態の製造方法を用いて第2電極4を形成することにより、第1誘電体膜41を形成することに起因する光電変換膜3の損傷(ダメージ)を抑制できる。
【0057】
特に、真空蒸着法を用いて第1誘電体膜41を形成する場合、蒸着温度が1000℃を超える高温となることがあり、蒸着源からの輻射熱によって光電変換膜3がダメージを受けやすい。したがって、真空蒸着法を用いて第1誘電体膜41を形成する場合には、本実施形態の製造方法を用いて、第1誘電体膜41を形成することに起因する光電変換膜3のダメージを抑制する効果が顕著となる。
【0058】
第1成膜工程において、真空蒸着法を用いて第1誘電体膜41を形成する場合、蒸着温度は1100℃~1500℃であることが好ましく、1100℃~1300℃であることがより好ましい。蒸着温度が1500℃以下であると、第1誘電体膜41を形成することに起因する光電変換膜3のダメージを効果的に抑制できる。蒸着温度が1100℃以上であると、安定した組成を有する第1誘電体膜41が得られやすく、好ましい。
【0059】
第1成膜工程において、蒸着源として粉体の一酸化ケイ素を用い、真空蒸着法を用いて一酸化ケイ素(SiO:屈折率約1.8)からなる第1誘電体膜41を形成する場合、第1誘電体膜41の成膜速度は、8Å/s~100Å/sであることが好ましい。蒸着源として粉体の一酸化ケイ素を用い、真空蒸着法を用いて第1誘電体膜41を形成する場合、成膜速度が遅いと、一酸化ケイ素よりも屈折率の小さいSi(屈折率約1.55)からなる薄膜が形成されやすくなり、第1誘電体膜41の組成が不安定となる。具体的には、成膜速度を4Å/s程度にすると、SiOからなる薄膜が形成されずに、Siの薄膜からなる第1誘電体膜41が形成される。これに対し、蒸着源として粉体の一酸化ケイ素を用い、真空蒸着法を用いて第1誘電体膜41を形成する場合、成膜速度を8Å/s以上にすると、一酸化ケイ素の薄膜からなる安定した組成を有する第1誘電体膜41が得られる。
【0060】
第1成膜工程における第1誘電体膜41の成膜時間は、200秒以下であり、20秒以下であることが好ましく、5秒~10秒であることがより好ましい。第1誘電体膜の成膜時間が10秒以下であると、第1誘電体膜41を形成することに起因する光電変換膜3のダメージを、より効果的に抑制できる。第1誘電体膜の成膜時間が5秒以上であると、十分な厚みを有する第1誘電体膜41を容易に形成できる。
【0061】
第2成膜工程において、第1誘電体膜41上に銀含有導電膜43を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法)などの公知の方法を用いることができる。銀含有導電膜43を形成する方法は、容易に銀含有導電膜43を成膜可能であるとともに、銀含有導電膜43を成膜することによる光電変換膜3へのダメージを抑制できるため、真空蒸着法を用いることが好ましい。
【0062】
第3成膜工程において、銀含有導電膜43上に第2誘電体膜44を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法)などの公知の方法を用いることができる。第2誘電体膜44を形成する方法は、容易に第2誘電体膜44を成膜可能であるとともに、第2誘電体膜44を成膜することによる光電変換膜3へのダメージを抑制できるため、真空蒸着法を用いることが好ましい。
第2誘電体膜44は、第1誘電体膜41上に形成された銀含有導電膜43上に形成する。このため、第3成膜工程において、第2誘電体膜44を形成する成膜速度および成膜時間は、特に限定されない。
【0063】
本実施形態の透光性導電膜の製造方法では、第1誘電体膜41、銀含有導電膜43、第2誘電体膜44の全ての膜を、真空蒸着法を用いることが好ましく、真空蒸着法により真空一貫で形成することが、より好ましい。効率よく第2電極4を形成できるとともに、光電変換膜3を形成してから第2電極4を形成することに起因する光電変換膜3の損傷(ダメージ)を、より効果的に抑制できるためである。
以上の工程を行うことにより、本実施形態の光電変換素子10が得られる。
【0064】
本実施形態の光電変換素子10の製造方法は、第1電極2を形成する第1電極形成工程と、第1電極2上に光電変換膜3を形成する光電変換膜形成工程と、光電変換膜3上に透光性導電膜からなる第2電極4を形成する第2電極形成工程とを有する。そして、本実施形態では、厚みが5nm~100nmの範囲である第1誘電体膜41を、5Å/s~100Å/sの成膜速度で形成する第1成膜工程と、第1誘電体膜41上に銀含有導電膜43を形成する第2成膜工程と、銀含有導電膜43上に第2誘電体膜44を形成する第3成膜工程とを有する方法を用いて、光電変換膜3上に第2電極4を形成する。
