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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169790
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20231122BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H01L21/324 X
H01L21/316 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081119
(22)【出願日】2022-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】小貫 駿
【テーマコード(参考)】
5F058
【Fターム(参考)】
5F058BC02
5F058BE01
5F058BF56
5F058BF62
5F058BJ01
(57)【要約】
【課題】金属汚染を受けたシリコンウェーハを酸化熱処理する際に、金属汚染起因のOSF形成を抑制することができるシリコンウェーハの熱処理方法を提供する。
【解決手段】金属汚染されたシリコンウェーハに酸化熱処理を行う熱処理方法であって、シリコンウェーハを室温で熱処炉内に搬入し、非酸化性雰囲気に置換後、シリコンウェーハにおいて推定される汚染金属の汚染濃度に固溶度が一致する固溶限界温度と、シリコンウェーハの金属汚染後の熱履歴における最高温度とのうち高い方の温度以上、かつ、シリコンの融点未満の温度で、シリコンウェーハに熱処理を行うことにより、シリコンウェーハの表面の金属析出物を溶解させる第1の熱処理と、その後、降温せずに酸化性雰囲気に置換し、第1の熱処理の熱処理温度以上、かつ、シリコンの融点未満の温度でシリコンウェーハに熱処理を行って酸化させる第2の熱処理と、を含むシリコンウェーハの熱処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属汚染されたシリコンウェーハに酸化熱処理を行う熱処理方法であって、
前記シリコンウェーハを室温で熱処炉内に搬入し、該熱処理炉内を非酸化性雰囲気に置換後、該非酸化性雰囲気下、前記シリコンウェーハにおいて推定される汚染金属の汚染濃度に固溶度が一致する固溶限界温度と、前記シリコンウェーハの金属汚染後の熱履歴における最高温度とのうち高い方の温度以上、かつ、シリコンの融点未満の温度で、前記シリコンウェーハに熱処理を行うことにより、前記シリコンウェーハの表面の金属析出物を溶解させる第1の熱処理と、
該第1の熱処理後、降温せずに前記熱処理炉内を酸化性雰囲気に置換し、該酸化性雰囲気下、前記第1の熱処理の熱処理温度以上、かつ、シリコンの融点未満の温度で前記シリコンウェーハに熱処理を行うことにより、前記シリコンウェーハを酸化させる第2の熱処理と、
を含むことを特徴とするシリコンウェーハの熱処理方法。
【請求項2】
前記シリコンウェーハにおける汚染金属の汚染濃度を、該シリコンウェーハの不純物分析、または、前記シリコンウェーハに施してきた工程の環境汚染試験から推定することを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属汚染されたシリコンウェーハの酸化熱処理を行う熱処理方法であって、特に、上記酸化熱処理を行う際に、金属汚染起因の酸化誘起積層欠陥(Oxidation induced stacking fault、以下OSFとも言う)の形成を抑制することができるシリコンウェーハの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造工程において、歩留まり低下の原因としてOSFの存在が挙げられる。OSFは結晶成長時に導入される微小欠陥や、シリコンウェーハの金属汚染が原因となり、半導体デバイスの製造における酸化工程等で顕在化し、半導体デバイスのリーク電流を増加させ、デバイス不良の原因となる。
以上のことから、OSFによる半導体デバイスの電気的特性の劣化を防ぐため、OSF形成を低減させる必要がある。OSFを低減させる方法としては、還元性雰囲気で高速加熱・急速冷却熱処理(RTA)を加える行うことが提案されている(例えば特許文献1)。またOSF顕在化熱処理の前に酸素含有雰囲気、アルゴン雰囲気、水素含有雰囲気等の熱処理を加えることで、その後OSFが顕在化する条件で熱処理を施してもOSFフリーとなる方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【0003】
