(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170069
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ツマジロクサヨトウの性誘引物質
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20231124BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20231124BHJP
A01P 23/00 20060101ALI20231124BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20231124BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
A01N37/02
A01N25/08
A01P23/00
A01P19/00
A01M1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081531
(22)【出願日】2022-05-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出強化研究推進事業「ツマジロクサヨトウの効率的な発生予察技術と防除対策技術の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】田端 純
(72)【発明者】
【氏名】安居 拓恵
(72)【発明者】
【氏名】中野 亮
(72)【発明者】
【氏名】石川 幸男
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121CC14
2B121CC22
2B121CC31
4H011AC07
4H011BA01
4H011BB03
4H011DA12
4H011DC05
(57)【要約】
【課題】本発明は、ツマジロクサヨトウのオスを選択的に誘引する組成物を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のツマジロクサヨウトウのオスを誘引するための及び/又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱するための組成物は、
(Z)-9-テトラデセニルアセテート(Z9-14Ac)と、
(Z)-7-ドデセニルアセテート(Z7-12Ac)と、
(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテート(Z9E12-14Ac)と
を含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)-9-テトラデセニルアセテート(Z9-14Ac)と、
(Z)-7-ドデセニルアセテート(Z7-12Ac)と、
(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテート(Z9E12-14Ac)と
を含む、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引するための及び/又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱するための組成物。
【請求項2】
Z9-14Ac及びZ9E12-14Acの含有比率が、質量比で1:0.2×10-5~0.02であるか、又は、
Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acの含有比率が、質量比で1:0.1×10-2~0.1:0.2×10-5~0.02である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(Z)-11-ヘキサデセニルアセテート(Z11-16Ac)、及び/又は、(Z)-9-ドデセニルアセテート(Z9-12Ac)をさらに含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、溶液若しくはエマルジョンの形態であるか、又は、徐放性担体に含浸した形態である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ツマジロクサヨウトウのオスの誘引剤の誘引効果を増強するための、Z9E12-14Acを含む組成物であって、
前記誘引剤が、Z9-14Ac及びZ7-12Acを含む、組成物。
【請求項7】
前記誘引剤が、Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acを含む、ツマジロクサヨウトウのオスの捕獲装置。
【請求項9】
Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、請求項8に記載の捕獲装置。
【請求項10】
Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acを含む組成物を、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する場所に適用する工程を含む、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱する方法。
【請求項11】
