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特開2023-169662液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169662
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080912
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井桁 幸一
(72)【発明者】
【氏名】岡 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 安
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩之
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA00
2H149AB01
2H149BA05
2H149EA12
2H149EA17
2H149EA22
2H149FA01Z
2H149FA15X
2H149FA21W
2H149FA26Z
2H149FA27W
2H149FA28Z
2H149FA40W
2H149FA42Z
(57)【要約】
【課題】光を導光する際の損失を抑制することが可能な液晶光学素子を提供する。
【解決手段】一実施形態の液晶光学素子は、主面を有する透明基板と、前記主面に配置された配向膜と、前記配向膜に重なり、螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子を含むコレステリック液晶、及び、液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、前記液晶層において、前記液晶分子の配向方向が揃った反射面は、前記主面に対して傾斜している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する透明基板と、
前記主面に配置された配向膜と、
前記配向膜に重なり、螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子を含むコレステリック液晶、及び、液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、
前記液晶層において、前記液晶分子の配向方向が揃った反射面は、前記主面に対して傾斜している、液晶光学素子。
【請求項2】
前記液晶層は、前記主面に沿って交互に並んだ複数の第1領域及び複数の第2領域を有し、
前記第1領域の各々は、前記コレステリック液晶として、第1螺旋ピッチの第1コレステリック液晶を有し、
前記第2領域の各々は、前記コレステリック液晶として、第2螺旋ピッチの第2コレステリック液晶を有し、
前記第2螺旋ピッチは、前記第1螺旋ピッチとは異なる、請求項1に記載の液晶光学素子。
【請求項3】
前記液晶層において、前記第1領域の厚さは、前記第2領域の厚さとは異なる、請求項2に記載の液晶光学素子。
【請求項4】
前記第1領域に形成される前記反射面の前記主面に対する第1傾斜角度は、前記第2領域に形成される前記反射面の前記主面に対する第2傾斜角度とは異なる、請求項2に記載の液晶光学素子。
【請求項5】
前記第1傾斜角度は、前記主面に対して時計回りに鋭角であり、
前記第2傾斜角度は、前記主面に対して反時計回りに鋭角である、請求項4に記載の液晶光学素子。
【請求項6】
前記添加剤は、ネマティック液晶材料またはスメクティック液晶材料によって形成されている、請求項1に記載の液晶光学素子。
【請求項7】
前記添加剤は、シアノビフェニル系及びその類縁体、含フッ素ビフェニル系及びその類縁体、その他のビフェニル系及びその類縁体、フェニルエステル系、シッフ塩基系の材料、シクロヘキサンフェニルトラン系、シクロヘキサンエステルフェニルトラン系、アルコキシシクロヘキサンエステルフェニルトラン系、フルオロシクロヘキサンエステルフェニルトラン系、4環エステルトラン系、フェニルトランエステル系、シアノフェニルトランエステル系、フルオロフェニルトランエステル系、または、ビフルオロフェニルトランエステル系の材料によって形成されている、請求項6に記載の液晶光学素子。
【請求項8】
透明基板の主面に配向膜を形成し、
前記配向膜の上に、螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子を含むコレステリック液晶を有する液晶層を形成し、
前記液晶層に、液晶性を示す添加剤、または、液晶性を示す添加剤を含む液晶溶液を浸透させ、
前記液晶層を乾燥させ、
前記液晶層において、前記液晶分子の配向方向が揃った反射面は、前記主面に対して傾斜している、液晶光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記液晶溶液を浸透させる工程は、
前記液晶層を前記液晶溶液に浸漬すること、または、前記液晶層に前記液晶溶液を滴下することを含む、請求項8に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記添加剤を浸透させる工程は、
前記液晶層を前記添加剤に浸漬すること、または、前記液晶層に前記添加剤を滴下することを含む、請求項8に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記液晶層に前記添加剤または前記液晶溶液を浸透させる前に、前記液晶層の上に間隔をおいて複数の保護シートを接着し、
前記液晶層を乾燥させた後に、前記複数の保護シートを剥離する、
請求項8に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記液晶層において、前記保護シートを接着しなかった領域の第1領域の各々は、前記コレステリック液晶として、第1螺旋ピッチの第1コレステリック液晶を有し、
前記保護シートを接着した領域の第2領域の各々は、前記コレステリック液晶として、第2螺旋ピッチの第2コレステリック液晶を有し、
前記第1螺旋ピッチは、前記第2螺旋ピッチより大きい、請求項11に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1領域に形成される前記反射面の前記主面に対する第1傾斜角度は、前記第2領域に形成される前記反射面の前記主面に対する第2傾斜角度より大きい、請求項12に記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1傾斜角度は、前記主面に対して時計回りに鋭角であり、
