(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170014
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ケガキ治具及びケガキ線の刻印方法
(51)【国際特許分類】
B25H 7/04 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
B25H7/04 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081441
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 勝則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智章
(72)【発明者】
【氏名】野村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶
(57)【要約】
【課題】管状体の内部に不純物を混入させることなく、管状体の外周面に容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法を提供する。
【解決手段】配管PAの一端P3に沿って押し当てられるプレート2と、プレート2に取り付けられ、配管PAの中心軸と平行な軸線Jを有する一対のスペーサ36,36と、スペーサ36に取り付けられた丸刃3と、を有し、丸刃3は、外周端が刃部31とされた平面視円板状を有し、丸刃3の刃部31が配管PAの外周面P1と接触することにより、外周面P1を周回するようにケガキ線Kを刻印する。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、
少なくとも一方の前記スペーサに取り付けられたケガキ手段と、を有し、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、前記丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項2】
前記丸刃が一対で設けられており、一対の前記丸刃が、前記一対のスペーサに対して、それぞれ取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載にケガキ治具。
【請求項3】
前記一対のスペーサは、各々の軸線間の距離が可変に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項4】
前記スペーサは、前記丸刃の前記軸線方向における位置を変更することにより、前記管状体の外周面に刻印される前記ケガキ線の、前記管状体の一端からの距離を調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具。
【請求項5】
前記一対のスペーサの一方が、前記管状体の外周面と接触することにより、前記管状体と同期回転しながら前記外周面を周回するように、回転自在に設置されていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項6】
前記一対のスペーサの一方が、前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を無回転で周回するように、前記プレートに対して固定されていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項7】
前記一対のスペーサの軸線と、前記管状体の中心軸との間の角度が10~140°の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のケガキ治具を用い、管状体の外周面にケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ線の刻印方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造プラント等のような超高純度ガスを使用するプラントにおいては、一般に、電解研摩を施したステンレス配管を用いてガス供給配管が構成されている。このようなステンレス配管同士を突き合わせて接合する方法としては、例えば、自動TIG(Tungsten Inert Gas)溶接等の方法が採用されている。
【0003】
一方、自動TIG溶接等の方法においては、しばしば、溶接部の狙いずれが発生することがあることから、このような狙いずれの発生の有無を溶接施工後に確認することが求められる。このため、従来から、例えば、溶接されるべき被溶接配管の外周面における、配管の端部から数mm~数十mm程度の位置に、予め、配管用のケガキ用治具を用いてケガキ線を刻印し、このケガキ線を基準線として、狙いずれ発生の有無や、溶接部における凹み等の欠陥の有無を目視確認する検査が行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1によれば、突き合わせ溶接されるべき被溶接配管の直径の大きさに幅広く対応しながら、被溶接配管の外周面にケガキ線を刻印することが可能な配管用のケガキ用治具を提供できるとされている。
また、特許文献1には、被溶接配管の端部からケガキ線の位置までの距離を、複数の距離で変更しながら設定し、被溶接配管の外周面における所望の位置でケガキ線を刻印できることが記載されている。
【0005】
また、パイプ端部においてパイプ壁の一部をきょう着するための互いに平行な軸心を有する3個のローラーと、ローラーの軸芯に対して直角方向にケガキ針等を保持するための内部にバネを有する筒状ケース及び該ローラー、筒状ケースのそれぞれの支持部とハンドル部分からなる本体とにより構成される、手動式のパイプマーキング治具が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-071750号公報
【特許文献2】実開昭55-17753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のケガキ用治具は、ケガキ手段としてケガキ針を用いていることから、被溶接配管の外周面との間で点接触となるため、ケガキ針の先端が摩耗しやすく耐久性に欠けるという問題があった。
また、特許文献1に記載のケガキ用治具は、ケガキ針を用いて被溶接配管の外周面を引っ掻くものであるため、ケガキ針と被溶接配管の外周面との間の滑りが良好とはならないことから、使い勝手が劣っているという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されたような手動式のパイプマーキング治具では、パイプマーキング治具を固定するために、パイプの内周面にローラーを接触させている。ここで、超高純度ガスを取り扱う半導体製造プラント等において使用されるパイプ内に塵や埃等の不純物が混入することは、確実に回避する必要がある。しかしながら、特許文献2に記載の技術のように、パイプの内周面にローラーを接触させながらケガキ線を刻印することは、ローラーに付着した塵や埃等がパイプの内周面にも付着するおそれがあることから、パイプ内への不純物の混入を招きかねなという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、管状体の内部に不純物を混入させることなく、管状体の外周面に容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた。この結果、管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ手段の構成を最適化することで、管状体の内部に不純物を混入させることなく、管状体の外周面に容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性や使い勝手も向上することを見いだし、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下に示す構成を採用する。
