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特開2023-169839ナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169839
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/185 20060101AFI20231122BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20231122BHJP
   C01C 1/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B01J27/185 M
C01C1/04 E
C01C1/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081197
(22)【出願日】2022-05-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「合金化と複合化による鉄ナノ触媒の革新」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】津田 智広
(72)【発明者】
【氏名】関根 泰
(72)【発明者】
【氏名】水谷 優太
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA05B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB13A
4G169BB13B
4G169BB14B
4G169BC01A
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC15A
4G169BC20A
4G169BC38A
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CB82
4G169DA06
4G169EA06
4G169EB14X
4G169EB19
4G169EC25
(57)【要約】
【課題】アンモニアの合成において鉄を触媒活性金属とする触媒として使用でき、かつ鉄の還元前処理が不要であるナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法を提供すること。
【解決手段】ナノリン化鉄粒子と担体とを備え、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合、Fe2p3/2スペクトルにおいて、前記ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有し、前記担体が、導電性物質を含む、複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノリン化鉄粒子と担体とを備え、
X線光電子分光法(XPS)により測定した場合、Fe2p3/2スペクトルにおいて、前記ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有し、
前記担体が、導電性物質を含む、複合体。
【請求項2】
前記導電性物質が、金属及び/又は金属酸化物を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記導電性物質が、金属酸化物を含み、前記金属酸化物が複合酸化物を含み、
前記複合酸化物が、遷移金属、第13族元素、及び/又は第14族元素と、必要に応じてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記遷移金属が、希土類金属及び/又はジルコニウムである、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
前記複合酸化物が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含み、
前記アルカリ金属が、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記アルカリ土類金属が、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3又は4に記載の複合体。
【請求項6】
前記ナノリン化鉄粒子が、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、48.3°、及び32.7°の回折角(2θ±0.5°)にピークを有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
前記粉末X線回折測定において、46.3°にピークをさらに有する、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記ナノリン化鉄粒子がロッド状粒子であり、前記ロッド状粒子の長軸方向の最大長が100nm未満である、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項9】
離間し、かつ対向して配置された一対の電極と、前記電極への電圧印加部と、アンモニア合成用反応器とを備え、
前記反応器が、前記一対の電極間に配置された請求項1に記載の複合体と、原料ガス導入口と、アンモニア含有ガス排出口とを有する、アンモニアの製造装置。
【請求項10】
離間し、かつ対向して配置された一対の電極間に配置された請求項1に記載の複合体の存在下、該電極間に水素と窒素とを供給し、該電極間に電圧を印加して、水素と窒素とを反応させる、アンモニアの製造方法。
【請求項11】
前記反応における温度が、350℃以下である、請求項10に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項12】
前記反応における圧力が、8MPa以下である、請求項10又は11に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項13】
前記電圧が、前記電極間に放電を生じない電圧である、請求項10又は11に記載のアンモニアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素(N2)は、945kJ/molの結合エネルギーを有する強固な三重結合によって2つの窒素原子が結合した、極めて安定な物質である。そのため、低温では上記結合を切断して窒素を解離又は活性化することは容易ではなく、窒素原子含有材料の製造原料として窒素を利用することも低温では容易ではないことを意味する。一方、窒素原子含有材料の一つであるアンモニア(NH3)は、人工肥料、次世代の水素のキャリア等の各種用途の製品において重要な化合物である。
【0003】
従来、アンモニアは、鉄系触媒を用いたハーバー・ボッシュ法により製造されてきた。ハーバー・ボッシュ法では、高温(約500℃)かつ高圧(約200気圧)下で反応を行う必要があるため、設備投資及び消費電力の増大、製造工程の煩雑化等の問題を有する。
【0004】
高温高圧条件の維持には莫大なエネルギーが必要であることもあって、アンモニアの合成については、ハーバー・ボッシュ法以外の方法が模索されており、ルテニウムなどの貴金属或いはニッケル、コバルトなどの非金属の鉄以外の金属を用いた触媒が開発されている(例えば、特許文献1)。また、鉄系触媒を使用する電場触媒反応を用いたアンモニアの合成も開発されている(特許文献2)。
【0005】
鉄系触媒は発火性があり、危険かつ取り扱いが難しいことに加えて、アンモニアの合成反応前に高温及び/又は高水素圧下において鉄の還元前処理が必要となる。そのような事情から、ルテニウムを使用する特許文献1のように、触媒金属として貴金属或いは非金属を用いた触媒が開発されていた。
【0006】
また、特許文献2のように、鉄系触媒を使用するアンモニアの合成方法も開発されていたが、鉄は非常に酸化しやすく、かつ比較的還元が困難であるため、結局のところ、鉄をアンモニア合成用触媒としてアンモニアの合成反応で使用する際には、高温及び/又は高圧での還元前処理が必須となっていた。例えば、特許文献2では、450℃で還元前処理を行っており、アンモニアの合成反応において、触媒を使用する度に450℃という高温での還元前処理が、使用前に必要になっていた。そのため、特許文献2の方法では、依然として、実質的に高温(約500℃)処理のハーバー・ボッシュ法と同程度の高温が触媒として使用する際には毎回必要となっていた。
【0007】
鉄は、地球上の存在するその存在量(埋蔵量)の多さから、コスト面でも工業的に有利であるため、アンモニア合成用触媒としても鉄の利用が望まれている。
しかしながら、鉄を触媒活性金属とするアンモニアの合成において、鉄の還元前処理を全く必要としない触媒は開発されておらず、鉄は非常に酸化しやすいという性質が原因となって還元前処理を全く必要としない鉄系触媒の開発は困難になっていた。このことは、特許文献2の実施例において、使用する際には、毎回450℃という高温の還元前処理をせざるを得ないという開示からも支持されるとおりである。
【0008】
上記のように、鉄系触媒をアンモニアの合成において使用する場合に、還元前処理が不要な状態として、存在するのみならず、還元前処理した後の状態を安定的に維持することは、極めて困難であった。
【0009】
このような事情から、鉄系触媒をアンモニアの合成において使用する場合には、触媒活性金属である鉄が、担体の上で、触媒活性を有する状態で製造されて直後に使用され、失活するという形態での利用が提案されていた。
【0010】
特許文献2を含めたこのような事情は、非常に酸化しやすいという性質を有する鉄を、触媒活性を有する状態で、安定的に存在させ続けることの困難性の高さを示している。
【0011】
一方、ナノサイズの金属粒子の1つとして、ナノサイズのリン化鉄粒子の製造方法も提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0012】
非特許文献1では、Fe2P粒子を製造したことがXRDパターン等でFig.2に開示されている。しかしながら、非特許文献1には、アンモニア合成用の触媒どころか、触媒としての使用は示唆されていない。さらに、非特許文献1の開示は、製造した粒子の形態を観察したことにとどまっていた。
本発明者らによれば、非特許文献1では、製造方法に起因して、製造されたFe2P粒子を触媒として利用できるように回収することが困難であるという事情が存在することが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2017-18907号公報
【特許文献2】特開2020-138183号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】“Triphenyl Phosphite as the Phosphorus Source for the Scalable and Cost-Effective Production of Transition Metal Phosphides”, Chemistry of Materials, Junfeng Liu et al., 2018,30,pp 1799-1807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、アンモニアの合成において鉄を触媒活性金属とする触媒として使用でき、かつ鉄の還元前処理が不要であるナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、鉄とリンを合金化し、ナノリン化鉄粒子を担体とともに複合体とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]ナノリン化鉄粒子と担体とを備え、
X線光電子分光法(XPS)により測定した場合、Fe2p3/2スペクトルにおいて、前記ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有し、
前記担体が、導電性物質を含む、複合体;
[2]前記導電性物質が、金属及び/又は金属酸化物を含む、[1]に記載の複合体;
[3]前記導電性物質が、金属酸化物を含み、前記金属酸化物が複合酸化物を含み、
前記複合酸化物が、遷移金属、第13族元素、及び/又は第14族元素と、必要に応じてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む、[2]に記載の複合体;
[4]前記遷移金属が、希土類金属及び/又はジルコニウムである、[3]に記載の複合体;
[5]前記複合酸化物が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含み、
前記アルカリ金属が、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記アルカリ土類金属が、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[3]又は[4]に記載の複合体;
[6]前記ナノリン化鉄粒子が、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、48.3°、及び32.7°の回折角(2θ±0.5°)にピークを有する、[1]に記載の複合体;
[7]前記粉末X線回折測定において、46.3°にピークをさらに有する、[6]に記載の複合体;
[8]前記ナノリン化鉄粒子がロッド状粒子であり、前記ロッド状粒子の長軸方向の最大長が100nm未満である、[1]又は[2]に記載の複合体;