前記第2傾斜角度は、前記主面に対して反時計回りに鋭角である、請求項13に記載の液晶光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶材料を用いた液晶偏光格子が提案されている。このような液晶偏光格子では、格子周期、液晶層の屈折率異方性Δn(液晶層の異常光に対する屈折率neと常光に対する屈折率noとの差分)、及び、液晶層の厚さdといったパラメータの調整が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2017-522601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態の目的は、光を導光する際の損失を抑制することが可能な液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る液晶光学素子は、
主面を有する透明基板と、前記主面に配置された配向膜と、前記配向膜に重なり、螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子を含むコレステリック液晶、及び、液晶性を示す添加剤を有する液晶層と、を備え、前記液晶層において、前記液晶分子の配向方向が揃った反射面は、前記主面に対して傾斜している。
【0006】
一実施形態に係る液晶光学素子の製造方法は、
透明基板の主面に配向膜を形成し、前記配向膜の上に、螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子を含むコレステリック液晶を有する液晶層を形成し、前記液晶層に、液晶性を示す添加剤、または、液晶性を示す添加剤を含む液晶溶液を浸透させ、前記液晶層を乾燥させ、前記液晶層において、前記液晶分子の配向方向が揃った反射面は、前記主面に対して傾斜している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係る液晶光学素子100を模式的に示す断面図である。
図2図2は、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の一例を説明するための図である。
図3図3は、液晶光学素子100を模式的に示す平面図である。
図4図4は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
図5図5は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
図6図6は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
図7図7は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
図8図8は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
図9図9は、本実施形態において添加剤4として適用可能な材料例を示す図である。
図10図10は、液晶光学素子100の製造方法を説明するための図である。
図11図11は、液晶層3に添加剤4を浸透させる工程の一例を示す図である。
図12図12は、液晶層3に添加剤4を浸透させる工程の他の例を示す図である。
図13図13は、液晶層3に添加剤4が浸透する様子を説明するための図である。
図14図14は、液晶光学素子の光学作用を説明するための図である。
図15図15は、配向膜2の近傍に位置する液晶分子LM11の配向パターンを示す図である。
図16図16は、液晶層3に保護シート10を接着する工程を説明するための図である。
図17図17は、液晶層3に添加剤4を浸透させる工程を説明するための図である。
図18図18は、保護シート10を剥離した後の液晶層3を示す断面図である。
図19図19は、液晶光学素子の光学作用を説明するための図である。
図20図20は、液晶層3に添加剤を浸透させる工程を説明するための図である。
図21図21は、第2保護シート12を剥離した後の液晶層3を示す断面図である。
図22図22は、液晶光学素子の光学作用を説明するための図である。
図23図23は、配向膜2の近傍に位置する液晶分子LM11の配向パターンを示す図である。
図24図24は、液晶光学素子の光学作用を説明するための図である。
図25図25は、太陽電池装置200の外観の一例を示す図である。
図26図26は、太陽電池装置200の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
なお、図面には、必要に応じて理解を容易にするために、互いに直交するX軸、Y軸、及び、Z軸を記載する。Z軸に沿った方向をZ方向または第1方向A1と称し、Y軸に沿った方向をY方向または第2方向A2と称し、X軸に沿った方向をX方向または第3方向A3と称する。X軸及びY軸によって規定される面をX-Y平面と称し、X軸及びZ軸によって規定される面をX-Z平面と称し、Y軸及びZ軸によって規定される面をY-Z平面と称する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る液晶光学素子100を模式的に示す断面図である。
液晶光学素子100は、透明基板1と、配向膜2と、液晶層3と、を備えている。
【0011】
透明基板1は、例えば、透明なガラス板または透明な合成樹脂板によって構成されている。透明基板1は、例えば、可撓性を有する透明な合成樹脂板によって構成されていてもよい。透明基板1は、任意の形状を取り得る。例えば、透明基板1は、湾曲していてもよい。
【0012】
本明細書において、『光』は、可視光及び不可視光を含むものである。例えば、可視光域の下限の波長は360nm以上400nm以下であり、可視光域の上限の波長は760nm以上830nm以下である。可視光は、第1波長帯(例えば400nm~500nm)の第1成分(青成分)、第2波長帯(例えば500nm~600nm)の第2成分(緑成分)、及び、第3波長帯(例えば600nm~700nm)の第3成分(赤成分)を含んでいる。不可視光は、第1波長帯より短波長帯の紫外線、及び、第3波長帯より長波長帯の赤外線を含んでいる。
本明細書において、『透明』は、無色透明であることが好ましい。ただし、『透明』は、半透明又は有色透明であってもよい。
【0013】
