(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169699
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20231122BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20231122BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20231122BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231122BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231122BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20231122BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20231122BHJP
B22F 1/105 20220101ALN20231122BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/08 130
H01F1/059 160
B22F3/00 C
B22F1/00 Y
B22F1/052
C22C38/00 303D
B22F1/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080979
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】多田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】麻田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将裕
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC28
4K018BD01
4K018KA45
4K018KA46
5E040AA03
5E040BB05
5E040CA01
5E040NN06
5E062CD05
5E062CE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】混練安定性が高くトランスファー成形に適し、磁気特性に優れたボンド磁石を製造するための磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法は、平均粒径が1μm以上10μm以下である磁性粉末、熱硬化性樹脂及び硬化剤を準備する工程と、磁性粉末、熱硬化性樹脂及び硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程と、を含む。磁性粉末、熱硬化性樹脂及び硬化剤を準備する工程において、熱硬化性樹脂と硬化剤との合計量のうち、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとの合計量が33体積%以上100体積%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1μm以上10μm以下である磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程と、
前記磁性粉末、前記熱硬化性樹脂、および前記硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程と
を含み、
前記準備する工程において、前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との合計量のうち、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとの合計量が33体積%以上100体積%以下である
ことを特徴とする、磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程において、前記磁性粉末の量は、前記磁性粉末含有樹脂組成物に対して50体積%以上99.9体積%以下である、
請求項1に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記準備する工程において、前記磁性粉末がSmFeN系磁性粉末を含む、
請求項1または2に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記SmFeN系磁性粉末の粒度分布(D90-D10)/D50が2.5以下である、
請求項3に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記準備する工程において、前記SmFeN系磁性粉末のリン酸塩含有量が0.5質量%より大きく4.5質量%以下であり、かつ炭素含有量が800ppm以下である、
請求項3に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記準備する工程において、前記熱硬化性モノマーがエポキシ樹脂を含む、
請求項1または2に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、またはビスフェノール型エポキシ樹脂である、
請求項6に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記準備する工程において、前記硬化剤モノマーが、芳香族アミン型硬化剤である、
請求項1または2に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の製造方法により磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程と、
前記磁性粉末含有樹脂組成物を粉砕して粉砕物を得る工程と、
前記粉砕物を圧縮する工程と
を含む、トランスファー成形用タブレットの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法によりトランスファー成形用タブレットを得る工程と、
前記トランスファー成形用タブレットを軟化し金型内に充填する工程と、
金型内で磁気を印加しながら充填物を熱硬化する工程と
を含む、ボンド磁石の製造方法。
【請求項11】
前記熱硬化する工程において、熱処理温度が150℃以上である、請求項10に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項12】
前記熱硬化する工程において、前記熱処理温度での保持時間が30秒以上である、請求項11に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項13】
前記熱硬化する工程において、前記熱処理温度での保持時間が5分以下である、請求項11に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項14】
前記充填する工程において、充填圧力が5MPa以上30MPa以下である、請求項10に記載のボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性の高いボンド磁石を得るためには、樹脂バインダーと磁性粉末の最適な組み合わせを選択することが重要である。例えば、NdFeB系磁性粉末やSmFeN系磁性粉末などの耐熱性が低い磁性粉末を用いる場合、樹脂バインダーとしてポリフェニレンサルファイドや芳香族ナイロン、66ナイロン等の高融点の熱可塑性樹脂を用いると成形温度が高くなり、得られるボンド磁石は保磁力が不十分となる。これに対し、比較的低温で成形できる熱硬化性樹脂を用いると、耐熱性が低い磁性粉末と組み合わせても高い保磁力を得られる。
また、熱硬化性樹脂を使用して複雑形状の成形品を得るためには、トランスファー成形が行われる。トランスファー成形では磁性粉末と樹脂組成物を含む混練物を金型キャビティに移送して加熱硬化が行われる。
【0003】
トランスファー成形用ボンド磁石材料の混練物の製造方法としては、有機溶媒に溶解させた樹脂組成物と磁性粉末とを混練してから有機溶媒を除去する手法と、樹脂組成物と磁性粉末を混練装置内で加熱混練する手法とがあるが、製造コストの増加や成形品への有機溶媒の残留等の懸念から、加熱混練する手法が好ましい。一方で、混練時の樹脂組成物の粘度が高いと、混練安定性の低下や金型キャビティへの充填効率の低下につながる。
【0004】
ボンド磁石を作製する際、1μm以上10μm以下といった小さい粒径の磁性粉末で構成されるボンド磁石も存在する。例えば、SmFeN系異方性磁性材料は、平均粒径約3μmにおいて260kOeを超える高い異方性磁界と高い飽和磁化を併せもつ磁性粉末であり、高充填することで高性能のボンド磁石を得ることができる。