【0011】
[1] 管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、前記プレートに取り付けられ、前記管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、少なくとも一方の前記スペーサに取り付けられたケガキ手段と、を有し、前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、前記丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【0012】
[2] 前記丸刃が一対で設けられており、一対の前記丸刃が、前記一対のスペーサに対して、それぞれ取り付けられていることを特徴とする上記[1]に記載にケガキ治具。
【0013】
[3] 前記一対のスペーサは、各々の軸線間の距離が可変に設けられていることを特徴とする上記[1]に記載のケガキ治具。
【0014】
[4] 前記スペーサは、前記丸刃の前記軸線方向における位置を変更することにより、前記管状体の外周面に刻印される前記ケガキ線の、前記管状体の一端からの距離を調整することを特徴とする上記[1]~[3]の何れかに記載のケガキ治具。
【0015】
[5] 前記一対のスペーサの一方が、前記管状体の外周面と接触することにより、前記管状体と同期回転しながら前記外周面を周回するように、回転自在に設置されていることを特徴とする上記[1]に記載のケガキ治具。
【0016】
[6] 前記一対のスペーサの一方が、前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を無回転で周回するように、前記プレートに対して固定されていることを特徴とする上記[1]に記載のケガキ治具。
【0017】
[7] 前記一対のスペーサの軸線と、前記管状体の中心軸との間の角度が10~140°の範囲であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のケガキ治具。
【0018】
[8] 上記[1]~[7]の何れかに記載のケガキ治具を用い、管状体の外周面にケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ線の刻印方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るケガキ治具によれば、上記のように、管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、このプレートに取り付けられ、管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、少なくとも一方の前記スペーサに取り付けられたケガキ手段と、を有し、ケガキ手段が、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、この丸刃の刃部が管状体の外周面と接触することにより、外周面を周回するようにケガキ線を刻印する構成を採用している。
本発明によれば、まず、管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、このプレートに取り付けられたスペーサと、スペーサに取り付けられたケガキ手段とを有した構成を採用することで、プレート及びケガキ手段(並びにスペーサ)で管状体を保持しながら、管状体の内周面に対してローラ等を接触させることなくケガキ線を刻印することが可能になる。これにより、管状体の内周面に塵や埃等が付着することがなく、管状体の内部に不純物が混入するのを防止できる。
また、ケガキ手段として平面視円板状の丸刃を用いることで、この丸刃の刃部と管状体の外周面との間が線接触となり、管状体の外周面に対する押圧力が均一且つ緩やかに分散される。これにより、先の尖ったケガキ針等を用いた場合に比べて、ケガキ線の溝が浅く形成されるのに伴い、丸刃が摩耗するのを抑制できる。
また、平面視円板状の丸刃を用いることで、管状体の外周面に対する丸刃の姿勢や追従性が安定する。これにより、管状体の外周面に刻印されるケガキ線の位置もぶれることなく安定するとともに、ケガキ治具の使い勝手も向上する。
従って、管状体の内部に不純物を混入させることなく、管状体の外周面に容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具を提供することが可能となる。
【0020】
また、本発明に係るケガキ線の刻印方法によれば、上述した本発明に係るケガキ治具を用いてケガキ線を刻印する方法なので、上記同様、管状体の内部に不純物を混入させることなく、管状体の外周面に容易且つ正確にケガキ線を刻印することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具について模式的に説明する図であり、管状体がセットされる表面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
【
図1B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具について模式的に説明する図であり、
図1Aに示したケガキ治具を背面側からみた状態を概略で示す斜視図である。
【
図2A】本発明の第2実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、ケガキ治具に管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す図で、管状体がセットされた表面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
【
図2B】本発明の第2実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図2Aに示したケガキ治具に管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す図で、管状体がセットされた表面側とは反対の背面側からケガキ治具をみた状態を概略で示す斜視図である。
【
図3A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具に大径の管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す概略斜視図である。
【
