(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169855
(43)【公開日】2023-11-30
(54)【発明の名称】還元炉、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20231122BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20231122BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20231122BHJP
C22C 33/04 20060101ALI20231122BHJP
F27D 3/04 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B23/02
F27D7/06 B
C22C33/04 H
F27D3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186281
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2022080707
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 逸平
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【テーマコード(参考)】
4K001
4K055
4K063
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA02
4K001CA03
4K001CA04
4K001CA25
4K001DA05
4K001GA19
4K001GB01
4K001GB02
4K001HA01
4K055AA05
4K055AA06
4K055DA03
4K063AA05
4K063AA06
4K063AA13
4K063AA15
4K063BA02
4K063CA01
4K063DA08
4K063DA23
4K063DA32
(57)【要約】
【課題】熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うこと。
【解決手段】処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部11と、熱処理部11の側面に、ダンパー111を介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部21と、を備え、ダンパー111の閉鎖時において、ダンパー111の切り欠き部113と熱処理部11及び処理対象物貯留部21の床面に形成されているガイド溝131、231が係合することによって、処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔15が形成される、還元炉1とする。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部と、
前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部と、
を備え、
前記ダンパーは、板状のダンパー部材によって開閉可能に構成されていて、閉鎖時において処理対象物投入用柄杓の柄の上部と契合する切り欠き部が該ダンパーの下端部に形成されていて、
前記熱処理部の床面と前記処理対象物貯留部の床面には、前記処理対象物投入用柄杓の柄の下部と係合するガイド溝が、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿う同一直線上に形成されていて、
前記ダンパーの閉鎖時に、前記切り欠き部と前記ガイド溝が係合することによって、前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔が形成される、
還元炉。
【請求項2】
前記ダンパーは、閉鎖時において、前記処理対象物貯留部の床面に当接するように構成されており、
前記熱処理部の床面に形成された前記ガイド溝の幅の方が、前記処理対象物貯留部の床面に形成された前記ガイド溝の幅よりも大きい、
請求項1に記載の還元炉。
【請求項3】
前記ダンパーは、前記熱処理部と前記処理対象物貯留部とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の前記領域を閉鎖する第1のダンパー部材と、他方の前記領域を閉鎖する第2のダンパー部材と、からなり、前記ダンパーの閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、前記第1のダンパー部材と前記第2のダンパー部材のそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、前記第1のダンパー部材と、前記第2のダンパー部材とが配置されている、
請求項1に記載の還元炉。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の還元炉と、前記処理対象物投入用柄杓と、からなる還元処理ユニットであって、
前記ダンパーの閉鎖時において前記切り欠き部と前記ガイド溝とによって形成される貫通孔の形状及び大きさが、前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができて、尚且つ、契合させることができる形状及び大きさである、
還元処理ユニット。
【請求項5】
処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部と、
前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部と、
を備え、
前記ダンパーは、板状のダンパー部材によって開閉可能に構成されていて、
前記熱処理部の床面と前記処理対象物貯留部の床面には、処理対象物投入用柄杓の柄の全部を収容して係合させることができるガイド溝が、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿う同一直線上に形成されている、
還元炉。
【請求項6】
前記ダンパーは、閉鎖時において、前記処理対象物貯留部の床面に当接するように構成されており、
前記熱処理部の床面に形成された前記ガイド溝の幅が、前記処理対象物貯留部の床面に形成された前記ガイド溝の幅よりも大きい、
請求項5に記載の還元炉。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の還元炉を用いて還元処理を行う還元処理方法であって、
原料鉱石及び還元剤を前記処理対象物として、前記処理対象物投入用柄杓の先端の処理対象物載置部に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記ダンパーの閉鎖時において前記切り欠き部と前記ガイド溝とによって形成される貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記処理対象物を、前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱する、
還元処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の還元炉を用いて還元処理を行う還元処理方法であって、
原料鉱石及び還元剤を前記処理対象物として、前記処理対象物投入用柄杓の先端の処理対象物載置部に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記ダンパーの閉鎖時において前記ガイド溝によって形成される貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記処理対象物を、前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱する、