[9]離間し、かつ対向して配置された一対の電極と、前記電極への電圧印加部と、アンモニア合成用反応器とを備え、
前記反応器が、前記一対の電極間に配置された[1]に記載の複合体と、原料ガス導入口と、アンモニア含有ガス排出口とを有する、アンモニアの製造装置;
[10]離間し、かつ対向して配置された一対の電極間に配置された[1]に記載の複合体の存在下、該電極間に水素と窒素とを供給し、該電極間に電圧を印加して、水素と窒素とを反応させる、アンモニアの製造方法;
[11]前記反応における温度が、350℃以下である、[10]に記載のアンモニアの製造方法;
[12]前記反応における圧力が、8MPa以下である、[10]又は[11]に記載のアンモニアの製造方法;
[13]前記電圧が、前記電極間に放電を生じない電圧である、[10]又は[11]に記載のアンモニアの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アンモニアの合成において鉄を触媒活性金属とする触媒として使用でき、かつ鉄の還元前処理が不要であるナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法を提供できる。
【0019】
また、本発明の複合体は、アンモニアの合成において、ハーバー・ボッシュ法等の従来技術に比べて緩やかな条件(低温及び/又は低圧等)で、アンモニアを製造できる。
【0020】
本発明のナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体は、地球上の存在する鉄の存在量(埋蔵量)の多さから、コスト面でも工業的に有利である。
【0021】
さらに、本発明によれば、特に電圧を印加するアンモニアの合成において、鉄を触媒活性金属とする触媒として使用でき、かつ鉄の還元前処理が不要であるナノリン化鉄粒子と担体とを含む複合体及びそれを用いたアンモニアの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A図1Aは、本発明と従来技術のアンモニア合成におけるメカニズムを説明する模式図を示す。
図1B図1Bは、アンモニアの製造装置の模式図を表す。
図2A図2Aは、本発明の複合体に係るナノリン化鉄粒子の透過電子顕微鏡(TEM)観察の画像を示す。
図2B図2Bは、本発明の複合体に係るナノリン化鉄粒子のHAADF-STEMによる観察の画像を示す。
図3A図3Aは、本発明の複合体に係る製造例1-1のナノリン化鉄粒子の粉末X線回折測定の測定結果を表す。
図3B図3Bは、本発明の複合体に係る製造例1-2のナノリン化鉄粒子の粉末X線回折測定の測定結果を表す。
図4A図4Aは、製造例1-1に係るナノリン化鉄粒子のXPS測定のFe2p3/2スペクトルの測定結果を表す。
図4B図4Bは、製造例1-2に係るナノリン化鉄粒子のXPS測定のP2pスペクトルの測定結果を表す。
図5A図5Aは、ナノリン化鉄粒子のFeのK吸収端のXANESの測定結果を表す。
図5B図5Bは、ナノリン化鉄粒子及び複合体のFe原子のK吸収端のFT-EXAFSの測定結果を表す。
図6A図6Aは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の大気条件下における昇温酸化法による質量変化の測定結果を表す。
図6B図6Bは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の大気条件下における昇温酸化法による微分スペクトルの測定結果を表す。
図7A図7Aは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の窒素雰囲気下における昇温還元法による質量変化の測定結果を表す。
図7B図7Bは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の窒素雰囲気下における昇温還元法による微分スペクトルの測定結果を表す。
図8A図8Aは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の水素雰囲気下における昇温還元法による質量変化の測定結果を表す。
図8B図8Bは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の水素雰囲気下における昇温還元法による微分スペクトルの測定結果を表す。
図9図9は、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の水素雰囲気下での加熱処理後のTEM観察の結果を表す。
図10A図10Aは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の水素雰囲気下での加熱処理後のXPS測定のFe2p3/2スペクトルの測定結果を表す。
図10B図10Bは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子の水素雰囲気下での加熱処理後のXPS測定のP2pスペクトルの測定結果を表す。
図10C図10Cは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子のFT-EXAFS測定の測定結果を表す。
図10D図10Dは、製造例1-3に係るナノリン化鉄粒子のXANES測定の測定結果を表す。
図11図11は、実施例2-1及び2-2に係る複合体を用いたアンモニア合成におけるアンモニアの製造速度の測定結果を表す。
図12図12は、実施例2-1に係る複合体を用いたアンモニア合成におけるアンモニアの製造速度の温度変化の測定結果を表す。
図13図13は、実施例2-1に係る複合体を用いたアンモニア合成の熱及び電場のサイクル試験の測定結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の各実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲(ナノリン化鉄粒子のサイズ等、ある成分(化合物等の材料)の使用量、温度、圧力、又は各数値範囲から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0024】
[複合体]
本発明のある実施形態としては、ナノリン化鉄粒子と担体とを備え、X線光電子分光法(XPS)により測定した場合、Fe2p3/2スペクトルにおいて、前記ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有し、前記担体が、導電性物質を含む、複合体が挙げられる。以下、実施形態毎に説明する。なお、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0025】
本発明の複合体に係るナノリン化鉄粒子においては、含まれる鉄原子が低原子価の状態であり、かつ低原子価の状態で大気条件下において安定である。すなわち、複合体に係るナノリン化鉄粒子の鉄原子が低原子価の状態を大気条件下において安定的に維持することができる。そのため、触媒として使用する際に還元前処理が不要である。さらに、触媒として使用した後も、鉄原子が低原子価の状態を維持できる。そのため、アンモニアの合成において、使用する度に鉄の還元前処理を全く必要としない。この点で従来の鉄系触媒と異なる。
【0026】
本発明の複合体が、優れた効果を奏する理由は定かではないが、以下のように推察される。
本発明の複合体を用いるアンモニアの製造方法における電場触媒反応として、電極に電圧を印加することで、大きく分けて以下の2つの現象が起きていると考えられる。
(I)低温においても窒素の解離が促進される。
(II)低温で触媒表面をプロトンが伝導及び拡散する。
【0027】
(I)と(II)の現象は、密接に関与していると考えられ、電圧の印加によって電場触媒反応において、下記式(1)に示すように、複合体に係る導電性物質を含む担体上で伝導しているプロトンが触媒活性金属に物理吸着している窒素分子へ衝突し、N2+中間体を与える。これにより窒素解離が促進される。
2+ H+ → N2+ (1)
【0028】
さらに、N2+中間体から、図1Aの右図に示されるように、アンモニアが合成される。
【0029】
電場触媒反応を用いることで、本発明の複合体は、アンモニアの合成において、原料の水素からプロトンが生じて触媒表面を伝導する(II)の現象(表面プロトニクス)を誘起することができる。また、本発明の複合体では、リン化鉄ナノ粒子が前記したプロトンの伝導を阻害することがなく、鉄原子と担体との界面でN2+中間体を形成すると考えられる。
本発明の複合体をアンモニア合成用触媒として用いた場合、ナノリン化鉄粒子を構成する触媒活性金属である鉄と、導電性物質を含む担体との界面が活性点となり、触媒活性成分と担体とが一体となって、従来技術と比べて緩やかな条件(例えば、従来技術に比べて低温の条件)においても、高い触媒活性を示してアンモニアを合成できる。
【0030】
上記のように、アンモニア合成において、電圧印加がトリガーとなり、低温においても、複合体触媒の担体の表面をプロトンは速やかに拡散しながら、リン化鉄表面に物理吸着する窒素に衝突してN2+中間体を与えながら窒素解離を促進する。
このように、電圧印加によって誘起される、低温における触媒表面のプロトン伝導及び拡散は、低温におけるアンモニア合成を速度論的に促進する、新たな反応場を創出しているものと考えられる。
【0031】
<ナノリン化鉄粒子>
以下、本発明の複合体に用いるナノリン化鉄粒子について、説明する。
【0032】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、48.3°、及び32.7°の回折角(2θ±0.5°)にピークを有し、
X線光電子分光法(XPS)により測定した場合、Fe2p3/2スペクトルにおいて、含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有する。
【0033】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、鉄原子が低原子価の状態(メタリックな状態)であり、かつ大気条件下での安定性に優れる。「原子価」とは、ある元素の原子が、何個の他の元素の原子と結合できるかという能力を表す数である。本発明に用いるナノリン化鉄粒子に含まれる鉄(Fe)原子は、低原子価の状態である。
【0034】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、48.3°及び32.7°の回折角(2θ±0.5°)にピークを有する。前記回折角は、2θ±0.2°であってもよい。
【0035】
CuKα線を使用した粉末X線回折測定法(X‐ray diffraction analysis:XRD)には、公知のX線回折測定装置(X-ray diffractometer)を使用することができる。X線回折測定装置としては、市販品(例えば、全自動多目的X線回折装置(商品名「Philips X'PERT MPD diffractometer」、日本フィリップス株式会社製))を使用できる。
【0036】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、低原子価の状態であり、かつ、大気条件下において安定に化合物の構造を維持できる性質(以下、「大気安定性」とも称する)を有する。そのため、酸素の存在する条件下において、X線回折測定法で結晶構造を測定できる。
【0037】
本明細書において、「大気条件下」とは、大気中の酸素濃度(約21%)程度を意味する。また、本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、酸素の存在する条件下における安定性に優れる。酸素(O2)の存在する条件としては、酸素の濃度は、特に限定されず、大気中の酸素濃度(約21%)程度であってもよく、約22%~100%であってもよい。本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、大気安定性に優れ、また、酸素濃度によらず、酸素が存在する条件において、低原子価の状態を維持できる。
【0038】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、前記粉末X線回折測定において、46.3°にピークをさらに有することが好ましい。
【0039】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子が、CuKα線を使用したX線回折パターン(以下、「XRDパターン」とも称する)における回折角32.7°、46.3°及び48.3°に有するピークは、それぞれFePの(011)面、(112)面、及び(211)面の結晶面に相当する。
【0040】
ある好適な実施形態としては、ナノリン化鉄粒子が、鉄原子が低原子価の状態であり、かつ大気安定性を有するFePからなるナノリン化鉄粒子である複合体が挙げられる。
【0041】
他の好適な実施形態としては、ナノリン化鉄粒子が、前記粉末X線回折測定において、40.2°、52.9°及び54.6°にピークをさらに有する、ナノリン化鉄粒子である複合体が挙げられる。当該実施形態においては、複合体に含まれるナノリン化鉄粒子がFePとFe2Pとを含む。
【0042】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子が、CuKα線によるXRDパターンにおける回折角40.2°、52.9°及び54.6°に有するピークは、それぞれFe2Pの(111)面、(002)面、及び(300)面に相当する。
【0043】