図3B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具に小径の管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する手順を示す概略斜視図である。
【
図4A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具に小径(φ25.4mm)の管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する場合の、一対で設けられたスペーサの軸線と管状体の中心軸との間の平面視角度を示す概略平面図である。
【
図4B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具に150A(呼びA)の管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する場合の、一対で設けられたスペーサの軸線と管状体の中心軸との間の平面視角度を示す概略平面図である。
【
図4C】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具に300A(呼びA)の管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する場合の、一対で設けられたスペーサの軸線と管状体の中心軸との間の平面視角度を示す概略平面図である。
【
図4D】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具における一対で設けられたスペーサの軸線間の距離を示す概略平面図である。
【
図5A】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具に管状体をセットして管状体の外周面にケガキ線を刻印する場合の、一対で設けられた丸刃の2点とプレートとによる3点で管状体を支持した状態を示す概略斜視図である。
【
図5B】本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びケガキ線の刻印方法について模式的に説明する図であり、単体で設けた丸刃の1点と、スペーサの1点と、プレートとによる3点で管状体を支持した状態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した実施形態であるケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法について、
図1A及び
図1B~
図5A及び
図5Bを適宜参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするため、便宜上、特徴となる部分を拡大あるいは簡略化して示している場合がある。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
本実施形態のケガキ治具及びケガキ線の刻印方法は、例えば、自動TIG溶接等の方法によって端部が突き合わせ溶接された配管(管状体)について、溶接部の狙いずれの発生の有無を溶接施工後に確認するためのケガキ線を刻印する用途に用いられる。この場合、例えば、溶接されるべき配管の外周面における、配管の端部から数mm~数十mm程度の位置(一例として15mm程度)に、予め、配管用のケガキ用治具を用いてケガキ線を刻印する。そして、溶接施工後、ケガキ線を基準線として、狙いずれ発生の有無や、溶接部における凹み等の欠陥の有無を目視確認する検査を行う。
【0024】
<第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態であるケガキ治具及びそれを用いたケガキ線の刻印方法について、
図1A及び
図1B、
図3A及び
図3B~
図5A及び
図5Bを参照しながら詳細に説明する。
図1Aは、本実施形態のケガキ治具1を、配管(管状体)PAがセットされるプレート2の表面2a側からみた概略斜視図であり、
図1Bは、
図1Aに示したケガキ治具1をプレート2の背面2b側からみた概略斜視図である。
また、
図3Aは、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具1に大径の配管PAをセットして配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す概略斜視図であり、
図3Bは、ケガキ治具1に小径の配管(管状体)PBをセットして配管PBの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す概略斜視図である。
また、
図4Aは、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具1に小径(φ25.4mm)の配管PBをセットして配管PBの外周面P1にケガキ線Kを刻印する場合の、一対で設けられたスペーサ36,36の軸線Jと配管PBの中心軸P4との間の平面視角度を示す概略平面図である。また、
図4Bは、ケガキ治具1に150A(呼びA)の配管PCをセットして配管PCの外周面P1にケガキ線Kを刻印する場合、
図4Cは、ケガキ治具1に300A(呼びA)の配管PDをセットして配管PDの外周面P1にケガキ線Kを刻印する場合の、一対で設けられたスペーサ36,36の軸線Jと配管PA,PCの中心軸P4との間の平面視角度を示す概略平面図である。また、
図4Dは、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具1における、一対で設けられたスペーサ36,36の軸線J間の距離を示す概略平面図である。
また、
図5Aは、
図1A及び
図1Bに示したケガキ治具1に配管PBをセットして配管PBの外周面P1にケガキ線Kを刻印する場合の、一対で設けられた丸刃3a,3bの2点とプレート2とによる3点で配管PBを支持した状態を示す概略斜視図であり、
図5Bは、単体で設けた丸刃3aの1点と、スペーサ36の1点と、プレート2とによる3点で配管PBを支持した状態を示す概略斜視図である。
【0025】
[ケガキ治具の構成]
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態のケガキ治具1は、配管(管状体)Pの外周面P1と接触するケガキ手段である丸刃3a(3b)を有し、
図3A及び
図3B中に示した配管PA又は配管PBの外周面P1にケガキ線Kを刻印するものである。
【0026】
本実施形態のケガキ治具1は、
図1A及び
図1Bに示すように、配管PAの一端(端部)P3に沿って押し当てられるプレート2と、プレート2に取り付けられ、配管Pの中心軸P4と平行な軸線Jを有する一対のスペーサ36,36と、一方のスペーサ36に取り付けられた丸刃3と、を有している。また、本実施形態で説明する例においては、上記の丸刃3が、丸刃3a,3bからなる一対で設けられており、それぞれ、一対のスペーサ36,36の何れかに対して取り付けられている。そして、本実施形態のケガキ治具1は、一対の丸刃3a,3bが、外周端が刃部31とされた平面視円板状に構成され、これら一対の丸刃3a,3bの各々の刃部31,31が配管PAの外周面P1と接触することにより、外周面P1を周回するようにケガキ線Kを刻印する構成とされている(