還元処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元炉、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。本発明は、詳しくは、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによりフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法の実施に好適な還元炉及び還元処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄とニッケルを主成分とする合金であり、ステンレス鋼及び特殊鋼の原料として用いられているフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬においては、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合し、その混合物を加熱処理して還元する還元処理が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
上記の還元処理を行う加熱炉の一つとして、
図1及び
図2に示すような箱型の還元炉(還元炉1)を用いることができる。この還元炉1においては、箱型の熱処理部11の側面に、箱型の処理対象物貯留部21が接続されており、熱処理部11と処理対象物貯留部21の間には、熱や炉内ガスの出入りを遮断するためのダンパー(扉)111が設けられている。
【0004】
例えば、原料鉱石と還元剤との混合物を還元処理するために、
図3に示すような柄杓(処理対象物投入用柄杓3)を用いて、上記の混合物を処理対象物貯留部21から熱処理部11に移動させる場合がある。還元処理の進行中は、熱処理部11内の温度低下を防ぐ必要があるが、仮に、ダンパー111を開放して原料鉱石や還元剤等の処理対象物を載置した処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11の内部に移動させた後、処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11の内部に保持したまま、尚且つ、熱処理部11内の温度低下を防ぎながら、還元処理を行うことができれば、必要に応じて、還元処理の途中での上記の処理対象物の出し入れや還元剤の追加が効率良く行えるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、箱型の還元炉について、各室の床面に柄杓の動きを所定方向への動きのみに制限するガイド溝を形成した上で、ダンパーの閉鎖時においては、このガイド溝によって、処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔が形成される構造とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1) 処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部と、前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部と、を備え、前記ダンパーは、板状のダンパー部材によって開閉可能に構成されていて、閉鎖時において処理対象物投入用柄杓の柄の上部と契合する切り欠き部が該ダンパーの下端部に形成されていて、前記熱処理部の床面と前記処理対象物貯留部の床面には、前記処理対象物投入用柄杓の柄の下部と係合するガイド溝が、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿う同一直線上に形成されていて、前記ダンパーの閉鎖時に、前記切り欠き部と前記ガイド溝が係合することによって、前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔が形成される、還元炉。
【0009】
(1)の還元炉によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。又、処理対象物の出し入れの際、処理対象物投入用柄杓をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することもできる。
【0010】
(2) 前記ダンパーは、閉鎖時において、前記処理対象物貯留部の床面に当接するように構成されており、前記熱処理部の床面に形成された前記ガイド溝の幅の方が、前記処理対象物貯留部の床面に形成された前記ガイド溝の幅よりも大きい、(1)に記載の還元炉。
【0011】
(2)の還元炉によっても(1)に記載の還元炉同様に、ガイド溝によって構成される貫通孔周辺における熱の出入りを十分に抑制することができる。又、熱処理部の床面のガイド溝の幅が拡張されていることによって、仮に、処理対象物投入用柄杓の柄に微細な熱変形が生じた場合にも、ガイド溝内での柄の動きの円滑性が損なわれることを回避して、処理対象物投入用柄杓の操作性を良好に維持することができる。
【0012】
(3) 前記ダンパーは、前記熱処理部と前記処理対象物貯留部とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の前記領域を閉鎖する第1のダンパー部材と、他方の前記領域を閉鎖する第2のダンパー部材と、からなり、前記ダンパーの閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、前記第1のダンパー部材と前記第2のダンパー部材のそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、前記第1のダンパー部材と、前記第2のダンパー部材とが配置されている、(1)又は(2)に記載の還元炉。
【0013】
(3)の還元炉によれば、(1)又は(2)に記載の還元炉における、上述の貫通孔の内縁を、当該貫通孔に挿通される処理対象物投入用柄杓の柄の外縁に適度な強度で押し付けながら隙間なく契合させることが可能であり、熱処理部の内部の温度低下の抑制効果を更に高めることができる。これにより、処理対象物の出し入れ時に伴う炉内の温度低下を補填する為の燃料ガスの消費を大幅に節約することができる。
【0014】
(4) (1)から(3)の何れかに記載の還元炉と、前記処理対象物投入用柄杓と、からなる還元処理ユニットであって、前記ダンパーの閉鎖時において前記切り欠き部と前記ガイド溝とによって形成される貫通孔の形状及び大きさが、前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができて、尚且つ、契合させることができる形状及び大きさである、還元処理ユニット。
【0015】
(4)の還元処理ユニットによれば、(1)から(3)の何れかに記載の還元炉における、ダンパー閉鎖時に切り欠き部とガイド溝とによって形成される貫通孔の内縁の形状及びサイズを、当該貫通孔に挿通される処理対象物投入用柄杓の柄の外縁の形状及びサイズに正確に適合させ、これらを一体的なユニットとして構成することにより、ダンパー閉鎖時における上記の貫通孔周囲に生じる隙間を最小化して、熱処理部の内部の温度低下の抑制効果を更に高めることができる。
【0016】
(5) 処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部と、前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部と、を備え、前記ダンパーは、板状のダンパー部材によって開閉可能に構成されていて、前記熱処理部の床面と前記処理対象物貯留部の床面には、処理対象物投入用柄杓の柄の全部を収容して係合させることができるガイド溝が、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿う同一直線上に形成されている、
還元炉。
【0017】
(5)の還元炉によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。又、処理対象物の出し入れの際、処理対象物投入用柄杓をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することもできる。