前記組成物が、Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツマジロクサヨトウのオス成虫の誘引物質に関しており、より具体的には、ツマジロクサヨトウのオスを誘引するための組成物、ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信を撹乱するための組成物、ツマジロクサヨウトウのオスの誘引剤の誘引効果を増強するための組成物、ツマジロクサヨウトウのオスの捕獲装置、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する方法、及び、ツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱する方法に関している。
【背景技術】
【0002】
ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)は、中南米原産と考えられ、トウモロコシやサトウキビ等のイネ科を中心に様々な植物を加害する、中南米原産とされる害虫である。近年、世界的に分布域を拡大しており、日本には2019年に初めて侵入が確認された。飛翔能力の高い害虫であり、国内外から気流に乗って飛来した成虫が産卵して被害をもたらすため、被害を予測して最小限に留めるにはその飛来や発生を的確に把握する必要がある。
【0003】
害虫の飛来や発生をモニタリングする手段として、性フェロモンのような誘引物質を利用したトラップが用いられている。性フェロモンとは、一般にメス成虫が分泌する化学物質で、同種のオス成虫に対して種特異的かつ強力な誘引作用を示す。そのため、性フェロモンの化学構造を明らかにし、工業的に合成して性フェロモントラップを供給することができれば、害虫の発生調査を効率的かつ簡便に行うことができるようになる(例えば、特許文献1)。また、オス-メス間の交尾に関する情報交信を撹乱する製剤として合成性フェロモンを活用できることも知られており(例えば特許文献2)、農薬登録も進められている。
【0004】
ツマジロクサヨトウのメス成虫が生産する性フェロモン成分として、(Z)-9-テトラデセニルアセテート(Z9-14Ac)、(Z)-7-ドデセニルアセテート(Z7-12Ac)、(Z)-11-ヘキサデセニルアセテート(Z11-16Ac)、及び、(Z)-9-ドデセニルアセテート(Z9-12Ac)が同定されている(例えば非特許文献1)。これらのうち、Z9-14AcとZ7-12Acの2成分だけでもオス成虫を誘引することができるが、上記4成分すべてを含む混合物の方が誘引性は高い(例えば非特許文献2)。しかしながら、上記4成分を含む製剤を誘引源とした性フェロモントラップにはミシムナ(Mythimuna)属やロイカニア(Leucania)属のガ類がしばしば誤誘引され(例えば非特許文献2)、特にクサシロキヨトウ(Mythimuna loreyi)が混入することが知られている(例えば非特許文献3)。別種個体の混入はフェロモントラップによる発生調査の作業効率を著しく低下させる。
【0005】
また、非特許文献4及び5には、合成した(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテート(Z9E12-14Ac)を、Z9-14Acと組み合わせてツマジロクサヨトウのオスの誘引に使用した旨が記載されているが、Z9E12-14Acがツマジロクサヨトウのメスから分泌されることは記載されておらず、クサシロキヨトウの誘引性(交差活性)についても記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4734553号
【特許文献2】特開2020-66601号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tumlinson JH, Mitchell ER, Teal PEA et al (1986) Sex pheromone of fall armyworm,Spodoptera frugiperda (J.E. Smith): Identification of components critical to attraction in the field. J Chem Ecol 12:1909-1926. https://doi.org/10.1007/BF01041855.
【非特許文献2】Fleischer SJ, Harding CL, Blom PR et al (2005) Spodoptera frugiperda pheromone lures to avoid nontarget captures of Leucania phragmatidicola. J Econ Entomol 98:66-71. https://doi.org/10.1093/jee/98.1.66
【非特許文献3】Wakamura S, Arakaki N, Yoshimatsu S (2020) Sex pheromone of the fall armyworm Spodoptera frugiperda (Lepidoptera: Noctuidae) of a “Far East” population from Okinawa, Japan. Appl Entomol Zool 56:19-25. https://doi.org/10.1007/s13355-020-00703-9
【非特許文献4】Mitchell ER, Doolittle RE (1976) Sex pheromones of Spodoptera exigua S. eridania, and S. frugiperda: Bioassay for field activity. J Econ Entomol 69:324-326. https://doi.org/10.1093/jee/69.3.324
