(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169918
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ウェットペットフード用嗜好性向上剤及びウェットペットフード
(51)【国際特許分類】
A23K 50/48 20160101AFI20231124BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20231124BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20231124BHJP
【FI】
A23K50/48
A23K20/147
A23K20/163
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081251
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】中島 瞳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光多郎
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005AA04
2B150AA06
2B150AB03
2B150AB04
2B150DC14
2B150DC23
(57)【要約】
【課題】リンの含有量が低減され、嗜好性が良好であり、かつ、ウェットフードの色味を調整しやすいく、苦味を生じにくいウェットペットフード用嗜好性向上剤、及び該ウェットペットフード用嗜好性向上剤を適用したウェットペットフードの提供。
【解決手段】タンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を含有し、リンの含有量が、乾物換算で、1%以下であり、メイラード反応生成物を含有しないウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を含有し、
リンの含有量が、乾物換算で、1%以下であり、
メイラード反応生成物を含有しない
ウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項2】
前記遊離グリシンの含有量が、前記還元糖の含有量と同量以上である、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項3】
前記遊離グリシン:前記還元糖の割合が、1:1~4:1である、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項4】
前記遊離グリシンの含有量が、0.8%~30%である、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項5】
前記還元糖の含有量が、0.2%~30%を含有する、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項6】
前記少なくとも1種の嗜好剤成分が、タンパク質を乾物換算で12%以上含有する、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項7】
前記少なくとも1種の嗜好剤成分が、チキン由来の原料を用いたタンパク加水分解物及び/又は酵母由来の原料を用いた分解物である、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項8】
メイラード反応後の前記還元糖の含有量が、ペットフード全量に対して0.05%以下である、請求項1に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤のメイラード反応生成物を含有するウェットペットフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットペットフード用嗜好性向上剤及びウェットペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりペットフードでは、嗜好性を向上させるため、嗜好性向上剤が添加されている。多くの嗜好性向上剤には、嗜好性や保存性能の観点などで、リン酸塩が含有されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、リン酸塩を含まない嗜好性向上剤として、例えば、特許文献2には、ペプチド含有物に、該ペプチド含有物に対して所定量の還元糖を加え、加熱処理により生じるメイラード反応生成物と残存するペプチドとを含む嗜好性向上剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-534020号公報
【特許文献2】特開2017-86079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リン酸塩は、高リン食で腎機能低下、腎臓病が引き起こされる可能性がある。具体的には、NOAEL(無毒性量)として、研究によれば、腎機能の一次指標であるGFRが変化しない量として、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)由来のリン量=1.0g/1000kcalまでとされている。そのため、ペットの腎臓への負担軽減のために、リン酸塩の含有量が少ない嗜好性向上剤が望まれている。
【0006】