【0018】
(6) 前記ダンパーは、閉鎖時において、前記処理対象物貯留部の床面に当接するように構成されており、前記熱処理部の床面に形成された前記ガイド溝の幅が、前記処理対象物貯留部の床面に形成された前記ガイド溝の幅よりも大きい、(5)に記載の還元炉。
【0019】
(6)の還元炉によっても、(5)に記載の還元炉同様に、ガイド溝によって構成される貫通孔周辺における熱の出入りを十分に抑制することができる。又、熱処理部の床面のガイド溝の幅が拡張されていることによって、仮に、処理対象物投入用柄杓の柄に微細な熱変形が生じた場合にも、ガイド溝内での柄の動きの円滑性が損なわれることを回避して、処理対象物投入用柄杓の操作性を良好に維持することができる。
【0020】
(7) (1)又は(2)に記載の還元炉を用いて還元処理を行う還元処理方法であって、原料鉱石及び還元剤を前記処理対象物として、前記処理対象物投入用柄杓の先端の処理対象物載置部に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記ダンパーの閉鎖時において前記切り欠き部と前記ガイド溝とによって形成される貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記処理対象物を、前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱する、還元処理方法。
【0021】
(7)の還元処理方法によれば、(1)又は(2)に記載の還元炉を用いることによって、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。又、処理対象物の出し入れの際、処理対象物投入用柄杓をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することもできる。
【0022】
(8) (7)に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【0023】
(8)のニッケル酸化鉱石の製錬方法によれば、(7)に記載の還元処理方法をニッケル酸化鉱石の製錬に適用することによって、フェロニッケルの生産性及び品質の安定性を向上させることができる。
【0024】
(9) (5)又は(6)に記載の還元炉を用いて還元処理を行う還元処理方法であって、原料鉱石及び還元剤を前記処理対象物として、前記処理対象物投入用柄杓の先端の処理対象物載置部に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記ダンパーの閉鎖時において前記ガイド溝によって形成される貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記処理対象物を、前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱する、還元処理方法。
【0025】
(9)の還元処理方法によれば、(4)又は(5)に記載の還元炉を用いることによって、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。又、処理対象物の出し入れの際、処理対象物投入用柄杓をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することもできる。
【0026】
(10) (9)に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【0027】
(10)のニッケル酸化鉱石の製錬方法によれば、(9)に記載の還元処理方法をニッケル酸化鉱石の製錬に適用することによって、フェロニッケルの生産性及び品質の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の還元炉の本体部となる熱処理部の構成の説明に供する図面である。
【
図2】本発明の還元炉の熱処理部に接続された処理対象物貯留部の構成の説明に供する図面である。
【
図3】処理対象物投入用柄杓の構成の一例を示す図面である。
【
図4A】本発明の還元炉のダンパー周辺部の構成の説明に供する図面である。
【
図4B】本発明の還元炉のダンパー周辺部のその他の構成の一例の説明に供する図面である。
【
図4C】本発明の還元炉のダンパー周辺部のその他の構成の一例の説明に供する図面である。
【
図5】本発明の還元炉のダンパーのその他の構成の一例の説明に供する図面である。
【
図6】ダンパーの閉鎖時において処理対象物投入用柄杓の柄が還元炉に配置されている状態の説明に供する図面である。
【
図7】本発明の還元炉(第2の実施形態)のダンパー周辺部の構成の説明に供する図面である。
【
図8】本発明の還元炉(第2の実施形態)のダンパー周辺部の構成の説明に供する図面である。
【
図9】処理対象物投入用柄杓のその他の構成の一例を示す図面である。
【
図10】ダンパーの閉鎖時において処理対象物投入用柄杓の柄が還元炉に配置されている状態のその他の構成の一例の説明に供する図面である。
【
図11】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下においては、本発明の還元炉、還元処理ユニット、及び、還元処理方法を、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に適用する場合の実施形態について、その詳細を説明する。但し、本発明の適用対象は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えながら、原料鉱石の還元処理を含んでなる様々な金属製錬プロセスに用いることができる。
【0031】
又、近年は、ニッケル品位が高く不純物が少ない鉱石は少なくなりつつあり、上記のニッケル酸化鉱石の製錬において高品質のフェロニッケルを製造するためには様々な鉱石を効率良く処理してデータを蓄積することが求められている。本発明の還元炉は、このようなデータを取得するための試験操業を行うための試験炉としても好ましく用いることができる。試験炉としての実施態様の詳細については別途後述する。
【0032】
以下、先ずは、本発明の還元炉、還元処理ユニット、及び、還元処理方法の好適な適用対象であり、本発明の実施態様の一つでもある、ニッケル酸化鉱石の製錬方法の概要について説明し、その後に、本発明の還元炉、還元処理ユニット、及び、還元処理方法について詳細に説明する。
【0033】
<ニッケル酸化鉱石の製錬方法>
本発明の好適な適用対象プロセスであるニッケル酸化鉱石の製錬は、一例として
図11に示すように、ニッケル酸化鉱石を含む原料と炭素質還元剤と混合する混合処理工程S1、得られた混合物を所定の形状に成形する混合物成形工程S2、成形された混合物(或いは、原料鉱石及び還元剤)を還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S3、及び、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する回収工程S4、が順次行われるプロセスである。
【0034】
本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」は、上記各工程のうち、少なくとも、還元工程S3を本発明の還元炉、還元処理ユニット、又は、還元処理方法によって実施することを特徴とする新規な製錬プロセスである。尚、以下においては、上記の4つの工程(S1~S4)について説明するが、本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」においては、上記の混合処理工程S1及び混合物成形工程S2は、必ずしも必須の工程ではない。このような処理を行わずに原料鉱石及び還元剤を還元炉に投入する実施態様としても、本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」を実施することは可能であり、そのような実施態様も本発明の技術的範囲である。
【0035】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。尚、炭素質還元剤としては、石炭粉、コークス粉等を用いることができる。