別他の好適な実施形態としては、前記粉末X線回折測定において、40.2°、52.9°及び54.6°にピークを有する、ナノリン化鉄粒子が挙げられる。すなわち、ナノリン化鉄粒子が、鉄原子が低原子価の状態であり、かつ大気安定性を有するFe2Pからなるナノリン化鉄粒子である複合体が挙げられる。
【0044】
前記回折角におけるピークにより、Fe2P及びFePであることが同定できることは、国際回折データセンター(The International Centre for Diffraction Data;ICDD)のデータベース(Powder Diffraction File、レベル4 plus)のJCPDSカード(File 85-1727 及び 39-0809)からも明らかである。
【0045】
本明細書において、本発明に用いるナノリン化鉄粒子を、総称して「nano-FexP」(xは、1又は2を表す)とも表記する。
【0046】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、大気中において、酸化されずに、含まれる鉄原子が低原子価の状態を維持できる。本発明に用いるナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が低原子価であることは、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)による測定で確認できる。XPSの測定結果としては、図4Aに示されるような結果が得られる。図4Aにおいて、縦軸は光電子強度を表し、横軸は結合エネルギー(Binding Energy;単位:eV)を表す。
「鉄原子が低原子価である」とは、X線光電子分光法(XPS)におけるFe2p3/2スペクトルにおいて、ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有することを意味する。Fe2p3/2スペクトルは、後記する実施例に記載のXPS分析に記載の方法で測定できる。
【0047】
XPSは、公知のX線光電子分光分析装置を使用できる。X線光電子分光分析装置は市販品(例えば、X線光電子分析装置(商品名「KRATOS ULTRA2」、株式会社島津製作所)、光電子分光装置(型番「JPS-9030」、日本電子株式会社製)、走査型X線光電子分光分析装置(型番「PHI Quantera II」、型番「PHI Versa Probe II」、以上、アルバック・ファイ株式会社)等)であってもよい。励起源としては、AlKα線、MgKα線、AgLα線等を使用できる。
【0048】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が低原子価の状態であり、かつ大気条件下において安定である。すなわち、本発明に用いるナノリン化鉄粒子を構成する鉄原子は、大気条件下において、経時的に状態が変化することなく、触媒としての活性を有する低原子価の状態で存在し続けることができる。
【0049】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子における鉄原子の価数は、例えば、X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure:XAFS)により解析することができる。具体的には、金属原子に対し高強度X線、好適にはエネルギーを連続的に変化させた高強度X線を照射することにより、金属原子の内殻電子を非占有軌道以上のエネルギー準位に励起することにより、励起された金属原子は入射X線の励起エネルギーと内殻電子の結合エネルギーとの差に相当する運動エネルギーをもつ光電子を放出し、当該金属原子のX線吸収スペクトルにおける吸収端の近傍に微細構造が現れ、これを解析することによって、金属原子の電子状態を特定することができる。このようなXAFSのエネルギー領域の内、吸収端近傍数10eV程度に現れる微細構造をX線吸収端近傍構造(XANES:X-ray Absorption Near Edge Structure)という。一方、XAFSのエネルギー領域の内、吸収端から約1000eV高エネルギー側まで続く変調構造を広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X-ray absorption fine structure)という。EXAFSは、励起電子と近接原子からの散乱電子の相互作用に起因して得られる振動構造であり、フーリエ変換により得られる動径分布関数は、金属原子の局所構造(周囲の原子種、配位原子の数、原子間距離)に関する情報を含む。
【0050】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が低原子価の状態で存在することは、X線吸収端近傍構造(XANES)からも確認できる。
【0051】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、含まれる鉄原子が低原子価の状態で存在するため、Fe原子のK吸収端のXANES測定によって得られるXANESスペクトルにおいて、ピークの立ち上がりが鉄箔(Fe foil)のピークの立ち上がりと同じである。言い換えると、本発明に用いるナノリン化鉄粒子を構成する鉄原子が低原子価の状態で存在することは、前記XANES測定によって得られるXANESスペクトルにおいて、ピークの立ち上がりが鉄箔(Fe foil)のピークの立ち上がりと同じであることで確認できる。鉄箔(Fe foil)は、金属としての0価のFeである。
ある好適な実施形態において、Fe原子のK吸収端のXANES測定によって得られるXANESスペクトルにおいて、(nano-FexPの7110eVのスペクトル強度)/(Fe foilの7110eVのスペクトル強度)の比率が、0.910~1.000であるナノリン化鉄粒子が挙げられる。「eV」は結合エネルギーを表す。
【0052】
前記好適な実施形態のナノリン化鉄粒子において、(nano-FexPの7110eVのスペクトル強度)/(Fe foilの7110eVのスペクトル強度)の比率は、0.930~1.000であることが好ましく、0.950~1.000であることがより好ましく、0.970~1.000であることがさらに好ましい。XANESスペクトルの測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0053】
前記好適な実施形態のナノリン化鉄粒子において、さらに、(nano-FexPの7111eVのスペクトル強度)/(Fe foilの7111eVのスペクトル強度)の比率は、0.930~1.000であることが好ましく、0.950~1.000であることがより好ましく、0.970~1.000であることがさらに好ましい。XANESスペクトルの測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0054】
前記好適な実施形態のナノリン化鉄粒子において、7110eVのスペクトル強度及び7111eVのスペクトル強度の2点において、いずれも(nano-FexPのスペクトル強度)/(Fe foilのスペクトル強度)の比率が0.930~1.000であることが好ましく、0.950~1.000であることがより好ましく、0.970~1.000であることがさらに好ましい。前記2点において、nano-FexPのスペクトル強度とFe foilのスペクトル強度との比率がほぼ同じであるということは、ナノリン化鉄粒子とFe foilとのピークの立ち上がりが同じといえるものである。ナノリン化鉄粒子とFe foilとのピークの立ち上がりが同じということは、ナノリン化鉄粒子が低原子価の状態であることを意味する。
【0055】
XPSの測定結果より、ナノリン化鉄粒子の表面側が低原子価の状態を維持できているといえる。また、XANESの測定結果がXPSの測定結果と一致することで、両者の測定結果が正しいことを支持し合っているともいうことができ、ナノリン化鉄粒子の表面のみではなく、ナノリン化鉄粒子全体において、含まれる鉄原子が低原子価の状態を維持できるといえる。
【0056】
Fe原子のK吸収端に関するXANES測定には、公知の測定装置(例えば、X線吸収分光装置(装置名「QuantumLeapH2000」(大気下測定用)、「QuantumLeapV210」(真空下測定用)、以上、キャノン株式会社製))又は公知の測定設備(大型放射光施設「SPring-8」;ビームラインBL01B1、BL14B2、〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1)等を使用することができる、
【0057】
XPSにおけるFe2pスペクトルにおいて低原子価のFe原子は、706.7~707.0eVの範囲内にピークを有する。これは、Handbook of X-ray Photoelectron Spectroscopy: A Reference Book of Standard Spectra for Identification and Interpretation of XPS Data (Eds.: J. Chastain), Electronics Division, Perkin-Elmer Corporation, Eden Prairie, MN, 1992のAppendix B. Chemical States Tablesに示されるとおりである。
【0058】
ある好適な実施形態としては、X線光電子分光法(XPS)におけるFe2p3/2スペクトルにおいて、ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が706.0~707.5eVの範囲内にピークを有し、かつ、Fe原子のK吸収端のXANES測定によって得られるXANESスペクトルにおいて、(nano-FexPの7110eVのスペクトル強度)/(Fe foilの7110eVのスペクトル強度)の値(比率)が、0.910~1.000であるナノリン化鉄粒子が挙げられる。XANESスペクトルのスペクトル強度の比率は、0.930~1.000であることが好ましく、0.950~1.000であることがより好ましく、0.970~1.000であることがさらに好ましい。
また、前記好適な実施形態において、さらに、(nano-FexPの7111eVのスペクトル強度)/(Fe foilの7111eVのスペクトル強度)の比率は、0.930~1.000であることが好ましく、0.950~1.000であることがより好ましく、0.970~1.000であることがさらに好ましい。
さらに、前記好適な実施形態のナノリン化鉄粒子において、7110eVのスペクトル強度及び7111eVのスペクトル強度の2点において、(nano-FexPのスペクトル強度)/(Fe foilのスペクトル強度)の比率が0.930~1.000であることが好ましく、0.950~1.000であることがより好ましく、0.970~1.000であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子の形状は、特に限定されないが、ロッド状粒子であることが好ましい。前記ロッド状粒子は、長軸と短軸が認識できる程度であればよく、厳密にロッドの形状を有していないものを含む。前記ロッド状粒子は、例えば、図2A及び図2Bで示されるように、TEM観察によって粒子の形態を確認できる。図2A及び図2Bは、本発明に用いるナノリン化鉄粒子のTEM像を表す。
【0060】
前記ロッド状粒子において、長軸方向の長さ(長軸の最大長)が100nm未満であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。実施形態によっては、70nm以下、60nm以下であってもよい。前記範囲であることによって、大気中において、低原子価状態で、安定に存在でき、1つの粒子の表面積をより多くし、触媒活性をより高めることができる。ある実施形態においては、例えば、ロッド状粒子の前記長軸の最大長は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。
【0061】
ロッド状粒子の長軸方向の長さ(長軸の最大長)は、電子顕微鏡観察において観察される任意の粒子100個における長軸方向の長さ(長軸の最大長)の算術平均値を意味する。
【0062】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子がロッド状粒子である場合、短軸を有する面(底面)の断面形状は、特に限定されないが、例えば、六角形であってもよい。底面の形状は、特に限定されず、平面であってもよく、凹凸を有していてもよく、凸部のみを有してもよい。
【0063】
前記ロッド状粒子において、短軸方向の長さ(短軸の最大長)は、前記した長軸方向の長さ(長軸の最大長)より短ければ、特に限定されない。例えば、短軸を有する面(底面)の断面形状が六角形である場合、短軸方向の長さ(最大長)は、前記断面において、最大長である対角線の長さを短軸方向の長さとする。短軸方向の長さ(最大長)は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。実施形態によっては、20nm以下、10nm以下であってもよい。大気中において、低原子価状態で、安定に存在でき、1つの粒子の表面積をより多くし、触媒活性を高めることを目的とする場合、前記短軸方向の長さ(最大長)は、より長いことが好ましく、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、9nm以上であってもよい。短軸方向の長さ(最大長)は、電子顕微鏡観察において観察される任意の粒子100個における短軸を有する面(底面)の断面の最大長である対角線の長さの算術平均値を意味する。