透明基板1は、X-Y平面に沿った平板状に形成され、第1主面(外面)F1と、第2主面(内面)F2と、側面S1と、を有している。第1主面F1及び第2主面F2は、X-Y平面に略平行な面であり、第1方向A1において、互いに対向している。側面S1は、第1方向A1に沿って延びた面である。図1に示す例では、側面S1は、X-Z平面と略平行な面であるが、側面S1は、Y-Z平面と略平行な面を含んでいる。
【0014】
配向膜2は、第2主面F2に配置されている。配向膜2は、X-Y平面に沿って配向規制力を有する水平配向膜である。配向膜2は、例えば、光照射により配向処理される光配向膜であるが、ラビングによって配向処理される配向膜であってもよいし、微小な凹凸を有する配向膜であってもよい。配向膜2の第1方向A1に沿った厚さT2は、5nm~300nmであり、好ましくは10nm~200nmである。
【0015】
液晶層3は、第1方向A1において、配向膜2に重なっている。つまり、配向膜2は、透明基板1と液晶層3との間に位置し、また、透明基板1及び液晶層3に接している。
液晶層3は、第3主面(内面)F3と、第4主面(外面)F4と、を有している。第3主面F3及び第4主面F4は、X-Y平面に略平行な面であり、第1方向A1において、互いに対向している。第3主面F3は、配向膜2に接している。液晶層3の第1方向A1に沿った厚さT3、厚さT2より大きく、例えば、1μm~10μmであり、好ましくは2μm~7μmである。
なお、第4主面F4は、透明な保護層で覆われてもよい。
【0016】
液晶層3は、拡大して模式的に示すように、第1旋回方向に旋回したコレステリック液晶311を有している。コレステリック液晶311は、第1方向A1にほぼ平行な螺旋軸AX1を有し、また、第1方向A1に沿った螺旋ピッチPを有している。螺旋ピッチPは、螺旋の1周期(液晶分子が360度回転するのに要する螺旋軸AX1に沿った層厚)を示す。
【0017】
液晶層3は、反射面321を有している。反射面321では、液晶層3への入射光のうち、コレステリック液晶311の螺旋ピッチP及び液晶層3の屈折率異方性Δnに応じて決定する選択反射帯域の円偏光が反射される。例えば、第1旋回方向が右回りの場合、右回りの円偏光が反射面321で反射され、第1旋回方向が左回りの場合、左回りの円偏光が反射面321で反射される。なお、本明細書において、液晶層3における「反射」とは、液晶層3の内部における回折を伴うものである。また、本明細書において、円偏光は、厳密な円偏光であってもよいし、楕円偏光に近似した円偏光であってもよい。
【0018】
図1に示す例では、液晶層3は、第1主面F1の側から入射した光LTiの一部を透明基板1に向けて反射するように構成されている。なお、液晶層3は、第4主面F4の側から入射した光の一部を反射するように構成することもできる。また、液晶光学素子100において、図1に示した液晶層3に、他のコレステリック液晶を有する液晶層が積層されていてもよい。他のコレステリック液晶とは、例えば、螺旋ピッチPとは異なる螺旋ピッチを有するコレステリック液晶や、第1旋回方向とは逆回りの第2旋回方向に旋回したコレステリック液晶などである。
【0019】
次に、図1に示す液晶光学素子100の光学作用について説明する。
【0020】
液晶光学素子100に入射する光LTiは、例えば、可視光、紫外線、及び、赤外線を含んでいる。
図1に示す例では、理解を容易にするために、光LTiは、透明基板1に対して略垂直に入射するものとする。なお、透明基板1に対する光LTiの入射角度は、特に限定されない。例えば、互いに異なる複数の入射角度をもって透明基板1に光LTiが入射してもよい。
【0021】
光LTiは、第1主面F1から透明基板1の内部に進入し、第2主面F2から出射して、配向膜2を透過し、液晶層3に入射する。そして、液晶層3は、光LTiの一部を反射する。一例では、液晶層3は、赤外線の第1円偏光を透明基板1に向けて反射し、他の光LTtを透過する。
【0022】
液晶層3は、第1円偏光を、透明基板1における光導波条件を満足する進入角θで、透明基板1に向けて反射する。ここでの進入角θとは、透明基板1と空気との界面で全反射を起こす臨界角θc以上の角度に相当する。進入角θは、透明基板1に直交する垂線に対する角度を示す。
【0023】
透明基板1、配向膜2、及び、液晶層3が同等の屈折率を有している場合、これらの積層体が単体の導光素子となり得る。この場合、光LTrは、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を側面S1に向けて導光される。
【0024】
なお、ここでは赤外線Iが反射される例について説明したが、液晶層3は、可視光を反射するように構成されてもよいし、紫外線を反射するように構成されてもよいし、複数の波長帯の光を反射するように構成されてもよい。
【0025】
図2は、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の一例を説明するための図である。
なお、図2では、液晶層3を第1方向A1に拡大して図示している。また、簡略化のため、コレステリック液晶311を構成する液晶分子LM1として、X-Y平面に平行な同一平面に位置する複数の液晶分子のうちの1つの液晶分子LM1を図示している。図示した液晶分子LM1の配向方向は、同一平面に位置する複数の液晶分子の平均的な配向方向に相当する。
【0026】
液晶層3は、コレステリック液晶311と、液晶性を示す添加剤(ゲスト液晶)4と、を有している。
【0027】
1つのコレステリック液晶311に着目すると、コレステリック液晶311は、旋回しながら第1方向A1に沿って螺旋状に積み重ねられた複数の液晶分子LM1によって構成されている。複数の液晶分子LM1は、コレステリック液晶311の一端側の液晶分子LM11と、コレステリック液晶311の他端側の液晶分子LM12と、を有している。液晶分子LM11は、第3主面F3あるいは配向膜2に近接している。液晶分子LM12は、第4主面F4に近接している。
【0028】
図2に示す例の液晶層3において、第2方向A2に沿って隣接する複数のコレステリック液晶311の配向方向は、互いに異なっている。また、第2方向A2に沿って隣接するコレステリック液晶311の各々の空間位相は、互いに異なっている。そして、複数の液晶分子LM11の配向方向は、第2方向A2に沿って連続的に変化している。また、複数の液晶分子LM12の配向方向も、第2方向A2に沿って連続的に変化している。
【0029】