【0036】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形する工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、所定の大きさ以上の塊に成形し、次の還元工程S3での還元処理に際して、還元炉内に混合物を例えば積層して投入できるようにする。
【0037】
[還元工程]
還元工程S3は、混合物成形工程S2で得られた混合物(成形物)を、還元炉内において加熱することによって還元反応を進行させて、ニッケル酸化鉱石からメタルとスラグとを生成させる工程である。還元処理の温度(還元温度)としては、1200℃以上1500℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1450℃以下とすることがより好ましい。このような範囲の還元温度とすることで、効率的且つ確実に還元反応を進行させて、所望とする特性のフェロニッケルを得ることができる。尚、この還元工程S3の実施に好適な本発明の還元処理方法の詳細については追って後述する。
【0038】
[回収工程]
回収工程S4は、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する工程である。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物(混在物)からメタル相、即ち、フェロニッケルを分離して回収する。固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0039】
<還元炉・還元処理ユニット>
図1及び
図2示す還元炉1は、本発明の還元炉の好ましい実施形態の一例である。還元炉1は、処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部11と、熱処理部11の側面の開口部分に、ダンパー111を介して接続されている処理対象物貯留部21と、を備える、箱型の加熱炉である。
【0040】
そして、還元炉1は、熱処理部11の内部の床面と処理対象物貯留部の床面に処理対象物投入用柄杓3(
図3及び
図9参照)の柄31の下部を係合させることができるガイド溝131、231が形成されていること、及び、このガイド溝131、231とともに、ダンパーの閉鎖時に、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を挿通させることができる貫通孔15を形成することができるように、ダンパー111の下端部に切り欠き部113(113A、113B)が形成されていることを、主たる特徴とする。
【0041】
ここで、本明細書においては、本発明の還元炉1と、還元炉1に形成されている貫通孔15に契合する形状の柄31を有する処理対象物投入用柄杓3との組合せからなる還元処理用の技術的手段のことを、「還元処理ユニット」と称する。尚、本明細書において「(柄の形状が)貫通孔15に“契合”する」とは、柄の断面形状(外縁)と、貫通孔の形状(内縁)の少なくとも一部が隙間なく密着して契合している状態、或いは、上記の契合状態において柄の外縁と貫通孔等の内縁との隙間(一例として
図9におけるクリアランスC1)が、1mm以下であることを意味するものとする。
【0042】
[還元炉]
図1及び
図2に示すように、還元炉1の熱処理部11には、熱処理部11の内部と外部とを仕切る開閉可能な扉であるダンパー111が設けられている。又、
図2に示すように、熱処理部11の外部には、ダンパー111を介して、処理対象物貯留部21が接続されている。又、熱処理部11の内部には、公知の各種の加熱炉と同様に加熱用のバーナー12、及び、排気口14が設けられている。
【0043】
又、熱処理部11の内部には、その床面におけるダンパー111の設置位置に隣接する位置に、基台13が設けられていることが好ましい。基台13は、本発明における必須の構成ではないが、原料鉱石と還元剤との混合物等の処理対象物を載置した処理対象物載置部32を熱処理部11の内部における所望の位置において安定的に支持するための台である。尚、本明細書においては、熱処理部11の内部に基台13が設置されている場合には、基台13が設置されている範囲においては、熱処理部の「床面」は、基台13の直下の床面ではないものとし、基台13の天面(処理対象物載置部32が載置される面)を、熱処理部の「床面」として定義する。
【0044】
図4A及び
図6に示す通り、還元炉1においては、熱処理部11の内部の床面(即ち、基台13の天面)、及び、処理対象物貯留部21の床面に、処理対象物投入用柄杓3の柄31の下部、好ましくは、断面視における下部側半分の部分を全て含む部分を収容して係合させることができるガイド溝131、231が、処理対象物投入用柄杓3の挿入方向、即ち、熱処理部11の側壁に直交する方向に沿う同一直線上に形成されている。
【0045】
ここで、「ガイド溝に処理対象物投入用柄杓の柄を収容して“係合”」とは、具体的には、「処理対象物投入用柄杓の柄の外縁形状の一部とガイド溝の内縁形状の対応する一部の形状が同一又は近似していることによって、処理対象物投入用柄杓の柄の動きが、所定方向、即ち、熱処理部の側壁に直交する方向への水平移動に制限されている状態(そのように“係合”されている状態)で、処理対象物投入用柄杓の柄がガイド溝内に収容されている」ことを意味する。ガイド溝の断面形状は、このような機能を発揮し得る形状であればよく、その限りにおいて特定形状に限定されない。但し、一般的な柄杓の柄が円柱形状であるところから、ガイド溝の断面形状は、このような柄の断面形状に契合させることができる半円形状、若しくは、少なくとも底面が半円形状であるU字形状等とすることが好ましい。
【0046】
尚、処理対象物貯留部21の床面に、形成されるガイド溝の断面形状は、
図4Bに示すガイド溝131Aのように底面側が三角形である形状とすることもできる。基台13の天面(熱処理部11の床面)は、繰り返しの熱応力を受ける部分であるため、繰り返しの使用によって、ガイド溝は変形する可能性がある。これに対して、
図4Bのような断面の底面側の形状が三角形の形状からなるガイド溝131Aとすることにより、そのような変形が生じたとしても、処理対象物投入用柄杓3の柄31の下部との接点が少なく変形の影響を受けにくいため、変形後も、そのまま使用することができ、ガイド溝の実質的な寿命を延ばすことができる。
【0047】
又、
図4A及び
図4Bに示す通り、ダンパー111は、板状のダンパー部材112A、112Bによって構成されている開閉可能な扉状の仕切り部材である。ダンパー111には、
図4A及び
図4Bに示す閉鎖時の状態において、処理対象物投入用柄杓3(
図3)の柄31の上部を契合させることができる切り欠き部113A、113Bがダンパー111の下端部に形成されている。
【0048】
尚、
図4Cに示すように、還元炉1においては、ガイド溝131を、処理対象物投入用柄杓3の柄31の断面視における下部側半分の部分のみではなく、上部側半分の部分の一部も収容する形状とすることができる。この場合においては、ダンパー111の切り欠き部113A、113Bは、
図4Cに示すように、柄31の外周面のうち床面から突出する部分と契合する形状であればよい。
【0049】
尚、ダンパー111は、
図4A及び
図4Bに示すように、対向する1対のダンパー部材によって構成して水平方向に沿って各ダンパー部材を移動させて開放及び閉鎖の動作を行わせる構造とすることができるが、この他、ダンパーを1枚のダンパー部材で構成してこのダンパーを上下動させることで、開放及び閉鎖の動作を行わせる構成(図示せず)とすることもできる。これによりダンパーの構成と動作をより簡易な構成で実現できるため、製造コストや保守コストの低減が可能である。
【0050】
一例として、
図4A及び