【0065】
このため、本実施形態では、光電変換素子10の光電変換膜3上に、第2電極4の第1誘電体膜41を短時間で形成できる。このことから、光電変換膜3上に第2電極4(透光性導電膜)を形成する方法を用いて製造しても、第2電極4の第1誘電体膜41を形成することによって、光電変換膜3が損傷(ダメージ)を受けることが防止される。しかも、本実施形態では、第2成膜工程において、十分な厚みを有する第1誘電体膜41上に、銀含有導電膜43を形成する。このため、銀含有導電膜43を形成することによって、光電変換膜3がダメージを受けることが防止される。
【0066】
その結果、光電変換素子10の第1電極2上に形成された光電変換膜3上に、本実施形態の製造方法を用いて、第1誘電体膜41と銀含有導電膜43と第2誘電体膜44とがこの順に積層された第2電極4を製造しても、光電変換膜3がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子10が得られる。
【0067】
本実施形態の透光性導電素子10の製造方法では、第1電極2上に光電変換膜3を形成してから、本実施形態の透光性導電膜の製造方法を用いて、光電変換膜3上に透光性導電膜からなる第2電極4を形成する。このため、光電変換膜3上に、第1誘電体膜41と銀含有導電膜43と第2誘電体膜44とがこの順に積層された透光性導電膜を形成する方法を用いて第2電極4を製造しても、光電変換膜3がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子10を形成できる。
【0068】
(他の例)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、上述した実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0069】
例えば、上述した実施形態の光電変換素子10の製造方法においては、第1電極形成工程と光電変換膜形成工程と第2電極形成工程とを、それぞれ1回ずつ行って、図1に示す第1電極2と光電変換膜3と第2電極4とからなる光電変換層を1つのみ有する光電変換素子10を製造する場合を例に挙げて説明したが、本発明の光電変換素子の製造方法は、第1電極形成工程と光電変換膜形成工程と第2電極形成工程とを、この順に複数回行うことにより、複数の光電変換層を有する光電変換素子を製造する方法であってもよい。
【0070】
具体的には、例えば、本発明の光電変換素子の製造方法を用いてカラー撮像装置を製造する場合、第1電極形成工程と光電変換膜形成工程と第2電極形成工程とを、この順に3回行ってもよい。このことにより、第1電極と光電変換膜と第2電極とからなる光電変換層として、赤色吸収色素を含む光電変換膜を有する第1光電変換層と、緑色吸収色素を含む光電変換膜を有する第2光電変換層と、青色吸収色素を含む光電変換膜を有する第3光電変換層とを有する光電変換素子を製造できる。この場合、第1光電変換層と第2光電変換層と第3光電変換層は、基板上に任意の配列で並列に配置してもよいし、基板上に公知の絶縁層を介して積層してもよい。
【0071】
基板上に、第1光電変換層と第2光電変換層と第3光電変換層とが積層されている光電変換素子を製造する場合、3層の積層された光電変換層を形成する順序は特に限定されない。また、3層の光電変換層がそれぞれ有する第1電極として、全て透光性を有するものを形成してもよいし、基板側から光が照射される光電変換素子でない場合には、3層の光電変換層のうち、最も基板側に配置される光電変換層の第1電極として、透光性を有しないものを形成してもよい。
【0072】
上述した実施形態の光電変換素子10の製造方法においては、導電膜が、銀含有導電膜43である場合を例に挙げて説明したが、本発明の光電変換素子の製造方法において形成する導電膜は、銀含有導電膜に限定されない。本発明の光電変換素子の製造方法では、第1誘電体膜上に導電膜を形成する第2成膜工程において、金属またはそれらの合金、酸化物などからなる導電性および透光性を有する薄膜など、公知の材料からなる導電膜を形成してもよい。導電膜の材料として使用される金属としては、例えば、アルミニウム、バナジウム、金、銀、白金、鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、パラジウム、マグネシウム、カルシウム、スズ、鉛、チタン、イットリウム、リチウム、ルテニウム、マンガンなどが挙げられる。導電膜の材料として使用される酸化物としては、ITO、IZO、AZO、インジウム酸化物、酸化スズなどが挙げられる。