【非特許文献5】Blassioli-Moraes MC, Borges M, Viana AR et al (2016) Identification and field evaluation of the sex pheromone of a Brazilian population of Spodoptera cosmioides. Pesq. Agropec. Bras. 51:545-554. https://doi.org/10.1590/S0100-204X2016000500015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ツマジロクサヨトウのオスを選択的に誘引し、クサシロキヨトウの誤誘引を抑えることができれば、ツマジロクサヨトウを効率的にモニタリングして防除することができる。そこで、本発明は、ツマジロクサヨトウのオスを選択的に誘引する組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、微量のZ9E12-14Acをツマジロクサヨトウのメス成虫の性フェロモン腺抽出物から検出・同定し、この化合物が既知の性フェロモンによるツマジロクサヨトウのオス成虫の誘引性を高め、かつクサシロキヨトウの誤誘引を抑制することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す組成物、捕獲装置、及び方法を提供するものである。
〔1〕(Z)-9-テトラデセニルアセテート(Z9-14Ac)と、
(Z)-7-ドデセニルアセテート(Z7-12Ac)と、
(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテート(Z9E12-14Ac)と
を含む、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引するための及び/又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱するための組成物。
〔2〕Z9-14Ac及びZ9E12-14Acの含有比率が、質量比で1:0.2×10-5~0.02であるか、又は、
Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acの含有比率が、質量比で1:0.1×10-2~0.1:0.2×10-5~0.02である、
前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕(Z)-11-ヘキサデセニルアセテート(Z11-16Ac)、及び/又は、(Z)-9-ドデセニルアセテート(Z9-12Ac)をさらに含む、前記〔2〕に記載の組成物。
〔4〕Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、前記〔1〕に記載の組成物。
〔5〕前記組成物が、溶液若しくはエマルジョンの形態であるか、又は、徐放性担体に含浸した形態である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔6〕ツマジロクサヨウトウのオスの誘引剤の誘引効果を増強するための、Z9E12-14Acを含む組成物であって、
前記誘引剤が、Z9-14Ac及びZ7-12Acを含む、組成物。
〔7〕前記誘引剤が、Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、前記〔6〕に記載の組成物。
〔8〕Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acを含む、ツマジロクサヨウトウのオスの捕獲装置。
〔9〕Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、前記〔8〕に記載の捕獲装置。
〔10〕Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acを含む組成物を、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する場所に適用する工程を含む、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱する方法。
〔11〕前記組成物が、Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む、前記〔10〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従えば、Z9E12-14AcをZ9-14Ac及びZ7-12Acと組み合わせて用いることにより、ツマジロクサヨトウのオス成虫の誘引性及び種選択性を向上させることができる。したがって、ツマジロクサヨトウのモニタリングや防除を効率的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の組成物は、
(Z)-9-テトラデセニルアセテート(Z9-14Ac)と、
(Z)-7-ドデセニルアセテート(Z7-12Ac)と、
(Z,E)-9,12-テトラデカジエニルアセテート(Z9E12-14Ac)と
を含んでいる。これらの化合物(以下、3つの化合物をまとめて「コア化合物」という。)は、害虫であるツマジロクサヨウトウのメス成虫の性フェロモン腺抽出物に含まれる成分であり、当該メス成虫が放出する性フェロモンとして機能するものであるので、本発明の組成物は、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引するために使用することができる。そのため、前記組成物は、ツマジロクサヨトウの発生調査又は誘引捕獲(若しくは誘引捕殺)のために利用することができる。