液晶層3の反射面321は、第2主面F2あるいはX-Y平面に対して傾斜している。反射面321とX-Y平面とのなす角度θαは、鋭角である。ここでの反射面321は、液晶分子LM1の配向方向が揃った面、あるいは、空間位相が揃った面(等位相面)に相当する。角度θαは、反射面321の第2主面F2に対する傾斜角度に相当する。
【0030】
なお、反射面321の形状は、図2に示したような平面形状に限らず、凹状や凸状の曲面形状であってもよく、特に限定されるものではない。また、反射面321の一部に凸凹を有していたり、反射面321の傾斜角度θαが均一でなかったり、複数の反射面321が、規則的に整列していなかったりしてもよい。複数のコレステリック液晶311の空間位相分布に応じて、任意の形状の反射面321を構成することができる。
【0031】
このような液晶層3は、液晶分子LM1の配向方向が固定された状態で硬化している。つまり、液晶分子LM1の配向方向は、電界に応じて制御されるものではない。このため、液晶光学素子100は、液晶層3に電界を形成するための電極を備えていない。
【0032】
図示した例では、添加剤4は、液晶層3においてほぼ均一に浸透している。添加剤4は、コレステリック液晶311と同様に配向している。このような添加剤4は、屈折率異方性Δn4を有している。屈折率異方性Δn4は、コレステリック液晶311の屈折率異方性Δn3よりも大きい。このため、液晶層3の屈折率異方性Δnは、添加剤4が液晶層3に添加された分に応じて増大する。屈折率異方性Δnは、屈折率異方性Δn4を超えることはない。つまり、屈折率異方性Δn4は、屈折率異方性Δnよりも大きい。
【0033】
一般的に、コレステリック液晶311を有する液晶層3において、垂直入射した光に対する選択反射帯域Δλは、コレステリック液晶311の螺旋ピッチP、液晶層3の屈折率異方性Δn(異常光に対する屈折率neと常光に対する屈折率noとの差分)に基づいて、次の式(1)で示される。
Δλ=Δn*P …(1)
選択反射帯域Δλの具体的な波長範囲は、no*P以上、ne*P以下の範囲であり、一例では、800nm~1000nmの近赤外の範囲である。
【0034】
選択反射帯域Δλの中心波長λmは、コレステリック液晶311の螺旋ピッチP、液晶層3の平均屈折率nav(=(ne+no)/2)に基づいて、次の式(2)で示される。
λm=nav*P …(2)
上記の式(1)に基づくと、選択反射帯域Δλを拡大する要望に対しては、屈折率異方性Δnを増大する、もしくは、螺旋ピッチPを増大する必要がある。しかしながら、上記の式(2)で示すように、螺旋ピッチPは、中心波長λmにも影響を与える。このため、中心波長λmの長波長側へのシフトを抑制しつつ選択反射帯域Δλを拡大するためには、屈折率異方性Δnを増大することが有効である。
【0035】
本実施形態によれば、液晶層3は、コレステリック液晶311に加えて、添加剤4を有している。添加剤4の屈折率異方性Δn4は、コレステリック液晶311の屈折率異方性Δn3より大きい。このため、液晶層3が添加剤4を有していない場合と比較して、液晶層3の屈折率異方性Δnを増大することができる。これにより、液晶層3における選択反射帯域Δλを拡大することができる。
【0036】
また、コレステリック液晶311を形成するための材料として、所望の屈折率異方性Δnを得るための材料を選定することが難しい場合であっても、添加剤4の添加量を調整することで容易に所望の屈折率異方性Δnを実現することができる。
【0037】
図3は、液晶光学素子100を模式的に示す平面図である。
図3には、コレステリック液晶311の空間位相の一例が示されている。ここに示す空間位相は、コレステリック液晶311に含まれる液晶分子LM1のうち、第3主面F3の近傍に位置する液晶分子LM11の配向方向として示している。
【0038】
第2方向A2に沿って並んだコレステリック液晶311の各々について、液晶分子LM11の配向方向は互いに異なる。つまり、コレステリック液晶311の空間位相は、第2方向A2に沿って異なる。
一方、第3方向A3に沿って並んだコレステリック液晶311の各々について、液晶分子LM11の配向方向は略一致する。つまり、コレステリック液晶311の空間位相は、第3方向A3において略一致する。
【0039】
特に、第2方向A2に並んだコレステリック液晶311に着目すると、各液晶分子LM11の配向方向は、一定角度ずつ異なっている。つまり、第2方向A2に沿って並んだ複数の液晶分子LM11の配向方向は、線形に変化している。したがって、第2方向A2に沿って並んだ複数のコレステリック液晶311の空間位相は、第2方向A2に沿って線形に変化している。その結果、図2に示した液晶層3のように、X-Y平面に対して傾斜する反射面321が形成される。ここでの「線形に変化」は、例えば、液晶分子LM11の配向方向の変化量が1次関数で表されることを示す。なお、ここでの液晶分子LM11の配向方向とは、X-Y平面における液晶分子LM11の長軸方向に相当する。このような液晶分子LM11の配向方向は、配向膜2になされた配向処理によって制御される。
【0040】
ここで、図3に示すように、一平面内において、第2方向A2に沿って液晶分子LM11の配向方向が180度だけ変化するときの2つの液晶分子LM11の間隔を周期Tと定義する。なお、図3においてDPは液晶分子LM11の旋回方向を示している。図2に示した反射面321の傾斜角度θαは、周期T及び螺旋ピッチPによって適宜設定される。
【0041】
ここで、上記の添加剤4として適用可能な材料例について図4乃至図9を参照して説明する。
【0042】
図4に示す材料例(1)~(8)、及び、図5に示す材料例(9)~(14)は、ネマティック液晶材料、スメクティック液晶材料の例であり、シアノビフェニル系及びその類縁体、含フッ素ビフェニル系及びその類縁体、その他のビフェニル系及びその類縁体、フェニルエステル系、シッフ塩基系の材料である。
【0043】
図6乃至図8に示す材料例(15)~(44)は、ネマティック液晶材料、スメクティック液晶材料の例であり、トラン系の材料である。
材料例(15)及び(16)は、シクロヘキサンフェニルトラン系の材料である。
材料例(17)~(20)は、シクロヘキサンエステルフェニルトラン系の材料である。
材料例(21)及び(22)は、アルコキシシクロヘキサンエステルフェニルトラン系の材料である。
材料例(23)~(26)は、フルオロシクロヘキサンエステルフェニルトラン系の材料である。