【0064】
前記ロッド状粒子において、アスペクト比(長軸方向の長さ:短軸方向の長さ)は、特に限定されないが、100:1~100:95であることが好ましく、100:5~100:75であることがより好ましく、100:10~100:50であることがさらに好ましい。アスペクト比は、ロッド状粒子の長軸方向の長さ及び短軸方向の長さで算出された値から、算出できる。
【0065】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子におけるサイズは、後述するナノリン化鉄粒子の製造方法における原料化合物の選択及び濃度、加熱温度、加熱条件(撹拌速度等)、反応時間等を調整することで調整できる。また、前記した条件の調整によって、前記ロッド状粒子において、FePからなるナノリン化鉄粒子、Fe2Pからなるナノリン化鉄粒子、FePとFe2Pとを含むナノリン化鉄粒子等のnano-FexPの組成を調整することもできる。
【0066】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子において、走査透過電子顕微鏡(STEM)-エネルギー分散型X線分光(Energy dispersive X-ray spectroscopy:EDX)組成分析によるリン原子と鉄原子との存在比率が、P:Fe=20%:80%~80%:20%であることが好ましく、触媒活性をより高める点又は大気安定性により優れるから、30%:70%~70%:30%であることがより好ましく、35%:65%~65%:35%であることがさらに好ましい。
【0067】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子におけるリン原子と鉄原子との存在比率は、鉄のリン化の程度を調整することで、調整できる。そのため、nano-FexPにおいて、xが1である化合物を多くする、又はxが2である化合物を多くする等の調整ができる。
ある実施形態では、nano-FexPにおいて、xは1又は2である。ナノリン化鉄粒子は、FePとFe2Pの少なくともいずれかを含み、両方を含むものであってもよい。他のある実施形態では、nano-FexPにおいて、xは1である。別の他の実施形態では、nano-FexPにおいて、xは2である。
【0068】
鉄のリン化の程度の調整方法としては、例えば、ナノリン化鉄粒子の製造方法における加熱温度等を調整する(例えば、加熱温度を10℃高くする、反応時間を1時間長くする等)ことで、鉄のリン化を促進する等のリン化の程度を調整することができる。逆に、リン化を抑制し、リン化の程度の進行をある程度で留める場合は、加熱温度等の条件を逆に調整する(例えば、加熱温度を10℃低くする、1時間反応時間を短くする等)ことによって、リン原子と鉄原子との存在比率を調整できる。
【0069】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子において、リン原子と鉄原子との存在比率は、元素分析方法(元素マッピング)で評価することができる。元素分析方法(元素マッピング)には、公知のエネルギー分散型X線分析(EDX)を使用できる。EDXには、公知の測定装置を使用できる。測定装置としては、市販品(超Xエネルギー分散型X線分光法(Super-X energy-dispersive X-ray spectroscopy:EDX)検出器を備えた透過電子顕微鏡(単原子分析透過電子顕微鏡、商品名「Titan Cubed G2 60-300」、加速電圧:300kV、FEI社(現:Thermo Fisher Scientific(US)製))など)を用いることができる。
【0070】
また、EDXは、1つの粒子について観察する方法であるのに対して、顕微鏡観察で見られるような複数の(多量の)ナノリン化鉄粒子全体を観察して、リン原子と鉄原子との存在比率を評価してもよい。このような方法としては、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES/Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectroscopy ; ICP-OES)が挙げられる。ICP-AES/ICP-OESには、公知のICP発光分光分析装置を使用できる。ICP発光分光分析装置としては、市販品(アジレント・テクノロジー株式会社製の商品名「Agilent 5110 ICP-OES」(マルチ型ICP発光分光分析装置)、パーキンエルマー株式会社製の商品名「Optima 8300」(ICP発光分光分析装置)など)を用いることができる。リン原子と鉄原子との存在比率のICP-OESによる評価は、例えば、後記する実施例に示される方法で評価できる。
【0071】
ICP-AESによるリン原子と鉄原子との存在比率が、P:Fe=20%:80%~80%:20%であることが好ましく、触媒活性をより高める点又は大気安定性により優れるから、30%:70%~70%:30%であることがより好ましく、35%:65%~65%:35%であることがさらに好ましい。
【0072】
ある実施形態において、本発明に用いるナノリン化鉄粒子におけるリン原子と鉄原子との存在比率は、ICP-AES(例えば、シーケンシャル型)で評価した比率と、EDXで評価した比率とが近い範囲になる。両者の値が近いということは、本発明に用いるナノリン化鉄粒子には、余剰のリン原子がついていないことを意味する。
【0073】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、大気安定性に優れるのみならず、加熱した場合にも構造を維持することができ、熱安定性に優れる。構造を維持できるとは、低原子価の状態を維持できることを意味する。加熱した場合に構造を維持できているか否かは、大気条件下におけるX線吸収微細構造(X-ray absorption fine structure;XAFS)測定によって確認できる。例えば、後記する実施例に示される方法で評価できる。
【0074】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、熱安定性にも優れる。本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、大気条件下における昇温酸化法(TPO:Temperature Programmed Oxidation)法で測定した場合(以下、「O2-TPO」と称することがある。)で昇温した際に、リン化鉄の構造が安定であり、質量分析で質量の増加がみられない範囲が存在し、熱安定性にも優れるものである。図6Aに示されるように、例えば、175℃以下では、酸化が起きず、リン化鉄の構造を維持できる。
【0075】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子において、FT-EXAFS(Fourier transforms of extended X-ray absorption fine structure)のスペクトルの結果から、図5Bに示すように、Fe-Feの原子間距離は、約2.67Åであると考えられる。
【0076】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、アンモニア合成用触媒として使用した後も触媒活性を維持でき、かつ回収可能である。そのため、再度回収して、再利用することができる。回収方法は、特に限定されず、濾過等の公知の方法を使用することができる。また、本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、回収して再利用しても高い触媒活性を有するため、耐久性に優れる。
【0077】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、複合体の形態でアンモニア合成用触媒として使用する際に、触媒活性をさらに向上させる点から、その表面が不純物(例えば、リン酸、リン酸塩)に被覆されていないことが好ましい。
一方、本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、表面の一部が不純物に被覆されている場合においても、リン化鉄としては、含まれる鉄原子が低原子価の状態であり、かつ低原子価の状態で大気条件下において安定であるため、還元前処理が不要であり、アンモニア合成用触媒として優れた触媒活性を有する。
【0078】
ナノリン化鉄粒子の表面を被覆している不純物の除去は、ナノリン化鉄粒子を水素雰囲気下において加熱処理することによって行うことができる。水素雰囲気下における加熱処理の温度としては、特に限定されないが、リン化鉄の構造を維持しやすい点から、100~500℃が好ましく、120~480℃がより好ましく、150~450℃がさらに好ましい。水素雰囲気下における加熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば、10分~8時間が好ましく、20分~5時間がより好ましく、30分~4時間がさらに好ましい。
【0079】
<担体>
以下、本発明の複合体に用いる担体について、説明する。
【0080】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、吸着能に優れるため、複合体に用いる担体の種類はナノリン化鉄粒子を支持できる支持体として使用でき、かつ電場触媒反応の効果を奏するものであれば限定されない。ナノリン化鉄粒子が吸着能に優れる理由は、定かではないが、ナノサイズであり、かつ大気条件下で安定であることも理由の一部であると考えられる。
【0081】
本発明の複合体において、ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が低原子価の状態であり、かつナノリン化鉄粒子が大気条件下において安定である。そのため、従来技術のように、担体の上で触媒活性を有する鉄粒子を合成し、合成直後に瞬時に触媒として使用されなければならない、或いは鉄触媒を還元反応に使用するために、高温高圧下における還元前処理が必須となるという事情が、本発明に用いるナノリン化鉄粒子には存在しない。
よって、鉄触媒としての鉄粒子の使用条件によって担体の種類が限定されていた従来技術とは異なり、本発明の複合体において、複合体を触媒として使用する場合、ナノリン化鉄粒子と組み合わせて使用される担体の種類が電場触媒反応の効果を奏するものであれば限定されない点が、本発明の有利な効果の一つである。このように、担体が限定されなければならない理由を解消し、担体が限定されなければ触媒活性が得られなくなるという特別な事情が存在しないことから、本発明の複合体において、担体の種類は限定されず、多くの種類を使用することが可能である。
【0082】
本発明の複合体に用いる担体は、常温で液体又は固体であるものが好ましく、固体であるものがより好ましい。また、他の実施形態では、担体は、それ自体が単独では、触媒活性を有しないものが挙げられる。
【0083】
複合体に用いる担体は、導電性物質を含む。担体が導電性物質を含むことで、アンモニア合成反応用の反応器が有する電極に電圧を印加した際に、電場触媒反応を起こし、ナノリン化鉄粒子と一体となって、担体上を伝導しているプロトンと、触媒活性金属に吸着している窒素とが、担体と触媒活性金属の界面においてN2+中間体を形成するメカニズムで、アンモニア合成反応が進行する。このため、触媒活性金属への吸着が有利な低温域において、アンモニア合成反応が優位に進行する。
【0084】
そのため、担体には、電場を印加させて電場触媒反応を起こすことができる導電性が必要である。電場触媒反応を利用するアンモニア合成において、律速段階であるN2H中間体の生成における支配因子はプロトン供与能と電子供与能である。よって、プロトン供与能が高い担体は、アンモニア合成における触媒活性を向上できる点から好ましい。
【0085】
担体に用いる導電性物質としては、金属及び/又は金属酸化物を含むことが好ましい。導電性物質は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
導電性物質としては金属及び/又は金属酸化物等の無機系導電性材料を使用してもよい。
電気導電性を付与する際に使用できる導電性材料は特に限定されず、導電性金属の粉末、フレーク、繊維、導電性フィラー等を使用できる。
【0086】
金属としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅、スズ、亜鉛、ロジウム、金、銀、白金などの導電性金属及びこれらの合金が挙げられる。金属は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
金属酸化物としては、特に限定されないが、耐熱性、耐久性、導電性の観点から、CeO2、TiO2などの金属酸化物、複合酸化物が挙げられ、電場触媒反応の効果を得やすい点から、複合酸化物を含むことが好ましい。前記複合酸化物は、酸素原子以外に2つ以上の元素を含み、酸素原子以外に3つ以上の元素を含むものであってもよい。
前記複合酸化物は、遷移金属、第13族元素、及び/又は第14族元素と、必要に応じてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含むことが好ましい。金属酸化物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
複合酸化物に係る遷移金属としては、電場触媒反応の効果が得られる限り限定されず、第3族元素から第12族元素までの金属元素が挙げられる。