図3A及び
図3Bも参照)。
【0027】
また、
図1A及び
図1Bに示す例のケガキ治具1は、一対のスペーサ36,36が配管PAの中心軸P4と平行な軸線Jで配置され、一対のスペーサ36,36に取り付けられた一対の丸刃3a,3bも、上記同様、各々平行な軸線Jで配置されている。
図示例のケガキ治具1は、詳細を後述するように、プレート2と一対の丸刃3a,3bとで配管PAを支持することにより、ケガキ線Kの刻印時に配管PAを保持できる構成とされている。
【0028】
プレート2は、上述したように、配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印する際に、配管PAの一端P3に沿って押し当てられるものであり、このプレート2及び一対の丸刃3a,3bで配管PAを保持できるように構成される。また、プレート2は、本実施形態のケガキ治具1の筐体、即ち、ベースプレートとしても機能するものであり、例えば、所定の厚みを有する金属製ブロックに対して、孔開け加工や角部処理、表面処理等を施した部材からなる。図示例のプレート2は、表面2a側又は背面2b側から見た平面視で、4箇所の角部がコーナーカット加工された概略矩形状とされている。
【0029】
また、プレート2には、一対のスペーサ36,36を可動に取り付けるためのスリット孔21が一対で形成されている。図示例においては、横長状に形成された2箇所のスリット孔21,21が、プレート2の上面2c近傍の位置で、上面2cと平行に並べられ、且つ、平面視で左右対称となる位置で配置されている。
【0030】
プレート2の材料としては、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム等、この分野で従来から用いられている金属材料を何ら制限無く採用することができる。
また、プレート2の平面視形状としては、特に限定されず、配管PAの一端P3に対して安定的に当接でき、且つ、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい形状、例えば、図示例のような角部がコーナーカットされた矩形状の他、角部がR状とされた矩形状や、丸形形状等を採用することも可能である。
また、プレート2の平面視寸法、及び、厚み寸法としても、特に限定されず、筐体としての強度確保等も考慮しながら、上記同様、ケガキ治具1の使用者が把持しやすい寸法とされていればよい。
【0031】
一対の丸刃3a,3bは、上述したように、配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印するものであり、
図1A及び
図1Bにおいては詳細な図示を省略しているが、平面視円板状に構成され、外周端が、配管PAの外周面P1と接する刃部31とされている。また、図示例の一対の丸刃3a,3bは、軸線Jを中心とする基部32に、軸線Jと同軸に配置される図示略の貫通孔が設けられている。また、図示例の一対の丸刃3a,3bは、刃部31を含む外周側の位置が、軸線J近傍の基部32に比べて薄く形成されている。
【0032】
また、
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態のケガキ治具1においては、一対で設けられた2つのスペーサ36,36が、プレート2に対し、一対のスリット孔21,21に対応する位置で、一対のスリット孔21,21の横長方向でスライド移動可能に取り付けられている。即ち、図示例においては、一対のスペーサ36,36が、それぞれ、一対のスリット孔21,21に対して、各々の軸線Jの間の距離(中心間の距離)が、一対のスリット孔21,21の横長方向で可変に設けられている。
【0033】
具体的には、図示例においては、一対の丸刃3a,3bは、それぞれ、プレート2の表面2aとの間にスペーサ36を介した状態で、ボルト37によってプレート2に取り付けられている。このとき、2本のボルト37のねじ切り部分の中間部は、プレート2に一対で設けられたスリット孔21,21に対し、螺入されることなく横長方向にスライド移動可能な状態で挿入されるとともに、先端部がナット38に螺入される。
上記のように、一対の丸刃3a,3bが、プレート2の表面2aとの間にスペーサ36を介して取り付けられていることで、一対の丸刃3a,3bの軸線J方向における位置を変更できる。
【0034】
本実施形態のケガキ治具1は、上記構成により、一対の丸刃3a,3bの各々の位置を、一対のスリット孔21,21の横長方向で任意の位置に変更できる。例えば、ケガキ線Kの刻印対象である配管が比較的小径のものである場合には、一対で配置されたスリット孔21,21の間の中心部寄りの位置に、一方の丸刃3a及び他方の丸刃3bを取り付ける。一方、ケガキ線Kの刻印対象である配管が比較的大径のものである場合には、一対で配置されたスリット孔21,21の間の中心部から離間した位置に、一方の丸刃3a及び他方の丸刃3bを取り付ける。
【0035】
上記のように、ケガキ線Kの刻印対象である配管のサイズ(径)に合わせて、一方の丸刃3aと他方の丸刃3bとの軸線J間距離を変更することで、一対の丸刃3a,3bが配管の外周面に対して均一に当接するように、配管をセットすることができるので、様々なサイズの配管に対応することが可能となる。
【0036】
一対の丸刃3a,3bの各々の材質としては、特に限定されず、一般的な工具用鋼を何ら制限無く採用でき、具体的には、例えば、ハイス鋼、又は、超硬材等を採用できる。
ハイス鋼(High-Speed Steel)は、超速度鋼とも呼ばれ、一般的な工具用鋼における高温下での耐軟化性の低さを補い、より高速での金属材料の切削が可能になるものなので、一対の丸刃3a,3bの材料に採用した場合には、より容易且つ正確なケガキ線の刻印が可能となる。
また、超硬材は、所謂超硬合金であり、炭化タングステンやコバルト、ニッケルなどを焼結して製造されることから、セラミックスに近い性質も有するため、上記のハイス鋼のような鉄鋼系素材とは性質が大きく異なるが、上記同様、一対の丸刃3a,3bの材料に採用することで、より容易且つ正確なケガキ線の刻印が可能となる。
なお、例えば、一対の丸刃3a,3bを、各々、異なる材料から構成しても構わない。
【0037】
一対の丸刃3a,3bの各々の外径としても、特に限定されないが、配管PAの外周面P1に対する線接触を確保する観点から、例えば、5~50mm程度が好ましく、10~30mmがより好ましい。
【0038】
スペーサ36としても、特に限定されず、例えば、樹脂や金属からなる筒状部材を何ら制限無く採用できる。
本実施形態のケガキ治具1は、上記のスペーサ36を備え、それぞれ長さの異なるスペーサ36に適宜変更することにより、一対の丸刃3a,3bの軸線J方向における位置、即ち、一対の丸刃3a,3bのプレート2の表面2aからの距離を変更することが可能になる。これにより、配管PAの外周面P1に刻印されるケガキ線Kの、配管PAの一端P3からの距離を調整することが可能になる。
【0039】
スペーサ36の外径としても、特に限定されないが、ケガキ作業時にスペーサ36が配管PAの外周面P1に干渉するのを防止するため、丸刃3の外径よりも若干小さな外径とすることが好ましい。
【0040】