しかし、特許文献1はRTA熱処理中にOSF発生の起因となる金属汚染を受ける可能性がある。更に、急速加熱・急速冷却を行う設備を必要とするため簡便ではない。また、特許文献2に記載の方法では、金属汚染を避け、尚且つ結晶成長時に導入される微小欠陥が起因となるOSFの形成を避けるものであり、金属汚染を受けたシリコンウェーハについて、金属汚染起因のOSF発生を低減するものではない。
【0004】
金属汚染起因のOSF形成を低減するためには、金属汚染そのものを避けること、また、ゲッタリングによりデバイスを作製するシリコンウェーハ表層への影響を避ける手法などが考えられるが、金属汚染を完全に防ぐことは難しく、またゲッタリング機構を利用するには時間とコストを要する。
【0005】
特許文献3では非酸化性雰囲気下での400℃~500℃の温度で10分~100時間熱処理する事前熱処理により結晶起因のOSF形成の低減が提案されているが、昇温時に関する記載がなく、また、指定された温度範囲では金属汚染起因のOSF形成の低減効果は見込めない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-326790号公報
【特許文献2】特開2000-277528号公報
【特許文献3】特開平5-213696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、金属汚染を受けたシリコンウェーハを酸化熱処理する際に、金属汚染起因のOSF形成を抑制することができるシリコンウェーハの熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、金属汚染されたシリコンウェーハに酸化熱処理を行う熱処理方法であって、
前記シリコンウェーハを室温で熱処炉内に搬入し、該熱処理炉内を非酸化性雰囲気に置換後、該非酸化性雰囲気下、前記シリコンウェーハにおいて推定される汚染金属の汚染濃度に固溶度が一致する固溶限界温度と、前記シリコンウェーハの金属汚染後の熱履歴における最高温度とのうち高い方の温度以上、かつ、シリコンの融点未満の温度で、前記シリコンウェーハに熱処理を行うことにより、前記シリコンウェーハの表面の金属析出物を溶解させる第1の熱処理と、
該第1の熱処理後、降温せずに前記熱処理炉内を酸化性雰囲気に置換し、該酸化性雰囲気下、前記第1の熱処理の熱処理温度以上、かつ、シリコンの融点未満の温度で前記シリコンウェーハに熱処理を行うことにより、前記シリコンウェーハを酸化させる第2の熱処理と、
を含むことを特徴とするシリコンウェーハの熱処理方法を提供する。
【0009】
このような本発明のシリコンウェーハの熱処理方法によれば、金属汚染されてしまったシリコンウェーハに酸化熱処理を施す際、たとえゲッタリング機構などを持たない場合においても金属汚染起因のOSF形成を抑制することが可能である。
【0010】
このとき、前記シリコンウェーハにおける汚染金属の汚染濃度を、該シリコンウェーハの不純物分析、または、前記シリコンウェーハに施してきた工程の環境汚染試験から推定することができる。
【0011】
このようにして汚染金属の汚染濃度を推定することができ、その汚染濃度に固溶度が一致する固溶限界温度を求めることができる。ひいては第1の熱処理における熱処理温度を決めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリコンウェーハの熱処理方法であれば、金属汚染後のシリコンウェーハを酸化熱処理しても、金属汚染起因のOSF形成を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のシリコンウェーハの熱処理方法の工程の一例を示すフロー図である。
図2】実施例1の工程を示すフロー図である。
図3】比較例1の工程を示すフロー図である。
図4】比較例2の工程を示すフロー図である。
図5】比較例3の工程を示すフロー図である。
図6】実施例1、比較例1-3のOSF密度を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述したようにシリコンウェーハは製造工程中の環境や熱処理等から金属汚染を受け、酸化熱処理をすると金属汚染起因のOSFが形成される場合がある。
その対策として前述のように、OSF形成を抑制する方法が模索され、様々な方法が提案されているが、金属汚染起因のOSF形成を避ける手法としては、いずれも金属汚染そのものを避ける手法である。そこで本発明者は、金属汚染後のシリコンウェーハであっても、OSF形成を抑制する方法を探るため、金属汚染起因のOSF形成機構の調査を進めた。