【0012】
また、ツマジロクサヨトウのメスが放出する性フェロモンを、その生息場所又は生息が疑われる場所に人工的に充満させれば、ツマジロクサヨトウのオスは、メスの本当の生息場所を判別することができず、メスにたどり着くことができない。そのため、本発明の組成物は、ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信を撹乱するために使用することもできる。
【0013】
上記コア化合物の含有比率は、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱できる限り、特に制限されないが、例えば、Z9-14Ac及びZ9E12-14Acの含有比率は、質量比で約1:約0.2×10-5~約0.02であってもよく、好ましくは約1:約0.1×10-3~約0.01である。あるいは、Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acの含有比率は、約1:約0.1×10-2~約0.1:約0.2×10-5~約0.02であってもよく、好ましくは約1:約0.5×10-2~約0.05:約0.1×10-3~約0.01である。
【0014】
ある態様では、本発明の組成物は、(Z)-11-ヘキサデセニルアセテート(Z11-16Ac)、及び/又は、(Z)-9-ドデセニルアセテート(Z9-12Ac)をさらに含む。これらの追加の化合物も、ツマジロクサヨウトウのメス成虫の性フェロモン腺抽出物に含まれる成分であり、当該メス成虫が放出する性フェロモンとして機能するものである。前記追加の化合物の含有比率は、特に制限されないが、例えば、Z9-14Ac及びZ11-16Acの含有比率は、質量比で約1:約0.5×10-2~約1であってもよく、Z9-14Ac及びZ9-12Acの含有比率は、質量比で約1:約0.5×10-3~約0.05であってもよい。
【0015】
ある態様では、本発明の組成物は、有機溶媒をさらに含む。前記有機溶媒としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記有機溶媒は、ペンタン及びヘキサンなどの炭化水素系有機溶媒であってもよい。
【0016】
ある態様では、本発明の組成物は、溶液又はエマルジョンの形態となっている。本発明の組成物における前記コア化合物の総濃度は、所期の作用が奏される限り特に制限されないが、例えば、ツマジロクサヨトウの発生調査又は誘引捕獲(若しくは誘引捕殺)を目的とする場合、約0.001~約100.0mg/mLであってもよく、好ましくは約0.01~約10mg/mLである。ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信を撹乱する場合は、本発明の組成物における前記コア化合物の総濃度は、例えば、約0.1~約1000mg/mLであってもよく、好ましくは約0.5~約500mg/mLである。
【0017】
ある態様では、本発明の組成物は、徐放性担体に含浸した形態となっている。前記徐放性担体としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記徐放性担体は、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びポリ塩化ビニルなどの放出量制御機能を有する材料からなる、キャップ(セプタム)、細管、ラミネート製の袋、及び、カプセルなどの容器であってもよく、好ましくは、ゴム又はポリエチレンからなるセプタム又は細管である。
【0018】
前記徐放性担体当たりの前記コア化合物の含浸総量は、所期の作用が奏される限り特に制限されないが、例えば、ツマジロクサヨトウの発生調査又は誘引捕獲(若しくは誘引捕殺)を目的とする場合、約1cm3の徐放性担体に対して約0.0001~約100mgであってもよく、好ましくは約0.001~約10mgである。ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信を撹乱する場合は、前記徐放性担体当たりの前記コア化合物の含浸総量は、例えば、約1.0~約1000mgであってもよく、好ましくは約50~約500mgである。
【0019】
前記徐放性担体は、害虫を捕獲するトラップと組み合わせて(前記トラップに取り付けて)使用することができる。前記トラップとしては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記トラップは、粘着トラップ、水盤トラップ、又は、吸引トラップなどであってもよく、好ましくは粘着トラップである。前記トラップに取り付ける前記徐放性担体の個数は、特に制限されず、それぞれの大きさや使用目的に応じて適宜調整すればよいが、例えば、前記トラップに前記徐放性担体を約1~約10個取り付けてもよい。
【0020】
本発明の組成物、特に前記徐放性担体に含浸した形態の組成物は、屋外に設置してもよい。屋外における前記徐放性担体の設置密度は、特に制限されないが、例えば、ツマジロクサヨトウの発生調査又は誘引捕獲(若しくは誘引捕殺)を目的として、前記トラップに前記徐放性担体を1個取り付けて使用する場合、10アール当たり約1~約1000個であってもよく、好ましくは約10~約500個である。前記徐放性担体同士の間隔は、特に制限されないが、例えば、約1~約100mであってもよく、好ましくは約5~約15mである。ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信を撹乱する場合は、屋外における前記徐放性担体の設置密度は、例えば、10アール当たり約50~約500個であってもよく、前記徐放性担体同士の間隔は、例えば、約0.5~100mであってもよく、好ましくは約1.4~約10mである。
