(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023169959
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】誘電体導波路
(51)【国際特許分類】
H01P 3/16 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01P3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081323
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
【テーマコード(参考)】
5J014
【Fターム(参考)】
5J014GA00
5J014GA05
(57)【要約】
【課題】準ミリ波帯またはミリ波帯の電磁波を伝送する際の伝送損失を抑制でき、かつ屈曲性に優れた誘電体導波路を提供する。
【解決手段】20GHz以上200GHz以下の周波数の電磁波を伝送する誘電体導波路1であって、樹脂または石英からなる誘電体で構成される誘電体導波線21を複数本束ねたコア2を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20GHz以上200GHz以下の周波数の電磁波を伝送する誘電体導波路であって、
樹脂または石英からなる誘電体で構成される誘電体導波線を複数本束ねたコアを備える、
誘電体導波路。
【請求項2】
前記コアは、複数本の前記誘電体導波線を撚り合わせて構成されている、
請求項1に記載の誘電体導波路。
【請求項3】
前記コアは、伝送される電磁波の周波数において、正規化周波数Vが1.0以上である、
請求項1に記載の誘電体導波路。
【請求項4】
前記コアは、伝送される電磁波の周波数において、正規化周波数Vが2.5以下である、
請求項1に記載の誘電体導波路。
【請求項5】
前記樹脂は、フッ素樹脂、発泡フッ素樹脂、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレンのいずれかからなる、
請求項1に記載の誘電体導波路。
【請求項6】
複数本の前記誘電体導波線は、その中央に抗張力繊維を有し、前記抗張力繊維の周囲に前記誘電体を有する、
請求項1に記載の誘電体導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、準ミリ波帯及びミリ波帯の電磁波を伝送する誘電体導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体からなるコアを用いて電磁波を伝送する誘電体導波路が知られている。例えば、特許文献1では、マイクロ波またはミリ波の電気信号を伝送する誘電体導波路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岡本勝就著、「光導波路の基礎」コロナ社出版、1992年10月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、誘電体導波路では、曲げて敷設した場合に伝送損失が大きくなり過ぎないように、曲げ損失が小さいことが求められる。曲げ損失を小さくするためには、正規化周波数(規格化周波数)Vを大きくして電磁波の分布をコアの内部に集中させる必要があり、これに応じて誘電体導波路のコアの直径を大きくする必要がある。しかしながら、直径の大きいコアを有する誘電体導波路は、曲げることが困難であり、敷設作業が困難となってしまう。
【0006】
より具体的には、曲げ損失を小さくするためには正規化周波数Vを少なくとも1.0以上(より好ましくは1.7以上)とすることが望まれる。例えば、正規化周波数Vを1.7とする場合、コアの周囲にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなる外被を設け、コアの周囲を外被で被覆した構造とし、コアと外被との比屈折率差を標準的な光ファイバ(約0.3%)と同程度とすると、準ミリ波帯である20GHzの周波数においては、誘電体導波路のコアの直径を4.2cm以上とする必要が生じる。また、上述した条件と同じ条件のもとで、例えばミリ波帯である200GHzの周波数においては、誘電体導波路のコアの直径を4.2mm以上とする必要がある。このような太いコアを有する誘電体導波路は、曲げることが困難である。
【0007】