第3族元素としては、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイドが挙げられ、希土類金属(スカンジウム、イットリウム、ランタノイド)が好ましい。
ランタノイドとしては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。
第4族元素としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ラザホージウムが挙げられる。
第5族元素としては、バナジウム、ニオブ、タンタル、ドブニウムが挙げられる。
第6族元素としては、クロム、モリブデン、タングステン、シーボーギウムが挙げられる。
第7族元素としては、マンガン、テクネチウム、レニウム、ボーリウムが挙げられる。
第8族元素としては、鉄、ルテニウム、オスミウム、ハッシウムが挙げられる。
第9族元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウム、マイトネリウムが挙げられる。
第10族元素としては、ニッケル、パラジウム、白金、ダームスタチウムが挙げられる。
第11族元素としては、銅、銀、金、レントゲニウムが挙げられる。
第12族元素としては、亜鉛、カドミウム、水銀、コペルニシウムが挙げられる。
【0089】
第13族元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ニホニウムが挙げられる。
第14族元素としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛が挙げられる。
【0090】
本明細書において、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウムは金属に含む。
【0091】
複合酸化物に用いられる金属種としては、電場触媒反応の効果を得やすい点から、希土類金属、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、スズ、ハフニウム、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金が好ましく、希土類金属、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ルテニウムがより好ましく、希土類金属、アルミニウム、ジルコニウムがさらに好ましく、希土類金属及び/又はジルコニウムが特に好ましい。遷移金属、第13族元素、及び第14族元素は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
複合酸化物に係るアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
複合酸化物に係るアルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
ある好適な実施形態としては、前記担体が導電性物質を含み、前記導電性物質が複合酸化物を含み、前記複合酸化物が、遷移金属と、必要に応じてアルカリ土類金属とを含む、複合体が挙げられる。
【0093】
前記担体の導電率は、電場触媒反応の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、200℃、H2/N2(体積比として3/1)混合ガス下での導電率が10-3~10-7S・cm-1であってもよく、10-3.5~10-6.5S・cm-1であってもよく、10-4~10-6S・cm-1であってもよい。
導電率が前記範囲内であることで、触媒として使用した際に絶縁性が高くなることを抑制しやすく、通電時の応答電圧が高くなりすぎ、エネルギー効率が低下することも抑制しやすい。また、導電率が前記範囲内であることで担体中を通電し、触媒表面のプロトンホッピング又は窒素分子開裂などの素反応を促進するために必要なエネルギー障壁を超える量のエネルギーを注入しやすい。
なお、当該導電率は、測定対象となる物質を成形及び焼結させて得られた相対密度95%以上の緻密体について測定して得られた導電率を表すものとする。導電率の測定方法としては、交流インピーダンス法、直流4端子法、直流2端子法などの一般的な方法で測定できる。
【0094】
前記担体としては、耐熱性、耐久性、導電性の観点からCeO2、TiO2などの金属酸化物、複合酸化物であることが好ましく、電場触媒反応の効果が得られやすい点から、複合酸化物であることがより好ましい。
前記複合酸化物は、蛍石型構造、アパタイト型構造、ブラウンミラーライト型構造、パイクロア型構造又はペロブスカイト型構造をとることが好ましい。
【0095】
金属酸化物としては、CeO2、ZrO2、TiO2などが挙げられる。
【0096】
前記複合酸化物としては、具体的には、CexZr1-x2(0<x≦0.9)、SrCeO3、CaZrO3、SrZrO3、BaZrO3、Sr1-yBayZrO3(0<y≦0.5)、Ca2AlMnO5、La10Si627、La2Zr27、La2Zr1.90.17-a(0<a<7)、La2Zr1.80.27-a(0<a<7)などが挙げられ、プロトン供与能が高く、アンモニア合成における触媒活性をより向上できる点から、CexZr1-x2(0<x≦0.9)、SrCeO3、CaZrO3、SrZrO3、BaZrO3、La2Zr1.90.17-a(0<a<7)、La2Zr1.80.27-a(0<a<7)であることが好ましく、CexZr1-x2(0<x≦0.9)、Sr1-yBayZrO3(0<y≦0.5)であることがより好ましく、Ce0.5Zr0.52、Sr0.875Ba0.125ZrO3がさらに好ましい。
【0097】
前記複合酸化物は、市販品を使用してもよく、公知の方法で製造したものを使用してもよい。前記複合酸化物は、例えば、錯体重合法(例えば、クエン酸錯体重合法)等で製造することもできる。
【0098】
前記担体の形状、サイズは、使用形態に応じて変更でき、特に限定されない。例えば、担体は、シート、フィルム、平板状であってもよい。前記担体のサイズは、ナノサイズであってもよく、1μm以上、1mm以上、又は1cm以上であってもよい。担体としては、例えば、ナノシート(例えば、厚さ1nm~100nm程度)であってもよい。
【0099】
本発明の複合体は、含まれる鉄原子が低原子価の状態であり、かつ大気条件下において安定であり、還元触媒として触媒活性を有する。
【0100】
[複合体の製造方法]
本発明の複合体は、特に限定されず、担体の種類に応じて製造できる。
ある実施形態としては、例えば、ナノリン化鉄粒子を担体上の静置又は固定する、複合体の製造方法が挙げられる。ナノリン化鉄粒子を担体上に固定する方法は、特に限定されず、例えば、加熱処理、圧着処理であってもよい。前記加熱温度は、例えば、100℃以下であってもよい。担体は、例えば、ナノリン化鉄粒子より十分に大きいサイズの固体の担体(例えば、シート状)を使用してもよい。
【0101】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子は、吸着能に優れるため、公知の担体への担持方法を特に限定されず、使用することができる。いずれの複合体の製造方法においても、特に限定されず、例えば、加熱処理等を行ってもよい。前記加熱温度は、例えば、150℃以下であってもよく、120℃以下であってもよい。
【0102】
複合体の製造方法に用いる有機溶媒としては、特に限定されず、極性有機溶媒、又は非極性有機溶媒を使用できる。有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
複合体の製造方法に用いる有機溶媒としては、例えば、
非芳香族炭化水素溶媒(例:ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソドデカン、トリデカン等のアルカン、シクロヘキサン、メチルシクロへキサン等のシクロアルカン、デカヒドロナフタレン、流動パラフィン);
芳香族炭化水素溶媒(例:ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、メシチレン、テトラリン、インデン、ナフタレン、メチルナフタレン);
ハロゲン化炭化水素溶媒(例:ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン);
アルコール溶媒(例:エタノール、プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、ベンジルアルコール、オレイルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール);
エーテル溶媒(例:ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、エチレングリコール誘導体(例:モノグライム(エチレングリコールジメチルエーテル)、メチルセロソルブ、ジエチルセロソルブ、ジグライム、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリグライム、テトラグライム、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル)、プロピレングリコール誘導体(例:3-ヘキサノールプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、1,1-ジメトキシシクロヘキサン、フェネトール、ベラトロール、ジオキサン、テトラヒドロフラン);
エステル溶媒(例:酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、炭酸ジメチル、マロン酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン);
ケトン溶媒(例:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、イソホロン);
含硫黄溶媒(例:ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジフェニルスルフィド);及び
含窒素溶媒(例:N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、メチルピロリドン等のアミド溶媒、トリエタノールアミン等のアミン溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;ニトロベンゼン、o-ニトロトルエン等のニトロ溶媒;キノリン、テトラヒドロキノリン、ジメチルイミダゾリジノン)等が挙げられる。
【0104】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子の製造方法について、以下に説明する。
【0105】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子の製造方法としては、例えば、リン化合物と、界面活性剤とを加熱下に混合し、得られた混合物を加熱し、さらに鉄カルボニル化合物を混合して加熱し、1-オクタデセンを使用しない、製造方法が挙げられる。
【0106】
非特許文献1には、1-オクタデセンを必須成分として使用して、ナノ金属粒子を製造する方法が開示されている。しかしながら、本発明者らは、1-オクタデセンを使用する製造方法で得られるナノ鉄粒子は、十分な触媒活性を示す量で取得することができないことを確認した。
非特許文献1で得られたナノリン化鉄粒子について、アンモニア合成用触媒に使用できると記載されていないのは、使用することができない事情が存在することも原因となっていると考えられる。
ナノリン化鉄粒子は、サイズが非常に小さいことも一因となって、触媒として機能するために十分な量で回収できる製造方法であることも重要である。
以上のことから、本発明に用いるナノリン化鉄粒子の製造方法としては、1-オクタデセンを使用しない。
【0107】
1-オクタデセンを使用しないことで、得られたナノリン化鉄粒子は、アンモニア合成において、優れた触媒活性を有するアンモニア合成用触媒として使用できる。
【0108】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子の製造方法において、リン化剤として用いる前記リン化合物としては、亜リン酸エステル化合物が好ましい。
【0109】
亜リン酸エステル化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイトジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、トリトリルホスファイト(トリ-o-トリルホスファイト、トリ-m-トリルホスファイト、トリ-p-トリルホスファイト)、トリキシリルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリプロピルホスファイト、及びトリイソプロピルホスファイト等が挙げられ、トリフェニルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイトジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、トリトリルホスファイト、トリキシリルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、及びトリス(2-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト等のアリールホスファイトが好ましく、トリフェニルホスファイト、トリトリルホスファイト、トリキシリルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、及びトリス(2-t-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト等のトリアリールホスファイトがより好ましく、トリフェニルホスファイトがさらに好ましい。リン化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