【実施例0073】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実験例に限定されるものではない。
【0074】
(実験例)
以下に示す方法により、図1に示す光電変換素子10を作製した。
まず、ガラスからなる基板1上に、ITO(酸化インジウムスズ)からなる厚み50nm、幅3.0mmの帯状の第1電極2が、基板1の幅方向に延在して等間隔に複数本並行に並べられた、長さ35mm、幅25mmの矩形形状を有するガラス基板を用意した。
次に、ガラス基板の第1電極2上に、真空蒸着法を用いて、2,7-bis(carbazol-9-yl)-9,9-spirobifluorene(spiro-2CBP)からなる厚み30nmの電子ブロッキング層を形成した。
【0075】
次に、電子ブロッキング層上に、有機色素を含む有機膜である光電変換膜3を形成した。具体的には、有機色素として緑色吸収色素であるキナクリドンを用い、その他の有機成分としてBoron sub-2,3-naphthalocyanine chloride(SubNc)を用い、共真空蒸着法により、電子ブロッキング層上に、キナクリドンとSubNcとを体積比1対1で含む厚み90nmの光電変換膜3を形成した。
【0076】
次に、光電変換膜3上に、真空蒸着法を用いて、4,6-Bis(3,5-di(pyridin-4-yl)phenyl)-2-methylpyrimidine(B4PYMPM)からなる厚み50nmの正孔ブロッキング層を形成した。
【0077】
次に、正孔ブロッキング層上に、ステンレスからなるメタルマスクを設置して、真空蒸着法により、真空一貫で、第1電極2の延在方向と略直交する方向に延在する幅2.0mmの帯状の第2電極4を、等間隔で複数本並行に形成した。
具体的には、光電変換膜3上に形成された正孔ブロッキング層上に、蒸着源として粉体の一酸化ケイ素を用いて、成膜速度18Å/s、蒸着温度1200℃で一酸化ケイ素(SiO)からなる厚み10nmの第1誘電体膜41を形成し、その上に銀(Ag)からなる厚み10nmの銀含有導電膜43を形成し、その上に成膜速度18Å/sで一酸化ケイ素(SiO)からなる厚み10nmの第2誘電体膜44を形成した。
光電変換素子10の駆動面積は、第1電極2と第2電極4とが平面視で重なる領域の面積であり、縦2.0mm、横3.0mmの略矩形の面積である。
以上の工程により、図1に示す実施例の光電変換素子10を作製した。
【0078】
(比較例)
以下に示す方法により、比較例の光電変換素子を作製した。比較例の光電変換素子は、第1誘電体膜41および第2誘電体膜44の成膜速度を4Å/sとすることにより、Siからなる厚み10nmの第1誘電体膜41および第2誘電体膜44を形成したこと以外は、実施例と同様にして作製した。
【0079】
このようにして作製した実施例および比較例の光電変換素子について、それぞれ10Vの電圧を印加した時の電流値を、暗電流として測定した。その結果を表1に示す。
また、実施例および比較例の光電変換素子に対して、波長550nm、強度50μW/cmの単色光を照射して、光電流を測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、実施例の光電変換素子10では、比較例の光電変換素子と比較して、暗電流の値が2桁近く低く、明瞭な光電流が観測できた。
一方、比較例の光電変換素子は、暗電流に埋もれて光電流が観測できなかった。これは、比較例の光電変換素子では、光電変換膜がダメージを受けたことによって、光電変換膜の所望の機能が発揮されていないことを示している。
これらの結果より、第1誘電体膜41および第2誘電体膜44の成膜速度を速くすることにより、光電変換膜がダメージを受けにくく、暗電流の抑制された光電変換素子を形成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の透光性導電膜の製造方法は、光電変換素子の光電変換膜上に配置される電極の製造方法として好ましく使用できる。本発明の透光性導電膜の製造方法を用いて、光電変換膜上に配置される電極を形成した光電変換素子は、光電変換膜上に、誘電体膜間に銀膜などの金属膜を配置した多層膜からなる透光性導電膜を形成する方法を用いて製造したものであっても、光電変換膜のダメージが小さく、暗電流の抑制されたものとなる。よって、本発明の製造方法を用いて製造した光電変換素子は、固体撮像装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
1…基板、2…第1電極、3…光電変換膜、4…第2電極、10…光電変換素子、41…第1誘電体膜、43…銀含有導電膜、44…第2誘電体膜。
図1