調査を進めた結果、OSF形成はシリコンウェーハ中の汚染金属の汚染濃度そのものではなく、酸化熱処理前のシリコンウェーハ表面の金属析出物密度に依存することが分かった。このことから、酸化熱処理前にシリコンウェーハ表面の金属析出物を溶解させる目的で非酸化性雰囲気における熱処理を施すことでOSF形成の抑制が可能ではないかと考え、本発明の発想に至った。
【0015】
本発明のシリコンウェーハの熱処理方法は、金属汚染されたシリコンウェーハの酸化熱処理を行う熱処理方法であり、図1はその工程の一例を示すフローチャートである。
図1に示すように本発明の熱処理方法は第1の熱処理と第2の熱処理を行う工程を含んでいる。なお、後述するように第2の熱処理には酸化熱処理の工程が含まれている。
まず、図1のS1のように、金属汚染されたシリコンウェーハを準備する。
シリコンウェーハ(以下、単にウェーハとも言う)自体は特に限定されず、例えばチョクラルスキー法で製造されたものでも良いし、フローティングゾーン法で製造されたものでも良い。金属汚染されたものであれば抵抗率や酸素濃度等も特に限定されないが、抵抗率が高抵抗率であり、酸素濃度が低酸素濃度の無欠陥のシリコンウェーハのようなゲッタリング能力を有していないシリコンウェーハに酸化熱処理を行う場合は、金属汚染起因のOSFが発生しやすいので、本発明を適用することが特に好ましい。
【0016】
汚染金属の種類としては、例えば、通常においてドーパント扱いされるものではなく汚染金属扱いされるものとすることができ、Fe、Ni、Co、Cuなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
また、汚染のされ方についても特に限定されない。試験等のために故意汚染したウェーハであっても良いし、このウェーハの準備工程の前に施してきたウェーハの製造工程中(例えば熱処理工程中)において金属汚染を受けたウェーハであっても良い。
なお、前者は意図的に汚染するためその汚染濃度は簡単に推定できる。また後者については、例えば、製造工程ごとに金属汚染についての検査(不純物分析)を日常的に行っておくことで、どのような装置の使用や処理で、処理されたシリコンウェーハに金属汚染が発生したか否か(金属汚染のタイミング)、また汚染金属種、汚染の度合いについての定量的なデータを得ることができる。当然、日常的に検査を行うケースだけでなく、必要な時に別個のシリコンウェーハを用いて検査を行っても良い。ここではこれらのような検査を環境汚染試験とも言う。この環境汚染試験により、準備したシリコンウェーハの汚染金属の汚染濃度を推定することが可能である。
あるいは準備したシリコンウェーハを不純物分析にかけることで汚染金属の汚染濃度を推定することもできる。
そして分析方法としては、全反射蛍光X線分析や、同一の工程を経たシリコンウェーハに対するSIMS測定などが挙げられる。
【0018】
次に図1のS2のように、酸化性雰囲気での熱処理を施す前に、ウェーハ表面の金属析出物を溶解させる目的で非酸化性雰囲気における第1の熱処理を行う。
この非酸化性雰囲気での熱処理の際、熱処理炉内へシリコンウェーハを搬入する際に、僅かに炉内に侵入する大気中の酸素による酸化によってOSFが発生してしまうこと防ぐため、シリコンウェーハは熱処理炉内に室温の状態で搬入し、炉内雰囲気を非酸化性雰囲気へ置換した後、所定の熱処理温度まで昇温して熱処理する。室温としては、例えば20~25℃とすることができる。
【0019】
非酸化性雰囲気での熱処理温度は、シリコンウェーハにおいて推定される汚染金属の汚染濃度に固溶度が一致する固溶限界温度と、シリコンウェーハの金属汚染後の熱履歴における最高温度とのうち高い方の温度以上とする。金属汚染後の熱履歴における最高温度以上の熱処理がOSF形成の抑制に有効である原理は詳細には明らかになっていないが、金属汚染後の熱処理中の応力や、格子間シリコンと空孔等の点欠陥などが金属析出、及びその核形成に関わっており、その形成温度以上の温度が金属析出物の溶解に必要とされることが推定される。したがって、もしも金属汚染後にシリコンウェーハに熱処理を特に施していないのであれば(熱履歴が特にないのであれば)、熱処理温度は固溶限界温度以上に設定すれば良い。
また熱処理温度の上限としてはシリコンの融点未満の温度とする。
このような温度範囲で熱処理することにより汚染金属は不飽和状態からシリコン中に固溶した安定な状態となり、表面(表層)に析出した汚染金属がシリコン中に溶解する。
汚染金属のシリコンウェーハ表面における析出物がOSF形成における核であるため、第1の熱処理(非酸化性雰囲気下の熱処理)によりシリコンウェーハ表面の金属析出物を溶解させることで、後工程の第2の熱処理時(酸化熱処理時)の金属汚染起因のOSF形成を抑制することが可能となる。