なお、本実施形態においては、一対の丸刃3a,3bの刃部31が完全に露出した構成について説明しているが、これには限定されない。例えば、一対の丸刃が、図示略のカバーによって覆われ、配管にケガキ線を刻印するのに必要な位置のみが、カバーに形成される円弧状の切り欠き部によって露出した構成を採用することも可能である。
このような場合に用いるカバーとしても、特に限定されず、例えば、樹脂性や金属製のもの等、その加工性等を勘案しながら適宜採用することができる。
なお、図示略の一対のカバーに形成される円弧状の切り欠き部としては、例えば、ケガキ治具1に配管PAをセットしたときに、一対の丸刃3a,3bにおける配管PAの外周面P1と接触する位置と対応するように配置されていることが、配管PAと図示略のカバーとが干渉することを避ける観点から好ましい。
【0041】
実施形態のケガキ治具1においては、上記のような丸刃3a,3bを一対で設けた構成を採用することで、
図5Aに示すように、一対の丸刃3a,3bとプレート2の表面2aとの3点支持で配管PBを支持することができる。図示例においては、丸刃3aと配管PBとの接点C1、丸刃3bと配管PBとの接点C2、並びに、プレート2の表面2aと配管PBとの接点C3で、配管PBが3点支持されている。これにより、ケガキ治具1に配管PBをセットして外周面P1にケガキ線Kを刻印する際の、配管PBの保持姿勢が安定し、安定したケガキ作業を行うことが可能になる。
【0042】
また、本実施形態においては、丸刃3を1つだけ備えた構成を採用することも考えられ、このような構成であっても、配管の外周面にケガキ線を刻印することが可能である。一方、このような場合には、
図5Bに示す例のように、配管PBの支持形態が、1つの丸刃3と、スペーサ36と、プレート2とによる3点支持となる。図示例においては、丸刃3aと配管PBとの接点C1、プレート2の表面2aと配管PBとの接点C3、スペーサ36と配管PBとの接点C4で、配管PBが3点支持されている。この場合、丸刃3aを取り付けたスペーサ36と、丸刃3aを取り付けていないスペーサ36との軸線J方向における長さは、プレート2とともに配管PBを3点支持できる条件であれば特に制限はなく、同一の長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。
なお、丸刃3が1つだけだと、配管PBの外周面P1に刻印さえるケガキ線Kが見た目に薄くなり過ぎ、視認性が若干低下するケースも考えられる。これらの観点から、丸刃3は一対で備えられていることがより好ましい。
【0043】
また、スペーサ36の材質としても、特に限定されないが、配管Pに傷がつくのを防止する観点から、ケガキ対象となる配管の材質よりも軟らかい材質であることが好ましい。
【0044】
ここで、
図5Bに示す例においては、一対のスペーサ36,36のうちの一方が、配管PBの外周面P1と接触することにより、配管PBと同期回転しながら外周面P1を周回するように、回転自在に設置されている。
一方、本実施形態においては、一対のスペーサ36,36のうちの一方が、配管PBの外周面P1と接触することにより、外周面P1を無回転で周回するように、プレート2に対して固定されている構成を採用することも可能である。
上記のように、スペーサ36がプレート2に固定され、無回転とされている場合には、配管PBに傷がつくのを防止する観点から、スペーサ36の材質として、例えば、真鍮、樹脂、アルミニウム等を用いることが好ましい。
【0045】
また、本実施形態のケガキ治具1においては、
図4A,
図4B及び
図4C中に示すような、一対のスペーサ36,36の各々の軸線Jと、各配管PB,PC,PDの中心軸P4との間の角度Hは特に限定されない。
一方、本実施形態では、
図4A,
図4B及び
図4Cに示した角度Hが、10~140°であることが好ましく、15~120°であることがより好ましく、20~90°であることがさらに好ましく、22.5~45°であることが最も好ましい。
【0046】
上記のような一対のスペーサ36,36の軸線Jと、配管PB,PC,PDの中心軸P4との間の角度Hは、
図4D中に示したような、一対の丸刃3a,3b及び一対のスペーサ36,36の各軸線J間の距離Wを変更することで調整することが可能である。
図4Aに示す例では、小径の配管PBを支持するにあたり、一対の丸刃3a,3b及び一対のスペーサ36,36の各軸線J間の距離Wを狭めに設定することで、角度Hが22.5°あるいは45°になるように調整している。
また、
図4Bに示す例では、呼びAが150Aである太めの配管PCを支持するのにあたり、一対の丸刃3a,3b及び一対のスペーサ36,36の各軸線J間の距離Wを若干広めに設定することで、角度Hが22.5°あるいは45°になるように調整している。
さらに、
図4Cに示す例では、呼びAが300Aである極太の配管PDを支持するのにあたり、一対の丸刃3a,3b及び一対のスペーサ36,36の各軸線J間の距離Wを大幅に広く設定することで、角度Hが22.5°あるいは45°になるように調整している。
なお、
図4A,
図4B及び
図4Cに示した各例においては、ケガキ治具1のプレート2の平面視における縦長寸法を50mmとするとともに、横幅寸法を80mmとしている。
【0047】
一対の丸刃3a,3b及び一対のスペーサ36,36の軸線Jと、配管PB,PC,PDの中心軸P4との間の角度が上記範囲であることで、より安定した姿勢で配管PB,PC,PDを保持できるので、ケガキ作業が安定する作用が得られる。
【0048】
本実施形態のケガキ治具によれば、上記のように、まず、配管PAの一端P3に沿って押し当てられるプレート2と、このプレート2に取り付けられた一対のスペーサ36,36と、一対のスペーサ36,36の少なくとも何れかに取り付けられた丸刃3aとを有し、これらプレート2及び丸刃3a(並びにスペーサ36)で配管PAを保持可能な構成を採用することで、配管PAの内周面P2に対してローラ等を接触させることなくケガキ線Kを刻印することが可能になる。これにより、配管PAの内周面P2に塵や埃等が付着することがないので、配管PAの内部に不純物が混入するのを防止できる。
【0049】
また、配管PAの一端にプレート2の表面2aが押し当てられ、配管PAの外周面P1に一対の丸刃3a,3b又は丸刃3aとスペーサ36が接触することで、プレート2と一対の丸刃3a,3b又は丸刃3aとスペーサ36とで配管PAを保持する構成を採用することにより、配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印する際の姿勢並びに動作が安定する作用が得られる。さらに、一対の丸刃3a,3b及び一対のスペーサ36,36の各々の軸線Jの間の距離が、一対のスリット孔21,21の横長方向で可変に設けられていることで、
図3A及び
図3Bに示す例のように、外径及び内径の少なくとも何れかが異なる配管PA又は配管PBの何れを用いる場合であっても、容易に調整して対応することが可能である。
【0050】
また、ケガキ手段として平面視円板状の一対の丸刃3a,3bを用いた場合、これら一対の丸刃3a,3bの刃部31と配管PAの外周面P1との間が線接触となり、配管PAの外周面P1に対する押圧力が均一且つ緩やかに分散される作用が得られる。これにより、先の尖ったケガキ針等を用いた場合に比べて、ケガキ線Kの溝が浅く形成されるので、一対の丸刃3a,3bの各々が摩耗するのを抑制できる効果が得られる。