前記界面活性剤としては、アルキルアミンを用いる。アルキルアミンとしては、特に限定されないが、ナノリン化鉄粒子としてロッド状粒子が得られやすい点から、炭素数1~20のアルキル基を有するアルキルアミンが好ましく、ナノリン化鉄粒子の触媒活性がより優れる点から、1~18のアルキル基を有するアルキルアミンがより好ましく、1~16のアルキル基を有するアルキルアミンがさらに好ましい。ある実施形態としては、炭素数1~14のアルキル基を有するアルキルアミンを界面活性剤として使用する、ナノリン化鉄粒子の製造方法が挙げられる。アルキルアミンは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
前記アルキルアミンが有するアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基(イソヘキシル基)、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチル-2-メチル-プロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基、tert-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチルヘプチル基、n-ノニル基、イソノニル基、1-メチルオクチル基、2-エチルヘプチル基、n-デシル基、1-メチルノニル基、n-ウンデシル基、1,1-ジメチルノニル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-シクロペンチル基、n-シクロペンチルメチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
【0112】
アルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基の数は、アルキル基の炭素数に応じて変更でき、1~10であってもよく、1~5であってもよく、1~3であってもよい。置換基としては、例えばハロゲン原子、シアノ基(ニトリル基)、炭素数1~6の低級アルキル基、炭素数1~6のハロ低級アルキル基、炭素数1~6のヒドロキシ低級アルキル基、水酸基、炭素数1~6のハロ低級アルコキシ基等が挙げられる。
【0113】
リン化合物と、界面活性剤との加熱下における混合工程は、特に限定されず、公知の方法及び装置を用いて行うことができる。混合工程は、真空条件下で行ってもよい。
【0114】
界面活性剤の使用量は、リン化合物の使用量に対して、0.05~20当量(モル当量)であってもよく、0.1~15当量であってもよく、0.5~13当量であってもよい。
【0115】
リン化合物と、界面活性剤とを加熱下に混合する(以下、加熱工程〔1〕とも称する)。加熱工程〔1〕における加熱温度は、80~280℃であることが好ましく、90~250℃であることがより好ましく、100~220℃であることがさらに好ましい。加熱温度は、より緩やかな条件として、180℃以下であってもよい。加熱温度は、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。
【0116】
前記加熱工程〔1〕は、反応を促進し、本発明に用いるナノリン化鉄粒子をより容易に製造できる点から、撹拌下に行ってもよい。また、ある好適な実施形態としては、前記加熱工程〔1〕は、本発明に用いるナノリン化鉄粒子をより容易に製造できる点から、真空条件下又はアルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。他のある好適な実施形態としては、真空条件下又はアルゴン雰囲気下、加熱工程〔1〕を撹拌しながら行うナノリン化鉄粒子の製造工程を含む、複合体の製造方法が挙げられる。
また、ある実施形態としては、真空条件下又はアルゴン雰囲気下、撹拌を行わずに加熱工程〔1〕を行うナノリン化鉄粒子の製造工程を含む、複合体の製造方法が挙げられる。
撹拌を行わないことで、鉄のリン化の程度を調整し、FePの存在割合が多い又はFePからなるナノリン化鉄粒子を簡便に得ることもでき、該FePの存在割合が多い又はFePからなるナノリン化鉄粒子を含む複合体を製造することができる。撹拌のみが鉄のリン化の程度の調整方法ではなく、反応温度等との組み合わせによって、鉄のリン化の程度を調整できる。
【0117】
前記加熱工程〔1〕における反応時間は、特に限定されず、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。前記反応時間は、例えば、10~120分が好ましく、15~90分がより好ましく、20~80分がさらに好ましい。
【0118】
前記加熱工程〔1〕に続いて、得られた混合物をさらに加熱する(以下、加熱工程〔2〕とも称する)。加熱工程〔2〕は、アルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。
【0119】
前記加熱工程〔2〕における加熱温度は、加熱工程〔1〕より高い温度であれば特に限定されないが、例えば、90~300℃であることが好ましく、100~290℃であることがより好ましく、120~270℃であることがさらに好ましい。加熱温度は、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。前記加熱工程〔2〕における加熱温度は、加熱工程〔1〕より5℃以上高い温度としてもよく、10℃以上高い温度としてもよい。
【0120】
前記加熱工程〔2〕における反応時間は、特に限定されず、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。前記反応時間は、例えば、10~120分が好ましく、15~90分がより好ましく、20~80分がさらに好ましい。
【0121】
加熱工程〔2〕に続いて、鉄カルボニル化合物を混合してさらに加熱する(以下、加熱工程〔3〕とも称する)。
【0122】
前記鉄カルボニル化合物としては、Fe(CO)5、Fe2(CO)9、及びFe3(CO)12等が挙げられ、Fe(CO)5が好ましい。鉄カルボニル化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
ある実施形態においては、加熱工程〔3〕において、前記加熱工程〔2〕よりも高い温度に昇温したのち、鉄カルボニル化合物を混合することが好ましい。前記加熱工程〔3〕における加熱温度は、200~500℃であることが好ましく、220~450℃であることがより好ましく、250~420℃であることがさらに好ましい。加熱温度は、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。前記加熱工程〔3〕における加熱温度は、加熱工程〔2〕より5℃以上高い温度としてもよく、10℃以上高い温度としてもよい。
【0124】
前記加熱工程〔3〕における反応時間は、特に限定されず、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。前記反応時間は、例えば、5分~10時間が好ましく、10分~8時間がより好ましく、15分~6時間がさらに好ましい。
【0125】
鉄カルボニル化合物の混合後の加熱工程〔3〕の温度まで昇温させる際の昇温速度は、特に限定されず、ナノリン化鉄粒子の目的とするリン化の程度に応じて、適宜変更できる。例えば、反応を緩やかに進めるために、昇温速度を低く設定することができる。前記昇温速度は、5~150℃/分が好ましく、10~100℃/分がより好ましく、15~90℃/分がさらに好ましい。
【0126】
本発明に用いるナノリン化鉄粒子の製造方法としては、さらに、洗浄工程を含むことが好ましい。洗浄工程に用いる洗浄液としては、有機溶媒を使用できる。有機溶媒としては、特に限定されず、前記した複合体の製造方法に用いる有機溶媒と同様のものが挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、混合比率は特に限定されないが、例えば、クロロホルムとアセトンを体積比で、1:1で使用することができる。洗浄工程としては、前記有機溶媒を用いて、加熱工程〔3〕の後に得られた生成物を遠心分離する方法が挙げられる。
【0127】
洗浄工程後に、必要に応じて、真空乾燥させて粉末状のナノリン化鉄粒子を得てもよい。
【0128】
[アンモニアの製造装置]
本発明の他の実施形態としては、離間し、かつ対向して配置された一対の電極と、前記電極への電圧印加部と、アンモニア合成用反応器とを備え、前記反応器は、前記一対の電極間に配置された本発明の複合体と、原料ガス導入口と、アンモニア含有ガス排出口とを有する、アンモニアの製造装置が挙げられる。
【0129】
本発明に係るアンモニアの製造装置としては、本発明の複合体を用いる点以外は、公知の固定床の常圧流通式反応器を使用できる。固定床の常圧流通式反応器としては、例えば、特開2014-141361号に記載の装置が使用できる。
【0130】
図1Bに、アンモニアの製造装置に係る好適な実施形態の一例の構成概略図を示す。図1Bに基づいて、以下に、アンモニアの製造装置を説明する。
【0131】
アンモニアの製造装置は、一対の電極(電極5、電極6)と、アンモニア合成用反応器4(以下、単に「反応器4」と称することがある。)と、該電極間に電圧を印加する電圧印加部7とを備える。
反応器4は、該電極間に配置された複合体9と、原料ガス導入口1と、アンモニア排出口11とを備える。
【0132】
電極5、電極6は、いずれか一方を高圧極とし、他方を低圧極とすることができる。
【0133】
反応器4としては、アンモニア合成の反応条件下で物理的及び化学的変化が起こらないものであれば材質及び形状は、特に限定されない。
反応器4としては、例えば、内径が2~5000mmφ、好ましくは3~5000mmφのものを用いることができる。
反応器4の長さとしては、例えば、5~10000mm、好ましくは50~5000mmである。
反応器4の材質としては、例えば、石英管、ホウケイ酸ガラス管などが挙げられる。
また、電極5、6との間に適切な絶縁処理を行うことによりSUS管を使用してもよい。
反応器4は、破損を防ぐためにSUS製管などの外筒部を持つ二重管構造としてもよい。
【0134】
電極5、6は、反応器4内で所定の距離で離隔して対向して配置される。電極5、6のいずれか一方が接地(アース)されていることが好ましい。
図1Bにおいては、電極6が接地(アース)されている。
電極5、6は、少なくとも一方の電極を複合体9と接触させることが好ましく、両方の電極を複合体9と接触させることがより好ましい。
電極と複合体と間の空隙が大きい場合、空隙の誘電率が高いためエネルギーロスが起こり、アンモニア合成の効率が低下するおそれがある。
【0135】
前記一対の電極5、6としては、導電性の材料からなり、前記触媒を含む空間に電場を形成できる材質、形状及び配置であれば特に限定されない。
電極材料としては、例えば、鉄、ステンレス、チタン、ニッケル合金であるハステロイ(登録商標)等が挙げられ、耐腐食性とコスト面から、ステンレスが好ましい。
電極の形状としては、例えば、棒状電極、筒状電極、板状電極、メッシュ状電極などを用いることができ、ガス流通性、装置の体積効率の面から、棒状電極、筒状電極、メッシュ状電極が好ましい。
電極の配置としては、例えば、固定床の常圧流通式反応器の流れ方向に一対の電極を配置し間に複合体を配置する方法;同心上に配置された棒状電極と筒状電極からなる一対の電極の間に複合体9を含む反応器4を配置する方法などがある。
【0136】
電極5、6間の距離は、電場触媒反応を起こす電圧が印加された場合に、アンモニア生成反応が進行する距離であれば特に限定されない。
【0137】
電極5、6間には、電圧印加部7を用いて、電場触媒反応を起こすために電圧を印加する。また、アンモニアの製造装置は、所望の電場触媒反応を起こしやすいように、電圧を制御する電圧制御部8を備えてもよい。
また、電圧制御部8により、電圧を調整し、電極5、6間に放電を生じさせない程度の電圧を印加することで、アンモニア以外の化合物の生成を抑制することができる。
電圧印加部7、電圧制御部8とも市販のものを用いることができる。
【0138】
アンモニアの製造装置としては、触媒である複合体を所望の位置に保持できる点から、電極間に配置されて通電でき、かつ複合体9を固定できる支持部10を備えることが好ましい。
【0139】
前記支持部10としては、例えば、触媒を電極間に固定し、反応に悪影響を与えないものであれば形状、材質は、特に限定されない。
前記支持部10としては、例えば、石英ウール、ガラスウール、金メッシュウール、粒状シリカ、ガス流通用の穴を設けたアルミナ、ジルコニア、マグネシアなどの板の支持体が挙げられる。
【0140】
アンモニアの製造装置において、前記支持部10の上に、粉体の複合体を配置して、複合体9からなる触媒層を形成してもよい。
触媒層の厚さ及び触媒層に使用される複合体の使用量は、アンモニア合成の触媒活性が得られる限り、特に限定されず、原料ガスの反応器4への供給量、アンモニアの需要量などから適宜変更できる。