そこで、本発明は、準ミリ波帯またはミリ波帯の電磁波を伝送する際の伝送損失を抑制でき、かつ屈曲性に優れた誘電体導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、20GHz以上200GHz以下の周波数の電磁波を伝送する誘電体導波路であって、樹脂または石英からなる誘電体で構成される誘電体導波線を複数本束ねたコアを備える、誘電体導波路を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、準ミリ波帯またはミリ波帯の電磁波を伝送する際の伝送損失を抑制でき、かつ屈曲性に優れた誘電体導波路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来の誘電体導波路において、伝搬する電磁波の全電力に対するコアの内部を伝搬する電磁波の電力の割合を示すグラフ図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る誘電体導波路の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図3】(a),(b)は、本発明の一変形例に係る誘電体導波路の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図4】本発明の一変形例に係る誘電体導波路の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図5】(a),(b)は、伝送損失の評価試験を説明する図である。
【
図7】挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
(単一のコアを用いた場合の問題点)
本発明の実施の形態を説明するに先立ち、まず、従来用いられている単一の円柱状のコアを用いた誘電体導波路(以下、従来の誘電体導波路という)の問題点について説明しておく。従来の誘電体導波路では、曲げ損失を小さくするために、誘電体導波路を伝搬する電磁波のパワー(いわゆる電力)をコアの内部に集中させる必要がある。上述した非特許文献1および
図1に示されている通り、誘電体導波路を伝搬する電磁波の全電力(いわゆる全パワー)に対するコアの内部を伝搬する電磁波の電力の割合(いわゆる電力比)は、正規化周波数V(いわゆるV値)を大きくするほど大きくなる。なお、
図1に示すグラフでは、電力比が大きくなるほどコアの内部を伝搬する電磁波の電力が大きくなることを示しており、例えば、電力比が1.0であるときに全ての電磁波がコアの内部を伝搬する。
【0013】
ここで、正規化周波数Vは、伝送される電磁波の周波数をf、コアの半径をb、コアの比誘電率をε1、コアの周囲に有する誘電体からなるクラッド(外被)の比誘電率をε2、真空中の光速をcとすると、下式(1)によって定義される。
V=2π×b×f×(ε1―ε2)
1/2/c・・・(1)
図1に示す通り、円柱状の誘電体導波路の基本モードであるHE11モードにおいて、コアの内部を伝搬する電磁波のパワーを全パワーの半分以上にするためには、正規化周波数Vを1.7以上にする必要がある。
【0014】
また、曲げ損失の大きさは、曲げ半径によっても変化するが、実用的な誘電体導波路では、敷設時の曲げ損失を十分小さくするために、正規化周波数Vを少なくとも1.0以上とすることが望ましい。したがって、曲げ損失を小さくするとの観点から、誘電体導波路のV値は、少なくとも1.0以上(より好ましくは1.7以上)にすることが望ましい。なお、コアの内部を伝搬する電磁波の周波数と誘電体導波路の比誘電率とを一定とした場合、その条件を満たすためには、誘電体導波路のコアの直径(直径=2×コアの半径b)を、下式(2)によって決定される値よりも大きくする必要がある。
b=V×c/(2π×f×(ε1―ε2)1/2)・・・(2)
但し、V>1.0
【0015】
一方、誘電体導波路は、その正規化周波数Vを、信号伝送の用途に応じて好適な条件に設定することが望ましい。
【0016】
(シングルモード伝送とその好適な条件)
信号伝送の用途では、信号波形の劣化を抑えるために、誘電体導波路をシングルモード伝送の条件、すなわち、電磁波の固有モードが単一となる条件(但し、偏波の自由度を除く)で使用する場合がある。シングルモード伝送の条件を満たすためには、正規化周波数Vを2.4以下とすることが望ましい。したがって、誘電体導波路において、シングルモード伝送の条件で曲げ損失が小さい伝送を行うためには、正規化周波数Vを1.0以上2.4以下(より好ましくは、1.7以上2.4以下)とすることが望ましい。
【0017】
シングルモード伝送では、正規化周波数Vが大きくなるほど曲げ損失が小さくなる。そのため、シングルモード伝送での好適な条件としては、正規化周波数Vを2.3~2.4程度とすることがよい。また、誘電体導波路の高次モードでは、シングルモード伝送の条件を満たす基本モードと比較して、曲げ損失が大きくなる。そのため、曲げ損失による高次モードの減衰を考慮して、疑似的にシングルモード伝送の条件を満たすように、正規化周波数Vを2.4~2.5程度とすることがよい。
【0018】
(マルチモード伝送とその好適な条件)