【0020】
ここで、推定される汚染金属の汚染濃度や汚染タイミングについては、図1のS1のウェーハ準備の工程でも説明した通り、不純物分析や環境汚染試験などから求めることができる。
また固溶限界温度については、従来から知られている、各種の汚染金属のシリコン中における固溶度と固溶限界温度との関係式から求めることができる。例えばNiの場合は以下の式1が知られている。この式1のNi固溶度[Ceq]に推定される汚染濃度を代入し、温度[T]について解くことで求めることができる。
Ceq=1.2×1024exp(-1.68/kT)
[ここでCeq:Ni固溶度(atoms/cm)、k:ボルツマン定数(eV/K)、T:温度(K)]…(式1)
(Weber, E. R.: Appl. Phys. A30 (1983) 1.参照)
またFe、Co、Cuなどは例えば以下のような関係式が知られている。
Fe:Ceq=4.3×1022exp(-2.1/kT)
(Aoki, M., Hara, A., Ohsawa, A. : J. Appl. Phys. 72 (1992) 895.参照)
Co:Ceq=1.0×1026exp(-2.83/kT)
(Weber, E. R. : Appl. Phys. A 30 (1983) 1.参照)
Cu:Ceq=5.5×1023exp(-1.49/kT)
(Weber, E. R., Wiehl, N. : Mater. Res. Soc. Svmp. Proc. 14 (1983) 19.参照)
【0021】
また、金属汚染されたシリコンウェーハに金属汚染後に別の熱処理が施されていた場合について例を挙げて説明する。この場合、前述したように非酸化性雰囲気における熱処理温度は、上記固溶限界温度か、金属汚染後の熱履歴における最高温度のいずれか高い方の温度以上とする。例えば、汚染金属として、Niにより約1013atoms/cm濃度で故意汚染された後、800℃の熱処理Hが施されたシリコンウェーハの場合を考える。このとき、Si中のNi固溶度が約1013atoms/cmに相当するのは、上記式1より約500℃である(固溶限界温度=約500℃)。一方で金属汚染後の熱履歴における最高温度は、上記熱処理Hの800℃である。したがって、汚染金属(Ni)の固溶限界温度よりも、金属汚染後でこれまでに受けた熱処理Hの温度の方が高いので、非酸化性雰囲気下の熱処理温度は800℃以上、シリコン融点未満を満たす温度とする。
【0022】
なお、ここで挙げたNiの故意汚染は汚染量を明確にして本発明の効果を分かりやすく示したにすぎず、前述したように本発明で言う金属汚染とは、故意汚染のみならず、シリコンウェーハが製造工程中に受ける環境汚染も含めることができる。
【0023】
また、非酸化性雰囲気における熱処理時間については限定されないが、特には汚染金属の拡散係数に依存させることができる。高温ほど短時間の熱処理で効果を発揮するが、汚染金属の拡散長が金属汚染された汚染シリコンウェーハ厚に相当する熱処理時間以上とするのが好ましい。このように汚染金属種、熱処理温度、シリコンウェーハの厚さ等に応じて適宜決定することができる。
【0024】
さらに図1のS3のように、上記第1の熱処理後、第2の熱処理を行う。このとき、冷却過程で再度金属析出物が形成されることを防ぐため、第1の熱処理での非酸化性雰囲気から降温せずに酸化性雰囲気へ置換し、該酸化性雰囲気で第1の熱処理の熱処理温度以上(かつ、シリコンの融点未満)の温度で熱処理を行う。このようにしてシリコンウェーハの酸化熱処理を行う。
このように第1の熱処理後、炉内温度を下げることなく連続的に酸化性雰囲気で第2の熱処理を行うことにより、第1の熱処理で溶解したOSF形成の核となる金属析出物が、冷却過程で再度析出してしまい、第2の熱処理工程でOSFが形成されてしまうことを回避することができる。
【0025】
なお、第2の熱処理時間は特に限定されず、例えば1分以上とすることができる。またその上限も特に限定されず、求める酸化膜厚等により適宜決定することができる。
【0026】
以上のような熱処理方法によって、金属汚染後のシリコンウェーハに酸化熱処理を施したとしても、金属汚染起因のOSFが形成されるのを、極めて効果的に、また、従来法よりも確実に防ぐことができる。
【実施例0027】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
CZ法により直径150mm、初期酸素濃度18ppma(JEIDA)、方位<100>のシリコン単結晶インゴットから、通常の方法でスライス、研磨し、デバイス作製に使用されるシリコンウェーハを作製した。