複合体9は、一対の電極5、6の間の距離(電極間距離)の3~100%、好ましくは5~100%、さらに好ましくは10~100%に相当する空間を占有するように配置してもよい。
【0141】
前記支持部10は、複合体9の少なくともいずれかの電極側の一端に配置することによって、複合体9と電極5、6との距離を任意に設定できる。前記支持部10は、複合体9の各電極側に1つずつ配置してもよい。
【0142】
アンモニアの排出部は、生成されたアンモニアガスを補足できる限り特に限定されない。アンモニアの排出部で、生成されたアンモニアを補足し、定量できる。
【0143】
[アンモニアの製造方法]
他のある実施形態としては、離間し、かつ対向して配置された一対の電極間に配置された本発明の複合体の存在下、該電極間に水素と窒素とを供給し、該電極間に電圧を印加して、水素と窒素とを反応させる、アンモニアの製造方法が挙げられる。
【0144】
前記水素と窒素との反応における温度は、特に限定されないが、350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、反応をより緩やかな条件で行える点から、250℃以下であることがさらに好ましく、200℃以下が特に好ましい。
前記反応温度は、例えば、15℃以上350℃以下であることが好ましく、15℃以上300℃以下であることがより好ましく、15℃以上250℃以下であることがさらに好ましく、15℃以上200℃以下であることが特に好ましい。より緩やかな条件で行う場合、前記温度は、15℃以上200℃未満であってもよく、15℃以上180℃以下であってもよく、15℃以上170℃以下であってもよい。
【0145】
前記水素と窒素との反応における時間は、特に限定されないが、目的とするアンモニアの合成量に応じて適宜設定できる。反応時間は、5分~5時間であってもよく、10~3時間であってもよい。
【0146】
前記水素と窒素との反応における圧力は、特に限定されないが、8MPa以下であることが好ましく、5MPa以下であることがより好ましく、2MPa以下であることがさらに好ましく、1MPa以下であることが特に好ましい。より緩やかな条件で行う場合、前記圧力は、1MPa未満であってもよく、0.5MPa以下であってもよく、0.2MPa以下であってもよい。
【0147】
前記水素と窒素との反応において印加される電圧は、特に限定されないが、前記電極間に放電を生じない電圧であることが好ましい。本発明における放電とは、電極間に流通させた原料ガス中の窒素分子、水素分子などが印加電圧によって、絶縁破壊が生じてイオン化、電子放出が起こり、電流が流れることをいう。
本発明における電極間に放電を生じない電圧とは、絶縁破壊が起こり、火花放電が始まる電圧未満の電圧のことである。本発明におけるアンモニアの製造方法において印加する電圧は、絶縁破壊が生じる電圧、すなわち絶縁破壊電圧より低い電圧であることが好ましい。
【0148】
前記水素と窒素との反応において印加される電圧は、上記絶縁破壊電圧の5~90%の電圧が好ましい。例えば、上記絶縁破壊電圧が1.5kVである場合は、電極に印加される電圧は、0.025~1.35kVであることが好ましい。電極に印加される電圧は、0.05~1.2kVであってもよい。
【0149】
絶縁破壊電圧は、特開2014-141361号に記載されるように、ガス成分iのみを流通させた場合の絶縁破壊電圧Vs,iとして、式1のパッシェンの法則により原料ガスの圧力pと電極間距離dの関数として与えられる。
【数1】
【0150】
式中、Ai及びBiはガス成分により決定される定数であり、γは電極材料に依存する定数である。
【0151】
電極間に存在するガスが2種類以上の気体の混合物である場合には、式2のように、電極間におけるガス成分iの平均モル分率xiを用いて、ガス成分i中における絶縁破壊電圧Vs,iをガス混合比に基づき按分した値として計算することができる。
【0152】
【数2】
【0153】
原料ガスとしては、アンモニアの原料となる水素原子と窒素原子を含むガスであればよい。
原料ガス中の水素原子/窒素原子のモル比は、特に限定されないが、0.01以上10以下が好ましく、0.1以上8.0以下がより好ましく、0.5以上3.0以下がさらに好ましい。
当該水素原子/窒素原子のモル比が0.01以上である場合、アンモニア生成速度が平衡の制約により大きく低下することがないため好ましく、前記モル比が10以下である場合、印加電圧が高くなりすぎないため、好ましい。
【0154】
原料ガスとしては、入手容易性や経済性、触媒耐久性の観点から、窒素原子を含むガスとして窒素分子を、水素原子を含むガスとして水素分子を用い、それらの混合ガスを原料ガスとして触媒層へ導入するが好ましい。
原料ガスの供給方法としては、反応に必要な任意のガスを反応器内に導入する方法であれば特に限定れない。
原料ガスの供給方法としては、例えば、窒素供給源として窒素ガスボンベ、産業用の窒素発生装置等を用いることができる。水素供給源としては、水素ガスボンベ、炭化水素をはじめとする含水素化合物を改質して得られた水素含有ガス、アルカリ水電解や水蒸気電解によって得られた水素含有ガス等を用いことができる。
【0155】
本発明のアンモニア合成用触媒は、還元触媒として有用であるため、本発明のアンモニア合成用触媒を窒素酸化物(NOx)の還元触媒として使用することもできる。本明細書において、利用できない場合を除いて、「アンモニア合成用触媒」を「窒素酸化物(NOx)の還元触媒」に読み替えることができる。
【0156】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例0157】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0158】
[製造例1:ナノリン化鉄粒子の製造]
[製造例1-1]
ナノリン化鉄粒子を以下の方法で製造した。まず、シュレンク管に10当量(モル当量)分のトリフェニルホスファイトとヘキサデシルアミンを加え、アルゴンの流通下、150℃で30分撹拌した。次いで、アルゴン雰囲気下、200℃に昇温したのち、Fe(CO)5を加えた。さらに、50℃/分で320℃に昇温し、4時間反応させて、混合液を得た。
【0159】
前記混合液を室温まで放冷し、クロロホルムとアセトンとを用いて合成時の不純物を除いて、得られた粉末を真空乾燥して、ナノリン化鉄粒子を単離した。得られたナノリン化鉄粒子(以下、「nano-FexP」とも称する)について、以下の方法で評価した。
【0160】
[製造例1-2]
アルゴンの流通下、150℃での加熱処理時に撹拌を行わない以外は、製造例1-1と同様にして、ナノリン化鉄粒子を得た。
【0161】
<ナノリン化鉄粒子の電子顕微鏡観察>
製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子について、電界放出形透過電子顕微鏡(商品名「Tecnai(登録商標) G2 20ST」、加速電圧:200kV、FEI社(現:Thermo Fisher Scientific(US))製)を用いて観察を行った。結果を図2Aに示す。六角柱構造のリン化鉄の単結晶が得られていることが確認された。
さらに、製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子について、高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)法 (High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM;HAADF-STEM)による観察も行った。結果を図2Bに示す。図2Bから、図2AのTEM像と同様に、ナノ粒子が形成されていることが確認された。
【0162】
<ナノリン化鉄粒子の粉末X線回折測定>
製造例で得られたナノリン化鉄粒子について、大気条件下において、全自動多目的X線回折装置(商品名「SmartLab III」、株式会社リガク製)を用いて、CuKα線(λ:1.5405Å)を使用し、40kV、40mA、ステップ幅:0.0100 degree、スキャンスピード:5.0000degree min-1の条件での各試料の2θ=30~70 degreeの範囲における回折ピークを測定した。製造例1-1の結果を図3Aに示し、製造例1-2の結果を図3Bに示す。
【0163】
図3Aに示されるように、製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子について、酸素の存在する条件下のCuKα線を使用した粉末X線回折測定において、Fe2Pの(111)面に相当するピーク(回折角(2θ):40.2°)の強度が最大強度として観察された。
また、FePの(011)面、及び(211)面に相当する特徴的なピーク(回折角(2θ):48.3°、及び32.7°)が観察された。
【0164】
図3Bに示されるように、製造例1-2で得られたナノリン化鉄粒子について、酸素の存在する条件下のCuKα線を使用した粉末X線回折測定において、FePの(011)面、及び(211)面に相当する特徴的なピーク(回折角(2θ):48.3°、及び32.7°)が観察された。
【0165】
<ナノリン化鉄粒子のX線光電子分光法(XPS)>
製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子について、X線光電子分析装置(商品名「KRATOS ULTRA2」、株式会社島津製作所)を用いて、XPSによる測定を行った。結果を図4Aに示す。図4Aに示されるように、Fe2p3/2スペクトルにおいて、含まれる鉄原子が707.3eVの位置にピークを有することが確認された。このXPSの結果から、ナノリン化鉄粒子の表面(深さ約10nm程度まで)において、鉄原子が低原子価の状態であることが確認された。
図4Bの結果より、P2pスペクトルにおいてP2p3/2とP2p1/2とリン酸塩に帰属されるピークが129.7eV、130.6eV、132.1eVに観測された。このとき、P2pとリン酸塩のピーク強度比はほぼ1:1であり、ナノリン化鉄粒子の表面に存在するリンの半分近くがリン酸塩として存在していることがわかった。
さらに、ナノリン化鉄粒子の下記式により、ナノリン化鉄粒子の表面における鉄とリンの比を算出した。
Fe/P比=(Fe2pの領域/FeのRSF)/(P2pの領域/PのRSF)
(式中、RSFは各元素の相対感度である。)
【0166】
<ナノリン化鉄粒子のFe原子のK吸収端のXANES測定>
製造例で得られたナノリン化鉄粒子について、Fe原子のK吸収端に関するXANES測定は、型放射光施設「SPring-8」(ビームラインBL14B2、〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1)にて以下の条件で行った。窒化ホウ素と混合させたリン化鉄を直径10mmのディスクの形状に成型し、パウチした。結果を図5Aに示す。対照として鉄箔(Fe foil)を使用した。また、参考例として、FeO及びFe23を使用した。
〔測定条件〕
SPring-8のSi(111)モノクロメーターを用いて、室温下、透過法で測定を行った。Co K端で光学調製を行った。
測定時間:
Fe foil、FeO及びFe23 = 60sec
nano-Fex= 384sec
【0167】
図5Aに示されるように、ナノリン化鉄粒子及び複合体のピークの立ち上がりが鉄箔(Fe foil)のピークの立ち上がりと同じであった。XANES測定の結果は、XPSで評価される表面に比べて、より深部まで評価できることから、図5Aの結果から、ナノリン化鉄粒子に含まれる鉄原子が、表面に存在する鉄原子のみではなく、より内側に存在する鉄原子においても、低原子価の状態で存在していることが確認された。
【0168】
[製造例1-3]
製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子について、XPS測定の結果から、ナノリン化鉄粒子の表面の一部分がリン酸に覆われていることがわかった。
気固反応は固体表面で反応が進行するため、ナノリン化鉄粒子の表面が不純物で覆われていると、触媒活性部位が減少し、触媒活性の絶対値が低下する。そのため、触媒活性をさらに向上させるために、ナノリン化鉄粒子の表面のリン酸の除去を行った。
リン酸の沸点158℃を考慮して、高温で処理を行うことで不純物のリン酸を揮発させることでナノリン化鉄粒子の表面からリン酸を除去することを目指した。このとき、リン化鉄の構造を壊さずリン酸のみを揮発させるためにリン化鉄の熱耐性をO2-TPO、N2-TPR(Temperature-programmed reduction)、H2-TPRで測定した。
【0169】
ナノリン化鉄粒子の大気雰囲気、窒素雰囲気、水素雰囲気での熱耐性を測定するために、熱重量測定装置(商品名「TGA-50」、株式会社島津製作所製)を用いてO2-TPO、N2-TPR、H2-TPR測定を行った。セルはアルミナパンを用いて10mg程度充填した。N2/H2=1/3(合計60mL/min)の流量で室温から850℃まで10℃/minで昇温した。その時の質量の変化を測定した。
【0170】
2-TPRの結果を図6A及び図6B、N2-TPRの結果を図7A及び図7B、H2-TPRの結果を図8A及び図8Bに示す。図6B図7B及び図8Bは微分スペクトルの結果を表す。
図6Aの質量変化の結果より、酸素雰囲気では177℃で質量増加のピークが観測された。これはリン化鉄の酸化であると考えられる。そのため、酸素雰囲気ではリン酸の除去よりもリン化鉄の酸化が有利であり、177℃で構造が壊れることがわかった。
また、図7Aより、窒素雰囲気では質量の変化がほぼ観測されなかった。このことから、窒素雰囲気ではリン酸の揮発は観測されなかった。