また、信号波形の若干の劣化を許容できる用途や、電力を伝送する用途では、外部からの電磁波の結合を容易にするために、誘電体導波路をマルチモード伝送の条件で使用することも行われている。マルチモード伝送では、任意の数の固有モードが存在してよいため、正規化周波数Vの上限は存在しない。すなわち、マルチモード伝送では、誘電体導波路の直径の上限は存在しない。
【0019】
以上により、従来用いられている単一の円柱状のコアを用いた誘電体導波路では、曲げ損失を小さくするために、誘電体導波路の直径を正規化周波数V≧1.0(好ましくは正規化周波数V≧1.7)が満たされるような大きさにする必要がある。特に、シングルモード伝送では、誘電体導波路の直径を正規化周波数V=2.3~2.4が満たされる大きさにすることがよい。
【0020】
一例として、正規化周波数Vを2.4とし、伝送する電磁波の周波数fを準ミリ波帯である28GHzとした場合について検討する。例えば、誘電体導波路において、コアを比誘電率が2.1のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とし、外被を設けない(コアの周囲を空気とした)場合、上式(2)より、単一のコアの直径は、7.8mmとなり、コアの直径が太くなる。また、例えば、誘電体導波路において、コアを比誘電率が2.2のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とし、外被を比誘電率が2.1のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)として、外被によりコアを保護する構造とした場合、上式(2)より、単一のコアの直径は26mmとなり、コアの直径が非常に太くなってしまう。また、誘電体導波路の曲げ損失を小さくするために、正規化周波数Vをマルチモード伝送の条件を満たす大きさに設定した場合、単一のコアの直径は、さらに大きくなってしまう。
【0021】
また、例えば、誘電体導波路において、コアを比誘電率が3.8の石英とし、外被を設けない(コアの周囲を空気とした)場合、上式(2)より、単一のコアの直径は、4.9mmとなり、コアの直径が太くなる。また、例えば、コアと外被とを共に石英とし、外被によりコアを保護する場合、コアと外被との比屈折率差を標準的なシングルモード光ファイバと同じ0.3%とすると、上式(2)より、単一のコアの直径は、54mmとなり、コアの直径が非常に大きくなってしまう。
【0022】
上記のようなPTFEや石英からなる太い単一の円柱状の誘電体からなるコアを有する誘電体導波路は、曲げることが困難であり、常温で無理に屈曲させようとすると破断するおそれがある。そのため、曲げて敷設する際には、誘電体導波路を高温で加熱して軟化させた状態で曲げる等する必要があり、敷設作業が困難である。本発明者らは、これらの事情を考慮し、伝送損失を抑制しつつも、曲げやすく敷設作業がし易い誘電体導波路について鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0023】
(誘電体導波路1)
図2は、本実施の形態に係る誘電体導波路1の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図2に示すように、誘電体導波路1は、樹脂または石英からなる誘電体で構成される誘電体導波線21を複数本束ねたコア2と、コア2の周囲を覆う外被3と、を有している。誘電体導波路1は、20GHz以上200GHz以下の周波数の電磁波(準ミリ波帯及びミリ波帯の電磁波)を伝送するために用いられる。
【0024】
誘電体導波路1では、コア2を、複数本の細い(例えば、3.5mm以下の直径を有する)誘電体導波線21で構成することで、コア2の直径を太くしつつも、誘電体導波路1を曲げやすくすることができる。その結果、伝送損失を低減しつつも、曲げやすく敷設作業がし易い誘電体導波路1を実現できる。また、太い誘電体導波線21の製造は、技術的に困難であり、専用の設備が必要となる。これに対して、細い誘電体導波線21は、比較的容易に製造することが可能であり、既存の光ファイバや電線の製造設備をそのまま使用して製造することも可能である。そのため、設備コストや製造コストを低減し、誘電体導波路1の低コスト化にも寄与する。
【0025】
コア2は、複数本の誘電体導波線21を同心撚りした同心撚線、複数本の誘電体導波線21を集合撚りした集合撚線、又は複数本の誘電体導波線21で構成される対撚線、同心撚線、集合撚線等からなる複数本の子撚線を撚り合わせた複合撚線によって構成されていることが望ましい。これにより、外力等によってコア2が変形してしまうことが抑制され、コア2全体の断面形状を円形状に維持して、断面形状の崩れによる伝送損失の低下を抑制できる。なお、コア2の断面形状を円形状に保ちやすくするため、コア2は、複数本の誘電体導波線21を同心撚りして構成されることがより望ましい。また、コア2は、複数本の誘電体導波路線21を集合撚りした集合撚線や当該集合撚線を複数本用いた複合撚線で構成されることで、コア2の直径を太くしつつ、誘電体導波路1の屈曲性をさらに向上させることができる。