【0021】
本発明の組成物、特に前記徐放性担体に含浸した形態の組成物の設置位置は、特に制限されないが、例えば、地上約10~約200cmの高さであってもよく、好ましくは約30~約160cmの高さである。また、前記組成物の設置時期は、特に制限されないが、例えば、ツマジロクサヨトウの成虫の飛来時期に設置してもよい。
【0022】
ある態様では、本発明の組成物は、網及びロープなどの農業資材又は園芸資材などに含浸した形態となっている。本発明の組成物が含浸した資材を圃場に広く設置すれば、ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信撹乱に特に有用である。前記資材に含浸させる方法は、特に制限されないが、例えば、溶液状態の前記組成物を、前記資材に対して噴霧又は塗布することによって含浸させてもよい。噴霧又は塗布する前記コア化合物の量は、所期の作用が奏される限り特に制限されないが、例えば、ツマジロクサヨトウのオス-メス間の交信を撹乱する場合は、前記資材を圃場に設置したときにそれに含浸している前記コア化合物の総量が10アール当たり約2.5~約250gとなるような量であってもよい。
【0023】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の賦形剤及び/又は添加剤などをさらに含んでもよく、ガ類を誘引する他の有効成分、及び/又は、ガ類のオス-メス間の交信を撹乱する他の有効成分をさらに含んでもよい。
【0024】
別の態様では、本発明は、ツマジロクサヨウトウのオスの誘引剤の誘引効果を増強するための、Z9E12-14Acを含む組成物にも関している。前記誘引剤は、Z9-14Ac及びZ7-12Acを含んでおり、任意でZ11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含んでもよい。Z9E12-14Acは、クサシロキヨトウのオスを誤誘引することなく、ツマジロクサヨウトウのオスの誘引性を選択的に増強することができる。各化合物の使用比率は、特に制限されず、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引するための組成物又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱するための組成物における各化合物の含有比率について上述したとおりである。
【0025】
別の態様では、本発明は、Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acを含む、ツマジロクサヨウトウのオスの捕獲装置にも関している。当該捕獲装置は、ツマジロクサヨトウの発生調査又は誘引捕獲(若しくは誘引捕殺)に利用することができる。上記3種の化合物の含有比率は、特に制限されず、本発明の組成物について上述したとおりである。
【0026】
ある態様では、本発明の捕獲装置は、上述の徐放性担体、及び/又は、上述のトラップをさらに備えてもよい。本発明の捕獲装置の設置時期は、特に制限されないが、例えば、ツマジロクサヨトウの成虫の飛来時期に設置してもよい。また、ある態様では、本発明の捕獲装置は、Z11-16Ac及び/又はZ9-12Acをさらに含む。これらの追加の化合物の含有比率は、特に制限されず、本発明の組成物について上述したとおりである。
【0027】
別の態様では、本発明は、Z9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acを含む組成物を、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する場所に適用する工程を含む、ツマジロクサヨウトウのオスを誘引する方法又はツマジロクサヨウトウのオス-メス間の交信を撹乱する方法にも関している。本発明の方法で使用される組成物は、本発明の組成物として上述したとおりのものである。当該組成物の適用方法は、特に制限されないが、例えば、前記組成物を均一に分散し得る溶媒に希釈して、目的の場所に噴霧してもいいし、前記組成物を上述の徐放性担体又に含浸させて、目的の場所に設置してもよい。
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0029】
1.ツマジロクサヨトウのメス成虫の性フェロモン腺抽出物の分析
羽化したツマジロクサヨトウのメス成虫をオス成虫と隔離し、10%ハチミツ水溶液を餌として与えて23℃で飼育した。飼育室の照明は午前6時に点灯し、午後10時に消灯した。羽化後2日から4日目の午後11時から12時の間に、112頭のメス成虫の性フェロモン腺を含む腹部末節を切除した。これを約4mLのヘキサンに30分間浸漬し、その後ろ過して、粗抽出液を取得した。
【0030】
取得した粗抽出液をロータリーエバポレーターで約0.03mLまで濃縮し、シリカゲル(0.2g)を充填したカラムクロマトグラフに注入した。そして、ジエチルエーテルを0、5、15、又は50%含むヘキサンを、それぞれ2mLずつ用いて分画・溶出した。
【0031】