【0051】
また、平面視円板状とされた一対の丸刃3a,3bを用いた場合、配管PAの外周面P1に対する一対の丸刃3a,3bの姿勢や追従性が安定するので、配管PAの外周面P1に刻印されるケガキ線Kの位置もぶれることなく安定するとともに、ケガキ治具1の使い勝手も向上する。また、一対の丸刃3a,3bをケガキ手段に用いた場合、外周端である刃部31のどの位置においてもケガキ線Kを刻印することが可能なため、長期的に使用できるというメリットもある。
【0052】
従って、本実施形態のケガキ治具1によれば、配管PAの内部に不純物を混入させることなく、配管PAの外周面P1に容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具1を提供することが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態のケガキ治具1においては、一対の丸刃3a,3bを無回転で固定した構成とした場合には、一対の丸刃3a,3bが回転することなく外周面P1に接触することで、この外周面P1にケガキ線Kを浅い溝として刻印することができる。
【0054】
一方、本実施形態においては、一対の丸刃3a,3bが回転自在とされ、これら丸刃3a,3bが、それぞれ配管PAの外周面P1と接触しながら配管PAと同期回転することにより、配管PAの外周面側にケガキ線Kを刻印する構成を採用することも可能である。
上記のように、一対の丸刃3a,3bが回転自在であることにより、配管PAの外周面P1に刻印されるケガキ線Kを、一対の丸刃3a,3bが無回転である場合に比べて深い溝として形成されるので、ケガキ線Kを深く形成したい場合に有効である。
一方、一対の丸刃3a,3bの耐久性や寿命等を考慮し、配管PAの外周面P1に刻印されるケガキ線Kをできるだけ浅く形成したい場合には、上記のように一対の丸刃3a,3bを無回転で固定すればよい。
なお、1つの丸刃3aを用いる場合であっても、スペーサ36に対して、無回転で固定した構成としてもよいし、回転自在に設置された構成であってもよい。
【0055】
また、本実施形態においては、例えば、一対の丸刃3a,3bのうち、一方の丸刃3aが回転自在とされ、配管PAの外周面P1と接触しながら配管PAと同期回転することにより、配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印する一方、他方の丸刃3bが回転することなく配管PAの外周面P1に接触することにより、配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印する構成としてもよい。
このような構成とした場合には、一対の丸刃3a,3bのうち、回転自在とされた一方の丸刃3aが、配管PAの外周面P1に対して比較的深めの溝からなるケガキ線Kを刻印するように作用する一方、無回転で固定された他方の丸刃3bが、配管PAの外周面P1に対して比較的浅めの溝からなるケガキ線Kを刻印するように作用する。これにより、配管PAの外周面P1に刻印されるケガキ線Kを、最適な深さの溝となるように調整しながら形成することが可能になる。
【0056】
また、本実施形態のケガキ治具1においては、一対の丸刃3a,3bとして専用部品を製造して用いてもよいが、市販のパイプカッター刃を用いることも可能である。この場合には、例えば、一対の丸刃3a,3bによる配管PAへの押圧力を調整する等の方法により、配管PAの外周面P1に刻印されるケガキ線Kが深くなり過ぎないように最適化しながら、ケガキ線Kを刻印することが好ましい。
【0057】
[ケガキ線の刻印方法]
本実施形態のケガキ線の刻印方法について、主に
図3A及び
図3Bを参照しながら説明する(
図1A及び
図1Bも適宜参照)。
本実施形態のケガキ線の刻印方法は、上述した本実施形態のケガキ治具1を用いて配管PA又は配管PBの外周面P1にケガキ線Kを刻印する方法である。
【0058】
まず、スペーサ36のサイズを確認・調整して一対の丸刃3a,3bの位置を決定することにより、配管PA又は配管PBの外周面P1上におけるケガキ線Kを形成すべき位置を決定した後、プレート2の表面2a側に、ケガキ線Kの刻印対象となる配管PA又はPBをセットする。
このとき、配管PA又は配管PBを構成する円筒壁の一部を、一方の丸刃3aと他方の丸刃3bとの間に配置するとともに、配管PA又は配管PBの一端P3がプレート2の表面2aに当接するようにセットする。
【0059】
次いで、一対の丸刃3a,3bのそれぞれの位置を、一対のスリット孔21,21に沿って移動させることにより、配管PA又は配管PBを構成する円筒壁の一部を、一方のの丸刃3と他方の丸刃3bとによって挟み込む。このとき、配管PA又は配管PBの外周面P1には、一対の丸刃3a,3bの各々の刃部31が接触した状態となる。そして、ボルト37とナット38との間を締め付けることにより、一対の丸刃3a,3bの位置を固定する。
【0060】
次いで、一対の丸刃3a,3bとプレート2の表面2aとで配管PA又は配管PBを保持しながら、ケガキ治具1全体を回転させるか、あるいは配管PA又は配管PBを回転させることにより、配管PA又は配管PBの外周面P1に対して、一対の丸刃3a,3bでケガキ線Kを刻印する。この際、例えば、配管PA又は配管PBあるいはケガキ治具1を複数回で回転させることにより、配管PA又は配管PBの外周面P1に確実にケガキ線Kを刻印することがより好ましい。
【0061】
次いで、ボルト37とナット38との間を緩めるか、あるいは、配管PA又は配管PBを一対の丸刃3a,3bから離間する方向にずらすことにより、配管PA又は配管PBをケガキ治具1から取り外す。
以上のような手順により、配管PA又は配管PBの外周面P1における所望の位置にケガキ線Kを刻印することができる。
【0062】
本実施形態のケガキ線Kの刻印方法によれば、上述した本実施形態のケガキ治具1を用いてケガキ線Kを刻印する方法なので、上記同様、配管PA又は配管PBの内部に不純物を混入させることなく、配管PA又は配管PBの外周面P1に容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することが可能となる。
【0063】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態であるケガキ治具の構成について、
図2A及び
図2Bを参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す本実施形態のケガキ治具1Aの説明においては、
図1A及び
図1B、並びに、
図3A及び
図3Bに示した第1実施形態のケガキ治具1と同じ構成については、同じ符号を付与し、同じ図面を参照する場合があるとともに、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0064】
図2Aは、本実施形態のケガキ治具1Aにおけるプレート2Aの表面2a側に配管PAをセットして配管PAの外周面P1にケガキ線Kを刻印する手順を示す平面図で、配管PAがセットされた表面2a側からケガキ治具1Aをみた状態を示す斜視図であり、
図2Bは、配管PAがセットされた表面2a側とは反対の背面2b側からケガキ治具1Aをみた状態を示す斜視図である。