図6に示す通り、還元炉1においては、ダンパー111の閉鎖時において、ダンパー部材112A、112Bに形成されている切り欠き部113A及び113Bと、ガイド溝131、231とが係合して、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を挿通させることができる貫通孔15が形成される。尚、この貫通孔15の内径は、処理対象物投入用柄杓3の柄31の太さに対する上記の要件を満たす大きさであるとともに、貫通孔15を通じた熱の出入りを最小限に止めるために、熱処理部11と処理対象物貯留部21とを結ぶ開口面の面積に対する貫通孔の面積の比率を、0.05以下とすることが好ましく、0.03以下とすることがより好ましい。一例として、上記開口面が100mm×130mmの矩形状の開口面である場合であれば、貫通孔15の内径は、28mm以下であることが好ましく、22mm以下であることがより好ましい。
【0051】
還元炉1においては、処理対象物貯留部21から熱処理部11への処理対象物の装入、及び、熱処理部11から処理対象物貯留部21への取り出しは、ダンパー111を開放させた状態で、処理対象物を載置した処理対象物投入用柄杓3を、ダンパー111を通じて熱処理部11に速やかに出し入れすることによって行われる。この時、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分をガイド溝131、231に係合させた状態で、出し入れの操作を行うことにより、処理対象物投入用柄杓3をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することがきる。
【0052】
そして、還元炉1における処理対象物の還元処理は、
図4Aに示すようにダンパー111を閉鎖させた状態で行う。この還元処理は、より具体的には、
図6に示すように、熱処理部11の内部に処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32を挿入したまま、ダンパー111を閉鎖し、その状態で処理対象物載置部32の載置面321に載置されている処理対象物を加熱することによって行う。この際、ダンパー111は、処理対象物投入用柄杓3の柄31をダンパー111の貫通孔15に挿通させて、尚且つ、貫通孔15に契合させた状態で閉鎖するようにする。
【0053】
ダンパー111は、
図4Bに示すように、それぞれの先端近傍領域にダンパー111の閉鎖時に貫通孔15を形成することができるように、一例として、扇型の貫通孔形成用の切り欠き部113A、113Bが形成されているダンパー部材112A、112Bによって構成することもできる。
【0054】
又、他の一例として、ダンパー111は、熱処理部11と処理対象物貯留部21とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の領域を閉鎖する第1のダンパー部材112Cと、他方の領域を閉鎖する第2のダンパー部材112Dで構成し、ダンパー111の閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、第1のダンパー部材112Cと第2のダンパー部材112Dのそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、両ダンパーを配置する構成とすることもできる。この場合、第1のダンパー部材112C及び第2のダンパー部材112Dは、何れも、
図5に示すように先端が扇型とされている帯状の貫通孔形成用の切り欠き部113C、113Dが形成されているものとする。これにより、ダンパー111の閉鎖時に、上述の態様で貫通孔15を形成することができる。尚、上述の先端近傍領域同士の重なり幅は20mm以上とすることが好ましい。この重なり幅を、このように適度に大きくすることにより、先端近傍領域間の隙間からの輻射熱の出入りをより確実に防ぐことができるようになる。
【0055】
本発明の還元炉及び還元処理ユニットの代表的な使用対象プロセスとして想定されるニッケル酸化鉱石の製錬においては、上述した通り、還元炉の炉内温度は、最大1500℃程度に達するのでダンパー部材112の耐熱温度は1500℃以上とすることが好ましい。そのような材料の一例として、アルミナファイバー製の断熱ボードであって、密度が250kg/m3以上の断熱ボードを、ダンパー部材112の材料として好ましく用いることができる。ダンパー部材の材料として、このような断熱ボードを採用することにより、適切な貫通孔を形成するための加工が容易に行えるようになる。又、上記の断熱ボードの採用により、ダンパー111全体の重量も軽量化されて開閉が容易になる。
【0056】
又、ダンパー111を構成する各々のダンパー部材112の材料としては、各種の断熱ボードの表面にコーティングを施すことも有効である。例えば、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)同士の接着に用いられ、バルクと結合剤を混錬した不定形耐火物用の接着剤である、コーティングセメント(イソライト工業製)、MBセメント(イソライト工業製)或いは、17Dセメント(イソライト工業製)等を、上記のコーティングを行うコート剤として好ましく使用することができる。これらは、一般的には、各種の断熱ボード等、不定形耐火物用の接着剤として用いられているものではあるが、コート性に優れるうえ、ダンパーの強度を向上することでダンパー各部の寸法減少を長期間抑制することが可能である。従って、ダンパー111を構成する各々のダンパー部材112の極めて好ましい材料として、アルミナファイバーからなる板材の表面に上述した各種の不定形耐火物用の接着剤がコートされてなる断熱ボードを挙げることができる。
【0057】
処理対象物貯留部21は、ダンパー111を介して、熱処理部11と接続されている。尚、処理対象物貯留部21には、ダンパー111と対向する位置に、「処理対象物」を出し入れするための装入/取出口212が設けられている。装入/取出口212は、蓋体であり、開閉可能な扉状の構造を有している。又、装入/取出口212は、極力空気が入らないように、二重構造の扉(二重扉)とすることが好ましい。処理対象物貯留部21に「処理対象物」を装入する際には、装入/取出口212を開放して行い、熱処理部11での還元処理時、処理対象物貯留部21での還元剤供給時、及び処理対象物貯留部21での冷却時には、装入/取出口212を閉めた状態で各操作を実行する。
【0058】
尚、処理対象物貯留部21は、雰囲気ガスを置換できる構造を有していることが好ましい。置換するガスとしては、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスを流して雰囲気を置換することで、還元済みの処理対象物を処理対象物貯留部21にて冷却する際に、流通させた不活性ガスが冷却用ガスとして作用して冷却を促進することができる。処理対象物貯留部21の内部の雰囲気ガスが不活性ガスであることにより、還元済みの処理対象物の酸化を抑制することもできる。尚、上記の不活性ガスとしては、比較的安価で、安定的に入手できる点から、窒素、アルゴン等を用いることができる。又、二酸化炭素も不活性ガスとして用いることができる。又、処理対象物貯留部21の内供に不活性ガスを流通させることによって、貫通孔15を通じた熱の対流によって起る処理対象物貯留部21の内部の温度上昇も抑制することができる。
【0059】
又、処理対象物貯留部21の熱処理部11側の開口部には、ダンパー111とは別途に、上述のような貫通孔15が形成されることなく当該開口部の全体を閉鎖することが可能な「補助ダンパー(図示せず)」を更に併設しておくこともできる。還元炉1においてこの「補助ダンパー」を設置した場合には、熱処理部11の内部に処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32が挿入されている状態においては、「補助ダンパー」を開放しておき、熱処理部11の外部に処理対象物投入用柄杓3が取り出されている状態においては、「補助ダンパー」を閉鎖すればよい。これにより、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができるという本願発明の基本的な作用・効果を享受しながら、尚且つ、熱処理部11の外部に処理対象物投入用柄杓3が取り出されている状態である場合を含めて、処理対象物貯留部の内部の処理対象物貯留部21の内部の温度上昇を更に抑制することができる。