【0005】
磁性粉末と樹脂組成物を含む混練物に関して、特許文献1は、SmFeN系磁性粉末、23℃で固形のエポキシ樹脂、および硬化剤を含むトランスファー成形用の樹脂成形材料を開示している。
【0006】
特許文献2は、熱硬化性樹脂と金属粉を含むコンパウンドから、トランスファー成形により複合材料を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-163833号公報
【特許文献2】国際公開第2019/198237号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
トランスファー成形用の磁粉樹脂複合材料を作製する際、増粘による混練安定性の悪化は、平均粒径の小さな磁性粉末を含んでいる場合により顕著になる。磁性粉末と樹脂組成物の混練時に粘度が上昇する理由として、混練時に小粒子の強い粒子間摩擦力に起因するせん断発熱により、樹脂バインダーと硬化剤の一部とで熱硬化が進行してしまうことが想定される。また磁力に優れたボンド磁石を得るために磁性粉末の充填率を高める必要があるが、充填率が高くなるほど上述したせん断発熱も大きくなるため、結果として、複合物の混練安定性や金型キャビティへの充填効率と、得られた磁石の磁気性能は二律背反の関係となる。しかしながら、磁性粉末微粒子に起因する増粘を抑え、磁性粉末を高充填化するためのトランスファー成形用ボンド磁石の配合設計はこれまで充分なされていなかった。本発明は、混練安定性が高くトランスファー成形に適しており、磁気特性に優れたボンド磁石を製造することができる磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様にかかる磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法は、平均粒径が1μm以上10μm以下である磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程と、前記磁性粉末、前記熱硬化性樹脂、および前記硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程とを含み、前記準備する工程において、前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との合計量のうち、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとの合計量が33体積%以上100体積%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様にかかるトランスファー成形用タブレットの製造方法は、前記製造方法により磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程と、前記磁性粉末含有樹脂組成物を粉砕して粉砕物を得る工程と、前記粉砕物を圧縮する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様にかかるボンド磁石の製造方法は、前記製造方法によりトランスファー成形用タブレットを得る工程と、前記トランスファー成形用タブレットを金型内に充填する工程と、金型内で磁気を印加しながら充填物を熱硬化する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記態様によれば、磁性粉末と樹脂成分との混練安定性が高くトランスファー成形に適しており、磁気特性に優れたボンド磁石を製造することができる磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ボンド磁石の暴露温度と不可逆減磁率の関係を示す。
【
図2】ボンド磁石の150℃への暴露時間と不可逆減磁率の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0015】
<<磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法>>
本実施形態の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法は、平均粒径が1μm以上10μm以下である磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程と、前記磁性粉末、前記熱硬化性樹脂、および前記硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程とを含み、前記準備する工程において、前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との合計量のうち、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとの合計量が33体積%以上100体積%以下であることを特徴とする。
【0016】
<磁性粉末>
磁性粉末の材料は特に限定されず、SmFeN系、NdFeB系、SmCo系の希土類磁性材料などが挙げられる。なかでも、耐熱性や、保磁力などの磁気特性の点の他、Dy、Tb、Coのような希少金属を必要としないという点で、SmFeN系磁性粉末が好ましい。SmFeN系磁性粉末としては、Th2Zn17型の結晶構造をもち、一般式がSmxFe100-x-yNyで表される希土類金属Smと鉄Feと窒素Nからなる窒化物が挙げられる。ここで、xは、8.1原子%以上10原子%以下、yは13.5原子%以上13.9原子%以下、残部が主としてFeとされることが好ましい。
【0017】
SmFeN系磁性粉末は、特開平11-189811号公報に開示された方法により製造できる。NdFeB系磁性粉末は、国際公開第2003/85147号公報に開示されたHDDR法により製造できる。SmCo系磁性粉末は、特開平08-260083号公報に開示された方法により製造できる。
【0018】
これらの磁性粉末は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、磁性粉末全体に占めるSmFeN系磁性粉末の割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、磁性粉末全体に占めるSmFeN系磁性粉末の割合は100質量%以下であってよい。磁性粉末全体に占めるSmFeN系磁性粉末の割合が上記の範囲内であることで、得られるボンド磁石の保磁力が高くなる傾向がある。
【0019】
磁性粉末は、例えば特開2017-43804号公報に示される方法よりシランカップリング剤で表面処理したものを用いることができる。
【0020】
磁性粉末の平均粒径は1μm以上10μm以下であるが、磁気特性の点より1μm以上6μm以下が好ましく、2μm以上4μm以下がより好ましい。磁性粉末の平均粒径が10μm以下であると、磁粉の保磁力の低下を抑制できる傾向がある。また、磁性粉末の平均粒径が1μmを下回ると、大気に曝した際に酸化劣化を生じやすく、保磁力が低下する傾向がある。本明細書における平均粒径は、特に断らない限り、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製 HELOS)で測定して定まる体積平均粒径(ボリュームミーディアン径、VMD)である。また、平均粒径は、2種以上の磁性粉末を組み合わせて用いる場合にはその全体について測定した粒径である。磁性粉末の平均粒径が上述の範囲内であると高い磁気特性を有する磁性粉末を用いつつ、樹脂との混練物の粘度上昇抑制の効果がより大きくなることで、より優れたボンド磁石を作製することができる。
【0021】
また、磁性粉末のD50は1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上6μm以下がより好ましく、2μm以上4μm以下がさらに好ましい。D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製 HELOS)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定することで得られる、小径側からの粒度分布の積算値が50%に相当する粒径である。磁性粉末のD50は、2種以上の磁性粉末を組み合わせて用いる場合にはその全体について測定した粒径である。
【0022】
<SmFeN系磁性粉末>