図8Aより、水素雰囲気では300℃、450℃、550℃、850℃で質量減少のピークが観測された。それぞれの温度において耐久試験として質量が減少しきるまでの時間を求めたところ、300℃で3時間、450℃で2時間、550℃で1時間、850℃で0.5時間かかることがわかった。
【0171】
続いて、不純物を除去するための水素雰囲気下での加熱処理により、nano-FexPの構造が壊れていないことを確かめるために、TEM観察を行った。その結果を図9に示す。
図9(a)、(b)より、300℃で3時間と450℃で2時間の条件で水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理を行ったとき構造が壊れていないことがわかった。
一方で、図9(c)より、550℃で時間の条件でわずかに構造が破壊されること、図9(d)より、850℃0.5時間で完全に構造が壊れてしまうことがわかった。
以上の結果を考慮し、300℃で3時間の条件で水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理を行った。
【0172】
製造例1-3で得られた水素雰囲気下での表面の不純物を除去されたナノリン化鉄粒子の表面の電子状態を調べるために、製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子のXPS測定と同様の方法で、XPS測定を行った。結果を図10A及び図10Bに示す。図10AがFe2p3/2スペクトルの測定結果を表し、図10BがP2pのスペクトルの測定結果を表す。
図10Aの結果から、水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理後においても、ナノリン化鉄粒子の鉄原子が低原子価の状態で存在していることが確認された。また、図10A図4Aとの対比から、水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理の前後を比較して、当該除去処理によってFe(II)の還元は起きておらず、かつ水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理後に空気にさらすことによって低原子価の状態の鉄原子の酸化も起きていないことが確認された。
また、図10Bの結果から、P2pにおいてP2p3/2とP2p1/2とリン酸塩に帰属されるピークが129.7eV、130.6eV、132.1eVに観測された。このとき、P2pに占めるリン酸塩のピーク強度は2割程度であり、表面を被覆しているリン酸の除去に成功したことが確認された。
【0173】
また、後記する方法で、水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理後のナノリン化鉄粒子について、FT-EXAFS測定を行った。結果を図10Cに示す。
図10Cの結果から、水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理によって、Fe-Fe結合、及びFe-P結合の長さに変化はなかったことが確認された。一方、温度が上がるとともにFe-Fe結合の配位数は大きくなり、Fe-P結合の配位数は小さくなっていた。温度の上昇とともにFe-P結合に対してFe-Fe結合が増えていることからも850℃等の高温の水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理によりリン化鉄の構造が破壊されていることが確認できた。
また、ナノリン化鉄粒子及び複合体において、Fe-O結合に帰属されるピークは検出されなかった。このことから、ナノリン化鉄粒子及び複合体において、水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理において、リン化鉄は酸化しないことが確認された。
【0174】
また、水素雰囲気下での表面の不純物の除去処理後のナノリン化鉄粒子について、Fe原子のK吸収端のXANES測定を行った。結果を図10Dに示す。
【0175】
図10Dの結果から、不純物の除去処理を行っても吸収端のエネルギーはほぼ変化ないことがわかった。このことから、ナノリン化鉄粒子中の鉄の電子状態の変化はないと考えられた。
【0176】
<ICP-OES>
製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子の組成比を測定するためにマルチ型ICP発光分光分析装置(商品名「Agilent 5110 ICP-OES」、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いてICP測定を行った。
前処理としてナノリン化鉄粒子をHNO3/HCl=1/1の混酸2mLを用いてナノリン化鉄粒子を溶解した。
【0177】
ICP測定によりFeとPの比率を算出した。その結果、FeとPのmol比は1.77であり、リンに対して鉄が多く存在していることがわかった。
【0178】
[製造例2:担体の製造]
[製造例2-1]
Sr0.875Ba0.125ZrO3(以下、「SBZO」とも称することがある。)担体をクエン酸錯体重合法を用いて調製した。
金属の前駆体には、Sr(NO33、Ba(NO33、ZrO(NO32・2H2Oを用いた。
まず、目的酸化物の3当量分のクエン酸一水和物とエチレングリコールを秤量し、蒸留水200mLを加えてテフロン(登録商標)ビーカーで攪拌した。
次に、当量分の前記金属前駆体を秤量、テフロン(登録商標)ビーカーに投入し、ウォーターバスを用いて70℃、17時間の条件で加熱攪拌した。その後、ホットスターラーを用いて蒸発乾固を行った。
そして、得られた粉末を400℃、2時間の条件で焼成し、さらに空気流通下で850℃、10時間の条件で焼成した。
【0179】
[実施例1:複合体]
[実施例1-1:ナノリン化鉄粒子とSr0.875Ba0.125ZrO3との複合体]
製造例1-1で製造したナノリン化鉄粒子と製造例2-1で製造したSBZO担体を用いて複合体を製造した。
SBZO担体へのナノリン化鉄粒子の担持はn-ヘキサンを用いて行った。
具体的には、300mLナスフラスコにヘキサン80mLと、製造例1-1で製造したナノリン化鉄粒子の粉末70mgとを加えて攪拌した。
続いてSBZO担体1gとヘキサン80mLを加えて、25℃で24時間撹拌した。
最後に吸引ろ過を行い、得られた粉末を真空乾燥した。
上記のようにして、ナノリン化鉄粒子とSBZOとの複合体を得た。得られたナノリン化鉄粒子とSBZOとの複合体について、ナノリン化鉄粒子と同様に、XANES測定を行った結果、複合体における鉄原子が、表面に存在する鉄原子のみではなく、より内側に存在する鉄原子においても、低原子価の状態で存在していることが確認された。
【0180】
[実施例1-2]
ナノリン化鉄粒子を、製造例1-3で製造した表面の不純物の除去処理後のナノリン化鉄粒子に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ナノリン化鉄粒子と製造例2-1で製造したSBZO担体との複合体を製造した。
【0181】
<ナノリン化鉄粒子及び複合体のFe原子のK吸収端のFT-EXAFS測定>
製造例1-1で得られたナノリン化鉄粒子及び実施例1-1で得られた複合体について、FT-EXAFS測定を行った。
〔測定条件〕
SPring-8のSi(111)モノクロメーターを用いて、室温下、透過法で測定を行った。
測定時間:
Fe foil、及びFeO = 120sec
nano-FexP、及びFexP/SBZO= 600sec
EXAFS振動をフーリエ変換することで,原子間距離に応じたピークを示すスペクトルを得た。結果を図5Bに示す。
得られた結果から、ナノリン化鉄粒子におけるFe-Pの原子間距離は2.28Åであり、Fe-Feの原子間距離は、2.67Åであった。
複合体におけるFe-Pの原子間距離は2.28Åであり、Fe-Feの原子間距離は、2.69Åであった。
ナノリン化鉄粒子及び複合体において、Fe-O結合に帰属されるピークは検出されなかった。このことから、ナノリン化鉄粒子及び複合体において、リン化鉄は空気中で酸化しないことが確認された。
【0182】
[実施例2:アンモニアの製造]
[実施例2-1]
実施例1-1の複合体を触媒として備える、図1Bの構成を有する固定床流通式反応器を用いて、アンモニアを製造した。
アンモニアの製造の前に実施例1-1で調製した複合体を整粒した。複合体に60kNの圧力をかけ成型し、その後355~500mmに整粒した。整粒済みの複合体を0.1g秤量し、石英管(外径9mmφ、内径6mmφ)内のシリカウール上に固定し、触媒層を形成した。固定床流通式反応器の電極には直径2mmφのSUS304ロッドを用いた。
電場の形成は直流電流6mAを触媒層に流して行った。触媒層の温度は熱電対を反応管内に差し込み、データロガー(midi LOGGER GL240)で、応答電圧はデジタル・フォスファ・オシロスコープ(TDS2001C、Tektronix Inc.)を用いて測定した。
触媒層の温度は157℃であり、応答電圧は0.4kVであり、圧力が、0.1MPaであった。
アンモニアの製造ではN2:H2=1:3(合計240mL/min)の条件のもと、アンモニア合成速度を測定した。生成したアンモニアは蒸留水にトラップし、イオンクロマトグラフ(東ソー株式会社製IC-2001)を用いて測定した。このとき、複合体に含まれるナノリン化鉄粒子は、鉄原子が低原子価の状態であるため、還元前処理は行わなかった。結果を図11に示す。
【0183】
[実施例2-2]
実施例1-1の複合体に代えて、実施例1-2の複合体を使用した以外は、実施例2-1と同様にして、アンモニアを製造した。結果を図11に示す。
【0184】
[参考例1]
参考例1として、ナノリン化鉄粒子を何にも担持せずにバルクの状態でアンモニアの製造に使用した。結果を下記表1に示す。
【表1】
【0185】
表1から、従来技術において、アンモニア合成活性が観測される高温度域(約400℃)においても活性を確認することはできなかった。
また、電極に電圧を印加させたときも、アンモニア合成における触媒活性はみられなかった。
ナノリン化鉄粒子は非常にバンドギャップが狭い半導体でほぼ導電性を有するため、十分に電位を得ることができず、電場を印加できなかったことが要因であると考えられる。
【0186】
[参考例2]
参考例2として、Ce0.4Al0.1Zr0.52-d(以下、「CAZO」とも称することがある。)を担体に用いた複合体であるFe/CAZOを用いたアンモニア合成活性の結果を図11に示す。
【0187】
<熱安定性の評価>
実施例2-2のアンモニアの製造において、触媒層の温度を427℃まで変化させていき、応答電圧は0.38kVとした以外は実施例2-2と同様の測定を行った。各温度における測定結果を図12に示す。
【0188】
図12より、低温域で実施例2-2のような高活性を得られたにもかかわらず、温度を上がるにつれて、低下していくもののアンモニア合成の活性を有することが分かった。
【0189】
<熱及び電場のサイクル試験>
さらに、実施例2-2のアンモニアの製造において、電圧を印加したときは触媒層の温度を157℃とし、電圧を印加しないときは触媒層の温度を400℃にして、応答電圧は0.40kVとした以外は実施例2-2と同様の測定を行った。電圧の印加を繰り返して、熱及び電場のサイクル試験を行った測定結果を図13に示す。
【0190】
図13において、「EF」は、電場印加時のアンモニア合成の結果を表す。図13より、電場印加時には高性能を示しているにもかかわらず、従来アンモニア合成が進行する高温域でもアンモニア合成活性は観測されなかった。このことから、加熱によるナノリン化鉄粒子の構造破壊は起きないことがわかった。
図13のように電場を印加した際に低温域でのみアンモニア合成が進行した理由は、従来の熱による反応と電場印加による反応でアンモニア合成メカニズムが異なるためであると考えられる。
【0191】
一般的に、従来の熱による反応では窒素と水素が解離吸着し、それぞれが結合するdissociativeメカニズムで進行する(図1Aの左図)。この反応では、窒素の解離吸着が律速段階であり、触媒活性金属のアンサンブルが必要である。窒素を解離させるのに多くのエネルギーが必要であるため、主に高温域で反応が進行する。
一方、電場を印加させると担体上を伝導しているプロトンと活性金属に吸着している窒素が担体と触媒活性金属の界面でN2H中間体を形成するassociativeメカニズムで反応が進行する(図1Aの右図)。
このメカニズムでは担体上のプロトン被覆率が重要であり、吸着が有利な低温域で反応が優位に進行する。また、N2Hはend-on型(縦型)で吸着したほうが有利であるため、触媒活性金属のアンサンブルを必要としない。つまり、電場印加時は低温域ではassociativeメカニズム、高温域ではdissociativeメカニズム、中温度域ではその足し合わせで反応が進行する。
電場印加時に図12のような温度依存性を示したのは表1に示した通り、ナノリン化鉄粒子の表面にFe-Feアンサンブルがなく、associative反応のみ進行したからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明に用いる複合体は、還元反応(例えば、水素化反応)におけるアンモニア合成用触媒として有用である。また、本発明に用いる複合体は、還元触媒として窒素酸化物(NOx)の還元触媒として使用することも有用であると考えられる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12
図13