【0060】
尚、上記の説明においては、ダンパー111の設置位置について、閉鎖時にその下端部が熱処理部11の床面(即ち、基台13の天面)に当接するように構成されていること、即ちダンパー111が熱処理部の内部の処理対象物貯留部21寄りの端部に設置されていること(
図6参照)を前提にダンパーの作用効果の詳細を説明した。しかしながら、ダンパーの設置位置は、
図10に示すダンパー111Aのように、閉鎖時にその下端部が処理対象物貯留部21の床面に当接するような構成、即ちダンパー111が処理対象物貯留部21の内部の熱処理部11寄りの端部に設置されている構成であってもよい。そして、ダンパーを
図10に示すような位置に設置した場合には、熱処理部11の床面に形成されるガイド溝131Aの幅(w
2)を、処理対象物貯留部の床面に形成されたガイド溝231の幅(w
1)よりも大きくすることができる。
図10に示すダンパーの配置を前提とすれば、熱処理部11の内部の床面に形成されたガイド溝131の幅(w
2)を、処理対象物貯留部の床面に形成されたガイド溝231の幅(w
1)よりも幅広に拡大したとしても、処理対象物貯留部21の床面に形成されたガイド溝231とダンパー111Aとによって形成される貫通孔15に、柄31が契合さえしていれば、貫通孔15周辺におけるガイド溝131及び231を通じた熱の出入りを最小限に抑えて、処理対象物貯留部21の内部の温度上昇を十分に抑制することができるからである。又、ガイド溝131Aの幅(w
2)をガイド溝231の幅(w
1)よりも幅広に拡大しておくことにより、仮に柄31に熱影響による微細な変形が生じた場合にも、ガイド溝131A内での柄31の動きの円滑性が損なわれることを回避して、熱処理部11内部への処理対象物載置部32の出し入れの操作容易性を良好に維持することができる。
【0061】
但し、上記のようにガイド溝131Aの幅(w2)を、処理対象物貯留部の床面に形成されたガイド溝231の幅(w1)よりも大きくする場合であっても、熱処理部11の床面に形成されるガイド溝131Aの幅(w2)は、最大でも処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32の幅(w3)よりは小さくすることが好ましい。ガイド溝131Aの幅(w2)の拡大の程度をこの範囲内に止めておけば、処理対象物載置部32を処理対象物貯留部21寄りに近接させることで、ガイド溝131の処理対象物貯留部21寄りの末端周辺に生じる隙間からの還元ガス及び燃焼ガスの流出を抑制することができるからである。又、熱処理部11内における、還元ガス及び燃焼ガスの対流は、その大部分が熱処理部11の側壁の立設する方向、(即ち、ガイド溝の長手方向)に沿った流れであるため、ガイド溝131Aの幅(w2)を、上述の通り、最大でも処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32の幅(w3)より小さくしておくことにより、還元ガス、及び燃焼ガスのガイド溝131Aの内部への流入も十分に抑制することができる。これにより、ガイド溝131Aの内部への還元ガス及び燃焼ガスの流入に起因する処理対象物載置部32及び柄31の熱変形を抑制することもできる。
【0062】
[還元処理ユニット]
本発明の還元処理ユニットとは、一例として、
図1及び
図2に示す本発明に係る還元炉1と、
図3に示す処理対象物投入用柄杓3との組合せからなる還元処理の実施を目的とする技術的手段である。この還元処理ユニットにおいては、還元炉1においてダンパー111の閉鎖時に形成される貫通孔15の内縁の形状及び大きさが、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分の中心軸に直交する断面(即ち軸の外縁)の形状及び大きさと略同一となるように、両者の形状及び大きさがそれぞれ最適化されている。これにより、還元処理ユニットにおいては、
図6に示すように、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を、ダンパー111の閉鎖時において、貫通孔15に挿通させることができて、尚且つ、その状態において、貫通孔15と処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を契合させることができる。これにより、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができるので、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。又、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分をガイド溝131、231に係合させた状態で、出し入れの操作を行うことにより、処理対象物投入用柄杓3をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することがきる。
【0063】
尚、本発明の還元処理ユニットにおいては、処理対象物投入用柄杓3を構成する処理対象物載置部32の長さ(柄31の長軸方向の長さ)が、熱処理部11のガイド溝131の長さ(柄31の長軸方向における両端部間の長さ)よりも相対的に大きくなるように両者の形状・大きさが相互に最適に設計されていることがより好ましい。このように全体構成が最適に設計されていることによって、ガイド溝131の長さ方向における両端部を処理対象物載置部32によって覆う状態とすることが可能となり、上述したガイド溝131内部への不都合な熱の流入をより遮断しやすくなる。
【0064】
(処理対象物投入用柄杓)
図3は、本発明の還元処理ユニットを構成する処理対象物投入用柄杓3の構成を示す図面である。処理対象物投入用柄杓3は、柄31と、柄31の先端に連結された処理対象物載置部32とを備えている。柄31は、作業者がその手により、或いは、機械により把持する部分であり、棒状体により構成されている。処理対象物載置部32は、柄31の先端に連結されており、その上面(載置面321)に処理対象物が載置される。尚、
図3では、処理対象物載置部32が直方体状である実施形態の一例を示しているが、処理対象物載置部の形状は、これに限られず、載置面が凹部を構成し、四方に壁面が立設され、上面が開口した容器のようなもので構成されていてもよい。尚、本発明においては、
図3に示すように、柄31の上部が処理対象物載置部32の側面下端部に接合されている形態の柄杓を特に好ましく用いることができる。
【0065】
処理対象物投入用柄杓3における柄31の処理対象物載置部32への接合形態は、例えば、処理対象物載置部32の底面に柄31の側面を当接させ、その状態で溶接や螺子止め等の接合手段を用いて接合した形態であってもよい(
図9参照)。この場合、ガイド溝131、231を
図4Cに示す形状とすることができる。処理対象物投入用柄杓3とガイド溝131、231とのこのような組合せによれば、処理対象物載置部32を熱処理部11内に円滑且つ正確に移動させることができ、尚且つ、処理対象物載置部32を熱処理部11内に配置したときに、処理対象物載置部32の接合部を除く底面のほぼ全てを、熱処理部11の床面に密着させることができる。これにより、熱処理部11における還元処理時に、熱処理部11の床面に対して平行に処理対象物載置部32を配置することが可能となり、処理対象物の均一な加熱が行いやすくなるうえ、処理対象物載置部32の底面に多量の還元ガス、及び燃焼ガスが流れることに起因して、処理対象物載置部32において底面方向から入熱が過剰となることで、短期間に処理対象物載置部32、及び柄31に変形が生じてしまうことも抑制することができる。
【0066】
処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32を構成する材料としては、使用条件に応じた一定以上の耐熱性を有する各種のセラミックとすることができるが、アルミナ質のセラミック、或いは、マグネシア質のセラミックとすることが特に好ましい。
【0067】