磁性粉末としてSmFeN系磁性粉末を用いる場合、SmFeN系磁性粉末は、異方性であることが好ましい。SmFeN系磁性粉末が異方性である場合、残留磁束密度がより高くなり、等方性SmFeN系磁性粉末を用いたボンド磁石と比較し、より磁気特性の優れたボンド磁石となる傾向がある。また、SmFeN系磁性粉末は、保磁力と耐熱性を向上するために、表面にリン酸塩が被覆されたものであることが好ましい。SmFeN系磁性粉末のリン酸塩含有量は、0.5質量%より大きく4.5質量%以下が好ましく、0.8質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.9質量%以上1.5質量以下がさらに好ましい。リン酸塩含有量が0.5質量%以下の場合、リン酸塩による被覆の効果が小さくなる傾向があり、4.5質量%を超えるとリン酸塩被覆されたSmFeN系磁性粉末同士が凝集して保磁力が低下する傾向がある。なお、磁性粉末のリン酸塩含有量は、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定されるP含有量からのPO4分子換算量で表す。
【0023】
[リン酸処理工程]
リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末は、例えば、SmFeN系磁性粉末、水、およびリン酸化合物を含むスラリーに対して無機酸を添加する方法により得られる。リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末は、SmFeN系磁性粉末に含まれる金属成分(例えば鉄やサマリウム)とリン酸化合物に含まれるリン酸成分とが反応することによりリン酸塩(例えばリン酸鉄、リン酸サマリウム)がSmFeN系磁性粉末の表面において析出することによって形成される。溶媒を水とすることによって、溶媒を有機溶媒とする場合と比べて、粒径が小さいリン酸塩が析出するので、被覆部が緻密なリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末が得られ、保磁力(iHc)が向上すると考えられる。
【0024】
SmFeN系磁性粉末、水、およびリン酸化合物を含むスラリーを作製する方法は、特に限定されないが、例えば、水を溶媒としてSmFeN系磁性粉末とリン酸化合物を含むリン酸水溶液とを混合することによって得られる。スラリー中のSmFeN系磁性粉末の含有量は、例えば1質量%以上50質量%以下であり、生産性の点から5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。スラリー中のリン酸成分(PO4)の含有量は、PO4換算量で、例えば0.01質量%以上10質量%以下であり、金属成分とリン酸成分との反応性や生産性の点から0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0025】
リン酸水溶液はリン酸化合物と水を混合することによって得られる。リン酸化合物としては、例えば、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどのリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸系、ポリリン酸系などの無機リン酸等、有機リン酸が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、被覆部の耐水性、耐食性や磁性粉末の磁気特性を向上する目的で、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩、クロム酸塩などのオキソ酸塩等、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなどの酸化剤等、EDTAなどのキレート剤等を添加剤として用いることができる。
【0026】
リン酸水溶液におけるリン酸の濃度(PO4換算量)は、例えば5質量%以上50質量%以下であり、リン酸化合物の溶解度、保存安定性や化成処理のし易さの点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。リン酸水溶液のpHは、例えば1以上4.5以下であり、リン酸塩の析出速度を制御しやすい点から1.5以上4以下であることが好ましい。pHは希塩酸、希硫酸などにより調整できる。
【0027】
リン酸処理工程においては、無機酸を添加することによりスラリーのpHを1以上4.5以下に調整することが好ましく、1.6以上3.9以下に調整することがより好ましく、2以上3以下に調整することがさらに好ましい。pHをこれらの範囲に調整することにより、pHを調整しない場合と比べて、リン酸塩の析出量を多くすることができ、被覆部の厚みが厚いリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末が得られるので、保磁力(iHc)が向上すると考えられる。pH1未満では、局部的に多量に析出したリン酸塩を起点としてリン酸塩被覆されたSmFeN系磁性粉末同士が凝集し、保磁力が低下する傾向がある。pH4.5を超えるとリン酸塩の析出量が減少することにより被覆が不十分となり保磁力が低下する傾向がある。添加する無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、ほう酸、フッ化水素酸が挙げられる。リン酸処理工程中は、上記pHの範囲となるように、無機酸を随時添加する。廃液処理の観点から無機酸を使用するが、目的に応じて有機酸を併用することができる。有機酸としては酢酸、蟻酸、酒石酸等が挙げられる。
【0028】
SmFeN系磁性粉末、水、およびリン酸化合物を含むスラリーをpH1以上4.5以下の範囲にする調整を10分間以上行うことが好ましく、被覆部の厚さが薄い部分を減らす観点から30分間以上行うことがより好ましい。pH維持の初期はpHの上昇が早いためにpH制御用の無機酸の投入間隔が短いが、被覆が進むとともに次第にpH変動が緩やかになり、無機酸の投入間隔が長くなることから反応終点が判断できる。
【0029】
[リン酸処理後の酸化工程]
リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末は、必要に応じて酸化処理を行ってもよい。リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末を酸化処理することにより、リン酸塩により被覆されている母材のSmFeN系磁性粉末の表面が酸化されて酸化鉄層が形成され、リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末の耐酸化性が向上する。また、酸化することにより、ボンド磁石作製時にリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末が高温に曝された際に、SmFeN粒子表面での好ましくない酸化還元反応、分解反応や変質を抑制することができ、結果として磁気特性、特に固有保磁力(iHc)の高い磁石を得ることができる。
【0030】
酸化処理は、例えば、リン酸処理後のSmFeN系磁性粉末を、酸素含有雰囲気下で熱処理することにより行う。反応雰囲気は窒素、アルゴンなどの不活性ガス中に酸素を含むことが好ましい。酸素濃度は3%以上21%以下が好ましく、3.5%以上10%以下がより好ましい。酸化反応中は磁性粉末1kgに対して2L/分以上10L/分以下の流速でガスを交換することが好ましい。
【0031】
酸化処理時の温度は150℃以上250℃以下が好ましく、170℃以上230℃以下がより好ましい。150℃未満では酸化鉄層の生成が不十分であり、耐酸化性が小さくなる傾向がある。250℃を超えると酸化鉄層が過剰に形成し、保磁力が低下する傾向がある。反応時間は3時間以上10時間以下が好ましい。
【0032】
リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末は、炭素含有量が800ppm以下であることが好ましく、600ppm以下であることがより好ましい。炭素含有量は、リン酸塩中の有機不純物量を示しており、炭素含有量が800ppmを超えるとボンド磁石を作製する過程において、リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末が高温にさらされることで有機不純物が分解し被覆部に欠陥が生じるため、保磁力が低下する傾向がある。ここで、炭素含有量は、TOC法によって測定することができる。
【0033】
[シリカ処理工程]
リン酸処理後のSmFeN系磁性粉末は、必要に応じてシリカ処理を行ってもよい。磁性粉末にシリカ薄膜を形成することにより、耐酸化性を向上できる。シリカ薄膜は、例えば、アルキルシリケート、リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末、およびアルカリ溶液を混合することにより形成できる。
【0034】
[シランカップリング処理工程]