一方、特許文献2に記載されている嗜好性向上剤は、メイラード反応生成物を含む。そのため、当該嗜好性向上剤をウェットフードに添加すると、ウェットフードのレトルト工程の際に再度メイラード反応がおこり、最終製品の色味が濃くなるおそれがある。また、再度のメイラード反応により、カラメル化なども起こりやすく、最終製品に苦みが生じるおそれもある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リンの含有量が低減され、嗜好性が良好であり、かつ、ウェットフードの色味を調整しやすく、苦味を生じにくいウェットペットフード用嗜好性向上剤、及び該ウェットペットフード用嗜好性向上剤を適用したウェットペットフードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の態様を有する。
(1)タンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を含有し、リンの含有量が、乾物換算で、1%以下であり、メイラード反応生成物を含有しないウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(2)前記遊離グリシンの含有量が、前記還元糖の含有量と同量以上である、前記(1)に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(3)前記遊離グリシン:前記還元糖の割合が、1:1~4:1である、前記(1)又は(2)に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(4)前記遊離グリシンの含有量が、0.8%~30%である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(5)前記還元糖の含有量が、0.2%~30%を含有する、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(6)前記少なくとも1種の嗜好剤成分が、タンパク質を乾物換算で12%以上含有する、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(7)前記少なくとも1種の嗜好剤成分が、チキン由来の原料を用いたタンパク加水分解物及び/又は酵母由来の原料を用いた分解物である、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(8)メイラード反応後の前記還元糖の含有量が、ペットフード全量に対して0.05%以下である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤。
(9)前記(1)~(8)のいずれか一項に記載のウェットペットフード用嗜好性向上剤のメイラード反応生成物を含有するウェットペットフード。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態のウェットペットフード用嗜好性向上剤によれば、リン酸塩の含有量が少なくても、グリシンと還元糖によるメイラード反応と、タンパク分解物と還元糖によるメイラード反応による両者の反応生成物が生成し、嗜好性が向上する。また、メイラード反応生成物を含有しない(すなわち嗜好性向上剤がメイラード反応前である)ことにより、嗜好性向上剤をウェットペットフードに添加してレトルト工程に付す際に、色味が濃くなる、カラメル化等による苦みが生じることが無い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「ペット」とは人に飼育されている動物をいう。より狭義の意味では、ペットは飼い主に愛玩される動物である。また、「ペットフード」とは、ペット用の飼料をいう。
【0011】
本明細書において「嗜好性」とは、ペットに好まれて食されるか否かの指標であり、食感、食味、におい等に起因する。
【0012】
本明細書において、ペットフードの水分含有率(重量%)は常圧加熱乾燥法で求められる。この方法で求められる水分含有率には具材中の水分も含まれる。
(常圧加熱乾燥法)
アルミ秤量缶の重量(W1グラム)を恒量値として予め測定する。このアルミ秤量缶に
試料を入れて重量(W2グラム)を秤量する。つぎに強制循環式の温風乾燥器を使用して
、135℃、2時間の条件で試料を乾燥させる。乾燥雰囲気中(シリカゲルデシケーター
中)で放冷した後、重量(W3グラム)を秤量する。得られた各重量から下記式を用いて
水分含有率を求める。
水分含有率(単位:重量%)=(W2-W3)÷(W2-W1)×100
【0013】
<ウェットペットフード用嗜好性向上剤>
本実施形態にかかるウェットペットフード用嗜好性向上剤は、タンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を含有する。
タンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を含有することにより、リン酸塩の含有量が少なくても、グリシンと還元糖によるメイラード反応と、タンパク分解物と還元糖によるメイラード反応による両者の反応生成物が生成し、嗜好性が向上する。
【0014】
本実施形態のウェットペットフード用嗜好性向上剤は、リンの含有量が、乾物換算で、ウェットペットフード用嗜好性向上剤全量に対して1%以下である。
リンの含有量が1%以下であると、ペットの腎臓への負担軽減が期待される。
【0015】
ウェットペットフード用嗜好性向上剤中のリンの含有量は、乾物換算で、ウェットペットフード用嗜好性向上剤全量に対して1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.05%以下が更に好ましい。
リンの含有量が上記の好ましい範囲以内であると、ペットの腎臓への負担軽減がより期待される。
【0016】
本実施形態のウェットペットフード用嗜好性向上剤は、メイラード反応生成物を含有しない。すなわち、本実施形態のウェットペットフード用嗜好性向上剤は、メイラード反応に付されていないものである。