材料例(27)及び(28)は、4環エステルトラン系の材料である。
材料例(29)~(32)は、フェニルトランエステル系の材料である。
材料例(33)~(36)は、シアノフェニルトランエステル系の材料である。
材料例(37)~(40)は、フルオロフェニルトランエステル系の材料である。
材料例(44)~(44)は、ビフルオロフェニルトランエステル系の材料である。
【0044】
図9に示す材料例(45)~(54)は、ネマティック液晶材料、スメクティック液晶材料の例であり、シアノビフェニル系及びその類縁体の材料である。
【0045】
次に、液晶光学素子100の製造方法について、図10を参照しながら説明する。
まず透明基板1を洗浄する(ステップST1)。
そして、透明基板1の第2主面F2に配向膜2を形成する(ステップST2)。配向膜2には、所定の配向処理を行う。このとき、例えば、図3に示したような液晶分子LM11の配向パターンが形成されるように、配向膜2の配向処理(光配向処理)を行う。
【0046】
そして、配向膜2の上に液晶材料(コレステリック液晶を形成するためのモノマー材料を含む溶液)を塗布する(ステップST3)。その後、チャンバ内を減圧することで溶媒を乾燥し(ステップST4)、さらに、液晶材料をベークする(ステップST5)。ベークにより液晶材料に含まれる液晶分子は、配向膜2の配向処理方向に応じて所定の方向に配向する。そして、液晶材料を室温程度まで冷却し(ステップST6)、その後、液晶材料に紫外線を照射して液晶材料を硬化する(ステップST7)。これにより、コレステリック液晶を有する液晶層3が形成される。
【0047】
以下に、液晶層3に添加剤4を浸透させるための工程について説明する。
【0048】
図11は、液晶層3に添加剤4を浸透させる工程の一例を示す図である。
まず、上記の添加剤4を溶媒に溶かした液晶溶液を用意する(ステップST11)。溶媒は、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ヘプタン、トルエン、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などの有機溶媒が適用可能である。
そして、液晶層3に液晶溶液を浸透させる(ステップST12)。ここでの浸透させる処理とは、液晶層3を液晶溶液に浸漬したり、液晶層3に液晶溶液を滴下したりすることを含むものである。これにより、液晶溶液に含まれる添加剤4が溶媒とともに液晶層3に均一に浸透する。
その後、スピンナーなどを利用して過剰な液晶溶液を除去する(ステップST13)。必要に応じて、液晶溶液を除去するための有機溶媒を用いてもよい。
その後、透明基板1を加熱するなどして液晶層3に浸透した溶媒を除去し、液晶層3を乾燥させる(ステップST14)。そして、透明基板1を室温程度まで冷却する(ステップST15)。
【0049】
なお、液晶層3への添加剤4の添加量は、上記のステップST12乃至ST15を行う回数で調整することができる。つまり、添加量を増大したい場合には、上記のステップST12乃至ST15を複数回繰り返し行えばよい。これにより、所望の反射性能を有する液晶光学素子100が製造される。
【0050】
図12は、液晶層3に添加剤4を浸透させる工程の他の例を示す図である。
まず、液状の添加剤4を用意する(ステップST21)。必要に応じて添加剤4をNI点(Nematic-Isotropic転移温度)以上の温度に加熱することで、液状の添加剤4が得られる。
そして、液晶層3に液状の添加剤4を浸透させる(ステップST22)。ここでの浸透させる処理とは、液晶層3を添加剤4に浸漬したり、液晶層3に添加剤4を滴下したりすることを含むものである。これにより、液状の添加剤4が液晶層3に均一に浸透する。
その後、スピンナーなどを利用して過剰な添加剤4を除去する(ステップST23)。なお、必要に応じて、過剰な添加剤4を除去するための有機溶媒を用いてもよい。
そして、透明基板1を加熱するなどして液晶層3を乾燥させる(ステップST24)。
そして、透明基板1を室温程度まで冷却する(ステップST15)。
【0051】
なお、液晶層3への添加剤4の添加量は、上記のステップST22乃至ST25を行う回数で調整することができる。つまり、添加量を増大したい場合には、上記のステップST2乃至ST25を複数回繰り返し行えばよい。これにより、所望の反射性能を有する液晶光学素子100が製造される。
【0052】
図13は、液晶層3に添加剤4が浸透する様子を説明するための図である。
図の左側は、添加剤4が浸透する前の液晶層3の様子を模式的に示している。液晶層3は、厚さT0を有している。液晶層3に含まれるコレステリック液晶311は、螺旋ピッチP0を有している。
図の右側は、添加剤4が浸透した液晶層3の様子を模式的に示している。液晶層3は、添加剤4が浸透したことによって膨潤する。つまり、液晶層3の厚さT1は、厚さT0より大きい。また、液晶層3に含まれるコレステリック液晶311の螺旋ピッチP1は、螺旋ピッチP0より大きい。螺旋ピッチの拡大に伴って、液晶層3に形成される反射面321の傾斜角度も拡大する。
以下、いくつかの実施例について説明する。
【0053】
《実施例1》
まず、図10に示したステップST1乃至ST7を経て液晶層3を形成する。
続いて、図11に示したステップST11乃至ST15を経て液晶層3に添加剤4を浸透させ、液晶光学素子を作製する。ステップST11で用意した液晶溶液は、溶媒としてシクロヘキサノンを適用し、添加剤4として4-Cyano-4’’-pentyl-p-terphenyl(別名:5CT)を適用している。
【0054】
比較例として、実施例1と同一の液晶材料を用いて液晶層3を形成し、添加剤4を浸透させていない液晶光学素子を作製する。
【0055】
図14は、液晶光学素子の光学作用を説明するための図である。図中に、透明基板1の法線を点線で示している。図14には、法線に沿って液晶光学素子100に入射する光LTi及び反射面321で反射された光LTrを示し、液晶光学素子100を透過する光の図示を省略している。また、図14では、透明基板1と液晶層3との間の配向膜の図示を省略する。
【0056】
図14の上段は、液晶層3に添加剤4を浸透させていない液晶光学素子100の光学作用を示している(比較例)。厚さT0の液晶層3に形成される反射面321と第2主面F2とのなす角度を傾斜角度θ10として表す。法線に沿って入射した光LTiと反射面321で反射された光LTrとのなす角度を反射角θ20として表す。一例では、厚さT0は3.23μmであった。また、電子顕微鏡で撮影した断面写真を確認したところ、傾斜角度θ10は38°であり、螺旋ピッチP0は534nmであった。