シリカ処理後の磁性粉末を、さらにシランカップリング剤で処理してもよい。シリカ薄膜が形成された磁性粉末をシランカップリング処理することで、シリカ薄膜上にカップリング剤膜が形成され、磁性粉末の磁気特性が向上するとともに、樹脂との濡れ性、磁石の強度を改善することができる。シランカップリング剤は、樹脂の種類に合わせて選定すればよく特に限定されないが、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチレンジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、オレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ポリエトキシジメチルシロキサン、ポリエトキシメチルシロキサン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、1,3,5-N-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、t-ブチルカルバメートトリアルコキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンプロパンアミン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。シランカップリング剤の添加量は、磁性粉末100重量部に対して、0.2重量部以上0.8重量部以下が好ましく、0.25重量部以上0.6重量部以下がより好ましい。0.2重量部未満ではシランカップリング剤の効果が小さく、0.8重量部を超えると、磁性粉末の凝集により、磁性粉末や磁石の磁気特性を低下させる傾向がある。
【0035】
リン酸処理工程後、酸化工程後、シリカ処理、或いはシランカップリング処理後のSmFeN系磁性粉末は、常法により、ろ過、脱水、乾燥を行うことができる。
【0036】
SmFeN系磁性粉末の粒径D10は、1μm以上3μm以下が好ましく、1.5μm以上2.5μm以下がより好ましい。SmFeN系磁性粉末の粒径D10が1μm未満では、磁性粉末が酸化劣化されやすいためボンド磁石の保磁力が低下し、さらに混練物の粘度上昇に伴いボンド磁石中の磁性粉末の充填量が小さくなるため残留磁束密度が低下する。一方でSmFeN系磁性粉末の粒径D10が3μmを超えると、ボンド磁石の保磁力が低下する傾向がある。D10とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製 HELOS)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定することで得られる、小径側からの粒度分布の積算値が10%に相当する粒径である。後述のD50、D90も同様の装置での測定によって得られる、小径側からの粒度分布の積算値50%および90%に対応するそれぞれ50%粒径および90%粒径である。
【0037】
SmFeN系磁性粉末の粒径D50は、2.5μm以上5μm以下が好ましく、2.7μm以上4.8μm以下がより好ましい。SmFeN系磁性粉末の粒径D50が、2.5μm以上であると、ボンド磁石中の磁性粉末の残留磁束密度の低下を抑制し、5μm以下であると、ボンド磁石の保磁力の低下を抑制する傾向がある。SmFeN系磁性粉末が異方性である場合、SmFeN系磁性粉末の粒径D50が上述の範囲内にあることによる効果がより大きくなる傾向がある。
【0038】
SmFeN系磁性粉末の粒径D90は、3μm以上7μm以下が好ましく、4μm以上6μm以下がより好ましい。3μm未満では、ボンド磁石中の磁性粉末の充填量が小さくなるため磁化が低下し、7μmを超えると、ボンド磁石の保磁力が低下する傾向がある。
【0039】
SmFeN系磁性粉末の下記式で定義される粒度分布は2.5以下が好ましく、2以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。粒度分布が上述の範囲内であると、SmFeN系磁性粉末を用いたボンド磁石の保磁力がより高くなる傾向があり、粒度分布が2以下の場合には、さらに保磁力が高くなる傾向がある。
粒度分布=(D90-D10)/D50
【0040】
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程において、残留磁束密度の高いボンド磁石を得るために、磁性粉末の含有量(充填率)は、磁性粉末含有樹脂組成物に対して50体積%以上99.9体積%以下であることが好ましく、55体積%以上90体積%以下であることがより好ましく、60体積%以上85体積%以下であることがさらに好ましい。磁性粉末の充填率を上述の範囲とすることで、得られるボンド磁石の残留磁束密度をより高くすることができる。また、磁性粉末の充填率を60体積%以上とする場合、本発明の混練安定性向上の効果がより大きくなり、かつ、充填率を高くできることで、より磁気特性に優れたボンド磁石が得られる。なお、充填率は、磁性粉末に上述のシリカ処理やシランカップリング処理を行う場合、シリカ処理後の磁性粉末の充填率を意味する。
【0041】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、アクリル樹脂、アリルカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂は、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーを含むことを特徴とする。ここで、熱硬化性モノマーとは、繰り返し単位が1つである熱硬化性樹脂のことである。なお、後述のように硬化剤として硬化剤モノマーを含んでいる場合、熱硬化性樹脂は必ずしも、熱硬化性モノマーを含んでいる必要はない。
【0043】
熱硬化性モノマーは結晶性であり、融点を有する。融点は70℃超140℃以下であるが、80℃以上130℃以下が好ましく、90℃以上125℃以下がより好ましい。熱硬化性モノマーの融点が70℃より高いと、熱硬化の反応性が顕著に高くなることを抑制でき、混練時の増粘を低減できる傾向があり、融点が140℃以下であると混練時の温度を低温とできるため、混練時の熱硬化反応を低減できる傾向がある。
【0044】
融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーとしては、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、構造中にフェニル基を有するものが好ましく、例えば、アリール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。これらのなかでは、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビフェニル型エポキシ樹脂の具体例として、YX4000、YX4000K(三菱ケミカル(株)製)が挙げられ、ビスフェノール型エポキシ樹脂の具体例としてYSLV-70XY、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、融点約80℃)が挙げられる。融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーは、2官能であることが好ましい。
【0045】
熱硬化性樹脂として、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーとともに、それ以外の熱硬化性樹脂を併用してもよい。このような熱硬化性樹脂として、融点が70℃以下または140℃超の熱硬化性モノマー、熱硬化性オリゴマー、熱硬化性ポリマー、非結晶性の熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性オリゴマー、熱硬化性ポリマー、非結晶性の熱硬化性樹脂は繰り返し単位が2つ以上で、融点をもたない熱硬化性樹脂のことである。熱硬化性オリゴマーとしてはエポキシ樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられ、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、アリール型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、アルケニル型エポキシ樹脂、アルキル型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂(ノボラック型エポキシ樹脂)が挙げられる。これらのなかでは、多官能型エポキシ樹脂が好ましい。多官能型エポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールビフェニレン型エポキシ樹脂が好ましく、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂がより好ましい。トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂の具体例としては、EPPN-201(日本化薬(株)製)が挙げられる。多官能型とすることで、硬化物の耐熱性を高くすることができる。