次に、図2に示すようにこのシリコンウェーハの表面にNiを約1013atoms/cmの濃度で故意汚染した。具体的にはNi原子吸光用標準液(1000mg/L=1000ppm)を純水で希釈した溶液をウェーハ表面にスピンコートすることにより行った。シリコンウェーハを熱処理炉内に室温で搬入し、窒素雰囲気中、1000℃、1hの熱処理後(以下、拡散熱処理とも言う)、-220℃/minで室温(25℃)まで冷却し、冷却後にシリコンウェーハを取り出した。このようにしてシリコンウェーハ表面にNiシリサイドを形成した。
【0028】
このシリコンウェーハ中のNi体積濃度は、表面汚染濃度が約1013atoms/cmであり、厚さが675μmであることから、約1.5×1014atoms/cmである。なお、式1から固溶度が約1.5×1014atoms/cmに相当する固溶限界温度を求めたところ約580℃であった。すなわち、故意汚染後の熱履歴における最高温度(上記拡散熱処理の1000℃)>固溶限界温度(約580℃)であった。
なお、別の同様のシリコンウェーハを準備し、上記と同様の熱処理炉で同様の熱処理を行い、熱処理前後のシリコンウェーハについてNi濃度を分析したところ、Ni濃度の増加量は上記の故意汚染量:約1.5×1014atoms/cmに比べて極微量であり無視できる程度であった。したがって、この拡散熱処理でのシリコンウェーハ外部からのNi汚染増加量は無視できる。
【0029】
次に表面のNiシリサイドを溶解させるため、シリコンウェーハを熱処理炉内に室温(25℃)で搬入し、熱処理炉内を窒素雰囲気に十分置換した後、該窒素雰囲気中で1000℃まで昇温し、3hの第1の熱処理を施した。
その後、温度を保ったまま雰囲気を酸素に置換し、酸素雰囲気中で1000℃、4hの第2の熱処理(酸化熱処理)を施した。
【0030】
第2の熱処理後のシリコンウェーハの酸化膜を5%フッ酸で除去し、選択エッチング液(IT液)を用いて1minの選択エッチングを施し、ウェーハ表面にエッチピットを形成し、シリコンウェーハの表面を光学顕微鏡で観察し、OSF密度を測定した。
【0031】
(比較例1)
図3に示すように、実施例1における第1の熱処理を行わなかったこと、第2の熱処理(酸化熱処理)の際の搬入の仕方以外は実施例1と同じ方法で熱処理を行った。より具体的には、実施例1と同様の故意汚染、拡散熱処理、冷却、ウェーハ取り出しを行った後、室温で搬入し、熱処理炉内を酸素雰囲気に置換し、該酸素雰囲気中で1000℃まで昇温し、4hの熱処理(酸化熱処理)を行った。その後、実施例1と同様にしてOSF密度を測定した。
【0032】
(比較例2)
図4に示すように、実施例1における第1の熱処理の際、シリコンウェーハを800℃で熱処理炉に投入してから1000℃まで昇温したこと以外は実施例1と同じ方法で熱処理を行い、OSF密度を測定した。
【0033】
(比較例3)
図5に示すように、実施例1における第1の熱処理温度を、拡散熱処理温度未満の800℃としたこと以外は実施例1と同じ方法で熱処理を行い、OSF密度を測定した。
【0034】
それぞれのOSF密度の測定結果を図6に示す。
実施例1と比較例1を比較すると、本発明における非酸化性雰囲気下の第1の熱処理を行うことにより(すなわち、実施例1)、金属汚染起因のOSF形成が抑制されていることがわかる。
また、実施例1と比較例2を比較すると、第1の熱処理において、高温の熱処理炉内にシリコンウェーハを搬入した場合(すなわち、比較例2)、OSF低減効果が低いことがわかる。
さらに、実施例1と比較例3を比較すると、固溶限界温度よりも高い、拡散熱処理温度(すなわち、汚染後にシリコンウェーハが受けた熱処理温度)以上の高温で第1の熱処理をしない場合(すなわち、比較例3)、OSF低減効果が低いことがわかる。
したがって本発明によれば、金属汚染されてしまったシリコンウェーハに対して酸化熱処理を行う際、金属汚染起因のOSF形成をたとえゲッタリング機構なしでも効果的に抑制することが可能である。
【0035】
ちなみに、実施例1の拡散熱処理はウェーハ表面に故意汚染したNiを表面からシリコン中へ拡散させるプロセスであり、今回、拡散熱処理温度の方が固溶限界温度よりも高い温度であったが、逆に固溶限界温度よりも低い温度で拡散熱処理をした場合では、ウェーハ表面のNiがシリコン中にその拡散熱処理での熱処理温度における固溶度までしか入っていかないため、第1の熱処理の温度をNiの固溶限界温度以上とすることにより金属汚染起因のOSFはほぼ発生しない。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6