メイラード反応生成物を含有しないことにより、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットペットフードに添加してレトルト工程に付す際に、色味を調整しやすく、カラメル化等による苦みが生じること防止できる。
【0017】
以下、ウェットペットフード用嗜好性向上剤の各成分について説明する。
【0018】
(嗜好剤成分)
本実施形態において、嗜好性成分はタンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有すれば特に限定されない。
タンパク加水分解物としては、動物性・植物性の原料で、分解方法は酵素分解または酸分解、自己消化などがあげられる。
動物性原料としては、鶏・豚・牛・羊、乳製品、魚介類由来等の分解物が挙げられる。
植物性原料としては、上記以外の豆類やイモ類、穀類、果実類、種子類、野菜類、海藻類等の植物由来の原料が挙げられる。
酵母エキスとしては、ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等の酵母由来の原料を用いた分解物が挙げられ、分解方法は酵素分解または酸分解、自己消化等があげられる。
【0019】
本実施形態において、より嗜好性を向上する観点から、前記少なくとも1種の嗜好剤成分が、チキン由来の原料を用いたタンパク加水分解物及び/又は酵母由来の原料を用いた分解物であることが好ましい。
【0020】
本実施形態において、前記少なくとも1種の嗜好剤成分が、タンパク質を乾物換算で12%以上含有することが好ましく、25%以上含有することがより好ましく、40%以上含有することが更に好ましい。
前記少なくとも1種の嗜好剤成分のタンパク質の含有量が上記の好ましい範囲内であると、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットフードに添加してレトルト工程に付す際にメイラード反応が起こりやすく、嗜好性が向上しやすい。
【0021】
本実施形態において、前記少なくとも1種の嗜好剤成分の含有量は特に限定されないが、ウェットペットフード用嗜好性向上剤の全量に対して、30~90%が好ましく、40~80%がより好ましく、50~70%が更に好ましい。
【0022】
本実施形態において前期のウェットペットフード用嗜好性向上剤のウェットペットフードへの添加量は特に限定されないが、ペットフード全量に対して、0.1~6%が好ましく、0.2~5%がより好ましく、0.5~4%が更に好ましい。
【0023】
(遊離グリシン)
本実施形態において、遊離グリシンは、前記少なくとも1種の嗜好剤成分由来ではなく、前記少なくとも1種の嗜好剤成分とは異なる成分として配合されたものを意味する。
【0024】
本実施形態において、遊離グリシンの含有量は、ウェットペットフード用嗜好性向上剤の全量に対して、0.8%~30%が好ましく、10~30%がより好ましく、20~30%が更に好ましい。
遊離グリシンの含有量が上記の好ましい範囲内であると、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットフードに添加してレトルト工程に付す際にメイラード反応でより確実にグリシンと糖との反応物が生成しやすくなるので、嗜好性が向上しやすい。
【0025】
(還元糖)
本実施形態において、還元糖は特に限定されないが、キシロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトースなどが挙げられ1種または複数種を混合してもよい。なかでも、還元糖としては、マルトース、キシロースやグルコースが好ましく、グルコース、キシロースがより好ましい。
【0026】
本実施形態において、還元糖の含有量は、ウェットペットフード用嗜好性向上剤の全量に対して、0.2%~30%が好ましく、10~30%がより好ましく、10~20%が更に好ましい。
還元糖の含有量が上記の好ましい範囲内であると、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットフードに添加してレトルト工程に付す際にメイラード反応が起こりやすくなり、嗜好性が向上しやすい。
【0027】
本実施形態において、遊離グリシン含有量が、前記還元糖の含有量と同量以上であることが好ましい。
遊離グリシン含有量が、前記還元糖の含有量と同量以上であることにより、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットフードに添加してレトルト工程に付してメイラード反応を生じさせた後に、ウェットフード中に遊離グリシンが残存しやすい。そのため、ウェットフード中にメイラード反応生成物と、反応されずに残った遊離グリシンのいずれも存在するので、嗜好性が向上しやすい。
【0028】
本実施形態において、前記遊離グリシン:前記還元糖の割合が、1:1~4:1であることが好ましく、1:1~3:1がより好ましく、1:1~2:1が更に好ましい。
前記遊離グリシン:前記還元糖の割合が、上記の好ましい範囲内であると、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットフードに添加してレトルト工程に付した際にメイラード反応が効率良く起こるので、嗜好性が向上しやすい。
【0029】
本実施形態のウェットペットフード用嗜好性向上剤は、ウェットフードに添加してレトルト工程に付してメイラード反応を生じさせた後に、ウェットフード中の還元糖の含有量が0.05%以下(検出限界量以下)であることが好ましい。
メイラード反応後のウェットフード中の還元糖の含有量が0.05%以下(検出限界量以下)であることにより、嗜好性を向上しつつ、ペット(特に猫)の健康を担保しやすくなる。