【0046】
<硬化剤>
硬化剤は、熱硬化性樹脂を熱硬化するものであれば特に限定されず、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、たとえばアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、ポリメルカプタン樹脂系硬化剤、ポリスルフィド樹脂系硬化剤、有機酸ヒドラジド系硬化剤などが挙げられる。
【0047】
硬化剤は、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーを含むことを特徴とする。ここで、硬化剤モノマーとは、繰り返し単位が1つである硬化剤のことである。なお、前述のように熱硬化性樹脂として熱硬化性モノマーを含む場合、硬化剤は必ずしも、硬化剤モノマーを含んでいる必要はない。
【0048】
硬化剤モノマーは結晶性であり、融点を有する。融点は70℃超140℃以下であるが、80℃以上130℃以下が好ましく、90℃以上125℃以下がより好ましい。融点が70℃より高いと、熱硬化の反応性が顕著に高くなることを抑制でき、混練時の増粘を低減できる傾向があり、融点が140℃以下であると混練時の温度を低温とできるため、混練時の熱硬化反応を低減できる傾向がある。
【0049】
融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとしては、アリール型フェノール硬化剤、アラルキル型フェノール硬化剤、アルケニル型フェノール硬化剤、アルキル型フェノール硬化剤等のフェノール硬化剤モノマー、芳香族アミン、脂肪族アミンなどのアミン系硬化剤モノマーが挙げられる。これらのなかでは、アミン系硬化剤モノマーが好ましく、芳香族アミン硬化剤がより好ましい。芳香族アミン硬化剤の具体例として、ビスアニリンM(三井化学ファイン株式会社製、融点約115℃)、ジアミノジフェニルメタン(三井化学ファイン株式会社製、MDA-100、融点約92℃)が挙げられる。融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーは、多官能であることが好ましく、2官能であることがより好ましい。
【0050】
硬化剤として、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとともに、それ以外の硬化剤を併用してもよい。このような硬化剤として、融点が70℃以下または140℃超の硬化剤モノマーや、硬化剤オリゴマー、硬化剤ポリマー、非結晶性の硬化剤が挙げられる。硬化剤オリゴマー、硬化剤ポリマー、非結晶性の硬化剤とは、繰り返し単位が2つ以上で、融点をもたない熱硬化性樹脂のことである。硬化剤オリゴマーとしては、フェノール樹脂系硬化剤、ポリアミド系硬化剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール樹脂系硬化剤が好ましい。フェノール樹脂としては、アリール型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、アルキル型フェノール樹脂、多官能型フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂)が挙げられる。これらのなかでは、多官能型フェノール樹脂が好ましい。多官能型フェノール樹脂としては、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、フェノールビフェニレン型フェノール樹脂が好ましく、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂がより好ましい。トリスフェノールメタン型フェノール樹脂の具体例としては、MEH-7500(明和化成(株)製)が挙げられる。多官能型とすることで、硬化物の耐熱性を高くすることができる。
【0051】
<量比>
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程において、熱硬化性樹脂と硬化剤との合計量のうち、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとの合計量は、33体積%以上100体積%以下であり、40体積%以上90体積%以下であることが好ましく、50体積%以上80体積%以下であることがより好ましい。当該準備工程では、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーのいずれかまたは両方により前記合計量を充足すればよく、両方を使用する必要はないが、少なくとも融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーを使用することが好ましい。
【0052】
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程において、特定の融点の熱硬化性樹脂モノマーと硬化剤モノマーとの合計量を33体積%以上とすることにより、磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤の混合物を混練する際に、硬化反応の進行による粘度上昇を防ぐことができる。その結果、混練安定性を向上でき、トランスファー成形における磁性粉末含有樹脂組成物の金型キャビティへの充填効率を向上できる。上述の合計量が33体積%未満では、混練時に粘度が上昇し、金型キャビティへの充填効率が低下する傾向がある。また、上述の合計量が90体積%以下のときには熱硬化に必要な時間を短くできる傾向があり、上述の合計量が80体積%以下である場合には、その効果がより大きくなる傾向がある。なお、磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程において、磁性粉末含有樹脂組成物に対して、磁性粉末の充填率が62体積%を超える場合、熱硬化性樹脂および硬化剤が、特定の融点の熱硬化性樹脂モノマーと硬化剤モノマーのみからなると、磁性粉末と樹脂とが分離してしまい、混練できなくなってしまう場合がある。そのため磁性粉末の充填率をさらに高くする際には、特定の融点の熱硬化性樹脂モノマーと硬化剤モノマーの合計量が90体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましい。
【0053】
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤の合計量中、熱硬化性樹脂の含有量は、8体積%以上40体積%以下が好ましく、流動性を確保する観点から15体積%以上30体積%以下がより好ましい。磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤の合計量中、硬化剤の含有量は、2体積%以上22体積%以下が好ましく、8体積%以上15体積%以下がより好ましい。磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤の合計量中、熱硬化性樹脂の含有量が8体積%以上であることで、ボンド磁石作製時の流動性を向上させられる傾向があり、40体積%以下であることで、磁性粉末の充填率を向上でき、得られるボンド磁石の磁気特性をより高くすることができる。また、磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤の合計量中、硬化剤の含有量が上述の範囲内にあることで、磁性粉末含有樹脂組成物の製造時の混練において、硬化反応の進行を低減できる場合がある。
【0054】
<任意成分>
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程において、さらに、硬化促進剤、滑剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤などの樹脂添加剤、熱可塑性樹脂、無機フィラーなどの任意成分を用いてもよい。
【0055】
硬化促進剤としては、イミダゾリウム塩、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、イミダゾール類、アミン類、ジアザビシクロ化合物、フェノール塩、フェノールノボラック塩などが挙げられる。硬化促進剤を含む場合は、磁性粉末、熱硬化性樹脂、硬化剤、および任意成分の合計量中の含有量は0.01体積%以上3体積%以下が好ましい。
【0056】
滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リノール酸亜鉛、リノール酸カルシウム、2-エチルヘキソイン酸亜鉛、安息香酸鉛、パラターシャリーブチル安息香酸亜鉛、パラターシャリーブチル安息香酸バリウムなどが挙げられる。滑剤を含む場合は、磁性粉末、熱硬化性樹脂、硬化剤、および任意成分の合計量中の含有量は0.01体積%以上1体積%以下が好ましい。滑剤の含有量が0.01体積%以上であることで、樹脂組成物の混練安定性を高めることができる。また、滑剤の含有量が1体積%以下であることで、磁粉の充填率を高めることができ、得られるボンド磁石の磁気特性を向上することができる。