【0026】
コア2の直径aは、伝送される電磁波の周波数において、曲げ損失が小さくなるように決めるとよい。より具体的には、コア2の直径aは、正規化周波数Vが1.0以上(好ましくは1.7以上)である範囲とすることが望ましい。例えば、コア2の直径aは、23mm以下である。誘電体導波路1の正規化周波数Vは、電磁波の周波数をf、コア2の半径をbeq、コア2全体の内部における比誘電率の空間平均値をεeqとして、下式(3)によって算出できる。
V=2π×beq×f×(εeq―ε2)1/2/c・・・(3)
したがって、コア2の直径a(直径a=2×コアの半径beq)は、要求される正規化周波数Vに応じて、下式(4)によって決定される。
beq=V×c/(2π×f×(εeq―ε2)1/2)・・・(4)
V>1
【0027】
特に、シングルモード伝送の用途では、伝送される電磁波の周波数において、コア2がシングルモード伝送の条件を満たすとよい。より具体的には、正規化周波数Vが2.5以下であるとよい。したがって、シングルモード伝送の用途では、上式(4)において、正規化周波数Vを1<V<2.5の範囲に設定するとよい。
【0028】
なお、シングルモード伝送の用途において、曲げ損失をできる限り小さくするためには、コア2がシングルモード伝送の条件を満たす範囲で、かつ正規化周波数Vをできるだけ大きくとるとよい。そのため、シングルモード伝送の用途において、曲げ損失をできる限り小さくするためには、上式(4)において、正規化周波数Vを2.3<V<2.5の範囲に設定するとよい。
【0029】
また、マルチモード伝送の用途では、正規化周波数Vの上限が存在しない。そのため、マルチモード伝送の用途では、正規化周波数Vを少なくとも1.0以上、好ましくは1.7以上であればよく、コア2の直径aは、任意に大きくすることができる。
【0030】
コア2に用いる誘電体導波線21の直径dは、太すぎると曲げにくくなり、また製造も困難となってしまうため、屈曲しやすく製造が容易な程度の細さ(例えば、直径3.5mm以下、より好ましくは直径2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下)とすることが望まれる。なお、本実施の形態では、誘電体導波線21の断面形状を円形状としているが、誘電体導波線21の断面形状はこれに限らず、例えば楕円形状等、他の形状であってもよい。
【0031】
コア2に用いる誘電体導波線21の本数は、誘電体導波線21の直径dと、要求される正規化周波数V(要求されるコア2の直径a)とに応じて決定される。本実施の形態では、直径dが1.4mmの誘電体導波線21を37本同心撚りして直径aが9.8mmのコア2を形成した。なお、コア2に用いる誘電体導波線21の本数は、特に限定されるものではない。ただし、上述のように、コア2は同心撚りで構成されることが好ましく、例えば、
図3(a)に示すように、コア2に用いる誘電体導波線21の本数を19本としてもよいし、
図3(b)に示すように、コア2に用いる誘電体導波線21の本数を7本としてもよい。
【0032】
誘電体導波線21は、樹脂、または石英からなる誘電体で構成される。誘電体導波線21に用いる樹脂としては、フッ素樹脂、発泡フッ素樹脂、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレンのいずれかを用いることができる。本実施の形態では、フッ素樹脂であるFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)からなる誘電体導波線21を用いた。なお、誘電体導波線21の直径の均一化を図るために、
図4に示すように、誘電体導波線21は、その中央にアラミド繊維等の抗張力繊維22を有し、抗張力繊維22の周囲に樹脂、または石英からなる誘電体を有する構造としてもよい。
【0033】
誘電体導波線21を製造する際には、大径の母材を加熱溶融させて細径の誘電体導波線21を引き出す製造方法を用いることができる。また、上述した樹脂を押出機に投入し、押出機の内部で加熱溶融させた樹脂を細径に押出すことにより、細径の誘電体導波線21を製造することができる。
【0034】
外被3は、コア2を保護し、コア2を構成する誘電体導波線21がバラけてしまわないように(断面形状が崩れてしまわないように)保持する役割を果たす。本実施の形態では、外被3は、フッ素樹脂(PTFE)からなるテープ部材を、コア2の周囲にらせん状に巻きつけて構成されている。ただし、これに限らず、外被3は、フッ素樹脂からなる樹脂をチューブ押出等の押出成形により押出することで形成されたものであってもよい。なお、外被3は、信号伝送の用途に応じて設けなくてもよい。
【0035】
(伝送損失の評価)