【0057】
図14の下段は、液晶層3に添加剤4を浸透させた液晶光学素子100の光学作用を示している(実施例1)。厚さT1の液晶層3に形成される反射面321と第2主面F2とのなす角度を傾斜角度θ11として表す。傾斜角度θ11は、傾斜角度θ10より大きい。また、法線に沿って入射した光LTiと反射面321で反射された光LTrとのなす角度を反射角θ21として表す。反射角θ21は、反射角θ20より大きい。一例では、厚さT1は3.54μmであった。また、電子顕微鏡で撮影した断面写真を確認したところ、傾斜角度θ11は42°であり、螺旋ピッチP1は618nmであった。また、液晶層3の屈折率異方性Δnは、比較例と比べて、添加剤4が浸透したことによって増大したことが確認された。この結果、実施例1における選択反射帯域Δλの中心波長λmは、比較例と比べて、約50nmほど長波長側にシフトした。
【0058】
このように、添加剤4を浸透させることにより、液晶層3が膨潤し、反射面321の傾斜角度を拡大することができる。そして、図示した例では、比較例において、光LTrは、透明基板1と空気との界面において、4回反射されるのに対して、実施例1においては、光LTrは、透明基板1と空気との界面において、2回反射される。つまり、実施例1によれば、比較例と比べて、液晶光学素子100で導光される光LTrの反射回数を減らすことができる。このため、光LTrが透明基板1及び液晶層3に付着した異物や微小なクラックに起因して散乱されたり、光LTrが液晶光学素子100の外部に漏れ出たりする不具合が抑制される。したがって、光を導光する際の損失が抑制される。
【0059】
《実施例2》
まず、図10に示したステップST1乃至ST7を経て透明基板1の上に配向膜2及び液晶層3を形成する。
【0060】
図15は、配向膜2の近傍に位置する液晶分子LM11の配向パターンを示す図である。液晶層3は点線で示している。
第2方向A2に沿って並んだ液晶分子LM11の配向方向は、一定角度ずつ異なっている。図示した例では、第2方向A2に沿って図の左から右に向かうにしたがって、配向方向は時計回りに一定角度ずつ異なっている。
一方、第3方向A3に沿って並んだ液晶分子LM11の配向方向は、略一致している。
【0061】
図16は、液晶層3に保護シート10を接着する工程を説明するための図である。
保護シート10は、例えば、ポリイミドで形成されたシートであり、耐薬品性及び防水性を有している。保護シート10の各々は、例えば、一方向に延出した短冊状に形成されている。これらの保護シート10は、間隔をおいて液晶層3の上に接着される。一例では、保護シート10は、その長辺が図15に示した第3方向A3に沿うように液晶層3に接着される。なお、保護シート10は、その長辺が第2方向A2に沿うように液晶層3に接着されてもよい。
【0062】
実施例2では、液晶層3のうち、保護シート10を接着しなかった領域を第1領域R1と称し、保護シート10を接着した領域を第2領域R2と称する。複数の第1領域R1及び複数の第2領域R2は、第2方向A2において交互に並んでいる。
【0063】
図17は、液晶層3に添加剤4を浸透させる工程を説明するための図である。なお、図17以降、配向膜の図示を省略している。
まず、図17の上段に示すように、液状の添加剤4を用意する。ここでは、添加剤4として、4’-pentyl-4-biphenylcarbonitrile(別名:5CB)を適用している。容器内の添加剤4は、予めNI点を超える50℃に加熱して液体状態としている。そして、液晶層3を添加剤4に浸漬する。
その後、図17の下段に示すように、スピンナーを利用して過剰な添加剤4を除去し、液晶層3を乾燥させる。第1領域R1には添加剤4が浸透し、第2領域R2にはほとんど添加剤4が浸透していない。
【0064】
乾燥させた液晶層3に着目すると、保護シート10が接着された第2領域R2は、見た目の変化はほとんどなかった。一方で、第1領域R1は、添加剤4が浸透したことで膨潤し、添加剤4を浸透させる前と比較して、見た目の色が変化していた。
【0065】
図18は、保護シート10を剥離した後の液晶層3を示す断面図である。
第1領域R1は、コレステリック液晶として、第1コレステリック液晶CL1を有している。第2領域R2は、コレステリック液晶として、第2コレステリック液晶CL2を有している。
第1コレステリック液晶CL1は、第2コレステリック液晶CL2と比較して、螺旋軸AX1に沿って膨潤している。つまり、第1領域R1の厚さT1は、第2領域R2の厚さT2とは異なり、厚さT2より大きい。また、第1コレステリック液晶CL1の第1螺旋ピッチP1は、第2コレステリック液晶CL2の第2螺旋ピッチP2とは異なり、第2螺旋ピッチP2より大きい。このため、第1領域R1で反射される選択反射帯域の中心波長は、第2領域R2で反射される選択反射帯域の中心波長よりも長波長である。
また、第1領域R1に形成される反射面321の第2主面F2に対する第1傾斜角度θ11は、第2領域R2に形成される反射面321の第2主面F2に対する第2傾斜角度θ12とは異なり、第2傾斜角度θ12より大きい。図示した例では、第1傾斜角度θ11及び第2傾斜角度θ12は、いずれも第2主面F2に対して時計回りの鋭角である。
【0066】
図19は、液晶光学素子100の光学作用を説明するための図である。図中に、透明基板1の法線を点線で示している。図19には、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ1の光及び第1領域R1の反射面321で反射された光を太線で示し、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ2の光及び第2領域R2の反射面321で反射された光を細線で示し、液晶光学素子100を透過する光の図示を省略している。波長λ1は、波長λ2よりも長波長である。
【0067】
第1主面F1から入射した波長λ1の光は、第1領域R1の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を導光される。
第1主面F1から入射した波長λ2の光は、第2領域R2の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を導光される。図示した例の場合、波長λ1の光及び波長λ2の光は、いずれも透明基板1の内部を図の左から右に向かって導光される。