5%ジエチルエーテル画分にトリデシルアセテート(20ng)を内部標準物質として加え、ロータリーエバポレーターで約0.1mLまで再濃縮し、このうち0.003mLをDB-WAXカラム(内径0.25mm、長さ30m)を据え付けたガスクロマトグラフ-質量分析装置(アジレント社製)によって分析した。カラムオーブン内の温度を、初期温度60℃(1分間保持)から毎分10℃ずつ230℃まで昇温する条件で分析したところ、既知の性フェロモン成分であるZ9-14Ac、Z7-12Ac、Z11-16Ac、及びZ9-12Acが、それぞれ18.0分、15.4分、20.3分、及び15.6分に検出された。さらに、これらの成分と類似したEIマススペクトルを有する微量成分が18.9分に検出された。この微量成分の含有比は、最も含有量の多いZ9-14Acに対し、ガスクロマトグラムのピーク面積比で約0.2%であった。
【0032】
上記微量成分のEIマススペクトル[m/z(相対強度%)]は次のとおりだった。
43 (92.9), 55 (60.7), 67 (100), 81 (95.0), 95 (56.8), 107 (19.2), 121 (26.0), 135 (16.7), 149 (8.5), 163 (3.3), 192 (12.8), 252 (1.0)
このスペクトル及びガスクロマトグラフィーにおける保持時間が合成品のZ9E12-14Acのものに一致したことから、当該微量成分はZ9E12-14Acと同定された。
【0033】
2.誘引試験1
Z9-14Ac、Z7-12Ac、Z11-16Ac、Z9-12Ac、及びZ9E12-14Acのうちいくつかの化合物を混合して0.2mLのヘキサン溶液(誘引剤)を調製し、この誘引剤をゴムセプタムに含浸させた(試験群A~E)。そして、当該ゴムセプタム1個を市販のSEトラップ(粘着板;24cm×30cm)に誘引源として取り付けて、捕獲装置を作製した。これらの捕獲装置を15台ずつ野外に設置して1週間放置し、捕獲されたツマジロクサヨトウのオス成虫及びクサシロキヨトウのオス成虫の数を計測した。この試験を、前記捕獲装置のうち9台については6回、6台については21回繰り返した。各誘引剤の組成(上記化合物の含有量)及び結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
Z9-14Ac、Z7-12Ac、Z11-16Ac、及びZ9-12Acを含む従来の誘引剤(試験群A)は、Z9-14Ac及びZ7-12Acを含む誘引剤(試験群B)よりも多くのツマジロクサヨトウを誘引したが、それと同時にクサシロキヨトウも誤誘引してしまった。それに対して、試験群Bと試験群Dとの比較から理解できるように、Z9E12-14Acを添加すると、クサシロキヨトウの誘引性を高めずに、ツマジロクサヨトウの誘引性のみを向上させることができた。また、試験群Aと試験群Cとを比較すると、Z9E12-14Acの添加により、クサシロキヨトウの誘引性は抑制されるが、ツマジロクサヨトウの誘引性は高まることが分かった。
【0036】
3.誘引試験2
試験群Dの誘引剤及びそれとZ9E12-14Acの含有量が異なる誘引剤(試験群F~H)を使用した以外は誘引試験1と同様にして、捕獲装置を作製した。これらの捕獲装置を6台ずつ野外に設置して1週間放置し、捕獲されたツマジロクサヨトウのオス成虫及びクサシロキヨトウのオス成虫の数を計測する試験を8回繰り返した。各誘引剤の組成及び結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
いずれの試験群でもツマジロクサヨトウを誘引することができ、クサシロキヨトウの誤誘引は抑制されていた。とりわけ、Z9E12-14Acの含有量がZ9-14Acの含有量に対して0.2%の場合に、ツマジロクサヨトウの誘引性が顕著に高かった。
【0039】
4.誘引試験3
誘引剤に含まれる各化合物の寄与を確認するため、試験群B、D、及びEの誘引剤、Z9-14Acを含む誘引剤(試験群I)、並びに、Z9-14Ac及びZ9E12-14Acを含む誘引剤(試験群J)によるツマジロクサヨトウの誘引性を、実験室の風洞を用いて調査した。具体的には、実験室に設置した風洞(長さ66cm×直径11.5cm)内に一定の風速(毎秒0.25cm)で空気を流し、各誘引剤を含浸させたゴムセプタム1個を誘引源として風上側に置いて、風下側でツマジロクサヨトウのオス成虫を放飼したときの飛翔行動を観察した。各誘引剤の組成及び結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
いずれの化合物も含まないネガティブコントロールの誘引剤(試験群E)と比較して、風上への飛翔行動が有意に活性化されたのはZ9-14Ac、Z7-12Ac、及びZ9E12-14Acのコア化合物を含む誘引剤(試験群D)のみであり、このうちの2成分を組み合わせただけでは風上への飛翔行動は有意には活性化されなかった。試験群Bの誘引剤は、屋外で実施した誘引試験1では一定のツマジロクサヨトウを誘引したが、実験室下の限られたスペースで実施された風洞試験では、ランダムな飛翔行動の結果と考えられるネガティブコントロールへの反応(試験群E)との比較において統計的に有意差を示すことができなかった。このような制約にもかかわらず、上記コア化合物が同時に使用されれば、ツマジロクサヨトウのオス成虫の誘引活性には有意差が認められたので、当該コア化合物を構成する3つの化合物の組合せによる誘引効果は、従来技術からは予測することのできない顕著なものであり、換言すれば、Z9E12-14Acは、Z9-14Ac及びZ7-12Acを含む誘引剤の誘引効果を顕著に増強し得ると言える。
【0042】
以上より、Z9E12-14AcをZ9-14Ac及びZ7-12Acと組み合わせて用いることにより、ツマジロクサヨトウのオス成虫の誘引性及び種選択性を向上できることが分かった。したがって、ツマジロクサヨトウのモニタリングや防除を効率的に行うことが可能となる。