【0030】
本実施形態のウェットペットフード用嗜好性向上剤は、Naの含有量が1%以下であることが好ましい。
Naの含有量が上記の好ましい範囲内であると、嗜好性を向上しつつ、ウェットフード全体のNa栄養成分として調整しやすくなる。また、ウェットフードに他のナトリウム塩を使用できる。
【0031】
<ウェットペットフード>
本実施形態のウェットペットフードは、前記ウェットペットフード用嗜好性向上剤のメイラード反応生成物を含有する。すなわち、本実施形態のウェットペットフードは、ウェットペットフード用嗜好性向上剤をウェットフードに添加してレトルト工程に付してメイラード反応を生じさせて得られたものである。
【0032】
なお、本実施形態のウェットペットフードは、タンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を別個独立にウェットフードに添加し、レトルト工程に付してメイラード反応を生じさせて得られたものであってもよい。
【0033】
本実施形態のウェットペットフードは、前記ウェットペットフード用嗜好性向上剤のメイラード反応生成物を含有していれば特に限定されず、公知のウェットフードを適用できる。
【0034】
(ウェットフード)
本実施形態において、ウェットフードとは、最終的な市場提供形態として、乾燥処理が施されたドライフードと比べ、水分を多く含むペットフードを云う。前記ペットフードの水分含有率は、前記ペットフード全体の質量に対して通常50質量%以上であり、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0035】
ウェットフードは、典型的には、ベース部を含み、更にチャンク部及び/又はフレークを含んでもよい。ここで「チャンク」とは、原材料を小片状に固めた部分を云い、チャンク部とはチャンクの集合を云う。「フレーク」とは、魚類や肉類を細かくしたものをいう。「ベース」部は、前記ペットフードのうちチャンク部及びフレーク部以外のウェット部分を云う。
【0036】
前記ウェットフードに含まれるチャンク部及び/又はフレークの割合は特に制限されず、ペットフード全体の質量に対して0~50質量%であることが好ましく、0~40質量%であることがより好ましい。
【0037】
本発明において、前記ウェットフード用嗜好性向上剤は前記ベース部または前記チャンク部に含まれる。
【0038】
前記チャンクの形状は特に制限されず、例えば、球状、多角体状、柱状、ドーナッツ状、板状又は碁石状等のペレット(粒)に成形した形状が挙げられる。このようなペレットの大きさは特に制限されないが、例えば、水平台に置いたペレットを上方から見た場合の短経および長径が1~25mm、水平台上のペレットの下面(下端)から上面(上端)までの厚みが1~20mmであることが好ましく、短経および長径が3~11mm、厚みが3~9mmであることがより好ましく、短径および長径が5~9mm、厚み5~8mmであることがさらに好ましい。
前記ベース部の様態は特に制限されず、液体状、ゲル状、固体状等の様態又はそれらの組み合わせが挙げられる。また、前記ベース部に固体を含有させる場合、形状は特に制限されないが、上記のチャンクの形状と同様のものが挙げられる。
【0039】
本実施形態に係るペットフード製品は、特に猫用、犬用であることが好ましい。
【0040】
<原材料>
ウェットフードを構成する原材料は、前記ウェットフード用嗜好性向上剤以外は特に制限されず、従来のペットフードに使用されている原材料を適用することができる。例えばタンパク質成分の他に、炭水化物成分、ビタミン類、ミネラル類、塩類、脂肪、油等を添加しても構わない。
【0041】
ウェットフードを調製する際に、原材料として増粘剤を添加してもよい。
前記増粘剤としては、例えば、グアーガム、澱粉、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム等の多糖類が挙げられる。
【0042】
ウェットフードの原材料に含まれるタンパク質成分として、マグロ、イワシ、カツオ等の魚類、又はウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜を使用する場合、これらの原材料は予め公知方法によって、加熱若しくは調理されていても構わない。
【0043】
ウェットフードは、例えば、タンパク質成分及び水を混合し、必要に応じて増粘剤を添加することにより製造することができる。混合の方法は特に制限されず、ミキサー又はミンサーを用いた公知方法が適用可能であり、均一に混合できる方法を採用することが好ましい。タンパク質成分は、予めミンチ状にミキシング(加工)してから他の原材料と混合することにより、各原材料をより均一に混合できる。混合後に、ペットフードがペースト状になっていても構わない。また、ペースト状のペットフード中に、塊状の(固形の)具材が分散していても構わない。ペットフード中の原材料が均一に混合されていること又はペットフードがペースト状であることにより、ペットが当該ペットフードの一部分だけ又は一部の原材料のみを食する事を抑制し、完食率を向上させることができる。
【0044】
原材料を混合する時間及び温度は適宜設定することが可能である。混合時間を調整することにより、ペットフードの粘度を調整することができる。また、混合する水の量を調整することにより、ペットフードの粘度及び水分含量を調整することができる。ペットフードの粘度は、増粘剤の配合量によっても調整することができる。
【0045】