【0065】
図2A及び
図2Bに示すように、本実施形態のケガキ治具1Aは、配管PAの一端(端部)P3に沿って押し当てられるプレート2Aと、このプレート2Aに取り付けられる一対のスペーサ36,36と、一対のスペーサ36,36に取り付けられ、配管PAの外周面P1と接触する、外周端が刃部31とされた平面視円板状である一対の丸刃3a,3bとを有している点で、
図1A及び
図1B、並びに、
図3A及び
図3Bに示した第1実施形態のケガキ治具1と同様である。
一方、本実施形態のケガキ治具1Aは、プレート2Aに、一対のスペーサ36,36、及び、一対の丸刃3a,3bを取り付けるためのボルト孔22(22a,22b,22c,22d),23(23a,23b,23c,23d)が、一方の丸刃3a及び他方の丸刃3bの各々に対応して4箇所ずつ対となるように、合計8箇所に設けられている点で、一対のスリット孔21,21が設けられた第1実施形態のケガキ治具1とは異なる。
また、本実施形態のケガキ治具1Aは、一方の丸刃3aが、スペーサ36を介して、プレート2Aにおけるボルト孔22a,22b,22c,22dのうちの何れかに固定され、他方の丸刃3bが、スペーサ36を介して、ボルト孔23a,23b,23c,23dのうちの何れかに固定される点でも、一対の丸刃3a,3bが、一対のスペーサ36,36を介して、一対のスリット孔21,21に対してスライド移動可能に取り付けられた第1実施形態のケガキ治具1とは異なる。
【0066】
プレート2Aは、上述した計4箇所のボルト孔22(22a,22b,22c,22d)と、計4箇所のボルト孔23(23a,23b,23c,23d)とが、プレート2Aの上面2c近傍の位置で、上面2cと平行に並べられ、且つ、それぞれ4箇所のボルト孔22及びボルト孔23が、平面視で左右対称となる位置で一列に配置されている。
【0067】
そして、一方の丸刃3aは、プレート2Aに形成されたボルト孔22a,22b,22c,22dの何れかに対し、プレート2Aの表面2aとの間にスペーサ36を介した状態で、ボルト37によって取り付けられる。一方、他方の丸刃3bは、ボルト孔23a,23b,23c,23dの何れかに対し、上記同様、プレート2Aの表面2aとの間にスペーサ36を介した状態で、ボルト37によって取り付けられる。
このとき、2本のボルト37のねじ切り部分の中間部は、プレート2Aに各々4箇所ずつ設けられたボルト孔22及びボルト孔23に対し、螺入されることなく回転自在な状態で挿入されるとともに、先端部がナット38に螺入される。
【0068】
本実施形態のケガキ治具1Aにおいては、プレート2Aに対する一方の丸刃3aの取付位置を、計4箇所のボルト孔22a,22b,22c,22dのうちの何れかとし、また、他方の丸刃3bの取付位置を、計4箇所のボルト孔23a,23b,23c,23dのうちの何れかとすることができる。即ち、本実施形態のケガキ治具1Aは、ケガキ線Kの刻印対象である配管のサイズ(径)に合わせて、一対の丸刃3a,3bの取付位置を、例えば合計4パターンで変更できる。
【0069】
図2A及び
図2Bに示す例においては、一方の丸刃3aが、ボルト孔22とボルト孔23とが4箇所ずつ対となるように配置されたプレート2上の中心側から数えて、2つ目のボルト孔22bの位置で固定されている。同様に、他方の丸刃3bが、ボルト孔22とボルト孔23とが4箇所ずつ対となるように配置されたプレート2上の中心側から数えて、2つ目のボルト孔23bの位置で固定されている。
【0070】
ここで、例えば、ケガキ線Kの刻印対象である配管が、図示例の配管PAよりも小径である場合には、一方の丸刃3aを、プレート2上における中心寄りに配置されたボルト孔22aに固定し、同様に、他方の丸刃3bを、プレート2上における中心寄りに配置されたボルト孔23aに固定する。これにより、一対の丸刃3a,3bが配管の外周面に対して均一に当接するように、配管をセットすることができる。
一方、ケガキ線Kの刻印対象である配管が、図示例の配管PAよりも大径である場合には、一方の丸刃3aを、上記のプレート2上における中心寄りの位置から離間して配置されたボルト孔22c又はボルト孔22dに固定し、同様に、他方の丸刃3bを、プレート2上における中心寄りの位置から離間して配置されたボルト孔23c又はボルト孔23dに固定する。
本実施形態のケガキ治具1Aは、上記構成により、第1実施形態のケガキ治具1と同様、ケガキ線Kの刻印対象である配管のサイズ(径)に合わせて、一方の丸刃3aと他方の丸刃3bとの軸線J間距離を変更することで、様々なサイズの配管に対応することが可能となる。
【0071】
本実施形態のケガキ治具1Aによれば、上記構成を備えることにより、第1実施形態のケガキ治具1と同様、 配管PAの内部に不純物を混入させることなく、配管PAの外周面P1に容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手が向上する効果が得られる。
【0072】
<その他の形態>
以上、実施形態により、本発明に係るケガキ治具、及び、それを用いたケガキ線の刻印方法の一例を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0073】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態のケガキ治具1(1A)によれば、配管PA(PB,PC,PD)の一端P3に沿って押し当てられるプレート2(2A)と、このプレート2(2A)に取り付けられた一対のスペーサ36,36と、スペーサ36に取り付けられたケガキ手段である丸刃3(一対の丸刃3a,3b)とを有し、プレート2(2A)及び一対の丸刃3a,3b(並びにスペーサ36)で配管PA(PB)を保持可能な構成を採用している。このような構成を採用することで、配管PA(PB)の内周面P2に対してローラ等を接触させることなくケガキ線Kを刻印することが可能になる。これにより、配管PA(PB)の内周面P2に塵や埃等が付着することがないので、配管PA(PB)の内部に不純物が混入するのを防止できる。
また、ケガキ手段として平面視円板状の丸刃3(一対の丸刃3a,3b)を用いることで、丸刃3(一対の丸刃3a,3b)の刃部31と配管PA(PB,PC,PD)の外周面P1との間が線接触となり、配管PA(PB)の外周面P1に対する押圧力が均一且つ緩やかに分散される。これにより、先の尖ったケガキ針等を用いた場合に比べて、ケガキ線Kの溝が浅く形成されるのに伴い、丸刃3(一対の丸刃3a,3b)が摩耗するのを抑制できる。
また、平面視円板状の一対の丸刃3a,3bを用いた場合には、配管PA(PB,PC,PD)の外周面P1に対する一対の丸刃3a,3bの姿勢や追従性が安定するので、配管PA(PB,PC,PD)の外周面P1に刻印されるケガキ線Kの位置もぶれることなく安定するとともに、ケガキ治具1(1A)の使い勝手も向上する。