【0057】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤を含む場合は、磁性粉末、熱硬化性樹脂、硬化剤、および任意成分の合計量中の含有量は0.01体積%以上1体積%以下が好ましい。
【0058】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミドやエラストマーなどが挙げられる。熱可塑性樹脂の混合により、硬化物の機械特性を向上させることができる。熱硬化性樹脂を含む場合、熱硬化性樹脂と熱可塑性エラストマーとの質量比率が99:1から80:20の範囲が好ましく、耐衝撃性の点から95:5から90:10の範囲がより好ましい。
【0059】
無機フィラーとしては、タルク、シリカなどが挙げられる。無機フィラーを含む場合は、磁性粉末、熱硬化性樹脂、硬化剤、および任意成分の合計量中の含有量は1体積%以上20体積%以下が好ましい。
【0060】
<混練>
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程に次いで、前記磁性粉末、前記熱硬化性樹脂、および前記硬化剤を、70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る。
【0061】
磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤の混練方法は特に限定されず、単軸混練機、二軸混練機、ニーダー等の混練機を用いて行うことができる。混練時の温度は70℃超140℃以下であり、75℃以上135℃以下が好ましく、80℃以上130℃以下がより好ましい。70℃以下では熱硬化性樹脂、および硬化剤が十分に融解せず、磁性粉末の分散が不十分となる傾向があり、140℃を超えると硬化反応の進行により粘度が上昇する傾向がある。また、前記温度における混練時間は磁性粉末の分散度合いと粘度上昇の抑制とのバランスから、1分以上10分以下が好ましく、3分以上6分以下がより好ましい。前記温度にて混練後、降温する。降温後の温度は、例えば室温とすることができる。
【0062】
<<トランスファー成形用タブレットの製造方法>>
本実施形態のトランスファー成形用タブレットの製造方法は、前記製造方法により磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程と、前記磁性粉末含有樹脂組成物を粉砕して粉砕物を得る工程と、前記粉砕物を圧縮する工程とを含むことを特徴とする。
【0063】
粉砕物を得る工程では、前記製造方法により得られた磁性粉末含有樹脂組成物を粉砕する。粉砕は、ボールミル、ハイスピードミキサー、擂潰機などの装置により行うことができる。
【0064】
圧縮する工程では、粉砕された磁性粉末含有樹脂組成物を圧縮する。圧縮は、磁性粉末含有樹脂組成物の粉砕物を金型に充填し、例えば2MPa以上20MPa以下で加圧することによって行う。
【0065】
本実施形態の製造方法で得られるタブレットは、混練安定性が高く、高温でも低粘度で金型内への充填効率が高いため、トランスファー成形用のタブレットとして好適に使用できる。
【0066】
<<ボンド磁石の製造方法>>
本実施形態のボンド磁石の製造方法は、前記製造方法によりトランスファー成形用タブレットを得る工程と、前記トランスファー成形用タブレットを軟化し金型内に充填する工程と、金型内で磁気を印加しながら充填物を熱硬化する工程とを含むことを特徴とする。
【0067】
充填する工程では、トランスファー成形用タブレットを軟化し、金型内に充填する。トランスファー成形用タブレットを軟化するための金型温度(軟化温度)は、80℃超200℃以下が好ましく、150℃以上180℃以下がより好ましい。軟化温度を上述の範囲内とすることで、成形材料の酸化劣化を抑制しつつ、充分な流動性を確保できる傾向がある。軟化物を金型に充填する際の充填圧力は5MPa以上30MPa以下が好ましく、5MPa以上15MPa以下がより好ましい。充填圧力を上記の範囲内とすることで、金型内への軟化物の充填が十分に行われ、目的の形状としつつ、かつ、トランスファー成形時のバリの発生を抑制することができる。また、熱硬化性樹脂材料を用いた成形方法としては、上述のようなトランスファー成形のほかに、成形圧力が200MPaを超え約15000MPaに達する圧縮成形も存在する。なお、圧縮成形においては、その成形圧力の高さにより、高粘度の樹脂組成物を用いても十分に充填することが可能である。そのため本実施形態における磁性粉末含有樹脂組成物は、混練安定性の観点で、成形時の圧力(充填圧力)が上述の範囲内になるようなトランスファー成形において、より高い効果が得られる。
【0068】
熱硬化する工程では、金型内で充填物に磁気を印加しながら熱硬化する。熱硬化のための熱処理温度は150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。熱硬化のために、前記熱処理温度での保持時間が30秒以上であることが好ましく、60秒以上であることがより好ましい。また、前記熱処理温度での保持時間が5分以下であることが好ましく、3分以下であることがより好ましい。
【0069】
熱硬化する工程では、磁場を印加しながら熱硬化することにより、磁性粉末の磁化容易軸を揃える(配向する)ことができる。配向磁場は電磁石や永久磁石を用いて発生させることができ、磁場の大きさは4kOe以上が好ましく、6kOe以上がより好ましい。
【0070】
熱硬化後は、硬化物を金型から取り出し、必要に応じて空芯コイルもしくは着磁ヨークで着磁することにより、ボンド磁石を得ることができる。着磁磁場の大きさは、20kOe以上が好ましく、30kOe以上がより好ましい。
【実施例0071】
(1)磁性粉末の製造
製造例1
純水2.0kgにFeSO4・7H2O 5.0kgを混合溶解した。さらにSm2O3 0.49kgと70%硫酸0.74kgとを加えてよく攪拌し、完全に溶解させた。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/L、Sm濃度が0.112mol/Lとなるように調整し、SmFe硫酸溶液とした。
【0072】
[沈殿工程]
温度が40℃に保たれた純水20kg中に、調製したSmFe硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液を滴下させ、pHを7~8に調整した。これにより、SmFe水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離した。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0073】
[酸化工程]
沈殿工程で得られた水酸化物を大気中1000℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のSmFe酸化物を得た。
【0074】
[前処理工程]
SmFe酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、前処理温度の850℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。非分散赤外吸収法(ND-IR)(株式会社堀場製作所製EMGA-820)により酸素濃度を測定したところ、5質量%であった。これにより、Smと結合している酸素は還元されず、Feと結合している酸素のうち、95%が還元される黒色の部分酸化物を得たことがわかった。
【0075】
[還元工程]
前処理工程で得られた部分酸化物60gと平均粒径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。1045℃まで上昇させて、45分間保持することにより、Fe-Sm合金粒子を得た。
【0076】
[窒化工程]
引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、温度を450℃まで上昇させて、そのまま23時間保持して、磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0077】
[水洗工程]
窒化工程で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌およびデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌およびデカンテーションを2回繰り返し行い、続いて脱水と乾燥後、機械的解砕処理を行うことでSmFeN系磁性粉末(平均粒径(D50)約3μm)を得た。