ウェットフードは、通常、固形状の具材と液体状のスープとが分離した形態にはならず、前述した特定の粘度及び水分含量を有するペースト状の成分のみ又はペースト状の成分と固形の具材とが絡み合った形態を有する。ウェットフードは、スープ成分と固形の具材とが分離した形態ではなく、前述した粘度及び水分含量を有するペースト状の形態(成分)を少なくとも一部に有することが好ましい。前記ペースト状の成分に加えて、固形の具材を含有していてもよい。この場合、固形の具材がペースト状の成分と絡み合う形態となるため、ペースト状の成分と合わせて固形の具材がペットの口中に運ばれる。ウェットフードの完食率を向上させることができる。
【0046】
ウェットフードがチャンク部を含む場合、以下に示すような原材料を用いて、チャンク部とベース部を製造することができる。
【0047】
(ベース部原材料)
前記ウェットフードのベース部に含まれる原材料は特に制限されないが、ベース部にはタンパク質原材料を主な原材料として用いることができる。前記ベース部のタンパク質原材料としては、植物由来の蛋白質、動物由来の蛋白質又はこれらの混合物が例示できる。具体的には、前記植物由来の蛋白質は、例えばグルテン、小麦蛋白質、大豆蛋白質、米蛋白質、とうもろこし蛋白質等が挙げられる。前記動物由来の蛋白質としては、例えば牛、豚、鶏及び魚介類の筋肉、臓器などの蛋白質、乳の蛋白質又はこれらの混合物が例示できる。
ベース部の前記以外の原材料として、油脂、前記ウェットフード用嗜好性向上剤、増粘剤及び水等を加えることができる。
【0048】
(チャンク部原材料)
前記ペットフードのチャンク部には、タンパク質原材料を用いることができる。前記チャンク部のタンパク質原材料としては、上記のベース部に用いたものと同様のタンパク質原材料を用いることができる。
【0049】
さらに、前記ペットフードのチャンク部には穀類を加えても良い。穀類としては、とうもろこし、小麦、大麦、オート麦、米、大豆等を好ましいものとして例示できる。これらの穀物類には、炭水化物の他に、蛋白質、灰分、ミネラル、ビタミン等が含まれうるので、栄養源として使用できる。また、穀類を加えることにより、ペットフード全体に対するアミノ酸の配合率を調整(主には低下させること)が容易となる。
チャンク部の前記以外の原材料として、前記ウェットフード用嗜好性向上剤、結着剤及び水等を加えることができる。
【0050】
(レトルト工程)
レトルト工程は特に限定されず、従来公知の方法が適用できる。具体的には、ウェットフードにウェットペットフード用嗜好性向上剤もしくはタンパク加水分解物及び酵母エキスからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗜好剤成分、遊離グリシン並びに還元糖を添加してパウチ容器にペットフードを充填後、公知の加熱処理又は加圧処理によってレトルト殺菌を行う。レトルト殺菌工程はペットフードに対して十分な殺菌が行なえる条件であれば特に制限されないが、殺菌処理後にペットフードの風味が劣化しない条件であることが好ましい。レトルト殺菌は、例えば110~130℃の温度で、5分~50分程度の加熱処理を行ってもよい。
容器はパウチ容器に限らず、公知のウェットフードの容器を適宜用いることができる。
例えば缶やカップ容器でもよい。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0052】
(実施例1~6、比較例1)
表1に示す配合で、ウェットペットフード用嗜好性向上剤を構成する原料を混合し、各例のウェットペットフード用嗜好性向上剤を得た。各例のウェットペットフード用嗜好性向上剤を、魚肉類、増粘剤及び水を混合して調製したウェットフードに添加し、121℃でレトルト処理してウェットペットフード製品を得た。
表1中、嗜好性向上剤の各原料の配合量(%)は、嗜好性向上剤全量に対する百分率である。
また、表1中、嗜好性向上剤中のリン含有量(%)は、嗜好性向上剤全量に対する百分率である。
また、表1中、製品中の嗜好性向上剤含有割合(%)は、ウェットフードと嗜好性向上剤の合計量に対する百分率である。
【0053】
【0054】
(嗜好性評価試験)
<嗜好性の評価>
実施例1~6の各ペットフードPと、比較例1のペットフードQに対して、摂食量を比較する方法で嗜好性を評価した。20頭の猫をモニターとして2日間でテストを行った。
第1日は、ペットフードPおよびQのうち、一方を左から、他方を右から、猫1頭に対して所定の給餌量で同時に与え、猫がどちらか一方を完食した時点で又は30分後に、猫が食べたペットフード量を測定した。
該猫1頭が第1日に食べた合計のペットフードの質量に対して、ペットフードQの摂食量とペットフードPの摂食量の比率(P:Q、P+Q=100%)を百分率で求めた。モニターとした猫の数に基づいて、得られた百分率を平均して、第1日の結果とした。
第2日は、ペットフードPおよびQのうち、第1日とは反対に、一方を右から、他方を左から同時に与えた。猫1頭に対して第1日と同量の給餌量で与え、猫がどちらか一方を完食した時点で又は1時間後に、猫が食べたペットフード量を測定した。第1日と同様の算出方法で第2日の結果を得た。
最後に、第1日と第2日の結果を平均して、最終結果であるペットフードP:ペットフードQの摂食量の比「P:Q」を求めた。結果を表1に示す。
嗜好性は、下記の基準にしたがって評価した。
Pが45~55:ペットフードPの嗜好性が、ペットフードQの嗜好性と同等
Pが56以上:ペットフードPの嗜好性が、ペットフードQの嗜好性より高い。
【0055】
表1に示す結果から、実施例1~6のウェットペットフードは、リン酸塩嗜好性向上剤を含まないにもかかわらず、リン酸塩嗜好性向上剤を含む比較例1のウェットペットフードと同等以上の嗜好性が得られることが確認された。また、表1に示す結果から、嗜好剤成分としてチキン由来の原料を用いたタンパク加水分解物及び/又は酵母由来の原料を用いた分解物を用いた場合、特に嗜好性が向上することが確認された。