このような実施例2によれば、上記の実施例1で得られる効果に加えて、液晶層3に部分的に添加剤を浸透させることにより、選択反射帯域の広帯域化が可能となる。
【0068】
《実施例3》
図20は、液晶層3に添加剤を浸透させる工程を説明するための図である。なお、図20以降、配向膜の図示を省略している。
【0069】
図20の上段に示すように、まず、図10に示したステップST1乃至ST7を経て透明基板1の上に液晶層3を形成する。
【0070】
その後、図20の中段に示すように、複数の第1保護シート11が間隔をおいて液晶層3の上に接着される。図示した例では、第1保護シート11の第2方向A2に沿った幅W1は、第1保護シート11の間隔D1より大きい。
そして、液晶層3を添加剤に浸漬する。実施例3においても、液状の添加剤として、NI点以上に加熱した4’-pentyl-4-biphenylcarbonitrile(別名:5CB)を適用している。そして、スピンナーを利用して過剰な添加剤を除去し、液晶層3を乾燥させる。その後、第1保護シート11を剥離する。
【0071】
その後、図20の下段に示すように、複数の第2保護シート12が間隔をおいて液晶層3の上に接着される。図示した例では、第2保護シート12の第2方向A2に沿った幅W2は、第2保護シート12の間隔D2より小さい。また、幅W2は幅W1より小さく、間隔D2は間隔D1より大きい。そして、液晶層3を添加剤に浸漬し、スピンナーを利用して過剰な添加剤を除去し、液晶層3を乾燥させる。その後、第2保護シート12を剥離する。
【0072】
実施例3では、液晶層3のうち、第1保護シート11及び第2保護シート12を接着しなかった領域を第1領域R1と称し、第1保護シート11を接着し第2保護シート12を接着しなかった領域を第2領域R2と称し、第1保護シート11及び第2保護シート12を接着した領域を第3領域R3と称する。第1領域R1には少なくとも2回の工程に亘って添加剤が浸透し、第2領域R2には添加剤が浸透しているものの第1領域R1より添加剤の添加量は少なく、第3領域R3にはほとんど添加剤が浸透していない。
【0073】
液晶層3に着目すると、第3領域R3は、見た目の変化はほとんどなかった。一方で、第2領域R2は、添加剤が浸透したことで膨潤し、添加剤を浸透させる前と比較して、見た目の色が変化していた。また、第3領域R3は、添加剤がさらに浸透したことで膨潤し、見た目の色が第2領域R2の色よりも長波長の色に変化していた。
【0074】
図21は、第2保護シート12を剥離した後の液晶層3を示す断面図である。
第1領域R1は、コレステリック液晶として、第1コレステリック液晶CL1を有している。第2領域R2は、コレステリック液晶として、第2コレステリック液晶CL2を有している。第3領域R3は、コレステリック液晶として、第3コレステリック液晶CL3を有している。
【0075】
第1コレステリック液晶CL1は、第2コレステリック液晶CL2と比較して、螺旋軸AX1に沿って膨潤している。第1コレステリック液晶CL1の第1螺旋ピッチP1は、第2コレステリック液晶CL2の第2螺旋ピッチP2より大きい。このため、第1領域R1で反射される選択反射帯域の中心波長は、第2領域R2で反射される選択反射帯域の中心波長よりも長波長である。
【0076】
第2コレステリック液晶CL2は、第3コレステリック液晶CL3と比較して、螺旋軸AX2に沿って膨潤している。第2コレステリック液晶CL2の第2螺旋ピッチP2は、第3コレステリック液晶CL3の第3螺旋ピッチP3より大きい。このため、第2領域R2で反射される選択反射帯域の中心波長は、第3領域R3で反射される選択反射帯域の中心波長よりも長波長である。
【0077】
また、第1領域R1に形成される反射面321の第2主面F2に対する第1傾斜角度θ11は、第2領域R2に形成される反射面321の第2主面F2に対する第2傾斜角度θ12より大きい。また、第2傾斜角度θ12は、第3領域R3に形成される反射面321の第2主面F2に対する第3傾斜角度θ13より大きい。図示した例では、第1傾斜角度θ11、第2傾斜角度θ12、及び、第3傾斜角度θ13は、いずれも第2主面F2に対して時計回りの鋭角である。
【0078】
図22は、液晶光学素子100の光学作用を説明するための図である。図中に、透明基板1の法線を点線で示している。図22には、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ1の光及び第1領域R1の反射面321で反射された光を太線で示し、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ2の光及び第2領域R2の反射面321で反射された光を一点鎖線で示し、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ3の光及び第3領域R3の反射面321で反射された光を細線で示し、液晶光学素子100を透過する光の図示を省略している。波長λ1は波長λ2よりも長波長であり、波長λ2は波長λ3よりも長波長である。
【0079】
第1主面F1から入射した波長λ1の光は、第1領域R1の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を導光される。
第1主面F1から入射した波長λ2の光は、第2領域R2の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を導光される。
第1主面F1から入射した波長λ3の光は、第3領域R3の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を導光される。図示した例の場合、波長λ1の光、波長λ2の光、及び、波長λ3の光は、いずれも透明基板1の内部を図の左から右に向かって導光される。
このような実施例3によれば、上記の実施例1で得られる効果に加えて、液晶層3に添加される添加剤の添加量を部分的に異ならせることにより、選択反射帯域のさらなる広帯域化が可能となる。
【0080】
《実施例4》
まず、図10に示したステップST1乃至ST7を経て透明基板1の上に配向膜2及び液晶層3を形成する。
【0081】
図23は、配向膜2の近傍に位置する液晶分子LM11の配向パターンを示す図である。液晶層3は点線で示している。