【0078】
[リン酸処理工程]
リン酸処理液として、85%オルトリン酸:リン酸二水素ナトリウム:モリブデン酸ナトリウム2水和物=1:6:1の重量比で混合し、純水と希塩酸でpHを2.5、PO4濃度を20質量%に調整したものを準備した。水洗工程で得られたSmFeN系磁性粉末1000gを塩化水素:70gの希塩酸中で1分間攪拌して表面酸化膜や汚れ成分を除去した後、上澄み液の導電率が100μS/cm以下になるまで排水と注水を繰り返し、SmFeN系磁性粉末を10質量%含むスラリーを得た。得られたスラリーを撹拌しながら、準備したリン酸処理液100gを処理槽中に全量投入した後、6質量%の塩酸を随時投入することでリン酸処理反応スラリーのpHを2.5±0.1の範囲にて制御し30分間維持した。続いて吸引濾過、脱水し、真空乾燥することでリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末(残留磁束密度Br:13.0kG、保磁力iHc:19.8kOe、平均粒径3.32μm、D10;1.59μm、D50;3.24μm、D90;5.15μm、粒度分布1.10)を得た。
【0079】
製造例2
製造例1と同様の方法でリン酸処理工程までを実施し、磁性粉末を得た。その後、後述のリン酸処理後の酸化工程をさらに行うことで、製造例2の磁性粉末を得た。
[リン酸処理後の酸化工程]
リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末1000gを窒素とエアーの混合ガス(酸素濃度4%、5L/min)雰囲気下で室温から徐々に昇温し、最高温度200℃で8時間の熱処理を実施し、酸化処理されたSmFeN系磁性粉末(残留磁束密度Br:13.0kG、保磁力iHc:20.2kOe、平均粒径3.34μm、D10;1.60μm、D50;3.28μm、D90;5.22μm、粒度分布1.11)を得た。
【0080】
製造例3
製造例1と同様の方法で水洗工程までを実施し、磁性粉末を得た。リン酸処理液として、85%オルトリン酸:リン酸二水素ナトリウム:モリブデン酸ナトリウム2水和物=1:6:1の重量比で混合し、純水と希塩酸でpHを2.5、PO4濃度を20質量%に調整したものを準備した。水洗工程で得られたSmFeN系磁性粉末1000gを塩化水素:70gの希塩酸中で1分間攪拌して表面酸化膜や汚れ成分を除去した後、上澄み液の導電率が100μS/cm以下になるまで排水と注水を繰り返し、SmFeN系磁性粉末を10質量%含むスラリーを得た。得られたスラリーを撹拌しながら、準備したリン酸処理液100gを処理槽中に全量投入した。リン酸処理反応スラリーのpHは5分かけて2.5から6に上昇した。15分攪拌した後に吸引濾過、脱水し、真空乾燥することでリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末(残留磁束密度Br:13.1kG、保磁力iHc:15.2kOe、平均粒径3.37μm、D10;1.63μm、D50;3.28μm、D90;5.22μm、粒度分布1.09)を得た。
【0081】
製造例4
[還元工程2]
平均粒径(D50)約50μmの鉄粉末52.5gと、平均粒径(D50)3μmの酸化サマリウム粉末21.3gと、金属カルシウム10.5gとの混合粉末を充填した坩堝を炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。1150℃まで上昇させて5時間保持することにより、Fe-Sm合金粒子を得た。
【0082】
[窒化工程2]
続いて、上記Fe-Sm合金粒子をアンモニア―水素混合ガス中、420℃で23時間の熱処理を実施し、磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0083】
[水洗工程2]
窒化工程で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌およびデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌およびデカンテーションを2回繰り返し行った。続いて脱水と乾燥処理を行うことでSmFeN系磁性粉末(D50;30μm)を得た。
【0084】
[リン酸処理工程2]
得られた磁性粉末15gを、85%オルトリン酸水溶液0.44g、イソプロパノール(IPA)100ml、直径10mmのアルミナビーズ200gをガラス瓶に封入し、振動式ボールミルで120分間の粉砕処理を実施した。その後、スラリーをろ過した後、100℃の真空乾燥を実施し、リン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末(残留磁束密度Br:11.5kG、保磁力iHc:12.3kOe、平均粒径3.96μm、D10;0.98μm、D50;3.12μm、D90;7.74μm、粒度分布2.17)を得た。
【0085】
[磁粉評価]
(磁粉の残留磁束密度(Br)、保磁力(iHc))
製造例1から4で得られたリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末について、VSM(振動試料型磁力計 理研電子社製;型式:BHV-55)を用いて磁気特性(残留磁化σr、固有保磁力iHc)を測定した。また、残留磁化σr(単位:emu/g)に計算式(Br=4×π×ρ×σr、ρ:密度=7.66g/cm3)を用いて残留磁束密度Br(単位:kG)を算出した。結果を表1に示す。
【0086】
(DSC発熱開始温度)
製造例1から4で得られたリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末を20mg計量し、高温型示差走査熱分析装置(DSC6300、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、エアー雰囲気(200mL/min)、室温から400℃(昇温速度:20℃/min)、リファレンス:アルミナ(20mg)の測定条件でDSC分析を行い、発熱開始温度を測定した。DSC結果を表1に示す。発熱開始温度が高いことは、酸化による発熱が起こりにくいことから、リン酸被覆がより緻密に形成されていることを意味する。
【0087】
(α-Feピークハイト比)
製造例1から4で得られたリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末を粉末X線結晶回折装置(リガク社製、X線波長:CuKa1)にてXRDパターンを測定した。α-Feの(110)面の回折ピーク強度をSm2Fe17N3の(300)面のピーク強度で除した後10000倍した値をα-Feピークハイト比として求めた。結果を表1に示す。α-Feピークハイト比が低いことは不純物であるα-Feの含有量が低いことを意味する。
【0088】
(PO4付着量)
製造例1から4で得られたリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末中のP濃度を、ICP発光分光分析法(ICP-AES)を用いて測定し、PO4分子量に換算してPO4付着量を求めた。結果を表1に示す。
【0089】
(全炭素含有量)
製造例1から4で得られたリン酸塩被覆SmFeN系磁性粉末中の全炭素(TC)含有量を、燃焼触媒酸化式全有機炭素(TOC)計(島津製作所社製;型式:SSM-5000A)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
表1より、水溶媒中にてリン酸処理時のpH調整を行った製造例1は、水溶媒中でpH調整を行わなかった製造例3と比べて保磁力(iHc)が高かった。イソプロパノール溶媒中にてpH調整を行わなかった製造例4は保磁力が最も低かった。
【0092】
(2)磁性粉末含有樹脂組成物の製造
実施例1
(シリカ処理)
磁粉1(製造例1のSmFeN系磁性粉末)、エチルシリケート40、および12.5重量%のアンモニア水を、それぞれ97.8:1.8:0.4の重量比で、ミキサーで混合した。混合物を真空中200℃で加熱して、粒子表面にシリカ薄膜が形成された磁粉1(シリカ処理後磁粉)を得た。
【0093】
(シランカップリング処理)
上記により得られたシリカ薄膜が形成された磁粉1と、12.5重量%のアンモニア水をミキサー内で混合した後、50重量%γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液をミキサーにて混合した。シリカ薄膜が形成された磁粉1と12.5重量%のアンモニア水とγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液との重量比は、それぞれ99.4:0.2:0.4であった。その混合物を100℃の窒素雰囲気下で10時間乾燥し、シランカップリング処理された磁粉1(CP処理後磁粉)を得た。
(混練)