従って、配管PA(PB,PC,PD)の内部に不純物を混入させることなく、配管PA(PB,PC,PD)の外周面P1に容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたケガキ治具1(1A)を提供することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態のケガキ線Kの刻印方法によれば、上述した本実施形態のケガキ治具1(1A)を用いてケガキ線Kを刻印する方法なので、上記同様、配管PA(PB,PC,PD)の内部に不純物を混入させることなく、配管PA(PB,PC,PD)の外周面P1に容易且つ正確にケガキ線Kを刻印することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のケガキ治具によれば、上記のように、配管(管状体)の内部に不純物を混入させることなく、配管の外周面に容易且つ正確にケガキ線を刻印することができるとともに、耐久性及び使い勝手に優れたものである。従って、本発明のケガキ治具は、例えば、自動TIG溶接等の方法によって端部が突き合わせ溶接された配管について、溶接部の狙いずれの発生の有無を溶接施工後に確認するためのケガキ線を刻印する用途において極めて有用である。
【符号の説明】
【0076】
1,1A…ケガキ治具
2,2A…プレート
2a…表面
2b…背面
2c…上面
21…スリット孔(一対のスリット孔)
22,22a,22b,22c,22d、23,23a,23b,23c,23d…ボルト孔
3…丸刃(ケガキ手段)
3a,3b…一対の丸刃(丸刃;ケガキ手段)
31…刃部
32…基部
36…スペーサ
37…ボルト
38…ナット
J…軸線
PA,PB,PC,PD…配管(管状体)
P1…外周面
P2…内周面
P3…一端
P4…中心軸
K…ケガキ線
【手続補正書】
【提出日】2023-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、
一方の前記スペーサに取り付けられたケガキ手段と、を有し、
他方の前記スペーサは、前記管状体の外周面と接触することにより前記外周面を周回するように設置され、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、前記丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項2】
前記一対のスペーサの前記他方のスペーサが、前記管状体の外周面と接触することにより、前記管状体と同期回転しながら前記外周面を周回するように、回転自在に設置されていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項3】
前記一対のスペーサの前記他方のスペーサが、前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を無回転で周回するように、前記プレートに対して固定されていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項4】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、
前記一対のスペーサに取り付けられた一対のケガキ手段と、を有し、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、
前記丸刃が一対で設けられており、一対の前記丸刃が、前記一対のスペーサに対して、それぞれ取り付けられ、
前記一対の丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項5】
前記一対のスペーサは、各々の軸線間の距離が可変に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のケガキ治具。
【請求項6】
前記スペーサは、前記丸刃の前記軸線方向における位置を変更することにより、前記管状体の外周面に刻印される前記ケガキ線の、前記管状体の一端からの距離を調整することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のケガキ治具。
【請求項7】
前記一対のスペーサの軸線と、前記管状体の中心軸との間の角度が10~140°の範囲であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のケガキ治具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のケガキ治具を用い、管状体の外周面にケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ線の刻印方法。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、
一方の前記スペーサに取り付けられたケガキ手段と、を有し、
他方の前記スペーサは、前記管状体の外周面と接触することにより前記外周面を周回するように設置され、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、前記丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項2】
前記一対のスペーサの前記他方のスペーサが、前記管状体の外周面と接触することにより、前記管状体と同期回転しながら前記外周面を周回するように、回転自在に設置されていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項3】
前記一対のスペーサの前記他方のスペーサが、前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を無回転で周回するように、前記プレートに対して固定されていることを特徴とする請求項1に記載のケガキ治具。
【請求項4】
管状体の外周面にケガキ線を刻印するケガキ治具であって、
前記管状体の端部に沿って押し当てられるプレートと、
前記プレートに取り付けられ、前記管状体の中心軸と平行な軸線を有する一対のスペーサと、
前記一対のスペーサに取り付けられた一対のケガキ手段と、を有し、
前記ケガキ手段は、外周端が刃部とされた平面視円板状の丸刃からなり、
前記丸刃が一対で設けられており、一対の前記丸刃が、前記一対のスペーサに対して、それぞれ取り付けられ、
前記一対の丸刃の刃部が前記管状体の外周面と接触することにより、前記外周面を周回するように前記ケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ治具。
【請求項5】
前記一対のスペーサは、各々の軸線間の距離が可変に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のケガキ治具。
【請求項6】
前記スペーサは、前記丸刃の軸線方向における位置を変更することにより、前記管状体の外周面に刻印される前記ケガキ線の、前記管状体の一端からの距離を調整することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のケガキ治具。
【請求項7】
前記一対のスペーサの軸線と、前記管状体の中心軸との間の角度が10~140°の範囲であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のケガキ治具。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載のケガキ治具を用い、前記管状体の外周面にケガキ線を刻印することを特徴とするケガキ線の刻印方法。