第2方向A2に沿って並んだ液晶分子LM11の配向方向は、一定角度ずつ異なっている。液晶層3は、互いに配向パターンが異なる領域として、第1領域R1及び第2領域R2を有している。図示した例では、液晶層3のうち、第2方向A2に沿って図の左から右に向かうにしたがって、配向方向が時計回りに一定角度ずつ異なる領域を第1領域R1と称する。また、液晶層3のうち、第2方向A2に沿って図の左から右に向かうにしたがって、配向方向が反時計回りに一定角度ずつ異なる領域を第2領域R2と称する。複数の第1領域R1及び複数の第2領域R2は、第2方向A2に沿って交互に並んでいる。
一方、第3方向A3に沿って並んだ液晶分子LM11の配向方向は、略一致している。
【0082】
上記の実施例2で説明したように、第1領域R1には保護シートを接着することなく添加剤を浸透させ、第2領域R2には保護シートを接着して添加剤の浸透を抑制する。これにより、第1領域R1は、第2領域R2と比較して膨潤する。詳述しないが、第1領域R1のコレステリック液晶の螺旋ピッチは、第2領域R2のコレステリック液晶の螺旋ピッチより大きい。このため、第1領域R1で反射される選択反射帯域の中心波長は、第2領域R2で反射される選択反射帯域の中心波長よりも長波長である。
【0083】
図24は、液晶光学素子100の光学作用を説明するための図である。図中に、透明基板1の法線を点線で示している。図24には、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ1の光及び第1領域R1の反射面321で反射された光を太線で示し、法線に沿って液晶光学素子100に入射する波長λ2の光及び第2領域R2の反射面321で反射された光を細線で示し、液晶光学素子100を透過する光の図示を省略している。波長λ1は、波長λ2よりも長波長である。なお、図24では、配向膜の図示を省略している。
【0084】
図23を参照して説明したように、第1領域R1の配向パターンは、第2領域R2の配向パターンとは異なる。但し、第1領域R1のコレステリック液晶の旋回方向は、第2領域R2のコレステリック液晶の旋回方向と同一である。
【0085】
第1領域R1に形成される反射面321の第2主面F2に対する第1傾斜角度θ11は、第2主面F2に対して時計回りの鋭角である。第2領域R2に形成される反射面321の第2主面F2に対する第2傾斜角度θ12は、第2主面F2に対して反時計回りの鋭角である。また、第1傾斜角度θ11は、第2傾斜角度θ12より大きい。
【0086】
第1主面F1から入射した波長λ1の光は、第1領域R1の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を図の左から右に向かって導光される。
第1主面F1から入射した波長λ2の光は、第2領域R2の反射面321で反射された後、透明基板1と空気との界面、及び、液晶層3と空気との界面において、反射を繰り返しながら、液晶光学素子100の内部を図の右から左に向かって導光される。
このような実施例4によれば、上記の実施例1で得られる効果に加えて、液晶層3に部分的に添加剤を浸透させることにより、選択反射帯域の広帯域化が可能となり、さらには、異なる波長の光を異なる方向に導光することができる。
【0087】
《適用例》
次に、本実施形態に係る液晶光学素子100の適用例として、太陽電池装置200について説明する。
【0088】
図25は、太陽電池装置200の外観の一例を示す図である。
太陽電池装置200は、上記した液晶光学素子100と、発電装置210と、を備えている。発電装置210は、例えば液晶光学素子100の一辺に沿って設けられている。発電装置210と対向する液晶光学素子100の一辺は、図1に示した透明基板1の側面S1に沿った辺である。このような太陽電池装置200において、液晶光学素子100は、発電装置210に所定波長の光を導く導光素子として機能する。なお、発電装置210は、液晶光学素子100の複数の辺に沿って設けられてもよい。
【0089】
発電装置210は、複数の太陽電池を備えている。太陽電池は、光を受光して、受光した光のエネルギーを電力に変換するものである。つまり、太陽電池は、受光した光によって発電する。太陽電池の種類は、特に限定されない。例えば、太陽電池は、シリコン系太陽電池、化合物系太陽電池、有機物系太陽電池、ペロブスカイト型太陽電池、又は、量子ドット型太陽電池である。シリコン系太陽電池としては、アモルファスシリコンを備えた太陽電池や、多結晶シリコンを備えた太陽電池などが含まれる。
【0090】
図26は、太陽電池装置200の動作を説明するための図である。
透明基板1の第1主面F1は、屋外に面している。液晶層3は、屋内に面している。図26において、配向膜の図示を省略している。
【0091】
液晶層3は、例えば、図1に示したように赤外線Iの第1円偏光を反射するように構成されている。なお、液晶層3は、赤外線Iの第1円偏光及び第2円偏光をそれぞれ反射するように構成されてもよい。
【0092】
液晶層3で反射された赤外線Iは、側面S1に向かって液晶光学素子100を導光される。発電装置210は、側面S1を透過した赤外線Iを受光して発電する。
【0093】
太陽光のうちの可視光V及び紫外線Uは、液晶光学素子100を透過する。特に、可視光Vの主要な成分である第1成分(青成分)、第2成分(緑成分)、及び、第3成分(赤成分)の各々は、液晶光学素子100を透過する。このため、太陽電池装置200を透過した光の着色を抑制することができる。また、太陽電池装置200における可視光Vの透過率の低下を抑制することができる。
また、上記の液晶光学素子100を適用することにより、発電に利用できる帯域を拡大することができ、発電効率(変換効率)を向上することができる。
【0094】
以上説明したように、本実施形態によれば、光を導光する際の損失を抑制することが可能な液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法を提供することができる。
【0095】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
100…液晶光学素子
1…透明基板 F1…第1主面 F2…第2主面 S1…側面
2…配向膜 3…液晶層 321…反射面 4…添加剤
R1…第1領域 R2…第2領域 R3…第3領域
10…保護シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
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図26