図5(a)に示すように、ネットワークアナライザ11を用いて、
図2に示す誘電体導波路1の伝送損失の評価を行った。なお、誘電体導波路1には、FEPからなる直径1.4mmの誘電体導波線21を37本同心撚りしてコア2を構成し、コア2の周囲にPTFEからなるテープ部材を螺旋状に巻き付けて外被3を構成したものを用いた。ネットワークアナライザ11の2つのポート11a(PORT1、PORT2)からは同軸線12がそれぞれ延出されており、これら同軸線12の端部と、誘電体導波路1の両端部とを、電気信号と電磁波とを変換する変換治具13を介して接続した。誘電体導波路1の長さは10.8mとし、信号周波数は20~40GHzとした。このとき、コア2の正規化周波数Vは、22GHzにおいて1.7であり、28GHzにおいて2.2であり、40GHzにおいて3.1である。ネットワークアナライザ11により得たS21の測定結果を
図6に示す。また、同軸線12や変換治具13の影響を調べるために、
図5(b)に示すように、変換治具13同士を直結して同様の測定を行った。結果を
図6に併せて示す。
【0036】
図6に示すように、例えば28GHzの周波数(=伝送される電磁波の周波数が28GHzである場合)においては、誘電体導波路1による損失は23.1-11.3=11.8dBとなっており、誘電体導波路1における単位長さ当たりの損失は11.8/10.8=1.1dB/mとなっている。この結果から、誘電体導波路1における伝送損失は十分に抑制できていると考えられる。
【0037】
次に、直径2.0mmの誘電体導波線21を19本同心撚りしてコア2を構成した実施例1(
図3(a)参照)、直径3.3mmの誘電体導波線21を7本同心撚りしてコア2を構成した実施例2(
図3(b)参照)、及び、直径10mmの円柱状の単一のコアを有する従来例について、シミュレーションにより挿入損失を求めた。いずれの場合も、コア2の周囲に外被3を設けない構造とし(コア2の周囲を空気とし)、コア2を構成する誘電体の比誘電率を2.1、誘電正接を0.0003とし、コアの直径を約10mmとした。また、実施例1,2における撚りピッチは150mmとし、伝送する電磁波の周波数は28GHzとした。シミュレーション結果を
図7にまとめて示す。
【0038】
図7に示すように、実施例1,2の挿入損失は、従来例とほぼ同様となっており、本発明の実施例1,2によれば、従来例とほぼ同様の伝送損失となることが確認できた。
【0039】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る誘電体導波路1では、樹脂または石英からなる誘電体で構成される誘電体導波線21を複数本束ねたコア2を備えている。コア2を複数本の細い誘電体導波線21で構成することによって、準ミリ波帯またはミリ波帯の電磁波を伝送する際の伝送損失を従来と同様に抑制することが可能であり、かつ誘電体導波路1を屈曲しやすくなる。その結果、敷設作業の作業性を大きく向上することが可能となり、取扱性を向上した誘電体導波路1を実現できる。また、コア2を複数本の細い誘電体導波線21で構成することで、既存の光ファイバや電線の製造装置を使用して製造することが可能となり、製造を容易とし、低コストな誘電体導波路1を実現できる。
【0040】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0041】
[1]20GHz以上200GHz以下の周波数の電磁波を伝送する誘電体導波路(1)であって、樹脂または石英からなる誘電体で構成される誘電体導波線(21)を複数本束ねたコア(2)を備える、誘電体導波路(1)。
【0042】
[2]前記コア(2)は、複数本の前記誘電体導波線(21)を撚り合わせて構成されている、[1]に記載の誘電体導波路(1)。
【0043】
[3]前記コア(2)は、伝送される電磁波の周波数において、正規化周波数Vが1.0以上である、[1]または[2]に記載の誘電体導波路(1)。
【0044】
[4]前記コア(2)は、伝送される電磁波の周波数において、正規化周波数Vが2.5以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の誘電体導波路(1)。
【0045】
[5]前記樹脂は、フッ素樹脂、発泡フッ素樹脂、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレンのいずれかからなる、[1]乃至[4]のいずれかに記載の誘電体導波路(1)。
【0046】
[6]複数本の前記誘電体導波線(21)は、その中央に抗張力繊維(22)を有し、前記抗張力繊維(22)の周囲に前記誘電体を有する、[1]乃至[5]のいずれかに記載の誘電体導波路(1)。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…誘電体導波路
2…コア
3…外被
21…誘電体導波線
22…抗張力繊維