又、柄31を構成する材料としては、処理対象物載置部32と同様の各種のセラミックとすることができるが、長尺形状であり割れやすく試料の出し入れが困難、或いは不可能となる懸念があるため、JIS規格に規定されるステンレス鋼(SUS材)とすることが好ましく、耐熱鋼(SUH材)とすることが特に好ましい。
【0068】
尚、合金度が高い耐熱鋼であっても耐熱温度は通常1050℃程度以下であり、一方で、還元処理の温度(還元温度)は1200℃以上1500℃以下と高いため、耐熱鋼の使用限界温度を超えてしまうが、ガイド溝131、231の形状を、柄31の外表面の大部分がガイド溝131、231に係合可能となる形状に形成すれば、柄31に対して過剰に入熱が生じるといった不都合を効果的に回避して、柄31自体の温度上昇を抑制することができるので、上記の耐熱鋼を、柄31を構成する材料として問題なく使用することが可能である。勿論、上記形状に形成することは必須ではなく、本発明においては、処理対象物投入用柄杓3の柄31の下部、好ましくは、断面視における下部側半分の部分を全て含む部分をガイド溝131、231の内部に収容させることができるため、柄31に対する入熱をある程度抑制することが可能であり、しかも、入熱に起因して柄31が軟化した場合でも、柄31の外周面がガイド溝131、231にほぼ接した状態で保持できるため、軟化に伴う柄31のダレを抑制しやすく、従来法と比較して柄31の真直状態を維持することが容易である。
【0069】
<還元炉・還元処理ユニット(第2の実施形態)>
本発明の還元炉及び還元処理ユニットは、上記において説明した実施形態(第1の実施形態)とは異なる他の実施形態(第2の実施形態)として実施することができる。この「第2の実施形態」は、熱処理部11の床面及び処理対象物貯留部21の床面に形成されているガイド溝131、231が、処理対象物投入用柄杓3の柄31の全部を収容して係合させることができるガイド溝とされていることによって、ダンパー111の下端部の切り欠き部113(113A、113B)が不要とされている点(
図7及び
図8参照)が第1の実施形態との相違点であり、それ以外の構成は、上記において既に説明した第1の実施形態と同様である。
【0070】
還元炉及び還元処理ユニットの「第2の実施形態」においては、貫通孔15がガイド溝のみによって構成されるので、そのことを前提として、ガイド溝131、231の断面の大きさは、ガイド溝131、231に柄31を収容したときに、ガイド溝131、231と柄31との隙間が最小限、具体的には、当該隙間(
図8におけるクリアランスC
1及びC
2)が1mm以下となる大きさに設定することが好ましい。
【0071】
又、還元炉及び還元処理ユニットの「第2の実施形態」においても、「第1の実施形態」同様、ダンパーを
図10に示すような位置に設置した場合には、熱処理部11の床面に形成されるガイド溝131Aの幅(w2)を、処理対象物貯留部の床面に形成されたガイド溝231の幅(w1)よりも大きくすることによる上記各効果を享受することができる。
【0072】
<還元処理方法>
本発明の「還元処理方法」(以下、単に「還元処理方法」とも言う)は、還元炉1、或いは、それを含んで構成される上述の「還元処理ユニット」を用いて、処理対象物の還元処理を行う方法である。以下、この「還元処理方法」の具体的な手順の一例を説明する。
【0073】
「還元処理方法」においては、先ず、処理対象物貯留部21の装入/取出口212を開けて処理対象物貯留部21の内部に装入し、更に、ダンパー111を開放して、処理対象物貯留部21に接続されている熱処理部11の内部へと装入し、基台13に載置する。この一連の処理対象物投入用柄杓3の移動のための操作は、柄31をガイド溝131、231に契合させた状態で行う。これにより、処理対象物投入用柄杓3をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができる。
【0074】
このとき、熱処理部11内に入れた処理対象物投入用柄杓3を、基台13の中央部付近まで移動させた後、処理対象物投入用柄杓3それ自体を基台13の上に置き、その状態のまま(原料鉱石や還元剤等の処理対象物(以下、単に「処理対象物」とも言う)を、収容した処理対象物投入用柄杓3を載置させた状態のまま)還元処理を開始する。即ち、還元処理に際して、処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11内に残したまま加熱を開始する。このような方法によれば、処理対象を処理対象物投入用柄杓3に載置し、その後は、処理対象物投入用柄杓3を、処理対象物貯留部21を経由して熱処理部11に出し入れする操作を行うだけで、還元処理を実行することができる。これにより、ダンパー111を通じて熱処理部11に出し入れする際のダンパー111の開放時間を短縮して、ダンパー111の開放中の熱処理部11内部の温度低下を抑制することができる。又、処理対象物投入用柄杓3から基台13上に「処理対象物」を移し変えるとき等にその「処理対象物」が基台13から落下するといった誤操作を防いだり、バーナー12による加熱が均一に生じなくなるといった不具合を防いだりすることができる。尚、このような実施態様の場合において、処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32に、灰や炭素質還元剤等を敷いておいてもよい。これにより、その処理対象物載置部32の載置面での「処理対象物」の融着を防ぐことができる。
【0075】
又、このように処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11内に残した状態においては、その処理対象物投入用柄杓3の柄31の主な部分は、処理対象物貯留部21に位置するようになる(
図2参照)。そして、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分が処理対象物貯留部21内に位置するようにして還元処理を開始することで、還元処理の加熱によって処理対象物投入用柄杓3の柄31が熱変形してしまうことを防ぐことができる。
【0076】
又、「還元処理方法」においては、還元処理の途中の段階において「処理対象物」を熱処理部11から処理対象物貯留部21に移動させることもできる。この場合は、ダンパー111を開いた後に、処理対象物投入用柄杓3の柄31を把持して処理対象物貯留部21の側からその処理対象物投入用柄杓3を引き出すようにして、「処理対象物」が載置された処理対象物載置部32の部分を処理対象物貯留部21内に移動させ、速やかにダンパー111を閉鎖する。そして、例えば、処理対象物載置部32に載置した「処理対象物」に更に炭素質還元剤を追加する作業等、必要な追加作業を処理対象物貯留部21の内部において、適宜行うことができる。このように、熱処理部11と処理対象物貯留部21との間の「処理対象物」の移動を、処理対象物投入用柄杓3を移動させることによって行うことで、円滑に移動させることができる。又、これらの処理対象物投入用柄杓3の移動のための操作も、上記同様、柄31をガイド溝131、231に契合させた状態で行うことにより、処理対象物投入用柄杓3をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができる。
【0077】
そして、還元処理の終了後には、処理対象物貯留部21の内部からダンパー111を開放して、還元処理により得られた還元物を、熱処理部11から処理対象物貯留部21を経由して取り出す。還元物の取り出しに際しては、処理対象物貯留部21において還元物の冷却を行う。処理対象物貯留部21での還元物の冷却は、処理対象物貯留部21の内部からダンパー111を閉鎖した状態で行う。これにより、熱処理部11からの高温の熱が処理対象物貯留部21内に入り込むことを防いで、効率的に冷却を行うことができる。
【0078】
又、処理対象物貯留部21での還元物の冷却を行う際には、処理対象物貯留部21の内部に、不活性ガスを流通させることが好ましい。これにより、不活性ガスが冷却用ガスとして作用して、還元処理により得られた還元物を所定の温度にまで効率良く冷却することができる。又、不活性ガスが充満している環境下では、還元処理により得られた還元物の酸化を抑制することもできる。又、還元炉1が上記の「補助ダンパー」を備えている場合であれば、「補助ダンパー」も閉鎖した状態で冷却処理を行うことにより、熱処理部11からの高温の熱が処理対象物貯留部21の内部に入り込むことによる処理対象物貯留部21内部の温度をより好ましい低温度範囲内により確実に防ぐことができる。