表2記載の配合に従い、シランカップリング処理された磁粉1、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、滑剤を計量・混練した。続いて、ニーダー混練(130℃、10rpm、滞留時間6分間)により、磁性粉末と熱硬化性樹脂組成物からなる磁性粉末含有樹脂組成物を得た。
【0094】
実施例2から7、比較例1から7
使用する磁粉を表2に従い変更した以外は、実施例1と同じ方法でシリカ処理、シランカップリング処理、および混練を行い、磁性粉末と熱硬化性樹脂組成物からなる磁性粉末含有樹脂組成物を得た。なお、比較例3から5では、表2の記載に従い、製造例の磁粉をそれぞれ混合しており、磁性粉末全体の粒径は平均粒径51.2μm、D10:2.07μm,D50:5.33μm,D90:51.2μm、粒度分布9.21であった。
【表2】
【0095】
表2で示す各成分の詳細は下記の通りである。
(i)NdFeB磁性粉末(磁粉2)
MF-18P(愛知製鋼(株)製、残留磁束密度Br:12.5kG、保磁力iHc:17.4kOe、平均粒径118.5μm、D10;47.1μm、D50;113.5μm、D90;197.6μm、粒度分布1.33)
(ii)熱硬化性樹脂
YX4000K(三菱ケミカル(株)製、ビフェニル系エポキシ樹脂、融点105℃)
EPPN-201(日本化薬(株)製、トリフェニルメタン系エポキシ樹脂(熱硬化性オリゴマー))
ジエポキシオクタン(東京化成工業製、融点7℃)
(iii)硬化剤
ビスアニリンM(三井化学ファイン株式会社製、融点115℃)
MEH-7500(明和化成(株)製、ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂(硬化剤オリゴマー))
1,12-ジアミノドデカン(東京化成工業製、融点70℃)
(iv)硬化促進剤
キュアゾール2PHZ-PW
(v)滑剤
ベヘン酸カルシウム
【0096】
[評価]
(混練安定性と、混練物の硬化時間)
混練時のトルクをモニターし、混練安定性を評価した。また、得られた混練物0.2gを180℃に加熱したホットプレート上で練りながら、完全に硬化するまでの時間(キュアタイム)を計測した。結果を表3に示す。
【0097】
(ボンド磁石の流動性)
磁性粉末含有樹脂組成物をハイスピードミルで粉砕し、続いて、組成物パウダーを金型に充填し、0.5MPaで圧縮することで、タブレット(形状:φ14―T40)を作製した。タブレットをトランスファー成形機のポットに入れ、注入圧10MPa、注入速度20mm/s、配向磁場:6kOeで180℃に加熱した3tバーフロー金型(キャビティ形状:W10×L70×t3)へ注入し、硬化させ、ボンド磁石成形品を得た。得られた成形品の長手寸法を測定することで、流動性を評価した。結果を表3に示す。
【0098】
(ボンド磁石の磁気特性および耐熱性)
磁性粉末含有樹脂組成物をハイスピードミルで粉砕し、続いて、組成物パウダーを金型に充填し、0.5MPaで圧縮することで、タブレット(形状:φ14―T20)を作製した。タブレットをトランスファー成形機のポットに入れ、注入圧10MPa、注入速度20mm/sで180℃に加熱した円柱金型(キャビティ形状:φ10×t7、外部磁界6kOe)へ注入し、硬化させ、ボンド磁石成形品を得た。得られた成形品を6Tで着磁した後、BHトレーサーを用いて磁気特性(固有保磁力iHc、残留磁束密度Br)の測定を行った。結果を表3に示す。
【0099】
また、着磁後の磁石について120~200℃の所定温度のオーブンに1hr大気暴露し、フラックスメータ―により、試験前後の磁石のトータルフラックスを測定することで、磁石の耐熱性(不可逆減磁率)を評価した。温度150℃については1000hrまで測定を継続し、長期耐熱性(不可逆減磁率)を評価した。不可逆減磁率は、以下の計算式で求めた。結果を
図1および2に示す。
不可逆減磁率(%)=(トータルフラックス(0hrの値)-トータルフラックス(所定時間後の値))/トータルフラックス(0hrの値)×100
【0100】
【0101】
表3に示すように、比較例1、2、および7の磁性粉末含有樹脂組成物は、特定の融点を有する熱硬化性モノマーと硬化剤モノマーの合計量の比率が33体積%を下回るため、混練安定性に劣り、トランスファー成形できなかった。比較例3から6の磁性粉末含有樹脂組成物はボンド磁石の保磁力に劣っていた。
図1から2に示すように、比較例4から6の磁性粉末含有樹脂組成物から得られたボンド磁石は不可逆減磁率が大きく耐熱性に劣っており、実施例1や4のボンド磁石は耐熱性が向上していた。実施例1から7の磁性粉末含有樹脂組成物は混練安定性、ボンド磁石の保磁力、および耐熱性が優れていた。
【0102】
本開示(1)は平均粒径が1μm以上10μm以下である磁性粉末、熱硬化性樹脂、および硬化剤を準備する工程と、前記磁性粉末、前記熱硬化性樹脂、および前記硬化剤を70℃超140℃以下で混練した後、降温することにより磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程とを含み、前記準備する工程において、前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との合計量のうち、融点が70℃超140℃以下である熱硬化性モノマーと、融点が70℃超140℃以下である硬化剤モノマーとの合計量が33体積%以上100体積%以下であることを特徴とする、磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0103】
本開示(2)は前記磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程において、前記磁性粉末の量は、前記磁性粉末含有樹脂組成物に対して50体積%以上99.9体積%以下である、本開示(1)に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0104】
本開示(3)は前記準備する工程において、前記磁性粉末がSmFeN系磁性粉末を含む、本開示(1)または(2)に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0105】
本開示(4)は前記SmFeN系磁性粉末の粒度分布(D90-D10)/D50が2.5以下である、本開示(3)に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0106】
本開示(5)は前記準備する工程において、前記SmFeN系磁性粉末のリン酸塩含有量が0.5質量%より大きく4.5質量%以下であり、かつ炭素含有量が800ppm以下である、本開示(3)または(4)に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0107】
本開示(6)は前記準備する工程において、前記熱硬化性モノマーがエポキシ樹脂を含む、本開示(1)から(5)のいずれかに記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0108】
本開示(7)は前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、またはビスフェノール型エポキシ樹脂である、本開示(6)に記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0109】
本開示(8)は前記準備する工程において、前記硬化剤モノマーが、芳香族アミン型硬化剤である、本開示(1)から(7)のいずれかに記載の磁性粉末含有樹脂組成物の製造方法である。
【0110】
本開示(9)は本開示(1)から(8)のいずれかに記載の製造方法により磁性粉末含有樹脂組成物を得る工程と、前記磁性粉末含有樹脂組成物を粉砕して粉砕物を得る工程と、前記粉砕物を圧縮する工程とを含む、トランスファー成形用タブレットの製造方法である。
【0111】
本開示(10)は本開示(9)に記載の製造方法によりトランスファー成形用タブレットを得る工程と、前記トランスファー成形用タブレットを軟化し金型内に充填する工程と、金型内で磁気を印加しながら充填物を熱硬化する工程とを含む、ボンド磁石の製造方法である。
【0112】
本開示(11)は前記熱硬化する工程において、熱処理温度が150℃以上である、本開示(10)に記載のボンド磁石の製造方法である。
【0113】
本開示(12)は前記熱硬化する工程において、前記熱処理温度での保持時間が30秒以上である、本開示(11)に記載のボンド磁石の製造方法である。
【0114】
本開示(13)は前記熱硬化する工程において、前記熱処理温度での保持時間が5分以下である、本開示(11)または(12)に記載のボンド磁石の製造方法である。
【0115】
本開示(14)は前記充填する工程において、充填圧力が5MPa以上30MPa以下である、本開示(10)から(13)のいずれかに記載のボンド磁石の製造方法である。