【0079】
<試験操業としての実施形態>
本発明の「還元炉」、「還元処理ユニット」、「還元処理方法」は、何れも、還元処理を含む実装業に反映させるための各種データを取得することを目的とした還元処理の試験操業を行うための技術的手段としても好ましく用いることができる。例えば、還元炉1に少量のペレットを装入し、還元処理を行い、生成した還元物の取り出しを行って、上述の各種データを取得することができる。
【0080】
還元炉に限らず、一般的に炉には、試料等の処理産物の出し入れのための開口部が必要となる。酸素の巻き込みや熱の拡散、外気の影響等を防ぐために、その開口部の大きさは小さい方が好ましい。ところが、特に、試験操業用に比較的小規模な炉を用いる場合、相対的に開口部のサイズは大きくなり、試験によって得られるデータの誤差発生の要因になるという問題がある。この問題に対して、本発明の適用により、還元炉1を試験炉として用いることによって、開口部の大きさを確保しながら、急激な温度変化を抑制することができるので、炉内での還元状況の正確なデータを得て操業に反映させることができるようになる。又、本発明の還元炉・還元処理ユニットを採用することによれば、上述の通り、処理対象物投入用柄杓3の柄31の加熱雰囲気中への暴露を低減して、処理対象物投入用柄杓3全体の変形も抑制することもできるので、処理対象物の出し入れ作業の操作容易性を良好に維持して精度の高い試験をより容易に継続できるようになる。
【実施例0081】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
図1及び
図2に示す構成からなる還元炉1及び
図3に示す処理対象物投入用柄杓3と同様の形状・構成からなる還元炉と処理対象物投入用柄杓とからなる「還元処理ユニット」を用いて、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を処理対象物とし、本発明の上述した「還元処理方法」の手順に則り、還元処理の試験操業を行った。
【0082】
(還元炉と処理対象物投入用柄杓(還元処理ユニット))
実施例で用いる還元炉1のダンパーの形状と配置は、
図4Aに示す通りとした。又、上記の還元炉において、ダンパーによって閉鎖される熱処理部の開口部のサイズは、130mm×100mmとし、処理対象物投入用柄杓の外径とダンパーの閉鎖時に形成される貫通孔の内径は20mmとした。
【0083】
(還元処理方法)
実施例の具体的な作業手順は以下の通りとした。先ず、処理対象物投入用柄杓に載置した処理対象物を、載置面に載置した状態のまま、処理対象物投入用柄杓の柄の下部をガイド溝に契合させた状態で移動させて熱処理部内に挿入し、その後、処理対象物を上記の載置面に載置したままの状態で、且つ、処理対象物投入用柄杓の柄の部分はダンパーの閉鎖時に形成される上記の貫通孔に挿通されている状態で、ダンパーを閉鎖し、1400℃×30分の加熱条件で還元処理を行った。そして、その後、ダンパーを開放し、処理対象物投入用柄杓に載置されたまま還元処理を終えた処理対象物を載置面に載置されている状態のままで、上記同様に柄の下部をガイド溝に契合させた状態で挿入時とは反対方向に処理対象物投入用柄杓を移動させることによって、処理対象物貯留部に移動させ、還元処理済の処理対象物を、同室内において、ダンパーを閉鎖した状態で、15分冷却してから、大気中に取り出した。処理対象物貯留部の内部には窒素を常時流して処理した。
【0084】
実施例の試験操業で得られた還元処理済の処理対象物について、組成分析を行うことにより、下記(式1)により定義される、ニッケルメタル化率について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100)により分析して算出した。結果を表1に示す。
(式1) ニッケルメタル率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中の全てNiの量)×100(%)
【0085】
【0086】
ここで、ニッケル酸化鉱石の還元処理を含む一般的なニッケル酸化鉱石の製錬プロセスにおいて求められる「Niメタル化率」は、通常、97%~99%程度である。実施例の試験操業においては、十分な「Niメタル化率」を維持できているが、併せて、熱処理部と処理対象物貯留部との間の「処理対象物」の全ての移動を、処理対象物投入用柄杓を略平行にガイド溝に沿って移動させることのみによって簡単に行うことができるようにされていることにより、処理対象物の載置面からの零れ落ちも全くなく、速やかに各移動を完了させることができた。
【0087】
以上より、本発明によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができることが確認された。
【0088】
[処理対象物投入用柄杓の変形試験について]
追加試験として、ガイド溝の有無による処理対象物投入用柄杓の構成要素である柄の熱変形の差異を検証する試験を行った。
【0089】
(実施例)
先ず、
図9に示す接合形態の処理対象物投入用柄杓を準備し、還元炉については、熱処理部内に設置した基台の天面と前記処理対象物貯留部の床面に下記に示す断面形状であって、
図7の形状の処理対象物投入用柄杓の柄の全体を収容可能なサイズのガイド溝を設けたことの他は、上記試験の実施例の試験操業で用いた還元炉と同一構成の還元炉を実施例の還元炉とした。具体的に、処理対象物投入用柄杓は、柄がSUS310Sで作成された全長が1.5m程度の丸棒(φ18mm)のもので、処理対象物載置部が処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿った長さが360mm程度、挿入方向に対して直交する方向の長さが90mm程度、高さが30mm程度のSUS310Sで作成された直方体状の上面が開放された容器のものを用いた。ガイド溝は、幅及び深さが19mm程度であり、尚且つ、その下面が上記柄の下半分にほぼ契合するように、幅方向の断面において、最下部が半円形状となるように形成した。この実施例の還元炉においては、熱処理部内に処理対象物載置部を配置したときに、上記の天面上に処理対象物載置部の底面全体が当接する。
【0090】
(比較例)
一方で、熱処理部内に処理対象物投入用柄杓の装入方向に沿って天面が平坦な一組の支柱を設け、その支柱によって(柄を間に挟んで)、処理対象物載置部の両端部のみを支持した場合、即ち、還元処理の進行中に、処理対象物投入用柄杓の柄がガイド溝に収容されないようにした点を実施例との相違点とした還元炉を比較例の還元炉とした。そして、両者の間で、処理対象物投入用柄杓の柄において、還元処理前後でどの程度の熱変形が生じるかを比較検証した。
【0091】
上記試験は、具体的には、実施例・比較例それぞれの還元炉の熱処理部内に処理対象物載置部を配置した状態で、所定の温度、及び時間で加熱処理を施した後に、ダンパーを開放し挿入時とは反対方向に処理対象物投入用柄杓を移動させることによって、処理対象物貯留部に移動させ、同室内においてダンパーを閉鎖した状態で10分冷却し、その冷却が完了した時点で大気中に取り出し調査した。そして、1mm/m未満の歪のときは「〇」、1mm/m以上10mm/mの歪のときは「△」、10mm/m以上の歪及び破断して取り出せなかった場合を「×」と評価した。
【0092】
試験結果を下記表2に示す。実施例では、殆どのケース(No1~No4)において歪が1mm/m以内となった。No5のケースにおいても、歪は10mm/m以内に抑制され、処理対象物投入用柄杓を継続使用できることが確認できた。一方、比較例では、全てのケースで歪が10mm/mを超えてしまい、処理対象物投入用柄杓の継続使用が困難となった。
【0093】
【0094】
上記試験結果に示される通り、本発明が、処理対象物投入用柄杓の柄の熱変形抑制においても有利な効果を発揮し得ることが確認された。